(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064601
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】超音波式吸入器用の薬液槽および薬液パック
(51)【国際特許分類】
A61M 11/00 20060101AFI20170116BHJP
【FI】
A61M11/00 300F
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-1455(P2013-1455)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-132942(P2014-132942A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117042
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 正志
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 博
(72)【発明者】
【氏名】田畑 信
(72)【発明者】
【氏名】田中 顕真
(72)【発明者】
【氏名】朽原 進
【審査官】
鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−530562(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0295328(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0196345(US,A1)
【文献】
特開平5−123400(JP,A)
【文献】
実開昭55−45335(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を囲む上縁と、下方向に凸に形成された底部を有する薬液貯留部と、
前記薬液貯留部の上縁から外側に延伸して形成されたフランジ部と、
前記フランジ部の外周または下面に連なり、前記薬液貯留部を囲むように構成され、該薬液貯留部の底部より下方にまで延伸する脚部と、
を有する超音波式吸入器用の薬液槽。
【請求項2】
前記脚部が前記薬液貯留部と空隙を介して隔てられている、
請求項1に記載の超音波式吸入器用の薬液槽。
【請求項3】
前記薬液槽が1枚のシートから一体成形されたものである、
請求項1または2に記載の薬液槽。
【請求項4】
前記フランジ部が、その上面に全周にわたって連続する平面部分を有する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬液槽。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された薬液槽と、
前記フランジ部において前記薬液槽と接合されて前記開口を水密に塞ぐ蓋部材と、
前記蓋部材によって密閉された前記薬液貯留部の内部に封入された薬液と、
を有する超音波吸入器用の薬液パック。
【請求項6】
前記封入された薬液が単回用量である、
請求項5に記載の薬液パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波式吸入器に装着して用いる薬液槽、およびその薬液槽に薬液を封入した薬液パックに関する。
【背景技術】
【0002】
喘息等の呼吸器系疾患や風邪の治療などに、患者が薬液を霧化して吸入するために吸入器(ネブライザー)が利用される。近年、家庭でも使いやすい小型のものとして、超音波式吸入器が広く利用されている。
【0003】
図8に超音波式吸入器の薬液霧化部の断面を模式的に示す。超音波式吸入器50は、振動子51による振動エネルギーを作用水槽52内の作用水53を介して薬液槽54に伝達することにより、薬液槽54内部の薬液55を霧化する。霧化した薬液は送風57によって患者吸入口へと送られる(58)。薬液槽54は、作用水槽52に装着された後、上部カバー56に押さえられて固定される。薬液槽54は、内部の薬液55に振動を効率良く伝達するために底部が薄く成形され、薬液残りを防ぐため振動子に近づくにつれ中心部が凹んだ形状(円錐状や角錐状や中心部のみが凹形状となる形状といった下に凸の形状)を有する。このため薬液槽54は破損、変形しやすく、適宜交換される。
【0004】
患者、介護者、看護士等のユーザーは、使用の度に薬液槽に薬液を注入して、これを吸入する。その際、ユーザーが薬液の種類や用量を誤る可能性があった。ユーザーは吸入終了後に残った薬液を捨て、薬液槽を洗浄する。しかし薬液槽を繰り返し使用することによって、薬液注入時や薬液槽保管時に汚染等の衛生上の問題を生じることがあった。
【0005】
特許文献1には使い捨て可能な単一ショット超音波噴霧器が記載されている。該噴霧器は、完全に密封された外殻(
図8の薬液槽54と上部カバー56を合わせたものに相当する)の内部に計量された投与量の液体が封入されており、超音波エネルギー給源機械にセットして用いられる。これにより、薬剤の計量の間違いや注入時の汚染を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−074090公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された噴霧器では、吸入の度にその外殻全体を使い捨てとするため、資源の無駄が大きいという問題がある。一方、上記
