(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モノエチレン系不飽和カルボン酸、そのエステル又は中和塩若しくは部分中和塩が(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1に記載の抑制剤。
(i)N−オキシル化合物と(メタ)アクリル酸、酢酸及びアクリル酸二量体のうちの少なくとも1種との反応生成物、及び(ii)マンガンイオンを含む、請求項1に記載の抑制剤。
【発明を実施するための形態】
【0011】
好ましい実施形態の説明
本明細書における数値範囲には、下限値及び上限値からの値並びにこれらの値を含む値が一単位刻みで全て含まれるが、ただし、任意の下限値と任意の上限値とには少なくとも2単位の分離があるものとする。例として、例えば、分子量、粘度、メルトインデックスなどの組成特性、物性その他の特性が100〜1,000である場合には、100、101、102などの個々の値の全てと、100〜144、155〜170、197〜200などの部分的範囲とを明示的に列挙していることを意図するものである。1未満の値を含む範囲又は1よりも大きい分数(例えば、1.1、1.5など)を含む範囲について、1単位は、必要に応じて0.0001、0.001、0.01又は0.1であるとみなされる。10未満の一桁数を含む範囲(例えば1〜5)について、1単位は、典型的には0.1であるとみなされる。これらは、具体的に意図されるものの例にしかすぎず、また、列挙された下限値から上限値の間の数値の可能な全ての組合せが本明細書に明示的に記載されているものとみなされるべきである。特に、N−オキシル化合物対マンガンイオンの比率、溶液状(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルの量及び各種プロセスパラメーター、例えば、温度、圧力などについては、本明細書内に数値範囲を与えている。
【0012】
「重合体」とは、単量体(同一のタイプのものと異なるタイプのもとを問わない)を重合させることによって製造された高分子化合物を意味する。そのため、この重合体という一般的な用語には、通常1種類のみの単量体から製造される重合体をいうために使用される単独重合体という用語と、以下に定義する共重合体及びインターポリマーという用語が含まれる。
【0013】
「共重合体」、「インターポリマー」などの用語は、少なくとも2種の異なるタイプの単量体の重合によって製造された重合体を意味する。これらの一般的な用語には、共重合体の従来の定義、すなわち、2種の異なるタイプの単量体から製造された重合体と、共重合体のさらに拡張した定義、すなわち、2種以上の異なるタイプの単量体から製造された重合体、例えば、三元共重合体、四元共重合体などが含まれる。
【0014】
例えば、「アクリル酸」又は「アクリレート」といった総称で使用する接頭語「(メタ)」は、アクリル酸とメタクリル酸及びアクリレートとメタクリレート種の両方を含めるように基礎用語又は根本をなす用語を拡張するものである。つまり、用語「(メタ)アクリル酸」には、アクリル酸及びメタクリル酸が含まれ、用語「(メタ)アクリレート」には、アクリレート及びメタクリレート種が含まれる。
【0015】
「重合」などの用語は、比較的な単純な多数の分子を結合させて鎖状高分子、すなわち重合体を形成させる化学反応を意味する。この結合単位は単量体として知られている。
【0016】
「抑制剤」、「重合抑制剤」、「安定剤」、「重合安定剤」などの用語は、それらがなければ単量体が重合するであろう条件下でビニル単量体の重合を阻害し又は遅延させる物質を意味する。一方のアクリル酸又はアクリル酸エステル分子を他方の分子にマイケル付加することは、アクリル酸又はアクリル酸エステル分子の重合ではない。
【0017】
「溶液」などの用語は、1種以上の物質(溶質)が1種以上の他の物質(溶媒)中に分子レベル又はイオンレベルで均一に分散した混合物を意味する。アクリル酸又はアクリル酸エステルの水溶液という文脈では、アクリル酸が溶質で、水が溶媒であり、また、水は、該溶液の重量に基づいて75重量%まで及びそれを超える量で存在することができる。本明細書で使用するときに、溶液には、水が微量にしか存在しない、例えば、該溶液の重量に基づいて0.01重量%未満でしか存在しない水性組成物も含まれる。
【0018】
