(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)等の車両用、大型蓄電システム用などの大容量のリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池の開発が進められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素系材料やケイ素系材料などを用い、正極活物質としてLiCoO
2、LiNiO
2 、LiMn
2 O
4 などのリチウム遷移金属酸化物などを用い、有機溶媒に溶質としてリチウム塩を溶解した電解質を用いる電池である。
【0004】
リチウムイオン二次電池が過充電状態になると、正極からリチウムが過剰に抽出され、負極ではリチウムの過剰な挿入が生じて、正・負極の両極が熱的に不安定化する。正・負極の両極が熱的に不安定になると、やがては電解質に含まれる有機溶媒を分解するように作用し、急激な発熱反応が生じて電池が異常に発熱し、電池の信頼性が損なわれるという問題を生じる。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば電解質に過充電抑制剤として、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、及びジフェニルエーテルのうち少なくとも一種を添加することにより、過充電時の温度上昇の防止を図ったリチウムイオン二次電池が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、電解質の有機溶媒にフェニル基に隣接する第3級炭素を有するアルキルベンゼン誘導体またはシクロアルキルベンゼン誘導体を含有させることにより、低温特性や保存特性などの電池特性に悪影響を及ぼすことがなく、且つ過充電に対して安全性を確保したリチウムイオン二次電池が提案されている。(特許文献2参照)。
【0007】
このリチウムイオン二次電池では、リチウムイオン二次電池が過充電状態になると、クメン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、1−メチルプロピルベンゼン、1,3−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼンなどの添加剤は分解反応を開始してガスを発生するようになる。これと同時に重合反応を開始して重合熱を発生する。この状態で過充電をさらに続けると、ガスの発生量が増大し、過充電を開始してから15〜19分後に電流遮断封口板が作動して過充電電流を遮断する。これにより、電池温度も徐々に低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1及び2に記載の技術により一定の効果が得られる。しかしながら、車両
などに用いられる大容量の非水電解質二次電池においては、信頼性の更なる向上が求められる。
【0010】
本発明では、電池が過充電状態となった場合、短時間で電池内圧を上昇させて電流遮断機構を作動させることのできる、高い信頼性を有する非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の非水電解質二次電池は、
正極芯体表面に正極活物質を含有する正極活物質層が形成された正極板、及び負極板を備える電極体と、
非水電解質と、
前記電極体及び前記非水電解質を収納する外装体と、を備え、
前記正極板と正極外部端子の間の導電経路、及び前記負極板と負極外部端子の間の導電経路の少なくとも一方に、前記外装体内の圧力の上昇に伴い導電経路を遮断する電流遮断機構が設けられ、
前記非水電解質は、過充電抑制剤を含有し、
前記正極活物質層の比表面積は、1.3m
2/g以下であり、
前記非水電解質中の前記過充電抑制剤の総質量に対する前記正極活物質層の総表面積は、41m
2/g以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明者らは、種々検討を行ったところ、正極活物質層の比表面積、及び非水電解質中の過充電抑制剤の総質量に対する正極活物質層の総表面積の比を特定の範囲に制御することにより、電池が過充電状態となった場合に、短時間で電池内圧を上昇させ電流遮断機構を作動させることが可能であることを見出した。なお、正極活物質層の比表面積は、1.2〜1.3m
2/gであることがより好ましい。また、非水電解質中の過充電抑制剤の総質量に対する正極活物質層の総表面積は、39〜41m
2/gであることが好ましい。
【0013】
