(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施の形態の一例による回路基板の側面図(a)及び上面図(b)である。
図1(a)において、回路基板1は、コア層C1の両面に第1のグランド層であるグランドG1と第3のグランド層であるグランドG3を備える。グランドG1の上には、信号線S1が形成されるプリプレグ層P1がビルドアップされている。さらに、プリプレグ層P1の上には、グランドG2が形成されるプリプレグ層P2がビルドアップされる。
【0013】
コア層C1は、例えばガラスエポキシ樹脂を用いて、上部に形成されるビルドアップ層を反りや形状変化による割れや欠けから保護する。コア層の厚みや強度は、ビルドアップ層の層数や実装用途により異なる。但し、パッケージ組み立て工程によっては、コア層を無くしたコアレス基板を用いても良い。
コア層C1の両面にグランドG1とグランドG3が形成される。グランドG1及びグランドG3を形成するには、例えば無電解銅めっき処理により無電解銅メッキ層を形成した後に、さらに電解メッキにより所定の厚みの電解銅メッキ層を形成することができる。本実施形態ではコア層C1にグランドG1及びグランドG3を直接形成しているが、グランドG1とグランドG3を、プリプレグ層をコア層C1に接着して形成しても良い。また、図示しないビア(スルーホール)でグランドG1とグランドG3は導通される。
【0014】
グランドG1には、第1の開口部である開口部w1が設けられる。開口部w1は、銅メッキ層が除去された領域であり、例えば、開口部w1を設ける位置以外の位置の銅層表面にレジスト保護膜を形成して、エッチング液によりエッチングした後に、アルカリ溶液にてレジスト保護膜を除去して形成される。
【0015】
開口部w1は、
図1(b)に図示するとおり、後述する信号線に沿った、幅l2のスリット形状をしている。
【0016】
なお、本実施例では、コア層C1の上にプリプレグ層のビルドアップを行うが、例えば、コア層C1の代わりに数層の基板を用いて、その上にさらにビルドアップを行っても良い。
【0017】
次に、プリプレグをグランドG1に接着して、第1のプリプレグ層であるプリプレグ層P1を形成する。プリプレグは、例えば、炭素繊維クロスやガラス繊維クロスにエポキシ樹脂ワニスを含浸させて乾燥により半硬化したものである。プリプレグ層P1のビルドアップは、例えば、半硬化したプリプレグをグランドG1上に載置して、所定の温度及びプレス圧力により加熱加圧成形することにより、プリプレグ層P1をグランドG1に接着させて行う。ビルドアップされたプリプレグ層P1の厚みはd1である。
【0018】
ビルドアップしたプリプレグ層P1は、例えば、所定の薬品にて表面を黒化処理し、さらに触媒付与剤に浸漬することにより表面を粗化処理する。粗化処理を施すことにより、後の工程で形成される銅メッキの密着性が向上する。なお、プリプレグ層P1の粗化処理は、全てのプリプレグ層にて共通して行われる。
【0019】
次に、グランドG1の形成と同じ行程処理にて、プリプレグ層P1上に電解銅メッキ層を形成した後にエッチング処理をして、信号線S1を形成する。信号線S1は、本実施形態では、
図1(a)および(b)に図示するように、幅l1の直線形状である。
【0020】
次に、プリプレグ層P1と同様の工程にて、厚みd2の、第2のプリプラグ層であるプリプレグ層P2を形成し、さらに第2のグランド層であるグランド層G2をプリプレグ層P2に形成する。第2のグランド層には、第2の開口部である、開口部w2が設けられる。開口部w2はスリット幅l3のスリット形状である。
【0021】
