(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検者の眼底に測定指標を投影し、眼底からの反射光束を受光する測定光学系と、被検眼に視標を呈示するための視標呈示光学系と、を備え、被検者眼の眼屈折力を他覚的に測定する眼屈折力測定装置において、
前記視標呈示光学系の光路中に配置される光学部材を含む回転部材と、
駆動源を有し前記回転部材を回転する回転駆動機構と、
前記回転部材の近傍に設けられ、前記回転部材の回転位置を調整するための原点位置に前記回転部材が復帰したことを示す原点復帰信号を検出するためのセンサと、
前記駆動源を制御し、所定の初期位置に配置された前記回転部材を、前記センサにより前記原点復帰信号が検出されるまで所定方向に回転させ、検出された前記原点位置を基準として前記回転部材の位置を調整する回転位置制御手段と、を備え、
前記原点位置に対応する前記回転部材の位置が、前記初期位置の誤差範囲よりも前記所定方向とは逆方向にずれた位置に配置されていることを特徴とする眼屈折力測定装置。
前記視標呈示光学系の光路において光軸を中心に回転可能に配置された焦点距離の等しい2枚の円柱レンズを有し、前記視標が呈示された被検眼の乱視を矯正するための矯正光学系を備え、
前記回転部材は、前記円柱レンズを保持するレンズ保持部であって、
前記初期位置は、前記2枚の円柱レンズによる乱視度数が0Dとなる位置であることを特徴とする請求項1の眼屈折力測定装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態に係る他覚式眼屈折力測定装置の外観構成図である。他覚式眼屈折力測定装置100は、基台1と、基台1に取り付けられた顔支持ユニット2と、基台1上に移動可能に設けられた移動台3と、移動台3に移動可能に設けられ、後述する光学系を収納する測定部4を備える。測定部4は、移動台3に設けられた駆動部6により、被検者眼Eに対して左右方向(X方向)、上下方向(Y方向)及び前後方向(Z方向)に移動される。移動台3は、ジョイスティック5の操作により、基台1上を左右方向及び前後方向に移動される。また、回転ノブ5aの回転操作により、測定部4は駆動部6の駆動で上下方向に移動される。ジョイスティック5の頂部には、測定開始スイッチ5bが設けられている。移動台3には、表示モニタ7が設けられている。
【0011】
図2は、装置の光学系及び制御系の概略構成図である。眼屈折力測定光学系10は、被検者眼Eの瞳孔中心部を介して眼底Efにスポット状の測定指標を投影する投影光学系10aと、眼底Efから反射された眼底反射光を瞳孔周辺部を介してリング状に取り出し、二次元受光素子の撮像素子にリング状の眼底反射像を撮像させる受光光学系10bと、から構成される。
【0012】
投影光学系10aは、測定光学系10の光軸L1上に配置された測定光源11,リレーレンズ12,ホールミラー13,及び測定用対物レンズ14を含む。測定光源11は、正視眼の眼底Efと光学的に共役な位置関係に配置されている。また、ホールミラー13の開口は、被検者眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置関係にされている。
【0013】
受光光学系10bは、投影光学系10aの対物レンズ14、ホールミラー13が共用され、ホールミラー13の反射方向の光軸L1上に配置されたリレーレンズ16及び全反射ミラー17と、全反射ミラー17の反射方向の光軸上に配置された受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、及び二次元受光素子である撮像素子22を含む。受光絞り18及び撮像素子22は、眼底Efと光学的に共役な位置関係に配置されている。リングレンズ20は、透明平板状に円筒レンズがリング状に形成されたレンズ部と、リング状のレンズ部分以外が遮光された遮光部と、から構成されている。リングレンズ20は、対物レンズ14からコリメータレンズ19までの光学系を介して、被検者眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置関係にされている。撮像素子22からの出力は制御部70に入力される。また、投影光学系10aの測定光源11,受光光学系10bのコリメータレンズ19、リングレンズ20、及び撮像素子22とは、移動機構23により一体的に光軸方向に移動される。なお、眼屈折力測定光学系10は、周知のものが使用可能である。
【0014】
