(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二酸化ケイ素凸条パターンと前記二酸化ケイ素凹条パターンを使用する光の波長よりも短い凹凸周期で配置してサブ波長構造を形成する請求項2又は3に記載の光学素子の形成方法。
前記サブ波長構造の凹凸繰返し方向が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域を形成して前記光学素子として偏光解消素子を形成する請求項4に記載の光学素子の形成方法。
【背景技術】
【0002】
光学素子として微細なラインアンドスペースパターンからなるサブ波長構造(Sub-Wavelength Structures:SWS)を有するものがある。このような光学素子として例えば偏光解消素子が知られている(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
偏光解消素子は、レーザプリンタなどで問題となる偏光を解消させるための光学部品として用いられたり、光学露光装置や光学測定機などの光学機器の光学系のスペックルの発生を低減させるスペックル低減素子として用いられたりしている。
【0004】
レーザからの光をマイクロレンズアレイやフライアイレンズを通すことによってひとつの光束を複数の光束に分割する際、通常、分割された光は偏光方向が同一方向に揃っている。光学系の中で特定の条件が整うと、分割された光がそれぞれ迷光の原因となって光学系の途中で光が強めあう点と弱めあう点が発生してスペックルが生じる場合がある。スペックルは光が強めあう点と弱めあう点の輝点間の(標準偏差)/(平均値)で定義される。スペックルは、いろいろな光学系で発生することが知られており、これを解消する方法が種々提案されているが、有効な解決策は確立されていない。
【0005】
レーザのスペックルを解消する方法の一つとしては、偏光状態が様々になったいわゆるランダム偏光状態になっていることが望ましい。偏光が不揃いであると、光の干渉が起こりにくいからである。
【0006】
スペックルを解消するには、偏光、波長、位相などの異なる特性の光を重ね合わせることが有効であると言われている。そのことに基づき、偏光を解消する手法の1つとして、基板表面を任意の領域に分割し、互いに特性の異なるサブ波長構造を各領域に設けた偏光解消素子が提案されている(例えば特許文献1を参照。)。
【0007】
この偏光解消素子は、基板表面に互いに特性(光学軸)が異なるサブ波長構造領域をいくつも設けることで基板を光が通過する際に各サブ波長構造に応じた偏光を持たせ、各サブ波長構造を通過した光を重ね合わせることによってスペックルを解消する。ここで、サブ波長構造の光学軸は、サブ波長構造の凸条パターンと凹条パターンの凹凸繰返し方向を意味する。
【0008】
サブ波長構造は、使用する光の波長よりも短い凹凸周期で繰り返して配列された凸条パターンと凹条パターンをもつ周期構造である。使用する光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する格子構造は構造性複屈折作用をもつ。
【0009】
凹凸繰返しパターンのサブ波長構造を有する光学素子は偏光解消素子だけではない。凹凸繰返しパターンのサブ波長構造は例えば回折格子や偏光変換素子などにも用いられる(例えば特許文献2を参照。)。
【0010】
一般に、サブ波長構造を形成するための工法としてドライエッチング工法が用いられる。ドライエッチング工法では、例えば透明ガラス等の光学材料の上に所望のサブ波長構造に応じた凹凸パターンが形成される。そしてドライエッチング技術によってその凹凸パターンが光学材料に転写されることによってサブ波長構造が形成される。
【0011】
しかし、例えばパターン深さが2μm(マイクロメートル)を超えるサブ波長構造をドライエッチング工法によって光学材料に形成することは工法上難しい。
【0012】
そこで、エッチング技術によってシリコン基板やシリコン膜などのシリコン層を加工してシリコンからなる凹凸パターンを形成した後、そのシリコン層に熱酸化処理を施して二酸化ケイ素からなる凹凸パターンを形成することが考えられる。シリコン凹凸パターンに熱酸化処理を施して二酸化ケイ素凹凸パターンを形成することは例えば非特許文献1に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
シリコン凸条パターンを熱酸化して形成された二酸化ケイ素凸条パターンの体積はシリコン凸条パターンの体積に比べて大きくなる。例えば、歪みが解放されやすい幅方向の膨張率は2倍程度である。また、長さ方向にも1%程度の膨張が発生する。そのため、二酸化ケイ素凸条パターンにおいて長さ方向で歪みや傾き、倒れが発生するという問題があった。
