(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
径方向内側に向けて突出する複数のティース部と、該ティース部間に形成されたスロットを介して、線間の誘起電圧が正弦波波形となる複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石が埋設され前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を有し、
前記ロータは、該ロータの外側に中心点を有する円弧に沿って設けられその突側部位を前記ロータの中心側に向けた形で前記ロータ内に形成される複数の円弧状スリットと、前記各スリット内に収容される複数個のマグネットと、前記マグネットによって形成され該ロータの周方向に沿って配置される複数の磁極部と、からなり、
前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御方法であって、
当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出し、
前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第1高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第1高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、
前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第2高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第2高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、
前記基本波電流に対し、前記マグネットトルクによるトルクリップルに対応した前記第1高調波成分と、該第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルに対応した前記第2高調波成分を個々に重畳させ、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正することを特徴とするブラシレスモータ制御方法。
請求項1〜3のいずれか1項に記載のブラシレスモータ制御方法において、前記第1及び第2高調波成分は、当該ブラシレスモータにおけるトルクリップル率が5%を超える高負荷領域にて前記基本波電流に重畳されることを特徴とするブラシレスモータ制御方法。
請求項1〜4のいずれか1項に記載のブラシレスモータ制御方法において、前記ブラシレスモータは、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用されることを特徴とするブラシレスモータ制御方法。
径方向内側に向けて突出する複数のティース部と、該ティース部間に形成されたスロットを介して、線間の誘起電圧が正弦波波形となる複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石が埋設され前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を有し、
前記ロータは、該ロータの外側に中心点を有する円弧に沿って設けられその突側部位を前記ロータの中心側に向けた形で前記ロータ内に形成される複数の円弧状スリットと、前記各スリット内に収容される複数個のマグネットと、前記マグネットによって形成され該ロータの周方向に沿って配置される複数の磁極部と、からなり、
前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御装置であって、
前記電機子巻線の相電流を検出する電流センサと、
当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出する基本電流算出部と、
前記電流センサにて検出した相電流値に基づいて、前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第1高調波成分と、前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第2高調波成分を算出する補正成分算出部と、
前記相電流と前記第1及び第2高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップと、
前記補正成分算出部にて算出された、前記マグネットトルクによるトルクリップルに対応した前記第1高調波成分と、該第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルに対応した前記第2高調波成分を前記基本波電流に個々に重畳して前記電機子巻線に対して供給される電流を補正する電流補正部と、を有することを特徴とするブラシレスモータ制御装置。
請求項6又は7記載のブラシレスモータ制御装置において、前記ブラシレスモータは、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用されることを特徴とするブラシレスモータ制御装置。
径方向内側に向けて突出する複数のティース部と、該ティース部間に形成されたスロットを介して、線間の誘起電圧が正弦波波形となる複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石が埋設され前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を有し、
前記ロータは、該ロータの外側に中心点を有する円弧に沿って設けられその突側部位を前記ロータの中心側に向けた形で前記ロータ内に形成される複数の円弧状スリットと、前記各スリット内に収容される複数個のマグネットと、前記マグネットによって形成され該ロータの周方向に沿って配置される複数の磁極部と、からなり、
