(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定相表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーが被覆され、そのポリマー鎖の温度変化による収縮、膨潤により当該固定相表面と分離したい物質との親和性を変えられる固定相が充填された、物質分離用前処理カートリッジであって、
該固定相が100μm以下の粒径の異なるシリカビーズ、及び/またはポリマービーズの混合物であり、
該ポリマーは、N−イソプロピルアクリルアミドの単独の重合体、もしくはN−イソプロピルアクリルアミドとその他のモノマーとの共重合体であり、
該ポリマーの固定相表面への被覆量は0.8〜10.0mg/m2であり、
該前処理カートリッジの素材は、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコン、及びそれらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体からなる群から選ばれ、
該前処理カートリッジは横断面が円の円筒形であり、流路の一端に試料の送液口を有し、及び流路の他端に試料の溶出口を有する、
前記物質分離用前処理カートリッジ。
【背景技術】
【0002】
現在普及している液体クロマトグラフィー技術は、固定相と移動相との組み合わせや分離に係わる相互作用の様式により多種多様にわたる。この技術により、技術的に制約はあるものの生化学分野の医薬品の分離精製、ペプチドや蛋白質、核酸などの分離が行えるようになってきた。そして、遺伝子工学手法により生産される組換え蛋白質などのバイオ医薬への応用が盛んになるにつれ、これらの分離精製技術のさらなる革新が強まりつつある。
【0003】
現在、生化学分野に広く用いられているクロマトグラフィーとして、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーが挙げられる。イオン交換クロマトグラフィーとは不溶性保持担体表面の電解質を固定相として移動相中に存在する対イオンを可逆的に吸着させることで分離する方法である。保持担体にはシリカ、セルロースやデキストラン、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体などが良く用いられている。これら担体に通常、スルホン酸基、四級アンモニウム基などのイオン交換基が導入される。溶質は、移動相の水素イオン濃度に応じてカチオン、アニオン、両性イオンに解離し、この溶質をイオン交換カートリッジに流した時に担体表面の逆荷電の交換基に移動相内のイオンと競合して結合し、移動相と固定相表面の間に一定の割合で分配する。イオン交換クロマトグラフィーとは、この結合の強さによりカートリッジ内を移動する速度が異なることを利用して分離するものである。この分配の割合は幾つかの方法により変化させることができる。例えば、移動相中の競合するイオン種の濃度を変える方法、或いは移動相の水素イオン濃度を変化させ、担体表面のイオン交換基のイオン化程度の割合を変化させる方法が挙げられる。すなわち、イオン交換クロマトグラフィーにおいては、移動相のイオン強度や水素イオン濃度を調節することで分離する方法が一般的に行われている。その際、移動相として酸や高塩濃度の緩衝液を用いるために分離対象になる生体成分の活性を損なう問題点があった。
【0004】
一方、逆相クロマトグラフィーは、疎水性の固定相と極性の移動相からなる方法である。溶質はその疎水性度に応じて移動相と固定相との間で分配され分離される。この場合にも移動相の溶媒の疎水性度を変化させ移動相と固定相との間の分配を変化させ溶出させている。その際、移動相の溶媒として有機溶媒を用いるために分離対象になる生体成分の活性を損なう問題点があった。生化学分野で有用な医薬品、ペプチド、蛋白質、核酸等の分離はイオン交換クロマトグラフィー技術や逆相クロマトグラフィー技術による方法が一般的である。しかしながら、現行の方法では上述のように分離対象の活性を損なうという問題点があり、そのことは対象物質が本発明のように生理活性を有するポリマー物質となると顕著な課題となり、また仮に分離できたとしてもその効率は極めて低く、以前よりさらなる技術改革が望まれていた。
【0005】
さらに従来の高速液体クロマトグラフィーでは、分離される試料への制約も多かった。すなわち、高速液体クロマトグラフィーとして最も良く使われる逆相クロマトグラフィーの固定相表面はオクタデシルシリル(ODS)基が固定化されており、通常の条件では、タンパク質は固定相表面に付着してしまい、カラムを劣化させてしまう問題点があった。従来の高速液体クロマトグラフィーはシステムとして完成されたものとしての扱いをされているものの、例えば、血液中の血漿をそのままクロマト装置で分析するようなことはできなかった。
【0006】
