特許第6064587号(P6064587)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064587容器詰め液状調味料とこれを用いた食肉調理食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064587
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】容器詰め液状調味料とこれを用いた食肉調理食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20170116BHJP
   A23L 13/70 20160101ALI20170116BHJP
   A23L 27/21 20160101ALI20170116BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20170116BHJP
【FI】
   A23L27/00 D
   A23L13/70
   A23L27/21 Z
   A23L27/50 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-282255(P2012-282255)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2014-124123(P2014-124123A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】真庭 佳代子
(72)【発明者】
【氏名】福井 良明
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 裕子
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/032279(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/060470(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/098510(WO,A1)
【文献】 特開2003−304836(JP,A)
【文献】 特開2011−055818(JP,A)
【文献】 特開平10−057019(JP,A)
【文献】 特開2006−238715(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0070347(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニンを0.75〜1.5重量%、塩化ナトリウムに対しマグネシウムが0.025〜0.7重量%含まれる焼き塩を1.0〜2.75重量%、乳酸カルシウムを1.5〜3.0重量%含有することを特徴とする容器詰め液状調味料
【請求項2】
アルギニンの含有量が1.0〜1.5重量%である請求項1に記載の容器詰め液状調味料
【請求項3】
焼き塩の含有量が1.25〜2.75重量%である請求項1または請求項2に記載の容器詰め液状調味料
【請求項4】
レトルト殺菌済みである請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器詰め液状調味料
【請求項5】
ウスターソースおよび/または醤油を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の容器詰め液状調味料
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の容器詰め液状調味料を液状調味料1重量部に対し0.1〜1.0重量部の水に溶解して調味液とし、該調味液に食肉を浸漬させて5〜30分漬け込みした後、取り出した食肉を加熱調理し、加熱調理された食肉に更に前記調味液を添加することを特徴とする食肉調理食品の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に食肉調理に用いられる容器詰め液状調味料とこれを用いた食肉調理食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
牛・豚・鶏等の鳥獣肉や淡・海水魚・甲殻類・貝類などの魚介類の食肉加工食品は、柔らかく且つジューシーでソフトな食感を有し美味しい食味のものが好まれる。
【0003】
