(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸入室に導入される冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機の吐出容量を、前記吐出室からクランク室に導入する冷媒の流量を調整することにより変化させる可変容量圧縮機用制御弁であって、
前記吐出室と前記クランク室とを連通させる主通路と、前記クランク室と前記吸入室とを連通させる副通路とが形成されたボディと、
前記主通路に設けられた主弁座と、
前記主弁座に着脱して主弁を開閉する主弁体と、
所定の被感知圧力を感知して前記主弁の開閉方向に変位する感圧部材を含み、その感圧部材の変位に応じて前記主弁体に開弁方向の駆動力を付与可能なパワーエレメントと、
通電により前記パワーエレメントの駆動力に対抗する力を発生可能なソレノイドと、
前記パワーエレメントと前記ソレノイドとの間に配置され、前記ソレノイドの力を前記パワーエレメントに伝達するための作動ロッドと、
前記副通路に設けられた副弁座と、
前記副弁座に着脱して副弁を開閉する副弁体と、
前記副弁体を閉弁方向に付勢する付勢部材と、
を備え、
前記ソレノイドに前記主弁の制御電流が供給された状態においては前記副弁体が前記副弁座に着座して前記パワーエレメントの固定端として機能し、前記ソレノイドに前記制御電流よりも大きい設定値以上の電流が供給されたときには前記副弁体が前記副弁座から離間して前記パワーエレメントと一体変位できるよう、前記付勢部材の付勢力が設定されていることを特徴とする可変容量圧縮機用制御弁。
前記ボディには、前記吐出室の冷媒を前記主通路に導入するための吐出室連通ポートと、前記主弁を経た冷媒を前記クランク室へ導出するための第1クランク室連通ポートと、前記クランク室の冷媒を前記副通路に導入するための第2クランク室連通ポートと、前記副弁を経た冷媒を前記吸入室に導出するための吸入室連通ポートとが設けられ、
前記第1クランク室連通ポートと前記第2クランク室連通ポートとが、前記ボディにおいて隣接するように各ポートが配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の可変容量圧縮機用制御弁。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を上下と表現することがある。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る制御弁の構成を示す断面図である。
制御弁1は、自動車用空調装置の冷凍サイクルに設置される図示しない可変容量圧縮機(単に「圧縮機」という)の吐出容量を制御する電磁弁として構成されている。この圧縮機は、冷凍サイクルを流れる冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒にして吐出する。そのガス冷媒は凝縮器(外部熱交換器)にて凝縮され、さらに膨張装置により断熱膨張されて低温・低圧の霧状の冷媒となる。この低温・低圧の冷媒が蒸発器にて蒸発し、その蒸発潜熱により車室内空気を冷却する。蒸発器で蒸発された冷媒は、再び圧縮機へと戻されて冷凍サイクルを循環する。圧縮機は、自動車のエンジンによって回転駆動される回転軸を有し、その回転軸に取り付けられた揺動板に圧縮用のピストンが連結されている。その揺動板の角度を変化させてピストンのストロークを変えることにより、冷媒の吐出量が調整される。制御弁1は、その圧縮機の吐出室からクランク室へ導入する冷媒流量を制御することで揺動板の角度、ひいてはその圧縮機の吐出容量を変化させる。
【0015】
制御弁1は、圧縮機の吸入圧力Ps(「被感知圧力」に該当する)を設定圧力に保つように、吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を制御するいわゆるPs感知弁として構成されている。制御弁1は、弁本体2とソレノイド3とを一体に組み付けて構成される。弁本体2は、圧縮機の運転時に吐出冷媒の一部をクランク室へ導入するための冷媒通路を開閉する主弁と、圧縮機の起動時にクランク室の冷媒を吸入室へ逃がすいわゆるブリード弁として機能する副弁とを含む。ソレノイド3は、主弁を開閉方向に駆動してその開度を調整し、クランク室へ導入する冷媒流量を制御する。弁本体2は、段付円筒状のボディ5、ボディ5の内部に設けられた主弁および副弁、主弁の開度を調整するためにソレノイド力に対抗する力を発生するパワーエレメント6等を備えている。パワーエレメント6は、「感圧部」として機能する。
【0016】
