(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063460
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】巻上げ機構と、少なくとも1つの表示部材を修正する少なくとも1つの機構とを含む時計
(51)【国際特許分類】
G04B 27/02 20060101AFI20170106BHJP
G04B 27/04 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
G04B27/02 Z
G04B27/04 Z
【請求項の数】20
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-516339(P2014-516339)
(86)(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公表番号】特表2014-517325(P2014-517325A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】EP2012061936
(87)【国際公開番号】WO2012175595
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年5月29日
(31)【優先権主張番号】11405272.3
(32)【優先日】2011年6月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルダズ, デニス
(72)【発明者】
【氏名】ヴィラレ, ピエール
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
スイス国特許出願公開第00432389(CH,A3)
【文献】
特公昭52−025751(JP,B1)
【文献】
米国特許第03611703(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 27/02
G04B 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上げ機構と、少なくとも1つの表示部材を修正する第1修正機構と第2修正機構の少なくとも1つとを含む時計装置、特に時計ムーブメント又は時計であって、これらの機構が、前記機構の一方の作動にそれぞれ対応する少なくとも2つの軸方向位置を占め得る巻真によって作動可能であり、この巻真(T)が、
前記巻上げ機構と連結することが可能なキチ車(5)と、
前記巻真(T)及び時計装置の枠に対して同時に軸方向に移動可能であり、かつ前記第1修正機構と第2修正機構の少なくとも1つと連結することが可能なツヅミ車(6)とを含む、時計装置において、
前記キチ車(5)が、前記巻真(T)と回転連動し、前記巻上げ機構が、垂直クラッチまたは前記巻真(T)の長手方向対称軸に垂直なクラッチによって作動されることを特徴とする、時計装置。
【請求項2】
前記ツヅミ車が、前記巻真(T)と回転連動する、請求項1に記載の時計装置。
【請求項3】
前記キチ車(5)が、前記巻真(T)に対して軸方向に移動可能であるが、時計装置の枠に対して並進が固定される、請求項1又は2に記載の時計装置。
【請求項4】
前記ツヅミ車(6)が、前記第1修正機構と第2修正機構の少なくとも1つと連結可能な横歯(6b)を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の時計装置。
【請求項5】
前記クラッチが、前記巻真(T)と接触する軸方向下端(100)を有し、かつ前記巻真(T)の直径減少によって形成されたくぼみ(C)により、前記巻真(T)に対して軸方向に移動可能であるように配置された摺動軸(10)を含み、この摺動軸(10)が、前記巻上げ機構と連結した第1丸穴車(8)と連動する、請求項4に記載の時計装置。
【請求項6】
前記第1丸穴車(8)が、前記キチ車(5)と継続して噛み合う第2丸穴車(7)によって回転駆動されることが可能である、請求項5に記載の時計装置。
【請求項7】
前記巻真(T)が、前記くぼみ(C)と前記ツヅミ車(6)との間に位置した、表面(S)が前記ツヅミ車(6)の軸方向当接部としての機能を果たすように設けられた区間(Tr)を含む、請求項5又は6に記載の時計装置。
