特許第6063592号(P6063592)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

6063592高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法
<>
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000002
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000003
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000004
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000005
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000006
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000007
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000008
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000009
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000010
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000011
  • 6063592-高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6063592
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】高温ロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/08 20060101AFI20170106BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20170106BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   C22F1/08 A
   C22C9/00
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 604
   !C22F1/00 612
   !C22F1/00 626
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 650F
   !C22F1/00 651A
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-97032(P2016-97032)
(22)【出願日】2016年5月13日
【審査請求日】2016年7月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391005802
【氏名又は名称】三芳合金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】特許業務法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】新井 真人
(72)【発明者】
【氏名】新井 勇多
(72)【発明者】
【氏名】石島 睦己
(72)【発明者】
【氏名】江口 逸夫
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 義仁
(72)【発明者】
【氏名】萩野 源次郎
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−059033(JP,A)
【文献】 特開昭59−193233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/08
C22C 9/00−9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温ロウ付け性に優れた銅合金管の製造方法であって、
Crを0.5〜1.5質量%、Zrを0.02〜0.20質量%、残部を不可避的不純物及びCuとした成分組成のクロムジルコニウム銅合金からなる管状押出材を900℃以上の溶体化温度で加熱保持して水焼き入れする溶体化工程と、
前記管状押出材を引抜加工して引抜加工材とする引抜加工工程、及び、前記引抜加工材を焼鈍し温度で加熱して水焼き入れする中間焼鈍し工程の工程セットからなる主加工工程と、
前記引抜加工材を更に引抜加工し軸線に沿った縦断面及び軸線に垂直な横断面のそれぞれでの平均結晶粒径を50マイクロメータ以下とする調整加工工程と、を含み、
前記溶体化工程後に、前記縦断面及び前記横断面の各平均結晶粒径を100マイクロメータ以上とするとともに、前記焼鈍し温度を900℃以上とすることで、前記調整加工工程後に、少なくとも980℃で30分間の加熱後空冷しても前記縦断面及び前記横断面での平均結晶粒径を100マイクロメータ以下とすることを特徴とする銅合金管の製造方法。
【請求項2】
前記調整加工工程は、40%以上の横断面の面積減少率で引抜加工することを特徴とする請求項1記載の銅合金管の製造方法。
【請求項3】
前記引抜加工工程は、50%以上の横断面の面積減少率で引抜加工することを特徴とする請求項1又は2に記載の銅合金管の製造方法。
【請求項4】
前記調整加工工程は、複数回に分けて引抜加工することを特徴とする請求項1乃至3のうちの1つに記載の銅合金管の製造方法。
【請求項5】
前記引抜加工工程は、複数回に分けて引抜加工することを特徴とする請求項1乃至4のうちの1つに記載の銅合金管の製造方法。
【請求項6】
前記主加工工程は、複数回の前記工程セットを含むことを特徴とする請求項1乃至5のうちの1つに記載の銅合金管の製造方法。
【請求項7】
前記溶体化工程において、前記管状押出材は引抜加工での予加工後に加熱されることを特徴とする請求項1乃至6のうちの1つに記載の銅合金管の製造方法。
【請求項8】
高温ロウ付け性に優れた銅合金管であって、Crを0.5〜1.5質量%、Zrを0.02〜0.20質量%、残部を不可避的不純物及びCuとした成分組成のクロムジルコニウム銅合金からなり、軸線に沿った縦断面及び軸線に垂直な横断面のそれぞれでの平均結晶粒径を50マイクロメータ以下、少なくとも980℃で30分間の加熱後空冷しても前記縦断面及び前記横断面での平均結晶粒径を100マイクロメータ以下とすることを特徴とする銅合金管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温でのロウ付け性に優れた銅合金管及びその製造方法に関し、特に、900℃以上といった高いロウ付け温度でも結晶粒の粗大化を抑制できて機械的性質に優れるクロムジルコニウム銅合金からなる銅管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性の高い銅管が熱交換器の水冷配管や冷媒用配管に多く用いられている。特に、合金成分を添加した銅合金からなる銅合金管が耐熱性、耐圧性及び/又は耐腐食環境性といった特殊環境への耐性の観点において各種開発を進められている。ここで銅合金管のうち、各種装置への組み込みのためのロウ付けにおける劣化耐性に優れることを特性に併せ持つことを要求されることがある。
【0003】
例えば、特許文献1は、一般的に耐熱性に優れるとされるCu−Co−P系合金からなる銅合金管において、800℃以上の高温でのロウ付け処理によっても機械強度を大きく損なうことのない銅合金管及びその製造方法を開示している。まず、Co及びPの成分組成を調整したCu−Co−P系合金ビレットを680〜800℃の温度に加熱して均質化処理後、750〜980℃の温度で熱間押出しして水冷し押出素管を得る。これを圧延加工及び抽伸加工して所定寸法の抽伸管(平滑管)とし、400〜700℃の温度にて5分間〜1時間保持する中間焼鈍しで析出物を分散させる。更に、抽伸加工し、500〜750℃の温度で5分間〜1時間程度保持する最終焼鈍しを行って、加工硬化した抽伸管を軟質化させるとともに析出物を再度、分散させる。ここでは2回の焼鈍しを行っているが、これは抽伸し易くするために歪みを減少させる目的だけでなく、析出物を分散させるためでもある。これにより、Co−P化合物や(Co,Ni)−P化合物等の析出物を結晶粒の粗大化を抑制するためのピンニング粒子として作用するように分散させることができるとしている。
【0004】
ところで、特許文献2では耐熱性とともに高温強度、高導電性及び高熱伝導性を要求される電極材として、特許文献3では更に曲げ加工性や耐疲労強度などを要求される電気電子部品用のばね材及び接点材として、1質量%程度のCrやZrを含む析出硬化型のクロムジルコニア銅(CuCrZr)合金について述べている。かかる合金は、900℃以上の溶体化温度で加熱保持後に水焼き入れし過飽和固溶体として、所定の形状に加工後、400〜500℃程度の温度で時効処理して、微細な析出物を分散析出させて機械強度を調整して用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−100579号公報