【0016】
このような不具合は、サブ波長構造の凹凸パターンを形成する場合だけでなく、シリコン凸条パターンを熱酸化して二酸化ケイ素凸条パターンを形成する場合に同様に生じる。
【0017】
本発明の目的は、シリコン凸条パターンを熱酸化して形成される二酸化ケイ素凸条パターンの長さ方向の歪みや傾き、倒れを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明にかかる凹凸パターンの形成方法は、エッチング技術によってシリコン層に溝を形成してシリコン凸条パターンとシリコン凹条パターンを形成するエッチング工程と、上記シリコン層に対して熱酸化処理を施して上記シリコン凸条パターンと上記シリコン凹条パターンから二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンを形成する熱酸化工程と、を含み、上記エッチング工程において、上記シリコン凸条パターンとして上記シリコン凸条パターンの長さ方向において切断された切断部を有するものが形成され、上記熱酸化工程において、上記熱酸化処理によって上記シリコン凸条パターンの長さ方向で隣り合う上記シリコン凸条パターン同士に対応する上記二酸化ケイ素凸条パターン同士が連結されることを特徴とする。
【0019】
本発明にかかる光学素子の形成方法は、本発明の凹凸パターンの形成方法を用い、上記二酸化ケイ素凸条パターンと上記二酸化ケイ素凹条パターンが交互に繰り返して配置された光学素子を形成することを特徴とする。
【0020】
本発明の光学素子の形成方法として、上記エッチング工程において、複数の上記切断部が不規則な配置で形成される例が挙げられる。ただし、本発明の光学素子の形成方法は、複数の切断部を規則的に配置してもよい。
【0021】
本発明の光学素子の形成方法として、上記二酸化ケイ素凸条パターンと上記二酸化ケイ素凹条パターンを使用する光の波長よりも短い凹凸周期で配置してサブ波長構造を形成する例が挙げられる。ただし、本発明の光学素子の形成方法は、使用する光の波長よりも長い周期で二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンを交互に繰り返して配置してもよい。
【0022】
さらに、本発明の光学素子の形成方法として、上記サブ波長構造の凹凸繰返し方向が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域を形成して上記光学素子として偏光解消素子を形成する例が挙げられる。ただし、本発明の光学素子の形成方法は、1つのみのサブ波長構造領域を形成してもよいし、サブ波長構造の凹凸繰返し方向が同一の複数のサブ波長構造領域を形成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の凹凸パターンの形成方法は、長さ方向において切断された切断部を有するシリコン凸条パターンを熱酸化して二酸化ケイ素凸条パターンを形成するので、二酸化ケイ素凸条パターンの長さ方向の歪みや傾き、倒れを低減することができる。
【0024】
本発明の光学素子の形成方法は、本発明の凹凸パターンの形成方法を用いて二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンが交互に繰り返して配置された光学素子を形成する。したがって、本発明の光学素子の形成方法は、二酸化ケイ素凸条パターンの長さ方向の歪み等に起因する光学素子の光学特性変化を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の凹凸パターンの形成方法は、長さ方向において切断された切断部を有するシリコン凸条パターンを熱酸化して二酸化ケイ素凸条パターンを形成することによって、二酸化ケイ素凸条パターンの長さ方向の歪みや傾き、倒れを低減する。
【0027】
本発明にかかる光学素子の形成方法は、本発明の凹凸パターンの形成方法を用い、上記二酸化ケイ素凸条パターンと上記二酸化ケイ素凹条パターンが交互に繰り返して配置された光学素子を形成する。このような光学素子として、例えば波長分割素子、広帯域波長板を含む波長板、波長分割フィルター、ピックアップ用波長分割素子などを挙げることができる(例えば特許文献3−6を参照。)。
【0028】
図1は、光学素子の形成方法の一実施例を兼ねる凹凸パターンの形成方法の一実施例の工程を説明するための概略的な平面図である。
図2は、この実施例の工程を説明するための概略的な断面図であって、
図1のA−A’位置に対応する図である。
図3は、この実施例の工程を説明するための概略的な断面図であって、
図1のB−B’位置に対応する図である。
図1、
図2及び