前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータを駆動源として使用する電動パワーステアリング装置であって、
前記ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出し、
前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第1高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第1高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、
前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第2高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第2高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、
前記基本波電流に対し、前記マグネットトルクによるトルクリップルに対応した前記第1高調波成分と、該第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルに対応した前記第2高調波成分を個々に重畳させ、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
従来より、ステータ・ロータ間の磁気抵抗差を利用して回転力を発生させるタイプの電動機としてリラクタンスモータが知られている。このようなリラクタンスモータでは、磁気抵抗差によって生じるリラクタンストルクによってロータを回転させる。しかしながら、リラクタンストルクはマグネットによって得られるトルクよりも小さいため、マグネットを用いた同体格のモータに比して、リラクタンスモータは出力トルクが小さくなる傾向がある。そこで、近年、基本構成はリラクタンスモータとしつつ、ロータにマグネットを配したマグネット補助型のリラクタンスモータが提案されている。例えば特許文献1には、このようなマグネット補助型のリラクタンスモータが記載されており、リラクタンスモータのロータ内にマグネットを埋設した構成が示されている。
【0003】
このようなマグネット補助型のリラクタンスモータは、d軸(永久磁石の中心軸)方向と、q軸(d軸と電気的、磁気的に直交する軸)方向のインダクタンス差が大きくなるよう設定されており、ロータにはリラクタンストルクTrが発生する。また、ロータに永久磁石が埋め込まれていることから、永久磁石によるマグネットトルクTmも発生し、モータ全体のトータルトルクTtは、Tt=Tm+Trとなり、Trのみのリラクタンスモータよりも出力トルクを大きくできるというメリットがある。このため、マグネット補助型のリラクタンスモータは、高効率で高トルクなモータとして、近年、電動パワーステアリング装置(以下、EPSと略記する)や、電気自動車やハイブリッド自動車、エアコン等の家電製品、各種産業機械などの駆動源に広く利用されている。
【0004】
前述のように、マグネット補助型リラクタンスモータでは、トータルトルクTtは次のように表され、一般に、同一電流に対する発生トルクを最大化するいわゆる最大トルク制御(進角制御)が実施される。
Tt=Tm+Tr
=p・φa・Iq+p・(Ld−Lq)・Id・Iq
(p:極対数,φa:永久磁石による電機子鎖交磁束,Ld:d軸インダクタンス,Lq:q軸インダクタンス,Id:d軸電流,Iq:q軸電流)
最大トルク制御では、電機子電流に対して最も効率的にトルクが発生するようにId−Iq間の角度β(電流位相角)が制御され、高効率で高トルクな運転が行われる。
【0005】
ところが、マグネット補助型リラクタンスモータにおいては、電機子電流が高くなると、トータルトルクTtに対するマグネットトルクTmとリラクタンストルクTrの割合が変化し、Tr側が増加する傾向がある。この場合、電流値が高いことから、その分、電機子反作用の影響も大きくなり、低電流時に比してトルクリップルが大きくなる。特に、リラクタンストルクが10%を超えると、トルクリップルが急激に増大し、トルクリップル率がEPSでは上限値とされる5%を超えてしまうという問題が生じる。
【0006】
そこで、従来より、マグネット補助型リラクタンスモータにおけるトルクリップルの低減について、種々の方法が提案されている。例えば、特許文献2には、トルクリップルを演算にて求め、これと逆位相のトルクを生じさせる電流指令値を演算、供給してトルクリップルを低減させるモータ制御装置が記載されている。そこではまず、トルクリップル演算手段により、dq座標系における基本波電流と永久磁石による電機子鎖交磁束の高調波成分に起因するトルクリップルを演算する。次に、トルクリップル低減高調波電流指令値生成器により、トルクリップル演算手段で演算されたトルクリップルと逆位相のトルクを生じさせる高調波電流指令値を演算する。そして、高調波電流制御回路にて、この高調波電流指令値に基づいて、高調波電流を制御することにより、モータのトルクリップルを低減させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2の装置では、確かにトルクリップルを低減させることはできるものの、誘起電圧の正弦波をdq座標系に座標変換し、その上で、トルクリップルと逆位相のトルクを生じさせる高調波電流指令値を演算によって求めるため、演算負荷が非常に大きいという問題がある。特に、EPSのように、電流が広範囲で使用され、しかも、時々刻々変化するような装置では、上記のような演算をその都度行うには、非常に処理能力の高いCPUが必要であり、理論的には可能であっても実用的には難しい、という課題があった。
【0009】
