(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコンダイオードやトランジスタ等の半導体素子は、外気による汚染を防止する観点から半導体素子のP−N接合部を含む表面がガラスにより被覆される。これにより半導体素子表面の安定化を図り、経時的な特性劣化を抑制することができる。
【0003】
半導体素子被覆用ガラスに要求される特性として、(1)半導体素子との熱膨張係数差が原因となってクラック等が発生しないように、熱膨張係数が半導体素子の熱膨張係数に適合すること、(2)半導体素子の特性劣化を防止するため、低温(例えば900℃以下)で被覆できること、(3)半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分等の不純物を含まないこと等が挙げられる。
【0004】
従来、半導体素子被覆用ガラスとしては、ZnO−B
2O
3−SiO
2系等の亜鉛系ガラスや、PbO−SiO
2−Al
2O
3系あるいはPbO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系等の鉛系ガラスが知られているが、作業性の観点からPbO−SiO
2−Al
2O
3系およびPbO−SiO
2−Al
2O
3−B
2O
3系等の鉛系ガラスが主流となっている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PbO等の鉛成分は環境に対して有害な成分であることから、近年、電気および電子機器での使用が禁止されつつあり、各種材料の無鉛化が進んでいる。既述のZnO−B
2O
3−SiO
2系等の亜鉛系ガラスも、少量の鉛成分を含有しており環境の面から使用できないものもある。また、亜鉛系ガラスは鉛系ガラスと比較して化学耐久性に劣り、ガラス焼成後の後工程での酸に対する耐性が比較的弱い。そのため、被覆ガラス表面にさらに保護膜を形成して後工程を行う必要があった。
【0007】
なお、化学耐久性を向上させるため、ガラス組成をSiO
2リッチにすると、半導体素子被覆ガラス層の表面電荷密度は大きくなり、半導体素子の逆耐圧が向上するが、一方で、半導体素子の逆漏れ電流が大きくなるという不具合が生じる。従って、逆耐圧をそれほど必要としない低耐圧用の半導体素子に用いる半導体素子被覆ガラスでは、逆漏れ電流を抑制するため表面電荷密度を低減する必要がある。
【0008】
そこで、本発明は、環境への負荷が小さくて化学耐久性に優れ、かつ、表面電荷密度が低く、特に低耐圧用の半導体素子を被覆するために好適なガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の組成を有するZnO−B
2O
3−SiO
2系ガラスにより前記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、ガラス組成として、質量%で、ZnO 52〜65%、B
2O
3 5〜20%、SiO
2 15〜35%およびAl
2O
3 3〜6%を含有し、かつ、鉛成分を実質的に含有しないことを特徴とする半導体素子被覆用ガラスに関する。
【0011】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ZnO−B
2O
3−SiO
2系ガラスに対して、各成分の含有量を厳密に制限することにより、表面電荷密度を抑え、特に低耐圧用の半導体素子の被覆に適したものであり、かつ、化学的耐久性が高いという特徴を有する。また、鉛成分を実質的に含有しないため、環境への負荷が小さい。
【0012】
なお、本発明において、「実質的に含有しない」とは、ガラス成分として該当成分を意図的に添加しないことを意味し、不可避的に混入する不純物まで完全に排除することを意味するものではない。客観的には、不純物を含めた該当成分の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。
【0013】
第二に、本発明の半導体素子被覆用ガラスは、さらに、組成として、Ta
2O
5 0〜5%、MnO
2 0〜5%、Nb
2O
5 0〜5%、CeO
2 0〜3%およびSb
2O
3 0〜3%を含有することが好ましい。
【0014】
第三に、本発明は、前記半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末を含むことを特徴とする半導体素子被覆用材料に関する。
【0015】
当該半導体素子被覆用材料を用いることにより、半導体素子表面の被覆を容易に行うことができる。
【0016】
第四に、本発明の半導体素子被覆用材料は、ガラス粉末100質量部に対して、TiO
2、ZrO
2、ZnO、ZnO・B
2O
3および2ZnO・SiO
2から選択される少なくとも1種類の無機粉末を0.01〜5質量部含有してなることが好ましい。
【0017】
