(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような制御に当たっては、ばね上部材の振動を抑制するについても、ばね下部材の振動を抑制するについても、ばね上部材の速度或いはばね下部材の速度に依存した制御を行っている。ここで、たとえば、
図2に示すように、物体MをばねSで支持した系を考えると、物体Mが図中で上下方向に振動する場合、速度が最大となるのは物体Mの振動中心であり、物体Mが最大振幅位置にある場合、速度は0となる。したがって、単純に、速度のみを検知して振動を制御しようとする場合、振動の大きさに無関係にダンパやアクチュエータに力を発生させることになるので、振動抑制を効果的に行うことができない場合がある。
【0006】
したがって、振動の大きさを検知したいのであるが、振動の大きさを検知するには、たとえば、検知した加速度や速度の波高を求める、つまり、振動の振幅を求める方法があるが、これでは、検知対象である物体が少なくとも一周期の振動を行うまでは振動の大きさを検知することができないので、タイムリーに振動の大きさを検知することができず、実際に、車両などの振動を抑制する制御への使用に耐えない。そのため、車両などの振動抑制制御に当たっては、振動の大きさを検知することなく、振動の加速度や速度に基づいた制御を行っているのが現状である。
【0007】
そこで、本発明は、上記した問題を解決すべく創案されたものであって、その目的とするところは、物体の振動の大きさをタイムリーかつリアルタイムに検知することが可能な振動レベル検知方法及び振動レベル検知装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段における振動レベル検知方法は、車両のばね上部材の任意部位の振動の大きさである振動レベルを検知する振動レベル検知方法であって、上記任意部位の
ローリング方向、ピッチング方向およびバウンス方向の三方向の振動方向の変位を第一参照値として上記変位の積分値に相当する値を第二参照値とするか、上記任意部位の
上記三方向の振動方向の速度を第一参照値として上記速度の微分値に相当する値を第二参照値とするか、或いは、上記任意部位の
上記三方向の振動方向の加速度を第一参照値として上記加速度の微分値または積分値に相当する値を第二参照値とし、上記第二参照値が上記第一参照値の積分値に相当する場合には検知したい振動の角周波数値を上記第二参照値に乗じ、上記第二参照値が上記第一参照値の微分値に相当する場合には上記角周波数値で上記第二参照値を除して補正し、補正後の上記第一参照値と上記第二参照値とを直交座標に取った際の上記第一参照値と上記第二参照値の合成ベクトルの長さを認識可能な値から上記ばね上部材の任意部位におけるローリング方向の振動レベルとピッチング方向の振動レベルとバウンス方向の振動レベルを個々に求め、これらを加算して上記ばね上部材の全体の上記振動レベルを求める。
【0009】
また、本発明の課題解決手段における振動レベル検知装置は、車両のばね上部材の任意部位の振動の大きさである振動レベルを検知する振動レベル検知装置であって
、上記任意部位の
ローリング方向、ピッチング方向およびバウンス方向の三方向の振動方向の
少なくとも変位、速度、加速度の一つを第一参照値として得る第一参照値取得部と、上記第一参照値が上記変位である場合には上記変位の積分値に相当する値を第二参照値とし、上記第一参照値が上記速度である場合には上記速度の微分値に相当する値を第二参照値とし、上記第一参照値が上記加速度である場合には上記加速度の微分値または積分値に相当する値を第二参照値として得る第二参照値取得部と、上記第二参照値が上記第一参照値の積分値に相当する場合には検知したい振動の角周波数値を上記第二参照値に乗じ、上記第二参照値が上記第一参照値の微分値に相当する場合には上記角周波数値で上記第二参照値を除して補正する補正部と、補正後の上記第一参照値と上記第二参照値とを直交座標に取った際の上記第一参照値と上記第二参照値の合成ベクトルの長さを認識可能な値から上記ばね上部材の任意部位におけるローリング方向の振動レベルとピッチング方向の振動レベルとバウンス方向の振動レベルを個々に求め、これらを加算して上記ばね上部材の全体の振動レベルを求める振動レベル取得部とを備える。
