(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動粘弾性測定器を用いて25℃、1Pa、0.1〜100rad/sの周波数で正弦振動させたときの貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’の比tanδが0.2〜1.0の範囲である請求項1又は2に記載の金属ペースト。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子は、例えば導電剤、帯電防止剤、電磁波遮蔽剤、赤外線遮蔽剤、発色剤、着色剤、抗菌剤、触媒等の種々の用途に用いられている。具体的には、金属微粒子の高い導電性を活用して、電子部品の電極、回路配線等を形成する技術が提案されている。また、液晶ディスプレイ等の透明性部材の電磁波遮蔽や自動車や建築物のガラスの赤外線遮蔽に適用されている。更に、金属微粒子の金属光沢を活用した着色剤としても注目されている。
具体的には、金属微粒子をフィルム又は基板上に塗布又は印刷、硬化することにより導電性を与え、回路を形成したり、電子部品の端子やリード線の接着を行ったり、ビアホールを充填したり、電子装置を電磁波障害(EMI)から保護することに利用できる。例えば、PETフィルムなどに金属ペーストを印刷したメンブレン回路は低コストで軽量であり、キーボード、透明タッチパネル、スイッチ、EL発光体、面状発熱体などに広く使用されている。更に、印刷技術を利用して電子回路、デバイス等を形成するプリンテッドエレクトロニクスが、低コスト化、生産性向上、更には省資源など環境調和性にも期待されており、そのフレキシブル配線技術に金属微粒子が利用されつつある。
【0003】
金属微粒子を種々の用途に用いるには、金属微粒子を溶媒に分散し、必要に応じてバインダや分散剤、粘度調整剤などの添加剤を更に配合したコーティング剤、塗料、ペースト、インキなどの組成物として、それらをスクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷技術、スプレー塗装、スピンコーター等の塗布技術を用いて基材に設置し、必要に応じて加熱あるいは光照射して、基材上に金属微粒子を担持したり、金属薄膜を形成したりしている。前記の印刷回路やフレキシブル配線等の微細配線の描画には具体的に、スクリーン印刷が用いられ、大型のEL発光体や床暖房用の面状発熱体など大型のものについては、長尺で印刷できるロータリースクリーン印刷が用いられている。
【0004】
金属微粒子をフィルム又は基板上に塗布又は印刷して配線や模様等を描画する際に、印刷パターンの高精細化、長時間連続印刷時の抵抗値や膜厚のコントロール、表面平滑性など、年々要求特性は厳しくなってきており、これらの印刷性の良好な金属ペーストが強く要望されている。そこで、特許文献1には、特定の粒子径等を有する導電性粒子と、特定の数平均分子量等を有するバインダ樹脂と、金属キレートとを含有する導電性インキを記載しており、25℃、周波数1Hz、振動応力50Paにおいて、貯蔵弾性率G’が5000〜5万Paであり、損失弾性率G’’を貯蔵弾性率G’で除した値tanδを1以下とすることにより印刷パターンの高精細化等の要求に応えようとしている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の金属ペーストは、少なくとも、平均粒子径が1〜500nmである金属微粒子、バインダ及び溶媒を含む組成物であり、一般に分散体、コーティング剤、塗料、インキ、インクなどと称される組成物を包含する。金属ペーストに配合する金属微粒子は、1〜500nmの平均粒子径を有する微細なものであり、5〜400nmがより好ましく、10〜300nmが更に好ましい。金属微粒子の平均粒子径は、動的光散乱法粒度分布測定装置(日機装社製型番UPA EX−150)を用いて測定されるD50粒子径(メジアン径)で表される。金属微粒子の構成成分や構造等には特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。構成成分としては、1種の金属であっても良く、合金にしたり積層するなどして2種以上の金属で構成されていても良い。また、1種の金属微粒子であっても良いし、2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良く、例えば平均粒子径が異なる2種以上の金属微粒子、構成成分が異なる2種以上の金属微粒子を混合した状態であっても良い。その金属成分としては周期表VIII族(鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金)及びIB族(銅、銀、金)からなる群より選ばれる少なくとも1種であれば、導電性が高いので好ましく、中でも銀、金、白金、パラジウム、銅は特に導電性が高くより好ましく、電極、回路配線の形成に用いるには、導電性とコストのバランスから銀又は銅が特に好ましい。また、着色剤、装飾用途に用いるには、銀、金、銅等が好ましく、発色剤としては金等が好ましい。なお、金属微粒子には、製法上不可避の酸素、異種金属等の不純物を含有していても良く、あるいは、金属微粒子の急激な酸化防止のために必要に応じて予め酸素、金属酸化物や、本発明で用いる後述のフェノール化合物の酸化重合物やその酸化体のほかに有機化合物、例えばゼラチン等の保護コロイドや、アルカノールアミン、クエン酸、チオール化合物等の配位化合物などが含まれていても良い。
