(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基油が、炭素/酸素モル比が2.5以上5.8以下のエステル及び炭素/酸素モル比が2.5以上5.8以下のエーテルから選ばれる少なくとも1種であり、前記冷凍機油の40℃における動粘度が3〜300mm2/sである、請求項1に記載の冷凍機油。
前記基油が、炭素数4以上9以下の脂肪酸と炭素数4以上12以下の多価アルコールとから合成されるポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの両末端の水酸基をエーテル化した化合物及びポリビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の冷凍機油。
前記スルフィド化合物がチオビスフェノール化合物であり、前記没食子酸エステルが炭素数1〜18のアルキル基を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の冷凍機油。
前記冷媒が、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、二酸化炭素及び炭素数2〜4の炭化水素から選ばれる少なくとも1種を含有する冷媒である、請求項7に記載の冷凍機用作動流体組成物。
前記冷媒が、ジフルオロメタン及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種を含有する冷媒である、請求項7又は8に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【背景技術】
【0002】
現在、冷蔵庫、カーエアコン、ルームエアコン、産業用冷凍機などの冷媒として、ハイドロフルオロカーボン(HFC)である1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)や、ジフルオロメタン(R32)とペンタフルオロエタン(R125)の質量比で1/1の混合冷媒であるR410Aなどが広く使用されている。しかし、これらのHFC冷媒はオゾン破壊係数(ODP)がゼロであるものの、地球温暖化係数(GWP)が1000以上と高いことから、いわゆるF−ガス規制により使用が制限されてくる。
【0003】
GWPの高い冷媒の代替としては2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)やジフルオロメタン(R32)単独が、その熱力学的特性から候補として検討されている。これらの冷媒や、他の冷媒との混合冷媒も、GWPと各種特性のバランスをとったものが検討されている。HFC冷媒の代替としては低GWPであることが必須であり、HFO−1234yfのGWPは4と低い。R32のGWPは675と若干高めではあるが、ガスの圧力が高く、高効率冷媒であることから有力候補として検討されている。
【0004】
また、既に冷蔵庫用で実用化されているイソブタン(R600a)やプロパン(R290)のような炭化水素冷媒が、GWPが20以下と低く、物性値が好適であることから、可燃性ではあるものの、検討されており、GWPが基準の1である二酸化炭素(R744)も単独あるいは不燃化のために混合する冷媒として検討されている。
【0005】
これらの冷媒を使用する場合、潤滑条件が厳しくなることから、冷媒と冷凍機油が混合した作動流体には従来以上に高い耐摩耗性が求められる。
【0006】
一般に潤滑油の潤滑性を向上させる耐摩耗添加剤としては、アルコール、エステル、長鎖脂肪酸などの油性剤や、リン酸エステル、金属ジチオホスフェートなどの耐摩耗剤、有機硫黄化合物、有機ハロゲン化合物などの極圧剤が知られている。冷凍機油の場合は、冷媒と共存しても析出せず、かつ安定性に悪影響しない添加剤でないと使用できないことから、アルコール系、エステル系の油性剤やリン酸エステルのうちトリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェートが使用されている。
【0007】
また、特許文献1ではリン系添加剤と特定のエポキシ化合物を併用添加する冷凍機用を含む潤滑油を、特許文献2ではHFC冷媒用としてトリフェニルフォスフェートとトリ(アルキルフェニル)フォスフェートを併用添加する圧縮機用潤滑油を、特許文献3ではHFC冷媒用としてトリクレジルフォスフェートと、グリシジルエーテルからなるエポキシあるいはカルボジイミドを添加した冷凍機油を提案している。
【0008】
しかし、これらの添加剤のうち油性剤は吸着による潤滑皮膜であるため、混合潤滑領域のような比較的負荷条件がマイルドな場合は摩擦係数を低く維持できるが、負荷条件が厳しくなると耐摩耗の効果が失われる。一方、トリフェニルフォスフェートやトリクレジルフォスフェートは一定程度の耐摩耗効果はあるものの、潤滑条件が厳しい低GWP冷媒共存下での耐摩耗性としては不充分である。
【0009】
