特許第6064338号(P6064338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064338酸化チタンの非極性有機溶媒分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064338
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】酸化チタンの非極性有機溶媒分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/07 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
   C01G23/07
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-36430(P2012-36430)
(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-170110(P2013-170110A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018740
【氏名又は名称】日本アエロジル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】疋田 和康
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 正彦
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】山下 行也
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−307806(JP,A)
【文献】 特開平11−278845(JP,A)
【文献】 特開平08−217654(JP,A)
【文献】 特開2008−069046(JP,A)
【文献】 特開2005−200294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/04−23/07
C01B 13/14,13/24
B01J 21/00−38/74
C09C 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性のチタン化合物を、水素を含む気相火炎中で加水分解することによって得られた酸化チタン微粉末の表面を、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物で表面処理してなる疎水性酸化チタン微粉末を、有機溶媒に分散させる酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法であって、
前記疎水性酸化チタン微粉末を構成する酸化チタンが、BET比表面積が40〜150m/gで、アナターゼ及びルチルの結晶構造を持ち、アナターゼの比率が0.3〜0.98の酸化チタンであり、
前記有機溶媒が、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ベンゼン、ジエチルエーテル、及びトルエンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、
前記シランカップリング剤が、下記一般式(I)又は(II)で表されるものであり、
前記シリコーン化合物が、下記一般式(III)で表されるものであり、
前記表面処理を、前記酸化チタン微粉末の撹拌下に、前記シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物を滴下し、50〜400℃で0.1〜3時間加熱処理することにより行うことを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
4−nSiR …(I)
(上記(I)式中、Xは水酸基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示し、nは0〜3の整数を示す。)
R'SiNHSiR' …(II)
(上記(II)式中、R'は炭素数1〜3のアルキル基を示し、一部のR'は水素原子又はビニル基等の他の置換基であってもよい。)
【化1】
(上記(III)式中、Rはメチル基又はエチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、あるいはビニル基、フェニル基又はアミノ基で置換されてもよいアルキル基を示し、X'は水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、mは1〜500の整数を示す。)
【請求項2】
請求項1において、前記疎水性酸化チタン微粉末は、透過率法によって測定された疎水率が70%以上の値を示すことを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記疎水性酸化チタン微粉末を、撹拌翼、ディゾルバー、ボールミル、ニーダー、サンドミル、ロール混合機、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、タワーミル、湿式ジェットミル及びビーズミルのいずれか1種又は2種以上の機械的・物理的な手段で前記有機溶媒に分散させることを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記酸化チタンの有機溶媒分散液の疎水性酸化チタン微粉末の濃度が0.1〜40重量%であることを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤や安定化剤などを用いることなく、酸化チタン微粒子を非極性(非プロトン)溶媒に均一に分散させてなる酸化チタンの非極性有機溶媒分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンの分散液への要望は高く、既に多くの文献、特許が公開されている。
例えば、学術的な総説の中で、「ナノ粒子の液中凝集・分散挙動の制御」の一般的な技術の概要について考え方が紹介されている(非特許文献1)。
ここでは、先ず、金属酸化物など親水性の粒子を、水やアルコールなど親水性溶媒に分散させる場合に触れ、粒子表面に何らかの修飾を施すことが述べられている。
例えば、ポリアクリル酸、カルボン酸塩、ポリイミン系の分散剤等が使用され、また、溶媒が水系であれば、アニオン、カチオン系の界面活性剤を吸着させて、粒子の表面電位を増加させたり、あるいは粒子表面に吸着した親水基と吸着しない疎水基による立体障害効果で分散させる手法なども考案されている。
【0003】
また、親水性粒子の無極性溶媒への分散では、トルエン、MMA、THFを始めとした極性の低い有機溶媒中の親水性セラミックス原料粒子は、濡れ性が悪いため、極性の溶媒に使われる分散剤に加え、表面をシランカップリング剤で修飾し、炭化水素鎖を導入する方法で溶媒との濡れ性を高めることが紹介されている。
【0004】
従来の酸化チタン粒子の水性溶媒への分散技術の代表的なものとしては、次のようなものがある。
【0005】
特許文献1:酸化物粒子の粒度の非対称な分布を特徴にし、かつ分散剤としてアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオンなどを含むチタンの熱分解法により製造された酸化物粒子を含有する水性分散液
特許文献2:二酸化チタンと、親水性高分子のカルボキシル基とをエステル結合で化学的に修飾することにより、中性付近はもとより幅広いpH領域の水系溶媒への分散性と安定性に優れた、表面改質二酸化チタン微粒子とその分散液
