特許第6063613号(P6063613)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6063613ベータ細胞の分化およびインスリン産生を促進するためのmiR−7のダウンレギュレーション
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063613
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ベータ細胞の分化およびインスリン産生を促進するためのmiR−7のダウンレギュレーション
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170106BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20170106BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20170106BHJP
   A61K 35/39 20150101ALI20170106BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20170106BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170106BHJP
   C12N 5/00 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   A61K35/12
   A61P3/10
   A61K45/00
   A61K35/39
   A61K35/407
   A61P43/00 111
   C12N5/00
【請求項の数】13
【全頁数】64
(21)【出願番号】特願2014-524486(P2014-524486)
(86)(22)【出願日】2012年8月9日
(65)【公表番号】特表2014-522668(P2014-522668A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】IL2012050306
(87)【国際公開番号】WO2013021389
(87)【国際公開日】20130214
【審査請求日】2015年6月24日
(31)【優先権主張番号】61/521,411
(32)【優先日】2011年8月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502379147
【氏名又は名称】イェダ リサーチ アンド デベロップメント カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ホルンステイン, エラン
(72)【発明者】
【氏名】クレド−ルッソ, シャロン
【審査官】 濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/067644(WO,A1)
【文献】 JOGLEKAR MUGDHA V,GENE EXPRESSION PATTERNS,NL,ELSEVIER,2009年 2月 1日,V9 N2,P109-113
【文献】 CORREA-MEDINA M,GENE EXPRESSION PATTERNS,NL,ELSEVIER,2009年 4月 1日,V9 N4,P193-199
【文献】 SCHERR MICHAELA,NUCLEIC ACIDS RESEARCH,英国,OXFORD UNIVERSITY PRESS,2007年 1月 1日,V35 N22,P E149-1 - E149-9
【文献】 CZECH MICHAEL P,NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE,米国,MASSACHUSETTS MEDICAL SOCIETY,2006年 3月16日,V354 N11,P1194-1195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン含有量をベータ細胞においてエクスビボ増大させる方法であって、前記ベータ細胞を、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするためのポリヌクレオチド作用因と接触させ、それにより、前記インスリン含有量を前記ベータ細胞において増大させることを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法に従って作製される単離された、インスリンを分泌するベータ細胞集団であって、インスリン欠乏に伴う医学的状態をその必要性のある対象において処置するためのベータ細胞集団
【請求項3】
miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための外因性ポリヌクレオチド作用因を含む単離された細胞集団であって、前記細胞がインスリンを分泌する、インスリン欠乏に伴う医学的状態をその必要性のある対象において処置するための単離された細胞集団。
【請求項4】
前記細胞がベータ細胞からなる、請求項3に記載の単離された細胞集団。
【請求項5】
インスリン欠乏に伴う医学的状態をその必要性のある対象において処置するためのmiR−7に対し、その活性または発現をダウンレギュレーションするためのポリヌクレオチド作用因。
【請求項6】
前記ベータ細胞は前駆体ベータ細胞または成熟ベータ細胞から選ばれる、請求項1に記載の方法または請求項2〜4のいずれかに記載の細胞集団
【請求項7】
前記前駆体ベータ細胞は脱分化ベータ細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記脱分化ベータ細胞は、ベータ細胞から作製される誘導多能性幹細胞を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記前駆体ベータ細胞は、分化転換した肝臓細胞を含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリヌクレオチド作用因はアンチセンス作用因である、請求項1に記載の方法、または請求項2もしくは請求項3に記載の単離された細胞集団、または請求項に記載の作用因。
【請求項11】
前記ポリヌクレオチド作用因はantagomirである、請求項1に記載の方法、または請求項2もしくは請求項3に記載の単離された細胞集団、または請求項に記載の作用因子。
【請求項12】
インスリン欠乏に伴う前記医学的状態が真性糖尿病を含む、請求項2もしくは請求項3に記載の単離された細胞集団、または請求項に記載の作用因。
【請求項13】
前記対象はヒトである、請求項2もしくは請求項3に記載の単離された細胞集団、または請求項に記載の作用因。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、マイクロRNA−7のダウンレギュレーションに関連し、より具体的には、限定するものではないが、膵臓のベータ細胞からのインスリン産生を促進させるためのマイクロRNA−7の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
膵内分泌部の発生は、インスリン産生ベータ細胞、グルカゴン産生アルファ細胞、デルタ細胞(ソマトスタチン産生細胞)、PP細胞(膵臓ペプチド産生細胞)およびイプシロン細胞(グレリン産生細胞)を含めて、種々の内分泌細胞タイプを規定する転写因子のネットワークによって支配されている。転写因子のニューロゲニン3(Ngn3)が内分泌分化プログラムを開始させ、その後、転写因子の複雑なネットワークが、内分泌系譜を異なるように規定するために活性化される。
【0003】
Pax6は、Ngn3の下流側で作用する1つのそのような転写因子である。膵島の形態形成が、Pax6の発現が弱まったときには中断されることが示されているので、Pax6は、膵臓のベータ細胞およびアルファ細胞の分化においてPax6は極めて重要である。ヒトおよびマウスの両方において、2つのPax6対立遺伝子が、グルコース恒常性を維持するために要求され、また、一方の対立遺伝子の欠損により、グルコース不耐性が生じる。虹彩および水晶体を含めて、多くの他の器官の発生がPax6ハプロ不全の影響を受けやすい。正常な胚発生は高レベルのPax6に耐えることができない。したがって、例えば、マウスにおけるPax6の過剰発現により、目の異常が引き起こされ、また、アポトーシスが脳および膵内分泌部において誘導される。したがって、Pax6の発現は、適切なレベルの発現を保証するために厳密に制御されているようである。
【0004】
ゲノムにコードされる様々なmiRNAがそれらの標的mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)における特定部位に結合して、転写後のサイレンシングをもたらす。この調節層は様々な転写因子に呼応して作用し、遺伝子発現を精緻なものにし、かつ、発生上の移行に対する頑強性を与える。miRNA成熟化の完全な不活性化は膵臓の非形成を引き起こしており[Lynn他(2007)、Diabetes、56(12):2938〜45]、このことは、miRNAが初期の膵臓発生のために不可欠であることを示している。Melkman−Zehavi他は、miRNAが、転写抑制因子のダウンレギュレーションによって、したがって、インスリン転写の再活性化を可能にすることによって膵臓ベータ細胞におけるインスリン含有量を制御することを開示した[Melkman−Zehavi他(2011)、EMBO Journal、1〜11]。さらに、特定のmiRNAが、インスリン合成およびエキソサイトーシスを分化細胞において制御することが示された。例えば、マウスにおけるmiR−375の機能の喪失は膵島の形態形成および内分泌細胞の分化を中断させ[Poy他(2009)、Proc Natl Acad Sci USA、(106)、5813〜5818]、一方、miR−24、miR−26、miR−182またはmiR−148のベータ細胞における特異的ノックダウンはインスリンプロモーター活性およびインスリンmRNAレベルをダウンレギュレーションする[Melkman−Zehavi他(2011)、上掲]。
【0005】
miR−7は、マウスおよびヒトにおける膵内分泌部において高度に、かつ、特異的に発現する別のmiRNAである[Bravo−Egana他(2008)、Biochem Biophys Res Commun、(366)、922〜926;Correa−Medina他(2009)、Gene Expr Patterns(9)、193〜199]。miR−7は、進化的に保存されたmiRNAであり、ヒトおよびマウスでは3つの異なるゲノム遺伝子座によってコードされるmiRNAである(マウス:第13染色体におけるmmu−mir−7a−1、第7染色体におけるmmu−mir−7a−2、および、第17染色体におけるmmu−mir−7b)。脊椎動物におけるmiR−7遺伝子の重複は遺伝子の機能喪失分析を妨げている。
【0006】
PCT出願番号WO2009/067644(Pastori Ricardo他)は、mir−7が、分化した内分泌細胞のマーカーであり、β細胞の生合成において役割を果たしていることを開示する。WO2009/067644はさらに、胎児膵臓におけるmir−7活性の阻害が胎児膵臓におけるインスリンの形成阻害を生じさせることを開示する。
【発明の概要】
【0007】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞においてエクスビボ増大させる方法であって、ベータ細胞または幹細胞を、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための作用因と接触させ、それにより、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞において増大させることを含む方法が提供される。
【0008】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、本発明の方法に従って作製される単離された細胞集団が提供される。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための外因性作用因を含む単離された細胞集団であって、前記細胞がインスリンを分泌する、単離された細胞集団が提供される。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、上記単離された細胞集団と、医薬的に許容される担体または希釈剤とを含む医薬組成物が提供される。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、インスリン欠乏に伴う医学的状態を処置するために特定される医薬品を製造するための上記単離された細胞集団の使用が提供される。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、インスリン欠乏に伴う医学的状態をその必要性のある対象において処置する方法であって、上記単離された細胞集団を前記対象に投与し、それにより、前記インスリン欠乏に伴う前記医学的状態を処置することを含む方法が提供される。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、インスリン欠乏に伴う医学的状態をその必要性のある対象において処置する方法であって、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための作用因を前記対象に投与し、それにより、前記インスリン欠乏に伴う前記医学的状態を処置することを含む方法が提供される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞において増大させる方法であって、上皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン分解酵素(IDE)、クルッペル様因子4(KLF4)、GLIファミリージンクフィンガー3(GLI3)、インスリン受容体基質1(IRS1)、Sp1転写因子(SP1)、O−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼ(UDP−N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(OGT)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)およびワンカットホメオボックス2(ONECUT2)からなる群から選択されるmiR−7の標的遺伝子を前記ベータ細胞または幹細胞において発現させ、それにより、インスリン含有量を前記ベータ細胞または幹細胞において増大させることを含む方法が提供される。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、上皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン分解酵素(IDE)、クルッペル様因子4(KLF4)、GLIファミリージンクフィンガー3(GLI3)、インスリン受容体基質1(IRS1)、Sp1転写因子(SP1)、O−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼ(UDP−N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(OGT)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)およびワンカットホメオボックス2(ONECUT2)からなる群から選択されるmiR−7の標的遺伝子をコードする核酸配列を含む核酸構築物であって、miR−7の前記標的遺伝子がシス作用調節エレメントの転写制御を受けている核酸構築物が提供される。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態の1つの局面によれば、上皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン分解酵素(IDE)、クルッペル様因子4(KLF4)、GLIファミリージンクフィンガー3(GLI3)、インスリン受容体基質1(IRS1)、Sp1転写因子(SP1)、O−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼ(UDP−N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(OGT)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)およびワンカットホメオボックス2(ONECUT2)からなる群から選択されるmiR−7の標的遺伝子を外因的に発現する単離されたベータ細胞または幹細胞の集団が提供される。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態によれば、そのような単離された細胞集団は、インスリン欠乏に伴う医学的状態を処置するためのものである。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記幹細胞は胚性幹細胞を含む。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記幹細胞はヒト多能性幹細胞を含む。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記幹細胞は間葉系幹細胞を含む。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記ベータ細胞は前駆体ベータ細胞を含む。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記前駆体ベータ細胞は脱分化ベータ細胞を含む。
【0023】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記脱分化ベータ細胞は、ベータ細胞から作製される誘導多能性幹細胞を含む。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記前駆体ベータ細胞は、分化転換した肝臓細胞を含む。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記ベータ細胞は成熟ベータ細胞を含む。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記作用因はポリヌクレオチド作用因である。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記作用因はantagomirである。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態によれば、インスリン欠乏に伴う上記医学的状態は真性糖尿病を含む。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記対象はヒト対象である。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記方法はエクスビボで達成される。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記方法はインビボで達成される。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態によれば、上記シス作用調節エレメントはベータ細胞特異的または幹細胞特異的なプロモーターである。
【0033】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本明細書では本発明のいくつかの実施形態を単に例示し添付の図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の実施形態を例示考察することだけを目的としていることを強調するものである。この点について、図面について行う説明によって、本発明の実施形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0035】
図1A-1E】図1A図1Eは膵臓の内分泌細胞におけるmiR−7発現を示す。図1A図1Eは、E13.5〜E15.5の膵臓切片のタンパク質免疫蛍光分析と組み合わされるmiR−7蛍光インサイチューハイブリダイゼーションを例示する。図1Aは、E15.5の膵臓切片に対するmiR−7インサイチューハイブリダイゼーションを例示し、挿入図(図1B)は、点線の四角によって示される領域の高倍率図である。図1Cは蛍光miR−7インサイチューハイブリダイゼーションを例示する;図1DはU6インサイチューハイブリダイゼーションを例示する(陽性コントロール);図1Eはスクランブル化プローブのインサイチューハイブリダイゼーションを例示する(陰性コントロール)。スケールバー:50μm。
図1F-1N.1V.1W】図1F図1N図1V図1Wは膵臓の内分泌細胞におけるmiR−7発現を示す。図1F図1Nおよび図1V図1Wは、E13.5〜E15.5の膵臓切片のタンパク質免疫蛍光分析と組み合わされるmiR−7蛍光インサイチューハイブリダイゼーションを例示する。図1F図1Hは、免疫染色と組み合わされる蛍光miRNAインサイチューハイブリダイゼーションを例示する。miR−7(赤色)がインスリン(Ins;緑色、図1G)またはグルカゴン(Gcg;白色、図1H)と共局在化している。青色、核。挿入図(図1V図1W)は、点線の四角によって示される領域の高倍率図である。図1I図1Nは、miR−7(赤色)が、E15.5におけるCpa1によって示される腺房細胞(緑色、図1J図1K)において、または、E14.5におけるHNF1bによって示される管細胞(緑色、図1M)において発現されないことを例示する。図1Nは、1Mにおいて点線の四角によって示される領域の高倍率図である。スケールバー:50μm。
図1O-1T.1X.1Y】図1O図1T図1X図1Yは膵臓の内分泌細胞におけるmiR−7発現を示す。図1O図1Tおよび図1X図1Yは、E13.5〜E15.5の膵臓切片のタンパク質免疫蛍光分析と組み合わされるmiR−7蛍光インサイチューハイブリダイゼーションを例示する。図1O図1Tは、多くのNgn3陽性細胞におけるmiR−7の発現をE13.5において例示し(白色、図1P図1Q)、同様にまた、E14.5において例示する(図1S図1T)。高倍率挿入図は、miR−7およびNgn3を共発現する代表的な細胞を矢印で示す(図1X図1Y)。スケールバー:50μm。
図1U図1Uは、miR−7発現がNgn3に依存していることを示すグラフである。Ngn3ヘテロ接合コントロール(WT)に対する、E14.5のNgn3ノックアウト(KO)膵芽におけるmiR−7、miR−375、miR−17、let−7bのqPCR分析。データをsno234に対して正規化した。同じサンプルにおけるPax6発現およびインスリン発現のqPCRデータをHprtおよびGapdhに対して正規化し、その後、コントロールに対して示した。エラーバーは±SEMを表す。**P<0.05。
【0036】
図2A図2AはmiR−7の標的としてのPax6を示す。図2Aは、miR−7の予測された標的の遺伝子オントロジー分析の概略図である。miR−7の遺伝子オントロジー分析により「転写の調節」の著しい強化がしめされる(P<2.35E−7)。このリストの中では、Pax6が、膵臓の発生を制御することが知られている唯一の特徴づけられた因子であった。