【0010】
したがって、たとえば、速度と加速度などの値から直ちに振動レベルを得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の振動レベル検知方法及び振動レベル検知装置によれば、
ばね上部材の全体の振動の大きさをタイムリーかつリアルタイムに検知することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1に示すように、振動レベル検知装置1は、物体Mの任意部位の振動の大きさである振動レベルを検知する装置であって、この実施の形態の場合、物体Mの当該任意部位の検知したい振動方向の速度を得る第一参照値取得部2と、当該第一参照値取得部2で得た値を第一参照値aとして当該第一参照値aの微分値或いは積分値に相当する第二参照値bを得る第二参照値取得部3と、上記第一参照値aと上記第二参照値bとに基づいて振動レベルrを求める振動レベル取得部4とを備えている。
【0014】
物体Mは、
図2に示したように、ベースTに鉛直に取り付けたばねSによって図中下方から弾性支持されるばねマス系を構成しており、この場合、振動レベル検知装置1は、物体Mの全体における
図2中上下方向の振動レベルを検知するようになっている。つまり、上記任意部位とは、物体Mの全体であっても一部分であってもよく、任意に決めることができ、物体Mが大きく複数のばねSで支持されているような場合には、物体Mの振動状況が部分的に異なるような場合には、それに応じて検知したい部位の振動レベルを検知することができる。
【0015】
第一参照値取得部2は、物体Mに取り付けられて物体Mの上下方向加速度を検出する加速度検出器5と、加速度検出器5で検出した上下方向加速度を積分して物体Mの上下方向速度を得る積分器6とを備えて構成されている。このように、第一参照値取得部2は、第一参照値aとして物体Mの上下方向の速度を得るようになっている。
【0016】
次に、第二参照値取得部3は、第一参照値aの積分値に相当する物体Mの上下方向の変位を得るようになっており、第一参照値aを積分する積分器7を備えていて、第二参照値bとして物体Mの上下方向の変位を得る。なお、第二参照値取得部3が第一参照値aの微分値相当の値を得るように設定される場合、つまり、物体Mの上下方向の加速度を得るように設定される場合、第一参照値取得部2における加速度検出器5から当該上下方向の加速度を得て、これを第二参照値bとしてもよいし、微分器を備えて第一参照値aを微分して第二参照値bを得るようにしてもよい。
【0017】
また、この実施の形態では、検知したい物体Mの振動レベルのうち任意の周波数帯の振動レベルを検知することができるよう第一参照値aと第二参照値bから検知したい周波数成分を抽出できるようになっている。具体的には、フィルタ8を備えていて、このフィルタ8で第一参照値aと第二参照値bを濾波することで第一参照値aと第二参照値bの検知したい周波数成分を得る。基本的には、物体MとばねSのばねマス系の固有振動数をフィルタ8で抽出する周波数とすると、物体Mのスペクトル密度の高い振動を抽出することができる。なお、フィルタ8は、特に評価したい周波数帯の振動を抽出でき物体Mの振動に重畳されるノイズなどを除去できるので有用であるが、たとえば、物体Mが単一の周期で振動するような場合には、省略することも可能である。
【0018】
ところで、物体Mの任意の周波数の振動は正弦波で表すことができる。また、物体Mの速度である第一参照値aの任意の周波数成分は正弦波で表すことができる。たとえば、第一参照値aの任意の周波数成分をsinωt(ωは角周波数、tは時間)で表す場合、これを積分すると−(1/ω)cosωtとなり、第一参照値aの振幅とこの積分値の振幅とを比較すると、積分値の振幅は第一参照値aのω分の1倍となる。
