特許第6063379号(P6063379)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063379
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】固形医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7042 20060101AFI20170106BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20170106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170106BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20170106BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   A61K31/7042
   A61K47/22
   A61K47/38
   A61K9/20
   A61P43/00 111
   A61P3/04
   A61P3/10
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-511052(P2013-511052)
(86)(22)【出願日】2012年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2012060701
(87)【国際公開番号】WO2012144592
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年1月21日
(31)【優先権主張番号】61/478,188
(32)【優先日】2011年4月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592086318
【氏名又は名称】壽製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】坂浦 啓介
(72)【発明者】
【氏名】田村 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】片川 好史
(72)【発明者】
【氏名】迫 和博
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/096455(WO,A1)
【文献】 特表2010−536734(JP,A)
【文献】 特開昭54−041386(JP,A)
【文献】 特表2006−514044(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/114475(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/080990(WO,A1)
【文献】 医薬品添加物辞典,株式会社薬事日報社,1994年,p.93, 100-101,第93頁の『クロスカルメロースナトリウム』の項、第100頁からの『結晶セルロース』の項
【文献】 薬剤学マニュアル,株式会社南山堂,1989年,p.88, 89, 112, 113
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/48
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール、L−プロリン、並びに、結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムを含有する錠剤であって、
該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールが共結晶を形成していない、上記錠剤。
【請求項2】
結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムの量が、錠剤中5重量%以上90重量%以下である、請求項1に記載の錠剤。
【請求項3】
第15改正日本薬局方に記載の溶出試験において、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールが30分で60%以上溶出する、請求項1又は2に記載の錠剤。
【請求項4】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール、L−プロリン、並びに、結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムを含有し、該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールが共結晶を形成していない、錠剤の製造方法であって、
(1) (1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール、L−プロリン、並びに、結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムを混合する工程、及び
(2) 得られた混合物を圧縮成型する工程、
を含む、錠剤の製造方法。
【請求項5】
圧縮成型する工程の前に、混合物を湿式造粒し、共結晶を形成していない状態の該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールを含む造粒物を得る工程、
