特許第6063709号(P6063709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6063709積層型多孔性フィルムおよびそれを用いた包装体用蓋材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063709
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】積層型多孔性フィルムおよびそれを用いた包装体用蓋材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20170106BHJP
   B32B 5/32 20060101ALI20170106BHJP
   B29C 67/20 20060101ALI20170106BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   B32B27/32 E
   B32B5/32
   B29C67/20 B
   B65D65/40 D
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-238316(P2012-238316)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-87948(P2014-87948A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久保川 佳佑
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−525247(JP,A)
【文献】 特開平11−138673(JP,A)
【文献】 特開平09−003227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B32B 5/32
B65D 65/40
B29C 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層と表裏層の少なくとも3層を有し、前記中間層はポリオレフィン系樹脂と充填剤を主成分とし、前記表裏層はポリプロピレン系樹脂を主成分とし、かつ、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを含み、二軸方向に延伸されてな積層型多孔性フィルムの製造方法であって、
未延伸フィルムを、縦方向に0℃以上60℃未満の温度範囲で1.2〜2倍延伸した後、70℃以上140℃未満の温度範囲で1.5倍〜3倍延伸し、かつ、横方向に90〜160℃の温度範囲で1.5〜4倍延伸する積層型多孔性フィルムの製造方法
【請求項2】
前記中間層が、ポリオレフィン系樹脂を20〜80質量%、充填剤を20〜80質量%含有する請求項1 に記載の積層型多孔性フィルムの製造方法
【請求項3】
前記充填剤の平均粒径が0.5〜2μmである請求項1から2のいずれかに記載の積層
型多孔性フィルムの製造方法
【請求項4】
前記表裏層が、ポリプロピレン系樹脂を50〜90質量%、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを10〜50質量%含有する請求項1から3のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法
【請求項5】
厚みが100μm以上500μm 以下、透気度が20秒/100cc以上200秒/100cc以下である請求項1 から4のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法。
【請求項6】
突刺し強度が400gf以上である請求項1から5のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型多孔性フィルムに関する。詳しくは、粉落ちもなく衛生性に優れ、滅菌処理等に必要とされる高度な水蒸気透過性を有する連通孔を外観のムラ無く均一に有し、かつ注射針やカテーテルなどの鋭利な物を包装するのに十分な突刺し強度を有する医療用ブリスター包装等の包装体における蓋材等に有用な、積層型多孔性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディスポーサブル注射器や注射針等の医療器具は、ブリスター包装等の包装体に収納した後、高圧蒸気や酸化エチレンガス・放射線照射により滅菌処理される。医療包装材料は、前記滅菌処理を行うため、特に汎用性の高い酸化エチレンガス滅菌において、十分な通気性が必要とされる。具体的には、滅菌処理に必要なガスや、径0.0004μmの水蒸気を透過させる多孔性フィルムが、医療包装材料として有効である。また、医療器具は人体に直接触れるものが多く、その包装材料は人体に影響を及ぼすことのないよう非常に衛生的に使用することができるものでなければならない。さらに、注射針やカテーテルなどといった鋭利な物を包装するにあたり、途中で破けてしまわないような突刺し強度が必要である。
【0003】
