特許第6064110号(P6064110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064110冬虫夏草のリボソームRNA遺伝子塩基配列および冬虫夏草の種を分類する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064110
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年2月15日
(54)【発明の名称】冬虫夏草のリボソームRNA遺伝子塩基配列および冬虫夏草の種を分類する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20170206BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20170206BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   C12N15/00 AZNA
【請求項の数】6
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2001-4805(P2001-4805)
(22)【出願日】2001年1月12日
(65)【公開番号】特開2002-204696(P2002-204696A)
(43)【公開日】2002年7月23日
【審査請求日】2008年1月10日
【審判番号】不服2011-14488(P2011-14488/J1)
【審判請求日】2011年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】597087804
【氏名又は名称】大蔵製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597056659
【氏名又は名称】金城 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100167852
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 康史
(72)【発明者】
【氏名】金城 典子
【合議体】
【審判長】 鈴木 恵理子
【審判官】 植原 克典
【審判官】 高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】 日本菌学会第44回大会講演要旨集(2000)p.40,212
【文献】 Junwu Xitong(2000)Vol.19,No.4,p.492−497
【文献】 特別研究報告集,通商産業省工業技術院,2001年1月10日,p.374−375
【文献】 Genbank アクセッション番号 AJ301993
【文献】 Genbank アクセッション番号 AF160229
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-90
C12Q1/68
WPI
JSTPLUS
JMEDPLUS
JST7580
MEDLINE
CA
BIOSIS
GENBANK
EMBL
DDBJ
GENESEQ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冬虫夏草の分類において、冬虫夏草のリボソームRNAのITS領域を、配列表のIDNO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31のいずれかに記載の塩基配列と比較し、その異同により分類することを特徴とする、冬虫夏草の分類方法。
【請求項2】
上記分類方法において、上記比較が、上記領域の塩基配列を決定し、その相同性の割合を測定して比較するものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記比較における塩基配列の決定において、配列表のID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31で示される塩基配列または配列表のID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31で示される塩基配列の相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを、塩基配列決定のプライマーとして用いることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記塩基配列の決定におけるプライマーが、配列表のIDNO:2の塩基番号57から193及び351から538、IDNO:5の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:8の塩基番号57から216及び374から550、NO:11の塩基番号57から216及び374から550、NO:14の塩基番号57から216及び374から550、IDNO:17の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:20の塩基番号57から216及び374から550、IDNO:23の塩基番号57から216及び375から538、ID NO:26の塩基番号57から207及び372から531、IDNO:29の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:31の塩基番号57から216及び372から549で示される塩基配列またはその相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
