(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
歯科医療においてデンタルインプラント(以下、単に「インプラント」という。)は、欠損歯の補綴治療として知られている。
インプラントは、歯を喪失した患者の口腔内の歯槽骨に埋入されるフィクスチャー(インプラント体、例えばチタン製)と、フィクスチャーに接続されて支台となるアバットメントと、アバットメントに装着される上部構造(人工歯冠)から構成される。
インプラント手術では、フィクスチャーを埋入するための埋入孔を患者の歯槽骨の所定の位置および方向へドリルで正確に穿孔することが重要である。
【0003】
CT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)技術を利用して、CT装置による撮影で取得した3次元CT画像データと、高価なシミュレーションソフトウェアを使用することにより、インプラント手術前に妥当なフィクスチャーの埋入位置および埋入方向を予め決定しておくことができる。
CT画像データでは人体の特定の内部構造を表示することが可能であるため、通常肉眼では把握できない内部構造の形状や位置を参照しながら、患者の歯槽骨の解剖学的形状(歯槽骨の幅、厚みや密度及び神経の走行等)から判断して、外科的に最適と思われる所にフィクスチャーの埋入位置および埋入方向を決定することができる。
【0004】
しかし、フィクスチャーを埋入する埋入孔を患者の歯槽骨にドリルで穿孔するには、患者の口腔内でのドリルの3次元的な位置決めが必要となる。
シミュレーションソフトウェアでは、手術台の横に配置されたモニター画面に、シミュレーションイメージ画像を表示するに過ぎなく、施術者(医師等)は、患者の口腔内の術部とモニターとを交互に見ながら、口腔内という狭い環境の中で器具の操作を行わなければならず、モニター画面を見ながら、フリーハンドで患者の歯槽骨の所定の位置および方向へドリルで正確に埋入孔を穿孔することは困難であった。
さらに、モニター画面の表示は平面的であり、シミュレーションイメージ画像と実像の重ね合わせ作業を頭の中で行いながら治療する必要がある。
また、事前に3次元CT画像でイメージを持ちつつ、実際に開いてみた実像と施術者の頭の中で一致させる重ね合わせ作業を行うにしても、歯槽骨は複雑な形状であり、熟練していない施術者には困難であり、施術者個人のテクニックやノウハウに依存する経験と勘によるところが大きい。
【0005】
そこで、患者の歯槽骨の所定の位置及び方向へドリルをガイドする案内孔を有する金属製のガイドリングを使用したサージカルガイドを患者の口腔内に装着し、ガイドリングの案内孔にドリルを通して、案内孔に倣ってドリルを進入させることで、患者の歯槽骨の所定の位置および方向へ正確に埋入孔を穿孔することが知られている。
しかし、サージカルガイドを患者の口腔内に装着すると、術野がサージカルガイドで覆われて見えないため、施術者は、ドリルの先端が歯槽骨を削っている部分を目視することができなく、また、埋入孔を穿孔するには、段階的に直径がより大きな数種類のそれぞれのドリルの直径に合わせたガイドリングを設けた数種類のサージカルガイドが必要となり、その分、コストがかさむ。
【0006】
ここで、関連技術として、ヘッドマウントディスプレイやグラス型ディスプレイを装備した施術者は、患者の口腔内の術部に視線を合わせた状態にて、事前に撮影した患者の3次元CT画像データを患者の口腔内の術部の実像に重ね合わされたインプラントのシミュレーションイメージ画像を(AR:Augmented Reality、拡張現実)にて確認することができ、施術者は本来見えないはずの患者の顎の骨などを疑似的に見ることが可能となり、インプラントの埋入位置などの情報を直感的に確認することができる技術がある(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ARマーカー(画像認識型ARシステムにおいて、付加情報を表示する位置を指定するための標識となる決まったパターンの画像)を1本の歯牙に確実・安定的に装着する具体的な技術は開示されていなかった。
また、現状の技術レベルで、かつ、コスト的に廉価な、実際に実現可能なインプラント手術補助システムは現実に市場に提供されることが望まれていた。
本発明は、試行錯誤により到達できた高い水準にあり、単なるアイデアレベルでは実現できない、具体的なシステム・製品として実用に供される現実性・完成度を誇るものである。
