特許第6064141号(P6064141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064141溶解パルプ製造工程で発生する付着物の洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064141
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】溶解パルプ製造工程で発生する付着物の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 5/00 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   D21C5/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-93392(P2015-93392)
(22)【出願日】2015年4月30日
(65)【公開番号】特開2016-211087(P2016-211087A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2015年8月18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】土居 摩記
(72)【発明者】
【氏名】渕野 優治
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 恭
【審査官】 阿川 寛樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−244698(JP,A)
【文献】 特開昭58−091884(JP,A)
【文献】 特開2015−195846(JP,A)
【文献】 特開平11−131381(JP,A)
【文献】 特開2009−133054(JP,A)
【文献】 特開2001−327934(JP,A)
【文献】 特開平11−061672(JP,A)
【文献】 特開2012−219416(JP,A)
【文献】 特表2010−528191(JP,A)
【文献】 特開昭49−081602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21H 11/00− 27/42
D21J 1/00− 7/00
B08B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解パルプ製造工程における付着物の洗浄方法であって、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを、溶解パルプ製造工程水系に添加して溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含む、洗浄方法(但し、セルロース原料に、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方並びに過酸化水素供給化合物を添加する場合を除く)
【請求項2】
洗浄対象である付着物は、50重量%以上の強熱(灼熱)減量と、1重量%以上の硫黄分とを含有する付着物を含む、請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを、黒液濃縮工程系に添加することを含む、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
洗浄対象である付着物は、黒液濃縮工程系のエバポレータの付着物である、請求項1から3のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを、前加水分解釜とブローポンプとの間に添加することを含む、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項6】
洗浄対象である付着物は、前加水分解釜と蒸解釜との間に配置されたブローポンプの付着物である、請求項1、2又は5に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記過酸化水素供給化合物は、過酸化水素、過酢酸、過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸、過酸化尿素及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1から6のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項8】
溶解パルプ製造工程における付着物の洗浄方法であって、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを、黒液濃縮工程系、及び前加水分解釜とブローポンプとの間の少なくとも一方に添加して溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含む、洗浄方法。
【請求項9】
溶解パルプ製造工程における付着物の洗浄方法であって、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを、溶解パルプ製造工程水系に添加して溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含み、
前記洗浄対象である付着物は、黒液濃縮工程系のエバポレータの付着物、及び前加水分解釜と蒸解釜との間に配置されたブローポンプの付着物の少なくとも一方の付着物を含む、洗浄方法。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の洗浄方法によって溶解パルプ製造工程水系を洗浄する工程を含む、溶解パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶解パルプ製造工程で発生する付着物の洗浄方法、及び当該洗浄方法による洗浄工程を含む溶解パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙やその原料となるパルプの製造において工程水系中の配管や壁材に、バージンパルプや充填料に起因するスラッジ状の汚れが付着又は堆積し、各種障害を引き起こすことが問題となっている。このため、工程水系を洗浄するための様々な方法が提案されており、例えば、各種界面活性剤を用いた方法や、苛性ソーダを用いた方法、有機ホスホン酸を用いた方法等がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、パルプの製造ではアルカリを用いた蒸解が行われ、この蒸解には多量のアルカリと水とを使用することから、蒸解工程で排出された蒸解廃液からアルカリを回収し、再利用されている。アルカリ回収工程では、エバポレータ等を用いた蒸解廃液(黒液)の濃縮等が行われるが、黒液濃縮装置や配管にスケールが付着し、配管を閉塞したり、生産性が低下するという問題がある。このため、例えば、アルカリ性条件下で多塩基酸型アミノカルボン酸化合物を用いてスケールを洗浄することが提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−244698号公報