図2B-2G】図2B図2GはmiR−7の標的としてのPax6を示す。図2Bは、Pax6の3’UTR(配列番号27)における成熟型miR−7配列(配列番号28)の予測された塩基対形成を示す。シード配列が赤色で示される;図2Cは、Pax6の3’UTR(742bp)を有するレポーターの相対的ルシフェラーゼ活性を明らかにするヒストグラムである。ルシフェラーゼレポーターの発現はmiR−7の過剰発現(miR−7OE)によって抑制される。「抗miR」オリゴ(miR−7KD)の導入により、この抑制が部分的に取り消される。miR−7シード配列が欠失されたPax6の3’UTRを有するレポーターはmiR−7OEに対して完全に非感受性である(「mutUTR」)。すべてのデータが、二重レポーターから共発現されるホタルルシフェラーゼの活性に対して、また、陰性コントロールのmiRNAベクター(Ctrl)に対して正規化されている。n=3の独立した実験(それぞれが三連で);図2D図2Eは、miR−7KDまたはmiR−7OEにより処理されたMIN6細胞におけるPAX6タンパク質レベルの代表的なウエスタンブロットである;図2F図2Gはそれぞれが、(図2D図2Eの)二連での4回の独立した実験のバンドデンシトメトリーの棒グラフ定量化である(ANOVA検定、**P<0.05)。
図2H-2K】図2H図2KはmiR−7の標的としてのPax6を示す。図2H図2Jは、E15.5の膵臓切片におけるmiR−7インサイチューハイブリダイゼーション(赤色)およびPax6免疫蛍光(緑色)の共局在化を示す写真である。スケールバーは50μmを表す。;図2Kは、膵臓発生の期間中(E12.5〜E15.5)におけるmiR−7発現およびPax6発現のqPCR分析である。miR−7発現(赤色、これはsno234に対して正規化され、その後、E12.5に対して正規化された)と、Pax6発現(黒色、これはGapdhに対して正規化され、その後、E12.5に対して正規化された)との間における負の相関。n=4、少なくとも二腹分からの3つの膵臓のそれぞれのプール。エラーバーは±SEMを表す(**P<0.05)。
【0037】
図3A-3D】図3A図3Dは膵臓の外植片におけるmiR−7のノックダウンおよび過剰発現を示す。図3Aは、実験設定を示すスキームである。コレステロールコンジュゲート化オリゴを、懸滴において48時間成長させたE12.5の背側膵芽の培地に導入した;図3B図3Iは、コントロールmiRNAのmiR−122のノックダウン(Ctrl−KD、灰色)に対するmiR−7ノックダウン分析(miR−7−KD、青色)を例示する。:図3Bは、miR−7ノックダウン時におけるPax6のアップレギュレーションされたmRNA発現を示すグラフである;図3Cは、miR−7ノックダウン時におけるインスリンおよびグルカゴンの増大したmRNA発現を示すグラフである;図3Dは、インスリンのタンパク質レベルが、ELISAアッセイによって測定される場合、miR−7KD時にアップレギュレーションされることを示すグラフである。エラーバーは±s.e.m.を表す。**P<0.05。
図3E-3J】図3E図3Jは膵臓の外植片におけるmiR−7のノックダウンおよび過剰発現を示す。図3E図3Jは、定量化のために撮影された、インスリン(緑色)、グルカゴン(赤色)およびグレリン(白色)の免疫染色を表す写真である。スケールバーは50μmを表す。
図3K-3L】図3K図3Lは膵臓の外植片におけるmiR−7のノックダウンおよび過剰発現を示す。図3Kは転写因子発現のqPCR分析である。図3Lは、様々な内分泌細胞タイプの定量化を示すグラフである(SS、ソマトスタチン;Ghr、グレリン;Gcg、グルカゴン;Ins、インスリン)。それぞれの個々の集団における細胞の百分率を膵臓原基全体の連続切片における計数細胞の総数から計算した。1回の処理につき少なくとも3つの外植片、3回〜8回の独立して反復した実験の平均。qPCRデータがHprtおよびGapdhのmRNAに対して正規化され、その後、Ctrl KD処理に対して正規化される。
図3M-3O】図3M図3Oは膵臓の外植片におけるmiR−7のノックダウンおよび過剰発現を示す。図3Mは、miR−7−OE外植片におけるPax6の抑制されたmRNA発現を示すグラフである;図3Nは、miR−7−OE外植片におけるインスリンの低下したmRNA発現を示すグラフであり、これに対して、グルカゴンのレベルは類似したままである;図3Oは、miR−7−OE外植片の形態計測におけるベータ細胞量の著しい減少を明らかにしている。
図3P-3T】図3P図3Tは膵臓の外植片におけるmiR−7のノックダウンおよび過剰発現を示す。図3P図3Qは、定量化のために撮影された、インスリン(緑色)およびPax6(赤色)の免疫染色を表す写真である。;図3Rは転写因子発現のqPCR分析のグラフである。n=同じひと腹分における処理あたり2個〜3個の外植片のプール、3回〜6回の独立した実験。すべてのqPCRデータをHprtおよびGapdhのmRNAに対して正規化し、その後、コントロールオリゴによる処理に対して正規化した。エラーバーは±SEMを表す(**P<0.05);図3S図3Tは、コントロールおよびmiR−7OEにおけるPax6の免疫染色を示す写真である。
【0038】
図4A-4E】図4A図4Eは培養における外植片の分化を示す。図4A図4Cは、培養で成長した外植片におけるNgn3のmRNA発現、miR−7発現およびインスリンのmRNA発現のqPCR分析を示すグラフである。注目すべきことに、これらの結果はエクスビボ分化条件のもとでの内分泌遺伝子発現の動態を明らかにしている。データをGapdhまたはsno234に対して正規化し、E12.5(時点0)における発現に対して正規化した。n=4(2回の反復で各時点あたり);図4D図4Eは、培養での24時間または70時間におけるインスリン(赤色)およびグルカゴン(緑色)の免疫蛍光検出を示す写真である。注目すべきことに、これらの結果はエクスビボでの内分泌分化の伝播を例示する。
図4F-4I】図4F図4Iは培養における外植片の分化を示す。図4F図4Hは、膵臓の外植片により効率的に取り込まれたCy3結合antagomirを示す写真である。上部の共焦点光学的断面は外植片の周縁部をとらえており(図4F)、中心の光学的断面は、Cy3標識のantagomirが外植片内に深く浸透していることを明らかにする(図4G)。Cy3標識のantagomirが高倍率において細胞内に示される。(図4H;核、青色)。図4Iは、ルシフェラーゼアッセイを示すグラフである。HEK−293T細胞を、多数のmiR−7結合部位をその3’UTRに有するルシフェラーゼレポーターによりトランスフェクションした。ヒストグラムは、陰性コントロール(Ctrl)、miR−7を過剰発現する細胞(miR−7OE)、または、miR−7を過剰発現し、抗miR−7により共トランスフェクションされた細胞(miR−7KD)におけるホタルルシフェラーゼ活性対ウミシイタケルシフェラーゼ活性の比率であって、コントロールに対して正規化された比率を明らかにする(三連での3回の実験)。
【0039】
図5A-5C】図5A図5Cは、miR−7のインビボ過剰発現による内分泌遺伝子の低下した発現を示す。図5Aは、条件的miR−7−IRES−GFP異所性発現のための標的化構築物の概略図である。;図5Bは、赤色で示されるプローブ(図5Aを参照のこと)を使用する、野生型ESクローン(レーン2、レーン3)および標的化されたESクローン(レーン1、レーン4)から得られるゲノムDNAのサザンブロット分析を示す。;図5Cは、miR−7のアップレギュレーションがCre依存的であることを示すグラフである。;Rosa−miR−7トランスジェニックマウスから集められ、Cre−GFPを発現するアデノウイルス(「Ad−Cre」)またはGFPだけを発現するアデノウイルス(「Ad−GFP」)のどちらかを感染させた初代胚性線維芽細胞におけるmiR−7レベルおよびmiR−199レベルのqPCR分析。データをsno234に対して正規化した(3つの独立したMEF系統、それぞれが三連で)。
図5D-5F】図5D図5Fは、miR−7のインビボ過剰発現による内分泌遺伝子の低下した発現を示す。図5D図5Eは、GFPが、Creリコンビナーゼを有しない同腹子(「Ctrl」)ではなく、E13.5のPdx1−Cre;Rosa−miR7の膵臓上皮に特異的に発現することを示す写真である。星印は赤血球の自己蛍光を示す。;図5F図5Jは、miR−7の異所性発現が内分泌遺伝子を特異的に抑制したことを示す。;図5Fは、示されるようにE15.5のPdx1−Cre;Rosa−miR−7サンプルにおける膵臓遺伝子のqPCR分析を示すグラフである。データをHprtおよびGapdhのmRNAに対して正規化し、同腹子コントロールにおける発現レベルに対して正規化した(n=6、それぞれの遺伝子型、三腹分)。エラーバーは±SEMを表す(**P<0.05)。スケールバーは50μmを表す。
図5G-5J】図5G図5Jは、miR−7のインビボ過剰発現による内分泌遺伝子の低下した発現を示す。図5G図5Jは、miR−7の異所性発現が内分泌遺伝子を特異的に抑制したことを示す。図5G図5Jは、免疫染色をPdx1−Cre;Rosa−miR−7膵臓およびコントロール同腹子のE15.5の切片においてインスリン(緑色)およびグルカゴン(赤色)について示す写真である[挿入図(図5I図5J)は、点線の四角によって示される領域の高倍率写真である]。スケールバーは50μmを表す。
図5K-5L】図5K図5Lは、miR−7のインビボ過剰発現による内分泌遺伝子の低下した発現を示す。図5K図5Lは、MIN6細胞におけるインスリンプロモーター活性化の上流側でのPax6−miR−7相互作用を示すグラフである。注目すべきことに、インスリンプロモーター活性が、miR−7の過剰発現によって、コントロールに対してダウンレギュレーションされ(それぞれ、「miR−7OE」、「Ctrl OE」)、また、Pax6に対するsiRNA(siPax6)によって抑制された。miR−7OEをsiPax6と組み合わせた場合、インスリンプロモーターの抑制が高まった(図5K)。インスリンプロモーター活性が、miR−7ノックダウンによって、陰性コントロールのスクランブル化オリゴに対してアップレギュレーションされた(それぞれ、「miR−7KD」、「Ctrl KD」)。miR−7KDをsiPax6とともに同時導入した場合、インスリンプロモーター活性が回復した(図5L)。すべてのホタルルシフェラーゼデータを共トランスフェクションされたウミシイタケルシフェラーゼの活性に対して正規化し、コントロール実験に対して示した。N=3の独立した実験。エラーバーは±SEMを表す。**P<0.05。
【0040】
図6A-6E】図6A図6Eは、Pax6ハプロ不全がmiR−7過剰発現と類似することを示す。図6Aは、Pax6をインビボで発現させるためのヘテロ接合(単一対立遺伝子性)マウスモデルの概略図である。;図6Bは、Pax6のmRNA発現が、野生型同腹子の膵臓(「wt」、2つの機能的な対立遺伝子)に対して、E15.5のヘテロ接合膵臓(「het」)において低下することを示すグラフである。;図6C図6Eは、免疫染色(赤色)によって示される、ヘテロ接合膵臓におけるPax6の低下した細胞発現を示す。スケールバーは50μmを表す。
図6F-6J】図6F図6Jは、Pax6ハプロ不全がmiR−7過剰発現と類似することを示す。図6Fは、wt型同腹子に対して、Pax6ヘテロ接合の膵臓における低下したインスリンmRNAレベルおよびグルカゴンmRNAレベルを示すqPCR分析のグラフである。;図6Gは転写因子のqPCR分析を示す。すべてのqPCRデータをHprtおよびGapdhに対して正規化した。n≧5個の胚(1つの遺伝子型あたり)、独立した三腹分。エラーバーは±SEMを表す(**P<0.05);図6H図6Iは、E15.5のPax6ヘテロ接合同腹子およびwt型同腹子に対するインスリン(緑色)およびグルカゴン(赤色)の免疫染色の写真である。核(青色);図6Jは、ベータ細胞数の低下を示すグラフである。ホルモン陽性細胞を、膵臓全体を通して8切片毎に計数し、数匹の動物から得られる器官あたりの陽性細胞の平均数をwt型コントロールに対して正規化した(wt、n=1912細胞;ヘテロ接合体、n=1751細胞、それぞれ16個の切片から計数した)。
【0041】
図7A-7C】図7A図7Cは、Pax6の上流側において、かつ、Ngn3に依存しているmiR−7発現を示す。図7Aは、miR−7がPax6の上流側にあることを示すグラフである。E14.5の野生型(wt)動物、Pax6ヘテロ接合(het)動物およびPax6ノックアウト(KO)動物におけるmiR−7発現、miR−17発現およびlet7b発現(これらはsno234に対して正規化された)のqPCR検査。;図7Bは、「非干渉性フィードフォワードループ」の中に接続されるNgn3、Pax6およびmiR−7の概略図である。これは、保存されたネットワークであり、キイロショウジョウバエの網膜におけるニューロンの分化において記載されたものである(図7C)。
【0042】
図8A-8J】図8A図8Jは、miR−7KDが内分泌分化を制御することを示す。図8A図8Jは、Ngn3(緑色)、インスリン(赤色)、グルカゴン(白色)、ソマトスタチン(マゼンタ色)およびグレリン(白色)についてのホールマウント免疫染色による内分泌細胞集団の分析をコントロール外植片(図8A図8E)およびmiR−7KD外植片(図8F図8J)において示す写真である。
図8K-8S】図8K図8Sは、miR−7KDが内分泌分化を制御することを示す。図8K図8Oは、(Niss elementsソフトウエアを用いて行われた)外植片の総面積に対する染色面積の分析による陽性面積の定量化を示すグラフである(さらなる詳細は本明細書中下記の「材料および実験手順」の節に記載される)。;図8P図8Sは、Ngn3陽性細胞、インスリン陽性細胞(Ins)、グルカゴン陽性細胞(Gcg)およびグレリン陽性細胞(Ghr)の細胞数定量化を示すグラフである。陽性細胞を外植片全体の積み重ねられた共焦点画像において手作業で計数した。処理あたり3個〜5個の外植片。エラーバーは±SEMを表す(**P<0.05)。
【0043】
図9A-9G】図9A図9Gは、増殖がmiR−7KDによって影響されないことを示す。図9A図9Cは、インスリン陽性細胞の増殖における変化がCtrlに対してmiR−7KDでは認められないことを示す。Ki67陽性/インスリン陽性の二重陽性細胞を外植片全体から計数した(>3、遺伝子型あたり)。インスリン陽性集団からのそれらの百分率が図9Cに示される。;図9D図9Fは、グルカゴン陽性細胞の増殖における変化がmiR−7KDでは認められないことを示す。図9D図9Eは、計数および定量化が行われたBrdU陽性/グルカゴン陽性の二重陽性細胞集団の写真である。図9Gは、BrdU陽性細胞の総数がmir−7KDとCtrlとの間において同程度であることを示す。エラーバーは±SEMを表す(**P<0.05)。
【0044】
図10図10は、膵臓の発生におけるmiR−7−Pax6相互作用を示す概略的モデルである。miR−7によるPax6レベル(青色)の調節により、ホルモンを発現する内分泌細胞の分化が調節される。miR−7のノックダウンはPax6を脱抑制し、低下したグレリン(Ghr)発現をもたらし、かつ、インスリン陽性細胞およびグルカゴン陽性細胞(InsおよびGcg)に優先的に向かうことをもたらす。同様に、miR−7の過剰発現またはPax6のヘテロ接合(Het)発現は、低下したPax6、および、ホルモンの発現における相反する変化をもたらす。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、マイクロRNA−7のダウンレギュレーションに関連し、より具体的には、限定するものではないが、膵臓のベータ細胞からのインスリン産生を促進させるためのマイクロRNA−7の使用に関連する。
【0046】
本発明の原理および操作は、図面および付随する説明を参照してより良く理解されることができる。
【0047】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示される細部、または、実施例によって例示される細部に必ずしも限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、あるいは、様々な方法で実施、または、実行される。また、本明細書中において用いられる表現法および用語法は説明のためであって、限定として見なされるべきでないことを理解しなければならない。
【0048】
膵内分泌部ベータ細胞の分化は、Pax6の上流側で作用するNgn3を含む様々な膵臓転写因子のネットワークによって制御されている。Pax6は膵臓ベータ細胞の分化において極めて重要であり、正常なPax6発現からの逸脱はどのようなものであれ、重大な発生上の結果(例えば、細胞アポトーシスの誘導)をもたらす。ゲノムにコードされる様々なmiRNAがそれらの標的mRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)における特定部位に結合し、様々な転写因子が作用して、遺伝子発現を精緻なものにする転写後調節層をもたらす。以前の研究は、miRNA成熟化の完全な不活性化が膵臓の非形成を引き起こすことを示しており[Lynn他(2007)、Diabetes、56(12):2938〜45]、一方、Melkman−Zehavi他は、miR−24、miR−26、miR−182またはmiR−148のベータ細胞における特異的ノックダウンがインスリンプロモーター活性およびインスリンmRNAレベルをダウンレギュレーションすることを開示した[Melkman−Zehavi他(2011)、EMBO Journal、1〜11]。
【0049】
本発明を実施に移しているとき、本発明者らは、内分泌特異的なマイクロRNA−7(miR−7)がNgn3の下流側で作用して、Pax6発現を直接に抑制し、それにより、膵臓ベータ細胞の分化および膵臓ベータ細胞からのインスリン産生を調節することを発見した。
【0050】
本明細書中下記において、また、下記の実施例の節において例示されるように、本発明者らは、miR−7のノックダウンがPax6のアップレギュレーションを生じさせ、さらに、低下したグレリン産生細胞をもたらし、かつ、インスリン産生細胞およびグルカゴン産生細胞に優先的に向かうことをもたらしたことを示している(下記の実施例の節の実施例3を参照のこと)。同様に、発生中の膵臓外植片または新しいマウス導入遺伝子におけるmiR−7の過剰発現は、Pax6のダウンレギュレーション、および、グレリン産生細胞に優先的に向かうことを引き起こし、一方で、インスリン産生細胞およびグルカゴン産生細胞(例えば、それぞれ、ベータ細胞およびアルファ細胞)の数を著しく低下させた(下記の実施例の節の実施例4を参照のこと)。まとめると、これらの結果は、膵臓ベータ細胞の再生を促進させ、かつ、インスリンタンパク質レベルを増大させるためのmiR−7のダウンレギュレーションの重要性を立証している。
【0051】
したがって、本発明の1つの局面によれば、インスリン欠乏に伴う医学的状態をその必要性のある対象において処置する方法であって、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための作用因を前記対象に投与し、それにより、前記インスリン欠乏に伴う前記医学的状態を処置することを含む方法が提供される。
【0052】
用語「処置(治療)する」は、疾患、障害もしくは状態の発症を阻害すること、もしくは停止させること、および/または、疾患、障害もしくは状態の軽減、寛解もしくは退行を生じさせること、あるいは、疾患、障害もしくは医学的状態を、当該疾患、障害もしくは状態について危険性があるかもしれないが、当該疾患、障害もしくは状態を有すると未だ診断されていない対象において生じさせないことを示す。当業者は、様々な方法論およびアッセイが、疾患、障害もしくは状態の発症を評価するために使用され得ること、また、同様に、様々な方法論およびアッセイが、疾患、障害もしくは状態の軽減、寛解もしくは退行を評価するために使用され得ることを理解するであろう。
【0053】
本明細書中で使用される場合、用語「対象」は、どのような年齢または性別であれ、インスリン欠乏関連障害に苦しんでいるか、または、インスリン欠乏関連障害の素因がある動物、好ましくは哺乳動物、またはヒトを示す。
【0054】
インスリン欠乏に伴う疾患または症候群には、1型糖尿病および2型糖尿病、メタボリック症候群、1型および2型の糖尿病の亜型、インスリン欠乏性症候群、若年発症成人型糖尿病(MODY 1−11)および永続型新生児糖尿病が含まれるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明の1つの具体的な実施形態によれば、インスリン欠乏は糖尿病を含む。
【0056】
本発明の1つの具体的な実施形態によれば、インスリン欠乏は1型糖尿病を含む。
【0057】
本明細書中で使用される場合、「糖尿病」は、インスリンの生合成もしくは産生における欠損に起因するインスリンの絶対的欠乏から生じる疾患(1型糖尿病)、または、生物におけるインスリン抵抗性の存在下でのインスリンの相対的欠乏、すなわち、損なわれたインスリン作用から生じる疾患(2型糖尿病)のどちらをも示す。したがって、糖尿病患者は絶対的または相対的なインスリン欠乏を有しており、様々な症状および兆候、とりわけ、上昇した血中グルコース濃度、尿中のグルコースの存在、および、過度な排尿を示す。
【0058】
上記医学的状態を処置するために、膵臓ベータ細胞がエクスビボで作製され、その後、治療のために使用される場合がある。
【0059】
したがって、本発明の1つの局面によれば、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞においてエクスビボ増大させる方法であって、ベータ細胞または幹細胞を、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための作用因と接触させ、それにより、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞において増大させることを含む方法が提供される。
【0060】
本明細書中で使用される場合、表現「エクスビボ」は、細胞、すなわち、生きた生物から取り出される細胞が、当該生物の体外(例えば、細胞培養プレートまたは試験管内)において処理に供され、また、その代わりにあるいはそれに加えて培養に供されるプロセスを示す。1つの実施形態によれば、エクスビボには、とりわけ細胞株の場合にはインビトロが含まれる。
【0061】
本明細書中で使用される場合、表現「インスリン含有量」は、インスリン産生細胞(例えば、膵臓ベータ細胞)の内部における、あるいは、インスリン産生細胞(例えば、膵臓ベータ細胞)から分泌されるインスリンポリペプチドまたはインスリンポリペプチド由来ペプチド(例えば、成熟型インスリン)の量を示す。
【0062】
インスリン含有量の測定はこの技術分野では広く知られている。1つの例示的な方法は、細胞のインスリンを3M酢酸により抽出することである。膵臓ベータ細胞から抽出される成熟型インスリンの量は、例えば、Mercodia(Uppsala、スェーデン)等から市販されている酵素結合免疫吸着測定(ELISA)キットを使用して求め得る。あるいは、ウエスタンブロット分析、免疫蛍光または免疫組織化学法を、例えば、Cell Signaling Technology、Thermo Scientific Pierce Antibodies、または、GeneTexから入手可能な特異的抗体を使用して実施することができる。
【0063】
1つの実施形態によれば、上記ベータ細胞は、単離された細胞を含む。単離されたベータ細胞は均一または不均一なものである場合がある。
【0064】
用語「単離(された)」は、天然の環境から、例えば、身体から少なくとも部分的に分離されたことを示す。
【0065】
表現「ベータ細胞」は、本明細書中で使用される場合、(例えば、生理的シグナル(上昇したグルコース濃度など)に応答して)インスリンを産生、分泌することができ、かつ、インスリン、pdx、Hnf3β、PC1/3、Beta2、Nkx2.2、GLUT2およびPC2(これらに限定されない)を含む典型的なベータ細胞マーカーを発現することができる膵島の内分泌細胞を示す。
【0066】
1つの実施形態によれば、上記ベータ細胞は成熟型ベータ細胞である。
【0067】
