(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸筒にキャップが脱着自在に取り付けられた筆キャップであって、この筆キャップが合成樹脂製の材質よりなり、両端に開口部を有する中空状の筆キャップにおいて、前記筆キャップの内面の断面形状を多角形状に形成し、且つ、軸筒より柔らかい材質で構成する共に、前記筆キャップの内接円を軸筒の外接円よりも小さく形成し、それら内接円と外接円との差を0.50〜1.50mmとし、前記筆キャップの材質の撓み変形荷重が1.10Kg〜2.80Kgの範囲に構成したことを特徴とする筆キャップ。
【背景技術】
【0002】
従来、画筆や書筆の軸筒は、円形であるものが多い。故にキャップは、全体が中空状で断面形状が円形で一端が開口した開口部と他方の端部が閉鎖した閉鎖部とで形成されたもの、あるいは、両端が開口部を有する中空状の断面形状が円形状に形成されたものが一般的であり、それらのキャップを軸筒の固定部に挿着して筆キャップとしていた。
【0003】
しかし、これらの筆キャップは、前者の場合、筆キャップの一端が閉鎖しているので、水分を含んだ穂先を収納すると筆キャップ内の湿度が高くなりカビなどが発生し易くなり衛生上良くない問題があった。又、後者の場合は、穂先を挿着する開口部が軸筒に固定する取り付け部分でもあるため、軸筒に対して筆キャップを大きくすることができず、筆キャップを前方より被せようとすると、穂先は水分を含み膨張して開口部より大きくなっている場合や穂先が乾燥してバラケいる場合が多いため、筆キャップを被せ難く、穂先の筆毛を巻き込んで逆立てて穂先を傷つけてしまう問題を有していた。
【0004】
そこで、これらの問題を解決するために、筆キャップの両端に開口部を有して円筒状に形成し、又、筆の軸筒に固定される固定部と、この固定部と一体に形成された穂先を収納するための穂先収納部とからなり、軸筒に固定する固定部を蛇腹状に形成すると共に、軸筒に固定する固定部より穂先を収納する穂先収納部を大きくしてなる筆キャップ(特許文献1)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような筆キャップの場合、筆キャップを軸筒の後端より収納できるため、穂先を痛めることなく筆キャップに穂先を収納することができるメリットはあるが、軸筒に固定する筆キャップの固定部が全周で軸筒を保持するため、変形量が少なくなってしまっている。その結果、保持力が強いと筆キャップの移動がスムーズでなかったり、軸筒に傷を付けたりする問題や、逆に軸筒に対する保持力が弱いと、使用頻度にもよるが筆キャップが緩くなり軸筒から抜けたりする問題もある。
又、このような筆キャップの形状では、形状が複雑すぎて、金型製作上及び製品単価が高価になり過ぎて、安価な製品を提供することが出来ないなどの問題があり不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軸筒にキャップが脱着自在に取り付けられた合成樹脂製の筆キャップであって、この筆キャップが両端に開口部を有する中空状の筆キャップにおいて、前記筆キャップの内面の断面形状を多角形状に形成し、且つ、軸筒より柔らかい材質で構成する共に、前記筆キャップの内接円を軸筒の外接円よりも小さく形成し、それら内接円と外接円との
差(以下、「嵌合差」と言う。)を0.50〜1.50mm
とし、前記筆キャップの材質の撓み変形荷重が1.10Kg〜2.80Kgの範囲に構成したことを主要な特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、軸筒にキャップが脱着自在に取り付けられた筆キャップであって、この筆キャップが合成樹脂製の材質よりなり、両端に開口部を有する中空状の筆キャップにおいて、前記筆キャップの内面の断面形状を多角形状に形成し、且つ、軸筒より柔らかい材質で構成する共に、前記筆キャップの内接円を軸筒の外接円よりも小さく形成し、それら内接円と外接円との差を0.50〜1.50mm
とし、前記筆キャップの材質の撓み変形荷重が1.10Kg〜2.80Kgの範囲に構成したので、筆キャップが変形し易く、筆キャップを軸筒の後端からスムーズに移動させることができる。その結果、穂先を痛めることなく筆キャップに穂先を収納できると共に、軸筒などに傷を付けることもない。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面に基づき本発明の実施例を説明する。
図1、