【特許文献2】特開2007−63696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルプは、用途によって分類した場合、抄紙されて紙として利用される製紙パルプ(PP)と、レーヨンやセロファン等の原料として利用される溶解パルプ(DP)とに分類される。製紙パルプは、パルプの歩留まり向上の点からヘミセルロースを積極的に残すように製造され、セルロースとヘミセルロースと含む。一方、溶解パルプは、セルロースの純度が高いことが望まれることから、化学的に特別な精製によりヘミセルロースをできるだけ除去しセルロースの純度が高められるように製造され、パルプ中のセルロースの純度は通常90%を超える。
【0006】
つまり、製紙パルプと溶解パルプとは、用途のみならず、パルプ化における製造方法及び組成が異なる。溶解パルプ製造工程で発生する付着物は、上記の従来の洗浄方法では十分に洗浄できないという問題があった。
【0007】
そこで、本開示は、一又は複数の実施形態において、溶解パルプ製造工程における付着物を洗浄可能な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一又は複数の実施形態において、溶解パルプ製造工程における付着物の洗浄方法であって、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを溶解パルプ製造工程水系に添加して溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含む洗浄方法に関する。
【0009】
本開示は、一又は複数の実施形態において、上記の洗浄方法によって溶解パルプ製造工程系を洗浄する工程を含む、溶解パルプの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、溶解パルプ製造工程で発生する付着物を洗浄できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、溶解クラフトパルプにおけるパルプ化工程の一例を説明するための概略図である。
図2図2は、溶解パルプの製造工程における黒液濃縮(薬品回収)工程の一例を説明するための概略図である。
図3図3は、実施例で用いた洗浄効果の確認試験に用いた装置を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、5000mg/L以上150000mg/L以下の水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と、3000mg/L以上50000mg/L以下(過酸化水素換算)の過酸化水素供給化合物とを用いれば、溶解パルプ製造工程における付着物を効率よく洗浄できる、との知見に基づく。
【0013】
溶解パルプは、亜硫酸水素カルシウム(酸性蒸解液)を用いて蒸解を行うSP法(サルファイト法)によって製造された溶解亜硫酸パルプ(DSP)と、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの混合液(アルカリ性蒸解液)を使用するKP法(クラフト法)によって製造された溶解クラフトパルプ(DKP)とがある。図1に示すように、溶解クラフトパルプの製造では、チップ化(チップピン)1と蒸解4との間に、酸を用いた前加水分解(PHV)2が行われる。溶解パルプ製造工程水系の付着物は、硫黄分を含み、かつ有機物を主体とする。これに対し、製紙パルプ製造工程水系における付着物(スラッジ)は、無機物を主体とする。つまり、下記表に示すように、溶解パルプ製造工程水系と製紙パルプ製造工程水系とは、付着物の組成が大きく異なる。このような付着物の組成の違いから、従来のパルプ製造工程における洗浄方法では、溶解パルプ製造工程の付着物を十分に洗浄できないと考えられていた。本発明者らは、メカニズムは不明ではあるが、上記所定の濃度で水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを併用することによって、溶解パルプ製造工程水系における付着物を洗浄できることを見出したのである。
【表1】
【0014】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、溶解パルプ製造工程水系の付着物を効率よく洗浄できうる。溶解パルプ製造工程水系の付着物としては、一又は複数の実施形態において、熱伝達面(ディストリビュータ)等に付着した付着物が挙げられる。溶解パルプ製造工程水系の付着物としては、一又は複数の実施形態において、溶解パルプ製造工程水系を構成する配管、ポンプ、壁材、薬品回収装置(黒液濃縮装置)に配置されたエバポレータ、ウォッシャー、スクリーン等に付着又は堆積した付着物等が挙げられる。したがって、本開示によれば、一又は複数の実施形態において、溶解クラフトパルプ製造工程水系における前加水分解釜(PHV)と蒸解釜との間に配置されたブローポンプ(図1における3)に付着又は堆積した付着物を洗浄できうる。本開示によれば、一又は複数の実施形態において、黒液濃縮工程系のエバポレータに付着又は堆積した付着物を洗浄できうる。
【0015】
本開示における「溶解パルプ製造工程」とは、溶解パルプを製造する工程をいい、好ましくは溶解パルプの製造におけるパルプ化工程をいう。本開示において、溶解パルプは、SP法(サルファイト法)によって製造する溶解亜硫酸パルプ(DSP)と、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムの混合液(アルカリ性蒸解液)を使用するKP法(クラフト法)によって製造する溶解クラフトパルプ(DKP)とを含む。
【0016】
洗浄対象である付着物は、一又は複数の実施形態において、50重量%以上の強熱(灼熱)減量と、1重量%以上の硫黄分とを含有する付着物を含む。本開示において「強熱(灼熱)減量」とは、付着物を強熱した時に揮発する物質の質量をいう。強熱(灼熱)減量は、一又は複数の実施形態において、付着物に含まれる有機物の量を表す。強熱(灼熱)減量は、強熱減量試験による質量の減少率(加熱前後の質量比)から算出できる。強熱(灼熱)減量は、JISK0102:2013に準拠して求めることができる。具体的には実施例に記載の方法により求めることができる。洗浄対象である付着物の強熱(灼熱)減量は、一又は複数の実施形態において、50重量%以上であり、又は99重量%以下である。
【0017】