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(1) (1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールとL−プロリンとの共結晶、並びに、結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムを混合する工程、及び
(2) 得られた混合物を湿式造粒し、該L−プロリンと共結晶を形成していない状態の該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールを含む造粒物を得る工程、
を含む、該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールが共結晶を形成していない、固形医薬組成物の製造方法。
【請求項7】
100重量部の共結晶に対して50重量部以上400重量部以下の水を用いて湿式造粒される、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
(3) 造粒物を圧縮成形する工程、をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールの良好な溶出性、及び溶出安定性を維持してなる固形医薬組成物に関する。
【0002】
また、本発明は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールの良好な溶出性、及び溶出安定性を維持してなる固形医薬組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール(以下、「C−グリコシド誘導体A」または「公知化合物A」)は、アステラス製薬及び壽製薬において創製されたNa−グルコース共輸送体阻害剤であり、例えば、インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)、インスリン非依存性糖尿病(2型糖尿病)等の他、インスリン抵抗性疾患及び肥満の治療、並びにこれらの予防に有用な化合物として報告されている(特許文献1)。
【0004】
また公知化合物Aと、L−プロリンとの共結晶に関して、医薬の製造に用いられる原薬の結晶として、一定の品質を有し、保存安定性に優れたL−プロリンとの共結晶、及びこれを有効成分として含有する、特に糖尿病治療剤として有用な医薬組成物に関する発明が開示されている(特許文献2)。また、公知化合物Aの結晶は包接水和物を形成し、温湿度環境により無水物から非化学量論的な水和物へと可逆的に変化する性質を示すため、医薬品に供する原薬として一定の品質を保つことが困難であったことから、一定の品質を有するとともに、保存安定性に優れた、医薬品に供する原薬の結晶として、公知化合物AはL−プロリンとの共結晶として提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第WO2004/080990号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO2007/114475号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶を含有した医薬品製剤(例えば錠剤)を公知の方法で製造したところ、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶が有する強い凝集性により崩壊性が悪く、結果として薬物の溶出速度が遅くなること、また経時的に溶出速度が変化する課題が明らかとなった。製剤の崩壊性が悪く、薬物の溶出速度が遅くなると、生物学的利用能(BA)が低下し、薬理学的に十分な治療効果が得られないなどの課題が生じることが懸念される。
【0007】
従って、本発明の目的は、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶から製造される、良好な溶出性を有する医薬組成物、及び該医薬組成物の製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の別の目的は公知化合物Aのフリー体から製造される、良好な溶出性を有する医薬組成物、及び該医薬組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、自体公知の攪拌造粒機を用いた湿式造粒法により、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶を含有した造粒物を調製し、その後当該造粒物から錠剤を製造したところ、当該錠剤は製造直後には良好な薬物溶出性を有していたが、崩壊特性に変化が見られ、かつ経時的に溶出性も低下する等の問題のあることを知った。
【0010】
本発明者らは、製剤製造中の薬物の状態に着目し検討した結果、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶は製剤製造中に使用する水によって、共結晶構造からL−プロリンが離脱することにより公知化合物Aがフリー体となり、一時的には薬物溶出性は改善されるが、時間がたつと凝集物を形成することを知った。
【0011】
また、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶、及び乳糖を混合したカプセル製剤を製造したところ、良好な溶出性が得られなかった。
【0012】
