(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0018】
[概要]
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、少なくとも、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と、(B)特定の縮合型リン系難燃剤と、(C)特定のコア/シェル型エラストマーとを所定の割合で含有し、(D)フィブリル化フッ素系樹脂を含まないか或いは(D)フィブリル化フッ素系樹脂の含有量が所定値以下であることを特徴とする。また、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、更にその他の成分を含有していてもよい。
【0019】
本発明によれば、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂に(B)特定の縮合型リン系難燃剤を所定の割合で配合することにより、PTFE等の(D)フィブリル化フッ素系樹脂を併用することなく、従って、(D)フィブリル化フッ素系樹脂による外観低下の問題を引き起こすことなく、また、耐熱安定性を低下させることなく、高い難燃性の改善効果を得ることができ、また、(C)特定のコア/シェル型エラストマーを所定の割合で配合することにより、(B)縮合型リン系難燃剤による難燃性の改善効果に悪影響を及ぼすことなく高い耐衝撃性を得ることができる。
【0020】
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂]
本発明で使用される(A)芳香族ポリカーボネート樹脂(以下「(A)成分」と称す場合がある。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基のOH基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0021】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0022】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリ(4−ヒドロキシフェニルヘプテン−3、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリ(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01〜10モル%であり、好ましくは0.1〜2モル%である。
【0023】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0024】
上述した芳香族ポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m−及びp−メチルフェノール、m−及びp−プロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0026】
本発明で用いる(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は用途により任意であり、適宜選択して決定すればよいが、成形性、強度等の点から芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、粘度平均分子量[Mv]で、15,000〜40,000、特に15,000〜30,000であることが好ましい。(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が15,000以上であると機械的強度がより向上する傾向にあり、機械的強度の要求の高い用途に用いる場合により好ましいものとなる。一方、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が40,000以下であることで流動性の低下がより抑制されて改善される傾向にあり、成形加工性容易および難燃性の観点からより好ましい。ここでの粘度平均分子量〔Mv〕は溶液粘度から換算した粘度平均分子量[Mv]で溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
−4M
0.83、から算出される値(粘度平均分子量:Mv)を意味する。ここで極限粘度[η]とは各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【0028】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、中でも17,000〜30,000、特に19,000〜27,000であることが好ましい。また粘度平均分子量の異なる2種類以上の芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記好適範囲外である芳香族ポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量は上記範囲となることが望ましい。
【0029】
[(B)縮合型リン系難燃剤]
本発明で難燃剤として用いる(B)縮合型リン系難燃剤は、下記一般式(1)で表されるものである。
【0031】
(式中、Rは炭素数1〜11の、置換基を有していてもよい、アルキレン基、アリーレン基、シクロアルキレン基、ヘテロアルキレン基、ヘテロシクロアルキレン基、またはヘテロアリーレン基を示す。)
【0032】
上記一般式(I)中のRの炭素数が11を超える場合は、縮合型リン系難燃剤分子中において、ラジカルトラップ能力を発揮する9,10−ジヒドロ−9−オキソ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド−10−イル基の含有量が相対的に低くなる結果、難燃剤としての機能が低下する傾向にある。従って、本発明において、(B)縮合型リン系難燃剤に、高度な難燃性改善効果を発揮させるために、Rの炭素数は11以下であり、好ましくはRの炭素数は2〜10である。
なお、Rの炭素数は、Rが置換基を有する場合は置換基も含めた炭素数である。
【0033】
一般式(I)中のRは、置換基を有していてもよい、アルキレン基、アリーレン基、シクロアルキレン基、ヘテロアルキレン基、ヘテロアリーレン基、ヘテロシクロアルキレン基を示す。
【0034】
上記の置換基としては、ハロゲン以外の置換基であることが好ましく、例えば、アミノ基、アミド基、ニトロ基等の窒素原子含有置換基、スルホン酸基等の硫黄原子含有置換基、カルボキシル基、アルコキシ基等の酸素原子含有置換基等が挙げられる。
【0035】
置換基を有していてもよいアルキレン基のアルキレン基としては、直鎖状又は分岐状のアルキレン基のいずれでもよい。アルキレン基の具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、へキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。すなわち、アルキレン基は無置換のものを好適に用いることができ、これらのアルキレン基の炭素数としては1〜11の中でも2〜6程度が好ましい。
【0036】
置換基を有していてもよいアリーレン基としては、置換基を有していてもよい、単環、縮合多環、架橋環及びスピロ環のいずれもよく、例えば、フェニレン基、ペンタレニレン基、インデニレン基、ナフタレニレン基、アズレニレン基、フェナレニレン基、ビフェニレン基等の単環式、二環式又は三環式のアリーレン基が挙げられる。置換基を有していてもよいアリーレン基としては、炭素数6〜11のアリーレン基が好ましく、特に、フェニレン基、ナフチレン基等、とりわけフェニレン基が好ましい。
