【課題を解決するための手段】
【0026】
この技術的課題は、以下で規定されるようなモノクローナル抗体により解決される。
【0027】
本発明は、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列26位〜33位に存在するCDR1領域の配列番号1、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列51位〜53位に存在するCDR2領域の配列番号2、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列90位〜101位に存在するCDR3領域の配列番号3、
重鎖可変領域
のアミノ酸配列26位〜33位に存在するCDR4領域の配列番号4、
重鎖可変領域
のアミノ酸配列51位〜53位に存在するCDR5領域の配列番号5、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列90位〜101位に存在するCDR6領域の配列番号6を含む黄色ブドウ球菌のα毒素に特異的なモノクローナル抗体、又は黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能である
モノクローナル抗体の断片を提供する。
【0028】
本発明の好ましい1つの実施の形態によれば、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列26位〜33位に存在するCDR1領域の配列番号1、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列51位〜53位に存在するCDR2領域の配列番号2、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列90位〜101位に存在するCDR3領域の配列番号3、
重鎖可変領域
のアミノ酸配列26位〜33位に存在するCDR4領域の配列番号4、
重鎖可変領域
のアミノ酸配列51位〜53位に存在するCDR5領域の配列番号5、
軽鎖可変領域
のアミノ酸配列90位〜101位に存在するCDR6領域の配列番号6を含む黄色ブドウ球菌のα毒素に特異的なヒトモノクローナル抗体、又は黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能であるその断片であって、黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能である
ヒトモノクローナル抗体の断片が提供される。
【0029】
驚くべきことに、本発明によるモノクローナル抗体が膿瘍形成に対して高い保護能力を示すことが見出された。本発明によるα毒素特異的ヒトモノクローナル抗体の投与により、マウス腎臓モデルにおいて膿瘍形成の予防が示された。毒素の性質、すなわち、細胞壁関連成分(多糖)ではなく分泌タンパク質であることに基づくと、いかなる直接的な殺菌効果、例えば細菌細胞の死滅、又は間接的な免疫系に関連するエフェクター機能、例えば補体媒介性オプソニン化食作用も、除外することができ、また膿瘍形成の欠如を説明しない。
【0030】
本明細書で使用する場合の「モノクローナル抗体」という用語は、該モノクローナル抗体が得られる取得源と関係なく、任意の部分ヒトモノクローナル抗体又は完全ヒトモノクローナル抗体を包含する。完全ヒトモノクローナル抗体が好ましい。ハイブリドーマによるモノクローナル抗体の産生が好ましい。ハイブリドーマは、哺乳動物、例えばマウス、ウシ又はヒトのハイブリドーマであり得る。好ましいハイブリドーマはヒト起源のものである。モノクローナル抗体は、遺伝子工学、特にバックグラウンド抗体のCDR領域を特許請求の範囲に規定されるような特定のCDRセグメントで置き換えることによる、利用可能なモノクローナル抗体上への特許請求の範囲に規定されるようなCDRセグメントのCDRグラフティングによっても得ることができる。
【0031】
「CDR領域」という用語は、抗体の相補性決定領域、すなわち特定の抗原に対する抗体の特異性を決定する領域を意味する。軽鎖及び重鎖の両方における3つのCDR領域(CDR1〜CDR3)が、抗原との結合に関与する。
【0032】
重鎖内のCDR領域の位置は以下の通りである:
CDR1領域 V
Hエクソン内のアミノ酸26〜33、
CDR2領域 V
Hエクソン内のアミノ酸51〜58、
CDR3領域 V
Hエクソン内のアミノ酸97〜110。