図3におけるカッコ数字(1),(2)は以下に説明される工程(1),(2)に対応している。なお、本発明の凹凸パターンの形成方法はこの実施例に限定されるものではない。
【0029】
(1)シリコン層1にエッチング技術によって溝を形成してシリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5を形成する。シリコン凸条パターン3は、シリコン凸条パターン3の長さ方向において切断された切断部3aを有している。
【0030】
シリコン層1は、例えば結晶面(100)のノンドープシリコンウェハである。シリコン層1の厚みは例えば300μmである。まず、シリコン層1の上にエッチングマスクパターンを形成する。エッチングマスクパターンは、例えば、電子ビーム描画やフォトリソグラフィによって形成されたレジストパターンや、精密成型やインプリント法によって形成された樹脂パターンなどである。
【0031】
エッチングマスクパターンをマスクにしてシリコン層1をドライエッチング技術によってパターニングしてシリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5を形成する。このドライエッチング処理には、例えばSF
6ベースのガス種が用いられる。その際にドライエッチング条件をサイドエッチングが起こりにくいように設定した。その後、残存するエッチングマスクパターンが除去される。
【0032】
なお、エッチング技術によってシリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5を形成する方法は上記の方法に限定されない。エッチング技術によって凹凸パターンを形成する方法は例えば特許文献7に開示されている。
【0033】
ドライエッチングの手法としては、一般的なICP(inductively coupled plasma)エッチャーを用いた。プラズマ源としてはECRプラズマ(electron cyclotron resonance plasma)や平行平板型CCP(capacitively coupled plasma)など、特に制限はない。また、微妙なサイドエッチ量の制御が必要な場合は、必要に応じてボッシュ法や、中性粒子ビーム法などを用いてもよい。
【0034】
シリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5は交互に繰り返して配置されている。シリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5のピッチ(周期)は例えば300nm(ナノメートル)である。シリコン凸条パターン3の幅寸法は例えば80nmである。シリコン凹条パターン5の幅寸法は例えば220nmである。シリコン凹条パターン5の深さ寸法(シリコン凸条パターン3の高さ寸法)は例えば4μmである。
【0035】
切断部3aは、シリコン凸条パターン3の長さ寸法が例えば5〜10μmとなるように、シリコン凸条パターン3においてランダムな間隔(不規則な配置)で配置されている。また、隣り合うシリコン凸条パターン3において切断部3aは不規則な配置で配置されている。シリコン凸条パターン3の長さ方向での切断部3aの長さ寸法は例えば100nmである。切断部3aの深さ寸法は例えば4μmである。
【0036】
切断部3aの長さ寸法は、後述する工程(2)における熱酸化処理によってシリコン凸条パターン3の長さ方向で隣り合うシリコン凸条パターン同士に対応する二酸化ケイ素凸条パターン同士が連結される程度に設定される。
【0037】
なお、切断部3aをランダムな間隔に配置する理由は、切断部3aによる回折光を発生させないためである。規則的に切断部3aが配置されると、回折光が発生し、透過率が低下すると考えられる。ただし、切断部3aは次工程(2)で消滅するので、基本的には透過光に影響を与えない。切断部3aの痕跡は、光の波長に対して十分に小さく、散乱、回折等は起こさないと考えられる。
【0038】
また、光学素子の透過率を向上させるためには、シリコン凸条パターン3はライン幅に対して長さが100倍以内となるように、ランダムに切断部3aを設けることが好ましい。例えば、シリコン凸条パターン3の長さの上限値はライン幅の100倍程度であり、下限値はライン幅の2倍程度である。
【0039】
(2)シリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5を備えたシリコン層1に対して、例えばウェット法による熱酸化処理を施す。熱酸化処理条件は、シリコン凸条パターン3が完全に酸化される条件であればよい。例えば、この実施例では、形成される熱酸化膜の厚みが3μmとした。具体的な条件としては酸化温度1100℃で18時間熱酸化した。
【0040】