過充電抑制剤としては、シクロヘキシル基及びフェニル基の少なくとも一方を有する化合物を用いることが好ましい。例えば、クメン、1,3−ジイソプロピルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、1−メチルプロピルベンゼン、1,3−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(1−メチルプロピル)ベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-ジブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、t-ジアミルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどを用いることができる。特に、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニルを用いることが好ましい。
【0014】
正極外部端子及び負極外部端子は、外装体よりも電池外部側に突出し、それぞれ、外装体を構成する封口板に絶縁部材を介して固定されていることが好ましい。ただし、正極板又は負極板を外装体に電気的に接続し、外装体を正極外部端子又は負極外部端子とすることもできる。また、電流遮断機構の構成は特に限定されず、外装体内の圧力上昇に伴い電極体から電池外部への導電経路を遮断できるものであればよい。電流遮断機構の作動圧は特に限定されないが、0.4MPa〜1.0MPa程度の圧力で作動するように設定することが好ましい。
【0015】
正極活物質層中の空隙の割合を示す空隙率は、30〜40体積%であることが好ましい。正極活物質層には、正極活物質、導電剤、及び結着剤が含まれることが好ましい。また、正極活物質層中の正極活物質の割合は、90質量%以上であることが好ましい。また、正極活物質層中の正極活物質及び導電剤の割合は、95質量%以上であることが好ましい。正極活物質層の充填密度は、2.0〜2.9g/cm
3とすることが好ましく、2.2〜2.8g/cm
3とすることがより好ましく、2.4〜2.8g/cm
3とすることが
さらに好ましい。正極芯体としては、金属箔を用いることが好ましく、特に金属箔がアルミニウム製あるいはアルミニウム合金製であることが好ましい。
【0016】
正極活物質の平均粒子径は8〜16μmであることが好ましく、10〜15μmであることがより好ましい。
【0017】
正極活物質の比表面積は0.4m
2/g以下であることが好ましく、0.25〜0.4m
2/gであることがより好ましい。また、非水電解質中の前記過充電抑制剤の総質量に対する正極活物質の総表面積は10m
2/g以下であることが好ましく、8〜10m
2/gであることがさらに好ましい。
【0018】
本発明では、正極活物質はリチウム遷移金属酸化物であり、負極板が含有する負極活物質は、炭素材料であることが好ましい。これにより、本発明の効果がより顕著に現れる。
【0019】
本発明では、正極板及び負極板の少なくとも一方の表面には、無機酸化物と絶縁性結着材を含有する保護層が設けられており、前記無機酸化物がアルミナ、チタ二ア、及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これにより、より信頼性の高い非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池の例を示すものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0022】
まず、実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池としての角形リチウムイオン二次電池10の構成について、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1に示すように、角形リチウムイオン二次電池10は、角形の有底筒状の外装缶1内に、正極板と負極板とがセパレータを介して積層し巻回されて偏平形に成形された電極体2が外装缶1の缶軸方向に対し横向きに収納されており、封口板3により外装缶1の開口が封口されている。また、封口板3には、ガス排出弁4、電解液注液孔(図示省略)及び電解液注液孔を封止する封止材5が設けられている。ガス排出弁4は、電流遮断機構の作動圧よりも高いガス圧が加わったときに破断し、ガスが電池外部へ排出される。
【0023】
また、封口板3の外面には正極外部端子6と負極外部端子7とが配置されている。この正極外部端子6及び負極外部端子7は、リチウムイオン二次電池を単独で使用するか、直列接続ないし並列接続で使用するか等に応じて、その形状を適宜変更できる。また、正極外部端子6及び負極外部端子7に端子板やボルト形状の外部接続端子等(図示省略)などを取り付けて使用することもできる。
【0024】
次に、角形リチウムイオン二次電池10に設けられた電流遮断機構の構成を