【請求項8】
前記巻真(T)は、前記摺動軸(10)の軸方向自由下端(100)が前記くぼみ(C)内に位置する時、前記ツヅミ車(6)が前記第1修正機構と第2修正機構の少なくとも1つと連結した小鉄車(11)と係合することを前記表面(S)により阻止するよう寸法が決定される、請求項7に記載の時計装置。
【請求項9】
前記巻真(T)は、第2軸方向位置を占める時、前記表面(S)が、前記第1修正機構と第2修正機構の少なくとも1つと連結した小鉄車(11)と前記ツヅミ車(6)との係合を維持するよう寸法が決定される、請求項7又は8に記載の時計装置。
【請求項10】
前記巻真(T)によって同様に作動可能な第3機構を更に含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の時計装置。
【請求項11】
前記第3機構が、前記ツヅミ車(6)によって駆動されることが可能である、請求項10に記載の時計装置。
【請求項12】
前記第3機構が、前記ツヅミ車の前記横歯(6b)によって駆動されることが可能である、請求項4を参照する請求項10に記載の時計装置。
【請求項13】
前記第3機構が、前記ツヅミ車(6)上に設けられた前歯(6a)によって駆動されることが可能である、請求項10又は11に記載の時計装置。
【請求項14】
前記巻上げ機構から前記第1修正機構への移行、及び必要な場合、前記第1修正機構から第2修正機構への移行は、単一のカンヌキ(3)を用いて行われる、請求項1から13のいずれか一項に記載の時計装置。
【請求項15】
前記第1修正機構が、少なくとも1つの第1表示部材を修正する機構であり、かつ必要な場合、前記第2修正機構が、少なくとももう1つの表示部材を修正する第2機構である、請求項1から14のいずれか一項に記載の時計装置。
【請求項16】
前記巻上げ機構が、巻上げ機構である、請求項1から15のいずれか一項に記載の時計装置。
【請求項17】
前記第1修正機構が、日付及び/又は曜日の調節機構であり、および/又は前記第2修正機構が、時刻の調節機構である、請求項16に記載の時計装置。
【請求項18】
前記第1修正機構が、時間帯の調節機構であり、および/又は前記第2修正機構が、時刻の調節機構である、請求項16に記載の時計装置。
【請求項19】
前記修正機構が、修正モジュール(2、11、29、15、17、16、Q、J)の形状である、請求項1から18のいずれか一項に記載の時計装置。
【請求項20】
時計のムーブメントに対して修正モジュール(2、11、29、15、17、16、Q、J)を組み立てるステップを含む、請求項19に記載の時計装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの機構、すなわち巻上げ機構と、少なくとも1つの表示部材を修正する少なくとも1つの機構とを含む時計装置、特に時計ムーブメント又は時計に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上げ及び表示部材の修正の機構を含む時計は、すでに知られている。
【0003】
例として、特許文献1は、巻真が3つの軸方向位置を占めることができ、かつ後歯と、前歯とを備えたツヅミ車を持つ、かかる時計を対象とする。
【0004】
軸方向位置の第1の位置において、巻真は、ツヅミ車の後歯の傾斜によって巻上げ機構を作動させる。
【0005】
第2の軸方向位置において、巻真は、同様にツヅミ車の後歯によって日付及び曜日の修正機構を駆動する。
【0006】
第3の軸方向位置において、巻真は、ツヅミ車の前歯によって時刻の修正機構を作動させる。
【0007】
この装置において、キチ車は、巻真上で回転自在に取り付けられる。各機構は、少なくとも1つの水平クラッチによって作動される。時計は、作動すべき機構と同数の、時計の枠の平面と平行な平面内に配置されたカンヌキを利用する。
【0008】
この装置は、巻真の第1から第2軸方向位置への移行の際に日付又は曜日の意図しない修正のリスクを取り除けるようにする。
【0009】
しかしながらこの装置は、巻上げチェーンが張力を受ける時、巻真の第1から第2軸方向位置への移行の際に遮断のリスクが残ったままとなることを重大な短所とする。その上この装置は、多数のカンヌキを必要とし、かつそれらを時計の平面内に配置するために大きな面積を必要とする。
【0010】
