特許第6063931号(P6063931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6063931ジルコニウム系コーティング組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063931
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】ジルコニウム系コーティング組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20170106BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20170106BHJP
   C23C 22/62 20060101ALI20170106BHJP
   C23C 22/34 20060101ALI20170106BHJP
【FI】
   C09D1/00
   C09K3/00 R
   C23C22/62
   C23C22/34
【請求項の数】13
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-517207(P2014-517207)
(86)(22)【出願日】2012年6月22日
(65)【公表番号】特表2014-522889(P2014-522889A)
(43)【公表日】2014年9月8日
(86)【国際出願番号】US2012043743
(87)【国際公開番号】WO2012178003
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年5月12日
(31)【優先権主張番号】61/500,319
(32)【優先日】2011年6月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】シーバート, エリザベス, ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】グッドロゥ, ブルース, エイチ.
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特表平09−500408(JP,A)
【文献】 国際公開第00/022188(WO,A1)
【文献】 特開2005−264230(JP,A)
【文献】 特開2010−192458(JP,A)
【文献】 特開2004−218071(JP,A)
【文献】 特開2003−313499(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/002040(WO,A1)
【文献】 特開2006−161117(JP,A)
【文献】 特開2010−163640(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/004651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/−30/
C09K 3/00
C09D 1/
F02C 7/00
C04B 41/
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム化成皮膜を形成するための水性組成物であって、水、及び以下の構成:
A)溶解ジルコニウムの供給源;
B)特定のpH範囲でカチオン性である少なくとも1つの第1の界面活性剤の供給源;
C)B)とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源、
を含み、前記特定のpH範囲は前記水性組成物によって形成される処理浴のpH範囲である、水性組成物であって、
但し、バナジウム化合物を含まない、単一工程で洗浄工程及び酸化ジルコニウム化成皮膜形成工程を実施する用途にて使用される前記水性組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの第1の界面活性剤が、窒素、並びに任意にO及びSOのうち1つ以上を含む界面活性剤を含む、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
構成成分B)が、a.)アミン部分を有する界面活性剤、b.)アミンオキシド部分を有する界面活性剤、又はc.)a.)及びb.)の組み合わせを含む、請求項1又は2に記載の水性組成物。
【請求項4】
さらに:
D)フッ化物アニオン;
E)pHを6.75以下に調整するのに十分な量のpH調整剤;及び、
F)フッ化物捕捉剤、
のうち少なくとも1つを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項5】
前記特定のpH範囲が酸性であり、少なくとも1つの第1の界面活性剤の前記供給源が、前記特定のpH範囲でプロトン化される界面活性剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項6】
前記特定のpH範囲が酸性であり、前記少なくとも1つの第1の界面活性剤の25重量%から100重量%がプロトン化されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項7】
構成成分B)が、下記の一般式Iの少なくとも1つの第1の界面活性剤を含み:
【化1】
式中、Rは、1個から20個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和、分枝鎖状又は非分枝鎖状、環式又は非環式の、アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、又はヒドロキシエーテル部分であり;R及びRは、独立して、H、アルキル、又はアリール部分であり、並びにXは、O、H、アルキル、又はアリール部分である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項8】
構成成分B)が、1個から20個の炭素原子の分枝鎖状又は非分枝鎖状、環式又は非環式の、アルキル基を有するアルコキシル化アルキルアミン;アルキルアミンオキシド;及びスルタインから選択される少なくとも1つの第1の界面活性剤を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項9】
構成成分C)が、C6−20アルキルポリグリコールエーテル、脂肪アミンエトキシレート;アルキルC6−20アルコキシ化ベンゼン系エーテル;エトキシル化C6−20アルコール;EO/POブロックコポリマー;及びアルコキシ化テルペンから選択される、B)とは異なる少なくとも1つの非イオン性界面活性剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水性組成物。
