特許第6063664号(P6063664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063664
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】耐火二層管およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 9/14 20060101AFI20170106BHJP
   F16L 58/06 20060101ALI20170106BHJP
   F16L 55/02 20060101ALN20170106BHJP
【FI】
   F16L9/14
   F16L58/06
   !F16L55/02
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-165521(P2012-165521)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-25521(P2014-25521A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000187194
【氏名又は名称】昭和電工建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 久義
(72)【発明者】
【氏名】関口 尊文
(72)【発明者】
【氏名】田沢 政博
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−167244(JP,A)
【文献】 特開昭55−112472(JP,A)
【文献】 特開2012−031961(JP,A)
【文献】 特開昭56−121725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/14
F16L 58/06
F16L 55/02
F16L 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管体と、前記管体の外周に設けられた多孔質シートとを備えた管状複合部材を準備する工程と、
前記管状複合部材における前記多孔質シートにその外側から耐火性材料を含浸させて耐火層を形成する工程と、
前記多孔質シートに耐火性材料を含浸させる前に、または前記多孔質シートに含浸させた耐火性材料が硬化する前に、前記管状多孔質部材の外側に、伸縮性を有する筒状メッシュシートを密着状態に被せる工程と、
前記筒状メッシュシートの外側に残存する余剰の耐火性材料を除去する工程とを含み、
余剰の耐火性材料を除去する工程において、前記筒状メッシュシートの外周面が外側に露出した状態となるように余剰の耐火性材料を除去するようにしたことを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【請求項2】
余剰の耐火性材料を除去する工程は、スクレーパーを用いて、余剰の耐火性材料を掻き取って除去するものである請求項1に記載の耐火二層管の製造方法。
【請求項3】
前記管状複合部材の管体として、耐火二層管の構成部材である内管を用いるようにした請求項1または2に記載の耐火二層管の製造方法。
【請求項4】
前記管状複合部材の管体として、耐火二層管の製造過程における支持部材である芯管を用いるものとし、
余剰の耐火性材料を除去する工程を行った後、前記管状複合部材から前記芯管を抜き取って被覆管を得、その被覆管を、耐火二層管の構成部材である内管に外嵌するようにした請求項1または2に記載の耐火二層管の製造方法。
【請求項5】
内管と、
前記内管の外周に設けられた多孔質シートと、
前記多孔質シートの外側に密着状態に被せられ、かつ伸縮性を有する筒状メッシュシートと、
前記多孔質シートおよび前記筒状メッシュシートに耐火性材料が含浸されて形成された耐火層とを備え、
外周面上に、前記筒状メッシュシートの外周面が露出した状態に配置されていることを特徴とする耐火二層管。
【請求項6】
外周面上に、筋状の掻き取り痕が設けられている請求項に記載の耐火二層管。
【請求項7】
前記掻き取り痕が、螺旋状に設けられている請求項に記載の耐火二層管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集合住宅等の建築物において排水用や換気用の配管として用いられる耐火二層管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅やオフィスビル等の多人数が生活する建築物においては、排水用や換気用の配管等として、合成樹脂製、鋼製、鋳鉄製等の内管の外周面をモルタル等の耐火性材料で被覆した耐火二層管が使用されている。耐火二層管は、火災発生時に配管を通じて隣接区間への延焼を防止することを目的として、建築基準法や消防法に基づく基準や行政指導によって構造や耐火性能が定められている。