本発明の目的は、CPUに大きな演算負荷を掛けることなく、ブラシレスモータのトルクリプルを低減可能なモータ制御方法・装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のブラシレスモータ制御方法は、径方向内側に向けて突出する複数のティース部と、該ティース部間に形成されたスロットを介して、線間の誘起電圧が正弦波波形となる複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石が埋設され前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を有し、前記ロータは、該ロータの外側に中心点を有する円弧に沿って設けられその突側部位を前記ロータの中心側に向けた形で前記ロータ内に形成される複数の円弧状スリットと、前記各スリット内に収容される複数個のマグネットと、前記マグネットによって形成され該ロータの周方向に沿って配置される複数の磁極部と、からなり、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御方法であって、当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出し、前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第1高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第1高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第2高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第2高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、前記基本波電流に対し
、前記マグネットトルクによるトルクリップルに対応した前記第1
高調波成分と、該第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルに対応した前記第2高調波成分を
個々に重畳させ、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正することを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、最大トルク制御を実施しつつ、マグネットトルク分とリラクタンストルク分のトルクリップルを減殺し得る電流補正値を、予め設定した補正マップを用いて設定する。補正マップには、相電流値と補正用パラメータとの関係が格納されており、CPUは、検出電流値から補正マップを参照してパラメータを決定する。これにより、CPUは、トルクリップルを常時算出し、それを減殺する指令値を逐一演算する必要がなくなる。従って、ブラシレスモータにおいて、トルクリップルを抑制しつつ、モータ制御時のCPUの負担が大幅に軽減される。
【0012】
前記ブラシレスモータ制御方法において、前記補正マップに、前記電機子巻線の相電流と前記第1及び第2高調波成分の振幅との関係を示す高調波係数マップと、前記電機子巻線の相電流と、トルクリップル波形と前記第1及び第2高調波成分との間の位相のずれとの関係を示す位相調整マップと、を設けても良い。また、前記第1高調波成分として、q軸方向の基本波電流Iqbに対して付加される、Bsin12(θ+β)(B:高調波振幅係数,θ:回転角(電気角),β:位相のずれ)を、前記第2高調波成分として、d軸方向の基本波電流Idbに対して付加される、Asin12(θ+α)(A:高調波振幅係数,θ:回転角(電気角),α:位相のずれ)を設定し、前記高調波係数マップには、前記電機子巻線の相電流と前記高調波振幅係数A,Bとの関係を、前記位相調整マップには、前記電機子巻線の相電流と前記位相のずれα,βとの関係を格納しても良い。
【0013】
さらに、前記第1及び第2高調波成分を、当該ブラシレスモータにおけるトルクリップル率が5%を超える高負荷領域にて前記基本波電流に重畳するようにしても良い。加えて、前記ブラシレスモータは、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用されるモータであっても良い。
【0014】
本発明のブラシレスモータ制御装置は、径方向内側に向けて突出する複数のティース部と、該ティース部間に形成されたスロットを介して、線間の誘起電圧が正弦波波形となる複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石が埋設され前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を有し、前記ロータは、該ロータの外側に中心点を有する円弧に沿って設けられその突側部位を前記ロータの中心側に向けた形で前記ロータ内に形成される複数の円弧状スリットと、前記各スリット内に収容される複数個のマグネットと、前記マグネットによって形成され該ロータの周方向に沿って配置される複数の磁極部と、からなり、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータの制御装置であって、前記電機子巻線の相電流を検出する電流センサと、当該ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出する基本電流算出部と、前記電流センサにて検出した相電流値に基づいて、前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第1高調波成分と、前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第2高調波成分を算出する補正成分算出部と、前記相電流と前記第1及び第2高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップと、前記補正成分算出部にて算出された
、前記マグネットトルクによるトルクリップルに対応した前記第1
高調波成分と、該第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルに対応した前記2高調波成分を前記基本波電流に
