【文献】
近内 秀文,阿曽 良雄,鈴木 喜夫,舘 義仁,ミクロ強化繊維「TIBREX」,川崎製鉄技報,日本,川崎製鉄株式会社,1992年,第24巻第2号,第158頁−第160頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液晶ポリエステルアミドと融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステルからなる液晶ポリエステルアミド樹脂混合物合わせて50〜80質量%(ただし、全芳香族液晶ポリエステル樹脂の質量は液晶ポリエステルアミドの質量の等量以下とする。)、ウィスカー10〜30質量%、カーボンブラック1〜5質量%、タルク0〜20質量%、沈降性硫酸バリウム0〜20質量%、(以上、合わせて100質量%とする。)を溶融混練して得られる、荷重たわみ温度が220℃以上、かつ、せん断速度100sec−1、測定温度370℃における溶融粘度が10〜100Pa・Sであることを特徴とする、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物。
前記ウィスカーが、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛の少なくともいずれか1種であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、上記状況に鑑み、カメラを搭載したスマートフォン等携帯端末機器類の衝撃時や落下時に発生するパーティクル数が少ないカメラモジュール部品を成形し得る、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物を得ることが課題である。
【0007】
したがって、本発明は、近年のカメラモジュール部品に要求されるパーティクル耐脱離性に優れた射出成形品を得ることができる液晶ポリエステルアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の液晶ポリエステルアミド樹脂と、ウィスカー、カーボンブラックを含んでなる液晶ポリエステルアミド樹脂組成物を射出成形することにより、「パーティクル耐脱離性」を有する射出成形品を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の第一は、液晶ポリエステルアミド50〜80質量%、ウィスカー10〜30質量%、カーボンブラック1〜5質量%、タルク0〜20
質量%、沈降性硫酸バリウム0〜20
質量%、(以上、合わせて100質量%とする。)を溶融混練して得られる、荷重たわみ温度が220℃以上、かつ、せん断速度100sec−1、370℃における溶融粘度が10〜100Pa・Sであることを特徴とする、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物に関する。
【0010】
本発明の第二は、液晶ポリエステルアミドと融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステルからなる液晶ポリエステルアミド樹脂混合物合わせて50〜80質量%(ただし、全芳香族液晶ポリエステル樹脂は液晶ポリエステルアミドの等量以下とする。)、ウィスカー10〜30質量%、カーボンブラック1〜5質量%、タルク0〜20
質量%、沈降性硫酸バリウム0〜20
質量%、(以上、合わせて100質量%とする。)を溶融混練して得られる、荷重たわみ温度が220℃以上、かつ、せん断速度100sec−1、370℃における溶融粘度が10〜100Pa・Sであることを特徴とする、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物に関する。
なお、融点は、ISO11357−3、ASTM D3418に準拠して測定した(以下同じ)。
【0011】
本発明の第三は、液晶ポリエステルアミドが、下記式(1)で表される構造単位を10〜65モル%と、下記式(2)で表される構造単位を3〜17.5モル%と、下記式(3)で表される構造単位を5〜20モル%と、下記式(4−1)で表される構造単位及び下記式(4−2)で表される構造単位のうちの少なくとも一種を合計で7.5〜42モル%と、下記式(5−1)で表される構造単位及び下記式(5−2)で表される構造単位のうちの少なくとも一種を合計で2.5〜40モル%とを含み、融点が300℃以上であることを特徴とする、本発明の第一乃至第二に記載の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物に関する。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0012】
本発明の第四は、前記ウィスカーが、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛の少なくともいずれか1種であることを特徴とする、本発明の第一乃至第三の何れかに記載の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物に関する。