上記分類方法における上記比較が、配列表のID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31で示される塩基配列または配列表のID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31で示される塩基配列の相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる、DNA増幅の過程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記DNA増幅のプライマーが、配列表のID NO:2の塩基番号57から193及び351から538、ID NO:5の塩基番号57から217及び374から550、IDNO:8の塩基番号57から216及び374から550、NO:11の塩基番号57から216及び374から550、NO:14の塩基番号57から216及び374から550、IDNO:17の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:20の塩基番号57から216及び374から550、IDNO:23の塩基番号57から216及び375から538、ID NO:26の塩基番号57から207及び372から531、IDNO:29の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:31の塩基番号57から216及び372から549で示される塩基配列またはその相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冬虫夏草のリボソームRNA遺伝子塩基配列とそれを利用した分類方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冬虫夏草は子嚢菌(バッカクキン科)の一種で、漢方薬として珍重されている。冬虫夏草とは昆虫やクモに寄生し、子実体を形成する菌類の総称であり、一般に「広義には昆虫類・蜘蛛類に寄生してその体上に著しい子実体を形成するノムシタケ属(Cordyceps)やHirsutella属などの菌類をいうが、狭義には中国においてヤガ科の幼虫に生じるCordyceps sinensisを虫体とともに採って乾燥した生薬を指す」(生物学辞典、岩波書店)とされている。
【0003】
冬虫夏草の薬効については近年学術的論文でも多く報告がなされており、気管支の拡張作用や鎮静作用(Furuya et al, 1983, Phytochem. 22: 2509-2512、生本ら、1991、薬学雑誌 111: 504-509)、代謝機能や免疫機能の制御・亢進、血圧低下作用、細胞増殖への関与等、様々な効果が確認されている(Chiou WF. et al. Life Sci. 2000, 66(14): 1369-1376、 Zhu JS et al. J Altern Complement Med. 1998 Winter; 4(4): 429-457)。
【0004】
上記のように、自然界において昆虫や蜘蛛類に寄生し子実体を形成する菌には、Cordyceps属だけではなく、Hirsutella属やIsaria属等もあり、これらのどの種類が漢方薬としての冬虫夏草に含められるかの判断は、ほとんど経験によるものである。また、冬虫夏草とされたものについてのさらに詳細な分類は、主に宿主と産地に基づいて行われてきた。
【0005】
例えば、Cordyceps crassisporaは冬虫夏草として薬効が認められているが、1990年代に入るまで、分類学においてCordyceps sinensisに含まれ、漢方薬の分野でも冬虫夏草を区別する最も慣用的な方法である、産地による判別によって「雲南省の冬虫夏草」として区別されていたにすぎない。Cordyceps crassisporaがC.sinensisと同一であるとされていた理由は、どちらもコウモリガの幼虫に寄生することと、肉眼的な形態が酷似していることである。しかしながらCordyceps crassisporaは、冬虫夏草として最も一般的なCordyceps sinensisとは明らかに異なる薬効があることが示されている(Kinjoら、Asian International Mycological Congress、1996)。
【0006】
さらに、冬虫夏草として最も一般に用いられているC.sinensisについても、地域によっていくつかに分類され、それぞれ効能の種類や程度の違いが認められている。しかしそれらを明確に分類する方法はなく、購買者にとって、薬効の種類や強度の違いの種類分けが非常に曖昧でわかり難いものになっている。また、天然の冬虫夏草はその需要に答えるほど採取されず、市場に出回っている冬虫夏草がいくつかの原産地から採取され、混合されたものであっても、それを確認する方法がなく、購買者のみならず当業者にとっても明確な分類法が望まれている。
【0007】
一方近年の分子遺伝学の発展は、生物分類学における方法論に多大な影響を与えた。すなわちこれまでの形態学的な分類に加えて、ある特定の遺伝子を選択して、生物種についてその塩基配列を比較すると、遺伝子の相同性からその進化の過程を推定し、分類することが可能となった。
【0008】
生物種による遺伝子の分散の度合いは、基本的な生命活動をつかさどる蛋白質をコードする遺伝子で驚くほど保存されている一方、多くの遺伝子ではそれぞれの蛋白質の機能の分散に従って変化し、もはや同一起源であるかどうかの判断さえ難しいものまで様々である。従って分類の対象となる生物種の範囲に応じて適切な遺伝子領域を選択することで、例えば鯨と他の哺乳類との関係のような、広い範囲の近縁関係から、カラスの地域差のような、ごく限定された範囲内の詳細な分類まで可能となる。このような進化上の相対距離の推定及び分類に最も一般的に利用される遺伝子としては、リボソームRNA遺伝子(Bruce Alberts et al., Essential Cell Biology,, Garland Publishing Inc., 439-440, 1998)やミトコンドリアの遺伝子(宝来聰、細胞工学、14巻、1031〜1035、1995)等が数多く報告されている。
【0009】
真核生物リボソームRNAは、RNAポリメラーゼによって転写されたRNAがプロセッシングを受けて、いくつかの断片に分かれ、リボソームを構成する小サブユニット(SS;Small Subunit)と大サブユニット(LS;Large Subunit)に組み込まれる。小サブユニットに組み込まれるRNAは18SrRNA(「18S」は超遠心での沈降速度を表す)とよばれ、約1900(酵母)ないし2000塩基(ヒト)から成り、大サブユニットに組み込まれるRNAは28SrRNAと5.8SrRNAの2種類で、28SrRNAは約4700(酵母)ないし5000塩基、5.8SrRNAは約160塩基(酵母またはヒト)から成る。