特許文献3:ルチル型結晶構造の酸化チタンを含有する無機酸化物超微粒子をチタンに対するスズのモル比(Sn/Ti)が0.001〜2のスズ化合物共存下、Ti濃度が0.07〜5mol/lのチタン化合物水溶液をpHが−1〜3の範囲で反応させて核(A)とし、ケイ素酸化物を含む被覆層(B)を有する被覆型無機酸化物超微粒子
特許文献4:二酸化チタンの表面が、カルボキシル基を有する親水性高分子により修飾された表面改質二酸化チタン微粒子を水系溶媒に分散させた表面改質二酸化チタン微粒子の分散液
【0006】
また、非極性溶媒への分散については次のような技術がある。
【0007】
特許文献5:表面処理剤によって表面が処理された金属酸化物微粒子を(メタ)アクリルモノマーからなる分散媒中に導入する工程、リン、又は硫黄を含むオキソ酸を加える工程を有する金属酸化物微粒子分散液の製造方法。ここでは、有機溶媒とともに表面処理剤を加えることにより、有機溶媒中に金属酸化物微粒子を抽出する分散剤を添加して分散させる。
特許文献6:スズ化合物と、チタン濃度が0.1M以上0.25M以下のチタン化合物とを含む水溶液を加熱処理して酸化チタン微粒子を生成する工程と、脂溶性表面修飾分子により水溶液中で表面が修飾された酸化チタン微粒子を、水溶液へ添加剤を加えて非極性有機溶媒相へルチル型チタニアを抽出する湿式の工程で、高い再現性で、トルエンのような非極性有機溶媒に高い分散性を示すルチル型酸化チタン微粒子を製造する。
特許文献7:硬化性シリコーン化合物を必須成分とするハードコート組成物であり、樹脂に混合されるための技術であって、ハードコート組成物を作製する工程の中で、コロイド分散液として入手可能な公知技術による(含水)酸化チタンに対して、被覆剤である珪素化合物を添加して表面処理をするプロセスを含む。ここでは部分的に、いわゆるシラン・カップリング処理で水及び/又は有機溶媒に分散してゾルを形成しうる一般的な技術を示している。なお、有機溶媒を用いる場合には、極性の高い有機溶媒が好ましいとしている。
特許文献8:分散安定剤を含む酸化チタン微粒子の透明な有機溶媒分散液であって、該分散安定剤が屈折率1.50以上の有機酸を主成分とするものである酸化チタン微粒子分散液。
特許文献9:ナノレベルのルチル型結晶の酸化チタン微粒子が分散している、透明性に優れた酸化チタン微粒子の有機溶媒分散液であって、少なくとも混合有機溶媒及び有機酸を含むルチル型結晶の酸化チタン微粒子の有機溶媒分散液。
特許文献10:チタン原料を直流アークプラズマ法によって加熱、気化させ、そのチタン蒸気を酸化、冷却することにより、20重量%の水分散体のpHが2.8〜4.0であり、平均粒子径が5〜70nmの範囲である二酸化チタン超微粒子を用いる。有機溶媒に分散剤と共に分散処理することにより二酸化チタン超微粒子の非水性分散体を得ており、分散剤と共に分散させることを必要とする。
特許文献11:有機溶媒中に、気相法で製造された平均一次粒子径が0.01〜0.1μmの超微粒子酸化チタン粉末と、β−ジケトンと、チタネート系及び/もしくはアルミニウム系のカップリング剤と、チタンアルコキシドもしくはその部分加水分解物とを含有する光触媒塗料。分散のため、分散効果を有する試薬が分散液に添加される技術である。
特許文献12:カップリング剤により導入された炭化水素鎖中の二重結合等を利用しモノマーをグラフト重合させ、更に架橋反応をさせて、ポリマーでコートしたカーボンブラックなど種々の粒子の疎水性を高め、ポリマーの懸架力で溶媒への懸濁の安定性を増進させた電気泳動液体を発明している。前段では、珪酸ナトリウム水溶液中でシリカコーティング処理などを施しており、水系の溶液中での処理が伴っている。
【0008】
なお、本発明で用いる疎水性酸化チタン微粉末については、特許文献13に記載されている。
【0009】
酸化チタンは色々な用途に必須で有用な材料であるため、上述のように、従来、水溶液系又は有機溶媒系において、酸化チタンを分散させるための技術について、多くの発明、提案がなされている。
しかしながら、水溶液系で合成される酸化チタンでは、粒子内部に残存吸着水が多く含まれ、分子レベルで強く吸着されると十分に乾燥するのが難しいため、水系の溶媒中での分散に使われる場合を除き、水の混入を望まれない用途には使用が難しいという問題があった。
【0010】
また、水系の溶媒中で分散している酸化チタン粒子の表面を、カップリング剤などにより表面修飾を施して分散させやすくする技術があるが、溶媒から取り出して一旦乾燥させると、酸化チタン同士の凝集を起こしやすく、かさ密度が高くなったり、別途、解砕・篩分けなどをする作業・工程が必要になり、また、その作業によって、コンタミが増えるという問題が発生する。
【0011】
そこで、一旦溶液系外に取り出す操作を不要とするために、水系溶媒中で表面修飾した酸化チタン粒子を有機溶媒に抽出する発明も見られるが、水を包含し、あるいは水が付着した粒子が抽出される有機溶媒中に導入されたり、水系溶媒中に溶解していた分散剤、安定剤なども混入するという問題があった。
【0012】
湿式のプロセスで合成した酸化チタンだけでなく、仮に酸化チタンを気相中で製造した場合であっても、一旦、水系溶媒に入れて表面の修飾や改質の処理をすれば、上記で述べた問題は同様に発生する。
【0013】
酸化チタン自体は、物理化学的には親水性の性質・特性を持ち、そのもの自体では有機溶媒、特に非水系の、極性の低い有機溶媒には均一に分散し難い。
このため、有機溶媒を用いた酸化チタン粒子の分散液を得るために、溶媒中に分散効果のある表面活性剤などを別途添加して分散させ、分散状態を安定化させたり、あるいは、溶液中で、カップリング剤などを用いて酸化チタン粒子の表面を修飾して、溶媒に分散しやすくするなどの手法を用いたり、まず水溶液系で分散液を調製した後、有機溶媒に抽出する方法などの技術が提案されている。
しかしながら、従来法では、非極性有機溶媒への酸化チタン粒子の分散には、分散剤を添加しないと均一分散状態を得ることができず、分散剤の使用に起因する分散剤由来のコンタミの問題があった。また、分散剤を含む酸化チタン粒子の分散液では、溶媒を蒸発除去した後、酸化チタンのみならず分散剤が残留することとなり、酸化チタンのみを必要とする用途には用いることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4338636号公報
【特許文献2】特開2005−289660号公報
【特許文献3】特開2007−197278号公報
【特許文献4】特許第3775432号公報
【特許文献5】特開2010−095679号公報
【特許文献6】特開2009−215119号公報
【特許文献7】特開2004−238418号公報
【特許文献8】特許第4725510号公報
【特許文献9】特開2010−138020号公報
【特許文献10】特開平11−278844号公報
【特許文献11】特許第3291563号公報
【特許文献12】US2002/0185378A1