【0013】
本発明の第五は、本発明の第一乃至第四の何れかに記載の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の射出成形体を構成部材として含んでなることを特徴とする、カメラモジュール部品に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る液晶ポリエステルアミド樹脂組成物は、その成形品の良好な、剛性、耐熱性、機械強度、樹脂組成物の薄肉加工性、金型形状転写性、成形品の表面実装(SMT)耐性、および、「パーティクル耐脱離性」を有し、射出成形により、極めて優れた特性を有するカメラモジュール用部材を提供し得る。特に、当該分野で先行している全芳香族液晶ポリエステル樹脂組成物に比べ、靱性において優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で用いる液晶ポリエステルアミド樹脂とは、溶融異方性を呈するものである。具体的には、p−ヒドロキシ安息香酸(HBA)、アセトアミノフェノン(AAP)、1,4−シクロへキサンジカルボン酸(CHDA)、特定の芳香族ジオール及び特定の芳香族ジカルボン酸を構成モノマーとし、これらモノマーの重縮合反応により得られる液晶ポリエステルアミドが好ましい。
【0017】
特に好ましいのは、下記式(1)で表される、p−ヒドロキシ安息香酸(HBA)由来の構造単位10〜65モル%、下記式(2)で表される、アセトアミノフェノン(AAP、p−アセチルアミノフェノールとも言う)由来の構造単位3〜17.5モル%、下記式(3)で表される、1,4−シクロへキサンジカルボン酸(CHDA)由来の構造単位5〜20モル%、下記式(4−1)で表される構造単位及び下記式(4−2)で表される、芳香族ジオール由来の構造単位のうちの少なくとも一種を合計で7.5〜42モル%、および、下記式(5−1)で表される構造単位及び下記式(5−2)で表される芳香族ジカルボン酸由来の構造単位のうちの少なくとも一種を合計で2.5〜40モル%とを((1)〜(5−2)を合わせて100モル%とする。)、重縮合反応して得られる、融点が300℃以上の液晶ポリエステルアミドである。
【0025】
本発明における樹脂組成物においては、上記液晶ポリエステルアミド樹脂、または上記液晶ポリエステルアミド樹脂および全芳香族液晶ポリエステル樹脂の混合物の質量%を、50〜80質量%の範囲とする。この範囲を逸脱すると、十分な射出成形特性を得ることが困難となる。
【0026】
本発明の液晶ポリエステルアミド樹脂組成物に含み得る全芳香族液晶ポリエステル樹脂の構造単位としては、例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールと芳香族ヒドロキシカルボン酸との組み合わせからなるもの、異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸からなるもの、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとの組み合わせからなるもの、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの)等が挙げられ、具体的構造単位としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0027】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:
【化15】
【0028】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:
【化16】
【0029】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:
【化17】
【0030】
耐熱性、機械的物性、成形加工性のバランスの観点から、好ましい全芳香族液晶ポリエステル樹脂は、上記構造単位(A1)を全芳香族液晶ポリエステル樹脂中30モル%以上有するもの、更に好ましくは(A1)と(B1)をあわせて60モル%以上有するものである。
【0031】
特に好ましい液晶ポリエステルは、(p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を全芳香族液晶ポリエステル中、80〜100モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)(II)(III)のいずれかと脱縮合反応可能な他の芳香族化合物を、同0〜20モル%を重縮合してなる融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステル、または、p−ヒドロキシ安息香酸(I)、テレフタル酸(II)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(III)(これらの誘導体を含む。)を同90〜99モル%(但し、(I)と(II)の合計を60モル%以上とする。)、および、(I)、(II)、(III)と脱縮合反応可能な他の芳香族化合物を同1〜10モル%(それらを合わせて100モル%とする。))を重縮合してなる融点320℃以上の全芳香族液晶ポリエステルである。