対物レンズ14と被検者眼Eとの間には、視標呈示光学系30からの視標光束を被検者眼Eに導き、被検者眼Eの前眼部からの反射光を観察光学系50に導くダイクロイックミラー29が配置されている。ダイクロイックミラー29は、測定光学系10に用いられる測定光束の波長を透過する。
【0015】
被検者眼Eの前眼部の前方には、アライメント指標投影光学系40が配置されている。アライメント指標投影光学系40は、被検者眼Eの角膜にリング指標を投影するリング指標投影光学系41と、角膜Ecに2つ輝点の無限遠指標を投影する指標投影光学系42と、を備える。指標投影光学系42は、観察光軸に対して左右対称に配置されている。リング指標投影光学系41は、被検者眼Eの前眼部を照明する前眼部照明としても用いられる。
【0016】
観察光学系50は、ハーフミラー53の反射方向の光軸上に配置された撮像レンズ51及び二次元撮像素子52を備える。撮像素子52からの出力は、制御部70に入力される。これにより、被検者眼Eの前眼部像は二次元撮像素子52により撮像され、モニタ7上に表示される。また、観察光学系50は、アライメント指標投影光学系40により被検眼Eの角膜に形成されるアライメント指標像を検出する光学系を兼ね、制御部70によるアライメント指標像の位置検出に基づいてアライメント状態の適否が判定される。
【0017】
視標呈示光学系30は、観察光学系50の対物レンズ39が共用され、ダイクロイックミラー29により光軸L1と同軸にされた光軸L2上に配置されたLED等の光源31,視標板32,リレーレンズ33、反射ミラー36を含む。また、視標呈示光学系30は被検者眼の屈折力を矯正するための屈折力矯正光学系と共用され、反射ミラー36とリレーレンズ33との間には乱視矯正光学系340が配置されている。
【0018】
視標板32には、他覚屈折力測定時に被検者眼Eに雲霧を行うための固視標と、自覚屈折力測定時に使用される視力検査用視標を含む複数の視標32aが同心円上に配置されている。視力検査視標は、視力値毎の視標(視力値0.1、0.3、・・・、1.5)が用意されている。視標板32はモータ37によって回転され、視標32aが視標呈示光学系30の光軸L2上に切換え配置される。光源31によって照明された視標32aの視標光束は、リレーレンズ33からダイクロイックミラー29までの光学部材を介して被検者眼Eに向かう。
【0019】
光源31及び視標板32(視標32a)は、モータ及びスライド機構からなる駆動機構38により光軸L2の方向に一体的に移動される。光源31及び視標32aが移動されることにより、視標の呈示位置(呈示距離)が遠用距離から近用距離まで光学的に変えられる。これにより、他覚屈折力測定時には被験者眼Eに雲霧が掛けられ、また、自覚屈折力測定時には被検者眼の球面屈折力が矯正される。すなわち、対物レンズ39、リレーレンズ33、光源31及び視標32aの移動により、球面度数の矯正光学系が構成される。球面度数の矯正光学系は、光軸方向に移動可能なリレーレンズを視標呈示光学系に追加する構成でも可能である。
【0020】
乱視矯正光学系340は、焦点距離の等しい、2枚の正の円柱レンズ340a,340bから構成される。円柱レンズ340a,340bは、それぞれ回転機構350a、350bの駆動により、光軸L2を中心に各々独立して回転される。
図5は本実施形態の乱視矯正光学系の一部を示す斜視図である。回転機構350aは、モータ(例えば、ステッピングモータ)351、歯車352、レンズ保持部353、レンズ保持部353に備わる歯部354で構成される。歯車352は、モータ351の回転軸に取り付けられ、歯部354と噛み合うように配置される。レンズ保持部353は不図示の回転可能な支持機構(例えば、ベアリング機構)によって測定部4の内部に支持される。そして、レンズ保持部353は、円柱レンズ340aを光軸L2を中心として回転可能に支持する。モータ351が回転されると、歯車352から歯部354に動力が伝わり、レンズ保持部353が回転される。
【0021】
レンズ保持部353の近傍には、センサ60が配置される。センサ60は、レンズ保持部353の回転位置を調整するための原点位置に、レンズ保持部353が復帰したことを示す原点復帰信号を検出するためのセンサとして用いられる。センサ60は、送信部61、受信部62から構成され、レンズ保持部353の原点復帰を検出する。
【0022】
センサ60としては、例えば、投光部と受光部からなる光学式のセンサが用いられる。レンズ保持部353には、2箇所に通光孔355が設けられ、センサ光が通過できる。センサ光の光軸L3上に2箇所の通光孔355が重なる位置でのみ、センサ60はレンズ保持部の原点復帰信号を検出する。
