(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6063946
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】電気泳動によって形成された電気伝導性材料
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20170106BHJP
H01B 1/24 20060101ALI20170106BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20170106BHJP
H01B 5/16 20060101ALI20170106BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20170106BHJP
C25D 13/10 20060101ALI20170106BHJP
C25D 13/06 20060101ALI20170106BHJP
C01B 32/152 20170101ALI20170106BHJP
C01B 32/158 20170101ALI20170106BHJP
【FI】
H01B13/00 501Z
H01B1/24 A
H01B1/00 A
H01B5/16
H01B5/00 A
C25D13/10 A
C25D13/06 B
C01B31/02 101F
【請求項の数】20
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-535851(P2014-535851)
(86)(22)【出願日】2012年10月11日
(65)【公表番号】特表2015-503178(P2015-503178A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】US2012059650
(87)【国際公開番号】WO2013055854
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年8月1日
(31)【優先権主張番号】13/272,527
(32)【優先日】2011年10月13日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500364837
【氏名又は名称】フレクスコン カンパニー インク
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーナム ケネス
(72)【発明者】
【氏名】スコブ リチャード
【審査官】
神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/151141(WO,A1)
【文献】
特表平04−503831(JP,A)
【文献】
特開昭62−022383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
C01B 31/02
C25D 13/06
C25D 13/10
H01B 1/00
H01B 1/24
H01B 5/00
H01B 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
x方向における長さ及びy方向における幅より小さいz方向における厚みを有する電気伝導性複合材料を形成する方法であって、
第1の誘電性材料と、第1の誘電性材料内に実質的に分散させた第2の伝導性材料とを供給するステップであって、
前記第2の伝導性材料は前記第1の誘電性材料の表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有する粒子を含み、前記粒子は前記電気伝導性複合材料の厚みより小さく、前記粒子は、前記z方向に前記電気伝導性複合材料を貫く粒子間電気伝導性を与えるのに不十分な濃度で、前記第1の誘電性材料内に浮遊した状態のままである、ステップおよび
第1の誘電性材料と第2の伝導性材料の組合せの少なくとも一部分を通して電界を印加し、それにより、第2の伝導性材料が電気泳動を受けて、印加された電界の方向に沿って電気伝導性複合材料を貫く少なくとも1つの電気伝導性経路を形成するステップを含み、
前記第1の誘電性材料は、水の粘度に比べて5桁以上高い粘度を有する誘電性材料であることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記第1の誘電性材料が高分子材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記粒子が炭素の粉末、フレーク、顆粒またはナノチューブのいずれかによって形成された粒子を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、炭素がグラファイトの形態であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、前記粒子が0.35g/cm3から1.20g/cm3の範囲の密度を有する粒子を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、前記粒子が0.5g/cm3から1.0g/cm3の範囲の密度を有することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、電界の印加前に前記粒子が複合材料内にランダムに分布していることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、第1の誘電性材料と第2の伝導性材料の組合せの少なくとも一部分を通して電界を印加し、それにより、第2の伝導性材料が電気泳動を受ける前記ステップが、印加された電界の方向に沿って電気伝導性複合材料を貫く複数の独立した伝導性経路を形成することを特徴とする方法。