【0011】
金属微粒子の配合量は特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、電極、回路配線等の用途における金属微粒子の配合量の上限値は、90重量%程度が可能であり、85重量%が好ましく、80重量%がより好ましく、その下限値は10重量%程度である。装飾用途においてはコストの面から、より低濃度の金属微粒子を用いて鏡面を呈する塗膜が得られることが望ましく、その配合量の上限値は50重量%であれば良く、20重量%であればより好ましく、15重量%であれば更に好ましく、その下限値は1重量%程度である。
【0012】
金属微粒子は、その表面に、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体を少なくとも存在させることが好ましい。フェノール化合物は、芳香族炭化水素核の水素原子を水酸基で置換した芳香族ヒドロキシ化合物であって、酸化重合物とは、このフェノール化合物分子の一部を酸化しながら分子2個以上が結合し重合して生成する炭素縮合多環性化合物である。酸化重合物の分子は、2〜20個程度の芳香族炭化水素核で構成されているのが好ましく、2〜10個程度がより好ましく、2〜5個程度が更に好ましい。また、酸化重合物の分子内には、少なくとも1個の水酸基が含まれているのが好ましく、還元力の点から2個以上の水酸基が含まれているのがより好ましく、2〜5個の水酸基が含まれているのが更に好ましい。酸化重合物には、同種のフェノール化合物の酸化重合物であっても、2種以上の異種のフェノール化合物の酸化重合物であっても良い。このような酸化重合物は、これらの水酸基や酸素原子等を介して配位したり、吸着したりして、金属微粒子の表面に存在する。
【0013】
また、酸化重合物の酸化体は、前記重合物が有する水酸基の水素原子が解離したり、更に酸化が進み環状構造の一部が開環してカルボキシル基が生成した、酸化状態の化合物であり、具体的には後述する還元反応に使われて酸化状態となったり、溶液中において水素イオンが解離した酸化状態で配位するなどして、金属微粒子の表面に存在する。前記の酸化重合物、その酸化体により金属微粒子の立体障害性が大きくなり、また、前記重合物及びその酸化体の有する水酸基や、酸化体の有するカルボキシル基等が、溶液中で解離して電気的に陰性を示すので、静電的な効果により、分散安定化する。このため、金属微粒子が微細であっても、凝集し難く分散した状態を保持することができる。このような一個一個の粒子がばらばらに分散した状態(独立分散状態)、粒子が多数凝集していない状態を確認するには、電子顕微鏡観察で行うことができる。
【0014】
前記の酸化重合物としては、下記の(1)〜(4)から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
(1)水酸基の置換位置が1〜4位から選ばれる2ヶ所であり、カルボニル基の置換位置が5〜8位から選ばれる2ヶ所であるジヒドロキシ−ジベンゾフラン−ジオン及びそれらの誘導体、例えば1,2−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオン、2,4−ジヒドロキシ−ジベンゾフラン−5,7−ジオン、1,2−ジヒドロキシ−4,5−ジカルボキシ−ジベンゾフラン−7,8−ジオンなど、
(2)水酸基の置換位置が1〜3位から選ばれる2ヶ所、4位の1ヶ所、及び6位、7位から選ばれる1ヶ所であるテトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン及びそれらの誘導体、例えば2,3,4,6−テトラヒドロキシ−5H−ベンゾ[7]アンヌレン−5−オン(一般名プルプロガリン)など、
(3)(1)又は(2)の化合物を更に酸化重合した化合物、
(4)(1)〜(3)から選ばれる少なくとも一種の化合物と2価及び3価のフェノール化合物及びそれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種の化合物とを酸化重合した化合物。ここで、誘導体とは、酸化重合物の分子内の小部分の変化によって生成する化合物をいい、例えば、酸化重合物に含まれる水素原子をアルキル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基等で置換したものである。
【0015】