【0023】
センサ60によって形成される光軸L3は、レンズ保持部353の断面形状の対称軸(直径)に一致しないことが好ましい。言い換えれば、光軸L2から外れた位置にセンサ光軸L3が配置されるように、センサ60が設けられることが好ましい。これは、例えば円柱レンズ340aの乱視軸角度が、80度と260度のときとを区別するためである。
【0024】
装置の校正について説明する。装置の組み付けや部品の公差によって誤差が生じるため、正確に乱視矯正を行うには、装置の校正を行う必要がある。校正の方法としては、例えば、円柱レンズ340aと円柱レンズ340bの乱視軸を直交させるように装置を作動させ、乱視度数が0D(ディオプター)であるかを専用の検出機器(冶具)を用いて測定する。0Dでなかった場合、0Dになるように装置を調整し、そのときの信号検出位置からの調節量をメモリ73に記憶させる。ここで、円柱レンズ340aと円柱レンズ340bによる乱視度数が0Dの位置が初期位置として設定される。
【0025】
乱視矯正を行う前段階において、制御部70は、検出された原点位置を基準として、メモリ73に記憶された調節量分、レンズ保持部353を回転させ、円柱レンズ340aと円柱レンズ340bを初期位置に配置する(初期化)。このような初期化動作により、初期位置の真の位置に円柱レンズが配置される。
初期化動作後、乱視矯正光学系は、初期位置からの回転量及び方向に基づいて位置決めされ、被検眼に対して乱視度数が付与される。
【0026】
さらに、装置の校正完了後、装置に加わった衝撃などで光学系に位置ずれが生じると、光学系の位置決めに誤差が生じることもありうる。一度誤差が生じると、常にずれた状態で位置決めがなされるため、乱視矯正を正確に行うことができなくなる。光学系に位置ずれが生じていることを、検者が認識することは困難である。そこで、制御部70は、適宜(例えば、検査毎に)、光学系の初期化を行うことにより、光学系に生じた位置ずれによる影響を解消できる。
【0027】
従来の初期化方法を説明する。自覚の遠用視力測定の際、制御部70は、遠用の他覚屈折力測定で得られた被験者眼の乱視度数C、乱視軸角度Aに基づいて乱視矯正光学系を駆動し。被験者眼の乱視を矯正する。このとき、制御部70は、乱視度数が0Dになる位置からの回転量(又はモータのステップ数)及び方向に基づいて円柱レンズ340a、340bの位置決めを行う。
【0028】
自覚的視力検査が終了すると、制御部70は、レンズ保持部353を回転させ、初期位置の仮の位置まで移動させる。印字やデータクリアなどの操作が実行されると、それに伴い、制御部70は、乱視矯正光学系を初期化する。このとき、制御部70は、仮の位置に移動されたレンズ保持部353を、センサ60により原点復帰信号が検出されるまで所定方向に回転させて、原点復帰信号を検出する。制御部70は、メモリ73に記憶された校正時の調節量に基づいて、レンズ保持部353を原点位置から真の初期位置に位置させる。これにより初期化が完了される。なお、初期位置の仮の位置にレンズ保持部353が移動される場合、位置ずれがなければ、真の初期位置と同じ位置に配置される場合もある。
【0029】
上述の方法で初期化を行う場合の問題点を
図6を用いて説明する。
図6は従来の乱視矯正光学系の一部を示す概略構成図である。従来は、初期位置(例えば、0D位置)と原点位置がほぼ一致するように配置されていた。したがって、前述の組み付け誤差によって、初期位置は、原点位置のプラス側にもマイナス側にも配置される可能性がありうる。ここで、プラス側にずれるとは、原点検出時においてレンズ保持部353が回転する方向にずれることであり、マイナス側にずれるとは、原点検出時にレンズ保持部353が回転する方向と反対方向にずれることである。原点検出時に原点検出時にレンズ保持部353が回転する方向は、前述のように予め一方向に設定されている。
図6(a)は、マイナス側にずれた場合を表す概略図であり、
図6(b)は、プラス側にずれた場合を表す概略図である。したがって、
図6(a)の場合、レンズ保持部353が矢印の方向に回転されると、すぐに原点位置に到達する。しかし、
図6(b)の場合、レンズ保持部353が矢印の方向に回転されると、原点位置までにほぼ一周する必要があり、時間がかかるという問題があった。
【0030】
ここで、上記問題を解決する初期化方法について
図7を用いて説明する。