個々に重畳して前記電機子巻線に対して供給される電流を補正する電流補正部と、を有することを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、基本電流算出部にて最大トルク制御時の基本波電流を算出しつつ、補正成分算出部にて、マグネットトルク分とリラクタンストルク分のトルクリップルを減殺し得る第1及び第2高調波成分を、予め設定した補正マップを用いて算出する。補正マップには、相電流値と補正用パラメータとの関係が格納されており、補正成分算出部は、検出電流値から補正マップを参照してパラメータを決定して第1及び第2高調波成分を算出し、電流補正部は、これに基づいて、基本波電流を補正する。これにより、制御装置は、トルクリップルを常時算出し、それを減殺する指令値を逐一演算する必要がなくなる。従って、ブラシレスモータにおいて、トルクリップルを抑制しつつ、モータ制御時のCPUの負担が大幅に軽減される。
【0016】
前記ブラシレスモータ制御装置において、前記補正マップに、前記電機子巻線の相電流と前記第1及び第2高調波成分の振幅との関係を示す高調波係数マップと、前記電機子巻線の相電流と、トルクリップル波形と前記第1及び第2高調波成分との間の位相のずれとの関係を示す位相調整マップと、を設けても良い。また、前記ブラシレスモータは、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用されるモータであっても良い。
【0017】
本発明の電動パワーステアリング装置は、径方向内側に向けて突出する複数のティース部と、該ティース部間に形成されたスロットを介して、線間の誘起電圧が正弦波波形となる複数相の電機子巻線を備えたステータと、永久磁石が埋設され前記ステータの内側に回転自在に配置されたロータと、を有し、前記ロータは、該ロータの外側に中心点を有する円弧に沿って設けられその突側部位を前記ロータの中心側に向けた形で前記ロータ内に形成される複数の円弧状スリットと、前記各スリット内に収容される複数個のマグネットと、前記マグネットによって形成され該ロータの周方向に沿って配置される複数の磁極部と、からなり、前記ロータを、前記永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させるブラシレスモータを駆動源として使用する電動パワーステアリング装置であって、前記ブラシレスモータの負荷状態に応じて、該ブラシレスモータにて最大トルクが出力される巻線電流値を示す基本波電流を算出し、前記マグネットトルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第1高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第1高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、前記第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルと同振幅・同周期を持つ逆位相の第2高調波成分を、前記電機子巻線の相電流と前記第2高調波成分の算出に用いられるパラメータとの関係が示された補正マップに基づいて算出し、前記基本波電流に対し
、前記マグネットトルクによるトルクリップルに対応した前記第1
高調波成分と、該第1高調波成分を重畳させた状態で生じる前記リラクタンストルクによるトルクリップルに対応した前記第2高調波成分を
個々に重畳させ、前記電機子巻線に対して供給される電流を補正することを特徴とする。
【0018】
本発明にあっては、電動パワーステアリング装置において、最大トルク制御を実施しつつ、マグネットトルク分とリラクタンストルク分のトルクリップルを減殺し得る電流補正値を、予め設定した補正マップを用いて設定する。補正マップには、相電流値と補正用パラメータとの関係が格納されており、CPUは、検出電流値から補正マップを参照してパラメータを決定する。これにより、CPUは、トルクリップルを常時算出し、それを減殺する指令値を逐一演算する必要がなくなる。従って、ブラシレスモータにおいて、トルクリップルを抑制しつつ、モータ制御時のCPUの負担が大幅に軽減される。また、トルクリップルも所定値以下(例えば、5%以下)に抑えられ、操舵フィーリングの向上が図られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブラシレスモータ制御方法、制御装置によれば、予め設定した補正マップを制御の中に組み込み、トルクリップルを低減させる高調波成分をこの補正マップを用いて算出するようにしたので、従来の制御形態に比して、CPUの演算負荷を大幅に軽減することが可能となる。従って、高性能なCPUを用いることなく、ブラシレスモータのトルクリップルを低減させることができ、システムコストを安価に抑えることが可能となる。
【0020】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、その駆動源として使用されるブラシレスモータの駆動制御に際し、予め設定した補正マップを制御中に組み込み、トルクリップルを低減させる高調波成分をこの補正マップを用いて算出するようにしたので、従来のEPSに比して、CPUの演算負荷を大幅に軽減することが可能となる。従って、高性能なCPUを用いることなく、ブラシレスモータのトルクリップルを低減させることができ、操舵フィーリングの向上が図られると共に、EPSのシステムコストを安価に抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、ブラシレスモータを用いたEPSの構成を示す説明図であり、本発明による制御処理が実施される。
図1の電動パワーステアリング装置(EPS)1は、ステアリングシャフト2に対し動作補助力を付与するコラムアシスト式の構成となっており、ブラシレスモータ3(以下、モータ3と略記する)が動力源として使用されている。
【0023】
ステアリングシャフト2にはステアリングホイール4が取り付けられており、ステアリングホイール4の操舵力は、ステアリングギヤボックス5内に配された図示しないピニオンとラック軸を介して、タイロッド6に伝達される。タイロッド6の両端には車輪7が接続されており、ステアリングホイール4の操作に伴ってタイロッド6が作動し、図示しないナックルアーム等を介して車輪7が左右に転舵する。
【0024】
EPS1では、ステアリングシャフト2に操舵力補助機構であるアシストモータ部8が設けられている。アシストモータ部8には、モータ3と共に、減速機構部9とトルクセンサ11が設けられている。減速機構部9には、図示しないウォームとウォームホイールが配されており、モータ3の回転は、この減速機構部9によって、ステアリングシャフト2に減速されて伝達される。モータ3とトルクセンサ11は、制御装置(ECU)12に接続されている。
【0025】
ステアリングホイール4が操作され、ステアリングシャフト2回転すると、トルクセンサ11が作動する。ECU12は、トルクセンサ11の検出トルクに基づいて、モータ3に対し適宜電力を供給する。モータ3が作動すると、その回転が減速機構部9を介してステアリングシャフト2に伝達され操舵補助力が付与される。ステアリングシャフト2は、この操舵補助力と手動操舵力によって回転し、ステアリングギヤボックス5内のラック・アンド・ピニオン結合により、この回転運動がラック軸の直線運動に変換され、車輪7の転舵動作が行われる。
【0026】
図2は、モータ3の断面図、
図3は、
図2のA−A線に沿った断面図である。モータ3は、リラクタンスモータをベースとしつつ、ロータにマグネットを配することにより、マグネットの磁力を補助的に利用したマグネット補助型のリラクタンスモータとなっており、電動パワーステアリング装置の駆動源として使用される。モータ3は、
図2に示すように、通常のリラクタンスモータと同様に、外側にステータ(固定子)21、内側にロータ(回転子)22を配したインナーロータ型のブラシレスモータとなっている。
【0027】
ステータ21は、有底円筒形状のモータケース23(以下、ケース23と略記する)の内側に固定されている。ステータ21は、ステータコア24と、ステータコア24のティース部25に巻装されたステータ巻線26(以下、巻線26と略記する)及びステータコア24に取り付けられ巻線26と電気的に接続されるバスバーユニット(端子ユニット)27とから構成されている。ケース23は、鉄等にて有底円筒状に形成されており、その開口部には、図示しない固定ネジによってアルミダイキャスト製のブラケット28が取り付けられる。
【0028】
ステータコア24は、鋼製の板材(例えば、電磁鋼板)を積層して形成されており、外側リング部29から、複数個(ここでは、24個)のティース部25が径方向内側に向かって突設されている。隣接するティース部25の間にはスロット31が形成されている。前述のように、モータ3では、ティース部25は24個設けられており、24スロット構成となっている。スロット31の中には、巻線26が分布巻きにて収容されている。ステータコア24には合成樹脂製のインシュレータ32が取り付けられており、インシュレータ32の外側に巻線26が巻装されている。
【0029】
ステータコア24の一端側には、バスバーユニット27が取り付けられている。バスバーユニット27は、合成樹脂製の本体部内に銅製のバスバーがインサート成形された構成となっている。バスバーユニット27の周囲には、複数個の給電用端子33が径方向に突設されている。バスバーユニット27の取り付けに際し、給電用端子33は、ステータコア24から引き出された巻線26の端部26aが溶接される。バスバーユニット27では、バスバーはモータ3の相数に対応した個数(ここでは、U相,V相,W相分の3個と各相同士の接続用の1個の計4個)設けられている。各巻線26は、その相に対応した給電用端子33と電気的に接続される。巻線26に対しては、図示しないバッテリから、給電配線34を介して、高調波成分を含んだ台形波形状の相電流(U,V,W)が供給される。ステータコア24は、バスバーユニット27を取り付けた後、ケース23内に圧入固定される。
【0030】
ステータ21の内側にはロータ22が挿入されている。ロータ22は回転軸35を有しており、回転軸35はベアリング36a,36bによって回転自在に軸支されている。ベアリング36aはケース23の底部中央に、ベアリング36bはブラケット28の中央部にそれぞれ固定されている。回転軸35は、図示しないジョイント部材によって、減速機構部9のウォーム軸に接続されている。ウォーム軸にはウォームが形成されており、減速機構部9にて、ステアリングシャフト2に固定されたウォームホイールと噛合している。
【0031】
回転軸35には、円筒形状のロータコア37と、回転角度検出手段であるレゾルバ38のロータ(レゾルバロータ)39が取り付けられている。レゾルバ38のステータ(レゾルバステータ)41は、合成樹脂製のレゾルバブラケット42に収容されており、取付ネジ43によってブラケット28の内側に固定される。レゾルバステータ41にはコイルが巻装されており、励磁コイルと検出コイルが設けられている。レゾルバステータ41の内側には、レゾルバロータ39が配設される。レゾルバロータ39は、金属板を積層した構成となっており、三方向に凸部が形成されている。
【0032】
回転軸35が回転すると、レゾルバロータ39もまたレゾルバステータ41内にて回転する。レゾルバステータ41の励磁コイルには高周波信号が付与されており、凸部の近接離反により検出コイルから出力される信号の位相が変化する。この検出信号と基準信号とを比較することにより、ロータ22の回転位置が検出される。そして、ロータ22の回転位置に基づき、巻線26への電流が適宜切り替えられ、ロータ22が回転駆動される。
【0033】
ロータコア37もまた、円板状の電磁鋼板を多数積層して形成されている。ロータコア37を構成する鋼板には、ロータ22の磁気抵抗を回転方向に沿って異ならせるためのフラックスバリアとしてスリット44が複数設けられている。スリット44は、円弧状に曲がっており、スリット44内は空間となっている。スリット44は、ロータ22の外周より外側に設定される図示しない仮想点を中心とする円弧に沿って設けられ、その凸側部位をロータ22の中心側に向けた形でロータ内に形成されている。