ボディ5には、その上端側からポート12,14,16,18が設けられている。ポート12および18は「クランク室連通ポート」として機能し、圧縮機のクランク室に連通する。ポート14は「吸入室連通ポート」として機能し、圧縮機の吸入室に連通する。ポート16は「吐出室連通ポート」として機能し、圧縮機の吐出室に連通する。ボディ5の上端開口部を閉じるように端部材13が固定されている。端部材13にはボディ5の内外を連通する複数の連通孔が設けられ、それらの連通孔がポート12を構成している。ボディ5の下端部はソレノイド3の上端部に連結されている。
【0017】
ボディ5内には、ポート16とポート18とを連通させる主通路と、ポート12とポート14とを連通させる副通路とが形成されている。主通路には主弁が設けられ、副通路には副弁が設けられる。制御弁1は、一端側から副弁、パワーエレメント6、主弁、ソレノイド3が順に配置される構成を有する。主通路には主弁孔20と主弁座22が設けられる。副通路には副弁孔32と副弁座34が設けられる。
【0018】
ポート16は、吐出室から吐出圧力Pdの冷媒を導入する。ポート18は、圧縮機の定常動作時に主弁を経由した冷媒をクランク室へ向けて導出する。一方、ポート12は、圧縮機の起動時にクランク室から排出されたクランク圧力Pcの冷媒を導入する。このとき導入された冷媒は、副弁に導かれる。ポート14は、圧縮機の定常動作時に吸入圧力Psの冷媒を導入する一方、圧縮機の起動時には副弁を経由した冷媒を吸入室へ向けて導出する。ポート16には、環状のストレーナ15が取り付けられている。ストレーナ15は、ボディ5の内部への異物の侵入を抑制するためのフィルタを含む。
【0019】
ポート16とポート18との間に主弁孔20が設けられ、その下端開口部に主弁座22が形成されている。ポート16とポート14との間にはガイド孔25が設けられている。ボディ5の下部(ポート18の主弁孔20とは反対側)にはガイド孔26が設けられている。ボディ5の下半部には、円筒状の主弁体30が挿通されている。主弁体30は、その一端側がガイド孔25に摺動可能に支持され、他端側がガイド孔26に摺動可能に支持される態様で、ボディ5により2点支持されている。主弁体30がポート18側から主弁座22に着脱することにより主弁を開閉し、吐出室からクランク室へ流れる冷媒流量を調整する。
【0020】
一方、ボディ5におけるポート12とポート14との間には、リング状の弁座形成部材31が圧入されている。その弁座形成部材31の内方に副弁孔32が設けられ、その上端開口部に副弁座34が形成されている。弁座形成部材31のポート12側には、円板状の副弁体36が配設されている。副弁体36が副弁座34に着脱することにより副弁を開閉する。副弁体36は、副通路をポート12に連通する容量室37とポート14に連通する作動室39とに区画する。副弁体36と端部材13との間には、副弁体36を閉弁方向に付勢するスプリング40(「付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0021】
また、ボディ5の軸線に沿って長尺状の作動ロッド38が設けられている。作動ロッド38の上端部は、伝達部材33を介してパワーエレメント6と作動連結可能に接続される。作動ロッド38の下端部は、ソレノイド3の後述するプランジャ50に作動連結可能に接続されている。作動ロッド38の上半部は主弁体30を貫通し、その上端部にて伝達部材33を下方から支持する。伝達部材33には、内外を連通させる連通孔35が設けられている。連通孔35は、主弁体30の内部通路43と作動室39とを連通させる。主弁体30とソレノイド3との間には、主弁体30を主弁の閉弁方向に付勢するスプリング42(「他の付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0022】
パワーエレメント6は、作動室39に配置され、副弁体36と伝達部材33との間に挟持されている。パワーエレメント6は、吸入圧力Psを感知して変位するベローズ45(「感圧部材」として機能する)を含み、そのベローズ45の変位に応じて主弁体30に開弁方向の駆動力を付与する。この駆動力は、伝達部材33を介して主弁体30に伝達される。パワーエレメント6と伝達部材33との間には、伝達部材33を主弁体30側に付勢するスプリング44(「付勢部材」として機能する)が介装されている。本実施形態では、スプリング44の荷重がスプリング42の荷重よりも大きく設定され、スプリング40の荷重がスプリング44の荷重よりもさらに大きく設定されている。ボディ5の下端部とソレノイド3との間には、圧力室24が形成されている。作動室39の吸入圧力Psは、連通孔35および内部通路43を介して圧力室24に導入される。
【0023】