図7は本件実施例の乱視矯正光学系の一部を示す概略構成図である。
図7(a)は、初期位置における円柱レンズ340a及び回転機構350aの一部を示す概略図である。初期位置と原点位置は一致せず、原点位置は、予測される初期位置の誤差範囲より大きな角度θだけ傾けて配置される。この誤差は、装置の組み付け誤差および部品の加工公差によるものである。角度θは、任意に設定可能であり、本実施形態では角度θは5°に設定される。回転機構350aは、初期化時に初期位置から原点位置までモータ351によって一定方向に回転する。その際、モータ351の回転方向は初期位置から原点位置に近づく方向であり、この回転方向(検出動作方向)は予め設定され、メモリ73(
図2)に記憶される。なお、角度θは、予測される誤差を考慮した上で、できるだけ小さい方が好ましい。これは、初期化動作時の回転機構が回転する時間を短くするためである。
【0031】
制御部70は、装置の立ち上げ時や印字及びデータクリア時など、適宜、乱視矯正光学系340を初期化する。乱視矯正光学系340の初期化動作を円柱レンズ340a及び回転機構350aを例にとって説明する。
【0032】
自覚の遠用視力測定の際,制御部70は,遠用の他覚屈折力測定で得られた被験者眼の乱視度数C,乱視軸角度Aに基づいて乱視矯正光学系を駆動し,被験者眼の乱視を矯正する.このとき,制御部70は,乱視度数が0Dになる位置からの回転量(又はモータのステップ数)及び方向に基づいて円柱レンズ340aの位置決めを行い、そのときの回転量及び回転方向はメモリ73に記憶される。
【0033】
自覚的視力検査が終了すると、制御部70は、モータ351に信号を送る。この信号には、測定時にメモリ73に記憶されたモータ351の回転量及び回転方向に関する情報を含む。モータ351の回転により、レンズ保持部353は、初期位置に復帰する。
【0034】
次に、制御部70は、モータ351を検出動作方向に回転させる。同時に、送信部61aにセンサ光を出射させる。モータ351の回転に伴い、歯車352が回転する。歯車352に噛み合う歯部354が連動して回転し、それに伴い、レンズ保持部353及び円柱レンズ340aが回転する。
【0035】
送信部61aから受信部62aに向かうセンサ光の光軸L3上に2箇所の通光孔355が位置するとき、受信部62aはセンサ光を検出する。このとき、受信部62aは検出信号を制御部70に送る。制御部70は検出信号を受信すると、モータ351の駆動を停止させ、受信部62aがセンサ光を検出する状態で、レンズ保持部355を停止させる。
【0036】
図7(b)は自覚的視力検査後、乱視度数が0Dになる位置に復帰した円柱レンズ340a及び回転機構350aの一部を示す概略図である。
図7に示すように、初期位置(例えば、0D位置)は、組み付け誤差がないと仮定した場合の位置に対して、プラス側にもマイナス側にもずれる可能性がある。ここでは、予想されるずれの大きさを角度αとする。
【0037】
初期位置がマイナス側に角度αだけずれた場合、回転機構350aは、矢印の方向に回転すると、すぐに原点位置に到達する。初期位置がプラス側に角度αだけずれた場合、回転機構350aは、矢印の方向に回転すると、従来とは異なり、すぐに原点位置に到達する。
【0038】
このように、0Dになる位置を原点位置と一致させず、予測されるずれより大きな角度θ傾けて配置することで、原点位置を検出するために予め設定された方向に初期位置がずれた場合でも、原点検出動作がわずかな回転動作だけで済み、初期化時間が長くなることを防止できる。
【0039】
次に、制御部70は、レンズ保持部353を初期位置まで回転させるための信号をモータ351に送る。この信号は、メモリ73に予め記憶された初期位置の位置情報(例えば、原点位置からの回転量及び回転方向)を含む。モータ351は制御部70からの信号に基づいて回転され、レンズ保持部353を初期位置まで回転させる。このときの回転方向は原点位置から初期位置に向かう近い方向である。
【0040】
なお、乱視矯正光学系340の構成及び初期化動作を、円柱レンズ340a及び回転機構350aを例にとって説明したが、円柱レンズ340b及び回転機構350bも同様である。
【0041】
なお、原点復帰検出センサとして光学式センサを用いた構成として説明したが、これに限定されない。磁気センサなど、対象物の回転位置を検出可能なセンサであればよい。
【0042】