金属微粒子の表面に存在させる、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体の含有量は特に制限はなく、適宜設定することができる。例えば、金属微粒子100重量部に対し、0.1〜100重量部程度の範囲で存在していれば、所望の効果が得られるので好ましく、更に好ましい範囲は0.5〜50重量部程度である。金属微粒子の表面に存在する成分は、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)、NMR(核磁気共鳴)、XPS(X線光電子分光分析装置)等の分析方法により確認できる。このような分析結果から、具体的にはダイヤモンドライクカーボン状構造等の状態で存在している場合がある。
【0016】
金属微粒子の表面に、フェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体を存在させるには、フェノール化合物及び/又はその酸化重合物を金属化合物の還元剤として用いると良い。フェノール化合物及び/又はその酸化重合物と金属化合物とを混合して金属化合物を還元すると、生成した金属微粒子の表面にフェノール化合物の酸化重合物及び/又はその酸化重合物の酸化体が存在する。このような金属微粒子は溶媒に分散しやすいので好ましく、金属コロイド液とすることができる。フェノール化合物としては、2価及び/又は3価のフェノール化合物が好ましく、ピロガロール、フロログルシノール、1,2,4−トリヒドロキシベンゼン、没食子酸から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。
【0017】
バインダとしては、ポリエステル樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ポリエステル樹脂、アクリル変性ポリエステルなどの各種変性ポリエステル樹脂、ポリエーテルウレタン樹脂、ポリカーボネートウレタン樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドイミド、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース、セルロース・アセテート・ブチレート(CAB)、セルロース・アセテート・プロピオネート(CAP)などの変性セルロース類、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。バインダの配合量は、金属微粒子100重量部に対し0.5〜20重量部程度の範囲が好ましく、より好ましい範囲は1〜15重量部程度であり、2〜13重量部程度であれば更に好ましい。
【0018】
このうち、可撓性の不要な導電性接着剤、リジット基板の回路用導電ペースト、スルーホール用導電性ペーストなどの用途にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂でも使用できるが、PETフィルム、ITO蒸着PETフィルム、ポリイミドフィルムなどのフレキシブルで比較的難接着性の基材を用いる場合は、耐屈曲性と基材に対する密着性の面から、ポリエステル樹脂、上記の変性ポリエステル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などが好ましく、最も好ましくは、共重合ポリエステル樹脂及び/又は変性ポリエステル樹脂であり、特にこのようなフレキシブルな基材に用いた時にその特徴が発揮できる。
【0019】
バインダとしては、さらに具体的には、数平均分子量3000以上のポリエステル樹脂及び/又は変性ポリエステル樹脂を用いることが好ましく、非常に優れた耐屈曲性、基材への密着性が得られる。数平均分子量は8000以上が好ましく、より好ましくは10000以上である。上限は50000以下が好ましい。数平均分子量が3000未満であると良好な耐屈曲性が得られず、また、ペースト粘度が低下する傾向にある。耐屈曲性と硬度の面からガラス転移点温度は−20℃以上が好ましく、より好ましくは−5℃以上である。好ましい上限は70℃以下である。
【0020】
さらに、バインダとして活性エネルギー光線硬化型の樹脂を使用することもできる。活性エネルギー線硬化性化合物とは、活性エネルギー線を照射することにより重合する化合物であり、エチレン性不飽和基を有する化合物が好適に用いられる。エチレン性不飽和基を有する化合物としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリレート系化合物、ビニルエーテル系化合物、ポリアリル化合物などが挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0021】