本実施形態では、上述のとおり、信号線S1は、グランド層G1とはd1の対向距離で、グランド層G2とはd2の対向距離で対向している。信号線S1と、グランド層G1及びグランド層G2の間に生じる静電容量は、プリプレグ層の厚みが薄くなり対向距離が短くなると増加する。したがって、信号線S1の線路インピーダンスはプリプレグ層の薄膜化によって減少するが、信号線S1の幅l1を変えることにより、信号線S1の線路インピーダンスを所定の値に整合することが可能である。しかし、信号線S1の幅は、エッチングによる形成プロセスの精度によって微細化に限界があるため、所定値以下の幅の信号線を高い制度で形成することが困難である。本実施形態では、プリプレグ層P1の厚みd1に応じて、信号線S1の下層となるグランド層G1の開口部W1のスリット幅l2を調整する。さらに、プリプレグ層P2の厚みd2に応じて、信号線S1の上層となるグランド層G2のスリットW2の幅l3を調整する。
【0022】
本実施形態は、信号線S1を挟んだ二つのグランド層に信号線S1に沿うように設けられた二つの開口部のスリット幅を別個に調整することで、信号線S1に対向する一のグランド層のスリット幅を調整する
図8で説明した回路基板に比べて、容量性インピーダンスの調整幅を大きく取ることができ、個々のスリット幅を狭くすることができる。このため、ビルドアップによる基板積層化において、半硬化したプリプレグを使用する場合であっても、プリプレグがスリットに落ち込んでプリプレグ層の表面に凹部が生じる不具合を解消することができる。
【0023】
なお、本実施形態においては、プリプレグ層P1の厚みd1、プリプレグ層P2の厚みd2、開口部w1のスリット幅l2、及び開口部w2のスリット幅l3は、信号線S1のラインインピーダンスの整合を取ることができれば、適宜選択が可能である。また、例えば、他の信号線との距離、信号線が直線状ではなく曲線状の場合など、状況に応じて上下のスリット幅を調整することによりインピーダンス整合を取ることができる。また、信号線S1の各点におけるインピーダンスを検査しながら、信号線S1の上に形成された開口部w2のスリット幅などスリット形状を微調整することもできる。
【0024】
次に、
図2を用いて、開口部のスリット幅を変えた場合の信号線インピーダンスZ0に対する影響を説明する。
図2は、スリット幅と信号線インピーダンス(Z0)の関係の一例を説明するグラフである。
【0025】
図2において、信号線S1の幅は75μmで固定であるものとする。またプリプレグ層P1及びプリプレグ層P2の厚みも固定であるものとする。また、信号線の上下の開口部のスリット幅を同一にしている。
図2から分かるように、開口部のスリット幅が広くなるとZ0が大きくなる。したがって、所望の信号線インピーダンスに合わせたスリット幅を一意に選択可能となる。例えば、信号線のインピーダンスを50Ωに整合したい場合、
図2の例ではスリット幅は約52μmである。
【0026】
図3は、信号線S1上下の開口部のスリット幅を一定にした場合の、信号線幅とZ0の関係の一例を説明するグラフである。
図3のグラフでは、スリット幅が5μm、25μm、175μm、225μm、及び275μmである場合の例を示す。各スリット幅において、信号線幅を増加させた場合、静電容量が増加して信号線インピーダンスが減少する。また、スリット幅が相対的に大きい範囲では、信号線幅が同一の場合にはスリット幅が狭くなるごとに信号線インピーダンスが低くなるが、スリット幅が25μmと5μmとでは、信号線幅が同じ場合の信号線インピーダンスの値の差は小さくなっている。つまり、スリットの幅がある程度狭くなると、スリット幅によるインピーダンスへの影響は殆ど無くなることになる。
【0027】
図4は、信号線幅を80μmに固定した場合のプリプレグ層の厚さ(層間厚さ)とインピーダンスZ0の関係の一例を説明するグラフである。また、
図5は、信号線幅を100μmに固定した場合の層間厚さとZ0の関係の一例を説明するグラフである。
図4及び
図5において、「V0」〜「V275」は、信号線の上下に配置される開口部のスリット幅(0〜275μm)であり、スリット幅は上下で同じ幅である場合を例示している。
図4及び
