(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ヒドリド還元剤による環状ハロシラン化合物の還元は、長時間の反応時間を要し生産性が十分ではなく、また再現性も乏しかった。
従って本発明の目的は、環状ハロシラン化合物から環状シランを生産性よく、また再現性よく、製造することにある。
本発明の他の目的は、生産性及び再現性の向上だけでなく、環状シランの精製も簡便に達成できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する為に鋭意検討した結果、本発明者らは、還元反応の生産性が低く、再現性に乏しいのは、原料である環状ハロシラン化合物を固体のまま使用しており、反応系が不均一になっている為ではないかと考えた。そこで環状ハロシラン化合物を溶解すれば、生産性や再現性が改善されるのではないかと検討を進めた。
【0008】
一方、一般に原料の環状ハロシランよりも生成物である環状シランの方が反応溶媒に対する溶解度が高い。そのため原料環状ハロシランを固体のまま用い反応を不均一系にしておくと、反応後に濾過することで、反応溶媒に溶解している環状シラン(生成物)から未反応原料を、例えば、濾過などの簡便な方法により除去できる。生成物である環状シランは極めて不安定な化合物であるため、この様に未反応原料を簡便に除去可能であることは、工程の簡略化による迅速な単離が可能となるため、生成物の分解を抑制する観点から非常に重要である。環状ハロシラン化合物を溶解させてしまうと、未反応原料の除去が困難となる。従って、還元反応の生産性や再現性と、生成物の簡便な精製とを両立させることは困難であった。
【0009】
そこで、本発明者らはさらに検討を重ねた結果、環状ハロシラン化合物を固体のまま不均一系で用いることにする一方、その形態に工夫の余地があることを見出した。すなわち原料となる環状ハロシラン化合物は、生成物の環状シランに比べて極めて安定であることを見いだし、さらに粉砕しても分解しないこと、及びこの環状ハロシラン化合物は微細に粉砕しても反応溶媒に溶解しない一方、溶解していなくても微細にしておけば反応そのものは安定して進行し、かつ反応終了後に未反応物で残っても濾過等の簡便な固液分離手段によって除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の環状シランの製造方法は、
固形の環状ハロシラン化合物を粉砕する粉砕工程と、
得られた環状ハロシラン粉砕物を、ヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも一種と接触させて下記式(1):
Si
nR
2n …(1)
(式中、nは3〜10の整数であり、Rは水素、炭素数1〜10の有機基、又はシリル基を表す。)
で表される環状シランを生成する反応工程を含むことを特徴とする(発明1)。
本発明では、前記粉砕工程後に反応工程を含むことが好ましく、前記粉砕工程後に分級工程を含み、該分級工程により環状ハロシラン粉砕物の粒径を300μm以下にすることがより好ましい態様である。
また、本発明は、
300μm以下の環状ハロシラン化合物を、ヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも一種と接触させて、下記式(1):
Si
nR
2n …(1)
(式中、nは3〜10の整数であり、Rは水素、炭素数1〜10の有機基、又はシリル基を表す。)
で表される環状シランを生成する反応工程を含むことを特徴とする環状シランの製造方法(発明2)も包含する。
本発明では、前記発明1及び2において、反応工程で用いる環状ハロシラン化合物の粒径が20μm以上であることが好ましい。また、前記反応工程は、溶媒の存在下で実施されることが好ましく、特に溶媒はエーテル系溶媒が好ましい。反応工程では、環状ハロシラン化合物若しくはヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも一種、の少なくとも一方を滴下しながら反応を行うことがより望ましい態様である。
更に本発明(発明1及び2)は、反応工程で生成した環状シランの精製工程を含み、