【請求項10】
酸化ジルコニウム化成皮膜を形成するための水性濃縮組成物であって:
A)溶解ジルコニウムの供給源を0.5重量%から20重量%;
B)少なくとも1つの第1の界面活性剤の供給源を1.5重量%から50重量%;
C)B)とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源を0.5重量%から20重量%;
含み、前記溶解ジルコニウムの供給源は、フッ化ジルコニウム酸を含み、前記濃縮物は、少なくとも3ヶ月間は室温で貯蔵安定性を有する、水性濃縮組成物であって、
但し、バナジウム化合物を含まない、単一工程で洗浄工程及び酸化ジルコニウム化成皮膜形成工程を実施する用途にて使用される前記水性濃縮組成物。
【請求項11】
酸化ジルコニウム化成皮膜形成工程にて酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴の成膜速度を高める方法であって、前記酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴に、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物を含有させることを含み、且つ、単一工程で洗浄工程及び酸化ジルコニウム化成皮膜形成工程を実施する方法。
【請求項12】
酸化ジルコニウム化成皮膜形成工程にて酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴の成膜速度を高める方法であって:
1)鉄系金属、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、アルミニウム合金、及びこれらの組み合わせから選択される金属表面を有する金属基材を準備する工程;
2)前記表面を:
a.50ppmから1000ppmの溶解Zr、0ppmから50ppmの溶解Cu、0ppmから100ppmのSiO、50ppmから2000ppmの全フッ化物、10ppmから120ppmの遊離フッ化物を含むジルコニウム系金属前処理コーティング組成物;及び、
b.前記酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴のpH範囲でカチオン性である第1の界面活性剤の供給源;
前記第1の界面活性剤とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源;
を含む、界面活性剤の組み合わせ;及び、
c.任意に含ませてもよいキレート化剤及び/又はその他の添加剤、
を含む酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴に、前記金属基材上に特定の厚さを有する酸化ジルコニウム含有前処理皮膜を形成するのに充分な時間接触させる工程;並びに、
3)前記金属前処理皮膜を施した金属基材に塗料を任意に塗布する工程、
を含み、工程2)の前記時間は、b)の非存在下であってc)の存在下で、a)と接触させることによって前記金属基材上に前記特定の厚さを有する別の酸化ジルコニウム含有前処理皮膜を形成するのに必要な時間よりも短い、方法であって、
但し、前記酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴は、バナジウム化合物を含まず、且つ、単一工程で洗浄工程及び酸化ジルコニウム化成皮膜形成工程を実施する前記方法。
【請求項13】
工程2)が、中間洗浄工程無しで工程1)に続いて行われる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
無し。
【0002】
本発明は、改善された酸化ジルコニウム化成皮膜を析出させるための組成物及び方法、並びに前洗浄無しで基材上に密着性のある酸化ジルコニウム化成皮膜を析出させることができる組成物に関する。より詳細には、本発明は、コーティング方法、及びそれに用いられる浴組成物に関するものであって、界面活性剤が配合されていない類似のコーティング浴組成物よりも速い成膜速度で金属基材上に酸化ジルコニウム皮膜を提供し、及び/又は良好な密着性を有するより厚いジルコニア系皮膜であり、その一部が独特な膜形態を有する皮膜を提供する。また、本発明は浴に用いるための保存安定性を有する濃縮組成物、濃縮物及び浴の調製及び使用の方法、並びに、本発明に係る皮膜を備える金属製品をもまた提供する。
【背景技術】
【0003】
例えば、自動車及び電化製品(appliance)等の組立ラインにおける皮膜として有用である、酸化ジルコニウム析出化成皮膜の製品が現在数多く市販されている。その一つの利用用途には、環境に関する規制が厳しくなりつつあるリン酸亜鉛の製品の代替品である。このようなジルコニア被覆製品は、鉄系金属表面、並びにアルミニウム及び亜鉛含有表面のコーティングに用いられる。
【0004】
金属基材上に析出する典型的な酸化ジルコニウム化成コーティングは、商業的ベンチマークである20mgZr/mから45mgZr/mの範囲内を含む、1mgZr/mから50mgZr/mのジルコニウムの成膜を得ることができる。これは、リン酸亜鉛化成皮膜と比較して低い付着量である。リン酸亜鉛化成皮膜は、総付着量として2グラム/mから5グラム/mの範囲内の付着量が一般的に測定されると本技術分野において理解されており、この付着量のおよそ半分がリン及び酸素、残りがリン酸亜鉛製品による亜鉛及び種々の任意の遷移金属であると想定されている。したがって、Znとしては、約1000mg/m〜2500mg/mの付着量が測定される。1mg/mから50mg/mのジルコニウムの成膜において酸化ジルコニウムコーティングの1つの欠点は、ある状況下では、従来のリン酸亜鉛法ほど良好な耐食性を提供できないということにある。従って、耐食性能を改善した酸化ジルコニウム化成皮膜のより厚い層で基材をコーティングするための組成物及び方法が求められている。
【0005】
酸化ジルコニウム析出化成皮膜製品の別の期待される利用用途には、リン酸鉄を析出する「洗浄剤/コーティング剤」製品の代替品がある。このような公知のリン酸塩系洗浄剤製品は、表面の汚染物質を洗浄する事に加え、鉄系金属表面をエッチングしたり、リン酸鉄皮膜を形成したりする。一般的に、「洗浄剤/コーティング剤」製品は、鉄系金属表面にのみ皮膜を提供したり、洗浄したりするが、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金の表面等の非鉄系表面には、コーティングされない。また、このようなリン酸鉄皮膜を形成するために、「洗浄剤/コーティング剤」はリン酸塩の供給源を含む必要があり、このことは、法規制され、よりコストのかかる廃棄物処理プロセスを必要とするリン酸塩の排出に関する環境問題のために欠点と見なされる。それゆえ、リン酸鉄の洗浄剤/コーティング剤(同一の浴によって基材の洗浄及び前処理を行う)に替わって、より環境にやさしく、低リン酸塩又はリン酸塩非含有の低温の洗浄剤/コーティング剤が求められている。また、例えば鉄系金属と亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金のうち1つ以上といった、多種金属基材の化成皮膜及び洗浄を施すことができる組成物も求められている。