この問題点を解決すべく、これまでに種々の前処理カラム、プレカラムが提案されている。その一例として、特許文献1では特定の粒子径で2重細孔構造を有する充填剤を利用した前処理カラムが提案されている。ここでは特に試料中に微量含まれる環境関連物質を効率良く分析できるように前処理するものであるが、その処理とは充填剤の細孔を利用するものであり前処理対象の範囲はどうしても限られるものであった。また、特許文献2ではタンパク質の吸着能の高い樹脂、ガラス、セラミック、金属等からなる充填剤で検体中にある免疫学的測定阻害成分を除去する方法が示されている。しかしながら、ここでの方法は検体を免疫学的に測定する際、その測定を妨害するタンパク質等を吸着、除去しているに過ぎなかった。さらに、特許文献3では、表面にタンパク質は入り込めず分析対象のペプチドが入り込める大きさの細孔をもつ細孔性担体の外表面がタンパク質に対して不活性になる処理が施され、細孔内部のみにペプチド分子に対して吸着性をもつ反応基を化学修飾した充填剤が充填されたカラムを用いて試料の前処理を行う方法が提案されている。この方法であれば、試料中のタンパク質を素通りさせることで他の物質から分離できるようになるが、細孔径の均一性により必ずしも厳密にタンパク質を除去することができなかったこと、さらに何よりも細孔内に吸着したペプチドを回収する際は従来技術と同様な操作が必要であり、そのためにペプチドの生理活性が低下すること等の問題点は改善されていなかった。以上のように、多くの前処理技術が提案されているが、いずれの技術も限定された範囲でしか有効でないものであった。
【0007】
そのような中、固定相表面に温度応答性ポリマーを固定化した画期的な高速液体クロマトグラフィー技術が提案された(非特許文献1)。この技術とは、カラム充填剤である固定相表面に固定化された温度応答性ポリマーの温度変化時にとる膨潤、収縮という挙動を固定相表面の親疎水性という性質へ変換させたものであり、その結果、移動相を水系に固定したままで固定相の温度を変えることだけで試料中の物質と固定相表面の相互作用を変えられ、試料中の物質を分離しようとするものである。この方法であれば、分離したい物質は従来技術のように酸や高塩濃度の緩衝液にさらされることがなく、また有機溶媒にさらされることもなく、低損傷な状態で回収できるようになる。今後、さまざまな分野の物質、有用物質、生体関連物質等が分離、分取されるものと期待されている。そして、特許文献4では、移動相を水系に固定したままで、固定相表面の有効荷電密度を物理刺激によって変化させられる荷電を有する共重合体を含む充填剤を用いた高速液体クロマトグラフィーによって分離する技術が提案された。この方法によれば、イオン交換クロマトグラフィーと逆相クロマトグラフィー等のときのような特殊な移動相を使わずに温度変化だけで荷電を有する物質を活性を損なうことなく効率良く分離できるようになった。また、特許文献5では、この温度応答性クロマトグラフィー担体が充填された高速液体クロマトグラフィーへ血液成分である血漿を直接注入し、血漿中の薬物、並びにその代謝物を、除タンパク操作をせずに実施できることを見出した。さらに、最近、その血漿中に最も多く含まれるアルブミンの挙動をラベル化したアルブミンを使って詳細に検討され、温度応答性クロマトグラフィー担体を利用したとき、特定の温度でアルブミンが素通りしていること(すなわち、カラムを劣化させないこと)が確認された(非特許文献2)。さらに、本非特許文献2では、温度応答性クロマトグラフィーでリゾチームを酵素活性を失活させることなく分離、回収できることも検証している。高速液体クロマトグラフィー技術は充填剤表面の改質により、従来技術では想像もつかないような操作を行えるようになってきた。
【0008】
この温度応答性ポリマーを固定化した充填剤による分離技術は高速液体クロマトグラフィーに限られた技術でなく、すなわち、上述したような前処理技術の分野においても有効であると期待される。このような検討は、上記先行技術文献には記載されておらず、また示唆するようなことも記載もなかった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例2で行った分離操作を示すフローチャートである。なお、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の分析条件は次の通りである。カラム:Inertsil
(R)ODS−3(150×4.6mm I.D.5μm)、温度:40℃、溶離液:20mM CH
3COONH
4(pH4.8):CH
3OH=1:1、検出:UV220nm、流速:1.0mL/分、注入容量:10μL
【
図2】
図2は、実施例2で分取したそれぞれの溶液中のカルバマゼピンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2の各分取中のカルバマゼピン量の積算結果を示す図である。矢印は各分取番号が図のどの部分に対応するかを示す。
【
図4】
図4は、実施例3で行った分離操作を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施例3で分取したそれぞれの溶液中の血清、カルバマゼピンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すチャートである。
【
図6】
図6は、実施例3で分取したそれぞれの溶液中のカルバマゼピンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例3の各分取中のカルバマゼピン量の積算結果を示す図である。矢印は各分取番号が図のどの部分に対応するかを示す。
【
図8】
図8は、実施例4で行った分離操作を示すフローチャートである。なお、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の分析条件は次の通りである。カラム:Inertsil