【0034】
また、磁極がつくる磁束の方向(永久磁石の中心軸)をd軸とし、それと磁気的に直交する軸(永久磁石間の軸)をq軸に設定すると、スリット44は、回転軸35と直交するq軸を境界として複数組設けられている。モータ3では、複数のスリット44のセットが円弧状に4組設けられており、各組にはそれぞれ複数層の磁路が形成される。
【0035】
モータ3では、出力向上のため、スリット44内には複数個のマグネット(永久磁石)45が配設されており、IPM(Interior Permanent Magnet)モータ構成となっている。各マグネット45の部位には、周方向に沿って磁極部46が形成されている。モータ3では、リラクタンストルクが主、マグネットトルクが補助という位置付けとなっており、マグネット45としては、安価なフェライトマグネットが使用されている。但し、出力をより増大させるため、マグネット45にネオジムボンドマグネット等の希土類磁石を用いても良い。また、各スリット44内に配設されるマグネット45は、予め対応するスリット44の形状に成形されたマグネット45がスリット44内に接着等の固定手段にて固定されている。
【0036】
ロータ22では、磁極部46を形成する複数個のマグネット45として、外周側がS極となったマグネット45sと、外周側がN極となったマグネット45nが設けられている。ロータ22は、4個の磁極部46を備えた4極構成となっており、モータ3は4極24スロット(4P24S)構造となっている。各極のマグネット45は円弧状に形成されており、径方向に沿って3個ずつ設けられ、ロータ22にd軸とq軸とが周方向に交互に複数個設けられている。これにより、リラクタンストルクを有効利用しつつ、マグネットトルクによるトルク補強が図られる。
【0037】
ロータ22では、前述のように、磁極がつくる磁束の方向をd軸とすると共に、それと磁気的に直交する軸をq軸とし、ロータ22に、d軸とq軸を複数個設定する。その際、d軸とq軸は、周方向に沿って交互に設けられる。ロータ22には、q軸磁束を通りやすくするために円弧のスリット44が設けられており、そこに円弧状のマグネット45が埋め込まれている。すなわち、ロータ22は、q軸の磁束が通りやすく、インダクタンスLqを大きく取ることができる構造となっている。従って、マグネット45によるマグネットトルクも大きくでき、フェライトマグネットでも十分なトルクを得ることが可能となる。
【0038】
このようなEPS1では、ステアリングホイール4が操作されてステアリングシャフト2が回転すると、この回転に応じた方向にラック軸が移動して転舵操作がなされる。この操作により、トルクセンサ11が作動し、その検出トルクに応じて、図示しないバッテリから給電配線34を介して巻線26に電力が供給される。巻線26に電力が供給されるとモータ3が作動し、回転軸35とウォーム軸が回転する。ウォーム軸の回転は、ウォームホイールを介してステアリングシャフト2に伝達され、操舵力が補助される。
【0039】
図4は、EPS1の制御装置50の構成を示すブロック図であり、本発明の制御方法は当該制御装置50にて実行される。EPS1は、前述のように、トルクセンサ11による検出値と、レゾルバ38によって検出されたロータ22の回転位置情報に基づいて駆動制御される。
図4に示すように、モータ3には、角度センサとしてレゾルバ38が配されており、ロータ回転位置は逐次ロータ回転位置情報として電流指令部51に入力されている。また、ステアリングホイール4の操作に伴い、トルクセンサ11からは、モータ3の負荷となるトルク値(モータ負荷情報)がモータ負荷情報として電流指令部51に入力される。また、電流指令部51の前段には、ロータ回転位置情報に基づいてロータ22の回転数を算出するロータ回転数算出部61が設けられている。電流指令部51には、このロータ回転数算出部61からも、ロータ回転数情報が入力されている。
【0040】
電流指令部51には、これらの検出値に基づいて演算処理を行い、モータ3に対して供給する基本電流量を算出する基本電流算出部52が設けられている。基本電流算出部52では、レゾルバ38からのロータ回転位置情報とロータ回転数情報及びモータ負荷情報から、モータ3への供給電流量を算出する。基本電流算出部52では、供給電流量として、d軸(トルクに寄与しない直交座標系成分),q軸(トルクに寄与する直交座標系成分)について、最大トルクを得られるId,Iqの基本波電流Idb,Iqbを算出する。
【0041】
電流指令部51にまた、マグネットトルクTmのトルクリップルと、リラクタンストルクTrのトルクリップルを減殺させるための補正マップ58が設けられている。補正マップ58は、モータ電流による両トルクリップルはモータごとに異なるため、モータごとに固有のものが設けられている。補正マップ58には、TmとTrの各トルクリップルを予め個別に検討し、各トルクリップルが減殺されるように基本波電流Idb,Iqbを補正するための補正データ(高調波係数マップ62,位相調整マップ63)が格納されている。補正マップ58の補正データは予め実験や解析によって取得され、ここでは、巻線26の相電流値と補正パラメータとの関係が格納されている。
【0042】
電流指令部51にはさらに、補正成分算出部59と電流補正部60が設けられている。補正成分算出部59と電流補正部60には、電流センサ64にて検出されたモータ3の電流値がフィードバックされている。電流補正部60は、先に基本電流算出部52にて算出された基本波電流Idb,Iqbを補正マップ58を用いて補正し、電流指令値Id’,Iq’としてベクトル制御部53に出力する。その際、補正成分算出部59は、電流センサ64にて検出された相電流値から、補正マップ58を用いて補正パラメータを取得し、電流補正部60は、その結果に基づいて、基本波電流Idb,Iqbに所定の高調波成分を重畳させて電流指令値Id’,Iq’を作成する。
【0043】