【請求項9】
電気伝導性材料であって、誘電性材料と、誘電性材料内の伝導性粒子とを含み、電気泳動によって伝導性粒子が整列して複合材料を貫く伝導性経路を形成し、該伝導性粒子は硬化工程を用いることなく整列した状態を維持しており、
前記誘電性材料は、水の粘度に比べて5桁以上高い粘度を有する誘電性材料であることを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項10】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、前記誘電性材料がアクリル接着剤を含むことを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項11】
請求項10に記載の電気伝導性材料であって、前記誘電性材料が感圧接着剤を含むことを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項12】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、前記伝導性粒子が炭素の粉末、フレーク顆粒またはナノチューブのいずれかによって形成されることを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項13】
請求項12に記載の電気伝導性材料であって、炭素がグラファイトの形態であることを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項14】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、前記伝導性粒子が、0.35g/cm3から1.20g/cm3の範囲の密度を有することを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項15】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、前記伝導性粒子が0.5g/cm3から1.0g/cm3の範囲の密度を有することを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項16】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、伝導性粒子の表面エネルギーが誘電性材料の表面エネルギーよりも高いことを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項17】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、電界の印加前は伝導性粒子が誘電性材料内にランダムに分布していることを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項18】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、前記電気伝導性材料が伝導性粒子によって形成された複数の電気伝導性経路を含み、複数の電気伝導性経路が、絡み合う伝導性粒子の凝集した塊内に形成されていることを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項19】
請求項9に記載の電気伝導性材料であって、前記電気伝導性材料が電極と接触するための伝導性層を含み、伝導性層が銀/塩化銀を含まないことを特徴とする電気伝導性材料。
【請求項20】
請求項10に記載の電気伝導性材料であって、前記アクリル接着剤は下式により表され、
【化1】
式中、Rは、エチル、ブチル、又は2−エチルへキシルであり、nは反復単位の数であることを特徴とする電気伝導性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、伝導性接着剤、伝導性ガスケットおよび伝導性フィルムを含むがこれらに限らない多種多様な用途に使用される、伝導性の高分子材料およびエラストマー材料に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2011年10月13日に出願され、その全体を本願に引用して援用する米国特許出願第13/272,527号の優先権を主張するものである。
【0003】