(R)ODS−3(150×4.6mm I.D.5μm)、温度:40℃、溶離液:H
2O:CH
3OH=2:3、検出:UV254nm、流速:1.0mL/分注入容量:20μL
【
図9】
図9は、実施例4で分取したそれぞれの溶液中のヒドロコルチゾンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例4の各分取中のヒドロコルチゾン量の積算結果を示す図である。矢印は各分取番号が図のどの部分に対応するかを示す。
【
図11】
図11は、実施例5で行った分離操作を示すフローチャートである。なお、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の分析条件は次の通りである。カラム:Inertsil
(R)ODS−3(150×4.6mm I.D.5μm)、温度:40℃、溶離液:H
2O:CH
3OH=2:3、検出:UV254nm、流速:1.0mL/分、注入容量:20μL
【
図12】
図12は、実施例5で分取したそれぞれの溶液中のヒドロコルチゾンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、実施例5で分取したそれぞれの溶液中のデキサメタゾンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例5で分取したそれぞれの溶液中のテストステロンをODSカラムによる高速液体クロマトグラフィーで測定した結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例5で分取したそれぞれの溶液中のヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、テストステロンのそれぞれの量の積算結果を示す図である。矢印は各円柱のどの部分が各分取番号に対応するかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の物質分離用前処理カートリッジに充填されている充填剤表面には、0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する温度応答性ポリマーが固定化される。本発明の固定相表面に被覆されているポリマーは温度を変えることで水和、脱水和を起こすものであり、その温度域は0℃〜80℃、好ましくは10℃〜50℃、さらに好ましくは20℃〜45℃である。80℃を越えると移動相が水であるので蒸発等の作業性が悪くなり好ましくない。また、0℃より低いと移動相が凍結する場合があり、やはり好ましくない。本発明に用いる温度応答性ポリマーは単独重合体、あるいは共重合体のいずれであってもよい。このようなポリマーとしては、例えば、特開平2−211865号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいは単独重合体と共重合体の混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。そのような温度応答性ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)などが挙げられる。本発明に用いられる共重合のためのモノマーとしては、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。
【0017】
この中で、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)は32℃に下限臨界温度を有するので、このポリマーで化学修飾した固定相表面はこの臨界温度で親水性/疎水性の表面物性を大きく変化させるため、これをクロマトグラフィーの充填剤の表面にグラフトもしくはコーティングして使用した場合、試料に対する保持力が温度によって変化させられる結果、溶出液の組成を変化させずに保持挙動を温度によってコントロールすることができるようになる。下限臨界温度を32℃以上にするためには、イソプロピルアクリルアミドよりも親水性のモノマーであるアクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、ジメチルアクリルアミド、ビニルピロリドンなどの親水性のコモノマーをN−イソプロピルアクリルアミドと共重合させることによって調整することが可能である。また、下限臨界温度を32℃以下にしたいときは、疎水性モノマーであるスチレン、アルキルメタクリレート、アルキルアクリレートなどとの疎水性のコモノマーとの共重合によって調整することができる。
【0018】
また、ポリジエチルアクリルアミドの下限臨界温度は、約30℃〜32℃であり、この温度を境として親水性/疎水性に表面物性が変化し、前述のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)の場合と同様に、試料に対する保持力を温度によって調整することができる。本発明で利用される新規なクロマトグラフィー用担体は、化学修飾或いはポリマーの被覆によって作製される。
【0019】