【0003】
かかる耐火二層管においては、耐火性はもとより防音性、断熱性の向上を図るために被覆層の材料や形成方法が改良されている。
【0004】
例えば特許文献1に示す耐火二層管は、合成樹脂製の内管と、その内管の外周面に設けられ、かつ不織布によって構成される不織布層とを備え、不織布層の外側部分にモルタル等の耐火性材料が含浸されている。そして不織布層のうち、モルタルが含浸された外側部分が遮音・耐火層として構成され、モルタルが含浸されない内側部分が吸音層として構成されている。
【0005】
このような耐火二層管を製造する場合、内管等に不織布を巻き付けて不織布層を形成した後、その不織布層の外側部分にのみモルタルを含浸させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−21617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に示す従来の耐火二層管においては、不織布層のうち、モルタルが含浸された耐火層が高重量であるため、その耐火層が自重によって下方に垂れ下がるように変形してしまい、耐火層の真円度が低下してしまうという課題があった。さらにこの耐火二層管においては、モルタルの接着強度を十分に確保することが困難であり、耐火層のうち、外周部の耐火層部分が層間剥離によって脱落するという不具合もあった。
【0008】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、耐火層の真円度が高く、かつ耐火層が剥離したり脱落したりするのを防止することができる耐火二層管およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0010】
[1]管体と、前記管体の外周に設けられた多孔質シートとを備えた管状複合部材を準備する工程と、
前記管状複合部材における前記多孔質シートにその外側から耐火性材料を含浸させて耐火層を形成する工程と、
前記多孔質シートに耐火性材料を含浸させる前に、または前記多孔質シートに含浸させた耐火性材料が硬化する前に、前記管状多孔質部材の外側に、伸縮性を有する筒状メッシュシートを密着状態に被せる工程と、
前記筒状メッシュシートの外側に残存する余剰の耐火性材料を除去する工程とを含むことを特徴とする耐火二層管の製造方法。
【0011】
[2]余剰の耐火性材料を除去する工程は、スクレーパーを用いて、余剰の耐火性材料を掻き取って除去するものである前項1に記載の耐火二層管の製造方法。
【0012】
[3]余剰の耐火性材料を除去する工程において、前記筒状メッシュシートの外周面が外側に露出した状態となるように余剰の耐火性材料を除去するようにした前項1または2に記載の耐火二層管の製造方法。
【0013】
[4]前記管状複合部材の管体として、耐火二層管の構成部材である内管を用いるようにした前項1〜3のいずれか1項に記載の耐火二層管の製造方法。
【0014】
[5]前記管状複合部材の管体として、耐火二層管の製造過程における支持部材である芯管を用いるものとし、
余剰の耐火性材料を除去する工程を行った後、前記管状複合部材から前記芯管を抜き取って被覆管を得、その被覆管を、耐火二層管の構成部材である内管に外嵌するようにした前項1〜3のいずれか1項に記載の耐火二層管の製造方法。
【0015】
[6]内管と、
前記内管の外周に設けられた多孔質シートと、
前記多孔質シートの外側に密着状態に被せられ、かつ伸縮性を有する筒状メッシュシートと、
前記多孔質シートおよび前記筒状メッシュシートに耐火性材料が含浸されて形成された耐火層とを備え、
外周面に、余剰の耐火性材料が除去されることにって形成された筋状の除去痕が設けられていることを特徴とする耐火二層管。
【0016】
[7]前記除去痕は、余剰の耐火性材料が掻き取られることによって形成された掻き取り痕である前項6に記載の耐火二層管。
【0017】
[8]前記掻除去痕が、螺旋状に設けられている前項7に記載の耐火二層管。
【発明の効果】
【0018】