制御部70は、撮像素子22に接続され、撮像素子22の出力に基づいて屈折力の演算処理を行う。また、制御部70は、撮像素子52、移動機構23、駆動機構38、モータ37、光源31、回転機構350a,350b、表示モニタ7、各種設定に用いられるスイッチ部80、測定開始スイッチ5b、メモリ73、画像メモリ75、駆動部6、プリンタ90等に接続されている。
【0043】
図3は、スイッチ部80のスイッチ構成とモニタ7の表示の説明図である。
図3のモニタ7の画面は、自覚の視力測定画面200の例である。スイッチ部80には8個のスイッチ80a〜80hが配置されている。各スイッチは、測定モードの選択によって切換えられるモニタ7の画面に応じて、各スイッチ信号の機能が切換えられる。
【0044】
次に、以上のような構成を備える装置の測定動作について説明する。装置が起動されたときは、遠用での他覚屈折力測定モードに設定される。この場合、視標呈示光学系30の視標32aは、雲霧を掛けるための固視標(例えば、風景視標)が光路にセットされる。検者は被検者の顔を顔支持ユニット2に固定させ、被検者眼には測定部4の測定窓4a(
図1参照)を介して測定部4内に配置された固視標を固視させる。
【0045】
他覚屈折力測定に際して、被検者眼Eの前眼部は、観察光学系50の撮像素子52により撮像され、モニタ7に前眼部像が映し出される。また、リング投影光学系41によって投影されたリング指標像及び指標投影光学系42によって投影された無限遠の指標像が撮像素子52により撮像される。これらのアライメント指標像もモニタ7に表示される。検者は、モニタ7上の前眼部像、アライメント視標像、レチクルを観察し、測定部4及び移動台3をジョイスティック5等の操作により移動して、被検者眼と装置の光学系とを所定の位置関係にアライメントする。アライメント完了後、測定開始スイッチ5bから測定開始信号が入力されると、屈折力測定が行われる。
【0046】
図示を略すスイッチにより、自動アライメントモードが設定されている場合、撮像素子52により撮像されたアライメント指標像に基づき、制御部70によりアライメント状態が検出される。上下左右方向のアライメント状態は、リング投影光学系41によるリング指標像の中心位置と光軸との位置関係により検出される。作動距離方向のアライメント状態は、作動距離が変化しても指標投影光学系42による無限遠指標は変化せず、リング指標の所定経線方向の像間隔は変化するという特性を利用して、検出される(特開平6−46999号参照)。これらのアライメント指標像の検出結果に基づいて駆動部6が駆動され、アライメント状態が適正になるように測定部4が移動される。アライメントが完了すると、制御部70により自動的に測定開始信号のトリガが発せられ、遠用の屈折力測定が行われる。
【0047】
光源11から出射された測定光は、リレーレンズ12からダイクロイックミラー29までを介して眼底Efに投影され、眼底Ef上でスポット状の点光源像を形成する。眼底Ef上に形成された点光源像の光は、眼底により反射・散乱されて被検者眼Eを射出し、対物レンズ14、ホールミラー13、リレーレンズ16及び全反射ミラー17までの光学系を介して受光絞り18の開口上で再び集光され、コリメータレンズ19にて略平行光束(正視眼の場合)とされる。リングレンズ20によってリング状光束として取り出され、リング像として撮像素子22に受光される。
【0048】
遠用の他覚眼屈折力の測定においては、はじめに眼屈折力の予備測定が行われ、予備測定の結果に基づいて光源31及び固視標板32が光軸L2方向に移動されることにより、被検眼Eに対して雲霧がかけられる。その後、雲霧がかけられた被検眼に対して眼屈折力の本測定が行われる。本測定では、リングレンズ20によるリング像は撮像素子22に撮像され、撮像素子22からの出力信号は、画像メモリ75に画像データ(測定画像)として記憶される。その後、制御部70は、画像メモリ75に記憶されたリング像を画像解析して各経線方向の屈折力の値を求める。制御部70は、この屈折力に所定の処理を施すことによって遠用時での被検者眼のS(球面度数)、C(乱視度数)、A(乱視軸角度)の他覚値を得る。得られた遠用時での他覚値はメモリ75に記憶される。
【0049】
なお、眼屈折力測定光学系10は、上記のようにリング状の指標像を利用する構成に限られず、眼底に測定指標を投影し、眼底からの反射光束を受光素子で受光し、少なくとも3経線方向の屈折力を得る光学系であれば良く、これは周知のものが使用可能である。
【0050】
遠用での他覚屈折力測定が完了し、スイッチ80aが押されると、自覚の遠用視力測定(自覚屈折力測定)モードに切換えられ、モニタ7の画面は他覚屈折力測定モードの画面(図示せず)から
