特許第6064087号(P6064087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064087アニオン交換形電解質膜、それを備えた燃料電池用の膜−電極接合体及び燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064087
(24)【登録日】2016年12月22日
(45)【発行日】2017年1月18日
(54)【発明の名称】アニオン交換形電解質膜、それを備えた燃料電池用の膜−電極接合体及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20170106BHJP
   C08F 261/04 20060101ALI20170106BHJP
   C08F 291/00 20060101ALI20170106BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20170106BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20170106BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20170106BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20170106BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20170106BHJP
【FI】
   H01M8/02 P
   C08F261/04
   C08F291/00
   C08J5/22 104
   H01B1/06 A
   H01B1/12 Z
   H01B13/00 Z
   H01M8/10
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-527629(P2016-527629)
(86)(22)【出願日】2015年6月3日
(86)【国際出願番号】JP2015002820
(87)【国際公開番号】WO2015190075
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2016年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-122475(P2014-122475)
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝
(72)【発明者】
【氏名】山本 瑞木
(72)【発明者】
【氏名】西井 弘行
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/055889(WO,A1)
【文献】 特開2007−335119(JP,A)
【文献】 特開2008−204647(JP,A)
【文献】 特開2013−189595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C08F 261/04
C08F 291/00
C08J 5/22
H01B 1/06
H01B 1/12
H01B 13/00
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性基を含む高分子基体と、下記式(1)又は下記式(2)により示される構成単位を含むグラフト鎖とを有する、アニオン交換形電解質膜。
ここで、R1〜R6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、
窒素原子に結合して窒素原子とともに環構造を形成する構造A1は、炭素数3〜7の飽和炭素鎖又は前記飽和炭素鎖に含まれる炭素の一部がヘテロ原子で置換された構造であり、
1及びX2は、互いに独立して、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン又は有機酸若しくは無機酸のアニオンである。
【化1】
【化2】
【請求項2】
前記グラフト鎖は、下記式(3)〜下記式(7)のいずれか1つにより示されるモノマーに由来する構造をさらに有する、
請求項1に記載のアニオン交換形電解質膜。
ここで、R7〜R12、R15〜R21は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、
13及びR14は、互いに独立して、炭素数1〜3のアルキレン基を示し、
13の炭素数とR14の炭素数との合計値は、2〜6の範囲にあり、
3〜X6は、互いに独立して、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン又は有機酸若しくは無機酸のアニオンである。
ここで、Yは、下記式(8)により示されるいずれかの構造であり、
22及びR23は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【請求項3】
前記極性基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、アミド基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つである、
請求項1に記載のアニオン交換形電解質膜。
