(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063391
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】撥水特性を繊維状物質に与える方法および得られた疎水性物質
(51)【国際特許分類】
D06M 15/263 20060101AFI20170106BHJP
D06M 23/08 20060101ALI20170106BHJP
D06M 15/256 20060101ALI20170106BHJP
D06M 13/02 20060101ALI20170106BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20170106BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20170106BHJP
D21H 21/16 20060101ALI20170106BHJP
D21H 19/58 20060101ALI20170106BHJP
D21H 19/44 20060101ALI20170106BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20170106BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20170106BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20170106BHJP
D06M 101/06 20060101ALN20170106BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
D06M15/263
D06M23/08
D06M15/256
D06M13/02
D06M15/227
D06M15/643
D21H21/16
D21H19/58
D21H19/44
C09D133/14
C09D7/12
C09K3/18 101
D06M101:06
D06M101:32
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-545617(P2013-545617)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(65)【公表番号】特表2014-506963(P2014-506963A)
(43)【公表日】2014年3月20日
(86)【国際出願番号】IB2011055904
(87)【国際公開番号】WO2012085879
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年12月9日
(31)【優先権主張番号】TO2010A001040
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510121547
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ・イスティトゥート・イタリアーノ・ディ・テクノロジャ
【氏名又は名称原語表記】FONDAZIONE ISTITUTO ITALIANO DI TECNOLOGIA
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・チンゴラーニ
(72)【発明者】
【氏名】アタナシア・アタナシオウ
(72)【発明者】
【氏名】イルケル・バイエル
【審査官】
佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−006276(JP,A)
【文献】
特表2008−540158(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/158046(WO,A1)
【文献】
特開平01−183581(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/059833(WO,A1)
【文献】
特表2010−527321(JP,A)
【文献】
特開2005−113110(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0026662(US,A1)
【文献】
特表2008−533316(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0245500(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