図2及び
図3を用いて説明する。
図2及び
図3は、それぞれ正極側導電経路の分解斜視図、及び正極側導電経路の断面図である。電極体2の一方端面から突出した正極芯体露出部8の両外面に集電体9が接続されている。正極外部端子6は、筒部6aを備え、内部に貫通孔6bが
形成されている。そして、正極外部端子6の筒部6aは、ガスケット12、封口板3、絶縁部材13及びカップ状の導電部材14にそれぞれ設けられた貫通孔に挿入され、正極外部端子6の先端部6cが加締められて一体に固定されている。
【0025】
また、導電部材14の筒状部の下端の周縁部には反転板15の周囲が溶接されており、この反転板15の中央部には、集電体9のタブ部9aに形成された薄肉部9bがレーザ溶接により溶接され溶接部19が形成されている。また、集電体9のタブ部9aに形成された薄肉部9bには、溶接部19の周囲に環状の溝9cが形成されている。集電体9のタブ部9aと反転板15の間には、貫通孔を有する樹脂製の絶縁部材16が配置されており、絶縁部材16の貫通孔を介して集電体9のタブ部9aと反転板15が接続されている。以上の構成により、正極芯体露出部8は、集電体9、集電体9のタブ部9a、反転板15及び導電部材14を介して正極外部端子6と電気的に接続されている。
【0026】
ここでは、反転板15、集電体9のタブ部9a、及び絶縁部材16が電流遮断機構を形成する。すなわち、反転板15は、外装缶1内の圧力が増加すると正極外部端子6の貫通孔6b側に変形するようになっており、反転板15の中央部には集電体9のタブ部9aの薄肉部9bが溶接されているため、外装缶1内の圧力が所定値を超えると集電体9のタブ部9aの薄肉部9bが環状の溝9cの部分で破断するため、反転板15と集電体9との間の電気的接続が遮断されるようになっている。なお、電流遮断機構としては、上述の構成のもの以外に、反転板15に溶接され、この溶接部の周囲を集電体に溶接した金属箔からなるものを使用し、外装缶1内部の圧力が高まって反転板15が変形したときに金属箔が破断する構成のものも採用することができる。また、集電体9のタブ部9aと反転板15との接続強度を調整し、外装缶1内の圧力が所定値を超えると、集電体9のタブ部9aと反転板15との接続部が破断するようにしてもよい。
【0027】
また、正極外部端子6に形成された貫通孔6bは、ゴム製の端子栓17により封止されている。更に、端子栓17の上部には、金属製の板材18が配置されている。
【0028】
なお、ここでは正極側の導電経路に電流遮断機構を設ける形態を説明したが、負極側の導電経路に電流遮断機構を設けるようにしてもよい。
【0029】
角形リチウムイオン二次電池10を完成させるには、正極外部端子6及び負極外部端子7にそれぞれ電気的に接続された電極体2を外装缶1内に挿入し、封口板3を外装缶1の開口に嵌合させて、この嵌合部分をレーザ溶接して封口する。そして、電解液注液孔(図示省略)から所定量の電解液を注入した後、電解液注液孔を封止材5によって封止すればよい。
【0030】
また、角形リチウムイオン二次電池10では、電流遮断機構が作動した後、更に外装缶1内の圧力が増加すると、封口板3に設けられたガス排出弁4が開放されることにより、ガスが電池外部へと排出される。
【0031】
次に、角形リチウムイオン二次電池10の製造方法について、更に詳細に説明する。
【0032】
[正極板の作製]
Li
2CO
3と(Ni
0.35Co
0.35Mn
0.3)
3O
4とを、Liと(Ni
0.35Co
0.35Mn
0.3)とのモル比が1:1となるように混合した。次いで、この混合物を空気雰囲気中にて900℃で20時間焼成し、LiNi
0.35Co
0.35Mn
0.3O
2で表されるリチウム遷移金属酸化物を得て、正極活物質とした。以上のようにして得られた正極活物質、導電剤として薄片化黒鉛及びカーボンブラック、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)のN−メチルピロリドン(NMP)溶液とを、正
極活物質:薄片化黒鉛及びカーボンブラック:PVdFの質量比が91:6:3となるように混練し、正極スラリーを作製した。作製した正極スラリーを正極芯体としてアルミニウム合金箔(厚さ15μm)の両面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用したNMPを除去し正極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ロールを用いて正極活物質層が所定の充填密度(2.55g/cm
3)になるまで圧延し、正極板の幅方向の一方の端部に長手方向に沿って両面に正極活物質層が形成されない正極芯体露出部が形成されるように正極板を所定寸法に切断して正極板を作製した。
