特許第6064375号(P6064375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064375
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/00 20060101AFI20170116BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20170116BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   B60L7/00 103
   B60L7/00 104
   B60L15/20 S
   B60T17/18
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-126551(P2012-126551)
(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公開番号】特開2013-252023(P2013-252023A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127111
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100067873
【弁理士】
【氏名又は名称】樺山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100090103
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 章悟
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 龍彦
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−168802(JP,A)
【文献】 特開2004−357375(JP,A)
【文献】 特開平02−270676(JP,A)
【文献】 特開2006−333549(JP,A)
【文献】 特開2004−187445(JP,A)
【文献】 特開平05−178193(JP,A)
【文献】 特開平07−163007(JP,A)
【文献】 特開2006−141150(JP,A)
【文献】 特開2005−039962(JP,A)
【文献】 特開平11−215604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L 15/00−15/42
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータの正回転方向にトルクを発生させると前進走行する車両であって、
当該車両の車速を検知する車速検知手段と、
当該車両の姿勢を検知する車両姿勢検知手段と、
当該車両の車速と姿勢とから前記車両の走行状態を検知する走行状態検知手段と、
前記走行用モータの逆回転方向にトルクを断続的に発生させて逆転制動力を発生させる制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記車両を停止させるために必要な逆転制動力の最大発生量を算出する算出手段を有し、前記走行状態検知手段によって検知された走行状態に基づいて逆転制動力の発生量を可変するとともに、前記最大発生量まで段階的に前記発生量を大きくすることを特徴とする車両。
【請求項2】
前記車両姿勢検知手段は、当該車両の前後輪の回転差を検知する前後輪回転差検出手段を有し、
前記制御手段は、前記回転差が所定の前後輪回転差目標値を超える際に、前記所定の前後輪回転差目標値となるように前記発生量を可変することを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記車両姿勢検知手段は、当該車両の前後にかかる縦重力を検知する縦重力検知手段を有し、
前記制御手段は、前記縦重力が所定の縦重力目標値を超える際に、前記所定の縦重力目標値となるように前記発生量を可変することを特徴とする請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
走行用モータに電力を供給するバッテリと、
前記走行用モータによる回生制動手段と、
前記回生制動手段により前記バッテリを充電する回生充電手段と、
前記バッテリの充電状態を検知するバッテリ状態検知手段と、
前記バッテリ充電状態と前記走行状態とに基づいて回生充電の可否を判断する回生充電可否判断手段とを備え、
前記制御手段は、前記回生充電可否判断手段が回生充電不可と判断した際に前記逆転制動力を発生させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の車両。
【請求項5】
油圧式の制動装置と、
ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダル踏み込み量検出手段と、
前記踏み込み量と前記車両の車速とに基づいて前記制動装置の異常を検知する油圧式制動装置異常検出手段とを備え、
前記制御手段は、前記異常が検出された際に前記逆転制動力を発生させることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の車両。
【請求項6】
前記走行用モータは、当該車両の前輪を駆動する前輪モータと後輪を駆動する後輪モータとからなり、
前記制御手段は、前記前輪モータと前記後輪モータとのそれぞれの前記発生量を可変することを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用のモータに逆トルクを発生させることによる制動を行うことが可能な車両に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用のモータに逆トルクを発生させることによる制動すなわち逆転制動を行うことが可能な車両に関する技術が知られている(たとえば、〔特許文献1〕参照)。この技術では、ブレーキ踏力が所定値を越えたときに逆転制動が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−145805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、逆転制動をたとえば常時一定の強度で行うと、車軸等に過負荷がかかったり、車両の走行状態が不安定になったりする懸念がある。たとえば車両が高速で走行している場合にはかかる懸念が大きくなる。
【0005】