本発明は(メタ)アクリル酸及びそのエステルに関して記載されているが、他のモノエチレン系不飽和カルボン酸及びそれらの無水物、エステル並びに中和塩及び部分中和塩にも適用可能である。本発明により重合に対して安定化するα,β−モノ不飽和カルボン酸及びそのエステルの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、エタクリル酸、α−クロルアクリル酸、α−シアノアクリル酸、β−メチルアクリル酸(クロトン酸)、α−フェニルアクリル酸、β−アクリロイルオキシプロピオン酸、アンゲリカ酸、桂皮酸、p−クロル桂皮酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸無水物、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸の半エステル又は半アミド、クロトン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド並びに1〜18個の炭素のアルキル基を含有するそれらのN及びN,Nジアルキル誘導体、1〜18個の炭素のアルキル基を含有するアクリル酸アルキル及びメタクリル酸アルキル(例えば、アクリル酸及びメタクリル酸のメチル、エチル、プロピルエステル)などが挙げられる。
【0019】
本発明を実施する際に使用されるフリーラジカル重合抑制剤の一群は、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルを主成分とする。これは、ニトロキシル2、又はNR1、又は4−オキシピペリドール、又はタノール、又はtempol、又はtmpn、又はおそらく最も一般的である4−ヒドロキシTEMPO、又はh−TEMPO、又はさらに単純に4−HTとしても知られている。また、これらのTEMPO化合物は、N−オキシル、又はさらに簡単にオキシル化合物、又は安定剤、又はHART(ヒンダードアミンラジカルトラップ)、又はHALS(ヒンダードアミン光安定剤)としても知られている。TEMPOファミリーの構成員は、環の4位に位置する様々な基によって相違する。最も知られているのは、本発明で使用するのに好ましいN−オキシル化合物である4−ヒドロキシTEMPO(4−HT)であり、この化合物において、ヒドロキシル基は環の4位に位置している(式(I)参照)。
【化1】
【0020】
誘導体、特にエーテル、エステル及びウレタン誘導体を製造できるTEMPO化合物は、次式(II)のものである:
【化2】
【0021】
本発明を実施する際に重合抑制剤の成分として使用できるTEMPO化合物のエーテル、エステル及びウレタン誘導体は(III)の化学構造式を有する。
【化3】
上記式において、
式IIのXは、別の化合物、例えば、アルコール、カルボン酸、硫酸アルキル、イソシアネートなどと反応して式IIIのエーテル、エステル又はウレタン基(又は対応する硫黄、リン又はアミン誘導体)を形成することができる任意の基であり、好ましくは、Xはヒドロキシル、アミン、メルカプタン、ホスフィノ(H
2P−)、ホスフィニル(H
2P(O)−)又はシリル(H
3Si−)基、より好ましくはXはヒドロキシルであり;
式IIIのX’は、少なくとも二価原子、好ましくは酸素、硫黄、窒素、燐又は珪素の原子、より好ましくは酸素又は硫黄原子、最も好ましくは酸素原子であり;
また、式IIとIIIの両方について、
R
1〜R
4はそれぞれ独立してC
1〜12ヒドロカルビル基であり、或いは、R
1〜R
4基のいずれかは、他のR
1〜R
4基の1個以上と一緒になって、好ましくは少なくとも5個の炭素原子を有する1個以上のヒドロカルビル環を形成することができ;
R
5はオキシル(OX)基であり;
R
6は、水素又はC
1〜12ヒドロカルビル若しくはカルボキシル基、或いは次式のウレタン基:
【化4】
であるが、ただし、R
1〜R
4基がメチルの場合には、R
6は水素ではなく;
R
7は、C
2〜30ヒドロカルビル基である。
【0022】
ここで使用するときに、「エーテル、エステル及びウレタン誘導体」とは、式IIIの化合物であって、X’が二価の酸素基であるものである。R
1〜R
7のヒドロカルビル基としては、アルキル、アリール、アラルキル、シクロアルキル、アルケニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、R
1〜R
4はそれぞれ独立してC
1〜4アルキル基であり、より好ましくは、R
1〜R
4はそれぞれ独立してメチル基である。好ましくはR
6はC
1〜
12アルキル、C
1〜
12アルキルカルボキシル若しくはアリールカルボキシル基又はウレタン基であり、より好ましくはC
1〜8アルキル基又は安息香酸基又はウレタン基である。好ましくはR
7はC
5〜30アルキル基であり、より好ましくはC