【0009】
本発明の目的は、インプラント手術の安全性や正確性を高めることができるインプラント手術補助システム等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のインプラント手術補助システムは、PCと、有線のHMD装置と、有線のWebカメラと、前記PCに接続されたモニターとを備えるインプラント手術補助システムであって、
前記PCは、モックアップと患者の口腔内の3次元CT画像との位置合わせが行われた基準位置における、前記3次元CT画像と前記患者のモックアップの1本の歯牙に1個ずつ
歯冠の根元の細い歯肉に近い部分まで密着して被せられたキャップに付された白黒色が施された二次元のARマーカーとの3次元位置姿勢を術前に予め紐付けして記憶し、
前記PCは、施術者が装着する有線のWebカメラにより撮像された術部の実像の画像に含まれる、前記患者の1本の歯牙に1個ずつ被せられた前記キャップに付された前記ARマーカーを追従して、前記ARマーカーに紐付けられた前記3次元CT画像を、インプラント手術の術中に前記術部の実像の画像に対してリアルタイムで重ね合わせ、該重畳された3次元画像を前記PCに接続されたモニターおよび前記施術者が装着する
前記有線のHMD装置に表示し、
前記PCは、前記重畳された3次元画像から
、前記3次元CT画像をスライスする仮想的な2枚の板の3次元での姿勢行列の逆行列を用いて術前に予め作成された2次元の断面図を前記モニターおよび前記HMD装置に
拡大可能に表示し、
前記PCは、前記重畳された3次元画像にグリッドを付加して前記モニターおよび前記HMD装置に表示し、
前記PCは、前記重畳された3次元画像に前記施術者が歯槽骨に埋入するドリルに対するドリルガイドを付加して前記モニターおよび前記HMD装置に表示し、前記ARマーカーが付された前記ドリルの前記術中の位置と前記ドリルガイドとの重なり状態を
、
前記ドリルと前記ドリルガイドとが完全に不一致かつ平行でない状態、
前記ドリルが前記ドリルガイドの外にあるが平行である状態、
前記ドリルが前記ドリルガイド内に埋入している状態、
前記ドリルが前記ドリルガイド先端付近に到達した状態
および前記ドリルが前記ドリルガイドを突き抜けて貫通してしまった状態
のいずれかであることを3次元で判定して前記モニターおよび前記HMD装置に表示する。
【0011】
本発明のインプラント手術補助方法は、PCと、有線のHMD装置と、有線のWebカメラと、前記PCに接続されたモニターとを利用したインプラント手術補助方法であって、
前記PCが、モックアップと患者の口腔内の3次元CT画像との位置合わせが行われた基準位置における、前記3次元CT画像と前記患者のモックアップの1本の歯牙に1個ずつ
歯冠の根元の細い歯肉に近い部分まで密着して被せられたキャップに付された白黒色が施された二次元のARマーカーとの3次元位置姿勢を術前に予め紐付けして記憶するステップと、
前記PCが、施術者が装着する有線のWebカメラにより撮像された術部の実像の画像に含まれる、前記患者の1本の歯牙に1個ずつ
歯冠の根元の細い歯肉に近い部分まで密着して被せられた前記キャップに付された前記ARマーカーを追従して、前記ARマーカーに紐付けられた前記3次元CT画像を、インプラント手術の術中に前記術部の実像の画像に対してリアルタイムで重ね合わせ、該重畳された3次元画像を前記PCに接続されたモニターおよび前記施術者が装着する
前記有線のHMD装置に表示するステップと、
前記PCが、前記重畳された3次元画像から
、前記3次元CT画像をスライスする仮想的な2枚の板の3次元での姿勢行列の逆行列を用いて術前に予め作成された2次元の断面図を前記モニターおよび前記HMD装置に
拡大可能に表示するステップと、
前記PCが、前記重畳された3次元画像にグリッドを付加して前記モニターおよび前記HMD装置に表示するステップと、
前記PCが、前記重畳された3次元画像に前記施術者が歯槽骨に埋入するドリルに対するドリルガイドを付加して前記モニターおよび前記HMD装置に表示し、前記ARマーカーが付された前記ドリルの前記術中の位置と前記ドリルガイドとの重なり状態を
、
前記ドリルと前記ドリルガイドとが完全に不一致かつ平行でない状態、
前記ドリルが前記ドリルガイドの外にあるが平行である状態、
前記ドリルが前記ドリルガイド内に埋入している状態、