【0033】
CDR領域の位置は、抗体のクラス、すなわちIgM、IgA又は(of)IgGと無関係である。
【0034】
λ型軽鎖内のCDR領域の位置は以下の通りである:
CDR1領域 Vλエクソン内のアミノ酸26〜33、
CDR2領域 Vλエクソン内のアミノ酸51〜53、
CDR3領域 Vλエクソン内のアミノ酸90〜101。
【0035】
V
Hエクソン、Vχエクソン及びVλエクソンのアミノ酸アライメントは、V Baseデータベース(http://imgt.cines.fr/IMGT_vquest/share/textes/)から得ることができる。
【0036】
「断片」という用語は、黄色ブドウ球菌のα毒素と結合することが可能である抗体の任意の断片を意味する。断片は、少なくとも10個、好ましくは20個、より好ましくは50個のアミノ酸の長さを有する。断片が、抗体の結合領域を含むことが更に好ましい。断片が、Fab、F(ab’)
2、一本
鎖であることが好ましい。Fab断片若しくはF(ab’)
2断片、又はその混合物が、最も好ましい。抗体断片はグリコシル化され、例えば、抗体の可変領域に炭水化物部分を含有していてもよい。
【0037】
したがって、本発明は、Fab、F(ab’)
2、一本
鎖である、本明細書中で規定されるようなモノクローナル抗体を更に提供する。
【0039】
「保存的置換」という用語は、特定の物理化学的な群に属する1つのアミノ酸の、同じ物理化学的な群に属するアミノ酸による置き換えを意味する。物理化学的な群は、以下のように規定される:
非極性アミノ酸の物理化学的な群は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン及びトリプトファンを含む。非荷電の極性側鎖を有するアミノ酸の群は、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン及びシスチンを含む。正に荷電した極性側鎖を有するアミノ酸の物理化学的な群は、リジン、アルギニン及びヒスチジンを含む。負に荷電した極性側鎖を有するアミノ酸の物理化学的な群は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含み、これらのカルボキシレートアニオンはアスパルテート及びグルタメートとも称される。
【0040】
更なる1つの実施の形態によれば、本発明は、黄色ブドウ球菌のα毒素に特異的なモノクローナル抗体であって、該抗体の軽鎖の可変領域が配列番号7のアミノ酸配列を有し、重鎖の可変領域が配列番号8のアミノ酸配列を有する、黄色ブドウ球菌のα毒素に特異的なモノクローナル抗体、又は黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能であるその断片、若しくは黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能である上記抗体の変異体であって、該抗体の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列が配列番号7と少なくとも85%の同一性を有し、該抗体の重鎖の可変領域のアミノ酸配列が配列番号8と少なくとも85%の同一性を有する、黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能である上記抗体の変異体を提供する。
【0041】
本明細書で使用する場合の「変異体」という用語は、そのアミノ酸配列が、配列リストに記載されるようなアミノ酸配列と或る特定の度合いの同一性を示す、ポリペプチドを表す。
【0042】
当業者に既知である「%の同一性」という用語は、配列間の一致により決定される、2つ以上のポリペプチド分子の間の関連性の度合いを指す。「同一性」の割合は、ギャップ又は他の配列特徴を考慮して、2つ以上の配列における同一領域の割合から見出される。
【0043】