【0006】
同一の浴によって、基材を洗浄し、酸化ジルコニウム含有化成皮膜を析出する組成物を調製する試みがこれまでに行われてきたが、本出願人らは、市販されている酸化ジルコニウム析出前処理組成物に添加された多くの界面活性剤が、界面活性剤非含有の市販浴と比較して、付着量の好ましくない低下及び/又はコーティングされた基材の不十分な耐食性能という結果をもたらすことを見出した。
【0007】
市販されている酸化ジルコニウム析出前処理濃縮物及び/又は浴組成物に添加された界面活性剤の一部は、固形物の沈殿及び/又は2つ以上の液相への分離を含む組成物の不安定が見られた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来のように別工程で洗浄し、特定の接触時間で従来の酸化ジルコニウム形成コーティング浴に接触させた基材と比較して、基材の前洗浄無しで基材上に密着性のある酸化ジルコニウム化成皮膜を析出し、及び/又は、同一接触時間でより高い付着量で多種金属基材上に酸化ジルコニウム化成皮膜の析出を可能とする界面活性剤の組み合わせを、前処理浴中に含有させることによって、酸化ジルコニウムコーティング組成物及び方法における上記の問題点の1つ以上を解決する。
【0009】
本発明は、従来のように別工程で洗浄し、従来の酸化ジルコニウム形成コーティング浴に接触させた基材と比較して、基材の前洗浄無しで基材上に密着性のある酸化ジルコニウム化成皮膜を析出し、及び/又はより高い付着量/接触時間で金属基材上に酸化ジルコニウム化成皮膜の析出を可能とする界面活性剤の組み合わせを含む、酸化ジルコニウムを析出する化成被覆組成物及び方法を提供する。また、本発明の組成物は、典型的なリン酸鉄処理の洗浄剤/コーティング剤では不可能であった、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金を含む非鉄系金属をコーティングするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の1つの態様は、水性組成物を含み、当該水性組成物は:
A)溶解ジルコニウムの供給源;
B)特定のpH範囲でカチオン性であり、そのまま又は処理浴の濃度に希釈される濃縮物としての第1の界面活性剤の供給源;
C)B)とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源、
を含むか、又はA)〜C)から基本的に構成されるか、又はA)〜C)から成り、前記特定のpH範囲は一般的には前記水性組成物によって形成される処理浴のpH範囲である。
【0011】
組成物は、さらに:
D)フッ化物アニオン;
E)pHを6.75以下に調整するのに十分な量のpH調整剤;及び、
F)フッ化物捕捉剤、
のうちの少なくとも1つを含んでよい。
【0012】
一実施形態において、構成成分B)である第1の界面活性剤の供給源は、窒素、及び任意にO及びSOのうち1つ以上を含んでなる界面活性剤を含む。
【0013】
一実施形態において、構成成分B)は、アミン部分を有する界面活性剤、アミンオキシド部分を有する界面活性剤、又はこれらの界面活性剤の組み合わせを含む。
【0014】
一実施形態において、第1の界面活性剤の25%から100%が、特定の酸性pHでプロトン化されている。
【0015】
一実施形態において、構成成分B)は、1個から20個の炭素原子の分枝鎖状又は非分枝鎖状、環式又は非環式の、アルキル基を有するアルコキシル化アルキルアミン;アルキルアミンオキシド;及びスルタインから選択される少なくとも1つの第1の界面活性剤を含む。
【0016】
一実施形態において、構成成分C)は、C6−20アルキルポリグリコールエーテル、脂肪アミンエトキシレート;アルキルC6−20アルコキシル化ベンゼン系エーテル;エトキシル化C6−20アルコール;EO/POブロックコポリマー;及びアルコキシル化テルペンから選択される、B)とは異なる少なくとも1つの非イオン性界面活性剤を含む。
【0017】
また、酸化ジルコニウムの析出化成コーティング浴による成膜速度を高めるための方法であって、前記酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴中に本明細書で述べる組成物を含有させることを含む方法も提供される。
【0018】
別の実施形態において:
1)鉄系金属、亜鉛、亜鉛合金、アルミニウム、アルミニウム合金、及びこれらの組み合わせから選択される金属表面を有する金属基材を準備する工程;
2)金属基材上に特定の厚さを有する酸化ジルコニウム含有前処理皮膜を形成するために、前記表面を:
a)50ppmから1000ppmの溶解Zr、0ppmから50ppmの溶解Cu、0ppmから100ppmのSiO、50ppmから2000ppmの全フッ化物、10ppmから120ppmの遊離フッ化物を含むジルコニウム系金属前処理コーティング組成物;及び、
b)特定のpH範囲、一般的には水性組成物によって形成される処理浴のpH範囲でカチオン性であり、そのまま又は処理浴の濃度に希釈される濃縮物としての第1の界面活性剤の供給源と;
第1の界面活性剤とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源と
を含む、界面活性剤の組み合わせ;及び、
c)任意に含ませてもよいキレート化剤及び/又はその他の添加剤、
を含む組成物を充分な時間接触させる工程;並びに、
3)金属前処理皮膜を施した金属基材に塗料を任意に塗布する工程、
を含み、工程2)の時間は、b)の非存在下であってc)の存在下で、a)と接触させることによって金属基材上に特定の厚さを有する別の酸化ジルコニウム含有前処理皮膜を形成するのに必要な時間よりも短い。
【0019】
いくつかの実施形態においては、工程2)は、中間洗浄工程無しで工程1)に続いて行われる。
【0020】
本発明の別の態様は、本明細書で述べる方法に従ってコーティングされた金属基材を含む金属製品である。別の実施形態は、その上に析出された酸化ジルコニウム含有化成皮膜を含む金属製品を含み、前記皮膜は、鉄系基材上に100mg/mから250mg/mの範囲でジルコニウムとして測定される付着量で存在する。
【0021】
一実施形態において、界面活性剤含有フッ化ジルコニウム酸製剤は、非イオン性界面活性剤と共にカチオン性及び/又は両性の界面活性剤を含むものであり、これは、安定したワンパッケージ濃縮物を提供する。1つの態様では、水性濃縮組成物は:
a)溶解ジルコニウムの供給源を0.5重量%から20重量%;
b)特定のpH範囲、一般的には水性組成物によって形成される処理浴のpH範囲でカチオン性であり、そのまま又は処理浴の濃度に希釈される濃縮物としての第1の界面活性剤の供給源を1.5重量%から50重量%;
c)b)とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源を0.5重量%から20重量%;
含み、前記溶解ジルコニウムの供給源は、フッ化ジルコニウム酸を含み、前記濃縮物は、少なくとも3ヶ月間は室温で保存安定性を有する。
【0022】
組成物の用途は、洗浄剤/コーティング剤の組成物としての用途、及び酸化ジルコニウム析出用化成コーティング組成物としての用途を含む。これらは、耐食性及び/又は改善された塗装密着性を必要とする車両、電化製品及びその他の金属のコーティングに有用である。接触は、スプレー、浸漬、スプレー管(spray wand)、又はその他の公知の塗布方法によって行われる。酸化ジルコニウムをコーティングした金属基材製品を作製するための一般的な方法は、以下の工程を順に有する:洗浄剤溶液の適用;温水による水洗;耐食性ジルコニウム含有化成コーティングの適用;脱イオン水による水洗;基材の空気乾燥、任意に圧縮空気を用いて空気乾燥してもよい;一般的に焼き付けを必要とする電着による初期層、プライマー層、ベースコート層及びクリアコート層のうち1つ以上の適用。本発明において、この方法は、少なくとも、洗浄剤/水洗/化成コーティングの工程を、本発明に係る洗浄剤/コーティング剤の溶液との少なくとも1つの接触工程で置き換えて変更してもよく、任意に前洗浄工程を含めるように変更してもよい。
【0023】
請求項及び実施例、又はそれ以外で明確に示されている場合を除いて、物質の量、又は反応及び/若しくは使用の条件を示す本明細書における全ての数量は、本発明の最も広い範囲を記述する際に「約」という語によって修飾されていると理解されるべきである。記述されている数値限度の範囲内での実施が一般には好ましい。本明細書及び請求項を通して提供される数値範囲は、すべての部分集合の範囲を含むことを意図しており、すなわち、その範囲は、規定された範囲内で見出される全ての部分集合の範囲を含むことを意図するものであり、例えば、C1−10は、C2−10、C1−9、及びC3−7等も開示する。また、本明細書全体を通して、そうでないことが明らかに示されていない限り、パーセント、「部」、及び比の値は、重量基準であり;「ポリマー」の用語は、「オリゴマー」、「コポリマー」、「ターポリマー」などを含み;本発明に関連する任意の目的に適する又は好ましい物質の群又は分類についての記載は、群又は分類のメンバーのいずれか2つ以上の混合物も、同様に適するもの又は好ましいものであることを意味しており;化学的用語における成分の記載は、明細書中に特定されるいずれかの組み合わせに添加する時の成分、又は明細書中に特定される化学反応によってその場で生成される時の成分を意味するが、混合後の混合物の成分間でのその他の化学的相互作用を必ずしも除外するものではなく;イオン型の物質の特定は、全体として組成物に電気的中性を生じさせるために充分な対イオンの存在を更に意味しており(このような暗に特定されるいずれかの対イオンも、好ましくは、可能な限り、イオン型で明らかに特定されるその他の成分の中から選択されるべきであるが;そうでなければ、そのような対イオンは、本発明の目的に対して不利に作用する対イオンを避ける限りにおいて、自由に選択されてもよい);「塗料」の用語及びその文法上の派生語はすべて、「ラッカー」、「ワニス」、「電気泳動塗料」、「トップコート」、「クリアコート」、「カラーコート」、「放射線硬化性コーティング」等、及びこれらの文法上の派生語などの類似のより特化されたいかなる用語をも含むことを意図しており;並びに、「モル」の用語は、「グラムモル」を意味し、「モル」及びその文法的変化は、元素、イオン、及び存在する原子の数及び種類によって規定されたその他のいかなる化学種、並びに明確に定義された分子を有する化合物に適用されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、酸化ジルコニウム含有皮膜の形成に有用な界面活性剤含有酸性水性ジルコニウム組成物を含み、前記組成物は、界面活性剤を配合していない類似の製剤と比較して、成膜速度の驚くべき向上をもたらす。これらの組成物は、単一浴での洗浄及びコーティング、前洗浄無しで基材上に密着性のある酸化ジルコニウム化成皮膜の析出、基材のより良好な被覆、耐食性の改善、並びに異なる膜形態のうち少なくとも1つを提供するのに有用である。
【0025】
本発明に係る水性組成物は、少なくとも水、及び:
a)溶解ジルコニウムの供給源;
b)特定のpH範囲、一般的には水性組成物によって形成される処理浴のpH範囲においてカチオン性であり、そのまま又は処理浴の濃度に希釈される濃縮物としての第1の界面活性剤の供給源;
c)b)とは異なる、少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源、
を含む。
【0026】
ジルコニウムイオンを結合させることができる薬剤の非存在下において、溶液中のジルコニウムの溶解状態を維持するために、pHは、1.0から6.75の範囲とすることが望ましい。許容されないスラッジ生成が生じる程度までジルコニウムを沈殿させない限り、中性又はアルカリ性のpHが許容される。望ましくは、本発明の組成物は、酸性であり、pHは好ましさが増加する順に、低くても1、2.0、3.0、3.5、4.0、又は4.2であり、そして好ましさが増加する順に、高くても6.75、6.5、6.0、5.5、5.0、又は4.5であってもよい。いくつかの実施形態において、このpHは、浴中のHZrFの存在によって得られるが、その他のジルコニウム供給源を用いる組成物では、本発明の目的又は効果を妨げない限り、無機又は有機の酸をpH調整に用いてもよい。
【0027】
一実施形態において、本発明に係る組成物は、水及び以下の成分:
a)溶解ジルコニウムイオン、好ましくはZrF−2イオン;
b)カチオン性又は特定のpH、好ましくはコーティング組成物の濃縮物若しくは処理浴のpHでプロトン化される第1の界面活性剤;
c)組成物中に均一に分散された、b)とは異なる少なくとも1つの非イオン性界面活性剤の供給源;
d)フッ化物アニオン;
任意に:
e)6.75以下にpHを調整するのに十分な量のpH調整剤;及び、
f)例えば硝酸アルミニウム等のフッ化物捕捉剤、
で構成されている。望ましくは、ジルコニウムの供給源及びフッ化物成分は、同一であってよく、例えばHZrFである。
【0028】