前記ドリルが前記ドリルガイド先端付近に到達した状態
および前記ドリルが前記ドリルガイドを突き抜けて貫通してしまった状態
のいずれかであることを3次元で判定して前記モニターおよび前記HMD装置に表示するするステップとを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インプラント手術の安全性や正確性を高めることができるインプラント手術補助システム等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。本発明は、インプラント手術時、患者の口腔内の3次元CT画像をその患者の実際の口腔内の術部の実像にリアルタイムで重ね合わせて描画して表示し、あたかも施術者にX線の目を与えたかのような効果を生む技術である。
【0015】
〔システム構成〕
図1に示すように、本実施の形態におけるインプラント手術補助システムSは、PC(パーソナル・コンピュータ)10、施術者の顔部に取り付けられるHMD装置(3Dヘッドマウント型ディスプレイ装置)20、HMD装置20に接続されたケーブル21、ARマーカー70等を測定するWebカメラ30、Webカメラ30に接続されたケーブル31、PC10に接続されたモニター(表示装置)40、CT装置50から構成されている。
これらのハードウェアは一定の性能基準を満たす市販品から自由に選択されることであってよい。したがって、ハードウェアの維持費用ついても、既存の汎用品を使用することにより、従来の高額システムのように、治療ごとに機材を購入することがないため、コスト削減が可能となる。
【0016】
PC10は、中央演算処理装置(CPU)、メモリ、HDD、キーボート、マウス、タッチパネル等の入力装置を備えている周知の情報処理装置である。処理落ちしない程度の一定以上の処理能力が必要であり、デスクトップ型が好ましい。なお、PC10と同様の処理を実行することができる情報処理装置が広く適用可能である。
PC10は、プログラムをインストールすることにより実現される。そのプログラムは、メモリに記憶されている。なお、そのプログラムは、周知の各種記憶媒体に記憶することができる。
PC10は、モニター40およびHMD装置20に、Webカメラ30が撮影した患者の口腔内の術部の実像の画像110に対して術前に作成された患者の口腔内の3次元CT画像120を重ね合わせ(オーバーレイ、重畳)るように、座標変換処理を行って表示させる。したがって、下顎管や上顎洞といった外科的に重要な指標を術部の実像の画像110に重畳して表示することができる。下顎管や上顎洞といった外科的に重要な指標は、さらに2次元CT画像である断面
図130に展開することでインプラント手術にはより有益となる。
【0017】
HMD装置20は、PC10から出力される、Webカメラ30が撮影した患者の口腔内の術部の実像の画像110に対して術前に作成された患者の口腔内の3次元CT画像120を重ね合わせて重畳表示されたものを見る(すなわち、実像を間接的に見る)ための両目型(片目型もある。)のビデオシースルー型の装置である。ここではフルフェイス型で表すが、メガネ型もある。施術者の顔部に装着して使用される。
なお、施術者の実視野にて術部等の生の実像をシースルーで直接的に見る光学透過型もあるが、リアルタイムにWebカメラ30が撮影している患者の口腔内の実像の画像110と施術者が現実に視認している生の実像とが完全に一致していることを保証することは現時点の技術水準では困難であるため採用しない。
HMD装置20は、ディスプレイ機能のみとし、CPU等を備えないため軽量化が実現されている。
施術者は、インプラント手術の術中に、従来のようにPC10のモニター40の画像と見比べる必要がなくなり、時間短縮等が図られる。
HMD装置20は、ケーブル21のような有線でPC10と接続されている。有線のため処理による遅延がなく、リアルタイム性を実現することができる。現時点の技術水準では無線の場合では0.5秒などの遅延が生じるため採用しないが、将来的にコスト的にも見合う高い処理能力を実現するHWが登場した際には無線であってもよい。
【0018】
Webカメラ30は、HMD装置20の上部又は施術者の頭部の付近に装着して使用される小型のリアルタイムカメラである。患者の口腔内の術部の実像の画像110を撮像してケーブル31を介してPC10に出力する。