相互に関連するポリペプチドの同一性の割合は、既知の手順により決定することができる。通例、特別な要件を考慮したアルゴリズムを含む特別なコンピュータプログラムを使用する。同一性の決定のための好ましい手順により、最初に、検討対象の配列の間の最大の一致が生成される。2つの配列間の同一性の決定のためのコンピュータプログラムは、GAPを含むGCGプログラムパッケージ(Devereux J et al., (1984)、ジェネティクス・コンピュータ・グループ(ウイスコンシン大学、Madison, WI))、BLASTP、BLASTN及びFASTA(Altschul S et al., (1990))を含むがこれらに限定されない。BLAST Xプログラムは、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)から、及び他の供給元(BLAST Handbook, Altschul S et al., NCB NLM NIH Bethesda MD 20894; Altschul S et al.,1990)から取得することができる。同一性の割合の決定のために、既知のSmith Watermanアルゴリズムを使用することもできる。
【0044】
配列比較のための好ましいパラメータは、以下を含む:
アルゴリズム: Needleman S. B. and Wunsch, C.D. (1970)
比較マトリクス: Henikoff S. and Henikoff J.G. (1992)由来のBLOSUM62
ギャップペナルティ: 12
ギャップ長ペナルティ:2
【0045】
GAPプログラムは、上記のパラメータを用いる使用にも好適である。上記のパラメータは、アミノ酸配列比較のための標準的なパラメータ(デフォルトパラメータ)であり、末端におけるギャップは同一性の値を減少させない。基準配列と比較して非常に小さい配列を用いると、最大で100000まで予測値(expectancy value)を増大させること、及び場合によっては最小で(down to)2までワード長(ワードサイズ)を低減させることが、更に必要となる場合がある。
【0046】
Program Handbook(Wisconsin Package、第9版、1997年9月)で命名されているものを含む更なるモデルアルゴリズム、ギャップ開始(opening)ペナルティ、ギャップ伸長(extension)ペナルティ及び比較マトリクスを使用することができる。選択は、実行される比較に、更には配列の対の間で比較が実行される(この場合、GAP又はBest Fitが好ましい)か、又は1つの配列と大規模な配列データベースとの間で比較が実行される(この場合、FASTA又はBLASTが好ましい)かに依存する。上述のアルゴリズムを用いて決定される85%の一致を、85%の同一性と記載する。同じことが、より高い同一性の度合いについても適用される。
【0047】
好ましい実施の形態では、本発明による変異体は、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有する。
【0048】
本発明の好ましい1つの実施の形態によれば、モノクローナル抗体はヒト抗体である。本明細書で使用する場合の「ヒト」という用語は、ヒトモノクローナル抗体が異種(foreign species)のアミノ酸配列を実質的に含まず、好ましくはヒトモノクローナル抗体がヒトのアミノ酸配列から完全になることを意味する。
【0049】
本発明によるモノクローナル抗体の軽鎖は、κ型又はλ型のものであり得る。
【0050】
本発明の好ましい1つの実施の形態では、軽鎖はλ型のものである。軽鎖は、自然に再構成される(rearranged)鎖を含む自然に発生する鎖、遺伝子的に改変される鎖、又は合成型の軽鎖であり得る。
【0051】
本発明のモノクローナル抗体の重鎖は、IgM、IgA又はIgGのアイソタイプから選択することができ、好ましくはIgGであり得る。
【0052】
本発明の更なる好ましい1つの実施の形態によれば、モノクローナル抗体の重鎖は、IgG型のものである。
【0053】
本明細書で使用する場合の「を結合することが可能である」という用語は、或る抗体と、その認識される抗原(該抗体が該抗原に対して産生された)との間に起こる結合を表す。この種類の結合は、抗原の非存在下において起こる非特異的結合とは対照的に、特異的結合である。
【0054】
α毒素を結合することが可能である抗体はハイブリドーマ技術を使用して作製され、ここでB細胞は、哺乳動物、例えばマウス、ウシ又はヒトのB細胞である。好ましくはB細胞はヒトのB細胞である。代替的には、α毒素を結合することが可能であるモノクローナル抗体は、利用可能なモノクローナル抗体上への特許請求の範囲に示されるようなCDR領域のCDRグラフティングを行い、それにより本発明による黄色ブドウ球菌のα毒素に特異的なモノクローナル抗体を作製することにより得ることができる。
【0055】
