【文献】
野原隆彦;足立稔;羽根田紀幸,長距離走における乳酸蓄積臨界点での走行速度と心拍数に関する研究,島根医科大学紀要,日本,島根大学,2003年,Vol.26, pp.1-9,URL,http://ir.lib.shimane-u.ac.jp/detail/590320060424000000
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定の運動能力指標値とは、予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要した時間、または所定の運動強度で走行したときの速度、または所定の運動強度で所定時間走行したときの距離のいずれかである請求項1または請求項2に記載の電子機器。
前記基準走行速度は、AT速度、心肺能力を強化するために設定される速度である心肺能力強化速度、または最大運動強度で走ったときの速度である最大速度である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子機器。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるランニングウォッチシステム1の装置構成を示す概略構成図である。同図において、ランニングウォッチシステム1は、チェストストラップ100と、ランニングウォッチ200とを備える。
ランニングウォッチシステム1は、例えばランニングなどスポーツを行うユーザに対して心拍数やラップタイム等の情報を提供する。以下、本実施形態では、一例として1分あたりの心拍数を心拍数として説明する。
【0021】
チェストストラップ100は、例えばユーザの胸部に装着され、ユーザの心拍を検出し、該検出した心拍に同期した心拍信号をランニングウォッチ200に無線送信する。ランニングウォッチ200は、心拍数やラップタイム等の情報を表示することで、これらの情報をユーザに提供する。具体的には例えば、ランニングウォッチ200は、チェストストラップ100から心拍信号を受信し、受信した心拍信号に基づいて心拍数を示す情報を表示する。また、ランニングウォッチ200は、例えば時刻やラップタイムやスプリットタイムを表示画面に表示する。本実施形態におけるランニングウォッチ200は、本発明における電子機器の一例に該当する。
【0022】
なお、本実施形態では、電子機器の一例としてランニングウォッチ200について説明するが、これに限ったものではなく、電子機器はルームランナーでもよい。
また、本発明において測定装置が電子機器に生体信号を伝達する形態は、無線通信に限らず有線通信であってもよい。また、測定装置が電子機器に内蔵されていてもよい。
【0023】
図2は、ランニングウォッチシステム1の構成を示す概略ブロック図である。同図において、ランニングウォッチシステム1は、チェストストラップ100と、ランニングウォッチ200とを具備する。チェストストラップ100は、センサ部110と、送信部120とを備える。ランニングウォッチ200は、受信部210と、処理部220と、表示部240と、操作入力部250と、記憶部260とを備える。
【0024】
センサ部110は、心拍センサを有し、ユーザの心拍を検出し、検出した心拍に同期した心拍信号を送信部120へ出力する。心拍信号は例えば、予め決められた閾値を超える場合に1を示し、それ以外の場合に0を示す信号である。本実施形態では、一例として、ユーザが5kmをランニングするときの心拍を検出し、検出した心拍に同期した心拍信号を送信部120へ出力する。
送信部120は、センサ部110が出力した心拍信号を無線等の通信手段にてランニングウォッチ200へ送信する。
【0025】
受信部210は、チェストストラップ100の送信部120から無線で送信された心拍信号を受信し、受信した心拍信号を処理部220へ出力する。
処理部220は、受信部210が受信した心拍信号に基づいて心拍数を算出し、算出した心拍数を表示画面に表示する。また、処理部220は、操作入力部250がユーザによる計測開始の入力操作を受け付けた時から操作入力部250がユーザによる計測終了の入力操作を受け付けた時までの時間を測定する。また、処理部220は、算出した心拍数及び測定した時間を示す情報を、ユーザ操作に応じて記憶部260に記憶させる。そして、処理部220は、操作入力部250が検出したユーザ操作に応じて、その心拍数及びその時間を示す情報を表示部240に表示させる。処理部220は、クロック信号を生成する発振器を有し、クロック信号を用いて時間の測定を行う。
【0026】
表示部240は表示画面を有し、処理部220の制御に従って、心拍数を示す情報や時間を示す情報など、処理部220が出力した情報を表示する。