構成成分A)である溶解ジルコニウムは、Zr供給源が適切な溶解性を有し、かつ、それと対のいかなる陰イオンもコーティング組成物の安定性又は機能性を妨げない限り、どのようなジルコニウム供給源からも導かれる。適切なZrイオンの供給源としては、HZrF;NaZrF、KZrF、Zr(NH)等のHZrFの可溶性塩;ジルコニウム金属、Zr(OH)、ジルコニウムの硝酸塩及び硫酸塩、塩基性炭酸ジルコニウム等が挙げられるが、その供給源は、酸性溶液又はその濃縮物に適切に溶解されるものに限る。好ましい実施形態では、Zr供給源は、HZrFを含む。処理浴中の構成成分A)の量は、約1ppmから浴中のジルコニウムの溶解限度までの範囲であればよい。一般的に、処理浴は、好ましさが増加する順に、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、25、50、75、100、125、150ppm、及び、少なくとも経済的理由から、約1000、900、800、700、600、500、400、300、200ppm以下を含む。
【0029】
構成成分B)である、特定のpH範囲においてカチオン性である第1の界面活性剤の供給源は、第1の界面活性剤がコーティング組成物の処理浴のpH範囲内でカチオン性となるように、コーティング組成物を用いた際のpH範囲に基づいて選択されてもよい。一般的に、中性pHにてカチオン性及び/又は両性である界面活性剤が、使用されるpHが酸性である本発明の使用に適している。いくつかの実施形態では、第1の界面活性剤は、中性pHにおいて非イオン性界面活性剤と見なされる界面活性剤を含んでいてもよいが、非イオン性界面活性剤は、コーティング組成物が用いられる特定のpH範囲でカチオン性であるか又はプロトン化されるものに限る。非イオン性又は両性の界面活性剤がプロトン化され、カチオン性となるpHは、希酸での滴定によって容易に決定することができ;そのような滴定法は本技術分野にて公知である。供給源に関わらず、第1の界面活性剤は、処理浴中で複数の液層に分離したり、凝集したり、又は沈殿したりすることがないような酸性pHで十分に安定であることが望ましい。
【0030】
出願人は、pHが6.5、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5、3.0、2.5、2.0、1.75、1.5、1.0未満の一般的な溶液である酸性溶液において、特定の酸性pHで両性界面活性剤のいくつか又は全てのプロトン化が得られる、pKを有する両性界面活性剤、並びにカチオン性界面活性剤は、酸性溶液中で容易に溶解し、又は均一に分散し、酸性溶液中で非イオン性界面活性剤を均一に分散するのに有用であることを見出した。望ましくは、特定のpHでプロトン化される両性界面活性剤の量は、最大100%までであってもよく、一般的に、好ましさが増加する順に、少なくとも25、40、50、60、70、75、80、85、90、又は95%である。また、カチオン性となるようなプロトン化能を有する非イオン性界面活性剤も構成成分B)として用いてもよいが、非イオン界面活性剤は、酸性溶液中で分散することができ、構成成分C)の分散に有用であるものに限る。
【0031】
一実施形態において、構成成分B)である第1の界面活性剤の供給源は、窒素、及び任意にO及びSOのうち1つ以上を含む界面活性剤であってもよく、前記窒素原子に酸素原子が結合しているものが好ましい。望ましくは、窒素含有界面活性剤は、アミン部分、アミンオキシド部分、又はその両方を含む。
【0032】
一実施形態において、構成成分B)は、不飽和ヘテロ環構造の構成要素ではない窒素原子を少なくとも1つ含む窒素含有界面活性剤である。本実施形態において、窒素原子のいずれも、不飽和ヘテロ環構造、特に非芳香族不飽和ヘテロ環構造の構成要素ではないことが好ましい。
【0033】
アミン部分の窒素原子は、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン又は第四級アミンであってよい。アミンオキシド部分の窒素原子は、酸素原子に加えて、1、2、又は3つの置換基を有していてもよい。一般的に、置換基の1つ以上は、界面活性剤の疎水性面を提供するものであり、例えば、脂肪族炭素鎖又はアルコキシ化炭素鎖等である。
【0034】
一実施形態において、第1の界面活性剤の適切な供給源は、一般式Iのアミン及びアミンオキシドの界面活性剤を含み:
【化1】
式中、Rは、1個から20個の炭素原子を有する、飽和又は不飽和、分枝鎖状又は非分枝鎖状、環式又は非環式の、アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、又はヒドロキシエーテル部分であり;R及びRは、独立して、H、アルキル、又はアリール部分であってもよく、並びにXは、O、H、アルキル、又はアリール部分であってもよい。一実施形態において、R及びXは、上述の通りであり、R及びRは、(CHCHO)H、(CHCHCHO)H、及びこれらの組み合わせであってもよく、前記m=1〜20及びn=0〜10である。別の実施形態では、Xは、上述の通りであり、Rは、CH(CH)であってもよく、ここでnは6から20であり、R及びRの各々は、独立して、H、メチル、エチル、プロピル、又はブチル基であってもよく;前記「N」は、正の電荷を有し、置換基R、R、R、及びXのうちの1つは、負の電荷を有する。
【0035】
適切なアミンオキシド界面活性剤の例としては:ドデシルジメチルアミンオキシド、ドデシルメチルアミンオキシド、ドデシルアミンオキシド、デシルジメチルアミンオキシド、デシルメチルアミンオキシド、デシルアミンオキシド、オクチルジメチルアミンオキシド、オクチルメチルアミンオキシド、オクチルアミンオキシド、ヘプチルジメチルアミンオキシド等のアルキルアミンオキシド等の、第二級アミンオキシド、第三級アミンオキシド、及び第四級アミンオキシドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
適切なアミン界面活性剤の例としては:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンtert−C12−14−アルキルアミン、エトキシル化ココアミン、エトキシル化オレイルアミン、ココアルキルアルコキシル化アミン、ラウリルアルキルアルコキシル化アミン、ドデシルアルキルアルコキシル化アミン等の、1個から20個の炭素原子の分枝鎖状又は非分枝鎖状、環式又は非環式の、アルキル基を有するアルコキシル化アルキルアミン等が挙げられる。例えば、エトキシル化ココアルキルアミンは、5モル〜20モルのエトキシル化を有する。その他のアミン界面活性剤としては、ヒドロキシプロピルアルキルエーテルスルタイン、ラウラミドプロピルヒドロキシスルタイン、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、オレアミドプロピルヒドロキシスルタイン、タローアミドプロピルヒドロキシスルタイン、エルカミドプロピルヒドロキシスルタイン、ラウリルヒドロキシスルタイン等のスルタインが挙げられる。