従来から、水は透過せず、空気や水蒸気等の気体を透過する、いわゆる通気性を有する多孔性フィルムは、紙おむつのバックシート、吸湿剤や脱酸素剤の包装などに用いられている。その製造方法としては、特許文献1に記載のように樹脂と充填剤とからなる組成物や、場合によってはさらに、これにワックス状の炭化水素重合体を加えてなる組成物をフィルム化し、延伸せしめることによりフィルム内部にミクロボイドを発生させて通気性を発現させるものがある。しかし、これらの様な多孔性フィルムは、低応力で容易に伸び、物理的に充填剤と樹脂の間にミクロボイドを発生させるためにミクロボイドのサイズとしては大きいものから小さいものまで種々発生し、通気度の均一性を妨げるという問題があった。
【0004】
また、上記のような従来の多孔性フィルムは、充填剤として炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの無機フィラーを用いる場合においては(例えば、特許文献1)、フィラーの形状が不均一で、樹脂との相溶性が悪いなどの理由から均一な物性が期待できなかったり、表面が平滑にならずに凹凸が発生するためフィルムとの接触により粉落ちが発生するなどという問題点があった。また、これらフィラーは、耐薬品性が悪く、例えば酢酸等の酸に溶出することがあるため、使用できる用途には制限があった。
【0005】
一方、多孔性フィルムの製造方法として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンをマトリックスとする研究開発が盛んである。例えば、特許文献2には、有極性熱可塑性樹脂と無極性熱可塑性樹脂とからなるシートをロール圧延し、次いで、延伸する熱可塑性樹脂多孔体の製造方法が記載されている。この2種類の樹脂の界面が、シートを延伸することで引き離され、気孔を生じることを利用し、多孔性フィルムとするのである。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン系樹脂等が用いられている。
【0006】
ポリオレフィンをマトリックスとする多孔性フィルムを、このように延伸法により製造する方法は、多孔性フィルムの製造方法として有用であり、この製造方法は更に、特許文献3、特許文献4、特許文献5等にも記載されている。例えば、特許文献3には、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂Aと、樹脂Aに対して相溶性が乏しく、且つ溶融点が少なくとも20℃高い熱可塑性樹脂Bとを用いる延伸法による多孔性フィルムの製造方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、マトリックス樹脂と分散樹脂を混練し、製膜し、延伸するこれらの方法では、空孔はフィルムの厚み方向ではなく、延伸方向に延伸して形成するため、フィルムに空孔が連通して、通気性に優れたフィルムを得ることは、一般に困難である。また更に、これらの従来例では、マトリックス樹脂と分散樹脂とは相溶性に乏しいため、分散樹脂が良好に分散することが困難であり、また、このような状態から延伸すると、延伸後も孔形状が整わず、フィルムに貫通孔が形成し難く、得られるフィルムの通気性は限られていたため、滅菌処理に必要なガスや、径0.0004μmの水蒸気を透過させる多孔性フィルムの製造方法としては、不十分であった。
【0008】
さらに、例えこのような方法によってフィルムにある程度の通気性を付与できたとしても、延伸時にムラが発生することにより、厚みや透気度にばらつきが生じ、延伸方向に均一に連通孔を形成させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭60−229731号公報
【特許文献2】特公昭49− 86458号公報
【特許文献3】特開昭58−198536号公報
【特許文献4】特開昭63−270748号公報
【特許文献5】特開昭64− 26655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記の従来の多孔性フィルムの欠陥を解消し、粉落ちもなく衛生性に優れ、滅菌処理に必要とされる高度な通気性を外観のムラなく均一に有し、かつ注射針やカテーテルなどの鋭利な物を包装するのに十分な突刺し強度を有する積層型多孔性フィルムを得ることにある。
【0011】
本発明のもう1つの課題は、医療用ブリスター包装用に好適に用いることができる前記積層型多孔性フィルムを用いた包装体用蓋材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意検討した結果、中間層をポリオレフィン系樹脂と充填剤を主成分とする層とし、表裏層をポリプロピレン系樹脂を主成分とし、かつ、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマー含む層とし、かつこれら積層体を二軸方向に延伸することにより、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)中間層と表裏層の少なくとも3層を有し、前記中間層はポリオレフィン系樹脂と充填剤を主成分とし、前記表裏層はポリプロピレン系樹脂を主成分とし、かつ、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを含み、二軸方向に延伸されてな積層型多孔性フィルムの製造方法であって、未延伸フィルムを、0℃以上60℃未満の温度範囲で1.2〜2倍延伸した後、70℃以上140℃未満の温度範囲で1.5倍〜3倍延伸し、かつ、横方向に90〜160℃の温度範囲で1.5〜4倍延伸する積層型多孔性フィルムの製造方法