金属微粒子を分散させる溶媒は特に制限はなく、水溶媒、アルコール、トルエン等の有機溶媒又は水溶媒とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒を用いることができ、用途に応じて適宜選択することができる。有機溶媒はその種類に制限はなく、エステル系、ケトン系、エーテルエステル系、塩素系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系などが挙げられる。このうち、スクリーン印刷する場合はジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(エチルカルビトールアセテート)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(ブチルセロソルブアセテート)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルカルビトール)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、イソホロン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトンなどの高沸点溶剤が好ましい。
【0022】
本発明の金属ペーストには、前記の金属微粒子、バインダ、溶媒の他に、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、防カビ剤、硬化剤、架橋剤、高分子分散剤等を必要に応じて適宜配合することもできる。界面活性剤は、金属微粒子の分散安定性を更に良くすることができ、4級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤等を用いることができる。硬化剤の種類は限定しないが接着性、耐屈曲性、硬化性などからイソシアネート化合物が特に好ましい。更に、これらのイソシアネート化合物はブロック化して使用することが貯蔵安定性から好ましい。イソシアネート化合物以外の硬化剤としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、ベンゾグアナミン、尿素樹脂などのアミノ樹脂、酸無水物、イミダゾール類、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの公知の化合物が挙げられる。架橋剤には、その種類に応じて選択された公知の触媒あるいは促進剤を併用することもできる。
【0023】
高分子分散剤は、酸性又は塩基性の官能基を有することにより、金属微粒子の表面と相互作用し、一方、高分子鎖によって金属微粒子どうしが接近、再凝集することを防ぐ(立体安定化効果)ことにより、金属微粒子を分散媒へ安定的に分散させる作用を有する高分子化合物である。酸性の官能基としては、主にカルボン酸、リン酸、スルホン酸などが用いられており、塩基性の官能基としては、主にアミン、アンモニウム塩、アミド、イミド、ウレタン、尿素などの窒素原子を有する官能基が用いられている。このように高分子分散剤は、水酸基、酸性基、塩基性基等を有することから、塩基点(アミン価)、酸点(酸価)を有し、金属微粒子表面あるいはその表面に存在する有機化合物のもつ酸点、塩基点を補償(中和)する程度以上のアミン価(塩基点)、酸価(酸点)をもつような高分子分散剤を用いるのが好ましい。具体的には、高分子分散剤の種類及び量を、(アミン価−酸価)が10〜40mgKOH/gとすると、有機溶媒中での凝集を著しく改善できるためより好ましい。高分子分散剤の(アミン価−酸価)が10mgKOH/g未満であったり、40mgKOH/gを超えたりすると、有機溶媒中での凝集を抑制できにくいため好ましくない。
【0024】
高分子分散剤のアミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に対して等量の水酸化カリウムのmg数で表す。また、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表す。具体的には、アミン価、酸価は下記のJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。なお、例えば市販の高分子分散剤は溶液等の形で販売されているものも多いが、そのような分散性向上に寄与する成分(有効成分)以外の成分(溶媒等)を含む高分子分散剤の場合、前記高分子分散剤のアミン価及び酸価は、有効成分当たりのアミン価及び酸価を意味する。これら有効成分量は不揮発分と表示されていることもある。
(アミン価の測定方法)
高分子分散剤5g、ブロモクレゾールグリーンエタノール溶液数滴を300mLのエタノールと純水の混合溶媒に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1M HClエタノール溶液を添加し、ブロモクレゾールグリーン指示薬の黄色が30秒続いた時の0.1M HClエタノール溶液の滴定量からアミン価を算出する。
(酸価の測定方法)
高分子分散剤5g、フェノールフタレイン液数滴を300mLの純水に溶解させ、ファクター(補正係数)を算出した0.1M KOHエタノール溶液を添加する。フェノールフタレイン指示薬の薄紅色が30秒続いた時の0.1M KOHエタノール溶液の滴定量から酸価を算出する。
【0025】