【0033】
[負極板の作製]
負極活物質としての天然黒鉛と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、結着剤としてのスチレン−ブタジエン−ゴム(SBR)を水と共に混練して負極
スラリーを作製した。ここで、負極活物質:CMC:SBRの質量比は98:1:1となるように混合した。ついで、作製した負極スラリーを負極芯体としての銅箔(厚さが10μm)の両面に塗布した後、乾燥させてスラリー作製時に溶媒として使用した水を除去し負極活物質合剤層を形成した。その後、圧延ローラーを用いて負極活物質層が所定の充填密度(1.11g/cm
3)になるまで圧延した。
【0034】
次に、負極活物質層表面に保護層を形成する。アルミナ粉末と、結着剤(アクリル系樹脂)と、溶剤としてNMPを重量比で30:0.9:69.1となるように混合し、ビーズミルにて混合分散処理を施し、保護層スラリーを作製した。このように作製した保護層スラリーを上述の方法で作製した負極板の負極合剤層上に塗布した後、溶剤として使用したNMPを乾燥除去して、負極表面にアルミナと結着剤からなる保護層を形成した。なお、上記アルミナと結着剤からなる保護層の厚みは3μmとした。その後、負極板の幅方向の一方の端部に長手方向に沿って両面に負極活物質層が形成されない負極芯体露出部が形成されるように負極板を所定寸法に切断して、負極板を作製した。
【0035】
[偏平形の電極体の作製]
上述のようにして作製した正極板及び負極板を用い、正極板及び負極板を、巻回軸方向の一方の端部に正極芯体露出部、他方の端部に負極芯体露出部がそれぞれ位置するように、ポリエチレン製の多孔質セパレータを介して巻回して円筒形の電極体を作製した。その後、円筒形の電極体を押し潰し、偏平形の電極体とした。
【0036】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)40体積%、及びジエチルカーボネート(DEC)60体積%よりなる混合溶媒に、電解質塩としてLiPF
6を1mol/Lとなるように添加して混合し、さらにシクロヘキシルベンゼンを混合溶媒に対して4.5質量%添加混合して電解液を調製した。
【0037】
[導電経路の作製]
電流遮断機構を備えた正極側の導電経路の作製手順について説明する。まず、アルミニウム製の封口板3の上面に樹脂製のガスケット12を配置し、封口板3の下面に樹脂製の絶縁部材13及びアルミニウム製の導電部材14を配置し、それぞれの部材に設けられ
た貫通孔にアルミニウム製の正極外部端子6の筒部6aを挿通させた。その後、正極外部端子6の先端部6cを加締めることにより、正極外部端子6、ガスケット12、封口板3、絶縁部材13、及び導電部材14を一体的に固定した。その後、正極外部端子6の先端部6cと導電部材14の接続部をレーザ溶接により溶接した。
【0038】
次いで、カップ状の導電部材14の筒状部の下端の周縁部に反転板15の周囲を完全に密閉するように溶接した。なお、ここでは、反転板15としては薄いアルミニウム製の板を下部が突出するように成型処理したものを用いた。導電部材14と反転板15との間の
溶接法としては、レーザ溶接法を用いた。
【0039】
反転板15に樹脂製の絶縁部材16を当接し、絶縁部材16と絶縁部材13とをラッチ固定した。次いで、アルミニウム製の集電体9のタブ部9aに設けた貫通孔9dに絶縁部材16の下面に設けた突出部(図示省略)を挿入した後、この突出部を加熱しながら拡径することにより、絶縁部材16と集電体9を固定した。そして、集電体9の溝9cで囲まれた領域と反転板15とをレーザ溶接法によって溶接した。その後、正極外部端子6の頂部より貫通孔6b内に所定圧力のN
2ガスを導入し、導電部材14と反転板15との間の溶接部の密封状態を検査した。
【0040】
その後、正極外部端子6の貫通孔6b内に端子栓17を挿入し、アルミニウム製の板材18をレーザ溶接によって正極外部端子6に溶接固定した。
【0041】
負極側の導電経路については、封口板3の上面に樹脂製のガスケットを配置し、封口板3の下面に樹脂製の絶縁部材及び負極集電体を配置し、それぞれの部材に形成された貫通孔に負極外部端子7の筒部を挿通させた。その後、負極外部端子7の先端部を加締めることにより、負極外部端子7、ガスケット、封口板3、絶縁部材、及び負極集電体を一体に固定した。その後、負極外部端子7の先端部と負極集電体の接続部をレーザ溶接により溶接した。
【0042】
[角形リチウムイオン二次電池の作製]
上記の方法で封口板3に固定された正極集電体9を電極体2の正極芯体露出部8の両外面に当接して抵抗溶接を行うことにより、正極集電体9と複数枚積層された正極芯体露出部8を溶接接続した。また、上記の方法で封口板3に固定された負極集電体を電極体2の負極芯体露出部の両外面に当接して抵抗溶接を行うことにより、負極集電体と複数枚積層された負極芯体露出部を溶接接続した。なお、正極集電体9及び負極集電体は、それぞれ1枚の板材を折り曲げ加工したものを用いることが好ましい。