【0032】
上記構造単位の組み合わせとしては、
((A1)
(A1)、(B1)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)
(A1)、(B1)、(B2)、(C2)
(A1)、(B1)、(B3)、(C1)
(A1)、(B1)、(B3)、(C2)
(A1)、(B1)、(B2)、(C1)、(C2)
(A1)、(A2)、(B1)、(C1)
が好ましく、特に好ましいモノマー組成比としては、p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(これらの誘導体を含む。)を全芳香族液晶ポリエステル中、80〜100モル%と、これら以外の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸からなる群から選択される芳香族化合物を同0〜20モル%(それらを合わせて100モル%とする。)とを重縮合してなる)全芳香族液晶ポリエステルアミド樹脂である。(p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが同80モル%以下になると、耐熱性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0033】
本発明で用いる液晶ポリエステルアミド樹脂の製造方法としては、液晶ポリエステル樹脂の製造方法に準じて、公知の方法を採用することができ、溶融重合のみによる製造方法、あるいは溶融重合と固相重合の2段重合による製造方法を用いることができる。
【0034】
溶融重合により得られた重合体についてさらに固相重合を行う場合は、溶融重合により得られたポリマーを固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法、例えば、窒素などの不活性雰囲気下において200〜350℃の温度範囲で1〜30時間熱処理するなどの方法が好ましく選択される。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、また攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0035】
重合反応において触媒は使用してもよいし、また使用しなくてもよい。使用する触媒としては、ポリエステルの重縮合用触媒として従来公知のものを使用することができ、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒等が挙げられる。
【0036】
溶融重合における重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の攪拌翼をもつ攪拌装置を有する攪拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置などが挙げられる。
【0037】
本発明においては、前記液晶ポリエステルアミド樹脂が液晶ポリエステルと優れた親和性を有すること利用して、液晶ポリエステル樹脂を溶融混練によりブレンド(所謂、ポリマーブレンド)することができる。好ましくは、全芳香族ポリエステル樹脂を等量以下までポリマーブレンドする。このブレンドにより、液晶ポリエステルアミドの、優れた靱性を保持したまま、耐熱性を必要に応じて補完することができる。ブレンド方法としては、それぞれの樹脂をドライブレンドして、溶融混練すればよい。ブレンドする全芳香族液晶ポリエステル樹脂の割合が両者合計の50質量%を超えると、液晶ポリエステルアミドの靱性が十分に発揮できなくなるので、本発明の目的に沿わず好ましくない。
【0038】
本発明で用いる、液晶ポリエステルアミド、および必要に応じて混合する全芳香族液晶ポリエステル樹脂の形状は、粉末状、顆粒状、ペレット状のいずれでもよいが、充填材との混合時の分散性の観点から、粉末状あるいは顆粒状が好ましい。
【0039】
<ウィスカー(針状単結晶)について>
液晶ポリエステルアミド樹脂組成物には、多種多様な繊維状充填剤が含有されることがあり、その形状的要因に起因して、優れた耐熱性、剛性等を呈することが知られている。本発明では、繊維状充填材として針状単結晶である所謂「ウィスカー」を含み、さらに、これとは異なる充填剤を、それぞれ特定の配合割合で含有させることを要する。
【0040】
カメラモジュール用液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の「パーティクル耐脱離性」は、前記、特定配合からなる樹脂組成物中の繊維状充填剤として、ウィスカーを含有させることで著しく向上する。
本発明者らは、その理由についてはいまだ解明に至っていないが、繊維状充填剤の代表例としてのガラス繊維との比較において想定ができる。
【0041】
各種充填材を含む液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の落下衝撃時に発生するパーティクルは、主として、各種繊維状充填材の破片、および、液晶ポリエステルアミドマトリックスの破壊に由来するフィブリルであることが解明されている。