(2)前記中間層が、ポリオレフィン系樹脂を20〜80 質量%、充填剤を20〜80質量%含有する上記(1)に記載の積層型多孔性フィルムの製造方法
(3)前記充填剤の平均粒径が0.5〜2μmである上記(1)から(2)のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法
)前記表裏層が、ポリプロピレン系樹脂を50〜90質量%、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを10〜50質量%含有する上記(1)から(3)のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法
(5)厚みが100μm以上500μm 以下、透気度が20秒/100cc以上200秒/100cc以下である上記(1)から(4)のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法。
(6)突刺し強度が400gf以上である上記(1)から(5)のいずれかに記載の積層型多孔性フィルムの製造方法。


【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、滅菌処理に十分な通気性をムラなく有し、無機充填剤が粉落ちしないため衛生性に優れる、高い突刺し強度を有する主に医療用ブリスター包装体等の蓋材等に好適な、積層型多孔性フィルムを提供することができる。
さらに本発明によれば、医療用ブリスター包装体等の蓋材等に好適な、前記積層型多孔性フィルムを用いた、包装体用蓋材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の積層型多孔性フィルム、包装体用蓋材(以下、それぞれ、「本発明のフィルム」、「本発明の蓋材」という。)について詳細に説明する。
【0015】
<ポリオレフィン系樹脂>
本発明のフィルムの中間層に用いられるポリオレフィン系樹脂は、プロピレン、エチレン等のオレフィン炭化水素を単量体成分として含む重合体をいう。ポリオレフィン系樹脂はホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。コポリマーである場合、オレフィン炭化水素の共重合割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられ、とりわけポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂が好ましい。
ポリプロピレン系樹脂は、ポリプロピレンを単量体成分として含む重合体であり、ホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。コポリマーである場合ランダムコポリマーであってもよいし、ブロックコポリマーであってもよい。また、コポリマーである場合、共重合成分に限定はなく、例えば、エチレン、ブテン、ヘキセン等が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂がコポリマーである場合、プロピレンの共重合割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であってもよいし、90質量%以上であってもよい。
また、ポリオレフィン系樹脂を重合する際に用いる触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系の触媒やメタロセン系の触媒などを使用することができる。また、立体規則性にも特に制限はなく、アイソタクチックやシンジオタクチックを使用することができる。
また、用いるポリオレフィン系樹脂は、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよく、得られる多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる性質を有する2種のポリオレフィン系樹脂を特定範囲で配合したポリオレフィン系樹脂組成物を用いても良い。
【0016】
<充填剤>
本発明のフィルムの中間層に用いられる充填剤としては、無機系、有機系その他一般に知られる各種充填剤を用いることができる。
無機粒子の充填剤としては例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、シリカ、タルク等が挙げられる。これらの中では、硫酸バリウムが好ましい。これらの充填剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合しても用いてもよい。炭酸カルシウム等の水中懸濁液のPHが9を越える高い塩基性化合物の粒子を使用して製造した多孔性フィルムは、肌に刺激を与えるため人体と接することが多い用途では使用が制限されることから、PH6〜9程度の中性化合物である硫酸バリウムなどを用いることが好ましい。
【0017】
また、有機粒子の充填剤としては、高分子化合物を架橋剤を用いて架橋した粒子、例えば、ポリメトキシシラン系化合物の架橋粒子、ポリスチレン系化合物の架橋粒子、アクリル系化合物の架橋粒子、ポリウレタン系化合物の架橋粒子、ポリエステル系化合物の架橋粒子、フッソ系化合物の架橋粒子、もしくはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0018】
