(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一形態に係る摺動部材及びその製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1は、本発明の一形態に係る摺動部材の概略を示す説明図である。
図1に示すように、本形態の摺動部材1は、基材2と、基材2の表面上に形成されている、クロムを主成分とする硬質クロムめっき層4と、硬質クロムめっき層4上に形成されている、炭素元素を主として構成される硬質炭素層6とを有する。そして、本発明においては、硬質クロムめっき層4は、その水素濃度が150質量ppm以下である。
【0014】
本発明者らが、基材上に硬質クロムめっき層と硬質炭素層とを積層形成した摺動部材における硬質炭素層の耐剥離性について検討したところ、下地となる硬質クロムめっき層の性状によって、耐剥離性の性能が大きく変化することを見出した。
【0015】
つまり、硬質クロムめっき層上に硬質炭素層を形成する際には、硬質クロムめっき層が真空下や高温下、更にはその両方の環境下に曝されるため、硬質クロムめっき層中に存在している水素が気体として放出され、放出された水素が硬質クロムめっき層への炭素の付着を阻害することとなる。その結果、硬質クロムめっき層と硬質炭素層との密着性が低下することを見出した。
【0016】
そして、更に研究を進めた結果、硬質炭素層の形成に先立ち、表面上にクロムを主成分とする硬質クロムめっき層が形成された基材の表面を、250℃以上の温度で加熱処理し、硬質クロムめっき層の水素濃度を150質量ppm以下とすることにより、硬質クロムめっき層と硬質炭素層との密着性が著しく向上することが分かった。
【0017】
また、硬質クロムめっき層の水素濃度は少なければ少ないほど好ましいと考えられるが、硬質クロムめっき層は形成段階において、多くの水素を含んでいる。そして、加熱処理により水素を放出させる場合、加熱処理の温度を高くすればするほど、水素をより多く放出させることができる。しかしながら、
図2の加熱処理温度とクロムめっき層の硬度及び摩耗量との関係を示すグラフから分かるように、400℃以上で加熱処理をした場合、クロムめっき層の硬度が低下し、クロムめっき層の耐摩耗性が低下するため、400℃未満の温度で加熱処理を行うことが好ましい。
【0018】
ここで、本発明の摺動部材は、優れた耐剥離性を発揮させるという観点からは、潤滑剤の存在下又は潤滑剤の非存在下(いわゆるドライ条件)のいずれにおいても用いることができる。しかしながら、硬質炭素層の表面における潤滑剤の基剤(例えば、基油)や添加剤の吸着によって低摩擦性が発揮され、剥離がより一層の抑制され得るという観点からは、潤滑剤の存在下(潤滑剤中)で用いることが好ましい。
【0019】
また、摺動部材としては、4サイクルや2サイクルエンジン等の各種内燃機関(特に自動車エンジン)などの動弁系の摺動部材や吸排気系の摺動部材、駆動系の摺動部材を挙げることができる。しかしながら、これらに限定されるものではなく、冷媒圧縮機の可変斜板や回転ベーンなどを挙げることもできる。
【0020】
動弁系や吸排気系の摺動部材としては、例えば、ピストンリング、ピストンピン、ピストン(又はピストンスカート(ピストンスカートは、ピストンのスカート部を意味する。))、シリンダ(又はシリンダライナ)、プランジャ、チェックバルブ、バルブガイド、コンロッド、ブッシュ、クランクシャフト、カムロブ、カムジャーナル、ロッカーアーム、バルブスプリング、シム、リフタ、ベーンポンプの回転ベーン、ベーンポンプのハウジング、タイミングチェーン、スプロケット、チェーンガイド(又はチェーンガイドシュー)、チェーンテンショナー(又はチェーンテンショナーシュー)などを挙げることができる
【0021】
駆動系の摺動部材としては、例えば、自動変速機、無段変速機、手動変速機、終減速機などの歯車、ギヤ、チェーン、ベルト、転がり軸受、滑り軸受、オイルポンプなどを挙げることができる。
【0022】
また、本発明における基材としては、高純度の鉄部材やアルミニウム部材、チタン部材だけでなく、ステンレス鋼(鉄鋼材)などの鉄合金部材、銅合金部材、アルミニウム合金部材、マグネシウム合金部材、チタン合金部材などの金属部材で構成されたものを適用することもできる。更に、各種ゴム、プラスチックなどの樹脂部材やセラミックス部材、カーボン部材などの非金属部材で構成された基材を用いることもできる。特に、鉄合金部材、アルミニウム合金部材、マグネシウム合金部材は、既存の機械・装置等の摺動部に適用しやすく、また、様々な分野で幅広く省エネルギー対策に貢献できる点で好ましい。更にまた、これら金属部材や非金属部材に各種の薄膜コーティングを施した部材も有用である。例えば、鉄合金部材、アルミニウム合金部材、マグネシウム合金部材、チタン合金部材等に、窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)等の薄膜コーティングを施したものを挙げることができる。
【0023】
鉄合金部材としては、例えば、合金元素としてニッケル、銅、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉛、ケイ素若しくはチタン、又はこれらを任意に組み合わせたものを含む鉄基合金を用いることが好ましい。例えば、高炭素クロム軸受鋼(JIS G4805にSUJ2として規定される。)、合金工具鋼、浸炭鋼、低合金チルド鋳鉄、調質炭素鋼、焼入鋼などを用いることができる。具体的には、JISに規定されるニッケルクロム鋼(SNC415、SNC815)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM220、SNCM415、SNCM420、SNCM616、SNCM815)、クロム鋼(SCr415、SCr420)、クロムモリブデン鋼(SCM415、SCM418、SCM420、SCM421、SCM822)、マンガン鋼(SMn420)、マンガンクロム鋼(SMnC420)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また、鉄部材や鉄合金部材の表面硬さは、ロックウェル硬さ(Cスケール)で、HRC45〜60であることが好ましい。この場合は、例えば、カムフォロワー部材のように700MPa程度の高面圧下の摺動条件においても、硬質炭素層の耐久性を維持できるので有効である。表面硬さがHRC45未満では高面圧下で座屈し剥離し易くなることがある。
【0025】
更に、鉄部材や鉄合金部材の表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μmを超えると局部的にスカッフィングを形成し、摩擦係数の大幅向上となることがある。
【0026】
また、アルミニウム合金部材としては、例えば、ケイ素(Si)を4〜20質量%、銅(Cu)を1.0〜5.0質量%含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金を用いることが好ましい。具体的には、JISに規定されるAC2A、AC8A、ADC12、ADC14などを挙げることができる。
【0027】
また、アルミニウム部材やアルミニウム合金部材の表面硬さは、ブリネル硬さで、HB80〜130であることが好ましい。アルミニウム部材やアルミニウム合金部材の表面硬さが、上記範囲から外れるとHB80未満ではアルミニウム部材やアルミニウム合金部材が摩耗し易くなることがある。
【0028】
更に、アルミニウム部材やアルミニウム合金部材の表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μmを超えると局部的にスカッフィングを形成し、摩擦係数の大幅向上となることがある。
【0029】
また、マグネシウム合金部材としては、例えば、マグネシウム−アルミニウム−亜鉛(Mg−Al−Zn)系、マグネシウム−アルミニウム−希土類金属(Mg−Al−REM)系、マグネシウム−アルミニウム−カルシウム(Mg−Al−Ca)系、マグネシウム−亜鉛−アルミニウム−カルシウム(Mg−Zn−Al−Ca)系、マグネシウム−アルミニウム−カルシウム−希土類金属(Mg−Al−Ca−REM)系、マグネシウム−アルミニウム−ストロンチウム(Mg−Al−Sr)系、マグネシウム−アルミニウム−シリコン(Mg−Al−Si)系、マグネシウム−希土類金属−亜鉛(Mg−REM−Zn)系、マグネシウム−銀−希土類金属(Mg−Ag−REM)系若しくはマグネシウム−イットリウム−希土類金属(Mg−Y−REM)系、又はこれらの任意の組み合わせに係るものを用いることが好ましい。具体的には、ASTMに規定されるAZ91、AE42、AX51、AXJ、ZAX85、AXE522、AJ52、AS21、QE22、WE43などを挙げることができる。
【0030】
また、マグネシウム部材やマグネシウム合金部材の表面硬さは、ブリネル硬さで、HB45〜95であることが好ましい。マグネシウム部材やマグネシウム合金部材の表面硬さが、上記範囲から外れるとHB45未満ではマグネシウム部材やマグネシウム合金部材が摩耗し易くなることがある。
【0031】
更に、マグネシウム部材やマグネシウム合金部材の表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μmを超えると局部的にスカッフィングを形成し、摩擦係数の大幅向上となることがある。
【0032】
更に、本発明における硬質クロムめっき層としては、クロムを主成分とするものを挙げることができる。ここで、「クロムを主成分とする」とは、めっき層におけるクロム含有量が50質量%以上であることをいう。硬質クロムめっき層の組成は、めっき浴の種類や電着条件によって若干異なることがあるが、通常、水素0.03〜0.1質量%、酸素0.2〜0.5質量%、残部がクロムである。本発明の摺動部材における硬質クロムめっき層の水素濃度は、150質量ppm以下であることを要し、10質量ppm以上140質量ppm以下であることが好ましく、25質量ppm以上110質量ppm以下であることがより好ましい。なお、水素濃度を10質量ppm以上140質量ppm以下とする場合には、加熱処理温度を260℃以上400℃未満とすることが好ましく、水素濃度を25質量ppm以上110質量ppm以下とする場合には、290℃以上360℃以下とすることが好ましい。
【0033】
また、後述する化学気相合成(CVD)法や物理気相合成(PVD)法によって形成される硬質炭素層は、めっき等の表面処理と比較して硬質炭素層自体の内部応力が高く、硬質炭素層の硬さが著しく高い。そのため、機械部品の摺動部材に適用すると、硬質炭素層が基材から剥離したり、硬質炭素層の割れが発生したりする可能性がある。しかしながら、硬質クロムめっき層を下地処理により形成することによって、硬質炭素層と基材との密着性を維持しつつ、内部応力を緩和して改善することができる。
【0034】
更に、硬質クロムめっき層の表面硬さは、10g荷重におけるマイクロビッカース硬さで、通常、800〜1000HV程度であり、700HV以上であることが好適であり、750HV以上であることがより好適でり、800HV以上であることが更に好適である。
【0035】
更にまた、硬質クロムめっき層の厚みは、0.05〜200μmであることが好ましく、0.3〜20μmであることがより好ましく、0.3〜2.0μmであることが更に好ましい。なお、厚みが0.05μm未満では摩滅し易く、摩擦低減効果が初期摩耗によりすぐに失われてしまう可能性がある。逆に、厚みが200μmを超えると、層内の残留応力が大きくなり、基材から剥離してしまう可能性がある。