表現「成熟型ベータ細胞」は、本明細書中で使用される場合、完全に分化し、かつ、機能的である、膵島の内分泌細胞を示す。典型的には、そのような細胞は、グルコース刺激に応答してインスリンを分泌する。そのうえ、成熟型ベータ細胞は典型的には、インスリン、pdx、Hnf3β、PC1/3、Beta2、Nkx2.2、GLUT2およびPC2(これらに限定されない)を含む典型的なベータ細胞マーカーを発現する。
【0068】
1つの実施形態によれば、上記ベータ細胞は前駆体ベータ細胞である。
【0069】
表現「前駆体ベータ細胞」は、本明細書中で使用される場合、(例えば、生理的シグナル(上昇したグルコース濃度など)に応答して)インスリンを産生、分泌することができ、かつ、インスリン、pdx、Hnf3β、PC1/3、Beta2、Nkx2.2、GLUT2およびPC2(これらに限定されない)を含む典型的なベータ細胞マーカーを発現することができる膵島の内分泌細胞に発生/分化する能力を有する細胞を示す。
【0070】
本発明の前駆体ベータ細胞は、膵臓始原細胞、(インスリン産生ベータ細胞に分化転換することができる)体細胞、および、ベータ細胞株を含む場合がある。
【0071】
1つの具体的な実施形態によれば、前駆体ベータ細胞は成体膵臓または胎児膵臓(すなわち、任意の在胎期間の膵臓)の膵臓始原細胞である。そのような膵臓始原細胞は、成体膵臓または胎児膵臓の膵島、膵管または膵腺房から得られる場合がある。
【0072】
したがって、例えば、膵臓始原細胞は、単離された膵島に含まれる場合がある。膵島細胞は典型的には、下記の細胞から構成される:1)インスリンを産生するベータ細胞;2)グルカゴンを産生するアルファ細胞;3)ソマトスタチンを産生するデルタ細胞(またはD細胞);および/または膵臓ポリペプチドを産生するF細胞。これらの細胞の内部におけるポリペプチドホルモン(インスリン、グルカゴン、ソマトスタチンおよび膵臓ポリペプチド)は分泌顆粒の形態で分泌小胞に貯蔵される。
【0073】
膵臓始原細胞を単離する様々な方法がこの技術分野では広く知られている。例えば、膵臓組織は、この技術分野で知られているいずれかの方法によって(例えば、超音波またはCTにより導かれる生検を使用して、あるいは、腹腔鏡検査によって、あるいは、開腹手術によって)ヒト対象またはヒトドナーから得られる場合がある。その後、膵島が、コラゲナーゼおよびフィコールグラジエントを使用して膵臓組織から単離される場合がある。1つの例示的な方法が、米国特許出願公開第20080014182号に記載される(これは参照によって本明細書中に組み込まれる)。膵臓始原細胞はさらに、例えば、特異的な始原体マーカーの特定を使用して、例えば、ネスチン、Ngn−3、c−met Arx、Pax4、Pax6、インスリン、グルカゴン、glut2、Nkx2.2、Nkx6.1、Gck、Sur1、Kir6.2および/またはNeuroD/Beta2の発現(これに限定されない)を使用してFACS分取またはクローン分析によって膵島から(あるいは、必要に応じて膵管または膵腺房から)単離される場合があることが理解されるであろう。
【0074】
別の具体的な実施形態によれば、前駆体ベータ細胞は、インスリン産生ベータ細胞に分化転換することができる体細胞を含む。本発明の教示のような体細胞は、例えば、肝臓細胞、神経内分泌細胞、腸細胞、線維芽細胞、筋芽細胞および単球を含めて、胎児細胞および成体細胞の両方を含む。
【0075】
1つの具体的な実施形態によれば、前駆体ベータ細胞は、例えば、Sapir T.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、(2005)、102(22)、7964〜7969によって、また、Zalzman M.他、Diabetes、(2005)、54(9):2568〜2575によって教示されるように、分化転換した肝臓細胞(すなわち、膵臓細胞への分化を受けた肝臓細胞)を含む。
【0076】
体細胞が、この技術分野で知られているいずれかの細胞単離方法によって単離される場合があることが理解されるであろう[例えば、肝臓細胞の単離については、例えば、Alpini G.他、Recent advances in the isolation of liver cells、Hepatology、(1994)Aug;20(2):494〜514を参照のこと]。そのうえ、単離された体細胞(例えば、肝臓細胞)は、インスリンを産生するベータ様細胞へのその分化転換を誘導するために、特異的な作用因[例えば、特異可溶性因子(SSF)、例えば、アクチビン−A、ニコチンアミドまたはHGFなど]を用いた何らかの分子的操作(例えば、遺伝子改変)または培養を受ける場合がある。
【0077】
本明細書中で使用される場合、表現「幹細胞」は、特定の特殊化された機能を有する他の細胞タイプ(すなわち、「完全に分化した」細胞)に分化誘導されるまでは培養状態で長期間にわたって未分化状態に留まることができる細胞(すなわち、「多能性幹細胞」)を示す。
【0078】
好ましくは、表現「幹細胞」は、胚性幹細胞(ESC)、誘導多能性幹細胞(iPS)、成体幹細胞および造血幹細胞を包含する。1つの具体的な実施形態によれば、幹細胞はヒト起源のものである。あるいは、幹細胞は、どのような哺乳動物幹細胞であってもよく、例えば、ヒト、ブタ、齧歯類(例えば、マウスまたはラット)または霊長類(例えば、サル)などに起源を有する幹細胞である場合がある。
【0079】
表現「胚性幹細胞」は、胚の3つすべての胚葉(すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉)の細胞に分化することができる胚性細胞、または、未分化状態に留まることができる胚性細胞を示す。表現「胚性幹細胞」は、妊娠後でかつ胚の着床前に形成される胚性組織から得られる細胞(例えば胚盤胞)(すなわち着床前胚盤胞)、着床後期/原腸形成前期の胚盤胞から得られる拡張胚盤胞細胞(EBC)(国際公開第2006/040763号パンフレットを参照)、および妊娠期間中の任意の時期、好ましくは妊娠の10週以前に胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖(EG)細胞を含みうる。
【0080】
本発明の胚性幹細胞は、周知の細胞培養方法を用いて入手可能である。例えば、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離しうる。ヒト胚盤胞は、典型的には、ヒト体内着床前胚または体外受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単細胞ヒト胚は、胚盤胞期まで増殖しうる。ヒトES細胞の単離においては、透明帯が胚盤胞から除去され、内部細胞塊(ICM)が免疫手術によって単離され、ここでは栄養外胚葉細胞が溶解され、穏やかなピペッティングによって無傷ICMから除去される。次いで、ICMは、その増殖(outgrowth)を可能にする適切な培地を含有する組織培養フラスコ内にプレーティングされる。9〜15日後、ICMから誘導された増殖物は、機械的解離または酵素的分解のいずれかによって塊に解離され、次いで細胞は、新しい組織培地上に再プレーティングされる。未分化形態を示すコロニーは、マイクロピペットによって個別に選択され、塊に機械的に解離され、再プレーティングされる。次いで、得られたES細胞は、4〜7日ごとに定期的に分割される。ヒトES細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Thomsonら、[米国特許第5,843,780号明細書;Science 282:1145頁、1998年;Curr.Top.Dev.Biol.38:133頁、1998年;Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:7844頁、1995年];Bongsoら[Hum Reprod 4:706頁、1989年];およびGardnerら[Fertil.Steril.69:84頁、1998年]を参照のこと。
【0081】
市販の幹細胞が本発明のこの局面でも使用可能であることは理解されるであろう。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリー(NIH human embryonic stem cells registry)(www.escr.nih.gov)から購入することができる。市販の胚性幹細胞系の非限定例として、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03およびTE32が挙げられる。
【0082】
誘導多能性幹細胞(iPS;胚性様幹細胞)は、多能性が付与される(すなわち、胚の3つの胚葉に分化することができる、すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉に分化することができる)、成体体細胞の脱分化によって得られる細胞である。本発明のいくつかの実施形態によれば、そのような細胞は、分化した組織(例えば、皮膚などの体細胞組織)から得られ、そのような細胞は、胚性幹細胞の特徴を獲得するために細胞を初期化する遺伝子操作による脱分化を受ける。本発明のいくつかの実施形態によれば、誘導多能性幹細胞は、Oct−4、Sox2、Kfl4およびc−Mycの発現を体性幹細胞において誘導することによって形成される。機能的なグルコース応答性インスリン産生子孫へのヒトiPS細胞の系統仕様は、例えば、Thatava T.他、Indolactam V|[sol]|GLP−1−mediated differentiation of human iPS cells into glucose−responsive insulin−secreting progeny、Gene Therapy、(2011)、18、283〜293によって以前に教示されている。
【0083】
誘導多能性幹細胞(iPS)(胚性様幹細胞)は、体細胞の遺伝子操作によって、例えば、転写因子(例えば、Oct−3/4、Sox2、c−MycおよびKLF4など)の体細胞(例えば、線維芽細胞、肝細胞、胃上皮細胞など)へのレトロウイルス形質導入によって体細胞から作製することができる[Yamanaka S、Cell Stem Cell、2007、1(1):39〜49;Aoi T他、Generation of Pluripotent Stem Cells from Adult Mouse Liver and Stomach Cells、Science、2008(Feb 14)(印刷版に先立つ電子版);IH Park、Zhao R、West JA他、Reprogramming of human somatic cells to pluripotency with defined factors、Nature、2008、451:141〜146;K Takahashi、Tanabe K、Ohnuki M他、Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors、Cell、2007、131:861〜872]。他の胚性様幹細胞を、レシピエント細胞が有糸分裂で停止させられるならば、卵母細胞への核移入、胚性幹細胞との融合、または、接合体への核移入によって作製することができる。
【0084】
1つの具体的な実施形態によれば、上記前駆体ベータ細胞は脱分化ベータ細胞を含む。
【0085】
表現「脱分化ベータ細胞」は、ベータ細胞に再分化することができるより初期の発生段階(例えば、インスリン非分泌細胞)に先祖返りする部分分化したベータ細胞または最終分化したベータ細胞を示す。
【0086】
別の具体的な実施形態によれば、脱分化ベータ細胞は、ベータ細胞から作製される誘導多能性幹細胞を含む。
【0087】
別の具体的な実施形態によれば、上記前駆体ベータ細胞は脱分化ベータ細胞株を含む。
【0088】
表現「成体幹細胞」(これは「組織幹細胞」とも呼ばれ、すなわち、体細胞組織から得られる幹細胞である)は、ベータ細胞に分化することができる、[出生後または出生前のどちらかの動物(とりわけ、ヒト)の]体細胞組織に由来するどのような幹細胞をも示す。成体幹細胞は、多数の細胞タイプへの分化が可能である多分化能の幹細胞であると一般に考えられている。成体幹細胞は、どのような成体組織、新生児組織または胎児組織からでも得ることができ、例えば、脂肪組織、皮膚、腎臓、肝臓、前立腺、膵臓、腸、骨髄および胎盤などから得ることができる。
【0089】
造血幹細胞は、成体組織幹細胞として示されることもあり、任意の年齢での個体の血液または骨髄組織から得られる幹細胞、あるいは、新生児個体の臍帯血から得られる幹細胞を含む。
【0090】
成体組織幹細胞を単離する様々な方法がこの技術分野では知られており、これらには、例えば、Alison,M.R.[Tissue−based stem cells:ABC transporter proteins take center stage、J Pathol、(2003)、200(5):547〜50]、Cal,J.他[Identifying and tracking neural stem cells、Blood Cells Mol Dis、(2003)、31(1):18〜27]、および、Collins,A.T.他[Identification and isolation of human prostate epithelial stem cells based on alpha(2)beta(1)−integrin expression、J Cell Sci、(2001)、114(Pt 21):3865〜72]によって開示される方法が含まれる。
【0091】
一般に、成体組織幹細胞の単離は、成体組織に含まれるそれぞれの細胞タイプ(すなわち、幹細胞、一時的に増幅している細胞、および、最終分化した細胞)の個別の位置(またはニッチ)に基づく[Potten,C.S.およびMorris,R.J.(1988)、Epithelial stem cells in−vivo、J.Cell Sci.Suppl.、10、45〜62]。したがって、成体組織が、例えば、前立腺組織などがコラゲナーゼで消化され、前立腺の上皮構造体(例えば、オルガノイド、腺房および管)を間質細胞から分離するための繰り返される単位重力遠心分離に供される。その後、オルガノイドがトリプシン/EDTA(Life Technologies、Paisley、英国)とのインキュベーションによって単一細胞懸濁物に解離され、CD44陽性基底幹細胞が、抗ヒトCD44抗体(クローンG4426;Pharmingen、Becton Dickinson、Oxford、英国)標識化、および、MACS(Miltenyi Biotec Ltd.、Surrey、英国)ヤギ抗マウスIgGマイクロビーズとのインキュベーションを用いて、管腔のCD57陽性の最終分化した分泌細胞から単離される。その後、細胞懸濁物がMACSカラムに適用され、基底細胞が溶出され、WAJC404完全培地に再懸濁される[Robinson,E.J.他(1998)、Basal cells are progenitors of luminal cells in primary cultures of differentiating human prostatic epithelium、Prostate、37、149〜160]。
【0092】
基底幹細胞は他の基底細胞よりも迅速に基底膜タンパク質に接着することができるので[Jones,P.H.他(1995)、Stem cell patterning and fate in human epidermis、Cell、60:83〜93;Shinohara,T.他(1999)、beta1− and alpha6−integrin are surface markers on mouse spermatogonial stem cells、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:5504〜5509]、CD44陽性の基底細胞を、I型コラーゲン(52μg/ml)、IV型コラーゲン(88μg/ml)またはラミニン1(100μg/ml)のいずれかにより被覆された組織培養皿(Biocoat(登録商標)、Becton Dickinson)であって、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS;Oxoid Ltd、Basingstoke、英国)における0.3%ウシ血清アルブミン(フラクションV、Sigma−Aldrich、Poole、英国)により事前にブロッキングされた組織培養皿に置床する。5分後、組織培養皿をPBSにより洗浄し、前立腺組織基底幹細胞を含有する接着性細胞を、トリプシン−EDTAを用いて集める。
【0093】
1つの実施形態によれば、本発明によって利用される幹細胞は、造血細胞、間質細胞または間葉系幹細胞を含む骨髄(BM)由来の幹細胞である(Dominici,M他、2001、Bone marrow mesenchymal cells:biological properties and clinical applications、J.Biol.Regul.Homeost.Agents、15:28〜37)。BM由来幹細胞は、腸骨稜、大腿骨、脛骨、脊椎、肋骨または他の髄腔から得られる場合がある。
【0094】
上記のBM由来幹細胞のなかで、間葉系幹細胞が、形成性の多能性芽細胞であり、それゆえに、本発明での使用に好ましい。間葉系幹細胞は、生物活性因子(例えば、サイトカインなど)からの様々な影響に依存して、1つまたは複数の間葉組織(例えば、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織および線維性結合組織、筋芽細胞)、同様にまた、胚の中胚葉に起源を有する組織とは異なる組織(例えば、神経細胞)を生じさせる。そのような細胞は、胚卵黄嚢、胎盤、臍帯、胎児および青年期の皮膚、血液および他の組織(例えば、肝臓、腸、脳)から単離され得るが、BMにおけるそれらの存在量は他の組織におけるそれらの存在量をはるかに超えており、それゆえに、BMからの単離が現時点では好ましい。
【0095】
別の実施形態によれば、幹細胞は間葉系幹細胞を含む。
【0096】
間葉系幹細胞(MSC)を含む成体幹細胞を単離し、精製し、また、拡大する様々な方法がこの技術分野では知られており、これらには、例えば、CaplanおよびHaynesworthによる米国特許第5486359号に開示される方法、ならびに、Jones E.A.他[Jones E.A.他(2002)、Isolation and characterization of bone marrow multipotential mesenchymal progenitor cells、Arthritis Rheum、46(12):3349〜60]によって開示される方法が含まれる。
【0097】
前駆体ベータ細胞または幹細胞が得られると、これらの細胞は、(例えば、トリプシンの添加によって、または、粉砕によって)単一細胞懸濁物に分散される場合があり、そして、典型的には、(例えば、Cellgro、Mediatech,Inc.等から入手可能なCMRL−1066などの細胞培地において)培養される。細胞は血清非含有培地において、または、Matrigelによるマトリックス重層体の表面で増殖させる場合があることが理解されるであろう。加えて、または、代替において、ベータ細胞の拡大/分化を支援するか、または、ベータ細胞のアポトーシスを阻害するさらなる因子が細胞培養培地に添加される場合があり、そのような因子には、増殖因子[例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)]、ホルモン[例えば、ガストリン、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)]および/またはインスリン分泌性作用因(例えば、ニコチンアミド)が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
そのうえ、本発明の前駆体ベータ細胞は、グルコースに応答してインスリンを分泌する成熟型の機能的ベータ細胞のmiR−7レベルよりも高まったレベルのmiR−7を発現する。
【0099】
上記レベルは好ましくは、(完全に分化した機能的ベータ細胞である)コントロール細胞(これは、例えば、正常なグルコース恒常性のためにグルコース刺激に応答してインスリンを分泌する)を参照して求められる。
【0100】
1つの具体的な実施形態によれば、脱分化状態とは、試験された細胞におけるmiR−7のレベルがコントロール細胞のmiR−7レベルの少なくとも50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下であるときである。
【0101】
本明細書中上記で述べられたように、単離および培養の後で、本発明のベータ細胞(例えば、前駆体ベータ細胞)または幹細胞は、miR−7の活性または発現をそのような細胞においてダウンレギュレーションする(すなわち、低下させる)ための作用因と接触させられる。
【0102】
本発明の教示によれば、膵臓ベータ細胞におけるマイクロRNA−7(miR−7)の活性または発現のダウンレギュレーションは細胞分化をもたらし、また、これらの細胞でのインスリン含有量の増大をもたらす(下記の実施例の節の実施例3を参照のこと)。インスリンレベルの増大は、インスリンの転写制御および/または転写後制御における増大ならびに/あるいはインスリンの翻訳制御および/または翻訳後制御における増大の結果である可能性がある。本発明の教示に従う膵臓ベータ細胞でのインスリン含有量の増大はまた、高まったインスリン貯蔵、および/または、インスリン分解を遅らせることから生じているかもしれない。
【0103】
本明細書中で使用される場合、用語「miR−7」は、転写後調節因子として作用するマイクロRNA(miRNA)分子を示す。例示的なmiR−7ポリヌクレオチド配列が配列番号21〜配列番号26において示され、GenBank登録番号NR_029605.1、同NR_029606.1または同NR_029607.1によって示される。
【0104】
マイクロRNAは典型的には、プレmiR(プレマイクロRNA前駆体)からプロセシングされる。プレmiRは、例えば、培養細胞にトランスフェクションされたとき、機能的なmiRNAに効率よくプロセシングされる、RNAポリメラーゼIIIによって転写される一組の前駆体miRNA分子である。プレmiRを使用して、特異的miRNA活性を、このmiRNAを通常の場合には発現しない細胞タイプにおいて誘発することができ、したがって、その標的の機能を、その発現を「(miRNA)機能獲得」実験においてダウンレギュレーションすることによって検討することができる。様々なプレmiR設計が、miRNA登録(下記参照)において列挙される既知のmiRNAのすべてに対して存在しており、また、どのような研究のためにでも容易に設計され得る。
【0105】
したがって、本発明の教示のmiR−7は、そのどのような標的であれ、標的との結合、標的への接合、標的の調節、標的のプロセシング、標的の妨害、標的の増強、標的の安定化および/または標的の脱安定化が可能である。そのような標的としては、DNA分子、RNA分子およびポリペプチド(これらに限定されない)を含めて、どのような分子も可能であり、例えば、Pax6などの転写因子(これらに限定されない)などが可能である。
【0106】
本発明のmiR−7はインスリン転写経路の一部であり、かつ/または、インスリン転写経路に関与し、かつ/または、インスリン転写経路に関連することが理解されるであろう。したがって、miR−7を、例えば、マイクロRNA登録(http://wwwdotsangerdotacdotuk/Software/Rfarn/mirna/indexdotshtml)を含めて、様々なデータベースを介して特定することができる。
【0107】
miR−7のダウンレギュレーションを、転写を妨害する様々な分子(例えば、RNAサイレンシング作用因、リボザイム、DNAザイムおよびアンチセンス)を使用してゲノムレベルおよび/または転写物レベルで達成することができる。
【0108】