図2は、本発明による画筆の筆キャップ1に適用した1例を示している。参照符号1は画筆用の筆キャップ1であり、この筆キャップ1は、軸筒4より柔らかい材料を使用し、内面並びに、外面の断面形状を三角形状に押出成形すると共に、筆キャップ1と軸筒4の嵌合差を0.50〜1.50mmで得られたものを所定の長さに切断して構成している。この筆キャップ1は、軸筒4の最大径部に挿着されている。また、前記軸筒4には、固定管3が圧入固定されている、その固定管3には、穂先2が挿入され、圧入固定されている。
【0011】
ここで、前記筆キャップ1は、その断面形状が三角形のものを示したが、四角形や五角形、六角形、或いは、八角形などの多角形状のものを用いることができる。要するに、できるだけ軸筒4に対して筆キャップ1の接触面を少なくして、筆キャップ1が変形し易くすることが重要な構成である。即ち、筆キャップ1を円形にすると軸筒4に対して全周で保持しているため、ほとんど変形し難いものになり、筆キャップ1がスムーズに移動し難く、取れ難いものになってしまう。
よって、多角形状とは言っても八角形までが好ましく、この八角形を超えると円形に近づくため、本来の効果が得られなくなってしまう危険性がある。
【0012】
前記筆キャップ1に使用している合成樹脂製の材質としては、軸筒4の材質及び樹脂グレードより柔らかいものを使用することが重要であり、その材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩ビなどを用いることが好ましい。なぜなら、軸筒4より柔らかい材質を使用することで、軸筒4に傷を付けずに筆キャップ1を挿着でき、軸筒4に筆キャップを挿着したときに変形し易いためスムーズに筆キャップ1を挿着出来ると言った効果を得られるからである。
【0013】
又、前記ポリプロピレンやポリエチレン、塩ビなどの硬度としては、様々な測定方法を挙げることができるが、本例おいては、成形した筆キャップ1の撓み変形荷重が1.10Kg〜2.80Kgのものが最も好ましい。その理由としては、撓み変形荷重が1.10Kgに満たないと柔らかすぎて変形して、筆キャップ1の表面長手方向にクラックが入り、そのクラック部より折れ曲がり穂先を収納し難いものになってしまう恐れがある。一方、撓み変形荷重が2.80Kgを超えると、硬度が硬過ぎて筆キャップ1を軸筒4の後端から挿着し難く、軸筒4に傷を付けるものになってしまうからである。
【0014】
尚、上記の撓み変形荷重の測定方法は、V字ブロックを2つ並べて、その間に筆キャップの成形品を置き、レオメーターにセットしたV字の押し冶具を一定の速度で筆キャップに2.0mm押し付けた時の数値を撓み変形荷重として用いた。
【0015】
又、前記合成樹脂製の筆キャップ1は、使用する製品の用途や価格によっても異なるが、本発明に係わる筆キャップ1は、押出し成形で得られたものか好ましい。なぜなら、射出成形やブロー成形などで得られるものは、金型製作費が高価になることで、製品単価も高価になるため、画筆などの安価な製品には使用し難いこともある。
【0016】
さらに、前記合成樹脂製の筆キャップ1の肉厚は、使用する筆の大きさや材質によっても異なるが、本発明に係わる筆キャップ1の肉厚は、0.3〜1.0mmのものを用いることが好ましい。その理由としては、筆キャップ1の肉厚が0.3mmに満たないと肉厚が薄すぎて挿着時に割れたり、又、押出し成形上においても所定の断面形状が出来難いからである。
又、筆キャップ1の肉厚が1.0mmを超えると筆キャップ1自体が変形し難くなり、筆キャップを軸筒にスムーズに挿着できないものになってしまう。
【0017】
前記合成樹脂製の筆キャップ1の内面の断面形状を多角形状に形成し、且つ、軸筒4より柔らかい材質で構成する目的は、軸筒4に対して接触面を少なくし、筆キャップ1自体を変形し易くし、筆キャップ1を軸筒4の後端よりスムーズに収納することで、穂先2を痛めることなく筆キャップ1に穂先2を収納できるものである。尚、筆キャップ1は、内面が多角形状であれば、外形はどのような形状であっても良い。
【0018】
また、前記筆キャップ1は、長手方向の上方向から、或いは、下方向から、その方向を問わず自由に取り外すことができる。つまり、例えば、筆キャップ1を外す時は、前方により外すようにし、筆キャップ1を取り付けるときは、軸筒4の後端より取り付けることで穂先を痛めることなく筆キャップ1に穂先を収納させることができる。
【0019】