【0037】
置換基を有していてもよいシクロアルキレン基としては、置換基を有していてもよい、単環、縮合多環、架橋環及びスピロ環の水素化物のいずれでもよいが、炭素数3〜8のシクロアルキレン基であることが好ましく、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基等が挙げられる。
【0038】
置換基を有していてもよいヘテロアルキレン基としては、前記の置換基を有していてもよいアルキレン基を構成する炭素原子の少なくとも1つがヘテロ原子(特に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の少なくとも1種)で代置されている基が挙げられる。ヘテロアルキレン基としては、アルキレン基の炭素原子が酸素原子に代置されている炭素数1〜11のヘテロアルキレン基が好ましく、具体的には、3−オキサペンチレン基、3,6−ジオキサオクチレン基、3,6,9−トリオキサウンデカニレン基、1,4−ジメチル−3−オキサ−1,5−ペンチレン基、1,4,7−トリメチル−3,6−ジオキサ−1,8−オクチレン基、1,4,7,10−テトラメチル−3,6,9−トリオキサ−1,11−ウンデセニレン基等が挙げられる。このうち、3−オキサペンチレン基、1,4−ジメチル−3−オキサ−1,5−ペンチレン基が好ましい。
【0039】
置換基を有していてもよいヘテロシクロアルキレン基としては、前記の置換基を有していてもよいシクロアルキレン基を構成する炭素原子の少なくとも1つがヘテロ原子(特に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の少なくとも1種)に代置されている基が挙げられ、5員環又は6員環の環状ヘテロアリーレン基であることが好ましい。ヘテロシクロアルキレン基としては、具体的には、ピペリジンジイル基、ピロリジンジイル基、ピペラジジイル基、オキセタンジイル基、テトラヒドロフランジイル基等が挙げられる。
【0040】
置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基としては、前記の置換基を有していてもよいアリーレン基を構成する炭素原子の少なくとも1つがヘテロ原子(特に酸素原子、窒素原子及び硫黄原子の少なくとも1種)に代置されている基が挙げられる。ヘテロアリーレン基としては、5員環又は6員環の環状ヘテロアリーレン基であることが好ましく、具体的には、フランジイル基、ピロリジンジイル基、ピリジンジイル基、ピリミジンジイル基、キノリジンジイル基、イソキノリンジイル基等が挙げられる。
【0041】
(B)縮合型リン系難燃剤の具体例としては、下記式(1a)〜(1j)で表される化合物が挙げられるが、何ら以下のものに限定されるものではない。
【0043】
これらの化合物は、市販のものを使用してもよい。また、これらは、公知の合成方法により製造することもできる。
例えば、特開2009−108089号公報に記載されているホスホン酸エステルの製造方法によって好適に製造することができる。
また、特開2011−184687号公報に記載されているホスホン酸エステルの製造方法のように、1)出発原料として10−ハロゲノ−10H−9−オキソ−10−ホスファフェナントレンを用い、これに2価のアルコール類又は2価のフェノール類を反応させることにより、有機リン系化合物を合成する工程、及び2)酸化剤により前記有機リン系化合物の3価のリンを5価に酸化する工程を含む製造方法によって製造することもできる。具体的な製造方法については、前記の特許文献4に記載されている。
【0044】
これらの(B)縮合型リン系難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0045】
[(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤の含有割合]
本発明において、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂80〜94質量%、(B)縮合型リン系難燃剤6〜20質量%(ただし、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計で100質量%とする。)の割合で用いる。
【0046】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の含有割合が上記上限より多く、(B)縮合型リン系難燃剤の含有割合が上記下限よりも少ないと、十分な難燃性を得ることができない。逆に(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の含有割合が上記下限よりも少なく、(B)縮合型リン系難燃剤の含有割合が上記上限よりも多いと、耐熱安定性、成形品外観、耐衝撃性等の芳香族ポリカーボネート樹脂本来の特性が損なわれる。より好ましい含有割合は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂85〜94質量%、(B)縮合型リン系難燃剤6〜15質量%(ただし、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計で100質量%とする。)であり、特に好ましくは(A)芳香族ポリカーボネート樹脂88〜92質量%、(B)縮合型リン系難燃剤8〜12質量%(ただし、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計で100質量%とする。)である。
【0047】
[(C)コア/シェル型エラストマー]
本発明で用いる(C)コア/シェル型エラストマーは、(C)シリコーン/(メタ)アクリル系共重合体、及びブタジエン/(メタ)アクリル系共重合体から選ばれる1種類以上のコア/シェル型エラストマーである(ここで、「(メタ)アクリル」は「アクリル」と「メタクリル」の総称である。)。
【0048】
コア/シェル型エラストマーのコア層を構成するゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−20℃以下のものが好ましく、更には−30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴムなどのエチレン−αオレフィン系ゴム、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴムなどの1種又は2種以上挙げることができるが、本発明では、難燃性と衝撃性のバランスから、これらのうち、ポリブタジエンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴムなどのポリブタジエン及び/又はシリコーンゴムを必須成分として用いる。
【0049】
一方、シェル層を構成する上記ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などの1種又は2種以上が挙げられるが、本発明では、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物などの(メタ)アクリル化合物を必須成分とする。
(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0050】