下記において、miR−7の発現レベルおよび/または活性をダウンレギュレーションすることができる作用因を列挙する。
【0109】
miR−7活性をダウンレギュレーションする核酸作用因には、標的模倣物、マイクロRNA抵抗性遺伝子およびmiRNA阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0110】
標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的は、下記のミスマッチの1つまたは複数が許されるならば、マイクロRNAに対して本質的に相補的である:
(a)マイクロRNAの5’末端におけるヌクレオチドと、標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的における対応するヌクレオチド配列との間における1つのミスマッチ;
(b)マイクロRNAの1位〜9位におけるヌクレオチドのいずれか1つと、標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的における対応するヌクレオチド配列との間における1つのミスマッチ;あるいは
(c)マイクロRNAの12位〜21位におけるヌクレオチドのいずれか1つと、標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的における対応するヌクレオチド配列との間における3つのミスマッチ、ただし、この場合、連続するミスマッチは最大でも2つである。
【0111】
標的模倣RNAは、例えば、ミスマッチをもたらすmiRNAの10番目または11番目のヌクレオチドに対して相補的である標的配列のヌクレオチドに変化をもたらすように配列を改変することによってmiRNA誘導の切断に対して抵抗性になるように改変された標的RNAと本質的に類似している。
【0112】
代替において、マイクロRNA抵抗性標的が実行される場合がある。したがって、DNA配列および生じたRNA配列が、マイクロRNAの結合を妨げる様式で変化し、しかし、タンパク質のアミノ酸配列は変化しないように、サイレント変異が標的遺伝子のマイクロRNA結合部位に導入される場合がある。したがって、新しい配列を既存の結合部位に代わって合成することができ、ただし、この場合、新しい配列において、DNA配列が変化し、それにより、miRNAがその標的に結合しなくなることが生じる。
【0113】
1つの具体的な実施形態によれば、標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的は、標的遺伝子を認識するプレmiRNAと生来的に会合するプロモーターに連結され、細胞内に導入される。このようにして、miRNA標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的RNAが、miRNAと同じ環境のもとで発現されるであろうし、また、標的模倣物またはマイクロRNA抵抗性標的RNAが、miRNA誘導の切断によって分解される非標的模倣物/マイクロRNA抵抗性標的RNAの代わりになるであろう。
【0114】
非機能的miRNA対立遺伝子またはmiRNA抵抗性標的遺伝子もまた、miRNAコード対立遺伝子またはmiRNA感受性標的遺伝子を代用するために相同的組換えによって導入される場合がある。
【0115】
組換え発現は、目的とする核酸(例えば、miRNA、標的遺伝子、サイレンシング作用因など)をプロモーターの発現のもとでの核酸発現構築物にクローン化することによって達成される。
【0116】
本発明の他の実施形態において、一本鎖の合成核酸がmiRNA阻害剤として使用される。miRNA阻害剤は、典型的には長さが約17ヌクレオチド〜25ヌクレオチドの間であり、成熟型miRNAの5’端から3’端への配列に対して少なくとも90%相補的である5’端から3’端への配列を含む。特定の実施形態において、miRNA阻害剤分子は、17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチドまたは25ヌクレオチドの長さであり、あるいは、それらにおいて導かれ得る任意の範囲である。さらに、miRNA阻害剤は、成熟型miRNA、特に、成熟型の天然に存在するmiRNAの5’端から3’端への配列に対して、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%または100%相補的であるか、あるいは、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%または100%相補的であるか、あるいは、それらにおいて導かれ得る任意の範囲である(5’端から3’端への)配列を有する。
【0117】
1つの実施形態によれば、ペプチド核酸のオリゴヌクレオチドアナログ(PNA ON)がmiRNA阻害剤として使用される。そのようなmiRNA阻害剤は、Torres他、Nucleic Acids Research、(2011)、1〜16において詳しく記載されている(これは参照によって本明細書中に組み込まれる)。
【0118】
miRNA阻害剤を、一過性トランスフェクション技術または安定的トランスフェクション技術を使用して細胞と接触させる場合がある。したがって、miRNA阻害剤は、本明細書中下記で記載されるように発現ベクターの一部である場合がある。
【0119】
1つの実施形態によれば、マイクロRNAの発現をダウンレギュレーションすることが、マイクロRNAと特異的に結合し、その発現をダウンレギュレーションする核酸配列の使用によって達成される。本発明に従って使用され得る核酸配列は、いずれかの製造者から、例えば、Genecopoeiaから購入することができる(miArrest、マイクロRNAベクターに基づく阻害剤)。
【0120】
別の実施形態によれば、miR−7またはその前駆体の発現をダウンレギュレーションするための核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドが提供される。
【0121】
miR−7の発現をダウンレギュレーションするために本発明に従って使用され得る例示的なポリヌクレオチドには、配列番号36〜配列番号41において示されるポリヌクレオチドが含まれるが、これらに限定されない。
【0122】
miR−7のダウンレギュレーションはまた、RNAサイレンシングによって達成することができる。本明細書中で使用される場合、表現「RNAサイレンシング」は、対応するタンパク質コード遺伝子の発現の阻害または「サイレンシング」をもたらすRNA分子によって媒介される一群の調節機構[例えば、RNA干渉(RNAi)、転写型遺伝子サイレンシング(TGS)、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)、クエリング(quelling)、共抑制および翻訳抑制]を示す。RNAサイレンシングは、植物、動物および真菌類を含めて、多くのタイプの生物において認められている。
【0123】
本明細書中で使用される場合、用語「RNAサイレンシング作用因」は、標的遺伝子の発現の阻害または「サイレンシング」を行うことができるRNAを示す。特定の実施形態において、RNAサイレンシング作用因は、mRNA分子の完全なプロセシング(例えば、完全な翻訳および/または発現)を転写後のサイレンシング機構により妨げることができる。RNAサイレンシング作用因には、非コードRNA分子、例えば、対形成した鎖を含むRNA二重鎖、同様にまた、そのような小さい非コードRNAを生じ得る前駆体RNAが含まれる。例示的なRNAサイレンシング作用因には、dsRNA(例えば、siRNA、miRNAおよびshRNAなど)が含まれる。1つの実施形態において、RNAサイレンシング作用因はRNA干渉を誘導することができる。別の実施形態において、RNAサイレンシング作用因は翻訳抑制を媒介することができる。
【0124】
miR−7のダウンレギュレーションは、miR−7をコードするmRNA転写物と特異的にハイブリダイゼーションすることができるアンチセンスポリヌクレオチドを使用することによって行うことができる。
【0125】
miR−7をダウンレギュレーションするために使用されることができるアンチセンス分子の設計は、アンチセンスアプローチに対する2つの重要な側面を考慮に入れて行われなければならない。第一の側面は適切な細胞の細胞質中へのオリゴヌクレオチドの送達であり、第二の側面は細胞内の指定されたmRNAの翻訳を阻害するような態様で細胞内の指定されたmRNAに特異的に結合するオリゴヌクレオチドの設計である。
【0126】
従来技術は、幅広い種類の細胞中にオリゴヌクレオチドを効果的に送達するために用いられることができる多数の送達戦略を教示する(例えばLuft J Mol Med 76:75−6(1998);Kronenwett他,Blood 91:852−62(1998);Rajur他,Bioconjug Chem 8:935−40(1997);Lavigne他,Biochem Biophys Res Commun 237:566−71(1997)及びAoki他 Biochem Biophys Res Commun 231:540−5(1997)を参照)。
【0127】
加えて、標的mRNA及びオリゴヌクレオチドの両方における構造的変化のエネルギーを計算に入れる熱動力学サイクルに基づく標的mRNAに対する最高の予想された結合親和性を有する配列を同定するためのアルゴリズムも利用可能である(例えばWalton他,Biotechnol Bioeng 65:1−9(1999)参照)。
【0128】
かかるアルゴリズムは、細胞におけるアンチセンスアプローチを実行するために成功して用いられている。例えば、Walton他によって開発されたアルゴリズムを用いて科学者はウサギのベータグロブリン(RBG)及びマウスの腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)転写物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するのに成功している。同じ研究グループは、動的PCR技術によって評価されるように細胞培養物中で3つのモデル標的mRNA(ヒトの乳酸デヒドロゲナーゼA及びB及びラットのgp130)に対する合理的に選択されたオリゴヌクレオチドのアンチセンス活性がホスホジエステル及びホスホロチオエートオリゴヌクレオチド化学を用いた2つの細胞型における3つの異なる標的に対する試験を含むほぼ全ての場合において有効であることを証明したことを最近報告している。
【0129】
加えて、インビトロシステムを用いて特定のオリゴヌクレオチドを設計してその有効性を予測するためのいくつかのアプローチも発表されている(Matveeva他,Nature Biotechnology 16,1374−1375(1998))。
【0130】
miR−7アンチセンス作用因には、Cheng A.M.他、Nucleic Acids Research、2005、33(4):1290〜1297(これは参照によって本明細書中に組み込まれる)において詳しく記載される、miR−7を標的とし、これを阻害するアンチセンス分子、ならびに、例えば、IDT(Integrated DNA Technologies,Inc.、イスラエル)から入手可能である抗miRNAオリゴ、および、Exiconからもまた入手可能である抗miRNAオリゴ(miRCURY LNA(商標)マイクロRNA阻害剤、より詳しくは、http://wwwdotexiqondotcom/microrna−knockdownを参照のこと)が含まれるが、これらに限定されない。
【0131】
本発明のマイクロRNAアンチセンス作用因(例えば、抗miRNAオリゴ)はまた、化学修飾、分子修飾、および/または、様々な成分の付加、例えば、コレステロール成分の付加(例えば、antagomir)を含む場合があることが理解されるであろう。そのような分子が、例えば、Kruetzfeldt J.他、Nature、(2005)、438:685〜9において、また、LennoxおよびBehlke、Gene Therapy、(2011)、REVIEW:Chemical modification and design of anti−miRNA oligonucleotides、pg.1〜10において以前に記載されている。
【0132】
1つの具体的な実施形態によれば、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための作用因はantagomirである。本発明の教示に従って使用され得る1つの例示的なantagomirには、抗miR−7 antagomir(2’OH)−chl(配列番号19)が含まれる。
【0133】
miR−7のダウンレギュレーションはまた、RNA干渉によって達成することができる。RNA干渉は、短い干渉性RNA(siRNA)によって媒介される動物における配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングのプロセスを示す。植物における対応プロセスが転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと一般に呼ばれ、これはまた、菌類ではクエリングと呼ばれる。転写後遺伝子サイレンシングのプロセスは、外来遺伝子の発現を防止するために使用される進化的に保存された細胞防御機構であると考えられ、多様なフローラおよび門によって一般に共有される。外来遺伝子の発現からのそのような防御は、相同的な一本鎖RNAまたはウイルスゲノムRNAを特異的に破壊する細胞応答を介した、ウイルス感染に由来するか、または、トランスポゾンエレメントの宿主ゲノム内へのランダムな組み込みに由来する二本鎖RNA(dsRNA)の産生に対する応答において進化してきたかもしれない。
【0134】
細胞における長いdsRNAの存在は、ダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII酵素の活性を刺激する。ダイサーは、短い干渉性RNA(siRNA)として知られるdsRNAの短い小片へのdsRNAのプロセシングに関与する。ダイサー活性に由来する短い干渉性RNAは、長さが典型的には約21ヌクレオチド〜約23ヌクレオチドであり、約19塩基対の二重鎖を含む。RNAi応答はまた、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に対して相補的な配列を有する一本鎖RNAの切断を媒介するエンドヌクレアーゼ複合体(これは一般にはRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれる)を特徴とする。標的RNAの切断が、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に対して相補的な領域の中央で生じる。
【0135】
哺乳動物システムにおけるインターフェロン経路およびPKR経路を回避する別の方法が、トランスフェクションまたは内因性発現のどちらかを介する小さい阻害RNA(siRNA)の導入による方法である。
【0136】
用語「siRNA」は、RNA干渉(RNAi)経路を誘導する小さい阻害RNA二重鎖(一般には18塩基対〜30塩基対の間)を示す。典型的には、siRNAは、中央の19bpの二重鎖領域と、末端における対称的な2塩基の3’−突出とを有する21mer体として化学合成される。しかし、近年には、25塩基〜30塩基の長さの化学合成されたRNA二重鎖が、同じ場所において21mer体と比較して、効力において100倍もの大きい増大を有し得ることが明らかにされている。RNAiを誘発することにおいて、より長いRNAを使用して得られた観測されている増大した効力は理論によれば、生成物(21mer)の代わりに基質(27mer)をダイサーに与えることから生じると考えられ、このことにより、siRNA二重鎖がRISCに進入する速度または効率が改善される。
【0137】
3’−突出の位置はsiRNAの効力に影響を与え、3’−突出をアンチセンス鎖に有する非対称な二重鎖は、3’−突出をセンス鎖に有するものよりも一般に強力であることが見出されている(Rose他、2005)。これは、非対称な鎖がRISCに入ってくることに起因すると考えられ得る。なぜなら、逆の効力パターンが、アンチセンス転写物を標的とするときに認められるからである。
【0138】
二本鎖の干渉性RNA(例えば、siRNA)の鎖は、ヘアピン構造またはステム−ループ構造(例えば、shRNA)を形成するためにつなぐことができる。したがって、述べられたように、本発明のRNAサイレンシング作用因はまた、短いヘアピンRNA(shRNA)であり得る。
【0139】
用語「shRNA」は、本明細書中で使用される場合、相補的配列の第1の領域および第2の領域を含み、これらの領域の相補性の程度および向きが、塩基対形成がこれらの領域の間で生じように十分であり、第1の領域および第2の領域がループ領域によって連結され、ループがループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチドアナログ)の間における塩基対形成の欠落から生じるステム−ループ構造を有するRNA作用因を示す。ループにおけるヌクレオチドの数は、3〜23の数(3および23を含む)、または、5〜15の数(5および15を含む)、または、7〜13の数(7および13を含む)、または、4〜9の数(4および9を含む)、または、9〜11の数(9および11を含む)である。ループにおけるヌクレオチドのいくつかは、ループにおける他のヌクレオチドとの塩基対相互作用に関与することができる。ループを形成するために使用することができるオリゴヌクレオチド配列の例には、5’−UUCAAGAGA−3’(Brummelkamp,T.R.他(2002)、Science、296:550)および5’−UUUGUGUAG−3’(Castanotto,D.他(2002)、RNA、8:1454)が含まれる。得られる単鎖オリゴヌクレオチドは、RNAi装置と相互作用することができる二本鎖領域を含むステム−ループ構造またはヘアピン構造を形成することが当業者によって認識される。
【0140】
別の実施形態によれば、RNAサイレンシング作用因はmiRNAであり得る。miRNAは、様々なサイズの一次転写物をコードする遺伝子から作製される小さいRNAである。miRNAは、動物および植物の両方で特定されている。一次転写物(これは「プリmiRNA」と称される)が、様々な核酸分解工程を介して、より短い前駆体miRNA、すなわち、「プレmiRNA」にプロセシングされる。プレmiRNAは、折り畳まれた形態で存在し、その結果、最終的な(成熟)miRNAが二重鎖で存在する(これら2つの鎖がmiRNA(最終的には標的と塩基対形成する鎖)と呼ばれる)。プレmiRNAは、miRNA二重鎖を前駆体から除くダイサーの一形態に対する基質であり、その後、siRNAと同様に、二重鎖はRISC複合体に取り込まれ得る。miRNAを遺伝子導入により発現させることができ、また、miRNAは、完全な一次形態ではなく、むしろ、前駆体形態の発現により効果的であり得ることが明らかにされている(Parizotto他(2004)、Genes&Development、18:2237〜2242、および、Guo他(2005)、Plant Cell、17:1376〜1386)。
【0141】
siRNAとは異なり、miRNAは、ほんの部分的にすぎない相補性を有する転写物配列に結合し(Zeng他、2002、Molec.Cell、9:1327〜1333)、定常状態のRNAレベルに影響を及ぼすことなく、翻訳を抑制する(Lee他、1993、Cell、75:843〜854;Wightman他、1993、Cell、75:855〜862)。miRNAおよびsiRNAはともにダイサーによってプロセシングされ、RNA誘導サイレンシング複合体の成分と会合する(Hutvagner他、2001、Science、293:834〜838;Grishok他、2001、Cell、106:23〜34;Ketting他、2001、Genes Dev.、15:2654〜2659;Williams他、2002、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:6889〜6894;Hammond他、2001、Science、293:1146〜1150;Mourlatos他、2002、Genes Dev.、16:720〜728)。近年の報告(Hutvagner他、2002、Sciencexpress、297:2056〜2060)は、siRNA経路に対してmiRNA経路を介する遺伝子調節が、単に標的転写物に対する相補性の程度によって決定されると仮定する。mRNA標的に対するほんの部分的にすぎない同一性を有するsiRNAが、RNAの分解を誘発するのではなく、miRNAと同様な翻訳抑制において機能することが推測される。
【0142】
本発明とともに使用するために好適なRNAサイレンシング作用因の合成を下記のように達成することができる。最初に、miR−7のmRNA配列がAAジヌクレオチド配列についてAUG開始コドンから下流側に走査される。それぞれのAAおよび3’側の隣接19ヌクレオチドの存在が、可能性のあるsiRNA標的部位として記録される。好ましくは、siRNA標的部位はオープンリーディングフレームから選択される。これは、非翻訳領域(UTR)には、調節タンパク質結合部位がより多く存在するからである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体はsiRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害するかもしれない[Tuschl、ChemBiochem、2:239〜245]。しかし、GAPDHについて明らかにされるように(この場合、5’UTRに向けられたsiRNAが細胞のGAPDHのmRNAにおける約90%の低下を媒介し、タンパク質レベルを完全に消滅させた[www.ambion.com/techlib/tn/91/912.html])、非翻訳領域に向けられるsiRNAもまた効果的であり得ることが理解される。
【0143】
次に、可能性のある標的部位が、何らかの配列アラインメントソフトウエア(例えば、NCBIサーバー[www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/]から入手可能なBLASTソフトウエアなど)を使用して、適切なゲノムデータベース(例えば、ヒト、マウス、ラットなど)に対して比較される。他のコード配列に対する有意な相同性を示す推定される標的部位が取り出される。
【0144】
適格な標的配列が、siRNA合成のためのテンプレートとして選択される。好ましい配列は、低いG/C含有量を含むものである。なぜなら、これらは、G/C含有量が55%を超えるものと比較して、遺伝子サイレンシングを媒介することにおいてより効果的であることが判明しているからである。いくつかの標的部位が好ましくは、評価のために標的遺伝子の長さに沿って選択される。選択されたsiRNAのより良好な評価のために、陰性コントロールが好ましくは、併せて使用される。陰性コントロールsiRNAは好ましくは、siRNAと同じヌクレオチド組成を含むが、ゲノムに対する有意な相同性を有さない。したがって、siRNAのスクランブル化ヌクレオチド配列が、どのような他の遺伝子に対しても何らかの有意な相同性を示さないならば、好ましく使用される。
【0145】
本発明のRNAサイレンシング作用因は、RNAのみを含有するそのような分子に限定される必要はなく、化学修飾されたヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに包含することが理解される。
【0146】