【特許文献13】特許第3417291号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Hidehiro and Yotoyuki Iijima,”Aggregation and Dispersion Behavior Contral of Nanoparticles in Liquid Phase”J.Soc.Powder Technol,Japan,46,606−614(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、コンタミの原因となる水の混入がなく、また、分散剤や安定化剤などを用いることなく、酸化チタン粒子の分散が難しいとされている極性の低い有機溶媒中に、酸化チタン粒子をナノ粒子レベルで均一に分散させた、比較的安価な分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、揮発性のチタン化合物を、水素を含む気相火炎中で加水分解することによって得られる酸化チタン微粉末の表面を、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物で、乾式にて表面処理して得られる疎水性酸化チタン微粉末が、分散剤や安定化剤などを用いることなく、非極性有機溶媒中にナノ粒子レベルで均一に分散可能であることを見出した。
【0018】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0019】
[1] 揮発性のチタン化合物を、水素を含む気相火炎中で加水分解することによって得られた酸化チタン微粉末の表面を、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物で表面処理してなる疎水性酸化チタン微粉末を、有機溶媒に分散させる酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法であって、前記疎水性酸化チタン微粉末を構成する酸化チタンが、BET比表面積が40〜150m/gで、アナターゼ及びルチルの結晶構造を持ち、アナターゼの比率が0.3〜0.98の酸化チタンであり、前記有機溶媒が、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ベンゼン、ジエチルエーテル、及びトルエンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上であり、前記シランカップリング剤が、下記一般式(I)又は(II)で表されるものであり、前記シリコーン化合物が、下記一般式(III)で表されるものであり、前記表面処理を、前記酸化チタン微粉末の撹拌下に、前記シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物を滴下し、50〜400℃で0.1〜3時間加熱処理することにより行うことを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
4−nSiR …(I)
(上記(I)式中、Xは水酸基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示し、nは0〜3の整数を示す。)
R'SiNHSiR' …(II)
(上記(II)式中、R'は炭素数1〜3のアルキル基を示し、一部のR'は水素原子又はビニル基等の他の置換基であってもよい。)
【0024】
【化1】
【0025】
(上記(III)式中、Rはメチル基又はエチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、あるいはビニル基、フェニル基又はアミノ基で置換されてもよいアルキル基を示し、X'は水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、mは1〜500の整数を示す。)
【0026】
] [1]において、前記疎水性酸化チタン微粉末は、透過率法によって測定された疎水率が70%以上の値を示すことを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
【0028】
] [1]又は2]において、前記疎水性酸化チタン微粉末を、撹拌翼、ディゾルバー、ボールミル、ニーダー、サンドミル、ロール混合機、超音波ホモジナイザー、ホモミキサー、タワーミル、湿式ジェットミル及びビーズミルのいずれか1種又は2種以上の機械的・物理的な手段で前記有機溶媒に分散させることを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
【0029】
] [1]ないし[]のいずれかにおいて、前記酸化チタンの有機溶媒分散液の疎水性酸化チタン微粉末の濃度が0.1〜40重量%であることを特徴とする酸化チタンの有機溶媒分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、分散剤や安定化剤などを用いることなく、また水分散液を経ることなく、非極性有機溶媒中に酸化チタン微粉末をナノ粒子レベルで均一に分散させた酸化チタンの非極性有機溶媒分散液が提供される。
即ち、本発明によれば、気相火炎中での加水分解で得られた酸化チタンの表面に、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物を用いる乾式処理で疎水性機能を付与したことによって、非極性有機溶媒に対する分散性が良好なものとなり、分散液を安定させるための分散剤や表面活性剤、安定剤などの成分を必要とすることなく、均一分散液を得ることができるため、これらの成分を用いることによる不純物の混入、例えば、燐酸、錫などの混入を避けることができる。
【0031】
また、分散剤や安定化剤などを用いないと、従来は実現不可能であった酸化チタン微粒子の非極性有機溶媒分散液を実現することにより、本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液を、極性溶媒による分散液では適用できなかった用途、例えば、塗料、インク、樹脂との複合材料、フィルムなどの構成成分として適用することが可能となり、しかも、その際に、分散液の分散安定性が優れていることから、対象製品表面の均質な塗膜、コーティング、フィルムを提供することができる。
これらはまた、酸化チタンを原料として用いる製品の寸法、表面状態・充填率などの均質性を担保すると共に、光学的な製品の光学的均質性を付与するために有効である。
【0032】
特に、本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液から溶媒が除去される過程で、酸化チタン以外の不要な分散剤等の添加剤が析出することが無いため、酸化チタン微粒子で形成される表面コーティング、フィルム、固体などのいかなる形状の製品においても、不要な物質が酸化チタンの界面に濃縮されたり、凝集するおそれが無く、高純度で均質な材料を必要とする用途に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施例1において、撹拌翼による撹拌を30分行ったときの分散液中の酸化チタン分散粒子の粒子径分布を示すチャートである。
図2】実施例1において、撹拌翼による撹拌後、更に超音波ホモジナイザーによる分散処理を10分行ったときの分散液中の酸化チタン分散粒子の粒子径分布を示すチャートである。
図3】実施例1において、撹拌翼による撹拌後、更にビーズミルによる分散処理を60分行ったときの分散液中の酸化チタン分散粒子の粒子径分布を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液の実施の形態を詳細に説明する。
【0035】
[疎水性酸化チタン微粉末]
まず、本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液において、非極性有機溶媒中に分散させる疎水性酸化チタン微粉末(以下、「本発明の疎水性酸化チタン微粉末」と称す場合がある。)について、その製造方法に従って説明する。
【0036】
<酸化チタンの合成>
まず、TiCl等の揮発性のチタン化合物を水素を含む気相火炎中で加水分解することによって、疎水性酸化チタン微粉末を構成する酸化チタンを合成する。
