特許第6063729号(P6063729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6063729誘電体磁器組成物の製造方法、積層チップ部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063729
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物の製造方法、積層チップ部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/462 20060101AFI20170106BHJP
   H01B 3/02 20060101ALI20170106BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20170106BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20170106BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C04B35/462
   H01B3/02 A
   H01B3/12 303
   H01B3/12 311
   H01G4/12 358
   H01G4/30 301E
   H01G4/30 311Z
   H01G4/12 364
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-279959(P2012-279959)
(22)【出願日】2012年12月21日
(65)【公開番号】特開2014-122144(P2014-122144A)
(43)【公開日】2014年7月3日
【審査請求日】2015年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真紀
(72)【発明者】
【氏名】大場 佳成
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−034165(JP,A)
【文献】 特開2000−264721(JP,A)
【文献】 特開2002−097072(JP,A)
【文献】 特開2004−266205(JP,A)
【文献】 特開2003−306377(JP,A)
【文献】 特開2000−086337(JP,A)
【文献】 特開平10−330161(JP,A)
【文献】 特開平08−055519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/42−35/51
H01B 3/00−3/14
H01G 4/12,4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式BaNdTi+awt%B+bwt%CuO+cwt%ZnO+dwt%ZnO系ガラスで表される誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記一般式中の前記BaNdTiで表される化合物を母材として、
前記母材の原料を混合する母材原料混合ステップと、
当該母材原料混合ステップによって得た混合物を、前記母材の焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップと、
当該仮焼成ステップ後の前記混合物に、焼結助剤として前記一般式中のBとCuOとZnOとを添加する焼結助剤添加ステップと、
当該焼結助剤添加ステップによって得た前記母材の原料と前記焼結助剤との混合物を前記焼結助剤の融解温度より低い温度で仮焼成する再仮焼成ステップと、
当該再仮焼成ステップによって得た粉体を所定の粒径に解砕する解砕ステップと、
当該解砕ステップによって得た解砕物と、バインダと、溶媒と、前記一般式中のZnO系ガラスとを混合してペースト状混合物を得るペースト形成ステップと、
当該ペースト状混合物を所定の形状に成形して上で、当該ペーストを前記仮焼成ステップにおける仮焼成温度よりも低い温度で焼成する焼成ステップと、
を含み、
前記母材原料混合ステップでは、前記一般式中のx、y、zの各値が