C09D 7/12
C09D 133/14
C09K 3/18
D06M 23/08
D21H 19/44
D21H 19/58
D21H 21/16
D06M 101/06
D06M 101/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状物質を疎水性および/または撥水性にするための該物質の処理方法であって、該物質を、5:1〜2:1のシアノアクリレートモノマーと疎水性物質との間の重量比で有機溶媒中の疎水性物質のナノ粒子およびシアノアクリレートを含む懸濁液に含浸させ、シアノアクリレートの架橋を引き起こす操作を含み、該懸濁液中のシアノアクリレートの濃度および該ナノ粒子に対するその重量比が、該ナノ粒子が分散された架橋シアノアクリレートのマトリックスで繊維状物質を全体または部分的にコーティングを生成するものであり、
該疎水性物質が、フッ素化ポリマー、天然または合成ワックス、α−オレフィンまたはシクロオレフィンのポリマーまたは共重合体およびポリメチルシロキサンのポリマーから選択されることを特徴とする該処理方法。
【請求項2】
該シアノアクリレートが、アルキルが1〜8個の炭素原子であるアルキルシアノアクリレート、または該アルキルシアノアクリレートの混合物であることを特徴とする請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
該疎水性物質が、カルナバろう、パラフィンワックス、みつろう、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスおよびフィッシャー−トロプシュワックスから選択されるワックスであることを特徴とする請求項1または2記載の処理方法。
【請求項4】
該疎水性物質が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1または2記載の処理方法。
【請求項5】
該繊維状物質が、セルロース繊維またはセルロース誘導体繊維、天然または合成ポリエステル繊維およびその混合物を含む請求項1〜4のいずれか1記載の処理方法。
【請求項6】
該繊維状物質が、セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート繊維およびその混合物から選択される繊維を含むことを特徴とする請求項5記載の処理方法。
【請求項7】
該懸濁液が、懸濁液の重量に基づいて、1重量%〜15重量%の濃度でアルキルシアノアクリレートモノマーまたは該モノマーの混合物を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1記載の処理方法。
【請求項8】
該懸濁液が、懸濁液の重量に基づいて、3重量%〜8重量%の濃度でアルキルシアノアクリレートモノマーまたは該モノマーの混合物を含むことを特徴とする請求項7記載の処理方法。
【請求項9】
該有機溶媒が、アセトン、クロロホルムおよびミネラルオイルよりなる群から選択される請求項1〜8のいずれか1記載の処理方法。
【請求項10】
該懸濁液が、該懸濁液に物質を浸漬し、スプレー、ローリング、または溶液キャスティングもしくはスプレーキャスティングの技術により繊維状物質に付与されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1記載の処理方法。
【請求項11】
85℃を超えない温度での溶媒の蒸発によって、該懸濁液で処理された繊維状物質から溶媒を取り除く操作を含む請求項1〜10のいずれか1記載の処理方法。
【請求項12】
該シアノアクリレートの架橋が、溶媒の除去後にかかる懸濁液で処理した繊維状物質を、85℃を超えない温度での所望による加熱処理で、30%を超えて60%以下の相対湿度を有する環境に曝露することにより、含浸することを特徴とする請求項1〜11のいずれか1記載の処理方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の処理方法によって得られる疎水性ナノ粒子を含む架橋シアノアクリレートのマトリックスを含む、全体または部分的なコーティングまたはシェルを持つ天然または合成繊維を含む繊維状物質。
【請求項14】