充填剤の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.1〜10μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.1〜10μmの範囲であると、分散性が良好となり、得られる多孔性フィルム中で、粒子が凝集することで生成する異物やピンホールの発生が抑制される傾向にあるため好ましい。なお平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(HITACHI S−4700)によって粒子を観察し、粒子の長径及び短径の平均値を粒子径とし、サンプリング粒子数を100とした時の平均値をいう。
【0019】
本発明のフィルムの、中間層のポリオレフィン系樹脂と充填剤の含有量は、ポリオレフィン系樹脂20〜80質量%、充填剤20〜80質量%であることが好ましく、さらに好ましくはポリオレフィン系樹脂30〜70質量%、充填剤30〜70質量%である。充填剤の含有量が上記下限以上であれば、充分な透気性が得られるため好ましい。また、上記上限以下であれば、ポリオレフィン系樹脂と充填剤を混合した際に起こる充填剤の凝集が低減されるため、分散不良を抑制する観点から好ましい。
【0020】
<ポリプロピレン系樹脂>
本発明のフィルムの表裏層に用いられるポリプロピレン系樹脂は、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、本発明のフィルムの透気度、機械的強度などを維持する観点から、ホモポリプロピレンがより好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、いかなる結晶性や融点を有するものであってもよく、得られる積層型多孔性フィルムの物性や用途に応じて、異なる性質を有する2種以上のポリプロピレン系樹脂を、任意の配合比率で配合したものであってもよい。
【0021】
前記ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは0.1〜50g/10分の範囲のものから選択できる。MFRが上記範囲であれば、ポリプロピレン系樹脂とポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを混合した際、ポリオレフィン・ポリスチレンエラストマーの分散性が良好となることや、あるいは、フィルムに加工する際にフィルムが破断し難くなる等成型性の観点から好ましい。なお、MFRの測定方法はJIS K 7210に準拠し、230℃、2.16kgの荷重下で測定する。
【0022】
前記ポリプロピレン系樹脂は、特開昭44−15422号公報、特開昭52−30545号公報、特開平6−313078号公報、特開2006−83294号公報に記載されているような公知の変性ポリプロピレン樹脂であってもよい。さらに、本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂は、上記ポリプロピレン系樹脂と変性ポリプロピレン樹脂との任意の割合の混合物であってもよい。
【0023】
<ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマー>
本発明のフィルムの表裏層に用いられるポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーは、オレフィン系及びスチレン系の重合体あるいは共重合体であって、常温付近でゴム状弾性を示すものであれば良く特に制限はない。具体的には、スチレン−水添イソプレンブロックコポリマー等のスチレン−オレフィンブロックコポリマーや、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー等のスチレン−オレフイン−スチレンブロックコポリマー、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー等が挙げられる。中でも、スチレン−水添イソプレン−スチレンブロックコポリマーや、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマーが好適に用いられる。
【0024】
本発明のフィルムの、表裏層におけるポリプロピレン系樹脂とポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーの含有量は、ポリプロピレン系樹脂50〜90質量%、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマー10〜50質量%であることが好ましく、さらに好ましくはポリプロピレン系樹脂60〜80質量%、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマー20〜40質量%である。ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーの含有割合が上記範囲であれば、得られるフィルムの延伸性、透気性、突刺し強度をバランスよく得ることができるため好ましい。