一般に市販されている硫酸法等で製造される湿式酸化チタン等に比べ、本乾式酸化チタンは、気相中で含水素火炎中で合成されるため、基本的には残存水が無いあるいはあっても含水率は極めて微量である。
また、内部比表面積が小さいため、粒子が内部まで均一に疎水化され易く、またかさ密度が小さいことから分かるように粒子の凝集の程度が低いため、溶媒中で微細粒子として分散しやすいという特徴を持つ。
【0037】
出発原料となる揮発性のチタン化合物としては、TiClの他、Ti(OCH,Ti(OC等のチタンアルコキシド等を用いることができる。
【0038】
このような揮発性のチタン化合物を分解することにより製造された酸化チタンのBET比表面積が40m/gより小さいと、得られる疎水性酸化チタン微粉末が非極性有機溶媒中で解砕あるいは粉砕されにくく、分散性が悪くなり、BET比表面積が150m/gより大きいと酸化チタンの凝集力が高くなって、非極性有機溶媒中での分散が難しくなる。
従って、得られる乾式酸化チタンのBET比表面積は40〜150m/g、特に50〜110m/gであることが好ましい。
【0039】
また、得られる乾式酸化チタンはルチルとアナターゼの比率には特に制限はないが、アナターゼの比率(以下「アナターゼ比」と称す場合がある。)が0.3よりも小さいと酸化チタンの表面の活性が弱すぎるため均一に表面改質することが困難となり、得られる疎水性酸化チタン微粉末の疎水性が悪くなる。アナターゼ比が0.98よりも大きいと表面活性が強すぎるため、一部、表面改質剤に分解等が起こり均一に表面改質することが困難となる。
従って、本発明において、得られる乾式酸化チタンは、アナターゼ及びルチルの結晶構造を持ち、アナターゼ比が特に0.3〜0.98であることが好ましい。
なお、アナターゼ比は、後述の実施例の項に記載される方法で求めることができる。
【0040】
このようにBET比表面積が40〜150m/gで、アナターゼ比が0.3〜0.98の酸化チタンは、例えば、揮発性のチタン化合物を、水素含有ガスの存在下、600〜1800℃の温度で原料ガス中のチタン濃度が二酸化チタン換算で5〜250g/mの条件下で熱加水分解することにより製造することができる。
【0041】
<表面処理>
本発明においては、上述のようにして得られる乾式酸化チタンの表面改質剤として、好ましくは下記一般式(I)又は(II)で表されるシランカップリング剤及び/又は下記一般式(III)で表されるシリコーン化合物を用いて乾式で表面処理を行う。
【0042】
4−nSiR …(I)
(上記(I)式中、Xは水酸基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を示し、Rは炭素数1〜18のアルキル基を示し、nは0〜3の整数を示す。)
【0043】
R'SiNHSiR' …(II)
(上記(II)式中、R'は炭素数1〜3のアルキル基を示し、一部のR'は水素原子又はビニル基等の他の置換基であってもよい。)
【0044】
【化2】
【0045】
(上記(III)式中、Rはメチル基又はエチル基を示し、Rは水素原子、メチル基、エチル基、あるいはビニル基、フェニル基又はアミノ基で置換されてもよいアルキル基を示し、X'は水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、mは1〜500の整数を示す。)
【0046】
前記一般式(I),(II)において、Rで表されるアルキル基の炭素数が18よりも大きい長鎖アルキルシランカップリング剤を用いた場合、立体障害等が起きることにより表面改質が均一に行われにくく、また凝集しやすくなる。
【0047】
前記一般式(I)で表されるシランカップリング剤において、Rとしては、特に炭素数1〜10のアルキル基が、Xとしては、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、Cl等のハロゲン原子が好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、ジメチルトリメトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン等が挙げられる。
【0048】
また、前記一般式(II)で表されるシランカップリング剤において、R'としては特に炭素数1〜2のアルキル基が好ましく具体的にはヘキサメチルジシラザン等が挙げられ、一部のR'が水素原子に置換されたものとしてはテトラメチルジシラザン、ビニル基で置換されたものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。
【0049】
また、前記一般式(III)で表されるシリコーン化合物が、低分子であると疎水性を持たせることが難しく、高分子であると疎水性を持たせることはできるが凝集しやすくなる。
【0050】
前記一般式(III)で表されるシリコーン化合物において、Rとしては、水素原子、メチル基等が好ましく、またX'としては水酸基、メトキシ基、メチル基等が好ましく、mは15〜300であることが好ましい。
このシリコーン化合物としては分子量1000〜20000程度のジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、α,ω−ヒドロキシオルガノポリシロキサン、アルキル変性シリコーンオイル等が好適である。
【0051】
このような表面改質剤は、それぞれ単独で用いても良く、2種以上を同時に用いても良く、また2種以上を段階的に用いても良い。
【0052】
また、表面改質処理は、乾式法、湿式法のいずれでも行えるが、本発明では、水の混入を極力防止することから、乾式で行う。また、凝集の問題や処理コストの面、及び、廃液処理や環境への配慮の面からも乾式法が望ましい。
【0053】
乾式による表面処理は、酸化チタン微粉末に撹拌下、不活性ガス雰囲気中で、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物を滴下し、50〜400℃で0.1〜3時間程度加熱撹拌すれば良い。
【0054】
この表面改質処理において、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物の使用量が少な過ぎると十分に表面改質を行うことができず、多過ぎると凝集物が多くなる。従って、シランカップリング剤及び/又はシリコーン化合物の添加量は酸化チタンに対して0.1〜50重量%、特に1〜30重量%とすることが好ましい。
【0055】
このようにして得られる本発明の疎水性酸化チタン微粉末は、透過率法によって測定された疎水率が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の値を示すことが、非極性有機溶媒中に安定的に均一分散させることができることから好ましい。
【0056】
[疎水性酸化チタン微粉末の非極性有機溶媒への分散]
次に、上述のようにして得られる疎水性酸化チタン微粉末を非極性有機溶媒中に分散させて、本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液を製造する方法について説明する。
【0057】
<非極性有機溶媒>
本発明で用いる非極性有機溶媒は、持っている電気双極子が小さい分子からなり、溶媒として用いたとき、一般に溶解力が低いような有機溶媒であり、このような極性のない、ないしは極性の小さい有機溶媒であれば特に制限はないが、具体的には、ベンゼン、四塩化炭素、ジエチルエーテル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチルなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ベンゼン、ジエチルエーテル、トルエンである。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