【0010】
これらはrRNA遺伝子上に18SrRNA(以下、「SS領域」という)、5.8SrRNA、28SrRNA(以下、「LS領域」という)の順に縦列にならび、18SrRNAと5.8SrRNA、5.8SrRNAと28SrRNAの間はITS(Internal Transcribed Spacer)とよばれる非転写領域によって分断されている。なおこの2つのITSとその間にある5.8Sを、以下、まとめてITS領域と称している(図1参照)。
【0011】
これまで冬虫夏草のリボソームRNAの配列については、C.sinensisのITSを中心としたごく限られた領域についてのみ、いくつか報告されているが、それぞれの産地と関連づけた報告はされていない。また、冬虫夏草のなかでも薬効が高いと言われているC.crassisporaのリボソームRNA遺伝子配列については、まったく未報告である。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的はCordyceps crassisporaとCordyceps sinensisの産地別各種のリボソームRNA遺伝子配列の一部を提供し、冬虫夏草の産地別分類について、客観的鑑別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上のような課題を解決すべく、本願発明者は、実際に当地に赴き、冬虫夏草の主な生育地で自らサンプル採取を行い、さらに顕微鏡下において形態上の厳しい選択をした上で、Cordyceps crassispora(中国雲南産)とCordyceps sinensisのMarch(中国甘粛産)、Seisazan(中国青海産)、Deruge(中国四川産)、Gyokuju(中国青海産)、Bingo(チベット産)、Roho(中国四川産)、Yakuzan(中国貴州産)、Gyokuryusetuzan(中国雲南産)、Nyaramu(ヒマラヤ産)、Rusyasya(ヒマラヤ産)のそれぞれのリボソームRNA遺伝子の一部、即ちSS領域からITS領域、及びLS領域にいたる約3.7Kbpの塩基配列を決定した。その結果、当該配列において相互鑑別に用いることができる程度の相違を見出し、これに基づいて本発明を完成させたものである。
【0014】
即ち、本発明の塩基配列の第1の態様は、配列表のID NO:1で示される、Cordyceps crassisporaにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0015】
本発明の塩基配列の第2の態様は、配列表のID NO:2で示される、Cordyceps crassisporaにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0016】
本発明の塩基配列の第3の態様は、配列表のID NO:3で示される、Cordyceps crassisporaにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5’側約1.3Kbpの塩基配列である。
【0017】
本発明の塩基配列の第4の態様は、配列表のID NO:4で示される、Cordyceps sinensis March におけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3’側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0018】
本発明の塩基配列の第5の態様は、配列表のID NO:5で示される、Cordyceps sinensis March におけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0019】
本発明の塩基配列の第6の態様は、配列表のID NO:6で示される、Cordyceps sinensis March におけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5’側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0020】
本発明の塩基配列の第7の態様は、配列表のID NO:7で示される、Cordyceps sinensis SeisazanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3’側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0021】
本発明の塩基配列の第8の態様は、配列表のID NO:8で示される、Cordyceps sinensis SeisazanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.6Kbpの塩基配列である。
【0022】
本発明の塩基配列の第9の態様は、配列表のID NO:9で示される、Cordyceps sinensis SeisazanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0023】
本発明の塩基配列の第10の態様は、配列表のID NO:10で示される、Cordyceps sinensis DerugeにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0024】
本発明の塩基配列の第11の態様は、配列表のID NO:11で示される、Cordyceps sinensis DerugeにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.6Kbpの塩基配列である。
【0025】
本発明の塩基配列の第12の態様は、配列表のID NO:12で示される、Cordyceps sinensis DerugeにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0026】