この精製工程は、環状シランを含有する液から固体を除去する固液分離工程を含むことが望ましい。そして、前記精製工程が、軽沸不純物を環状シランから除去する軽沸成分留去工程及び高沸不純物を環状シランから除去する環状シラン蒸留工程の、少なくとも一方を含むことがより望ましい態様である。
また、本発明には、粒径が20μm以上300μm以下である環状ハロシラン粒子も含まれる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環状ハロシラン化合物が反応溶媒に溶解することなく、しかし従来よりも細かな形態にして使用するため、収率よく環状シランを製造でき、更に生成物である環状シランを容易に精製できる。これにより、簡便に環状シランを生産することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明に係る環状シランの製造方法について、概略を説明する。
なお、以下の説明において、「環状水素化シラン」とは、ケイ素元素によって構成される単素環を有する化合物において、単素環を構成するケイ素元素が無置換である化合物を意味する。また、「環状有機化シラン」とは、ケイ素元素によって構成される単素環を有する化合物において、単素環を構成するケイ素原子に結合する水素原子の少なくとも一部が、他の置換基(有機基又はシリル基)によって置換されている化合物を意味する。加えて、「環状シラン」とは、ケイ素元素によって構成される単素環を有する化合物を意味し、前記環状水素化シランと前記環状有機化シランの両方を含む。
また、環状ハロシラン化合物とは、ケイ素元素によって構成される単素環を有する化合物において、単素環を構成するケイ素元素の少なくとも一部がハロゲンにより置換された化合物を意味し、前述した環状シラン(即ち、環状水素化シランや環状有機化シラン)を製造する際の前駆体となる化合物となる。前記環状ハロシラン化合物は塩又は錯体であってもよい。環状ハロシラン化合物の詳細については、以下に詳述する。
【0013】
本発明において、環状シランは、環状ハロシラン化合物とヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも1種と反応させることにより製造される。すなわち、前記環状水素化シランは、ヒドリド還元剤を用いて前駆体の環状ハロシラン化合物を還元することにより製造され、前記環状有機化シランは、有機金属反応剤を用いた反応(場合によっては、有機金属反応剤及びヒドリド還元剤の両方を用いた反応)により製造される。以下、「ヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも1種」を、単に「求核剤」と称する場合がある。
【0014】
そして本発明では、前記環状ハロシラン化合物を、続く反応工程(ヒドリド還元剤を用いる還元反応や、有機金属反応剤を用いる有機基置換反応)に供する際に、予め微細化する点に特徴を有する。環状ハロシラン化合物を微細化することにより、ヒドリド還元剤や有機金属反応剤との反応性を維持しながら、生成物である環状シランとの簡便な分離との両立が可能となる。
【0015】
≪環状シラン≫
環状シランとは、ケイ素元素によって構成される単素環を有する化合物であり、具体的には、下記式(1):
Si
nR
2n …(1)
(式中、nは3〜10の整数であり、Rは水素、炭素数1〜10の有機基、又はシリル基を表す。)
で表される化合物である。
【0016】
前記式(1)において、nは単素環を構成するケイ素原子数を意味し、通常、単素環を構成する原子数nは、3〜10である。単素環を構成する原子数nは、特に限定されるものではないが、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上であり、9以下であることが好ましく、より好ましくは8以下であり、更に好ましくは7以下である。薄膜シリコンの形成に有用なことから、単素環を構成するケイ素原子数は6個(即ち、nは6)であることが最も好ましい。
【0017】
本発明により製造される環状シランは、例えば、前記式(1)において、Rが水素原子である環状水素化シランや、前記式(1)において、Rが炭素数1〜10の有機基又はシリル基である環状有機化シラン等が挙げられる。
【0018】
