(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
1.第1実施形態
(1)構成
図1Aに示すように、複合素材1は、複数の母材3と、これら複数の母材3それぞれの表面に形成された構造体7とを備える。
【0022】
母材3は、特に限定されず、炭素材料、樹脂材料、金属材料、セラミック材料などで形成された繊維を例示することができる。本実施形態の場合、母材3は炭素繊維が適用される。なお、本図では、図解の都合で母材3は複数本で図示されている。母材3は、特に限定されないが、ポリアクリルニトリル、レーヨン、ピッチなどの石油、石炭、コールタール由来の有機繊維や、木材や植物繊維由来の有機繊維の焼成によって得られる、直径が約3〜15μmの炭素繊維を例示することができる。
【0023】
構造体7は、複数のCNT5を含む。CNT5は、母材3の表面のほぼ全体で均等に分散して絡み合うことで互いに介在物無しで直接接触ないしは直接接続されてネットワーク構造を形成していると共に、母材3の表面との境界に介在物無しの状態で当該表面に直接付着している。ここでいう接続とは、物理的な接続(単なる接触)を含む。また、ここでいう付着とは、ファンデルワールス力による結合をいう。さらに「直接接触ないし直接接続」とは複数のCNTが単に介在物無しで単に接触している状態を含む他に、複数のCNTが一体的になって接続している状態を含むものであり、限定して解釈されるべきではない。
【0024】
構造体7は、母材3の表面に局所的に偏在する。この偏在により、母材3表面は、構造体7から露出している。この「偏在」は、構造体7が母材3の表面全体を均一には覆っていないことを示しているに過ぎず、構造体7自体のCNT5の分散性の良否を示したものではない。
【0025】
構造体7は、CNT5が母材3の表面にネットワーク状に分布しているから、CNTネットワークと称することもできるが、ネットワーク全体では薄膜状となっているために、CNTネットワークと称しており、その名称に限定される趣旨ではない。
【0026】
また、母材3の表面全体でCNT5が1つのネットワーク構造を形成していなくても、1つの母材3の表面に対して互いに独立した複数のネットワーク構造が存在していてもよい。また、1つの母材3の表面の全体に構造体7が存在していなくてもよく、部分的に構造体7が形成されていてもよい。
【0027】
図1Bに示すように、構造体7は複合素材1の断面からみて薄膜をなしており、その膜厚(t)は限定されないが、例えば500nm以下が好ましい。構造体7は、膜厚(t)が母材3の表面から500nm以下であれば、構造体7としての機能をより有効に果たすことができる。もちろん、構造体7の膜厚(t)は、500nm超過でもよい。
【0028】
構造体7の母材3の表面からの膜厚(t)は、次のようにして測定した。すなわち、CNT/炭素繊維複合素材1から任意の素材束を取り出して金属性の試料台に導電性テープ等で固定する。取り出した素材束では一部の母材3が剥離して剥離部位の構造体7が露出している。そこで、このようにして露出している構造体7の断面の厚さの平均値(t)を走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察して測定した。
【0029】
さらに構造体7は膜厚(t)が15nm〜100nmであることがさらに好ましい。構造体7の厚さが上記範囲内であれば、CNT5が、母材3表面に分散して、互いに直接接続することで良好なネットワーク構造を形成することができる。
【0030】
構造体7を形成するCNT5の長さは、0.1〜50μmであるのが好ましい。CNT5は長さが0.1μm以上であると、CNT5同士が絡まり合って直接接続される。またCNT5は長さが50μm以下であると、均等に分散しやすくなる。一方、CNT5は長さが0.1μm未満であるとCNT5同士が絡まりにくくなる。またCNT5は長さが50μm超であると凝集しやすくなる。
【0031】
CNT5は、平均直径約30nm以下であるのが好ましい。CNT5は直径が30nm以下であると、柔軟性に富み、母材3表面の曲率に沿って変形するので、ネットワーク構造を形成することができる。一方、CNT5は直径が30nm超であると、柔軟性がなくなり、母材3表面に沿って変形しにくくなるので、ネットワーク構造を形成しにくくなる。なおCNT5の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真を用いて測定した平均直径とする。CNT5は、平均直径が約20nm以下であるのがより好ましい。