特許文献2は、異なる2つの水平クラッチ装置を備え付けた巻上げ及び時刻合わせ機構を対象とする。第1クラッチは、巻上げ機能に割り当てられ、かつ第2は、動的時刻合わせチェーンを始動又は停止するようにツヅミ車の並進を制御するために設けられる。特許文献1中に開示された機構とは違い、ツヅミ車は、キチ車を介して巻上げチェーンと係合するために設けられるものではない。各クラッチは、時計の枠の平面と平行な平面内に配置され、かつおしどりによって直接操作される双安定挙動カンヌキを備え付ける。2つのカンヌキのいずれか一方の第1位置は、それに関連した機能の始動位置に対応し、他方で第2位置は、停止位置に対応する。このため、追加のクラッチ装置を設置せずに時刻に由来する表示の調節のような第3の修正機能を付け加えることは、可能でない。その上、この機構は、1以上のカンヌキを配置するためには、十分に大きな時計の平面内の面積を必要とする。
【0011】
特許文献3は、2つの位置を有する機構に関係する。この機構は、多数の修正すべき時刻表示を備え付けた腕時計に装備を施すために設けられる。第1位置は、巻上げ位置であり、他方で第2位置は、選択部材を介して選択される表示の調節に対応する。この装置は、巻真と回転連動した単一の小歯車を利用する。その前歯は、様々な修正チェーンと係合しており、他方でその横歯は、巻上げチェーンに動的に結合される。この小歯車は、軸方向に移動せず、従ってツヅミ車の並進に起因する停止及び遮断のリスクが取り消される。巻上げチェーンの始動は、巻真の幾何学的形状によって直接操作される垂直クラッチによって行われ、他方で修正すべき表示の選択装置は、修正すべき表示と同数のムーブメントの枠の平面と平行に移動するクラッチのカンヌキを操作するために設けられた、選択カムを利用する。かかる装置は、前述の機能的欠陥を緩和できるようにする。しかしながら、かかる装置は、多数のカンヌキと、これらのカンヌキを配置するために十分大きな、時計の平面内の面積とを必要とし、かつ修正すべき表示を選択するための巻真に付属する部材を必然的に必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1152303号
【特許文献2】スイス国特許第432389号
【特許文献3】欧州特許第2012199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、少なくとも2つの機構、すなわち巻上げ機構と、少なくとも1つの表示部材を修正する機構とを含み、かつ更に簡単で、更に小型で、更に合理的で、かつ更に限られた数の部品から構成される構造を有しながら、かつ追加のカンヌキなしに少なくとも1つの表示部材を修正する少なくとも1つの第2機能を追加できる利点を有しながら、前述の短所を有さない時計を提案することを極めて重要な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、巻上げ機構と、少なくとも1つの表示部材を修正する少なくとも1つの機構とを含む時計装置、特に時計によって達成され、これらの機構が、機構の一方の作動にそれぞれ対応する少なくとも2つの軸方向位置を占め得る巻真によって作動可能であり、この巻真が、
第1機構と連結することが可能なキチ車と、
巻真及び時計の枠に対して同時に軸方向に移動可能であり、かつ少なくとも1つの第2機構と連結することが可能なツヅミ車とを含み、
この時計は、キチ車が、巻真と回転連動するという特殊な点を有する。このようにして、時計の枠の平面と平行な平面内に配置された単一のカンヌキが、少なくとも第2機構の作動に必要である。
【0015】
この特殊性のために、一方の機構の作動から他方の作動への移行は、遮断のリスクなしに行われ得る。
【0016】
時計の様々な実施態様が、請求項2から19によって定義される。
【0017】
時計の製造方法は、請求項20によって定義される。
【0018】
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面を参照して与えられる以下の説明において今から詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1軸方向位置における巻真を特に示す、本発明による時計の一部を示す図である。
【
図2】第2軸方向位置における巻真を特に示す、
図1の時計の一部を示す図である。
【