特に、Si等からなる半導体素子とガラスの接触面積が大きい場合には、ガラスとSiの熱膨張係数が近いことが望ましい。それにより、半導体素子とガラスの熱膨張係数差による被覆ガラス表面のクラックの発生を抑制することができる。ガラスの熱膨張係数は、ガラス中に含まれる結晶成分により調整することができるが、ガラス中から析出する結晶の量を適切に制御することは困難である。そこで、半導体素子被覆用ガラスに対して、上記の無機粉末を適宜添加すれば、これらの無機粉末が核形成剤の役割を果たすため、析出する結晶量を比較的容易に制御することができる。結果として、所望の熱膨張係数に容易に調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、表面電荷密度が低いため、特に低耐圧用の半導体素子の被覆に適しており、かつ、化学的耐久性が高いため経時劣化を低減することができる。また、鉛成分を実質的に含有しないため、環境への負荷が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の半導体素子被覆用ガラスにおいて、各成分を上記の通り規定した理由を説明する。なお、以下の各成分の含有量の説明において、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0020】
ZnOはガラスを安定化する成分である。ZnOの含有量は52〜65%、特に55〜60%であることが好ましい。ZnOの含有量が少なすぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。一方、ZnOの含有量が多すぎると、耐酸性が弱くなる傾向がある。
【0021】
B
2O
3はガラスの網目形成成分であり、かつ、流動性を高める成分である。B
2O
3の含有量は5〜20%、特に7〜15%であることが好ましい。B
2O
3の含有量が少なすぎると、結晶性が強くなって被覆時に流動性が損なわれ、半導体素子表面への均一な被覆が困難になる傾向がある。一方、B
2O
3の含有量が多すぎると、熱膨張係数が大きくなったり、化学耐久性が低下する傾向がある。
【0022】
SiO
2はガラスの網目形成成分であり、かつ、耐酸性を高める成分である。SiO
2の含有量は15〜35%、特に20〜33%であることが好ましい。SiO
2の含有量が少なすぎると、化学耐久性に劣る傾向がある。一方、SiO
2の含有量が多すぎると、溶融時の失透性が強くなり、均質なガラスが得られにくくなる。
【0023】
Al
2O
3はガラスを安定化するとともに、表面電荷密度を調整する成分である。Al
2O
3の含有量は3〜6%、特に4〜5.5%であることが好ましい。Al
2O
3の含有量が少なすぎると、失透しやすくなる。一方、Al
2O
3の含有量が多すぎると、表面電荷密度が大きくなりすぎる傾向がある。
【0024】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、ガラスの表面電荷密度を低減して漏れ電流の発生を抑制する成分として、さらにTa
2O
5、MnO
2、Nb
2O
5、CeO
2またはSb
2O
3を含有することができる。
【0025】
Ta
2O
5は上記効果が特に大きい成分である。Ta
2O
5の含有量は0〜5%、特に0.1〜3%であることが好ましい。Ta
2O
5の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0026】
MnO
2の含有量は0〜5%、特に0.1〜3%であることが好ましい。MnO
2の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0027】
Nb
2O
5の含有量は0〜5%、特に0.1〜3%であることが好ましい。Nb
2O
5の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0028】
CeO
2の含有量は0〜3%、特に0.1〜2%であることが好ましい。CeO
2の含有量が多すぎると、結晶性が強くなりすぎて被覆時に流動性が低下する傾向がある。
Sb
2O
3の含有量は0〜3%、特に0.1〜2%であることが好ましい。Sb
2O
3の含有量が多すぎると、溶融性が低下する傾向がある。
【0029】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、環境面の観点から実質的に鉛成分(PbO等)を実質的に含有しない。また、半導体素子表面に悪影響を与えるアルカリ成分(Li
2O、Na
2OおよびK
2O)も実質的に含有しないことが好ましい。
【0030】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは粉末状であることが好ましい。これにより、例えばペースト法や電気泳動塗布法等を用いて半導体素子表面の被覆を容易に行うことができる。この場合、ガラス粉末の平均粒子径D
50は25μm以下、特に15μm以下であることが好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D