<分散方法>
上記のような非極性有機溶媒に本発明の疎水性酸化チタン微粉末を分散させる方法としては、均一に分散できる方法であれば特に制限はない。例えば、撹拌翼、ディゾルバー、ボールミル、ニーダー、サンドミル、ロール混合機、ホモミキサー、タワーミル、超音波ホモジナイザー、湿式ジェットミル及びビーズミルなど呼称・名称は種々異なるが、衝撃、摩擦、振動や剪断応力などを付与する、機械的ないしは物理的手法により撹拌、混合、粉砕する方法が挙げられる。このような分散処理は、2以上を組み合わせて行ってもよい。
【0059】
分散処理時間は、均一な分散液が得られるように、分散液の疎水性酸化チタン微粉末濃度や分散処理手段等に応じて適宜決定される。
【0060】
<疎水性酸化チタン微粉末濃度>
本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液において、分散液中の疎水性酸化チタン微粉末濃度は、0.1〜40重量%、特に0.5〜30重量%であることが好ましい。
分散液中の疎水性酸化チタン微粉末濃度が低過ぎると、各種用途への適用が困難であり、高過ぎると均一分散液とすることが難しく、分散処理に長時間を要するなどの不具合が生じる。
【0061】
<その他の成分>
本発明の疎水性酸化チタン微粉末は、分散剤や安定化剤などを用いることなく、非極性有機溶媒中に均一分散させることができる。
ここで、本発明で不使用とする分散剤や安定化剤は、微粒子の分散性向上のために一般的に用いられるものであり、例えば、ポリアクリル酸、カルボン酸塩、ポリイミン系の分散剤、各種の炭化水素化合物、錫化合物、燐酸やホスホン酸・ホスフィン酸などのりん化合物、アルミニウム化合物、硫酸やスルフォン酸等の硫黄化合物、シランカップリング剤、硬化性シリコーンなど、目的とする粉体と溶媒成分以外の分散助剤、安定化剤など(本発明においては、これらを「分散剤」と称す。)である。
また、酸化チタン合成のプロセスにより混入する水分も望ましくない混入物である。
本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液は、これらの分散剤を実質的に含まないことが分散剤によるコンタミや、非極性有機溶媒を揮発させた後の分散剤の残留の問題がないことから好ましい。ここで、実質的に含まないとは、分散液中の濃度として例えば0.05重量%以下であることをいう。
【0062】
なお、本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液には、上記の分散剤以外の成分、例えば酸化珪素などの珪素系化合物、塩素化合物等を含んでいてもよいが、最も好ましくは、疎水性酸化チタン微粉末と前述の非極性有機溶媒のみで構成される。なお、本発明の分散液中には、1種の疎水性酸化チタン微粉末のみが含まれていてもよく、BET比表面積や、アナターゼ比、疎水率や、用いた表面処理剤の異なる疎水性酸化チタン微粉末の2種以上が含まれていてもよい。
【0063】
<分散度>
本発明の酸化チタンの非極性有機溶媒分散液における疎水性酸化チタン微粉末の均一分散状態としては、粒子径分布が10nm〜3μm、特に20nm〜0.5μmで、D50が30〜300nm、特に40〜100nmであることが各種用途において好ましい。
なお、分散液中の酸化チタンの粒子径分布は、動的光散乱法に基いて、例えば日機装社製「マイクロトラックUPA−EX」、「マイクロトラックMT3300II」、掘場製作所製「LA−920」、「LB−500」などを用いて測定することができ、また、D50は、この粒子径分布の測定結果から細かい粒子と粗い粒子の境目を示す中央の値(D50)として求めることができるが、本発明においては、日機装社製「マイクロトラックMT3300II」を用いて測定を行った。
【実施例】
【0064】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0065】
なお、以下において、酸化チタン微粉末のBET比表面積、アナターゼ比、疎水性酸化チタン微粉末の疎水率と、分散液中の疎水性酸化チタン微粉末又は酸化チタン微粉末の粒子径分布及びD50は、以下の方法によって測定したものである。
【0066】
<BET比表面積>
BET法により測定した。
【0067】
<アナターゼ比>
酸化チタン微粉末を試料ホルダーにガラス板にて平面状に押し付けたものをX線回折装置(フィリップス社製)で測定し、得られた回折強度のアナターゼ型結晶構造の最強干渉線である(101)の回折強度(I)とルチル型結晶構造の最強干渉線である(110)の回折強度(I)から下式を用いてアナターゼ型結晶構造の含有率(A)を求めた値をアナターゼ比とした。
A(%)=100/(1+1.265×I/I
(Ref.R.A.Spurr,H.Myers,Anal.Chem.29,760(1957))
【0068】
<疎水率>
疎水性酸化チタン微粉末1gを200mLの分液ロートに計り採り、これに純水100mLを加えて栓をし、ターブラミキサーで10分間振盪した後、10分間静置する。静置後、下層の20〜30mLをロートから抜き取った後に、下層の混合液を10mm石英セルに分取し、純水をブランクとして比色計にかけ、その500nmの透過率を疎水率とした。
【0069】
<粒子径分布、D50
動的光散乱法により、日機装社製「マイクロトラックMT3300II」を用いて測定した。また、測定結果から細かい粒子と粗い粒子の境目を示す中央の値(D50)を求めた。
【0070】
[実施例1]
ガス状の四塩化チタンを水素原子が混在する火炎中で、1,000℃の温度下、チタン濃度が二酸化チタン換算で80g/mの条件で、熱加水分解することによりBET比表面積が90m/g、アナターゼ比が0.85の酸化チタン微粉末を製造した。
この酸化チタン微粉末100重量部を、ミキサーに入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら、n−オクチルトリメトキシシラン20重量部を滴下し、150℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却することにより表面処理した。
得られた疎水性酸化チタン微粉末の疎水率は97%であった。
【0071】
この疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに、撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して、乳白色の均一な分散液を得た。
この分散液の一部を採取して粒子径分布を測定したところ、図1のように、粒子径分布は60nm〜2μmで、D50は210nmとなり、撹拌によって十分に均質な分散液が得られたことが確認された。
残りの分散液の一部に超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部をサンプル採取して粒子径分布を測定したところ、図2に示すように、粒子径分布は38nm〜0.45μmでD50は75nmとなり、分散粒子は更に微細粒子となり、分散が促進されたことが確認された。
残りの分散液をビーズミル(日本コークス製・MSCミル)で、液を分散させながら60分間、30μmの安定化ジルコニアビーズで混合と分散を継続した。その分散液サンプルの粒子径分布を測定したところ、図3に示すように、粒子径分布は35nm〜0.25μmで、D50は65nmとなり、ビーズミルで更に粗粒が減少して微細粒子となり、分散が促進されたことが確認された。