このような畜肉や魚介類加工食品の、食肉加工食品を得るために、ジューシー及びソフト感があり、美味しい食感・食味を有する数々の検討が為されてきた。例えばアルカリ製剤(リン酸塩類、炭酸塩類)を用いる方法、グルタチオン製剤を用いる方法、酵素製剤(タンパク質分解酵素など)を用いる方法、乳化剤を用いる方法などである。
【0004】
しかし、いずれも充分な食感及び食味の総合的な改質効果は得られていないのが現状である。すなわち、アルカリ製剤を用いる方法は、体内カルシウムがリン酸塩により排出する問題があり、食感はハム様で繊維感がなく不美味となる、グルタチオン製剤を単独で用いる方法は、肉質が硬く、又酵母臭があり総合的に効果がなく、酵素製剤を用いる方法は、酵素製剤の安定性の確保が困難なこと及び添加量幅が狭く品質が不安定になること、乳化剤を用いる方法は肉質の表面にコーティングする為調理すると柔らかさに乏しい問題があった。
【0005】
一方、ジューシーでソフトな食感・繊維感・食味が得られる食肉用改良剤として、塩化ナトリウムに対しマグネシウムを0.025〜0.7重量%含む焼き塩1重量部に対し、糖アルコールを2.5〜5.5重量部、エステル化又は/及びエーテル化された澱粉誘導体を1.0〜2.5重量部、及び有機酸塩を0.3〜1.3重量部を含有させたもの(特許文献1)、塩化ナトリウムに対しマグネシウムを0.02〜0.7重量部含む焼き塩1重量部に対し、グルタチオンが0.001〜0.1重量部、糖アルコールが2.5〜5.5重量部及び澱粉のエステル化又は/及びエーテル化された澱粉誘導体が1.0〜2.5重量部含有させたもの(特許文献2)、および乳酸カルシウム、有機酸、アミノ酸及び糖質を含有させたもの(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−304836号公報
【特許文献2】WO2005/032279号公報
【特許文献3】WO2010/126165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3の食肉用改良剤は、いずれもジューシーでソフトな食感・繊維感・食味が得られるものであったが、さらに改善されたものが求められていた。すなわち、特許文献1〜3では、食肉等を食肉改良剤に漬け込みする際に比較的長時間の漬け込みを要する点で改善が求められていた。また、下処理時の調味付け用の調味液に添加して使用する方法が記載されているが、こうした場合、メニューによっては最終的に味付けのために別途調味料を計量、添加する必要があり、簡便性の更なる改善のため、下処理(下味付け)と最終的な味付けの両方を行なえる調味料が求められていた。
【0008】
短い漬け込み時間で食肉の食感の改良効果を得るためには、食肉改質効果を有する素材の配合量を増加させる必要があるが、そのことにより食味への悪影響が課題となる。また、簡便性を更に改善するため、下処理(下味付け)と最終的な味付けの両方を行なえる調味料とする場合、食肉調理食品とともに調味料自体を食することになるため、食肉改質効果を有する素材の味をより感じやすくなり、食味への影響が課題となる。
【0009】
本発明の目的は、食肉をさらにジューシーでソフトな食感・繊維感・食味が得られるものにする簡便性の高い容器詰め液状調味料とそれを用いた食肉調理食品の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、アルギニンと焼き塩と乳酸カルシウムを特定割合で含有させることによって、柔らかさ、繊維感、ジューシー感、味の好ましさの全てに満足した調味料が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、アルギニンを0.75〜1.5重量%、焼き塩を1.0〜2.75重量%、乳酸カルシウムを1.5〜3.0重量%含有することを特徴とする容器詰め液状調味料を提供するものである。
【0012】
そして、上記3成分の内、アルギニンの含有量、焼き塩の含有量に特に好ましい範囲があり、さらに、ウスターソースや醤油を含むものが好ましく、容器詰め液状調味料では、レトルト殺菌したものが特に好ましいことを見出した。従って、本発明は、次の態様も含むものである。
【0013】
アルギニンの含有量が1.0〜1.5重量%である上記に記載の容器詰め液状調味料。
【0014】
焼き塩の含有量が1.25〜2.75重量%である上記に記載の容器詰め液状調味料。
【0015】
レトルト殺菌済みである上記に記載の容器詰め液状調味料。