図5では、層間厚さが小さい場合、すなわちプリプレグ層が薄膜化された場合には、スリット幅が変化すると信号線インピーダンスZ0が大きく変化することがわかる。また、層間厚さが増加していくと、スリット幅によるZ0の変化が小さくなり、プリプレグ層の誘電率により生じるインピーダンスに収斂していくため、スリットを設ける効果が小さくなっていくことがわかる。
【0028】
なお、本実施形態においては、信号線S1、開口部W1及び開口部w2は、
図1(b)に示すように上下方向にて一定幅にて形成されているものとしているが、例えば、ボンディングワイヤ配線接続部においては、信号線S1とグランドG1及びグランドG2による容量性インピーダンスが小さくなる場合がある。その場合、配線接続部近傍にて開口部w1及び開口部w2のスリット幅を狭めて、静電容量を増して、インピーダンスの整合を図ることができる。
[第2の実施形態]
次に、同じプリプレグ層に複数の信号線が存在し、開口部の間隔に粗密が生じる場合の例を、第2の実施形態として
図6を用いて説明する。
図6は、第2の実施の形態による回路基板の一例を示す斜視図(a)及び側面図(b)である。
図6は説明のため、信号線とグランド層のみを記載し、プリプレグ層等の記載を省略している。
【0029】
図6における回路基板は複数の信号線S2〜S4を有する。信号線S2〜S4と対向するグランドG1及びグランドG2の開口部w3〜w5のスリット幅は、第1の実施形態で説明した方法によって、信号線S2〜S4のそれぞれが所定の信号線インピーダンスになるように、l31、l41及びl51としてそれぞれが決定される。
【0030】
本実施形態においては、信号線S2と信号線S3の間隔laは、信号線S3と信号線S4の間隔lbに比べて広く、前者の信号線の間隔が粗であるのに対して、後者の信号線の間隔は密となっている。グランド層の開口部は信号線に対向して設けられるため、開口部のスリット幅が同じである場合には、信号線の間隔が密な部分に対向するグランド層の残銅率が低くなり、信号線の間隔が粗な部分に対向するグランド層の残銅率は高くなる。
【0031】
ウェットエッチングにおいては、エッチング液の銅濃度が低い状態(フレッシュな状態)にてエッチングレート(エッチング速度)が高く、エッチング液の銅濃度が高い場合にエッチングレートが低くなる。残銅率が低い場合、つまり開口部の数が多い場合には開口部のエッジから溶け出す銅の量が増えて銅濃度が高くなり、エッチングレートは低くなる。一方、残銅率が高い場合、エッチングレートは高くなる。
【0032】
メッキされた銅の層に開口部を形成するには、前述の通り開口部以外の部分にレジスト保護膜を形成して銅表面をエッチング液によるエッチングから保護しているが、開口部においては、銅の層の厚み方向にエッチングが行われると同時に、開口部を広げる横方向にもエッチングが行われ、レジスト保護膜下部においてもレジストが進んでしまうアンダーカットが生じる結果、レジスト膜で保護されている残存部分が細ってしまうことになる。
【0033】
同じグランド層において、エッチングレートが高い部分と低い部分が混在した場合、エッチングレートの違いにより開口部の大きさにばらつきを生じてしまう。
図4及び
図5で説明した通り、プリプレグ層が薄膜化した場合、開口部の大きさの僅かな違いでもZ0に影響を与える。開口部の大きさはエッチング時間でアンダーカットの大きさが違ってくるため、信号線が粗である部分にエッチング時間を合わせた場合、信号線が密である部分の開口部が小さくなってしまい、逆に信号線が密である部分にエッチング時間を合わせると信号線が粗である部分の開口部が大きくなってしまう。同じグランド層における開口部の大きさの違いは信号線のZ0の差異を生じさせてしまう。
【0034】
そこで、第2の実施形態においては、
図6に示す通り、信号線が密となる信号線S3に対向する開口部w4、及び信号線S4に対向する開口部w5において、エッチングによって開口部を形成する際に開口部の中に銅をアイランド状に残し、残銅率を開口部
W3近傍と合わせる残銅率調整部を設けている。ここで「アイランド状」とは、周囲の銅に接続されずにアイランド(島)の様に独立した状態をいう。