本発明で使用される固定相表面のポリマーは荷電されたものを用いても良い。その荷電を与える方法は特に限定されないが、通常、固定相表面に被覆されるポリマー鎖を合成する際、例えば、上述したような温度応答性ポリマーを合成する際、イオン性モノマーも含めて共重合する方法が良い。その結果としては、アミノ基を有するポリマーの構成単位としてジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、アミノスチレン、アミノアルキルスチレン、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド、アルキルオキシアルキルトリメチルアンモニウム塩、(メタ)アクリルアミドアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。また、カルボキシル基を有するポリマーの構成単位としてアクリル酸、メタクリル酸、スルホン酸を有するポリマーの構成単位として(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸等が挙げられる。
【0020】
被覆を施される固定相の材質としては、クロマトグラフィーの担体に用いられるシリカ、多糖類、ガラス、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート等をはじめとして、一般に形態付与が可能である物質、例えば、上記以外のポリマー化合物、セラミックス類など全て用いることができる。また、固定相の形状も特に限定されるものではないが、例えばビーズ(粒子)状充填剤、モノリス型充填剤、さらにはディスク状の充填剤、或いは膜状充填剤のいずれでも良く、これらを2種以上組み合わせたものでも良い。ここで、ビーズ状充填剤のとき、その粒径は100μm以下が良く、好ましくは80μmが良く、さらに好ましくは60μm以下が良い。粒径が100μm以上であると試料を十分に充填剤表面に接触させられず、本発明である物質分離用前処理カートリッジとして好ましくない。また、粒径の下限については特に制約はないが、細かな粒径の充填剤が多くなるとそれを充填するカラムの圧損が高くなり、装置を使った高速液体クロマトグラフィーとなり本発明の物質分離用前処理カートリッジとしては好ましくない。すなわち、本発明においては、特別な装置を使わずして前処理ができる程度の粒径分布の充填剤であることが必須となる。また、ビーズ状充填剤の細孔径については特に限定されないが、10〜100nmが良く、好ましくは20〜90nm、さらに好ましくは30〜80nmが良い。本発明の場合、上述の通り、特別な装置を利用するものではなく、低中圧下で試料を展開させるため細孔径が大きく影響することはなく、細孔の全くないものでも使用できる。本発明では、充填剤はモノリス型のもので良く、ディスク状のものでも良く、或いは膜状のものでも良い。その流路のサイズは特に限定されるものではないが、細かな流路が多くなると圧損が高くなり、装置を使った高速液体クロマトグラフィーとなり本発明の物質分離用前処理カートリッジとしては好ましくない。すなわち、本発明においては、特別な装置を使わずして前処理ができる程度の流路分布であることが必須となる。
【0021】
固定相表面へポリマーを導入するための固定化方法は表面グラフト法とラジカル重合法を用いることができる。表面グラフト法は一定の大きさの温度応答性高分子を始めに合成して、担体に接合する方法であるのに対して、ラジカル重合法では担体表面上でモノマーから重合させ高分子を構築する方法である。表面グラフト法に比較し、担体表面に密に温度応答性高分子を導入することが可能である。担体表面の疎水性度を増大させ、保持時間をコントロールしやすくなる。また、担体表面でのシリカゲルとの相互作用による非特異的吸着を抑えることができる。固定相表面へのポリマーの被覆方法は、具体的には、例えば、特開平2−211865号公報に記載されている方法に従って良く、特に限定されるものではない。すなわち、かかる被覆は、基材と上記モノマーまたはポリマーを、シランカップリング剤によるカップリング反応、熱反応、電子線照射(EB)、γ線照射、紫外線照射、プラズマ処理、コロナ処理、有機重合反応等が挙げられる。
【0022】
そのラジカル重合法としては、基材表面に固定化された開始剤よりリビングラジカル重合法で温度応答性ポリマーを固定化するものであれば特に限定されるものでない。一例として、基材表面に重合開始剤を固定化し、その開始剤から触媒の存在下で原子移動ラジカル法(ATRP重合法)により温度応答性ポリマーを成長反応させる方法が挙げられる。その際に使用する開始剤は特に限定されるものではないが、本発明のように基材がシリカやガラスの場合、例えば、1−トリクロロシリル−2−(m−クロロメチルフェニル)エタン、1−トリクロロシリル−2−(p−クロロメチルフェニル)エタン、或いは1−トリクロロシリル−2−(m−クロロメチルフェニル)エタンと1−トリクロロシリル−2−(p−クロロメチルフェニル)エタンの混合物、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、(3−(2−ブロモイソブチリル)プロピル)ジメチルエトキシシランなどがあげられる。本発明では、この開始剤よりポリマー鎖を成長させる。その際の触媒としては特に限定されるものでないが、水和力が変わるポリマーとしてN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体を選んだ場合、ハロゲン化銅(Cu
IX)としてCu
ICl、Cu