ベクトル制御部53は、d軸,q軸のPI(比例・積分)制御部54d,54qと、座標軸変換部(dq/UVW)55とから構成されており、電流指令値Id’,Iq’は、PI制御部54d,54qにそれぞれ入力される。PI制御部54d,54qには、座標軸変換部(UVW/dq)56を介して、3相(U,V,W)のモータ電流値をdq軸変換した検出電流値I(d),I(q)が入力されている。PI制御部54d,54qは、電流指令値Id’,Iq’と検出電流値I(d),I(q)に基づき、PI演算処理を行い、d軸,q軸の電圧指令値Vd,Vqを算出する。電圧指令値Vd,Vqは、座標軸変換部55に入力され、3相(U,V,W)の電圧指令値Vu,Vv,Vwに変換され出力される。座標軸変換部55から出力された電圧指令値Vu,Vv,Vwは、インバータ57を介してモータ3に印加される。
【0044】
ここで、モータ3のトータルトルクTtは、前述のように、
Tt=Tm+Tr
=p・φa・Iq+p・(Ld−Lq)・Id・Iq
にて表されるが、TmとTrのトルクリップルは別個のものである一方、両者は共にIqを含んでいるため、一方のトルクリップルを減殺させるIqを設定しても、他方のトルクリップルは減殺できない。また、TrにはIdも含まれており、モータ駆動時にTtからTmとTrを個別に抽出して各トルクリップルを同時に低減させ、モータ全体のトルクリップルを一気に減殺させるのは非常に難しい。
【0045】
そこで、本発明においては、トルクリップルを当初からTm分とTr分とに分けて考え、まず、Tmのトルクリップルを減殺させるIq値を設定する。次に、この補正されたIq値を考慮して、Trのトルクリップルを減殺させるId値を設定する。その際、本発明の制御処理では、従来の処理のようにトルクリップルを逐次演算して行くのではなく、トルクリップルの性質(波形)に鑑み、それを打ち消すような波形の高調波成分を補正マップに基づいて付加して行く。補正マップ58には、高調波成分を設定する場合に使用するパラメータと相電流との関係が示されており、電流センサ64にて検出されたモータ3の相電流の実効値から、重畳すべき高調波成分が直ちに算出される。そして、この高調波成分を基本波電流に付加することにより、Tm分とTr分のトルクリップルを同時に打ち消す成分を含んだ電流指令値Id’,Iq’が設定され、モータ全体のトルクリップルが一気に減殺される。以下、このような制御処理について、
図5〜7に基づいて、具体的に説明する。
【0046】
まず、
図5(a)に示すように、モータ3のような4極24スロットのモータでは、ロータ1回転(機械角360度)について、Tm,Tr共に24山のトルクリップルが生じる。但し、TmとTrではトルクリップルの位相や振幅に違いがあり(
図5(b))、両者を同時に減殺し得る逆位相の高調波成分は設定できない。そこで、前述のように、トルクリップルをTm分とTr分とに分けて考えると、4極24スロットのモータにおけるTm=p・φa・Iq(Iq:一定)のリップルは、
図6(a)に示すように、電気角では24/2=12次(山)となる。また、Tm/Iq=p・φaのリップルもまた、
図6(b)に示すように電気角では12次(山)となる。
【0047】
従って、このリップルに対して、
図6(c)のような逆位相の12次のIq(h)を掛け合わせれば、Tm分のトルクリップルが相殺され0となる(
図6(d))。すなわち、Tm分のトルクリップルを減殺するには、Iqの基本波に12次の高調波成分(第1高調波成分)を付加し、次式のような電流指令値Iq’を設定する。
Iq’(θ)=Iqb(基本波電流)+Bsin12(θ+β)
(B:高調波振幅係数,β:位相のずれ,θ:回転角(電気角))
【0048】
このようにTm分のトルクリップルを0とし、その際のIqをIq(h)とすると、このときのトータルトルクTt(h)は、Iq(h)によるマグネットトルクTm(h)とリラクタンストルクTr(h)の和となり、
Tt(h)=Tm(h)+Tr(h)
=p・φa・Iq(h)+p・(Ld−Lq)・Id・Iq(h)
となる。上式において、第1項のTm分のトルクリップルは0であり一定となる。これに対し、第2項はIq(h)を含んだトルクリップルを有している。つまり、前記Iq’(θ)を適用した場合、Tm分のトルクリップルは0となるが、Iq(h)によってはTr分のトルクリップルは解消しない。
【0049】
そこで、改めてTr(h)=p・(Ld−Lq)・Id・Iq(h)について検討する。この場合も、4極24スロットのモータにおけるTr(h)のリップルは、
図7(a)に示すように、前述同様、電気角では12次となる。一方、通常の最大トルク制御のようにId=一定と考えると、Tr(h)/Id=p・(Ld−Lq)・Iq(h)のリップルも
図7(b)に示すように電気角では12次(山)となる。従って、Tr(h)のトルクリップルに対して、
図7(c)のような逆位相のId(h)(12次)を掛け合わせれば、Tr(h)のトルクリップルが相殺され0となる(
図7(d))。すなわち、Tr分のトルクリップルを減殺するには、Idの基本波に12次の高調波成分(第2高調波成分)を付加し、次式のような電流指令値Id’を設定すれば良い。
Id’(θ)=Idb(基本波電流)+Asin12(θ+α)
(A:高調波振幅係数,α:位相のずれ,θ:回転角(電気角))
【0050】
上記の点をまとめると、トータルトルクTtのリップルを減殺させるには、まずTm分のリップルを0とし、その上で、Tr分のリップルを0とし得る条件を検討し、その結果、電流指令値Id’,Iq’を次式のように補正すれば良いことがわかった。
Id’(θ)=Idb+Asin12(θ+α) (式1)
Iq’(θ)=Iqb+Bsin12(θ+β) (式2)
なお、高調波振幅係数A,Bは、トルクリップル相殺のために付加される逆位相の6次高調波成分の振幅を意味している。また、位相のずれα,βは、Tm,Trのトルクリップル波形とsinθとの位相のずれを意味している。この場合、TmとTrのリップルは別個の波形をとなるため、式1,2ではそれぞれ別の値α,βが設定されている。
【0051】