例えば、電気伝導性を有する感圧接着剤(PSA)の設計は、少なくとも、電気伝導性を高めると接着剤強度および柔軟性は一般に低下するという理由から、長い間課題を提示してきた。良好な電気伝導性を付与するために典型的に使用(添加)される材料は、一般に柔軟性に劣り、接着を阻害する。伝導性のコーティングを調製する従来からの方法は、高分子材料に伝導性粒子、例えば、グラファイト、銀、銅などを充填し、次いでこの高分子バインダーを塗布して乾燥、硬化させることである。こうした場合、伝導性粒子は、粒子がそれぞれ周囲にある他の粒子の少なくとも1つと物理的に接触すると伝導性の網目構造が形成される濃度である。このようにして、複合材料を貫く伝導性経路が形成される。
【0004】
しかし、感圧接着剤の場合、粒子同士の接触が維持される網目構造が形成されるほど粒子濃度が高い場合は、PSA成分のポリマー(例えば、エラストマー)系が、流出して基板と電極との間に面接触を生じさせる、すなわち、接着剤として作用するほど高い濃度で存在する可能性はほとんどない。むしろ、PSA成分が基板に対して十分な面接触を生じさせるのに十分な濃度である場合、隣接する伝導性粒子の間に入り込むことになり、粒子同士の接触が妨害されるようになる。
【0005】
もう1つのタイプの電気伝導性PSAは、直径がPSAの厚さ以上である伝導性の球形粒子を含んでいる。この方式では、信号または電流は、粒子の表面に沿って伝達され得るため、接着剤のz次元において異方的に電流の流れが供給される。しかし、接着剤の連続性が低下する場合がある。
【0006】
塩類、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウムは、水性の媒体中では容易に溶解してそのイオンが解離する(陽イオンと陰イオンとに分離する)。解離したイオンは、電流または信号を伝達することができる。これが理由で、良好な電気伝導性を付与するために塩類は長い間水に添加されてきたのであり、その水を高分子材料およびエラストマー材料に添加することができるのである。例えば、米国特許第6,121,508号は、医用電極に用いる感圧接着性ヒドロゲルを開示している。このゲル材料は、少なくとも水、塩化カリウムおよびポリエチレングリコールを含むことが開示され、電気伝導性であることが開示されている。米国特許第5,800,685号も、水、塩、開始剤または触媒、および架橋剤を含む、電気伝導性を有する接着性ヒドロゲルを開示している。しかし、こうしたヒドロゲルを使用する場合は一般に、ヒドロゲルの一方の面(患者から離れた側の面)に、イオン伝導性電荷を受け取ることが可能な伝導性表面、例えば、銀/塩化銀の使用が必要であり、これは比較的高価である。
【0007】
これらのヒドロゲル/接着剤は、良好な電気伝導特性を有することができる一方で、多くの場合、接着特性は中程度である。もう1つの欠点は、含水量の変化、例えば蒸発に起因する変化に伴って電気伝導性が変化する点であり、ヒドロゲルは、使用前は密閉環境に維持する必要があり、蒸発のために限られた期間しか使用できない点である。
【0008】
米国特許第7,651,638号は、高分子材料と、高分子材料内に実質的に分散している極性材料(例えば有機塩)とを含む不感水性の交流電流応答性複合材料を開示している。高分子材料と極性材料は、それぞれそれ自体に対して有する引力と実質的に同じ相互引力を発揮するように選択される。このため、極性材料は、凝集することも高分子材料の表面にブルームすることもなく、高分子材料内に浮遊し続ける。これは、他の用途において、(例えば、静電放電のために表面に沿って伝導性層を形成するために)表面にブルームさせることを目的とした塩類の使用とは対照的である。
【0009】
しかし、米国特許第7,651,638号の複合材料は、誘電性を維持するとともに高抵抗であり、したがって、材料の抵抗が高いことから、ある種の用途、例えば、ヒト被験者に電気的刺激を与える用途(例えば、除細動および/または経皮電気的神経刺激などの際に必要とされる)への使用には適さない。このような複合材料は、患者から小さな生体電気信号を検出するために使用することもできるが、患者が除細動処置を受ける場合には、除細動過負荷回復(DOR)を対象とするAAMI EC12−2000−4.2.2.4によるほど適時に電荷の過負荷を消散させることを、高い抵抗が妨げることがあるため、問題が起こり得る。このように電荷を消散させることができないと、除細動処置によって危険状態が改善されたかどうか、延いては更なる電荷を患者に与える必要があるかどうかについて確信が得られないことになる。
【0010】
米国特許第5,082,595号は、炭素粒子を含む電気伝導性感圧接着剤を開示しており、この伝導性接着剤は、電気伝導性を付与するものの、接着剤の物理的性質(例えば粘着性)を損なうことがないような低い濃度で黒色フィラー(炭素)を感圧接着剤に組み入れることによって調製すると開示されている。とりわけ、この特許では、カーボンブラックが形成し得る構造を保持すると共にカーボンブラックの濡れを向上させるため、有機溶媒中のカーボンブラックのスラリーを、高せん断を加えない穏やかな揺動または撹拌下で形成すると述べている。しかし、このような複合材料は、ある種の用途においては、十分な接着性および伝導性を実現できない場合がある。更に、このような構造は、連続接着剤内部の特定の位置だけに伝導部位を形成するように、ばらばらに配置することもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,121,508号明細書