【0072】
これら撹拌後、ホモジナイズ後、ミル混合後の分散液をそれぞれ透明なガラス容器に移して、静置して観察したが、数日後ではいずれのサンプルも粒子の沈降と溶媒の分離は見られなかった。
【0073】
また、上記の疎水性酸化チタン微粉末を20重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った80重量部のメチルエチルケトンに、撹拌しながら加え、1時間撹拌を継続して、乳白色の均一な分散液を得た。
この分散液を、上記と同様、それぞれ超音波ホモジナイザー、ビーズミルで分散させたところ、それぞれの処理時間を長くする必要がある場合があるが、上記と同様に、粒子の沈降が見られず安定な分散液が得られた。
更に、上記の疎水性酸化チタン微粉末の割合を増加させ30重量部とし、70重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、1時間撹拌を継続した後、超音波ホモジナイザーで分散させ、乳白色の均一な分散液が得られた。この分散液もまた、上記と同様に、粒子の沈降が見られず安定な分散液であった。
ただし、疎水性酸化チタン微粉末が30重量部を超え40重量部としても混合は可能であったが、粉体の重量部数を40重量部まで増加させると、撹拌翼による撹拌が次第に難しくなるため、分散液としての適切な濃度の限界は30重量%であると考えられた。
【0074】
[比較例1]
実施例1で製造したBET比表面積が90m/gの酸化チタン微粉末は親水性を示している。これを表面処理することなく、10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して白色系の混合物を得た。
更に撹拌しながら、この一部を採取して静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして分離し、十分な分散と安定化がなされていないことが観察された。
また、撹拌中に採取した一部の混合物に、超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、静置して観察したところ、撹拌翼による混合と同様に、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が見られた。
更に撹拌しているサンプルの一部を、ビーズミルの試料フォルダに投入し、混合液を循環しながら粉砕と分散を試みたが、1時間ミル処理した後のサンプルでも、ミルから取り出して静置すると、時間の経過とともに、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が明らかになった。
この結果から、親水性の酸化チタンは、非極性溶媒に安定して分散されにくいことが確認された。
【0075】
[実施例2]
実施例1において、非極性有機溶媒として酢酸エチルを用いたこと以外は同様にして分散液を製造した。
即ち、疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部の酢酸エチルに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して、乳白色の均一な分散液を得た。
実施例1と同様に、これの一部を採取して粒子径分布を測定したところ、図1と同様に、粒子径分布は68nm〜1.8μmでD50は220nmとなり、撹拌によって十分に均質な分散液が得られた。
残りの分散液の一部に超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部からサンプル採取して粒子径分布を測定したところ、図2と同様に、粒子径分布は45nm〜0.42μmで、D50は80nmとなり、更に微細粒子となり、分散が促進された。
残りの分散液をビーズミルで、液を分散させながら60分間、30μmの安定化ジルコニアビーズで混合と分散を継続し、その分散液の粒子径分布を測定したところ、図3に示したのと同様に、粒子径分布は38nm〜0.25μmで、D50は70nmとなり、ビーズミルで更に粗粒が減少して微細粒子となり、分散が促進された。
これら撹拌後、ホモジナイズ後、ミル混合後の分散液をそれぞれ透明なガラス容器に移して、静置して観察したが、数日後ではいずれのサンプルも粒子の沈降と溶媒の分離は見られなかった。
【0076】
[実施例3]
実施例1において、非極性有機溶媒としてトルエンを用いたこと以外は同様にして分散液を製造した。
即ち、疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のトルエンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して、乳白色の均一な分散液を得た。
実施例1と同様に、この分散液の一部を採取して超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部からサンプル採取して粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は80nm〜1.2μmであった。
この撹拌後にホモジナイズした後の分散液を透明なガラス容器に移して、静置して観察したところ、2〜3時間後では粒子の沈降、溶媒の分離は認められなかった。
ホモジナイズ処理から24時間経過すると、分散液の上部と下部の間の白濁の状態に変化と差が見られた。
【0077】
[比較例2]
比較例1において、非極性有機溶媒として酢酸エチルを用いたこと以外は同様の操作を行った。
即ち、表面処理を施していない親水性の酸化チタン微粉末を10重量部を採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部の酢酸エチルに、撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して白色系の混合物を得た。
この一部を採取して静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして観察され、十分な分散と安定化がなされていないことが認められた。
また、撹拌中に採取した一部の混合物に、超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、静置して観察したところ、撹拌翼による混合と同様に、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が見られた。
【0078】
[比較例3]
比較例1において、非極性有機溶媒としてトルエンを用いたこと以外は同様の操作を行い、30分撹拌後の液、また超音波ホモジナイズ処理後の分散液を静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして観察された。
【0079】
比較例2,3からも親水性の酸化チタンは、非極性溶媒に安定して分散されにくいことが確認された。
【0080】
[実施例4]
ガス状の四塩化チタンを水素原子が混在する火炎中で、900℃の温度下、チタン濃度が二酸化チタン換算で40g/mの条件で、熱加水分解することによりBET比表面積が120m/g、アナターゼ比0.90の酸化チタン微粉末を製造した。
この酸化チタン微粉末100重量部を、ミキサーに入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら、n−ブチルトリメトキシシラン20重量部を滴下し、150℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却することにより表面処理した。