そこで本発明者らは、共結晶構造からL−プロリンが離脱することによりフリー体となった公知化合物Aが共結晶を再形成することを防ぐことができれば、良好な溶出性が維持されるものと考えた。そして、鋭意検討した結果、特定のセルロース誘導体を含む医薬組成物を公知化合物AとLプロリンとの共結晶に適用した時、良好な溶出性を達成すること等を知見して、本発明を完成させるに至った。
【0013】
さらに、公知化合物Aと特定のセルロース誘導体を含有する組成物を製造して良好な溶出性を達成すること等を知見して、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
[1](1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール、並びに、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムを含有し、該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールが共結晶を形成していない、固形医薬組成物;
[2]更にL−プロリンを含む、[1]に記載の固形医薬組成物;
[3]結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムの量が、医薬組成物中5重量%以上90重量%以下である、[1]または[2]に記載の固形医薬組成物;
[4]第15改正日本薬局方に記載の溶出試験において、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールが30分で60%以上溶出する、[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の固形医薬組成物;
[5](1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールとL−プロリンとの共結晶、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウム、及び該共結晶の100重量部に対して50重量部以上400重量部以下の水、から、湿式造粒により製造される、[2]乃至[4]のいずれか一つに記載の固形医薬組成物;
[6]固形医薬組成物が錠剤である、[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の固形医薬組成物;
[7](1)(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール、並びに、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムを混合する工程、及び
(2)得られた混合物を圧縮成型する工程、
を含む、固形医薬組成物の製造方法;
[8]圧縮成型する工程の前に、混合物を湿式造粒し、共結晶を形成していない状態の該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールを含む造粒物を得る工程、
を含む、[7]に記載の固形医薬組成物の製造方法;
[9](1)(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールとL−プロリンとの共結晶、並びに、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムを混合する工程、及び
(2)得られた混合物を湿式造粒し、該L−プロリンと共結晶を形成していない状態の該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールを含む造粒物を得る工程、
を含む、固形医薬組成物の製造方法;
[10]100重量部の(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールとL−プロリンとの共結晶に対して50重量部以上400重量部以下の溶媒を用いて湿式造粒される、[9]に記載の製造方法;
[11](3)造粒物を圧縮成形する工程、をさらに含む、[10]に記載の製造方法;
[12]固形医薬組成物が錠剤である、[7]乃至[11]のいずれか一つに記載の製造方法;
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の特徴は、(1)公知化合物Aを含有した医薬品製剤が良好な溶出性を示す、(2)経時的に溶出速度が変化せず、安定した医薬品製剤を提供することができる、(3)良好な溶出性を示すことから生物学的利用能(BA)も改善され、薬理学的に十分な治療効果が得られる等の効果を奏する、などの点に存する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールとL−プロリンとの共結晶の粉末X線回折図である(測定条件:Cu Kα線 50kV, 5度/分、0度から40度、ピーク位置:回折角(2θ)8.9°、12.3°、17.4°、20.5°)。
図2図2は、(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールの結晶の粉末X線回折図である(測定条件:Cu Kα線 50kV, 5度/分、0度から40度、ピーク位置:回折角(2θ)9.8°、11.8°、15.1°、19.8°)。
図3図3は、実施例1で製造された固形医薬組成物の粉末X線回折図である。
図4図4は、試験例2の溶出プロファイルを示した図である。
図5図5は、試験例3の溶出プロファイルを示した図である。
図6図6は、試験例5の公知化合物Aの血しょう中濃度の経時変化を示した図である。
図7図7は、試験例6の溶出プロファイルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の固形医薬組成物について、詳細に説明する。