【0025】
本発明のフィルムの表裏層に用いられるポリプロピレン系樹脂とポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーの混合物は、延伸前のシート状態において、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする海部と、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを主成分とする島部からなる海島構造を有していることが好ましい。さらには、該島部の粒径が0.01μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。延伸前のシート状態が上記海島構造を有していると、本発明のフィルムが、高い突刺し強度を維持しつつ、透気性がより良好となるため好ましい。
【0026】
本発明のフィルムの各層には、上記成分のほか、公知の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、滑り剤、ブロッキング防止剤、ポリテルペン樹脂、石油樹脂、充填剤などを製造工程やフィルム特性を低下させない程度に含有させてもよい。
【0027】
本発明のフィルムは、フィルム厚みが、好ましくは100〜500μm、より好ましくは100〜200μmであることが実用上好ましい。フィルム厚みが100μm以上であれば、製膜工程及び二次加工工程で、張力によってフィルムが伸びたり、縦じわが発生したり、破断したりすることがなく好ましい。
【0028】
本発明のフィルムは、透気度が、好ましくは50秒/100cc〜1000秒/100cc、より好ましくは40秒/100cc〜500秒/100cc、更に好ましくは20秒/100cc〜200秒/100ccである。透気度が上記範囲であれば、滅菌処理等に必要とされる高度な水蒸気透過性を有するフィルムを得ることができるため好ましい。
【0029】
本発明のフィルムは、突刺し強度が、好ましくは400gf以上、より好ましくは500gf以上、さらに好ましくは600gf以上である。突刺し強度が上記範囲であれば、注射針やカテーテルなどの鋭利な物を包装するのに十分な強度を得ることができるため好ましい。
【0030】
<本発明のフィルムの積層構成>
積層構成としては、表裏層と中間層の少なくとも3層を有する。必要に応じて、表裏層と中間層の間にさらに別の層を追加してもよい。
【0031】
<本発明のフィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、まず、各層原料を混合し、実質的に未延伸のフィルムを、共押出方法にて製造する。
各層原料の混合方法は、一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ミル、ニーダーブレンダーなど、各種公知の方法を採用することができ、これらの方法を用いて、あらかじめ各成分を溶融混合し、ペレット状に加工したものを押出成形に用いてもよいし、溶融混合し直接押出成形を行ってもよい。
共押出方法としては、Tダイ押出成形、インフレーション成形、カレンダー成形、スカイフ法等の各種成形方法を採用し得るが、中でも、本発明のフィルムに要求される物性や用途の観点からは、Tダイ押出成形が好ましい。
【0032】
次いで、共押出方法により作成された実質的に未延伸フィルムを延伸し、本発明のフィルムを得る。
延伸方法としては、ロール、テンター、チューブラー、オートグラフ等の各種方法を採用し得るが、本発明のフィルムの延伸方法としては、ロールによる縦延伸工程と、テンターによる横延伸工程を組み合わせた、逐次二軸延伸を採用することが好適である。
さらに、本発明のフィルムの製造方法は、縦延伸工程において、1段目として冷延伸工程、2段目として熱延伸工程の2段階の延伸工程を行うことが好ましい。縦延伸工程を2段階で行うことにより、得られる多孔性フィルムは、高度な透気性を備えたものとなる。またフィルム外観にも優れたものとなる。
縦延伸1段目の冷延伸工程は、延伸温度は0℃以上60℃未満、好ましくは10℃以上40℃未満とすることが好ましい。延伸倍率は1.1〜3倍、好ましくは1.2〜2倍とすることが好ましい。
縦延伸2段目の熱延伸工程は、延伸温度は70℃以上140℃未満、好ましくは90℃以上120℃未満とすることが好ましい。延伸倍率は1.1〜5倍、好ましくは1.5〜3倍とすることが好ましい。
横延伸工程については、延伸温度は90〜160℃、好ましくは120〜150℃とすることが好ましい。延伸倍率は、1.5〜4倍、好ましくは2〜3倍とすることが好ましい。
なお、上述の各延伸工程に加えて、更に延伸工程を追加することもできる。
【0033】
<本発明の蓋材>
本発明のフィルムは、粉落ちもなく衛生性に優れ、高い突き刺し強度を有し、滅菌処理に必要とされる高度な通気性をムラなく均一かつ十分に有するので、医療用ブリスター包装体用蓋材として好適である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0035】
(1)ガーレー透気度
JIS P8117に準拠し、王研式透気度試験機EGO1型(旭精工製)にて測定した。
【0036】
(2)突刺し強度
島津製万能型試験機AGS−Xを用い、針の直径1.0mm、押し込み速度300mm/minの条件で測定し、膜が破れる時の最大荷重を突刺し強度(針貫通強度)とした。