図8に示した従来の超音波吸入器において、その薬液槽部分だけを使い捨て可能とするには、輸送・保管時等に薬液槽が破損・変形しやすいことが問題となる。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたものであり、薬液槽に予め薬液が注入された状態で輸送・保管することができ、そのまま超音波式吸入器に装着して用いることができる使い捨て可能な薬液パックを提供することを目的とする。また、そのような薬液パックに使用可能な薬液槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の超音波式吸入器用の薬液槽は、薬液貯留部とフランジ部と脚部とを有する。薬液貯留部は、開口を囲む上縁と、下方向に凸に形成された底部を有する。フランジ部は、前記薬液貯留部の上縁から外側に延伸して形成される。脚部は、前記フランジ部の外周または下面に連なり、前記薬液貯留部を囲むように構成され、該薬液貯留部の底部より下方にまで延伸する。
【0010】
ここで上または下とは、薬液貯留部の中にある薬液がこぼれない向きに薬液槽を保持したときの上または下をいう。下方向に凸とは、中心部が凹んだ形状であって、円錐状、角錐状、半球状、中心部のみが凹形状となるような形状を含む。このような構成により、破損・変形しやすい薬液貯留部の底部が脚部によって保護されるので、輸送・保管時等の破損・変形の可能性を低減することができる。
【0011】
好ましくは、前記脚部が前記薬液貯留部と空隙を介して隔てられている。これにより薬液槽を、薬液貯留部、フランジ部、脚部
が作る断面コの字状の部分で、吸入器本体と確実に嵌合させることができる。
【0012】
好ましくは、前記薬液槽が1枚のシートから一体成形されたものである。これにより、薬液槽全体をより破損・変形しにくいものとすることができる。
【0013】
好ましくは、前記フランジ部が、その上面に全周にわたって連続する平面部分を有する。これにより、薬液を封入して薬液パックを製造する場合に、蓋部材を該平面部分に容易に接合することができ、より確実に水密性を得ることができる。
【0014】
本発明の超音波式吸入器用の薬液パックは、上記いずれかの薬液槽と蓋部材と薬液とを有する。蓋部材は、前記フランジ部において前記薬液槽と接合されて前記開口を水密に塞ぐ。薬液は、前記蓋部材によって密閉された前記薬液貯留部の内部に封入されている。
【0015】
このような構成により、薬液パックをそのまま超音波式吸入器に装着して用いることができるので、ユーザーが薬液の種類や用量を誤ることを防止することができ、薬液槽への薬液注入作業に伴う汚染の可能性を低減することができる。また、上記いずれかの薬液槽を用いることにより、破損・変形しやすい薬液貯留部の底部が脚部によって保護されているので、薬液パックの輸送・保管時等の破損・変形の可能性を低減することができる。
【0016】
好ましくは、前記封入された薬液が単回用量である。単回用量とは患者が1回の吸入で用いるべき量である。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおり、本発明の薬液槽によれば、輸送・保管時等の破損・変形の可能性を低減することができる。また、本発明の薬液パックによれば、薬液槽に予め薬液が注入された状態で輸送・保管しても薬液槽が破損・変形する可能性を低減することができ、そのまま超音波式吸入器に装着して用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の薬液パックの断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の薬液パックの外観斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態の薬液槽を作用水槽に装着した図である。
【
図4】本発明の一実施形態の薬液槽を作用水槽に装着した図である。
【
図5】本発明の一実施形態の薬液槽の断面斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態の薬液槽の断面斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態の薬液槽の断面斜視図である。
【
図8】従来技術である超音波式吸入器の霧化部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の薬液パックの一実施形態を図に基づいて説明する。
図2に本実施形態の薬液パックの外観を示す。
図1に本実施形態の薬液パックの断面を示す。
図1において、薬液パック10は、薬液槽20と蓋部材30と薬液40とを有する。薬液槽20は、
1枚のシートから一体成形され、開口を囲む上縁22と下方向に凸に形成された底部24を含む薬液貯留部21と、フランジ部25と、脚部26とを有する。蓋部材30がフランジ部25の上面に接合されて、薬液貯留部21の開口を密閉している。蓋部材30によって密閉された薬液貯留部21の内部には薬液40が封入されている。
【0020】
本実施形態の薬液槽20において、薬液貯留部21は、開口を囲む上縁22と、その下に連なる円筒状の胴部23と、その下に連なり下方向に凸に形成された円錐状の底部24からなる。底部24は、薬液残りを防ぐために、振動子に近づくにつれて中心部が凹んだ形状、すなわち下方向に凸に形成されている。薬液槽の厚さは材質および形状・振動の強度に応じて設計されるが、底部24は、外部からの振動を内部の薬液40に効率良く伝達するために、その他の部分よりも相対的に薄く成形されている。
【0021】
薬液貯留部の形状はこれには限られない。例えば、他の実施形態においては、水平断面が円形でなくてもよい。また、明確に他と区別できる筒状の胴部がなく、
図8のように、上縁の下から径が漸減して底部と連なっていてもよい。また、底部が円錐状ではなく、角錐状、半球状などの形状であってもよい。
【0022】
