特許第6063362号(P6063362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6063362光合成微生物の分離システム及びその分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063362
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】光合成微生物の分離システム及びその分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20170106BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20170106BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170106BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C12M1/00 E
   C12N1/02
   C12Q1/02
   C12N1/12 Z
   C12M1/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-187070(P2013-187070)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-53863(P2015-53863A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年2月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業(次世代技術開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏明
(72)【発明者】
【氏名】米田 晃
(72)【発明者】
【氏名】山下 孝
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−246605(JP,A)
【文献】 特開2013−153730(JP,A)
【文献】 特開2012−023977(JP,A)
【文献】 特開平07−289240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−1/70
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成微生物を含む培養液において、含まれる前記光合成微生物を前記培養液中で沈降させて前記光合成微生物を前記培養液から分離する光合成微生物の分離システムであって、
前記培養液の溶存酸素濃度を低減する溶存酸素低減装置を有する溶存酸素低減槽と、
前記溶存酸素低減槽を用いて溶存酸素を低下させた後の前記培養液が供給され、供給された前記培養液に含まれる前記光合成微生物が自然沈降する沈降槽と、を備えることを特徴とする、光合成微生物の分離システム。
【請求項2】
前記沈降槽内の培養液への光の照射を遮る第一遮光部材が備えられていることを特徴とする、請求項に記載の光合成微生物の分離システム。
【請求項3】
前記溶存酸素低減槽内の培養液への光の照射を遮る第二遮光部材が備えられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の光合成微生物の分離システム。
【請求項4】
前記溶存酸素低減槽には、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素を外部に追い出し可能なガスを前記溶存酸素低減槽に供給し、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を低下させる溶存酸素低減装置が備えられていることを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載の光合成微生物の分離システム。
【請求項5】
前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定装置と、
前記溶存酸素濃度測定装置により測定された溶存酸素濃度に基づいて前記溶存酸素低減装置を制御し、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を低下させる演算制御装置と、を備えることを特徴とする、請求項に記載の光合成微生物の分離システム。
【請求項6】
前記演算制御装置は、
前記溶存酸素濃度測定装置により測定された溶存酸素濃度が基準値未満であるとき、前記ガスの供給量を減少させる制御を行い、
前記溶存酸素濃度測定装置により測定された溶存酸素濃度が基準値よりも大きいとき、前記ガスの供給量を増加させる制御を行うことを特徴とする、請求項に記載の光合成微生物の分離システム。
【請求項7】
光合成微生物を含む培養液において、光合成微生物の分離システムにより、含まれる前記光合成微生物を前記培養液中で沈降させて前記光合成微生物を前記培養液から分離する光合成微生物の分離方法であって、
前記光合成微生物の分離システムは、
前記培養液の溶存酸素濃度を低減する溶存酸素低減装置を有する溶存酸素低減槽と、