本発明は、逆転制動をたとえば車速に応じて適切に行うことを可能とする車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、走行用モータの正回転方向にトルクを発生させると前進走行する車両であって、当該車両の車速を検知する車速検知手段と、当該車両の姿勢を検知する車両姿勢検知手段と、当該車両の車速と姿勢とから前記車両の走行状態を検知する走行状態検知手段と、前記走行用モータの逆回転方向にトルクを断続的に発生させて逆転制動力を発生させる制御手段とを備え、前記制御手段は、前記走行状態検知手段によって検知された走行状態に基づいて逆転制動力の発生量を可変することを特徴とする車両にある。
【0007】
請求項記載の発明において、前記制御手段は、当該車両を停止させるために必要な逆転制動力の最大発生量を算出する算出手段を有し、前記制御手段は、前記最大発生量まで段階的に前記発生量を大きくすることを特徴としている
【0008】
請求項記載の発明は、前記車両姿勢検知手段は、当該車両の前後輪の回転差を検知する前後輪回転差検出手段を有し、前記制御手段は、前記回転差が所定の前後輪回転差目標値を超える際に、前記所定の前後輪回転差目標値となるように前記発生量を可変することを特徴とする請求項に記載の車両にある。
【0009】
請求項記載の発明は、前記車両姿勢検知手段は当該車両の前後にかかる縦重力を検知する縦重力検知手段を有し、前記制御手段は、前記縦重力が所定の縦重力目標値を超える際に、前記所定の縦重力目標値となるように前記発生量を可変することを特徴とする請求項1または2に記載の車両にある。
【0010】
請求項4記載の発明は、走行用モータに電力を供給するバッテリと、前記走行用モータによる回生制動手段と、前記回生制動手段により前記バッテリを充電する回生充電手段と、前記バッテリの充電状態を検知するバッテリ状態検知手段と、前記バッテリ充電状態と前記走行状態とに基づいて回生充電の可否を判断する回生充電可否判断手段とを備え、前記制御手段は、前記回生充電可否判断手段が回生充電不可と判断した際に前記逆転制動力を発生させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の車両にある。
【0011】
請求項記載の発明は、油圧式の制動装置と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダル踏み込み量検出手段と、前記踏み込み量と前記車両の車速とに基づいて前記制動装置の異常を検知する油圧式制動装置異常検出手段とを備え、前記制御手段は、前記異常が検出された際に前記逆転制動力を発生させることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の車両にある。
【0012】
請求項記載の発明は、前記走行用モータは、当該車両の前輪を駆動する前輪モータと後輪を駆動する後輪モータとからなり、前記制御手段は、前記前輪モータと前記後輪モータとのそれぞれの前記発生量を可変することを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の車両にある。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明は、走行用モータの正回転方向にトルクを発生させると前進走行する車両であって、当該車両の車速を検知する車速検知手段と、当該車両の姿勢を検知する車両姿勢検知手段と、当該車両の車速と姿勢とから前記車両の走行状態を検知する走行状態検知手段と、前記走行用モータの逆回転方向にトルクを断続的に発生させて逆転制動力を発生させる制御手段とを備え、前記制御手段は、前記走行状態検知手段によって検知された走行状態に基づいて逆転制動力の発生量を可変する車両にあるので、車速と車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて断続的に逆転制動力を発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めることが可能な車両を提供することができる。
【0014】
さらに請求項記載の発明は、前記制御手段は、当該車両を停止させるために必要な逆転制動力の最大発生量を算出する算出手段を有し、前記制御手段は、前記最大発生量まで段階的に前記発生量を大きくすることを特徴とする車両にあるので、車速と車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて断続的且つ段階的に逆転制動力を増加させるように発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めつつ速やかに停車させることが可能な車両を提供することができる。
【0015】
請求項記載の発明は、前記車両姿勢検知手段は、当該車両の前後輪の回転差を検知する前後輪回転差検出手段を有し、前記制御手段は、前記回転差が所定の前後輪回転差目標値を超える際に、前記所定の前後輪回転差目標値となるように前記発生量を可変することを特徴とする請求項に記載の車両にあるので、車速と前後輪の回転差によって左右される車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて断続的に逆転制動力を発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めることが可能な車両を提供することができる。
【0016】
請求項記載の発明は、前記車両姿勢検知手段は当該車両の前後にかかる縦重力を検知する縦重力検知手段を有し、前記制御手段は、前記縦重力が所定の縦重力目標値を超える際に、前記所定の縦重力目標値となるように前記発生量を可変することを特徴とする請求項1または2に記載の車両にあるので、車速と車両の前後にかかる縦重力によって左右される車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて断続的に逆転制動力を発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めることが可能な車両を提供することができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、走行用モータに電力を供給するバッテリと、前記走行用モータによる回生制動手段と、前記回生制動手段により前記バッテリを充電する回生充電手段と、前記バッテリの充電状態を検知するバッテリ状態検知手段と、前記バッテリ充電状態と前記走行状態とに基づいて回生充電の可否を判断する回生充電可否判断手段とを備え、前記制御手段は、前記回生充電可否判断手段が回生充電不可と判断した際に前記逆転制動力を発生させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の車両にあるので、車速と車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて断続的に逆転制動力を発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めることが可能であるとともに、バッテリの回生充電が可能な範囲では走行用モータによる逆転制動を用いることなく回生による制動を行うことが可能な車両を提供することができる。