IBr等があげられる。また、そのハロゲン化銅に対するリガンド錯体も特に限定されるものではないが、トリス(2−(ジメチルアミノ)エチル)アミン(Me
6TREN)、N,N,N’,N’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン(HMTETA)、1,4,8,11−テトラメチル 1,4,8,11−アザシクロテトラデカン(Me
4Cyclam)、ビピリジン等があげられる。さらに、別の方法として、上述した基材表面に固定化された開始剤から、可逆的付加−開裂連鎖移動型ラジカル重合法(RAFT重合法)でRAFT剤共存下で表面開始型ラジカル重合法により温度応答性ポリマーを成長反応させる方法が挙げられる。その際に使用する開始剤は特に限定されるものではないが、本発明のように基材がシリカやガラスの場合、シランカップリング剤を介して、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ‐2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)、2,2’−アゾビス[(2−カルボキシエチル)−2−(メチルプロピオンアミジン)(V−057)などがあげられる。本発明では、この開始剤よりポリマー鎖を成長させる。その際に使用されるRAFT剤としては特に限定されるものでないが、ベンジルジチオベンゾエート、ジチオ安息香酸クミル、2−シアノプロピルジチオベンゾエート、1−フェニルエチルフェニルジチオアセテート、クミルフェニルジチオアセテート、ベンジル1−ピロールカルボジチオエート、クミル1−ピロールカルボジチオエート等があげられる。
【0023】
本発明で重合時に使用する溶媒については特に限定されないが、ATRP重合法の場合、イソプロピルアルコール(IPA)が好適である。発明者らは種々の検討を行ったところ、まず、温度応答性ポリマーの原料としてN−イソプロピルアクリルアミドを選択し、原子移動ラジカル重合反応を室温で溶液中で行った場合では、反応溶媒としてジメチルホルムアルデヒド(DMF)、水、IPAのいずれを選択しても同程度に反応速度が大きいことが分かった。原子移動ラジカル重合法(ATRP法)の場合、ATRP重合開始剤を固定化し、上述の通り、例えばイソプロピルアルコールを溶媒として、その開始剤から重合触媒下で原子移動ラジカル法により、荷電を有し、0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを成長反応させる方法であるが、その他の重合時の開始剤濃度、ハロゲン化銅濃度、リガンド錯体濃度、反応温度、反応時間等は特に限定されるものではなく、目的に応じて変更して良い。さらに反応液の状態は静置させても攪拌しても良いが、担体表面に均一に固定化することを考えると後者の方が好ましい。また、RAFT重合時に使用する溶媒としては、1,4−ジオキサン、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)等が好適である。この溶媒についても何ら限定されるものではないが、重合反応に使用するモノマー、RAFT剤および重合開始剤の種類によって、適宜、選択できる。RAFT重合開始剤を固定化し、1,4−ジオキサンなどの溶媒を使用して、その開始剤からRAFT剤共存下で表面開始型ラジカル重合法により、0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを成長反応させる方法であるが、その他の重合時の開始剤濃度、RAFT剤濃度、反応温度、反応時間等は特に限定されるものではなく、目的に応じて変更して良い。さらに反応液の状態は静置させても攪拌しても良いが、担体表面に均一に固定化することを考えると後者の方が好ましい。また、RAFT法により温度応答性ポリマーを固定化した場合、ATRP法のように金属イオンを使用する必要がなく、温度応答性ポリマーを固定化した後の基材洗浄の手間がなく好都合である。また、重合条件そのものについてもRAFT法の方が簡便であり好都合である。
【0024】
本発明では、上述したポリマーが高密度に固定化されている。そして、その固定化法としてATRP法、或いはRAFT法を選んだ場合、その固定化程度は、単位面積あたりの分子鎖数にして、0.08分子鎖/nm
2以上が良く、好ましくは0.1分子鎖/nm
2以上が良く、さらに好ましくは0.12分子鎖/nm
2以上が良い。基材表面へのポリマーの固定化程度が0.08分子鎖/nm
2以下であると、従来法による基材表面へのポリマー固定化と同様に個々のポリマー鎖の特性が発現するだけで本発明の担体として好ましくない。固定化程度を示す数値の算出方法は特に限定されるものではないが、例えば同様な反応条件で基材表面に固定化されていないポリマーを作製し、そのポリマー鎖を分析することで求めた分子量とポリマーが固定化された担体の元素分析などから求めたポリマー固定化量から算出できる。
【0025】
被覆されるポリマーの分子量は0〜80℃の温度範囲内で水和力の変化が発現するに十分に大きな分子量であれば特に制約されるものではないが、ポリマー分子量は1000以上が良く、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上のものが良い。分子量が1000以下であると、分子量が低すぎるため、水和力の変化を発現できず好ましくない。また、分子量が5000以上であると、今度はポリマーの分子量が高すぎるため、分子そのものが嵩高くなり温度応答性が減少してしまうこととなり好ましくない。