【0042】
パーティクルの生成は、充填材の中でも、アスペクト比およびサイズ(長さ)が大きい繊維状充填材と液晶ポリエステルアミドの界面剥離の破壊様式に起因することが大きいと考えられる。
溶融紡糸、メルトブローにより製造され、表面形状およびその破断面形状が粗であるガラス繊維と、結晶成長により製造され、表面形状およびその破断面形状が比較的平滑となる針状単結晶とでは、マトリックスである液晶ポリエステルアミドとの界面構造はミクロ的に異なり、界面の破壊様式が異なることが予想される。
例えば、表面が相対的に平滑である針状単結晶界面と液晶ポリエステル樹脂とは、容易に剥離して微少なボイドを多数形成し、それらボイド形成によって衝撃エネルギーを吸収して、液晶ポリエステルアミドマトリックスからのフィブリル(「パーティクル」主要成分のひとつ)生成に繋がるマトリックス部での破壊を抑制しているものと考えられる。
【0043】
本発明において使用できるウィスカーには、制限はない。好ましくは、ウィスカーの中でも、靱性を有する平均径5μm以下が適する。具体的には、(i)チタン酸カリウム(化学式;K2O・nTiO2(nは6または8、真比重 3.4〜3.6、平均繊維径0.3〜0.6μm。例えば、市場から、商品名「ティスモ」(大塚化学(株)製)として入手できるもの)、(ii)ケイ酸カルシウム(化学式;CaSiO3、真比重 2.5〜2.6、繊維径1〜5μm。例えば、市場から「ワラストナイト」として入手できるもの)、(iii)炭酸カルシウム(化学式;CaCO3、真比重 2.8、平均繊維径0.5〜1μm。例えば、市場から商品名「ウィスカル」(丸尾カルシウム(株)製)として入手できるもの)、(iv)酸化亜鉛、(化学式;ZnO、真比重 5.78、平均繊維径0.2〜3μm。例えば、市場から商品名「パナテトラ」(パナソニック(株)製)として入手できるもの)が挙げられ、これらの中でも、混練工程でのハンドリングし易さ、マトリックスを構成する液晶ポリエステル中の分散し易さの観点から、比較的繊維径が大きく、また、液晶ポリエステルとの比重差が小さく、良分散が容易である、(ii)および(iii)が好ましい。これらは、単独で使用しても、2種類以上を任意の配合で混合して使用してもよい。本発明における樹脂組成物においては、ウィスカーの含有率を、10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。10質量%未満であると添加の効果が十分でなく。30質量%を超えると良好な流動性を得ることが困難となることがある。
【0044】
<沈降性硫酸バリウム>
本発明における液晶ポリエステルアミド樹脂組成物は、沈降性硫酸バリウムを含有する。硫酸バリウムは、ほぼ、球状を有する充填材で、パーティクル生成に繋がる界面剥離破壊様式をとる確率が低く、また、その特異的な高比重(約4.5)により、液晶ポリエステルアミド組成物の衝撃エネルギー吸収効率を改良して、パーティクル生成を抑制する効果を与えているものと考えられる。また、自身が、無定形で非常に細くて軟らかく、破壊しにくいことも、パーティクル生成の抑制につながっているものと考えられる。本発明における樹脂組成物においては、沈降性硫酸バリウムを添加する場合、その含有率を、0〜20質量%の範囲とすることが好ましい。20質量%を超えると良好な流動性を得ることが困難となることがある。
【0045】
<タルク>
本発明においては、液晶ポリエステルアミド樹脂組成物は、タルクを含有することが好ましい。タルクは、ほぼ、楕円球状を有する、比較的表面が平滑な充填材で、異方性低減により成形品に寸法安定性を与えることから、カメラモジュール部品の長期使用下でもパーティクルの耐脱離性等の信頼性を高めることができる。本発明における樹脂組成物においては、タルクを添加する場合、その含有率を、0〜20質量%の範囲とすることが好ましい。20質量%を超えると良好な流動性を得ることが困難となることがある。
【0046】
<カーボンブラックについて>
本発明に用いるカーボンブラックは、カメラモジュール部品の遮光性を確保する目的で使用されるもので、樹脂着色に用いられる一般的に入手可能なものであれば特に限定されるものではない。
本発明における樹脂組成物においては、カーボンブラックの含有率を、1〜5質量%の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは2〜4質量%である。カーボンブラックの配合量が1質量%未満であると、得られる樹脂組成物の漆黒性が低下し、遮光性が十分確保できないことになり、5質量%を超えると物性低下、またブツ(カーボンブラックが凝集した細かいブツブツ状突起物)発生の可能性が高くなる。
【0047】