【0018】
請求項記載の発明は、油圧式の制動装置と、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダル踏み込み量検出手段と、前記踏み込み量と前記車両の車速とに基づいて前記制動装置の異常を検知する油圧式制動装置異常検出手段とを備え、前記制御手段は、前記異常が検出された際に前記逆転制動力を発生させることを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の車両にあるので、逆転制動を制動装置の異常の際の緊急制動として行うことが可能であるとともに、車速と車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて断続的に逆転制動力を発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めることが可能な車両を提供することができる。
【0019】
請求項記載の発明は、前記走行用モータは、当該車両の前輪を駆動する前輪モータと後輪を駆動する後輪モータとからなり、前記制御手段は、前記前輪モータと前記後輪モータとのそれぞれの前記発生量を可変することを特徴とする請求項1からのいずれか1つに記載の車両にあるので、車速と車両の姿勢とを含む車両の走行状態に応じて前輪モータと後輪モータとのそれぞれに断続的に逆転制動力を発生させることが可能であり、逆転制動の際の安全性を高めることが可能な車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明を適用した車両の一実施例にかかる概略構成を示したブロック図である。
図2図1に示した車両の制御系統に関する概略構成を示したブロック図である。
図3図1に示した車両に備えられた、走行用のモータの出力が伝達される駆動系を示した概略正面図である。
図4図1に示した車両において逆転制動を行う場合の制御の概略を示したフローチャートである。
図5図1に示した車両において逆転制動を行う場合に走行用のモータに入力される信号の例を示した概念図である。
図6図1に示した車両において逆転制動を行う場合の制御の例を示したフローチャートである。
図7図1に示した車両において逆転制動を行う場合の制御の一部の概略を示したフローチャートである。
図8図1に示した車両において逆転制動を行う場合に走行用のモータに入力される信号が車両の走行状態に応じて調整される例を示したタイミングチャートである。
図9図1に示した車両において逆転制動を行う場合に走行用のモータに入力される信号を車両の走行状態に応じてどのように調整するかの例を示した概念図である。
図10】本発明を適用可能な車両の他の構成例の一部の概略構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に本発明を適用した車両の、主に駆動系に関する概略構成を示す。
この車両100は、駆動源として、電動機である走行用のモータとして、前輪駆動用の前輪モータであるモータ10aと後輪駆動用の後輪モータであるモータ10bとを搭載した電気自動車(EV)であり、電動車両である。
【0022】
車両100は、モータ10a、10bのほかに、モータ10a、10bに電力を供給する蓄電池を用いた大容量バッテリである高電圧バッテリ20と、高電圧バッテリ20から供給される電力を変換するとともに所定の出力でモータ10a、10bに供給してモータ10a、10bを駆動するモータインバータであるインバータ30a、30bと、を有している。
【0023】
車両100はまた、高電圧バッテリ20とインバータ30aとの間に接続されたDC/DCコンバータであるコンバータ40並びにエアコン及び/又はヒータ50(以下、エアコン50)と、高電圧バッテリ20及びインバータ30aとコンバータ40との間に介在したコンバータ40用のリレースイッチであるスイッチ41と、高電圧バッテリ20及びインバータ30aとエアコン50との間に介在したエアコン50用のリレースイッチであるスイッチ51と、コンバータ40に接続された12Vのバッテリ42と、高電圧バッテリ20を冷却する図示しない冷却ファンと、を有している。
【0024】
車両100はまた、モータ10aによって回転駆動される前輪用の駆動軸61及び前輪としての車輪である駆動輪62と、モータ10bによって回転駆動される後輪用の駆動軸63及び後輪としての車輪である駆動輪64と、モータ10aの駆動力を駆動軸61を介して駆動輪62に伝達する、図示しないデフを内蔵した前輪用のT/Aすなわちトランスアクスル70aと、モータ10bの駆動力を駆動軸63を介して駆動輪64に伝達する、図示しないデフを内蔵した後輪用のT/Aすなわちトランスアクスル70bと、を有している。
【0025】
車両100はまた、トランスアクスル70aの動作を停止させることで車両100をパーキング状態とするための電動のパーキングロック手段80と、車両100の情報を集めて車両100のシステムをどのように動かすかを決定する役割を担った統合コントローラとして機能する制御手段であるEVECUとしてのECU90と、を有している。
【0026】
車両100はまた、運転者によって操作されるハンドルSと、ハンドルSの舵角を検知してECU90に入力する舵角センサ91と、車両100の制動を行うために運転者によって操作される制動部材としてのブレーキペダルBと、ブレーキペダルBの操作状態としてストローク量である踏み込み量すなわち踏度を検知してECU90に入力するブレーキペダル踏み込み量検出手段である制動操作検知手段としてのブレーキ踏度検知センサ92と、運転者によって操作されるアクセル部材としてのアクセルペダルAと、アクセルペダルAの操作状態としてストローク量すなわち踏度を検知してECU90に入力するアクセル開度検知センサ93と、運転者によって操作される、図示しないサイドブレーキレバーと、を有している。
【0027】