【0036】
また、本発明における硬質炭素層としては、炭素元素を主として構成された結晶質又は非晶質のものを挙げることができる。結晶質のものとしては、ダイヤモンドからなるものを挙げることができる。また、非晶質のものとしては、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP
3結合)とグラファイト構造(SP
2結合)の両方からなるものや、グラファイト構造(SP
2結合)を主体とするものなど、いわゆるダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれるものを挙げることができる。非晶質なものであって炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP
3結合)とグラファイト構造(SP
2結合)の両方からなるものの具体例としては、炭素元素のみからなる(水素を含まない)アモルファスカーボン(amorphous Carbon(a−C))、水素を含有する水素アモルファスカーボン(a−C:H)、チタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含む金属アモルファスカーボン(MeC)などを挙げることができる。また、非晶質なものであって炭素同士の結合形態がグラファイト構造(SP
2結合)を主体とする四面体アモルファスカーボン(tetrahedral amorphous Carbon(ta−C))を挙げることができる。
【0037】
また、硬質炭素層は、CVD法やPVD法などの方法によって形成される。一般に、熱CVD法、プラズマCVD法等のCVD法で形成すると硬質炭素層中には原料の有機化合物(例えば、炭化水素ガス)に由来する水素が含まれ、硬質炭素層の水素濃度は典型的には15〜40原子%となる。一方、炭素ビームを用いたイオンプレーティング法、アーク式イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法等のPVD法では水素を含むようにも、含まないようにも制御することができる。硬質炭素層の水素濃度は少ないほど摩擦低減効果が得られるので、硬質炭素層の水素濃度は40原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であることがより好ましく、10原子%以下であることがより好ましく、5原子%以下であることがより好ましく、2原子%以下であることがより好ましく、0.3原子%以下であることがより好ましく、0.1原子%以下であることが好ましい。特に、1原子%以下0原子%超である水素を含有する水素アモルファスカーボン(a−C:H)や水素を含まないアモルファスカーボン(a−C)とすることが好ましい。なお、硬質炭素層の最表層の水素を重点的に減少させる観点から、硬質炭素層を2層又はそれ以上の多層構造とし、最表層を水素濃度が1原子%以下0原子%超である水素を含有する水素アモルファスカーボン(a−C:H)又は水素を含まないアモルファスカーボンとすることも可能である。ここで、「最表層」とは、硬質炭素層の厚みを基準として、最表面から5%までの範囲をいい、代表的には、最表面から深さ1.0μmまでの範囲をいう。なお、硬質炭素層が単層構造の場合には、その層を最表層とする。
【0038】
更に、硬質炭素層の表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが好ましく、0.08μm以下であることがより好ましく、0.05μm以下であることが更に好ましく、0.03μm以下であることが特に好ましい。表面粗さが、算術平均粗さRaで、0.1μmを超えると局部的にスカッフィングを形成し、摩擦係数が大きくなることがある。表面は平滑であればあるほどよいので、粗さの下限は特に定められないが、実際には製造加工のコストを適宜勘案して上述のような適切な粗さの表面に仕上げることになる。なお、表面粗さが、算術平均粗さRaで、0.08μm以下であると、摺動の安定性の面から好適である。
【0039】
次に、本発明の摺動部材に適用する潤滑剤について詳細に説明する。
潤滑剤としては、含酸素有機化合物を挙げることができる。含酸素有機化合物としては、分子中に酸素を含有する有機化合物であれば特に制限はない。例えば、炭素、水素及び酸素から成る含酸素有機化合物であっても良いし、分子中にこれら以外の元素、例えば、窒素、硫黄、ハロゲン(フッ素、塩素等)、リン、ホウ素、金属等を含有する含酸素有機化合物であっても良い。摺動部材の硬質炭素層と任意の材料種で構成された他の摺動部材がなす摺動面の摩擦をより低減できる点からは、ヒドロキシル基を有し、炭素、水素及び酸素を有する含酸素有機化合物やその誘導体が好適である。また、ヒドロキシル基は2つ以上有することがより好ましい。上記と同様の理由で、硫黄含有量の少ない、又は硫黄を含有しない含酸素有機化合物であることがより好ましい。
【0040】
なお、ここで、「誘導体」とは、代表的には、炭素、水素及び酸素を有する含酸素有機化合物に、例えば、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄や硫黄含有化合物、ホウ素含有化合物、ハロゲン元素やハロゲン元素含有化合物、金属元素や金属含有化合物等(有機、無機を問わない)を反応させて得られる化合物等をいうが、特に制限されるものではない。
【0041】
また、含酸素有機化合物としては、具体的には、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基等を有する化合物、エステル結合、エーテル結合を有する化合物等(これらは2種以上の基又は結合を有していても良い。)が挙げられる。ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル結合から選ばれる基又は結合を1つ又は2つ以上有することが好ましく、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル結合から選ばれる基又は結合を1つ又は2つ以上有する含酸素有機化合物であることがより好ましく、ヒドロキシル基又はカルボキシル基から選ばれる基を1つ又は2つ以上有する含酸素有機化合物であることが更に好ましく、ヒドロキシル基を1つ又は2つ以上有する含酸素有機化合物であることが特に好ましい。
【0042】
より具体的には、(1)アルコール類、(2)カルボン酸類、(3)エステル類、(4)エーテル類、(5)ケトン類、(6)アルデヒド類、(7)カーボネート類(これらは、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合から選ばれる1種又は2種以上の基又は結合を更に有していても良い。)、及びこれらの誘導体、並びにこれらの任意の混合物等が挙げられる。
【0043】
ここで、(1)アルコール類は、次の一般式(I)
【0045】
で表される含酸素有機化合物であり、ヒドロキシル基を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0046】
アルコール類(1)としては、具体的に、例えば以下のものが挙げられる。
・1価アルコール類(1−1)
・2価のアルコール類(1−2)
・3価以上のアルコール類(1−3)
・上記3種のアルコール類のアルキレンオキサイド付加物(1−4)
・上記4種のアルコール類から選ばれる1種又は2種以上の混合物(1−5)
【0047】
上記1価アルコール類(1−1)は、ヒドロキシル基を分子中に1つ有するものであり、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール(1−プロパノール、2−プロパノール)、ブタノール(1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール)、ペンタノール(1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール)、ヘキサノール(1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、4−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−1−ブタノール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、3,3−ジメチル−2−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、2,2−ジメチルブタノール)、ヘプタノール(1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、2−メチル−1−ヘキサノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−メチル−3−ヘキサノール、5−メチル−2−ヘキサノール、3−エチル−3−ペンタノール、2,2−ジメチル−3−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール、4,4−ジメチル−2−ペンタノール、3−メチル−1−ヘキサノール、4−メチル−1−ヘキサノール、5−メチル−1−ヘキサノール、2−エチルペンタノール)、オクタノール(1−オクタノール、2−オクタノール、3−オクタノール、4−メチル−3−ヘプタノール、6−メチル−2−ヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ペンタノール、2,4,4−トリメチル−1−ペンタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキサノール、2−メチル−1−ヘプタノール、2,2−ジメチル−1−ヘキサノール)、ノナノール(1−ノナノール、2−ノナノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、3−エチル−2,2−ジメチル−3−ペンタノール、5−メチルオクタノール等)、デカノール(1−デカノール、2−デカノール、4−デカノール、3,7−ジメチル−1−オクタノール、2,4,6−トリメチルヘプタノール等)、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール(ステアリルアルコール等)、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、トリコサノール、テトラコサノール等の炭素数1〜40の1価アルキルアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良い);エテノール、プロペノール、ブテノール、ヘキセノール、オクテノール、デセノール、ドデセノール、オクタデセノール(オレイルアルコール等)等炭素数2〜40の1価アルケニルアルコール類(これらアルケニル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、二重結合の位置も任意である);シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール、プロピルシクロヘキサノール、ブチルシクロヘキサノール、ジメチルシクロヘキサノール、シクロペンチルメタノール、シクロヘキシルメタノール(1−シクロヘキシルエタノール、2−シクロヘキシルエタノール等)、シクロヘキシルエタノール、シクロヘキシルプロパノール(3−シクロヘキシルプロパノール等)、シクロヘキシルブタノール(4−シクロヘキシルブタノール等)、ブチルシクロヘキサノール、3,3,5,5−テトラメチルシクロヘキサノール等の炭素数3〜40の1価(アルキル)シクロアルキルアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置も任意である);フェニルアルコール、メチルフェニルアルコール(o―クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール)、クレオソール、エチルフェニルアルコール、プロピルフェニルアルコール、ブチルフェニルアルコール、ブチルメチルフェニルアルコール(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルアルコール等)、ジメチルフェニルアルコール、ジエチルフェニルアルコール、ジブチルフェニルアルコール(2,6−ジ−tert−ブチルフェニルアルコール、2,4−ジ−tert−ブチルフェニルアルコール等)、ジブチルメチルフェニルアルコール(2,6−ジ−tert−ブチル−4メチルフェニルアルコール等)、ジブチルエチルフェニルアルコール(2,6−ジ−tert−ブチル−4エチルフェニルアルコール等)、トリブチルフェニルアルコール(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニルアルコール等)、ナフトール(α―ナフトール、β−ナフトール等)、ジブチルナフトール(2,4−ジ−tert−ブチル−α−ナフトール等)等の(アルキル)アリールアルコール類(これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であっても良く、また、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置も任意である)等;6−(4−オキシ−3,5−ジ−tert−ブチル−アニリノ)−2,4−ビス−(n−オクチル−チオ)−1,3,5−トリアジン等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0048】
これら1価アルコール類においては、摺動部材の硬質炭素層と任意の材料種で構成された他の摺動部材がなす摺動面の摩擦をより低減できる点、及び揮発性が低く高温条件(例えば内燃機関等の摺動条件)においても摩擦低減効果を発揮できる点から、オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数12〜18の直鎖又は分枝のアルキルアルコール類やアルケニルアルコール類を使用するのがより好ましい。
【0049】
また、上記2価アルコール(1−2)としては、具体的には、ヒドロキシル基を分子中に2つ有するものであり、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ヘプタデカンジオール、1.16−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−イコサデカンジオール等の炭素数2〜40のアルキル又はアルケニルジオール類(これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルケニル基の二重結合の位置は任意であり、ヒドロキシル基の置換位置も任意である);シクロヘキサンジオール、メチルシクロヘキサンジオール等の(アルキル)シクロアルカンジオール類(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置は任意である)、ベンゼンジオール(カテコール等)、メチルベンゼンジオール、エチルベンゼンジオール、ブチルベンゼンジオール(p−tert−ブチルカテコール等)、ジブチルベンゼンジオール(4,6−ジ−tert−ブチル−レゾルシン等)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−tert−ブチル−フェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチル−フェノール)、2,2’−メチレンビス−(4−メチル−6−tert−ブチル−フェノール)、2,2’−チオビス−(4,6−ジ−tert−ブチル−レゾルシン)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチル−フェノール)、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール)、2,2’−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ビドロキシ)プロパン、4,4’−シクロヘキシリデンビス−(2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール)、等の炭素数2〜40の2価(アルキル)アリールアルコール類(アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、アルキル基、ヒドロキシル基の置換位置は任意である)等;p−tert−ブチルフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、p−tert−ブチルフェノールとアセトアルデヒドとの縮合物等;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0050】
これら2価アルコール類においては、摺動部材の硬質炭素層と任意の材料種で構成された他の摺動部材がなす摺動面の摩擦をより低減できる点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等を使用するのが好ましい。また、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル)フェニルアルコール等の分子量300以上、好ましくは400の高分子量のヒンダードアルコール類は、高温条件(例えば内燃機関等の摺動条件)においても揮発しにくく耐熱性に優れ、摩擦低減効果を発揮できるとともに、優れた酸化安定性をも付与できる点で好ましい。
【0051】
更に、3価以上のアルコール類(1−3)としては、具体的には、ヒドロキシル基を3つ以上有するものであり、通常3〜10価、好ましくは3〜6価の多価アルコールが用いられる。具体例としては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等のトリメチロールアルカン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等、及びこれらの重合体又は縮合物(例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等のグリセリンの2〜8量体等、ジトリメチロールプロパン等のトリメチロールプロパンの2〜8量体等、ジペンタエリスリトール等のペンタエリスリトールの2〜4量体等、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等の縮合化合物(分子内縮合化合物、分子間縮合化合物又は自己縮合化合物)等が挙げられる。
【0052】
また、キシロース、アラビトール、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類も使用可能である。
【0053】
これら3価以上のアルコール類においては、グリセリン、トリメチロールアルカン(例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)、ペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の3〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等がより好ましく、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン及びこれらの混合物が更に好ましく、酸素含有量が20%以上、好ましくは30%以上、特に好ましくは40%である多価アルコール類であることが特に好ましい。なお、6価を超える多価アルコールの場合、粘度が高くなりすぎる。
【0054】
更にまた、アルキレンオキサイド付加物(1−4)は、上記アルコール類(1−1〜3)のアルキレンオキサイド付加物であり、具体的には、当該アルコール類に炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルキレンオキサイド、その重合体又は共重合体を付加させ、アルコール類のヒドロキシル基をハイドロカルビルエーテル化又はハイドロカルビルエステル化したものが挙げられる。炭素数2〜6のアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−エポキシブタン(α−ブチレンオキサイド)、2,3−エポキシブタン(β−ブチレンオキサイド)、1,2−エポキシ−1−メチルプロパン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。これらの中では、低摩擦性に優れる点から、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドがより好ましい。
【0055】
なお、2種以上のアルキレンオキサイドを用いた場合には、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよい。また、ヒドロキシル基を2〜6個有する多価アルコールにアルキレンオキサイドを付加させる際、全てのヒドロキシル基に付加させてもよいし、一部のヒドロキシル基のみに付加させてもよい。
【0056】
カルボン酸類(2)は、次の一般式(II)
【0058】
で表される含酸素有機化合物であり、カルボキシル基を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0059】
上記カルボン酸類(2)としては、具体的に、例えば以下のものが挙げられる。
・脂肪族モノカルボン酸類(脂肪酸類)(2−1)
・脂肪族多価カルボン酸類(2−2)
・炭素環カルボン酸類(2−3)
・複素環式カルボン酸類(2−4)
・上記4種のカルボン酸類から選ばれる2種以上の混合物(2−5)
【0060】