操作入力部250は押ボタンを有し、当該押ボタンを押下するユーザ操作を検出する。操作入力部250は、検出したユーザ操作を示すユーザ操作情報を処理部220へ出力する。
【0027】
記憶部260には、例えば、性別毎に、AT速度と予め決められた距離を最大運動強度で走ったときのタイムとの対応関係が記憶されている
。最大運動強度で走ったときのタイムは、例えば、予め決められた距離を全速力で走った場合のタイムである。本実施形態では、予め決められた距離を最大運動強度で走ったときのタイムは、一例として5km走の自己ベストタイムである。すなわち本実施形態では一例として記憶部260には、例えば、性別毎に、AT速度と5km走の自己ベストタイムとの対応関係が記憶されている。この対応関係は、複数の被験者による統計データに基づいて決められている。なお、自己ベストタイムは、5km走の自己ベストタイムに限らず、10km走など他の距離の自己ベストタイムであってもよい。
【0028】
本発明の発明者(以下、本発明者という)は、走行速度と心拍数との関係には、被験者全員に共通する傾向があることを発見した。より具体的には、本発明者は、走行速度の変化量に対する心拍数の変化量(すなわち走行速度を横軸、心拍数を縦軸にした場合の傾き)が人によらずほぼ一定であることを発見した。このことから、走行速度の変化量に対する心拍数の変化量は、被験者全員に共通する一定の値である。ここで走行速度の変化量に対する心拍数の変化量とは、すなわち、心拍数を走行速度の一次関数で表したときの一次の係数である。また、走行速度の変化量に対する心拍数の変化量は、走行速度を横軸に心拍数を縦軸にして、走行速度と心拍数との関係をグラフ化した際の傾きである。本実施形態では一例として記憶部260には走行速度の変化量に対する心拍数の変化量を示す変化率情報が記憶されている。なお、本実施形態では、記憶部260が走行速度の変化量に対する心拍数の変化量を示す変化率情報を保持したが、これに限らず、記憶部260には、予め決められた走行速度と心拍数との対応関係が記憶されていればよく、例えば記憶部260には、走行速度と心拍数とが関連付けられたテーブルが記憶されていてもよい。
【0029】
図3は、本実施形態における処理部220の機能構成を示す概略ブロック図である。処理部220は、基準走行速度決定部221と、心拍数算出部222と、時間測定部223と、実走速度算出部224と、決定部225と、表示制御部228とを備える。
基準走行速度決定部221は、例えば操作入力部250から入力されたユーザ操作情報から、ユーザが入力したベストタイムと性別を取得する。基準走行速度決定部221は、例えば、記憶部260に記憶されている、取得した性別のAT速度と5kmのベストタイムとの対応関係を参照して、取得したベストタイムに対応するAT速度を取得する。基準走行速度決定部221は、取得したAT速度を決定部225の後述する基準心拍数決定部227へ出力する。
【0030】
心拍数算出部222は、受信部210が受信した心拍信号に基づいて、実際に走ったときの心拍数である実走心拍数を算出する。具体的には例えば心拍信号が0または1の信号の場合、心拍数算出部222は、受信した心拍信号のうち、1分間に1を示す信号を計数することで心拍数を実走心拍数として算出する。心拍数算出部222は、算出した実走心拍数を示す心拍数情報を決定部225の後述する対応関係決定部226へ出力する。
【0031】
時間測定部223は、時間を測定する。本実施形態では、一例として時間測定部223は、ユーザが心拍を計測しながら5kmをランニングしたときに、その5kmを完走するのに要した時間を計測する。時間測定部223は、計測した時間を示す所要時間情報を実走速度算出部224へ出力する。
【0032】
実走速度算出部224は、操作入力部250から入力されたユーザ操作情報から、ユーザが入力した走行距離を取得する。本実施形態では、一例としてユーザが心拍を計測しながら5kmをランニングする前に、ユーザが走行距離として「5km」を入力したとすると、実走速度算出部224は、「5km」を取得する。実走速度算出部224は、一例として、取得した走行距離を時間測定部223から入力された所要時間情報が示す時間で割ることで実際に走ったときの速度である実走速度を算出する。具体的には、例えば、5kmを完走するのに要した時間が20分の場合、実走速度は、「5km」が示す5を60倍して、20で割った15km/hである。実走速度算出部224は、算出した実走速度を示す実走速度情報を決定部225の後述する対応関係決定部226へ出力する。
【0033】
決定部225は例えば、実走速度と実走心拍数とに基づいて、走行速度に対応する心拍数の対応関係を決定する。そして決定部225は例えば、決定した対応関係を参照して、AT速度に対応するAT心拍数を決定する。ここで、決定部225は、対応関係決定部226と基準心拍数決定部227とを備える。
