特許第6064264号(P6064264)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064264
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】ビタミンA中間体の触媒合成
(51)【国際特許分類】
   C07C 403/12 20060101AFI20170116BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   C07C403/12
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-549407(P2014-549407)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公表番号】特表2015-503531(P2015-503531A)
(43)【公表日】2015年2月2日
(86)【国際出願番号】EP2012075534
(87)【国際公開番号】WO2013098095
(87)【国際公開日】20130704
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】11195785.8
(32)【優先日】2011年12月27日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】ボンラス, ウェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ウエステンバーグ, ベッティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ネッチャー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】シュッツ, ジャン
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05424478(US,A)
【文献】 英国特許第01034189(GB,B)
【文献】 国際公開第2011/153363(WO,A1)
【文献】 特表2005−519954(JP,A)
【文献】 特表2006−523661(JP,A)
【文献】 特開2003−261485(JP,A)
【文献】 特表2010−535165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 403/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、Rは、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す)の化合物の製造方法において、
式(II)
【化2】

の化合物、式(III)
【化3】

(式中、Rは、化合物(I)の場合と同一の定義を有する)の化合物を、触媒としてZn[OSCF及び有機窒素含有塩基の存在下に反応することを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
はメチル、エチル、及びペンタデシルを表す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
は、非分岐型C〜C18アルケニル部位を表し、4つ以上のC−C二重結合を有することができる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
化合物(II)のモルに対して、5モルパーセント(モル%)〜20モル%のZn[OSCFが使用される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機窒素含有塩基は、環式アミン又は非環式アミンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
化合物(II)のモルに対して、40モル%までの前記有機窒素含有塩基が使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記反応は、非極性又は極性の非プロトン性溶媒にて実行される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒は極性の非プロトン性溶媒である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
反応は20〜100℃の温度で実行される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、有機合成、特にビタミンA又はβ−カロテン、並びに、例えば、カンタキサンチン、アスタキサンチン、又はゼアキサンチンなどのこれらの誘導体の合成における中間体(構成ブロック)として有用である化合物の生成方法に関する。
【0002】
以下の式
【化1】


によって表されるビタミンAは、多くの用途における重要な成分である。ビタミンAは、例えば、視野プロセス、遺伝子転写、免疫機能、骨代謝、血液生成、皮膚及び細胞の健康、並びに抗酸化機能などの、身体の全体に渡る様々な機能において役割を果たしている。
【0003】
ビタミンA(及びその誘導体)の重要性及びその合成の複雑さのため、生成方法を改善する必要が常に存在する。
【0004】
本発明は、ビタミンAの生成において有用である化合物を生成する新規の方法を可能にする合成に関する。
【0005】
触媒カップリング反応によってビタミンAの生成における有用な中間体を生成することが可能であることが分かった。
【0006】
従って、本発明は、式(I)
【化2】


(式中、Rは、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す)の化合物の生成方法に関し、
式(II)
【化3】


の化合物は、式(III)
【化4】


(式中、Rは、化合物(I)の場合と同一の定義を有し、且つ、触媒としてZn[SOCFを用いることによって、少なくとも1つの有機窒素含有塩基を有する)の化合物と反応する。
【0007】
は、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す。RがC〜C15部位である場合、好ましくは、アルキル部位は直鎖型である。特に好ましいアルキル部位は、メチル、エチル、及びペンタデシルである。RがC〜C18アルケニル部位である場合、化合物(I)は、4つ以上のC−C二重結合を有することができる。好ましくは、アルケニル部分は、非分岐型である。
【0008】
本特許出願において記載及び特許請求される方法は、多くの利点を有する。
【0009】
第一に、ビタミンAの生成にその後使用される化合物が得られる(容易且つ簡潔な方法で)。
【0010】
本発明による方法は、非ハロゲン系カップリング成分を用いて実行される。
【0011】
本発明による方法は、触媒プロセスである。従って、この方法は、グリニヤール又はウィッティヒ反応などの、一般に使用される化学量論的カップリング方法より優れている。
【0012】
Zn[SOCF(Zn(OTf)とも略記される、亜鉛トリフラート)が、触媒として使用される。亜鉛トリフラートは、反応の間、それ自身が反応することはなく、且つ、反応の終了時に再利用可能である。亜鉛トリフラートは、濃度触媒量の幅広い範囲において使用可能である。亜鉛トリフラートは、通常、化合物(II)のモルに対して、20モルパーセント(モル%)までの量で使用される。より多くの量を使用することができることも可能である。
【0013】
通常、亜鉛トリフラートは、化合物(II)のモルに対して5モル%〜20モル%の量で使用される。
【0014】
従って、本発明は、式(I)
【化5】