【特許文献2】米国特許第5,800,685号明細書
【特許文献3】米国特許第7,651,638号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、高分子材料の所望の性質を損なうことなく電気伝導性を付与する伝導性高分子材料として使用する複合材料に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一実施形態によると、本発明は、電気伝導性複合材料を形成する方法であって、第1の誘電性材料と、第1の誘電性材料内に実質的に分散させた第2の伝導性材料とを供給するステップ、および第1の誘電性材料と第2の伝導性材料との組合せの少なくとも一部分を通して電界を印加し、それにより、第2の伝導性材料が電気泳動を受けて、印加された電界の方向に沿って複合材料を貫く少なくとも1つの電気伝導性経路を形成するステップを含む方法を提供する。
【0014】
別の実施形態によると、本発明は、誘電性材料と、誘電性材料内の伝導性粒子とを含み、電気泳動によって伝導性粒子が整列して複合材料を貫く伝導性経路を形成する電気伝導性材料を提供する。
【0015】
更なる実施形態によると、誘電性材料は感圧接着剤であってもよく、伝導性粒子は、炭素の粉末、フレーク、顆粒またはナノチューブのいずれかで形成されてもよく、伝導性粒子は、約0.35g/cm
3から約1.20g/cm
3の範囲の密度を有してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下の説明は、添付図面を参照することによって更に理解することができる。
【
図1】本発明の実施形態による複合材料の電気泳動前の例示的概略図である。
【
図2】複合材料において電気泳動を生じさせるのに十分な電界の存在下における
図1の複合材料の例示的概略図である。
【
図3】電界を印加し除去した後の
図2の複合材料の例示的概略図である。
【
図4】複合材料の一方の面から複合材料の他方の面へと電気を伝導するために用いた
図3の複合材料の例示的概略図である。
【
図5】直流電流(DC)の過充電電界が印加された後の一連の時点における
図1の複合材料の例示的概略図であり、電気泳動活動を示す。
【
図6】交流電流(AC)の過充電電界が印加された後の一連の時点における
図1の複合材料の例示的概略図であり、電気泳動活動を示す。
【
図7】高分子材料中に形成された伝導性通路の例示的概略図である。
【
図8】高分子材料中に形成された伝導性通路の例示的概略図である。
【
図9】本発明の複合材料の倍率の異なる例示的顕微鏡写真である。
【
図10】本発明の複合材料の倍率の異なる例示的顕微鏡写真である。
【
図11】本発明の更なる実施形態の複合材料の、多次元における電気伝導性を付与する電気泳動前後の例示的概略図である。
【
図12】本発明の更なる実施形態の複合材料の、多次元における電気伝導性を付与する電気泳動前後の例示的概略図である。
【0017】
図面は例示のみを目的として示したものであり、縮尺は正確ではない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
誘電性材料(例えば、感圧接着剤)内の伝導性粒子(例えば、5重量%の炭素粒子)が電界を受けて移動し、電界に沿って整列することによって複合材料を貫く伝導性通路を形成する電気泳動によって、伝導性材料が形成され得ることを出願人は、発見した。
【0019】
誘電性材料(例えば、高分子材料)および伝導性材料に対する要件には、伝導性材料がバインダー材料の表面にブルームしないように、材料同士が相互作用することが含まれる。伝導性材料が誘電性材料の表面エネルギーよりも高い表面エネルギーを有していれば、伝導性材料は誘電性材料内に浮遊した状態にあり続けるが、電界の印加前に材料を貫く粒子間電気伝導性を付与するほどの濃度になることはない。
【0020】
例えば、
図1は、誘電性材料12と、誘電性材料12内に分散させた伝導性粒子14とを含む本発明の一実施形態による複合材料10を示す。これは、例えば、伝導性材料(蒸発性の連続液相に分散させた)を液体高分子材料に導入し、次いで伝導性粒子の分散物の液相を蒸発させて高分子材料内に伝導性材料が残るようにすることで達成することができる。本発明の一実施形態によると、高分子材料は、例えば、下式で表され、
【化1】
式中、Rが異なってもよく、エチル、もしくはブチル、もしくは2−エチルヘキシルのいずれか、またはその他の有機質部分であり、nが反復単位の数であるアクリル系接着剤であってもよい。例えば、高分子材料は、Spencer,MAのFLEXcon Company,Inc.が販売するFLEXcon V95感圧接着剤であってもよい。
【0021】