対応関係決定部226は、ユーザについて実測された走行速度と心拍数と予め決められた走行速度の変化量と心拍数の変化量との対応関係とに基づいて、走行速度と心拍数との対応関係を決定する。具体的には例えば、対応関係決定部226は、記憶部260に記憶された変化率情報を読み出す。ここで、変化率情報は、心拍数を走行速度の一次関数で表したときの一次の係数を示す。対応関係決定部226は、心拍数算出部222が算出した実走心拍数と実走速度算出部224で算出された実走速度とを用いて、心拍数を走行速度の一次関数で表したときの切片を算出する。これにより、心拍数についての走行速度の一次関数が一意に決定される。対応関係決定部226は、心拍数についての走行速度の一次関数を示す情報を基準心拍数決定部227へ出力する。
【0034】
基準心拍数決定部227は、対応関係決定部226が決定した対応関係に基づいて、AT速度に対応するAT心拍数を決定する。具体的には例えば、基準心拍数決定部227は、心拍数についての走行速度の一次関数に、基準走行速度決定部が取得したAT速度を代入することで、AT心拍数を算出することで決定する。基準心拍数決定部227は、決定したAT心拍数を示す情報を表示制御部228へ出力する。
【0035】
表示制御部228は、表示部240を制御して表示部240に各種情報を表示させる。例えば、表示制御部228は、基準心拍数決定部227が決定したAT心拍数を基準にした範囲(以下、ATゾーンという)を決定し、該生成したATゾーンを表示する。具体的には例えば、表示制御部228は、ATゾーンの一例として、AT心拍数±所定の値(例えば10)の範囲を決定し、この範囲を表示部240に表示させる。
なお、表示制御部228は、ATゾーンの一例として、AT心拍数±AT心拍数×所定の比率(例えば10%)の範囲を決定し、この範囲を表示部240に表示させてもよい。
【0036】
図4は、基準走行速度決定部221の処理の概念を説明するための図である。同図において記憶部260に記憶されている走行速度とベストタイムとの関係を示す曲線L41の一例が示されている。ここで縦軸は走行速度で横軸はベストタイムである。ユーザが入力したベストタイムが与えられると、破線の矢印A42及び破線の矢印A43に示すように同図の曲線L41において、与えられたベストタイムに対応する走行速度が一意に決まる。その決まった速度がAT速度である。よって、基準走行速度決定部221は、走行速度とベストタイムとの関係を参照して、ユーザが入力したベストタイム入力値に対応する速度をAT速度として取得することができる。
【0037】
図5は、決定部225の処理の概念を説明するための図である。同図において記憶部260に記憶されている変化率情報が示す走行速度の変化量に対する心拍数の変化量を傾きとする直線L51が示されている。ここで、走行速度の変化量に対する心拍数の変化量(すなわち、直線L51の傾き)の値のみが定数として既知であるので、この直線L51は、傾きのみ決まっており、切片が任意の直線である。その直線L51が、実走速度と実走心拍数とで定まる一点P52を通るように、破線の矢印A53に示すように平行移動すると直線L54が得られる。ここで実走速度は、ユーザが走った距離をユーザがその距離を走るのに要した時間で割ることにより得られ、実走心拍数は例えばその距離をユーザが走ったときの平均心拍数である。この平行移動の処理は、対応関係決定部226における直線L54の切片を算出する処理に相当する。直線L54は、対応関係決定部226が補正した後の、走行速度と心拍数との対応関係の一例である。破線の矢印A55及び破線の矢印A56に示すように、基準走行速度決定部221で算出されたAT速度が与えられると、直線L54において、与えられたAT速度に対応するAT心拍数が一意に決まる。よって、決定部225は、例えば予め決められた走行速度の変化量に対する心拍数の変化量と実走速度と実走心拍数とに基づいて、心拍数について走行速度の一次関数を算出し、算出した一次関数にAT速度を代入してAT心拍数を算出する。
【0038】
続いて、表示部240の表示画面の例について
図6〜8の例を用いて説明する。
図6〜8の例に共通して、表示画面の上段に、ATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報と、ハートマークと、現在の心拍数とが表示されている。ここで
図6〜8の例では、ATゾーンは120〜140である。また、表示画面の下段に、クロノグラフ計測時間の一例としてLAPタイムが表示されている。なお、下段の表示はLAPタイムに限らず、SPLITタイム、現在時刻、タイマーの計測時間など、いかなる情報でもよい。
【0039】