一方、ソレノイド3は、段付円筒状のコア46と、コア46の下端開口部を封止するように組み付けられた有底円筒状のスリーブ48と、スリーブ48に収容されてコア46と軸線方向に対向配置された円筒状のプランジャ50と、コア46およびスリーブ48に外挿された円筒状のボビン52と、ボビン52に巻回され、通電により磁気回路を生成する電磁コイル54と、電磁コイル54を外方から覆うように設けられ、ヨークとしても機能する円筒状のケース56と、ケース56の下端開口部を封止するように設けられた端部材58とを備える。なお、本実施形態においては、ボディ5、コア46、ケース56および端部材58が制御弁1全体のボディを形成している。
【0024】
弁本体2とソレノイド3とは、ボディ5の下端部がコア46の上端開口部に圧入されることにより固定されている。コア46と主弁体30との間に圧力室24が形成されている。コア46の上端部にはリング状の軸支部材60が圧入されており、作動ロッド38は、その軸支部材60によって軸線方向に摺動可能に支持されている。軸支部材60の外周面の所定箇所には、軸線に平行な連通溝が形成されている。圧力室24の吸入圧力Psは、その連通溝、作動ロッド38とコア46との間隙により形成される連通路62を通ってスリーブ48の内部にも導かれる。
【0025】
連通路62は、スリーブ48内をオイルダンパ室とするためのオリフィスとして機能する。すなわち、本実施形態では、制御弁1の製造工程において、圧縮機の潤滑用として冷媒に含まれるオイルと同種のオイルを予めスリーブ48内に入れておく。本実施形態では、軸支部材60に設けられた連通溝が、スリーブ48へのオイルの出入りに対して抵抗となる絞り通路として機能する。このような構成により、スリーブ48をオイルダンパ室として機能させることができ、そのスリーブ48に配置されたプランジャ50の微小振動などが抑制される。その結果、そのような微小振動による騒音の発生が防止または抑制される。なお、変形例においては、連通路62が、スリーブ48へのオイルの出入りに対して抵抗となる絞り通路として機能するようにしてもよい。すなわち、軸支部材60に設けられた連通溝および連通路62の少なくとも一方が、絞り通路として機能するようにすればよい。
【0026】
スリーブ48は非磁性材料からなる。プランジャ50の側面には軸線に平行な複数の連通溝66が設けられ、プランジャ50の下端面には半径方向に延びて内外を連通する複数の連通溝68が設けられている。このような構成により、図示のようにプランジャ50が下死点に位置しても、吸入圧力Psがプランジャ50とスリーブ48との間隙を通って背圧室70に導かれるようになっている。
【0027】
ボビン52からは電磁コイル54につながる一対の接続端子72が延出し、それぞれ端部材58を貫通して外部に引き出されている。同図には説明の便宜上、その一対の片方のみが表示されている。端部材58は、ケース56に内包されるソレノイド3内の構造物全体を下方から封止するように取り付けられている。端部材58は、耐食性を有する樹脂材のモールド成形(射出成形)により形成され、その樹脂材がケース56と電磁コイル54との間隙にも満たされている。このように樹脂材がケース56と電磁コイル54との間隙に樹脂材を満たすことで、電磁コイル54で発生した熱をケース56に伝達しやすくし、その放熱性能を高めている。端部材58からは接続端子72の先端部が引き出されており、図示しない外部電源に接続される。
【0028】
スプリング44は、コア46とプランジャ50とを両者を互いに離間させる方向に付勢するオフばねとしても機能する。なお、作動ロッド38の下端部についてはプランジャ50に圧入固定してもよいが、当接させるだけでもよい。伝達部材33とパワーエレメント6との間にスプリング44(オフばね)を設けているため、作動ロッド38とプランジャ50との圧入固定を省略しても問題ないからである。むしろ、このような圧入固定をなくすことにより、作動ロッド38およびプランジャ50の各部品加工性およびそれらの組立性を向上させることができる。
【0029】
作動ロッド38は、プランジャ50により下方から支持され、伝達部材33を介して主弁体30と作動連結可能に構成される一方、伝達部材33およびパワーエレメント6を介して副弁体36と作動連結可能に構成されている。作動ロッド38は、コア46とプランジャ50との吸引力であるソレノイド力を、主弁体30および副弁体36に適宜伝達する。一方、作動ロッド38には、パワーエレメント6の伸縮作動による駆動力(「感圧駆動力」ともいう)がソレノイド力と対抗するように負荷される。すなわち、主弁の制御状態においては、ソレノイド力と感圧駆動力とにより調整された力が伝達部材33を介して主弁体30に作用し、主弁の開度を適切に制御する。