【0026】
また、本発明で示すところの基材上へのポリマーの固定化量は0.8〜10.0mg/m
2の範囲が良く、好ましくは0.9〜8.0mg/m
2の範囲、さらに好ましくは1.0〜6.0mg/m
2の範囲が良い。0.8mg/m
2以下であると温度応答性が認められなくなり、また10.0mg/m
2より高い値であってもポリマーの嵩高さのため温度応答性が減少してしまうこととなり好ましくない。固定化量の測定は常法に従えば良く、例えば元素分析、ESCAを量などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。本発明で固定化されるポリマーの状態は特に限定されるものではなく、直鎖状のものでも良く、架橋状態のものでも良いが、温度に対する応答性を高めること、基材表面に高密度に固定化することを達成するには前者の直鎖状のものが好ましい。
【0027】
本発明においては、上述した材質、形状の基材が充填されたカートリッジである。そのカートリッジの形状は特に限定されるものではないが、本発明の前処理で分離したい物質を十分に分離できるだけの容量を有することが必須であり、測定対象となる試料の量に応じて異なる。カートリッジの形状は、横断面が円、多角形など特に限定されないが、短径(円の場合は直径、多角形の場合は中心を通る最も短い径を意味する)より流路長のほうが長い方が好ましい。例えば、血清または血漿0.1mLに対してカートリッジの容量は0.5μL程度で十分であり、血清または血漿10mLに対してカートリッジの容量は50μL程度で十分であるが、カートリッジ長と断面積にも依存するのでこの限りではない。例えば、通常断面の短径が0.1mm〜30mm、流路長が0.2mm〜100mmの範囲とすることができる。
【0028】
上述したカートリッジの素材としては、各種有機材料、無機材料をあげることができ、例えば、ポリメチルメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコン等の樹脂、それらの高分子化合物を含む共重合体あるいは複合体;石英ガラス、耐圧ガラス、ソーダガラス、ホウ酸ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類、セラミックスおよびその複合体などが好ましく用いられる。それらの製造方法は特に限定されるものではない。
【0029】
本発明によって得られた物質分離用前処理カートリッジによる分離性能はカラム内に充填された担体の温度に影響される。その際、担体への温度の負荷方法は特に制約されないが、例えば担体を充填したカートリッジの全部、もしくは一部を所定の温度にしたアルミブロック、水浴、空気層、ジャケットなどに装着する方法、或いは特定の温度にした試料溶液、移動相を流す方法等が挙げられる。
【0030】
本発明における前処理方法は特に限定されるものではないが、あらかじめ担体表面の特性が変わる温度を確認しておき、その温度を挟むようにして温度変化させながら分離したい物質を分ける方法が挙げられる。この場合、温度変化だけで担体表面の特性が大きく変わるので、物質によってはシグナルの出てくる時間(保持時間)に大きな差が生じることが期待される。本発明の場合、この担体表面の特性が大きく変わる温度を挟むようにして分離することが最も効果的な利用方法である。或いは、別の分離方法の一例としては、得られた温度応答性担体に溶質を一度吸着させ、その後、温度を変えて担体表面の特性を変化させることで吸着した溶質を遊離させるような、キャッチアンドリリース法に基づいて利用する方法が挙げられる。その際に吸着させる溶質量は担体に吸着しうる量を超えていても良く、超えていなくても良い。いずれにせよ一度吸着させ、その後、温度を変えて担体表面の特性を変化させること吸着した溶質を遊離させる利用法である。
【0031】
また、本発明において、試料を物質分離用前処理カートリッジに送液する方法としては、重力による送液、遠心力による送液、注射器等による加圧による送液、吸引による送液など、特に限定されない。最近、マルチウェルタイプの容器に試料を入れ、複数の試料を同時に操作することが良く行われているが、そのようなときもマルチウェルの数に応じて作製されたマルチカートリッジを用いても良く、その際は吸引によって送液する方が簡便である。いずれにせよ、本発明は特別な装置を使うことなく簡便な操作で行うものである。
【0032】
本発明で示される前処理方法としては、移動相として緩衝液を利用すれば良く、有機溶媒を必要としないものである。ここで、緩衝液とは無機塩類を含む水溶液であって、具体的には、リン酸緩衝液、トリスバッファ−、塩化アンモニウム緩衝液等が挙げられるが、通常利用される緩衝液であれば特に制約されるものではない。その無機塩類の濃度は5〜50mMが良く、好ましくは10〜40mMが良く、さらに好ましくは15〜35mMが良い。移動相の無機塩類の濃度が5mMより低いと、分離したい物質が生理活性物質の場合、その活性を損ねる問題があり、また固定相表面に荷電がある場合、その解離度が高くなり、基材表面へ物質が強固に吸着してしまい、その後の操作で担体表面から分離したい物質を剥がすことが困難となり好ましくない。逆に、無機塩類の濃度が50mMより高くなると固定相表面のイオン交換基の解離度が低くなり、担体表面への溶質の保持が困難となり、最終的に溶質を分離することが困難となり好ましくない。