【0032】
複数のCNT5は、母材3に対して、0.001〜20wt%の濃度で母材3表面に付着しているのが好ましい。CNT5が上記範囲内の濃度である場合、母材3表面においてCNT5で覆われていない部分が形成される。このCNT5で覆われていない部分は、接着剤などで覆われておらず、母材3の表面が露出している。これにより母材3は、CNT5によって機能が損なわれることがない。CNT5の濃度は、母材3に対して、0.01〜10wt%であるのが好ましく、さらに0.01〜5wt%であるのがより好ましい。
【0033】
またCNT5は、
図2Aに示すように、母材3表面に直接付着している。すなわち、CNT5は、母材3表面との間に、界面活性剤などの分散剤や接着剤等が介在せず、直接母材3表面に付着している。
【0034】
(2)製造方法
次に、複合素材1の製造方法を説明する。複合素材1は、
図3に示すように、ステップSP1においてCNT5を作製し、次いでステップSP2において当該CNT5を含む分散液を作製し、ステップSP3において当該分散液を用いて母材3表面に構造体7を形成することにより製造することができる。以下、各工程について順に説明する。
【0035】
(CNTの作製)
CNT5としては、例えば特開2007−126311号公報に記載されているような熱CVD法を用いてシリコン基板上にアルミ、鉄からなる触媒膜を成膜し、CNTの成長のための触媒金属を微粒子化し、加熱雰囲気中で炭化水素ガスを触媒金属に接触させることにより製造したものを用いる。アーク放電法、レーザ蒸発法などその他の製造方法により得たCNTを使用することも可能であるが、CNT以外の不純物を極力含まないものを使用することが好ましい。この不純物についてはCNTを製造した後、不活性ガス中での高温アニールにより除去してもかまわない。この製造例で製造したCNTは、直径が30nm以下で長さが数100μmから数mmという高いアスペクト比でもって直線的に配向された長尺CNTである。CNTは単層、多層を問わないが、好ましくは、多層のCNTである。
【0036】
(分散液の生成)
次に、前記製造したCNT5を用いて、CNT5がナノ分散した分散液を製造する。ナノ分散とは、CNT5が1本ずつ物理的に分離して絡み合っていない状態で溶液中に分散している状態を言い、2以上のCNT5が束状に集合した集合物の割合が10%以下である状態を意味する。
【0037】
分散液は、上記のようにして作製されたCNT5を、溶媒に投入し、ホモジナイザーやせん断、超音波分散機などによりCNT5の分散の均一化を図る。溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類やトルエン、アセトン、THF、MEK、ヘキサン、ノルマルヘキサン、エチルエーテル、キシレン、酢酸メチル、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いることができる。分散液は、母材3及びCNT5の機能を制限しない限り、分散剤、界面活性剤、接着剤、添加剤等を含有していてもよい。
【0038】
(構造体の形成)
ステップSP3では、ステップSP2で製造した分散液中に母材3を浸漬した状態で、当該分散液にせん断や超音波等の機械的なエネルギーを付与しながら母材3表面に構造体7、すなわちCNT5のネットワーク構造を表面に偏在形成する。
【0039】
分散液に対して、機械的エネルギーを付与することにより、分散液中では、CNT5が分散する状態と凝集する状態とが常時発生する可逆的反応状態が作り出される。
【0040】
この可逆的反応状態にある分散液中に母材3を浸漬する。そうすると、母材3表面においてもCNT5の分散状態と凝集状態との可逆的反応状態が起こり、分散状態から凝集状態へ移る際に母材3表面にCNT5が付着する。
【0041】
凝集する際は、CNT5にファンデルワールス力が作用しており、このファンデルワールス力により母材3表面にCNT5が付着する。その後で、母材3を分散液中から引き出し、乾燥させると、母材3表面にネットワーク構造が表面に偏在した複合素材1を得ることができる。
【0042】
(3)作用及び効果
図2Aに示すように、本実施形態の複合素材1では、CNT5同士が互いに直接接触ないしは直接接続されていると共に、CNT5が構造体7をなして母材3の表面に直接付着している。本実施形態の複合素材1では、CNT5同士が介在物無しの状態で直接接触ないしは直接接続されているので、構造体7内のCNT5間の電気導電性および熱伝導性は良好であると共に、母材3表面に介在物無しの状態で構造体7をなして付着しているので、母材3表面から剥離しにくくその機械強度が高い。