5〜20アルキル基である。4−ヒドロキシTEMPOの代表的なエーテル及びウレタン誘導体としては、メチルエーテルTEMPO、ブチルエーテルTEMPO、ヘキシルエーテルTEMPO、アリルエーテルTEMPO及びステアリルウレタンTEMPOが挙げられる。
【0023】
本発明を実施するときに、4−HT及びMn(II)は、アクリル酸を含有する流れに添加される。蒸留装置の条件下では、4−HTはアクリル酸と反応して、アクリル酸4−HTエステル(以下のV、すなわち、4−HTのアルコール官能基とアクリル酸のカルボン酸官能基とから形成されるエステル)又はマイケル付加物β−(4−オキシTEMPO)プロピオン酸(以下のVI、すなわち、4−HTのアルコール官能基がアクリル酸の二重結合にわたって付加したときに形成されるマイケル付加物)を形成する。これらは、形成される2種の主要な生成物であり、それぞれの場合には、該誘導体には、さらに活性なニトロキシル基が存在するであろう。これは、該誘導体がさらに強力な抑制剤であることを意味する。
【0024】
さらに、4−HTはより少ない程度に(混合物中に存在するこれらの種の濃度が低いため)酢酸と反応して酢酸4−HTエステル(以下VII)を形成し、また、アクリル酸二量体と反応して対応するエステル(以下VIII)とマイケル付加物(以下IX)とを形成することができる。つまり、全ての実用的な目的において、アクリル酸蒸留における真の抑制剤系は、Mn(II)イオンと併用されるこれらの4−HT誘導体である。蒸留流れのガスクロマトグラフィー(GC)及び高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)分析では4−HTの存在が確認されないであろうが、これらの誘導体及び他の潜在的な誘導体は検出され得る。これは、抑制剤パッケージ(すなわち、活性ニトロキシル誘導体とマンガンイオンとの併用)が4−HT及びマンガンイオンをこのプロセスに直接的に加えることによってその場で形成できること、或いはこれをアクリル酸との外部反応によって実施し、次いでマンガンイオンと共にプロセスに加えることができることを意味する。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【0025】
本発明の実施に使用されるマンガンイオンは、好ましくは+2の原子価のものであり、また、これは、典型的には、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン(該アルキル基は、メチル、エチル、プロピル及びブチルから選択され、かつ、互いに同一でも異なっていてもよい)、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、蟻酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、エチレンジアミン四酢酸マンガンなどのマンガン塩から誘導される。これらのもののうち1種類以上を使用することができる。
【0026】
N−オキシル化合物対マンガンイオンの重量比は、(メタ)アクリル酸又は同エステル及び水の水溶液に基づいて50:1〜100:1未満、好ましくは〜75:1未満、より好ましくは〜60:1未満である。これらの比及び少なくとも50ppmの4−HTという最小値で、格別な安定化効果が(メタ)アクリル酸の水溶液に付与される。すなわち、(メタ)アクリル酸の大部分(例えば、>50%)がビニル重合前にマイケル付加により二量体化し得る。液状アクリル酸を高温(例えば、113℃72時間)で保持する場合には、アクリル酸のほとんどが二量体に転化され、非常にわずかな(例えば、<10%)遊離アクリル酸が残る。N−オキシル化合物でもマンガンイオンでも、単独ではこの結果が得られず、より多くのマンガンイオン、例えば、従来技術に教示されている1:1のN−オキシル化合物対マンガンイオン比を使用すると、最終的には焼却処分される廃棄物流れの金属含有量が増す。この焼却によって、環境的にコストのかかる、また通常でもコストのかかる方法で廃棄するのを必要とする金属含有量を有する灰が生じる。
【0027】