本発明の塩基配列の第13の態様は、配列表のID NO:13で示される、Cordyceps sinensis GyokujuにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0027】
本発明の塩基配列の第14の態様は、配列表のID NO:14で示される、Cordyceps sinensis GyokujuにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0028】
本発明の塩基配列の第15の態様は、配列表のID NO:15で示される、Cordyceps sinensis GyokujuにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0029】
本発明の塩基配列の第16の態様は、配列表のID NO:16で示される、Cordyceps sinensis BingoにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0030】
本発明の塩基配列の第17の態様は、配列表のID NO:17で示される、Cordyceps sinensis BingoにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.6Kbpの塩基配列である。
【0031】
本発明の塩基配列の第18の態様は、配列表のID NO:18で示される、Cordyceps sinensis BingoにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0032】
本発明の塩基配列の第19の態様は、配列表のID NO:19で示される、Cordyceps sinensis RohoにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0033】
本発明の塩基配列の第20の態様は、配列表のID NO:20で示される、Cordyceps sinensis RohoにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.6Kbpの塩基配列である。
【0034】
本発明の塩基配列の第21の態様は、配列表のID NO:21で示される、Cordyceps sinensis RohoにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0035】
本発明の塩基配列の第22の態様は、配列表のID NO:22で示される、Cordyceps sinensis YakuzanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0036】
本発明の塩基配列の第23の態様は、配列表のID NO:23で示される、Cordyceps sinensis YakuzanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0037】
本発明の塩基配列の第24の態様は、配列表のID NO:24で示される、Cordyceps sinensis YakuzanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0038】
本発明の塩基配列の第25の態様は、配列表のID NO:25で示される、Cordyceps sinensis GyokuryusetuzanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0039】
本発明の塩基配列の第26の態様は、配列表のID NO:26で示される、Cordyceps sinensis GyokuryusetuzanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S,ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0040】
本発明の塩基配列の第27の態様は、配列表のID NO:27で示される、Cordyceps sinensis GyokuryusetuzanにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0041】
本発明の塩基配列の第28の態様は、配列表のID NO:28で示される、Cordyceps sinensis NyaramuにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、SS領域の一部、即ちSS領域の3'側約1.8Kbpの塩基配列である。
【0042】
本発明の塩基配列の第29の態様は、配列表のID NO:29で示される、Cordyceps sinensis NyaramuにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0043】
本発明の塩基配列の第30の態様は、配列表のID NO:30で示される、Cordyceps sinensis NyaramuにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、LS領域の一部、即ちLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列である。
【0044】
本発明の塩基配列の第31の態様は、配列表のID NO:31で示される、Cordyceps sinensis RusyasyaにおけるリボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。上述したリボソームRNA遺伝子の一部は、ITS領域、即ちITS1、5.8S、ITS2を含む約0.7Kbpの塩基配列である。
【0045】
本発明の塩基配列の第32の態様は、配列表のID NO:1から31で示される塩基配列において、1もしくは複数の塩基配列が付加、欠失もしくは置換されていることを特徴とする、上記リボソームRNA遺伝子の一部である塩基配列である。
【0046】