該疎水性物質が、ポリテトラフルオロエチレン、天然および合成ワックス、α−オレフィンまたはシクロオレフィンのポリマーまたは共重合体およびポリジメチルシロキサンのポリマーよりなる群から選択される請求項13記載の繊維状物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状物質に耐水性、疎水性および撥水性の特性を与える方法、および特に、より良好な耐火特性のごとき他の特性と一緒に前記特性を有する繊維状物質および加工品(finished article)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、機能的で、環境上持続可能な製品を得るための繊維状物質の処理方法に関心がかなり高まっている。
【0003】
多数のアプリケーション、特に、包装において、疎水性でかつ自己浄化性である物質が必要とされている。これらの特性ならびに耐炎性を増加させるのに使用された従来技術は、経済的条件において高価で、表面改質のために、時間消費であるプロセスを考え、例えば、有機成分(例えば、マレイン酸または無水コハク酸)とのセルロースの反応、および表面バリヤコーティングの適用を考え、それらはしばしば無機物質(例えば、金属)および重合方法の使用を含む。
【0004】
一般的に、これらの処理のすべてが、非生物分解性成分、例えば、金属またはセラミック物質の使用を含むか、または大規模産業生産に適さない長い生産段階を必要とする。
【0005】
製紙産業において、疎水性紙を調製するのに最も広く用いられる技術は、紙サイジング段階のアルキルケテン(AKT)ダイマーの使用である。
【0006】
「Cellulose」 (2010) 17:187-198におけるWernerらによる研究は、ケテンダイマーの使用で超疎水性紙を得るための技術、すなわち、a)有機溶媒からのケテンダイマーの粒子の結晶化、b)凍結粉末化されたケテンダイマーの粒子でのエアージェットおよびc)RESS(超臨界流体急速膨張法)技術を用いてスプレーする技術に関連する最近の発達を報告する。
【0007】
GB2469181A1は、天然セルロース繊維のセルロースと脂肪族または芳香族の無水物との反応の結果として疎水性にされた天然セルロース繊維を記載する。
【0008】
「Cellulose」(2010年9月18日にオンラインで公表されたDOI 10.1007 /s 10570-010-9451-5)においてBiongiovanniらは、セルロース基材上でのフッ素化アクリルモノマーのUV照射誘導移植により、疎水性で、疎油性(oleophobic)で、非粘着性とされた紙シートを得る方法を記載する。紙試料は、フッ素化アクリルモノマーおよび光重合開始剤を含むアセトンの溶液に浸漬される。含浸後、紙はUV放射で処理され、溶媒はSoxhlet抽出器中で抽出される。
【0009】
また、WO2007/040493は、繊維基材、特に、紙の処理方法を記載し、それらをシリカまたはアルミナのナノフィラー、α−ヒドロキシケトンを含む光重合開始剤、少なくとも1つの単官能アクリレートモノマー、オリゴマー用希釈剤および架橋可能なシリコーンアクリルレートに基づいた界面活性剤を含む組成物で疎水性にする。この組成物は、例えば、紙のスプレーまたは浸漬により紙に付与し、その含浸紙は、加熱または化学線への曝露によって硬化に付される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、簡単かつ経済的であり、耐水性になった繊維状物質を得ることを可能にする、繊維状物質の処理方法を提供することである。
【0011】
本発明の特定の目的は、生物分解性でかつ生物学的適合性であるナノ複合物質を用いて前記の結果を達成する方法を提供することである。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、繊維基材に付与されたナノ複合物質の濃度を要件によって調節することにより、処理される物質の耐水性を容易にコントロールすることを可能にする方法を提供することである。
【0013】
本発明のもう一つの目的は、繊維基材において、特に、疎水性、耐炎性、耐火特性、自己浄化および撥水性の特性を含めた分離している特性、ならびにある種の基材、例えば、紙についての機械的特性の強化を達成することを得ることを可能にする方法を提供することである。
【0014】
これらの目的に徴して、本発明は、以下の所与の特許請求の範囲に規定された方法に関し、その原文は、本願明細書の技術的教示に不可欠な部分と見なされるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、本発明による方法により得ることができる繊維状物質、ならびに本発明の方法によって処理された繊維状物質で構成されたかまたはそれを含む加工品に関する。
【0016】