(C)コア/シェル型エラストマーは、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(C)コア/シェル型エラストマーは、(メタ)アクリル酸成分を10質量%以上含有するものが好ましい。
【0051】
これらコア/シェル型エラストマーの好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。
【0052】
これらの(C)コア/シェル型エラストマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
このような(C)コア/シェル型エラストマーとしては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン社製の「パラロイド(登録商標、以下同じ)EXL2602」、「パラロイドEXL2603」、三菱レイヨン社製の「メタブレン(登録商標、以下同じ)C−223A」、「メタブレンS−2001」、「メタブレンS−2030」、カネカ社製の「カネエース(登録商標、以下同じ)、「カネエースM711」、「カネエースMR−01」等が挙げられる。
【0054】
なお、耐衝撃性の改善のために配合されるコア/シェル型エラストマーとしては、アクリル系ゴムをコア層とするコア/シェル型エラストマーも知られており、広く用いられているが、アクリル系ゴムをコア層とするコア/シェル型エラストマーは難燃性を低下させる原因となることから、本発明では、(C)コア/シェル型エラストマーとしては、難燃性に優れた、シリコーン/(メタ)アクリル系共重合体、及びブタジエン/(メタ)アクリル系共重合体から選ばれるものを用いる。
【0055】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物において、(C)コア/シェル型エラストマーの含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して1〜10質量部であり、好ましくは2〜8質量部、より好ましくは3〜6質量部である。(C)コア/シェル型エラストマーの含有量が上記下限よりも少ないと、耐衝撃性の改善効果が十分でなく、上記上限を超えると耐熱安定性や剛性が低下するおそれがある。
【0056】
[(D)フィブリル化フッ素系樹脂]
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃剤として、前記特定の(B)縮合型リン系難燃剤を用いることにより、成形品外観の低下の要因となる(D)フィブリル化フッ素系樹脂を用いることなく、高い難燃性を得ることを特徴とする。
【0057】
従って、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は(D)フィブリル化フッ素系樹脂の含有量が、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して0.1質量部以下であり、好ましくは(D)フィブリル化フッ素系樹脂を含有しない((D)フィブリル化フッ素系樹脂の含有量が(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して0質量部)ものである。
【0058】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が(D)フィブリル化フッ素系樹脂を(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して0.1質量部よりも多く含有すると、フッ素系樹脂の凝集が原因による成形品外観の低下および耐衝撃性の低下、またUL94垂直燃焼試験時において試験片の継続的ドリップによるV−0効果が得られなくなるため好ましくない。
【0059】
ここで、(D)フィブリル化フッ素系樹脂とは、滴下防止剤として従来のリン系難燃剤と共に併用されている、フィブリル形成能を有するフッ素系樹脂であり、分子量100万〜1000万のテトラフルオロエチレン(TFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、フッ化エチレンプロピレン(FEP)などが挙げられる。
【0060】
[その他の添加剤]
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)縮合型リン系難燃剤、及び(C)コア/シェル型エラストマーに加えて、更にその他の成分や種々の添加剤を含有していてもよい。このようなその他の成分や添加剤としては、リン系熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、その他の樹脂成分などが挙げられる。
【0061】
<リン系熱安定剤>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物はリン系熱安定剤を含有することができる。リン系熱安定剤は一般的に、樹脂成分を溶融混練する際、高温下での滞留安定性や樹脂成形品使用時の耐熱安定性向上に有効である。
【0062】
本発明で用いるリン系熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも3価のリンを含み、変色抑制効果を発現しやすい点で、ホスファイト、ホスホナイト等の亜リン酸エステルが好ましい。
【0063】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)テトラ(トリデシル)4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0064】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−iso−プロピルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられる。
【0065】
また、アシッドホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0066】
亜リン酸エステルの中では、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、耐熱性が良好であることと加水分解しにくいという点で、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0067】
これらのリン系熱安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物がリン系熱安定剤を含む場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.003質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、通常0.1質量部以下、好ましくは0.08質量部以下、より好ましくは0.06質量部以下である。リン系熱安定剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、熱安定効果が不十分となる可能性があり、リン系熱安定剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0069】
<酸化防止剤>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を含有することで、色相劣化や、熱滞留時の機械物性の低下が抑制できる。
【0070】
酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0071】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。このようなフェノール系酸化防止剤の市販品としては、例えば、BASF社製「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、アデカ社製「アデカスタブAO−50」、「アデカスタブAO−60」等が挙げられる。
【0072】
なお、酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0073】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して、通常0.0001質量部以上、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.3質量部以下である。酸化防止剤の含有量が上記範囲の下限値未満の場合は、酸化防止剤としての効果が不十分となる可能性があり、酸化防止剤の含有量が上記範囲の上限値を超える場合は、効果が頭打ちとなり経済的でなくなる可能性がある。
【0074】
<離型剤>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含有していてもよく、離型剤としては、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物が好適に用いられる。
【0075】
フルエステル化物を構成する脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0076】
一方、フルエステル化物を構成する脂肪族アルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0077】
これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。
【0078】
なお、上記脂肪族アルコールと上記脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、そのエステル化率が必ずしも100%である必要はなく、80%以上であればよい。本発明にかかるフルエステル化物のエステル化率は好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0079】
本発明で用いる脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、特に、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物の1種又は2種以上と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物の1種又は2種以上とを含有することが好ましく、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物との併用により、離型効果を向上させると共に溶融混練時のガス発生を抑制し、モールドデポジットを低減させる効果が得られる。
【0080】
モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸のフルエステル化物としては、ステアリルアルコールとステアリン酸とのフルエステル化物(ステアリルステアレート)、ベヘニルアルコールとベヘン酸とのフルエステル化物(ベヘニルベヘネート)が好ましく、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物としては、グリセリンセリンとステアリン酸とのフルエステル化物(グリセリントリステアリレート)、ペンタエリスリトールとステアリン酸とのフルエステル化物(ペンタエリスリトールテトラステアリレート)が好ましく、特にペンタエリスリトールテトラステアリレートが好ましい。
【0081】
なお、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0082】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が、脂肪族アルコールと脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物等の離型剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して、通常2質量部以下であり、好ましくは1質量部以下である。離型剤の含有量が多過ぎると耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染等の問題がある。
【0083】
離型剤として、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物と、多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物とを併用する場合、これらの使用割合(質量比)は、モノ脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物:多価脂肪族アルコールとモノ脂肪族カルボン酸とのフルエステル化物=1:1〜10とすることが、これらを併用することによる上記の効果を確実に得る上で好ましい。
【0084】
<紫外線吸収剤>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤を含有することで、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の耐候性を向上させることができる。
【0085】
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の機械物性が良好なものになる。
【0086】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチル−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミル)−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]等が挙げられ、なかでも2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2N−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]が好ましく、特に2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。このようなベンゾトリアゾール化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ701」、「シーソーブ705」、「シーソーブ703」、「シーソーブ702」、「シーソーブ704」、「シーソーブ709」、共同薬品社製「バイオソーブ520」、「バイオソーブ582」、「バイオソーブ580」、「バイオソーブ583」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ71」、「ケミソーブ72」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV5411」、アデカ社製「LA−32」、「LA−38」、「LA−36」、「LA−34」、「LA−31」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「チヌビンP」、「チヌビン234」、「チヌビン326」、「チヌビン327」、「チヌビン328」等が挙げられる。