これらのことから、より高い耐摩耗性のある冷凍機油が求められており、冷凍・空調システム内では冷媒と混合した作動流体として高い耐摩耗性を有するものが要求されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に係る冷凍機油は、基油並びに冷凍機油全量を基準としてスルフィド化合物0.01〜2.0質量%及び没食子酸エステル10〜500質量ppmを含有し、40℃における動粘度が3〜500mm
2/sである。
【0016】
本実施形態においては、基油は、鉱油系基油及び合成油系基油から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの基油を2種以上混合して用いてもかまわない。
【0017】
鉱油系基油としてはパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、混合基系鉱油があるが、いずれも原油を常圧蒸留し、さらに減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化精製、水素化分解、溶剤脱蝋、水素化脱蝋、白土処理等の潤滑油精製手段を適宜組合せて処理して得られた精製潤滑油留分であり、好適に用いることができる。そのうち組成を制御する工程は溶剤抽出、水素化精製、水素化分解であり、流動点などの低温特性をコントロールする工程は蝋分を除く溶剤脱蝋、水素化脱蝋であり、白土処理は主に窒素分を除去し、基油の安定性を向上させる工程である。各種の原料と各種の精製手段の組み合わせから得られた性状の異なる精製潤滑油留分を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
また、合成油系基油としては、エステル、エーテルのような含酸素化合物や、ポリ−α−オレフィン(PAO)、エチレン−α−オレフィンオリゴマー、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンのような炭化水素油が挙げられる。
【0019】
基油とする含酸素化合物のうち、エステルは様々な分子構造の化合物があり、それぞれ特有の粘度特性、低温特性を有し、同一粘度である炭化水素系基油と比べると引火点が高いという特徴のある基油である。エステルは、アルコールと脂肪酸を脱水縮合反応して得ることができるが、本実施形態においては、化学的な安定性の面で、二塩基酸と1価アルコールとのジエステル、ポリオール(特にはネオペンチルポリオール)と1価脂肪酸とのポリオールエステル、またはポリオールと多価塩基酸と1価アルコール(又は1価脂肪酸)とのコンプレックスエステルを好適な基油成分として挙げることができる。
【0020】
この含酸素化合物としてエステルを用いる場合、極性が大きい低GWP冷媒(R32等)との相溶性の点から、炭素/酸素モル比が2.5以上で5.8以下であるエステルが好ましい。さらには、低GWPである各種冷媒との相溶性により優れる、直鎖あるいは分岐の炭素数4〜9の脂肪酸と炭素数4〜12の多価アルコールとから合成されるポリオールエステルがより好ましい。
【0021】
炭素数4〜9の直鎖脂肪酸としては、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸が挙げられる。分岐脂肪酸としては、具体的には、分岐状のブタン酸、分岐状のペンタン酸、分岐状のヘキサン酸、分岐状のヘプタン酸、分岐状のオクタン酸、分岐状のノナン酸が挙げられる。さらに具体的には、α位及び/又はβ位に分岐を有する脂肪酸が好ましく、2−メチルプロパン酸、イソブタン酸、2−メチルブタン酸、2−メチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、2−エチルペンタン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸などが好ましく、中でも2−メチルプロパン酸、2−エチルヘキサン酸及び/又は3,5,5−トリメチルヘキサン酸が最も好ましい。なお、炭素数4〜9の脂肪酸以外の脂肪酸を含んでいてもよい。
【0022】
多価アルコールとしては、水酸基を2〜6個有する多価アルコールが好ましい。また、多価アルコールの炭素数は4〜12が好ましい。具体的には、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ−(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ−(ペンタエリスリトール)などのヒンダードアルコールが好ましい。冷媒との相溶性及び加水分解安定性に優れることからペンタエリスリトール又はペンタエリスリトールとジ−(ペンタエリスリトール)の混合エステルが最も好ましい。
【0023】
基油とする含酸素化合物のうち、エーテルとしてはポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの一方の末端又は両末端をエーテル化した化合物、ポリビニルエーテルなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体などがある。片末端の水酸基をエーテル化し、残りの末端を水酸基のまま残したものが一般的であるが、両末端をエーテル化した化合物が低吸湿性であり好ましく、骨格としては吸湿性の高いオキシエチレンよりも、オキシプロピレンタイプが好ましい。末端をエーテル化する場合、冷媒との相溶性からアルキル基としては炭素数が1〜4が好ましく、炭素数が少ないほど相溶性は良くなる。相溶性、安定性、電気絶縁性、低吸湿性などを考慮すると、両末端をメチルエーテル化したポリプロピレングリコールが最も好ましい。