抑制剤の成分、すなわち、N−オキシル化合物及びマンガンイオン先駆物質(例えば、塩)は、予め混合でき、或いは(メタ)アクリル酸又は同エステルの水溶液にそれぞれ添加できる。抑制剤(N−オキシル化合物+マンガンイオン先駆物質)を使用される水に添加して(メタ)アクリル酸又は同エステルの水溶液を作製し、又は溶液自体に少なくとも50、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも200ppmの量で添加する。(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルの気相製造方法においては、抑制剤は、通常、この方法の急冷段階で添加される。抑制剤が予め混合される場合には、このものは、典型的には、ガス状(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルを急冷する塔の頂部にこれらの液体が入る前又は入ると同時に、この冷却プロセスに添加される。これらの処理液の温度は、典型的には15〜30℃である。抑制剤の成分を互いに独立に該プロセスに添加する場合には、これらのものは、典型的には、急冷塔に液体が入る前に急冷液に添加され、そして、これらの成分の追加量を該急冷塔の異なる部分に添加して精製プロセス全体にわたって成分の相乗的相互作用を確保することができる。
【0028】
抑制剤溶液は、酢酸マンガンの固形物又は溶液を市販の10%4−ヒドロキシTEMPO水溶液に添加することによって容易に調製できる。好ましい実施形態では、続いて、この溶液は、吸収装置(急冷)塔のポンプ周辺ループに直接供給され、又は還流を通じて、すなわち頂部トレイに戻される頭上凝縮蒸気の部分を通じて供給される。また、この抑制剤溶液は、塔の凝縮器(例えば、急冷凝縮器)及び/又は単純なフラッシャー、すなわち一段階蒸留装置にも添加できる。
【0029】
本発明の一実施形態では、N−オキシル化合物及びマンガンイオンの抑制剤を、有機媒体に可溶の抑制剤と併用する。N−オキシル化合物、特に4−ヒドロキシTEMPOと、マンガン塩との両方はかなり水溶性であるので、それら自体は、抽出塔及び/又は蒸留塔内の有機相には、ほんの部分的に分割されるに過ぎない。これは、含まれる任意の(メタ)アクリル酸又は同エステルのビニル重合に対する部分的な安定化を有機相に与えるにすぎない。有機相におけるビニル重合から保護するために、抑制剤は、この機能を付与する1種以上の追加成分、例えば、フェノチアジンを含むことができる。この追加成分又はこの成分のブレンドは、存在するとすれば、通常50、好ましくは100、より好ましくは200ppmの量で存在する。
【0030】
4−ヒドロキシTEMPOは、それ自体が抑制剤として化学量論的に消費されるところ、抑制剤として機能するためには酸素が存在する必要はない。Mn(II)及び酸素が存在すると、所定のラジカルを捕捉した4−ヒドロキシTEMPOの再生が可能になり、それによって該物質が触媒性の抑制剤になる。酸素は、リボイラー又は塔の基部のいずれかに空気を注入することによってこれらの塔に供給される。Mn(II)は2つの役割を果たす。1つの役割は、所定のラジカルを捕捉した4−ヒドロキシTEMPOの再生用の酸化触媒として機能することである。別の目的は、Mn(III)にまで酸化されたときに、炭素陽イオンを形成する炭素中心ラジカル及びMn(II)からの1個の電子移動により抑制剤として機能し、それによって重合を禁止することができることである。
【0031】
適切なレベル及び比で4−HTとMn(II)とを併用することで、113℃でアクリル酸の格別な安定化を与えることができる。この相乗抑制剤ミックスの、アクリル酸蒸留のために好ましい抑制剤比は、100/1(4−HT/Mn(II))であり、より好ましい比は50/1である。蒸留塔において、各トレイ上の抑制剤濃度は、少なくとも50ppmの4−HT/1ppmのMn(II)であり、より好ましいレベルは、少なくとも100ppmの4−HT/2ppmのMn(II)であり、さらに好ましい濃度は少なくとも200ppmの4−HT/4ppmのMn(II)である。それよりも低いレベルでは、トレイ上の抑制剤分布が懸念され、汚れに至る可能性がある。商業規模の装置では分布が不十分なためである。抑制剤ミックス中におけるMn(II)の比がこれよりも高いと、抑制は得られるものの、処分の問題が生じる。換言すると、1/1の比 [4−HT/Mn(II)]及び50ppmの4−HT最小量では、処理高沸点留分の処分のために使用される焼却炉内で発生する灰の量が環境問題をもたらすであろう。これは、50/1比では問題とはならない。
【0032】