【0043】
母材3が炭素繊維であれば、炭素繊維それ自体は、導電性を有するが、CNT5は炭素繊維よりも高導電性であるので、炭素繊維表面に介在物無しに構造体7が形成されることで、複合素材1の導電性が格段に向上すると共に、CNT5の熱伝導性も極めて高いので、炭素繊維表面に介在物無しに構造体7が形成されることで、複合素材1の熱伝導性も格段に向上する。
【0044】
さらに本実施形態の複合素材1では、炭素繊維表面に介在物無しに構造体7が形成されることで、炭素繊維単独に比べ、機械強度を格段に向上することができる。このことは、あたかも、鉄筋コンクリートにおいて、鉄筋を鉄骨の周囲にネットワーク状に張りめぐらせることで強度アップを図る構造に似ており、この場合、炭素繊維は鉄骨の役割を、CNTは鉄筋の役割を、樹脂はコンクリートの役割をそれぞれ果たす。
【0045】
これに対して、
図2Bに示すように、従来の複合素材100では、CNT101の表面に介在物102が存在している。このためCNT101は、互いに介在物102を介して接触ないしは接続されていると共に、構造体103を構成し母材3の表面に介在物102を介して付着している。介在物102は、界面活性剤を含む分散剤や接着剤等の絶縁性を有する物や熱伝導性不良の物を例示することができる。従来の複合素材100では、CNT101同士が介在物102を介して接触ないしは接続されているので、構造体103間の電気導電性および熱伝導性は不良であると共に、母材3表面に介在物102を介して構造体7を構成して付着しているので、母材3表面から剥離し易くその機械強度は低い。
【0046】
(4)実施例
上記製造方法に示す手順で複合素材1を作製した。CNT5は熱CVD法によりシリコン基板上に直径10〜15nm、長さ100μm以上に成長させたMW−CNT(Multi-walled Carbon Nanotubes、多層カーボンナノチューブ)を用いた。CNT5の触媒残渣除去には硫酸と硝酸の3:1混酸を用い、洗浄後に濾過乾燥した。CNT5の切断は分散溶媒中で0.5〜10μmの長さになるまで超音波ホモジナイザーで粉砕した。CNT分散溶媒としてメチルエチルケトンを用いて分散液を調整した。分散液におけるCNT5の濃度は0.01wt%とした。
【0047】
作製された分散液を、SEM及びTEMにて観察した。
図4Aに、上記工程で製造した分散液をシリコン基板上に少量滴下し、オーブン中で400℃にて1時間乾燥したときのCNT5のSEM写真を示す。
図4Bは一般のCNTを含む分散液を同様に処理して得たCNT110のSEM写真である。
図4Aで明らかであるように、CNT5は、1本1本、ナノ分散したアスペクト比の高い繊維状であることが判る。これに対して、
図4Bで明らかなように、CNT110は、アスペクト比が小さいためネットワーク構造を形成するには不適切であることが判る。また、
図4B中において、矢印で示す箇所には、CNT110が単離せずに凝集している状態が示される。
図5A、
図5Bに、上記工程で製造した分散液中のCNT5のTEM写真を示す。
図5A、
図5Bで示すように、CNT5は、すべてがチューブ状で直径もほぼ20nm以下で揃っており、均一なCNTネットワークを形成するのに適した形状であることが判る。この分散液は、分散剤や接着剤が投入されていない。
【0048】
次いで、分散液に対し、28kHz及び40kHzの超音波を付与しながら、当該分散液中に、母材3として炭素繊維(PAN系炭素繊維、繊維径7μm)を投入し、10秒間保持した。その後、分散液から母材3を取り出して、約80℃のホットプレート上で乾燥し、母材3表面に構造体7を形成した。このようにして複合素材1を得た。
【0049】
図6A〜
図6Dは、第1実施形態の複合素材1の各SEM写真であり、
図6Aは、複数の複合素材1を示し、
図6Aを
図6Bから
図6Dへ順次に拡大して示す。複合素材1においては、母材3の表面に複数のCNT5が均等に分散して介在物無しで構造体7をなして付着している状態が示されている。この複合素材1では母材3に対するCNT5の濃度が低いので、構造体7からは母材3の表面が介在物無しに直接露出している。
図6に示す複合素材1は、
図2Aを参照して説明した特性を備えることが明らかである。
【0050】
図7A〜
図7Cは、第1実施形態の複合素材の断面を順次に拡大して示す各SEM写真であり、
図7Dは、
図7Cを模式的に示す図である。
【0051】