【0019】
したがって、第二参照値bが第一参照値aの積分値相当である場合には、フィルタ8で抽出する周波数に一致する角周波数ωを用いて、第一参照値aの積分値相当にω倍することで、第一参照値aと第二参照値bとの振幅を等しくすることができる。
【0020】
また、第二参照値bが第一参照値aの微分値相当である場合には、1/ω倍することで第一参照値aと第二参照値bとの振幅を等しくすることができる。このように、第一参照値aと第二参照値bの振幅を同じとするために、この振動レベル検知装置1にあっては、補正部9を備えており、補正部9は、第二参照値bが第一参照値aの積分値相当である場合には、検知対象となる振動の角周波数ωを用いて、ω倍することで第二参照値bを補正し、第二参照値bが第一参照値aの微分値相当である場合には、1/ω倍することで第二参照値bを補正する。
【0021】
つづいて、振動レベル取得部4は、このように処理された第一参照値aと第二参照値bを
図3に示すように直交座標にとった際の第一参照値aと第二参照値bの合成ベクトルUの長さを演算し、これを振動レベルrとして求める。なお、合成ベクトルUの長さは、(a
2+b
2)
1/2で演算することができるが、ルート演算を省いて(a
2+b
2)、つまり、合成ベクトルUの長さの二乗の値を演算することで合成ベクトルUの長さを判断可能な値を求めてこれを振動レベルrとしてもよい。そうすることで、負荷の高いルート演算を回避することができ、演算時間を短縮することができる。また、直接に合成ベクトルUの長さとは一致しないものの、合成ベクトルUの長さをz乗(zは任意の値)した値や当該長さに任意の係数を乗じた値は、合成ベクトルUの長さを認識可能な値であって、このような値を振動レベルとしてもよいことは勿論である。すなわち、合成ベクトルUの長さを認識可能な値を振動レベルrとすればよい。
【0022】
ここで、ベースTを上下動させて物体Mに振動を与えたり、物体Mに変位を与えて解放したりして物体Mに振動を与えると、ばねSが伸縮してばねSの弾性エネルギと物体Mの運動エネルギとが交互に変換されるため、何ら外乱がない場合には、物体Mの中立位置からの変位が最大となる物体Mの速度が0となり、物体Mが中立位置にあるときに物体Mの速度が最大となる。なお、中立位置とは、物体MがばねSによって弾性支持され静止状態にあるときの位置である。
【0023】
そして、第一参照値aと第二参照値bとは、補正部9の補正によって、両者の振幅が等しくなり、第一参照値aと第二参照値bの位相は90度ずれているから、物体Mの振動が減衰せず同じ振動を繰り返す場合、第一参照値aと第二参照値bの理想的な軌跡は、
図3に示すように、円を描くことになり、振動レベルrがこの円の半径に等しいことが理解できよう。なお、実際には、フィルタ8の抽出精度や物体Mに作用する外乱、第一参照値aや第二参照値bに含まれるノイズによって、両者の振幅を完全一致させることができない場合もあるが、振動レベルrの値は、ほぼ上記した円の半径に等しくなる。
【0024】
このように、振動レベルrは、速度である第一参照値aが0でも、変位である第二参照値bの絶対値は最大値をとることになり、反対に、第二参照値bが0でも第一参照値aの絶対値は最大値をとり、物体Mの振動状況が変化しない場合には理想的には一定値をとる。つまり、振動レベルrは、物体Mがどの程度の振幅で振動しているかを示す指標となる値であり、振動の大きさを表している。そして、振動レベルrの算出に当たり、物体Mの一周期分の変位、速度、加速度のいずれかをサンプリングして波高を求める必要もなく、以上の手順から理解できるように、物体Mの変位と速度を得れば求めることができるから、タイムリーに求めることができる。すなわち、上記した振動レベル検知方法、この検知方法を実現する振動レベル検知装置1によれば、物体の振動の大きさをタイムリーかつリアルタイムに検知することが可能である。
【0025】