図6において、現在の心拍数がATゾーンの最大心拍数を超えた場合の表示画面の一例である。同図の表示画面の上段には、ATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報として「HI」が表示されている。ここで、「HI」は現在の心拍数がATゾーンの最大心拍数を超えていることを意味する。また、表示画面の上段には現在の心拍数として「160」が表示されている。
【0040】
図7において、現在の心拍数がATゾーンの範囲内の場合の表示画面の一例である。同図の表示画面の上段には、ATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報として「IN」が表示されている。ここで「IN」は現在の心拍数がATゾーンの範囲内であることを意味する。また、表示画面の上段には現在の心拍数として「140」が表示されている。
【0041】
図8において、現在の心拍数がATゾーンの最小心拍数を下回った場合の表示画面の一例である。同図の表示画面の上段には、ATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報として「LO」が表示されている。ここで「LO」は現在の心拍数がATゾーンの最小心拍数を下回っていることを意味する。また、表示画面の上段には現在の心拍数として「120」が表示されている。
【0042】
図6〜8の表示制御部228の処理についてまとめると、表示制御部228は、AT心拍数を基準とする心拍の範囲(本実施形態では、一例として120〜140)を決定し、該決定した範囲に対する心拍数の大小関係に関する情報(本実施形態では、一例として「HI」、「IN」、「LO」)を表示させる。決定した範囲に対する心拍数の大小関係に関する情報とは、具体的には、例えばATゾーンに対してその範囲内か、あるいはその範囲より上か下かを示す情報である。更に、表示制御部228は、心拍数算出部222が算出した心拍数に関する情報(例えば、140などの現在の心拍数)も表示させてもよい。
【0043】
なお、本実施系形態では、表示制御部228は一例としてATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報(例えば、「HI」、「IN」及び「LO」)とハートマークと心拍数との組を表示させたが、これに限らず、少なくともATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報を表示させればよい。また、「HI」、「IN」及び「LO」は一例であって、この表記に限らず、ATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係が分かる情報であればよい。またハートマークは一例であって、このマークに限ったものではなく、どんなマークでもよい。また、表示制御部228は、ATゾーンに対する現在の心拍数の大小関係に関する情報に応じて、マークの種類、マークの形状またはマークの点灯状態を変化させてもよい。
【0044】
図9は、本実施形態におけるランニングウォッチシステム1の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
(ステップS101)まず、基準走行速度決定部221は、操作入力部250が受け付けたユーザ操作に基づいて、例えばユーザの5kmの自己ベストタイムを取得する。
(ステップS102)次に、基準走行速度決定部221は、取得した自己ベストタイムに応じたAT速度を取得する。
【0045】
(ステップS103)次に、ユーザが走る前にそのユーザが走行する予め決められた距離を入力するために操作入力部250を操作した場合、操作入力部250は、このユーザ操作を受け付ける。そして実走速度算出部224は、操作入力部250が受け付けたユーザ操作に基づいて、走行距離を取得する。
(ステップS104)次に、ユーザが走り始めるのと同時に走行時間の計測開始を指示するために操作入力部250を操作した場合、操作入力部250は、走行時間の計測開始の入力を受け付ける。
【0046】
(ステップS105)次に、時間測定部223は、走行時間の計測を開始する。また、心拍数算出部222は、受信部210が受信した心拍信号に基づいて、心拍数の算出を開始する。
(ステップS106)次に、ユーザが上記予め決められた距離を走り終わるのと同時に走行時間の計測終了を指示するために操作入力部250を操作した場合、操作入力部250は、走行時間の計測終了の入力を受け付ける。
【0047】
(ステップS107)時間測定部223は、操作入力部250が走行時間の計測終了の入力を受け付けたときに走行時間の計測を終了する。また、それと並行して心拍数算出部222は心拍数の算出を終了する。
(ステップS108)次に、実走速度算出部224は、ユーザが入力した距離を走行時間で割ることで実走速度を算出する。