【0035】
ここで、グランドG1に設けられた残銅率調整部(第1の残銅率調整部)と、グランドG2に設けられた残銅率調整部(第2の残銅率調整部)の機能は同じであるため、以下の説明では両者の区別をしないで説明している。
【0036】
開口部w4には、スリット幅l41に対して、幅がl42、信号線S3方向の長さがleのアイランドG41を、lfの間隔で形成する。ここで、(le+lf)の長さを1ピッチとすると、複数のアイランドG41が等ピッチでスリット方向に配列されている。
【0037】
開口部w5にも同様に、スリット幅l51に対して、幅がl52、長さがleのアイランドG51をスリット方向に配列する。なお、アイランドG41とアイランドG51は別個の形状としたり、別のピッチで配列したりすることもできる。
【0038】
本実施形態は、特にプリプレグ層が薄膜化された場合に残銅率の均一化によって開口部のスリット幅のばらつきを押さえることにより、Z0のばらつきを押さえることができるという効果を奏する。
【0039】
なお、第2の実施形態においては、グランドG1に設けられた第1の残銅率調整部とグランドG2設けられた第2の残銅率調整部は、
図6上面から見たときに同じ位置にしているが、例えば第1の残銅率調整部と第2の残銅率調整部をスリット方向にハーフピッチ((le+lf)/2)ずらして形成しても良い。形成されるアイランドがハーフピッチずれることにより、信号線S3又はS4に対するグランドG1及びG2に対する静電容量の局所的な分布をさらに均一にすることが可能となる。
[第3の実施形態]
次に、第2の実施形態同様に、同じプリプレグ層に複数の信号線が存在し、信号線の間隔に粗密がある場合のグランド層の開口部の他の形状を、第3の実施形態として
図7を用いて説明する。
図7は、第3の実施の形態による回路基板の斜視図(a)及び上面図(b)である。
図7においても説明のため、信号線とグランド層のみを記載し、プリプレグ層等の記載を省略する。
【0040】
図7において、開口部w6〜w8はそれぞれ信号線S6〜S8に対向して、それぞれの幅、l6、l7及びl8にて設けられている。信号線S6と信号線S7の間隔lcは、信号線S7と信号線S8の間隔ldに比べて広く、前者の信号線の間隔が粗であるのに対して、後者の信号線の間隔は密である。本実施形態においては、開口部w7には残銅率調整部として、開口部を橋架する架橋部B7を備えている。第2の実施形態同様に、グランドG1に設けられた架橋部とグランドG2に設けられた架橋部の機能は同じであるため、以下の説明では両者を区別しないで説明する。
【0041】
架橋部B7は、開口部w7近傍の残銅率を上げるために設けられている。架橋部B7を設けることにより架橋部B7の近傍では信号線S7との間の静電容量が大きくなるが、開口部w7の長さlgに対して架橋部B7の長さlhの比率を上げることにより静電容量の影響を小さくすることができる。また、グランドG1における架橋部B7の位置とグランドG2における架橋部B7の位置をハーフピッチ((lg+lh)/2)ずらして設けることにより、静電容量のばらつきを相殺させることができる。
【0042】
架橋部を設ける本実施形態ではグランド層がスリットで分断されないため、分断されたグランド層を別途接続する必要がなく、グランド部の電位を安定して保つことが可能となる。
【0043】
なお、開口部w8における架橋部B8についても架橋部B7と同じ機能であるため、説明を省略する。
【0044】
本実施形態も、特にプリプレグ層が薄膜化された場合において、残銅率の均一化によって開口部のスリット幅のばらつきを押さえることにより、Z0のばらつきを押さえることができるという効果を奏する。
【0045】
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明は斯かる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。