洗浄対象である付着物は、一又は複数の実施形態において、1重量%以上の硫黄分を含有する。本開示において「硫黄分」とは、付着物に含まれる各種硫黄、無機硫黄化合物及び有機硫黄化合物をいう。洗浄対象である付着物は、一又は複数の実施形態において、1重量%以上の硫黄分を含有する。洗浄対象である付着物は、一又は複数の実施形態において、50重量%以下の硫黄分を含有する。硫黄分の含有量は、強熱(灼熱)減量で得た灰化した物及び灰分の蛍光X線分析を行い、バルクFP法で酸化物として求めることができる。具体的には、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0018】
[溶解パルプ製造工程水系の洗浄方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを、溶解パルプ製造工程水系に添加して溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含む溶解パルプ製造工程の付着物の洗浄方法(以下、「本開示の洗浄方法」ともいう)に関する。したがって、本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、5000mg/L以上150000mg/L以下の水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と、3000mg/L以上50000mg/L以下(過酸化水素換算)の過酸化水素供給化合物とを用いて溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含む。
【0019】
本開示の洗浄方法は、溶解パルプ製造工程水系に水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下添加することを含む。洗浄効率の点から、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を、10000mg/L以上、20000mg/L以上、30000mg/L以上、又は40000mg/L以上添加することを含む。また、処理コストの点から、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を、130000mg/L以下、100000mg/L以下、60000mg/L以下又は50000mg/L以下添加することを含む。本開示において水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの濃度(mg/L)は、100%NaOH又は100%KOHとして換算した濃度をいう。
【0020】
本開示の洗浄方法は、溶解パルプ製造工程水系に過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下添加することを含む。洗浄効率の点から、一又は複数の実施形態において、過酸化水素供給化合物を、3500mg/L以上、4000mg/L以上、5000mg/L以上、又は8000mg/L以上添加することを含む。また、処理コストの点から、一又は複数の実施形態において、過酸化水素供給化合物を、45000mg/L以下、40000mg/L以下、15000mg/L以下又は10000mg/L以下添加することを含む。本開示において過酸化水素供給化合物の濃度(mg/L)は、100%過酸化水素に換算した濃度をいう。
【0021】
過酸化水素供給化合物としては、過酸化水素、及び過酸化水素を発生又は供給可能な化合物が挙げられる。過酸化水素を発生又は供給可能な化合物としては、一又は複数の実施形態において、無機過酸若しくはその塩、有機過酸若しくはその塩、又は過酸化水素付加物等が挙げられる。無機過酸としては、一又は複数の実施形態において、過ホウ酸、過炭酸、又はペルオキシ硫酸等が挙げられる。有機過酸としては、一又は複数の実施形態において、過酢酸等が挙げられる。過酸化水素付加物としては、一又は複数の実施形態において、尿素等が挙げられる。
【0022】
本開示の洗浄方法において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方(A)と過酸化水素供給化合物(B)との比(A:B(重量比))は、洗浄効果の点から、一又は複数の実施形態において、1:11〜500:3、又は1:10〜100:3である。また、同様の点から、20:80〜99:1、40:60〜98:2、45:55〜97:3、50:50〜97:3又は52:48〜95:5である。本開示において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方(A)と過酸化水素供給化合物(B)との比(A:B(重量比))は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び過酸化水素供給化合物のそれぞれを100%水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は過酸化水素として換算後の重量比をいう。
【0023】
本開示の洗浄方法において、洗浄は、一又は複数の実施形態において、pH11以上で行われる。洗浄効率の点から、pHは、一又は複数の実施形態において、12以上又は13以上である。
【0024】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、黒液濃縮工程系(薬品回収工程系)のエバポレータの付着物を洗浄することができる。本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、前加水分解釜と蒸解釜との間に配置されたブローポンプの付着物を洗浄することができる。但し、本開示において洗浄対象となる付着物はこれらに限定されない。したがって、本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを、黒液濃縮工程系に添加することを含む。また、本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを、前加水分解釜とブローポンプとの間に添加することを含む。
【0025】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方及び過酸化水素供給化合物以外の洗浄剤成分を添加することを含んでいてもよい。その他の洗浄剤成分としては、一又は複数の実施形態において、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンエトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ニトリロトリメチルホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸の4ナトリウム塩等が挙げられる。その他の洗浄成分の添加量は、一又は複数の実施形態において、1000mg/L以上又は2000mg/L以上である。その他の洗浄成分の添加量は、一又は複数の実施形態において、100000mg/L以下又は50000mg/L以下である。