この熱酸化処理によって、シリコン凸条パターン3とシリコン凹条パターン5から二酸化ケイ素凸条パターン7と二酸化ケイ素凹条パターン9が形成される。また、シリコン凸条パターン3の長さ方向で隣り合うシリコン凸条パターン同士に対応する二酸化ケイ素凸条パターン同士が連結されて1本の二酸化ケイ素凹条パターン9が形成される。
【0041】
二酸化ケイ素凸条パターン7の幅寸法は約160nmである。二酸化ケイ素凸条パターン7は、幅方向において、シリコン凸条パターン3に対して約2倍だけ膨張した。二酸化ケイ素凹条パターン9の幅寸法は約140nmである。二酸化ケイ素凹条パターン9の深さ寸法は約4μmである。
【0042】
二酸化ケイ素凸条パターン7は、長さ方向において、シリコン凸条パターン3に対して1%程度だけ膨張した。その膨張は切断部3において吸収される。これにより、熱酸化処理による体積膨張に起因する二酸化ケイ素凸条パターン7の長さ方向の歪みや傾き、倒れが低減される。
【0043】
二酸化ケイ素凸条パターン7と二酸化ケイ素凹条パターン9の凹凸繰返し構造はサブ波長構造を構成する。サブ波長構造とは使用する光の波長よりも短い凹凸周期で繰り返して配列された凸条パターンと凹条パターンをもつ周期構造のことである。使用する光の波長よりも微小な周期の周期構造を有する格子構造は構造性複屈折作用をもつ。
【0044】
本発明の光学素子の形成方法は、本発明の凹凸パターンの形成方法を用いて、二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンが交互に繰り返して配置された光学素子を形成する。本発明の光学素子の形成方法の一局面は、二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンからなるサブ波長構造の凹凸繰返し方向が互いに異なっている複数のサブ波長構造領域を形成して、光学素子として偏光解消素子を形成する。このような偏光解消素子について説明する。まず、本発明の光学素子の形成方法によって形成され得るサブ波長構造について説明する。
【0045】
図4は、サブ波長構造を説明するための概略的な断面図である。サブ波長構造の複屈折作用について、
図4を参照して説明する。
図4に示された構造は一般的なサブ波長構造を示したものである。
【0046】
サブ波長構造は、使用する光の波長よりも短い凹凸周期(ピッチ)Pで繰り返して配列された凸条パターン11と凹条パターン13を備えている。例えば、サブ波長構造の媒質として空気と屈折率nの媒質を想定する。屈折率nの凸条パターン11の幅がL、空気層からなる凹条パターン13の幅がSであり、P=L+Sである。また、L/Pはフィリングファクター(f)と呼ばれる。dは溝の深さである。
【0047】
周期Pの目安としては、使用する最も短い入射光の波長より短い凹凸周期で、より望ましくは使用波長の半分以下の周期とする。周期Pが入射光の波長よりも短い凹凸周期構造は入射光を回折することはないため入射光はそのまま透過し、入射光に対して複屈折特性を示す。すなわち、入射光の偏光方向に応じて異なる屈折率を示す。その結果、構造に関するパラメータを調整することにより位相差を任意に設定することができるため各種波長板を実現できる。
【0048】
構造性複屈折とは、屈折率の異なる2種類の媒質を光の波長よりも短い凹凸周期でストライプ状に配置したとき、ストライプに平行な偏光成分(TE波)とストライプに垂直な偏光成分(TM波)とで屈折率(有効屈折率と呼ぶ)が異なり、複屈折作用が生じることをいう。
【0049】
例えば非特許文献2に記載されるように、有効屈折率n
TE,n
TMは次の式(1),(2)で示される。さらに、入射光の波長λに対する位相差(リタデーション)δは次の式(3)で示される。
【0050】
n
TE={n
12×f + n
22×(1−f)}
1/2 ・・・(1)
n
TM={n
1-2×f + n
2-2×(1−f)}
-1/2 ・・・(2)
δ=(n
TE−n
TM)×d ・・・(3)
【0051】
式(1),(2)において、n
1は凹条パターン13の屈折率(例えば空気)、n
2は凸条パターン11の材質の屈折率、fはフィリングファクターである。式(3)において、dは凹条パターン13の深さである。
【0052】
サブ波長構造領域に直線偏光の光が入射すると、この位相差によってその透過光は楕円偏光に変わる。サブ波長構造の凸条パターンと凹条パターンの凹凸繰返し方向(以下、光学軸ともいう)が互いに異なる複数のサブ波長構造領域が配置された偏光解消素子を直線偏光の光が透過すると、サブ波長構造領域間で楕円率が異なる。
【0053】
本発明の光学素子の形成方法によって形成されるサブ波長構造では、凸条パターン11及び凹条パターン13は本発明の凹凸パターンの形成方法によって二酸化ケイ素で形成される。