前記溶存酸素低減槽において溶存酸素濃度を低下させた前記培養液が供給され、供給された前記培養液に含まれる前記光合成微生物が自然沈降する沈降槽と、
前記溶存酸素低減装置を制御して、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を低下させる演算制御装置と、を備え、
前記演算制御装置により、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を低下させる溶存酸素濃度低下ステップと、
前記溶存酸素濃度低下ステップにおいて溶存酸素濃度を低下させた培養液に含まれる前記光合成微生物を前記培養液中で沈降させて、前記培養液から前記光合成微生物を分離する光合成微生物分離ステップと、を含むことを特徴とする、光合成微生物の分離方法。
【請求項8】
前記光合成微生物の分離システムは、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定装置を備え、
前記溶存酸素濃度低下ステップにおいて、前記演算制御装置は、前記溶存酸素濃度測定装置により測定された溶存酸素濃度に基づいて前記溶存酸素低減装置を制御し、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を低下させることを特徴とする、請求項に記載の光合成微生物の分離方法。
【請求項9】
前記溶存酸素濃度低下ステップにおいて、前記溶存酸素低減装置は、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素を外部に追い出し可能なガスを前記溶存酸素低減槽に供給し、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を低下させることを特徴とする、請求項又はに記載の光合成微生物の分離方法。
【請求項10】
前記演算制御装置により行われ、
存酸素濃度測定装置により、前記溶存酸素低減槽内の培養液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度測定ステップと、
前記溶存酸素濃度測定装置により測定された溶存酸素濃度と溶存酸素濃度基準値とを比較判定する溶存酸素濃度比較ステップと、
前記溶存酸素濃度比較ステップにおいて測定された溶存酸素濃度が基準値未満であると比較判定されたときに、前記ガスの供給量を減少させる制御を行うガス供給量減少ステップと、
前記溶存酸素濃度比較ステップにおいて測定された溶存酸素濃度が基準値よりも大きいと比較判定されたときに、前記ガスの供給量を増加させる制御を行うガス供給量増加ステップと、を含むことを特徴とする、請求項に記載の光合成微生物の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成微生物の分離システム及びその分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ燃料は、バイオマス由来の原料から生産された燃料である。バイオ燃料には、例えば、炭水化物を糖化しアルコール発酵を経て生産されるバイオエタノール、植物油の主成分であるトリグリセリドやワックスエステル等の中性脂質(油脂)から生産されるバイオディーゼルやバイオジェット燃料等がある。
【0003】
バイオマスが例えば植物のように光合成能を有する場合、バイオマスは、光エネルギと二酸化炭素とから、油脂や炭水化物等を生産することができる。そして、生産された油脂や炭水化物はバイオ燃料の原料となるため、これにより、環境負荷の低い燃料を生産することができる。
【0004】
バイオ燃料の原料となるバイオマスとしては、例えば、大豆、トウモロコシ、パーム等の可食性作物が知られている。しかしながら、可食性作物を原料とする場合、食糧不足への懸念がある。また、バイオマスとして、ジャトロファ、カメリナ等の非食性植物の利用も検討されているが、これらは、単位面積当りのバイオ燃料の生産量の点で課題がある
【0005】
そこで、池や沼に広く生息する光合成微生物や原生動物等の利用が検討されている。これらは植物と同様に光合成能を有し、光エネルギと二酸化炭素とから、油脂や炭水化物を生合成することができる。そして、光合成微生物や原生動物等は、自身の細胞の数十質量%に相当する量の油脂や炭水化物を生合成し、細胞内に蓄積する。光合成微生物や原生動物等による生産量は前記の植物に比べて多く、具体的には、単位面積あたりで、油脂や炭水化物の生産量が多いといわれるパームの10倍以上になる。
【0006】
光合成微生物を用いてバイオ燃料を生産する場合、光合成微生物は、例えば屋内や屋外に設置された、無機塩類を含む培養液(培地)を貯留させた水槽内で、太陽光や人工光が照射されて培養される。このとき、光合成微生物は培養液中で分散しているため、水槽の下方の光合成微生物まで光が到達しにくい。そのため、光合成により増殖する光合成微生物の場合、下方の光合成微生物での光合成が阻害され易く、培養液中で高密度培養を行うことが難しい。そこで、光合成微生物の高密度化が行われることがある。また、培養された光合成微生物からバイオ燃料を抽出するときにも、同様に高密度化されることがある。
【0007】
高密度化の具体的な方法としては、例えば、培養液を遠心分離したり、培養液をろ過したりすること等が挙げられる。しかし、遠心分離では、運転に多くの電力を使用するため、低密度の大量の培養液を処理することは非効率的である。また、ろ布や膜を使ったろ過では、目詰まりして処理効率が低下することがある。