【特許文献2】特開平9−76074号公報
【特許文献3】特開2009−132965号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、発電装置などでは高いエネルギー効率を求められており、より高温での操業となることも多く、熱交換器の配管等には高温での信頼性に優れるCuCrZr合金の利用を考慮できる。しかしながら、かかる合金を用いた合金管の製造例は未だ多くはない。
【0007】
また、部品同士の接合においても、上記したような高温操業が求められる装置では、高温での信頼性の高いニッケルやクロム、タングステンといった高融点金属を含むロウ材を用いたロウ付け処理が適用され得るが、かかるロウ付け処理の温度は900℃以上、場合によっては1000℃程度の温度ともなってしまう。つまり、クロムジルコニア銅合金をはじめ一般的な銅合金の溶体化処理の温度帯にも匹敵するため、特に、結晶粒の粗大化による機械強度の劣化が問題となる。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、クロムジルコニア銅合金からなる引抜加工管であり、溶体化処理に匹敵する温度帯であっても機械強度の劣化、特に結晶粒の粗大化を抑制でき、故に、高温ロウ付け性に優れる銅合金管及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記したような溶体化処理の温度帯にも匹敵する高温でのロウ付け処理では、一部の析出粒子も母相に固溶し得るため、このような析出粒子でのピンニング効果による結晶粒粗大化の抑制は期待できない。そこで、本願発明者は、析出硬化型合金の一般的な450℃程度の時効温度よりも高い温度での再結晶化の挙動と結晶粒の成長について鋭意観察する中で本発明に想到した。すなわち、少なくともCuCrZr合金では、引抜加工時の焼鈍し温度を従来のそれよりも相当程度に高くすることで、その後の引抜加工における加工歪みが上記したような結晶粒粗大化の抑制を与えるように導入され得ることを見いだしてなされたものである。
【0010】
つまり、本発明による高温ロウ付け性に優れた銅合金管の製造方法は、Crを0.5〜1.5質量%、Zrを0.02〜0.20質量%、残部を不可避的不純物及びCuとした成分組成のクロムジルコニウム銅合金からなる管状押出材を900℃以上の溶体化温度で加熱保持して水焼き入れする溶体化工程と、前記管状押出材を引抜加工して引抜加工材とする引抜加工工程、及び、前記引抜加工材を焼鈍し温度で加熱して水焼き入れする中間焼鈍し工程の工程セットからなる主加工工程と、前記引抜加工材を更に引抜加工し軸線に沿った縦断面及び軸線に垂直な横断面のそれぞれでの平均結晶粒径を50マイクロメータ以下とする調整加工工程と、を含み、前記溶体化工程後に、前記縦断面及び前記横断面の各平均結晶粒径を100マイクロメータ以上とするとともに、前記焼鈍し温度を900℃以上とすることで、前記二次加工工程後に、少なくとも980℃で30分間の加熱後空冷しても前記縦断面及び前記横断面での平均結晶粒径を100マイクロメータ以下とすることを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、ロウ付け処理において900℃以上の溶体化処理の温度帯に加熱しても平均結晶粒径を大きく増加させることなく、故に、機械強度の劣化を抑制可能な銅合金管を提供できるのである。
【0012】
上記した発明において、前記調整加工工程は、40%以上の横断面の面積減少率で引抜加工することを特徴としてもよい。また、前記引抜加工工程は、50%以上の横断面の面積減少率で引抜加工することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、高温でのロウ付け処理においても平均結晶粒径の増大を確実に抑制し、故に、機械強度の劣化をより抑制可能な銅合金管を提供できる。
【0013】
上記した発明において、前記調整加工工程は、複数回に分けて引抜加工することを特徴としてもよい。また、前記引抜加工工程は、複数回に分けて引抜加工することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、引抜加工による加工歪みを調整できるとともに、高温でのロウ付け処理においても平均結晶粒径の増大を確実に抑制し、故に、機械強度の劣化をより抑制可能な銅合金管を提供できる。
【0014】