【0018】
本明細書において、「公知化合物Aのフリー体」とは、公知化合物Aが固形医薬組成物中で共結晶を形成せずに存在している状態を意味する。
【0019】
本明細書において、「公知化合物AとL−プロリンとの共結晶」とは、公知化合物AとL−プロリンとが1:1のモル比で形成される共結晶を意味する。共結晶構造の同定は、示差走査熱量計分析(DSC分析)及び/又は、粉末X線回折等の結果から示される。例えば、特許文献2には、粉末X線回折の場合、スペクトルの回折角(2θ(°))、及び相対強度によって公知化合物AとL−プロリンとの共結晶が特徴づけられると開示している(表1、表2)。なお、粉末X線回折はデータの性質上、結晶の同一性認定においては結晶格子間隔や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少は変わり得るものであるから、厳密に解されるべきではない。また、X線回折にて公知化合物A構造特有のピークが出現しても無視できるほど小さければ公知化合物AとL−プロリンとの共結晶であることと規定する。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
粉末X線回折は以下の条件で測定。
標準測定:「MAC Science MXP18TAHF22」を用い、管球:Cu、管電流:200mA、管電圧:40kV、サンプリング幅:0.020°、走査速度:3°/min、波長:1.54056Å、測定回折角範囲(2θ):3〜40°の条件で測定した。
【0023】
本明細書において、「良好な溶出性」とは、即放性製剤と同等、或いはそれに相当するような溶出性を有すると意味する。例えば、第15改正日本薬局方−溶出試験法により溶出試験を行うとき、30分後の公知化合物Aの溶出率が60%以上であると規定する。
【0024】
本明細書において、「溶出安定性」とは、医薬組成物からの公知化合物Aの溶出性において、実質的にBAが変化しない程度であることを意味する。例えば、第15改正日本薬局方に記載の溶出試験法により溶出試験を行うとき、公知化合物Aの溶出率が保存開始時と比べ、経時的に変化が少ないと規定する。他の態様として、保存後の溶出試験開始30分後の溶出率の差が、保存前と比較して±15%以内であるときと規定する。保存条件としては、例えば40℃で2週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、または6ヶ月が挙げられる。
【0025】
本発明の固形医薬組成物は、公知化合物A、並びに、結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムを必須の構成成分とする。また、他の態様として、公知化合物A、及びL−プロリン、並びに、結晶セルロース及び/又はクロスカルメロースナトリウムを必須の構成成分とする。
【0026】
本発明の固形医薬組成物では、公知化合物Aが共結晶を形成していない。ここで、「公知化合物AがL−プロリンと共結晶を形成していない」とは、固形医薬組成物の粉末X線回折を測定した場合、共結晶に由来するピークが殆ど観測されないことを意味する。具体的には、粉末X線回折をCu Kα線 50kV, 5度/分、0度から40度の測定範囲の条件で測定した際に、回折角(2θ)8.9°、12.3°、17.4°、及び20.5°付近において特徴的なピークが認められないことと規定する。
【0027】
他の態様として、粉末X線回折をCu Kα線 50kV, 5°/min、0°から40°の測定範囲の条件で測定した際に、回折角(2θ)が9.8°、11.8°、15.1°、又は19.8°付近において公知化合物Aの結晶の特徴的なピークを認めることと規定する。更なる態様として、DSCを昇温速度20℃/分の条件で測定した際に、公知化合物A由来の145〜150℃付近に吸熱ピークを有することを意味する。更に他の態様として、DSCを昇温速度20℃/分の条件で測定した際に、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶由来の約209℃付近に吸熱ピークを示さない態様を意味する。
【0028】
本発明に用いられる公知化合物Aは、下記式(I)
【0029】
【化1】
で示され、化学名は(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール(以下、「C−グリコシド誘導体A」又は単に「公知化合物A」ということがある)である。公知化合物Aは、下記式(II)で示されるようにL−プロリンとの共結晶構造を形成することができる。
【0030】
【化2】
【0031】
該共結晶は、DSC分析で201〜213℃に吸熱ピークを有し、及び/又は粉末X線回折で2θ(°)4.14、8.98、12.4、16.5、17.5、18.7、20.5、及び21.5付近にピークを有するものである。
【0032】
公知化合物Aと公知化合物AとL−プロリンとの共結晶とは、粉末X線回折スペクトルにおける回折角(2θ(°))及び相対強度あるいはDSCスペクトルによるピーク位置等によって特徴づけることができる。
【0033】
公知化合物Aのヒトに対する臨床投与量(治療有効量)は、適用される患者の症状、体重、年令や性別等を考慮して適宜決定されるが、通常、成人1日当たり経口で0.1〜500mgであり、これを1回或いは数回に分けて投与する。投与量は種々の条件で変動するので、上記投与量範囲より少ない量で十分な場合もある。
【0034】