図3】第2機構の作動を詳細に説明する、本発明による時計の部分平面図である。
【
図4】日付ディスクの駆動を詳細に説明する、本発明による時計の部分平面図である。
【
図5】曜日の表示の駆動を詳細に説明する、本発明による時計の部分平面図である。
【
図6】第3位置における巻真を示す、
図1及び
図2の時計の一部を示す図である。
【
図7】第3機構の作動を詳細に説明する、本発明による時計の部分平面図である。
【
図8】第1機構の作動を詳細に説明する、本発明による時計の部分平面図である。
【
図9】修正モジュールの組み立て前の、本発明による時計のムーブメントの部分平面図である。
【
図10】修正モジュールの組み立て後の、
図9の平面図である。
【
図11】巻真が第2軸方向位置にある、本発明による時計の変形例を示す図である。
【
図12】巻真が第3軸方向位置にある、
図11の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
時計装置、特に時計ムーブメント又は時計の一実施態様は、少なくとも2つの機構、すなわち巻上げ機構と、少なくとも1つの表示部材を修正する少なくとも1つの機構とを含む。
【0021】
これから記載する説明において、時計は、3つの機構を含み、これらの機構は全部が、巻真によって個別に作動可能である。
【0022】
当然に当業者は、以下に続く説明から、2つの機構しか含まない本発明による時計装置の実施に必要な情報を引き出せるであろう。
【0023】
例として、前述の3つの機構は、次のように定義できる。
− 第1機構:巻上げ機構、
− 第2機構:少なくとも1つの表示部材の修正機構、例えば日付及び曜日の修正機構、及び
− 第3機構:少なくとももう1つの表示部材の第2修正機構、例えば時刻調節機構。
【0025】
この機構は、
図1に示すような垂直クラッチによって作動される。
【0026】
この垂直クラッチは、巻真Tと接触する軸方向下端100を有するように、巻真Tの長手方向対称軸にほぼ垂直に配置された摺動軸10を含む。
【0027】
図1で、この巻真Tは、第1軸方向位置にある。軸方向下端100は、その場合巻真Tの直径減少によって形成されたくぼみC内に位置する。
【0028】
摺動軸10の軸方向上端13の側面に、第1丸穴車8が連動して取り付けられる。第1丸穴車8は、摺動軸10の周りに回転自在に取り付けられた第2丸穴車7の上面に設けられたブレゲ歯7bと噛み合うために設けられた、ブレゲ歯8bの下面に備えられる。
【0029】
この第2丸穴車7は、横歯7aも同様に含む。横歯7aは、ブレゲ歯7bにほぼ垂直であり、またキチ車5の前歯5aと継続的に係合する。横歯5aは巻真Tに取り付けられ、巻真Tと回転連動し、かつ巻真Tに対して軸方向に移動可能であるが、巻真Tの区間Zの非円形横断面と協働する非円形横断面のために、時計装置の枠に対して並進で固定される。
【0030】
第1丸穴車8は、当業者がよく知っている、かつそれ故にここで詳細に記載される必要がない、
図8に示したような従来の巻上げ機構と連結する。
【0031】
戻しばね9は、摺動軸10を巻真Tに向かって押し出し、かつそれにより第1丸穴車8を第2丸穴車7に向かって押圧するように、摺動軸10の軸方向上端13に配置される。
【0032】
巻真TのくぼみCは、巻真Tが、時計のケースの外部に向かって方向Fに引っ張られる時、摺動軸10が、戻しばね9の力に反して巻真Tから遠ざける方向に移動可能とする傾斜又は円錐台形面12によって、その側面の一方に関して画定される。
【0033】
この遠ざかる状況は、巻真Tの第2位置に対応し、
図2に示される。
【0034】
この
図2で、摺動軸10の軸方向下端100が、巻真Tのより大きな直径を有する区間Tr上にいまや位置することが見られる。第1丸穴車8及び第2丸穴車7が、もはや互いに係合しないことも見られる。
【0035】
このことは、巻真Tを回転させるならば、キチ車5及び第1丸穴車7が同様に回転するが、第2丸穴車8は、もはや駆動されず、かつ巻上げ機構も、もはや駆動されないことを意味する。
【0037】
この機構は、巻真が、第2位置にある時に作動される。従って、
図2で見ることができる。
【0038】
この図で、巻真Tの一部上で軸方向に移動可能であり、かつ同じ軸方向端部のレベルで前歯6aと横歯6bとを同時に含む、ツヅミ車6が見られる。
【0039】