上記脂肪族モノカルボン酸類(脂肪酸類)(2−1)は、具体的には、カルボキシル基を分子中に1つ有する脂肪族モノカルボン酸類であり、例えばメタン酸、エタン酸(酢酸)、プロパン酸(プロピオン酸)、ブタン酸(酪酸、イソ酪酸等)、ペンタン酸(吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸等)、ヘキサン酸(カプロン酸等)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸等)、ノナン酸(ペラルゴン酸等)、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸等)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸等)、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸等)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸等)、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸等の炭素数1〜40の飽和脂肪族モノカルボン酸(これら飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でも良い。);プロペン酸(アクリル酸等)、プロピン酸(プロピオール酸等)、ブテン酸(メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等)、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸(オレイン酸等)、ノナデセン酸、イコセン酸、ヘンイコセン酸、ドコセン酸、トリコセン酸、テトラコセン酸、ペンタコセン酸、ヘキサコセン酸、ヘプタコセン酸、オクタコセン酸、ノナコセン酸、トリアコンテン酸等の炭素数1〜40の不飽和脂肪族モノカルボン酸(これら不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である)等が挙げられる。
【0061】
また、上記脂肪族多価カルボン酸類(2−2)としては、エタン二酸(シュウ酸)、プロパン二酸(マロン酸等)、ブタン二酸(コハク酸、メチルマロン酸等)、ペンタン二酸(グルタル酸、エチルマロン酸等)、ヘキサン二酸(アジピン酸等)、ヘプタン二酸(ピメリン酸等)、オクタン二酸(スベリン酸等)、ノナン二酸(アゼライン酸等)、デカン二酸(セバシン酸等)、プロペン二酸、ブテン二酸(マレイン酸、フマル酸等)、ペンテン二酸(シトラコン酸、メサコン酸等)、ヘキセン二酸、ヘプテン二酸、オクテン二酸、ノネン二酸、デセン二酸等の炭素数2〜40の飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である);プロパントリカルボン酸、ブタントリカルボン酸、ペンタントリカルボン酸、ヘキサントリカルボン酸、ヘプタントリカルボン酸、オクタントリカルボン酸、ノナントリカルボン酸、デカントリカルボン酸等の飽和又は不飽和脂肪族トリカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である);飽和又は不飽和脂肪族テトラカルボン酸(これら飽和脂肪族又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、また不飽和結合の位置も任意である)等が挙げられる。
【0062】
更に、上記炭素環カルボン酸類(2−3)は、具体的には、炭素環にカルボキシル基を分子中に1つ又は2つ以上有するカルボン酸類であり、例えば、シクロヘキサンモノカルボン酸、メチルシクロへキサンモノカルボン酸、エチルシクロヘキサンモノカルボン酸、プロピルシクロへキサンモノカルボン酸、ブチルシクロへキサンモノカルボン酸、ペンチルシクロへキサンモノカルボン酸、ヘキシルシクロへキサンモノカルボン酸、ヘプチルシクロへキサンモノカルボン酸、オクチルシクロへキサンモノカルボン酸、シクロヘプタンモノカルボン酸、シクロオクタンモノカルボン酸、トリメチルシクロペンタンジカルボン酸(ショウノウ酸等)等の炭素数3〜40の、ナフテン環を有するモノ、ジ、トリ又はテトラカルボン酸(アルキル基、アルケニル基を置換基として有する場合、それらは直鎖状でも分枝状でも良く、二重結合の位置も任意であり、また、その置換数、置換位置も任意である);ベンゼンカルボン酸(安息香酸)、メチルベンゼンカルボン酸(トルイル酸等)、エチルベンゼンカルボン酸、プロピルベンゼンカルボン酸、ベンゼンジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等)、ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸等)、ベンゼンテトラカルボン酸(ピロメリット酸等)ナフタリンカルボン酸(ナフトエ酸等)等、炭素数7〜40の芳香族モノカルボン酸類、フェニルプロパン酸(ヒドロアトロパ酸)、フェニルプロペン酸(アトロパ酸、ケイ皮酸等)、サリチル酸、炭素数1〜30のアルキル基を1つ又は2つ以上有するアルキルサリチル酸等の炭素数7〜40のアリール基を有するモノ、ジ、トリ又はテトラカルボン酸(アルキル基、アルケニル基を置換基として有する場合、それらは直鎖状でも分枝状でも良く、二重結合の位置も任意であり、また、その置換数、置換位置も任意である)等が挙げられる。
【0063】
更にまた、上記複素環式カルボン酸類(2−4)としては、具体的には、カルボキシル基を分子中に1つ又は2つ以上有する複素環式カルボン酸類であり、例えば、フランカルボン酸、チオフェンカルボン酸、ピリジンカルボン酸(ニコチン酸、イソニコチン酸等)等、炭素数5〜40の、複素環式カルボン酸類が挙げられる。
【0064】
エステル類(3)は、次の一般式(III)
【0066】
で表される含酸素有機化合物であり、エステル結合を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0067】
上記エステル類(3)としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
・脂肪酸モノカルボン酸類(脂肪酸類)のエステル(3−1)
・脂肪族多価カルボン酸類のエステル(3−2)
・炭素環カルボン酸類のエステル(3−3)
・複素環式カルボン酸類のエステル(3−4)
・アルコール類又はエステル類のアルキレンオキサイド付加物(3−5)
・上記5種のエステル等から選ばれる任意の混合物(3−6)
なお、上記3−1〜5に挙げたエステル類は、ヒドロキシル基又はカルボキシル基が全てエステル化された完全エステルでも良く、ヒドロキシル基又はカルボキシル基が一部残存した部分エステルであっても良い。
【0068】
上記脂肪酸モノカルボン酸類(脂肪酸類)のエステル(3−1)は、上述の脂肪酸モノカルボン酸類(2−1)から選ばれる1種又は2種以上と、上述の1価、2価又は3価以上のアルコール類(1−1〜3)から選ばれる1種又は2種以上とのエステルである。また、脂肪族モノカルボン酸しては、例えば、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどが挙げられる。このうち、炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、具体的には、当該炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとからなるエステルなどは特に好ましい。詳しくは後述する。
【0069】
特に好ましい脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤以外のエステル(3−1)としては、炭素数1〜5又は炭素数31〜40の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステルが挙げられ、かかる炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとからなるエステルなどを例示できる。
【0070】
これらのうち、100℃における動粘度が1〜100mm
2/sのものは潤滑油基油として使用することができ、通常、上記特に好ましい脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤と区別することができる。これらの例としては、例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等の、炭素数3〜40、好ましくは炭素数4〜18、特に好ましくは4〜12の3価以上のポリオール類、特にネオペンチル構造を有する3価以上のポリオール類と、炭素数1〜40、好ましくは炭素数4〜18、特に好ましくは6〜12のモノカルボン酸から選ばれる1種又は2種以上との単一エステル類あるいはコンプレックスエステル類等のポリオールエステル類及びこれらの混合物、あるいは、更にアルキレンオキサイドを付加させたもの等が挙げられる。これらはヒドロキシル基又はカルボキシル基が全てエステル化された完全エステルでも良く、ヒドロキシル基又はカルボキシル基が一部残存した部分エステルでも良いが、完全エステルであることが好ましく、そのヒドロキシル基価は通常100mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、特に好ましくは10mgKOH/g以下である。また、これら潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは2〜60mm
2/s、特に好ましくは3〜50mm
2/sである。
【0071】
また、脂肪族多価カルボン酸類のエステル(3−2)は、上述の脂肪族多価カルボン酸類(2−2)から選ばれる1種又は2種以上と、上述の1価、2価又は3価以上のアルコール類(1−1〜3)から選ばれる1種又は2種以上とのエステル等である。具体例的には、例えば、ジブチルマレエート、ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等の炭素数2〜40、好ましくは炭素数4〜18、特に好ましくは6〜12のジカルボン酸類から選ばれる1種又は2種以上の多価カルボン酸類と、炭素数4〜40、好ましくは炭素数4〜18、特に好ましくは6〜14の1価アルコール類から選ばれる1種又は2種以上とのジエステル類、これらジエステル類(例えばジブチルマレエート等)と炭素数4〜16のポリαオレフィン等との共重合体、無水酢酸等にαオレフィンを付加した化合物と炭素数1〜40のアルコール類とのエステル等が挙げられる。これらのうち、100℃における動粘度が1〜100mm
2/sのものは潤滑油基油として使用することができる。
【0072】
更に、炭素環カルボン酸類のエステル(3−3)としては、上述の炭素環カルボン酸類(2−3)から選ばれる1種又は2種以上と、上述の1価、2価又は3価以上のアルコール類(1−1〜3)から選ばれる1種又は2種以上とのエステル等が挙げられる。具体的には、例えば、フタル酸エステル類、トリメリット酸エステル類、ピロメリット酸エステル類、サリチル酸エステル類等の芳香族カルボン酸エステル類が挙げられる。これらのうち、100℃における動粘度が1〜100mm
2/sのものは潤滑油基油として使用することができる。
【0073】
更にまた、複素環式カルボン酸類のエステル(3−4)としては、上述の複素環式カルボン酸類(2−4)から選ばれる1種又は2種以上と、上述の1価、2価又は3価以上のアルコール類(1−1〜3)から選ばれる1種又は2種以上とのエステル類が挙げられる。これらのうち、100℃における動粘度が1〜100mm
2/sのものは潤滑油基油として使用することができる。
【0074】
また、アルコール類又はエステル類のアルキレンオキサイド付加物(3−5)としては、上述の1価、2価又は3価以上のアルコール類(1−1〜3)から選ばれる1種又は2種以上にアルキレンオキサイドを付加してエステル化したものや、上述の(3−1〜4)エステルにアルキレンオキサイドを付加したもの等が挙げられる。これらのうち、100℃における動粘度が1〜100mm