【請求項4】
前記高分子基体は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、親水化処理がなされたポリオレフィン樹脂及び親水化処理がなされたポリスチレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
請求項1に記載のアニオン交換形電解質膜。
【請求項5】
請求項1に記載のアニオン交換形電解質膜を備えたアニオン交換形燃料電池用の膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載のアニオン交換形燃料電池用の膜−電極接合体を備えたアニオン交換形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニオン交換形電解質膜、それを備えた燃料電池用の膜−電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、常温に近い温度領域で駆動できるという利点を有し、幅広い分野での使用が期待されている。中でもアニオン交換形燃料電池は、触媒として必ずしも白金を用いる必要がないため低コスト化が可能であり、さらに液体燃料を使用できるために小型化が可能である。アニオン交換形燃料電池は、アノードとカソードとの間に隔膜を有し、隔膜としてはアニオン交換形電解質膜が用いられる。アニオン交換形電解質膜としては、グラフト鎖を有する電解質膜が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、アニオン交換形燃料電池の燃料として、水素よりも取り扱いが容易でシステムの小型化を可能とするアルコール、ヒドラジン水和物等の液体燃料が検討されている。特に、液体燃料として、反応性が高く発電原理上二酸化炭素が生じないヒドラジン水和物の研究が進められている。このような液体燃料を用いたアニオン交換形燃料電池においては、イオン伝導種が水酸化物イオンであるため、電解質膜はアルカリ性雰囲気下で使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−516853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、アニオン交換形電解質膜には、アニオン交換基として4級アンモニウム基が備えられる。4級アンモニウム基は、反応性等の観点から、ハロゲノメチルフェニル基とトリアルキルアミンとの反応により形成されることが多い。この場合、4級アンモニウム基はベンジルトリアルキルアンモニウム構造を有する。しかし、ベンジルトリアルキルアンモニウム構造は、アルカリ性雰囲気下では水酸化物イオン(OH-)による求核置換反応等の反応によって、分解することがある。
【0006】
従って、本発明では、アルカリ性雰囲気下において4級アンモニウム基の分解が生じにくい、耐アルカリ性の向上したアニオン交換形電解質膜を提供することを目的とする。本発明の別の目的は、このような電解質膜の特性を活かしたアニオン交換形燃料電池用の膜−電極接合体(MEA)を提供することにある。本発明のさらに別の目的は、このようなMEAの特性を活かしたアニオン交換形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、4級アンモニウム基の構造を有し、耐アルカリ性の向上したアニオン交換形電解質膜について検討した。本発明者等は、鋭意検討の結果、以下のアニオン交換形電解質膜により本発明の目的を達成できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
極性基を含む高分子基体と、下記式(1)又は下記式(2)により示される構成単位を含むグラフト鎖とを有する、アニオン交換形電解質膜、を提供する。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
ここで、R1〜R6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、
窒素原子に結合して窒素原子とともに環構造を形成する構造A1は、炭素数3〜7の飽和炭素鎖又は前記飽和炭素鎖に含まれる炭素の一部がヘテロ原子で置換された構造であり、
1及びX2は、互いに独立して、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン又は有機酸若しくは無機酸のアニオンである。
【0012】
別の側面において、本発明は、
本発明のアニオン交換形電解質膜を備えたアニオン交換形燃料電池用のMEA、を提供する。
【0013】
さらに別の側面において、本発明は、
本発明のアニオン交換形燃料電池用のMEAを備えたアニオン交換形燃料電池、を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐アルカリ性の良好なアニオン交換形電解質膜を得ることができる。このアニオン交換形電解質膜の優れた特性を活かしたMEAを得ることができる。さらに、このMEAの優れた特性を活かしたアニオン交換形燃料電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のMEAの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の燃料電池の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0017】