なお、第一参照値aと第二参照値bを物体Mの速度と加速度、加速度と加速度の変化率、変位と変位の積分値相当とし振動レベルrを求めてもよく、このように設定しても第一参照値aと第二参照値bの位相は互いに90度ずれており、検知したい振動の角周波数ωで補正することで、第一参照値aと第二参照値bを直交座標にとった時の軌跡は円となるから振動レベルrを求めれば、この振動レベルrが振動の大きさを表す指標となる。つまり、第一参照値aを物体Mの任意部位の検知したい振動方向に一致する方向の変位、速度、加速度のうちいずれか一つとし、第二参照値bを第一参照値aの積分値相当或いは微分値相当の値とすれば振動レベルrを求めることができる。
【0026】
第一参照値aは、センサなどの検出器から直接得ずとも、センサ出力を微分や積分して得るようにしてもよい。また、第二参照値bは、検出器から直接得ることも可能であり、第一参照値aの微分値相当または積分値相当を第二参照値bとすればよいので、第二参照値bは、第一参照値aを微分或いは積分して得るのではなく検出器から直接得るようにしてもよい。
【0027】
また、第一参照値aの積分値相当を第二参照値bとする場合、第一参照値aの微分値相当を第三参照値cとし、振動レベル取得部4は、第一参照値aと第二参照値bとで上記手順によって上記振動レベルに相当する値を求めてこの値を第一振動レベルr1とし、第二参照値bの代わりに第三参照値cを使用して第一参照値aと第三参照値cとで上記手順によって上記振動レベルに相当する値を求めこの値を第二振動レベルr2とし、第一振動レベルr1と第二振動レベルr2とを加算して2で割ることで第一振動レベルr1と第二振動レベルr2の平均値を算出しこの平均値を振動レベルrとすることもできる。この場合、
図4に示すように、第三参照値cを求めるために、第三参照値取得部10を設けるようにすればよい。なお、第一参照値aの微分値相当を第二参照値bとする場合、第一参照値aの積分値相当を第三参照値cとすればよい。
【0028】
この場合、
図5に示すように、第一参照値aを横軸にとり、第二参照値bと第三参照値cを縦軸にとる直交座標を考えると、物体Mの振動周波数と、フィルタ8で抽出する周波数にずれが生じている場合、第一振動レベルr1が第一参照値aの最大値以上の値をとる場合、第一参照値aと第二参照値bの軌跡Jは
図5中破線で示す第一参照値aの最大値を半径した円Hより大きな楕円形となり、第二振動レベルr2は第一参照値aの最大値以下の値をとって、第一参照値aと第三参照値cの軌跡Kは円Hよりも小さな楕円となる。つまり、物体Mの振動周波数と検知したい振動周波数が一致しない場合、補正部9で補正する際に使用する角周波数ωと実際の角周波数ω’がずれているから、第一参照値aの積分値相当の第二参照値bを補正した際に第二参照値bの最大値は、第一参照値aの最大値のω/ω’倍となり、第一参照値aの微分値相当である第三参照値cの最大値は補正によって第一参照値aの最大値のω’/ω倍となる。このように、第一振動レベルr1が第一参照値aより大きな値をとる場合、その分、第二振動レベルr2は第一参照値aよりも小さな値をとるから、これらを平均して振動レベルrを求めると、振動レベルrの変動が緩和されるため、物体Mの振動周波数と検知したい振動周波数とが一致しなくとも、安定した振動レベルrを求めることができ、振動レベルrの検知結果が良好なものとなる。また、このように振動レベルrの変動の緩和を行っても、振動レベルrにうねりが生じる場合には、振動レベルrに物体Mの振動周波数の2倍の周波数成分のノイズが重畳することが分かっているため、この重畳されるノイズを取り除くフィルタを設けて振動レベルrを濾波するようにしてもよい。また、この場合、第一参照値aに対して積分値相当と微分値相当を第二参照値bと第三参照値cとして振動レベルrを求めたが、たとえば、変位を第一参照値aとし、速度を第二参照値bとして振動レベルrを求めることに加えて、加速度を第一参照値aとして加速度の変化率を第二参照値bとして別途振動レベルrを求め、変位と速度から得た振動レベルrと、加速度と加速度の変化率から得た振動レベルrの平均値を最終的な振動レベルとして求めるといったように、異なる第一参照値と第二参照値とで得た複数の振動レベルから最終的な振動レベルを得ることも可能である。