また本発明のプライマーの第1の態様は、配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列または配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列の相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、塩基配列決定用のプライマーである。
【0047】
本発明のプライマーの第2の態様は、配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列または配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列の相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、DNA増幅用のプライマーである。
【0048】
本発明のプライマーの第3の態様は、配列表のID NO:2の塩基番号57から193及び351から538、ID NO:5の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:8の塩基番号57から216及び374から550、NO:11の塩基番号57から216及び374から550、NO:14の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:17の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:20の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:23の塩基番号57から216及び375から538、ID NO:26の塩基番号57から207及び372から531、ID NO:29の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:31の塩基番号57から216及び372から549で示される塩基配列またはその相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを含む、上記塩基配列決定用またはDNA増幅用のプライマーである。
【0049】
さらに、本発明の方法の第1の態様は、冬虫夏草のリボソームRNA遺伝子のSS領域の3'側1.4KbpからITS領域、及びLS領域5'側1.7Kbpにいたる領域の塩基配列の全部または一部を、配列表のID NO:1から31に記載の塩基配列と比較し、その異同により、冬虫夏草を分類する方法である。
【0050】
本発明の方法の第2の態様は、上記比較が、上記領域の塩基配列を決定し、その相同性の割合を測定して比較するものであることを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。
【0051】
本発明の方法の第3の態様は、上記比較が、冬虫夏草のリボソームRNAのITS領域と、配列表ID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31のいずれかに記載の塩基配列との相同性の比較であることを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。
【0052】
本発明の方法の第4の態様は、上記塩基配列決定において、配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列または配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列の相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを、塩基配列決定のプライマーとして用いることを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。即ち、相同性の比較である。
【0053】
本発明の方法の第5の態様は、上記塩基配列の決定におけるプライマーが、配列表のID NO:2の塩基番号57から193及び351から538、ID NO:5の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:8の塩基番号57から216及び374から550、NO:11の塩基番号57から216及び374から550、NO:14の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:17の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:20の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:23の塩基番号57から216及び375から538、ID NO:26の塩基番号57から207及び372から531、ID NO:29の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:31の塩基番号57から216及び372から549で示される塩基配列またはその相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。即ち、相同性の比較である。
【0054】
本発明の方法の第6の態様は、上記分類方法における比較が、配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列または配列表のID NO:1からNO:31で示される塩基配列の相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる、DNA増幅の過程を含むことを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。
【0055】
本発明の方法の第7の態様は上記DNA増幅の過程において、配列表のID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31のいずれかに記載の塩基配列またはそれらの相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いることを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。