発明[1]の耐火二層管の製造方法によれば、筒状メッシュシートによって耐火層が外側から拘束されるため、耐火層の真円度が高く、かつ耐火層の剥離や脱落を防止できる耐火二層管を提供することができる。特に本製造方法は、メッシュシート外側に残存する余剰の耐火性材料を除去するものであるため、メッシュシート外側に、容易に剥離、脱落してしまうような耐火層が残存形成されるのを防止でき、より確実に耐火層の剥離や脱落を防止できる耐火二層管を提供することができる。
【0019】
発明[2]〜[5]の耐火二層管の製造方法によれば、上記の効果をより一層確実に得ることができる。
【0020】
発明[6]〜[8]の耐火二層管によれば、耐火層の真円度が高く、耐火層の剥離や脱落を防止でき、品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はこの発明の実施形態である耐火二層管を示す外観斜視図である。
図2図2は実施形態の耐火二層管をその一部を切り欠いて示す斜視図である。
図3図3は実施形態の耐火二層管を示す断面図である。
図4図4は実施形態の耐火二層管を製造する際における耐火性材料の含浸工程を説明するための概略斜視図である。
図5図5は実施形態の耐火二層管における耐火層周辺を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1,2はこの発明の実施形態である耐火二層管1を示す斜視図、図3は実施形態の耐火二層管1を示す断面図である。
【0023】
これらの図に示すようにこの耐火二層管1は、内管2と、内管2の外周面に積層された被覆管3と、被覆管3の外周面に被せられた筒状メッシュシート5とを備えている。被覆管3は、内周側に配置される吸音層31と、外周側に配置される耐火層32との2つの層を備えている。そして、耐火層32は、耐火性材料が含浸された耐火層用多孔質シート42によって構成されている。さらに吸音層31は、耐火性材料が含浸されない(耐火性材料が非含浸の)吸音層用多孔質シート41によって構成されている。なお後に詳述するが、本実施形態の耐火二層管1においては、図1に示すように、外周面に、余剰の耐火性材料が掻き取られることによる螺旋状の掻き取り痕70が形成されている。
【0024】
本実施形態の耐火二層管1において、内管2は、合成樹脂製管、鋼管、鋳鉄管等、任意の材質のものを使用することができる。合成樹脂製管としては、硬質ポリ塩化ビニル管(PVC管)、ポリエチレンテレフタレート管(PET管)、ポリプロピレン管(PP管)等の熱可塑性樹脂製管を好適なものとして例示することができる。なお、本発明においては、内管2の寸法や、管形状が限定されるものではなく、例えば直管形状、曲がり管形状、分岐管形状のもの等も使用することができる。
【0025】
被覆管3の外周側に配置される耐火層用多孔質シート42は、耐火性材料を含浸させた際にその耐火性材料を保持する基材となり、耐火性材料を養生させた後は耐火層32の補強材として機能するものであるから、十分な耐火性材料を含浸させるために、多数の気孔が立体的(三次元的)に存在して所要の厚みを有していることが求められる。具体的には、繊維を結合または絡ませて形成した不織布(フェルトを含む)、連続気泡フォームを推奨できる。なお本発明において、多孔質シート42としては、所要の厚みを有し耐火性材料を保持しうるものであれば織物や編み物も使用できる。
【0026】
不織布は、繊維がランダムに配向しているため、耐火性材料をムラなく均一に含浸させることができ、引っ張りや曲げに対する強度が三次元的に均等であるため、耐衝撃性に優れ、割れにくい耐火層32を形成することができる。不織布の材料となる繊維の材質は、有機系、無機系のいずれであっても良い。有機系繊維としては、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート系(PET系ポリエステル)、ポリアミド(6−ナイロン、6,6ナイロン等)、アクリル系、ポリビニルアルコール系(ビニロン等)、ポリオレフィン系、木綿、羊毛等を例示できる。無機系繊維としては、ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維を例示できる。これらのうち、耐火性向上の観点からは無機系繊維が好ましいが、価格、取り扱いの容易性の観点からはポリエステルやポリプロピレン等の合成繊維製の不織布を用いることが好ましい。耐火層32の耐火性能は不織布に含浸させた耐火性材料によって十分に得られるので、合成繊維製不織布を用いても何ら不都合はない。
【0027】