【0029】
なお、振動レベル検知装置1は、この実施の形態の場合、ハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度検出器5が出力する信号を取り込むためのA/D変換器と、振動レベル検知に必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、上記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの演算装置と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えて構成されればよく、CPUが上記プログラムを実行することで、第一参照値取得部2、第二参照値取得部3、第三参照値取得部10、フィルタ8、補正部9および振動レベル取得部4の動作を実現すればよい。
【0030】
つづいて、振動レベル検知装置1を車両に適用して、車両におけるばね上部材とばね下部材の振動レベルを検知する形態について説明する。
図6に示すように、この例では、車両が四つの車輪を備えていて、車両における車体である上部材Bは、四つの懸架ばねS1,S2,S3,S4と四つのばね下部材W1,W2,W3,W4によって支持されている。また、説明の都合上、ばね上部材Bのそれぞれ懸架ばねS1,S2,S3,S4に支持される四つの部位を部位B1,B2,B3,B4とする。なお、ばね下部材W1,W2,W3,W4は、車体であるばね上部材Bに揺動可能に取り付けられた車輪とリンクを含んでいる。
【0031】
懸架ばねS1は、ばね上部材Bとばね下部材W1との間に介装され、他の懸架ばねS2,S3,S4もそれぞれ同様にばね上部材Bとばね下部材W2,W3,W4との間に並列に介装されている。また、この懸架ばねS1、S2,S3,S4の各々に減衰力を発揮するダンパD1,D2,D3,D4が並列されていて、これらダンパD1、D2,D3,D4は、ばね上部材Bとばね下部材W1,W2,W3,W4との間に介装されている。
【0032】
以下、各部材について詳細に説明すると、各ダンパD1,D2,D3,D4は、詳しくは図示しないが、たとえば、シリンダCと、シリンダC内に摺動自在に挿入されるピストンと、シリンダC内に移動自在に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドRと、シリンダC内にピストンで区画した二つの圧力室と、圧力室同士を連通する通路と、通路を通過する流体の流れに抵抗を与える減衰力調整装置とを備えて構成される流体圧ダンパとされている。そして、この各ダンパD1,D2,D3,D4は、伸縮作動に応じて圧力室内に充填された流体が通路を通過する際に減衰バルブにて抵抗を与えて当該伸縮作動を抑制する減衰力を発揮し、ばね上部材とばね下部材の相対移動を抑制するようになっている。なお、流体には、作動油のほか、水、水溶液、気体を利用することができる。流体が液体であって、各ダンパD1,D2,D3,D4が片ロッド型ダンパである場合、各ダンパD1,D2,D3,D4は、シリンダC内にピストンロッドRが出入りする体積を補償するために気体室やリザーバを備えるが、流体が気体である場合、気体室やリザーバを備えずともよい。
【0033】
ダンパD1,D2,D3,D4は、上記以外にも、電磁力でばね上部材とばね下部材の相対移動を抑制する減衰力を発揮する電磁ダンパとされてもよく、電磁ダンパとしては、たとえば、モータと、モータの回転運動を直線運動に変換する運動変換機構とを備えて構成されるか、リニアモータとされる。
【0034】
対して、振動レベル検知装置1は、