【0056】
本発明の方法の第8の態様は、上記DNA増幅過程におけるプライマーが、配列表のID NO:2の塩基番号57から193及び351から538、ID NO:5の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:8の塩基番号57から216及び374から550、NO:11の塩基番号57から216及び374から550、NO:14の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:17の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:20の塩基番号57から216及び374から550、ID NO:23の塩基番号57から216及び375から538、ID NO:26の塩基番号57から207及び372から531、ID NO:29の塩基番号57から217及び374から550、ID NO:31の塩基番号57から216及び372から549で示される塩基配列またはその相補的配列のうち、連続する15ないし40塩基からなる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、冬虫夏草を分類する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
上述のように、リボソーム遺伝子配列は、生物の分類に広く用いられている。その理由としては、真核生物のなかで最も単純な酵母から非常に複雑な哺乳動物にいたるまで広く保存されている一方、一部ITS領域のようにプロセッシングの過程で捨てられる配列については、ある程度の分散が期待できるからである。本発明のように、限られた種の地域差を見るには、配列のある程度の分散が必要であるが、あまりにも分散の度合いが強い場合は配列の決定や増幅のプライマーに問題が生じたりすることがある。その点リボソームRNA遺伝子のITSを中心とする配列決定は、保存性の高いSS領域やLS領域を足がかりに、分散度の高いITS領域を探索できるという利点がある。
【0058】
C.sinensis又はC.crassisporaの塩基配列を決定するにあたり、最も一般的な方法は、まず菌体を培養してDNAを抽出し、それを鋳型としてPCR(plymerase Chain Reaction)によってリボソームRNA遺伝子をクローニングし、それらについて塩基配列を決定する方法である。PCR、塩基配列決定は、どちらも定法により行うことができる。PCRに用いたプライマーの配列は酵母(S.Cerevisiae)の塩基配列に基づいて決定し、常法に従って合成することができる。またシーケンスに用いたプライマーは、PCRプライマーと同様に酵母の塩基配列に基づいて作成してもよいし、あるいは、これらのプライマーでまず最初に読み進み、その後は読み取った配列にもとづき順次プライマー合成を行ってもよい。
【0059】
一般的に塩基配列に基づく判別・分類方法としては、数100bpの一定領域の塩基配列全体を比較する方法、1ないし数カ所の特定部位の塩基の違いを比較する方法、あるいは1ないし数カ所の特定部位の塩基の違いを複数組合わせ、パターン化して比較する方法がある。
【0060】
数100bpの一定領域の塩基配列全体を比較する方法としては、判別・分類の対象となるサンプルの一定領域の塩基配列を決定し、既知の塩基配列と比較し、その相同性の割合で判定する方法がある。一般に生物種は近接する地域であっても、進化の過程を反映して微妙にその相同性に違いをみせるので、サンプルの配列は必ずしも既知の配列と100%同一ではないことが多い。このような場合にも、相同性の割合を求めることにより、相対的な類縁関係の推測を容易に行うことができる。
【0061】
この相同性の割合を比較する方法には、生育地によって相違の生じるITS領域を用いるのが望ましい。また、ITS領域内のITS1またはITS2を用いて比較する方法は最も望ましい。ITS1とITS2は、Cordyceps crassisporaではそれぞれ配列表ID No.2の塩基番号57−193と351−538、Cordyceps sinensis Marchではそれぞれ配列表ID No.5の塩基番号57−217と374−550、Seisazanではそれぞれ配列表ID No.8の塩基番号57−216と374−550、Derugeではそれぞれ配列表ID No.11の塩基番号57−216と374−550、Gyokujuではそれぞれ配列表ID No.14の塩基番号57−216と374−550、Bingoではそれぞれ配列表ID No.17の塩基番号57−216と374−550、Rohoではそれぞれ配列表ID No.20の塩基番号57−216と374−550、Yakuzanではそれぞれ配列表ID No.23の塩基番号57−216と375−538、Gyokuryusetuzanではそれぞれ配列表ID No.26の塩基番号57−207と372−531、Nyaramuではそれぞれ配列表ID No.29の塩基番号57−217と374−550、Rusyasyaではそれぞれ配列表ID No.31の塩基番号57−216と372−549であることが相同性により推定される。ただし上記の位置は報告により若干のずれがある。
【0062】
1ないし数カ所の特定部位の塩基の違いを利用する方法としては、PCRのプライマーによる判別がある。塩基配列を比較し、相違のある領域にPCRのプライマーを設定し、どのプライマーによって増幅されるかによって判別する方法である。この場合非相同的な領域だけでなく、相同的な領域にもプライマーを設定し、インターナルコントロールとするのが望ましい。増幅が見られないのは、反応の失敗ではなく、サンプルのリボソームRNA遺伝子の配列によるものであることを確認するためである。上記PCRのプライマーによる判別方法において、プライマーを設定する領域は、本発明のSS領域配列(配列表ID NO:1、4、7、10、13、16、19、22、25、28)、ITS領域配列(配列表ID NO:2、5、8、11、14、17、20、23、26、29、31)、またはLS領域配列(配列表ID NO:3、6、9、12、15、18、21、24、27、30)のいずれでもよい。SS領域とLS領域はITS領域に比較して相同性が高いが、上記方法は、1ないし数塩基の非相同性でも充分判別可能なので、いずれの領域においても容易にプライマーを設定することができる。