【0024】
基油とする好ましいポリビニルエーテルは、下記一般式(1)で表される構造単位を有する。このポリビニルエーテルは、その構造単位が同一である単独重合体であっても、2種以上の構造単位で構成される共重合体であってもよいが、共重合体にすることにより特性をバランスよく調整できることから、好ましい。
【化1】
[式中、R
1,R
2およびR
3は同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭化水素基を示し、R
4は二価の炭化水素基または二価のエーテル結合酸素含有炭化水素基を示し、R
5は炭化水素基を示し、mは0以上の整数を示し、mの平均値が0〜10となるような数が好ましく、R
1〜R
5は構造単位毎に同一であっても異なっていてもよく、一の構造単位においてmが2以上である場合には、複数のR
4Oは同一でも異なっていてもよい。]
【0025】
これらのエーテルについても、低GWP冷媒、特にはR32を含有する冷媒との相溶性に優れる炭素/酸素モル比が2.5以上で5.8以下であるエーテルがより好ましい。
【0026】
合成系基油となる炭化水素油のうち、幅広く使用されているのはPAOであり、α−オレフィンの重合体であることから、その重合度によって特性が決定される。冷凍機用潤滑油の分野ではアルキルベンゼンが使用されているが、アルキル基の構造により直鎖タイプと分岐タイプがあり、特性が異なることから目的に応じて使い分けられている。
【0027】
通常、これら鉱油系、合成油系の基油は適宜組み合わせ、用途ごとに要求される様々な性能を満たすように適宜の割合で配合することができる。このとき、鉱油系及び合成油系の基油はそれぞれ複数用いてもかまわない。
【0028】
本実施形態におけるスルフィド化合物としては、モノスルフィド化合物、ジスルフィド化合物、ポリスルフィド化合物などのいずれを用いることもできるが、モノスルフィド化合物が好ましい。モノスルフィド化合物は、例えばジスルフィド化合物に比べて活性が低く、冷凍機油の安定性、冷凍機器内部に多く使用されている銅の変質の抑制などの点で好ましい。
【0029】
スルフィド化合物として、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィド、ジデシルスルフィド、ジドデシルスルフィド、チオビスフェノール化合物などが挙げられるが、本発明の用途には、一般に酸化防止剤として知られており、ラジカル捕捉能を有し安定剤でもある、チオビスフェノール化合物が好ましい。チオビスフェノール化合物としては、次の一般式(2)で表される化合物が好ましく用いられる。
【化2】
(式中、R
6およびR
7は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭化水素基を示し、p、q、rおよびsは同一でも異なっていてもよく、それぞれp+q,r+sの合計が0〜5となる0〜5の整数を示す。ただし、qまたはsの少なくともいずれか一方は1以上である。また、tおよびuは同一でも異なっていてもよく、それぞれ0〜10の整数を示す。)
【0030】
一般式(2)中、R
6およびR
7は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭化水素基を示し、p、q、rおよびsは同一でも異なっていてもよく、それぞれp+q、r+sの合計が0〜5となる0〜5の整数を示す。ただし、qまたはsの少なくとも一方は1以上であり、両者が1であるものが最も好ましい。また、tおよびuは同一でも異なっていてもよく、それぞれ0〜10の整数を示す。tおよびuは0〜4が好ましく、両者が0あるいは1であるものがより好ましく、両者が0であるものが最も好ましい。炭化水素基として好ましいものは、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、フェニル基であって、具体的には例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0031】
一般式(2)で表される化合物の好ましい例としては、具体的には、4,4’−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2,6−ジターシャリーブチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4,6−ジ−ターシャリーブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−ターシャリーブチル−4−ハイドロキシベンジル)スルフィドなどを挙げることができる。
【0032】
スルフィド化合物の含有割合は、冷凍機油全量を基準として、0.01〜2質量%であり、好ましくは0.05〜1質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。上記範囲では、耐摩耗性向上効果が高く、かつ、雰囲気によって腐食摩耗をおこすおそれもなく、好ましい。
【0033】
本実施形態における没食子酸エステルに関して、没食子酸は芳香環に水酸基が3個結合した芳香族カルボン酸であり、別名、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸である。そして、没食子酸とアルコールが反応したエステルが没食子酸エステルである。没食子酸エステルとしては、没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸イソアミル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシルなどがあり、食品用添加剤として使用されているものもある。本実施形態における没食子酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜18の化合物が好ましくアルキル基の炭素数が18を超えると、その耐摩耗の効果が低下する。炭素数1〜8のアルコールとのエステルがより好ましく、没食子酸エチル、没食子酸プロピルが最も好ましい。
【0034】
没食子酸エステルの含有割合は、冷凍機油全量を基準として10〜500質量ppmであり、好ましくは10〜100質量ppmである。上記範囲とすることで、安定性が高く、かつ、基油への溶解性が低下して低温で析出することもなく、十分な耐摩耗性向上効果が得られる。
【0035】
本実施形態において、冷凍機油は、耐摩耗添加剤としてさらに正リン酸エステルを含有することができる。
【0036】
正リン酸エステルの好ましい化合物としては、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルフォスフェート(TCP)、炭素数3〜4のアルキル基を有するアルキルフェニルフォスフェート(APP)などが挙げられる。TPP、TCPは単一構造物であるが、APPはアルキルフェニルが1個(モノ−タイプ)、2個(ジ−タイプ)、3個(トリ−タイプ)の混合物となっているが、その比に特に限定はない。
【0037】
正リン酸エステルの含有割合は、冷凍機油全量を基準として、好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜2質量%、さらに好ましくは0.2〜1.5質量%である。上記範囲とすることで、十分な耐摩耗性向上効果が得られ、かつ、高い安定性が得られる。
【0038】
本実施形態においては、冷凍機油に、さらにペンタエリスリトールテトラ(2−エチルヘキサノアート)を配合することにより、作動流体の耐摩耗性が大幅に向上する。ペンタエリスリトールテトラ(2−エチルヘキサノアート)は、ペンタエリスリトールと2−エチルヘキサン酸から合成されるエステルである。これらはペンタエリスリトールの全ての水酸基がエステル化された完全エステル(「フルエステル」ともいう。)であることが望ましい。これらのエステルの酸価としては0.1mgKOH/g以下、水酸基価としては10mgKOH/g以下がそれぞれ好ましい。上記エステルの配合量は、冷凍機油全量を基準として2〜20質量%であり、基油のタイプ、粘度で最適な配合量は異なるが、好ましくは2〜7質量%である。そのメカニズムは明らかにはなっていないが、多くても少なくても大幅な耐摩耗性向上の効果が発揮されない。
【0039】
本実施形態においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、冷凍機油に、従来から潤滑油に用いられている、酸化防止剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、極圧剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤などの添加剤を、より性能を向上させるために含有することができる。
【0040】
酸化防止剤としてはジ−ターシャリーブチル−p−クレゾールのようなフェノール系化合物、アルキルジフェニルアミンのようなアミン系化合物など、摩擦調整剤としては脂肪族アミン、脂肪族アミド、脂肪族イミド、アルコール、エステルなど、摩耗防止剤としては、酸性リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛など、極圧剤としては硫化オレフィン、硫化油脂など、防錆剤としてはアルケニルコハク酸エステルまたは部分エステルなど、金属不活性化剤としてはベンゾトリアゾール、チアジアゾールなど、消泡剤としてはシリコーン化合物、ポリエステル化合物などがそれぞれ挙げられる。
【0041】
冷凍機油の40℃における動粘度は、3〜500mm
2/sであり、好ましくは3〜300mm
2/s、より好ましくは5〜150mm
2/sである。上記範囲とすることで、十分な耐摩耗性と、冷媒との相溶性を高めることができる。
【0042】
冷凍機油の40℃における動粘度以外の性状は特に限定されないが、粘度指数は10以上が好ましい。また、流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下である。また、引火点は、好ましくは120℃以上、より好ましくは200℃以上である。