環状有機化シランの有機基としては、例えば、炭素数が1〜10、より好ましくは炭素数が1〜8、更に好ましくは炭素数が1〜6のアルキル基;炭素数が6〜10、より好ましくは炭素数が6〜9、更に好ましくは炭素数が6〜8のアリール基;等が例示でき、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基が例示できる。
【0019】
また、環状有機化シランのシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリiso−プロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等が例示できる。
【0020】
≪環状ハロシラン化合物≫
環状シランの原料となる環状ハロシラン化合物としては、ヒドリド還元剤や有機金属反応剤を用いた反応(場合によっては、有機金属反応剤及びヒドリド還元剤の両方を用いた反応)により、環状シランを生成できる化合物が使用され、例えば、ケイ素数がn個のケイ素原子が連なり単素環を形成し、この単素環を構成するケイ素の残りの2個の結合手のうち、1つ又は2つ(特に2つ)にハロゲン原子が結合している、環状ハロシラン構造を有する化合物が挙げられる。また、環状ハロシラン化合物としては、前記環状ハロシラン構造を有する化合物がさらにハロゲン原子を含み全体としてアニオン構造を形成し、この形成されたアニオンと、対を成すカチオンとで形成する塩(即ち、環状ハロシラン構造を有する塩)であってもよい。本発明では、合成が簡便であり前駆体として安定に保存できることから、環状ハロシラン化合物は、環状ハロシラン構造を有する塩であることが好ましい。以下、本明細書では、環状ハロシラン構造を有する化合物と環状ハロシラン構造を有する塩とを総称して、環状ハロシラン化合物と称する。
【0021】
前記環状ハロシラン構造を有する塩としては、例えば、6個のケイ素原子からなる単素環(6員環)が、14個の塩素原子と共にジアニオン化しているテトラデカクロロシクロヘキサシラン・ジアニオン([Si
6Cl
142-])、テトラデカブロモシクロヘキサシラン・ジアニオン([Si
6Br
142-])を含む塩が挙げられる。当該ジアニオンの対イオンは、当該ジアニオンと安定な塩を形成しうる限り限定されるものではないが、例えば、第3級ポリアミンとクロロシラン残基とが結合した化合物や、オニウム類等が挙げられる。
【0022】
前記第3級ポリアミンには、N、N、N’、N’’、N’’−ペンタエチルジエチレントリアミン(「ペデタ(pedeta)」と称する)等の、窒素原子にアルキレン基(特に、エチレン基等の炭素数1〜6のアルキレン基が好ましい)とアルキル基(特に、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基が好ましい)とが結合したポリアルキレンアミン類が含まれる。前記アルキレンアミンの繰り返し単位は、例えば、2以上が好ましく、より好ましくは2〜6、更に好ましくは2〜4である。また前記クロロシラン残基は、ケイ素原子に前記第3級ポリアミン、塩素原子及び水素原子が配位したクロロシラン類である。
【0023】
前記オニウム類には、ホスホニウム類(R
34P(R
3は炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基))で示されるテトラアルキルホスホニウムやテトラアリールホスホニウム等)、アンモニウム類(R
34N(R
3は炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基))で示されるテトラアルキルアンモニウムやテトラアリールアンモニウム等)等が含まれる。
【0024】
≪環状シランの製造方法≫
<環状ハロシラン化合物の調製>
環状シランは、前記環状ハロシラン化合物を、ヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも一種と接触させて反応させることにより製造される。本発明では、原料となる固形の環状ハロシラン化合物を、これらの反応工程(ヒドリド還元剤を用いる還元反応や、有機金属反応剤(場合によっては、有機金属反応剤及びヒドリド還元剤の両方を用いた反応)を用いる有機基置換反応)に供する際に、予め微細化する点に特徴を有している。
【0025】