【0037】
構成成分C)である非イオン性界面活性剤は、ジルコニウム又はHZrFの酸性溶液に可溶性又は不溶性である非イオン性界面活性剤であってもよい。構成成分C)は、組成物中に均一に分散されている。実際に、非イオン性界面活性剤は、そのような溶液に不溶性である場合が多く、構成成分C)は、構成成分B)の存在下で均一に分散される。いくつかの実施形態において、非イオン性界面活性剤は、構成成分B)の界面活性剤によって、取り囲まれるか、又は組成物中で安定化された、非イオン性界面活性剤のミセルとして組成物中に均一に分散される。
【0038】
単一理論に束縛されるものではないが、第1の界面活性剤は、非イオン性界面活性剤を水性組成物中に「結合する」ものと考えられ、均一な分散を維持する手助けとなる。すなわち、酸性ジルコニウム含有化成コーティング浴等の酸性溶液中において、ほとんどの非イオン性界面活性剤は、均一に安定して分散することが困難であるか又は不可能である。混合によって分散された場合であっても、その分散液は安定ではなく、非イオン性界面活性剤は、酸性溶液から分離する傾向にあり、このことは、分散液が白濁することによって、又は複数の層に相分離することによって、一般的には裏付けられる。いずれの結果も望ましくない。いくつかの実施形態においては、本発明に係る濃縮物又は処理浴組成物で不溶性であるか又は僅かに可溶性である非イオン性界面活性剤は、構成成分A)によって正に荷電したミセルに結合されるものと考えられる。
【0039】
組成物中に均一に分散され、本発明の効果を提供することが可能であるいずれの非イオン性界面活性剤を用いてもよい。非イオン性界面活性剤は、飽和又は不飽和;分枝鎖状又は非分枝鎖状;非環式、環式、又は芳香族;アルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、又はヒドロキシエーテルであってもよい。構成成分C)としての使用に適する非イオン性界面活性剤の例としては、C6−20アルキルポリグリコールエーテル、脂肪アミンエトキシレート;アルキルC6−20アルコキシル化ベンゼン系エーテル;変性及び未変性のエトキシル化C6−20アルコール、例えばヤシアルコールエトキシレート;EO/POブロックコポリマー;ランダムポリマー、ブロックポリマー又はホモポリマーのエトキシル化及び/又はプロポキシル化を含むテルペン等のアルコキシル化テルペン;並びに一般式(II):
CH(CH)(CHCHO)(CHCHCHO)H、式中n=2〜10、m=2〜20、p=2〜11
の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
好ましい非イオン性界面活性剤は、低温での洗浄を可能とする低い曇点を有する。スプレー塗布の場合、カチオン性界面活性剤又は両性界面活性剤、及び非イオン性界面活性剤の組み合わせが、低泡性であってよい。
【0041】
処理浴中の構成成分B)の量は、処理浴中での構成成分C)の均一な分散を得るのに充分な量である。通常、経済的理由から、成膜速度及び/又は単位接触時間あたりの付着量の改善、並びに十分な耐食性能を得るために必要な構成成分B)及びC)の最少量が用いられる。この量は、界面活性剤の活性百分率又は活性固形分を考慮すると、約1ppmの低用量又はこれよりも非常に多い量であってもよい。一般的に、処理浴は、好ましさが増加する順に、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、25、50、75、100、125、150、200、300、400、500、600、700、750ppm、及び少なくとも経済的理由から、約5000、4000、3000、2000、1000、900ppm以下の構成成分B)を含む。構成成分C)は、上記で構成成分B)について挙げたものと同一の量で用いられてもよいが、処理浴中における構成成分B)及び構成成分C)の相対量は、同一であっても又は異なっていてもよい。一実施形態において、構成成分C)は、好ましさが増加する順に、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、25、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300ppm、及び少なくとも経済的理由から、約1000、900、800、700、600、500、400ppm以下の量で存在する。
【0042】
構成成分D)であるフッ化物イオンは、フッ化物供給源が適切な溶解性を有し、いずれの対イオンもコーティング組成物の安定性又は機能性を妨げない限り、いかなるフッ化物供給源から得られてもよい。適切なフッ化物イオンの供給源としては、HF;HZrF;KZrF、Zr(NH)等のHZrFの可溶性塩等が挙げられるが、その供給源は、溶液又はその濃縮物中に適切に溶解されるものに限る。好ましい実施形態では、フッ化物供給源は、HF又はHZrFである。フッ化物濃度は、50ppmから2000ppmの範囲であってもよい。
【0043】
水性組成物は、必要に応じて、構成成分E)であるpH調整剤を含有してもよい。pH調整剤は、pHを6.75以下及び約1以上に調整するために十分な量で添加される。pH調整のために酸又は塩基を選択するかは重要ではない。コーティング組成物の安定性又は機能性を妨げない限り、本技術分野で公知のいかなる無機酸又は有機酸及び塩基を用いてもよい。HF、硝酸、リン酸、炭酸水素アンモニウム及び/又は水酸化アンモニウムを用いてもよい。
【0044】
水性組成物は、望ましくは、構成成分F)であるフッ化物捕捉剤を含有し、フッ化物捕捉剤は、構成成分F)がコーティング組成物の安定性又は機能性を妨げない限り、遊離フッ化物イオンを錯化できるいかなる物質であってもよい。構成成分F)の適切な供給源としては、組成物に溶解し、構成Aとは異なる、錯体を形成する金属化合物又は半金属化合物等、例えば、安定なフッ化物錯体を形成する、2〜7族の可溶性化合物(例えば、アルカリ土類金属の塩、Sc、Y、La、Ti、Zr、Mnの硝酸塩及び硫酸塩、テトラフルオロチタネート、及びテトラフルオロジルコネート等の遷移金属の塩)及び半金属元素の可溶性化合物等が挙げられる。いくつかの適切な例としては、硝酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸ナトリウム、ポリケイ酸塩等が挙げられる。
【0045】
その他の添加剤が、性能又は処理浴の安定性を改善するために存在してよく、キレート化剤、リン酸又は硝酸等の無機酸;セリウム、ハフニウム、亜鉛、ポリマー、キレート剤、フラッシュさび防止剤等が挙げられる。いくつかの実施形態においては、コロイド粒子、特に、本明細書で開示するpHを有する酸性組成物中で分解又は凝集に対して安定である粒子を用いてもよく、例えば、カチオン安定性コロイドシリカ、二酸化チタン及びカーボンブラック等の酸安定性顔料等が挙げられるが、これらの添加剤は、コーティング組成物の安定性又は機能性を妨げないものに限る。本発明のいくつかの実施形態においては、コロイドシリカ又はアニオン安定性シリカを有していない。