術部の実像の画像110には、ARマーカー70も含まれ、PC10においてその位置座標(すなわち3次元位置座標(並進:X,Y,Z))およびその位置座標における姿勢(すなわち、マーカーの向きや傾斜状態などの姿勢)が測定される。
【0019】
モニター40は公知の液晶ディスプレイ等の表示装置であり、PC10に接続されている。PC10と一体型であってもよい。
モニター40に表示される画像が同様にHMD装置20に画像として出力される。したがって、施術者が術中にHMD装置20により見ている画像を、施術者以外の手術スタッフ等にもモニター40に表示される画像により見ることができ、インプラント手術の様子が確認可能となっている。
【0020】
CT装置50は、CT(コンピュータ断層撮影:Computed Tomography)技術を利用して、
患者の口腔内(例えば、上顎又は/および下顎部)を撮影する公知の装置であり、撮影された断層画像がつなぎ合わされて3次元再構成がなされ3次元CT画像データ120をなす。なお、CT装置50は、後述する術前処理にのみ用いられる装置であるので、本インプラント手術補助システムSの枠組みの外にある装置と捉えることもできる。
【0021】
図2に示すように、ARマーカー70は、3次元位置座標検出用の識別表示である。
ARマーカー70は、8mm角のプラスティックの平板(2次元)に、画像処理により認識し易い白黒で所定のマーク(ここでは8×8マス認識)が印刷されている。なお、10mm、12mm角でもよく、形状は特に限定されない。
ARマーカー70は、患者の歯牙に被せるキャップ80に樹脂製の接着剤であるグルーガンにより接着等されて付されている。
ARマーカー70は、2次元であるため精度よく認識できる。現時点の技術水準では3次元で認識することは困難であり、患者の歯牙そのものをマーカーとするのでは精度がでない。例えば、車などはサイズ的に大きいため数cmの認識のズレが問題なくても、歯科のインプラント手術では1mmのずれが大問題となる。ARにおけるトラッキングは一般的に大きくズレたりブレたりすることがあり、アミューズメント用途(ゲームなど)等と異なり、インプラント手術では、例えば1cmズレると使いものにならなく、非常に高い精度が求められる。そこで、ブレの少ない2次元マーカー方式を採用し、さらに、マーカーの画面上の位置によるズレを解消する種々の工夫を施すことで、ブレ1mm未満が実現されている。
【0022】
図2に示すように、キャップ80は、1本の歯牙よりも一回り大きい程度のサイズに形成されている。1本の歯牙に対して1個を被せ(密着しているので仮止め接着は不要)、合計3個(3本の歯牙)程度を設置することが好ましい。これは、1個のみであると角度によってはWebカメラ30から正確に認識できなくなる場合があり得るからであり、合計3個程度を離れた歯でも隣の歯でもよいのでいろいろな角度に設置すべきである。
キャップ80は、材質は歯科材料の即時重合レジンであり、筆積みで大まかなキャップを作り、エンジンで成形されている。口腔内は唾液があるので外れ易いが、歯冠の根元の細い歯肉に近い部分まで密着して被せるため容易に動いたり外れることが回避される。マウスピース型のキャップでは動いてズレやすく、また、装着時に違和感が大きく、
【0023】
〔術前処理〕
まず、モックアップ60を作製する。
モックアップ60は、患者の口腔内から型取り(印象)して作製した歯および顎の実寸大の石膏模型である。スキャン装置等を用いて作製してもよい。
次に、モックアップ60の残存歯部にARマーカー70が付されたキャップ80を複数個、設置する。
次に、Webカメラ30やその他の所定の撮像装置で撮影し、モックアップ60(ARマーカー70付き)の画像140を取得する。
また、インプラント手術を受ける患者の口腔内(例えば、上顎又は/および下顎部)を、CT装置50で撮影し、撮影された、例えば、約0.5mm間隔の断層画像をつなぎ合わせて立体化して3次元再構成を行い3次元CT画像データ120を取得する。
そして、PC10は、モニター40に、3次元CT画像データ120をARマーカー70の大きさとほぼ同じサイズで重畳して描画し、背景を暗くして見やすくしたうえで3次元CT画像データ120を拡大していく。さらに、