車両100はまた、駆動軸63の右側についてのみ図示するが駆動軸61、63の左右に設けられ車速を検知してECU90に入力する車速検知手段として機能する車輪回転センサ65と、駆動輪64の右側についてのみ図示するが駆動輪62、64の左右に対して設けられ各駆動輪62、64に回転抵抗を与えて車両100の制動を行う、図示しないブレーキパッド等を備えた制動部66と、を有している。
【0028】
車両100はまた、ブレーキ踏度検知センサ92によって検知されたブレーキペダルBの踏度に基づいて制動部66を油圧で駆動し車両100の制動を行う、図示しない電動のアクチュエータ、ブレーキホース等を備えた油圧式の制動装置である制動手段67と、サイドブレーキレバーが引かれたときなどに制動部66を図示しないワイヤ等で駆動し車両100の制動を行う電動のサイドブレーキ手段68と、を有している。
【0029】
車両100はまた、図2に示すように、高電圧バッテリ20の充電状態であるSOC(State of Charge)を検知し検知したSOCをECU60に入力するバッテリ状態検知手段としてのSOC検知手段94の他、ヨーレートセンサ95、ピッチセンサ96、縦Gセンサ98、レベリングセンサ99等を有しており、これらのセンサによる検知値は信号としてECU90に入力されるようになっている。
【0030】
これらのセンサは周知のものであって、例えばヨーレートセンサ95が車輪回転センサ65等の他のセンサによって適宜代用されるなど、必ずしも独立して備えられるものではない。このことは図9において符号を付して示している各センサにおいても同様である。
【0031】
なお、図2において大カッコ内に示されている横Gセンサ97は、たとえば、車両100が、図10に示すように、駆動輪62の左右輪を、独立したモータ10a、10aで駆動するとともに、駆動輪64の左右輪を、独立したモータ10b、10bで駆動する構成である場合に備えられる。図7図9においても、大カッコ内に示されている部分は、車両100が、図10に示す構成である場合に採用されるものとする。
【0032】
車両100はその他、図示を省略するが、ヘッドライト、ハザードランプ、クラクション等を備えている。これらは周知のものであって、ECU90によって動作を制御されるようになっており、たとえば車両100の緊急時にこれを周囲に報知するためにECU90によって駆動されるようになっている。
【0033】
走行用モータであるモータ10a、10bは、インバータ30a、30bを介して高電圧バッテリ20から入力された電力によって駆動され、トランスアクスル70a、70b、駆動軸61、63を介して駆動輪62、64を回転駆動させることで、車両100を走行させる。
【0034】
モータ10a、10bは、その正回転方向にトルクを発生させると、車両100が前進走行し、その逆回転方向にトルクを発生させると、車両100が後退走行するようになっている。
【0035】
また、モータ10a、10bは、減速時の車両100の運動エネルギーを、駆動輪62、64、駆動軸61、63、トランスアクスル70a、70bを介して入力され、電気エネルギーに変換するジェネレータとしても機能する。このように、車両100は、減速時に4輪で回生するようになっており、モータ10a、10bは回生制動手段として機能するようになっている。
【0036】
インバータ30a、30bは、モータ10a、10bの駆動時に高電圧バッテリ20の電力を所定の出力でモータ10a、10bに供給するほか、モータ10a、10bがジェネレータとして機能するときにモータ10a、10bによって生成された電力を整流等して出力する。この出力は、高電圧バッテリ20の充電、コンバータ40によるバッテリ42の充電、エアコン50の駆動による車両100の室内空調、冷却ファンによる高電圧バッテリ20の冷却等に使用される。インバータ30a、30bは、回生制動手段として機能するモータ10a、10bからの出力により高電圧バッテリ20の充電を行う点において回生充電手段として機能する。
【0037】
ECU90は、図示しないCPU、メモリ、タイマを備えている。ECU90は、以上述べた各構成を含む車両100全般の状態に関する情報を収集し、また車両100全般の駆動等の制御を行う。
【0038】
たとえば、ECU90は、アクセル開度検知センサ93によってアクセルペダルAの踏み込み操作が行われていることが検知されたときにこの操作状態に応じてモータ10a、10bを駆動し車両100の加速等を行うモータ制御手段として機能する。なお、アクセル開度検知センサ93は、本形態では、アクセルペダルAの踏度である踏み込み量を操作状態として検知するが、操作状態には、アクセルペダルAの踏み込み速度を含むようにしても良い。
【0039】
また、ECU90は、ブレーキ踏度検知センサ92によってブレーキペダルBの踏み込み操作が行われていることが検知されたときにこの操作状態に応じて制動手段67を駆動し車両100の制動すなわち減速を行う制動制御手段として機能する。なお、ブレーキ踏度検知センサ92は、本形態では、ブレーキペダルBの踏度である踏み込み量を操作状態として検知するが、操作状態には、ブレーキペダルBの踏み込み速度を含むようにしても良い。
【0040】
また、ECU90は、ブレーキ踏度検知センサ92によってブレーキペダルBの踏み込み操作が行われていることが検知されたときであって、後述する所定の条件が満たされたときに、モータ10aとモータ10bとの少なくとも一方を用いた回生を行わせる回生制御手段として機能する。
【0041】
また、ECU90は、サイドブレーキレバーが引かれたときのみならず、後述する所定の条件が満たされたときにも、サイドブレーキ手段68を動作させて車両100の制動を行わせるサイドブレーキ制御手段として機能する。
【0042】
また、ECU90は、ブレーキ踏度検知センサ92によってブレーキペダルBの踏み込み操作が行われていることが検知され、制動制御手段として機能するECU90の制御のもとで制動手段67が作動したときに、車輪回転センサ65によって検知された車速に基づいて、制動手段67による制動度言い換えると減速度が正常であるか否か、すなわち制動手段67が正常に機能しているか否かを判断し、制動手段67の異常を検知する油圧式制動装置異常検出手段としての制動度判断手段として機能する。
【0043】
また、ECU90は、車両100の走行時に、ブレーキ踏度検知センサ92によってブレーキペダルBの踏み込み操作が検知されたことや、制動度判断手段として機能するECU90によって制動度が正常でないと判断されたこと、すなわち制動手段67が正常に機能していないと判断されたことなどの、後述する所定の条件が満たされたときに、モータ10a及び/又はモータ10bの逆転を行わせて逆回転方向にトルクを発生させることによる制動すなわち逆転制動力を発生させて逆転制動を行わせる逆転制動制御手段として機能する。