x+y+z=1、
0.11≦x≦0.30、
0.10≦y≦0.36、
0.44≦z≦0.75
を満たすように前記母材の原料を秤量し、
前記焼結助剤添加ステップでは、前記一般式中のa、b、cの値が、前記母材に対し、
0.10≦a≦5.30、
0.05≦b≦4.00、
0.50≦c≦3.70、
を満たすように前記焼結助剤を添加し、
前記ペースト形成ステップでは、前記一般式中のdの値が、前記母材に対し、
0.05≦d≦8.00、
を満たすように前記ZnO系ガラスを添加する、
ことを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
一般式BaNdTi+awt%B+bwt%CuO+cwt%ZnO+dwt%ZnO系ガラスで表される誘電体磁器組成物を含んで構成される積層チップ部品をスラリービルド工法によって製造するための方法であって、
前記一般式中の前記BaNdTiで表される化合物を母材として、
前記母材の原料を混合する母材原料混合ステップと、
当該母材原料混合ステップによって得た混合物を、前記母材の焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップと、
当該仮焼成ステップ後の前記混合物に、焼結助剤として前記一般式中のBとCuOとZnOとを添加する焼結助剤添加ステップと、
当該焼結助剤添加ステップによって得た前記母材の原料と前記焼結助剤との混合物を前記焼結助剤の融解温度より低い温度で仮焼成する再仮焼成ステップと、
当該再仮焼成ステップによって得た粉体を所定の粒径に解砕する解砕ステップと、
当該解砕ステップによって得た解砕物と、バインダと、溶媒と、前記一般式中のZnO系ガラスとを混合してスラリー状混合物を得るペースト形成ステップと、
当該ペースト状混合物をスクリーン印刷によりシート状に形成するシート印刷ステップと、
シート状のペーストを乾燥させる乾燥ステップと、
前記シート印刷ステップと前記乾燥ステップとを繰り返して所定の層数分のシート状ペーストからなる積層体を形成する積層体形成ステップと、
前記積層体を所定形状のチップに裁断する裁断するステップと、
前記チップを前記仮焼成ステップにおける仮焼成温度よりも低い温度で焼成する焼成ステップと、
焼成後の前記チップの表面に外部電極を形成する外部電極形成ステップと、
を含み、
前記母材原料混合ステップでは、前記一般式中のx、y、zの各値が
x+y+z=1、
0.11≦x≦0.30、
0.10≦y≦0.36、
0.44≦z≦0.75、
を満たすように前記母材の原料を秤量し、
前記焼結助剤添加ステップでは、前記一般式中のa、b、cの値が、前記母材に対し、
0.10≦a≦5.30、
0.05≦b≦4.00、
0.50≦c≦3.70、
を満たすように前記焼結助剤を添加し、
前記ペースト形成ステップでは、前記一般式中のdの値が、前記母材に対し、
0.05≦d≦8.00、
を満たすように前記ZnO系ガラスを添加する、
ことを特徴とする積層チップ部品の製造方法。
【請求項3】
請求項において、前記積層体形成ステップでは、前記積層体の層間に内導体を形成するステップが含まれていることを特徴とする積層チップ部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波特性に優れた誘電体磁器組成物とその製造方法に関する。また、当該誘電体磁器組成物を含んで構成される積層チップ部品とその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの高周波信号を扱う電子機器に使用されるバンドパスフィルタ、バランなどの電子部品(以下、高周波部品)は、アルミナやチタン酸バリウム(BaTiO:以下、BT)などの誘電体に結着剤となるガラスなどを混合したものを焼結させてなるセラミックス(誘電体磁器組成物)を主体として構成されている。そして、その誘電磁器組成物には、当然のことながら、優れた高周波特性が求められる。すなわち、比誘電率(以下、εr)と品質係数(以下、Qf)の値がともに大きい、という特性が求められる。
【0003】