【0063】
上記の、特定のプライマーによってリボソームRNA遺伝子が増幅するかどうかで判別する方法は、PCR以外の増幅法であってもよい。例えば最近発表されたLAMP法(栄研化学)、ICAN法(宝酒造)のプライマーとして設定することも可能である。
【0064】
分類は必ずしも核酸の増幅によるものでなくてもよい。例えば1本鎖の核酸同士をハイブリダイズさせて、それを電気的に検出する方法は、非常に感度が良いので、核酸の増幅なしで検出が可能である。1本鎖のプローブを上記増幅法と同様に非相同的な領域に設定することにより、ハイブリダイズしたかどうかで配列を確認できる。
【0065】
また、1ないし数カ所の特定部位の塩基の違いを比較する方法による判別・分類は、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法でも可能である。鑑定の対象となる何種類かの塩基配列を比較し、制限酵素による切断に違いのある部分を見つけ、増幅されたDNA断片にその部分が含まれるように、プライマーを設定する。増幅したDNA断片がその制限酵素によって切断されるか否かによって配列の違いが判断できる。切断の有無は通常の電気泳動法等によって容易に判定可能である。
【0066】
さらに、上記の特定部位における塩基の違いを複数組合わせ、パターン化して比較する方法がある。例えば、上記プライマー法で、ぃくつかのプライマー対を用いる方法や、あるいは上記RFLP法で、比較的広い領域を増幅し、複数の制限酵素で切断し、それぞれの切断パターンによって判別することも可能である。このRFLP法では、上述のプライマーによる判別法と同様、SS領域、ITS領域、LS領域のいずれを用いることができるが、非相同性の高いITS領域は、切断パターンが多様であり、制限酵素の選択肢も多く、望ましい。さらに、ITS領域内のITS1またはITS2は、生育地による相違を最も反映していると考えられるので、パターン作成にこれらの領域を含めることは、より望ましい。上述のように、自然界においては近接した生物種であっても、たとえばITSのようにその生物種にとって必須ではない塩基配列領域は広く分散していることが多いので、往々にして配列全体の比較が必要になることがあり、その点RFLPは、塩基配列を決定して相同性の割合を求めるより簡便で、かつ配列全体の比較であるので、有効性が高く、かつ実用的である。
【0067】
以下、本発明を実施例に基づき、より具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0068】
冬虫夏草は主に中国の高山帯で採取されるが、本発明に用いたC.crassispora(この発明の塩基配列の第1、2、3の態様)のサンプルは、特に中国雲南省の標高3000m以上の高山帯で採取された。また、C.sinensisのそれぞれのサンプルは、この発明の塩基配列の第4、5、6の態様にあるMarchは中国甘粛省、この発明の塩基配列の第7、8、9の態様にあるC.sinensis Seisazanは中国青海省、この発明の塩基配列の第10、11、12の態様にあるC.sinensis Derugeは中国四川省、この発明の塩基配列の第13、14、15の態様にあるC.sinensis Gyokujuは中国青海省、この発明の塩基配列の第16、17、18の態様のC.sinensis Bingoはチベット自治区、この発明の塩基配列の第19、20、21の態様のC.sinensis Rohoは中国四川省、この発明の塩基配列の第22、23、24の態様のC.sinensis Yakuzanは中国貴州省、この発明の塩基配列の第25、26、27の態様のC.sinensis Gyokuryusetuzanは中国雲南省、この発明の塩基配列の第28、29、30の態様のC.sinensis Nyaramuと、この発明の塩基配列の第31の態様のC.sinensis Rusyasyaはヒマラヤにおいてそれぞれ採取された。
【0069】
冬虫夏草からのDNA抽出
可及的にアガロース部分を除去した培養菌体を、滅菌水に一晩浸水し、含まれている培地由来の成分を除去した。上記処理を行った培養菌体を、酵素溶液(SCE 0.5ml、Zymolyase20−T 5mg、Chitinase−GODO 5mg(生化学工業))中で24時間室温でインキュベートした。これにProteinaseK(プロメガ社、特異的活性30単位/mg以上)を50mg及び10%SDSを5μl、55℃で3時間インキュベートした。その後、室温で10,000rpm5分遠心し、水相400μlを200μlづつ2本の新しい1.5mlチューブへ移し、等量のフェノール・クロロフォルム混合液を加え5分間転倒混和した。再度室温にて15,000rpm、5分遠心して、水相を新しいチューブに移し、3M酢酸ナトリウム20μl、ethachinmate(日本ジーン)2μl、エタノール500μlを加え、転倒混和し、4℃、15,000rpmで15分で遠心した。上清を捨て、70%エタノール1mlと4℃、15,000rpm、2分の遠心で上清を捨て、塩分を除いた。ペレットを凍結乾燥した後200μlTEに溶解し、QIAamp DNA Blood mini kit(キアゲン社)を用い精製した。
【0070】
冬虫夏草リボソームRNA遺伝子の部分クローニング
冬虫夏草リボソームRNA遺伝子のSS領域の一部、LS領域の一部を、上記抽出DNAを鋳型として、PCR(Plymerase Chain Reaction)法によってクローニングした。用いたプライマーは、SS領域にはSSJ(5'-ctggt tgatc ctgcc agtag-3' )又はSS10(5'-agtag tcata tcct gtctc aaag-3')のフォワード側プライマーとSST(5'-acgga acctt gttac gact-3')のリバース側プライマーのセット、LS領域にはLS1(5'-agtac ccgct gaact taag-3')のフォワード側プライマーとLSD(5'-ggaac ctttc cccac ttc-3')のリバース側プライマーのセットである。これらのプライマーは酵母(S.Cerevisiae)の塩基配列に基づいて作製した。またこれらのプライマーの相対的位置を図2に示した。