以下において、式(9)又は式(10)により示される重合性モノマーを、「グラフトモノマー(M)」と称することがある。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
ここで、R1〜R6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基である。R1、R2、R5及びR6は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。R3及びR4は、互いに独立して、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0021】
窒素原子に結合して窒素原子とともに環構造を形成する構造A1は、炭素数3〜7の飽和炭素鎖又は飽和炭素鎖に含まれる炭素の一部がヘテロ原子で置換された構造である。構造A1は、炭素数3〜5の飽和炭素鎖又は飽和炭素鎖に含まれる炭素の一部がヘテロ原子で置換された構造であることが好ましい。ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子を挙げることができる。
【0022】
対アニオンは、イオン交換して使用されるのが一般的である。従って、X7及びX8は、イオン交換が困難でない限り特に限定されず、公知の対アニオンを用いることができる。例えば、X7及びX8は、互いに独立して、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン又は有機酸若しくは無機酸のアニオンである。対アニオンは水酸化物イオンの状態で使用されるため、X7及びX8は水酸化物イオンであることが好ましい。アニオン交換基の保存安定性の観点からは、X7及びX8は、ハロゲン化物イオン、有機酸又は無機酸のアニオンであることが好ましい。ハロゲン化物イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを挙げることができる。良好なイオン交換性の観点から、ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン又は臭化物イオンが好ましい。有機酸のアニオンとしては、ビストリフルオロメタンスルホンイミドアニオン、チオシアン酸アニオン、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸アニオンが好ましい。無機酸のアニオンとしては、炭酸イオン、炭酸水素イオン、テトラフルオロホウ酸アニオン又はヘキサフルオロリン酸アニオンが好ましい。
【0023】
(アニオン交換形電解質膜)
一般的に、燃料電池等に使用される電解質膜には、基材としてポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素系の基材又はポリエチレン等のポリオレフィン系の基材が用いられることが多い。
【0024】
これらの基材にグラフトモノマー(M)を有する重合性モノマーを導入する方法として、例えば、ポリオレフィン系樹脂等の微多孔高分子基材の細孔に重合性モノマーから形成された電解質ポリマーを充填する方法(細孔フィリング重合法)がある。この方法では、基材に対する浸透性と親水性とを有する有機溶媒が、重合性モノマーの導入剤として用いられる。しかし、この方法を用いて得られた電解質膜では、電解質ポリマーは基材の細孔に充填されているだけであり、基材とは結合していない。従って、長期間の運転中に細孔から電解質ポリマーが溶出する可能性がある。
【0025】
これに対して、高分子基材の表面にグラフトモノマー(M)が重合してなるグラフト鎖を導入することが可能であれば、高分子基材とグラフト鎖との解離が生じにくいアニオン交換形電解質膜が得られる。本発明者等は、後述するように、高分子基材として超高分子量ポリエチレン膜を用い、グラフトモノマー(M)の導入を試みた。しかし、グラフト鎖は形成できなかった。
【0026】
本発明者等がさらに検討を重ねたところ、極性基を含む高分子基材を用いることによって、高分子基材にグラフトモノマー(M)が重合してなるグラフト鎖を導入することが可能となり、高分子基体とグラフト鎖とを有するアニオン交換形電解質膜が得られることが見出された。
【0027】
本実施形態において、アニオン交換形電解質膜に含まれる高分子基体は、極性基を含む。高分子基体の有する極性基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、アミド基及びアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基であることが好ましく、耐アルカリ性が良好であり着色しにくい点からヒドロキシル基であることがより好ましい。これらの極性基は、極性基の導入処理を行い、高分子基体に導入されたものでもよい。
【0028】
極性基の導入には、コロナ処理、プラズマ処理、UV処理等の一般的に用いられる手法を用いてもよい。極性基の導入方法として、電子線等の放射線の照射によって形成されたラジカルとの反応によって、極性基又は極性基を有するポリマーを導入する方法を用いてもよい。
【0029】