得られた疎水性酸化チタン微粉末の疎水率は95%であった。
【0081】
この疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに、撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して、乳白色の均一な分散液を得た。
この分散液の一部を採取して粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は65nm〜1.8μmで、D50は200nmで、撹拌によって十分に均質な分散液が得られたことが確認された。
残りの分散液の一部に超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部をサンプル採取して粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は40nm〜0.42μmで、D50は72nmとなり、更に微細粒子となり、分散が促進されたことが確認された。
残りの分散液を前記のビーズミルで、液を分散させながら60分間、30μmの安定化ジルコニアビーズで混合と分散を継続した。その分散液サンプルの粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は36nm〜0.23μmで、D50は62nmとなり、ビーズミルで更に粗粒が減少して微細粒子となり、分散が促進されたことが確認された。
【0082】
これら撹拌後、ホモジナイズ後、ミル混合後の分散液をそれぞれ透明なガラス容器に移して、静置して観察したが、数日後ではいずれのサンプルも粒子の沈降と溶媒の分離は見られなかった。
【0083】
上記の疎水性酸化チタン微粉末を20重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った80重量部のメチルエチルケトンに、撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して、乳白色の均一な分散液を得た。
この分散液を上記と同様に、それぞれ、超音波ホモジナイザー、ビーズミルで分散させたところ、それぞれの処理時間を長くする必要がある場合があるが、上記同様、粒子の沈降が見られず、安定な分散液が得られた。
また、実施例2と同様に、溶媒を酢酸エチルにした場合にも、撹拌、超音波ホモジナイザー、ビーズミルで分散して、良い分散性が得られた。
更に、疎水性酸化チタン微粉末を30重量部とし、70重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、1時間撹拌を継続した後、超音波ホモジナイザーで分散させ、乳白色の均一な分散液が得られ、上記と同様に、粒子の沈降が見られず安定な分散液であることが確認された。
ただし、疎水性酸化チタン微粉末が30重量部を超え40重量部としても混合は可能であったが、粉体の重量部数を40重量部まで増加させると、撹拌翼による撹拌が次第に難しくなるため、分散液としての適切な濃度の限界は30重量%であると考えられた。
【0084】
なお、n−ブチルトリメトキシシランの代わりに、異性体であるiso−ブチルトリメトキシシランを用いて上記と同様に表面処理を行って得られた疎水性酸化チタン微粉末についても、メチルエチルケトン、酢酸エチル、又はトルエンに、撹拌翼、超音波ホモジナイザー、ビーズミルなどで均質に分散され、得られた分散液は、1週間放置後から1ヶ月放置後も粉体の沈降と溶媒の分離が見られず、上記と同等の結果を得た。
【0085】
[実施例5]
ガス状の四塩化チタンを水素原子が混在する火炎中で、1,550℃の温度下、チタン濃度が二酸化チタン換算で230g/mの条件で、熱加水分解することによりBET比表面積が40m/g、アナターゼ比が0.30の酸化チタン微粉末を製造した。
この酸化チタン微粉末100重量部を、ミキサーに入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら、n−オクタデシルトリメトキシシラン30重量部を滴下し、150℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却することにより表面処理した。
得られた疎水性酸化チタン微粉末の疎水率は90%であった。
【0086】
この疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに、撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して均一な分散液を得た。
この分散液の一部に超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部を採取して粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は60nm〜0.65μmであった。
また、撹拌後の分散液と更にホモジナイズ処理した分散液をそれぞれ透明なガラス容器に移し、静置して観察したが、1週間後も粒子の沈降と溶媒の分離は見られなかった。
また、上記の表面処理で得られた疎水性酸化チタン微粉末を20重量部採り、80重量部のメチルエチルケトンに同様にして撹拌後、超音波ホモジナイザーで分散させたところ、それぞれの処理時間を長くする必要がある場合があるが、上記と同様、粒子の沈降が見られず、安定な分散液が得られた。
【0087】
[実施例6]
ガス状の四塩化チタンを水素原子が混在する火炎中で、1,550℃の温度下、チタン濃度が二酸化チタン換算で15g/mの条件で、熱加水分解することによりBET比表面積が150m/g、アナターゼ比が0.95の酸化チタン微粉末を製造した。
この酸化チタン微粉末100重量部を、ミキサーに入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら、メチルハイドロジェンポリシロキサン25重量部を滴下し、250℃で1時間加熱撹拌し、その後冷却することにより表面処理した。
得られた疎水性酸化チタン微粉末の疎水率は95%であった。
【0088】
この疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して均一な分散液を得た。
この分散液の一部に超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部を採取して粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は50nm〜0.55μmであった。
また、撹拌後の分散液と更にホモジナイズ処理した分散液をそれぞれ透明なガラス容器に移し、静置して観察したが、1週間後も粒子の沈降と溶媒の分離は見られなかった。
また、上記の表面処理で得られた疎水性酸化チタン微粉末を20重量部採り、80重量部のメチルエチルケトンに同様にして撹拌後、超音波ホモジナイザーで分散させたところ、それぞれの処理時間を長くする必要がある場合があるが、上記と同様、1週間後も粒子の沈降と溶媒の分離は見られず、安定な分散液が得られた。
【0089】
[実施例7]
ガス状の四塩化チタンを水素原子が混在する火炎中で、1,100℃の温度下、チタン濃度が二酸化チタン換算で100g/mの条件で、熱加水分解することによりBET比表面積が100m/g、アナターゼ比が0.80の酸化チタン微粉末を製造した。