【0087】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−n−ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられ、このようなベンゾフェノン化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ100」、「シーソーブ101」、「シーソーブ101S」、「シーソーブ102」、「シーソーブ103」、共同薬品社製「バイオソーブ100」、「バイオソーブ110」、「バイオソーブ130」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ10」、「ケミソーブ11」、「ケミソーブ11S」、「ケミソーブ12」、「ケミソーブ13」、「ケミソーブ111」、BASF社製「ユビヌル400」、BASF社製「ユビヌルM−40」、BASF社製「ユビヌルMS−40」、サイテックインダストリーズ社製「サイアソーブUV9」、「サイアソーブUV284」、「サイアソーブUV531」、「サイアソーブUV24」、アデカ社製「アデカスタブ1413」、「アデカスタブLA−51」等が挙げられる。
【0088】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4−tert−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられ、このようなサリシレート化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ201」、「シーソーブ202」、ケミプロ化成社製「ケミソーブ21」、「ケミソーブ22」等が挙げられる。
【0089】
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等が挙げられ、このようなシアノアクリレート化合物としては、具体的には例えば、シプロ化成社製「シーソーブ501」、共同薬品社製「バイオソーブ910」、第一化成社製「ユビソレーター300」、BASF社製「ユビヌルN−35」、「ユビヌルN−539」等が挙げられる。
【0090】
オギザニリド化合物の具体例としては、例えば、2−エトキシ−2’−エチルオキザリニックアシッドビスアリニド等が挙げられ、このようなオキザリニド化合物としては、具体的には例えば、クラリアント社製「サンデュボアVSU」等が挙げられる。
【0091】
マロン酸エステル化合物としては、2−(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。このようなマロン酸エステル化合物としては、具体的には例えば、クラリアントジャパン社製「PR−25」、チバ・スペシャリティケミカルズ社製「B−CAP」等が挙げられる。
【0092】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が紫外線吸収剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.4質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、耐候性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
なお、紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0093】
<染顔料>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって染顔料を含有していてもよい。染顔料を含有することで、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の隠蔽性、耐候性を向上できるほか、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品のデザイン性を向上させることができる。
【0094】
染顔料としては、例えば、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
【0095】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料;群青などの珪酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
【0096】
有機顔料及び有機染料としては、例えば、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料;ニッケルアゾイエロー等のアゾ系染顔料;チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料;アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。
【0097】
これらの中では、熱安定性の点から、酸化チタン、カーボンブラック、シアニン系、キノリン系、アンスラキノン系、フタロシアニン系化合物などが好ましい。
【0098】
なお、染顔料は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
また、染顔料は、押出時のハンドリング性改良、樹脂組成物中への分散性改良の目的のために、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)又は他の熱可塑性樹脂とマスターバッチ化されたものも用いてもよい。
【0099】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が染顔料を含有する場合、その含有量は、必要な意匠性に応じて適宜選択すればよいが、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.5質量部以下である。染顔料の含有量が前記範囲の下限値以下の場合は、着色効果が十分に得られない可能性があり、染顔料の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ、金型汚染を引き起こす可能性がある。
【0100】
<帯電防止剤>
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望によって帯電防止剤を含有していてもよい。帯電防止剤は特に限定されないが、好ましくは下記一般式(III)で表されるスルホン酸ホスホニウム塩である。
【0102】
(一般式(III)中、R
11は炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、置換基を有していてもよく、R
12〜R
15は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じでも異なっていてもよい。)
【0103】
前記一般式(III)中のR
11は、炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であるが、透明性や耐熱性、ポリカーボネート樹脂への相溶性の観点からアリール基の方が好ましく、炭素数1〜34、好ましくは5〜20、特に、10〜15のアルキル基で置換されたアルキルベンゼン又はアルキルナフタリン環から誘導される基が好ましい。また、一般式(III)中のR