【0033】
以上に示してきた本発明における物質分離用前処理カートリッジを用いれば、さまざまな物質を前処理することができるようになる。そのような例としては、川、海、地下水、土壌等に含まれるダイオキシン、ポリ塩化ビフェニル、農薬、環境ホルモン、重金属、タンパク質等の環境試料の分離、或いは医薬品等に利用できる極めて有用な低分子化合物、ペプチド、タンパク質等の生理活性物質の分離、分取、精製、さらには血液、血漿、尿内の物質を物質の分離、精製等が挙げられるが特に限定されるものではない。その際には、カートリッジ内の温度を変化させるだけで簡便な操作だけで分離が達成でき、分離に有機溶媒を必要としないため分離された分離した物質の変性は認められない。
【0034】
本発明に記載される物質分離用前処理カートリッジを利用することで、簡便な操作で試料から分離したい物質を含む溶液に絞り込むことができるようになる。この前処理方法を利用すれば、物質分離用前処理カートリッジを温度を変えるだけで損傷なく分離することができるようになり、その後に行われる分析操作、或いは分取操作を効率良くさせられる。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0036】
固定相表面を、下記2段階を経て作製した。
1−a)アミノプロピルシリカゲルへ重合開始剤の導入するために下記の化合物を使用した。
アミノプロピルシリカゲル 5g
V−501[4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸(4,4’−azobis(4−cyanovaleric acid)(分子量:280・28)] 3.5g(12.5mmol)
EEDQ[N−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(N−Ethoxycarbonyl−2−ethoxy−1,2−dihydroquinoline)(分子量:247.30)] 6.18g(25.0mmol)
それぞれのものを上述の割合で配合し、V−501に対しEEDQを縮合剤として使用し、これらをDMF 50mlに溶解させ、その中にアミノプロピルシリカゲルを分散させることで反応させた。これを遮光下で30分間N
2(窒素)ガスでバブリングし、その後完全にN
2置換し、N
2風船をつけて室温で6時間反応させた。反応後、ろ過してからDMFで洗浄した。これによりシリカゲル表面に重合開始剤を導入した。
1−b)温度応答性固定相表面の形成のために下記の化合物を使用した。
1−aで作製したV−501結合シリカゲル4g
IPAAm 10g
BIS[N,N’−メチレン−ビス(アクリルアミド)(N,N’−Methylene−bis(acrylamide))(分子量:154.17)] 0.27g
上述の量で1−aで作製したV−501結合シリカゲル、IPAAm、BISをEtOH 200mlに溶解させた。これを遮光下で1時間N
2バブリングした。その後、完全にN
2置換し、N
2風船をつけて70℃(油浴)で5時間反応させた。これにより正荷電を持つPIPAAm表面のゲル層を形成した。反応後、ろ過してからメタノールと水で洗浄した。これを充填剤として減圧乾燥してデシケーターに保存した。この充填剤150mgを使って、前処理用カートリッジ((4mm/1mL)を作製した。
【実施例2】
【0037】
実施例1で得られたシリカゲル担体を充填したカートリッジを用いて、
図1に示す分離条件でカルバマゼピン(Carbamazepine)を分離した。具体的には、上述のカートリッジをあらかじめ40℃とし、その中へカルバマゼピン(10μg/mL)100μLを添加し、その後カートリッジを5℃に冷却した。その後、5℃の水を流し、10μL毎に15回分取した。得られた分取液をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(移動相として20mM CH
3COONH
4(pH4.8):CH
3OH=1:1、流速:1.0mL/min.)にて、分取したそれぞれの溶液中のカルバマゼピン量をODSカラムよる高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果である各分取溶液中のカルバマゼピンを
図2に示す。各分取中のカルバマゼピン量を積算すると93%回収できた(
図3)。本発明である物質分離用前処理カートリッジであれば、簡便な方法でカルバマゼピンを保持させ、カートリッジの温度を冷却するだけで高収率で回収できることが分かる。
【実施例3】
【0038】
実施例2の試料にヒト血清を1μL加え、その他の操作は実施例2と同様に行い(
図4)、10μL毎に14回分取した。実施例2と同様な条件で得た、ヒト血清を含めた試料原液の高速液体クロマトグラフィーによる分析結果を
図5(1)に示す。その結果、原液中には血清とカルバマゼピンの2つのピークがあることが分かる。その試料原液をカートリッジ内に注入したところ、血清は充填剤に保持されることなくそのまま素通りした(
図5(2))。その後、分取したそれぞれの溶液のカルバマゼピンをODSカラムよる高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果である1回目と2回目の分取分を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果を