高分子基体に含まれる樹脂としては、水に不溶かつアルカリ性雰囲気下で安定な樹脂であれば、発明の効果を阻害しない範囲内で公知の樹脂を用いることができる。高分子基体に含まれる樹脂として、例えば、ポリカーボネート樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;セロハン等のセルロース系樹脂;ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;(メタ)アクリル樹脂;ユリア樹脂;フェノール樹脂;メラミン樹脂;エポキシ樹脂;アセタール樹脂(ポリアセタール);ポリ酢酸ビニル樹脂;ポリビニルアルコール樹脂;エチレン−ビニルアルコール共重合体;親水化処理がなされたポリオレフィン樹脂、親水化処理がなされたポリスチレン樹脂が挙げられる。親水化処理がなされたポリオレフィン樹脂、親水化処理がなされたポリスチレン樹脂は、親水化処理によって極性基の導入されたポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂であってよく、極性基は、例えば、ヒドロキシル基である。高分子基体に含まれる樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体、親水化処理がなされたポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
高分子基体に含まれる樹脂は、アニオン交換形電解質膜の膨潤を抑制する観点から、架橋されていてもよい。架橋方法は、グラフト鎖の導入を阻害せず、高分子基体の膨潤を抑制できる限りにおいて、特に限定されず公知の方法を用いることができる。架橋方法としては、例えば、架橋剤を用いた化学架橋、放射線の照射によって形成されるラジカルを利用した放射線架橋が挙げられ、いずれの方法を用いてもよいし複数の方法を併用してもよい。
【0031】
本実施形態において、適切な親水性を有する高分子基材を用いることが好ましい。高分子基材は、0.1%を超える含水率を有することが好ましい。高分子基材の含水率は、0.1%を超え100%以下の範囲にあることがより好ましく、1%以上80%以下の範囲にあることがさらに好ましく、2%以上60%以下の範囲にあることがさらに好ましく、4%以上40%以下の範囲にあることが特に好ましく、5%以上20%以下の範囲にあることが極めて好ましい。上記のように、特定の含水率を有する高分子基材を用いることによって、グラフトモノマー(M)の導入が容易になり、グラフト鎖の導入が容易になる。高分子基材の含水率が低すぎる場合、グラフト鎖の導入が困難なことがある。高分子基材の含水率が高くなりすぎると、得られるアニオン交換形電解質膜の機械的物性が低下することがある。
【0032】
ここで、含水率は、乾燥時の高分子基材の重量に対する、含水時の高分子基材の重量と乾燥時の高分子基材の重量との重量差の比率である。乾燥時の高分子基材の重量は、高分子基材を60℃の雰囲気下に2時間以上静置して乾燥させた時点の高分子基材の重量を秤量した値であり、含水時の高分子基材の重量は、上記の乾燥時の高分子基材を30℃に保温した水中に浸漬させた状態を2時間以上維持した後、この高分子基材を秤量した値である。高分子基材を60℃の雰囲気下に2時間以上静置して乾燥させるとは、高分子基材の重量変化が生じない状態となることを意味する。静置する時間は2時間以上であればよく、例えば2時間であってよく、3時間であってもよい。高分子基材の重量変化が生じない状態とは、例えば、高分子基材を60℃の雰囲気下に2時間以上の所定の時間(t時間)静置して乾燥させた重量Wtと、さらに30分間(t+0.5時間)静置して乾燥させた重量Wt+0.5との重量差がWtの±0.5%の範囲内にあることをいう。高分子基材を30℃に保温した水中に浸漬させた状態を2時間以上維持するとは、上記と同様の判断基準で高分子基材の重量変化が生じない状態となることを意味する。
【0033】
高分子基材としては、高分子基体に含まれる樹脂として上述した樹脂を含むものを用いることができる。
【0034】
高分子基材に含まれる樹脂がエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む場合、共重合体中のエチレン含量は1〜99mol%であることが好ましく、20〜50mol%であることがより好ましい。エチレン含量が少なすぎると、得られるアニオン交換形電解質膜が水に溶解しやすい場合があり、多くなりすぎるとグラフトモノマー(M)の導入が困難になる場合がある。
【0035】
高分子基材に含まれる樹脂がポリビニルアルコール樹脂を含む場合、そのケン化度は70mol%以上であることが好ましく、98mol%以上であることがより好ましい。ケン化度が小さすぎると、得られるアニオン交換形電解質膜が水に溶解しやすい場合がある。
【0036】
高分子基材の厚みは、特に限定されないが、例えば5〜250μmの範囲にある。膜強度の観点から、高分子基材の厚みは15〜150μmの範囲にあることが好ましい。このような高分子基材を用いることによって、良好な膜抵抗を有しつつ、膜の破損が生じにくく、強度が良好であり、ピンホール等の膜の欠陥が発生しにくいアニオン交換形電解質膜を得ることができる。また、このような高分子基材を用いることによって、燃料及び燃料に添加されている無機塩基(例えば水酸化カリウム)の透過を抑制することができる。
【0037】
本実施形態のアニオン交換形電解質膜は、式(1)又は式(2)により示される構成単位を含むグラフト鎖を有する。式(1)により示される構造は、式(9)により示されるモノマーに由来する構造であり、式(2)により示される構造は、式(10)により示されるモノマーに由来する構造である。