【0030】
なお、スプリング40の荷重が十分に大きく設定されているため、主弁の制御状態においては基本的に副弁は開かない。すなわち、ソレノイド3に主弁の制御電流が供給された状態においては、副弁体36が副弁座34に着座してパワーエレメント6の固定端として機能するようになる。このため、ベローズ45が吸入圧力Psの大きさに応じて主弁の開弁方向に安定に伸長または収縮することができる。その結果、主弁体30の動作も安定し、主弁の開度が安定に調整されるようになる。
【0031】
一方、主弁の閉時には、ソレノイド力の大きさに応じて作動ロッド38が主弁体30に対して相対変位し、副弁を開弁させることができる。すなわち、ソレノイド3に主弁の制御電流よりも大きい設定値以上の電流(起動電流)が供給されると、ソレノイド力がスプリング40の荷重に打ち勝ち、パワーエレメント6および副弁体36を一体的に押し上げる。その結果、副弁体36が副弁座34から離間して副弁が開弁する。それにより、ブリード機能が発揮される。言い換えれば、ソレノイド3に設定値以上の電流が供給されたときに副弁体36が副弁座34から離間してパワーエレメント6と一体変位できるよう、スプリング40の荷重が設定されている。本実施形態では、主弁の制御電流を0.68Aまでの範囲に設定し、上記設定値を0.8Aに設定しているが、それ以外の電流値範囲を設定してもよい。なお、本実施形態では制御弁1の起動時にソレノイド3に対してその設定値以上の起動電流を供給することにより副弁を開き、ブリード機能を発揮させるが、制御弁1の起動時以外(例えば主弁の制御時)にも必要に応じて副弁を開弁させてもよい。
【0032】
図2は、
図1の上半部に対応する部分拡大断面図である。
主弁体30は、その中間部に設けられたテーパ状の段部にて主弁座22に着脱し、主弁を開閉する。主弁体30の上端部の内径がやや拡径され、伝達部材33を下方から係止可能な係止部74が形成されている。伝達部材33は、有底円筒状をなし、その下端開口部に半径方向外向きに延出するフランジ部76が設けられている。伝達部材33は、そのフランジ部76において係止部74に着脱する。連通孔35は、伝達部材33の側部に設けられている。作動ロッド38は、その上部が縮径し、主弁体30を貫通する。作動ロッド38の上端部が伝達部材33に収容され、その先端面が伝達部材33の底部に当接するようにして接続される。
【0033】
パワーエレメント6は、ベース部材84とベローズ45を含んで構成される。ベース部材84は、金属材をプレス成形して有底円筒状に構成されており、その上端開口部に半径方向外向きに延出するフランジ部86を有する。ベローズ45は、蛇腹状の本体の下端部が閉止され、上端開口部がフランジ部86の下面に気密に溶接されている。ベローズ45の内部は密閉された基準圧力室Sとなっており、ベローズ45とフランジ部86との間に、ベローズ45を伸長方向に付勢するスプリング88が介装されている。基準圧力室Sは、本実施形態では真空状態とされている。ベローズ45は、ベース部材84の本体を軸芯として伸縮する。ベローズ45は、フランジ部86とは反対側端部が伝達部材33に支持されている。一方、ベース部材84の上端面(ベローズ45とは反対側面)に副弁体36が当接するように設けられている。
【0034】
すなわち、パワーエレメント6および副弁体36が、端部材13と伝達部材33との間に弾性的に支持されている。ベース部材84の本体は、ベローズ45の内方をその底部近傍まで延在し、その底部がベローズ45の底部に近接配置される。伝達部材33は、その上端面がベローズ45の下端面と当接可能となっている。ベローズ45は、作動室39の吸入圧力Psと基準圧力室Sの基準圧力との差圧に応じて軸線方向(主弁の開閉方向)に伸長または収縮する。ただし、その差圧が大きくなってもベローズ45が所定量収縮すると、ベース部材84の本体が当接して係止されるため、その収縮は規制される。
【0035】
副弁体36の中央部には、挿通孔90が設けられている。端部材13の下面中央からは下方に向けて円柱状の軸部92が延設されている。軸部92の軸線と作動ロッド38の軸線とが一致するように構成されている。軸部92は挿通孔90を貫通してベース部材84の上部に部分的に挿通されている。このような構成により、ベース部材84が軸部92に摺動するようにして、パワーエレメント6が安定に支持されつつ軸線方向に変位可能とされている。そして、端部材13のボディ5への圧入量を調整することにより、スプリング40の荷重(副弁を開弁させるための設定荷重)を調整できるようにされている。
【0036】