ところで、アルミナなどを用いた一般的な誘電体磁器組成物は、比誘電率εrが30以下、あるいは60以上のものであるが、誘電体磁器組成物は、εrとQfとがトレードオフの関係にあることから、εrとQfをともに向上させることが難しい。したがって、高周波部品用途の誘電体磁器組成物を開発する際には、εrとQfのいずれか一方の特性を向上させつつ、他方の特性を可能な限り低下させないようにする、という方針を採らざるを得ない。そして、以下の特許文献1には、一般式xBaO−yNd−zTiO(ただし、x+y+z=1)で表される化合物を主組成物とした誘電体磁器組成物について記載されており、この特許文献1に記載されている誘電体磁器組成物では、上記主組成物の組成、および焼結助剤やガラスなどの添加剤の添加割合などを最適化することで、εr≒50、Qf≒1500の特性を達成している。
【0004】
なお、誘電体磁器組成物を含んで構成される高周波部品は、周知のシート積層プロセス(シート工法)やスラリービルド工法よって製造される。シート工法については、例えば、以下の非特許文献1に記載されている。概略的には、誘電体磁器組成物の原料(誘電体材料)を粉末状にするとともに、その原料粉末にバインダなどと混ぜてペースト状にする。そして、そのペースト状の誘電体材料を薄いシート状に形成した上で乾燥させた、所謂「グリーンシート」を作製し、そのグリーンシートを積層し、その積層体をプレス加工により各グリーンシート同士を圧着し一体化する。次いで、その一体化された積層体を切断し、チップ化し、各チップを焼成工程により誘電体磁器組成物として焼結させる。最後に、焼成後のチップの表面に外部電極を形成して積層チップ部品を完成させる。なお、必要に応じて、積層体の各層間に銀ペーストなどの電極材(内導体)を印刷して内部電極を形成する。この場合は、裁断によって積層体の切断面に外部電極を形成して、当該切断面に露出した内部電極と外部電極とを接続させることになる。
【0005】
一方、スラリービルド工法は、PETなどからなるフィルム上にペースト状の誘電体磁器組成物の原料(スラリー)をシート状に印刷し、そのシートを乾燥させる。その乾燥したシート上にスラリーを再度印刷し、乾燥させる。この印刷工程と乾燥工程を繰り返して、積層体を形成し、その積層体をチップ状に裁断し、各チップを焼結させるとともに外部電極を形成して積層チップ部品を完成させる。この場合も必要に応じて積層体の各層間に内導体を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−187236号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】TDK株式会社、”積層セラミックチップコンデンサの技術革新”、[online]、[平成24年11月30日検索]、インターネット<URL:http://www.tdk.co.jp/techmag/condenser/200804/index.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来の誘電体磁器組成物は、比誘電率εrと品質係数Qfとがトレードオフの関係にあり、双方の特性をともに向上させることが難しい。確かに、上記特許文献1に記載の技術では、ある程度の特性が得られているが、品質係数Qfについては、近年のGHz帯の無線信号を扱うような用途では、さらなる特性向上が求められる。例えば、Qf≧3000以上などを目標とすべきである。
【0009】
また、誘電体磁器組成物を含んで構成される積層チップ部品は、シート工法で製造されることが多いが、このシート工法では、積層体を加圧することで、焼結体としての誘電体磁器組成物の緻密性や焼結性を確保している。しかし、シート工法では、乾燥させた状態で、ある程度の剛性を有するグリーンシートからなる積層体を加圧することになり、内導体を厚くすると、グリーンシートにおいて内導体が形成されている領域の周囲に応力が掛かり、亀裂が発生する可能性がある。亀裂の発生を抑制するために内導体を薄くすれば、高周波部品に求められる共振のピークの先鋭度であるQ値が下がり、挿入損失の増大につながる。
【0010】