高分子分散剤として具体的には、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子化合物が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸等の高分子化合物のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。高分子分散剤としては、アミン系高分子分散剤が好ましい。高分子分散剤の市販品としては、例えば、ディスパービック(DISPERBYK)161、ディスパービック(DISPERBYK)162、ディスパービック(DISPERBYK)163、ディスパービック(DISPERBYK)167、ディスパービック(DISPERBYK)168、ディスパービック(DISPERBYK)182、ディスパービック(DISPERBYK)183、ディスパービック(DISPERBYK)184、ディスパービック(DISPERBYK)185、ディスパービック(DISPERBYK)2000、ディスパービック(DISPERBYK)2001、ディスパービック(DISPERBYK)2163、ディスパービック(DISPERBYK)2164(以上ビックケミー社製)、フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−15BHFS、フローレン17HF、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−33、フローレンDOPA−44(以上共栄社化学社製)、ED−212、ED−213(以上楠本化成社製)等を挙げることができる。高分子分散剤の配合量は適宜調整することができ、例えば金属微粒子に対して0.01〜20重量%程度が好ましく、3〜15重量%程度がより好ましい。高分子分散剤の配合量により複素弾性率等のレオロジー特性を改善することができる。このような高分子分散剤は、水溶媒に比べて溶媒が非水系有機溶媒を含む場合に効果が認められやすく、非水系有機溶媒を使う場合に高分子分散剤を使うのがより好ましい。
【0026】
本発明の金属ペーストは、粘性及び弾性両方をあわせた性質をもつ粘弾性体であり、粘弾性のレオロジー特性のパラメータとして一般に用いられる複素弾性率で表し、動粘弾性測定器(Thermo Haake社製型番RS600)を用いて25℃、1Pa、1rad/sの周波数で正弦振動させたときの複素弾性率が1000Pa以下であり、好ましくは1〜800Paであり、更に好ましくは5〜700Paである。複素弾性率が1000Paより高いと、印刷性、特にメッシュへの充填性や版離れ性が好ましくない。複素弾性率は、粘弾性体に正弦波形のひずみを入力したときの応力の応答によって定義され、複素弾性率はE+iωηとなる。ただしiは虚数単位、ωは入力の角周波数である。Eはばね係数でありエネルギーを蓄積する効果を、またηは粘性係数でありエネルギーを散逸させる効果を表している。このことから、複素弾性率Gの実部を貯蔵弾性率G’、虚部を損失弾性率G’’と呼ぶことがある。貯蔵弾性率は動粘弾性測定器を用いて25℃、1Pa、1rad/sの周波数で正弦振動させたとき、1000Pa以下が好ましく、より好ましくは1〜900Paであり、更に好ましくは1〜700Paである。貯蔵弾性率が1000Paより高いと、印刷性、特にメッシュへの充填性が好ましくない。損失弾性率G’’を貯蔵弾性率G’で除した値tanδが1以下であると固体的であり、1以上であると液体的であるといわれている。動粘弾性測定器を用いて25℃、1Pa、0.1〜100rad/sの周波数で正弦振動させたときの貯蔵弾性率G’と損失弾性率G’’の比tanδは0.2以上が好ましく、0.2〜1.0の範囲がより好ましく、0.2〜0.8の範囲が更に好ましい。tanδが0.2より小さいと印刷性、特にメッシュへの充填性や版離れ性が好ましくない。
【0027】
本発明の金属ペーストは、複素弾性率のほかに揺変度(チキソインデックス、チキソ指数)も重要な因子であり、4.5以下が好ましく、1〜4.5がより好ましく、2〜4.5が更に好ましい。揺変度を低減することにより、連続印刷時のペースト粘度の低下が少なくなり、膜厚が安定する。すなわち、回路抵抗が安定する。揺変度が4.5を超えると印刷時のシェアにより粘度が低下し、クラック、断線、短絡、滲み等が発生したり、連続印刷時に膜厚が低下し、抵抗値が増大する問題が発生するため好ましくない。本発明において揺変度は、E型回転粘度計により25℃で測定したズリ速度6s−1における粘度(η6)とズリ速度60s−1における粘度(η60)との比(η6/η60)で表す。
【0028】
本発明の金属ペーストは、印刷方法等に応じて粘度を適宜設定することができる。具体的にはスクリーン印刷に用いる際の好ましい粘度は、E型回転粘度計(Thermo Haake社製型番RS600)により25℃、ズリ速度60s−1における粘度(η60)で測定した場合において1500Pa・s以上であり、より好ましく2000Pa・s以上である。上限は6000Pa・s以下が好ましく、より好ましくは4500Pa・s以下である。1500Pa・s未満ではクラック、断線、短絡、滲み等が発生したり、膜厚が低くなる傾向にあるため好ましくない。6000Pa・sを超えるとカスレが発生する傾向にあるため好ましくない。