図3に示すように、PC10は、ユーザの入力装置であるマウス等の操作に応じて3次元CT画像データ120の表示位置を移動し、回転させて表示し、モックアップ60(ARマーカー70付き)の画像140と位置合わせを行い、正確に重なり合った地点を基準位置として、マウス等を用いて手動で位置決めの確定操作を行い、ARマーカー70の位置姿勢(スケール、回転、移動など)のデータを基準とした3次元CT画像への変換行列などがPC10に記憶される。なお、この変換行列は、ARマーカー70の3次元位置姿勢に対する3次元CT画像120の3次元位置姿勢との相対的な関係を紐付けて示す情報(3次元位置関係情報)であり、角度が変わっても相対位置がわかる。
【0024】
さらなる術前処理として、施術者が事前に3次元CT画像120の任意の2次元CT画像の断面図を作成する。
3次元CT画像120のデータは、立体的に描画することが可能であるが、3次元であるために施術者に対する視認性に欠ける場合がある。そのようなケースでは、2次元の断面
図130で見るほうが見易く視認性が向上する場合がある。例えば、施術者は歯槽骨の孔となっている部分を知りたいときがある。
断面
図130の作成は、モニター40に表示された3次元CT画像120をスライス(切断)するような仮想的な板を2枚用意し、マウス等の操作に応じてその2枚の板の位置を変えたり、回転させたりし、3次元CT画像120の該当部分をスライスするような位置に板を操作することで断面
図130を作成する。より具体的には板の3次元での姿勢行列の逆行列等を用いて断面
図130を作成することであってもよい。
図4に示すように、XY平面(板で平行に切った)、YZ平面(板で平行に切った)の2面(2枚の板)でスライス(切断)した場合の断面
図130を作成する。
図4(a)の上顎を正面から視た平面をXY平面といい、
図4(d)の上顎を側面から視た平面をYZ平面といい、ここでのXYZ方向はその意味で用いるものとする。
図4(a)の3次元CT画像120のXY平面の断面
図130が、
図4(b)である。
図4(a)の3次元CT画像120のYZ平面の断面
図130が、
図4(c)である。すなわち、
図4(d)の3次元CT画像120のYZ平面の断面
図130が、
図4(c)である。
マウス等の操作に応じて2枚の板の位置をそれぞれ平行移動したり、回転させることもでき、また、3次元CT画像120のほうを動かす(移動、回転)ことにより断面
図130を変化させることもできる。このような操作を駆使すれば、3次元CT画像120の所望の部位の断面
図130は必ず作成できることとなる。
作成した断面
図130は、3次元CT画像120と3次元座標に基づいて所定位置に紐付けておき、術中にモニター40やHMD装置20に表示可能としておく。
【0025】
〔術中処理〕
図5に本実施の形態に係るインプラント手術補助システムSの術中処理フローの一部を示す。
【0026】
まず、患者の口腔内の上顎構造の3本の歯牙にARマーカー70を付したキャップ80を3個、1本に対して1個それぞれ被せて装着して固定する(ステップS501)。
【0027】
このような状態において、患者に対するインプラント手術を開始する(ステップS502)。
【0028】
術中においてはこのARマーカー70を追従(トラッキング)し、施術者が装着するWebカメラ30が撮影した患者の口腔内の術部の実像(器具等も映る)の画像110内のARマーカー70の3次元位置姿勢が、リアルタイムにPC10に入力され(ステップS503)、PC10はARマーカー70の3次元位置姿勢に変化が無いかの計測判断を極めて短い間隔(リアルタイム)で繰り返し行い、Webカメラ30が撮影した患者の口腔内の術部の実像の画像110に術前に作成された下顎骨や下歯槽管神経等の3次元CT画像120を重ね合わせるように、ARマーカー70との3次元的位置関係を保ちながら座標変換処理を行って(ステップS504)、リアルタイムで重畳した、例えば、
図6に示すような画像を出力してモニター40や施術者が顔に装着したHMD装置20に表示する(ステップS505、S506)。
すなわち、患者および施術者の体動等により術部の実像の画像110に含まれるARマーカー70の位置に変化が生じた場合でもその動きに合わせて3次元CT画像120の位置も追従して補正されて表示される。例えば、PC10は、基準位置に対する変化量を算出し、算出した変化量に基づき補正する。基準位置の座標が(x、y、z)であり、変化量が(Δx、Δy、Δz)である場合、座標を、(x+Δx、y+Δy、z+Δz)に補正する。
【0029】