一方、スラリービルド工法では、内導体を厚くしてもその内導体上に柔らかいスラリー状の誘電体材料を印刷するため、亀裂などが発生し難い。すなわち、内導体を厚くして挿入損失を低くすることができる。しかし、スラリービルド工法では、加圧工程がないので、十分な緻密化が図れない。すなわち、焼結性が悪く、実用可能な誘電磁器組成物が得られない。また、スラリービルド工法では、積層体の各層をスクリーン印刷によって形成するため、1層当たりの厚さが5〜10μmの厚さとなる。すなわち、サブミクロン単位での厚さ制御が極めて難しい。そのため、εr>60程度の誘電率の大きな材料では、厚さの変動によってコンデンサ容量のバラツキが大きくなり、特性が安定しない。
【0011】
また、内導体を備えた積層チップ部品では、製造コストを低下させるための一つの手法として、内導体に安価な銀(Ag)を用いることが考えられるが、一般的な誘電体磁器組成物の焼成温度は1000℃以上であり、誘電体磁器組成物によく用いられるBTは1300℃である。すなわちAgの融点(960℃)以上であり、この融点に近い温度で焼成すると、内導体を構成するAgが溶解したり、セラミックス中に拡散したりしてしまう。そのため、従来では、Agの融点を上げるため、Agにパラジウム(Pd)を混合したり、セラミックスの粉体を混合したりしていた。しかし、Pdは希少金属でありコストアップを招く。また、セラミックスの粉体を混合すれば、内導体の抵抗が増加し、挿入損失が増加する。特許文献1に記載の誘電体磁器組成物では、低い焼成温度でも緻密性が確保されているが、シート工法で積層チップ部品を製造した際の緻密性であり、シート工法を前提とする以上、その積層チップ部品のQ値をさらに高めることが難しい。実際に、Qfの値は1500程度である。
【0012】
したがって本発明は、積層チップ部品を形成する際にスラリービルド工法に適した特性を備えつつ、圧着工程を経ずに、かつ低温で焼成しても緻密性、焼結性に優れてQfが高い誘電体磁器組成物を提供することを目的としている。なお、その他の目的については、以下の記載にて明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明は、一般式BaNdTi+awt%B+bwt%CuO+cwt%ZnO+dwt%ZnO系ガラスで表される誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記一般式中の前記BaNdTiで表される化合物を母材として、
前記母材の原料を混合する母材原料混合ステップと、
当該母材原料混合ステップによって得た混合物を、前記母材の焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップと、
当該仮焼成ステップ後の前記混合物に、焼結助剤として前記一般式中のBとCuOとZnOとを添加する焼結助剤添加ステップと、
当該焼結助剤添加ステップによって得た前記母材の原料と前記焼結助剤との混合物を前記焼結助剤の融解温度より低い温度で仮焼成する再仮焼成ステップと、
当該再仮焼成ステップによって得た粉体を所定の粒径に解砕する解砕ステップと、
当該解砕ステップによって得た解砕物と、バインダと、溶媒と、前記一般式中のZnO系ガラスとを混合してペースト状混合物を得るペースト形成ステップと、
当該ペースト状混合物を所定の形状に成形して上で、当該ペーストを前記仮焼成ステップにおける仮焼成温度よりも低い温度で焼成する焼成ステップと、
を含み、
前記母材原料混合ステップでは、前記一般式中のx、y、zの各値が
x+y+z=1、
0.11≦x≦0.30、
0.10≦y≦0.36、
0.44≦z≦0.75
を満たすように前記母材の原料を秤量し、
前記焼結助剤添加ステップでは、前記一般式中のa、b、cの値が、前記母材に対し、
0.10≦a≦5.30、
0.05≦b≦4.00、
0.50≦c≦3.70、
を満たすように前記焼結助剤を添加し、
前記ペースト形成ステップでは、前記一般式中のdの値が、前記母材に対し、
0.05≦d≦8.00、
を満たすように前記ZnO系ガラスを添加する、
ことを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法としている。
【0016】