本実施形態においては、主弁体30のガイド孔25との摺動部の有効受圧径A(シール部径)と、主弁体30の主弁における有効受圧径B(シール部径)とが等しく設定されている。このため、主弁体30に作用する吐出圧力Pdの影響がキャンセルされる。また、主弁体30のガイド孔26との摺動部の有効受圧径C(シール部径)は、有効受圧径A,Bよりもやや大きいものの、ほぼ等しく設定されている。このため、主弁の制御状態において主弁体30に直接作用するクランク圧力Pcおよび吸入圧力Psの影響も実質的にキャンセルされる。その結果、主弁の制御状態において、主弁体30は、作動室39にてパワーエレメント6が受ける吸入圧力Psに基づいて開閉動作することになる。つまり、制御弁1は、いわゆるPs感知弁として機能する。
【0037】
このように、有効受圧径A,B,Cをほぼ等しくするとともに、主弁体30の内部通路43を上下に貫通させることで、主弁体30に作用する圧力(Pd,Pc,Ps)の影響をキャンセルすることができる。すなわち、伝達部材33,主弁体30,作動ロッド38およびプランジャ50の結合体の前後(図では上下)の圧力を同じ圧力(吸入圧力Ps)とすることができ、それにより圧力キャンセルが実現される。これにより、ベローズ45の径に依存することなく主弁体30の径を設定することができる。すなわち、ベローズ45の有効受圧径を有効受圧径A,B,Cと等しくしてもよいし、大きくあるいは小さくしてもよい。このため、ベローズ45や主弁体30の設計自由度が高い。
【0038】
このような構成において、制御弁1の安定した制御状態においては、作動室39の吸入圧力Psが所定の設定圧力Psetとなるよう主弁が自律的に動作する。この設定圧力Psetは、基本的にはスプリング42,44,88のばね荷重によって予め調整され、蒸発器内の温度と吸入圧力Psとの関係から、蒸発器の凍結を防止できる圧力値として設定される。設定圧力Psetは、ソレノイド3への供給電流(設定電流)を変えることにより変化させることができる。
【0039】
一方、制御弁1の起動時等においてソレノイド3に設定値以上の電流が供給されると、スプリング40の荷重に打ち勝つソレノイド力がパワーエレメント6を介して副弁体36に付与される。その結果、副弁体36と副弁座34とを離間させて副弁を開くことができる。すなわち、制御弁1は、ソレノイド3の駆動力を用いて副弁を強制的に開弁させるための「強制開弁機構」を有する。
【0040】
次に、制御弁の動作について説明する。
図3〜
図5は、制御弁の動作を表す図であり、
図2に対応する。既に説明した
図2は、制御弁の最小容量運転状態を示している。
図3および
図4は、制御弁の起動時等にブリード機能を動作させたときの状態を示している。
図3は吸入圧力Psが高いときの状態を示し、
図4は吸入圧力Psが低いときの状態を示している。
図5は、比較的安定した制御状態を示している。以下では
図1に基づき、適宜
図2〜
図5を参照しつつ説明する。
【0041】
制御弁1においてソレノイド3が非通電のとき、つまり自動車用空調装置が動作していないときには、コア46とプランジャ50との間に吸引力が作用しない。一方、通常の環境下では吸入圧力Psは比較的高い状態にある。このため、
図2に示すように、ベローズ45が縮小した状態でスプリング44の付勢力が伝達部材33を介して主弁体30に伝達される。その結果、主弁体30が主弁座22から離間して主弁が全開状態となる。このとき、パワーエレメント6は実質的に機能せず、副弁体36には開弁方向の力が作用しない。このため、副弁は閉弁状態を維持する。
【0042】
一方、自動車用空調装置の起動時にソレノイド3の電磁コイル54に上記設定値以上の起動電流が供給されると、例えば
図3に示すように、ソレノイド力がスプリング40の付勢力に打ち勝ち、パワーエレメント6および副弁体36が一体的に押し上げられる。その結果、副弁体36が副弁座34から離間して副弁が開かれ、ブリード機能が有効に発揮される。この動作過程で作動ロッド38により伝達部材33が押し上げられるため、主弁体30がスプリング42の付勢力により押し上げられて主弁座22に着座する。その結果、主弁は閉弁状態となる。すなわち、ソレノイド3に起動電流が供給されると、主弁が閉じてクランク室への吐出冷媒の導入を規制すると同時に副弁が直ちに開いてクランク室内の冷媒を吸入室に速やかにリリーフさせる。その結果、圧縮機を速やかに起動させることができる。
【0043】
また、例えば車両が低温環境下におかれた場合のように、吸入圧力Psが低く、
図4に示すようにベローズ45が伸長した状態においても、ソレノイド3に上記設定値以上の起動電流を供給することで副弁を開弁させることができ、圧縮機を速やかに起動させることができる。すなわち、