【0043】
また、冷凍機油の酸価についても特に限定されないが、冷凍機又は配管に用いられている金属への腐食を防止し、冷凍機油自身の劣化を抑制するために、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明における酸価とはJIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和試験方法」に準拠して測定した酸価を意味する。
【0044】
冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、最も好ましくは50ppm以下である。特に密閉型の冷凍機に用いる場合には、冷凍機油の安定性や電気絶縁性への観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0045】
冷凍機器の場合は、前述したように地球温暖化防止の観点から地球温暖化係数(GWP)の高い現行のHFC冷媒から、低GWPの冷媒に移行する動きにあり、それに適応する冷凍機油が求められている。
現在は1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)が冷蔵庫及びカーエアコン用として、ジフルオロメタン(R32)とペンタフルオロエタン(R125)の質量比1/1の混合冷媒であるR410Aがルームエアコン用として広く使用されている。これらの冷媒用の冷凍機油の基油としては、適度な相互溶解性(相溶性)のあるエステル、ポリエーテル、特にはポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテルが適している。
【0046】
冷凍・空調機器の冷媒循環サイクルにおいては、コンプレッサを潤滑する冷凍機油が冷媒とともにサイクル内を循環するため、冷凍機油と冷媒の相溶性が要求される。冷凍機油と冷媒が相溶しないと、コンプレッサから吐出された冷凍機油がサイクル内に滞留しやすくなり、その結果、コンプレッサ内の油量が低下し潤滑不良による摩耗や、キャピラリ等の膨張機構を閉塞するといった問題を生じる。
【0047】
しかし、上記の冷媒はいずれもGWPが1000以上と高いことから、いわゆるF−ガス規制により使用が制限される見込みである。その代替として、低GWPの不飽和炭化水素であるハイドロフルオロオレフィン(HFO)やジフルオロメタン(R32)あるいはイソブタン(R600a)やプロパン(R290)のような炭化水素冷媒、二酸化炭素(R744)、さらにはそれらを含む混合冷媒が検討されており有力候補となっている。
【0048】
不飽和炭化水素としては、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)などがある。これらのHFO冷媒は分子内に分解されやすいオレフィン構造を有することから、GWPが低い反面、安定性が低いという特徴がある。特に、高荷重の条件下では金属/金属接触によるしゅう動部での局部的発熱により、摩耗とともに冷媒の分解が促進されてフッ酸が生成されるため、冷媒と冷凍機油が相溶した作動流体の劣化につながるおそれがあるとともに潤滑性に関しては腐食摩耗の原因となりうるため、冷凍機油の潤滑性は極めて重要な特性である。
【0049】
また、沸点が低く高圧なハイドロフルオロカーボン(HFC)であるR32あるいはR32を多く含む混合冷媒の場合はコンプレッサの吐出温度が高くなるため、冷凍機油の油膜が薄くなり、厳しい潤滑条件となる。また、炭化水素冷媒の場合は、炭化水素分子内に潤滑性向上に寄与するフッ素がないことと、冷凍機油への溶解度が高いことから冷凍機油の粘度を下げ、厳しい潤滑条件となる。このように低GWPである冷媒候補は、潤滑性の観点からはいずれも厳しい条件となることから、使用される冷凍機油には高い潤滑性が求められる。
【0050】
本実施形態における冷媒には特に限定はないが、相溶する冷媒、つまり常温で二層分離しないで相溶する冷媒が好ましい。また、環境保護の面から、地球温暖化係数(GWP)が700以下のものが好ましく、特にはハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、二酸化炭素(R744)、炭素数2〜4の炭化水素から選ばれる1種以上を含有するものがより好ましく、ジフルオロメタン(R32)及び/又は2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)を含有する冷媒が最も好ましい。
【0051】
本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物において、冷凍機油/冷媒の配合割合は特に制限されないが、通常、冷媒100重量部に対して1〜1000重量部であり、好ましくは2〜800重量部である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0053】
[実施例1〜12、比較例1〜10]