前記環状ハロシラン化合物を微細化する方法としては、例えば、固形の環状ハロシラン化合物を粉砕する方法が挙げられる。固形の環状ハロシラン化合物を粉砕する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、乳鉢等を用いて、環状ハロシラン化合物をすり潰す方法;ボールミル、ディスクミル、ビーズミル、ジェットミル等の粉砕機を用いる方法;等を適宜採用するとよい。中でも、試料が少量であれば、乳鉢を用いてすり潰す方法を採用することが好ましく、試料が多くなれば、粉砕機を使用することが望ましく、特にボールミルは、操作が簡便であるため好ましい。
【0026】
反応工程に供する際、環状ハロシラン化合物の粒子径は、例えば、300μm以下であることが好ましく、より好ましくは250μm以下であり、更に好ましくは、200μm以下であり、20μm以上であることが好ましく、より好適には53μm以上であり、更に好適には100μm以上である。反応工程に供する際の環状ハロシラン化合物の粒子径が300μmを超えると、続く反応工程での反応速度が遅くなり、生産性が低下する虞がある。また、粒子径が20μmよりも小さくなると、残留環状ハロシラン化合物が濾過フィルターを通過し、未反応の環状ハロシラン化合物を反応混合物から分離することが難しくなる虞がある。また、環状ハロシラン化合物(例えば、環状ハロシラン粉砕物)は粒子状であることが望ましい。
【0027】
なお、環状ハロシラン化合物の粒子径は、例えばJIS Z8801の標準ふるいを用いれば、簡便に上記範囲に制御できる(粒径300μm以下は、50メッシュのふるい下成分が該当する)。
【0028】
また、本発明においては、予め粒子径が調整されている市販の環状ハロシラン化合物や、粉砕以外の方法により所定の範囲内に粒子径が調整されている環状ハロシラン化合物を使用することも可能である。これらの粒径が調整された環状ハロシラン化合物を使用することにより、粉砕工程を省略することも可能となる。
【0029】
本発明では、前記環状ハロシラン化合物を粉砕する粉砕工程を実施した後、又は市販の環状ハロシラン化合物を、分級するための分級工程を実施するとよい。分級工程を行うことにより、環状ハロシラン化合物の粒径を所定の範囲内(例えば、20μm〜300μm、より好ましくは53μm〜250μm、更に好ましくは100μm〜200μm)に調整できるため好ましい。
【0030】
分級方法は、特に限定されるものではないが、篩い分け分級、重力分級、慣性分級、遠心分級(サイクロン式分級)等の乾式分級;沈降分級、水力分級等の湿式分級;等の各種分級方法を適宜採用することができる。本発明では、環状ハロシラン化合物を溶解させないことから、乾式分級が好ましい。特に、分級の精度が高く、操作が簡便であることから、篩い分け分級を採用することが望ましい。
【0031】
粒子径が所定の範囲内に調整された環状ハロシラン化合物(以降、「微細な環状ハロシラン化合物」と称する)は、溶媒への溶解性と反応性のバランスを考慮して、固体のまま反応工程に供することが望ましい。
【0032】
<還元反応>
前記環状ハロシラン化合物の還元には、ヒドリド還元剤を使用する。ヒドリド還元剤は、特に限定されるものではないが、例えば、水素化リチウムアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ビス(2−メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム等のアルミニウム系還元剤;水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム等のホウ素系還元剤等の金属水素化物が挙げられる。なお、これらのヒドリド還元剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記ヒドリド還元剤の使用量は、適宜設定すればよく、例えば、前記微細な環状ハロシラン化合物の、ケイ素−ハロゲン結合1個に対するヒドリド還元剤のモル当量が、少なくとも1当量以上であればよく、好ましくは2当量以上50当量以下、より好ましくは5当量以上40当量以下、更に好ましくは10当量以上30当量以下である。ヒドリド還元剤の量が多すぎると、後処理に時間を要し、生産性が低下する傾向にある。また、ヒドリド還元剤の量が少なすぎると、収率が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0034】