(ステップS109)次に、心拍数算出部222は、算出した心拍数の平均である平均心拍数を実走心拍数として算出する。
【0048】
(ステップS110)次に、対応関係決定部226は、記憶部260から変化率情報を読み出し、変化率情報と実走速度と実走心拍数とを参照して、心拍数についての走行速度の一次関数を決定する。
(ステップS111)次に、基準心拍数決定部227は、決定された一次関数にAT速度を代入することでAT心拍数を算出する。
【0049】
なお、操作入力部250は、ユーザが走る前に走行距離を入力する操作を受け付けたが、これに限らず、ユーザが走り終わった後に、ユーザが走行距離を入力する操作を受け付けてもよい。また、ランニングウォッチ200が距離計測部を更に備え、距離計測部が走行距離を計測してもよい。具体的には例えば、予め一ピッチの歩幅がユーザにより入力されて記憶部260に記憶されている。その場合、距離計測部はピッチを計測し、一ピッチの歩幅にピッチの数を乗じることで走行距離を計測してもよい。
【0050】
以上、本実施形態によれば、実走速度と実走心拍数の組は、対象ユーザによって変わるので、決定部225は、心拍数についての走行速度の一次関数を対象ユーザによって変更する。その結果、決定部225は、対象ユーザによってAT心拍数を変更することができる。また、同じ対象ユーザでも実走速度を計測したとき、すなわち計測したときのその対象ユーザの状態(例えば、能力、体調)によって実走速度と実走心拍数の組は変わる。それゆえ、心拍数についての走行速度の一次関数は同じ対象ユーザであっても、実走速度と実走心拍数とが計測されたときのユーザの状態に応じて変更される。その結果、決定部225は、計測したときのその対象ユーザの状態によってAT心拍数を決定することができる。
【0051】
また従来の手法の一例として、AT心拍数は年齢に応じて決められていたので、心拍数が低い人または高い人の場合、AT心拍数を正確に取得することができなかった。それに対し、本実施形態によれば、決定部225は、対象ユーザについて1回の走行測定で得られた実走速度とその走行測定時の実走心拍数と統計データに基づく走行速度の変化量に対する心拍数の変化量とを用いて、一次関数を決定する(
図5参照)。これにより、対象ユーザ毎に一次関数が得られ、その一次関数に応じてAT心拍数が変わる。そのため、決定部225は、対象ユーザの実走速度とその走行測定時の実走心拍数との組に応じてAT心拍数を算出するので、心拍数が低い人または高い人でもAT心拍数をより正確に決定することができる。
【0052】
また、基準走行速度決定部221は、走行速度とベストタイムとの関係を参照して、対象ユーザのベストタイムに応じたAT速度を取得する(
図4参照)。そのため、対象ユーザ毎にベストタイムが異なるので、基準走行速度決定部221は、対象ユーザ毎に異なるAT速度を取得することができる。
また、同じ対象ユーザであっても、トレーニングなどによる能力の向上またはトレーニング量の減少に伴う能力の低下によってベストタイムが変わるので、同じ対象ユーザでも能力の変化に応じてAT速度が変わる。このことから、基準走行速度決定部221は、対象ユーザの現在の能力に応じて、AT速度を取得することができる。このように、決定部225は、決定後の一次関数を参照してAT速度に対応するAT心拍数を決定するので、基準走行速度決定部221が対象ユーザの現在の能力の変化に応じてAT速度を変更すると、それに応じて決定部225はAT心拍数を変更する。よって、処理部220は、対象ユーザの現在の能力に応じて、AT心拍数を決定することができる。
【0053】
また、本実施形態では、本発明者によって走行速度の変化量に対する心拍数の変化量には、個人差がほとんどないことが発見されたことにより、走行速度の変化量に対する心拍数の変化量が全てのユーザに共通して一つ予め決められている。そして決定部225は、計測の対象となるユーザ(以下、対象ユーザという)についてある距離について1回の走行測定で得られた実走速度とその走行測定時の実走心拍数を用いて、心拍数を走行速度の一次関数で表す式を決定する。決定部225は、このように一次関数を決定することで、一次関数を用いて対象ユーザのAT速度に対応するAT心拍数を決定することができる。これにより、1回の走行測定で済むので、AT心拍数の取得に伴うユーザの手間及び負担を軽減することができる。
【0054】
なお、本実施形態において、決定部225はAT速度に基づいて、AT心拍数を決定したがこれに限らず、AT速度に基づいて、最大心拍数を決定してもよいし、心肺能力を強化するために設定される心拍数である心肺能力強化心拍数を決定してもよい。ここで心肺能力強化心拍数は、心肺能力を強化するために設定される心拍数であり、ユーザの能力毎に異なる。ユーザは、そのユーザの心肺能力強化心拍数で運動することにより心肺能力を高めることができる。また心肺能力強化心拍数は、最大心拍数とAT心拍数との間の心拍数である。