【0029】
本発明の金属ペーストは、少なくとも、平均粒子径が1〜500nmである金属微粒子、バインダ及び溶媒を混合して、製造する。混合する際に必要に応じて、高分子分散剤等を添加しても良い。混合には通常のミキサー、ミル、攪拌機等の混合機を用いることができる。本発明では、金属微粒子を予め溶媒に分散した金属コロイド液を調製し、これに、バインダや必要に応じて、高分子分散剤、溶媒等を添加して、金属ペーストを製造するのが好ましい。金属ペーストの複素弾性率、貯蔵弾性率、損失弾性率、tanδ、揺変度、粘度等を適宜調整するには、金属微粒子、バインダ、溶媒の種類や量の設定の他に、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、硬化剤、架橋剤、高分子分散剤等の種類や量を適宜設定する。
【0030】
次に、本発明の金属ペーストの使用例について説明する。
本発明の金属ペーストを電極、回路配線パターン等の形成に用いるには、例えば、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の方法により、基板に塗布した後、塗布物を適当な温度で加熱焼成したり、レーザー、キセノンランプ等で光を照射する。また、塗膜の形成に用いるには、例えば、スピンコート、ロールコート、スプレーコート、刷毛塗り等の方法により、基材に塗布し乾燥したり、レーザー、キセノンランプ等で光を照射したりする。あるいは、スクリーン印刷やインクジェット印刷などの印刷方法や転写方法を用いて塗膜を形成することもできる。
【0031】
具体的にはスクリーン印刷等により、金属微粒子をフィルム又は基板上に塗布又は印刷、硬化することにより導電性を与え、回路を形成したり、電子部品の端子やリード線の接着を行ったり、ビアホールを充填したり、電子装置を電磁波障害(EMI)から保護するために利用できる。例えば、PETフィルムなどに金属ペーストを印刷したメンブレン回路は低コストで軽量であり、キーボード、透明タッチパネル、スイッチ、EL発光体、面状発熱体などに広く使用されている。更に、印刷技術を利用したフレキシブル配線を搭載した電子回路、デバイス等をプリンテッドエレクトロニクスにより製造することができる。
【0032】
前記の塗膜を基材の表面に形成すると、金属微粒子の金属色や光沢を基材表面に付与することができ、基材表面の全面にわたって着色し光沢を付与したり、基材表面の一部分に意匠、標章、ロゴマークを形成したり、その他の文字、図形、記号を形成したりすることもできる。基材としては、金属、ガラス、セラミック、コンクリートなどの無機質材料、ゴム、プラスチック、紙、木、皮革、布、繊維などの有機質材料、前記の無機質材料と有機質材料とを併用あるいは複合した材料を用いることができる。それらの材質の基材を使用物品に加工する前の原料基材に塗膜を形成して装飾を施すこともでき、あるいは、基材を加工した後のあらゆる物品に装飾を施すこともできる。また、それらの基材表面に予め塗装したものの表面に装飾を施すこともできる。
装飾を施す物品の具体例としては、
(1)自動車、トラック、バスなどの輸送機器の外装、内装、バンパー、ドアノブ、サイドミラー、フロントグリル、ランプの反射板、表示機器等、
(2)テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、パーソナルコンピューター、携帯電話、カメラなどの電化製品の外装、リモートコントロール、タッチパネル、フロントパネル等、
(3)家屋、ビル、デパート、ストアー、ショッピングモール、パチンコ店、結婚式場、葬儀場、神社仏閣などの建築物の外装、窓ガラス、玄関、表札、門扉、ドア、ドアノブ、ショーウインド、内装等、
(4)照明器具、家具、調度品、トイレ機器、仏壇仏具、仏像などの家屋設備、
(5)金物、食器などの什器、
(6)飲料水、タバコなどの自動販売機、
(7)合成洗剤、スキンケア、清涼飲料水、酒類、菓子類、食品、たばこ、医薬品などの容器、
(8)表装紙、ダンボール箱などの梱包用具、
(9)衣服、靴、鞄、メガネ、人口爪、人口毛、宝飾品などの衣装・装飾品、
(10)野球のバット、ゴルフのクラブなどのスポーツ用品、つり具などの趣味用品、
(11)鉛筆、色紙、ノート、年賀はがきなどの事務用品、机、椅子などの事務機器、
(12)書籍類のカバーやオビ等、人形、ミニカーなどのおもちゃ、定期券などのカード類、CD、DVDなどの記録媒体、などが挙げられる。また、人間の爪、皮膚、眉毛、髪の毛などを基材とすることができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0034】
(1)金属微粒子の作製