【0038】
【化5】
【0039】
【化6】
【0040】
1〜R6、A1については、上述したため、重複する記載は省略する。
【0041】
対アニオンは、必要に応じてイオン交換して使用されるのが一般的である。従って、X1及びX2は、イオン交換が困難でない限り特に限定されず、公知の対アニオンを用いることができる。例えば、X1及びX2は、互いに独立して、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン又は有機酸若しくは無機酸のアニオンである。対アニオンは水酸化物イオンの状態で使用されるため、X1及びX2は、水酸化物イオンであることが好ましい。アニオン交換基の保存安定性の観点からは、X1及びX2は、ハロゲン化物イオン又は有機酸のアニオンであることが好ましい。ハロゲン化物イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンを挙げることができる。良好なイオン交換性の観点から、ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン、塩化物イオン又は臭化物イオンが好ましい。有機酸のアニオンとしては、ビストリフルオロメタンスルホンイミドアニオン、チオシアン酸アニオン、テトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸アニオンが好ましい。無機酸のアニオンとしては、炭酸イオン、炭酸水素イオン、テトラフルオロホウ酸アニオン又はヘキサフルオロリン酸アニオンが好ましい。
【0042】
式(1)又は式(2)により示される構造は、ベンジルトリアルキルアンモニウムとは異なり、ベンジル位を有しておらず、アルカリ性雰囲気下でOH-による求核置換反応が生じにくい。さらに、式(1)又は式(2)により示される構造は、窒素原子が環構造に含まれているため、窒素原子から見てβ位に存在する水素原子を起点とした脱離反応(E2型反応)が起こりにくい。従って、式(1)又は式(2)により示される構造を有するアニオン交換基の耐アルカリ性は良好であり、ベンジルトリアルキルアンモニウム構造と比較して高温雰囲気下でも4級アンモニウム基の劣化が生じにくい。
【0043】
グラフト鎖は、下記式(3)〜下記式(7)に示されるモノマー(グラフトコモノマー)に由来する構造をさらに有していてもよい。
【0044】
【化7】
【0045】
【化8】
【0046】
【化9】
【0047】
【化10】
【0048】
【化11】
【0049】
Yは、下記式(8)により示されるいずれかの構造である。
【0050】
【化12】
【0051】
ここで、R7〜R12、R15〜R23は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。R7〜R12、R15及びR16は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。R13及びR14は、互いに独立して、炭素数1〜3のアルキレン基を示し、R13の炭素数とR14の炭素数との合計値は、2〜6の範囲にある。R17〜R23は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
3〜X6は、互いに独立して、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン又は有機酸若しくは無機酸のアニオンである。
【0052】
グラフト鎖が式(3)又は式(4)により示されるグラフトコモノマーに由来する構造をさらに含むことによって、グラフト鎖に架橋構造を導入することが容易になる。その結果、得られるアニオン交換形電解質膜の耐アルカリ性及び耐熱性の向上に寄与し得る。
【0053】
グラフト鎖が式(5)〜式(7)のいずれか1つにより示されるグラフトコモノマーに由来する構造をさらに含むことによって、グラフト鎖及びアニオン交換形電解質膜の親水性又は疎水性を制御することが容易となる。また、グラフト鎖がこれらのグラフトコモノマーに由来する構造を含むことによって、形成されるアニオン交換形電解質膜の有する透過性を制御できることがある。
【0054】
アニオン交換形電解質膜のグラフト率は、例えば5〜200%の範囲とするとよい。グラフト率を向上させることによって、得られるアニオン交換形電解質膜のイオン伝導率が向上しえる。
【0055】
本実施形態のアニオン交換形電解質膜の製造に適した製造方法について説明する。
【0056】
この製造方法は、重合性モノマーが重合してなるグラフト鎖を高分子基材に導入する工程、を備えることが好ましい。グラフト鎖は、高分子基材に重合性モノマーをグラフト重合することによって形成されることが好ましい。グラフト重合は、例えば、高分子基材と重合性モノマーと接触させることによって行うことができる。
【0057】
高分子基材、高分子基体については、上述したため、重複する記載は省略する。
【0058】
重合性モノマーは、式(9)又は式(10)により示されるモノマー(グラフトモノマー(M))を含む。グラフトモノマー(M)については、上述したため、重複する記載は省略する。R1〜R6の炭素数が増加すると、グラフトモノマー(M)の極性が低下する。その結果、高分子基材とグラフトモノマー(M)との親和性が増加し、グラフト鎖の形成が容易になりやすい。一方で、グラフトモノマー(M)の重合性の観点、及び単位重量当たりのアニオン交換形電解質膜に含まれるアニオン交換基の数の観点からは、R1〜R6の炭素数が少ないことが好ましい。