【0016】
ウスターソースおよび/または醤油を含有する上記に記載の容器詰め液状調味料。
【0017】
さらに、上記調味料を用いた食肉調理食品の製造方法にも特徴があることを見出した。従って、本発明は、次の製造方法も含んでいる。
【0018】
上記のいずれかに記載の容器詰め液状調味料を液状調味料1重量部に対し0.1〜1.0重量部の水に溶解して調味液とし、該調味液に食肉を浸漬させて5〜30分漬け込みした後、取り出した食肉を加熱調理し、加熱調理された食肉に更に前記調味液を添加することを特徴とする食肉調理食品の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の容器詰め液状調味料によれば、短い漬け込み時間で食肉の食感の改良効果を得ることができ、食肉調理食品の下処理(下味付け)と最終的な味付けの両方を簡便に行なうことができ、得られた食肉調理食品はジューシーでソフトな食感・繊維感を有し、食味に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の容器詰め液状調味料は、アルギニンと焼き塩と乳酸カルシウムを含有するものである。
【0021】
本発明におけるアルギニンとしては、アルギニンまたはその塩を用いることができる。アルギニンの塩の例としてアルギニングルタミン酸塩、アルギニン塩酸塩、アルギニン酢酸塩、アルギニン酪酸塩、アルギニン硫酸塩などが挙げられ、その他いかなる塩でもよく、それらの組み合わせでも構わない。L体、D体、それらの混合物でもよい。また、本発明で用いるアルギニンもしくはその塩は、醗酵法、抽出法などいかなる方法で製造されたものでも構わない。尚、味の素(株)より市販されているL−アルギニンがその一例である。本発明の容器詰め液状調味料におけるアルギニンの含有量は、アルギニン換算で、0.75〜1.5重量%、好ましくは1.0〜1.5重量%が適当である。アルギニンの含有量が少ないと食肉のジューシーでソフトな食感を得られにくい傾向があり好ましくない。また、アルギニンの含有量が多いと、食肉の繊維感が失われ、また、食肉調理食品の調味液として使用した際に独特の異味が強くなる傾向であり好ましくない。
【0022】
本発明における焼き塩とは、塩化ナトリウムに対しマグネシウムが0.025〜0.7重量%、好ましくは0.1〜0.4重量%含まれ、食塩として用いられるものであればよく、特に300〜600℃、好ましくは400〜550℃で焼成されたものが食味の向上からより好ましい。本焼き塩は、塩化ナトリウムと塩化マグネシウムの混合物を焼成しても良いし、又はマグネシウムを海水のミネラル成分として濃縮して調製したものを塩化ナトリウムと共に焼成したものでも良く、塩化ナトリウムとマグネシウムの割合が上記範疇であるものは本発明に含まれる。塩化ナトリウムに対するマグネシウムの割合が0.025重量%未満では効果なく、0.7重量%を超えるとでは苦味が発生し好ましくない。
【0023】
この焼き塩の本発明の容器詰め液状調味料における含有量は、1.0〜2.75重量%、好ましくは1.25〜2.75重量%が適当である。焼き塩の含有量が少ないと食肉のジューシーでソフトな食感を得られにくい傾向があり好ましくない。また、焼き塩の含有量が多いと、塩味が強くなる傾向があり好ましくない。
【0024】
乳酸カルシウムの本発明の容器詰め液状調味料における含有量は、1.5〜3.0重量%が適当である。乳酸カルシウムの含有量が少ないと、食肉のジューシーな食感が得られにくい傾向があり好ましくない。また、乳酸カルシウムの含有量が多いと、酸味が強くなる傾向があり好ましくない。
アルギニン、焼き塩、および乳酸カルシウムの合計量に対する各成分の割合は、アルギニンが11〜38重量%、好ましくは14〜36重量%、焼き塩が18〜55重量%、好ましくは21〜53重量%、乳酸カルシウムが26〜64重量%である。
【0025】
本発明の液状調味料には、上記3成分以外の成分も含有させることができる。
【0026】
食肉用として好ましいものは、ウスターソースと醤油であり、少なくともその一方を加えることが望ましい。容器詰め液状調味料におけるウスターソースと醤油の含有量は、合計で10〜50重量%、好ましくは20〜40重量%が適当である。
【0027】
その他の成分は、使用する液状調味料の用途によって定められ、その配合比は適宜調整することができる。
【0028】
容器詰め液状調味料に含まれる水分は通常30〜85重量%、好ましくは50〜70重量%である。