摺動軸10が位置する側面に対向する時計の側面に、回転軸が摺動軸10の長手方向対称軸にほぼ平行である小鉄車11が配置される。この小鉄車11は、ツヅミ車6の横歯6bと噛み合うために設けられた前歯11bを有する。ツヅミ車6が、巻真Tと回転連動するので、巻真Tの回転は、従って小鉄車11を回転駆動し得る。
【0040】
この小鉄車11は、横歯11aも備えるので、次に他の歯車、特に当業者がよく知っており、かつそれ故にここで詳細に記載する必要のない、1つ以上の時刻表示の調節のために設けられた従来の修正機構の歯車を回転駆動し得る。例えば、
図3、
図4及び
図5に示すような日付及び曜日の修正装置のことであり得る。
【0041】
特に
図3で見られるように、ツヅミ車6の横歯6bは、小鉄車11と噛み合い、小鉄車11は、修正車15と係合する、他の小鉄車29と次に噛み合う。
【0042】
この修正車15は、巻真Tによって中間車29に伝達される回転方向に沿って位置決めされるように、摩擦ばね16と協働する。
【0043】
図4の実施例で、修正車15は、星形車17によって日付ディスクQを既知のように駆動するために位置決めされる。
【0044】
図5の実施例で、修正車15は、歯車18によって曜日ディスクJを既知のように駆動するために位置決めされる。
【0045】
図2を参照し、ツヅミ車6は、歯6a及び6bが位置する端部に対向した軸方向端部に、端面19を有することが見られる。
【0046】
この端面19は、傾斜面12がある側面に対向した区間Trの側面に位置する当接面Sに対して当接されるために設けられる(
図1及び
図2)。
【0047】
巻真Tの区間Trは、巻真が第1軸方向位置にある時、すなわち摺動軸10がくぼみC内にある時、横歯6bが小鉄車11の歯11bを噛み合わせ不能にするために設定された軸方向長さを有する(
図1)。
【0048】
一方、区間Trの軸方向長さは、巻真が第2軸方向位置にあり(
図2)、かつ摺動軸10がこの区間Trに支承される時、当接面Sは、小歯車6の端面19への当接部としてなおも役立ちながら、小歯車6の横歯6bを小鉄車11の歯11bを噛み合わせ可能にし、かつ小歯車6をこの噛み合い状態に維持するにように設定されている。
【0050】
この機構は、巻真Tが、外部に向かってより一層引っ張られ、かつ第3位置に到達する時に作動される。この事例は、
図6に示される。
【0051】
摺動軸10の軸方向下端100はその場合、この実施例において円錐台形面12と当接面Sのほぼ中間で、区間Trになおも支承される。
【0052】
以下に説明する理由により、ツヅミ車6は、巻真Tの区間Trから遠ざかり、ムーブメントの中心方向に巻真の端部に接近しながら、摺動する。ツヅミ車6の前歯6aはその場合、当業者がよく知っている、
図7で部分的に見られる、ここで詳細に記載する必要のない従来の時刻修正機構と連結した小鉄車20と噛み合う。
【0054】
一方の機構の作動から他方の機構の作動への移行は、明確に、巻真Tの軸方向移動によって制御される。
【0055】
しかしながら、また更に正確には、移行は、一方で巻真Tの軸方向移動によって直接的に制御され、かつ他方では巻真Tの軸方向移動によって同様に制御され、かつ先行技術の装置とは反対に、時計装置の枠の平面と平行な平面内に配置された単一のカンヌキしか介在させない水平クラッチによって間接的に制御される。この機構は、これから詳細に説明する。
【0056】
図1及び
図2で見られるように、巻真Tは、溝21を有する。
【0057】
同様に、歯6a、6bが位置するツヅミ車6の軸方向端部と、端面19が位置する対向する軸方向端部との間に溝22が設けられる。
【0058】
ここで
図8を参照すると、溝21は、おしどり1の端部14を受けるために設けられることが分かる。おしどり1は、軸23の周りを回転し、爪27を含み、かつ他端28にほぞ1cを備える。
【0059】
ツヅミ車6の溝22は、カンヌキ3の端部24を受けるために設けられる。カンヌキ3は、端部3bがムーブメントの当接部Bに支承されるばねを製作するように、軸3aの周りを回転し、突出部3dと、V字形部分3’を有する。このばねは、巻真Tの区間Trに向かってツヅミ車6を押し出すために、端部24に、次にツヅミ車6に伝達される力を提供する。
【0060】
ジャンパ2は、ムーブメントに固定される。ジャンパ2は、おしどり1のほぞ1cと既知のように協働するための3つの歯面2a、2b、及び2cを含む突端26で終わる弾性アーム25を有する。