本発明に用いられる結晶セルロースとは、繊維性植物からパルプとして得たα−セルロースを酸で部分的に解重合し精製することによって得られるものである(第15改正日本薬局方)。そして、製薬学的に許容され、公知化合物Aの良好な溶出性、及び溶出安定性を維持できるものであれば、結晶セルロースは、その嵩密度及び平均重合度等に特に制限無く用いることができる。具体的には、セオラスPH101、セオラスPH102、セオラスPH101D、セオラスKG802、セオラスUF711、セオラスUF702、セオラスKG1000、セオラスPH301、セオラスPH301D、セオラスPH301Z、セオラスPH302、セオラスPH F20JP(何れも旭化成)、Avicel PH101、Avicel PH112、Avicel PH113、Avicel PH200、Avicel PH301、Avicel PH302、Avicel HFE−102、Avicel(何れもFMC Biopolymer)、Celex 101(International Specialty Products)、Emcocel 90M(J.Rettenmaier & Sohne)、Vivacel 12(J.Rettenmaier & Sohne)セルフィア(三栄源エフ・エフ・アイ)等が含まれる。
【0035】
結晶セルロースの形状は、粒状、針状等、特に制限されない。針状のものを粉砕して使用することもできる。結晶セルロースは他の添加剤(カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、グァーガムなど)と複合化された混合物として市販されているものを用いることも出来る。結晶セルロースの形状が粒状の場合、平均粒子径は、日本薬局方に記載されている紛体粒度測定法の第2法(ふるい分け法)で測定したとき、20〜200μmが好適である。結晶セルロースは、グレード、形状、平均粒子径等の異なるものを1種または2種以上適宜組合せて使用することができる。
【0036】
結晶セルロースの配合量は、通常公知化合物Aが良好な溶出性を示し得る量であれば特に制限されないが、例えば、本発明医薬組成物中に5重量%以上90重量%以下、他の態様として20重量%以上70重量%以下、公知化合物Aの重量に対して20重量%以上1500重量%以下、他の態様として50重量%以上1100重量%以下、更に他の態様として40重量%以上350重量%以下である。
【0037】
クロスカルメロースナトリウムは、セルロースの多価カルボキシメチルエーテル架橋物のナトリウム塩である(第15改正日本薬局方)。そして、クロスカルメロースナトリウムは、製薬学的に許容されるものであれば特に制限されない。具体的には、Ac-Di-Sol(FMCバイオポリマー社)、及びKiccolate(旭化成)等が含まれる。
【0038】
クロスカルメロースナトリウムの配合量は、通常公知化合物Aが良好な溶出性を示し得る量であれば特に制限されないが、例えば、本発明医薬組成物中に5重量%以上90重量%以下、他の態様として20重量%以上70重量%以下、公知化合物Aの重量に対して20重量%以上1500重量%以下、他の態様として50重量%以上1100重量%以下、更に他の態様として40重量%以上350重量%以下である。
【0039】
結晶セルロースとクロスカルメロースナトリウムとが一緒に用いられる場合、その合計量が、医薬組成物中5重量%以上90重量%以下、他の態様として5重量%以上70重量%以下、となるように用いられる。
【0040】
その他、本発明の固形医薬組成物には、所望によりさらに各種医薬添加剤が適宜使用される。かかる医薬添加剤としては、製薬的に許容され、かつ薬理的に許容されるものであれば特に制限されない。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、酸味料、発泡剤、人工甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、界面活性剤、コーティング剤などが使用される。
【0041】
賦形剤としては、D−マンニトール、ラクトースなどが挙げられる。
【0042】
結合剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴムなどが挙げられる。
【0043】
崩壊剤としては、例えば、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、部分α化デンプン、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0044】
酸味料としては、例えばクエン酸、酒石酸、リンゴ酸などが挙げられる。
【0045】
発泡剤としては、例えば重曹などが挙げられる。
【0046】
人工甘味料としては、例えばサッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチンなどが挙げられる。
【0047】
香料としては、例えばレモン、レモンライム、オレンジ、メントールなどが挙げられる。
【0048】
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸などが挙げられる。
【0049】
着色剤としては、例えば黄色三二酸化鉄、赤色三二酸化鉄、食用黄色4号、5号、食用赤色3号、102号、食用青色3号などが挙げられる。
【0050】
緩衝剤としては、クエン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸またはその塩類、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニンまたはその塩類、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸、ホウ酸またはその塩類などが挙げられる。