また、上記した発明において、前記主加工工程は、複数回の前記工程セットを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、引抜加工及び中間焼鈍しによる加工歪みを調整できて、高温でのロウ付け処理においても平均結晶粒径の増大を確実に抑制し、故に、機械強度の劣化をより抑制可能な銅合金管を提供できる。
【0015】
また、上記した発明において、前記溶体化工程において、前記管状押出材は引抜加工での予加工後に加熱されることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、主加工工程の加工率を低減でき、製造効率を高めることが出来るのである。
【0016】
本発明による高温ロウ付け性に優れた銅合金管は、Crを0.5〜1.5質量%、Zrを0.02〜0.20質量%、残部を不可避的不純物及びCuとした成分組成のクロムジルコニウム銅合金からなり、軸線に沿った縦断面及び軸線に垂直な横断面のそれぞれでの平均結晶粒径を50マイクロメータ以下、少なくとも980℃で30分間の加熱後空冷しても前記縦断面及び前記横断面での平均結晶粒径を100マイクロメータ以下とすることを特徴とする。
【0017】
かかる発明によれば、ロウ付け処理において900℃以上の溶体化処理の温度帯に加熱しても平均結晶粒径を大きく増加させることなく、故に、機械強度の劣化が少なくより高温の熱交換器の配管等に用い得るのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明による銅合金管に使用される銅合金の成分組成を示す表である。
図2】本発明による製造方法を示すフロー図である。
図3】引抜加工の方法を説明するための断面図である。
図4】加工率を説明するための断面図である
図5】観察試料の切り出し方向を示す図である。
図6】銅合金管の装置への組み付け方法を示すフロー図である。
図7】本発明による銅合金管の実施例及び比較例の施工条件を示す表である。
図8】本発明による銅合金管の実施例及び比較例の結晶粒径を示す表である。
図9】実施例2の銅合金管について断面観察した組織写真である。
図10図9の銅合金管を熱処理後に断面観察した組織写真である。
図11】調整加工工程における加工率と結晶粒径の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明による銅合金管の製造方法の1つの実施例について、図1乃至6を用いて説明する。
【0020】
図1に示すように、銅合金管に使用される銅合金としては、導電性及び熱伝導性に優れるとともに、高温での機械的性質にも優れるとされる析出硬化型銅合金であるCuCrZr合金が用いられる。典型的には、C18150と称される、成分組成において、Crを0.5〜1.5質量%、Zrを0.02〜0.20質量%含む銅合金を用いる。かかる銅合金は、一般的に、900℃以上で溶体化処理され、各種電気部品の形状などに機械加工された後に、析出相を分散させる時効処理(熱処理)をして用いられる。一方、ここでは銅合金管に塑性加工され、典型的には引抜き加工され、時効処理をしてから用いられる。なお、各種装置へのロウ付け処理は時効処理の後であってもよいが、高温での処理、特に、溶体化処理の温度にも匹敵する900℃以上の温度に曝されるロウ付け処理においては、時効処理前に施工されることが好ましい。これについては後述する。
【0021】
図2に示すように、上記したCuCrZr合金からなる管状押出材を溶体化温度で加熱保持し水焼き入れする(S11:溶体化工程)。この管状押出材を引抜加工して引抜加工材とし(S12:引抜加工工程)、これを従来の加工歪み取りのための焼鈍し温度よりもかなり高い温度、例えば、900℃以上といった焼鈍し温度に加熱して加工歪みを焼鈍してから水焼き入れする(S13:中間焼鈍し工程)。続いて、引抜加工し平均結晶粒径を50μm以下に調整する(S14:調整加工工程)。なお、引抜加工工程S12と中間焼鈍し工程S13との本加工セットは、適宜、繰り返し行うことが好ましい(S21)
【0022】
少なくともCuCrZr合金では、管体形状を維持したまま塑性加工する引抜加工での加工歪みが中間焼鈍し工程S13で回復するが、このときの焼鈍し温度を900℃以上といった高温にした上で降温時の再結晶化を制御するように水焼き入れすることで、続く、調整加工工程S14で導入される加工歪みが更にその後の高いロウ付け処理の温度条件、例えば、980℃で30分間の加熱後に空冷する温度条件であっても、平均結晶粒径を100μm以下に抑制するように働き得るのである。
【0023】