【0061】
巻真Tが、
図1及び
図8に示された第1位置にある時、歯面2aは、おしどり1のほぞ1cで支承され、かつおしどり1の端部14は、端部24によって伝達され、かつ端面19を巻真Tの当接面Sに押し付ける、カンヌキ3の部分3’によって及ぼされる力に対向する。ばね3’によって生成されたトルクよりも著しく大きい弾性アーム25によって生成されたトルクは、巻真Tを第1軸方向位置に維持することを確実にする。
【0062】
この位置で、ツヅミ車6は、いかなる歯車もクラッチ連動させない。
【0063】
従って、利用者が巻真Tを手動で回転させる時、ツヅミ車6の前歯6a及び横歯6bは、空中で回転し、他方でキチ車5は、第2丸穴車7を介して第1丸穴車8を駆動し、このようにして巻上げ機構のみを作動する。
【0064】
巻真Tが、
図2に示される第2位置に向かって方向Fに引っ張られる時、摺動軸10の軸方向下端100は、円錐台形面12を滑動し、かつ遠ざかり、このようにして第1及び第2丸穴車8、7を分離し、このために巻上げ機構のクラッチ連動を解除する。
【0065】
並行して、
図3で見られるように、おしどり1の回転は、ほぞ1cが、ジャンパの突端26の歯面2bと接触することを可能にする。このことは、巻真Tを第2軸方向位置に維持することを確実にする。
【0066】
また、ばねを形成する部分3’によって及ぼされる力の影響で、ツヅミ車6は、方向Fに押し出され、かつ当接面Sに当接した状態に留まる(
図2参照)。このようにして、巻真Tが、第2位置に向かって方向Fに引っ張られる時、カンヌキ3の回転及び方向Fへの小歯車6の並進は、おしどり1によって直接作動されず、カンヌキ3のばねを形成する部分3’によって作動される。従って、おしどり1と、カンヌキ3との間の接触は、巻真Tが、第1位置から第2位置に向かって移行する時に必要でない。
【0067】
この位置で、横歯6bは、小鉄車11と噛み合う。利用者がその場合、巻真Tを手動で回転させる時、ツヅミ車の前歯6aは、空中で回転し、他方で横歯6bは、小鉄車11を駆動し、このようにして
図3、
図4及び
図5で見られるように、巻真Tの回転方向に応じて、日付又は曜日の調節機構のみを作動する。
【0068】
利用者が、巻真Tを
図6及び
図7で見られる第3位置に向かって方向Fに一層引っ張るならば、おしどり1の回転は、爪27をカンヌキ3の突出部3dと接触させ、これによりカンヌキ3をばね部分3’の力に反して傾けさせる。その結果、ツヅミ車6を巻真Tの当接面S、すなわち小鉄車11から遠ざけ、これにより日付及び曜日の調節機構のクラッチ連動を解除する。このようにして、巻真Tが第3位置に向かって方向Fに引っ張られる時、ばね部分3’の力に反したカンヌキ3の回転、及びムーブメント中心に向かう小歯車6の並進は、おしどり1によって直接作動される。おしどり1と、カンヌキ3との間の接触はそれ故に、巻真Tが第2位置から第3位置に向かって移行する時、必要である。
【0069】
並行して、おしどり1のほぞ1cは、ジャンパ2の突端26の歯面2cと接触する。このことは、巻真Tを第3軸方向位置に維持することを確実にする。
【0070】
その上、カンヌキ3の形状及び寸法は、カンヌキ3の端部24が溝22内に受けられるときに、前歯6aが小鉄車20と係合できるよう、ツヅミ車6を正確に位置決めするために設定される、このようにして
図7に部分的に見られる時刻の調節機構のみを作動する。
【実施例】
【0071】
図1、
図2及び
図6で、巻真Tの当接面Sは、円錐台形面であり、かつツヅミ車6の端面19は、2つの部分、つまり巻真Tの対称軸に垂直な部分と、面Sに組み合わされた円錐台形部分とを含む。
【0072】
変形例で、当接面Sは、巻真Tの長手方向対称軸に垂直であってもよく、かつツヅミ車6の端面19は、巻真Tの対称軸に垂直な単一の部分のみから構成されてもよい。
【0073】
図1、
図2及び
図6で、巻真TのくぼみCは、一方で円錐台形面12によって画定され、かつ他方でもう1つの円錐台形面によって画定される。しかしながら、もう1つの円錐台形面は、円錐台形面12とは反対に、摺動軸10の軸方向下端100が辿ることを目的としていないので、巻真Tの対称軸に完全に垂直であってもよい。
【0074】
本発明の好適な実施態様によれば、それぞれ修正モジュールの取り付け前後のムーブメントを示す、
図9及び