図3および
図4に示す状態においては、副弁体36がパワーエレメント6の固定端として機能しなくなり、パワーエレメント6が宙づりの状態となるため、パワーエレメント6の駆動力がソレノイド力に対抗することは実質的にない。このため、副弁を開くためにはスプリング40の荷重に打ち勝つだけのソレノイド力を発生させればよい。つまり、ソレノイド3に上記設定値以上の電流を供給すれば足りる。
【0044】
ソレノイド3に供給される電流値が主弁の制御電流値範囲にあるときには、スプリング40の荷重がソレノイド力に比べて十分に大きいため、
図5に示すように、副弁体36が副弁座34に着座し、副弁は閉弁状態を維持する。一方、吸入圧力Psが比較的低いためにベローズ45が伸長し、主弁体30が動作して主弁の開度を調整する。このとき、主弁体30は、スプリング44による開弁方向の力と、スプリング42による閉弁方向の力と、閉弁方向のソレノイド力と、吸入圧力Psに応じたパワーエレメント6による開弁方向の力とがバランスした弁リフト位置にて停止する。
【0045】
そして、例えば冷凍負荷が大きくなり吸入圧力Psが設定圧力Psetよりも高くなると、ベローズ45が縮小するため、主弁体30が相対的に上方(閉弁方向)へ変位する。その結果、主弁の弁開度が小さくなり、圧縮機は吐出容量を増やすよう動作する。その結果、吸入圧力Psが低下する方向に変化する。逆に、冷凍負荷が小さくなって吸入圧力Psが設定圧力Psetよりも低くなると、ベローズ45が伸長する。その結果、パワーエレメント6が主弁体30を開弁方向に付勢して主弁の弁開度が大きくなり、圧縮機は吐出容量を減らすよう動作する。その結果、吸入圧力Psが設定圧力Psetに維持される。
【0046】
このような定常制御が行われている間にエンジンの負荷が大きくなり、空調装置への負荷を低減させたい場合、制御弁1においてソレノイド3がオンからオフに切り替えられる。そうすると、コア46とプランジャ50との間に吸引力が作用しなくなるため、スプリング44の付勢力により主弁体30が主弁座22から離間し、主弁が全開状態となる。このとき、副弁体36は副弁座34に着座しているため、副弁は閉弁状態となる。それにより、圧縮機の吐出室からポート14に導入された吐出圧力Pdの冷媒は、全開状態の主弁を通過し、ポート12からクランク室へと流れることになる。したがって、クランク圧力Pcが高くなり、圧縮機は最小容量運転を行うようになる。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態では、ソレノイド3に供給する電流値に応じてパワーエレメント6の基端部を固定または可動とする構成とした。すなわち、主弁の制御状態においては副弁体36がパワーエレメント6の固定端として機能し、ソレノイド3に設定値以上の電流が供給されたときには副弁体36がパワーエレメント6と一体変位できるようにスプリング40の荷重を設定した。これにより、ソレノイド3に設定値以上の電流を供給しさえすれば、パワーエレメント6が感知する吸入圧力Psに依存することなく副弁を開き、ブリード機能を有効に発揮させることが可能となる。
【0048】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態に係る制御弁の上半部に対応する部分拡大断面図である。以下では第1実施形態との相異点を中心に説明する。なお、同図において第1実施形態とほぼ同様の構成部分については同一の符号を付している。
【0049】
制御弁201は、その組立後にパワーエレメント206の設定荷重(スプリング88の設定荷重)を容易に調整できるように構成されている点、および主弁体230の摺動部に異物の噛み込みによるロックが発生した場合に、それを解除するロック解除機構が設けられている点で第1実施形態とは異なる。制御弁201は、弁本体202とソレノイド203とを一体に組み付けて構成される。なお、本実施形態においても、ボディ205、コア246、ケース56および端部材58が制御弁201全体のボディを形成している。
【0050】
本実施形態では、ポート16,18の位置が、第1実施形態とは上下逆となっている。すなわち、主弁体230に対向配置されるポートとして、ソレノイド203に対して相対的に近い側に吐出圧力Pdを導入するポートが配置され、相対的に離れた側にクランク圧力Pcを導出するポートが配置されている。コア246の上端部には、第1実施形態のような軸支部材60は設けられていない。
【0051】