また、決定部225は、AT速度ではなく、心肺能力を強化するために設定される速度である心肺能力強化速度に基づいて、AT心拍数、心肺能力強化心拍数、最大心拍数のいずれか一つを決定してもよい。また、決定部225は、AT速度ではなく、最大運動強度で走ったときの速度である最大速度に基づいて、AT心拍数、心肺能力強化心拍数、最大心拍数のいずれか一つを決定してもよい。
【0055】
また本実施形態では、基準走行速度決定部221は、5kmのベストタイムとAT速度との対応関係に基づいて、ユーザの5kmのベストタイムに対応するAT速度を取得したが、これに限ったものではない。5kmのベストタイムにかぎらず、10kmなど他の距離のベストタイムでもよい。また、ベストタイムのように最大運動強度で完走するのに要する時間に限らず、所定の運動強度で完走するのに要する時間でもよい。またAT速度に限らず、心肺能力強化速度または最大速度であってもよい。このことから、対応関係は、予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要する時間と基準走行速度との対応関係であればよい。その場合、基準走行速度決定部221は、その対応関係に基づいて、ユーザが予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要した時間に対応する基準走行速度を決定してもよい。
【0056】
また本実施形態では、基準走行速度決定部221は、予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要した時間と基準走行速度との対応関係を用いたが、これに限ったものではない。基準走行速度決定部221は、所定の運動強度で走行したときの速度と基準走行速度との対応関係を用いてもよい。その場合、基準走行速度決定部221は、ユーザが所定の運動強度で走行したときの速度に対応する基準走行速度を決定すればよい。また、基準走行速度決定部221は、所定の運動強度で所定時間走行したときの距離と基準走行速度との対応関係を用いてもよい。その場合、基準走行速度決定部221は、ユーザが所定の運動強度で所定時間走行したときの距離に対応する基準走行速度を決定すればよい。上述のことをまとめると、基準走行速度決定部221は、所定の運動能力指標値 と前記基準走行速度との対応関係に基づいて、前記ユーザの所定の運動能力指標値 に対応する前記基準走行速度を決定してもよい。ここで、所定の運動能力指標値とは、予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要した時間、または所定の運動強度で走行したときの速度、または所定の運動強度で所定時間走行したときの距離のいずれかである。
【0057】
続いて、表示部240の表示画面の応用例について
図10〜12の例を用いて説明する。
図10は、表示部240の表示画面の第1の応用例である。
図10〜12の応用例に共通して、縦軸が心拍数である。
図10〜12の例において共通して、表示画面にAT心拍数として心拍数140が表示され、心拍数140を示す破線L61が表示される。また、
図10〜12の例に共通して、表示画面にAT心拍数から10を加算した値150が、AT心拍数を基準にしたゾーン(以下、ATゾーンともいう)の心拍数の最大値MAXとして表示され、心拍数150を示す破線L62が表示されている。また、
図10〜12の例に共通して、表示画面にAT心拍数から10を引いた値130が、ATゾーンの心拍数の最低値MINとして表示され、心拍数130を示す破線L63が表示される。
【0058】
図10において、表示画面中で現在の心拍数160に相当する縦軸方向の位置に、「HI」とハートマークと現在の心拍数である「160」が表示される。ここで「HI」は、心拍数がATゾーンの心拍数の最大値MAXを越えていることを意味する。このように表示制御部228が縦軸を心拍数としてATゾーンを表示し、現在の心拍数がATゾーンの心拍数の最大値MAXを越えている場合に、ATゾーンの上にハートマーク等を表示する。これにより、ユーザはATゾーンを越えていることを把握できるのでユーザはATゾーンを越えていることを容易に把握することができる。また、「HI」と表示することで、ユーザは現在の心拍数がATゾーンを越えていることを容易に把握することができる。
【0059】
図11は、表示部の表示画面の第2の応用例である。
図11において、表示画面中で現在の心拍数140に相当する縦軸方向の位置に、「IN」とハートマークと現在の心拍数である「140」が表示される。ここで「IN」は、心拍数がATゾーン内にあることを意味する。このように表示制御部228が縦軸を心拍数としてATゾーンを表示し、現在の心拍数がATゾーンに入っている場合に、ATゾーン内にハートマーク等を表示する。これにより、ユーザは現在の心拍数がATゾーンに入っていることを容易に把握することができる。また、「IN」と表示することで、ユーザは現在の心拍数がATゾーンに入っていることを容易に把握することができる。