12〜R
15は、各々独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であるが、好ましくは炭素数2〜8のアルキルであり、更に好ましくは3〜6のアルキル基であり、特に、ブチル基が好ましい。
【0104】
このようなスルホン酸ホスホニウム塩の具体例としては、ドデシルスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルオクチルホスホニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラオクチルホスホニウム、オクタデシルベンゼンスルホン酸テトラエチルホスホニウム、ジブチルベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム、ジブチルナフチルスルホン酸トリフェニルホスホニウム、ジイソプロピルナフチルスルホン酸トリオクチルメチルホスホニウム等が挙げられる。中でも、ポリカーボネートとの相溶性及び入手が容易な点で、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウムが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物が帯電防止剤を含有する場合、その含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して、0.1〜5.0質量部であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部、更に好ましくは0.3〜2.0質量部、特に好ましくは0.5〜1.8質量部である。帯電防止剤の含有量が0.1質量部未満では、帯電防止の効果は得られず、5.0質量部を超えると透明性や機械的強度が低下し、成形品表面にシルバーや剥離が生じて外観不良を引き起こし易い。
【0106】
<その他の樹脂成分>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない限りにおいて、樹脂成分として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂以外の他の樹脂成分を含有していてもよい。配合し得る他の樹脂成分としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂、水添ポリスチレン樹脂、ポリアクリルスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、SMA樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、(A)成分以外のポリカーボネート樹脂、非晶性ポリアルキレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、非晶性ポリアミド樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1、環状ポリオレフィン樹脂、非晶性ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルフォンなどが挙げられ、好ましくは、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリメタクリルメタクリレート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0107】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることによる本発明の効果を得るために、これらの他の樹脂成分は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)縮合型リン系難燃剤との合計100質量部に対して40質量部以下とすることが好ましい。
【0108】
<その他の添加剤>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、所望の諸物性を著しく損なわない限り、必要に応じて、上述したもの以外にその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、無機フィラー、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、摺動性改質剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤などの各種樹脂添加剤などが挙げられる。これらの樹脂添加剤は1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0109】
[難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用することができる。
【0110】
その具体例を挙げると、本発明に係る(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)縮合型リン系難燃剤及び(C)コア/シェル型エラストマー、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサー、スーパーミキサーなどの各種混合機を用いて予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。
【0111】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
【0112】
また、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を製造することもできる。
また、例えば、分散し難い成分を混合する際には、その分散し難い成分を予め水や有機溶剤等の溶媒に溶解又は分散させ、その溶液又は分散液と混練するようにすることで、分散性を高めることもできる。
【0113】
上記方法で各成分を予め混合した後、溶融混練する方法としてはバンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどを使用する方法が挙げられる。
【0114】
[難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂成形品]
本発明の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、通常、任意の形状に成形して芳香族ポリカーボネート樹脂成形品として用いる。この成形品の形状、模様、色彩、寸法などに制限はなく、その成形品の用途に応じて任意に設定すればよい。
【0115】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂成形品の製造方法は、特に限定されず、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナー方式を使用した成形法を用いることも出来る。
【0116】
このようにして製造される本発明の成形品の適用例を挙げると、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品が挙げられる。これらの中でも、本発明の成形品は、その優れた難燃性、表面外観、耐衝撃性等の機械的物性から、特に電気・電子機器の筐体に好適用いられる。