また、引抜加工工程S12と中間焼鈍し工程S13との本加工セットを繰り返すことで、調整加工工程S14で導入される加工歪みがその後の高いロウ付け処理の温度条件における結晶成長をより抑制するように働かせ得るのである。
【0024】
より詳細には、溶体化処理工程S11では、図1に示すような成分組成を有する合金インゴットから得られた管状押出材を溶体化温度まで加熱保持し、その後、水焼き入れする。ここで、管状押出材のマクロ的な均質化を効率的に行う観点から、その加熱温度や加熱時間などを考慮するが、一方で、熱伝導性に優れる銅合金では内部熱勾配を小さくできてその形状に依拠するところはそれほど大きくなくこれを考慮する必要性は少ない。なお、溶体化温度が高すぎると成分組成が変化してしまうことがあるとされる。そこで、大気中であっても良いが、典型的には、不活性ガス雰囲気又は還元性ガス雰囲気において(特に断りのない限り、他の加熱処理においても同様。)、900℃〜1050℃の間の溶体化温度に加熱して、30分から1時間程度保持した後に水焼き入れする。水焼き入れでは、降温時の再結晶化が抑制されて粗大化した結晶粒のまま冷却されるため、不可避的に平均結晶粒径が100μm以上となり得る。
【0025】
なお、溶体化処理工程S11に先だって、管状押出材を所定の寸法にまで引抜加工等の塑性加工をしておくことで(予加工)、その後の引抜加工による加工率を抑えることができて製造効率上好ましい。
【0026】
引抜加工工程S12は、室温における冷間加工工程であり、図3に示すように、合金管1内に挿入されるプラグ11とダイス12とを用いて行われる。ダイス径とプラグ径との差で合金管1の肉厚が決定できるが、所定の径寸法を得るために複数回に分けて行って加工歪みの導入形態に変化を与えることも好ましい。
【0027】
ここで図4に示すように、加工率γについては、横断面における断面積の減少率で表すこととする。すなわち、加工前及び加工後の断面積をそれぞれS(外径R,内径r),S(外径R,内径r)とすると、
加工率γ=(S/S
{(R−r)−(R−r}/(R−r
である。
【0028】
中間焼鈍し工程S13は、所定温度に加熱保持後、降温時の再結晶化を制御して水焼き入れする工程である。引抜加工工程S12において導入された加工歪みを緩和させるとともに、続く、調整加工工程S14で導入される加工歪みをその後のロウ付け処理S32(これについては後述する。)において結晶粒の成長を抑制するように導入させるのである。このためには、加熱保持の温度を1050℃以下であり、且つ、少なくとも800℃以上、好ましくは850℃以上、更に好ましくは900℃の温度とすべきである。
【0029】
なお、引抜加工工程S12と中間焼鈍し工程S13との工程セットは複数回行われてもよい(S21)。この場合、調整加工工程S14で導入される加工歪みをその後のロウ付け処理S32において結晶粒の成長をより抑制するように導入させ得る。
【0030】
調整加工工程S14は、引抜加工工程S12と同様に、プラグ11とダイス12(図3参照)とを用いた冷間加工工程であって、図5に示すように、合金管1の軸線2に沿った縦断面A1及び軸線2に垂直な横断面A2のいずれでも平均結晶粒径を50μm以下とするように引抜加工される。ここでも、所定の径寸法を得るために複数回に分けて施工を行ってもよい。引抜加工では、同じ加工率を与えたときでも複数回に分けて施工することで加工歪みの導入形態がより複雑になり得る。
【0031】
以上で、時効処理前の高温ロウ付け性に優れた銅合金管を得ることができる。
【0032】
なお、図6に示すように、調整加工工程S14を経て得られた銅合金管は、これを用いる所定の装置に組み付けられ(組み付け工程:S31)、高温での信頼性の高いニッケルやクロム、タングステンといった高融点金属を含むロウ材を用いてロウ付けされ(ロウ付け処理工程:S32)、最後に、全体を加熱することで析出物を析出させて機械強度を調整される(時効処理工程:S33)。
【0033】
以上述べてきたように、調整加工工程S14を経て得られた合金管は、900℃以上の溶体化処理の温度帯に加熱しても平均結晶粒径を大きく増加させることなく、機械強度の劣化を抑制できる。例えば、少なくとも980℃で30分間の加熱後空冷しても縦断面A1及び横断面A2での平均結晶粒径を100μm以下にできるのである。
【実施例】
【0034】
図7に示すように、上記した製造方法により銅合金管を作成し、ロウ付け処理工程S32を模した熱処理前後の結晶粒径について測定及び観察を行った。
【0035】
まず、管状押出材を加工率γ=31.7%の引抜加工(予加工)を行って、外径57mm、厚さ4mmの管体とした。その上で、980℃で30分間加熱保持し、水焼き入れして管状材を用意した。