次に、本発明の光学素子の形成方法によって形成され得る偏光解消素子の例について説明する。
【0054】
図5は、偏光解消素子の一例を概略的に示した平面図である。
偏光解消素子15に複数のサブ波長構造領域17が配置されている。サブ波長構造領域17は、例えば互いに隙間のない状態に配置されている。各サブ波長構造領域17において、サブ波長構造は、サブ波長構造領域17の境界(ここでは4辺)とは例えば数百nmの間隔をもって形成されている。ただし、サブ波長構造はサブ波長構造領域17の境界に接して形成されていてもよい。また、サブ波長構造領域17は互いに間隔をもって配置されていてもよい。
【0055】
図5は8×8=64個のサブ波長構造領域17が配置されたものを示している。ただし、これは概略図であり、その個数に限定されるものではなく、サブ波長構造領域17の数は多いほどよい。例えば、偏光解消素子15が5mm×5mmの正方形で、サブ波長構造領域17が50μm×50μmであるとすると、100×100=10000個のサブ波長構造領域17が配置された偏光解消素子15となる。
【0056】
サブ波長構造領域17は、使用する光の波長よりも短い凹凸周期で繰り返して配列された二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンによって構成されるサブ波長構造をもっている。サブ波長構造の凹凸繰返し方向が光学軸であり、図では光学軸は矢印で示されている。サブ波長構造領域17のサブ波長構造は、本発明の凹凸パターンの形成方法によって形成された二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンによって形成されている。
【0057】
各サブ波長構造領域17は1つずつの光学軸をもっている。光学軸方向は隣接するサブ波長構造領域17間では異なる部分をもつように配置される。ここでは隣接するサブ波長構造領域17間で光学軸方向が異なるようにサブ波長構造領域17が配置されている。サブ波長構造領域17の光学軸方向は360度を例えば15分割した方向のいずれかの方向をもつように形成されている。偏光解消素子15としては光学軸方向がランダムになるようにサブ波長構造領域17が配置されている。
【0058】
サブ波長構造領域17内における光学軸は1つである必要はない。例えば、互いに直交する2つの方向の光学軸をもつようにサブ波長構造領域17を形成することもできる。また、さらに複数個の光学軸をもつようなサブ波長構造領域17であってもよい。また、後述のように光学軸方向が中心から放射状に広がるようにサブ波長構造を構成する凹凸構造が同心円状に配列されているようなサブ波長構造領域17であってもよい。
【0059】
偏光解消素子15は、サブ波長構造を構成する二酸化ケイ素凹条パターンの深さに関し、偏光解消素子15全体で二酸化ケイ素凹条パターンの深さが同じであってもよいし、深さの異なるものを含んでいてもよい。
【0060】
深さの異なるものを含んでいる場合、1つの形態は、各サブ波長構造領域17内では二酸化ケイ素凹条パターンの深さを均一にし、二酸化ケイ素凹条パターンの深さの異なるサブ波長構造領域17をランダムに配置したものである。他の形態は、各サブ波長構造領域17内において二酸化ケイ素凹条パターンの深さを変化させたものである。このような形態は例えば特許文献7に開示されている。
【0061】
図6は、シリコン凸条パターンに切断部を形成した場合と形成しなかった場合の二酸化ケイ素凸条パターンの形状を概略的に示した平面図である。
【0062】
シリコン凸条パターン3に切断部3aを形成した場合、シリコン凸条パターン3の熱酸化による長さ方向の膨張は切断部3aによって吸収され、二酸化ケイ素凸条パターン7の歪みは低減される。また、二酸化ケイ素凸条パターン7の傾きや倒れも低減される。
【0063】
シリコン凸条パターン3に切断部3aを形成しなかった場合、熱酸化によるシリコン凸条パターン3の長さ方向の膨張に起因して二酸化ケイ素凸条パターン7に歪みが発生する。また、二酸化ケイ素凸条パターン7の傾きや倒れも発生する。
【0064】
二酸化ケイ素凸条パターン7に歪みや傾き、倒れが発生すると、サブ波長構造において設計通りの光学軸が得られないだけでなく、光の透過率が低下する。本発明の凹凸パターンの形成方法及び光学素子の形成方法は、このような不具合を低減することができる。
【0065】
図7は、偏光解消素子の他の例を概略的に示した平面図である。
図7の偏光解消素子は、複数のサブ波長構造領域に分割されることなく、全体として1つのサブ波長構造領域からなる。
【0066】