【0037】
(3)粉落ち試験
10cm角に切ったサンプルの表裏面を、5cm角の黒色発泡クロロプレンゴム(イノアックコーポレーション社製、製品番号C−4205)で10往復こすり、目視評価を行った。
・評価基準
○:粉落ちが生じていなかった。 ×:粉落ちが生じた。
【0038】
各実施例、比較例に用いた原材料は、以下の通りである。
(ポリオレフィン系樹脂)
PO1:日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックPP FY6HA」
MFR=2.4g/10分、融点=158℃
PO2:プライムポリマー社製 商品名「ハイゼックス 3300F」
MFR=1.1g/10分、融点=132℃
PO3:日本ポリエチ社製 商品名「ノバテック SF240」
MFR=2.0g/10分、融点=126℃
(ポリプロピレン系樹脂)
PP1:日本ポリプロ社製 商品名「ノバテックPP FY6HA」
MFR=2.4g/10分、融点=158℃
(ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマー)
EL1:クラレ社製 商品名「セプトン1001」
スチレン−水添イソプレンブロックコポリマー
EL2:クラレ社製 商品名「セプトン8006」
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー
EL3:クラレ社製 商品名「セプトン2006」
スチレン−水添イソプレン−スチレンブロックコポリマー
EL4:クラレ社製 商品名「セプトン8004」
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロックコポリマー
(充填剤)
充填剤1:硫酸バリウム、平均粒径=1.1μm
【0039】
(実施例1)
中間層組成物:ポリオレフィン系樹脂として、PO1を40質量%、充填剤1を60質量%の割合で配合し、これに加えて、硬化ひまし油(KFトレーディング社製、商品名「H−COP」)を2.4重量部、酸化防止剤(BASF社製、商品名「イルガフォス168」)0.16重量部、熱安定剤(BASF社製、商品名「イルガノックス1010」)0.08重量部を添加し、同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製、口径=40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度240℃で溶融混練してストランドダイより押出した後、ストランドを水中で冷却固化し、カッターによりストランドをカットし、ペレット状に加工した中間層組成物A1を作製した。
表裏層組成物:ポリプロピレン系樹脂としてPP1を60質量%、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーとしてEL1を40質量%の割合で配合し、同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製、口径=40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度200℃で溶融混練してストランドダイより押出した後、ストランドを水中で冷却固化し、カッターによりストランドをカットし、ペレット状に加工した表裏層組成物B1を作製した。
得られた中間層組成物A1と表裏層組成物B1を別々の押出機で押出し、多層成型用のTダイを用い延伸後の膜厚比率がB1/A1/B1=1/4/1となるように200℃の溶融状態で積層させた後、シートを作製した。
次に、得られた原反シートを、ロール延伸機にて、縦方向に、延伸温度20℃、延伸倍率1.5倍で延伸した後、さらに延伸温度120℃、延伸倍率2倍で延伸し、次いで、この縦延伸フィルムの端部をテンタークリップで保持し、テンターオーブン内で、横方向に延伸温度145℃、延伸倍率3倍で延伸を行い、厚み平均130μmの多孔性フィルムを得た。
【0040】
(実施例2)
実施例1の表裏層組成物B1において、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーをEL2に変更したこと以外は、実施例1と同様に成形し、厚み平均150μmの多孔性フィルムを得た。
【0041】
(実施例3)
実施例1の表裏層組成物B1において、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーをEL3に変更したこと以外は、実施例1と同様に成形し、厚み平均140μmの多孔性フィルムを得た。
【0042】
(実施例4)
実施例1の表裏層組成物B1において、配合割合を変更したことと、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーをEL4に変更したこと以外は、実施例1と同様に成形し、厚み平均140μmの多孔性フィルムを得た。
【0043】
(実施例5)
実施例1の中間層組成物A1において、配合割合を変更し、さらに得られた原反シートを、縦方向に20℃延伸する際の延伸倍率を1.3倍としたこと以外は、実施例4と同様に成形し、厚み平均140μmの多孔性フィルムを得た。
【0044】
(実施例6)