不織布はそのままの状態で使用することもできるが、不織布を圧縮したフェルト、ニードルパンチした不織布またはフェルトを用いるが好ましい。不織布は、圧縮したり、ニードルパンチすることによって保形性が高まるので、耐火性材料含浸後の保形性も高まり、ひいては耐火二層管1の真円度を高めることができる。
【0028】
連続気泡フォームとしては、発泡ウレタンフォーム等を例示でき、不織布と同様に気泡内に耐火性材料を含浸させることによって高強度の耐火層32を形成することができる。
【0029】
上記の耐火層用多孔質シート42のなかでも、補強効果が最も優れているのは不織布である。
【0030】
一方、被覆管3における内側の吸音層31を構成する吸音層用多孔質シート41としては、その素材が、耐火層32を構成する上記耐火層用多孔質シート42と同種のものを、好適に用いることができる。
【0031】
本実施形態において、被覆管3の厚さ(耐火層32の厚さと吸音層31の厚さとの合計)は、求められる耐火性能に応じて調整される。通常、この厚さの合計は、3〜30mmが好ましい。
【0032】
本実施形態においては、耐火層用多孔質シート42の密度を、吸音層用多孔質シート41の密度よりも低く設定するのが好ましい。すなわち、耐火層用多孔質シート42は、耐火性材料を含浸させて耐火層32を形成するものであるため、耐火性材料を含浸させたい耐火層用多孔質シート42を、密度の低い不織布等の低密度層によって構成し、耐火性材料を含浸させたくない吸音層用多孔質シート41を、密度の高い不織布等の高密度層によって構成する。低密度層は高密度層に比べて耐火性材料が含浸し易いため、低密度の耐火層用多孔質シート42のみに、耐火性材料を確実に含浸させることができる。このように低密度層および高密度層の多孔質シート41,42を用いることによって、耐火性材料の含浸度合を正確に制御することができ、所望の部分に的確に耐火層32および吸音層31を形成することができる。
【0033】
本実施形態において、内管2に多孔質シート41,42を巻き付けて形成した管状複合部材10の外周面に、伸縮性を有する筒状メッシュシート5を被せて耐火層用多孔質シート42に密着させる。メッシュシート5は伸縮性を有する筒状であるから、伸ばして拡径すれば簡単に耐火層用多孔質シート42に被せることができ、拡径力を取り除けば自ずと縮まって耐火層用多孔質シート42に密着する。また、よじれたり重畳することがないので、周方向において均等な圧力で耐火層用多孔質シート42に密着させることができ、ひいては耐火二層管1の真円度を高めることができる。
【0034】
筒状メッシュシート5は耐火層32を外側から拘束して保形性を補助するものである。このメッシュシート5は、網目状であるから通気性を有することはもとより、湿式の耐火性材料を通す網目サイズであり、かつ伸縮性を有し耐火層用多孔質シート42に被せたときに密着することが条件となる。従って、筒状メッシュシート5は通常時の内径が、被覆管3の外径、つまり巻き付けられた耐火層用多孔質シート42の外径よりも小さいことも条件となる。網目サイズは、耐火性材料含浸工程において耐火性材料の通過を妨げず、かつ耐火層32に対して十分な拘束力が得られる大きさであることが好ましく、1〜10mmの範囲を推奨できる。網目サイズが上記の範囲であれば、養生工程において硬化を妨げないことは言うまでもない。特に好ましい網目サイズは1〜5mmである。
【0035】
筒状メッシュシート5は伸縮性が得られるものであれば、その材質や構造は限定されない。例えば、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート系(PET系ポリエステル)、ポリアミド(6−ナイロン、6,6ナイロン等)、アクリル系、ポリビニルアルコール系(ビニロン等)、ポリオレフィン系の合成樹脂またはゴムからなる伸縮性材料により成形されたもの、あるいは木綿や羊毛等の非伸縮性繊維に上記の伸縮性材料を編み込んだものであっても良い。また、材料自身に伸縮性を有するもの他、押出成形によって合成樹脂フィラメントを交差させて交点を接合することにより半径方向の伸縮性を持たせた網状体であっても良い。筒状メッシュシ−ト5は半径方向から耐火層32を拘束するものであるから、管の軸心方向(長さ方向)の伸縮は必要としないので上述した網状体を好適に用いることができる。この網状体の材料として、高密度または低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を例示でき、押出成形によって成形した網状体は目崩れがなく、交点のずれや剥がれがないので、湿式の耐火性材料に接触しても劣化しない。
【0036】