【0059】
グラフトモノマー(M)の具体例としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド(DADMAC)、ジアリルジメチルアンモニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(DADMA−TFSI)、テトラアリルアンモニウムクロリド(TAAC)が挙げられる。
【0060】
グラフトモノマー(M)は、その分子構造中にアニオン交換基を含んでいるため、本実施形態ではアニオン交換基を付加する工程を省略できる。
【0061】
重合性モノマーは、グラフトモノマー(M)と共に、式(3)〜式(7)からなる群より選ばれる少なくとも1つのモノマー(グラフトコモノマー)を含んでいてもよい。式(3)〜式(7)については、上述したため、重複する記載は省略する。
【0062】
式(3)又は式(4)により示されるグラフトコモノマーの好ましい含有量は、グラフトコモノマーの構造、グラフト重合溶液の組成、グラフト重合を実施する反応温度、アニオン交換形電解質膜の使用環境により異なるため一概に言えないが、例示するとすればグラフトモノマー(M)100質量部に対し、0.1〜1000質量部であり、特に0.5〜800質量部である。
【0063】
式(5)〜式(7)により示されるグラフトコモノマーの含有量は、グラフトモノマー又はグラフトコモノマーの構造、グラフト重合溶液の組成、グラフト重合を実施する反応温度、アニオン交換形電解質膜の使用環境によって異なるため一概には言えないが、例示するとすればグラフトモノマー(M)100質量部に対し、1〜5000質量部であり、特に50〜2000質量部である。
【0064】
重合性モノマーは、重合性モノマー単独で重合に供してもよく、重合性モノマーを溶媒に溶解させた溶液(重合性モノマー溶液)として準備してもよい。
【0065】
重合性モノマーを溶解させる溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール又はイソプロパノール等のアルコール類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができる。溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
重合性モノマー溶液に含まれる重合性モノマーの濃度は、重合性モノマーの重合性や目標とするグラフト率に応じて定めればよいが、例えば20重量%以上である。重合性モノマーの濃度が低くなりすぎると、グラフト重合反応が十分に進行しないことがある。
【0067】
酸素の存在によってグラフト重合反応が阻害されることを防ぐため、重合性モノマー又は重合性モノマー溶液中の酸素は、凍結脱気や窒素ガス等を用いたバブリング等の公知の方法を用いて除去することが好ましい。
【0068】
グラフト重合を実施する反応時間は、例えば10分〜12時間である。グラフト重合を実施する反応温度は、例えば0〜90℃であり、特に40〜80℃である。グラフト率は、これらの反応温度、反応時間によって制御することが可能である。
【0069】
本実施形態のアニオン交換形電解質膜の製造に適した製造方法は、高分子基材に放射線を照射する工程をさらに含むことが好ましい。すなわち、高分子基材に放射線を照射する工程と、放射線照射後の高分子基材に重合性モノマーが重合してなるグラフト鎖を導入する工程と、を備えることが好ましい。
【0070】
高分子基材に照射する放射線としては、例えばα線、β線、γ線、電子線、紫外線等の電離放射線を用いてもよく、特にγ線又は電子線を用いることが好ましい。照射線量は、好ましくは1〜300kGyの範囲にあり、より好ましくは10〜100kGyの範囲にある。照射線量が少なすぎると、放射線の照射により高分子基材に生じるラジカルの生成量が少なくなることがあり、グラフト重合が困難になることがある。照射線量が多くなりすぎると、放射線の照射により高分子基材の分解が生じることがあり、放射線の照射により多くのラジカルが生じ過剰な重合反応が生じることがある。
【0071】
放射線を照射する工程を有するグラフト重合反応の一例として、固液二相系における反応例を述べる。重合性モノマー溶液を、ガラス製又はステンレス製の容器に入れる。グラフト反応を阻害する酸素を除去するために、重合性モノマー溶液の減圧脱気及び窒素等の不活性ガスを用いたバブリングを実施する。次に、予め放射線を照射した高分子基材を重合性モノマー溶液に投入してグラフト重合を行う。次に、溶液から重合性モノマーが重合してグラフト鎖が導入された高分子基材(グラフト重合体)を取り出す。溶媒、未反応の重合性モノマー、及び重合性モノマーの重合体を除去するために、得られたグラフト重合体を溶剤で2〜6回洗浄した後、乾燥させる。洗浄に用いる溶剤としては、重合性モノマー及び重合性モノマーの重合体が容易に溶解し、高分子基材及びグラフト重合体が溶解しない溶剤を用いればよい。例えば、アセトン、メタノール、エタノール、水等を用いることが可能である。
【0072】
(アニオン交換形燃料電池用MEA)
本実施形態のMEAは、本発明のアニオン交換形電解質膜と、アニオン交換形電解質膜の表面に配置された触媒層とを備えている。