さらに、本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、その部分エステル、ステアリン酸等高級脂肪酸およびその塩、そのエステル、ステアリルアルコール等高級アルコール、ステアリルアミドおよびポリエチレンワックス当ポリオレフィンワックスなど)、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤、上記以外のその他充填材や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することができる。なお、ガラス繊維はパーティクル発生数が多く、本発明の目的には適さない(比較例6参照)。
【0048】
本発明に係る液晶ポリエステルアミド樹脂組成物は液晶ポリエステルアミドを溶融して他の成分と混練して得られるが、溶融混練に用いる機器および運転方法は、一般に液晶ポリエステルの溶融混練に使用するものであれば特に制限はない。
好ましくは、一対のスクリューを有する混練機で、ポッパーから液晶ポリエステル、ウィスカー、カーボンブラック、沈降性硫酸バリウムを投入し、さらに必要に応じてタルクを投入して、溶融混練してペレット化する方法が好ましい。
これらは、2軸押出機と呼ばれるもので、これらの中でも、切り替えし機構を有することで充填材の均一分散、および、局部発熱抑制を可能とする異方向回転式であるものが好ましい。
【0049】
<溶融粘度範囲について>
本発明においては、このようにして得られた液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の剪断速度100sec
−1、370℃で測定される溶融粘度は10〜100Pa・S、好ましくは20〜100Pa・sの範囲にある。樹脂粘度がこの範囲を外れると、射出成形品の表面性状が悪くなり、これを原因とするパーティクル発生のおそれがある。溶融粘度は、インテスコ株式会社製キャピラリーレオメーター(Model2010)を用い、キャピラリーとして直径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec
−1で320℃から4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行い、得られた値の1の位を四捨五入して、370℃における見かけ粘度を求める。
【0050】
<荷重たわみ温度について>
また、本発明においては、このようにして得られた液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の射出成形品の荷重たわみ温度が220℃以上であることが必要である。ここで、荷重たわみ温度とは、ASTM D648に準拠して測定された荷重たわみ温度(DTUL)を意味する。荷重たわみ温度が220℃を下回ると、表面実装におけるハンダリフロー時の耐熱性に問題が生じるおそれがあるため適さない。
【0051】
本発明にかかる樹脂組成物は、これらの構成材の個々の特性、および、良好な流動性が総合的に、射出成形工程において発揮され、特に、0.3から0.9mmの範囲の厚さの肉薄構造部を有する射出成形品の成形において、優れた「パーティクル耐脱離性」を有するカメラモジュール部品を供給するものである。なお、射出成形に用いる射出成形機は、液晶ポリエステルの成形に一般に使用されている公知のものであれば特に制限は無い。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
<液晶ポリエステルアミド(A)の製造>
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積6Lの重合槽(日東高圧株式会社製)に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)1325.95g(9.6モル)、アセトアミノフェン(マリンクロッド社製)120.94g(0.80モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)446.90g(2.40モル)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(イーストマンケミカル社製)275.49g(1.60モル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)186.07g(1.12モル)、イソフタル酸(エイ・ジイ・インターナショナル社製)79.74g(0.48モル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.16g、及び、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.48gを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸1629.36g(15.96モル)を更に添加し、攪拌翼の回転速度を70rpmとし、1.5時間かけて150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0054】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合槽を0.5℃/分で昇温して、リアクター温度が305℃になったところで重合物をリアクター下部の抜き出し口から取り出し、冷却固化した。得られた重合物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