パワーエレメント206は、第1実施形態のパワーエレメント6を上下に反転したような態様でボディ205に配設される。ベローズ245の上面中央には凸部が設けられている。一方、副弁体236は、段付円板状をなし、その下面中央にはベローズ245の上面と相補形状の係合部237が設けられている。副弁体236とベローズ245とが係合することにより、両者の位置決めがなされるように構成されている。パワーエレメント206は、そのベース部材84が伝達部材33により下方から支持されている。スプリング44は、ベース部材84と伝達部材33との間に介装されている。
【0052】
副弁孔32および副弁座34は、ボディ205に一体成形されている。副弁体236は、その下端開口部の端面にて副弁座34に着脱する。ボディ205の上端部には端部材213が固定されている。端部材213は、リング状をなし、ボディ205の上端開口部が加締められることにより固定されている。端部材213と副弁体236との間には、副弁体236を閉弁方向に付勢するスプリング240(「付勢部材」として機能する)が介装されている。スプリング240は円錐形状をなし、小径の端部が副弁体236に接続され、大径の端部が端部材213に接続されている。これにより、パワーエレメント206の設定荷重を調整するための工具をボディ205の上端開口部から挿入し易くなっている。すなわち、本実施形態では、制御弁201を組み立てた後、副弁体236の上面中央部を変形させることにより、パワーエレメント206の設定荷重(スプリング88の設定荷重)を容易に調整できるようにされている。
【0053】
主弁体230の上部には隔壁270が設けられている。隔壁270は、その下面にて作動ロッド238と適宜係合連結可能な「被係合部」として機能する。作動ロッド238は、その上部が縮径し、隔壁270の中央に設けられた挿通孔を貫通する。作動ロッド238には、その縮径部の段差により係合部272が構成される。隔壁270の挿通孔の周囲には、冷媒を通過させるための複数の貫通孔276が形成されている。なお、作動ロッド238は、伝達部材33が係止部74に着座した状態においては、係合部272が隔壁270から少なくとも所定間隔Lをあけて離間するように段差の位置が設定されている。この所定間隔Lは、いわゆる「遊び」として機能する。
【0054】
ソレノイド力を大きくすると、作動ロッド238を主弁体230に対して相対変位させて伝達部材33を押し上げることができる。それにより、副弁体36と副弁座34とを離間させて副弁を開くことができる。また、係合部272と隔壁270とを係合(当接)させた状態でソレノイド力を主弁体230に直接伝達することができ、主弁体230を主弁の閉弁方向に大きな力で押圧することができる。この構成は、主弁体230とガイド孔25,26との摺動部への異物の噛み込みにより主弁体230がロックした場合に、それを解除するロック解除機構として機能する。
【0055】
本実施形態においても、主弁の制御状態においては副弁体236がパワーエレメント206の固定端として機能し、ソレノイド203に設定値以上の電流が供給されたときには副弁体236がパワーエレメント206と一体変位できるようにスプリング240の荷重が設定されている。これにより、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。そしてさらに、制御弁201の組み付けが概ね完了した状態で副弁体236の中央部を軸線方向に変形させることで、スプリング88の設定荷重を微調整することができ、設定圧力Psetを正確に調整することができる。
【0056】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態に係る制御弁の上半部に対応する部分拡大断面図である。以下では第1,第2実施形態との相異点を中心に説明する。同図において第1,第2実施形態とほぼ同様の構成部分については同一の符号を付している。
【0057】
制御弁301は、ポート12,14の位置が異なる以外は第2実施形態の制御弁201とほぼ同様の構成を有する。制御弁301は、弁本体302とソレノイド203とを一体に組み付けて構成される。なお、本実施形態においても、ボディ305、コア246、ケース56および端部材58が制御弁301全体のボディを形成している。
【0058】
ボディ305の上端開口部にポート14が設けられ、側部にポート12が設けられている。ポート12にも環状のストレーナ315が取り付けられている。ストレーナ315は、ボディ305の内部への異物の侵入を抑制するためのフィルタを含む。作動室39の下部に副弁孔32および副弁座34が設けられている。副弁体336は、有底円筒状をなし、その上底部に係合部237を有する。副弁体336は、第2実施形態の副弁体236よりも軸線方向に大きく構成され、その内方に作動室39を区画する。副弁体336は、ボディ305の上部に設けられたガイド孔325に摺動可能に支持され、軸線方向に動作可能となっている。副弁体336の下端開口部が副弁座34に着脱して副弁を開閉する。副弁体336の上底部の周縁部には、ポート14と作動室39とを連通させるための複数の連通孔340が設けられている。副弁が開弁されると、クランク室からポート12を介して導入された冷媒が、副弁、作動室39、連通孔340、ポート14を経て吸入室へリリーフされ、それによりブリード機能が発揮される。