【0046】
一実施形態において、フッ化ジルコニウム酸、アミンオキシド界面活性剤と非イオン性界面活性剤との界面活性剤の組み合わせを含む組成物によって、粉体塗装後に塩水噴霧性能を有する酸化ジルコニウム被覆冷間圧延鋼(CRS)板が生成された。粉体塗装後の塩水噴霧性能は、少なくともCRS上のリン酸鉄皮膜と同等に良好であり、CRS上の市販されているいくつかの酸化ジルコニウム含有皮膜よりも良好であった。いくつかの実施形態において、酸化ジルコニウムの付着量が1平方メートルあたりのジルコニウムのミリグラムとして測定され、100mgZr/m〜200mgZr/mの高い付着量が、CRS板上に2分間のスプレー塗布によって定期的に得られた。
【0047】
いくつかの界面活性剤の組み合わせは、フッ化ジルコニウム酸溶液や一般的な酸性pHで安定性に欠けることが見出された。ただし、適切な安定性が達成されるならば、本発明の範囲内の酸化ジルコニウム含有コーティングの成膜速度を高める界面活性剤の組み合わせを、より高いpHの浴で用いてもよい。
【0048】
この前処理は、現在使用されているリン酸鉄[(洗浄剤/前処理、水洗、水洗)又は(洗浄剤/前処理、洗浄剤/前処理、水洗)]のように、前処理/水洗/水洗又は前処理/前処理/水洗の3工程前処理ラインで用いることができる。カチオン性及び/又は両性の界面活性剤に少なくとも1つの非イオン性界面活性剤を加えた類似の界面活性剤の組み合わせは、フッ化チタン酸及びその他のフルオロ金属酸並びに/又はその塩と共に有用である。
【0049】
いくつかの配合において、ポリエステル粉体塗料(ロームアンドハース(Rohm&Haas)のCorvel Creamのポリエステル及び黄色のポリウレタン)を用いることにより、CRS(2分間の塗布、水洗)上に非常に優れた耐食性能を得た。この耐食性能は、ポリマーシールの有無にかかわらず、市販のリン酸鉄化成処理の洗浄剤/コーティング剤(他の界面活性剤を含有する)と、アルカリ洗浄剤を有するリン酸鉄と、さらにはいくつかのフッ化ジルコニウム酸、並びに2つの市販の二酸化ジルコニウム析出化成コーティング組成物を用い、全て類似の浴条件下(例:類似のフッ化ジルコン水素酸のレベル、pH、遊離フッ化物、時間、温度など)で適用され、但し界面活性剤は添加されずに、析出された基準皮膜よりも良好であった。
【0050】
好ましい実施形態において、10g/Lのフッ化ジルコン水素酸、5.5未満、好ましくは5未満のpHでプロトン化される61g/Lのアミン界面活性剤、及び10g/Lの非イオン性界面活性剤を含む安定な濃縮物を、スプレー塗布前処理用の3%希釈処理浴として試験し、より高い付着量が得られた。
【0051】
本発明に係る組成物の使用条件は、好ましさが増加する順に、低くても約29、32、35、38、40、43、又は49℃(85、90、95、100、105、110、120 oF)、及び、好ましさが増加する順に、高くても約51、54、57、60、63、65、68、又は71℃(125、130、135、140、145、150、155、160 oF)の温度である。
【0052】
酸化ジルコニウム皮膜で被覆される金属表面は、任意に、従来の洗浄剤で洗浄されていてもよく、その後、好ましさの増加する順に、少なくとも10、15、20、25、30、45、60、75、90秒、及び少なくとも経済的理由から、好ましさが増加する順に、300、250、200、150、120秒以下の間、本発明に係る組成物と接触させ、続いて水洗を行う。全工程は、以下の実施例に記載されている。
【0053】
上述した濃度は、特に指定のない限り、処理浴についての濃度である。処理浴を調製するための濃縮物は、濃度の増加が濃縮物の沈殿又は不安定性を引き起こさない限り、処理浴の濃度の1倍から50倍又はそれ以上の濃度で調製されていてもよい。
【0054】
本発明に係る界面活性剤の組み合わせは、得られる酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴が安定となるように選択される。すなわち、室温又は使用温度で、通常の浴循環混合によって、商業的に許容されるコーティングの性能に容易に戻すことができないように、浴は、沈殿、凝集、又は層分離を起こすことはない。濃縮組成物も提供され;好ましくは、濃縮組成物も、本明細書で定めるような保存安定性を有する。濃縮物は、室温で少なくとも30、45、60、90、120日間の保存後に沈殿又は凝集を起こさない場合、保存安定性を有する。
【0055】
本発明の組成物は、例えば種々の処理方法及び工程等で適用されていてもよい。組成物の用途としては、洗浄剤/コーティング剤の組成物、及び酸化ジルコニウム析出化成コーティング組成物としての用途等が挙げられる。接触は、浸漬、スプレー、ロールコーター、又はその他の公知の塗布方法によって行われてよい。
【0056】
同一浴中で、基材を洗浄し、リン酸鉄化成皮膜を鉄表面に生成する、洗浄剤/コーティング剤の組み合わせた製品を含む公知のリン酸鉄皮膜製品と比較した場合の本発明の効果としては、環境問題がより少なく、ポリマーシールを必要としないリン非含有製品又は低リン酸塩製品(を生成することができる点)が含まれる。また、本発明は、従来のリン酸鉄及びリン酸亜鉛の技術と比較して、原材料コストの削減及びエネルギーコストの削減(例:低温)を提供することができる。また、本発明は、アルカリ洗浄後、脱イオン水洗浄の前に行われる標準的なリン酸鉄と比較して;ポリマーシールされた従来のリン酸鉄と比較して;脱イオン水洗浄の前に用いられる洗浄剤/コーティング剤のリン酸鉄と比較して;及びポリマーシールされたリン酸鉄の洗浄剤/コーティング剤と比較して、非常に改善された耐食性能が示された。さらに、本発明は、冷間圧延鋼の基材上に、市販の酸化ジルコニウム析出コーティング組成物と比較して、耐食性能にわずかな改善が示された。適切な界面活性剤の組み合わせは、非イオン性界面活性剤と共にカチオン性及び/又は両性の界面活性剤を含む。このような界面活性剤で改質されたフッ化ジルコニウム酸の前処理剤は、例えば、1工程の洗浄剤/コーティング剤の適用を含む3工程の洗浄剤/コーティング剤の処理、及び2工程の洗浄剤/コーティング剤を有するか又は本発明の組成物を適用する前にアルカリ洗浄を有する5工程の適用、及びスプレー塗布等に有用である。
【0057】
酸化ジルコニウム析出化成皮膜製品と比較した場合の効果としては、より速い生産速度を可能にする単位時間あたりの成膜速度の向上、又はこれまでに達成できなかった良好な密着性及び耐食性を有するより厚い皮膜、さらには、いくつかの実施形態において、厚い皮膜における独特の膜形態等が挙げられる。