【0051】
抗酸化剤としては、例えばアスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピルなどが挙げられる。
【0052】
界面活性剤としては、例えばポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
【0053】
コーティング剤として、タルク、ポリエチレングリコール、ヒプロメロース、酸化チタンなどがあげられる。
【0054】
医薬添加剤としては、1種または2種以上組合せて適宜適量添加することができる。
【0055】
医薬添加剤の配合量は本発明の医薬組成物中、0.1〜70重量%である。
【0056】
本発明の固形医薬組成物は、(1)(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトール、並びに、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムとを混合する工程、及び、(2)得られた混合物を圧縮成形して、所望の形態とすることができる。さらに、(2)に記載の混合物を圧縮成型する工程の前に、湿式造粒し、共結晶を形成していない状態の該(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールを含む造粒物を得る工程を含むことが出来る。
【0057】
また、本発明の固形医薬組成物は、(1)(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールとL−プロリンとの共結晶と、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムとを混合する工程、及び、(2)得られた混合物を湿式造粒し、L−プロリンと共結晶を形成していない状態の(1S)−1,5−アンヒドロ−1−[3−(1−ベンゾチエン−2−イルメチル)−4−フルオロフェニル]−D−グルシトールを含む造粒物を得る工程、を含む方法によって製造することができる。さらに、得られた造粒物を圧縮成形して(工程(3))、所望の形態とすることができる。
【0058】
湿式造粒は造粒時に溶媒を添加して行う造粒方法であり、攪拌造粒法、流動層造粒法、転動造粒法及び練合造粒法等の種々の造粒法が知られている。
【0059】
上記の各種医薬添加剤が所望により使用される場合、該医薬添加剤は、(1)の工程中、(1)の工程と(2)の工程の間、(2)の工程中、及び(2)の工程と(3)の工程の間等の任意の段階で添加することができる。
【0060】
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶、セルロース誘導体、及び任意の医薬添加剤はそれぞれ、混合工程の前に粉砕工程に付し、任意の大きさに調整することができる。粉砕工程は、薬物、及び/または医薬添加剤が通常製薬学的に粉砕できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。粉砕に連続した各成分の混合工程は、通常製薬学的に各成分を均一に混合できる方法であれば、装置、手段とも特に制限されない。
【0061】
湿式造粒では、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶とセルロース誘導体との混合物に溶媒を添加して造粒が行なわれる。溶媒は、例えば、水、エタノール、メタノール、またはこれらの混合溶媒等が含まれる。溶媒には結合剤を含有していてもよい(すなわち、結合剤溶液)。溶媒(または結合剤溶液)の添加速度は、造粒の方法または製造するスケールにより異なるが、例えば、湿式造粒法により1kgスケールで製造するときは、溶媒(または結合剤溶液)は、1〜30g/分、他の態様では5〜20g/分の速度で添加することができる。また、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶とセルロース誘導体との混合物に結合剤を予め添加し、その後に溶媒を添加しながら造粒する態様も採用できる。
【0062】
湿式造粒では、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶の100重量部に対して50重量部以上400重量部以下、他の態様として80重量部以上330重量部以下の溶媒を用いることができる。
【0063】
本願発明の固形医薬組成物は、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶から製造される場合、固形医薬組成物中では、公知化合物AとL−プロリンとは共結晶を形成していない。すなわち、上記条件で湿式造粒することによって、造粒中に共結晶構造からL−プロリンが離脱することにより公知化合物Aがフリー体となり、そのフリー体の状態が維持されているものである。
【0064】
造粒中のL−プロリンの離脱を促すという点から、攪拌造粒によって造粒されることが好ましい。攪拌造粒では強いせん断力が被造粒物に与えられるが、その強いせん断力がL−プロリンの離脱を促しているものと推測される。
【0065】
上記のように調製された造粒物を、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤及びドライシロップ等の各種製剤とすることができる。ある態様では、本発明の固形医薬組成物は錠剤である。