【0036】
実施例1及び2では、引抜加工工程S12として、加工率γ=52.4%の引抜加工を3回に分けて行った後に、中間焼鈍し工程S13として、980℃で30分間加熱保持し、水焼き入れした。その後、実施例1では調整加工工程S14として加工率γ=42.0%の調整加工を2回に分けて、実施例2では調整加工工程S14として加工率γ=76.3%の調整加工を6回に分けて施工した。
【0037】
実施例3では、引抜加工工程S12として、加工率γ=52.4%の引抜加工を3回に分けて行った後に、1回目の中間焼鈍し工程S13として、980℃で30分間加熱保持し、水焼き入れした。更に、2回目の引抜加工工程S12として、加工率γ=56.1%の引抜加工を3回に分けて行った後に、中間焼鈍し工程S13として、900℃で30分間加熱保持し、水焼き入れした。これを調整加工工程S14として、加工率γ=46.1%の調整加工を2回に分けて施工した。
【0038】
他方、比較例1では、引抜加工工程S12として、加工率γ=52.4%の引抜加工を3回に分けて行った後に、中間焼鈍し工程S13として、600℃で30分間加熱保持し、水焼き入れし、は調整加工工程S14として加工率γ=74.9%の調整加工を6回に分けて施工した。
【0039】
これらの一部を切り出し縦断面A1及び横断面A2(図5参照)を顕微鏡観察し結晶粒径を測定した。残りについては、ロウ付け処理工程S32を模した熱処理、すなわち、980℃で30分間加熱保持し、空冷した。そして同様に、縦断面A1及び横断面A2を顕微鏡観察し結晶粒径を測定した。その結果を図8に示した。
【0040】
図8に示すように、実施例1〜3、比較例1ともに熱処理前の平均結晶粒径は50μm以下であった。しかしながら、実施例1〜3では熱処理後の平均結晶粒径を100μm以下に結晶粒成長を抑制できていたが、中間焼鈍し工程S13の熱処理を600℃程度で行った比較例1では平均結晶粒径が100μm以上で、且つ異常粒成長も観察された。すなわち、中間焼鈍し工程S13をより高い温度で行うことで結晶粒成長を抑制できることが観察された。なお、実施例3では、985℃で3時間加熱保持し、空冷する温度条件であってもなお平均結晶粒径を100μm以下に維持できていることが確認された。
【0041】
ところで、図9及び10には、実施例2の熱処理前後の縦断面A1及び横断面A2の顕微鏡写真を示した。図9では、結晶粒が歪み、結晶粒の内部にも複雑に歪みが蓄積していることがわかる。一方、図10では、縦断面及び横断面ともに結晶粒の大きさが比較的よく揃っており、明確にサブグレインも観察されている。
【0042】
また、図9(a)では、引抜方向Tに沿って結晶粒が伸びて観察される。一方、図10(a)では、結晶粒の大きさがほぼ一定であるが、引抜方向Tに沿って結晶粒が並んでおり、これらは熱処理による再結晶粒であることがわかる。上記した中間焼鈍し工程S13の高温での熱処理では、結晶成長よりも結晶粒の再結晶化が優先し比較的微細な結晶粒を得られるものと考える。
【0043】
ところで、実施例1及び2では調整加工工程S14の加工率が異なる。他の測定も合わせて加工率と熱処理後の結晶粒経について計測した結果を図11に示す。すなわち、調整加工工程S14における加工率は、図11のP1に示すように、30%以上、好ましくは40%以上であれば結晶粒径を100μm以下に抑制できるのである。
【0044】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0045】
1 管体
2 軸線
11 プラグ
12 ダイス
A1 縦断面
A2 横断面
【要約】
【課題】 CuCrZr合金からなる引抜加工管であり、溶体化処理の温度帯であっても機械強度の劣化、特に結晶粒の粗大化を抑制し、故に、高温ロウ付け性に優れる銅合金管及びその製造方法の提供。
【解決手段】 管状押出材を900℃以上の溶体化温度で加熱保持して水焼き入れする溶体化工程と、引抜加工する引抜加工工程及びこれを焼鈍し温度で加熱して水焼き入れする中間焼鈍し工程の工程セットからなる主加工工程と、更に引抜加工し軸線に沿った縦断面及び軸線に垂直な横断面のそれぞれでの平均結晶粒径を50μm以下とする調整加工工程と、を含む。溶体化工程後に、縦断面及び横断面の各平均結晶粒径を100μm以上とするとともに、焼鈍し温度を900℃以上とすることで、二次加工工程後に、少なくとも980℃で30分間の加熱後空冷しても縦断面及び横断面での平均結晶粒径を100μm以下とできる。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図11
図9
図10