図8A〜
図8Cは、第1実施形態の複合素材の断面を順次に拡大して示す各TEM写真である。これらの図において、5a,5bはCNTであり、9はエポキシ樹脂である。
図8A〜
図8Cにおいて、CNT5aは、母材3の表面に介在物無しで直接付着している状態でその断面が示されている。他のCNT5bは、ネットワーク構造を構成して互いに直接接触ないし直接接続していると共に、母材3の表面に介在物無しで直接付着している状態でその断面が示されている。
【0052】
図9A〜
図9Cは、第1実施形態の複合素材の断面の別の部分を順次に拡大して示す各TEM写真である。
図9A〜
図9Cにおいて、CNT5は、ネットワークを構成して介在物無しで互いに直接接触ないし直接接続していると共に、母材3の表面に介在物無しで直接付着している状態でその断面が示されている。
【0053】
図10A〜
図10Cは、第1実施形態の複合素材の断面のさらに別の部分を順次に拡大して示すさらに別の各TEM写真である。
図10A〜
図10Cにおいて、CNT5は、介在物無しで互いにネットワークを構成して互いに直接接触ないし直接接続していると共に、母材3の表面に介在物無しで直接付着している状態でその断面が示されている。
【0054】
図6〜
図10のSEM写真、TEM写真、および模式図に示すように、第1実施形態の複合素材1においては、母材3の表面に複数のCNT5(5a,5b)が均等に分散して構造体7を構成しており、各CNT5それぞれの周囲には介在物が見られず、互いに直接接触ないし直接接続されて母材3の表面に直接付着して構造体7を構成している。そして、各CNT5は、母材3の表面に介在物が無い状態で直接付着している状態が示されている。この複合素材1では、母材3に対するCNT5の濃度が低いので、構造体7からは母材3の表面が介在物無しに直接露出している。
図6〜
図10に示す複合素材1は、
図2Aを参照して説明した特性を備えることが明らかである。
【0055】
これに対し、
図11A、
図11Bに示すように、介在物として分散剤を用いて製造された従来の複合素材120は、分散剤および接着剤が投入されているCNT5の分散液中に母材として炭素繊維を投入して製造されたものであり、炭素繊維の表面は構造体7や、分散剤および接着剤で被覆されていて殆ど露出していない。また複数のCNT5は複雑に分散して構造体7を形成しているが、CNT5表面は分散剤や接着剤に被覆されているために、CNT5は炭素繊維表面に分散剤や接着剤を介して付着していることとなる。したがって、
図11A、
図11Bに示す従来の複合素材120は、
図2Aを参照して説明した特性を備えていないことは明らかである。
【0056】
図12は、炭素繊維のみからなる素材と、従来の複合素材120と、第1実施形態の複合素材1それぞれの導電性の特性図である。従来の複合素材120は、CNT5が分散剤である界面活性剤を介して炭素繊維表面に付着しているものである。第1実施形態の複合素材1は、CNT5が介在物として界面活性剤無しで炭素繊維表面に直接付着しているものである。
図12において、横軸は炭素繊維密度(g/cm
3)であり、縦軸は体積・抵抗率(Ω・cm)である。体積・抵抗率(Ω・cm)の測定は、粉体抵抗測定システム(三菱化学アナリテック社製、製品名:MCP−PD51)にて行った。
【0057】
ここで、特性線A1は、炭素繊維のみからなる素材の特性であり、特性線A2は、従来の複合素材120の特性である。ただし、この従来の複合素材120は、炭素繊維に対してCNT5を0.1wt%の濃度で含有すると共に、界面活性剤が介在物として存在しているものである。
【0058】
特性線A3は、第1実施形態の複合素材1の特性である。ただし、この第1実施形態の複合素材1は、母材3としての炭素繊維に対してCNT5を0.05wt%の濃度で含有しており、かつ、界面活性剤が介在物として存在していないものである。
【0059】
これら特性線A1〜A3を比較して明らかであるように、密度1.2(g/cm
3)では、特性線A1の炭素繊維のみからなる素材の場合の体積・抵抗率は、0.0110(Ω・cm)であり、特性線A2の従来の複合素材120の体積・抵抗率は0.0111(Ω・cm)であり、特性線A3の第1実施形態の複合素材1の体積・抵抗率は0.0098(Ω・cm)である。これらから第1実施形態の複合素材1が最良の導電性を有していることが判る。
【0060】
