【実施例1】
【0010】
[全体構成]
本発明の鋼矢板の油圧圧入引抜装置の好適な実施例を図面を参照して説明する。
図1で実施例の油圧圧入引抜装置のシステムの全体を示した概略図で、鋼矢板Aの長さ方向の上部先端A1をクレーン1の釣部11で吊り下げ、鋼矢板Aの長さ方向の下部先端A2を地上Gに設置した油圧圧入引抜機構2にセットし、鋼矢板Aの地上露出部の上部から中間部A3の適所に鋼矢板Aを支持する傾斜支持機構3を配置する。
この状態でクレーン1の釣部11を下げて鋼矢板を垂直90度から外側に10度程度傾斜(80度)させ、これに合わせて傾斜支持機構3も
図1に示すように、傾斜支持機構3の後述する台座部31の上面311及び移送ローラ32群のローラ群上面321も垂直から外側に10度(80度)程度に傾けて固定機構33によって固定し、地上Gに設置した油圧圧入引抜機構2の鋼矢板の挿入角度の垂直から外側に10度(80度)に合わせるように、油圧圧入引抜機構2の外側の適所には鋼矢板Aを外側に垂直よりも小さな所定角度である垂直から10度(80度)に傾けて保持するための傾斜保持部21を設けている。
【0011】
なお、鋼矢板の地中G1への打ち込み角度を垂直から外側に10度程度傾けたのは、経験上10度程度であれば、大半の土塁での横方向の外力に耐えられることから設定した。実際には5度から30度程度が可能であり土塁の軟弱度によっても異なるが、5度以下だと垂直と変わりなくなく傾斜する意味も少なく、30度よりも大きくすると、土塁での横方向の外力が小さくなるが、傾斜支持機構3の支持する負担が大きくなり、装置もより大型になるので実用性が乏しくなる。したがって、鋼矢板及び傾斜支持機構3は、好ましくは、垂直から外側に10度程度傾けるのが良い。
このように、設定して油圧圧入引抜機構2を稼働して、必要な鋼矢板を地中G1に挿入して、全てを地中G1に挿入を完了して、内側の土を掘削除去すれば、
図2のような作業を終了した状態になる。
【0012】
[傾斜支持機構3]
次に、傾斜支持機構3を
図3から
図5を参照して詳しく説明する。
傾斜支持機構3は、台座部31に複数の移送ローラ32がローラ支持部322を介して設けて、これらの移送ローラ32群で同一平面を形成する移送ローラ群上面321に鋼矢板Aを載せるが、鋼矢板Aはこの移送ローラ群上面321に沿って左右(
図3,4)に自由に移行する。
ここで、鋼矢板Aが傾斜支持機構3から外れるのを防止するために、鋼矢板Aを上(
図3,4)から押さえる一対の押さえローラ34が台座部31の左右からのほぼ中央部に設けられているが、開閉腕341を載せる前は
図5の点線に示すように、大きく跳ね上げられていて、傾斜支持機構3に対して、クレーン1の釣部11を下げられた鋼矢板Aの出入りが自由になっている。
【0013】
この一対の開閉腕341は回動軸343を中心に回動し、開閉腕341の回動軸343の反対側の操作腕344におけるの末端部345に連結された油圧装置342によって遠隔操作され、移送ローラ32群上に鋼矢板Aが載せられると、油圧装置342が操作され、一対の開閉腕341が
図5の実線のように、跳ね上げられた状態から、押さえローラ34を下降させ、移送ローラ32と平行状態になりつつ、鋼矢板Aを移送ローラ32側に押さえつける。
なお、
図5において、鋼矢板Aは約台形の底部A5を移送ローラ32群上にし、上部を押さえローラ34を押さえ付けているが、実際の施工においては、鋼矢板Aの隣り合う鋼矢板Bは約台形の上部を移送ローラ32群上にし、底部を押さえローラ34を押さえ付け、交互に鋼矢板の約台形をひっくり返すようにして、鋼矢板の長手方向に沿って折り曲げた縁部A4を噛み合わせて連続壁面を形成するようにしている。ところで、従来は人手で鋼矢板を回転しているが、後述する実施例2では、鋼矢板回動機構5(
図6参照)を使用すれば、鋼矢板A,Bをモーター等で回動することができる。
また、台座部31の上面での左右の両端には、傾斜支持機構3を地上Gに降ろした場合に、開閉腕341やローラ等を中空状態に保持して保護するための保護脚部35である。
【0014】
次に、傾斜支持機構3を固定する固定装置4を説明するが、具体的には傾斜支持機構3を所定の高さに調整する高さ調整機構45と、傾斜支持機構3を所定角度に調整する角度調整機構46とを設けて傾斜支持機構を固定する操作について説明する。
[固定装置4]
固定装置4の全体は、