【0008】
そこで、このような光合成微生物の高密度化に関連する技術として、特許文献1〜3の技術が知られている。例えば特許文献1には、微細藻類培養時の増殖藻体の分離回収方法において、藻類培養液に光を照射することにより藻体の沈降性を向上させた後、藻体と培地とを分離することが記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、第1の海水使用微細藻類培養槽において、培養液のpHが6.5〜8.5になるようにCO2ガスを制御しつつ吹き込んで光照射の下で微細藻類を培養し、一定濃度にまで微細藻類が増殖した後、該微細藻類を第2の海水使用微細藻類培養槽に供給し、該第2の培養槽の培養液のpHが8.5〜9.5になるようにNa2CO3を制御しつつ添加して光照射の下で微細藻類を更に培養することが記載されている。さらに、特許文献3には、微生物培養液にベントナイトを添加した後に高分子凝集剤を添加して凝集させ、脱水操作を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−289240号公報
【特許文献2】特開平5−284962号公報
【特許文献3】第2558185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記の技術には、いずれも以下のような課題がある。
まず、特許文献1に記載の技術においては、白色蛍光灯等の光源が用いられている。そのため、光合成微生物が光走性を有する場合、そのような光合成微生物は光源に向かって移動する傾向があり、光合成微生物の沈降が十分ではないことがある。また、最適な光量よりも強い光量の光を照射しているが、最適な光量は光合成微生物の種類等によって異なる。また、光量の制御も煩雑である。
【0012】
また、特許文献2に記載の技術においては、培養液のpHを種々変更しているが、光合成微生物が培養可能な培養液の成分によっては、培養液のpHを前記の範囲に制御することが困難なことがある。即ち、培養する光合成微生物の種類によっては、沈降性を高めることができないことがある。
【0013】
さらに、特許文献3に記載の技術においては、培養液にベントナイトや凝集剤を添加しているが、これらの添加により、回収された光合成微生物にこれらが混入することがある。そのため、光合成微生物から生産されるバイオ燃料の品質という観点から、特許文献3に記載の技術には依然として課題がある。
【0014】
本発明はこれらの事情に鑑みて為されたものであり、本発明が解決すべき課題は、光合成微生物を十分に沈降させて培養液から分離可能な光合成微生物の分離システム及び光合成微生物の分離方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、以下のようにすることで前記課題を解決できることを見出した。即ち、本発明の要旨は、光合成微生物を含む培養液において、含まれる前記光合成微生物を前記培養液中で沈降させて前記光合成微生物を前記培養液から分離する光合成微生物の分離システムであって、前記培養液の溶存酸素濃度を低減する溶存酸素低減装置を有する溶存酸素低減槽と、前記溶存酸素低減槽を用いて溶存酸素を低下させた後の前記培養液が供給され、供給された前記培養液に含まれる前記光合成微生物が自然沈降する沈降槽と、を備えることを特徴とする、光合成微生物の分離システムに関する。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光合成微生物を十分に沈降させて培養液から分離可能な光合成微生物の分離システム及び光合成微生物の分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態の分離システムにおける培養液等の流れを示す系統図である。
図2】本実施形態の分離システムにおける制御フローを示す図である。
図3】(a)は実施例1の培養液及び比較例1の培養液を並べて配置した様子を示す写真、(b)は図3(a)の状態で1時間静置後の培養液の様子を示す写真である。
図4図3に示す写真の濃淡の様子を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について、図面を適宜参照しながら説明する。
【0019】
〔構成〕
図1は、本実施形態の分離システム10における培養液等の流れを示す系統図である。また、図1では、光合成微生物としてのユーグレナ(Euglena)が培養される培養槽30も併せて示している。ユーグレナの詳細については後記する。
【0020】
分離システム10は、ユーグレナ及び培地からなる培養液の溶存酸素濃度を低減させる溶存酸素低減槽1と、培養液からユーグレナを自然沈降させる沈降槽2と、を備えている。また、分離システム10は、溶存酸素低減槽1内の培養液の溶存酸素濃度を低下させるために溶存酸素低減槽1内の培養液に窒素ガスを散気する散気管3(溶存酸素低減装置)を備えている。さらに、分離システム10は、溶存酸素低減槽1において低下させた後の溶存酸素濃度(即ち、低下後の溶存酸素低減槽1内の培養液の溶存酸素濃度)を測定する溶存酸素濃度測定装置(DOC)4を備えている。そして、分離システム10は、溶存酸素濃度測定装置4により測定された溶存酸素濃度に基づき散気管3からの散気量を制御する演算制御装置7を備えている。