つまり、特性線A1の場合は炭素繊維そのものの導電性となり、炭素繊維間が、直接接触している割合が少なく、その導電性は全体的には低い。そして、特性線A2の場合、構造体7が介在するものの、それを構成するCNTの表面には界面活性剤が介在物として存在するので、構造体7内のCNT同士や構造体7と炭素繊維表面との接触や接続に際し介在物が抵抗となることで特性線A1よりはむしろ導電性が僅かに劣り、実用的な要求レベルには至らない。
【0061】
これらと比較して第1実施形態の複合素材1の特性線A3では、CNT5同士が介在物である界面活性剤無しで互いに直接接触ないし直接接続され、また、炭素繊維表面にもCNT5が介在物である界面活性剤無しの状態でほぼ均等に分散して絡み合って直接接触ないし直接接続されているので、導電性が10%以上も向上したものとなる。
【0062】
なお、本発明者の実験から、炭素繊維に対してCNTを10wt%超の濃度で含有し、かつ、界面活性剤が介在物として存在する従来の複合素材は、導電性が第1実施形態の複合素材1より劣ることが確認されている。
【0063】
図13は、炭素繊維のみからなる素材と、従来の複合素材120と、第1実施形態の複合素材1それぞれの熱伝導性の特性を示している図である。従来の複合素材120は介在物として界面活性剤を介して炭素繊維表面に付着しているものである。第1実施形態の複合素材1は介在物として界面活性剤無しで炭素繊維表面に直接付着しているものである。
図13において、B1は炭素繊維のみからなる素材の熱伝導性特性、B2は従来の複合素材120の熱伝導性特性、B3は第1実施形態の複合素材1の熱伝導性特性である。縦軸は温度(℃)である。
【0064】
次に、熱伝導性特性を以下に示す手順で測定した。まず、炭素繊維のみからなる素材、従来の複合素材120、第1実施形態の複合素材1それぞれをエポキシ樹脂で固め、いずれも長さ1.5cm、直径1.7mmのサンプルとした。そして各サンプルの熱伝導性特性の測定はそれぞれ個別に行った。各サンプルをそれぞれ接触温度計(安立計器株式会社製、製品名:HA−100)に個別に接続し、各サンプルをセラミック材からなる縦横180×180mmのホットプレート(東京硝子器械株式会社製、製品名:ホットプレート シマレックHP131224)上に載置した。このホットプレートの温度を85(℃)として、各サンプルを同一の常温からホットプレートの熱により2分間加熱した。各サンプルは、ホットプレートの熱が伝導することにより、温度が上昇した。その上昇した温度を前記接触温度計により測定した。
【0065】
その測定の結果、炭素繊維のみからなる素材ではB1に示すように、測定温度は約68(℃)であり、従来の複合素材120は、B2に示すように約66.6(℃)であった。第1実施形態の複合素材1は、B3に示すように約71.2(℃)であった。これにより、第1実施形態の複合素材1では、炭素繊維のみからなる素材と比較して約4.7%熱伝導性特性において優れ、従来の複合素材120と比較して約6.9%熱伝導性特性において優れた結果となった。
【0066】
以上説明したように第1実施形態の複合素材は、複数のCNTが互いのCNT表面に介在物無しで互いに直接接触ないし直接接続されて母材の表面で分散して絡み合って該母材表面上でCNTネットワークを構成しているので、複合素材としてはCNTが少量であっても従来の複合素材よりも高い電気導電性、熱伝導性の性能を発揮でき、また、前記複数のCNTが母材の表面においても介在物無しの状態でCNTネットワークをなして直接付着しているので、それらが母材表面から剥離しにくく、従来の複合素材よりも機械強度が向上した複合素材といえる。
【0067】
また、第1実施形態の複合素材は、母材である炭素繊維に対して、0.001〜20wt%という低濃度、好ましくは0.01〜10wt%という低濃度、より好ましくは0.01〜5wt%という低濃度でCNTを付着させており、すなわち、CNTは量的には少量であっても、導電性および熱伝導性において従来の複合素材よりも高い性能を発揮することができる複合素材といえる。
【0068】
なお、第1実施形態の複合素材の機械強度についての測定についての説明は略するが、本発明者の実験によると、その機械強度は、従来のそれより向上した。
【0069】
2.第2実施形態
(1)構成
次に、第2実施形態に係る成形品を説明する。成形品は、第1実施形態の複合素材を用いる。
図14は、第1実施形態の複合素材1を用いた成形品20の概念構成図である。
【0070】
成形品20は、マトリクス材21と、当該マトリクス材21中に分散された複合素材1とを備える。マトリクス材21は、樹脂、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