【0059】
本実施形態においては、副弁体336のガイド孔325との摺動部の有効受圧径D(シール部径)と、副弁体336の副弁における有効受圧径E(シール部径)とが等しく設定されている(「キャンセル構造」に該当する)。このため、副弁体336に作用するクランク圧力Pcおよび吸入圧力Psの影響がキャンセルされる。
【0060】
本実施形態においても、第2実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、副弁体336にはクランク圧力Pcと吸入圧力Psとの差圧(Pc−Ps)が作用しないため、副弁体336に作用する閉弁方向の力が実質的にスプリング240の荷重のみとなる。すなわち、副弁体336の開閉作動が冷媒圧力に依存しないため、副弁を開弁させるためのソレノイド力の設定値(つまり電流設定値)をスプリング240の荷重に基づいて正確に設定することができる。さらに、クランク圧力Pcが導入されるポート12と、クランク圧力Pcが導出されるポート18とが近接配置されることから、これらのポートを圧縮機側の共用の通路に接続することもできる。すなわち、圧縮機側の通路構造を簡素にすることが可能となる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はその特定実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0062】
上記第1実施形態では述べなかったが、
図2等に示したポート16とポート18とを入れ替えてもよい。すなわち、主弁体30に対向配置されるポートとして、ソレノイド3に対して相対的に近い側に吐出圧力Pdを導入するポートを配置し、相対的に離れた側にクランク圧力Pcを導出するポートを設けてもよい。
【0063】
上記第1実施形態では述べなかったが、第2,第3実施形態と同様のロック解除機構を設けてもよい。逆に、第2,第3実施形態におけるロック解除機構を省略してもよい。
【0064】
上記実施形態では述べなかったが、作動ロッド38,238と伝達部材33とを固定してもよい。あるいは、作動ロッド38,238の先端部に伝達部材33と同様に機能する伝達部を一体成形してもよい。
【0065】
上記実施形態では、制御弁として、吸入圧力Psが満たされる作動室にパワーエレメントを配置し、吸入圧力Psを直接感知して動作するいわゆるPs感知弁を例示した。変形例においては、クランク圧力Pcが満たされる容量室にパワーエレメントを配置する一方、クランク圧力Pcをキャンセルする構造を採用することで、実質的に吸入圧力Psを感知して動作するPs感知弁として構成してもよい。
【0066】
上記各実施形態では、制御弁として、被感知圧力として吸入圧力Psを感知するいわゆるPs感知弁を示したが、クランク圧力Pcを感知するいわゆるPc感知弁として構成してもよい。その場合、ポート14をクランク室に連通させる。
【0067】
上記実施形態では、パワーエレメント6,206を構成する感圧部材としてベローズ45,245を採用する例を示したが、ダイヤフラムを採用してもよい。その場合、その感圧部材として必要な動作ストロークを確保するために、複数のダイヤフラムを軸線方向に連結する構成としてもよい。
【0068】
上記実施形態では、スプリング40,42,44,88,240等に関し、付勢部材としてスプリング(コイルスプリング)を例示したが、ゴムや樹脂等の弾性材料、あるいは板ばね等の弾性機構を採用してもよいことは言うまでもない。
【0069】
上記実施形態では、ベローズ45,245の内部の基準圧力室Sを真空状態としたが、大気を満たしたり、基準となる所定のガスを満たすなどしてもよい。あるいは、吐出圧力Pd、クランク圧力Pc、および吸入圧力Psのいずれかを満たすようにしてもよい。そして、パワーエレメントが適宜ベローズの内外の圧力差を感知して作動する構成としてもよい。また、上記実施形態では、主弁体が直接受ける圧力Pd,Pc,Psをキャンセルする構成としたが、これらの少なくともいずれかの圧力をキャンセルしない構成としてもよい。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。