本発明は、上記積層チップ部品の製造方法にも及んでおり、当該積層チップ部品の製造方法は、一般式BaNdTi+awt%B+bwt%CuO+cwt%ZnO+dwt%ZnO系ガラスで表される誘電体磁器組成物を含んで構成される積層チップ部品をスラリービルド工法によって製造するための方法であって、
前記一般式中の前記BaNdTiで表される化合物を母材として、
前記母材の原料を混合する母材原料混合ステップと、
当該母材原料混合ステップによって得た混合物を、前記母材の焼結温度より低い所定の温度で焼成する仮焼成ステップと、
当該仮焼成ステップ後の前記混合物に、焼結助剤として前記一般式中のBとCuOとZnOとを添加する焼結助剤添加ステップと、
当該焼結助剤添加ステップによって得た前記母材の原料と前記焼結助剤との混合物を前記焼結助剤の融解温度より低い温度で仮焼成する再仮焼成ステップと、
当該再仮焼成ステップによって得た粉体を所定の粒径に解砕する解砕ステップと、
当該解砕ステップによって得た解砕物と、バインダと、溶媒と、前記一般式中のZnO系ガラスとを混合してスラリー状混合物を得るペースト形成ステップと、
当該ペースト状混合物をスクリーン印刷によりシート状に形成するシート印刷ステップと、
シート状のペーストを乾燥させる乾燥ステップと、
前記シート印刷ステップと前記乾燥ステップとを繰り返して所定の層数分のシート状ペーストからなる積層体を形成する積層体形成ステップと、
前記積層体を所定形状のチップに裁断する裁断するステップと、
前記チップを前記仮焼成ステップにおける仮焼成温度よりも低い温度で焼成する焼成ステップと、
焼成後の前記チップの表面に外部電極を形成する外部電極形成ステップと、
を含み、
前記母材原料混合ステップでは、前記一般式中のx、y、zの各値が
x+y+z=1、
0.11≦x≦0.30、
0.10≦y≦0.36、
0.44≦z≦0.75、
を満たすように前記母材の原料を秤量し、
前記焼結助剤添加ステップでは、前記一般式中のa、b、cの値が、前記母材に対し、
0.10≦a≦5.30、
0.05≦b≦4.00、
0.50≦c≦3.70、
を満たすように前記焼結助剤を添加し、
前記ペースト形成ステップでは、前記一般式中のdの値が、前記母材に対し、
0.05≦d≦8.00、
を満たすように前記ZnO系ガラスを添加する、積層チップ部品の製造方法としている。なお、前記積層体形成ステップでは、前記積層体の層間に内導体を形成するステップが含まれている積層チップ部品の製造方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の誘電体磁器組成物によれば、積層チップ部品を形成する際にスラリービルド工法に適した比誘電率を有しつつ、極めて優れたQf特性を有している。また、高い緻密性と焼結性を低温焼成によって達成している。そして、本発明に係る積層チップ部品は、高い高周波特性を備えた誘電体磁器組成物を含んで構成されているとともに、スラリービルド工法によって安定して製造することが可能であり、挿入損失が低く高いQ値を備えており、かつ安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例に係る誘電体磁器組成物の製造方法を説明するための工程図である。
図2】誘電体磁器組成物を含んで構成される積層チップ部品の内部構造を示す図である。
図3】上記積層チップ部品の高周波特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
===本発明に想到する過程===
本発明者は、高周波特性に優れた誘電体磁器組成物を開発するのに当たり、まず、Qf≧3000を目標とした。そして、誘電体磁器組成物を用いて内導体を有する積層チップを形成した際には、その積層チップ部品のQ値を大きくすることが必要であることから、内導体の厚さを確保できるスラリービルド工法に適したものにすることを考えた。しかし、スラリービルド工法では、厚さの制御が難しいことから、厚さによるコンデンサ容量のバラツキを抑制するために、εrについては、30≦ε≦60を目標とした。さらに、内導体を安価な銀のみで形成できるようにするためには、焼成温度が低くても十分に緻密性や焼結性が確保されていることが必要であるから、銀の融点以下の焼成温度でも焼結可能とすることも目標とした。そして、本発明は、以上の目標を達成するために鋭意研究を重ねた結果なされたものである。