2/sのものは潤滑油基油として使用することができる。
【0075】
エーテル類(4)は、次の一般式(IV)
【0077】
で表される含酸素有機化合物であり、エーテル結合を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0078】
上記エーテル類(4)としては、具体的には、例えば、以下のもの等が挙げられる。
・飽和又は不飽和脂肪族エーテル類(4−1)
・芳香族エーテル類(4−2)
・環式エーテル類(4−3)
・上記3種エーテル類のから選ばれる2種以上の混合物(4−4)
【0079】
飽和又は不飽和脂肪族エーテル類(脂肪族単一エーテル類)(4−1)としては、具体的には、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジ−n−アミルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジヘプチルエーテル、ジオクチルエーテル、ジノニルエーテル、ジデシルエーテル、ジウンデシルエーテル、ジドデシルエーテル、ジトリデシルエーテル、ジテトラデシルエーテル、ジペンタデシルエーテル、ジヘキサデシルエーテル、ジヘプタデシルエーテル、ジオクタデシルエーテル、ジノナデシルエーテル、ジイコシルエーテル、メチルエチルエーテル、メチル−n−プロピルエーテル、メチルイソプロピルエーテル、メチルイソブチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、メチル−n−アミルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチル−n−プロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチル−tert−ブチルエーテル、エチル−n−アミルエーテル、エチルイソアミルエーテル、ジビニルエーテル、ジアリルエーテル、メチルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルビニルエーテル、エチルアリルエーテル等の炭素数1〜40の飽和又は不飽和脂肪族エーテル類(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意である)が挙げられる。
【0080】
また、芳香族エーテル類(4−2)としては、具体的には、例えば、アニソール、フェネトール、フェニルエーテル、ベンジルエーテル、フェニルベンジルエーテル、α−ナフチルエーテル、β−ナフチルエーテル、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル等が挙げられ、これらは飽和又は不飽和脂肪族基を有していても良い(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、その置換位置も数も任意である)。これらはその使用条件、特に常温において液状であることが好ましい。
【0081】
更に、環式エーテル類(4−3)としては、具体的には、例えば、酸化エチレン、酸化プロピレン、酸化トリメチレン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、グリシジルエーテル類等の炭素数2〜40の環式エーテル類が挙げられ、これらは飽和又は不飽和脂肪族基、炭素環、飽和又は不飽和脂肪族基を有する炭素環を有していても良い(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、その置換位置も数も任意である)。
【0084】
で表される含酸素有機化合物であり、カルボニル結合を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0085】
上記ケトン類(5)としては、具体的には、例えば、以下のもの等が挙げられる。
・飽和又は不飽和脂肪族ケトン類(5−1)
・炭素環ケトン類(5−2)
・複素環ケトン類(5−3)
・ケトンアルコール類(5−4)
・ケトン酸類(5−5)
・上記5種のケトン類等から選ばれる2種以上の混合物(5−6)
【0086】
飽和又は不飽和脂肪族ケトン類(5−1)としては、具体的には、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ピナコロン、ジエチルケトン、ブチロン、ジイソプロピルケトン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、メチルフェプテノン等の炭素数1〜40の飽和又は不飽和脂肪族ケトン類(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意である)等が挙げられる。
【0087】
また、炭素環ケトン類(5−2)としては、具体的には、例えば、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、バレロフェノン、ベンゾフェノン、ジベンジルケトン、2−アセトナフトン等の炭素数1〜40の炭素環ケトン類が挙げられ、これらは飽和又は不飽和脂肪族基を有していても良い(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、その置換位置も数も任意である)。
【0088】
更に、複素環ケトン類(5−3)としては、具体的には、例えば、アセトチエノン、2−アセトフロン等の炭素数1〜40の炭素環ケトン類が挙げられ、これらは飽和又は不飽和脂肪族基を有していても良い(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、その置換位置も数も任意である)。
【0089】
更にまた、ケトンアルコール(ケトール)類(5−4)としては、具体的には、例えば、アセトール、アセトイン、アセトエチルアルコール、ジアセトンアルコール、フェナシルアルコール、ベンゾイン等の炭素数1〜40のケトンアルコール類が挙げられ、これらは炭素環、複素環を有していてもよく、また、飽和又は不飽和脂肪族基を有する炭素環、複素環を有していても良い(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、その置換位置も数も任意である)。
【0090】
また、ケトン酸類(5−5)としては、具体的には、例えば、ピルビン酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸等のα−ケトン酸類、アセト酢酸、プロピオニル酢酸、ベンゾイル酢酸等のβ−ケトン酸類、レブリン酸、β−ベンゾイルプロピオン酸等のγ−ケトン酸類等の炭素数1〜40のケトン酸類が挙げられる。
【0091】
アルデヒド類(6)は、次の一般式(VI)
【0093】
で表される含酸素有機化合物であり、アルデヒド基1つ又は2つ以上を有する化合物が例示できる。
【0094】
上記アルデヒド類(6)としては、具体的には、例えば、以下のもの等が挙げられる。
・飽和又は不飽和脂肪族アルデヒド類(6−1)
・炭素環アルデヒド類(6−2)
・複素環アルデヒド類(6−3)
・上記3種のアルデヒド類から選ばれる2種以上の混合物(6−4)
【0095】
飽和又は不飽和脂肪族アルデヒド類(6−1)としては、具体的には、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ピバリンアルデヒド、カプロンアルデヒド、ヘプトアルデヒド、カプリルアルデヒド、ペラルゴンアルデヒド、化プリンアルデヒド、ウンデシルアルデヒド、ラウリンアルデヒド、トリデシルアルデヒド、ミリスチンアルデヒド、ペンタデシルアルデヒド、パルミチンアルデヒド、マルガリンアルデヒド、ステアリンアルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、プロピオールアルデヒド、グリオキサール、スクシンジアルデヒド等の炭素数1〜40の飽和又は不飽和脂肪族アルデヒド類(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意である)等が挙げられる。
【0096】
また、炭素環アルデヒド類(6−2)としては、具体的には、例えば、ベンズアルデヒド、o−トルアルデヒド、m−トルアルデヒド、p−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、シンナムアルデヒド、α−ナフトアルデヒド、β−ナフトアルデヒド等の炭素数1〜40の炭素環アルデヒド類等が挙げられ、これらは飽和又は不飽和脂肪族基を有していても良い(これらは飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、置換位置も数も任意である)。
【0097】
更に、複素環アルデヒド類(6−3)としては、具体的には、例えば、フルフラール等の炭素数1〜40の複素環アルデヒド類等が挙げられ、これらは飽和又は不飽和脂肪族基を有していても良い(これらは飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、置換位置も数も任意である)。
【0098】
カーボネート類(7)は、次の一般式(VII)
【0099】
R−(O−COO−R’)
n…(VII)
【0100】
で表される含酸素有機化合物であり、カーボネート結合を1つ又は2つ以上有する化合物が例示できる。
【0101】
上記カーボネート類(7)としては、具体的には、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジn−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジn−ブチルカーボネート、ジイソブチルカーボネート、ジtertブチルカーボネート、ジペンチルカーボネート、ジヘキシルカーボネート、ジヘプチルカーボネート、ジオクチルカーボネート、ジノニルカーボネート、ジデシルカーボネート、ジウンデシルカーボネート、ジドデシルカーボネート、ジトリデシルカーボネート、ジテトラデシルカーボネート、ジペンタデシルカーボネート、ジヘキサデシルカーボネート、ジヘプタデシルカーボネート、ジオクタデシルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の炭素数1〜40の飽和又は不飽和脂肪族、炭素環、飽和又は不飽和脂肪族を有する炭素環、炭素環を有する飽和又は不飽和脂肪族等を有するカーボネート類(これら飽和又は不飽和脂肪族は直鎖状でも分枝状でもよく、不飽和結合の位置は任意であり、また、置換位置も数も任意である)等、あるいはこれらカーボネート類にアルキレンオキサイドを付加したヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート類等が挙げられる。
【0102】
また、上記含酸素有機化合物(1)〜(7)の誘導体としては、例えば、上記含酸素有機化合物に、窒素含有化合物、リン含有化合物、硫黄や硫黄含有化合物、ホウ素含有化合物、ハロゲン元素やハロゲン元素含有化合物、金属元素や金属含有化合物等(有機、無機を問わない)を反応させて得られる化合物等が挙げられるが、特にこれらに制限されるものではない。なお、誘導体を得る際に用いる上記化合物は、通常添加剤として用いられるものであるが、基油として用いられる場合においてもその効果は特に限定されるものではない。