【0071】
PCRの反応液を図3のように設定し、最初に95℃で3分変性させた後、94℃で0.5分、53℃で0.5分、72℃で1分のサイクルを40回行い、最後に72℃3分加熱した。
【0072】
(3)SS領域とLS領域の塩基配列の決定
上記PCR産物をShrimp Alkaline PhosphataseとExonucleaseIにより処理した後、PCRに用いたプライマー(SSJ、SS10、SST、LS1、LSD)と、さらに、SS2( 5'-aattc cagct ccaat agcgt-3')、SS3(5'-tcagc cttgc gacca tactc-3')、SS4(5'-acttt cgatg tttgg gtagt-3')、SSU(5'-gtaat tccag ctcca atagc-3' )、SS5(5'-gtgct gggga tagag cattg-3' )、SS6(5'-caatg ctcta tcccc agcac-3')、SS7(5'-acttt cgatg tttgg gtagt-3')、SS8(5'-catcg aaagt tgata ggg-3')、SS11(5'-catgc tgaaa atccc gactc cggaa gg-3')SS12(5'-ctgtt tcccc gccac gccca gtg-3')、SS13(5'-agtac cttac tactt ggata accg-3')、LSC(5'-gcctt agtaa cggcg agtg-3')、LS4(5'-ttgtg cgcta tcggt ctc-3')、LS6(5'-tcaag ttctc attga agtat ttgc-3')、LS9(5'-ggtaa gcaga actgg cgatg cggga tg-3')、LS10(5'-caagt agagt gatcg aaaga-3')、LS11(5'-ttcat cccgc atcgc cagtt ct-3')、LS12(5'-caagg atgct ggcgt aatgg t-3')をシーケンスプライマーとして、Thermo SequenaseII determinator cycle sequencing kit(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用い、C.crassispora及びC.sinensisの8種について、SS領域の3'側約1.8KbpとLS領域の5'側約1.4Kbpの塩基配列を決定した(図2図4参照)。
【0073】
(4)ITS領域の塩基配列の決定
上記により決定したSS領域、LS領域の塩基配列に基づき、ITS領域の塩基配列を決定した。酵母(S.Cerevisiae)の塩基配列に基づいて、PCRプライマーITS7(5'-ggccg ggaag ctctc caaac tcggt catt-3')とITS8(5'-cctct gcaaa ttaca actcg ggcc-3')を作製し、ITS領域を増幅し、上記プライマーに加えて、ITS2(5'-gctgc gttct tcatc gatgc-3')、ITS3(5'-gcatc gatga agaac gcagc-3')、ITS4(5'-tcctc cgctt attga tatgc-3')、ITS5(5'-ggaag taaaa gtcgt aacaa gg-3')のシーケンスプライマーを用いて配列決定を行った(図2)。具体的実験方法は上記SS領域、LS領域の決定と同様に行った。
【0074】
(5)相同性の決定
上記により決定した、C.sinensis Marchと、C.crassisporaのITS領域の相同性をDNASISのマキシマムマッチング(日立ソフト)によって調べたところ、78%であった(図5参照)。一方、保存性が高いことが予測されているLS領域では相同性93%を示した。
【0075】
(6)RFLPによるパターン分析
C.crassisporaとC.sinensis DerugeよりDNAを抽出し、これを鋳型としてITS5、ITS4のプライマー対でPCR法による増幅を行った。C.crassisporaから得られた604bpのDNA断片とC.sinensis Derugeから得られた568bpのDNA断片を、BcgI、BglI、DdeI、DrdI、MaeI、MseI、XhoIの7種類の制限酵素処理を行った。得られた断片を6%アクリルアミドゲル(0.5xTBE)により電気泳動し、比較したところ、塩基配列より予想されたとおりのパターンの相違が示された(図6図7参照)。
【発明の効果】
【0076】
上述したように、この発明によると、Cordyceps crassisporaとCordyceps sinensisの産地別各種のリボソームRNA遺伝子配列の一部を提供することができ、更に、冬虫夏草の産地別分類について、客観的鑑別方法を提供することができる。
【0077】
【配列表】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【図面の簡単な説明】
図1図1は、リボソームRNA遺伝子におけるSS領域とITS領域、及びLS領域の相対的位置を示す。
図2図2はITS領域のシーケンスプライマーの相対的位置関係を示す。
図3図3はSS領域、LS領域、ITS領域を増幅する、PCRの反応液条件を示す表である。
図4図4はSS領域とLS領域のシーケンスプライマーの相対的位置関係を示す。
図5図5はC.crassiporaとC.sinensis MarchのITS領域の相同性を示す。
図6図6はC.crassiporaとC.sinensis DerugeのITS領域塩基配列を制限酵素で切断した場合の切断断片の長さを予測したものである。
図7図7はC.crassiporaとC.sinensis Derugeを制限酵素で切断し、6%アクリルアミドゲル電気泳動によって検出したものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7