いくつかの実施形態において、本明細書中に提供されるRNAサイレンシング作用因は細胞浸透ペプチドと機能的に関連し得る。本明細書中で使用される「細胞浸透ペプチド」は、細胞の形質膜および/または核膜を横切る膜透過性複合体の輸送に関連するエネルギー非依存的(すなわち、非エンドサイトーシス的)転位置特性を与える短い(約12残基〜30残基の)アミノ酸配列または機能的モチーフを含むペプチドである。本発明の膜透過性複合体において使用される細胞浸透ペプチドは好ましくは、少なくとも1つの非機能的システイン残基を含んでおり、この場合、この非機能的システイン残基はフリーであるか、または、そのような連結のために修飾されている二本鎖リボ核酸とのジスルフィド連結を形成するために誘導体化される。そのような特性を与える代表的なアミノ酸モチーフが米国特許第6348185号に列挙される(その内容が特に、参照によって本明細書中に組み込まれる)。本発明の細胞浸透ペプチドには好ましくは、ペネトラチン、トランスポルタン(transportan)、pIsl、TAT(48−60)、pVEC、MTSおよびMAPが含まれるが、これらに限定されない。
【0147】
RNAサイレンシング作用因を使用して標的化されるためのmRNAには、その発現が、望まれない表現型形質と相関するmRNAが含まれるが、これらに限定されない。標的化され得る例示的なmRNAは、短縮型タンパク質をコードするmRNA、すなわち、欠失を含むmRNAである。したがって、本発明のRNAサイレンシング作用因は、欠失のどちらの側でも橋渡し領域に対して標的化することができる。そのようなRNAサイレンシング作用因の細胞への導入は、成熟型タンパク質のダウンレギュレーションを引き起こし、一方で、非成熟型タンパク質には影響を与えないままにすると思われる。
【0148】
例示的なmiR−7サイレンシング作用因には、miR−7を阻害するための、Ambion Inc.から入手可能なAnti−miR(商標)miRNA阻害剤が含まれるが、これに限定されない(より詳しくは、https://productsdotappliedbiosystemsdotcom/ab/en/US/adirect/ab?cmd=ABAntiPremiRNAKeywordSearchを参照のこと)。
【0149】
miR−7をダウンレギュレーションすることができる別の薬剤が、miR−7のmRNA転写物またはDNA配列を特異的に切断することができるDNAザイム分子である。DNAザイムは、一本鎖および二本鎖の両方の標的配列を切断することができる一本鎖ポリヌクレオチドである(Breaker,R.R.およびJoyce,G.、Chemistry and Biology、1995、2:655;Santoro,S.W.&Joyce,G.F.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1997、943:4262)。DNAザイムについての一般的モデル(「10−23」モデル)が提案されている。「10−23」DNAザイムは、それぞれが7個〜9個のデオキシリボヌクレオチドの2つの基質認識ドメインが両側に位置する15デオキシリボヌクレオチドの触媒作用ドメインを有する。このタイプのDNAザイムはその基質RNAをプリン:ピリミジン接合部において効果的に切断することができる(Santoro,S.W.&Joyce,G.F.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、199;DNAザイムの総説については、Khachigian,LM[Curr Opin Mol Ther、4:119〜21(2002)]を参照のこと)。
【0150】
一本鎖および二本鎖の標的切断部位を認識する合成された改変DNAザイムの構築および増幅の様々な例が、米国特許第6326174号(Joyce他)に開示されている。ヒトウロキナーゼ受容体に向けられた類似する設計のDNAザイムが最近、ウロキナーゼ受容体の発現を阻害すること、また、結腸ガン細胞の転移をインビボで首尾よく阻害することが認められた(Itoh他、2002、アブストラク409、Ann Meeting Am Soc Gen Ther、www.asgt.org)。別の適用において、bcr−ab1ガン遺伝子に対して相補的なDNAザイムが白血病細胞におけるガン遺伝子発現を阻害することに成功し、また、CMLおよびALLの場合には自家骨髄移植における再発率を小さくすることに成功した。
【0151】
miR−7をダウンレギュレーションすることができる別の作用因が、miR−7をコードするmRNA転写物を特異的に切断することができるリボザイム分子である。リボザイムは、目的とするタンパク質をコードするmRNAの切断による遺伝子発現の配列特異的な阻害のためにますます使用されている[Welch他、Curr Opin Biotechnol、9:486〜96(1998)]。任意の特定の標的RNAを切断するためにリボザイムを設計することができることにより、リボザイムは基礎研究及び治療的適用の両方において貴重なツールになっている。治療剤の領域では、リボザイムは、感染性疾患におけるウイルスRNA、ガンにおける優勢なガン遺伝子、及び、遺伝病における特定の体細胞変異を標的化するために利用されている[Welch他、Clin Diagn Virol、10:163〜71(1998)]。最も注目すべきことは、HIV患者のためのいくつかのリボザイム遺伝子治療プロトコルが既に第1相試験中である。より近年には、様々なリボザイムが、トランスジェニック動物研究、遺伝子標的妥当性確認及び経路解明のために使用されている。いくつかのリボザイムが臨床試験の様々な段階にある。ANGIOZYMEは、ヒト臨床研究で研究されるための最初の化学合成されたリボザイムであった。ANGIOZYMEは、血管形成経路における重要な成分であるVEGF−r(血管内皮増殖因子受容体)の形成を特異的に阻害する。Ribozyme Pharmaceuticals,Inc.、並びに、他の企業が、抗血管形成治療剤の重要性を動物モデルで明らかにしている。HEPTAZYME、すなわち、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAを選択的に破壊するために設計されたリボザイムは、C型肝炎ウイルスのRNAを細胞培養アッセイで低下させることにおいて効果的であることが見出された(Ribozyme Pharmaceuticals,Incorporated−WEBのホームページ)。
【0152】
miR−7を標的化するために特異的であるリボザイムを、Suryawanshi,H.他[Supplementary Material(ESI) for Molecular BioSystems、The Royal Society of Chemistry、2010;これは参照によって本明細書中に組み込まれる]によって以前に記載されたように設計することができる。
【0153】
細胞中でのmiR−7遺伝子の発現を制御する追加の方法は、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)を介した方法である。最近の研究により、二本鎖のらせんDNAにおけるポリプリン/ポリピリミジン領域を配列特異的な様式で認識し、かつ、これに結合することができるTFOを設計できることが示されている。これらの認識規則がMaher III,L.J.他、Science(1989)、245:725〜730;Moser、H.E.他、Science(1987)、238:645〜630;Beal,P.A.他、Science(1992)、251:1360〜1363;Cooney,M.他、Science(1988)、241:456〜459;及びHogan,M.E.他、欧州特許公開375408号によって概略される。オリゴヌクレオチドの改変(例えば、インターカレーター及び骨格置換の導入など)、及び、結合条件(pH及びカチオン濃度)の最適化は、TFO活性に対する本来的な障害(例えば、電荷反発及び不安定性など)を克服することを助けており、また、最近では、合成オリゴヌクレオチドが特定の配列に標的化され得ることが示された(最近の総説については、Seidman及びGlazer(2003)、J Clin Invest、112:487〜94を参照のこと)。
【0154】
一般に、三重鎖形成オリゴヌクレオチドは下記の配列対応を有する:
オリゴ 3’−A G G T
二重鎖 5’−A G C T
二重鎖 3’−T C G A
【0155】
しかしながら、A−AT及びG−GCの三重鎖は、最大の三重らせん安定性を有することが示されている(Reither及びJeltsch,BMC Biochem,2002年9月12日、Epub)。同じ著者らは、A−AT及びG−GCの規則に従って設計されたTFOが非特異的な三重鎖を形成しないことを明らかにしている。このことは、三重鎖形成が実際に、配列特異的であることを示している。
【0156】
従って、miR−7の調節領域における任意の所与の配列について、三重鎖形成配列を考案することができる。三重鎖形成オリゴヌクレオチドは好ましくは、長さが少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは25ヌクレオチド、さらにより好ましくは30ヌクレオチド又はそれ以上から、50bp又は100bpまでである。
【0157】
TFOによる細胞のトランスフェクション(例えば、カチオン性リポソームによるトランスフェクション)、及び、標的DNAとの三重鎖らせん構造の形成は、立体的及び機能的な変化を誘導し、これにより、転写の開始及び伸長を妨げ、内因性DNAにおける所望される配列変化の誘導を可能にし、また、遺伝子発現の特異的なダウンレギュレーションをもたらす。TFOにより治療された細胞における遺伝子発現のそのような抑制の例には、哺乳動物細胞におけるエピソームsupFG1遺伝子及び内因性HPRT遺伝子のノックアウト(Vasquez他、Nucl Acids Res.(1999)、27:1176〜81;Puri他、J Biol Chem(2001)、276:28991〜98)、並びに、Ets2転写因子(これは前立腺ガンの病因において重要である)の発現の配列特異的及び標的特異的なダウンレギュレーション(Carbone他、Nucl Acids Res.(2003)、31:833〜43)、並びに、前炎症性ICAM−1遺伝子の配列特異的及び標的特異的なダウンレギュレーション(Besch他、J Biol Chem(2002)、277:32473〜79)が含まれる。加えて、Vuyisich及びBealは近年、配列特異的なTFOがdsRNAに結合し、これにより、dsRNA依存性酵素(例えば、RNA依存性キナーゼなど)の活性を阻害することができることを示している(Vuyisich及びBeal、Nuc.Acids Res(2000)、28:2369〜74)。
【0158】
加えて、上記の原理に従って設計されたTFOは、DNA修復を行うことができる誘導された変異誘発を誘導することができ、従って、内因性遺伝子の発現のダウンレギュレーション及びアップレギュレーションの両方をもたらすことができる[Seidman及びGlazer、J Clin Invest(2003)、112:487〜94]。効果的なTFOの設計、合成及び投与の詳細な記載を、米国特許出願公開第2003017068号及び同第20030096980(Froehler他)、同第20020128218号及び同第20020123476号(Emanuele他)、並びに、米国特許第5721138号(Lawn)に見出すことができる。
【0159】
本発明のmiR−7ダウンレギュレーション作用因をベータ細胞(例えば、前駆体ベータ細胞)または幹細胞において発現させることが、miR−7ダウンレギュレーション作用因をコードし、かつ、ベータ細胞または幹細胞におけるその発現を可能にする発現構築物を使用して達成される場合がある。
【0160】
本発明の核酸構築物(本明細書中では「発現ベクター」とも称する)は、典型的には、このベクターを原核生物または真核生物または好ましくは両方における複製および組込みのために好適にするさらなる配列(例えば、シャトルベクター)を含む。加えて、典型的なクローニング用ベクターは、転写開始配列および翻訳開始配列、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、およびポリアデニル化シグナルを含有することもできる。
【0161】
真核生物プロモーターは典型的には、2つのタイプの認識配列(TATAボックスおよび上流側のプロモーター要素)を含有する。TATAボックス(これは転写開始部位の25塩基対〜30塩基対上流側に位置する)は、RNAポリメラーゼに、RNA合成を開始させることに関与していると考えられる。それ以外の上流側のプロモーター要素は、転写が開始される速度を決定する。
【0162】
エンハンサー要素は、転写を、連結された相同的プロモーターまたは異種プロモーターから1000倍まで刺激することができる。エンハンサーは、転写開始部位の下流側または上流側に置かれたとき、活性がある。ウイルスに由来する多くのエンハンサー要素は広い宿主範囲を有しており、様々な組織において活性がある。例えば、SV40の初期遺伝子エンハンサーが多くの細胞タイプについて好適である。本発明のために好適である他のエンハンサー/プロモーター組合せには、ポリオーマウイルス、ヒトまたはマウスのサイトメガロウイルス(CMV)、様々なレトロウイルス(例えば、マウス白血病ウイルス、マウス肉腫ウイルスまたはラウス肉腫ウイルス、およびHIVなど)からの長末端反復に由来するものが含まれる。Enhancers and Eukaryotic Expression(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N.Y.、1983)、およびBell MP他、J Immunol.(2007)179(3):1893−900を参照のこと(これらは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0163】
発現ベクターの構築において、プロモーターは好ましくは、その天然の環境における転写開始部位からの距離とほぼ同じ距離で異種の転写開始部位から配置される。しかしながら、当該分野で既知のように、この距離におけるある程度の変動が、プロモーター機能の喪失を伴うことなく受け入れられ得る。
【0164】
ポリアデニル化配列もまた、miR−7ダウンレギュレーション作用因のmRNA翻訳の効率を増大させるために発現ベクターに加えることができる。2つの別個の配列要素が、正確かつ効率的なポリアデニル化のために要求される:ポリアデニル化部位の下流に位置するGUリッチ配列またはUリッチ配列、および、11ヌクレオチド〜30ヌクレオチド上流に位置する6ヌクレオチドの高度に保存された配列、AAUAAA。本発明のために好適である終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルには、SV40に由来する当該シグナルが含まれる。
【0165】
既に述べられた要素に加えて、本発明の発現ベクターは、典型的には、クローン化された核酸の発現レベルを増大させるために、または、組換えDNAを有する細胞の特定を容易にするために意図された他の特殊化された要素を含有することができる。例えば、数多くの動物ウイルスは、許容細胞タイプにおけるウイルスゲノムの染色体外の複製を促進させるDNA配列を含有する。このようなウイルスレプリコンを有するプラスミドは、適切な因子が、プラスミドにおいて運ばれる遺伝子によるか、または、宿主細胞のゲノムとともに運ばれる遺伝子によるかのいずれかで提供される限り、エピソームとして複製する。
【0166】
ベクターは真核生物のレプリコンを含んでも、含まなくてもよい。真核生物のレプリコンが存在するならば、ベクターは、適切な選択マーカーを使用して真核生物細胞において増幅可能である。ベクターが真核生物のレプリコンを含まないならば、エピソーム増幅ができない。その代わり、組換えDNAは、操作された細胞のゲノムに組み込まれ、その細胞において、プロモーターが所望の核酸の発現を行わせる。
【0167】
本発明の発現ベクターはさらに、例えば、1つのmRNAからの数個のタンパク質の翻訳を可能にするさらなるポリヌクレオチド配列(例えば、内部リボソーム進入部位(IRES)など)、および、プロモーターキメラポリペプチドのゲノム組み込みのための配列を含むことができる。
【0168】
哺乳動物発現ベクターの例には、Invitrogenから入手可能であるpcDNA3、pcDNA3.l(+/−)、pGL3、pZeoSV2(+/−)、pSecTag2、pDisplay、pEF/myc/cyto、pCMV/myc/cyto、pCR3.1、pSinRep5、DH26S、DHBB、pNMT1、pNMT41、pNMT81、Promegaから入手可能であるpCI、Strategeneから入手可能であるpMbac、pPbac、pBK−RSVおよびpBK−CMV、Clontechから入手可能であるpTRES、ならびに、それらの誘導体が含まれる。
【0169】
真核生物ウイルス(例えば、レトロウイルスなど)に由来する調節要素を含有する発現ベクターもまた使用することができる。SV40系ベクターには、pSVT7およびpMT2が含まれる。ウシパピローマウイルスに由来するベクターには、pBV−1MTHAが含まれ、エプスタイン・バールウイルスに由来するベクターには、pHEBOおよびp2O5が含まれる。他の例示的なベクターには、pMSG、pAV009/A、pMTO10/A、pMAMneo−5、バキュロウイルスpDSVE、および、SV−40初期プロモーター、SV−40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腫瘍ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、または、真核生物細胞での発現のために効果的であることが示されている他のプロモーターの指揮下でのタンパク質の発現を可能にする他のベクターが含まれる。
【0170】
ウイルスは、多くの場合において宿主の防御機構を回避するように進化してきた非常に特殊化された感染性因子である。典型的には、ウイルスは特定の細胞タイプに感染し、特定の細胞タイプにおいて増殖する。ウイルスベクターの標的化特異性では、その天然の特異性が、所定の細胞タイプを特異的に標的化し、それにより、組換え遺伝子を感染細胞に導入するために利用される。従って、本発明によって使用されるベクターのタイプは、形質転換された細胞タイプに依存する。好適なベクターを形質転換された細胞タイプに従って選択することができることは、十分に当業者の能力の範囲内であり、そのため、選択検討の一般的な記載は本明細書中には提供されない。例えば、骨髄細胞を、ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV−1)を使用して標的化することができ、また、腎臓細胞が、Liang CY他(2004)(Arch Virol.、2004;149:51〜60)に記載されるように、バキュロウイルスのAutographa californica核多角体ウイルス(AcMNPV)に存在する異種プロモーターを使用して標的化される場合がある。
【0171】
様々な方法を、本発明の発現ベクターをベータ細胞または幹細胞に導入するために使用することができる。そのような方法が、一般には、Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory、New York(1989、1992);Ausubel他、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、Baltimore、Md.(1989);Chang他、Somatic Gene Therapy、CRC Press、Ann Arbor、Mich.(1995);Vega他、Gene Targeting、CRC Press、Ann Arbor Mich.(1995);Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses、Butterworths、Boston Mass.(1988);および、Gilboa他[Biotechniques 1986;4:504〜512]に記載され、そのような方法には、例えば、組換えウイルスベクターを用いた安定的トランスフェクションまたは一過性トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび感染が含まれる。加えて、陽性−陰性の選択法については米国特許第5464764号および同第5487992号を参照のこと。
【0172】
ウイルス感染による核酸の導入は、より高いトランスフェクション効率をウイルスの感染性のために得ることができるので、他の方法(例えば、リポフェクションおよび電気穿孔法など)を上回るいくつかの利点を提供する。
【0173】
実施例2および表4(本明細書中下記)において例示されるように、miR−7は多数の標的遺伝子を有する。したがって、インスリン含有量を、miR−7標的遺伝子の発現をベータ細胞または幹細胞においてアップレギュレーションすることによって増大させることができる。
【0174】
したがって、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞において増大させる方法であって、miR−7の標的遺伝子をベータ細胞または幹細胞において発現させることを含む方法が提供される。
【0175】
本発明の実施形態によれば、miR−7の標的遺伝子は、上皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン分解酵素(IDE)、インスリン受容体基質2(IRS2)、クルッペル様因子4(KLF4)、GLIファミリージンクフィンガー3(GLI3)、インスリン受容体基質1(IRS1)、Sp1転写因子(SP1)、O−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼ(UDP−N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(OGT)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)およびワンカットホメオボックス2(ONECUT2)を含む。
【0176】
本明細書中で使用される場合、用語「上皮増殖因子受容体(EGFR)」は、特定のリガンド[例えば、上皮増殖因子(EGF)およびトランスフォーミング増殖因子α(TGFα)]に結合する細胞表面タンパク質を示す。例示的なEGFRが、NP_005219.2、NP_958439.1、NP_958440.1、NP_958441.1において、また、それをコードする配列番号43または配列番号42において示される。
【0177】
本明細書中で使用される場合、用語「インスリン分解酵素(IDE)」は、多数の短いポリペプチド(例えば、インスリン、グルカゴン、アミリン、ブラジキニンおよびカリジン)を切断する亜鉛結合性プロテアーゼを示す。例示的なIDEが、NP_001159418.1、NP_004960.2において、また、それをコードする配列番号45または配列番号44において示される。
【0178】
本明細書中で使用される場合、用語「インスリン受容体基質1(IRS1)」は、インスリン受容体チロシンキナーゼによってリン酸化され、インスリン受容体およびインスリン様増殖因子−1(IGF−1)受容体からのシグナルを細胞内の様々な経路に伝えることに関与するタンパク質を示す。例示的なIRS1が、NP_005535.1において、また、それをコードする配列番号53または配列番号52において示される。
【0179】
本明細書中で使用される場合、用語「インスリン受容体基質2(IRS2)」は、多種多様な受容体チロシンキナーゼと、下流側のエフェクターとの間の分子アダプターとして作用することによってポリペプチド(例えば、インスリン、インスリン様増殖因子1、サイトカイン)の効果を媒介する細胞質のシグナル伝達分子を示す。例示的なIRS2が、NP_003740.2において、また、それをコードする配列番号47または配列番号46において示される。
【0180】
本明細書中で使用される場合、用語「クルッペル様因子4(KLF4)」は、[gutリッチクルッペル様因子(GKLF)としても知られている]転写活性化因子または転写抑制因子を示す。例示的なKLF4が、NP_004226.3において、また、それをコードする配列番号49または配列番号48において示される。