実施例1の中間層組成物A1において、配合割合を変更し、さらに得られた原反シートを、縦方向に20℃で延伸する際の延伸倍率を1.2倍としたこと以外は、実施例4と同様に成形し、厚み平均120μmの多孔性フィルムを得た。
【0045】
(実施例7)
中間層組成物:ポリオレフィン系樹脂としてPO2を12質量%とPO3を28質量%、充填剤1を60質量%の割合で配合し、これに加えて、硬化ひまし油(KFトレーディング社製、商品名「H−COP」)を2.4質量部、酸化防止剤(BASF社製、商品名「イルガフォス168」)を0.16質量部、熱安定剤(BASF社製、商品名「イルガノックス1010」)0.08質量部を添加し、同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製、口径=40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度240℃で溶融混練してストランドダイより押出した後、ストランドを水中で冷却固化し、カッターによりストランドをカットし、ペレット状に加工した中間層組成物A2を作製した。
表裏層組成物:ポリプロピレン系樹脂としてPP1を70質量%、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーとしてEL1を30質量%の割合で配合し、同方向二軸押出機(東芝機械株式会社製、口径=40mmφ、L/D=32)に投入し、設定温度200℃で溶融混練してストランドダイより押出した後、ストランドを水中で冷却固化し、カッターによりストランドをカットし、ペレット状に加工した表裏層組成物B2を作製した。
得られた中間層組成物A2と表裏層組成物B2を別々の押出機で押出し、多層成型用のTダイを用い延伸後の膜厚比率がB2/A2/B2=1/4/1となるように200℃の溶融状態で積層させた後、シートを作製した。
次に、得られた原反シートを、ロール延伸機にて、縦方向に延伸温度20℃、延伸倍率1.5倍で延伸した後、さらに延伸温度110℃、延伸倍率2倍で延伸し、次いで、この縦延伸フィルムの端部をテンタークリップで保持し、テンターオーブン内で、横方向に延伸温度100℃、延伸倍率3倍で延伸を行い、厚み平均130μmの多孔性フィルムを得た。
【0046】
(比較例1)
実施例1の表裏層組成物B1において、ポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを、ポリアミド系樹脂(東レ社製、商品名「アミランCM1041LO」)30質量%、相溶化剤(デュポン社製、商品名「フサボンドE265」)10質量%としたこと以外は実施例1と同様に成形した。
【0047】
(比較例2)
実施例7の表裏層組成物B2において、PP1の代わりに、PO2を用いた以外は、実施例7と同様に成形し、厚み平均120μmの多孔性フィルムを得た。
【0048】
(比較例3)
中間層組成物:実施例1のポリオレフィン系樹脂をPO2に代えて、中間層組成物A3を作製した。
表裏層組成物:実施例7のポリプロプレン系樹脂に代えて、PO2を用いて、表裏層組成物B3を作製した。
得られた中間層組成物A3と表裏層組成物B3を別々の押出機で押出し、多層成型用のTダイを用い延伸後の膜厚比率がB3/A3/B3=1/4/1となるように200℃の溶融状態で積層させた後、シート化させた。
次に、得られた原反シートを、ロール延伸機にて、縦方向に延伸温度20℃、延伸倍率1.5倍で延伸した後、さらに延伸温度120℃、延伸倍率2倍で延伸し、次いで、この縦延伸フィルムの端部をテンタークリップで保持し、テンターオーブン内で、横方向に延伸温度100℃、延伸倍率3倍で延伸を行い、厚み平均120μmの多孔性フィルムを得た。
【0049】
(比較例4)
実施例7と同様に中間層組成物A2を作製し、得られた中間層組成物A2を200℃で単層で押出し、シート化させた。
次に、得られた原反シートを、実施例7と同様に成形し、多孔性フィルムを得た。
【0050】
表1 組成
【0051】
表2 成形条件と評価結果
【0052】
表1、2の結果より、実施例で得られた本発明のフィルムは、外観のムラが無く、高い透気特性を有するとともに、高い突刺し強度を有している。また、粉落ちのデメリットも無く衛生面にも優れたものであった。
比較例1で示したとおり、表裏層のポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーの代わりにポリアミド系樹脂を使用した場合、ポリアミド系樹脂の分散不良のために成形できず、フィルムが得られなかった。
比較例2,3で示したとおり、表裏層のポリプロピレン系樹脂の代わりにポリエチレン系樹脂を使用した場合、透気特性は良好であるものの、透気滅菌包材に必要な高い突刺し強度が得られなかった。また、延伸ムラが起こり、フィルム厚みや透気度の均一性が得られなかった。
さらに、比較例4で示したとおり、充填剤とポリオレフィン系樹脂のみで多孔性フィルムを作成した場合、粉落ち試験での粉落ちが目立ち、衛生面での問題を解消させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の積層型多孔性フィルムは、粉落ちもなく衛生性に優れ、高い突刺し強度を有し、また滅菌処理に必要とされる高度な通気性をムラなく均一かつ十分に有しており、医療用ブリスター包装体用蓋材等に好適に用いることができる。