図2に示すように、複合材料に電界18(例えば、5、10、50、100、200ボルトまたはそれ以上のACまたはDC)を導体20、22のところで印加すると、伝導性粒子14が電気泳動を受け、電界に沿って整列して、複合材料を貫く伝導性経路を形成することになる。
図3に示すように、電界を除去しても、伝導性粒子14はその場に留まって伝導性経路を形成している。すると、複合材料は、
図4に示すように、例えば、導体26と28との間に電気を通すために使用することができる。
【0022】
誘電性材料が伝導性粒子の表面を十分に濡らすことを確実にするように、伝導性粒子は、誘電性材料の表面エネルギーより少なくともわずかに高い表面エネルギーを有することが必要である。伝導性粒子14の密度および表面積は、重視すべき事項である。例えば、出願人は、例えば、約0.35g/cm
3から約1.20g/cm
3、好ましくは約0.5g/cm
3から1.0g/cm
3の間の範囲の密度を有する炭素(例えば、グラファイトの粉末、フレーク、顆粒またはナノチューブなど)が、伝導性材料としての使用に適することを発見している。粒子14の表面の十分な濡れを確実にするには、このグラファイトの表面エネルギーも、誘導体の表面エネルギーより高いことが好ましい。上記の例においては、グラファイト粒子は、55dynes/cmの比表面エネルギーを有し、上記に開示する誘導体は、40dynes/cm弱の表面エネルギーを有する。
【0023】
図5A〜
図5Cは、過充電時に起こる電気泳動プロセスをより詳細に示している。
図5Aに示すように、例えば、5、10、50、100もしくは200ボルトまたはそれ以上のDC電位が印加されると、表面近くの粒子14aがz方向に整列する。一旦これが起こると、(これも
図5Aに示すように)粒子14aの内側端16aが反対側の表面に近づくため、内側端16a上の電荷が複合材料の周囲の内側表面上の電荷よりもわずかに高くなる。これにより、
図5Bに示すように、近くにある別の粒子14bが粒子14aの内側端16aに引き寄せられる。すると、今度は粒子14bの内側端が高電荷となり、
図5Cに示すように、近くにある粒子14cがそこに引き寄せられる。更に別の粒子(例えば、図示する14d)がこうして形成された経路の端部に更に引き寄せられる。これは全て迅速に起こり、電気泳動を引き起こす引力/整列化力は、経路が形成されるにつれて、強くなると考えられる。
【0024】
図6Aに示すように、ACの電圧が印加された場合(この場合も、例えば、5、10、50、100もしくは200ボルトまたはそれ以上)、第1の導体31において印加された正の電圧を有する複合材料12の第1の面に沿って粒子15aおよび15bが形成される。次に、正の電圧電荷が反対側の導体33に印加されると、伝導性粒子15cおよび15dが
図6Bに示すように複合材料の下側から凝集し始める。ACの過電圧では、両面でこの凝集プロセスが交互に起こるため、原則として中間で交わる経路が形成される。
【0025】
電荷がDCかACかに関わらず、電圧が高いほど粒子が整列する速度は速くなる。なお、比較的低い電圧(例えば、約5ボルト以上)では、粒子はもっとゆっくりと整列するが、それでも最終的には整列する。この凝集現象を、電気泳動現象(DC電界の存在下で)または誘電泳動現象(AC電界の存在下で)と呼ぶことができ、本明細書においては両者を電気泳動プロセスと称する。
【0026】
図7に示すように、複合材料の小さな領域に対して上述のように電圧を印加した後、多数の伝導性経路38(各伝導性経路は整列した伝導性粒子によって形成されている)が複合材料を貫いて形成される。
図8に示すように、そのような伝導性経路の群40、42、44を別々の電界の選択的印加によって相互に分離させ、複合材料の選択された領域が電気伝導性を有する一方、複合材料のその他の領域46が高い誘電率を示し、したがって電気伝導性を持たないようにすることもできる。
【0027】
一実施形態によると、一例においては、FLEXconのV−95アクリル系PSAの液体サンプルに5重量%(V−95 FLEXconとArquadとのブレンドの固形分)の炭素粒子(Cynthiana KYのSolution Dispersions Inc.が製造した炭素粒子Aquablack 5909)を添加し、これをポリマー内に均一に分散させた。一方の面をシリコーン処理した2ミル(50ミクロン)のPETフィルムにこの混合物を塗布し、160°Fの通気式実験室炉で10分間乾燥、硬化させ、乾燥付着厚2ミル(50ミクロン)とした。2つの電極の間にV−95アクリル系接着剤複合材料中の炭素粒子を配置し電極を帯電させると、伝導性構造が形成された。更に、複合材料は、信号受信性に対してZ次元方向性を有することがわかっている。このZ次元性の維持は、接着剤の1つの連続層を用いて作られる生物学的センサーアレイの形成を教示し、その開示全体が本願に引用して援用される米国特許出願公開第2010−0036230号(その開示全体を本願に引用して援用する)に開示された用途へのこの接着剤の使用を可能にする。
【0028】