【0060】
図12は、表示部の表示画面の第3の応用例である。
図12において、表示画面中で現在の心拍数120に相当する縦軸方向の位置に、「LO」とハートマークと現在の心拍数である「120」が表示される。ここで「LO」は、心拍数がATゾーンの心拍数の最小値MINを下回っていることを意味する。このように表示制御部228が縦軸を心拍数としてATゾーンを表示し、現在の心拍数がATゾーンの心拍数の最小値MINを下回っている場合に、ATゾーンの下にハートマーク等を表示する。これにより、ユーザは現在の心拍数がATゾーンを下回っていることを容易に把握することができる。また、「LO」と表示することで、ユーザは現在の心拍数がATゾーンを下回っていることを容易に把握することができる。
【0061】
なお、
図10〜12において、表示制御部228は、現在の心拍数の高さに応じてハートマーク等の表示位置を変更してもよい。例えば、表示制御部228は、現在の心拍数に相当する縦軸方向の位置にハートマーク等を表示してもよい。これにより、ユーザは現在の心拍数の値がATゾーンからどれだけ離れているか、または現在の心拍数の値がATゾーン内でどの位置にあるかを容易に把握することができる。また、
図10〜12において、心拍数を縦軸に表示したが、心拍数を横軸に表示してもよい。また、本応用例では、現在の心拍数に相当する縦軸の位置に心拍数等を表示したが、これに限ったものではない。表示制御部228は、例えば現在の心拍数がATゾーンの心拍数の最大値MAXを超えていれば、表示されたATゾーンを越える任意の位置(例えば、
図10の破線L62より
図10に向かって上の任意の位置)に心拍数等を表示してもよい。また表示制御部228は、例えば現在の心拍数がATゾーンに入っていれば、ATゾーンの任意の位置(例えば、
図11の破線L63と破線L62の間の任意の位置)に心拍数等を表示してもよい。また表示制御部228は、例えば現在の心拍数がATゾーンを下回っていれば、ATゾーンを下回る任意の位置(例えば、
図12の破線L63を下回る任意の位置)に心拍数等を表示してもよい。
【0062】
<変形例1>
続いて、本実施形態の変形例1について説明する。本変形例1において、ベストタイムと心拍能力強化走行速度との対応関係が決められており、記憶部260には、心拍能力強化走行速度とベストタイムとの対応関係が記憶されている。心拍能力強化走行速度は、心拍能力を強化するために決められている走行速度で、AT速度と最大走行速度の間の速度である。最大走行速度は、ユーザが最大運動強度で走ったときの走行速度である。その場合、基準走行速度決定部221は、記憶部260に記憶されている、心拍能力強化走行速度とベストタイムとの対応関係を参照して、ベストタイムに応じた心拍能力強化走行速度を決定してもよい。その場合、決定部225は、心拍能力強化走行速度からAT心拍数、心肺能力強化心拍数及び最大心拍数のいずれか一つを決定してもよい。
【0063】
図13は、変形例1における基準走行速度決定部221の処理の概念を説明するための図である。同図において記憶部260に記憶されている心拍能力強化走行速度とベストタイムとの対応関係を示す曲線L101の一例が示されている。ここで縦軸は走行速度で横軸はベストタイムである。ユーザが入力したベストタイム入力値が与えられると、破線の矢印A102及び破線の矢印A103に示すように同図の曲線L101において、与えられたベストタイムに対応する走行速度が一意に決まる。その決まった走行速度が心拍能力強化走行速度である。よって、基準走行速度決定部221は、心拍能力強化走行速度とベストタイムとの対応関係を参照して、ユーザが入力したベストタイム入力値に対応する速度を心拍能力強化走行速度として取得することができる。
【0064】
<変形例2>
続いて、本実施形態の変形例2について説明する。本変形例2において、ベストタイムと最大走行速度との対応関係が決められており、記憶部260には、最大走行速度とベストタイムとの対応関係が記憶されている。その場合、基準走行速度決定部221は、記憶部260に記憶されている、最大走行速度とベストタイムとの対応関係を参照して、ベストタイムに応じた最大走行速度を決定してもよい。その場合、決定部225は、最大走行速度からAT心拍数、心肺能力強化心拍数及び最大心拍数のいずれか一つを決定してもよい。
【0065】