図7の偏光解消素子19では、偏光解消素子19の全面にわたって、使用する光の波長よりも短い凹凸周期で繰り返して配列された二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンをもち、構造性複屈折を呈するサブ波長構造21が形成されている。サブ波長構造21は、本発明の凹凸パターンの形成方法によって形成された二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンによって形成されている。
【0067】
サブ波長構造21は、サブ波長構造21の凹凸繰返し方向である光学軸方向が中心から放射状に広がるように、二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンが同心円状に配列されている。したがって、図中に矢印で示される光学軸方向は360度にわたって分布している。
【0068】
さらに、サブ波長構造21を構成する二酸化ケイ素凹条パターンの深さは、この偏光解消素子の中心(A1)から半径方向の一点(A2)に至る位置での断面図が、例えば、三角関数その他の任意の関数に従って連続して変化するように形成されている。なお、サブ波長構造21を構成する二酸化ケイ素凹条パターンの深さは均一であってもよい。
【0069】
偏光解消素子19では入射光の中心が偏光解消素子の中心(A1)にくるように光学系を配置するのが最も効果的な使用方法である。
【0070】
本発明の光学素子の形成方法によって形成され得る偏光解消素子の例が説明された。なお、本発明の光学素子の形成方法によって形成され得る偏光解消素子偏光解消素子は、
図5又は
図7に示されたものに限定されない。
【0071】
本発明の光学素子の形成方法によって形成され得る偏光解消素子は、使用する光の波長よりも短い凹凸周期で繰り返して配列された二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンをもち構造性複屈折を呈するサブ波長構造からなるものであれば、どのような構成であってもよい。
【0072】
本発明の光学素子の形成方法によって形成され得るサブ波長構造を有する光学素子は、偏光解消素子に限定されず、他の光学素子であってもよい。
また、本発明の光学素子の形成方法によって形成され得る光学素子は、サブ波長構造を有するものに限定されない。
【0073】
本発明の凹凸パターンの形成方法によって形成される二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンは、使用する光の波長と同一の凹凸周期又はその波長よりも長い凹凸周期で繰り返して配置されたものであってもよい。
【0074】
また、本発明の凹凸パターンの形成方法によって形成される二酸化ケイ素凸条パターンと二酸化ケイ素凹条パターンは、光学素子以外の物に適用されてもよい。
【0075】
以上、本発明の実施例が説明されたが本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変更が可能である。
【0076】
例えば、凹凸パターンの形成方法の上記実施例において、シリコン層1として汎用的な面方位(100)のノンドープのシリコンウェハを用いたが、シリコンウェハの結晶方位に制限はない。また、ノンドープのシリコンウェハを用いたが、後工程において熱酸化した時に損失が発生するレベルでなければ、N型やP型のシリコンウェハを用いても構わない。
【0077】
また、シリコン層1は、シリコンスパッタ膜やシリコン蒸着膜などの膜層であってもよい。この場合、シリコン層が形成される下地基板は光透過率の高い光学材料であることが好ましい。凹凸パターンを形成する部分がシリコンであれば、例えば、シリコン層は石英基板上に成膜されたシリコン膜であってもよい。
【0078】
例えば、下地基板上のシリコン層の厚みと、シリコン凸条パターンのパターン深さとを同一にしてもよい。これにより、シリコン凸条パターンのみを酸化して二酸化ケイ素凸条パターンを形成すればよいので、熱酸化時間を大幅に短縮することができる。なお、この場合、シリコン凹条パターンの底部及び二酸化ケイ素凹条パターンの底部はシリコン層の下地基板によって構成される。
【0079】
また、下地基板として石英などの可視域において透明である材質を用いれば、熱酸化によって形成された凹凸パターンとあわせて、素子全体において可視域の光透過性を有する状態を実現することも可能である。
【0080】
また、凹凸パターンの形成方法の上記実施例において、シリコン凸条パターン3及びシリコン凹条パターン5の熱酸化法としてウェット酸化を用いたが、この熱酸化処理はドライ酸化で行なわれてもよい。例えば、下地基板上にシリコン凸条パターンを形成した場合はパターン部分のみの熱酸化で構わないので、熱酸化処理をドライ酸化で行ってもよい。