水4352ミリリットル中に、ピロガロール135ミリモルを溶解し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを10.3に調整した後、大気中で40分間撹拌しピロガロールの酸化重合物の溶液を調製した。この還元剤溶液中に100ミリモルの硝酸銀を含む水溶液68ミリリットルを添加し、撹拌機を用いて、室温にて1時間撹拌した後、遠心分離し、銀固形物を回収し、室温で1時間真空乾燥を行い銀粉(試料A)を得た。
試料Aは、銀微粒子の表面にピロガロールの酸化重合物が存在しており、そのピロガロールの酸化重合物は、ラマン分光分析、C−NMR分析の結果より、ダイヤモンドライクカーボン状構造をとっていることが推定された。
【0035】
(2)金属分散体の作製
表1に示すとおり、前記の試料Aとアミン系高分子分散剤(ディスパービック2164、有効成分60%あたりアミン価−酸価=23mgKOH/g)を溶解したプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとを混合・懸濁し、ペイントシェーカーにて1時間分散させ、有機溶媒系分散体(試料1〜3)を得た。
【0036】
【表1】
【0037】
また、表2に示すとおり、70ccのマヨネーズビンに、前記の試料Aとn−プロピルアミンを溶解させたN−メチルホルムアミドとジルコンビーズ50gを入れ、ペイントシェーカーを用いて1時間湿式分散した。その後、ジルコンビーズを除去し、銀水系分散体(試料4)を得た。
【0038】
【表2】
【0039】
各分散体の平均粒子径は、動的光散乱法粒度分布測定装置(日機装社製型番UPA EX−150)を用いて測定した結果、D50粒子径(メジアン径)で表して、表3に示す結果となった。
【0040】
【表3】
【0041】
(3)金属ペーストの作製
表4に示すとおり、前記の試料1〜3のそれぞれ6.15g(銀濃度61.8重量%)とビヒクル(ブチルカルビトールアセテート100重量部に対して20重量部のエチルセルロースを溶解したもの)とプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを撹拌脱泡機にて混合し、金属ペースト(試料a〜c)を作製した。
【0042】
【表4】
【0043】
また、表5に示すとおり、前記の試料4と16%ポリエチレンオキサイドビヒクル(ポリエチレンオキサイド8gを水42gに溶かしたもの)とホルムアミドを撹拌・混合し、金属ペースト(試料d)を作製した。また、前記の試料4と20%ヒドロキシエチルセルロースビヒクル(ヒドロキシエチルセルロース4gを水16gに溶かしたもの)を撹拌・混合し、金属ペースト(試料e)を作製した。
【0044】
【表5】
【0045】
(4)金属ペーストの評価
ペースト試料a〜eの評価を行った。
動粘弾性測定器(Thermo Haake社製型番RS600)を用いて25℃、1Pa、1rad/sの周波数で正弦振動させたときの複素弾性率G、貯蔵弾性率G’を測定した結果を表6に示す。試料a、b(実施例1、2)は1000Pa以下であり、試料c(比較例1)は1000Pa以上であった。また、試料d、e(実施例3、4)は1000Pa以下であった。
動粘弾性測定器(Thermo Haake社製型番RS600)を用いて25℃、1Paの貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”を測定し、その比tanδを算出した。この結果を
図1〜10に示す。0.1〜100rad/秒の周波数で正弦振動させたときの貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の比tanδを指標とすると、試料a、bのtanδは0.2〜1.0であり、試料cは概ね0.2以下であった。また、試料d、eのtanδは、1.0以上であった。
E型回転粘度計(Thermo Haake社製型番RS600)により25℃で測定したズリ速度6s−1における粘度(η6)とズリ速度60s−1における粘度(η60)との比(η6/η60)で表される揺変動を測定した結果を表6に示す。試料a、bは4.5以下であり、試料cは4.6であった。また、試料d、eは4.5以下であった。
印刷性評価は、スクリーン印刷を行った際、ペーストの状態や滑りやすさや印刷後の膜の状態、乾燥後の膜厚などを観察して判断した結果であり、表6に示す。○はクラック、断線、短絡、滲み等がなく良好であること、×はクラック、断線、短絡、滲み等があり不良であることを示す。
【0046】
【表6】
【0047】
(5)金属膜の評価
スクリーン印刷機を用いて試料a〜eそれぞれをガラス板に印刷し、220℃の温度で30分間乾燥させて塗膜化した。これらの塗膜試料a〜eの比抵抗値を抵抗率計(三菱化学アナリテック社製型番Loresta−GP MCP −T600)で測定し、塗膜表面を観察した結果を表7に示す。塗膜試料a、b、d、e(実施例1〜4)は、塗膜試料c(比較例1)に比べて、抵抗値が低く(導電性が高く)、パターンの精細化ができること、しかも、塗膜は金属光沢があり、クラック、断線、短絡、滲み等もなく表面状態は良好であった。
【0048】
【表7】