本発明のある種の実施形態による複合材料は、例えば接着剤内に均一に分散させた実質的に分離した粒子に始まる。続くステップで、電界を印加して伝導性構造を形成する。これは、Z次元における特定のX、Y位置に伝導性構造の配置を可能にするとともに、特定の点同士の電気的接触を可能にすることから、明らかに優位な点である。
【0029】
再び
図7を参照すると、幅広な電界の印加と同時に、多数の平行な経路48が形成され得る。経路間の距離は、材料12の外表面の凹凸に加え、材料12の厚さと伝導性粒子の濃度に依存する。
図8に示すように、離散した領域(隣り合う経路の組40、42、44)に電界を印加することで、離散したこのような経路の組40、42、44を互いに分離させてその間に非伝導性部分46の領域を形成してもよい。
【実施例1】
【0030】
以下の実施例は、上述した伝導性粒子のバインダー材料への添加の効果を実証するものである。
【0031】
(実施例1)
FLEXconのV−95アクリル系PSAの液体サンプルに極性材料Arquad HTL−8(AkzoNobel)を固形分で20重量%添加し、これに5重量%(V−95とArquadのブレンドの固形分)の炭素粒子(Cynthiana KYのSolution Dispersions Inc.が製造したAquablack 5909)を添加して、これを均一に分散させ、サンプル1とした。一方の面をシリコーン処理した2ミル(50ミクロン)のPETフィルムにこの混合物を塗布し、160°Fの通気式実験室炉で10分間乾燥、硬化させ、乾燥付着厚2ミル(50ミクロン)とした。
【0032】
このとき、米国特許第7,651,638号(その開示全体を本願に引用して援用する)の開示に従い、V−95アクリル系接着剤とArquad(固形分重量で20%)のみで、炭素を含まない複合材料も調製し、サンプル2とした。
【0033】
この混合物もPETフィルムの一方の面を2ミル(50ミクロン)のシリコーン処理し、160°Fの通気式実験室炉で10分間乾燥、硬化させ、乾燥付着厚2ミル(50ミクロン)とし、サンプル2とした。
【0034】
同様に、V−95アクリル系接着剤と5%の炭素のみからなり、極性材料(Arquad)を含まない第3のサンプルを調製し、サンプル1および2と同様に処理し、サンプル3とした。
【0035】
3つのサンプルは全て、指定された実験用製品EXV−215,90PFW(Spencer,MassachusettsのFLEXcon Company,Inc.が販売)を用い、炭素を充填した表面抵抗が約100オーム/スクエアの高分子フィルムからなる伝導性基材上で試験を行った。サンプルは、Marlborough,MAのQuadTech,Inc.が販売するQuadTech LCR Model 1900試験装置を用いて試験を行った。
【0036】
特に、3つのサンプルは全て、AAMI EC12−2000−4.2.2.1(修正版)およびAAMI EC12−2000−4.2.2.4に従って試験を行った。AAMI EC12−2000−4.2.2.1試験は、上限が、試験サンプルの対面する両面接着部分については3000オームであり、一点および最大平均(試験サンプル12個)では2000オームである。
【0037】
AAMI EC12−2000−4.2.2.4は、DC200ボルトでの充電後、5秒後に100mV未満を保持することを要求する。なお、この場合も、対面する両面接着剤層を使用する。
【0038】
留意すべきは、最初に試験を行ったインピーダンス(EC12−2000−4.2.2.1)を示す以下の表1である。次に同じサンプルに対してDOR(EC12−2000−4.2.2.4)を実施した。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例2)
本発明の信号受信性を判定するため、実施例1用に調製したサンプルに対し、以下に概説する手順に従って試験を行った。AAMI EC12−2000−4.2.2.1に従って試験に使用されるサンプルは、Wave Form Generator(Hewlett Packard 33120A 15MHz Function/Arbitrary Waveform Generator)に直列に接続するとともに、オシロスコープ(BK Precision 100MHz Oscilloscope 2190)に直列に接続して使用した。サンプルは、3、10および100Hzで試験を行った。結果は以下の表2に、伝達された信号のうちの受信された%で示す。
【0041】
【表2】
【0042】
(実施例3)
DOR試験(AAMI EC12−2000−4.2.2.4)に合格したサンプルに対し、AAMI EC12−2000−4.2.2.1(修正版)に従い、インピーダンスについて再度試験を行った。再チェックの後、サンプル1および3は、著しく変化した。サンプル1および3は、インピーダンスが1Kオーム未満となった。サンプル2では、DOR試験後、信号受信媒体は変化しなかった。すなわち、伝導性粒子を分散させたサンプルのみが変化した。更に、結果として生じる低インピーダンスはそれでも異方的、すなわち、Z方向であった(異方特性の判定法については実施例4参照)。加えて、DOR後の材料の並列キャパシタンス(CP)は、以下の表3に示すように、実際にはZインピーダンスが低下するにつれて増加する。