<有機基置換反応>
前記環状ハロシラン化合物の有機基置換反応には、有機金属反応剤を使用する。また、有機金属反応剤は、特に限定されるものではないが、例えば、グリニャール試薬又は有機リチウム試薬が挙げられる。
【0035】
グリニャール試薬としては、臭化メチルマグネシウムの如きハロゲン化アルキルマグネシウム;臭化フェニルマグネシウムの如きハロゲン化アリールマグネシウム;等が例示できる。これらグリニャール試薬は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、有機リチウム試薬としては、メチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム等のアルキルリチウム化合物;フェニルリチウム等のアリールリチウム化合物;等が例示できる。これら有機リチウム試薬は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記有機金属反応剤の使用量は、適宜設定すればよく、例えば、前記微細な環状ハロシラン化合物の、ケイ素−ハロゲン結合1個に対する有機金属反応剤のモル当量が、少なくとも1当量以上であればよく、好ましくは1.1当量以上10当量以下、より好ましくは1.2当量以上5当量以下、更に好ましくは1.5当量以上3当量以下である。有機金属反応剤の量が多すぎると、後処理に時間を要し、生産性が低下する傾向にある。一方、有機金属反応剤の量が少なすぎると、収率が低下する傾向にあるため好ましくない。また、有機基置換反応では、前述した有機金属反応剤だけでなく、ヒドリド還元剤を併用して使用することも可能である。
【0038】
<反応手順等>
前記還元反応及び有機基置換反応で使用する溶媒や反応手順等は共通する為、以下、まとめて記載する。還元反応及び有機基置換反応では、前述した環状ハロシラン化合物の粉砕工程により得られた環状ハロシラン化合物;分級工程により得られた環状ハロシラン化合物;市販品などの予め粒径の調整された環状ハロシラン化合物;等の微細な環状ハロシラン化合物を使用することができる。
【0039】
これらの反応工程は、いずれも溶媒の存在下で実施される。溶媒としては、例えば、ヘキサン、トルエン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル等のエーテル系溶媒;等の各種溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、反応工程で使用される溶媒は、エーテル系溶媒が好ましく、シクロペンチルメチルエーテルがより好適である。エーテル系溶媒は、不均一反応系であっても、環状ハロシラン化合物を微細にしておくだけで反応を高収率かつ再現性よく進行させるという特性が他の溶媒に比べて優れている。また反応後の反応液において、目的物である環状シランを溶解させつつ、不純物(例えば、環状ハロシラン化合物)は溶解させずに、固体として析出させることができるという特性が他の溶媒に比べて優れている。そのため、濾過等の固液分離により、効率良く環状シランを単離することができ、これにより、高純度の環状シランを効率よく製造することができるため好ましい。
【0040】
環状シランは、禁酸素性・禁水性の物質である。そのため、反応工程で使用される溶媒を、溶媒中に含有される水や溶存酸素を取り除くため、反応前に蒸留や脱水等により精製しておくことが望ましい。前記溶媒の含水量は、例えば、質量基準で100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50ppm以下であり、更に好ましくは20ppm以下である。また、溶媒の含水量は、0ppm以上であることが好ましいが、含水量を0ppmとすることは実施上困難な場合もあるため、溶媒の含水量は少なくとも0.01ppm以上とすることが好ましい態様である。
【0041】
反応工程で用いる溶媒の使用量としては、前記環状ハロシラン化合物の濃度が0.005mol/L以上1mol/L以下となるように調整することが好ましく、より好ましくは0.01mol/L以上0.7mol/L以下、更に好ましくは0.025mol/L以上0.5mol/L以下である。環状ハロシラン化合物の濃度が1mol/Lを超える場合、反応により発生した熱が充分に除熱されない虞がある。また、生成物が溶解しにくいため、反応速度が低下する等の問題が生じる可能性もある。一方、環状ハロシラン化合物の濃度が0.005mol/Lを下回る場合、反応後に、溶媒と目的生成物とを分離する際に留去すべき溶媒量が多くなるため、生産性が低下する傾向があるため好ましくない。