【0020】
===誘電体磁器組成物の構造===
本発明の実施例における誘電体磁器組成物は、BaNdTiを主組成物(以下、母材)としつつ、焼結剤や結着剤となるガラスの種類とその添加量を適切に設定することで、上述した目標となる特性を達成している。概略的には、一般式BaNdTi+awt%B+bwt%CuO+cwt%ZnO+dwt%ZnO系ガラスで表される誘電体磁器組成物である。なお、母材であるBaNdTiは、BT中のBaをNdに置換した物質であり、x+y+z=1となる。また、上記一般式におけるa〜dを母材に対する割合としている。そして、当該誘電体磁器組成物では、その一般式中に、物質としては同じZnOが、焼結助剤としてcwt%の割合で含まれているとともに、ガラスとしてdwt%の割合で含まれている点に特徴がある。すなわち、上記一般式によって表現される誘電体磁器組成物では、「BaNdTi+awt%B+bwt%CuO+cwt%ZnO」で表される混合物からなる結晶粒同士がZnO系ガラスによって強固に結着した構造となる。
【0021】
なお、実施例において使用したZnO系ガラスの組成は、d1wt%ZnO+d2wt%SiO+d3wt%B+d4wt%MgO+d5wt%KO+d6wt%CaO+d7wt%Al+d8wt%BaOで表され、30≦d1≦70,4≦d2≦40,3≦d3≦10,0≦d4≦10,0≦d5≦6,0≦d6≦4,0≦d7≦5,0≦d8≦10の範囲のものである。
【0022】
===サンプル===
上記一般式で表現される誘電体磁器組成物(以下、本誘電体材料)について、優れた高周波特性を得るために、組成(x,y,z,a〜dの値)を最適化した。具体的には、本圧電材料の上記一般式中のx,y,z,a〜dの値を変えた多種多様な本誘電体材料を作製した。
【0023】
<製造方法>
図1に、本誘電体材料の製造手順を具体的に示した。この図に示したように、まず、母材の原料となるBaCO、TiO、Ndを本誘電体材料における母材の組成(x、y、zの値)に応じて秤量し、この母材の原料をボールミル中で溶媒となるアルコール(エタノールなど)を入れて20h湿式混合する(s1)。それによって、母材の原料の混合物が粉体状に粉砕される。そして、この粉体状の混合物を大気中にて母材の焼結温度(約1300℃)よりも低い1000℃〜1200℃の温度で3時間n(h)〜5h仮焼成する(s2)。なお、母材中のBTを原料から生成せず、すでにBTの状態で市販されている材料を使用するのであれば、この仮焼成工程における温度を上記温度よりも低くすることができる。いずれにしても、母材の焼結温度よりも低い温度であればよい。
【0024】
さらに、仮焼成によって得た粉体状の母材の原料に焼結助剤となるCuOとBをボールミルによって20h混合しながら粉砕する(s3)。そして、この母材と焼結助剤の原料からなる粉体状の混合物を再び仮焼成(再仮焼成)する(s4)。この再仮焼成は、焼結助剤が融解しない温度で行う必要があり、ここでは、大気中で700℃〜900℃の温度で行う。そして、焼成により微細な結晶粒が緻密な状態で焼結されるように、再仮焼成後の粉体を3μm以下の粒径となるように解砕する(s5)。
【0025】
そして、再仮焼成工程(s4)と解砕工程(s5)を経た母材の原料と焼結助剤とを含んだ混合物の解砕物に対し、エチルセルロースなどのバインダを20〜50wt%、ターピネオールなどの溶媒を20〜50wt%添加し、さらに、サンプルに応じた割合で結着剤、すなわち最終的にガラスとして残るZnOを加え、3本ロールミルを用いてペースト状にする(s6)。なお、このペーストには、必要に応じて分散剤や可塑剤を適量添加してもよい。そして、そのペーストを真空中にて脱泡する(s7)。
【0026】
なお、ここで、このペーストを適当な形状とサイズに成型した上で焼成すれば、本誘電体材料そのものとなるが、ここでは、本誘電体材料を含んで構成される積層チップ部品をスラリービルド工法によって製造した際に、十分な誘電特性や緻密性を有しているか否かを評価する必要性があることから、上記の工程(s1〜s7)の後に、さらに、以下の工程によって積層チップ部品を製造した。