【0029】
各成分を配合して作製した容器詰め液状調味料は殺菌しておくことが好ましい。殺菌方法は通常液状調味料に用いられるものであれば特に限定はないが、レトルト殺菌、ホットパック殺菌、湯殺菌等が挙げられる。
本発明に使用される容器は、通常液体調味料に用いられるものであればよく、特に限定はないが、アルミパウチ、PET容器、金属容器、紙容器、ガラス容器などを例示することができる。
【0030】
本発明の液状調味料が使用される食品は、特に制限されないが、主対象は食肉である。この食肉は牛、豚、鶏等の鳥獣蓄肉、一般に食される淡・海水魚、貝類、甲殻類の食用となる肉部をいう。特に、牛、豚、鶏等の畜肉が好ましい。
本発明の容器詰め液状調味料は、容器から出してそのまま食肉に用いることもでき、また、一定量の水と混合して食肉に用いることもできる。
【0031】
本発明の液状調味料を用いて食肉調味食品を製造する一つの方法は、液状調味料1重量部に対し0.1〜1.0重量部の水と混合して調味液とし、該調味液に食肉を浸漬させて5〜30分漬け込みした後、取り出した食肉を加熱調理し、加熱調理された食肉に主に前記調味液を添加する方法がある。
【0032】
食肉の漬け込み時間は、室温で5分以上、好ましくは10分以上であり、30分以下、好ましくは25分以下、より好ましくは20分以下である。従来の調味液を用いた場合は30分から24時間の漬け込みが好ましいとされていたが、本発明の調味料を用いた場合は10分程度の漬け込みで充分な効果が得られる。逆に60分以上漬込むと食感がハム様となり繊維感が失われ好ましくない。
【0033】
この方法では、調味液に漬け込んだ食肉に再度調味液を加えて肉と絡めており、調味液自体も食することになり、食味の調整がより重要となる。この点で3成分を本発明の範囲で配合することが重要になる。
【実施例】
【0034】
実験は次のように行った。
サンプルとして、表1に配合割合を示す調味料を作成した。
【0035】
サンプルの調製方法としては、所定の割合で各原料を配合し、ステンレス製ジョッキにて調合し、これを湯煎で加熱し、品温が85℃以上となった時点で火からおろし、90gずつアルミパウチに充填し、蒸気式レトルト殺菌した。
【0036】
【表1】
焼き塩には、味の素(株)製「瀬戸のほんじお焼き塩」(マグネシウム0.26重量%含有)を用いた。
尚、加工でん粉にはリン酸架橋デンプン(松谷化学工業(株)製)を、増粘剤にはキサンタンガム(丸善薬品工業(株)製)を、発酵調味料はキリン協和フーズ(株)製をそれぞれ用いた。
【0037】
アルギニン、焼き塩、乳酸カルシウムの配合割合を変えて作製した各サンプルを用いて豚肉の調理を行い、評価を行った。
【0038】
豚肉材料としては、厚さ1.5cmで2cm幅の豚ロース肉150〜160gを用いた。調味液には、サンプル47.5gに水25gを加えたものを用いた。
【0039】
調理方法は、材料を合わせて、豚肉が調味液に漬かるようにボールに入れて10分間漬け込んだ。次いで、フライパンに漬け込んだ後の肉だけを入れ、中〜弱火で両面を焼いた。肉に火が通ったら余りの調味液を加え、肉と絡め煮詰めて出来上がりとした。
【0040】
評価は次のように行った。
【0041】
所定調理方法にて調理したものを肉の食感(やわらかさ、繊維感、ジューシー感)と味覚について官能評価を行った。
【0042】
標準品は表1の配合のうち、アルギニン、焼き塩、乳酸カルシウム3成分の無添加品とし、標準品を基準として評価した。評価基準は表2の通りとし、評価は2名で行なった。
【0043】
【表2】
得られた結果を表3〜5に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
官能評価の結果より、アルギニンを0.75〜1.5重量%、焼き塩を1.0〜2.75重量%、乳酸カルシウムを1.5〜3.0重量%含有する範囲において、調理したものの食感がジューシーでソフトでありかつ食味に優れることが判った。
【0047】
また、アルギニンを0.75重量%、焼き塩を1.0重量%配合し、乳酸カルシウムを配合しないサンプルに関しても同様に評価を行なったが、総合評価は△であり、本発明の効果は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の液状調味液は、短時間の漬け込みで、柔かく且つジューシーな食感を有し、美味しい食味の食肉調理食品を簡便に得ることができるので、各種の食肉の調理に幅広く利用できる。