【0043】
【表3】
【0044】
(実施例4)
異方特性を以下の試験手順によって確認した。3、10、100Hzの信号を発生させ、伝導性接着剤上に配置した第1の銅シャントに供給した。第2の銅シャントを同じ伝導性接着剤上に、第1のシャントから約0.004インチ(100ミクロン)離して配置し、第1のシャントをオシロスコープに接続(直列)した。ベース基板は、誘電性材料(PETフィルム)であった。
【0045】
サンプル1の接着剤が等方性であれば、オシロスコープで信号が捕捉されるはずである。サンプル1の接着剤が異方性であれば、オシロスコープに信号が受信されないはずである。結果は、信号は検出されなかった。
【0046】
電気泳動の結果は、複合材料における極性材料の存在に依存しているようにはみえない。DOR試験中に印加された電界によって炭素粒子が凝集する、すなわち、SRMを含有する伝導性粒子および/またはPSAのみを含む(極性の有機塩を含まない)伝導性粒子を横切って印加されるDC200ボルトによって発生する電界が、おそらくは付近の粒子に反対の電荷を誘起することによって、粒子を凝集させるのに十分であると考えられる。
【0047】
一方の電極から他方の電極に及ぶ凝集構造が、異方性の伝導性PSAが形成される理由である。この凝集について考察するため、本発明に従いin situで形成された伝導性構造を50として示す
図9を参照する。特に、
図9は、伝導性構造を上から見下ろした10倍の画像を示している。暗い領域は凝集した粒子であり、明るい領域は粒子の少ない領域、すなわち、粒子が出ていった部分を表している。
【0048】
この粒子の移動の効果は、52として伝導性構造を倍率100倍で示す
図10を見ることでより詳細に示すことができる。この場合も上から見下ろしているが、焦点は縁辺部の方に合わせてあり、明るい、粒子の少ない領域が示されている。透明な材料は連続媒体であり、この場合はPSA、すなわちFLEXconのV−95アクリル系接着剤である。注目すべきは、透明なV−95アクリル系接着剤における線条または溝であり、また残っているわずかな粒子が線条に沿って整列している点である。出発材料は、連続媒体中の均一な粒子分布であり、したがって、DOR試験によって発生する電界下では、粒子が共に動いて伝導性構造を形成する。この場合も、この凝集現象を電気泳動効果、AC電界の場合は誘電泳動効果と呼ぶことができ、本明細書においては両者を電気泳動プロセスと称する。
【0049】
しかし、この場合、非水性の高粘度媒体中で凝集が起こることが重要である。本発明によると、連続媒体は誘電性であって伝導性粒子と十分に接触(粒子充填レベルで)しており、この媒体は、粘弾性の液体、すなわち、非常に粘度が高く、水分散液(わずか数十センチポアズ程度で測定されることが多い)に比べて5桁以上高い(センチポアズ単位で測定した場合)液体である。
【0050】
この場合も、ここで前提とされていることは、水性の連続媒体における電界による粒子凝集の場合のように、電極に近い粒子にわずかな電荷が誘発されるということである。しかし、水よりも極性が低く誘電性の高い連続媒体の場合、電界中では粒子へのより多量の電荷の蓄積が起こり得る。
【0051】
連続媒体としての水の場合、より高い極性が電荷の蓄積を緩和し、更に、仮に印加される電界を増加する(電圧を高くする)と、水の電気分解が競合的に起こり、障害となり得る。連続媒体としてのPSA(例えば、FLEXconのV−95アクリル系接着剤)の場合、電荷の緩和は遙かに少なく、生じる実質的な電気化学的プロセスは存在しない。
【0052】
粒子へのこの電荷の蓄積は、粒子と電極との間の引力を増加させ、連続媒体の粘度が高いにも関わらず粒子を電極へと引き寄せる。更に、電極に到達した最初の粒子が前記電極上に徐々に電荷が高くなるスポットを形成し、そのため、電界が他方の電極に近づき、凝集に加わる粒子が多くなるほど、反対側の電極までの距離が短くなって電界強度が増加し、凝集の成長が加速される。
【0053】
DOR試験は、電極の面対面型配置を伴う。したがって、少数の伝導性構造が形成された後、電極間で既に生じている接触部のために2つの電極の間の電界はほとんど消散する。したがって、平面の間の2つの平面が互いに接近している1つのスポットがある場所、または伝導性粒子のわずかに高い密度が1回の増加で起こるような炭素の不均等な分布がある場所、換言すれば、抵抗が最も低い地点に最初の構造が形成される。
【0054】
結果として、こうした構造を形成するのに面対面法を使用する場合、形成される伝導性構造の位置および数に関していくつかの限界がある。しかし、電界を導入するのに点対面法または点対点法を使用した場合、各点が、近くに伝導性構造が形成されても容易には消散されないそれ自体の電界を持つため、位置および数がより離散した伝導性構造が形成されることになる。
【0055】
これは、実験室用コロナ処理装置を接地された伝導性基板上で使用することによって実証されている。コロナ処理装置は、平坦な受信用基板に対して一連の点源のように作用した。結果として得られたのは、接着剤の表面を横切る均一に分布した伝導性構造であった。