【0042】
反応工程では、微細な環状ハロシラン化合物と、求核剤を接触させることにより行うことができる。微細な環状ハロシラン化合物と求核剤との接触は、溶媒の存在下で行うことが望ましく、溶媒の存在下で環状ハロシラン化合物と求核剤とを接触させる方法としては、例えば、1)環状ハロシラン化合物及び求核剤のそれぞれを、予め溶媒中に溶解又は分散させることにより、環状ハロシラン化合物の溶液(又は分散液)と求核剤の溶液(又は分散液)を調製した後、これらの溶液(又は分散液)を混合する方法、2)溶媒に、環状ハロシラン化合物と求核剤を、同時に又は順次、直接加える方法、等の接触方法が挙げられる。中でも、反応効率が良いことから、1)の接触方法を採用することが好ましい。
【0043】
反応工程における環状ハロシラン化合物と求核剤との接触に際しては、環状ハロシラン化合物若しくはヒドリド還元剤及び有機金属反応剤から選ばれる少なくとも一種(求核剤)の少なくとも一方を滴下しながら行うとよい。滴下方法としては、例えば、(I)反応を実施する反応系内に環状ハロシラン化合物及び求核剤の少なくとも一方又はこれらの混合物を仕込み、そこへ反応器内に仕込んでいない他方の溶液(又は分散液)を滴下する方法;(II)空の反応系内(反応器)に、環状ハロシラン化合物の溶液(又は分散液)と求核剤の溶液(又は分散液)を、それぞれ同時に又は順次滴下して加える方法;が挙げられる。このように、反応原料を滴下により加えると、滴下速度をコントロールできるため、反応で生じる発熱量を制御することができる。これにより、例えば、コンデンサー等の小型化が可能になる等、生産性が向上することが期待できる。
【0044】
環状ハロシラン化合物を溶質とする溶液又は分散媒の溶質濃度は、0.005mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.01mol/L以上、更に好ましくは0.02mol/L以上である。溶質濃度が低すぎると、目的生成物を単離する際に留去しなければならない溶媒量が増加するため、生産性が低下する虞がある。一方、溶質濃度の上限は、1mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは0.8mol/L以下であり、更に好ましくは0.6mol/L以下である。溶質濃度(特に、滴下に供する溶液又は分散液の溶質濃度)が高すぎると、反応における発熱量を制御し難くなる傾向にある。
なお、環状ハロシラン化合物を溶質とする溶液又は分散液と、求核剤を溶質とする溶液又は分散液とは、溶質量がほぼ同量となるように、各溶液又は分散液の溶質濃度を調整することが好ましい。
【0045】
滴下時の温度(詳しくは、滴下に供する溶液又は分散液の温度、及び/又は、反応器内に仕込んでおく溶液又は分散液の温度)は、−30℃以上80℃以下であることが好ましく、より好ましくは0℃以上50℃以下であり、更に好ましくは10℃以上40℃以下である。
【0046】
滴下速度は、溶液又は分散液中の濃度によるものの、例えば、0.01mL/分以上100mL/分以下が好ましく、より好ましくは0.2mL/分以上50mL/分であり、更に好ましくは1mL/分以上20mL/分以下である。
【0047】
滴下時間は特に限定されないものの、生産性の観点から、例えば、10分以上20時間以下であることが好ましく、より好ましくは30分以上10時間以下であり、更に好ましくは1時間以上6時間以下である。
【0048】
反応時の反応温度は、環状ハロシラン化合物や求核剤の種類に応じて適宜設定すればよく、通常−20℃以上が好ましく、より好ましくは−10℃以上であり、更に好ましくは0℃以上であり、150℃以下が好ましく、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0049】
また、反応時間は、反応の進行の程度に応じて適宜決定すればよく、例えば、10分以上72時間以下が好ましく、より好ましくは1時間以上48時間以下であり、更に好ましくは2時間以上24時間以下である。