【0021】
溶存酸素低減槽1は、培養槽30(後記する)から図示しないポンプにより供給された、ユーグレナを含む培養液の溶存酸素濃度を低下させるものである。具体的には、溶存酸素低減槽1内に備えられた散気管3から窒素ガス(不活性ガス)が培養液に散気されることで培養液中の酸素が追い出され、培養液の溶存酸素濃度が低下するようになっている。そして、溶存酸素濃度が低下した培養液は、図示しないポンプにより、後記する沈降槽2に供給されるようになっている。なお、溶存酸素低減槽1は気密であり、外部から意図しないガスが入り込まないようになっているが、培養液から追い出された酸素ガスや余剰の窒素ガスは、図示しない排気口から外部に排出されるようになっている。
【0022】
溶存酸素低減槽1においては、低下させる溶存酸素濃度の基準値(目標値)として、例えば0.1mg/L(0.1ppm)程度とすることができる。ただし、この基準値は任意であり、培養液中のユーグレナの濃度、ユーグレナによる酸素消費速度等に基づき、溶存酸素濃度の基準値を決定することが好ましい。
【0023】
本実施形態においては、前記のように溶存酸素低減槽1内の培養液の溶存酸素濃度が低減されているが、これにより、沈降槽2において、ユーグレナの沈降速度が早められるようになっている。溶存酸素濃度を低減させると沈降速度が上昇する理由は、本発明者らの検討によると、以下のように考えられる。即ち、ユーグレナは微生物であるため、溶存酸素濃度が低下することで、ユーグレナが鞭毛を回転させて移動する活性(移動活性)が低下すると考えられる。従って、このような移動活性の低下したユーグレナは移動しにくく、重力にしたがって、下方に沈降し易く、即ち沈降速度が速まると考えられる。
【0024】
溶存酸素低減槽1には、溶存酸素低減槽1内の培養液への光が遮断されるように、溶存酸素低減槽1の上部に遮光蓋5(第二遮光部材)が備えられている。これにより、培養液まで光が届かず、ユーグレナの光合成が抑制されるようになっている。そのため、光合成による酸素の発生を抑制でき、効率よく、培養液の溶存酸素濃度を低下させることができるようになっている。
【0025】
沈降槽2は、溶存酸素低減槽1で溶存酸素濃度を低下させた後の培養液を静置し、ユーグレナを自然沈降させて、培地層とユーグレナ層とに分離するものである。沈降槽2は、下方に窄む形状になっており、下方に沈降したユーグレナは沈降槽2からスラリー状で取り出され、図示しない濃縮槽に供給されるようになっている。なお、濃縮槽では、ユーグレナが遠心分離等され、ユーグレナの細胞内部に存在する油脂等が外部に取り出されるようになっている。また、沈降槽2の上清である培地は、培地層30に戻されて、ユーグレナ培養用の培地として再利用されるようになっている。
【0026】
また、沈降槽2にも、前記の溶存酸素低減槽1と同様に、その上部に遮光蓋6(第一遮光部材)が備えられている。これにより、ユーグレナの光合成を抑制して、沈降槽2内の培養液の溶存酸素濃度が低い状態で維持されることができるようになっている。
【0027】
溶存酸素濃度測定装置4は、溶存酸素低減槽1において溶存酸素濃度を低下させた後の培養液の溶存酸素濃度を測定するものである。溶存酸素濃度はバッチ式で測定されてもよくフロー式で測定されてもよい。
【0028】
また、演算制御装置7は、溶存酸素濃度測定装置4により測定された溶存酸素濃度に基づいてブロア8(溶存酸素低減装置)を制御し、散気管3からの窒素ガスの散気量を制御するものである。即ち、分離システム10においては、溶存酸素濃度を低下させた後の培養液の溶存酸素濃度を測定し、それに基づいて、散気量のフィードバック制御が行われている。演算制御装置7による制御の詳細は、図2を参照しながら後記する。因みに、窒素ガスが窒素ガスボンベから供給される場合、ブロア8は当該ボンベに置換されることになる。
【0029】
なお、演算制御装置7は、いずれも図示はしないが、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、I/F(インターフェイス)等を備え、ROMに格納されている所定の制御プログラムがCPUによって実行されることにより具現化される。
【0030】
培養槽30は、外部から新たに供給される培地や、沈降槽2から回収された培地等を用いて、ユーグレナを培養するものである。培養槽30には、前記の溶存酸素低減槽1及び沈降槽2とは異なり、十分な光が照射され、ユーグレナの培養及び光合成が促されるようになっている。そして、培養されたユーグレナを含む培養液は、図示しないポンプにより、溶存酸素低減槽1に供給されるようになっている。
【0031】
培養槽30に貯留される培地(新たな培地)は、例えば、窒素源、リン源、ミネラル等の栄養塩類を添加した培地、例えば、改変Cramer-Myers培地(pH3.5)を用いることができる。改変Cramer-Myers培地の組成としては、(NH42HPO4 1.0g/L、KH2PO4 1.0g/L、MgSO4・7H2O 0.2g/L、CaCl2・2H2O 0.02g/L、Fe2(SO23・7H2O 3mg/L、MnCl2・4H2O 1.8mg/L、CoSO4・7H2O 1.5mg/L、ZnSO4・7H2O 0.4mg/L、Na2MoO4・2H2O 0.2mg/L、CuSO4・5H2O 0.02mg/L、チアミン塩酸塩(ビタミンB1) 0.1mg/L、シアノコバラミン(ビタミンB12)0.0005mg/Lである。なお、(NH42HPO4に代えて、(NH42SO4やNH3aqを使用することもできる。