本実施形態において、耐火層32は、筒状メッシュシート5を被せた状態の耐火層用多孔質シート42に耐火性材料を含浸させることによって形成するものである。
【0037】
耐火性材料の含浸方法として、例えば吹き付けによる方法を好適例として挙げることができる。すなわち内管2に多孔質シート41,42を巻き付けた管状複合部材10に、筒状メッシュシート5を被せた後、そのメッシュシート付きの管状複合部材10に、外側から耐火性材料を吹き付けて、筒状メッシュシート5を介して耐火層用多孔質シート42に耐火性材料を含浸させる方法を好適に採用することができる。
【0038】
具体的には図4に示すように、メッシュシート付きの管状複合部材10を、軸心回りに回転駆動する一方、耐火性材料噴射装置の噴射ノズル6からモルタル等の耐火性材料33を管状複合部材10の外周面に吹き付けつつ、噴射ノズル6を管状複合部材10の軸心方向に沿って移動させる。これにより、管状複合部材10の外周面全域に均等に耐火性材料33が吹き付けられて、その耐火性材料33が筒状メッシュシート5を介して耐火層用多孔質シート42に含浸されて、耐火層32が形成される。
【0039】
本実施形態においては、耐火性材料33の含浸方法は特に限定されず、上記の吹き付けによる方法以外にも、塗布、注入、浸漬等の方法を用いることができる。いずれの含浸方法を用いても、耐火層用多孔質シート42の全周にわたって均一に含浸させることができる。従って、全周にわたって均一な厚さの耐火層32を形成でき、かつ真円度が高い高品質の耐火層32を形成することができる。
【0040】
耐火性材料33としては、モルタル、特に、硬化後の強度や密度、耐火性等の観点からセメント系モルタルを採用するのが好ましい。セメント系モルタルに用いられるセメントとしては、例えば普通、早強、中庸熱および超早強の各種ポルトランドセメント、またはこれらのポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグを混合した高炉セメントを例示することができる。またこれらに適宜骨材や各種添加剤を混合することもできる。これらの固体材料に水を混合し、湿式材料として、耐火層用多孔質シート42に含浸させる。湿式状態の耐火性材料の粘度は固体材料と水との混合比によって調整し、多孔質シート41,42の材質、面密度、厚さ、浸透速度、硬化時間等に応じて適宜設定する。なお、一般的には強度向上を目的としてセメントに繊維を混合した繊維モルタルが使用されるが、本発明の耐火層32は、耐火層用多孔質シート42が補強材として機能するため、繊維を混合する必要はない。繊維モルタルは耐火層用多孔質シート42への浸透を妨げることがあるので、むしろ繊維を混合しないことが好ましい。
【0041】
耐火層32は、耐火性材料中に耐火層用多孔質シート42を構成する繊維や樹脂を均一に含んでおり、繊維や樹脂が補強材として機能する。このため、耐火層32は強度が高く、耐衝撃性に優れ、割れにくいという特性を有している。
【0042】
耐火層32の厚みは、被覆管3の厚み(吸音層31および耐火層32の総厚み)、使用目的、施工場所等に応じて、適宜設定すれば良い。耐火層32は、厚いほど耐火性が向上するが、重量の問題もあり、少なくとも3mm以上、好ましくは5mm〜10mm程度に設定するのが良い。耐火層32を厚くし過ぎると、耐火二層管1全体の重量が増加してしまい、輸送や施工が困難になるおそれがある。
【0043】
なお、吸音層31は、耐火性材料が含浸されていない吸音層用多孔質シート41によって構成されるものである。この吸音層31は、良好な吸音性を確保するため、厚みを少なくとも1mm以上、好ましくは3mm〜15mm程度に設定するのが良い。
【0044】
本実施形態においては、モルタル等の耐火性材料33を耐火層用多孔質シート42に含浸させた後、耐火性材料33が養生硬化する前に、筒状メッシュシート5の外側に残存する余剰の耐火性材料を掻き取るものである。
【0045】
余剰の耐火性材料の掻き取り方法としては、例えば耐火性材料33の含浸処理と並行してスクレーパーで掻き取る方法を好適例として挙げることができる。すなわち図4に示すように、耐火性材料33を既述したように吹き付けにより耐火層用多孔質シート42に含浸させる一方で、噴射ノズル6の後方(噴射ノズル6の移動方向に対し上流側)に配置された平板形状のスクレーパー7の先端を、耐火性材料33が吹き付けられた耐火層32の外面に、メッシュシート5を介して押し当てる。その状態で、スクレーパー7を、噴射ノズル6に追従させるように管状複合部材10の軸心方向に沿って、噴射ノズル6と同速度で移動させる。これにより、管状複合部材10の外周面全域において、噴射ノズル6から吹き付けられた耐火性材料33のうち、メッシュシート5の外側に残存する余剰の耐火性材料が、スクレーパー7によって掻き取られ、本実施形態の耐火二層管1が得られるものである。