【0103】
一方、一般式(I)〜(VII)におけるR及びR’は、それぞれ個別に、アルキル基、アルケニル基、アルキレン基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等の炭化水素基(これら炭化水素基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル結合、エーテル結合から選ばれる1種又は2種以上の基又は結合を更に有していても良く、炭素、水素及び酸素以外の元素、例えば、窒素や硫黄(例えば複素環化合物)、ハロゲン(フッ素、塩素等)、リン、ホウ素、金属等を含有していても良い。)を示す。なお、上記炭化水素基は、その炭素数に何ら制限はないが、好ましくは炭素数1〜40、より好ましくは炭素数2〜30、特に好ましくは炭素数3〜20である。
【0104】
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝のペンチル基、直鎖又は分枝のヘキシル基、直鎖又は分枝のヘプチル基、直鎖又は分枝のオクチル基、直鎖又は分枝のノニル基、直鎖又は分枝のデシル基、直鎖又は分枝のウンデシル基、直鎖又は分枝のドデシル基、直鎖又は分枝のトリデシル基、直鎖又は分枝のテトラデシル基、直鎖又は分枝のペンタデシル基、直鎖又は分枝のヘキサデシル基、直鎖又は分枝のヘプタデシル基、直鎖又は分枝のオクタデシル基、直鎖又は分枝のノナデシル基、直鎖又は分枝のイコシル基、直鎖又は分枝のヘンイコシル基、直鎖又は分枝のドコシル基、直鎖又は分枝のトリコシル基、直鎖又は分枝のテトラコシル基等の炭素数1〜40のアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数2〜30のアルキル基、特に好ましくは炭素数3〜20のアルキル基である。
【0105】
また、上記アルケニル基としては、ビニル基、直鎖又は分枝のプロペニル基、直鎖又は分枝のブテニル基、直鎖又は分枝のペンテニル基、直鎖又は分枝のへキセニル基、直鎖又は分枝のヘプテニル基、直鎖又は分枝のオクテニル基、直鎖又は分枝のノネニル基、直鎖又は分枝のデセニル基、直鎖又は分枝のウンデセニル基、直鎖又は分枝のドデセニル基、直鎖又は分枝のトリデセニル基、直鎖又は分枝のテトラデセニル基、直鎖又は分枝のペンタデセニル基、直鎖又は分枝のヘキサデセニル基、直鎖又は分枝のヘプタデセニル基、直鎖又は分枝のオクタデセニル基、直鎖又は分枝のノナデセニル基、直鎖又は分枝のイコセニル基、直鎖又は分枝のヘンイコセニル基、直鎖又は分枝のドコセニル基、直鎖又は分枝のトリコセニル基、直鎖又は分枝のテトラコセニル基等の炭素数2〜40のアルケニル基等が挙げられ、好ましくは炭素数2〜30のアルケニル基、特に好ましくは炭素数3〜20のアルケニル基である。
【0106】
更に、上記シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基シクロオクチル基等の炭素数3〜40のシクロアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数3〜20のシクロアルキル基、特に好ましくは炭素数5〜8のシクロアルキル基である。
【0107】
更にまた、上記アルキルシクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)等の炭素数4〜40のアルキルシクロアルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素数5〜20のアルキルシクロアルキル基、特に好ましくは炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基である。
【0108】
また、上記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等、炭素数6〜20のアリール基、好ましくは炭素数6〜10のアリール基である。
【0109】
更に、上記アルキルアリール基としては、トリル基(全ての構造異性体を含む。)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のプロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のオクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖又は分枝のドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)のような1置換フェニル基;キシリル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルフェニル基、ジプロピルフェニル基、2−メチル−6−tert−ブチルフェニル基、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル基、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ベンジル)フェニル基等のような同一又は異なる直鎖又は分枝のアルキル基、を2つ以上有するアリール基(アルキル基は、更にアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を含んでも良く、全ての構造異性体を含む。)等のアルキルアリール基等が挙げられ、炭素数7〜40のアルキルアリール基、好ましくは炭素数7〜20のアルキルアリール基、特に好ましくは炭素数7〜12のアルキルアリール基である。
【0110】
更に、アリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基(プロピル基の異性体を含む。)フェニルブチル基(ブチル基の異性体を含む。)、フェニルペンチル基(ペンチル基の異性体を含む。)、フェニルヘキシル基(ヘキシル基の異性体を含む。)等の炭素数7〜40のアリールアルキル基、好ましくは炭素数7〜20のアリールアルキル基、特に好ましくは炭素数7〜12のアリールアルキル基である。
【0111】
以上説明した含酸素有機化合物は、それらの誘導体であっても同様に使用できる。具体的には、例えば、上記アルコール類、カルボン酸類、エステル類、エーテル類、ケトン類、アルデヒド類及びカーボネート類から選ばれる1種を硫化した化合物や、ハロゲン化(フッ化、塩化等)した化合物や、硫酸、硝酸、硼酸、リン酸及びこれらの酸のエステル類又は金属塩類との反応生成物や、金属、金属含有化合物、又はアミン化合物との反応生成物、等が挙げられる。これらの中では、アルコール類、カルボン酸類及びアルデヒド類並びにこれらの誘導体から選ばれる1種又は2種以上と、アミン化合物との反応生成物(例えばマンニッヒ反応生成物、アシル化反応生成物、アミド等)が好ましい例として挙げられる。
【0112】
上記アミン化合物としては、アンモニア、モノアミン、ジアミン、ポリアミンが挙げられる。より具体的には、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。
【0113】
これら窒素化合物の中でもデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい)が好ましい例として挙げることができる。また、これら含酸素有機化合物の誘導体の中でも、オレイン酸アミドのような炭素数8〜20のカルボン酸アミド類が好ましい例として挙げられる。
【0114】
上記含酸素有機化合物は、摺動部材の硬質炭素層と任意の材料種で構成された他の摺動部材とがなす摺動面に、単独(即ち100質量%)で使用しても、極めて優れた低摩擦特性能を発揮するが、含酸素有機化合物に潤滑剤の基材(例えば、基油)や添加剤を添加した、又は各種媒体(潤滑剤基材のみのものや添加剤を更に添加したものもの含む。)に含酸素有機化合物を添加した潤滑剤を当該摺動面に供給し潤滑させても良い。
【0115】
かかる潤滑剤は、具体的には、例えば、鉱油、合成油、天然油脂、希釈油、グリース、ワックス、炭素数3〜40の炭化水素、炭化水素系溶剤、炭化水素以外の有機溶媒、水等、及びこれらの混合物等の様々な媒体、特にその摺動条件や常温において液状、グリース状又はワックス状である媒体に任意の割合で含酸素有機化合物を添加して得られる。これらの媒体に含有させる含酸素有機化合物の含有量は、特に制限はないが、通常、その下限値は0.001質量%、好ましくは0.05質量%であり、更に好ましくは0.1質量%であり、3.0質量%を超えて含有させても良い。また、その上限値は、上記の通り100質量%であるが、好ましくは50質量%、より好ましくは20質量%、更に好ましくは10質量%、特に好ましくは5質量%であり、0.1〜2質量%程度の少量の添加であっても優れた低摩擦特性を発揮することができる。
【0116】
図3は、基材2の外周面(側面)上に所定の硬質クロムめっき層4と所定の硬質炭素層6とが形成された摺動部材1の一例であるピストンリング1’の平面図(a)及び周方向の部分断面図(b)である。本例では、基材2の摺動面に硬質クロムめっき層4と硬質炭素層6とがこの順で積層形成された構成を有する。このような構成を有するため、ピストンリングの外周面(側面)が、図示しない相手材であるシリンダボアと摺動して摩擦が生じても、耐剥離性や低摩擦特性を発揮することができる。
【0117】
また、
図4は、基材2の外周面(側面)及び上下面上に所定の硬質クロムめっき層4と所定の硬質炭素層6とが形成された摺動部材1の一例であるピストンリング1”の平面図(a)及び周方向の部分断面図(b)である。本例では、基材2の摺動面及び接触面に硬質クロムめっき層4と硬質炭素層6とがこの順で積層形成された構成を有する。このような構成を有するため、ピストンリング外周面(側面)が、図示しない相手材であるシリンダボアと摺動して摩擦が生じても、耐剥離性や低摩擦特性を発揮することができる。また、ピストンリングの上下面が、図示しない相手材であるピストンのリング溝と接触しても、低摩擦特性や耐焼付性を発揮することができる。なお、図示しないが、ピストンリングの全表面に硬質クロムめっき層と硬質炭素層とをこの順で積層形成することも可能である。また、ピストンリングと摺動するシリンダボアの摺動面に硬質クロムめっき層と硬質炭素層とをこの順で積層形成された構成とすることも好適である。
【0118】
次に、本発明の摺動部材に適用する特に好ましい潤滑剤について詳細に説明する。
潤滑剤は、自動車エンジン用ピストンリングと組み合わせて用いられる潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤、脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤、ポリブテニルコハク酸イミド、ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体又はジチオリン酸亜鉛及びこれらの任意の組合せに係る成分を含有させて成る。
【0119】
ここで、潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂及びこれらの混合物など、潤滑油組成物の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。また、2種類以上の鉱油系基油又は2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。更に、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0120】