【0056】
in situで形成された電気伝導性構造の安定性の試験が、DOR試験後のサンプルを160°F(71℃)の炉に16時間入れ、インピーダンス(AAMI EC12−2000−4.2.2.1.)および信号受信の特性を再試験することによって成し遂げられた。いずれの場合も、サンプルは、低インピーダンスを維持した。伝導性粒子は炭素の形態でもよく、乾燥重量の固形分1%を超える濃度で供給されていてもよい。
【0057】
本発明の複合材料の使用は更に、例えば、電極に電圧を供給するための複合材料に隣接する伝導性層(例えば、
図4の伝導性層26および28)を、ヒドロゲルの場合に必要な高価な材料、例えば銀/塩化銀(Ag/AgCl)で形成する必要がないことを可能にする。ヒドロゲルは、ヒドロゲルのイオン伝導性が電極とイオン的に結合していなければならないため、そのような特殊な伝導性層を必要とする。他方、本発明によると、複合材料に隣接する伝導性層は、例えば、上記と同様だが、蒸着によって伝導性層が形成されるように濃度を高くした伝導性粒子の安価な蒸着層(例えば、真空蒸着またはスパッタ被覆されたもの)で形成されていてもよい。伝導の機構がイオン伝導性ではないため、こうした安価な材料を伝導性層に使用することができる。
【0058】
図11に示すように、本発明の更なる実施形態の複合材料は、多方向に電気泳動を受けることもある。例えば、
図11に示すように、複合材料60は、誘電性材料64内に分散させた、カーボンナノチューブ62などのアスペクト比が非常に大きな(1000対1以上)粒子を含んでもよい。Z方向に印加される電界(
図12において66で示す)の存在下では、粒子は凝集するが、粒子は非常に長いため、凝集が起こると互いに絡み合う。この結果、
図12に示すように、Z方向だけでなくX方向およびY方向にも延在する絡み合った粒子塊のため、粒子は、Z方向に電気伝導性を付与するだけでなく、X方向およびY方向にも電気伝導性を付与する。
【0059】
(実施例5)
したがって、更なる例によると、FLEXconのV−95アクリル系接着剤、極性材料(AkzoNobelが販売するArquad HTL−8、V−95接着剤の固形分基準で固形分20%)、および0.04%の単層半導性カーボンナノチューブ(CNT)を含む接着剤混合物が用意される。混合物を、イソプロピルアルコール/n−ブチルアルコールの72/28溶媒ブレンド(2501 Technology Place,Norman,OKのSouthwest Nanotechnologiesが販売)に混合し、固形分3%のペーストにして供給した。混合物を30分間超音波処理し、CNTを接着剤/arquadの予混合物全体に均一に分散させた。
【0060】
次いで、混合物を上記のように塗布し、乾燥、硬化させ、乾燥厚2ミル(50ミクロン)とした。接着剤複合材料を上記のように作成し、試験に供した。結果は、DOR試験(EC12−2000−4.2.2.1に従う)前は、100kオームのインピーダンスを示した。DOR試験(EC12−2000−4.2.2.4に従う)には合格し、EC12−2000−4.2.2.1後のインピーダンスは5Kオームであった。実施例1と同様に信号受信性についても試験を行い、DORの前後とも95%であった。実施例3に関して上に記載した異方性試験では、DOR後、複合材料にはXおよびY伝導性成分が存在することがわかった。より均一な等方性の伝導性コーティングが形成できることが予想される。
【0061】
伝導性高分子接点材料、例えばEMFシールドを接地させるためのシーリング材や取付材を必要とする用途、および薄膜スイッチ素子の新規な製造方法は全て、本発明の複合材料の恩恵を受け得る。電極と活性層との間の界面に同様な電気的接触を必要とする、または同様な電気的接触の恩恵を受け得るその他の用途(例えば、太陽光発電や有機発光ダイオード)も、本発明の複合材料を採用し得る。更には、ナノ伝導性粒子などの伝導性粒子の実質的により低い濃度の使用の可能性が、透明な伝導性コーティングの開発の可能性を与える。
【0062】
(実施例6)
上記のように、感圧接着剤の場合、粒子濃度が粒子同士の接触が維持される網目構造を形成するほど高い場合は、接着剤成分の誘電性材料(例えば、エラストマー)が流出して基板と電極との間に表面同士の接触を起こす、すなわち、接着剤として作用するほど高い濃度で存在する可能性はほとんどない。更なる例において、サンプル1の誘電性材料(V−95PSAおよび極性材料)に、サンプル1の炭素粒子を25重量%添加した。次いで、シリコーン処理をしたポリエステルベースの剥離ライナーに複合材料を塗布し、乾燥させて乾燥付着厚2ミル(50ミクロン)とした。得られたコーティングは、実質的に測定可能なPSA特性(粘着、剥離、せん断)を有していなかった。しかし、電気伝導性の網目構造が複合材料中に形成されており、この複合材料は、電気泳動の前後いずれにおいても約100オームのDC抵抗を有することがわかった。
【0063】
上記に開示した実施形態に対し、本発明の精神および範囲から逸脱することなく数多くの変形および変更が可能であることを、当業者は、理解するであろう。