【0046】
図1に示すようにこの耐火二層管1の外周面には、余剰の耐火性材料がスクレーパー7によって掻き取られることにより、除去痕である掻き取り痕70が形成されている。この掻き取り痕70は、耐火二層管1の外周面において螺旋状に形成されている。さらに図5に示すように余剰の耐火性材料が掻き取られた耐火二層管1は、その筒状メッシュシート5の外周面が、耐火二層管1のほぼ外周面上に配置されて、耐火性材料33によって被覆されることなく外部に露出した状態となっている。
【0047】
本実施形態においては、余剰の耐火性材料を掻き取る際に用いられるスクレーパー7は、上記のものに限定されることはない。例えば、上記のような平板状のスクレーパー7以外に、管状複合部材10(耐火二層管1)に外嵌するように配置されるリング状のスクレーパーを用いるようにしても良い。さらに余剰の耐火性材料を、スクレーパー以外の除去手段を使用して除去するようにしても良い。例えばエアースリッターにより余剰の耐火性材料を吹き飛ばしたり、ブラシにより余剰の耐火性材料を払い落としたり、布状部材により余剰の耐火性材料を払拭したりして、余剰の耐火性材料を除去するようにしても良い。エアースリッターで余剰の耐火性材料を除去した場合、スクレーパー7と同様な筋状の除去痕が残存形成されるとともに、ブラシや布状部材によって除去した場合には、細かい多数の筋状の除去痕が残存形成されることになる。いずれにしても、余剰の耐火性材料を除去した際には、耐火二層管1の外周面に筋状の除去痕が形成されることになる。
【0048】
本実施形態の耐火二層管1は、例えばマンションの排水管として使用する。この場合、内部を流れる水によって発生する音(水流音)は、吸音層31で吸音されるとともに、吸音層31を透過した水流音は、耐火層32で遮音反射される。従って水流音が管外に漏れることはない。さらに吸音層31の外周面に設けられた耐火層32によって所定の耐火性能を確実に得ることができる。
【0049】
本実施形態の耐火二層管1によれば、耐火層32が筒状メッシュシート5の収縮力によって半径方向に拘束されているため、耐火層32の真円度が高く、品質を向上させることができる。
【0050】
さらに耐火二層管1の最外層はメッシュシート5であり、耐火層32はメッシュシート5によって保護されているため、耐火層32の剥離や脱落を防止することができる。
【0051】
特に本実施形態においては、メッシュシート5の外側に残存される余剰の耐火性材料を掻き取るものであるため、より一層確実に、耐火層32の剥離や脱落を防止することができる。すなわちメッシュシート5の外側に余剰の耐火性材料が残存して、その耐火性材料が硬化して耐火層の一部となった場合、耐火層がメッシュシート5の外側に形成されることになる。この場合、些細な衝撃によって、メッシュシート5の位置で、耐火層が剥離してメッシュシート外側の耐火層が脱落してしまう。
【0052】
そこで本実施形態においては、メッシュシート外側の耐火性材料を掻き取って除去するものであるため、メッシュシート外側に耐火層が形成されるのを防止することができる。このように容易に剥離して脱落してしまうような耐火層が形成されないため、耐火層32の剥離や脱落をより一層確実に防止することができる。
【0053】
その上さらに、本実施形態においては、余剰の耐火性材料を掻き取ることによって耐火層32を成形できるため、耐火層32の真円度をより一層高めることができる。
【0054】
また本実施形態の耐火二層管1においては、メッシュシート5が緩衝材となって輸送時や配管施工時の破損を防ぐ効果も有している。
【0055】
本実施形態において、耐火二層管1は、例えば以下の方法によって製造することができる。
【0056】
まず内管2の外周面に吸音層用多孔質シート41を巻き付けた後、その吸音層用多孔質シート41の外周面に、耐火性材料が未含浸の耐火層用多孔質シート42を巻き付ける。こうして内管2の外周面に多孔質シート41,42が設けられた管状複合部材10を製作する。なお本実施形態においては、管状複合部材10における内管2が管体を構成するものである。
【0057】
次にこの管状複合部材10に外周面に筒状メッシュシート5を被せて、耐火層用多孔質シート42の外周部に食い込ませるように密着させる。
【0058】