図3の自覚の遠用視力測定画面200に切換えられる。制御部70は、遠用の他覚屈折力測定で得られた被検者眼の屈折度数(球面度数S、乱視度数C、乱視軸角度A)に基づいて矯正光学系を駆動し、被検者眼の屈折力誤差を矯正する。すなわち、遠用の他覚屈折力測定における球面度数Sに基づいて光源31及び視標板32が光軸L2方向に移動されて、球面屈折力Sの屈折力誤差が補正された状態にされる。また、乱視度数C及び乱視軸角度Aに基づいて乱視矯正光学系340が駆動され、乱視の屈折力誤差が補正された矯正状態とされる。また、制御部70はモータ37の回転制御によって視標板32を回転させ、光軸L2上に所定の視力値視標32aを配置させる(例えば、視力値0.8の視標)。
【0051】
以上のように、被検者眼に初期呈示視標が呈示されたら、検者は被検者の遠用視力測定を行う。視力値のUP及びDOWNする表示202a及び202bに対応したスイッチ80b及び80cが押されると、呈示される視力値視標が切換えられる。検者は、被検者の回答が正答の場合には、スイッチ80bを選択して1段階高い視力値の視標に切換える。一方、被検者の回答が誤答の場合にはスイッチ80cを選択して1段階低い視力値の視標に切換える。制御部70は、スイッチ80b又は80cによる視力値変更の信号入力に基づいて視標板32を回転させ、視標呈示光学系の光軸上の視力値視標32aを切換える。検者は、以上の手順を繰返すことで被検者が判読可能な限界の最高視力を求める。
【0052】
他覚屈折力測定結果の矯正度数による遠用の最高視力値が得られたら、検者は被検者が最高視力値を得られる最もプラスよりの球面度数(最弱の度数)に調節するため、
図3における球面度数を変更するUP/DOWNの表示204a及び204bに対応するスイッチ80f、80gの操作によって球面度数Sを変更する。スイッチ80fまたはスイッチ80eが選択されると、光源31及び視標板32が光軸L2方向に移動されて球面度数が変更される。これにより、最高視力が得られる最も弱い球面度数Sが決定され、眼鏡レンズ又はコンタクトレンズ等の遠用矯正度数を処方する際の参考値が得られる。
【0053】
次に、検者は呈示視標を近用距離に移動させた近用視力測定を行う。近用視力測定モードに移行する信号を入力するスイッチ80hが押されると、モニタ7には近用視力測定画面が表示される。
図4は近用視力測定画面220の表示例である。近用視力測定画面220では、「ADD」表示221がスイッチ80dに対応され、近用視力測定時にはスイッチ80dにより加入度を付加させる指令信号が入力される。また、視力値UP/DOWNの表示202a及び202bがスイッチ80b及びスイッチ80cに対応される。また、加入度の度数を変更するUP/DOWNの表示224a及び224bがスイッチ80f及びスイッチ80gにそれぞれ対応される。また、画面220上の表示欄230には近用視力測定での近用距離が表示される。モニタ7の中央の表示欄231には、加入度が表示される。また、測定結果の表示欄240には、遠用での矯正度数(S、C、A)の値が表示される。そして、表示欄240の横の表示欄241には、近用での他覚屈折力測定結果(S,C,A)の値が表示される。
【0054】
前述のスイッチ80hにより、近用視力測定モードに切換えられると、駆動機構38の駆動により光源31及び視標板32が光軸L2上を移動され、視標板32による視標の呈示距離が所定の近用距離に移動される。例えば、視標は33cmの近用距離に相当する位置に設定される。33cmの近用距離は、屈折力換算で−3.0D(ディオプター)に相当される。制御部70は、遠用の矯正度数(遠用の他覚屈折力測定又は遠用の視力測定で決定された遠用矯正度数)の位置を基準にして、3.0D(ディオプター)分だけ近方に近づけた位置に視標板32を移動させる。すなわち、遠用の矯正度数に対して、−3.0D(ディオプター)の球面度数を加えた度数とされる。例えば、被検者眼の遠用球面度数が−2.0Dの場合には、これに−3.0Dが加えられ、33cmの近用距離での度数は、−5.0Dとされる。なお、近用視力測定モードへ移行するためのスイッチ80hが押された時点では、加入度が無し(0.00D)の状態である。なお、近用測定においても、遠用の他覚屈折力測定の結果に基づいて乱視矯正光学系が駆動されていることにより、乱視の屈折誤差が矯正された状態にされている。これにより、被検者眼は、乱視屈折誤差の影響を受けずに近用距離に呈示される視標を確認することができる。
【0055】