【0027】
具体的には、まず、PETフィルム上に脱泡後のペーストをスクリーン印刷によりシート状に塗布する(s8)。ついで、そのシート状に塗布されたベーストを乾燥させる(s9)。それによって、積層チップ部品における一層分に対応するシートが形成される。そして、その乾燥したシートの上にさらにペーストをスクリーン印刷により塗布し(s10→s8)、このスクリーン印刷工程(s8)と乾燥工程(s9)を所望の層数となるまで繰り返す。なお、内導体を形成する場合は、乾燥工程(19)と、その次のスクリーン印刷工程(s20→s18)の間に内導体を印刷形成する工程を挿入すればよい。
【0028】
印刷工程(s8)と乾燥工程(s9)を繰り返して目標とする層数分のシートからなる積層体を形成したならば、その積層体を個々の積層チップ部品の形状と大きさの「チップ」に裁断し(s10→s11)、その裁断したチップを焼成する(s12)。ここでは、内導体にAgを用いることを想定し、940℃で焼成する。最後に、焼成後のチップに外部電極端子を形成し(s13)、積層チップ部品を完成させる。そして、この積層チップ部品を特性評価用のサンプルとし、各サンプルについての特性を評価した。
【0029】
なお、各サンプルについての評価は、εr、Qf、および相対密度ρr(%)を測定し、その測定結果に基づいてサンプルごとに合否を判定することで行った。また、合格となるための判定基準は、上述した目標に基づいて、30≦ε≦60、Qf≧3000、ρr≧95%とした。
【0030】
表1に各サンプルにおける本誘電体材料の組成と評価結果を示した。
【表1】
【0031】
===本誘電体材料の適正組成===
表1に基づいて、合格判定となったサンプルについての組成を調べた。そして、まず、母材以外の組成が同じNo.11〜22のサンプルに基づいて、母材の組成について検討すると、0.11≦x≦0.30、0.10≦y≦0.36、0.44≦z≦0.75を全て満たすことが必要条件となる。焼結助剤やガラスについては、母材の組成が同じNo.23〜34のサンプルに基づいて、最適な割合を特定することができる。例えば、Bであれば、それ以外の組成が同じNo.23〜26のサンプルに基づいて、Bの割合aの適正範囲は、0.10≦a≦0.53であることがわかる。同様にして、CuOの割合bの適正範囲を、No.27〜30のサンプルに基づいて、0.05≦b≦4.00と規定することができる。また、焼結助剤としてのZnOの割合cの適正範囲を、No.31〜34のサンプルに基づいて、0.50≦c≦3.70と規定することができ、ガラスとしてのZnOの割合dの適正範囲を、No、7〜10のサンプルに基づいて0.05≦d≦8.00と規定することができる。
【0032】
また、No.1〜6のサンプルは、x、y、z、a〜dの値を上記の適正範囲内で可変させたものである。そして、これらのサンプルは全て合格判定となっており、上記適正範囲が妥当である、ということがこのNo.1〜6のサンプルからも立証された。
【0033】
そして、本誘電体材料は、その組成を上記の適正範囲に規定することで、比誘電率εrの値を比較的高い30≦εr≦60の値に維持しつつ、極めて高いQfを達成している。例えば、No.21のサンプルでは、εr≒50で、Qf≧8000を達成している。すなわち、上記特許文献1に記載の誘電体磁器組成物に対し、εrの特性を維持しつつ、Qfを4倍以上も向上させている。しかも、ρr≧95%であり、十分な緻密性が確保されている。
【0034】
そして、組成が適正化された本誘電体材料における優れた誘電手特性について考察すると、確かに、εrとQfとが互いにトレードオフの関係となっているものの、母材中のNdによって誘電率を向上させ、さらに、その母材の原料を高温で仮焼成しているため、εrの低下が抑止され、高いεr(≧30)を維持できたものと思われる。また、その焼結助剤を仮焼成された母材の粉体状原料に加えて再度仮焼成しているため、焼結助剤を構成する元素が母材の原料中に均一に分散され、再仮焼成後の原料粉体を微細(3μm以下)に解砕することの相乗効果により、低温焼成でも十分に緻密化させることができたものと思われる。ガラスを再仮焼成後に添加した上で焼成していることも、緻密化に大きく寄与し、εrとトレードオフの関係にあるQfを大きく低下させず、母材本来の高い値を維持できたものと思われる。