図5(3)、(4)に示す。分取分には血清に相当するピークは認められなかった。各分取溶液中のカルバマゼピンを
図6に示す。各分取中のカルバマゼピン量を積算すると103%回収できた(
図7)。本発明である物質分離用前処理カートリッジであれば、簡便な方法で血清とカルバマゼピンを分離できる。さらに、本発明の物質分離用前処理カートリッジであれば、カルバマゼピンを保持させ、カートリッジの温度を冷却するだけで高収率で回収できることが分かる。
【実施例4】
【0039】
実施例1で得られたシリカゲル担体を充填したカートリッジを用いて、
図8に示す分離条件でヒドロコルチゾンを分離した。具体的には、上述のカートリッジをあらかじめ40℃とし、その中へヒドロコルチゾン(10μg/mL)100μLを添加し、その後カートリッジを5℃に冷却した。その後、5℃の水を流し、20μL毎に9回分取した。得られた分取液をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(移動相としてH
2O:CH
3OH=1:1を用い、流速:1.0mL/min.)にて、分取したそれぞれの溶液中のヒドロコルチゾンをODSカラムよる高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果である各分取溶液中のヒドロコルチゾンを
図10に示す。各分取中のヒドロコルチゾン量を積算すると97%回収できた(
図9)。本発明である物質分離用前処理カートリッジであれば、簡便な方法でヒドロコルチゾンを保持させ、カートリッジの温度を冷却するだけで高収率で回収できることが分かる。
【実施例5】
【0040】
実施例1で得られたシリカゲル担体を充填したカートリッジを用いて、
図11に示すような分離条件でヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、テストステロンの混合試料からそれぞれを分離した。具体的には、上述のカートリッジをあらかじめ40℃とし、その中へヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、テストステロンをそれぞれ等量づつ加えた10μg/mLの濃度の溶液100μLを添加し、その後カートリッジを5℃に冷却した。その後、5℃の水を流し、20μL毎に12回分取した。得られた分取液をそれぞれ高速液体クロマトグラフィー(移動相としてH
2O:CH
3OH=1:1を用い、流速:1.0mL/min.)にて、分取したそれぞれの溶液中のヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、テストステロンのそれぞれの含有量をODSカラムよる高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果である各分取溶液中のヒドロコルチゾンを
図12に、デキサメタゾンを
図13に、テストステロンを
図14に示す。各分取中のヒドロコルチゾン量を積算すると97%、デキサメタゾンを積算すると72%、テストステロンを積算すると51%回収できた(
図15)。本発明である物質分離用前処理カートリッジであれば、簡便な方法でヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、テストステロンを保持させ、カートリッジの温度を冷却するだけ分離、回収できることが分かる。
【実施例6】
【0041】
実施例1のIPAAmの仕込み量を8gとして、最終的に得られる温度応答性固定相表面のPIPAAm量の少ない充填剤を得る以外は実施例1と同様な方法でシリカゲル担体を得た。常法に従いラットにカルバマゼピン(5mg/kg体重)を静脈内に投薬し、1時間後にその投薬ラットから全血を採取した。得られた血液を2つに分け、その一つを常法に従い、血球、除タンパク操作を行ってODSカラムを使って血中内のカルバマゼピン量を測定した。その結果、投薬量の約1/2量のカルバマゼピンを測定することができた。もう一方の血液を実施例3の方法に従って本発明技術により前処理し、その後、ODSカラムを用いて血中内のカルバマゼピン量を測定した。その結果、投薬量の約2/3量のカルバマゼピンを測定することができた。以上の結果より、本発明の前処理技術を利用すると血中内の検出したい物質をロスすることなく回収できることが分かった。
【実施例7】
【0042】
実施例1のIPAAmの仕込み量を12gとして、最終的に得られる温度応答性固定相表面のPIPAAm量の多い充填剤を得る以外は実施例1と同様な方法でシリカゲル担体を得た。常法に従いラットにテストステロン(2mg/kg体重)を静脈内に投薬し、投薬後6時間の全ての尿を採取した。得られた尿を2つに分け、その一つを常法に従い、除タンパク操作を行ってODSカラムを使って尿中のテストステロン量を測定した。その結果、投薬量の約1/5量のテストステロンを測定することができた。もう一方の尿を実施例5の方法に従って本発明技術により前処理し、その後、ODSカラムを用いて尿中のテストステロン量を測定した。その結果、投薬量の約2/5量のテストステロンを測定することができた。以上の結果より、本発明の前処理技術を利用すると尿中の検出したい物質をロスすることなく回収できることが分かった。