本発明の更なる1つの実施の形態では、哺乳動物のB細胞、例えばマウス、ウシ若しくはヒト、好ましくはヒトのB細胞、又は該ヒトのB細胞とミエローマ細胞若しくはヘテロミエローマ細胞との融合により得られるハイブリドーマから取得可能である、黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能であるモノクローナル抗体が提供される。
【0056】
更なる1つの実施の形態では、本発明は、本明細書中で規定されるような黄色ブドウ球菌のα毒素を結合することが可能であるモノクローナル抗体を産生することが可能であるハイブリドーマを提供する。
【0057】
本明細書で使用する場合の「α毒素」という用語は、黄色ブドウ球菌により産生される細菌性タンパク質を表す。α毒素は、宿主細胞の細胞表面との結合後にオリゴマー化を受けてヘプタマープレポアとなる。孔の形成が、アポトーシス及び細胞溶解の主因である。したがって、モノクローナル抗体の、黄色ブドウ球菌由来のα毒素のモノマー形態及びオリゴマー形態の両方と結合する能力は、強力な保護のために根本的な重要性を有するものである。
【0058】
本発明の更なる好ましい1つの実施の形態によれば、本発明のモノクローナル抗体は、黄色ブドウ球菌のα毒素のモノマー形態及びオリゴマー形態を特異的に結合することが可能である。本発明の更なる1つの実施の形態によれば、本発明のモノクローナル抗体、又はその断片若しくは突然変異タンパク質は、黄色ブドウ球菌のα毒素のモノマー形態若しくはオリゴマー形態、又はその両方を特異的に結合することが可能である。
【0059】
本明細書で使用する場合の「オリゴマー形態」という用語は、α毒素のモノマー形態以外の形態、例えばα毒素のダイマー形態、トリマー形態、テトラマー形態、ペンタマー形態、ヘキサマー形態、ヘプタマー形態等、又はポリマー形態、例えばヘプタマープレポア形態を含む。
【0060】
更なる好ましい1つの実施の形態によれば、本発明のモノクローナル抗体は、N末端において、内部において又はC末端において修飾される。修飾は、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドを使用して架橋することによる、モノマー形態のダイマー化、オリゴマー化又はポリマー化を含む。そのようにして作製されるダイマー、オリゴマー又はポリマーを、ゲルろ過により互いに分離することができる。更なる修飾は、それぞれ、側鎖の修飾、例えばε−アミノ−リジン残基の修飾、又はアミノ末端及びカルボキシ末端の修飾を含む。更なる修飾は、タンパク質の翻訳後修飾、例えばグリコシル化及び/又は部分的若しくは完全な脱グリコシル化、並びにジスルフィド結合形成を含む。抗体は、標識、例えば酵素標識、蛍光標識又は放射標識と複合体形成していてもよい。好ましくは、修飾は、オリゴマー化、グリコシル化、又は薬剤若しくは標識との複合体形成のうちの少なくとも1つから選択される。
【0061】
さらに、本発明は、本発明のモノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をそれぞれコードする核酸を提供する。核酸は、生殖系列から又はB細胞において起こる再構成から得られる自然に発生する核酸であってもよく、代替的には、核酸は合成したものであってもよい。合成核酸は、分解に対する核酸の耐性を増大させるための、ホスホチオエステルを含む修飾ヌクレオシド間結合を有する核酸も含む。核酸は、遺伝子工学的に作製してもよく、又はヌクレオチド合成により完全に合成的に作製してもよい。
【0062】
本発明は、本発明のモノクローナル抗体の軽鎖をコードする少なくとも1つの核酸、及び/又は本発明のモノクローナル抗体の重鎖をコードする少なくとも1つの核酸を含むベクターを更に提供する。核酸は、同じベクター中に存在していてもよく、又はバイナリーベクターの形態で存在していてもよい。ベクターは、好ましくは、軽鎖及び/又は重鎖をコードする核酸の発現を促進するために、核酸と作動的に連結されるプロモーターを含む。好ましくは、ベクターは、複製起点及び宿主細胞における維持も含む。ベクターは、軽鎖又は重鎖をコードする核酸の5’に位置するシグナル配列をコードするヌクレオチド配列も含み得る。シグナル配列は、コードされる鎖の培地中への分泌を促進し得る。
【0063】