【0026】
本開示の洗浄方法は、一又は複数の実施形態において、50重量%以上の強熱(灼熱)減量と、1重量%以上の硫黄分とを含有する付着物であれば、溶解パルプ製造工程水系に付着した付着物以外の付着物を洗浄することができる。よって、本開示は、その他の態様として、50重量%以上の強熱(灼熱)減量と、1重量%以上の硫黄分とを含有する付着物を、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを用いて洗浄する方法に関する。
【0027】
[溶解パルプの製造方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示の洗浄方法によって、溶解パルプ製造工程系を洗浄する工程を含む溶解パルプの製造方法に関する(以下、「本開示の溶解パルプの製造方法」ともいう)。本開示の溶解パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、SP法(サルファイト法)によってパルプ化する工程を含む。本開示の溶解パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、KP法(クラフト法)によってパルプ化する工程を含む。
【0028】
本開示の溶解パルプの製造方法は、一又は複数の実施形態において、黒液濃縮工程を含み、前記洗浄工程において、黒液濃縮工程系におけるエバポレータの付着物を洗浄することを含む。
【0029】
[洗浄剤]
本開示は、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と、過酸化水素供給化合物とを含む、溶解パルプ製造工程水系の洗浄剤に関する。過酸化水素供給化合物は上述の通りである。
【0030】
[洗浄用キット]
本開示は、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方が充填された容器と、過酸化水素供給化合物が充填された容器とを含む、溶解パルプ製造工程水系の洗浄用キットに関する。過酸化水素供給化合物は上述の通りである。
【0031】
本開示は、以下の、一又は複数の実施形態に関しうる;
〔1〕 溶解パルプ製造工程における付着物の洗浄方法であって、
水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方を5000mg/L以上150000mg/L以下と、過酸化水素供給化合物を過酸化水素換算で3000mg/L以上50000mg/L以下とを、溶解パルプ製造工程水系に添加して溶解パルプ製造工程水系を洗浄することを含む、洗浄方法。
〔2〕 洗浄対象である付着物は、50重量%以上の強熱(灼熱)減量と、1重量%以上の硫黄分とを含有する付着物を含む、〔1〕記載の洗浄方法。
〔3〕 前記水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを、黒液濃縮工程系に添加することを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の洗浄方法。
〔4〕 洗浄対象である付着物は、黒液濃縮工程系のエバポレータの付着物である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の洗浄方法。
〔5〕 前記水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方と過酸化水素供給化合物とを、前加水分解釜とブローポンプとの間に添加することを含む、〔1〕又は〔2〕に記載の洗浄方法。
〔6〕 洗浄対象である付着物は、前加水分解釜と蒸解釜との間に配置されたブローポンプの付着物である、〔1〕、〔2〕又は〔5〕に記載の洗浄方法。
〔7〕 前記過酸化水素供給化合物は、過酸化水素、過酢酸、過ホウ酸、過炭酸、ペルオキシ硫酸、尿素及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の洗浄方法。
〔8〕 〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の洗浄方法によって溶解パルプ製造工程水系を洗浄する工程を含む、溶解パルプの製造方法。
【0032】
以下、実施例及び比較例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0033】
50mlのガラス容器に、表2のNo.1〜5に示す各薬剤を入れて40gの洗浄液を調製した。調製した洗浄液はいずれもpHは11以上であった。薬剤は、以下のものを使用した。
NaOH:50%水酸化ナトリウム溶液(和光純薬工業株式会社製)
22:35%過酸化水素水(和光純薬工業株式会社製)
HEDP:95%1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(和光純薬工業株式会社製)
EDTA4Na:エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム(2水和物)(キシダ化学株式会社製)
【表2】
【0034】
洗浄効果の確認試験は、図3に示す装置を用いて行った。ガラス容器11内に配置した20メッシュの筒状の金網12に、SP法により溶解パルプを製造する某製紙工場の薬品回収(黒液濃縮)工程のエバポレータで採取した付着物13を300mgずつ入れ、上記調製した洗浄液を40g加えた後、スターラー14で処理液15を60℃で4時間撹拌した。付着物は下記表3に示す付着物1又は付着物2を使用した。処理時(撹拌時)の処理液のpHは11以上であった。撹拌終了後、付着物の入った筒状の金網を取り出して流水で2時間洗浄し、70℃で4時間乾燥させて付着物の重量を測定した。またNo.6〜9の薬剤についても同様に行なった。それらの結果を処理時の各成分の濃度と併せて下記表4に示す。なお除去率(%)については、以下の式を用いて算出した。
除去率(%)=(無処理の付着物重量(300mg)−処理後の付着物の重量)/ 300mg × 100
【表3】
【0035】
[強熱(灼熱)減量]
強熱(灼熱)減量は、以下のように測定した。すなわち、JISK0102:2013に準じて、105℃2時間乾燥器で乾燥して得た付着物の蒸発残留物をるつぼに入れ、800℃1時間電気炉で加熱し、灰化し求めた。
[付着物の組成]
付着物の組成は、以下のように測定した。すなわち、強熱(灼熱)減量で得た灰化した物及び灰分の蛍光X線分析を行い、バルクFP法で酸化物として組成を決めた。
【0036】
【表4】
【0037】
表4に示すように、実施例1〜7によれば、比較例1〜5と比較して非常に高い除去率を示した。また、実施例1〜7ではいずれも比較例1〜5と比較して撹拌終了後の付着物が崩壊していた。これらの結果から、実施例1〜7の洗浄剤を用いた洗浄方法によれば、溶解パルプ製造工程水系における付着物1又は2のような溶解パルプ製造工程における付着物を除去できると考えられる。
図1
図2
図3