【0055】
次に、上記で得られたプレポリマー1000gを入江商会より調達した固相重合装置に充填し、窒素を0.1Nm
3/hrの流速にて流通し、回転速度5rpmでヒーター温度を室温から150℃まで45分かけて昇温した後、250℃まで4時間かけて昇温し、更に終了温度である300℃まで3時間かけて昇温したのちに300℃で1時間保持し、固相重縮合を行った。こうして、粉末状のサーモトロピック液晶ポリエステルアミド(A)約970gを得た。得られたサーモトロピック液晶ポリエステルアミド(A)の融点は325℃であった。
【0056】
(液晶ポリエステルアミド(B)の製造)
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積6Lの重合槽(日東高圧株式会社製)に、p−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)1325.95g(9.60モル)、アセトアミノフェン(マリンクロッド社製)193.50g(1.28モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)357.52g(1.92モル)、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(イーストマンケミカル社製)275.49g(1.60モル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)132.90g(0.80モル)、イソフタル酸(エイ・ジイ・インターナショナル社製)132.90g(0.80モル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.16g、及び酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.48gを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸1577.90g(15.46モル)を更に添加し、攪拌翼の回転速度を70rpmとし、1.5時間かけて150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0057】
次に実施例1と同様にして(取り出し時のリアクター温度は300℃)プレポリマーを得た後、固相重合(終了温度は300℃)を行って、サーモトロピック液晶ポリエステルアミド(B)を得た。得られたサーモトロピック液晶ポリエステルアミドの融点は335℃であった。
【0058】
(液晶ポリエステルの製造)
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する内容積1700Lの重合槽(神戸製鋼株式会社製)にp−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬株式会社製)298kg(2.16キロモル)、4,4‘−ジヒドロキシビフェニル(本州化学工業株式会社製)134kg(0.72キロモル)、テレフタル酸(三井化学株式会社製)90kg(0.54キロモル)、イソフタル酸(エイ・ジ・インターナショナルケミカル株式会社製)30kg(0.18キロモル)、触媒として酢酸カリウム(キシダ化学株式会社製)0.04kg、酢酸マグネシウム(キシダ化学株式会社製)0.10kgを仕込み、重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸386kg(3.78キロモル)を添加し、攪拌翼の回転速度45rpmで150℃まで1.5時間で昇温して還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分で昇温して、リアクター温度が305℃になったところで重合物をリアクター下部の抜き出し口から取り出し、冷却装置で冷却固化した。得られた重合物をホソカワミクロン株式会社製の粉砕機により目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕してプレポリマーを得た。
得られたプレポリマーを高砂工業株式会社製のロータリーキルンを用いて固相重合を行った。プレポリマーを該キルンに充填し、窒素を16Nm
3/hrの流速にて流通し、回転速度2rpmでヒーター温度を室温から350℃まで1時間で昇温し、350℃で10時間保持した。キルン内の樹脂粉末温度が295℃に到達したことを確認し、加熱を停止してロータリーキルンを回転しながら4時間かけて冷却し、粉末状の液晶ポリエステルを得た。融点は360℃、溶融粘度は70Pa・Sであった。
【0059】
本発明に係る実施例および比較例に用いた各種充填剤の特性を以下に示す。
(1)ウィスカー:
(i) チタン酸カリウム:化学式;K2O・nTiO2:nは6または8、真比重 3.4〜3.6、繊維径0.3〜0.6μm(商品名「ティスモ」、大塚化学(株)製)