これは、術前処理における、モックアップ60の画像と患者の口腔内の術部の実像(器具等も映る)の画像110とが一致しているという前提からなりたっている。
したがって口腔内のARマーカー70が固定されている限り、術部の実像の画像110に対する3次元CT画像120の重ね合わせがズレるということはない。
【0030】
また、表示される3次元CT画像120を半透明とすれば、術部の実像の画像110に対して暗視野が生じることがなく、あたかも施術者にX線の目を与えたかのような効果を生む。
【0031】
術前に作成した断面
図130は、PC10により、モニター40やHMD装置20に表示される術部の実像の画像110と3次元CT画像120の重畳画像の隅部に表示されたり、その重畳画像と断面
図130がPC10のマウス操作等に応じて切り替えて全画面表示されることであってもよい(ステップS507)。断面
図130は、所定のものが継続的に重畳画像の隅部に表示されることでも、また3次元CT画像120の所定位置に紐付けられているので、3次元CT画像120の所定位置が視認可能なタイミングで、適宜対応する断面
図130が術中にモニター40やHMD装置20に表示されることであってもよい。これにより、施術者は歯槽骨の孔となっている部分を知りたいときなどは、見易く視認性が向上する。
なお、術部の実像の画像110、3次元CT画像120、断面
図130は、PC10のマウス操作等により、拡大(ズーム)表示が可能であり、肉眼では識別困難な、0.1mmなどのレベルであっても施術者は認識ができることとなる。
【0032】
また、術部の実像の画像110と3次元CT画像120を単に重ね合わせただけだと非常に見づらい表示となる場合があり、視認性向上のため、PC10のマウス操作等により、画像背景の明暗、3次元CT画像120の明度・透明度・解像度などのパラメーターを調整可能であってもよい。
【0033】
また、
図7に示すように、PC10は、モニター40やHMD装置20にグリッド(仮想の格子線)150を付加して表示することであってもよい(ステップS508)。バーチャルで施術者の目の前にグリッド150を表示させることができ、グリッド150をガイドとし、歯を削る際などに、平行性の確認が容易になる。
これはARマーカー70に3次元CT画像120をトラッキングさせるのと同じ原理で、ARマーカー70にグリッド150をトラッキングさせる。
なお、グリッド160のサイズ調整、グリッド数調整が可能であってもよい。
【0034】
また、
図8に示すように、PC10は、モニター40やHMD装置20に施術者が使用するドリル90を埋入する道筋であるドリルガイド160を付加して表示することであってもよい(ステップS509)。バーチャルで施術者の目の前にドリル90を埋入するドリルガイド160を表示させ、穿孔開始位置、埋め込み方向、埋め込み深さ等を正確に知ることができる。
ドリルガイド160は事前に3次元CT画像120の所定位置に関連付けておき、ARマーカー70との3次元相対位置も確定しておく。
また、施術者が使用するドリル90に第2のARマーカー71を付して固定する。第2のARマーカー71とドリル90の長手方向との3次元相対位置も確定しておく。
こうすると互いのARマーカー70、71の角度や距離によりドリル90の角度やどれくらい深く入れたかがわかる。
【0035】
図8に模式的に示すように、PC10は、ARマーカー70、71の角度や距離に基づいて、術中のドリル90の位置とドリルガイド160の重なり状態を3次元で判定して、例えば、以下のように表示する。なお、
図8では便宜上2次元のライン同士を判定する説明であるが、実際は3次元で判定される。
(1)ドリル90とドリルガイド160が完全に不一致、平行でもない状態:OUTSIDE(PARALLEL BAD)、
図8(a)参照。
(2)ドリル90がドリルガイド160の外にあるが平行である状態:OUTSIDE (PARALLEL GOOD)、
図8(b)参照。
(3)ドリル90がドリルガイド160内に埋入している状態:INSIDE、
図8(c)参照。
(4)ドリル90がドリルガイド160先端付近に到達した状態:REACH、
図8(d)参照。
(5)ドリル90がドリルガイド160を突き抜けて貫通してしまった状態:OVER、
図8(e)参照。