この酸化チタン微粉末100重量部を、ミキサーに入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら、ヘキサメチルジシラザン10重量部を滴下し、200℃で2時間加熱撹拌し、その後冷却した。更に得られた疎水性酸化チタン微粉末100重量部に対して、ジメチルポリシロキサン10重量部とn−ヘキサン30重量部の混合物を窒素雰囲気下で撹拌しながら滴下し、300℃で1時間加熱撹拌して、冷却することにより表面処理した。
得られた疎水性酸化チタン微粉末の疎水率は90%であった。
【0090】
この疎水性酸化チタン微粉末を10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して均一な分散液を得た。
この分散液の一部に超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、その一部を採取して粒子径分布を測定したところ、粒子径分布は70nm〜0.45μmであった。
また、撹拌後の分散液と更にホモジナイズ処理した分散液をそれぞれ透明なガラス容器に移して、静置して観察したが、1週間後も粒子の沈降と溶媒の分離は見られなかった。
また、上記の表面処理で得られた疎水性酸化チタン微粉末を20重量部採り、80重量部のメチルエチルケトンに同様にして撹拌後、超音波ホモジナイザーで分散液を分散させたところ、それぞれの処理時間を長くする必要がある場合があるが、上記と同様、1週間後も粒子の沈降と溶媒の分離は見られず、安定な分散液が得られた。
【0091】
[比較例4]
実施例4で製造したBET比表面積が120m/gの酸化チタン微粉末は親水性を示している。これを表面処理することなく、10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して白色系の混合物を得た。
更に撹拌しながら、この一部を採取して静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして分離し、十分な分散と安定化がなされていないことが観察された。
また、撹拌中に採取した一部の混合物に、超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、静置して観察したところ、撹拌翼による混合と同様に、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が見られた。
更に撹拌しているサンプルの一部を、ビーズミルの試料フォルダに投入し、混合液を循環しながら粉砕と分散を試みたが、1時間ミル処理した後のサンプルでも、ミルから取り出して静置すると、時間の経過とともに、1から2時間後には粒子の沈降と非極性溶媒の分離が明らかになった。
非極性有機溶媒として、酢酸エチル又はトルエンを用いた場合も同様の結果が得られた。
【0092】
[比較例5]
実施例5で製造したBET比表面積が40m/gの酸化チタン微粉末は親水性を示している。これを表面処理することなく、10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部の非極性溶媒であるメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して白色系の混合物を得た。
更に撹拌しながら、この一部を採取して静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして分離し、十分な分散と安定化がなされていないことが観察された。
また、撹拌中に採取した一部の混合物に、超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、静置して観察したところ、撹拌翼による混合と同様に、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が見られた。
更に撹拌しているサンプルの一部を、ビーズミルの試料フォルダに投入し、混合液を循環しながら粉砕と分散を試みたが、1時間ミル処理した後のサンプルでも、ミルから取り出して静置すると、時間の経過とともに、1から2時間後には粒子の沈降と非極性溶媒の分離が明らかになった。
非極性有機溶媒として、酢酸エチル又はトルエンを用いた場合も同様の結果が得られた。
【0093】
[比較例6]
実施例6で製造したBET比表面積が150m/gの酸化チタン微粉末は親水性を示している。これを表面処理することなく、10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して白色系の混合物を得た。
更に撹拌しながら、この一部を採取して静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして分離し、十分な分散と安定化がなされていないことが観察された。
また、撹拌中に採取した一部の混合物に、超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、静置して観察したところ、撹拌翼による混合と同様に、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が見られた。
更に撹拌しているサンプルの一部を、ビーズミルの試料フォルダに投入し、混合液を循環しながら粉砕と分散を試みたが、1時間ミル処理した後のサンプルでも、ミルから取り出して静置すると、時間の経過とともに、1から2時間後には粒子の沈降と非極性溶媒の分離が明らかになった。
非極性有機溶媒として、酢酸エチル又はトルエンを用いた場合も同様の結果が得られた。
【0094】
[比較例7]
実施例7で製造したBET比表面積が100m/gの酸化チタン微粉末は親水性を示している。これを表面処理することなく、10重量部採り、撹拌翼を有する容器に採った90重量部のメチルエチルケトンに撹拌しながら加え、30分間撹拌を継続して白色系の混合物を得た。
更に撹拌しながら、この一部を採取して静置したところ、一部の粒子の沈降が見られ、1時間後には溶媒の一部が上澄みとして分離し、十分な分散と安定化がなされていないことが観察された。
また、撹拌中に採取した一部の混合物に、超音波ホモジナイザーを10分間作用させ、静置して観察したところ、撹拌翼による混合と同様に、1から2時間後には粒子の沈降と溶媒の分離が見られた。
更に撹拌しているサンプルの一部を、ビーズミルの試料フォルダに投入し、混合液を循環しながら粉砕と分散を試みたが、1時間ミル処理した後のサンプルでも、ミルから取り出して静置すると、時間の経過とともに、1から2時間後には粒子の沈降と非極性溶媒の分離が明らかになった。
非極性有機溶媒として、酢酸エチル又はトルエンを用いた場合も同様の結果が得られた。
【0095】
上記の比較例4〜7の結果からも、親水性の酸化チタンは、非極性溶媒に安定して分散されにくいことが確認された。
【0096】
[参考例1]
実施例1,2,4で得られた分散液中に含まれるジルコニウム成分の分析を行った。
ジルコニウム成分の漏洩を防止するために、それぞれの分散液の溶媒を蒸発させ、サンプルを乾燥固化させたものを700℃で熱処理して固化させた試料を、SEM−EDXで観察すると共に、それぞれランダムに6点を選んで、その成分分析を行った。
その結果、ジルコニウム成分の量は検出限界以下の0.00%であり、実質的に検出されなかった。
即ち、酸化チタンを非極性有機溶媒に分散させる際に、粉砕媒体として一般的に用いられている安定化酸化ジルコニウムなどのボールあるいはビーズを用いるとジルコニウムによるコンタミが懸念されるが、本発明では、短時間の混合・分散時間で良好な分散結果が得られるため、分散液へのジルコニウムによるコンタミが、問題となる混入量ではないことが確認された。
図1
図2
図3