【0050】
反応工程では、原料である環状ハロシラン化合物が残らず全て反応するのが好ましいが、その一部が未反応で残ったときには、該未反応物が溶け残っている一方、生成する環状水素化シランが全て溶解していることが望ましい。
【0051】
環状シランは、禁酸素性物質である。そのため、反応工程は、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
【0052】
<精製工程>
本発明の環状シランの製造方法では、前記反応工程後、反応工程で生成した環状シラン(環状水素化シラン化合物又は環状有機化シラン化合物)を精製するための精製工程を実施することが望ましい。精製工程では、例えば、環状シランを含有する液から反応液中の固体(副生した塩等の不純物等)を分離する固液分離工程を実施するとよい。固液分離の手法としては、濾過、遠心分離、デカンテーション等が例示でき、分離が簡便なことから、濾過がより好適である。
【0053】
固液分離工程後の溶液中には、常温で液体の環状シランだけでなく、環状シランよりも沸点の低い軽沸不純物や、環状シランよりも沸点の高い高沸不純物が溶解している。そのため前記分離工程では、前記固液分離工程の後、更に、溶媒中の軽沸不純物を環状シランから除去する軽沸成分留去工程;高沸不純物を環状シランから除去する環状シラン蒸留工程;等を適宜実施するとよい。このように、溶媒中の軽沸成分を留去したり、高沸不純物を蒸留によって分離することにより、環状シランの純度をより高めることができるため好ましい。
【0054】
軽沸不純物の留去方法は、特に限定されるものではないが、蒸留、濃縮等の各種分離方法を採用するとよい。また、高沸不純物を環状シランから分離する際には、蒸留を採用することが望ましい。当該精製工程では、軽沸成分留去工程及び環状シラン蒸留工程は、その両方を実施してもよく、軽沸成分留去工程又は環状シラン蒸留工程のいずれか一方を実施してもよい。また、これらの液液分離工程を実施せずに、前述した固液分離工程のみを実施することも可能である。
【0055】
本発明の環状シランは、薄膜シリコン原料として使用することができ、太陽電池、半導体等の用途に好適に利用される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0057】
実施例1
窒素ガス雰囲気下、二つ口フラスコにヒドリド還元剤として水素化リチウムアルミニウム12.6g(330mmol)と、溶媒としてシクロペンチルメチルエーテル(CPME)500mLとを加え、水
素化リチウムアルミニウムのスラリー溶液を調製した。
別途、環状ハロシラン化合物として、[ペデタ・SiH
2Cl
+]
2[Si
6Cl
142-]を乳鉢ですり潰した後、50メッシュ(基準寸法300μm)の篩いを通過させ、次いで20μmのフィルター上に残った結晶を回収した。
アルゴンガス雰囲気下、四つ口フラスコ(3L)に、この分級後の環状ハロシラン化合物95.0g(74.1mmol)と、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)2Lとを入れ、室温で攪拌した。
この四つ口フラスコの中に、先に調製した水
素化リチウムアルミニウムのスラリー溶液を、滴下漏斗を用いて3時間かけて滴下し、滴下終了後、室温で8時間攪拌することにより反応させた。なお、反応中はアルゴンガスをフラスコ内に流通させ、水酸化カリウム水溶液が入ったトラップ2つに通すことにより、副生成物として発生するシランガスを捕捉し、無害化して排出した。
反応終了後、反応液を窒素ガス雰囲気下で、細孔径20μmのガラスフィルターを用いて濾過し、得られた濾液から溶媒を減圧留去して、無色透明の液体としてシクロヘキサシランを製造した。シクロヘキサシランの収率は90%であった。
【0058】
比較例1
環状ハロシラン化合物([ペデタ・SiH
2Cl
+]
2[Si
6Cl
142-])を乳鉢ですり潰す工程、及びメッシュの篩いを通過させる篩い分け工程を省略したこと以外、実施例1と同様の方法により、無色透明の液体としてシクロヘキサシランを製造した。なお、反応工程に供する際の環状ハロシラン化合物([ペデタ・SiH
2Cl
+]
2[Si
6Cl
142-])の粒子径は、約600μmであった。得られたシクロヘキサシランの収率は64%であった。