図1に示すように、地上Gを移動する移動車両部41に操作部42と、角度や高さが第1油圧装置431によって制御される第1アーム43に、第2油圧装置441によって制御される第2アーム44が連結され設けられる。
ここで、
図3、及び、第3油圧装置461を作動させて傾斜支持機構3の全体を回動させた
図4の拡大図に示すように、先端側の第2アーム44の先端部442には、傾斜支持機構3が配置されている。これらの第1アーム43と第2アーム44と、第1油圧装置431と第2油圧装置441が傾斜支持機構3を所定の高さに調整する高さ調整機構45を構成する。
また、この機構は、傾斜支持機構3を所定角度に調整する角度調整機構46の一部でもあるが、角度調整機構の主要部は、
図3、
図4に示すように、第2アーム44の先端部442に設けた、遠隔操作される伸縮する第3油圧装置461と、2つの第1回動腕462と第2回動腕463から構成される角度調整機構46である。
このリンク機構の特徴は、重量のある鋼矢板A及び傾斜支持機構3を強固に支持することができる。
【0015】
この作動を説明すると、傾斜支持機構3の台座部31の底部312には第2アーム44の一端に対して回動する主回動部464と、第1回動腕462の一端を回動する従回動部465が設けられ、更に、第2アーム44の適所に設けた第2回動腕回動部466に対して回動する第2回動腕463が設けられ、第1回動腕462の他端と第2回動腕463の他端とを連結して、この連結した連結部467に第3油圧装置461をシリンダに進退するロッド4611を連結する。
したがって、ロッド4611が進退することにより、傾斜支持機構3が主回動部464を中心に回動し、結果として、傾斜支持機構3の全体の垂直に対する傾斜を調整することができる。
なお、鋼矢板Aの角度を、傾斜支持機構3と油圧圧入引抜機構2の傾斜保持部21にとって、所定の傾斜角度に設定した後には、クレーン1の釣部11から鋼矢板Aの先端を外してもよい。
【実施例2】
【0016】
実施例2は、別の実施例であるが、
図6に示すように、鋼矢板回動機構5と別途のクレーン1を不要にした吊上下機構6を設けたものである。以下、これら鋼矢板回動機構5、及び、吊上下機構6の詳細を説明するが、他は実施例1と同じ構成であるので、これら同じ機構の説明は省略する。
【0017】
[鋼矢板回動機構5]
実際の鋼矢板の施工においては、
図5の実施例1に示すように、鋼矢板Aの隣り合う鋼矢板Bは約台形の上部を移送ローラ32群上にし、底部を押さえローラ34を押さえ付け、交互に鋼矢板の約台形をひっくり返すようにして、長手方向に沿って折り曲げた縁部A4を噛み合わせて連続壁面を形成するようにするが、従来通常は人手で鋼矢板を回転している。
実施例2では、鋼矢板回動機構5を設けて、人手によらず鋼矢板A,Bをモーター53M(実際は油圧オービットモータ)等で回動するようにしているが、これを
図6から
図11に沿って説明する。
鋼矢板回動機構5は
図6、
図7に示すように、台座部31の左右の一方の側部313側に固定し稼働されるが、
図8の平面図、
図9のその要部の部分断面の側面図に示すように、鋼矢板回動機構5は、枠体51とその内部で回動する回動部52とが設けられ、
図8に示すように、枠体51の先端部511には枠体案内切込部512が設けられている。回動部52はリング状であり外周には回転用リングギア521が設けられ、回転用リングギア521は回動駆動するモーター53が台座部31の上面311に設けられている回動駆動するモーター53の駆動オピニオンギヤ531に噛み合って回動する。
【0018】
また、
図9を参照すると、この回転用リングギア521は前記駆動オピニオンギヤ531と左右にガイドローラ部54が支持されるが、このガイドローラ部54は回転用リングギア521の内周522から押さえる一対の内周面ガイドローラ541と両側面523から押さえる一対の側面ガイドローラ542から構成され、モーター53を駆動することにより、
図10及び
図11のように回転用リングギア521のギア5211と動オピニオンギヤ531が噛み合い駆動し指令制御部(図示せず)により遠隔操作で回動位置を制御する。
図8において、回転用リングギア521には、鋼矢板の取り込み時において、前記枠体案内切込部512に対応したリングギア案内切込部524が設けられ、その切り込部の延長部には、鋼矢板A,Bの台形の高さよりもやや幅広の鋼矢板案内部525が設けられている。
【0019】
ここで、鋼矢板回動機構5の作動を説明すると、