本発明による方法は、それらが天然または合成であるか、または天然または合成の繊維の混合物であるかにかかわらず、好ましくは、親水性性質のすべての繊維または多孔質物質に適用可能である。特に、その方法は、セルロースやセルロース誘導体、例えば、硝酸セルロース、酢酸セルロースの繊維、ならびにポリ乳酸の繊維、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートの繊維を含むすべてのタイプの合成および天然のポリエステル繊維を含めたポリエステル繊維に適用され、それらについて、ポリエステル繊維とセルロースまたはセルロース誘導体の繊維との混合を含めて、撥水性特性を増加させることが望ましい。
【0017】
繊維の直径および長さについて特定の制限はなく;特に、直径は、5μm〜100μmの間で、好ましくは、5μm〜約20μmの間で変更でき;長さは、典型的には500μm〜10cmの間、特に、1000μm〜5cmの間にあることができる。
【0018】
繊維状物質は、チョップド繊維の粗紡糸(roving)、フェルトまたはマット、不織布、所望のニードルパンチされたフェルトの形態であることができる。また、その方法は、織布、不織布、紙、フェルト、フィルター等のごとき加工品に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1a】
図1aは、光学顕微鏡で得られた写真であり、紙についての未処理の水吸収繊維の形態学を示す;
【
図1b】
図1bは、バイオナノ複合物質を含浸させた紙の光学顕微鏡で得られた写真であり、ここに、生体高分子は水中での浸漬により架橋され;画像中の暗いコントラストを持つ領域は、水中の迅速な架橋後のシアノアクリレートポリマーの小滴を示す;
【
図1c】
図1cは、光学顕微鏡で得られた写真であり、生体高分子の架橋による繊維表面に結合した、μmサイズ未満のポリテトラフルオロエチレン粒子を示し;この場合、生体高分子は周囲条件において徐々に架橋される;
【
図2a】
図2aは、ナノバイオ複合物質での浸漬により撥水性になったゼロックス紙上のレーザージェット印刷したパターンの写真であり;バイオナノ複合物質は実際に目に見えず、レーザーインクジェット印刷プロセスに影響しない;
【
図2b】
図2bは、室温の水浴に浸漬した
図2aに示した紙の写真であり;ナノバイオ複合物質を含浸させた領域は、矢印で示された領域の中心に白色コントラストとして見ることができ;約5分間浸漬後に、未処理領域は、水中で崩壊し始める;
【
図2c】
図2cは、水浴から取り出した後の前記紙の頂部に配置された紙ナプキンの写真である;ナプキンの乾燥した中央領域は、基底のバイオナノ複合物質を含浸させた紙に対応する;
【
図2d】
図2dは、その紙の裏面の写真であり、処理された領域は、無傷のままである唯一の領域であることが分かる
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による方法は以下の工程:
1.有機溶媒に分散した疎水性ナノフィラーおよび少なくとも1つのシアノアクリレートモノマーを含む懸濁液の調製;
2.繊維状物質に対する懸濁液の付与;および
3.そのように処理された繊維状物質からの溶媒の除去およびシアノアクリレートモノマーの架橋(「硬化」)
を含む。
【0021】
「ナノ粒子」なる用語は、一般的に1μm未満の粒子を意味し;好ましくは200nm未満の粒子が用いられ;ナノ粒子に用いた物質は、好ましくは、フッ素化ポリマー、特に、ポリテトラフルオロエチレン、天然および合成ワックス、例えば、カルナバろう、パラフィンワックス、みつろう、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、ならびにα−オレフィンまたはシクロオレフィンのポリマーおよび共重合体(特に、COCを含む)、および重シリコーン油、例えば、ポリジメチルシロキサンのポリマーから好ましくは選択される疎水性物質であり;もちろん、異なる化学的性質のナノ粒子の混合物を用いることができる。
【0022】
シアノアクリレートモノマー(群)は、特に、メチル−、エチル−、ブチル−およびオクチル−シアノアクリレートのごとき、好ましくは、アルキル基が1〜8個の炭素原子を有するアルキルシアノアクリレートを含む。これらのモノマーは、微量の水に対してさえの曝露の結果、より詳しくは、吸着されたイオンとして多数の表面で天然に存在するヒドロキシルイオンに対する曝露の結果として、求核性の重合機序により迅速に重合できる。重合の生成物は、モノマーの生分解性特性を維持する。
【0023】
有機溶媒は懸濁液のビヒクルとして機能し、その選択は特には非常に重要ではない。疎水性物質の安定したコロイド分散が得られることを可能にするいずれの有機溶媒も用いることができる。特に、アセトン、クロロホルムおよびミネラルオイル(ストッダード溶媒)のごとき低沸点の非水性で極性または非極性の溶媒が好ましい。炭化水素に基づいた溶媒は、ワックスベースのナノ粒子に関して好ましい。