【0181】
本明細書中で使用される場合、用語「GLIファミリージンクフィンガー3(GLI3)」は、DNA結合性転写因子として典型的に特徴づけられるジンクフィンガータンパク質を示す。例示的なGLI3が、NP_000159.3において、また、それをコードする配列番号51または配列番号50において示される。
【0182】
本明細書中で使用される場合、用語「Sp1転写因子(SP1)」は、多くのプロモーターのGCリッチモチーフに結合するジンクフィンガー転写因子を示す。例示的なSP1が、NP_001238754.1、NP_003100.1、NP_612482.2において、また、それをコードする配列番号55または配列番号54において示される。
【0183】
本明細書中で使用される場合、用語「O−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼ(UDP−N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(OGT)」は、O−グリコシド結合における1個のN−アセチルグルコサミンをセリン残基またはトレオニン残基に付加することを触媒するグリコシルトランスフェラーゼを示す。例示的なOGTが、NP_858058.1、NP_858059.1において、また、それをコードする配列番号57または配列番号56において示される。
【0184】
本明細書中で使用される場合、用語「インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)」は、インスリン様増殖因子と結合する受容体を示す。例示的なIGF1Rが、NP_000866.1において、また、それをコードする配列番号59または配列番号58において示される。
【0185】
本明細書中で使用される場合、用語「ワンカットホメオボックス2(ONECUT2)」は、カットドメインおよび異型ホメオドメインによって典型的に特徴づけられる転写因子を示す。例示的なONECUT2が、NP_004843.2において、また、それをコードする配列番号61または配列番号60において示される。
【0186】
本発明のmiR−7の標的遺伝子[例えば、上皮増殖因子受容体(EGFR)、インスリン分解酵素(IDE)、インスリン受容体基質2(IRS2)、クルッペル様因子4(KLF4)、GLIファミリージンクフィンガー3(GLI3)、インスリン受容体基質1(IRS1)、Sp1転写因子(SP1)、O−結合型N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)トランスフェラーゼ(UDP−N−アセチルグルコサミン:ポリペプチド−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(OGT)、インスリン様増殖因子1受容体(IGF1R)およびワンカットホメオボックス2(ONECUT2)]のタンパク質のアップレギュレーションをゲノムレベルで達成することができ(すなわち、プロモーター、エンハンサー、調節エレメントを介する転写の活性化)、または、転写物レベルで達成することができ(すなわち、正しいスプライシング、ポリアデニル化、翻訳の活性化)、または、タンパク質レベルで達成することができる(すなわち、翻訳後修飾、基質との相互作用、など)。
【0187】
下記において、miR−7の標的遺伝子(例えば、EGFR、IDE、IRS2、KLF4、GLI3、IRS1、SP1、OGT、IGF1RおよびONECUT2)のタンパク質の発現レベルおよび/または活性をアップレギュレーションすることができる作用因が列挙される。
【0188】
miR−7の標的遺伝子によってコードされるポリペプチドの発現のアップレギュレーションは、miR−7の標的遺伝子のタンパク質の少なくとも機能的な部分を発現するために設計および構築される外因性のポリヌクレオチド配列である場合がある。それによれば、外因性のポリヌクレオチド配列は、インスリン含有量をベータ細胞または幹細胞において増大させることができる標的遺伝子分子をコードするDNA配列またはRNA配列である場合がある。
【0189】
本明細書中で使用される場合、表現「ポリペプチド」は、天然型アミノ酸残基からもっぱら構成される自然界に存在するポリペプチド、または、天然型アミノ酸残基と、本明細書中上記で記載されるような修飾された(非天然型)アミノ酸残基との混合物から構成される合成的に調製されたポリペプチドを包含する。
【0190】
表現「機能的な部分」は、本明細書中で使用される場合、酵素の機能的性質(例えば、基質に結合することなど)を示す、標的遺伝子タンパク質(すなわち、ポリペプチド)の一部を示す。したがって、例えば、EGFRの機能的な部分は、キナーゼドメインと、シグナル伝達分子の結合のためのC末端配列とを含み、IGF1Rの機能的な部分はチロシンキナーゼドメインを含む。
【0191】
miR−7の外因性標的遺伝子(例えば、EGFR、IDE、IRS2、KLF4、GLI3、IRS1、SP1、OGT、IGF1RまたはONECUT2)を哺乳動物細胞において発現させるために、miR−7の標的遺伝子(例えば、EGFR、IDE、IRS2、KLF4、GLI3、IRS1、SP1、OGT、IGF1RまたはONECUT2)をコードするポリヌクレオチド配列が好ましくは、哺乳動物細胞での発現のために好適である核酸構築物の中に連結される。そのような核酸構築物は、細胞におけるポリヌクレオチド配列の転写を行わせるためのプロモーター配列、例えば、構成的様式または誘導可能な様式でのベータ細胞特異的または幹細胞特異的なプロモーターを含む。
【0192】
本発明のいくつかの実施形態の核酸構築物ではまた、所望される活性(すなわち、インスリン含有量の増大)を示す、miR−7の標的遺伝子(例えば、EGFR、IDE、IRS2、KLF4、GLI3、IRS1、SP1、OGT、IGF1RまたはONECUT2)のホモログが利用され得ることが理解されるであろう。そのようなホモログは、SmithおよびWatermanによるアルゴリズムを利用するWisconsin配列分析パッケージのBestFitソフトウエアを使用して求められる場合(ただし、この場合、ギャップ重みが50であり、長さ重みが3であり、平均一致が10であり、平均ミスマッチが−9である)、配列番号42(EGFR)、配列番号44(IDE)、配列番号46(IRS2)、配列番号48(KLF4)、配列番号50(GLI3)、配列番号52(IRS1)、配列番号54(SP1)、配列番号56(OGT)、配列番号58(IGF1R)、および、配列番号60(ONECUT2)に対する同一性が、例えば、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または、100%であることが可能である。
【0193】
本発明のいくつかの実施形態での使用のために好適である構成的プロモーターは、ほとんどの環境条件およびほとんどのタイプの細胞のもとで活性であるプロモーター配列であり、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)などである。
【0194】
本発明の教示に従った使用のために好適である様々な核酸構築物が本明細書中上記でさらに詳しく記載される。
【0195】
miR−7の標的遺伝子(例えば、EGFR、IDE、IRS2、KLF4、GLI3、IRS1、SP1、OGT、IGF1RおよびONECUT2)のタンパク質をアップレギュレーションすることができる作用因はまた、miR−7の標的遺伝子(例えば、EGFR、IDE、IRS2、KLF4、GLI3、IRS1、SP1、OGT、IGF1RおよびONECUT2)のタンパク質をコードする内因性のDNAまたはmRNAの転写および/または翻訳を増大させることができ、したがって、その内因性活性を増大させることができるどのような化合物であってもよい。したがって、例えば、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1、例えば、NP_002045.1において示されるようなGLP−1)または胃抑制ポリペプチド(GIP、例えば、NP_004114.1において示されるようなGIP)が、IRS1およびIRS2の発現をアップレギュレーションするために使用される場合がある。
【0196】
インスリン含有量をmiR−7の標的遺伝子の発現の後で測定することが、この技術分野で知られているいずれかの方法を使用して、また、本明細書中上記でさらに詳しく記載されるように行われる場合がある。
【0197】
膵臓ベータ細胞(例えば、前駆体ベータ細胞)または幹細胞におけるmiR−7のダウンレギュレーションまたはmiR−7の標的遺伝子の発現はさらに、これらの細胞の増殖または分化を引き起こす場合があることが理解されるであろう。代替において、miR−7のダウンレギュレーション(またはmiR−7の標的遺伝子の発現)が、膵臓アルファ細胞の分化または増殖を高めるために使用される場合がある。そのような細胞は、これらの細胞タイプをさらに調べるための実験モデルとして使用される場合がある。
【0198】
1つの実施形態によれば、上述の方法に従って作製される単離された細胞集団が提供される。
【0199】
別の実施形態によれば、miR−7の活性または発現をダウンレギュレーションするための外因性作用因を含む単離された細胞集団であって、前記細胞がインスリンを分泌する、単離された細胞集団が提供される。
【0200】
エクスビボ治療のために、ベータ細胞(例えば、前駆体ベータ細胞)または幹細胞は好ましくは、(本明細書中上記でさらに詳しく詳述されるような)本発明の作用因により処理され、その後、細胞が、その必要性のある対象に投与される。
【0201】
本発明のエクスビボ処理された細胞(例えば、成熟型ベータ細胞、前駆体ベータ細胞または幹細胞)の投与を、いずれかの好適な導入経路(例えば、静脈内、腹腔内、腎臓内、胃腸管内、皮下、経皮、筋肉内、皮内、クモ膜下腔内、硬膜外および直腸など)を使用して達成することができる。現在好ましい実施形態によれば、本発明のエクスビボ処理された細胞は、静脈内投与、腎臓内投与、胃腸管内投与および/または腹腔内投与を使用して個体に導入される場合がある。
【0202】
ベータ細胞または幹細胞は、どのような自己ドナーまたは非自己ドナー(すなわち、同種ドナーまたは異種ドナー)からでも得られる場合がある。例えば、細胞は、ヒト死体ドナーから、または、ヒト膵臓細胞ドナーから単離される場合がある。あるいは、細胞は、どのような異種ドナー(例えば、ブタ起源)からでも得られる場合がある。
【0203】
異種起源(例えば、ブタ)のベータ細胞または幹細胞は好ましくは、人畜共通感染症(例えば、ブタの内因性レトロウイルス)を有しないことが知られている供給源から得られる。同様に、ヒト由来のベータ細胞または幹細胞は好ましくは、実質的に病原体非含有の供給源から得られる。
【0204】
非自己細胞は、身体に投与されたときに免疫反応を誘導する可能性があるので、いくつかの取り組みが、非自己細胞を拒絶する可能性を軽減するために開発されている。これらには、レシピエントの免疫系を抑制すること、または、非自己細胞を移植前に、免疫隔離する半透過性膜で包むことのどちらかが含まれる。代替において、異種表面抗原を発現しない細胞が使用される場合がある(例えば、トランスジェニックブタにおいて発生させた細胞など)。
【0205】
カプセル化技術は、小さな球体を使用するマイクロカプセル化、及び大きな平坦シート及び中空糸膜を使用するマクロカプセル化として一般的に分類される(Uludag,H.ら.(2000).Technology of mammalian cell encapsulation.Adv Drug Deliv Rev.42:29−64)。
【0206】
マイクロカプセルの調製方法は、当業界では公知であり、例えば、以下の論文に開示されるものを含む:Lu M.Z.,ら.(2000).Cell encapsulation with alginate and alpha−phenoxycinnamylidene−acetylated poly(allylamine).Biotechnol Bioeng.70:479−483;Chang T.M.及びPrakash S.(2001).Procedures for microencapsulation of enzymes,cells and genetically engineered microorganisms.Mol Biotechnol.17:249−260;及びLu M.Z.,ら.(2000).A novel cell encapsulation method using photosensitive poly(allylamine alpha−cyanocinnamylideneacetate).J Microencapsul.17:245−251。
【0207】
例えば、マイクロカプセルは、2−ヒドロキシエチルメチルアクリレート(HEMA)、メタクリル酸(MAA)及びメチルメタクリレート(MMA)のターポリマー殻と複合体化された変性コラーゲンを使用して、厚さ2〜5μmのカプセルを生じることによって調製される。かかるマイクロカプセルは、負電荷に帯電した滑らかな表面を付与するために及び血漿タンパク質吸収を最小化するために、追加の2〜5μm厚さのターポリマー殻でさらにカプセル化されることができる(Chia,S.M.ら.(2002).Multi−layered microcapsules for cell encapsulation Biomaterials.23:849−856)。
【0208】
他のマイクロカプセルは、アルギン酸塩、海性多糖類又はその誘導体に基づくものである(Sambanis,A.(2003).Encapsulated islets in diabetes treatment.Diabetes Thechnol.Ther.5:665−668)。例えば、マイクロカプセルは、高分子陰イオンであるアルギン酸ナトリウム及び硫酸セルロースナトリウムと、高分子陽イオンであるポリ(メチレン−コ−グアニジン)ヒドロクロライドを、塩化カルシウムの存在下で高分子電解質複合体化させることによって調製されることができる。
【0209】
小さなカプセルを使用すると細胞カプセル化が改善されることは理解されるだろう。従って、例えば、カプセル化された細胞の品質の制御、機械的安定性、拡散特性、及びインビトロ活性は、カプセル寸法が1mmから400μmへと低下されるときに改善された(Canaple L.ら.(2002).Improving cell encapsulation through size control.J 10 Biomater Sci Polym Ed.13:783−796)。さらに、7nmもの小さい良好に制御された多孔寸法を有し、調製された表面化学特性及び正確な微小構造を有するナノ多孔バイオカプセルは、細胞のための微小環境を免疫隔離することに成功したことが見出された(Williams D.(1999).Small is beautiful:microparticle and nanoparticle technology in medical devices.Med Device Technol.10:6−9;およびDesai,T.A.(2002).Microfabrication technology for pancreatic cell encapsulation.Expert Opin Biol Ther.2:633−646)。
【0210】
エクスビボ治療と共に使用されることができる免疫抑制剤の例は以下のものを含むが、これらに限定されない:メトトレキセート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリン A、クロロキン、水酸化クロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン)、金塩、D−ペニシラミン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ(REMICADE.sup.R)、エタネルセプト、TNFαブロッカー、炎症性サイトカインを標的とする生物学的薬剤、及び非ステロイド系抗炎症薬剤(NSAID)。NSAIDの例は、以下のものを含むが、これらに限定されない:アセチルサリチル酸、塩化マグネシウムサリチル酸塩、ディフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサレート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナメート、ナプロキセン、ナプメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アセタミノフェン、イブプロフェン、Cox−2阻害剤、及びトラマドール。
【0211】
本発明の別の実施形態によれば、インスリン欠乏に伴う医学的状態の処置は、miR−7の活性または発現を自らダウンレギュレーションする作用因を、対象に投与することによって達成される。
【0212】
インビボ治療のために、(本明細書中上記でさらに詳しく詳述されるような)作用因が対象にそのまま投与されるか、または、医薬組成物の一部として対象に投与される。
【0213】
1つの実施形態によれば、発現ベクターが、miR−7ダウンレギュレーション作用因のインビボ発現(すなわち、インビボ治療)のために使用される。
【0214】
上記でさらに詳しく明記されるように、いずれかの哺乳動物発現ベクターがインビボ治療のために使用される場合がある。さらに、発現ベクターは、ベクターを膵臓ベータ細胞におけるインビボ発現作用因のために好適なものとするいずれかのさらなる配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)を含む場合がある。
【0215】
典型的には、組換えウイルスベクターが、miR−7ダウンレギュレーション作用因のインビボ発現に有用である。これは、組換えウイルスベクターにより、側方感染および標的化特異性などの利点がもたらされるからである。側方感染は、例えば、レトロウイルスの生活環において固有的であり、1個の感染細胞から、出芽して周りの細胞に感染する多くの子孫ビリオンが生じるプロセスである。その結果、ほとんどが元のウイルス粒子によって最初に感染しなかった大きな面積が迅速に感染する。これは、感染因子が娘子孫を介してのみ広がる垂直型の感染とは対照的である。側方に広がることができないウイルスベクターもまた作製することができる。所望される目的が、特定の遺伝子を局在的な数の標的細胞だけに導入することであるならば、この特徴は有用であり得る。
【0216】
したがって、本発明のエクスビボ処理されたベータ細胞または幹細胞あるいはmiR−7ダウンレギュレーション作用因をそれ自体で、または、生理学的に許容される担体もまた含む医薬組成物の一部として個体に投与することができる。
【0217】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効成分の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適な担体および賦形剤など)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0218】
本明細書中において、用語「有効成分」は、生物学的効果を説明することができる作用因を示す。
【0219】
本明細書中以降、表現「生理学的に許容される担体」および表現「医薬的に許容される担体」は、交換可能に使用され得るが、生物に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された化合物の生物学的な活性および性質を妨げない担体または希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に包含される。
【0220】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0221】
薬物の配合および投与のための技術が「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)に見出されることができ、これは参考として本明細書中に組み込まれる。
【0222】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達、特に経鼻送達、腸管送達、または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、心臓内注射(例えば、右または左心室中への、または総冠動脈中への)、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれることができる。
【0223】
あるいは、例えば、患者の組織領域に直接的に医薬組成物の注射をすることによって、全身的な方法よりも局所的に医薬組成物を投与することができる。
【0224】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られているプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥のプロセスによって製造されることができる。
【0225】
従って、本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用されることができる調製物への有効成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理学的に許容され得る担体を使用して従来の様式で配合されることできる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0226】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合しうる緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な食塩緩衝液など)において配合されることができる。経粘膜投与の場合、浸透されるバリヤーに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0227】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物をこの分野でよく知られている医薬的に許容され得る担体と組み合わせることによって容易に配合されることができる。そのような担体は、医薬組成物が、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤および懸濁物などとして配合されることを可能にする。経口使用される薬理学的調製物は、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し、錠剤または糖衣錠コアを得るために、望ましい好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製されることができる。好適な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマーである。もし望むなら、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤が加えられることができる。
【0228】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有しうる。色素または顔料は、活性化合物の量を明らかにするために、または活性化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えられることができる。
【0229】