【0071】
なおマトリクス材21は、エポキシ樹脂に限定されず、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミドなどの熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリカーボネイト等のエンジニアリングプラスチック、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリイミド等のスーパーエンジニアリングプラスチックを例示することができる。
【0072】
また、マトリクス材21としては、樹脂以外に、アルミニウム、銅、チタン、シリコン等の金属やその酸化物を含む無機材料を含むことができる。
【0073】
本実施形態の場合、複合素材1をマトリクス材21内に均一に分散させるため、分散剤、接着剤、その他の添加剤を用いてもよい。
【0074】
介在物である分散剤として、両性イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
【0075】
両性イオン界面活性剤には、スルホベタイン類、ホスホベタイン類、カルボキシベタイン類、イミダゾリウムベタイン類、アルキルアミンオキサイド類などがある。
【0076】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのC6-24アルキルベンゼンスルホン酸塩など)、アルキルナフタレンスルホン酸塩(例えば、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのジC3-8アルキルナフタレンスルホン酸塩など)、アルキルスルホン酸塩(例えば、ドデカンスルホン酸ナトリウムなどのC6-24アルキルスルホン酸塩など)、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩(例えば、ジ2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムなどのジC6-24アルキルスルホコハク酸塩など)、アルキル硫酸塩(例えば、硫酸化脂、ヤシ油の還元アルコールと硫酸とのエステルのナトリウム塩などのC6-24アルキル硫酸塩、平均付加モル数2〜3モル程度でポリオキシエチレンが付加されたポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩など)、アルキルリン酸塩(例えば、モノ〜トリ−ラウリルエーテルリン酸などのリン酸モノ〜トリ−C8-18アルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩など)などがある。
【0077】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライドなどのモノ又はジC8-24アルキル−トリ又はジメチルアンモニウム塩など)、トリアルキルベンジルアンモニウム塩[例えば、セチルベンジルジメチルアンモニウムクロライドなどのC8-24アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム塩など)など]、アルキルピリジニウム塩(例えば、セチルピリジニウムブロマイドなどのC8-24アルキルピリジニウム塩など)などがある。
【0078】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンC6-24アルキルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(例えば、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンC6-18アルキルフェニルエーテルなど)、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル(例えば、ポリオキシエチレングリセリンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレングリセリンC8-24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンステアリン酸エステルなどのポリオキシエチレンソルビタンC8-24脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖C8-24脂肪酸エステルなど)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例えば、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルなどのポリグリセリンC8-24脂肪酸エステル)などがある。