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系又はナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用でき、溶剤精製、水素化精製処理したものが一般的である。しかしながら、芳香族分をより低減することが可能な高度水素化分解プロセスやGTL Wax(ガス・トウー・リキッド・ワックス)を異性化する手法で製造したイソパラフィンを用いることがより好ましい。
【0121】
合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンイソステアリネート等のトリメチロールプロパンエステル;ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のペンタエリスリトールエステル)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル及びポリフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフイン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。また、当該エステル類としては、ポリオールエステル類が特に好ましい。代表的には、ギヤ油、自動車用エンジン油、トランスミッション油、タービン油、スピンドル油などを挙げることができる。
【0122】
潤滑油基油中の硫黄分について、特に制限はないが、基油全量基準で、0.2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であることが好ましい。特に、水素化精製鉱油や合成系基油の硫黄分は、0.005質量%以下、又は実質的に硫黄分を含有していない(5質量ppm以下)ことから、これらを基油として用いることが好ましい。
【0123】
また、潤滑油基油中の芳香族含有量についても、特に制限はないが、潤滑油組成物として長期間低摩擦特性を維持するためには、全芳香族含有量が15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらには5質量%以下であることが好ましい。即ち、潤滑油基油の全芳香族含有量が15質量%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。ここで、「全芳香族含有量」とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味している。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、四環以上のベンゼン環が縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0124】
潤滑油基油の動粘度にも、特に制限はないが、潤滑油組成物として使用する場合には、100℃における動粘度が2mm
2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm
2/s以上である。一方、100℃における動粘度は、20mm
2/s以下であることが好ましく、10mm
2/s以下であることが更に好ましく、特に8mm
2/s以下であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm
2/s未満である場合には、十分な耐摩耗性が得られない上に蒸発特性が劣る可能性があるため好ましくない。一方、動粘度が20mm
2/sを超える場合には低摩擦性能を発揮しにくく、低温性能が悪くなる可能性があるため好ましくない。なお、上記基油の中から選ばれる2種以上の基油を任意に混合した混合物等が使用でき、100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内である限りにおいては、基油単独の動粘度が上記以外のものであっても使用可能である。潤滑油基油の100℃における動粘度を2mm
2/s以上とすることによって油膜形成が十分であり、潤滑性に優れ、また、高条件下での基油の蒸発損失がより小さい組成物を得ることができる。一方、100℃における動粘度を20mm
2/s以下とすることによって、流体抵抗が小さくなるため潤滑個所での摩擦抵抗のより小さい組成物を得ることができる。
【0125】
更にまた、潤滑油基油の粘度指数は、特に制限はないが、80以上であることが好ましく、潤滑油組成物として使用する場合には、100以上であることが好ましく、120以上であることが更に好ましく、140以上、250以下であっても良い。潤滑油基油の粘度指数が高いものを選択することにより、オイル消費が少ないことや、低温粘度特性に優れるだけでなく、摩擦低減効果に優れた組成物を得ることができる。
【0126】
使用する脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の一方又は双方としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意の混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0127】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基及びトリアコンチル基等のアルキル基や、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基及びトリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0128】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート及びソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
【0129】
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン及びN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及びイミノ基の一方又は双方の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0130】
また、潤滑油組成物に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の一方又は双方の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0質量%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0質量%、特に好ましくは0.5〜1.4質量%であることがよい。上記含有量が0.05質量%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0質量%を超えると潤滑油への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0131】
一方、上述したポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(VIII)及び(IX)
【0134】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を、吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50質量ppm以下、より望ましくは10質量ppm以下、特に望ましくは1質量ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0135】
かかるポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0136】
一方、上述したポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記一般式(VIII)又は(IX)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及びイミノ基の一方又は双方の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが現時点では最も好ましいものとして挙げられる。
【0137】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、メタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム及び八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル及びホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
【0138】
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、ぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸及びエイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸及びピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイドやヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。
【0139】
なお、潤滑油組成物では、ポリブテニルコハク酸イミド及びその誘導体の一方又は双方の含有量は特に制限されないが、0.1〜15質量%が好ましく、1.0〜12質量%であることが更に好ましい。0.1質量%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15質量%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0140】
更にまた、潤滑油組成物は、次の一般式(X)
【0142】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。上記式(X)中のR
4、R
5、R
6及びR
7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0143】
上記R
4、R
5、R
6及びR