【0044】
また、ECU90は、車輪回転センサ65、ヨーレートセンサ95、ピッチセンサ96、縦Gセンサ98、レベリングセンサ99から入力された検知値、あるいはこれらに加えて横Gセンサ97から入力された検知値に基づいて、車両100の姿勢を検知する車両姿勢検知手段として機能する。具体的には、車両姿勢検知手段として機能するECU90は、図2に示すように、車輪回転センサ65によって検知された駆動輪62の回転数と駆動輪64の回転数との差である前後輪の回転差を検知する。この点、車両姿勢検知手段として機能するECU90は、前後輪回転差検出手段として機能する。また、車両姿勢検知手段として機能するECU90は、縦Gセンサによって検知された検知値に基づいて車両100の前後にかかる縦重力を検知する縦重力検知手段として機能する。
【0045】
また、ECU90は、車両100の走行状態を検知する走行状態検知手段として機能する。この走行状態には、車輪回転センサ65によって検知された車速を少なくとも含み、より好ましくは、本形態のように、車輪回転センサ65によって検知された車速と車両姿勢検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の姿勢とを少なくとも含む。本形態では、さらに、舵角センサ91によって検知されたハンドルSの舵角、SOC検知手段94によって検知された高電圧バッテリ20のSOC、ヨーレートセンサ95によって検知された車両100のヨーレート、ピッチセンサ96によって検知された車両100のピッチ、縦Gセンサ98によって検知された車両100の縦G、レベリングセンサ99によって検知された車両100のレベルを含んでおり、また図10に示した構成においてはこれらに加えて横Gセンサ97によって検知された車両100の横Gを含む場合がある。
【0046】
また、ECU90は、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の走行状態に基づいて、車両100の走行姿勢が安定するように、モータ10a、10bの駆動状態、制動手段67の作動状態等を調整する車両姿勢制御手段として機能する。
【0047】
また、ECU90は、車両100の走行時に、制動度判断手段として機能するECU90によって制動度が正常でないと判断されたとき、すなわち制動手段67が正常に機能していないと判断され制動手段67の異常が検出されたとき、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の走行状態、とくに車速と、SOC検知手段94によって検知された高電圧バッテリ20のSOCとに基づいて、高電圧バッテリ20への回生を行うと高電圧バッテリ20の過充電となるか否かを判断することで回生充電の可否を判断する回生充電可否判断手段としての過充電判断手段として機能する。
【0048】
ところで、ECU90が逆転制動制御手段として機能してモータ10a及び/又はモータ10bの逆転を行い逆転制動を行う場合、かりに、逆転制動を常時一定の強度で行うと、車両100の駆動系等に過負荷がかかったり、車両100の走行状態がスリップモードとなるなどして走行が不安定になったりする懸念がある。たとえば車両100が高速で走行している場合にはかかる懸念が大きくなる。
【0049】
車両100に過負荷がかかり得ることについてより具体的に説明すると、図3に示すように、トランスアクスル70a、70bに互いに噛合したギア71、72が内蔵されている場合には、これら各ギア71、72の歯部、噛合部に過負荷がかかって破損し得る。各ギア71、72の歯部、噛合部の強度には摩擦等に対する許容範囲があるためである。また、車軸61及び/又は車軸63には、捩れに対する許容トルクがあるため捩れによる過負荷がかかって破損し得る。
【0050】
このような破損が生じると、逆転制動が困難になる。
また、車両100の走行状態が不安定となっても、逆転制動が困難になり得るとともに、安全停止が困難になり得る。
【0051】
そこで、車両100においては、逆転制動制御手段として機能するECU90は、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された、車両100の車速と姿勢とを含む走行状態に基づいて、車両100への過負荷及び車両100の姿勢の不安定化を回避するように、逆転制動による制動度、言い換えると減速度を調整するようになっている。この点、逆転制動制御手段として機能するECU90は、車両姿勢制御手段としても機能する。
【0052】
図4に、逆転制動制御手段として機能するECU90によってこのような制御が行われる場合の概略的なフローチャートを示す。
なお、本形態において、逆転制動は、緊急時に行われる制動すなわち緊急制動として行うことを前提としている。
【0053】
まず、ブレーキ踏度検知センサ92によってブレーキペダルBの踏み込み操作が検知されたこと、本形態では緊急制動が前提であるため踏度が100%のフル状態であることが検知されると(S11)、車速検知手段として機能する車輪回転センサ65からの信号に基づき、制動度判断手段として機能するECU90によって減速度が正常であるか否か判断され(S12)、減速度が0であるか顕著に少ない場合には制動手段67が正常に機能していないとしてブレーキ系統の異常を判定する(S13)。
【0054】
このようなブレーキ機構の異常は、
1.ブレーキホースエアがみ
2.ブレーキフルード無交換による水分量増加に起因するエアがみと同様の現象
3.ブレーキパッドシュー残量の現象
4.機構自体の故障
等によって発生する。
【0055】
補足すると、ブレーキフルード無交換による水分量増加は、フルード沸点の降下をもたらし、ブレーキ使用時にフルード温度の上昇によって気化が生じることでエアかみと同様の現象を引き起こす。近年では、ユーザ車検等のローコスト化が進み、ユーザによってはブレーキフルードの交換を全く気にしないこともあって、この異常が生じやすくなっている。
【0056】
また、ブレーキパッドシューは、残量が少なくなるとブレーキの効きが低下する。なお、ブレーキパッドシューが無くなるとブレーキ時に音が発生し、交換を促すようになっている。
【0057】
機構自体の故障は、ブレーキホースなどブレーキ自体の破損によって生じるものである。この原因としてはほかに、バキュームポンプの破損や動作不良が挙げられ、このような場合にもブレーキの効きが低下する。
【0058】
ステップS13において、ブレーキ系統の異常が判定されると、ヘッドライトやハザードランプの点灯、クラクションの間欠作動等の適宜の動作によって、車両100が緊急事態であることが周囲に報知される。ただし、これは必要に応じて行われるものであり、必須ではない。