【0073】
本発明のアニオン交換形電解質膜を用いたMEAでは、アニオン交換形電解質膜の表面に触媒層が配置されている。典型的には熱プレスなどの手法により、アニオン交換形電解質膜と触媒層とが一体化されている。通常、アノード触媒層及びカソード触媒層の一対の触媒層が、アニオン交換形電解質膜を挟持するように、アニオン交換形電解質膜の主面に配置されている。図1に、本発明のアニオン交換形電解質膜を用いたMEAの一例を示す。図1に示すMEA1は、アニオン交換形電解質膜2とアノード電極3とカソード電極4とを備え、アノード電極3がアニオン交換形電解質膜2の一方の主面に、カソード電極4がアニオン交換形電解質膜2の他方の主面に、それぞれ配置されている。
【0074】
触媒層としては、アニオン交換形燃料電池に使用する公知のMEAが備える触媒層を用いることができる。触媒は、カチオン交換形燃料電池とは異なり、必ずしも白金のような貴金属である必要はなく、例えば、ニッケル、コバルト、鉄、銀等の卑金属を使用可能である。含まれる具体的な触媒等、触媒層の構成は、MEAのアノード側(アノード触媒層)とカソード側(カソード触媒層)とで異なっていても同一であってもよい。
【0075】
(アニオン交換形燃料電池)
本実施形態のアニオン交換形燃料電池は、本発明のアニオン交換形電解質膜を有するMEAを備える。図2に、本実施形態のアニオン交換形燃料電池の要部の一例を示す。図2に示すアニオン交換形燃料電池11は、アニオン交換形電解質膜を挟持するように配置された一対の電極(アノード電極3及びカソード電極4)と、上記一対の電極を挟持するように配置された一対のセパレータ(アノードセパレータ5及びカソードセパレータ6)とを備え、各部材は、当該部材の主面に垂直な方向に圧力が印加された状態で接合されている。アニオン交換形電解質膜2と電極3、4は、MEAを構成している。
【0076】
本実施形態のアニオン交換形燃料電池では、アノード側に燃料が、カソード側に酸化剤が供給される。燃料は、例えば、アルコール類、ヒドラジン(水和物)等を含むアルカリ燃料であり、反応性が高く、発電原理上二酸化炭素を発生しないことから、ヒドラジン(水和物)を含む燃料が好ましい。酸化剤は、例えば空気中の酸素である。
【0077】
本実施形態のアニオン交換形燃料電池において、電池反応の活性を向上するため、又は二酸化炭素等による被毒を抑制するために、水酸化カリウム等の無機塩基を燃料に添加してもよい。
【0078】
本実施形態のアニオン交換形燃料電池は、耐アルカリ性が良好であり、燃料電池が高温で運転された場合であっても、アニオン交換形電解質膜の劣化に起因する燃料電池の性能の低下が発生しにくい。
【0079】
本実施形態のアニオン交換形燃料電池は、本発明のMEA以外にも、アニオン交換形燃料電池を構成する部材として公知の部材を備えることができる。当該部材は、例えば、燃料電池をセル単体としてみるとガス拡散層、セパレーター等、燃料電池をシステムとしてみると燃料供給装置、酸化剤供給装置、加湿装置、集電板、発電状況を検知する温度センサー、酸素センサー、フローメーター、湿度センサー等である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。以下において、室温とは23℃である。
【0081】
実施例及び比較例で用いる略号を以下に記す。
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロリド
CMS:4−クロロメチルスチレン
EVOH:エチレン−ビニルアルコール共重合体
EVOH(44):エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレンユニット44mol%含有)
EVOH(32):エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレンユニット32mol%含有)
PVA:ポリビニルアルコール(ケン化度98mol%)
UHMWPE:超高分子量ポリエチレン
【0082】
実施例及び比較例における物性は、以下の方法を用いて測定した。
【0083】
(高分子基材の含水率)
高分子基材を、60℃の乾燥機中にて2時間以上静置し、重量変化が生じなくなるまで乾燥させた後、デシケーター内で冷却した。冷却後の高分子基材をデシケーターから出してすぐに秤量した値を、乾燥時の高分子基材の重量とした。乾燥時の重量を秤量した上記の高分子基材を、30℃に保温した水中に浸漬させた状態を、高分子基材の重量変化が生じなくなるまで2時間以上維持した後、水中から取り出した。水中から取り出した高分子基材の表面に付着した余剰な水を濾紙等で拭き取ってから、高分子基材の重量を秤量した(含水時の高分子基材の重量)。含水率は、乾燥時の高分子基材の重量に対する、含水時の高分子基材の重量と乾燥時の高分子基材の重量との重量差の比率である。
【0084】
(イオン交換容量)
アニオン交換形電解質膜を、3mol/L(23℃)の食塩水に10時間以上浸漬し、アニオン交換形電解質膜の対アニオンを塩化物イオンへ変換した。その後、このアニオン交換形電解質膜を、1mol/Lの硝酸ナトリウム(NaNO3)水溶液に12時間以上浸漬した。遊離してきた塩化物イオンを、0.05mol/Lの硝酸銀(AgNO3)水溶液を用いて滴定し、イオン交換容量を測定した。
【0085】
(耐久性試験)