経口使用されうる医薬組成物としては、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが挙げられる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(例えば、ラクトースなど)、結合剤(例えば、デンプンなど)、滑剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)、および場合により安定化剤との混合で有効成分を含有することができる。軟カプセルでは、有効成分は、好適な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁されることができる。さらに、安定化剤が加えられることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路について好適な投薬形態でなければならない。
【0230】
口内投与の場合、組成物は、従来の方法で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0231】
鼻吸入による投与の場合、本発明による使用のための有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投与量は、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定されることができる。ディスペンサーにおいて使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジは、化合物および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含有して配合されることができる。
【0232】
本明細書中に記載される医薬組成物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合されることができる。注射用配合物は、場合により保存剤が添加された、例えば、アンプルまたは多回用量容器における単位投薬形態で提供されることができる。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの配合剤を含有することができる。
【0233】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態の活性調製物の水溶液が含まれる。さらに、有効成分の懸濁物は、適切な油性または水性の注射用懸濁物として調製されることができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルとしては、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが挙げられる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために、有効成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0234】
あるいは、有効成分は、好適なビヒクル(例えば、無菌の、パイロジェン不含水溶液)を使用前に用いて構成される粉末形態であることができる。
【0235】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合されることができる。
【0236】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物として、有効成分が、その意図された目的を達成するために有効な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、「治療有効量」は、処置されている対象の障害(例えば、インスリン関連疾患)の症状を予防、緩和あるいは改善するために効果的であるか、または、処置されている対象の生存を延ばすために効果的である、有効成分(miR−7をダウンレギュレーションする作用因)の量を意味する。
【0237】
治療有効量の決定は、特に本明細書中に与えられる詳細な開示に鑑みて、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0238】
本発明の方法において使用されるいかなる調製物についても、投与量または治療有効量は、インビトロおよび細胞培養アッセイから最初に推定されることができる。例えば、投与量は、所望の濃度または力価を達成するために動物モデルにおいて決定されることができ、そのような情報は、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定するために使用されることができる。
【0239】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、インビトロ、細胞培養物、または実験動物における標準的な薬学的手法によって決定されることができる。これらのインビトロ、細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量範囲を定めるために使用されることができる。投与量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化しうる。正確な配合、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択されることができる(例えば、Finglら、(1975)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1 p.1を参照のこと)。
【0240】
投薬量および投薬間隔を、生物学的効果を誘導または抑制するために十分である活性な成分の十分なレベル(これは最小有効濃度(MEC)と呼ばれる)を提供するために個々に調節することができる。MECはそれぞれの調製物について変化するが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は個々の特性および投与経路に依存する。検出アッセイを使用して、血漿中濃度を求めることができる。
【0241】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は、単回または複数回投与で行われることができ、この場合、処置期間は、数日から数週間まで、または治療が達成されるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0242】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている対象、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存するだろう。投与量および投与時期は、個体の変化する状態の注意深い連続した観察に応じて変わるであろう。
【0243】
本発明の作用因がヒトの処置に先立って試験され得る様々な動物モデルが存在することが理解されるであろう。例えば、I型糖尿病モデルには、イヌにおける膵切除、自然発症の齧歯類モデル(例えば、BBDPラットおよびNODマウス)が含まれる。II型糖尿病モデルおよび肥満動物モデルには、db/db(糖尿病)マウス、ズッカー糖尿病肥満(ZDF)ラット、スナネズミ(デブスナネズミ(Psammomys obesus))および肥満アカゲザルが含まれる。
【0244】
上記にかかわらず、本発明のエクスビボ処理されたベータ細胞または幹細胞あるいはmiR−7ダウンレギュレーション作用因は、その高まった濃度に伴う望まれない副作用を避けるように選択された量で投与される。
【0245】
本発明の組成物は、所望されるならば、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパックなど)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随し得る。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、容器に関連した通知によって適応させることがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであり得るか、または、承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用担体に配合された本発明の調製物を含む組成物もまた、上でさらに詳述されたように、示された状態を処置するために調製され、適切な容器に入れられ、かつ標識され得る。
【0246】
本発明の作用因は、製造品として好適に包装することができる医薬組成物として好適に配合することができる。そのような製造品は、インスリン関連疾患(例えば、糖尿病)を処置する際に使用されるラベル、医薬有効量のベータ細胞または幹細胞あるいはmiR−7ダウンレギュレーション作用因を包装する包装材を含む。
【0247】
本発明の作用因または組成物のそれぞれが、速効型インスリン[例えば、lispro(Humalog)またはaspart(NovoLog)]およびより長期間の持続型インスリン[例えば、Neutral Protamine Hagedorn(NPH)、Lente、glargine(Lantus)、detemirまたはultralente]を含むインスリン、および、血糖値を制御するための経口薬、例えば、スルホニルウレアまたはビグアニド[メトホルミン(Glucophage)](これらに限定されない)を含めて、他の知られている処置との併用で投与される場合があることが理解されるであろう。
【0248】
本発明の作用因または組成物は、後者の投与の前に、または、後者の投与と同時に、または、後者の投与の後で投与される場合がある。
【0249】
処置の効果を試験するために、対象は、理学的検査によって、同様にまた、この技術分野では知られているいずれかの方法を使用して、例えば、指先穿刺血中グルコース試験、空腹時血糖値試験、経口ブドウ糖負荷試験、グリコシル化ヘモグロビンまたはヘモグロビンA1c、および、肥満指数(BMI)等によって評価される場合がある。
【0250】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0251】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。
【0252】
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、それらに限定される(including and limited to)」ことを意味する。
【0253】
表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、さらなる成分、工程および/または部分が、主張される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物、方法または構造がさらなる成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。
【0254】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0255】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0256】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0257】
本明細書中で使用される用語「方法(method)」は、所与の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を示し、これには、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者に知られているそのような様式、手段、技術および手順、または、知られている様式、手段、技術および手順から、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者によって容易に開発されるそのような様式、手段、技術および手順が含まれるが、それらに限定されない。
【0258】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0259】
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0260】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0261】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技術は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら、(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻、Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、米国メリーランド州バルチモア(1989);Perbal「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、米国ニューヨーク(1988);Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク(1998);米国特許の第4666828号、同第4683202号、同第4801531号、同第5192659号および同第5272057号に記載される方法;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻、Cellis,J.E.編(1994);「Current Protocols in Immunology」I〜III巻、Coligan,J.E.編(1994);Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク(1994);MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク(1980);利用可能な免疫アッセイ法は、特許と科学文献に広範囲にわたって記載されており、例えば:米国特許の第3791932号、同第3839153号、同第3850752号、同第3850578号、同第3853987号、同第3867517号、同第3879262号、同第3901654号、同第3935074号、同第3984533号、同第3996345号、同第4034074号、同第4098876号、同第4879219号、同第5011771号および同第5281521号;「Oligonucleotide Synthesis」Gait,M.J.編(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney,R.I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.(1984)および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ(1990);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996);これらの文献の全ては、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。それらの文献に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。それらの文献に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0262】
一般的材料および実験手順
動物
マウスを、Weizmann科学研究所の施設内動物管理倫理委員会によって承認されたプロトコルに従って収容し、取り扱った。条件的なmiR−7トランスジェニックマウスを、以前に記載されたように作製した[Srinivas他(2001)、BMC Dev Biol(1)4]。簡単に記載すると、miR−7−1a遺伝子に隣接する500bpのフラグメントを、PGKプロモーターおよび転写STOPカセットの下流側で、かつ、IRES−EGFP−ポリアデニル化シグナルの上流側のRosa26遺伝子座の中にクローン化した。ROSA26遺伝子座への正しい相同的組換えを胚性幹細胞コロニー(129/SvEv)に対するサザンブロット分析によって確認した。209個のコロニーのスキャニングにより、29個の陽性コロニーを確認し、マウス系統を胚盤胞注入により得た(C57BL6/Jバックグランド)。Rosa−miR−7マウスをPdx1−Cre導入遺伝子と交え、交配してホモ接合性にした。本研究で使用された他のマウス系統は、Ngn3ヌルとして役立ったNgn3−CreER[Wang他、Dev.Biol.(2010)339:26〜37によって以前に記載されたもの]、および、Pax6ヌル対立遺伝子[St−Onge他、Nature(1997)387:406〜409によって以前に記載されたもの]であった。
【0263】
器官培養
E12.5のICRマウス胚の背側膵臓原基を、タングステン針を使用して、隣接する間充織から切除した。外植片を、10%のウシ胎児血清(GIBCO)、2mMのL−グルタミン、100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたM199培地で培養した。個々の外植片を、antagomir(Dharmacon)またはコレステロールコンジュゲート化miRNA模倣物(IDT)のどちらかを1μMで含有する培地とともに、35mmのペトリ皿カバー(NUNC)における30μlの逆さにした「懸滴」に置床した。オリゴの正確な配列が表1(下記)に示される。外植片をさらに、加湿インキュベーターにおいて、5%CO2、37℃で48時間まで成長させた。BrdU(3μg/ml)を、増殖の分析のために集める1時間前に培地に加えた。
【0264】
【0265】
膵臓の組織学的検査および定量化分析
パラフィン切片の免疫蛍光を、以前に記載されたように行った[Melkman−Zehavi他、EMBO J.、(2011)、30(5):835〜45]。外植片全体の染色を、以前に記載されたように行った[Kredo−Russo,S.およびHornstein,E.(2011)、Methods Mol Biol、732、89〜97]。使用した一次抗体は、ウサギ抗Pax6(1:300、Covanc)、モルモット抗インスリン(1:200、Dako)、ウサギ抗グルカゴン(1:200、Dako)であった。使用した二次抗体は、Cy2−Cy3コンジュゲート化またはCy5コンジュゲート化のロバ抗モルモットIgG、抗マウスIgGおよび抗ウサギIgG(1:200、Jackson ImmunoResearch)であった。核をDapi(1:10000、Molecular Probes)により染色した。2時間のDNaseI処理を含むホールマウントBrdU分析を、以前に記載されたように行った[Tkatchenko A.V.、Biotechniques、(2006)、40:29〜30、32]。
【0266】
蛍光共焦点画像を、器官全体を通して5μmの間隔での少なくとも6個〜8個の光学的断面で、1μmの光学深さを使用して、Zeiss LSM510顕微鏡によりとらえた。
【0267】
外植片の形態計測を、少なくとも3つの変異体および3つの野生型の一致した同腹子から得られる外植片全体の切片からの免疫染色面積の定量化によって行った。総組織面積および総ホルモン陽性面積を、「Niss−elements」ソフトウエア(Nikon)を使用して計算した[Garofano他(1998)、Diabetologia、41、1114〜1120]。
【0268】
E15.5での細胞数定量化のために、ホルモン陽性細胞を、膵臓原基全体を通して5番目の切片毎に手作業で計数した。データは多数の切片における切片あたりの平均細胞数であり、1つの遺伝子型につき4匹以上の個々の動物について分析された。E12.5の外植片の全体における総ホルモン陽性細胞の細胞数分析を、6つの積み重ねられたz−断面共焦点画像(これは外植片全体に及んだ)における細胞を計数することによって手作業で行った。
【0269】
miRNAおよびmRNAについての定量的PCR
総RNAの抽出を、miRNeasy Mini Kit(QIAGEN)によって行った。mRNAのcDNAの合成を、オリゴd(T)プライマー(Promega)およびSuperScriptII逆転写酵素(Invitrogen)を使用して行った。miRNAのcDNAの合成を、Taqman MicroRNA qPCR Assays(Applied Biosystems)を使用して行った。qPCR分析を、Kapa(商標)SYBR(登録商標)Green qPCRキット(Finnzymes)を使用して、LightCycler(登録商標)480 System(Roche)で行った。miRNAおよびmRNAのレベルを小型RNA(sno234およびU6)またはmRNA(GapdhおよびHprt)の発現に対してそれぞれ正規化した。プライマー配列が表1(上記)に記載される。
【0270】
miRNAのインサイチューハイブリダイゼーション
E15.5の膵臓のパラフィン切片を、以前に記載されたように[Pena他(2009)、Nat Methods(6)139〜141]、48℃(miR−7)または54℃(U6、コントロール)における一晩のDIG標識のLNAプローブ(Exiqon)とのハイブリダイゼーションに供し、以前に記載されたように[Silahtaroglu他(2007)、Nat Protoc(2)2520〜2528]、TSAキット(PerkinElmer)により発色させた。インサイチューハイブリダイゼーションが免疫蛍光と組み合わされたとき、一次抗体を抗Dig−PODとのインキュベーションに加えた(1:500、Roche)。
【0271】
細胞培養、ルシフェラーゼレポーターアッセイおよびウエスタンブロッティング
HEK−293T細胞(American Type Culture Collection)およびMIN6細胞を、加湿インキュベーターにおいて、37℃;5%CO2で、10%のFBS、2mMのL−グルタミン、100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で増殖させた。MIN6細胞での実験を18回〜28回の継代の間で行った。
【0272】
マウスPax6の3’UTR配列の742bpフラグメント(chr2 105536551〜105537201)をpsiCHECK−2ベクター(Promega)にサブローン化し、HEK−293T細胞にトランスフェクションした。二重レポータールシフェラーゼアッセイを製造者の説明書(Promega)に従って48時間後に行った。
【0273】
miR−7の過剰発現を、発現ベクターのmiRVec−miR−7またはmiRVecコントロールを使用して達成した。miR−7のノックダウンを、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を使用して、miR−7に対するオリゴ、または、陰性コントロールオリゴとしてのスクランブル化配列に対するオリゴ(50nM、Ambion)を使用して行った。
【0274】
ウエスタンブロットのために、細胞溶解物を10%SDS−PAGEに供し、ウサギ抗Pax6(1:5000、Chemicon)、マウス抗GAPDH(1:10000、Ambion)とともに免疫ブロットし、ImageJソフトウエアを用いて定量化した。
【0275】
インスリン転写の分析のために、ラットのインスリンプロモーターによって駆動されるホタルルシフェラーゼレポーターと、A20−ウミシイタケルシフェラーゼ構築物とを、リポフェクタミン2000試薬(Invitrogen)を使用してMIN6細胞にトランスフェクションした。抗miR−7オリゴ(100nM)およびPax6 siRNA(10nM)をIDTから得た。
【0276】
統計学的分析
分析を、JMPソフトエアによるスチューデントt検定または2元配置ANOVAのどちらかを使用して行った。結果が、平均±SEMとして提供された。帰無仮説を0.05の水準(**)または0.01()で棄却した。遺伝子オントロジー分析を、(Dennis他、Genome Biol.(2003)4、P3によって以前に記載されたように)DAVIDを使用して行った。