好ましくは、ベクターは、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、SV40ウイルス、レトロウイルス、植物ウイルス、又はバクテリオファージ、例えばλ誘導体若しくはM13から導かれる。特に好ましいベクターは、ヒトIg重鎖及びヒト軽鎖の定常領域を含有するベクター、例えば、Persic et al., 1987により記載される免疫グロブリンの真核生物発現のための組込み型(integrated)ベクター系である。
【0064】
さらに、本発明は、ベクター、及び/又は該ベクターの発現に好適な核酸を含む宿主細胞を提供する。当該技術分野では、多数の原核生物発現系及び真核生物発現系が知られており、真核生物の宿主細胞、例えば酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、及び哺乳動物細胞、例えばHEK293細胞、PerC6細胞、CHO細胞、COS細胞又はHELA細胞、並びにその誘導体が好ましい。ヒト産生細胞株が特に好ましい。トランスフェクトされた宿主細胞が、産生した抗体を培養培地中に分泌することが好ましい。細胞内発現が達成されたら、標準的な手順、例えばBenetti et al., 1998により記載される手順等に従って再生を行う。
【0065】
本発明によるヒトモノクローナル抗体は、回復期患者の血液リンパ球から生成され、それにより、感染に対する中和及び効果的な保護のための高い親和性を有する、自然に精製及び選択された抗体がもたらされる。
【0066】
本発明は、モノクローナル抗体を製造する方法も提供する。1つの実施の形態では、モノクローナル抗体は、上で記載されるハイブリドーマを培養することにより産生される。産生されたモノクローナル抗体は上清中に分泌され、従来のクロマトグラフィ技法を適用することにより該上清から精製することができる。
【0067】
代替的には、モノクローナル抗体は、本発明によるベクターを含む宿主細胞、及びコードされる抗体鎖の組換え発現に好適な条件下で該宿主細胞を培養することにより産生される。好ましくは、宿主細胞は、軽鎖をコードする少なくとも1つの核酸及び重鎖をコードする少なくとも1つの核酸を含み、哺乳動物、好ましくはヒトのB細胞により産生されるモノクローナル抗体の3次元構造と同等の3次元構造が生成されるようにモノクローナル抗体を構築することが可能である。重鎖と別々に軽鎖が産生される場合、両方の鎖を精製した後、哺乳動物、好ましくはヒトのB細胞により産生されるようなモノクローナル抗体の3次元構造を本質的に有するモノクローナル抗体を作製するように構築することができる。
【0068】
モノクローナル抗体を、コードされる軽鎖及び/又は重鎖の組換え発現により得ることもでき、ここで核酸は、モノクローナル抗体をコードする核酸を既知の方法で単離すること、及び単離された核酸上への特許請求の範囲に規定されるようなCDRをコードする核酸配列のグラフティングにより作製される。
【0069】
本発明は、少なくとも1つのモノクローナル抗体、並びに/又は該モノクローナル抗体の軽鎖及び/若しくは重鎖をコードする少なくとも1つの核酸を含む医薬組成物を更に提供する。
【0070】
医薬組成物は、好ましくは本発明のモノクローナル抗体と組み合わせて、抗生物質、例えばストレプトマイシン、ペニシリン及びバンコマイシン等を更に含んでいてもよい。
【0071】
医薬組成物は、体重1kg当たり0.1mg〜100mgの用量範囲でモノクローナル抗体を含む。
【0072】
医薬組成物は、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、局所投与、鼻腔内投与、又は吸入スプレー等の任意の既知の方法で、投与することができる。
【0073】
本発明の好ましい1つの実施の形態では、医薬組成物を、哺乳動物、例えばウシ、ブタ、ネコ、イヌ、ウマ、ヒトの患者の臓器における膿瘍形成の予防法又は治療のために使用する。本発明の好ましい1つの実施の形態では、医薬組成物を、ヒトの患者に適用する。本発明の更なる1つの実施の形態では、膿瘍形成は、黄色ブドウ球菌感染により引き起こされる。さらに、本発明の医薬組成物により治療される黄色ブドウ球菌感染症は、例えば乳房の感染症、例えば乳腺炎であり得る。
【0074】
したがって、本発明は、哺乳動物、好ましくはヒトの患者の臓器における膿瘍形成の予防法又は治療のための医薬組成物の調製のための、本明細書中で規定されるようなモノクローナル抗体、又は軽鎖及び/若しくは重鎖の可変領域をコードする核酸の使用を提供する。
【0075】