【0066】
各種製剤は、公知の方法により製造可能である。例えば、乾燥、打錠及びフィルムコーティング等の工程を含む公知の方法により各種製剤を製造することができる。
【0067】
例えば、調製された造粒物は、任意の手段によって乾燥することができる。例えば、流動層乾燥機、マルチプレックス及び棚乾燥機等の乾燥装置を用いることができる。乾燥温度は例えば、40〜90℃である。その後、乾燥された造粒物を打錠して錠剤を製造することができる。打錠方法としては、通常製薬学的に圧縮成形物が製造される方法であれば特に限定はない。例えば、造粒物に崩壊剤及び滑沢剤等を混合して打錠する方法などが挙げられる。打錠装置としては、通常製薬学的に圧縮成形物が製造される方法であれば、装置とも特に限定されないが、例えばロータリー打錠機、単発打錠機などが挙げられる。錠剤硬度としては、例えば40〜250N、他の態様として50〜200Nである。
【0068】
打錠後に錠剤表面にフイルムコーティングをしてもよい。方法として通常製薬学的にコーティングされる方法であれば特に制限されない。例えば、パンコーティングなどが挙げられる。フイルムコーティング剤としては、通常製薬学的にコーティングされる医薬品添加物であれば特に制限されない。フイルムコーティング剤としては、1種または2種以上組合せて適宜適量添加することができる。
【0069】
コーティング率は通常錠剤表面にコーティングできれば特に制限されない。例えば、コーティング前の錠剤である素錠の重量に対して1.0重量%以上5.0重量%以下である。
【0070】
本発明の固形医薬組成物またはその医薬製剤の製造方法としては、上記記載の方法あるいは自体公知の方法を適宜組合せて、本発明の所望の効果を有する医薬製剤を製造する方法であれば特に制限されない。
【実施例】
【0071】
以下、実施例、比較例および試験例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。公知化合物AとL−プロリンとの共結晶は、は国際公開第2007/114475号パンフレットに記載の方法に従い製造したものを用いた。また、公知化合物Aは、国際公開第WO2004/080990号パンフレットに記載の方法に従い製造したものを用いた。
【0072】
<実施例1>
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶1.8g、及び結晶セルロース(製品名:セオラスPH101、旭化成製、以下同じ)1.8gを混合後、約3gの水を添加し湿式撹拌造粒を行なった(造粒装置(小型撹拌機、協立理工株式会社製)、造粒時間約1分)。得られた造粒物を乾燥(40℃、12時間)して、本発明の固形医薬組成物を調製した。
【0073】
<実施例2>
結晶セルロースに代えてクロスカルメロースナトリウム(製品名:Ac−Di−Sol、FMCバイオポリマー社製、以下同じ)1.8gを用いたことを除いて、実施例1と同様にして本発明の固形医薬組成物を調製した。
【0074】
<比較例1〜7>
結晶セルロースに代えて、D−マンニトール(製品名:Pearitol、Roquette製、以下同じ)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(製品名:TC5E、信越化学製)、ヒドロキシプロピルセルロース(製品名:HPC−L、日本曹達製)、ポリエチレングリコール(製品名:PEG6000、三洋化成製)、コポリビドン(製品名:コリドンK30、BASF社製、及び、製品名:コリドンVA64、BASF社製)、及び、ポリエチレンオキシド(製品名Polyox、製造社Dow Chemical社製)、をそれぞれ用いたことを除いて、実施例1と同様にし、比較例1〜7の固形医薬組成物を調製した。
【0075】
<試験例1>結晶性の評価
実施例1、実施例2、及び比較例1〜7で製造した固形医薬組成物について、製造直後(保存開始時)、及び40℃75%相対湿度下で1ヶ月保存後における粉末X線回折測定を行なった。
【0076】
実施例1及び実施例2の固形医薬組成物では、製造直後及び保存後において、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶に相当するピークが観測されない一方、公知化合物Aの結晶に相当する回折角(2θ)9.8°、11.8°、15.1°、19.8°にピークが観測された。実施例1の粉末X線回折図を図3に示す。したがって、実施例1及び実施例2では、造粒中に共結晶構造からL−プロリンが離脱することにより公知化合物Aがフリー体となったと考えられる。
【0077】
比較例1〜7の固形医薬組成物では、図1と同様、回折角(2θ)8.9°、12.3°、17.4°、20.5°に公知化合物AとL−プロリンとの共結晶に相当するピークが観測されたことから、公知化合物AとL−プロリンとが共結晶構造を形成していると考えられる。
【0078】
<実施例3>
表3の処方に基づいて錠剤を調製した(表中の数字は、使用された各成分の重量(mg)である)。
【0079】
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶、クロスカルメロースナトリウム、D−マンニトール、及びヒドロキシプロピルセルロース(製品名:HPC−SL、日本曹達製、以下同じ)を混合後、公知化合物AとL−プロリンとの共結晶100重量部あたり84重量部になるよう水を添加し湿式攪拌造粒を行なった(造粒装置(小型撹拌機、協立理工株式会社製)、造粒時間約2分)。得られた造粒物を乾燥(40℃、12時間)し、ステアリン酸マグネシウムを混合し打錠して、本発明の固形医薬組成物を得た(杵径:9.5mm)。