なお、3次元CT画像120において、神経や血管が有する特有の形状や輝度を手がかりとして、画像認識の技術により、PC10は作業禁止領域を抽出し、ドリル90が適正領域に入っていればグリーン点灯、外れて作業禁止領域に入るとレッド点灯などの表示をなすことであってもよい。
また、断面
図130に術中のドリル90の位置をリアルタイムに投影することであってもよい。
【0036】
上記の本実施の形態によれば、上顎又は/および下顎部(内部構造を含む)の3次元CT画像120を、術中に術部の実像の画像110に対して立体的に重ね合わせることにより、通常肉眼では把握することが困難な内部構造等を視覚的に(同じ目線のままで)捉えながら、フィクスチャーを埋入するための埋入孔を患者の歯槽骨の所定の位置および方向へドリルで正確に穿孔することが可能となる。
すなわち、施術者は本来見えないはずの患者の歯槽骨などを疑似的に見ることができるようになり、フィクスチャーの挿入位置が特定でき、従来であれば、ドリル90(インプラントを挿入する前には患者の歯槽骨に穴をあける)を挿入するときに勘に頼っていたが、穿孔開始位置、埋め込み方向、埋め込み深さの判断がより正確、確実となり、インプラント手術の安全性と正確性を高めることができる。
さらに、3次元的にフィクスチャーの適切な埋入位置や最終的な歯牙のイメージなどの精密な診査・診断が可能になり、痛みや腫れ、出血の少ないインプラント手術が実現される。
また、診断経験の少ない者(例えば新人口腔外科医)であっても、経験豊富な施術者に近いレベル(又はそれ以上のレベル)で、正確な診断を行うことが可能となっている。
【0037】
ところで、インプラント手術ができる口腔外科医の養成方法は未発達となっている。高度な治療のできる施術者によるインプラント手術の際、遠巻きに見て学習するのが現状であり、水がかかったり、歯牙の奥の部分、施術者の手の影になるなどで、他の口腔外科医からうまく見えない状況が発生し、インプラント手術ができる口腔外科医の育成に時間がかかっている。
そして、数多くの手術臨床経験によるしかなく、臨床研修が不十分な状況で、手術を任せられる口腔外科医が育っていない。
図6に示すような、術中のHMD装置20で見ている映像を、PC10のモニター40上で中継放送のように見ることができるため、他の口腔外科医の研修に役立つ。その映像をビデオで保存し、後で見ることができるため、教材としても利用できる。すなわち、熟練した施術者の術中の手の動きを、新人口腔外科医にバーチャルになぞらせる。これにより新人口腔外科医の技術向上を図ることができる。術中のリアルタイムでなくても、ドリル90をあてる角度が主な問題であるため、事後に実際の施術時のタイミングからは遅れてなぞるだけとなっても効果があり、熟練者が居なくても新人口腔外科医が1人で手術の練習を行うことができる。
【0038】
なお、上述する各実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更実施が可能である。例えば、各装置等の機能を実現するためのプログラムを各装置等に読込ませて実行することにより各装置等の機能を実現する処理を行ってもよい。さらに、そのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であるCD−ROM又は光磁気ディスクなどを介して、又は伝送媒体であるインターネット、電話回線等を介して伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。また、一部のシステムが人の動作を介在して実現されてもよい。さらに、例えば、インプラント手術前に、口腔部分の3次元CT画像を重畳させるのと同様の原理で頭蓋CT画像を顔面画像に重畳させて、顎関節の位置を確認することであってもよい。
【解決手段】PCと、有線のHMD装置と、有線のWebカメラと、前記PCに接続されたモニターとを備えるインプラント手術補助システムであって、前記PCは、重畳された3次元画像から術前に予め作成された2次元の断面図を前記モニターおよび前記HMD装置に表示し、前記PCは、前記重畳された3次元画像にグリッドを付加して前記モニターおよび前記HMD装置に表示し、前記PCは、前記重畳された3次元画像に前記施術者が歯槽骨に埋入するドリルに対するドリルガイドを付加して前記モニターおよび前記HMD装置に表示し、前記ARマーカーが付された前記ドリルの前記術中の位置と前記ドリルガイドとの重なり状態を3次元で判定して前記モニターおよび前記HMD装置に表示するインプラント手術補助システム。