【0035】
参考までに、図2に、各種誘電体磁器組成物の内部構造の電子顕微鏡写真を示した。図2(A)は、従来の誘電体磁器組成物を含んで構成される積層チップ部品の断面を示しており、当該積層チップ部品は、シート工法、すなわち加圧工程を含む工程によって作製されたものである。(B)は、(A)に示した積層チップ部品と同じ誘電体磁器組成物からなる積層チップ部品であるが、加圧工程を経ずに焼成したものである。(C)は、表1と表1に示した上記サンプルのうち、合格判定となったサンプルのうちρr=99%のサンプルの内部構造を示している。
【0036】
(A)に示した電子顕微鏡写真より、加圧工程を経て作製された積層チップ部品では、内部の誘電体磁器組成物の組織が緻密化されている。そして、ρr=98%であった。(B)に示した積層チップ部品の内部組織を見ると、加圧工程を経ていないため、誘電体磁器組成物の組成が同じでも、黒い斑点として観察される大きな空隙が散在し、緻密化が不十分となっている。相対密度ρrも92%と低く、電子顕微鏡による観察結果と一致していた。一方、(C)に示した積層チップ部品の内部組織では、加圧工程が不要なスラリービルド工法によって作製されたのにもかかわらず、組成が適正化された本誘電体材料を含んで構成されており、十分に緻密化されている。
【0037】
以上より、組成が最適化された本誘電体材料は、30以上の高い比誘電率εrを確保しつつ、厚さ制御が難しいスラリービルド工法による積層チップ部品の製造にも対応できるように、コンデンサ容量のバラツキが抑止可能な60以下に制御されている。そして、極めて高いQfを有している。
【0038】
また、加圧工程を不要としながら95%以上の相対密度ρrを有して十分に緻密化されている。そのため、積層チップ部品における層間に内導体を形成する際には、その内導体の厚さを厚くすることが可能となり、積層チップ部品のQ値を高め、挿入損失を低減させることが可能となる。
【0039】
===積層チップ部品の高周波特性===
上述したように、組成が適切に調整された本誘電体材料は、30≦εr≦60、およびQf≧3000の優れた高周波特性を備えているとともに、低温(940℃)で焼成しても十分に緻密化が図られている。そのため、スラリービルド工法によって高周波特性に優れた積層チップ部品を形成することが可能となる。そこで、組成が最適された本誘電体材料を含んで構成される積層チップ部品としてバンドパスフィルタを作製し、その特性を評価した。
【0040】
図3は、組成が適切に調整されて、εr=48、Qf=4000の特性を有する本誘電体材料を含んで構成されるバンドパスフィルタ(実施例)と、一般に市販されているεr=25、Qf=2500の特性を有する従来のバンドパスフィルタ(比較例)の高周波特性を示している。図3(A)は、実施例と比較例の信号周波数と挿入損失との関係を示すグラフであり、(B)は、(A)における円c内を拡大した図である。(B)に示したように、実施例では、2〜3GHzの高周波信号に対する挿入損失が比較例よりも軽減されていることがわかる。とくに、無線通信用の高周波信号としてよく使用される2.4GHzにおいて、比較例では、2.83dBの挿入損失であったのに対し、実施例では、2.38dBに改善されている。したがって、組成が最適化された本誘電体材料を含んで構成されている積層チップ部品は、優れた高周波特性を備えている、ということが立証された。なお、上記実施例では、極めて優れた高周波特性を有していることから、この実施例に対応して、組成が適切に調整された本誘電体材料において、εr≧40、Qf≧4000の特性を備えたものも本発明の範囲とした。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、バンドパスフィルタなどの高周波信号を扱う電子部品などに適用できる。
【符号の説明】
【0042】
s1 母材原料混合工程、s2 母材仮焼成工程、s3 焼結剤混合工程、
s4 再仮焼成工程、s5 解砕工程、s6 ガラス添加・ペースト作製工程、
s8 スクリーン印刷工程、s11 裁断工程、s12 焼成工程
図1
図3
図2