【0024】
好ましくは、懸濁液中のシアノアクリレートモノマー(群)の濃度は、1〜15重量%であり、3〜8重量%のオーダーの濃度、特に、約5%重量%の濃度が特に好ましい。
【0025】
本発明による方法の有利な特徴は、シアノアクリレートモノマーとナノフィラーとの間の重量比を調節により、処理された繊維状物質において達成された疎水性の特性をコントロールすることができることである。20:1〜1:3、好ましくは5:1〜2:1のシアノアクリレートモノマーと疎水性物質との間の重量比を一般的に用いる。
【0026】
ワックスを用いる場合には、これらは別々の溶液で事前に乳化でき、次いで、所望の濃度でシアノアクリレート分散液と混合できる。このように、ワックス粒子は、繊維マトリックスの内部で、イン・サイチュ(in situ)架橋から生じるシアノアクリレートポリマーに被包されるようになる。これは、例えば、より高温への曝露の結果として繊維状物質からのナノ粒子の流出を防止し、最終的に処理された繊維状物質の耐用年数を増加できるので、特に重要である。懸濁液の処方には、界面活性剤または表面キャッピング(capping)剤の使用を必要としない;しかしながら、前記の剤の使用が本発明による方法の範囲内にあると理解されるべきである。
【0027】
このように調製された懸濁液は、種々の従来技術を用いて、例えば、ディッピング(dipping)、スプレー、ロールまたは溶液キャスティングもしくはスプレーキャスティングにより繊維状物質に付与できる。
【0028】
含浸後に溶媒の除去段階に続き、この除去段階は、一般的には80℃以下の温度までの加熱により、室温にて達成することができる。
【0029】
溶媒の蒸発後に開始するモノマーの架橋は、雰囲気湿度への曝露により触媒される。かくして、架橋は、30%を超える相対湿度の存在下、好ましくは室温で達成される。室温および約60%の相対湿度の条件が、架橋に理想的であると分かり;これらの条件において、架橋時間は一般的に6〜8時間である。しかしながら、架橋時間は、高温、好ましくは、60℃〜85℃にて加熱することにより、促進できる。さらに、架橋は水中に繊維状物質を浸漬することにより促進できる。
【0030】
この方法から生じた製品は、天然または合成の繊維のコアを含む疎水性複合繊維よりなり、シアノアクリレートエステルの全体または部分的なコーティングまたはシェルを提供し、ここに、ナノ粒子は架橋されたシアノアクリレートのマトリックスに埋め込まれるかまたは被包される。
【0031】
コーティング物質は、バイオ複合物質またはナノバイオ複合物質として以下に設計され、半浸透システムと定義でき、ここに、ナノ粒子(特に、ワックスおよびポリテトラフルオロエチレン)は、シアノアクリレートの架橋マトリックス中に効率的に分散している。
【0032】
本発明による方法の特定の適用は、紙または織布もしくは不織布の含浸に関連する。
【0033】
以下の例は、紙および織布に対する方法の適用を示す。
【実施例】
【0034】
実施例1−シアノアクリレートモノマー/ポリテトラフルオロエチレンのコロイド分散液の調製
1μm未満、特に、200nm未満の粒子サイズを持つポリテトラフルオロエチレンを用いた。受け取ったポリテトラフルオロエチレン粉末を無水形態で軽く集めた。典型的な手順において、ポリテトラフルオロエチレン粒子をクロロホルムまたはアセトンに分散させ、界面活性剤または分散剤を添加することなく、室温で30分間超音波処理した。音波処理後、ポリテトラフルオロエチレン懸濁液は安定であり、大きな凝集体は溶液中に存在しなかった。エチルシアノアクリレートモノマーは、モノマーの所望の濃度に達するまで、すなわち、5重量%の濃度まで、この溶液に徐々に滴下した。
【0035】
その懸濁液を室温にて30分間再び超音波処理し;所望により、最終溶液を蒸発の適用および所望の速度の蒸発に依存して、アセトン、クロロホルムおよびミネラルオイル(ストッダード溶媒)のごとき溶媒でさらに希釈できる。モノマー/ポリテトラフルオロエチレン懸濁液の疎水性の度合は、懸濁液中のそのモノマー/ポリテトラフルオロエチレン比に依存する。繊維状物質を高度に撥水性とさせる目的で、2:1に等しいモノマー/ポリテトラフルオロエチレン比が、合計固形分が10重量%である分散液において十分であることが判明した。
【0036】
実施例2−シアノアクリレートモノマー/ワックスのコロイド分散液の調製