【0059】
次いで、回生制御手段として機能するECU90によって回生制御が行われる(S15)が、走行状態検知手段として機能するECU90により、回生にて速度の減少がない、あるいは減少が少ないことが検知された場合又はSOC検知手段94によってSOCが上限に近く電池電圧が上限付近であって過充電判断手段として機能するECU90によって回生を行うと過充電が生じると判断された場合、言い換えると回生充電不可と判断された場合には、逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもと、モータ10a及び/又はモータ10bによる逆転制動が行われる(S16)。
【0060】
このように、逆転制動は、制動度判断手段として機能するECU90によって減速度が正常でないと判断されたこと、すなわち制動手段67の異常が検出されたことを条件として、逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもとに行われるようになっている。
【0061】
また、本フローにおいて、過充電判断手段として機能するECU90による、過充電の可能性の判断は、制動度判断手段として機能するECU90によって減速度が正常でないと判断されたことを条件として行われるようになっている。
【0062】
そして、過充電判断手段として機能するECU90によって過充電とならないと判断されると、これを条件として、回生制御手段として機能するECU90の制御のもとで回生が行われ、過充電判断手段として機能するECU90によって過充電となると判断されると、これを条件として、逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもとで逆転制動が行われるようになっている。
【0063】
逆転制動時には車両100の走行状態が不安定となりやすいため、逆転制動と同時に、車両姿勢制御手段として機能するECU90は、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の走行状態に基づいて、車両100の走行姿勢を安定化させる制御を行う(S16)。
【0064】
そして、車速が0kmとなって車両100が停止すると、これらの制御が停止される。後述するように、サイドブレーキ手段68による制動が行われる所定の速度まで車速が低下すると、サイドブレーキ制御手段として機能するECU90により、サイドブレーキ手段68による制動が動作した状態とされ、車両100が停止した状態ではこの制動が維持される。よって、ブレーキ系統に異常が生じていても、車両100が動き出すことが防止されることとなり、安全性が向上している。
【0065】
以上のようにして行われる逆転制動は、吸気側・排気側が決まり回転方向が制約されているエンジンのような内燃機関とは異なり、回転方向が問われないというモータの特性を利用し、逆トルクを発生することによって行われる。
【0066】
また、モータはレスポンスも良く、緻密な制御が可能であることから、精度の良い逆転制動を行うことが可能である。
たとえば、車両100においては、逆転制動制御手段、車両姿勢制御手段として機能するECU90は、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の走行状態に基づいて、逆転制動力の発生量を可変し、調整する。具体的には、図5に示すように、逆転制動を行うためにモータ10a、10bに入力する信号をパルス状に生成する。
【0067】
パルス状の信号がモータ10a、10bをそれぞれ制御するインバータ30a、30bを介して断続的にモータ10a、10bに入力され、これによってモータ10a、10bの逆回転方向へのトルクを断続的に発生させて逆転制動力を発生させることで逆転制動が行われるため、車両100への過負荷が回避され、また車両100の姿勢の不安定化を招くモータ10a、10bの出力が回避される。これにより、逆転制動の際の安全性が向上する。
【0068】
また、とくに、同図に示されているように、パルス状の信号は、その時間幅と振幅すなわち逆トルクの大きさとが、漸増するように生成され、モータ10a、10bに入力されるため、車速が大きいときには車両100への過負荷が良好に回避されつつ逆転制動が行われ、また、車速の減少に従って大きな逆転制動力が得られることによって、停車までの時間が短縮されるという利点が得られる。なお、かかる時間幅と振幅とは少なくとも一方がこれらの利点を得られるように漸増するものであれば良い。また、過負荷の回避と走行の不安定化の回避との少なくとも一方がなされるように、パルス状の信号が生成、入力されれば良い。
【0069】
同図に示されているような、逆転制動による逆トルクの値は、車速、車重、車輪と路面との摩擦等を複合することによって算出される最も厳しい条件に余裕率を見込み、車両100への過負荷や走行の不安定化が回避されるように決定される。
【0070】
この決定にあたって、逆転制動制御手段として機能するECU90は、まず、車両100を停止させるために必要な逆転制動力の最大発生量を算出する算出手段として機能する。算出手段として機能するECU90はさらに、逆転制動力がかかる最大発生量に至るまでの逆転制動力の発生量が、図5に示したように、段階的に大きくなるように、逆転制動力の発生量を決定する。
【0071】
そして、決定された逆転制動力の各発生量に応じて、パルス状の信号が、順次、モータ10a、10bに入力され、逆転制動が行われる。逆転制動力の発生量の決定に際しては、それぞれの発生量が、車両100への過負荷、走行の不安定化を生じない範囲となるように設定される。
逆転制動力の発生量のより具体的な決定手法については後述する。
【0072】
なお、パルス状の信号は、当該信号を生成する瞬間において、逆転制動力の発生量が車両100への過負荷、走行の不安定化を生じない範囲となるように、生成され、生成のたびにモータ10a、10bに入力され、逆転制動が行われるようにしても良い。この場合も、結果的に、図5に示したように、パルス状の信号が、段階的に大きくなるように、決定されることとなる。
【0073】
図6に、図4に示した制御をより具体化したフローチャートを示す。
なお、図4に沿って説明した事項については、ここでの説明を、適宜、省略することとする。
【0074】
ブレーキ踏度検知センサ92によってブレーキペダルBの踏度が100%のフル状態であることが検知されることにより、ECU90によってブレーキ要求がなされたと判断される(S21、S22)。ここで、ブレーキ要求がなされたと判断されるためのブレーキペダルBの踏度は、100%に限られるものではない。
【0075】