【0277】
実施例1
miR−7が膵臓の内分泌細胞において発現される
miR−7の空間的発現パターンを明らかにするために、本発明者らは、免疫蛍光タンパク質検出と組み合わされたインサイチューハイブリダイゼーションを、ジゴキシゲニン(DIG)標識されたLNAプローブを使用して、E12.5〜E15.5の膵臓切片に対して行った。「二次的移行」と呼ばれるこの時点で、多くの内分泌細胞が膵臓上皮内に生じる。明視野の分析により、miR−7の発現が、枝分かれする膵臓上皮の「幹」区域において、クラスター化した上皮細胞のサブセットに限定されることが明らかになった(図1A図1B)。どの細胞タイプがmiR−7を発現したかをより高解像度において特定するために、本発明者らは蛍光インサイチューハイブリダイゼーションを行った。この実験により、miR−7発現細胞のクラスターが明らかにされた(図1C)。ハイブリダイゼーションパターンはmiR−7に対して特異的であり、かつ、遍在的に発現される小型RNAのU6、または、スクランブル化されたmiRNA配列に対するプローブに関しては検出できなかった(図1D図1E)。内分泌タンパク質の免疫染色と組み合わされた蛍光インサイチューハイブリダイゼーションでは、分化途中のβ細胞およびα細胞におけるインスリンおよびグルカゴンとのmiR−7の共局在化がそれぞれ明らかにされた(E13.5〜E15.5;図1F図1H)。miR−7およびCpa1の発現ドメインが、E14.5においてmiR−7およびHnf1βが相互排他的であったように(図1L図1N)、E15.5において相互排他的であった(図1I図1K)。これらのデータは、miR−7が、分化した腺房細胞または管細胞において発現しなかったことを示している。miR−7の発現を内分泌前駆体細胞において調べるために、Ngn3の免疫染色を行った。E12.5、E13.5およびE14.5において、miR−7が多くのNgn3陽性細胞と共局在化した(図1O図1T)。このことは、miR−7が、新しく生じた内分泌細胞において誘導されたことを示唆する。この研究に対する独立した遺伝学的裏付けが、Ngn3ヌル膵臓の分析からもたらされた。Ngn3欠損の胚は内分泌ホルモン産生細胞を完全に欠いていることが以前に示された[Gradwohl G.他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、(2000)、97:1607〜1611]。このことと一致して、内分泌マーカー(例えば、Pax6およびインスリンなど)の発現がNgn3ヌル膵臓においてダウンレギュレーションされた(図1U)。miR−7の発現はまた、E14.5のNgn3ヌル膵臓において抑止されたので、本発明者らは、このmiRNAが内分泌系譜の中で特異的に発現されると結論した。そのうえ、この調節は、miR−17およびLet−7bの発現が変化しなかったので(図1U)、miR−7に対して特異的であった。注目すべきことに、miR−375(別の膵臓miRNA)もまた、Ngn3ヌル膵臓においてダウンレギュレーションされたが、miR−7とは異なり、いくらかの残存発現が維持された(図1U)。まとめると、今回の分析では、miR−7がNgn3+の前駆体において誘導され、分化した内分泌細胞において維持されるという、miR−7の内分泌特異的な発現パターンが明らかにされた。
【0278】
実施例2
Pax6はmiR−7の標的である
膵臓発生において役割を果たす潜在的なmiR−7標的を特定するために、先入観のない2つの生物情報学的取り組みを用いた。最初に、「遺伝子オントロジー」(GO)を、miR−7標的に関連づけられる用語において分析した[DAVID;Dennis G.他、Genome Biol.(2003)4、P3に以前に記載されたもの]。237個の予測されたmiR−7標的[Lewis他(2005)、Cell、120、15〜20に記載されるようなTargetScan]の中で、GO用語「転写の調節」が、最も著しく高まることが見出された[52個の遺伝子、P<2.35E−7)。興味深いことに、このリストの中で、Pax6が唯一の立証された膵臓転写因子であった(表2〜表4(下記)および図2Aを参照のこと)。そのうえ、Pax6のmRNAの3’非翻訳領域(3’UTR)におけるmiR−7についての結合部位は強力であり、かつ、保存されていることが予測される(図2B)。
【0279】
別途、相互作用マップを、Pdx1、Ngn3、Nkx2.2、Nkx6.1、MafB、Pax4、Pax6、Arx、Hnf1bおよびHnf6を含めて、膵臓発生を制御することが知られている転写因子の3’UTRとともにmiRNAから組み立てた(包括的リストについては、表2〜表4(下記)を参照のこと)。この取り組みは、可能性のある多数の相互作用をもたらしたが、Pax6がmiR−7の唯一の予測された標的であった。Pax6の発現は、多くの臓器において厳密に調節されることが知られているので、本発明者らは、miR−7がPax6の上流側の新しい内分泌調節遺伝子であるかもしれないと仮定した。
【0280】
【0281】
【0282】
注)表2は、膵臓発生に関与するタンパク質をコードするmRNAの、それらの3’UTRにおける保存されたmiRNA結合部位に関しての生物情報学的分析である。予測はTargetScansおよびPicTarに基づく。表3は、miR−7の保存された標的の遺伝子オントロジー(GO)分析である。表4は、GO用語「転写の調節」のもとで列挙される遺伝子を示す(とりわけ、Pax6である)。
【0283】
miR−7がPax6の3’UTRを直接に標的とするかどうかを明らかにするために、本発明者らは異種レポーターアッセイを行った。Pax6の3’UTR全体(742bp)を二重ルシフェラーゼレポーターベクターにクローン化し、miR−7のための発現ベクター(miRvec−7)またはmiRNAコントロールベクター(これは、標的とならないランダムなmiRNA様配列を有する:「Ctrl」)と一緒にHEK−293T細胞に導入した。miR−7の過剰発現はルシフェラーゼ活性を陰性コントロールに対して著しく低下させた(図2C、ピンク色の棒;62%に低下)。抗miRNAオリゴの添加はこの抑制を部分的に阻止した。このことは、予測されたmiR−7結合部位の機能性を裏付けている。さらに、本発明者らが、可能性のある「シード」結合部位の6ヌクレオチド(赤色で表される;図2B)が除かれた3’UTRの変異配列を導入したとき、miR−7依存的抑制が完全になくなった(図2C)。miR−7が内因性Pax6の発現を抑制するかどうかを明らかにするために、本発明者らはベータ細胞株(MIN6)をmiRvec−7によりトランスフェクションした。miR−7の過剰発現は、ウエスタンブロットによって測定された場合、PAX6タンパク質レベルをコントロールのmiRvecに対して60%に低下させた。一貫して、抗miR−7オリゴによるmiR−7の阻害はPAX6タンパク質レベルを著しくアップレギュレーションした(図2D図2G)。まとめると、これらの結果は、Pax6がベータ細胞におけるmiR−7の正真正銘の標的であることを示している。
【0284】
本発明者らは次に、miR−7およびその標的Pax6が内分泌分化の発生状況において共発現されるかを調べた。Pax6の免疫蛍光と組み合わされたmiR−7のインサイチューハイブリダイゼーションでは、miR−7およびPax6が実際に内分泌細胞において共発現し、これにより、直接的な分子相互作用を可能にしていることが明らかにされた(図2H図2J)。miR−7発現およびPax6発現の時間的動態を定量化するために、本発明者らは、qPCRを、E12.5〜E15.5の膵臓から抽出されるRNAに対して行った。miR−7のレベルは時間と共に増加し、E14.5で最大レベル達した。興味深いことに、本発明者らは、miR−7のアップレギュレーションがPax6のダウンレギュレーションに関連しているという、miR−7発現およびPax6発現の相反的な傾向を認めた(図2K)。したがって、miR−7に基づく転写減衰は、内分泌細胞の成熟化が生じる際にはPax6の発現レベルを徐々に阻害するために役立っているかもしれない。
【0285】
実施例3
miR−7は外植片培養において内分泌分化を制御する
内分泌系譜におけるmiR−7の機能的役割を明らかにするために、本発明者らは、膵臓の初代外植片系における機能獲得実験および機能喪失実験を行った(図3Aにおける概略図を参照のこと)。E12.5の膵芽を規定されたエクスビボ条件のもとで48時間培養し、これにより、[Kredo−Russo,S.およびHornstein,E.(2011)(上掲)によって以前に記載されたような]正常な発生のための信頼できるモデルを得た。本発明者らは、アルファ細胞およびベータ細胞の予想された分化を含めて、インビボ分化を再現した、Ngn3、インスリンおよびmiR−7の典型的な発現を検出した(図4A図4E)。
【0286】
miR−7の発現を器官培養物において操作するために、本発明者らは、miR−7に対するコレステロールコンジュゲート化2’−O−メチル(2’OMe)「antagomir」、または、miR−7「模倣」オリゴを使用した(これらは「miR−7KD」および「miR−7OE」とそれぞれ名づけられた)。「標的化しない」陰性コントロールとして、本発明者らは、膵臓で発現されない肝臓特異的miR−122に対するantagomir、および、miR−67模倣物(脊椎動物で発現されない線虫miRNA)を使用した(これらは「Ctrl−KD」または「Ctrl−OE」とそれぞれ名づけられた)。最初に、本発明者らは、Cy結合オリゴが外植片によって効率よく取り込まれることを確認した(図4F図4H)。次に、miR−7KDオリゴおよびmiR−7OEオリゴの機能性を、それらを、[Kefas他(2008)、Cancer Res(68)、3566〜3572によって以前に記載されたように]多数のmiR−7結合部位をその3’UTRに有するmiR−7ルシフェラーゼレポーターとともにHEK−293Tに共トランスフェクションすることによって確認した。レポータールシフェラーゼ活性がmiR−7の過剰発現によって強く抑制され、このことが、miR−7KDをmiR−7OEオリゴと一緒に共トランスフェクションすることによって逆転した(図4I)。その後、本発明者らは、膵臓の外植片におけるmiR−7−Pax6相互作用を研究するためにこの系を使用した。
【0287】
miR−7KDで処理された外植片において、Pax6のmRNAレベルがコントロールに対して2.5倍アップレギュレーションされ(図3B)、これに対して、miR−7OEで処理された外植片では、Pax6のmRNAレベルがコントロールに対して60%に抑制された(図3M)。加えて、免疫蛍光分析により、PAX6タンパク質レベルの低下が明らかにされた(図4S図4T)。これらの結果は、膵臓発生におけるmiR−7の下流側でのPax6レベルの機能的調節を示唆する。
【0288】
興味深いことに、miR−7KDに関して、インスリンおよびグルカゴンのmRNAレベルが増大した(インスリンでは22%、グルカゴンでは61%、図3C)。したがって、インスリンタンパク質含有量の増大が、コントロールに対して、miR−7KD外植片におけるELISA測定によって明らかにされた(図3D)。そのうえ、包括的な形態計測分析により、インスリン陽性面積およびインスリン陽性細胞数における20%の増大が明らかにされた。同様に、グルカゴン陽性面積およびグルカゴン陽性細胞数における40%の増大が、コントロールに対して、miR−7KD膵臓において見出された(図3E〜〜図3J図3Lおよび図8A図8J)。しかしながら、miR−7KDにおけるソマトスタチン発現はコントロールと同程度であった(図8A図8J)。インスリン陽性細胞およびグルカゴン陽性細胞の増大についての可能性のある原因を理解するために、内分泌細胞の増殖能を調べた。BrdU陽性核の総数ならびに増殖しているインスリン陽性細胞およびグルカゴン陽性細胞の割合は、Ki67またはBrdUのどちらかによって測定された場合、miR−7KD外植片およびコントロール外植片において同程度であった(図9A図9G)。加えて、Ngn3陽性始原体の数がmiR−7KDによって影響されなかった(図8K図8S)。このことは、インスリン陽性細胞およびグルカゴン陽性細胞の増大が、高まった増殖から生じるのでもなく、また、Ngn3前駆体プールのサイズにおける変化から生じるのでもないことを示唆している。
【0289】
Pax6は正の調節をインスリンおよびグルカゴンの発現において行うが、負の調節をグレリンの発現およびε−細胞の分化において行う。それにより、miR−7KDは、低下した数のグレリン陽性細胞を生じさせた(図3E図3J図3Lおよび図8A図8J)。このことは、miR−7のノックダウンがPax6の上流側で作用して、インスリン陽性細胞およびグルカゴン陽性細胞への分化を、グレリン陽性細胞を犠牲にして促進させるという見解を裏づけている。
【0290】
本発明者らは次に、ベータ細胞およびアルファ細胞の分化のために不可欠である一組の転写因子の発現レベルを定量化した。この分析では、アルファ細胞において特異的に発現されるArxのアップレギュレーション、ならびに、ベータ細胞因子のPax4およびMafBのアップレギュレーションがmiR−7KD外植片において明らかにされた。しかしながら、外分泌マーカーのCpa1およびPtf1aのレベルは変化していなかった(図3K)。一貫して、miR−7OEは、インスリンおよびMafBのmRNAレベルのダウンレギュレーション、すなわち、Pax6によって直接に制御される2つの遺伝子のダウンレギュレーションを生じさせ、また、低下したベータ細胞量を生じさせた(図3N図3R)。しかしながら、グルカゴンおよびArxのmRNAレベルは大きくは変化しなかった。まとめると、これらの発見により、miR−7は負の制御をホルモン産生細胞の分化および成熟化において行うことが明らかにされた。
【0291】
実施例4
miR−7のインビボでの過剰発現は内分泌遺伝子の発現を低下させた
miR−7のインビボでの過剰発現の結果を調べるために、本発明者らは条件的なmiR−7トランスジェニックマウス系統を作製した。miR−7a−1のゲノム配列を、Srinivas他(上掲)によって以前に記載されたように、遍在的に発現されるRosa26遺伝子座の中に相同的組換えによって挿入した(図5A図5B)。このノックインモデルでは、miR−7の発現が高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)の発現と共役しており、両者は、LoxP部位が隣接する「Neo−STOP」カセットによって条件的に阻止される。したがって、miR−7およびEGFPの発現が、Cre導入遺伝子を発現する組織でのみ誘導される。miR−7の誘導発現を検証するために、本発明者らはマウス胚性線維芽細胞(MEF)をRosa26−miR−7マウスから単離した。Creリコンビナーゼをアデノウイルスベクターによって導入したとき、miR−7の発現が特異的に2倍アップレギュレーションされ、これに対して、無関係なmiRNA(miR−199)のレベルは変化しないままであった(図5C)。
【0292】
miR−7の産生を膵臓系譜において初期に刺激するために、本発明者らはRosa26−miR−7対立遺伝子をPdx1−Cre導入遺伝子と交えた。Pdx1−Cre;Rosa26−miR−7マウスはGFPタンパク質をE13.5の膵臓細胞において特異的に発現し(図5D図5E)、一方、Pdx1−Cre導入遺伝子を有しなかった同腹子はGFPを発現しなかった(これは「Ctrl」とする)。
【0293】
本発明者らは次に、Pdx1−Cre;Rosa26−miR−7マウスの特徴づけをE15.5の膵臓のqPCRによって行った。成熟内分泌細胞マーカーのインスリンおよびグルカゴンの発現がダウンレギュレーションされた(インスリンでは72%に、グルカゴンでは68%に)。転写因子の発現の定量化は、Arxの低下(63%に低下した)、Pax4の低下(62%に低下した)、および、miR−7標的遺伝子Pax6の低下(49%に低下した)を示した(図5F)。注目すべきことに、Cpa1およびPtf1aのレベルは変化していなかった。このことは、外分泌系譜がPdx1−Cre;Rosa26−miR−7マウスにおいてmiR−7の異所性発現によって影響されなかったことを示している。E15.5の膵臓切片に対するインスリンおよびグルカゴンについての免疫染色により、内分泌マーカーの発現における低下が明らかにされた(図5G図5J)。したがって、miR−7がPdx1−Cre;Rosa26−miR−7の胚において過剰発現されたとき、Pax6のレベルが低下し、インスリンおよびグルカゴンの発現がダウンレギュレーションされた。これらは、miR−7によるPax6の制御についてのインビボ証拠を提供する。
【0294】
miR−7およびPax6の遺伝子相互作用を解明するために、インスリンプロモーターによって駆動されるルシフェラーゼレポーターを、以前に記載されたように使用した[Melkman−Zehavi他(2011)、上掲]。インスリンプロモーターはPax6によって直接に活性化されるので、インスリン発現に対するmiR−7−Pax6軸の影響をモニターするためのモデル系を提供する。Pax6に対するsiRNA(「siPax6」)、または、miR−7過剰発現ベクター(「miR−7OE」)のどちらかでMIN6細胞をトランスフェクションすることにより、インスリンプロモーター活性のダウンレギュレーションが、スクランブル化siRNAまたは空のmiRvecに対してそれぞれもたらされた(図5K)。これらの結果は、外植片(図3N)およびmiR−7トランスジェニックモデル(図5F)でのmiR−7OEによるインスリンのmRNA発現における観測された低下を裏づけている。miR−7OEと一緒でのsiPax6の組み合わされた影響により、インスリンプロモーターの活性が著しく抑制された(図5K)。そのうえ、MIN6細胞がmiR−7に対するノックダウンオリゴ(「miR−7KD」)によりトランスフェクションされた場合、インスリンプロモーター活性のアップレギュレーションが、スクランブル化オリゴ(「Ctrl KD」)に対してもたらされ、これは、miR−7KD処理された外植片におけるインスリンmRNAのアップレギュレーションと一致していた(図5L)。
【0295】
しかしながら、同時に阻害されたとき、siPax6はmiR−7KDの影響を逆転させた(このことは、Pax6がインスリン発現のmiR−7調節を媒介することを示唆する)(図5K図5L)。これらの結果は、インスリン発現の制御におけるPax6の上流側でのmiR−7の上位関係性を強調する。まとめると、miR−7が過剰発現されるとき、外植片での研究から得られるデータと一致して、Pax6のレベルが低下し、miR−7の発現がダウンレギュレーションされる。したがって、miR−7は負の調節をPax6および下流側の内分泌分化において行う。本発明者らは次に、miR−7標的のPax6における遺伝子操作の結果を検討した。
【0296】
実施例5
Pax6のハプロ不全はmiR−7過剰発現の表現型と類似する
Pax6のダウンレギュレーションの結果を独立した機構によって調べるために、本発明者らは、(「het」と名づけられた)Pax6ヘテロ接合膵臓を分析した。これらのマウスを、St−Ongeによって以前に記載されたように、開始コドンおよびペアードドメイン全体をベータ−ガラクトシダーゼ遺伝子によって置き換えることによって作製した[図6Aを参照のこと、St−Onge他(1997)、Nature、387:406〜409]。E15.5のPax6ヘテロ接合膵臓から抽出されたmRNAのqPCR分析は、Pax6のmRNAレベルにおける50%の減少を(「wt」と名づけられた)野生型同腹子コントロールに対して示した(図6B)。免疫染色および定量化は、細胞レベルでのタンパク質発現のダウンレギュレーションをさらに明らかにした(図6C図6E)。Pax6のホモ接合喪失はインスリン発現およびグルカゴン発現の完全な喪失を引き起こすが、本発明者らは、Pax6ヘテロ接合体の膵臓では、インスリンおよびグルカゴンのmRNAレベルがそれぞれ65%および30%低下したことを示す(図6F)。加えて、MafBのレベルがPax6ヘテロ接合ではわずかにダウンレギュレーションされ(20%の減少)、これに対して、Pdx1、Arx、Pax4およびPtf1aは、wtに対して変化していないままであった(図6G)。加えて、連続した共焦点定量化はベータ細胞数における22%の低下を明らかにし、一方、アルファ細胞数は変化していないままであった(図6H図6J)。これらのデータにより、MafB、インスリンおよびグルカゴンの発現はPax6レベルの影響を受けやすいことが明らかにされた。さらに、Pax6のハプロ不全は、miR−7の過剰発現を、とりわけ、インスリン発現細胞に対する優勢な影響を表現型模写した。本発明者らは次に、miR−7を、内分泌細胞を規定する転写ネットワークにマッピングした。
【0297】
実施例6
miR−7はPax6の上流側で機能し、Ngn3に依存している
miR−7およびPax6が相互に調節し合うかどうかを調べるために、本発明者らはmiR−7のレベルをqPCRによってE15.5のPax6ヌル膵臓において定量化した。miR−7の発現は、野生型同腹子コントロールに対して、Pax6ヘテロ接合膵臓またはホモ接合体ヌル膵臓では変化しなかった(図7A)。したがって、本発明者らは、miR−7がPax6によって制御されないと結論している。miR−7がどのようにしてPax6の上流側で活性化されるかを調べるために、本発明者らはmiR−7のレベルをE15.5のNgn3ヌル膵臓において定量化した。興味深いことに、miR−7の発現は、同腹子コントロールに対して、Ngn3ヌル膵臓では完全に抑止された(図1F)。この分析では、miR−7の発現がNgn3の存在に依存しており、これにより、miR−7の内分泌特異的な発現のための分子機構が提供されることが明らかにされた(図7B)。まとめると、示されたデータにより、miR−7はNgn3の下流側で作用して、Pax6の発現レベルを制限し、これにより、膵内分泌部の内分泌細胞成熟化および正確な発生を可能にすることが示唆される。
【0298】
まとめると、本発明者らは、Pax6のmRNAの3’UTRにおける保存された結合部位を介して、Pax6のレベルを膵内分泌部において制御し、精緻なものにする、miR−7に基づく機構を発見している。この機構は、正しいインスリン発現およびグルカゴン発現、ならびに、適切なベータ細胞分化およびアルファ細胞分化を可能にしている。本発明者らは、miR−7が内分泌系譜において特有に発現されること、および、その発現がE12.5〜E15.5のマウス在胎期間の間でアップレギュレーションされることを示した。興味深いことに、高い発現レベルにもかかわらず、miR−7は内分泌細胞の成熟化において阻害因子として働く。例えば、miR−7のノックダウンは内分泌マーカーのアップレギュレーションを引き起こした。逆に、miR−7の過剰発現は、内分泌遺伝子の発現、主にインスリンを抑制した。miR−7は最終分化の阻害剤として現れるが、より可能性があることとして、miR−7はPax6のレベルを時間的様式で制御し、これにより、より高レベルの転写因子を最初に可能にし、後ではその発現を抑制する(図10におけるモデルを参照のこと)。本発明者らは、miR−7の発現がNgn3に依存していることをさらに明らかにしている。
【0299】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0300】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
図1A-1E】
図1F-1N.1V.1W】
図1O-1T.1X.1Y】
図1U
図2A
図2B-2G】
図2H-2K】
図3A-3D】
図3E-3J】
図3K-3L】
図3M-3O】
図3P-3T】
図4A-4E】
図4F-4I】
図5A-5C】
図5D-5F】
図5G-5J】
図5K-5L】
図6A-6E】
図6F-6J】
図7A-7C】
図8A-8J】
図8K-8S】
図9A-9G】
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]