【0080】
<比較例8>
表3の処方に基づいて錠剤を調製した。
【0081】
クロスカルメロースナトリウムに代えて低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)(製品名:LH−11、信越化学製)を用いたことを除いて、実施例3と同様にして比較例の固形医薬組成物を調製した。
【0082】
<比較例9>
表3の処方に基づいて錠剤を調製した。
【0083】
クロスカルメロースナトリウムに代えてクロスポビドン(物質名:KollidonCL、BASFジャパン社製)を用いたことを除いて、実施例3と同様にして比較例の固形医薬組成物を調製した。
【0084】
【表3】
【0085】
<試験例2>溶出性の評価
実施例3、比較例8、及び比較例9の固形医薬組成物について、製剤の製造直後における錠剤の溶出試験を行った。溶出試験は、第15改正日本薬局方に記載のパドル法により行った。試験液は溶出試験第1液900mL(0.1Nの塩酸)とした。パドルの回転数は50回転/分とした。試験開始後30分における公知化合物Aの溶出率を表4に示す。また、溶出プロファイルを図4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
<実施例4>
表5の処方に基づいて錠剤を調製した(表中の数字は、使用された各成分の重量(mg)である)。
【0088】
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースを攪拌造粒機(VG01、パウレック社製)に投入し、水を噴霧しながら攪拌造粒を行なった。得られた造粒物を乾燥(40℃、12時間)し、篩目開き710μmの篩を用いて篩過し整粒して、顆粒を得た。顆粒にステアリン酸マグネシウムを混合し、打錠し本発明の固形医薬組成物を得た。
【0089】
<比較例10>
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶、D−マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを用いて、実施例4と同様にして比較例の固形医薬組成物を得た。
【0090】
【表5】
【0091】
<試験例3>溶出性の評価
実施例4、及び比較例10の固形医薬組成物について、試験例2と同様に、製造直後(initial)における錠剤の溶出試験を行った。溶出プロファイルを図5に示す。また、実施例4については、40℃で2週間静置後(40℃2W)の溶出プロファイルを示す。
【0092】
<実施例5>
表6の処方に基づいて固形医薬組成物を調製した(表中の数字は、使用された各成分の重量(mg)である)。
【0093】
公知化合物AとL−プロリンとの共結晶、クロスカルメロースナトリウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びステアリン酸マグネシウムを混合後、約290gの水を添加し撹拌造粒を行なった(造粒装置(VG05、パウレック社製)、造粒時間12分)。得られた造粒物を乾燥機で乾燥(約60℃、約1時間)し、ロータリー式打錠機で成形し、次いで、フィルムコーティング剤(OPADRY、カラコン社製)でコーティングして本発明の固形医薬組成物を調製した。
【0094】
【表6】
【0095】
<試験例4>溶出性、及び溶出安定性の評価
実施例5で製造した固形医薬組成物について、製造直後、及び、保存後(40℃で1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月)における組成物の溶出試験を試験例2と同様に行なった。結果を表7に示す。
【0096】
【表7】
【0097】
<試験例5>イヌ経口投与試験
実施例5で製造した固形医薬組成物、及びメチルセルロース懸濁液(組成:0.5%メチルセルロース水溶液10mLに公知化合物AとL−プロリンとの共結晶128.5mgを懸濁させた液)をイヌに経口投与(N=6)し、公知化合物Aの血しょう中濃度を経時的に測定して、吸収性を評価した。結果を図6に示す(図中、「Tab」は固形医薬組成物の吸収性を示し、「MCsus」はメチルセルロース懸濁液の吸収性を示す)。
【0098】
その結果、実施例5の固形医薬組成物のAUCは、メチルセルロース懸濁液のAUCと比して121%であった。従って、本発明の固形医薬組成物は、in vivo試験においても、良好な吸収性を示すことが示された。
【0099】
試験例2〜5より理解されるように、公知化合物A、及びL−プロリン、並びに、結晶セルロース及び/またはクロスカルメロースナトリウムを含有し、公知化合物AとL−プロリンとが共結晶を形成していない固形医薬組成物は、良好な溶出性及び溶出安定性を示した。公知化合物AはOH基による水素結合によりL−プロリンと共結晶構造をとっていると考えられることから、公知化合物AとL−プロリン間の水素結合の形成が阻害されることにより公知化合物Aがフリー体が維持されると推測する。
【0100】
<実施例6>
表8の処方に基づいて錠剤を調製した(表中の数字は、使用された各成分の重量(mg)である)。
【0101】
公知化合物A、結晶セルロース及びクロスカルメロースナトリウムを混合後、単発打錠機で成形し、本発明の錠剤を調製した。
【0102】
【表8】
【0103】
<試験例6>溶出性の評価
実施例6で製造した錠剤について、製造直後における組成物の溶出試験を試験例2と同様に行なった。試験結果を図7に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7