図7に示すように、ばね上部材Bの上下方向の速度であるバウンス速度Vb、ローリング方向の速度であるロール速度Vrおよびピッチング方向の速度であるピッチング速度Vpを得る第一参照値取得部2と、当該第一参照値取得部2で得た値を第一参照値として当該第一参照値の微分値に相当する第二参照値を得る第二参照値取得部3と、第一参照値と第二参照値からばね上部材の共振周波数成分を抽出するフィルタ8と、補正部9と、振動レベルを求める振動レベル取得部4とを備えている。
【0035】
まず、第一参照値取得部2は、
図7に示すように、加速度センサG1,G2,G3と、ロール速度演算部21と、ピッチング速度演算部22と、バウンス速度演算部23とを備えている。加速度センサG1,G2,G3は、車体Bの上下方向の加速度を検出するものであって、図示しない車体の同一水平面上で同一直線上にない任意の3箇所に設置されている。
【0036】
そして、この加速度センサG1,G2,G3は、検出した車体の上下方向の加速度α
1,α
2,α
3に応じた電圧信号をロール速度演算部21、ピッチング速度演算部22およびバウンス速度演算部23に出力し、ロール速度演算部21、ピッチング速度演算部22およびバウンス速度演算部23は、上記加速度センサG1,G2,G3の信号を処理して、車体ばね上部材Bのバウンス速度Vb、ロール速度Vrおよびピッチング速度Vpを演算できるようになっている。なお、加速度α
1,α
2,α
3の符号の取り方は、上向きを正としてある。
【0037】
具体的には、ロール速度演算部21は、加速度α
1,α
2,α
3からばね上部材Bのローリング方向の加速度α
r、つまり、角加速度を得て、これを積分してロール速度Vrを求め、これをローリング方向の振動レベルrrを得るための第一参照値arとする。ロール速度Vrは、車体であるばね上部材Bの重心におけるローリング方向の角速度である。ピッチング速度演算部22は、加速度α
1,α
2,α
3からばね上部材Bのピッチング方向の加速度α
p、つまり、角加速度を得て、これを積分してピッチング速度Vpを求め、これをピッチング方向の振動レベルrpを得るための第一参照値apとする。ピッチング速度Vpは、車体であるばね上部材Bの重心におけるピッチング方向の角速度である。
【0038】
バウンス速度演算部23は、加速度α
1,α
2,α
3からばね上部材Bのバウンス方向の加速度α
bを得て、これを積分してバウンス速度Vbを求め、これをバウンス方向の振動レベルrbを得るための第一参照値abとする。バウンス速度Vbは、車体であるばね上部材Bの重心における上下方向の速度である。
【0039】
ロール加速度α
r、ピッチング方向の加速度α
pおよびバウンス加速度α
bは、具体的には、加速度α
1,α
2,α
3と各加速度センサG1,G2,G3の設置位置、車体の重心位置から求めることができる。すなわち、車体であるばね上部材Bを剛体と見なして、ばね上部材Bの同一水平面上の同一直線上にない任意の3箇所の上下方向の加速度α
1,α
2,α
3を得れば、各ばね上部材Bの任意の位置におけるロール速度Vr、ピッチング速度Vpおよびバウンス速度Vbは一義的に決まるのであり、変位および加速度についても同様に求めることができる。また、このように、物体の振動が回転方向の振動レベルを求める場合には、第一参照値を物体の回転方向の変位である回転角、回転方向の速度である角速度、回転方向の加速度である角加速度としてもよい。そして、車両における車体のローリング方向、ピッチング方向およびバウンス方向の振動を抑制する制御をする場合、一般的には、車体の重心位置における各方向の振動を評価して、制御することが多いので、この例においても車体の重心位置におけるローリング方向の振動レベルrr、ピッチング方向の振動レベルrp、およびバウンス方向の振動レベルrbを求めるようにしている。
【0040】