7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基及びテトラコシル基等のアルキル基や、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基及びオレイル基等のオクタデセニル基や、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基及びテトラコセニル基等のアルケニル基や、シクロペンチル基、シクロへキシル基及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基や、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基及びプロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基や、フェニル基及びナフチル基等のアリール基や、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基及びドデシルフェニル基等のアルキルアリール基や、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基及びジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基が例示できる。なお、R
4、R
5、R
6及びR
7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0144】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0145】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、組成物全量基準且つリン元素換算量で、0.1質量%以下であることが好ましく、また0.06質量%以下であることが更に好ましく、ジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量が組成物全量基準且つリン元素換算量で0.1質量%を超えると、硬質炭素薄膜が被覆された部材と任意の材料種で構成された他の摺動部材とがなす摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害される可能性がある。
【0146】
かかるジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、上記R
4、R
5、R
6及びR
7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五酸化二リン(P
2O
5)と反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。また、上記一般式(X)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0147】
上述のように、潤滑油組成物は、硬質炭素層が被覆された摺動部材と任意の材料種で構成された他の摺動部材とがなす摺動面に用いた場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すものであるが、特に内燃機関用潤滑油組成物として必要な性能を高める目的で、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0148】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択できる。通常、全塩基価は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、好ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は組成物全量基準で、通常0.1〜10質量%である。
【0149】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクダデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5質量%である。
【0150】
更に、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40.0質量%であることが望ましい。
【0151】
更にまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
【0152】
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0153】
更に、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
【0154】
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0155】
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
更に、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール及びチアジアゾール等が挙げられる。
【0156】
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0157】
なお、これら添加剤を潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は、組成物全量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤については0.01〜5質量%、金属不活性剤については0.005〜1質量%、消泡剤については0.0005〜1質量%の範囲から適宜選択できる。
【0158】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。
【0159】
(
参考例1)
自動車用エンジンのピストンリング基材の表面上に、厚さ約100μmの硬質クロムめっき層を電解めっきにより形成した。次いで、硬質クロムめっき層を形成したピストンリング基材を、大気中、250℃で加熱処理した。しかる後、ピストンリング基材の硬質クロムめっき層上に、水素を含まない硬質炭素層をPVD法により形成して、本例のピストンリングを得た。
【0160】
また、途中工程である硬質クロムめっき層の形成後に、同一バッチで硬質クロムめっき層を形成した別のピストンリングを用い、上記ピストンリングの作製工程と同一条件で加熱処理して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。水素濃度の計測方法としては、適切な大きさに切り出した試料をるつぼに入れ、約1000℃まで加熱し、発生したガスを分析する手法とした。キャリアガスはアルゴン(Ar)とし、排出されるガス中の水素濃度を測定し、キャリアガスの流量より水素量を計算した。また、同時に硬質クロムめっき層を形成しなかった試料も同様の測定を行い、バックグラウンド値として差し引くことにより、硬質クロムめっき層に含まれる水素量のみを計算した。その結果、硬質クロムめっき層の水素濃度は148ppmであった。
【0161】
(実施例2)
加熱処理の温度を280℃としたこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
【0162】
(実施例3)
加熱処理の温度を300℃としたこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
【0163】
(実施例4)
加熱処理の温度を350℃としたこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
【0164】
(
参考例5)
加熱処理の温度を400℃としたこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
【0165】
(比較例1)
加熱処理を行わなかったこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
【0166】
(比較例2)
加熱処理の温度を100℃としたこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
【0167】
(比較例3)
加熱処理の温度を200℃としたこと以外は、
参考例1と同様の操作を繰り返して、本例のピストンリングを得た。また、その際、同様の操作を繰り返して、硬質クロムめっき層の水素濃度を調べた。
上記各例の仕様の一部を表1に示す。
【0169】
[往復摺動試験]
上記各例のピストンリングと潤滑剤としてのエンジン油とを用い、平均摺動速度0.3m/s、押し付け荷重100Nの条件下で往復摺動試験を30分間行った。硬質炭素層の表面状態を走査型電子顕微鏡によって観察した結果を表1に併記する。また、総合的な判定結果を表1に併記する。なお、表1中の「◎」は実用上問題がなく、特に優れていること、「○」は実用上問題がなく、優れていること、「×」は実用上問題があり、劣っていることを示す。
【0170】
なお、
図5、
図6、
図7及び
図8は、それぞれ
参考例1、実施例2、比較例1及び比較例3の摺動部材であるピストンリングにおける表面状態を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【0171】
参考例1のピストンリングにおいては、摺動面の硬質炭素層にごく微小な剥離が観察されたものの、実用上問題のないレベルであり、硬質炭素層は高い密着力、すなわち優れた耐剥離性を有することが分かった(
図5参照。)。
【0172】
実施例2〜4のピストンリングにおいては、摺動面の硬質炭素層に剥離は観察されず、硬質炭素層は高い密着力、すなわち優れた耐剥離性を有することが分かった(
図6参照。)。
【0173】
参考例5のピストンリングにおいては、摺動面の硬質炭素層に剥離は観察されず、硬質炭素層は高い密着力、すなわち優れた耐剥離性を有することが分かった。しなしながら、硬質クロムめっき層の硬さが処理前と比較して200Hv以上低下し、硬質クロムめっき中に存在するマイクロクラックが拡大したため、硬質クロムめっき層本来の耐摩耗性の機能が著しく低下していると推測された。
【0174】
比較例1〜3のピストンリングにおいては、摺動面の硬質炭素層に大きな剥離が観察され、硬質炭素層の密着力が十分でなく、耐剥離性が十分でないことが分かった(
図7及び
図8参照。)。
【0175】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0176】
すなわち、上記実施形態及び実施例においては、摺動部材として、ピストンリングを例示したが、これに限定されるものではなく、他の動弁系や吸排気系の摺動部材や駆動系の摺動部材を挙げることができる。動弁系や吸排気系の摺動部材の具体例としては、ピストンピン、ピストン(又はピストンスカート(ピストンスカートは、ピストンのスカート部を意味する。))、シリンダ(又はシリンダライナ)、プランジャ、チェックバルブ、バルブガイド、コンロッド、ブッシュ、クランクシャフト、カムロブ、カムジャーナル、ロッカーアーム、バルブスプリング、シム、リフタ、ベーンポンプの回転ベーン、ベーンポンプのハウジング、タイミングチェーン、スプロケット、チェーンガイド(又はチェーンガイドシュー)、チェーンテンショナー(又はチェーンテンショナーシュー)などを挙げることができる。また、駆動系の摺動部材の具体例としては、自動変速機、無段変速機、手動変速機、終減速機などの歯車、ギヤ、チェーン、ベルト、転がり軸受、滑り軸受、オイルポンプなどを挙げることができる。
【0177】
また、本発明の摺動部材は、上記説明したものに限定されるものではなく、グリースやバイオディーゼル燃料、軽油燃料、ガストゥーリキッド(GTL)燃料、ハイオクガソリン燃料などの存在下で摺動する場合にも適用することができる。