【0117】
前記の電気・電子機器としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビ、カーナビ、電子ペーパーなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。なかでも、携帯電話、携帯ステレオ、モバイルパソコン等の電池パックや、メモリーカード、SDカード等のカード型情報記録媒体等の小型補助記憶装置の外郭部を構成する筐体等の薄肉化が求められる用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。なお、以下の説明において「部」とは、特に断らない限り質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0119】
以下の実施例及び比較例で用いた測定・評価法並びに使用材料は、以下の通りである。
【0120】
[測定・評価法]
<難燃性>
100℃、5時間以上乾燥した樹脂組成物のペレットを射出成形機(住友重機械工業社製、SE100D)にてシリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ127mm、幅12.7mm、肉厚3.2mmの試験片を得た。得られた試験片について、UL94規格に準拠して燃焼試験を行い、V−0に適合するものを「○」、V−0に不適合のものを「×」とした。
【0121】
<ノッチ付シャルピー衝撃強度>
各樹脂組成物のペレットを、射出成形機(住友重機械工業社製、SG75Mk−IIサイキャップ)にてシリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で射出成形を行い、ISO179規格において試験片の厚みを3.0mmに変更した試験片を得た。ノッチの形状はISO179規格に従いノッチ半径0.25mm、残り幅約8.0mmになるよう切削した。衝撃試験はISO179規格に準じて行った。
【0122】
<耐熱安定性(DTUL)>
上記ノッチ付シャルピー衝撃強度の評価におけると同様の各樹脂組成物のペレットおよび射出成形機を用いてISO多目的試験(4mm)を成形し、ISO75−1及びISO75−2に準拠して荷重1.80MPaの条件で荷重たわみ温度を測定した。なお、表中「DTUL」と表記する。
【0123】
<成形品外観>
各樹脂組成物のペレットを射出成形機(住友重機械工業社製、SE100D)を用いてシリンダー温度320℃、金型温度80℃の条件下で射出成形を行い、長さ30mm、幅20mm、厚み0.3mmのプレートを成形した。最初の20ショットを廃棄し、21ショット目から70ショット目の計50ショットの成形品中の白点凝集物を目視にて観察し、下記基準で評価した。
○:成形品50個中、白点異物を含む成形品が3個未満
×:成形品50個中、白点異物を含む成形品が3個以上
【0124】
[使用材料]
<(A)芳香族ポリカーボネート樹脂>
界面重合法で製造されたビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)S−3000F」、粘度平均分子量25000)
【0125】
<(B)縮合型リン系難燃剤>
下記構造式で表される1,3−ビス[(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド−10−イル)オキシ]ベンゼン(特許文献4の合成例2の方法に従って合成したもの)
【0126】
【化5】
【0127】
<(C)コア/シェル型エラストマー>
S−2100:メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−ジメチルシロキサン共重合体:三菱レイヨン(株)製「メタブレンS−2100」
EXL2603:ブタンジエン−アクリル酸アルキル−メタクリル酸アルキル共重合体(ローム・アンド・ハース社製「パラロイドEXL2603」)
M711:ブタンジエン−アクリル酸アルキル−メタクリル酸アルキル共重合体((株)カネカ製「カネエースM711」)
MR−01:メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル−ジメチルシロキサン共重合体((株)カネカ製「カネエースMR−01」)
【0128】
<(D)フィブリル化フッ素系樹脂>
ポリフルオロエチレン(PTFE)(ダイキン工業(株)社製「ポリフロンF−201L」)
【0129】
<(X)他のリン系難燃剤(芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤)>
1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)(大八化学工業(株)社製「PX−200」)
【0130】
<(Y)他のコア/シェル型エラストマー>
EXL2315:アクリル酸アルキル−メタクリル酸アルキル共重合体(ローム・アンド・ハース社製「パラロイドEXL−2315」)
【0131】
[実施例1
,2,5〜7、比較例1〜9
、参考例3,4]
<樹脂組成物の調製>
上記の各成分を、表1に示す質量比で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製(TEX30HSST)に供給し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/時間、バレル温度270℃の条件で混練し、ストランド状に押出した溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化して、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。各樹脂組成物のペレットを用いて前述の評価を行い、結果を表1に示した。
【0132】
[評価結果]
【表1】
【0133】
表1の結果より次のことがわかる。
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂に、(B)縮合型リン系難燃剤と(C)コア/シェル型エラストマーを所定の割合で含む本発明の実施例1
,2,5〜7の難燃性芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性、耐衝撃性、耐熱安定性に優れ、成形品の外観も良好である。
【0134】
これに対して、(C)コア/シェル型エラストマーを含まない比較例1,2は耐衝撃性に劣り、また、本発明で用いる(C)コア/シェル型エラストマーの代りに、(Y)他のコア/シェル型エラストマーを用いた比較例3では、難燃性が損なわれる。
(B)縮合型リン系難燃剤を用いてもその配合量が少ない比較例4では、難燃性の改善効果が十分でない。逆に、(B)縮合型リン系難燃剤の配合量が多過ぎる比較例5では、耐衝撃性、耐熱安定性が劣るものとなる。
(B)縮合型リン系難燃剤と、(D)フィブリル化フッ素系樹脂を配合し、(C)コア/シェル型エラストマーを含まない比較例6では、難燃性、耐衝撃性、成形品外観が劣る。
従来の縮合リン酸エステル系難燃剤を用いた比較例7〜9のうち、(D)フィブリル化フッ素系樹脂を含まない比較例7,8では、難燃性が劣る。また、(C)コア/シェル型エラストマーと(D)フィブリル化フッ素系樹脂を含まない比較例8では、耐衝撃性と耐熱安定性も劣るものとなる。(C)コア/シェル型エラストマーを配合せず、(D)フィブリル化フッ素系樹脂を配合した比較例9では、耐衝撃性、熱安定性、成形品外観が劣る。