図14は、変形例2における基準走行速度決定部221の処理の概念を説明するための図である。同図において記憶部260に記憶されている最大走行速度とベストタイムとの対応関係を示す曲線L111の一例が示されている。ここで縦軸は走行速度で横軸はベストタイムである。ユーザが入力したベストタイムが与えられると、破線の矢印A112及び破線の矢印A113に示すように同図の曲線L111において、与えられたベストタイムに対応する走行速度が一意に決まる。その決まった走行速度が最大走行速度である。よって、基準走行速度決定部221は、最大走行速度とベストタイムとの対応関係を参照して、ユーザが入力したベストタイム入力値に対応する速度を最大走行速度として取得することができる。
【0066】
以上、本実施形態、変形例1及び変形例2におけるランニングウォッチ200の処理をまとめると、決定部225は、ユーザの運動能力の基準となる基準走行速度(例えば、AT速度、心拍能力強化速度、最大速度)と、予め決められた走行速度の変化量と心拍数の変化量との対応関係に基づいて、心拍数の基準となる基準心拍数(例えば、AT心拍数、心肺能力強化心拍数または最大心拍数)を決定してもよい。ここで上記対応関係は、走行速度の変化量に対する心拍数の変化量が一定である関係である。走行速度の変化量に対する心拍数の変化量がユーザによらず一定であるので、基準走行速度と、走行速度と心拍数との対応関係とに基づいて、基準心拍数を決定することができる。これにより、基準走行速度と、走行速度と心拍数との対応関係が分かれば基準心拍数を決定できるので、基準心拍数を決定する際におけるユーザの負担を軽減することができる。
【0067】
より詳細には、基準走行速度決定部221は、予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要する時間と前記基準走行速度との対応関係に基づいて、ユーザが予め決められた距離を所定の運動強度で完走するのに要した時間に対応する基準走行速度を決定する。これにより、基準走行速度決定部221は、ユーザの能力に応じて基準走行速度を決定することができる。決定部225は、ユーザについて実測された走行速度と心拍数との組を上記走行速度の変化量と心拍数の変化量との対応関係とに基づいて走行速度と心拍数との対応関係を決定し、該決定した対応関係に基づいて、基準走行速度に対応する基準心拍数を決定する。これにより、決定部225は、ユーザの状態(例えば、能力、体調)に応じて走行速度と心拍数との対応関係を決定することができるので、ユーザの状態に応じて基準心拍数を決定することができる。また、走行速度と心拍数とを1度計測すれば基準心拍数を決定することができるので、ユーザの手間及び負担を軽減することができる。
【0068】
心拍数算出部222は、ユーザの心拍に関する心拍信号に基づいて心拍数を算出する。
表示制御部228は、AT心拍数を基準とする心拍の範囲を決定し、該生成した範囲を表示部に表示させ、前記心拍数算出部が算出した心拍数に関する情報を該心拍数の高さに応じた位置に表示させる。これにより、ユーザは、AT心拍数の範囲に現在の心拍数が収まっているか判別できるので、ユーザは、AT心拍数をキープした走行(例えば、マラソンのレースまたはトレーニング)を実現しやすくなる。
【0069】
なお、本実施形態では、性別毎に、AT速度と予め決められた距離を最大運動強度で走ったときのタイムとの対応関係が記憶されているとしたが、性別によらず、AT速度と予め決められた距離を最大運動強度で走ったときのタイムとの対応関係が一つ記憶されていてもよい。その場合の対応関係は、男性の対応関係と女性の対応関係との平均であってもよい。
【0070】
また、ユーザの身体情報として、性別を入れたが、そのほかにも、身長、体重を入力してもよい。そして、AT速度とベストタイムとの関係が、身長または体重毎に記憶部260に記憶されており、処理部220がそれを参照してAT速度を決定してもよい。また、身長だけでなく、体の一部の長さ(例えば、股下の長さ)を入力してもよい。その場合、AT速度とベストタイムとの関係が、体の一部の長さ毎に記憶部260に記憶されており、処理部220がそれを参照してAT速度を決定してもよい。
【0071】
また、本実施形態の処理部220の各処理を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、当該記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理部220に係る上述した種々の処理を行ってもよい。
【0072】
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0073】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0074】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。