(式中、Rは、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す)の化合物の生成方法に関し、
式(II)
【化6】


の化合物は、式(III)
【化7】


{式中、Rは、化合物(I)の場合と同一の定義を有し、且つ、化合物(II)のモルに対して20モル%までのZn[OTf]を用いることによって(好ましくは5〜20モル%、より好ましくは10〜20モル%)、少なくとも1つの有機窒素含有塩基を有する}の化合物と反応する。
【0015】
好ましくは、Rは、メチル、エチル、及びペンタデシルである。
【0016】
1,3,3−トリメチル−2−(3−メチルペント−2−エン−4−イニル)シクロヘキサ−1−エンである、式(II)の化合物は、E−型及び/又はZ−型であることができる。
【0017】
1,3,3−トリメチル−2−(3−メチルペント−2−エン−4−イニル)シクロヘキサ−1−エンは、通常、E−及びZ−異性体の混合物として得られ使用される。これらの型は、側鎖におけるC−C二重結合の置換基の位置によって、互いに異なっている。
【0018】
英国特許第1034189号明細書では、3−メチル−5−(2,6,6−トリメチルシクロヘキサ−1−エニル)ペント−1−イン−3−オ−ルの脱水による式(II)の化合物の生成方法を記載している。E/Z型の混合物が得られている。
【0019】
式(III)の化合物(=3−メチル−4−オキソブト−2−エニル酢酸塩)は、一般に周知のプロセスによって合成可能である。この化合物は市販もされている。
【0020】
本発明による方法は、少なくとも1つの有機窒素含有塩基を用いて実行される。
【0021】
適切な有機窒素含有塩基は、例えば、環式又は非環式アミン、好ましくは3級アミン、最も好ましくはN,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、及びN,N−ジシクロヘキシルメチルアミンなどのアミンである。
【0022】
従って、本発明は、式(I)
【化8】


{式中、Rは、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す(好ましくは、Rはメチル、エチル、又はペンタデシルである)}の化合物の生成方法に関し、
式(II)
【化9】


の化合物は、式(III)
【化10】


(式中、Rは、化合物(I)の場合と同一の定義を有し、且つ、触媒としてZn[SOCFを用いることによって、少なくとも1つの環式又は非環式アミン(好ましくは少なくとも1つの環式3級アミン又は非環式3級アミン、より好ましくは、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、及びN,N−ジシクロヘキシルメチルアミンからなる群から選択される少なくとも1つの3級アミン)を有する)の化合物と反応する。
【0023】
本発明による方法に使用される有機窒素含有塩基の量は、通常、化合物(II)のモルに対して40モル%までである(好ましくは5〜40モル%、より好ましくは10〜40モル%)。
【0024】
従って、本発明は、式(I)
【化11】


{式中、Rは、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す(好ましくは、Rはメチル、エチル、又はペンタデシルである)}の化合物の生成方法に関し、
式(II)
【化12】


の化合物は、式(III)
【化13】


(式中、Rは、化合物(I)の場合と同一の意味を有し、且つ、触媒としてZn[OTf]を用いることによって、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、及びN,N−ジシクロヘキシルメチルアミンからなる群から選択される少なくとも1つの有機窒素含有塩基を、化合物(II)のモルに対して少なくとも5モル%有する)の化合物と反応する。
【0025】
本発明による方法は、溶媒(又は溶媒の混合物)の有無にかかわらず実行可能である。好ましくは、少なくとも1つの溶媒が使用される。好ましくは、非極性又は極性の非プロトン性溶媒が使用される。
【0026】
適切な溶媒は、トルエン、1,2−ジクロロエタン、アセトニトリル、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン(=1,4−ジオキサン)、シクロヘキサン、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、DMF、NMP、及びDMSOである。
【0027】
好ましくは、極性の非プロトン性溶媒である。最も好ましくは、アセトニトリル、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、及びジメトキシエタン(DME)である。
【0028】
従って、本発明は、式(I)
【化14】


{式中、Rは、C〜C15アルキル部位又はC〜C18アルケニル部位を表す(好ましくは、Rはメチル、エチル、又はペンタデシルである)}の化合物の生成方法に関し、
式(II)
【化15】