【0032】
ここで、分離システム10により培養液から分離する「ユーグレナ」について説明する。ユーグレナは鞭毛虫の一群で、運動性のある藻類として有名なミドリムシを含むものである。大部分のユーグレナは、葉緑体を持っており、光合成を行って独立栄養生活を行うが、捕食性のものや吸収栄養性のものもある。
【0033】
ユーグレナは、動物学と植物学の双方に分類される属である。動物学では、原生動物門(Protozoa)の鞭毛虫綱(Mastigophorea)、植物鞭毛虫亜綱(Phytomastigophorea)に属する目の中にミドリムシ目(Euglenida)があり、これは三つの亜目、Euglenoidina、Peranemoidina、Petalomonadoidinaよりなる。Euglenoidinaには、属としてEuglena(本実施形態のユーグレナ)、Trachelemonas、Strombonas、Phacus、Lepocinelis、Astasia、Colaciumが含まれる。また、植物学では、ミドリムシ植物門(Euglenophyta)があり、その下にミドリムシ藻類綱(Euglenophyceae)、ミドリムシ目(Euglenales)があって、この目に含まれる属としてはEuglenaの他、動物分類表と同様である。
【0034】
培養槽30におけるユーグレナの培養時間等の培養条件は特に制限されない。例えば培養時間は、培地の組成等によっても異なるため一概にはいえないが、例えば前記の培地を用いてバッチ式にユーグレナを培養する場合、例えば24時間〜72時間程度とすることができる。これにより、十分量のユーグレナが得られる。あるいは、前記の培地の窒素源を含まない培地を用いることで、ユーグレナの貯蔵多糖であるパラミロンを多く含むユーグレナを培養することができる。また、ユーグレナの培養は、太陽光照射下で行われることが好ましい。これにより、高率的な培養が可能となる。さらに、図示はしていないが、培養は、攪拌装置等を用いて、十分に攪拌されながら行われることが好ましい。これにより、培養槽30内のユーグレナが満遍なく太陽光に照射されることができる。
【0035】
〔作用〕
次に、図2を参照しながら、本実施形態の分離システム10における制御を説明する。図2は、本実施形態の分離システム10における沈降フローを示す図である。以下の説明においては、分離システムの制御の一例として、分離システム10がバッチ式で制御されるものとして説明する。
【0036】
まず、散気管3から、窒素ガスの散気が開始される(ステップS101、溶存酸素濃度低下ステップ)。これにより、溶存酸素低減槽1内の培養液の溶存酸素濃度が低下する。そして、所定時間経過後、図示しないポンプにより沈降槽2への培養液の供給が開始され、供給される培養液(即ち、溶存酸素濃度低下後の溶存酸素低減槽1内の培養液)の溶存酸素濃度が測定される(ステップS102、溶存酸素濃度測定ステップ)。この測定は、溶存酸素濃度測定装置4に接続された演算制御装置7により行われる。そして、演算制御装置7は、測定された溶存酸素濃度と、溶存酸素濃度基準値(本実施形態では0.1mg/L)とを比較判定する(ステップS103、溶存酸素濃度比較ステップ)。
【0037】
比較判定の結果、溶存酸素濃度が0.1mg/L未満である場合、培養液の溶存酸素濃度は十分に低下し、ユーグレナの沈降速度を十分に早めることができると考えられる。そのため、溶存酸素濃度がこの範囲にある場合には、演算制御装置7は、ブロア8に対して、散気量を減少させる制御を行う(ステップS104、溶存酸素濃度低下ステップ、ガス供給量減少ステップ)。これにより、散気量を適正な範囲まで低減することができ、散気にかかるエネルギを低減することができる。また、溶存酸素濃度は低い状態で維持され、沈降槽2において良好な沈降性が奏されることになる。
なお、窒素ガス供給源として窒素ガスボンベ等を用いる場合には、前記のように、ブロア8に代えて、流量制御可能なバルブ(図示しない)に対して前記の制御が行われる。以下の制御においても同様であるため、同様の説明は省略する。
【0038】
一方で、比較判定の結果、溶存酸素濃度が0.1mg/Lより高い場合、培養液の溶存酸素濃度は依然として高く、ユーグレナを十分に沈降させることができないと考えられる。そのため、溶存酸素濃度がこの範囲にある場合には、演算制御装置7は、ブロア8に対して、散気量を増加させる制御を行う(ステップS106、溶存酸素濃度低下ステップ、ガス供給量増加ステップ)。これにより、溶存酸素濃度の低下割合が増加し、溶存酸素濃度低下がより促される。
【0039】
なお、比較判定の結果、溶存酸素濃度が0.1mg/Lである場合、散気量は適切であり、ユーグレナの良好な沈降が生じると考えられる。そこで、演算制御装置7は、散気管3からの散気量を維持する(ステップS105、溶存酸素濃度維持ステップ)。これにより、培養液の溶存酸素濃度が0.1mg/Lに維持されることになる。
【0040】