本発明の好ましい1つの実施の形態では、本明細書中で規定されるような医薬組成物、モノクローナル抗体、又は軽鎖若しくは重鎖の可変領域をコードする核酸を、臓器、例えば腎臓、心臓、肝臓、胆嚢、膵臓、小腸、大腸、肺、脳、皮膚、眼、リンパ組織又は脾臓における膿瘍形成の予防法又は治療に適用する。本発明の好ましい1つの実施の形態では、治療対象の膿瘍は腹部膿瘍である。したがって、治療対象の腹部臓器は、肝臓、胆嚢、脾臓、膵臓、小腸、腎臓及び大腸である。
【0076】
本明細書で使用する場合の「膿瘍形成」という用語は、臓器、例えば腎臓、心臓、肝臓、胆嚢、膵臓、小腸、大腸、肺、脳、皮膚、眼、リンパ組織又は脾臓における膿瘍の形成を表す。本明細書で使用する場合の「膿瘍」という用語は、感染プロセス(通常、細菌又は寄生生物により引き起こされる)に基づいて組織により形成される腔に蓄積した膿の集積物(collection)を意味する。これらの増殖中の細菌により放出される毒素は、細胞を破壊し、炎症応答を誘発し、該領域へ多数の白血球を引き寄せ、局所血流を増大させる。これらの白血球は、死組織を分解し、食作用により細菌を吸収する。濃い緑色又は帯黄色の膿が、蓄積した分解後の組織、死細菌及び白血球並びに細胞外液から形成される。膿瘍は、膿が近隣の構造に感染するのを回避するために隣接する健常細胞により形成される膿瘍壁による被包を特徴とする。これは、身体の他の部分への感染性物質の拡散を防止するための組織の防衛反応である。膿瘍は、任意の種類の固体組織において、しかし最も頻繁には皮膚表面(ここでは膿瘍は表在性の膿疱(腫れ物)、又は皮膚深部の膿瘍であり得る)上で、肺、脳、腎臓及び扁桃腺において起こり得る。主要な合併症は、膿瘍物質の拡散、例えば隣接する又は離れた組織への臓器播種、及び広範な局所組織死(壊疽)である。膿瘍形成は、臓器内の細菌量(bacterial load)を評価することにより検出される。
【0077】
本明細書で使用する場合の「腹部膿瘍」という用語は、腹腔の臓器における膿瘍を表す。腹腔は、内臓の本体(bulk)を保持し、胸腔の下(すなわちその下方)、骨盤腔の上に位置する身体腔である。腹腔は腹骨盤腔の一部である。腹腔の臓器は、胃、肝臓、胆嚢、脾臓、膵臓、小腸、腎臓及び大腸を含む。
【0078】
本明細書で使用する場合の「臓器播種」は、感染症の局所部位から遠隔組織及び遠隔臓器への生きた細菌の散在を意味する。臓器播種は、被包された肉眼で見える細菌細胞のコロニーの形成を伴わない、健常組織における生きた感染細菌細胞の存在を特徴とする。
【0079】
本明細書で使用する場合の「細菌量」は、固体成長培地、例えば寒天プレート上でコロニーに成長する細菌細胞の量として表される、十分に規定された解剖学的組織内の生きた細菌細胞の量と定義される。臓器内の細菌量を評価するために、臓器を周囲組織から外科的に取り出し、臓器組織を、無菌生理食塩溶液中において無菌条件下でメッシュ処理して(meshed up)、十分に構造化された組織の構造を破壊し、哺乳動物の組織から細菌細胞を分離する。所定量の細胞懸濁液(又は無菌生理食塩水におけるその段階希釈液)を、固体細菌成長培地上に広げる。細菌量は、腎臓1個当たりの「コロニー形成単位」(例えばcfu/腎臓)と表す。
【0080】
本発明は、少なくとも1つの本発明のモノクローナル抗体、及び必要に応じて診断試験を実施するための更なる好適な成分を含む、黄色ブドウ球菌感染症の診断のための試験キットも提供する。
【0081】
診断試験を実施するのに好適な成分は例えば、280mOsm/リットル〜320mOsm/リットルの範囲内の浸透圧(osmolality)及びpH6〜8の範囲内のpH値を有する緩衝溶液、キレート剤を含有する緩衝溶液、約0.02M〜約2.0Mの範囲の緩衝組成物の総カチオン濃度で一価若しくは二価のカチオンを含有する緩衝溶液、並びに/又は0.01%〜20%の濃度で動物若しくはヒト由来の血清を含有する緩衝溶液である。
【0082】
試験キットは、黄色ブドウ球菌感染症の特異的な信頼性の高い診断に好適である。試験アッセイは、液体型又は膜結合型の従来のELISA試験に基づくものであり得る。検出は、当該技術分野において知られているような直接的又は間接的なものであってもよく、抗体は必要に応じて、酵素標識、蛍光標識又は放射標識と複合体形成する。
【0083】
したがって、本発明は、試料におけるα毒素との結合を検出するための、少なくとも1つの本発明によるモノクローナル抗体の使用も提供する。α毒素との本発明による抗体の結合は、例えばHRP結合型ヤギ抗ヒトIgG二次抗体を用いて検出することができる。