50が大きすぎると、ペースト化が困難になる傾向がある。また、電気泳動塗布も困難になる。なお、ガラス粉末の平均粒子径D
50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0031】
本発明の半導体素子被覆用材料は前記半導体素子被覆用ガラスからなるガラス粉末(以下、「半導体素子被覆用ガラス粉末」ともいう)を含んでなるものである。本発明の半導体素子被覆用材料は、半導体素子被覆用ガラス粉末に対し、TiO
2、ZrO
2、ZnO、ZnO・B
2O
3および2ZnO・SiO
2から選択された少なくとも1種類の無機粉末を核形成剤として含有してなるものであってもよい。これらの無機粉末を添加することにより、析出結晶量を比較的容易に制御することができる。結果として、所望の熱膨張係数に容易に調整することが可能となる。
【0032】
これらの無機粉末の含有量は、半導体素子被覆用ガラス粉末100質量部に対して0.01〜5質量部、特に0.1〜3質量部であることが好ましい。無機粉末の含有量が少なすぎると、析出結晶量が少なく、所望の熱膨張係数を達成することが困難となる傾向がある。無機粉末の含有量が多すぎると、析出結晶量が多くなりすぎて被覆時に流動性が損なわれ、半導体素子表面の被覆が困難となる傾向がある。
【0033】
なお、上記無機粉末の粒子径が小さいほど、析出結晶の粒子径が小さくなり機械的強度が大きくなる傾向がある。したがって、無機粉末の平均粒子径D
50は5μm以下、特に3μm以下であることが好ましい。無機粉末の平均粒子径D
50の下限は特に限定されないが、現実的には0.1μm以上である。
【0034】
本発明の半導体素子被覆用ガラスの熱膨張係数(30〜300℃)は、半導体素子の熱膨張係数に応じて、例えば20〜60×10
−7/℃、さらには30〜50×10
−7/℃の範囲で適宜調整される。
【0035】
半導体素子被覆用材料の表面電荷密度は、例えば1000V以下の半導体素子に対して使用する場合には、6×10
11/cm
2以下、特に5×10
11/cm
2以下であることが好ましい。なお、表面電荷密度は後述する実施例に記載の方法によって測定した値を指す。
【0036】
本発明の半導体素子被覆用ガラスは、例えば、各酸化物成分の原料粉末を調合してバッチとし、1500℃程度で約1時間溶融してガラス化した後、成形(その後、必要に応じて粉砕、分級)することによって得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
表1は本発明の実施例1〜6および比較例1〜3を示している。
【0039】
【表1】
【0040】
各試料は以下のようにして作製した。まず表中のガラス組成となるように原料粉末を調合してバッチとし、1500℃で1時間溶融してガラス化した。続いて、溶融ガラスをフィルム状に成形した後、ボールミルにて粉砕し、350メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径D
50が12μmのガラス粉末(半導体素子被覆用材料)を得た。なお、実施例4については、得られたガラス粉末に対し、ZnO粉末を添加して半導体素子被覆用材料とした。
【0041】
半導体素子被覆用材料の熱膨張係数、表面電荷密度および耐酸性を、以下の方法により測定または評価した。結果を表1に示す。
【0042】
熱膨張係数はディラトメーターを用いて30〜300℃の温度範囲にて測定した値を示す。
【0043】
表面電荷密度は次のようにして測定した。まず、半導体素子被覆用材料を有機溶媒中に分散し、電気泳動によってシリコン基板表面に一定の膜厚になるように付着させ、焼成して焼結層を形成した。焼結層の表面にアルミニウム電極を形成後、焼結層中の電気容量の変化をC−Vメータを用いて測定し、表面電荷密度を算出した。
【0044】
耐酸性は次のようにして評価した。まず、半導体素子被覆用材料を直径20mm、厚み4mm程度の大きさにプレス成型し、焼成してペレット状試料を作製し、この試料を30%硝酸中に25℃、1分浸漬した後の質量減から単位面積当たりの質量変化を算出し、耐酸性の指標とした。なお、当該質量変化量が小さいほど、耐酸性に優れている。
【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜6の半導体素子被覆用材料は表面電荷密度が6×10
11/cm
2以下と低くなり、かつ、耐酸性試験による質量減は1.0mg/cm
2以下であり、耐酸性に優れていることがわかる。したがって、実施例1〜6の半導体素子被覆用材料は低耐圧用半導体素子の被覆に適しており、かつ、化学耐久性にも優れていることがわかる。
【0046】
一方、比較例1および2の試料は表面電荷密度が6×10
11/cm
2以下と低いが、耐酸性試験による質量減は3.5mg/cm
2以上であり、耐酸性に劣っていた。また、比較例3の試料は耐酸性試験による質量減は0.4mg/cm
2と小さいが、表面電荷密度は15×10
11/cm
2と大きかった。