このような検討結果に基づき、本発明のシステムでは、基本電流算出部52にてIdb,Iqb(基本波電流)を求め、その後、電流補正部60にてIdb,Iqbを補正し、電流指令値Id’,Iq’を設定する。その際、電流補正部60は、検出電流値(相電流値)に基づいて、高調波係数マップ62と位相調整マップ63からA,B,α,βを取得し、電流指令値Id’,Iq’を算出する。高調波係数マップ62には相電流値と高調波振幅係数A,Bとの関係が、また、位相調整マップ63には相電流値と位相のずれα,βとの関係がそれぞれ格納されており、電流補正部60は、式1,2に基づいて電流指令値Id’,Iq’を算出する。
【0052】
図8は、相電流値とIdb,Iqb及びId’,Iq’との関係を示すグラフである。
図8に示すように、Id’,Iq’(波線)の値は、Idb,Iqb(実線)を中心として上下に幅を持った値となっており、これは、式1,2における第2項の数値の変化、つまり、高調波成分の振幅A,Bに対応している。Idb,Iqbに対しては、振幅A,Bの12次高調波成分が付加され、
図8に波線にて示したようなId’,Iq’が設定される。高調波係数マップ62にはこのような振幅A,B(波線間の幅)が相電流値に対応して格納されている。電流補正部60は、電流センサ64にて検出した相電流値から、高調波係数マップ62を用いて式1,2の高調波振幅係数A,Bを取得する。
【0053】
図9は、相電流値とα,βとの関係を示すグラフである。前述のように、α,βはTm,Trとで異なる値となるが、相電流値によっても位相が異なる。このため、相電流値によるα,βの変化を考慮する必要がある。
図9はそのようなα,βの変化が示されており、位相調整マップ63には、
図9の関係が格納されている。電流補正部60は、電流センサ64にて検出した相電流値から、位相調整マップ63を用いて式1,2の位相のずれα,βを取得する。
【0054】
このような制御形態を取ることにより、本発明のシステムでは、従来と同程度のCPUを使用しつつ、高負荷領域におけるトルクリップル率を5%以下に抑えることができた。
図10は、相電流値とトルクリップル率との関係を制御形態ごとに示したグラフである。
図10に示すように、従来の最大トルク制御のみの場合(矢示a)は、相電流値が40(Apeak)を超える領域では、全電流域にて5%を超えてしまう。これに対し、本発明による制御を電流全域に亘って実施した場合(矢示b)は、120(Apeak)を超えてもトルクリップル率が5%以下に収まった。従って、本発明による制御方法・制御装置を用いたEPSでは、据え切り時等のようにモータの負荷が増大してもトルクリップルが大きくならず、操舵フィーリングの向上を図ることが可能となる。
【0055】
また、EPS用モータのように電流が広範囲で使用されるモータにおいては、低負荷側では回転数が非常に高くなるため、全域で12次高調波を入れると、高回転数域ではCPUの処理スピードを超えてしまう可能性がある。そこで、高回転時の制御処理を考慮して、低負荷時(40Arms以下)は最大トルク制御のみを実施し(12次高調波成分は付加しない)、40Armsを超えたところで当該制御処理に切り替える制御形態として良い。このように、必要に応じて高調波を付加する制御形態を採用することにより、高回転数域におけるCPUの負担が抑えられ、制御装置における演算負荷を軽減することが可能となり、EPS用モータにおける制御負荷軽減には非常に有効である。
【0056】
さらに、Id,Iqの片方のみに高調波成分を付加して最大トルク制御を行った場合(Idのみ=Trリップル改善:矢示c,Iqのみ=Tmリップル改善:矢示d)も、最大トルク制御のみの場合に比してトルクリップル率の改善が見られた。Trの割合が大きい場合には前者、Tmの割合が大きい場合には後者の制御でもトルクリップル低減には有効であるが、
図10に示すように、両者とも高負荷領域では5%を超えており、高調波成分を両者に付加する方が好ましいことも分かった。
【0057】
このように、本発明による制御処理では、最大トルクが得られる進角制御を実施しつつ、Tm分とTr分のトルクリップルを分離して捉え、各トルクリップルを減殺し得る電流指令値Id’,Iq’を、予め設定した補正マップを用いて設定する。補正マップには、各相の電流実効値と補正用パラメータとの関係が格納されており、制御装置は、検出電流値から補正マップを参照してパラメータを決定する。つまり、本発明においては、必要な定数が予めマッピングされており、CPUは、これを参照するだけで電流指令値Id’,Iq’を算出することができる。これにより、制御装置側では、トルクリップルを常時算出し、それを減殺する指令値を逐一演算する必要がなくなり、マグネット補助型リラクタンスモータの制御におけるCPUの負担を大幅に低減することが可能となる。
【0058】
なお、本発明の手法は、2P12Sをベースにした4P24Sなどの2P12S×n構成のモータは勿論のこと、これ以外にも、電気角360°にて12山のリップルが生じるモータにも全く同様に適用可能である。つまり、本発明によれば、電気角にて表されたリップル波形が同じ次数にて示される各モータは、極・スロット数に関係なく、同様の高調波成分の付与によりトルクリップルの低減が可能となる。
【0059】
本発明は前述のような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、前述の実施形態では、ブラシレスモータとしてIPM型のマグネット補助型リラクタンスモータを用いた例を示したが、対象となるモータはこれに限定されず、永久磁石の磁気的吸引力によるマグネットトルクと、磁路のインダクタンス差に基づくリラクタンストルクとによって回転させる形式のブラシレスモータであれば、例えばロータの外周にマグネットを固定する構造のブラシレスモータにも本発明は適用可能である。
【0060】
また、各スリット44内に配設されるマグネット45として、予め対応するスリット44の形状に成形されたマグネットを用いる例を示したが、溶融状態の磁性樹脂を各スリット44内に充填するようにしても良い。
【0061】
さらに、前述の実施形態では、本発明をEPSに適用した例を示したが、その適用対象はEPSには限定されず、電気自動車や、ハイブリッド自動車、エアコン等の家電製品、各種産業機械等に使用されるモータにも本発明は適用可能である。