【0079】
また、介在物である接着剤には、接着性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などがある。
【0080】
また、添加剤には、表面処理剤(例えば、シランカップリング剤などのカップリング剤など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、分散安定化剤、増粘剤又は粘度調整剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤などがある。
【0081】
(2)製造方法
次に、
図15A、
図15Bを参照して、第2実施形態の成形品20の製造方法を説明する。
図15Aで示すように、ビーカー37からエポキシ樹脂39を複合素材1中に投入する。この複合素材1は、上述したように、構造体7が母材3表面に形成されているので、
図15Bで示すように、複合素材1中に入り込んだエポキシ樹脂39はその複合素材1と強固に接着される。したがって成形品20は、複合素材1がマトリクス材(エポキシ樹脂39)21表面から剥離することを防止することができる。
【0082】
因みに
図16A、
図16Bは、従来の繊維強化成形品の製造方法を示す図である。まず、
図16Aで示すようにビーカー37にマトリクス材であるエポキシ樹脂39とCNT5入りの溶液を母材3中に投入する。すると、
図16Bで示すように、CNT5が上層側の母材3でろ過されてしまい、下層側にはCNT5が存在していない。また、下層側の母材3に含浸したエポキシ樹脂39は、直接、母材3と接触している。したがって従来の成形品は、母材3がそのマトリクス材(エポキシ樹脂39)表面から剥離しやすい構造となる。
【0083】
(3)作用及び効果
成形品20は、マトリクス材21中に複数の母材3が分散しており、母材3の表面には、複数のCNT5により形成された構造体7が形成されている。母材3は、構造体7のCNT5によりマトリクス材21に強固に接着している。これにより成形品20は、複合素材1とマトリクス材21間の剥離強度が向上している。この場合、構造体7を構成するCNT5の濃度は低いので、マトリクス材21の柔軟性等の特徴が打ち消されてしまうことがない。したがって成形品20は、複合素材1を備えていることにより、マトリクス材21の特徴例えば柔軟性やその他の特性を有効に生かしつつ機械強度を高めることができる。
【0084】
また、成形品20は、複合素材1が母材3表面に構造体7が予め付着して構成されているので、当該複合素材1にマトリクス材21である樹脂を含浸させることにより、成形品20全体にわたり、繊維強化の効果を得ることができる。
【0085】
さらに成形品20は、複合素材1の密度を高くしても、構造体7に十分にマトリクス材21である樹脂が含浸されるので、複合素材1とマトリクス材21の間で剥離が生じることを防止することができる。
【0086】
3.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0087】
第1実施形態の場合、構造体7の膜厚は500nm以下が好ましい場合について説明したが、本発明はこれに限られない。以下、構造体7の変形例について説明する。
【0088】
複合素材1や、複合素材1を用いた成形品20では、母材3の含有量を増加させると、CNT5の付着総量を増加させることができるうえに、成形品20の作製において高圧プレス成形製法を併用することで隣接する母材3どうしの離間間隔を狭めることが可能となる。
【0089】
図17A、
図17B、
図18に示すように、成形品30は、マトリクス材21と、当該マトリクス材21中に分散された複合素材31とを備える。本変形例に係る複合素材31は、上記第1実施形態に比べ母材3に対するCNT5の含有量が多い点が異なる。これにより複合素材31は、500nmを超える膜厚(t)を有する構造体32を有する。成形品30は、隣接する母材3の間の一部に架橋状態の接続部33が形成されている。接続部33は、母材3の強度を向上することができるというさらなる効果が得られる。以下、このことをさらに詳細に説明する。
【0090】