検者は、モニタ7に表示されている被検者眼の前眼部像及びアライメント指標像等を基にアライメント状態を確認し、アライメントを適正にさせる。自動アライメントモードが設定されているときは、アライメント指標像の検出結果に基づいて自動的に測定部4が移動され、アライメントが適正にされる。その後、検者は、近用距離33cmに呈示された視力値視標が判読できるか被検者に尋ねる。被検者眼は、近用距離33cmに呈示された視標を確認するために、眼の調節力を使う。このとき、制御部70は、アライメント状態が適正にされていれば、自動的に測定開始のトリガ信号を発して、近用測定における他覚屈折力測定を実行する。他覚屈折力測定は複数回(例えば、3回)行われ、異常データを除いた測定結果の代表値(例えば、中間値)を得る。なお、マニュアル測定の場合は、測定開始スイッチ5bが押されることにより近用での眼屈折力測定が行われる。
【0056】
近用の他覚眼屈折力の測定結果(S,C,A)は、表示欄241に表示される。制御部70は、設定された近用距離で被検者眼が近用視標を見るために必要な球面度数S1と近用の他覚眼屈折力測定で得られた球面度数S2とを比較し、その差(S2−S1)を求める。球面度数S1は、遠用での矯正球面度数と、近用視標の呈示距離における屈折力換算の度数と、に基づいて演算される。例えば、遠用での矯正球面度数Sが−2.00Dであり、近用視標の呈示距離33cmは−3.00Dであるので、設定された近用距離で被検者眼が近用視標を見るために必要な球面度数S1は、両者の和である−5.00Dとして演算される。そして、近用の他覚眼屈折力測定で得られた球面度数S2が−5.00Dであった場合には、S1とS2の差は0であるので、被検者眼は調節力を使用して、近用視標を確認している判断される。この場合、加入度は必要とされないので、加入度の表示欄231の値は、0.00Dとされる。
【0057】
一方、近用の他覚眼屈折力測定で得られた球面度数S2が−3.00Dであった場合には、両者の差(S2−S1)は+2.00Dであるので、被検者眼が近用視標を見るための屈折力が不足していると判断される。この差の+2.00Dが加入度として表示欄231に表示される。
【0058】
検者は、表示欄231に表示された加入度の値を確認することにより、被検者眼に加入度が必要か否かを知ることができる。すなわち、制御部70は、近用視力測定での加入度の必要性を判断し、その判断結果を表示欄231の加入度の表示により検者に報知する。これにより、検者は次に加入度の測定ステップを行うべきか否かを判断できる。また、検者は、視力値視標が判読できているか否かを被検者に尋ねるが、表示欄231に加入度が表示されていることにより、被検者の応答が曖昧であっても、近用視標の判読が難しことを被検者に促すことができる。なお、前述のS1とS2の差(S2−S1)が±0.50D程のときは、眼の調節ラグ(本来の眼の合焦点位置が、焦点深度の深さと関連して、ピントの合う許容内で前方移動したり、後方移動したりする現象)を考慮して、加入度の必要性が無い可能性があることを検者に知らせるようにしても良い。例えば、加入度が一定値(0.50D)を超えている場合に、画面上に加入度が必要な旨のメッセージを表示させるようにしても良い。
【0059】
検者は、表示欄231の加入度の値又は加入度の必要性のメッセージを確認し、加入度を加えた近用視力測定ステップに移行する。「ADD」表示221に対応したスイッチ80dが押されると、制御部70は、矯正光学系(視標呈示光学系30)に加入度を付加すべく、駆動機構38を駆動し、近用距離(33cm)の位置を基準にして算出された加入度(S1とS2の差)に相当する分だけ視標板32を光軸方向に移動させる。これにより、近用の加入度測定において、適切な加入度の初期値が簡単に設定され、加入度調整の測定時間が短縮される。すなわち、従来のように、加入度の初期値を一定値とする場合又は被検者の年齢の推測から加入度を設定する場合に比べて、被検者の個々に応じた加入度の初期値が適切に設定される。なお、視標呈示光学系30に加入度が加えられると、表示231の値が点滅表示される。
【0060】
検者は、被検者に対して加入度が加えられた状態の呈示視標の見え方を確認する。被検者が視標を見えやすいと回答した場合には、加入度は適切であると判断される。スイッチ80f及び80gが押されると、矯正光学系に加えられる加入度が0.25Dステップで増減される。これにより、検者は被検者眼に応じた加入度を微調整する。調整された加入度の値は、表示欄231に表示される。加入度の調整ができたら、検者は、スイッチ80b、80cにより呈示されている視標の視力値を切換え、被検者眼の限界の近用視力値を測定する。