ブレーキ要求がなされたと判断されると、制動制御手段として機能するECU90により、制動手段67が駆動されて車両100の制動が開始され(S23)、車輪回転センサ65によって検知された車速に基づいて(S24)、制動度判断手段として機能するECU90により、所定の判定時間内において、制動手段67による制動度言い換えると減速度が正常であるか否かが判断される(S25)。
【0076】
ステップS25において、減速度が0であるか顕著に少ない場合には制動手段67が正常に機能していないとしてブレーキ系統の異常を判定し(S26)、そうでない場合には制動手段67が正常に機能しているとして、制動手段67が通常通り駆動されて車両100の制動が行われる。
【0077】
ステップS26に示したようにブレーキ系統の異常と判定された場合には、ブレーキ要求が継続しているかどうかが確認され(S27)、継続していない場合には制御を終了し、継続している場合には、回生制御手段として機能するECU90によって回生制御が開始される(S28)。
【0078】
ステップS28に示したように回生制御を開始すると、車輪回転センサ65によって検知される車速が減少しているか否かがチェックされ(S29)、減少していると判断された場合には、SOC検知手段94によって電池電圧が上限付近であると検知されたか否かが判断される(S30)。
【0079】
ステップS30において電池電圧が上限付近であると検知されなかったと判断されると、ステップS28で開始された回生制御を継続し、ステップS30において電池電圧が上限付近であると検知されたと判断されると、過充電判断手段として機能するECU90によって回生を継続すると過充電が生じるか否かが判断される。
【0080】
この過充電が生じるか否かの判断には、エアコン50、冷却ファンの強制駆動により電力を強制消費した場合に、過充電が生じるか否かの判断も含み(S31)、かかる強制消費によって過充電が生じない場合には強制消費が可能であるとして強制消費を開始し(S32)、ステップS27に戻ってブレーキ要求が継続しているかどうかが確認される。
【0081】
ステップS29で車速が減少していないと判断された場合、及び、ステップS31で電力の強制消費を行っても過充電が生じると判断された場合には、逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもとに逆転制動が行われる(S33)。
【0082】
なお、逆転制動を行うと、車両100への負担や、走行姿勢に対する懸念があるため、逆転制動を極力避け、回生を行うことが本来的には好ましい。そのため、ステップS31においては、過充電が生じるか否かの判断に、電力の強制消費を行った場合にも過充電が生じるか否かの判断も含むようになっている。電力の強制消費の観点からは、この強制消費用のキャパシタを設けることが好ましい。ただし、このキャパシタによる高コスト化を避けるため、本形態ではこれを備えていない。
【0083】
逆転制動を可能な限り避ける観点から、回生の度合いを緩めながら可能な限り回生による制動を行うようにしてもよい。この場合にも、電力の強制消費を行って過充電を回避するようにすることが望ましい。
【0084】
ステップS33において逆転制動を開始すると、これとともに、車両姿勢制御手段として機能するECU90により、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の走行状態に基づいて、車両100の走行姿勢を安定化させる制御を開始する(S34)。
【0085】
逆転制動により車速が減少し、サイドブレーキ手段68による制動が行われる所定の速度まで車速が低下すると(S35)、サイドブレーキ制御手段として機能するECU90により、サイドブレーキ手段68による制動を開始し(S36)、車速が0kmとなって車両100が停止すると(S37)、制御が終了される。
【0086】
図7に、車両姿勢制御手段として機能するECU90によって行う、走行状態検知手段として機能するECU90によって検知された車両100の走行状態に基づく、車両100の走行姿勢を安定化させる制御の例のフローチャートを示す。
【0087】
まず、各センサによって検知される前輪回転数、後輪回転数、縦Gの値に基づいて、あるいは図10に示した構成においてはさらに前左右輪回転数、後左右輪回転数、横Gの値に基づいて(S41)、走行状態検知手段として機能するECU90によって、車両100の走行状態が、目標前後回転差、目標縦Gレベルの範囲、あるいは図10に示した構成においてはこれらに加えて目標前後・左右回転差、目標横Gレベルの範囲内に有るか否かが判断される(S42)。
【0088】
ステップS42における判断の結果、検知値がかかる範囲内にある場合にはフラグを立てず、車両姿勢制御手段として機能するECU90による、車両100の走行姿勢を安定化させる制御を行うことなく、すでに述べたように、車速が減少しているか否かの判断を行い(S43)、車速が減少している場合には車両が停止したか否かの判断を行って(S44)、車両が停止すると制御を終了する。
【0089】
ステップS42における判断の結果、検知値がかかる範囲内にない場合にはプラス又はマイナスのフラグを立て、逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもとに逆転制動を行うとともに、車両姿勢制御手段として機能するECU90による、車両100の走行姿勢を安定化させる制御を行う(S45)。なお、かかる場合にも逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもとに逆転制動を行う条件が満たされているものとする。
【0090】
また、ステップS43における判断の結果、車速が減少していない場合にはフラグを立てることなく、逆転制動制御手段として機能するECU90の制御のもとに逆転制動を行う(S45)。
【0091】
ステップS45においては、舵角センサ91、車速センサとして機能する車輪回転センサ65をはじめとする各センサによる検知値を用いて、モータ10aの逆転を用いた前輪用の逆トルクの発生による逆転制動、あるいはこれに加えて図10に示した構成においては右側のモータ10a、10bの逆転を用いた逆トルクの発生による逆転制動(S45a)、モータ10bの逆転を用いた後輪用の逆トルクの発生による逆転制動、あるいはこれに加えて図10に示した構成においては左側のモータ10a、10bの逆転を用いた逆トルクの発生による逆転制動(S45b)を適宜調整しながら行う。たとえば、モータ10a、10bの逆転制御を、交互、同期、連携等して適切な値で最適化しながら行う。
【0092】