このようにして、溶存酸素低減槽1内の溶存酸素濃度が制御されながら、溶存酸素培養槽1から沈降槽2に培養液が供給される。そして、沈降槽2においては、供給された培養液中のユーグレナが自然沈降する(ステップS107)。これにより、ユーグレナは培養液から分離され(ステップS108、光合成微生物分離ステップ)、必要に応じて沈降槽2の下方から回収された後、一連のステップが終了する(ステップS109)。
【0041】
〔効果〕
このように、溶存酸素低減槽1において培養液の溶存酸素濃度を低減させることにより、沈降槽2でのユーグレナの沈降速度を上昇させて、沈降性を良好なものにすることができる。そのため、沈降槽2において、短時間で、高密度ユーグレナと清澄な培地とに分画することができる。これにより、細胞内の油脂等を遠心分離等により回収する場合、高密度ユーグレナの部分のみを遠心分離機に供すればよく、培養液全体を遠心する場合と比べて、遠心分離に要するエネルギやコストを削減することができる。
【0042】
また、分画後に得られた清澄な培地は、培養槽30に戻されて再利用することができる。そのため、外部に排出される廃液の量を減らすことができ、環境負荷を低減することができる。また、前記のように、再利用する培地は、遠心分離器やろ過装置等の特別な装置を用いることなく得ることができ、簡便である。
【0043】
また、本発明者らの検討によれば、溶存酸素濃度を低下させた培養液中のユーグレナは、生産する油脂の量が増加することがわかった。この理由は、ユーグレナは嫌気条件下においてワックスエステル発酵を行うため、溶存酸素濃度を低下させた培養液中においてワックスエステル発酵が進んだためであると考えられる。従って、培養液の溶存酸素濃度を低下させることで、ユーグレナは、油脂を多量に自己の体内に蓄積することになる。従って、本実施形態の分離システム10によれば、ユーグレナを効率よく沈降させて油脂を効率よく回収できるだけではなく、より多くの油脂をユーグレナから回収することができる。
【0044】
〔変形例〕
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態は前記の内容になんら制限されるものではない。
【0045】
例えば、溶存酸素低減槽1に導入する気体として窒素ガスを用いているが、この窒素ガスを溶存酸素低減槽1に導入するための窒素ガス源としてはどのようなものであってもよい。例えば、窒素ガス原としては、窒素が充填された容器(窒素ガスボンベ等)、PSA(Pressure swing Adsorption)式の窒素ガス発生装置等が挙げられる。
【0046】
また、溶存酸素低減槽1に導入される気体は、培養液中の酸素を追い出し可能な気体であれば窒素ガスに限定されるものではない。具体的には、溶存酸素低減槽1に導入する気体として、例えば、工場や燃焼施設等から排出される燃焼排ガスが適用可能である。燃焼排ガスの酸素濃度は低いため、好適である。ただし、燃焼排ガスをそのまま溶存酸素低減槽1に導入するのではなく、集塵機、脱硝設備、脱硫設備等の各設備を用いて燃焼排ガスを処理し、塵埃や窒素酸化物、硫黄酸化物等を含まない燃焼排ガスを溶存酸素低減槽1に導入することが好ましい。また、培養液の溶存酸素濃度を低下させることができれば、ガスを用いた図示の例に何ら限定されるものではなく、どのような方法で溶存酸素濃度を低下させてもよい。
【0047】
さらに、例えば、図1に示す例では、溶存酸素低減槽1に遮光蓋5が、また、沈降槽2に遮光蓋6が備えられているが、これらは必ずしも備えられなくてはならないものではない。ただし、光合成を抑制することにより溶存酸素の増加を抑制し、ユーグレナ等の光合成微生物の有する光走性能をより低下させるという観点からは、これらが備えられていることが好ましく、特には、少なくとも沈降槽2に遮光蓋6が備えられていることが好ましい。
【0048】
また、遮光蓋5及び遮光蓋6の設置の形態は図示の例に何ら限定されるものではない。即ち、培養液への光の到達を遮る部材であれば、どのような部材であってもよく、例えば、蓋の下面と液面とを接触させて備えられる、所謂落し蓋のようなものであってもよい。なお、この落し蓋は遮光性を有することが好ましい。落し蓋を用いることで、液相と気相との界面を減らすことができ、いったん外部に放出された酸素が再び培養液に溶け込むことを防止することができる。また、溶存酸素低減槽1内の培養液の量に応じて落し蓋の位置が上下に移動するため、溶存酸素低減槽1内の気相空間を無くすることができる。これにより、気相から培養液に溶解し得る酸素を遮断することができる。なお、これらのことは、沈降槽2においても同様である。また、図示の遮光蓋5,6とともに、落し蓋を併せて使用してもよい。また、遮光蓋5,6を溶存酸素低減槽1及び沈降槽2に設置する代わりに、溶存酸素低減槽1及び沈降槽2そのものを遮光された建物内に格納し、これにより、光合成を抑制するようにしてもよい。この場合、遮光された建物が、遮光部材に相当する。
【0049】
さらに、図1に示す例では、溶存酸素低減槽1と沈降槽2とを別体に設けているが、これらは一体に設けられるようにしてもよい。即ち、二槽が一体に形成されるように、沈降システム10が構成されてもよい。ただし、培養液への散気と沈降とは、異なる槽で行われることが好ましい。このようにすることで、より確実に、ユーグレナ等の光合成微生物を沈降させることができる。また、少なくとも二槽に分けて散気及び沈降を行うことで、連続的に培養液を処理し易いという利点もある。