【実施例】
【0058】
出願人は、まず、単一工程で洗浄及び酸化ジルコニウムのコーティングを行う組成物として使用可能な希フッ化ジルコニウム酸において界面活性剤のおよそ100種類の組み合わせのスクリーニングを行った。最初の試験には、安定性試験、発泡性試験、ジルコニウム付着量測定、及び塩水噴霧耐食性試験等を含めた。この広範囲にわたる研究の結果として、出願人らは、酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴に含有された特定の界面活性剤の組み合わせが、驚くべきことに、耐食性を低下させることなく、標準的な接触時間で付着量を顕著に増加させ、いくつかの場合において耐食性を実際に改善させることを見出した。
【0059】
実施例1:付着量
前処理浴の調製:
手順:表中において特に記述されていない限り、1重量%HZrF、2.5重量%構成成分B)、及び1重量%構成成分C)を含有する濃縮物を調製した。濃縮物の安定性について試験した。
【0060】
3重量%の濃縮物溶液を入れた20リットル浴を調製した。炭酸水素アンモニウム及び/又はHFを用いてpHを4.0〜4.2に調整し、硝酸アルミニウム又はフッ化水素アンモニウムを用いて遊離フッ化物レベルを−98RmVから−102RmVのレベル(10ppmから50ppmの遊離フッ化物)に調整した。表2に示す浴は、Zr以外のいかなる遷移金属も存在しない状態で、示した手順に従って準備した。
【0061】
ACTラボラトリーズ(ヒルズデール,ミシガン州,米国)より入手した標準(6インチ×4インチ)の冷間圧延鋼(CRS)試験板を、以下の工程に従って処理した。工程1の前に試験板に前洗浄を実施しなかった。各温度で各浴から3枚の試験板を処理し、3回の実験に対する付着量の平均を表2に示す。
【表1】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0062】
表2において:配合番号0〜6、21、及び22は、比較例である。配合番号3は、溶けないままであったことから、1%の構成成分C)を加えなかった。配合番号21及び22は、不飽和非芳香族環構造を有しており、これらから得られた付着量はいずれも低かった。
【0063】
上記ジルコニウム系洗浄剤/コーティング剤の金属前処理組成物は、以下の表3に示すHZrF単独及び市販のZr金属前処理剤と比較した場合に、他の界面活性剤はCRS上に酸化Zrの成膜を阻害するのに対して、窒素含有界面活性剤、特にアミン及びアミンオキシド界面活性剤が、非イオン性界面活性剤との組み合わせによって、CRS上に酸化Zr皮膜の成膜を促進することを示している。
【表3】
【0064】
実験室での試験結果から、本発明に係る界面活性剤の組み合わせを添加することで、界面活性剤無しの化成コーティング浴、及び比較例の界面活性剤の組み合わせと比較して、膜成膜速度が増加することが示された。すなわち、良好な密着性を有する、界面活性剤の組み合わせ及び/又はより厚いジルコニウム系皮膜を有しない類似のコーティング浴組成物より、金属基材上に酸化ジルコニウムをコーティングする成膜速度を高めるという同様の効果は、すべての界面活性剤から得られるわけではない。本発明に係る組成物における高いジルコニウムの付着量は、ジルコニウム化合物が金属表面上に析出され、洗い流されないことを示している。アニオン安定化シリカを含有する市販の酸化ジルコニウム析出化成コーティング浴を用いた比較例では、ジルコニウムの付着量は、別の遷移金属の成膜促進剤を含まないものよりも低かった。本発明の組成物は、機能強化された市販製品と遜色がない厚さを提供し、前洗浄工程を行わない場合であってもそうであった。
【0065】
実施例2:洗浄比較無しでの付着量
比較例1’として、実施例1に従って別の一式の板を作製し、酸化ジルコニウム析出前処理浴は、100oFの低温に維持した。表4に、洗浄無しで配合0の界面活性剤非含有組成物、及び酸化ジルコニウムの成膜前にヘンケル社(Henkel Corporation)から市販されているアルカリ洗浄剤であるRidoline RT180を用いて洗浄した比較例と比較して、アルカリ洗浄無しで塗布した配合13の洗浄剤/コーティング剤の組成物の性能を示す。
【表4-1】
【表4-2】
【0066】
前述の比較試験により、窒素含有界面活性剤、特にアミン及びアミンオキシド界面活性剤を、非イオン性界面活性剤と組み合わせて含有するジルコニウム系の洗浄剤/コーティング剤の金属前処理組成物は、アルカリ洗浄無しで酸化Zrの成膜を促進することが示された。
【0067】
実施例3:洗浄比較無しでの付着量
以下の表5に記載のように変更し、実施例1の手順に従って別の一式の板を作製した。前洗浄無しで冷間圧延鋼上にリン酸鉄を析出させる比較の洗浄剤/コーティング剤を用いて、板を表5に記載のように処理した。全ての板を乾燥し、次に、各々の前処理剤に対して、2枚の板を、各々異なる市販の粉体塗料を用いて製造者の指示に従って塗装した。その後、板に対して、ASTM B−117(2008)の工業規格耐食性試験に従って塩水噴霧試験を行った。ASTM B−117は耐食性を測定するものであることから、試験結果のより低い数値が良好な性能を示す。表5に、前洗浄の有無でリン酸鉄の洗浄剤/コーティング剤、及び酸化ジルコニウムの成膜前にヘンケル社から市販されているアルカリ洗浄剤であるRIDOLINE(登録商標)RT180を用いて洗浄した界面活性剤非含有酸化ジルコニウム成膜組成物と比較して、アルカリ洗浄無しで塗布した本発明の種々の洗浄剤/コーティング剤の組成物の性能を示す。界面活性剤の特定の組み合わせ(カチオン性又は両性の界面活性剤と非イオン性界面活性剤)は、安定な濃縮物を与えただけでなく、驚くべきことに、ジルコニウムの成膜も顕著に増加し、いくつかの場合では、CRS上の、ポリマーシールを有する標準的なリン酸鉄及び市販のジルコニウム系化成皮膜と比較した場合に、非常に改善された耐食性能を示した。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【0068】
前述の比較試験により、アミン及びアミンオキシド界面活性剤を、非イオン性界面活性剤と組み合わせて含有するジルコニウム系の洗浄剤/コーティング剤の金属前処理組成物は、市販の酸化Zr被覆金属前処理剤及びコーティング剤と同等、又はそれよりも良好な耐食性能を提供できることが示された。
【0069】
前述の発明は、関連する法的基準に従って記載されたものであり、それゆえ、その記載は、本質的に限定するものではなく例示である。開示される実施形態に対する変形及び変更は、当業者にとって理解することができ、本発明の範囲内に含まれる。従って、本発明に与えられる法的保護の範囲は、以下の請求項を検討することによってのみ決定することができる。