第二参照値取得部3は、ロール速度Vrである第一参照値arを微分することで、ばね上部材Bのローリング方向の加速度に相当する第二参照値brを求め、ピッチング速度Vpである第一参照値apを微分することで、ばね上部材Bのピッチング方向の加速度に相当する第二参照値bpを求め、さらに、バウンス速度Vbを微分することでバウンス方向の加速度に相当する第二参照値bbを求める。なお、この場合、各第二参照値br,bp,bbは、第一参照値ar,ap,abの微分値相当であって、ロール速度Vr、ピッチング速度Vp、バウンス速度Vbを求める際に第二参照値br,bp,bbに相当する値を算出しているので、これを第二参照値bとしてもよい。フィルタ8は、ローリング方向の第一参照値ar、ローリング方向の第二参照値br、ピッチング方向の第一参照値ap、ピッチング方向の第二参照値bp、さらには、バウンス方向の第一参照値ab、バウンス方向の第二参照値bb方向をフィルタ処理して、ばね上部材Bの共振周波数の成分を抽出する。
【0041】
また、ローリング方向の第二参照値br、ピッチング方向の第二参照値bpおよびバウンス方向の第二参照値bbは、補正部9にてばね上部材Bの共振周波数に一致する角周波数ωを用いて補正される。
【0042】
振動レベル取得部4は、ローリング方向の第一参照値arと補正後のローリング方向の第二参照値brとから上記した物体Mの振動レベルrを求めた演算方法を用いることで、ばね上部材Bにおけるローリング方向の振動レベルrrを求める。
【0043】
また、振動レベル取得部4は、同様にして、ピッチング方向の第一参照値apと補正後のピッチング方向の第二参照値bpとから上記した演算方法を用いることで、ばね上部材Bにおけるピッチング方向の振動レベルrpを求める。
【0044】
さらに、振動レベル取得部4は、同様にして、バウンス方向の第一参照値abと補正後のバウンス方向の第二参照値bbとから上記した演算方法を用いることで、ばね上部材Bにおけるバウンス方向の振動レベルrbを求める。
【0045】
最後に、ローリング方向の振動レベルrrとピッチング方向の振動レベルrpとバウンス方向の振動レベルrbを加算して、ばね上部材Bの振動レベルrを求める。ローリング方向の振動レベルrrとピッチング方向の振動レベルrpについては、ばね上部材Bの重心位置における回転方向の振動レベルであり、この場合、ばね上部材Bの全体の振動レベルを求めるため、ローリング方向の振動レベルrrについては、ばね上部材Bの重心位置と各部位B1,B2,B3,B4の横方向距離の平均値を乗じて部位B1,B2,B3,B4でのロール振動レベル平均値を算出し、ピッチング方向の振動レベルrpについては、ばね上部材Bの重心位置と各
部位B1,B2,B3,B4の前後方向距離の平均値を乗じて部位B1,B2,B3,B4でのピッチング振動レベル平均値を算出したうえで、これら平均値をバウンス方向の振動レベルrbに加算することで振動レベルrを求めることになる。なお、ここで横方向距離の平均値は、前輪トレッド幅の半分の値と後輪トレッド幅の半分の値を平均した値であるが、これらが大きく異なっていない場合は、いずれか一方の値を採用してもよい。また、前後方向距離の平均値は、前輪位置と重心位置の前後方向距離と、後輪位置と重心位置の前後方向距離を平均した値であるが、こちらに関してもこれらの値が大きく異なっていない場合には、いずれか一方の値を採用してもよい。また、各輪の各ダンパD1,D2,D3,D4の減衰力を独立に制御するような場合、各部位B1,B2,B3,B4の位置での振動レベルを算出する必要がある。このような場合、各加速度センサG1,G2,G3の設置位置と各部位B1,B2,B3,B4の位置関係により座標変換することで、各部位B1,B2,B3,B4の上下方向加速度を算出することができるから、単に、各部位B1,B2,B3,B4の上下方向振動の振動レベルを求めるようにすればよい。また、車両におけるばね上部材Bにおける振動レベルrを求めるに際して、ばね上部材Bのローリング方向の第一参照値arと、ピッチング方向の第一参照値apとバウンス方向の第一参照値abに分けて求めるようにしているので、車体であるばね上部材Bのローリング方向の振動を抑制する制御には、ローリング方向の振動レベルrrを用い、ばね上部材Bのピッチング方向の振動を抑制する制御には、ピッチング方向の振動レベルrpを用い、ばね上部材Bのバウンス方向の振動を抑制する制御には、バウンス方向の振動レベルrbを用いるといったことが可能となり、ばね上部材Bの振動モード(ローリング、ピッチングおよびバウンス)毎に適する制御を行うことができるとともに、ばね上部材Bの総合的な振動レベルrを検知することも可能となっている。なお、振動レベルrr,rp,rb,rの全てを検知してもよいし、これらの中から検知したい振動レベルに限り検知するようにしてもよい。