図10に見られるように、ジャンパ2及び第2機構に固有の修正歯車(歯車11、29、修正車15、星形車17、摩擦ばね16、日付ディスクQ、曜日ディスクJ等)は、ムーブメント上で個別に組み立てられ得る修正モジュールを形成する。
【0075】
図11(巻真の第2軸方向位置)及び
図12(巻真の第3軸方向位置)に示した変形例によれば、ツヅミ車6の前歯6a及び小鉄車20を用いた第3機構の駆動は、小鉄車11とほぼ同じ平面上に位置する小鉄車30を用いた駆動に代えられる。その場合ツヅミ車6は、横歯6bにより小鉄車30とも噛み合い、かつ不要になった前歯は、取り除かれた。当然に、第4機構を作動するために前歯を残しておくことも検討できる。
【0076】
当然に、第2及び第3機構を交換することも可能である。
【0077】
検討される変形例又は実施態様がいかなるものであれ、巻上げ位置から修正位置への急速な移行は、遮断のリスクなしに、巻上げチェーンが張力を受けていても行われる。
【0078】
巻真が、意図しない修正を引き起こしかねないもので、第1から第2軸方向位置に引っ張られる時にツヅミ車の並進によって誘発される、修正歯車の衛星化のリスクも同様にない。
【0079】
第1段階において、ツヅミ車6は、カンヌキ3のばね部分3’の影響下で位置決めされ、かつ巻真Tの回転は、おしどり1とは無関係に、横歯6bと小鉄車11の歯11bの間の噛み合いを確立できるようにする。
【0080】
いかなる場合にも、ツヅミ車6の位置は、巻真Tの第2軸方向位置における移行の際に利用者によって強制されない。このようにして、ツヅミ車6の歯6bと、小鉄車11の歯11bとの間に停止のリスクはなく、また利用者が停止を克服しようとした場合でも、巻真Tの第2位置から第3軸方向位置に直接移行するリスクはない。
【0081】
このように、本発明による時計装置は、ムーブメントの平面に配置された単一のカンヌキによって、先行技術の機構の既知の課題を解決できるようにする。その上、このカンヌキは、2つの位置を有する機構にも、3つの位置を有する機構にも適しているという利点を有し、このことは、先行技術で既知の機構よりも簡単で、合理的な設計を可能にする。これらの機構間の分化は、巻真Tの位置を画定するジャンパの突端26と、修正車との組み立ての際になされ得る(
図9及び
図10を参照)。
【0082】
垂直クラッチは、第1歯車と、第2歯車とを含む。これら第1及び第2歯車は、少なくともクラッチが動作中である時に、互いに回転連動する。これら歯車の各々は、少なくともクラッチが動作中である時に、動的チェーンの駆動車と、この動的チェーンの従動車とそれぞれ噛み合う。垂直クラッチは、第1位置と、第2位置との間で、第1及び第2歯車の回転軸に沿って並進移動可能な要素を含む。第1位置は、クラッチ連動した位置に対応し、かつ第2位置は、クラッチ連動を解除した位置に対応する。戻し要素は、可動要素を第1位置又は第2位置に引き戻す。可動要素の第1位置において、第1及び第2歯車は、回転連動し、かつ第1及び第2歯車は各々が、動的チェーンの駆動車と、動的チェーンの従動車とそれぞれ噛み合う。可動要素の第2位置において、第1及び第2歯車は、回転連動せず、および/又は第1歯車は、動的チェーンの駆動車と噛み合わず、および/又は第2歯車は、動的チェーンの従動車と噛み合わない。
【0083】
クラッチの第1の実施態様において、可動要素の第2位置で、第1及び第2歯車は、回転連動しない。例えばこのことは、第1及び第2歯車の前歯によって実行でき、これらの歯は、歯車が互いに離される時、その連動が解除されるように画定される。
【0084】
クラッチの第2の実施態様において、可動要素の第2位置で、第1歯車は、動的チェーンの駆動車と噛み合わず、および/又は第2歯車は、動的チェーンの従動車と噛み合わない。例えばこのことは、歯車の一方又は両方の歯車の軸方向移動によって実行でき、この移動は、歯車の少なくとも一方が、駆動車又は従動車ともはや噛み合わないようになされる。変形例において、第1及び第2歯車は、融合できる。
【0085】
従って「垂直クラッチ」とは、歯車と、第1位置と、第2位置との間で、歯車の回転軸に沿って並進移動可能な要素とを含むクラッチを意味し、第1位置は、クラッチ連動位置に対応し、かつ第2位置は、クラッチ連動解除位置に対応する。歯車の回転軸は、特に時計の枠の平面にほぼ垂直であってもよい。歯車の回転軸は、同様に時計の枠の平面にほぼ平行であってもよい。