【0050】
また、図1に示すように、前記の実施形態では沈降槽2は一つのみ設けられているが、二つ以上の沈降槽2が溶存酸素低減槽1に対して並列に接続されるようにしてもよい。具体的には例えば、二つの沈降槽2が設けられている場合、一方の沈降槽2で蓄積したユーグレナ槽を外部に排出しているとき、他方の沈降槽2には溶存酸素低減槽1からの培養液が供給されて沈降処理が行われるようにしてもよい。このように、溶存酸素低減槽1からの培養液が供給される沈降槽2を切り替え可能にすることで、処理効率を向上させることができる。
【0051】
さらに、前記の実施形態では、分離システム10はバッチ式で制御されるようにしたが、フロー式で制御されるようにしてもよい。この場合、前記のように複数の沈降槽2が溶存酸素低減槽1に対して並列に接続されることで、培養液の流れを止めることなく連続して運転を行うことができる。
【0052】
また、図1に示すように、前記の実施形態では、溶存酸素濃度測定装置4は、溶存酸素低減槽1と沈降槽2とを接続する配管の途中に設けられるようにしているが、設置場所はこの部位に限られない。即ち、溶存酸素濃度測定装置4は、低減後の培養液の溶存酸素濃度を測定することができれば、どのような部位であってもよい。また、溶存酸素濃度測定装置4は一つのみ設置される例に限定されず、二つ以上設置されるようにしてもよい。
【0053】
さらに、図2を参照しながら説明した基準値は、「0.1mg/L」に何ら限定されるものではない。従って、分離システム10の構成や分離条件、培養条件等に応じて、適宜変更すればよい。ただし、光合成微生物の移動活性をより低下させ、より沈降速度を速められるという観点から、この基準値の値(即ち、溶存酸素低減槽1内の培養液の溶存酸素濃度)は、できるだけ低いことが好ましい。
【0054】
また、前記の実施形態では、溶存酸素低減槽1は気密に構成したが、培養液内に散気することにより溶存酸素濃度を低下させるという観点からは、必ずしも気密としなくてもよい。ただし、前記したように、外部から意図しないガスが入り込まないように、溶存酸素低減槽1は気密であることが好ましい。
【0055】
さらに、前記の実施形態では、光合成微生物の一例としてユーグレナを用いたが、本実施形態の分離システム及び分離方法を適用可能な光合成微生物はユーグレナに限定されるものではない。具体的には、本実施形態の分離システム及び分離方法は、例えば、ユーグレナのほか、シアノバクテリア、緑藻及びトレボキシア、プラシノ藻(緑色藻類)、原始紅藻類、珪藻、円石藻、渦べん毛藻、真眼点藻、黄金色藻等に対しても適用できる。ただし、本発明の効果をよりいっそう発揮できるという観点から、光合成微生物の中でも、光合成によりバイオ燃料及びバイオ燃料の原料となりうる成分を生成し、細胞内に蓄積することができ、溶存酸素低減処理により沈降性を向上可能な光合成微生物が好ましい。
【0056】
シアノバクテリアとしては、例えば、Chroococcacae、Stigonematacae、Mastigocladacae及びOscillatroriacaeを挙げることができる。また、その他にも、Synechococcus lividus及びSynechococcus elongatus等のSynechococcusや、Synechocystis minervae等のSynechocystisや、Mastigocladus laminosus等のMastigocladusや、Phormidium laminosus等のPhormidiumや、Symploca thermalis等のSymplocaや、Aphanocapsa thermalis等のAphanocapsaや、Fisherella等を挙げることができる。
【0057】
さらには、アナべナ(Anabaena)属に属するアナべナ・バリアビリス(Anabanena variabilis)ATCC 29413、シアノテセ(Cyanothece)属のCyanothece sp. ATCC 51142、シネノコッカス(Synechococcus)属に属するSynechococcus sp. PCC 7942及びアナシスティス(Anacystis)属に属するアナシスティス・ニデュランス(Anacystis nidulans)及び好熱性シアノバクテリア等を用いることができる。
【0058】
緑藻及びトレボキシアとしては、例えば、クロレラ(系統学的に分けられたパラクロレラを含む)、クラミドモナス、ドナリエラ、セネデスムス、ボトリオコッカス、スティココッカス、ナンノクロリス、及びデスモデスムス等の気生藻を挙げることができる。具体的には、Chlorella vulgaris及びChlorella saccharophila等のクロレラ(Chlorella)、Dunaliella salina、Dunaliella tertiolecta等のDunaliella、並びに光合成等の基本的な性質は同じであるが、分子系統解析によりトレボキシア藻網として分類されるParachlorella kessleri(Chlorella kessleri)を挙げることができる。