実施例1〜12および比較例1〜10においては、次に示す基油、添加剤を用いて、表1〜3に示す組成を有する冷凍機油を調製した。なお、表1〜3に示した基油及び添加剤の含有割合は、いずれも冷凍機油全量を基準とする含有割合である。
【0054】
[基油]
(A−1)ポリオールエステル(POE−1):ペンタエリスリトールと、2−メチルプロパン酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸が質量比で35:65の混合酸とのエステル(動粘度68.1mm
2/s@40℃、粘度指数84、流動点−40℃、引火点240℃)
(A−2)ポリオールエステル(POE−2):ペンタエリスリトールと、2−エチルヘキサン酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸が質量比で50:50の混合酸とのエステル(動粘度66.7mm
2/s@40℃、粘度指数92、流動点−40℃、引火点248℃)
(A−3)ポリアルキレングリコール(PAG):両末端がメチル基で封鎖されたポリオキシプロピレン(平均分子量1000、動粘度46.0mm
2/s@40℃、粘度指数190、流動点−45℃、引火点218℃)
(A−4)ポリビニルエーテル(PVE):エチルビニルエーテルとイソブチルビニルエーテルの共重合体(エチルビニルエーテル:イソブチルビニルエーテルが重量比で7:1)、(平均分子量910、動粘度66.4mm
2/s@40℃、粘度指数85、流動点−35℃、引火点210℃)
(A−5)鉱油(MO):パラフィン系精製鉱油(動粘度22.3mm
2/s@40℃、粘度指数95、流動点―15℃、引火点200℃)
なお、動粘度及び粘度指数はJIS K2283、流動点はJIS K2269、引火点は JIS K2265に準拠し測定した。
【0055】
[スルフィド化合物]
(S−1)ジベンジルスルフィド
(S−2)ジドデシルスルフィド
(S−3)4,4’−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)
【0056】
[没食子酸エステル]
(G−1)没食子酸プロピル(n−プロピルガレート)
(G−2)没食子酸オクチル(n−オクチルガレート)
【0057】
[正リン酸エステル]
(P−1)トリクレジルフォスフェート(TCP)
【0058】
[その他の配合基材]
(D−1)ペンタエリスリトールテトラ(2−エチルヘキサノアート)(ペンタエルスリトールと2−エチルヘキサン酸のエステル、酸価0.01mgKOH/g、水酸基価1.2mgKOH/g)
【0059】
次に、実施例1〜12及び比較例1〜10の冷凍機油を、表1〜3に示す各種冷媒と組み合わせて、以下の潤滑性試験及び安定性試験を行った。なお、表1〜3中の「1234yf」はHFO−1234yfを意味する。
【0060】
(潤滑性試験)
潤滑性試験は、ASTM D3233−73に準拠し、ファレックス(ピン/Vブロック)試験機を用いて、一定荷重での摩耗試験を行った。
ファレクス摩耗試験は、冷媒吹き込み制御雰囲気下(70ml/min)、初期温度50℃、回転数290rpm、荷重50Lbfでならし運転を5分間行い、その後に、同じ回転数で本試験を荷重100Lbfで1時間行い、試験後のピンとVブロックの摩耗量の合計値(mg)を測定した。
なお、吹き込み冷媒としてはR32、HFO−1234yf、R600a(イソブタン)を使用した。
【0061】
(安定性試験)
安定性試験は、JIS K2211−09(オートクレーブテスト)に準拠し、含有水分量を100ppmに調整した試料油90gをオートクレーブに秤取し、触媒(鉄、銅、アルミの線、いずれも外径1.6mm×長さ50mm)と各々の冷媒(R32、HFO−1234yf、R600a)10gを封入した後、175℃に加熱し、100時間後の試料油の外観と酸価(JIS C2101)を測定した。
なお、安定性試験前の試料油(新油)の酸価は、すべて0.01mgKOH/gであった。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
安定性については、表1〜3からわかるように、HFO−1234yfとの組合せで若干の酸価の上昇はあるものの、実施例1〜12は問題のないレベルであり、比較例では没食子酸プロピル(G−1)を多く配合した比較例6で析出と酸価の上昇がみられた。
【0066】
潤滑性について、実施例1〜12はすべて摩耗量が少なく、耐摩耗性が良好なことがわかる。特には、さらに正リン酸エステル(P−1)を配合した実施例3、8や配合基材(D−1)を配合した実施例4の摩耗量が少ないことがわかる。
それに対し、比較例1、2は摩耗量がかなり多く、また、比較例3〜10では、比較例1、2に比べれば摩耗量は低減されるものの、添加剤配合量が実施例より多い場合でも、その耐摩耗の効果は実施例にははるかに及ばないことがわかる。例えば、実施例1、2と比較例3、4を比べると、スルフィド化合物と少量の没食子酸エステルの配合で耐摩耗性が大幅に向上していることがわかる。また、比較例5の没食子酸エステルのみの添加ではそれほどの耐磨耗効果はない。比較例6では耐摩耗性が若干向上しているものの安定性が低下しており、腐食摩耗が加味されている可能性がある。