の化合物は、式(III)
【化16】


(式中、Rは、化合物(I)の場合と同一の意味を有し、触媒としてZn[OTf]を用いることによって、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、及びN,N−ジシクロヘキシルメチルアミンからなる群から選択される少なくとも1つの有機窒素含有塩基を、化合物(II)のモルに対して20モル%まで有する)の化合物と反応し、且つ、プロセスは、溶媒であるアセトニトリル、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、又はジメトキシエタン(DME)において実行される。
【0029】
反応は、通常、20〜100℃の温度で実行される。
【0030】
従って、本発明は、プロセスが20〜100℃の温度で実行される前述の方法に関する。
【0031】
すでに前記で記載された通り、この反応の利点は、ビタミンAの生成において有用である化合物が得られることである。式(I)の化合物は、次に続く半水素化、脱水、及び異性化によって、ビタミンA誘導体に変換可能である。
【0032】
ビタミンAが得られる次のプロセス工程は、本発明による方法によって得られたままの生成物を用いて直接実施可能であるか、又は、本発明による方法によって得られた生成物を、単離、且つ、(必要に応じて)精製することができる。
【0033】
得られた生成物は、一般に周知の方法を用いて単離、且つ、精製することができる。
【0034】
以下の実施例は、本発明を例示するために援用される。特記されていない限り、すべての部は重量に関連し、且つ、すべての温度は摂氏にて与えられる。
【0035】
[実施例]
[実施例1]
窒素雰囲気下にて、亜鉛(ll)トリフラート74.2mg(0.2mmol)を、炎で乾燥させた20mlのバイアルの中に移した。バイアルを隔膜で封止し、グローブボックスの外で、アルゴン注入口をシリンジを通して装置した。その後、無水アセトニトリル1.0ml、無水N,N−ジイソプロピルエチルアミン66μl(0.4mmol)、及び1,3,3−トリメチル−2−(3−メチルペント−2−エン−4−イニル)シクロヘキサ−1−エン419mg(2.0mmol)を加え、溶液を10分間24℃で撹拌した。次いで、3−メチル−4−オキソブト−2−エニル酢酸塩(式(III)の化合物)
【化17】


149mg(1.0mmol)をシリンジを通して滴下にて加え、溶液をアルミニウム加熱ブロック中で60℃に加熱した。60℃にて4時間後、オレンジ色の溶液を室温に冷却し、飽和塩化アンモニウム溶液5mlとジクロロメタン5mlを激しく撹拌して加えた。層を分離し、水層をジクロロメタン(5mlを3回)を用いて抽出した。混じり合った有機抽出物を、硫酸ナトリウムを通して乾燥させ、30℃、減圧下(10ミリバール)にて濾過して濃縮した。生成物を56%の収率で得た。
【0036】
[実施例2]
窒素雰囲気下にて、亜鉛(ll)トリフラート37.1mg(0.1mmol)を、炎で乾燥させた20mlのバイアルの中に移した。バイアルを隔膜で封止し、グローブボックスの外で、アルゴン注入口をシリンジを通して装置した。その後、無水アセトニトリル0.2ml、無水N,N−ジイソプロピルエチルアミン33μl(0.2mmol)、及び1,3,3−トリメチル−2−(3−メチルペント−2−エン−4−イニル)シクロヘキサ−1−エン419mg(2.0mmol)を加え、溶液を10分間24℃で撹拌した。次いで、3−メチル−4−オキソブト−2−エニル酢酸塩(式(III)の化合物)
【化18】


149mg(1.0mmol)をシリンジを通して滴下にて加え、溶液をアルミニウム加熱ブロック中で60℃に加熱した。40℃にて17.5時間後、オレンジ色の溶液を室温に冷却し、飽和塩化アンモニウム溶液5mlとジクロロメタン5mlを激しく撹拌して加えた。層を分離し、水層をジクロロメタン(5mlを3回)を用いて抽出した。混じり合った有機抽出物を、硫酸ナトリウムを通して乾燥させ、30℃、減圧下(10ミリバール)にて濾過して濃縮した。生成物を59%の収率で得た。
【0037】
[実施例3〜4]
以下の実施例を、触媒及び/若しくは塩基の量、並びに/又は、塩基及び/若しくは溶媒の量が変更された以外は、実施例1と同様に実行した。
【0038】
【表1】

【0039】
[実施例5〜8:比較例]
以下の実施例すべてを、触媒及び/又は塩基及び/又は溶媒が変更された以外は、実施例1と同様に実行した。
【0040】
【表2】

【0041】
非常に類似した触媒化合物を用いた場合、反応は十分に進行しない(又はまったくしない)ことが分かる。