予め用意した一辺の長さ5cmの正方形状のアニオン交換形電解質膜を、ポリテトラフルオロエチレン製容器に入れた1mol/Lの水酸化カリウム水溶液100mLに浸漬させ、80℃雰囲気下に静置した。所定の時間の経過後、膜を取り出し、純水を用いて複数回洗浄した後、イオン交換容量を測定した。このイオン交換容量を耐久性試験後のイオン交換容量とした。耐久性試験前のアニオン交換形電解質膜のイオン交換容量(イオン交換容量の初期値)に対する、耐久性試験後のイオン交換容量の比率を、耐久性試験の指標として用いた。
【0086】
(グラフト率)
グラフト率は下式を用いて算出した。
グラフト率(%)=100×(W1−W0)/W0
ここで、W0は、乾燥状態におけるグラフト重合前の高分子基材の重量(g)、W1は、乾燥状態におけるグラフト重合後のグラフト重合体の重量(g)である。「乾燥状態における重量」とは、60℃雰囲気下2時間以上静置し、重量変化がなくなった状態の値を示す。
【0087】
(実施例1)
高分子基材としてEVOH(44)を用い、高分子基材に、室温、真空下で90kGyの電子線を照射した。この高分子基材を−60℃雰囲気下で保管し、グラフト重合の実施前に一辺の長さが5cmの正方形状に裁断した。
グラフトモノマー(M)であるDADMACを60重量%含む水溶液を用意した。この水溶液中の酸素を、窒素ガスを用いて除去した。この水溶液に、電子線を照射したEVOH(44)を浸漬させ、水溶液の温度(グラフト重合温度)を70℃に5時間維持し、グラフト重合を行った。その後グラフト重合後の膜を取り出した。水に1時間以上含浸させて洗浄する工程を数回繰り返した。洗浄後の膜を乾燥オーブンに入れて60℃雰囲気下で2時間以上乾燥させ、DADMACがグラフト重合されたEVOH(44)のグラフト膜を得た。得られたグラフト膜のグラフト率は20%であった。
【0088】
(実施例2)
高分子基材としてEVOH(32)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(EVOH(32)−g−DADMAC)のグラフト率は36%であった。
【0089】
(実施例3)
グラフト重合の重合時間を6時間とした以外は、実施例2と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(EVOH(32)−g−DADMAC)のグラフト率は43%であった。
【0090】
(実施例4)
90kGyの電子線を照射した高分子基材EVOH(44)を、短辺9.5cm長辺20cmの矩形に裁断した。この高分子基材を用い、重合温度を60℃とした以外は、実施例1と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(EVOH(44)−g−DADMAC)のグラフト率は21%であった。
【0091】
(実施例5)
高分子基材としてEVOH(32)を用いた以外は、実施例4と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(EVOH(32)−g−DADMAC)のグラフト率は34%であった。
【0092】
(実施例6)
90kGyの電子線を照射した高分子基材EVOH(44)を、短辺8cm長辺10cmの矩形に裁断した。この高分子基材を用い、重合温度を50℃とした以外は、実施例1と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(EVOH(44)−g−DADMAC)のグラフト率は18%であった。
【0093】
(実施例7)
高分子基材としてEVOH(32)を用いた以外は、実施例6と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(EVOH(32)−g−DADMAC)のグラフト率は28%であった。
【0094】
(実施例8)
高分子基材としてPVAを用い、重合時間を3時間とした以外は、実施例1と同様に行い、グラフト膜を得た。得られたグラフト膜(PVA−g−DADMAC)のグラフト率は25%であった。
【0095】
(比較例1)
基材としてUHMWPEを用い、室温、真空下で90kGyの電子線を照射した。電子線照射後のUHMWPEを−60℃雰囲気下で保管し、グラフト重合の実施前に一辺の長さが5cmの正方形状に裁断した。
【0096】
DADMAC(モノマー)を60重量%含む水溶液を用意し、この水溶液中の酸素を、窒素ガスを用いて除去した。この水溶液に、電子線を照射したUHMWPEを浸漬させ、水溶液の温度(グラフト重合温度)を70℃に5時間維持し、グラフト重合を行った。その後グラフト重合後の膜を取り出した。水に1時間以上含浸させて洗浄する工程を数回繰り返した。洗浄後の膜を、乾燥オーブンに入れて60℃雰囲気下で2時間以上乾燥させた。得られた膜のグラフト率は0%であった。
【0097】
(比較例2)
モノマーとしてCMS(純度100%)を用い、重合時間を0.5時間とした以外は、比較例1と同様に行った。得られたグラフト膜のグラフト率は96%であった。
【0098】
グラフト重合の条件及びグラフト率を表1に、得られた電解質膜の耐久性試験の結果を表2に、まとめて示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
比較例1では、基材の含水率が低いため、親水性の高いモノマーであるDADMACは基材に十分に含浸できず、グラフト重合が進行しなかったと考えられる。
図1
図2