ここで、作用について、詳しく説明する。一般的なの画筆の筆キャップは、穂先2の先端部からその筆キャップ1を被せようとすると、穂先2が膨張していたり、穂先が乾燥していたりして大きくバラケているため、ほとんどのものが穂先2の筆毛を巻き込んでしまい、穂先2の先端部より筆キャップ1を挿着することが困難になってしまっている。
【0020】
これらを解消するには、穂先2の太さに対して軸筒4の最大径をかなり大きく設計して、筆キャップ1自体を大きく設計しなければならず、非常に不格好な形状の製品になってしまう。
【0021】
しかし、本発明においては、このような問題を解決するため、筆キャップ1は、上下の何れの方向からも自由に抜き差しができるようになっている。例えば、筆キャップ1を軸筒4から外す時は、上方向の穂先2の先端部より外し、筆キャップ1を挿着する際には、下方向の軸筒4の後部より挿着することで、筆キャップ1の抜き差しがスムーズになると共に、軸筒4に傷を付けずに使用できるものになっている。
【0022】
前記合成樹脂製の筆キャップ1の内接円を軸筒より小さく形成し、その嵌合差を0.50〜1.50mmに構成する目的は、筆キャップ1をスムーズに軸筒4に挿着すると共に、筆キャップ1を軸筒4に挿着した際に軸筒4に傷を付けることなく穂先2を収納できからである。その理由として、筆キャップ1と軸筒4の嵌合差が0.5mmに満たないと嵌合が緩すぎて筆キャップ1が取れたりして無くす場合があるからである。又、筆キャップ1と軸筒4の嵌合差が1.5mmを超えると筆キャップ1を軸筒4に挿着する際、嵌合がきつすぎて筆キャップ1をスムーズに取り外すことが出来ない上、軸筒4に傷を付けたりしてしまうからである。
【0023】
本発明の筆キャップ1を製造するに当たっては、筆キャップ1を押出にて成形し、筆キャップ1の内面の断面形状を多角形状に形成し、且つ、軸筒4より柔らかい材質で構成する共に、筆キャップ1の内接円を軸筒より小さくして構成することが好ましい。
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1、
図2において、筆キャップ1は、材質が塩ビ材で、内面並びに、外面の断面形状を三角形状に押出成形し、筆キャップ1と軸筒4の嵌合差を0.50〜1.50mmで得られたものを所定の長さに切断して構成している。本実施例の画筆は、穂先2を固定管3に挿入したものを軸筒4に圧入固定し、軸筒4の最大径部に筆キャップ1を挿着して形成したものである。
【0025】
詳しくは、筆キャップ1は、内面並びに外面の断面形状を三角柱状にしているものを用いる。また、筆キャップ1と軸筒4の嵌合差を1.2mm、肉厚を0.8mmとした画筆を用いるが、他の条件を表1に示す。
【0026】
変形例を
図3に示す。筆キャップ1は、内面並びに、外面の断面形状を五角形状に押出成形し、筆キャップ1と軸筒4の嵌合差を0.50〜1.50mm、肉厚を0.3〜1.0mで得られたものを所定の長さに切断して構成したものである。
【0027】
変形例を
図4に示す。筆キャップ1は、内面並びに、外面の断面形状を六角形状に押出成形で得たもので、他の条件は、上記と同じ条件で構成した。
【0028】
変形例を
図5に示す。筆キャップ1は、内面並びに、外面の断面形状を八角形状に押出成形で得たもので、他の条件は、上記と同じ条件で構成した。
【0029】
変形例を
図6に示す。筆キャップ1は、内面の断面形状を三角形状で外面の断面形状を円形状に押出成形で得たもので、他の条件は、上記と同じ条件で構成した。
【0030】
変形例を
図7に示す。筆キャップ1は、内面の断面形状を六角形状で外面の断面形状を四角形状に押出成形で得たもので、他の条件は、上記と同じ条件で構成した。
【0032】
表2、表3に実施例1〜11、並びに、比較例1〜25の筆キャップ1を用いて、
図1、
図2に示す画筆用の筆キャップ1を形成し、筆キャップ1の抜き差し、穂先2の巻き込み、軸筒4の傷の有無についての官能試験を行った。
【0035】
官能試験
方法:上記の条件で得られた筆キャップを実際に画筆(NEO−SABLE 0号(丸・細)ぺんてる株式会社製)に挿着して、その使用性について、官能試験を実施した。その結果を表4に示す。
尚、評価項目を、筆キャップの抜き差し性、穂先の巻き込み性、軸筒の傷の有無を取り上げ、各々の官能にて評価を行った。
抜き差し性;キャップの抜き差しを官能によって観察した。
穂先の毛の巻き込み性;キャップを軸筒後端より挿着して評価した。但し、軸筒後端よ り挿着出来ないものは、前方より筆キャップを挿着して評価した。
軸筒の傷性;キャップを軸筒に抜き差しを10回行い軸筒の傷の状態を観察した。その結果を表4に示す。