(ii) ケイ酸カルシウム:化学式;CaSiO3、真比重 2.5〜2.6、平均繊維径1〜5μm(市場から、「ワラストナイト」の名称で入手できるもの)
(iii) 炭酸カルシウム:化学式;CaCO3、真比重 2.8、平均繊維径0.5〜1μm(商品名「ウィスカル」、丸尾カルシウム(株)製)
(iv) 酸化亜鉛:(化学式;ZnO 真比重 5.78 平均繊維径0.2〜3μm(商品名「パナテトラ」、(株)アムテック製)
(2)カーボンブラック(CB):キャボット(株)社製、「REGAL 660」(1次粒子径24nm)
(3)沈降性硫酸バリウム:堺化学工業(株)製、「BMH−40」(平均粒子径1μm,比重4.5)
(4)タルク:日本タルク(株)社製、「MS−KY」(数平均粒径23μm)
(5)ガラスファイバー。
日東紡績(株)社製、PF100E−001SC(数平均繊維長100μm、数平均繊維径10μm)
【0060】
(試験方法)
(1)溶融粘度の測定
液晶ポリエステルアミド樹脂組成物の溶融粘度は、キャピラリーレオメーター(インテスコ(株)社製2010)を用い、キャピラリーとして径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で300℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行い、370℃における見掛け粘度を求め、得られた数値の1の位を四捨五入し、測定値とした。なお、試験には、予めエアーオーブン中、150℃、4時間乾燥した樹脂組成物を用いた。
【0061】
(2)ウェルド強度の測定
(試験片の成形)
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH−1000)を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度300mm/sec、金型温度80℃で、試験片を得た。樹脂の注入は2点ゲートで行った。金型は、48mm×15mm×0.3mmのキャビティを有し、ほぼその中央で異なるゲートから注入された樹脂のメルトフロントが衝突して成形品を横切るウェルドを生成するものを用いた。本金型で得た、上記試験片の平面図および側面図を
図1に示す。
(ウェルド強度の評価)
1銘柄につき、試験片5本を、樹脂製フレーム上に、両端がフレーム枠、ウェルドを有する中央部分がフレーム窓に配置するように並べ、フレーム上の両端を粘着テープでフレームに固定した。当該試験片を粘着保持したフレームを、1.5m高さから5回落下させた後、ウェルド部の割れの有無をルーペにて確認した。割れ発生しなかったものを「○」、割れが発生したものを「×」とした。
【0062】
(3)荷重たわみ温度(DTUL)の測定
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃で、13mm(幅)×130mm(長さ)×3mm(厚み)の射出成形品を得て、荷重たわみ温度測定の試験片とした。各試験片について、ASTM D648に準拠し、荷重たわみ温度を測定した。表面実装適応可否の目安として、220℃以上のものを「○」、220℃未満のものを「×」とした。
【0063】
(4)カメラモジュール部品としてのパーティクル耐脱離性の測定
(試験片の成形)
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、UH−1000)を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度300mm/sec、金型温度80℃で、試験片を得た。樹脂の注入は1点ゲートで行い、金型は、一片8mmの正方形形状の中央に6mmφの円形凹部があり、さらに、その中央に、3mmφの窓を有するものを用いた。最小厚みは0.9mmである。なお、成形品の窓の部分は実カメラモジュール部品のレンズ挿入固定部に対応しているが、このような成形品では、点線部ウェルドが不可避的に生成する。本金型で得た、上記試験片の平面図および側面図を
図2に示す。
(パーティティクル耐脱離性の評価)
上記試験片50個をSUS容器に収納し、閉蓋した。当該収納容器を、1.5m高さから50回落下させた後、開蓋し、試験片と、試験片から落下したパーティクルを分離、パーティクルの数をSysmex社製「FPIA-3000」で数えた。
耐脱パーティクルの評価を3段階で評価し、生成パーティクルの数が、100未満の範囲にあるものを「◎」、100以上〜200未満の範囲にあるものを「○」、200を超えるものを「×」とした。
【0064】
(5)異方性の評価
TD方向とMD方向との成形収縮率の差で評価を行った。1銘柄につき上記(3)にて得た「荷重たわみ温度」測定用の試験片5本を、24時間以上室温にて放置後、MD(成形)方向として長さ、TD(横)方向として幅を、小数点2ケタまでmm単位で測定した。この寸法の各平均値を、金型の実寸法(「長さ」=130.02mm、「幅」=13.02mm)と比較し、TD方向、および、MD方向の成形収縮率を求めた。
TD方向とMD方向の成形収縮率の差が8倍未満のものを「○」、8倍以上のものを「△」とした。
【0065】
【表1】