パラフィンワックスまたは市販のパラフィルム(Sigma-Aldrich)をクロロホルム、トルエンまたはストッダード溶媒に分散させた。ワックスまたはパラフィルムは、溶媒に直ぐには溶解せず、完全溶解は一週間後にさえ可能ではなかった。完全に溶媒中にワックスまたはパラフィルムを分散させるために、調製の2日後にその溶液を90℃で15分間加熱し、連続的に撹拌した。溶液を室温に冷却した後、ワックスまたはパラフィルムを完全に前記の溶媒に分散させた。
【0037】
エチルシアノアクリレート(ECA)モノマーは、前記の溶媒の各々に別々に分散させた。ワックスおよびECAの分散液を混合し、混合物を室温にて30分間超音波処理した。最終混合物は非常に安定であり、相分離は混合溶液の調製の1週間後に観察されなかった。ワックスおよびECAをいずれの割合でも混合でき、これは、得られる複合物質の疎水性をコントロールすることを可能にする。2:1のECA/ワックスの重量比が、超撥水性(撥水性)の織布、特に、綿に基づくものを調製するのに十分であることが判明した。
【0038】
ゴムベースの樹脂と比較して、ECA/パラフィンワックス複合物質および架橋ECAの双方が、比較的もろいことが知られている。より大きな柔軟性を導入するために、適用または所望の性状に依存して、パラフィンワックスに代えて、パラフィンワックスおよびポリオレフィン樹脂の混合物であるパラフィルムを用いることが可能である。
【0039】
実施例3−疎水性紙の製造
疎水性でかつ撥水性の紙を前記のごとく、ゼロックス写真複写紙をECA/ワックス混合物に含浸させることにより得た。含浸は、2:1に等しいECA/ワックスまたはパラフィルムの比を持つ固体の5%分散液を用いて行った。含浸は、浸漬コーティング、溶液キャスティングまたはスプレーキャスティングの技術により行った。溶媒は室温で蒸発させた。溶媒の蒸発後、ECAはイン・サイチュにて架橋を開始し、ワックスのいくらかを被包し、同時に繊維をコーティングする。
【0040】
雰囲気条件において、ECAの架橋に約7時間かかった。プロセスの終わりに、紙の外観、厚みおよび色の変化を見ることができなかった。紙の処理領域で測定した接触角は、平均110°であり、良好な疎水性の度合を示した。印字品質の損失なくして、レーザージェットプリンターを用いて、紙を印刷できた(
図2a〜2dにおける試験ご参照)。
【0041】
実施例4−超撥水性紙または織布の調製
超疎水性紙または超疎水性織布は、5重量%の合計固形分濃度で、2:1の比のECA/ポリテトラフルオロエチレンの分散液をスプレーコーティングすることにより得た。
【0042】
また、ECA/ポリテトラフルオロエチレン分散液をPaascheエアブラシで紙および織布をスプレーコーティングするために用いた。雰囲気条件下で架橋後、処理した紙または織布の接触角は、160°の値を超えた。コーティングした表面は、室温での2週間の曝露後でさえ非常に安定であった。また、その方法を低密度濾紙、例えば、レンズクリーニング用の紙に適用し、超疎水性にした。
【0043】
また、撥水性の度合をさらに増加させる目的で、例えば、懸濁液中に浸漬することによる紙の含浸により第1の段階の付与を行い、次いで、完全な架橋後に、例えば、スプレーキャスティングによるナノ懸濁液の第2の段階の付与を行うことにより、いくつかの連続段階でナノ懸濁液を付与することができることが判明した。
【0044】
かくして、本発明は、市販の繊維物質および加工品を撥水性にするための簡単かつ経済的な方法を提供し、撥水性の不織布物質またはパッケージング物質の複雑な製造方法を回避する。
【0045】
本発明による方法において、バイオナノ複合コーティング物質は、触媒としての雰囲気湿度を用いるイン・サイチュ架橋により繊維マトリックス内に形成され;したがって、その方法は、熱架橋または紫外線での架橋のための高価な技術を必要としない。
【0046】
この方法は、撥水性ナノ複合物資が液体形態で繊維マトリックスに導入および含浸されるために、実験室規模から産業規模まで容易に移行できる。
【0047】
さらに、前処理工程は、その方法が適用される基材に必要とされず;方法が、出発物質として低粘性液体分散液または懸濁液を用いるので、前記分散液または懸濁液での繊維表面の簡単な湿潤による繊維表面の有効なコーティングを達成することが可能である。
【0048】
疎水性物質の選択に依存して、ナノ複合コーティング物質は、完全に生物分解性であることができる。
【0049】
湿潤によってイン・サイチュにて触媒された架橋によりナノ複合物質コーティングを形成することができるために、ナノ複合物質は、繊維状物質、特に、セルロース、ポリエステル、綿、また、環境上または雰囲気水分に天然に曝露されたポリアミド繊維のごとき合成物質に優れた付着を有する。