本実施形態のフランジ部25は、薬液貯留部の上縁22から外側に延伸して形成されている。このようにフランジ部25が薬液槽20の最上部に位置することによって、蓋部材30を接合して薬液貯留部21を密閉することが容易になる。また、フランジ部25の上面には、全周にわたって連続する平面部分が形成されていることが好ましい。これによって、蓋部材30の接合がより容易になる。
【0023】
本実施形態の脚部26は、フランジ部25の下面外周端に連なり、薬液貯留部21と空隙を介して隔てられている。これによって、フランジ部25上面に蓋部材30を接合するのを邪魔することなく、薬液貯留部21−フランジ部25−脚部26
が作る断面コの字状の部分で、吸入器本体と確実に嵌合することができる。
【0024】
図3に、本実施形態の薬液槽を作用水槽に装着したときの断面を示す。作用水槽52の下部には振動子51があり、内部には作用水53が注入されている。薬液槽20は、薬液貯留部21−フランジ部25−脚部26
が作る断面コの字状の部分で、作用水槽52の上縁に嵌合している。薬液槽20を嵌合させる超音波式吸入器本体側の部位は作用水槽上縁に限られないが、上記断面コの字状の部分を何らかの部位に嵌合させることによって、薬液槽を吸入器本体に簡便で確実に装着することができる。
【0025】
なお、脚部と薬液貯留部の間に空隙がない場合でも薬液槽を作用水槽上縁等に嵌合させることはできる。例えば、
図4では、脚部26とフランジ部外周の折り返し部分27との空隙が作用水槽52の上縁に嵌合し、脚部26が作用水槽52内に入っている。
図3と
図4を比較すると、
図3の方がより確実に嵌合されているので好ましい。
【0026】
また、
図1において、本実施形態の脚部26は、薬液貯留部21を囲むように構成され、薬液貯留部の底部24より下方にまで延伸している。したがって、例えば、台上に薬液パックを置いたときにも、薬液貯留部底部24が直接台と接触することがない。脚部26が薬液貯留部21を囲むように構成されていることと相まって、薬液貯留部21への外部からの接触を減らし、薬液貯留部底部24の尖った形状が破損・変形することを防ぐことができる。
【0027】
脚部26の形状はこれには限られない。例えば、薬液貯留部21を完全に覆い隠すように構成されていなくても、円周方向に適切に分散配置された3本以上の脚が薬液貯留部21を囲むように構成されていてもよい。
【0028】
さらに、強度を補強するために、脚部26にリブを設けてもよいし、フランジ部25と脚部26の連接部分に窪みを設けてもよい。
図5に脚部26にリブ28を設けた例、
図6フランジ部25と脚部26の連接部分に窪み29を設けた例、
図7にリブ28および窪み29の両方を設けた例を示す。
【0029】
薬液槽20の材質は、薬液への耐性を有するものであれば特に限定されず、例えばポリプロピレン等の樹脂等を用いることができる。
【0030】
本実施形態の蓋部材30は、薬液槽フランジ部25の上面に接合され、内部の薬液が漏れ出さないように、薬液貯留部の上部開口を水密に塞いでいる。蓋部材30は、薬品への耐性とフィルムへの成形性が確保できる種々の材質から成形することができ、例えば、各種樹脂フィルム、アルミ等各種金属の箔、これらの積層材等を用いることができる。接合方法は、衛生面と生態安全性を確保できればよく、特に限定されない。ただし、接合の強度は、ユーザーが使用時に蓋部材30を引き剥がして開封できる程度である必要がある。
【0031】
本実施形態の薬液40は、患者の病状、年齢等個別情報に基づいて、適切な種類の薬液が適切な量が封入されている。薬液の例としては、喘息やその他の疾病の治療や予防に用いられる吸入薬が挙げられる。また、風邪の予防や風邪のケアに対しては生理食塩水などでもよい。薬液の量は、1回の装着で使い切ることができる量であることが好ましい。ここで、1回の装着で使い切るとは、必ずしも1回の吸入で使い切ることまでは要しない。例えば、風邪の予防や風邪にかかったときのケアのために、加湿目的で生理食塩水を個人専用の吸入器で噴霧・吸引するような場合には、1個の薬液パック内の薬液を複数回に分けて吸入してもよい。薬液の量は、単回用量であることがさらに好ましい。その場合は、薬液を1回の吸入で使い切ることができ、衛生上の問題が生じる可能性をより低くすることができる。また、薬液の用量は患者の病状、年齢等によっても異なるので、封入する薬液の量を患者に合わせて変更してもよい。例えば、各患者の治療に必要な薬液を、その患者の病状・年齢等に応じた単回用量だけ封入してもよい。
【0032】
本薬液パック10の製造方法は、薬液槽20に薬液40を注入し、蓋部材30を被せて薬液槽フランジ部25と熱融着等で接合することで製造することができる。
【0033】
次に本実施形態の薬液パックの使用方法を説明する。本実施形態の薬液パックは工場で製造され、適宜包装されて、流通に置かれる。流通段階で輸送・保管される際に、その構成により薬液貯留部底部24の尖った形状の破損・変形が防止されることは既に述べた
【0034】
ユーザーは、以下のとおりに本実施形態の薬液パックを使用することができる。ユーザーは、例えば薬液パックの包装を解き、超音波式吸入器の作用水槽に水道水等を作用水として注入し、本実施形態の薬液パックを装着する。次に蓋部材を指で引き剥がしてパックを開封し、上部カバーを取り付けて、吸入器を組み立てる。そして、吸入を行う。吸入終了後は、上部カバーを開け、薬液槽と残留した薬液を廃棄し、作用水を捨てる。
【符号の説明】
【0035】
10 薬液パック
20 薬液槽
21 薬液貯留部
22 薬液貯留部上縁
23 薬液貯留部胴部
24 薬液貯留部底部
25 フランジ部
26 脚部
27 フランジ部外周の折り返し部分
28 リブ
29 窪み
30 蓋部材
40 薬液
50 超音波式吸入器
51 振動子
52 作用水槽
53 作用水
54 薬液槽
55 薬液
56 上部カバー
57 送風
58 患者吸入口へ