次に図4等に示すように、メッシュシート付きの管状複合部材10における耐火層用多孔質シート42にメッシュシート5の外側から耐火性材料33を含浸させる一方、メッシュシート5の外側に残存される余剰の耐火性材料33をスクレーパー7等によって掻き取って除去する。
【0059】
これにより本実施形態の耐火二層管1を作製することができる。
【0060】
なお、本発明においては、以下に説明するように、被覆管4を製作した後、その被覆管4を内管2に外嵌するようにしていも良い。
【0061】
すなわちこの製造方法では、製造過程において耐火二層管1の中間製品を支持する支持部材としての芯管が用いられる。この芯管は、耐火二層管1の構成部材である内管2に対応するもので、外径が内管2の外径と等しくなっている。
【0062】
この芯管の外周面に吸音層用多孔質シート41および耐火層用多孔質シート42を順次巻き付ける。こうして、芯管の外周面に、多孔質シート41,42が設けられた管状複合部材10を製作する。なおこの変形例では、管状複合部材10における芯管が管体を構成するものである。
【0063】
次にこの管状複合部材10の外周に筒状メッシュシート5を被せて、耐火層用多孔質シート42の外周部に食い込ませるように密着させる。
【0064】
次に、メッシュシート付きの管状複合部材10における耐火層用多孔質シート42にメッシュシート5の外側から耐火性材料33を含浸させる一方、メッシュシート5の外側に残存される余剰の耐火性材料33をスクレーパー7等によって掻き取って除去する(図4等参照)。
【0065】
その後、耐火性材料33を含浸させた管状被覆部材10から芯管を抜き取って、被覆管3を得る。そしてこの被覆管3を内管2に外嵌するこにより、本実施形態の耐火二層管1を作製することができる。
【0066】
なお本発明においては、管状複合部材10から芯管から抜き取って内管2に外嵌した後に、耐火性材料を含浸させるようにしても良い。
【0067】
また上記実施形態や変形例においては、耐火性材料33を耐火層用多孔質シート42に含浸させる前に、筒状メッシュシート5を被せるようにしているが、それだけに限られず、本発明においては、耐火性材料33を耐火層用多孔質シート42に含浸させた後、耐火性材料33が養生硬化する前に、筒状メッシュシート5を被せるようにしても良い。この場合においても、筒状メッシュシート5が自身の弾性収縮力によって、未硬化の耐火性材料33が含浸された耐火層用多孔質シート42に食い込んでいき、メッシュシート5が耐火層用多孔質シート42に密着した状態となる。
【0068】
もっとも、管状複合部材10の外周に未硬化の耐火性材料33が塗工されている状態で、その外周に筒状メッシュシート5を被せる場合、メッシュシート5の被着作業をスムーズに行えない場合があるため、本発明においては、管状複合部材10に耐火性材料33を塗工(含浸)させる前に、メッシュシート5の被着作業を行うのが好ましい。
【0069】
また、上記実施形態においては、吸音層用多孔質シート41と、耐火層用多孔質シート42とを物理的に繋がっていない別部材によって構成しているが、それだけに限られず、本発明においては、吸音層用多孔質シート41と、耐火層用多孔質シート42とを同一の(一枚の)多孔質シートによって構成することもできる。すなわち、内管2の外周に、厚みのある多孔質シートを巻回し、その多孔質シートの外周側半分の領域にのみ耐火性材料を含浸させる。そして、厚みのある多孔質シートのうち耐火性材料が含浸された外周部分を耐火層として構成するとともに、耐火性材料が含浸されない内周部分を吸音層として構成することもできる。
【0070】
さらに上記実施形態においては、被覆管3に、吸音層31と、耐火層32との2つの層を形成する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明は、被覆管3に耐火層32だけを形成した耐火二層管にも適用することができる。例えば、内管2の外周に、被覆管3としての不織布層を形成し、その不織布層の厚さ方向全域に、モルタル等の耐火性材料を含浸して耐火層を形成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
この発明の耐火二層管は、集合住宅等の建造物における排水管や換気管として用いることができる。
【符号の説明】
【0072】
1:耐火二層管
10:管状複合部材
2:内管(管体)
3:被覆管
32:耐火層
33:耐火性材料
42:耐火層用多孔質シート
5:筒状メッシュシート
7:スクレーパー
70:掻き取り痕(除去痕)
図1
図2
図3
図4
図5