図8の状態で鋼矢板案内部525には、矢印のように、吊上下機構6で吊り下げられた鋼矢板A,Bを枠体案内切込部512に挿入し、更に、枠体案内切込部512と一致するリングギア案内切込部524を経て、矢板案内部525に案内する。
その後、鋼矢板A,Bの向きを必要な向きにするが、鋼矢板A,Bの台形の底部A5(長辺)側を移送ローラ32側に接触させるには、
図10に示すように、回転用リングギア521を時計回りにモーター53及び駆動オピニオンギヤ531により回動させる。
逆に、鋼矢板A,Bの台形の上部A6(短辺)側を移送ローラ32側に接触させるには、
図11に示すように、回転用リングギア521を反時計回りにモーター53及び駆動オピニオンギヤ531により回動させる。
【0020】
この鋼矢板案内部525の平行の案内辺5251は、鋼矢板Aの幅に対して十分に余裕のある案内幅を有しているが、鋼矢板Aの回動を阻止する形状であるが、鋼矢板Aの回動した際の一方の底辺(
図10、11の右側に位置する辺)は、移送ローラ32のローラ群上面321の延長上にあり、やや斜行した該ローラ群上面321に鋼矢板Aの所定の底辺が載置される。上述したように、鋼矢板案内部525は、ローラ群上面321に載ったほぼ断面台形の鋼矢板A,B(
図5参照)に対して余裕を持った大きさで、鋼矢板A,Bが上下方向は勿論のこと左右方向にも十分に隙間(ガタ)があり、鋼矢板A,Bは自由に進退移動できる形状である。
なお、保護脚部35は鋼矢板回動機構5の背丈に応じて、実施例1よりは長くしてある。
以上のように、モーター53及び駆動オピニオンギヤ531は指令制御部(図示せず)によって鋼矢板案内部525を必要する所定の向きに回動させるが、このモーター53は左右回転が可能で、結果として、その鋼矢板案内部525内にある鋼矢板A,Bを任意の方向に回動させ、傾斜支持機構3に対して適正な向きに載せることができ、また、モーター53で遠隔操作で鋼矢板A,Bの向きを調整することができる。
なお、回転用リングギア521は必要以上に回動しないように、回転用リングギア521の回動部52にリミットスイッチ(図示せず)等を配置して、モーター53の回転を遠隔より制御している。
【0021】
[吊上下機構6]
鋼矢板A,Bを現場での施工では、実施例1では別途にクレーン1を用意して、クレーン1の釣部11を下げて鋼矢板を垂直から10度程度少し外側に傾斜(80度程度)させているが、クレーン車を施工現場に移動させるために人手や費用が発生するので、実施例1の傾斜支持機構3、及び、固定装置4に吊上下機構6を設けて、クレーン1を不要としたものである。
吊上下機構6の全体は、
図6に示すように、吊上下機構6は、鋼矢板ABの上部等の適所を係止部61で係止し、その係止部61をワイヤー62で頂部ワイヤー案内部63、途中案内部64を介してウインチ65で巻き取り、及び、巻き出しして、結果として係止部61を上下移動し、鋼矢板ABを吊り上げ、又は、吊り下げる。
図7に示すように、頂部ワイヤー案内部63の枠体631を台座部31の適所に固定するが、案内輪632は鋼矢板ABを吊り上げ下げするのに適した位置に設置する。また、枠体631は第2アーム44に直接固定してもよい。案内輪632はワイヤー62が外れないように案内輪632を覆うようなカバー等を設けてもよい。
なお、クレーンのように高く吊り上げることはできない場合もあるが、この場合には、鋼矢板ABの上部等の適所を係止部61で係止するのではなく、鋼矢板ABが転倒しない範囲で鋼矢板ABの長さ方向の中間部A3分の適所に係止部61’を設けて係止するようにしてもよい。
このように、吊上下機構6はクレーンと同様な機能を有するもので、従来のように、別途クレーン装置を用意する必要がない。
【0022】
本実施例は、以上の構成であるので、鋼矢板の油圧圧入引抜装置は、多くの長く重量のある傾斜した鋼矢板A,Bを連続して地盤に打ち込む際に、鋼矢板A,Bを効率よく安全に押し込み、引き抜くことができる。また、簡単な操作で作用が可能であり、油圧圧入引抜機構を用いた静荷重よる圧入引抜なので、騒音が少ない施工が実現できる。
また、鋼矢板回動機構5を設けたので、人手によらずに、傾斜支持機構3に対する鋼矢板A,Bの約台形の向きを傾斜支持機構3に対して必要とされる所定の適正な向きに載せることができる。
更に、傾斜支持機構3又は固定装置4に吊上下機構6を設けたので、吊上下機構6はクレーンと同様な機能を有するもので、従来のように、別途クレーン装置を用意する必要がない。
なお、本発明の特徴を損うものでなければ、上記の実施例に限定されるものでないことは勿論である。