フラグのプラス又はマイナスの判定は、同図において四角の枠内に記載しているように、たとえば、各センサによって検知される前後輪回転差、縦Gの値が、目標値である目標前後回転差、目標縦Gレベルに対してどのような偏差を取っているか、またこれに加えて図10に示した構成においては横Gの値が目標横Gレベルに対してどのような偏差を取っているかに応じて行われる。
【0093】
なお、たとえば、前後輪回転差は、前後輪回転差検出手段として機能するECU90によって、図2に示すように、前輪用、後輪用の各車輪回転センサ65の差分として検知され、これが目標前後回転差と比較されて車両姿勢制御手段として機能するECU90に入力され、車両100の走行姿勢を安定化させるための、モータ10a、10bによる逆転制動についての制御が行われる。
【0094】
そして、逆転制動制御手段として機能するECU90は、前後輪回転差検出手段として機能するECU90によって検知された前後輪回転差が目標前後回転差である所定の前後輪回転差目標値を超える場合には、モータ10a、10bによる逆転制動力をそれぞれ独立して可変することで、前後輪回転差が前後輪回転差目標値となるように逆転制動力の発生量を調整し、可変する。
【0095】
また、逆転制動制御手段として機能するECU90は、縦重力検知手段として機能するECU90によって検知された縦Gすなわち縦重力が目標縦Gレベルである所定の縦重力目標値を超える場合には、モータ10a、10bによる逆転制動力をそれぞれ独立して可変することで、縦重力が縦重力目標値となるように逆転制動力の発生量を調整し、可変する。
【0096】
このようにして、図8に示すように、モータ10a、10bによる逆転制動を行うためにこれらに入力される信号のそれぞれのパルス幅、トルクが適切に設定され、モータ10a、10bによって発生される逆トルクが調整される。同図に示されているように、パルス幅、トルクは、それぞれ単独あるいはこれらの組み合わせで制御される。
【0097】
逆転制動による逆トルクの値は、車重、車速等に応じて、逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90によって決定される。
この例を図9に示す。同図に示されているように、かかる決定は、大別して、ベース各車軸重量算出方法と、これに次いで行われるトルク・パルス幅の算出とを経て行われる。
【0098】
まず、ベース各車軸重量算出方法について説明すると、逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90によって、前後輪それぞれの側の、車重とレベリングセンサ係数とに基づいて、同図内の上側のグラフに示されているように、それぞれの側のベース重量が算出される。
【0099】
つぎに、トルク・パルス幅の算出について説明すると、逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90によって、前後輪それぞれの側の、ベース重量と車両姿勢係数とに基づいて、同図内の下側のグラフに示されているように、それぞれの側の重量が算出され、これが逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90に、各センサの検知値とともに入力される。
【0100】
逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90は、そのメモリに記憶されている、車速・重量−トルクベースMAP、車速・トルク−パルス幅ベースMAP、車速・パルス幅−OFFパルス幅MAPに基づき、入力された重量、車速等の各検知値を用いて、トルクベース、パルス幅ベース等を取得する。
【0101】
次いで、逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90は、そのメモリに記憶されている、縦Gレベル・トルク−Δ偏差MAPに基づき、すでに取得したトルクベース、入力された縦Gレベル、舵角等の各検知値を用いて、Δトルク偏差1、Δパルス幅1を取得する。このとき、図10に示した構成においては、逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90は、そのメモリに記憶されている、縦Gレベル・トルク−Δ偏差MAP、前後輪用のそれぞれの横Gレベル・舵角センサ・トルク−Δ偏差MAPに基づき、すでに取得したトルクベース、入力された縦Gレベル、横Gレベル、舵角等の各検知値を用いて、Δトルク偏差1〜3、Δパルス幅1〜3を取得する。
【0102】
そして、逆転制動制御手段及び/又は車両姿勢制御手段として機能するECU90は、取得したトルクベースとΔトルク偏差1あるいはΔトルク偏差1〜3とに基づいて逆トルク値を取得するとともに、取得したパルス幅ベースとΔパルス幅1あるいはΔパルス幅1〜3とに基づいてパルス幅を取得する。これら逆トルク値、パルス幅が、たとえば図5に示した信号波形となる。
【0103】
以上本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0104】
たとえば、本発明が適用される電動車両は、電気自動車(EV)に限らず、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、ハイブリッド自動車(HEV)等であっても良い。
電動車両は、走行用のモータを、前輪、後輪の何れか一方を駆動輪として駆動するものとして備え、他方の車輪を従動輪として備えていても良い。
【0105】
また、図10に示したように、車両前輪又は後輪の左右輪をそれぞれ別々の左右のモータ、たとえばインホイールモータで駆動する車両であっても良く、その場合は、上述のように、左モータと右モータの逆転制動力を調整しても良い。
制動部材は脚で操作されるブレーキペダルに限らず、手で操作される手動ブレーキであっても良い。
【0106】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0107】
10a、10b 走行用モータ、回生制動手段
10a 前輪モータ
10b 後輪モータ
20 バッテリ
30a、30b 回生充電手段
62 前輪
64 後輪装置
65 車速検知手段
67 制動手段
68 サイドブレーキ手段
90 車両姿勢検知手段、走行状態検知手段、制御手段、算出手段、前後輪回転差検出手段、縦重力検知手段、回生充電可否判断手段、油圧式制動装置異常検出手段
92 ブレーキペダル踏み込み量検出手段
94 バッテリ状態検知手段
100 車両
B ブレーキペダル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10