【0061】
また、加入度の調整後、「ADD」表示221に対応したスイッチ80dが押される毎に、視標呈示光学系に加入度が加えられた状態と、加入度が除かれた状態と、に交互に切換えられる。加入度が除かれた状態は、乱視度数が矯正され、且つ球面度数が遠用での視力確認測定(又は遠用での眼屈折力の測定結果)に基づいて矯正された状態とされる。これにより、被検者は加入度の有無による近用視標の見え方の違いを比べることができ、加入度の必要性を知ることができる。このため、検者は被検者に対して近用距離での加入度の必要性について容易に説明できるようになる。
【0062】
他覚の屈折力の測定結果、自覚の屈折力及び加入度等の測定結果は、精密な自覚測定の参考値として利用される。他覚屈折力測定装置により、これらの自覚の測定結果が得られることにより、精密な自覚測定での処方値の決定が行い易くなる。
【0063】
なお、センサで原点位置を検出して初期化を行う装置であれば、本実施形態で用いた乱視矯正光学系における構成、及び制御システムを利用し、同様の効果を得ることができる。
【0064】
視標呈示光学系30の光路中に配置される光学部材を含む回転部材と、駆動源を有し視標呈示光学系30に対して回転部材を回転する回転駆動機構と、回転部材の近傍に設けられ、回転部材の回転位置を調整するための原点位置に前記回転部材が復帰したことを示す原点復帰信号を検出するためのセンサと、を備える構成であれば、本実施形態の技術を適用可能である。
【0065】
例えば、視標呈示光学系30の光路に選択的に配置されるチャート部が同一円周上に複数設けられた視標板32が回転部材として用いられる。
【0066】
図8(a)は視標板の外観構成図であり、
図8(b)は視標板とセンサを示す概略構成図である。視標板32の周辺には光学式センサ63が配置される。センサ63は、送信部64、受信部65から構成され、視標板32の原点位置を検出する。視標板32には、通光孔321が設けられ、センサ光が通過できる。送信部64から受信部65に向かうセンサ光の光軸L4上に通光孔321が重なる位置(原点位置)でのみ、センサ60は視標板32の回転位置を検出する。
【0067】
視標呈示光学系30においても装置の初期化が必要であるため、本実施形態の乱視矯正光学系で用いた構成、及び制御システムを使用することで、初期化時間の短縮を図ることができる。
【0068】
なお、初期化センサとして光学式センサを用いた構成として説明したが、これに限定されない。磁気センサなど、対象物の回転位置を検出可能なセンサであればよい。
【0070】
続いて、本発明の第2実施形態について図面を用いて説明する。
図9は本実施形態の乱視矯正光学系の一部を示す概略構成図である。本実施形態の乱視矯正光学系は、
図5に示す第一実施形態と略同様の体系であるため、各要素には第一実施形態と同一の番号を用いる。
【0071】
概して、第2実施形態は、原点位置に対応するレンズ保持部353の位置と初期位置とが一致するように配置したときの誤差によるずれを確認し、初期位置から原点位置に近づく方向を、原点復帰信号を検出するための所定回転方向として設定する。眼屈折力測定装置のキャリブレーション時に行われる。
【0072】
図9(a)に示すように、本実施形態の乱視矯正光学系は、第一実施形態とは異なり、初期位置と信号検出位置が近傍に配置されている。
【0073】
説明にあたり、円柱レンズ340a及び回転機構350aを例にとる。制御部70は、初期化時、センサ60によって原点位置を検出する際、回転機構350aを予め設定された一方向に回転する。この回転方向は、校正時にメモリ73に記憶された、原点検出位置から0Dになる位置へ向かう回転方向に対して反対方向である。
【0074】
図9(b)は円柱レンズ340a及び回転機構350aにおいて、初期位置(例えば、0D位置)が、原点位置から角度βだけずれているときの様子を表す概略構成図である。このずれは、装置の組み付け誤差および部品の加工公差によるものであり、校正時に補正値がメモリ73に記憶される。
【0075】
前述のように、初期化時に回転機構350aが回転する方向を、校正時に調整値としてメモリ73に記憶された、原点位置から初期位置へ向かう回転方向に対して反対方向に回転させる。そうすることで、回転機構350aの初期化動作がわずかな回転量で済み、従来のように初期化時間が長期化する問題を解決することができる。