【0046】
さらに、車両が旋回中であったり、坂道やバンクした道路を走行したりする場合、ばね上部材Bの変位には遠心力や重力の影響でドリフト成分が重畳されるため、上記したように、第一参照値と第二参照値にばね上部材Bの速度と加速度を選ぶことでドリフト成分の影響を軽減することができ、精度よくばね上部材Bの振動レベルrr,rp,rb,rを検知することができる。なお、このようなドリフト成分の影響を軽減するには、第一参照値と第二参照値にばね上部材Bの加速度と加速度変化率を選ぶようにしてもよい。また、ばね上部材Bの振動レベルrを得る場合にあっても、ローリング方向、ピッチング方向およびバウンス方向の第三参照値を取得し、まず、ローリング、ピッチングおよびバウンスにおいて第一振動レベルと第二振動レベルを演算してから最終的な振動レベルを求めるようにしてもよいことは当然であり、その際に、第一参照値、第二参照値および第三参照値に変位以外を選択することで上記したようにドリフト成分の影響を軽減でき、精度良く振動レベルを求めることができる。また、
図6に示すように、振動レベル検知装置1は、たとえば、部位B1,B2,B3,B4の上下方向の振動レベルrを直接検知することも可能である。つまり、これらの部位B1,B2,B3,B4の上下方向の変位、速度、加速度のいずれかを第一参照値aとして取得し、上記手順で振動レベルを求めることも可能である。このようにして求めた各部位B1,B2,B3,B4における振動レベルrは、各部位B1,B2,B3,B4における振動の大きさを示しており、これによって各部位B1,B2,B3,B4の振動の大きさを検知することができる。
【0047】
また、ばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrを検知するには、たとえば、
図6に示すように、ダンパD1,D2,D3,D4にストロークセンサL1,L2,L3,L4を設けて、ストロークセンサL1,L2,L3,L4で検出したシリンダCとピストンロッドRとの相対変位や、これを微分して得られる相対速度、さらには、相対速度を微分して得られる相対加速度を第一参照値aとし、この第一参照値aに含まれるばね下部材W1,W2,W3,W4の共振周波数に一致する成分をフィルタ8で抽出することで、ばね下部材W1,W2,W3,W4の上下方向の変位、速度、加速度のいずれかを得ることができる。また、ばね下部材W1,W2,W3,W4にセンサを取り付けて、直接にばね下部材W1,W2,W3,W4の上下方向加速度を検出し、この上下加速度を用いて第一参照値を求めるようにしてもよい。
【0048】
ばね下部材W1,W2,W3,W4の振動レベルrを検知するに際して、第三参照値を取得し、まず、第一振動レベルと第二振動レベルを演算してから最終的な振動レベルを求めるようにしてもよいことは当然である。
【0049】
このように振動レベルを検知することで、物体の任意部位における振動の大きさをタイムリーかつリアルタイムに検知することができ、このように求めた振動レベルは、物体の振動に対して時間的に遅れが少ないので、たとえば、車両の振動の抑制制御への使用にも十分に耐えうる。また、この振動レベル検知装置及び振動レベル検知方法は、物体がばねによって支承される系における物体の振動レベルを検知することが可能であり、自動車以外の車両、たとえば、鉄道車両にも適し、さらには、免震装置で支承された建築物の振動レベルの検知に適用することが可能である。
【0050】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。