また、クラミドモナス(Chlamydomonas)属に属するクラミドモナス・ラインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、クラミドモナス・モエブシィ(Chlamydomonas moewusii)、クラミドモナス・ユーガメタス(Chlamydomonas eugametos)、クラミドモナス・セグニス(Chlamydomonas segnis)、セネデスムス(Senedesmus)属に属するセネデスムス・オブリクス(Senedesmus obliquus)、スティココッカス(Stichococcus)属に属するスティココッカス・アンプリフォルミス(Stichococcus ampliformis)、ナンノクロリス(Nannochloris)属に属するナンノクロリス・バシラリス(Nannochloris bacillaris)、及びデスモデスムス(Desmodesmus)属に属するデスモデスムス・スブスピカツス(Desmodesmus subspicatus)等を挙げることができる。
【0059】
また、プラシノ藻(緑色藻類)としては、例えば、テトラセルミス等を挙げることができ、原始紅藻類としては、例えば、シアニディオシゾン、シアニディウム、ガルディエリア、ポルフィリディウム等を挙げることができる。
【0060】
これらは1種が単独で用いられてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで用いられてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、具体例を挙げて、本実施形態をより詳細に説明する。
【0062】
本実施例では、図1に示す装置(分離システム10及び培養槽30)を用いて、光合成微生物としてのユーグレナを培養したときの、溶存酸素低減槽1での溶存酸素低減の有無による、ユーグレナの沈降槽2での沈降性を評価した。
【0063】
ユーグレナを培養する培地として、窒素源、リン源、ミネラル等の栄養塩類を添加した改変Cramer-Myers培地((NH42HPO4 1.0g/L、KH2PO4 1.0g/L、MgSO4・7H2O 0.2g/L、CaCl2・2H2O 0.02g/L、Fe2(SO23・7H2O 3mg/L、MnCl2・4H2O 1.8mg/L、CoSO4・7H2O 1.5mg/L、ZnSO4・7H2O 0.4mg/L、Na2MoO4・2H2O 0.2mg/L、CuSO4・5H2O 0.02mg/L、チアミン塩酸塩(ビタミンB1) 0.1mg/L、シアノコバラミン(ビタミンB12)0.0005mg/L、(pH3.5))を用いた。
【0064】
図1に示す培養槽30に前記の培地を貯留し、ユーグレナを接種した。そして、培養槽30の上方から太陽光を照射し、ユーグレナの培養を行った。そして、培養槽30において培養が十分に行われた後、培養槽30の培養液3Lを溶存酸素低減槽1に供給した。なお、この培養液1Lあたりには、0.75g(乾燥質量)のユーグレナが含まれ、溶存酸素濃度は8.4mg/Lであった。そして、溶存酸素低減槽1において、前記の培養液3Lに対して、窒素ガスを約15分間通気した。これにより、培養液の溶存酸素濃度は、前記の8.4mg/Lから0.1mg/Lに低下した。
【0065】
そして、溶存酸素濃度を低下させた培養液を沈降槽2に供給する一方で、その一部を採取し、沈降性を評価した(実施例1)。また、溶存酸素濃度を低下させる前の培養液(培養槽30内の培養液)の一部も採取し、沈降性を評価した(比較例1)。具体的には、実施例1の培養液と比較例1の培養液を遮光した状態で1時間静置し、1時間後のそれぞれの培養液の様子を観察した。その様子を図3及び図4に示す。
【0066】
図3(a)は実施例1の培養液及び比較例1の培養液を並べて配置した様子を示す写真、図3(b)は図3(a)の状態で1時間静置後の培養液の様子を示す写真である。また、図4は、図3に示す写真の濃淡の様子を模式的に示す図である。図3(a)に示すように、採取直後、実施例1の培養液においても比較例1の培養液においても、ユーグレナは培養液中で一様に分散し、ユーグレナの顕著な沈降は認められなかった。
【0067】
しかし、図3(b)に示すように、静置開始後1時間が経過すると、比較例1の培養液においては、ユーグレナの沈降は殆ど認められなかったが、実施例1の培養液においては、培養液の上方が薄くなる一方で下方が濃くなっていた(図4(b)も併せて参照)。即ち、実施例1の培養液では、1時間静置することによってユーグレナの自然沈降が生じ、図1の沈降槽2のような培地層及びユーグレナ層が形成された。これは、遮光状態かつ溶存酸素濃度が低下した状態で静置していることから、ユーグレナの移動活性が低下したため、自然沈降が生じたためであると考えられる。
【0068】
このように、培養液の溶存酸素濃度を低下させない場合には、1時間静置しても殆ど沈降が認められなかったにも関わらず(比較例1)、培養液の溶存酸素濃度を低下させた後に静置した場合には、良好に沈降が生じた(実施例1)。この結果から、溶存酸素濃度を低下させると、ユーグレナの自然沈降が促され、沈降速度が向上することがわかった。
【符号の説明】
【0069】
1 溶存酸素低減槽
2 沈降槽
3 散気管(溶存酸素低減装置)
4 溶存酸素濃度測定装置
5 遮光蓋(第二遮光部材)
6 遮光蓋(第一遮光部材)
7 演算制御装置
8 ブロア(溶存酸素低減装置)
10 分離システム
図1
図2
図3
図4