複合素材1を用いた繊維強化成形品における強度を低下させる要因の一つに、母材3とマトリクス材21との間の密着強度が低いことが挙げられる。そのため、強度の低い繊維強化成形品の破断面を観察すると、マトリクス材21と母材3とが剥離している箇所が見出される。架橋状態の接続部33が形成されると、接続部33が隣接する母材3どうしをつなぎとめる役割を果たすために、母材3同士の剥離や亀裂を防止できる。これにともない、成形品における破断強度やじん性をはじめとした強度特性が向上する。
【0091】
なお、架橋状態の接続部33では、膜厚(t)を母材3の表面から接続部33が突出する量とするのではなく、
図17Bに示すように、架橋状態の接続部33の一方表面から他方表面に至る厚みの平均値を膜厚(t)と規定することができる。その場合の膜厚(t)は、母材3の表面から接続部33が突出する量と同様、500nm以下となる。母材3の表面から接続部33が突出する量と架橋状態の接続部33の一方表面から他方表面に至る厚みとが同一となるのは次の理由によっている。すなわち、本変形例で用いるCNT5は、単離分散液の状態であるため、CNT5は母材3の表面に沿って密着して構造体32を形成する。そのため、母材3の表面に沿って密着したCNT5からなる構造体32の膜厚(t)と、母材3の表面から突出する接続部33の一方表面から他方表面に至る厚みとは同一となる。
【0092】
構造体32は、複数の炭素繊維を結びつける構造(上述した架橋状態の接続部33)にならなくとも、
図19に示すように構造体32の一部35が母材3に絡み付いた状態で母材3の表面から突出しただけであっても、この構成により母材3と構造体32との間の密着性を補強することができる。この補強効果は、構造体32の表面と母材との密着性を改善するなどの処理を行った場合に顕著に現れる。なお、このときのネットワーク長は特にこだわらない。
【0093】
また、一部の構造体32は、マトリクス材21と複合素材1とを混合する工程において母材3の表面から剥離してマトリクス材21中に浮遊する。このようにして浮遊する構造体32は、成形品作製時のプレス成型工程において、樹脂流れと共に流動して母材3の隙間へ充填されて新たに母材3を架橋する構造を形成して、成形品30の強度を向上させる働きをする。
【0094】
架橋状態の接続部33を形成する構成では、成形品30中における単位断面積あたりの母材3の占有率を30%以上とする。母材3の占有率が30%未満では、隣接する母材3の間の離間距離は数10μm以上となる結果、母材3の間の離間距離が遠すぎて架橋状態の接続部33がほとんど形成されない。これに対して、母材3の占有率が30%以上になると、母材3の間の離間距離が10μm以下となって、架橋状態の接続部33が形成されやすくなる。以下、このことをさらに詳細に説明する。
【0095】
母材3の占有率が30%以上50%未満の範囲では、母材3の間の離間距離が3〜10μmとなり、架橋状態の接続部33が得られやすくなる。母材3の占有率が50%〜70%では、母材3の間の離間距離は1〜3μmとなり、架橋状態の接続部33がさらに得られやすくなる。母材3の占有率が70%を超えて母材3の充填上限値(最密充填の状態)までの範囲では、架橋状態の接続部33が成型時の樹脂流れと共に母材3の隙間へ高密度に充填されて、母材3の表面を被覆した構造体32とマトリクス材21とが一体化する結果、架橋状態の接続部33による強度向上効果が最も発揮される。なお、このような母材3の高充填状態は、例えばプレス機等を用いた高圧プレス処理により実現することができる。
【0096】
上述した成形品30中の単位断面積あたりの母材3の占有率は、例えば、次のようにして算出することができる。すなわち、複合素材1を含んだ成形品30の破断面をSEM等の電子顕微鏡で観察する。母材3が短繊維である場合、成形品30における母材3の向きはランダムとなる。そのため、観察領域において少なくとも母材3の断面が10本以上密集して見える視野を抽出し、抽出した視野中において単位断面積あたりの母材3の占有率を測定により算出する。
【0097】
また、成形品30の製造方法には、上述した方法の他、エポキシ樹脂39が充填された複合素材31を金型に注入して高圧プレスすることで本発明の成形品30を成形してもよい。そうすれば、母材3の離間間隔を狭めることができるうえ、
図17A、
図17B、
図18を参照して前述した架橋状態の接続部33を形成しやすくなる。
【0098】
上記実施形態の場合、母材3は繊維である場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば活性炭などの粒子形状の物なども含む。