アクリル酸精製における4−HTの驚くべき利点の一つは、仕上カラムの基部及び/又はリボイラー、さらに効果的には二量体クラッカーにおいてマレイン酸の分解を触媒することができるその能力である。4−HTは、脱カルボキシル化により分解させるための触媒として作用し、アクリル酸を生じさせる。二量体クラッカーの高温(典型的には150℃を超える)は、この反応にとって好ましいが、この反応は120℃程度に低い温度でも同様に進行する。4−HTのこの特徴は、他の非TEMPOアクリル酸抑制剤、例えば、PTZ又はHQでは観察されない。これは、4−HTが精製装置内での汚れを防ぐことだけでなく、該精製装置内において反応器の副生成物を生成物に転化させ、それによって収量を最大化させることを意味する。仕上カラムのリボイラー又は二量体クラッカーにおける典型的な4−HT濃度は、少なくとも500、好ましくは少なくとも1,000、より好ましくは少なくとも2,000ppmである。4−HTは非常に沸騰しやすいので、二量体クラッカーを備えることができる仕上塔のリボリラー内で濃縮しやすい。4−HTの存在下で二量体を分解させるための典型的な温度は、少なくとも150、好ましくは少なくとも170、より好ましくは少なくとも200℃である。
【0033】
次の例は、本発明をさらに例示するものである。特に示さない限り、全ての部及びパーセンテージは重量基準である。
【実施例】
【0034】
具体的な実施形態
実験手順
基準誘導時間の測定:
精製アクリル酸(既知量の抑制剤を含む)の10ミリリットル試料をDOT(米国運輸省)管中に置く。DOT管は、6インチの長さ、1/4インチの直径のガラス管ネック(これは1/4インチのSwagelok(商標)ナイロンキャップに装着される)を備える10mLガラス製アンプルである。これらのキャップは、これらの管を支持するために使用されるものであり、これらの管は、12個の3/8インチの孔を介して、約1インチの厚さがある6インチの直径のプラスチック製円形ブロックに延びる。このブロックは、オフセット中央支柱によって頭上撹拌器に装着されている。次いで、これらの管のバルブ部分を113℃で保持された一定温度のシリコーンオイル浴中に72時間にわたって沈めると同時に、約50rpmで回転させる(頭上撹拌器により)。この期間中、これらの管について、重合体形成のサイン(すなわち 曇り、固形物の存在又は粘度上昇)を視覚により監視する。最初の重合体形成サインまでの時間を誘導時間(又は開始時間)と定義する。それぞれの実験は、DOP管の6回の反復からなり、誘導時間は、これら6回の反復の平均である。
【0035】
フィッシャー&ポーター圧力管試験:
2個のガラス製フィッシャー&ポーター圧力管(80mL容量)に次の水溶液50mLを装入する:
(a)10%酢酸/5%アクリル酸/1000ppmのHQ/10ppmのMn(II)/残部の水
(b)10%酢酸/5%アクリル酸/500ppmの4−HT/10ppmのMn(II)/残部の水。
【0036】
これらの圧力管を圧力計を備える圧力ヘッドで密閉する。これらのヘッドを固定した後に、25psigの自己生成圧力で4時間にわたり149℃の一定温度の浴中に沈める(これらの管の液面のみをカバーする)。この期間中、これらの管について重合体の存在を視覚により監視する。
【0037】
溶融結晶化によるアクリル酸の精製:
3リットルのオールドリッチ社製氷アクリル酸(200ppmのMeHQ、すなわちヒドロキノンのモノメチルエーテルで抑制されている)をプラスチック製ビーカー内に置き、次いで6℃の冷底内で一晩冷凍する。翌日、冷凍されたアクリル酸を冷蔵庫から取り出し、該材料の体積の約4分の1を含有する中央部分を切り出し、そしてビーカーから取り出す。ビーカー内に残された内容物を20℃の水浴中で温めて冷凍材料を融解させる。これらの内容物を融解した後に、ぐるぐるとかき混ぜて残留する抑制剤を均一に混合させ、次いで第2の結晶化のために再度冷蔵庫内に置く。これを合計3回の結晶化のために繰り返したところ、約50ppmのMeHQ抑制剤を含有する約1Kgの精製アクリル酸を生じた。この材料は、誘導時間試験の部のためにも使用する。
【0038】
ロータリーエバポレーターによるアクリル酸の精製:
1リットルの丸底フラスコに約400mLのオールドリッチ社製氷アクリル酸(200ppmのMeHQで抑制)を装入する。このフラスコを50℃の水浴及び真空引き(約20mmHg絶対圧力)を備えたロータリーエバポレーターに取り付ける。約250mLの蒸留アクリル酸を氷冷容器に集める。これを溶解させ、次いで再度回転蒸発に付して、1ppm未満のMeHQを含有する材料を生じさせる。これを後の誘導時間試験のために使用する。
【0039】
使用した化学物質:
これらの例では、次の材料(全てオールドリッチ・ケミカル社製)を使用する。
アクリル酸(99%)
酢酸銅(II)(97%)
ヒドロキノン(HQ)(99%)
酢酸マンガン(II)(三水和物)
フェノチアジン(PTZ)(>98%)
4−ヒドロキシTEMPO(4−HT)(固形物)。
【0040】
結果及び検討
基準誘導時間試験の結果:
4−HTについて試験してアクリル酸用の重合抑制剤としての有効性を決定する。また、4−HTと他の抑制剤との不都合な抑制相互作用の可能性も評価する。標準的な実験室での誘導時間試験の結果を表1にまとめている。全ての試験を、溶媒除去塔において予想される最大のリボイラー壁部温度である113℃で行う。全ての試験を空気ヘッドスペース下で実施する。
【0041】
【表1】
a)格別な安定化。>90%のアクリル酸がマイケル付加を受けた。
b)全ての試料が30〜46時間(オーバーナイト)で重合した。
c)全ての試料が55〜70時間(オーバーナイト)で重合した。
d)溶液中のMn(II)イオン濃度(酢酸マンガンとして添加)。
e)溶液中のCu(II)イオン濃度(酢酸銅(II)として添加)。
【0042】
誘導時間は、抑制剤の有効性に直接関連する(すなわち、良好な抑制剤については、より長い誘導時間が観察される)。表1のデータは、1ポンドを基準にすると、HQよりも4−HTの方が相当に良好であることを明らかに示している。事実、これは、HQよりも少なくとも一桁大きい。また、4−HTは、PTZ(一般的に使用されているアクリル酸プロセス抑制剤)よりも良好であるように思われる。驚くべきことに、酸素の存在下での4−HTとMn(II)との相乗効果が実証されている。この効果は、公開された文献には報告されていない。酸素の存在下で50ppmの4−HT及び1ppmのMn(II)からなる抑制剤パッケージは、強力な安定化を与える。すなわち、アクリル酸は、アクリル酸のほとんどをビニル重合が生じる前に二量体化させるのを可能にするのに十分な抑制剤を含有する。換言すると、誘導時間は、アクリル酸の>90%がマイケル付加を受けるのにかかる時間を超える(これは、113℃で72時間後に、非常に僅かなアクリル酸が依然として存在することを意味する)。しかしながら、アクリル酸二量体は、時間を延長して加熱を続行すれば、重合して透明なガラス状の固形物となることができる。
【0043】
この4−HTとMn(II)との相乗効果は、HQ(又はMeHQ)とMn(II)とについて実証された相乗効果に類似する。以前の研究では、100ppmのHQ及び1ppmのMn(II)もアクリル酸に格別な安定化を与えることが示されている。しかしながら、本発明の抑制剤は、1ppmのMn(II)レベルで、HQの半分の量の4−HTで格別の安定化を達成した。これは、市販のHQ/Mnを、有効性を失うことなく50ppmの4−HT及び1ppmのMn(II)抑制剤パッケージで置き換えることができることを意味する。
【0044】
また、表1のデータは、4−HTと好ましいプロセス共抑制剤(PTZ)との間の負の相互作用、すなわち抑制剤機能の喪失が存在しないことも実証しているので、これらのものは所望ならば混合できる。これは、4−HTの水への溶解度(1部の水中に1部の4−HT )が溶解度の低いHQ(14部の水中に1部のHQ)と比較して高いために相変化(phasing)が生じる可能性のある塔の領域にとっての改善となり得る。
【0045】
フィッシャー&ポーター圧力管試験の結果:
フィッシャー&ポーター圧力管試験は、蒸気発生器において予想される条件のシミュレーションである。149℃で4時間後に、合成反応水(85%水/10%酢酸/5%アクリル酸)は、4−HT/Mn(II)又はHQ/Mn(II)抑制溶液についていかなるビニル重合のサインも示さない。これは、両方の抑制剤パッケージが商用の蒸気発生器の滞留時間よりも有意に長い時間にわたってビニル重合保護を与えることを意味する。両方の場合において、使用した抑制剤濃度(1000ppmのHQ/10ppmのMn
+2及び500ppmの4−HT/10ppmのMn
+2)は、100ppmのHQ/1ppmのMn(II)抑制剤パッケージを50ppmの4−HT/1ppmのMn(II)抑制剤パッケージと共に置いた場合に予想されるものである(単位物質収支に基づく)。この試験は、蒸気発生器の残留物をシミュレートし、かつ、抑制剤がこの流れにおいて濃縮されるであろうという事実を反映するものである。
【0046】
マレイン酸の脱カルボキシル化
4−HTがマレイン酸のアクリル酸への脱カルボキシル化を触媒することができることを実証するために、1%のマレイン酸をプロピオン酸に溶解してなる溶液を4時間にわたって135℃に加熱した。4−HTは、単独で又はMn(II)若しくはCu(II)と共に(試料1〜3)、4−HT(試料4)の非存在下でのマレイン酸と比較してマレイン酸量を減少させることに成功した。
【0047】
【表2】
【0048】
本発明をかなり詳しく説明してきたが、これは例示を目的とするものであり、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。上記の全ての米国特許及び公開された特許出願を引用によりここに含める。