【0043】
その後、電極体2の外周を絶縁シート(図示省略)で被覆してから、電極体2を絶縁シートと共にアルミニウム製の角形の外装缶1内に挿入し、封口板3を外装缶1の開口部に嵌合させた。そして、封口板3と外装缶1との嵌合部をレーザ溶接した。
【0044】
次に、正極活物質層の比表面積、正極活物質層の総表面積、正極活物質の比表面積、及び正極活物質の総表面積の求め方について説明する。
【0045】
[正極活物質層の比表面積]
正極活物質層の比表面積は次のようにして求めた。
まず、上述の方法で作製した正極板を切断し、正極芯体の両面に正極活物質層が形成された縦5cm×横2cmの表面積測定用正極を3枚作製した。
次に、3枚の表面積測定用正極の合計の表面積A(m
2)をMountech社製比表面積測定装置(Macsorb HM model−1200 series)を用いて流動法により測定した。また、3枚の表面積測定用正極の合計の質量C(g)を測定した。
次に、縦5cm×横2cmの表面積測定用正極芯体を3枚作製し、表面積測定用正極と同様の方法で3枚の表面積測定用正極芯体の合計の表面積B(m
2)を測定した。また、3枚の表面積測定用正極芯体の質量D(g)を測定した。ここで、表面積測定用正極芯体の表面積は値が小さすぎるため上述の方法では測定できなかった。したがって、表面積測定用正極芯体の表面に凹凸がないと仮定し、表面積測定用正極芯体の表面積は、0.006m
2とした(縦5cm×横2cm×2(裏表)×3(枚数))。なお、実際の表面積測定用正極芯体の表面には凹凸が存在する。
このようにして求められた数値を用い、以下の式により正極活物質層の比表面積(m
2/
g)を算出した。
正極活物質層の比表面積(m
2/g)=(表面積測定用正極の表面積A(m
2)−表面積測定用正極芯体の表面積B(m
2))/(表面積測定用正極の質量C(g)−表面積測定用正極芯体の質量D(g))
【0046】
[正極活物質層の総表面積]
上述の方法により求めた正極活物質層の比表面積に基づき、1つの角形リチウムイオン二次電池に用いられる正極板に含まれる正極活物質層の総表面積を算出した。
【0047】
[正極活物質の比表面積]
正極活物質の比表面積は、Mountech社製比表面積測定装置(Macsorb HM model−1200 series)を用いて流動法により測定した。
【0048】
[正極活物質の総表面積]
上述の方法により求めた正極活物質の比表面積に基づき、1つの角形リチウムイオン二次電池に用いられる正極板に含まれる正極活物質の総表面積を算出した。
【0049】
[実施例1]
上述の方法で調製した非水電解液を、非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の総表面積が39.
7m
2/gであり、非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質の総表面積が8.2m
2/gとなるように注液した。その後注液孔をブラインドリベットにより封止した。なお、実施例1における正極板の正極活物質層の比表面積は1.2
56m
2/gであり、正極活物質層の空隙率は37体積%であり、正極活物質層に含有される正極活物質の比表面積は0.286m
2/gであり、正極活物質の平均粒子径は14.4μmであった。また、正極活物質層の総表面積は、231.0m
2であり、正極活物質の総表面積は、53.6m
2であった。電流遮断機構の作動圧は、0.70MPaに設定した。
【0050】
[実施例2]
平均粒子径が12.5μmで比表面積が0.336m
2/gの正極活物質を用い、正極
活物質層の比表面積が1.2
89m
2/g、正極活物質層の空隙率が37体積%としたこ
と、正極活物質層の総表面積が237.1m
2であり正極活物質の総表面積が63.0m
2であること、及び非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の総表面積が40.
7m
2/gであり、非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質の総表面積が9.6m
2/gとなるように注液したことを除いては実施例1と同様の方法で実施例2の角形リチウムイオン二次電池を作製した。
【0051】
[実施例3]
平均粒子径が11.0μmで比表面積が0.340m
2/gの正極活物質を用い、正極
活物質層の比表面積が1.28
3m
2/g、正極活物質層の空隙率が37体積%としたこ
と、正極活物質層の総表面積が235.9m
2であり正極活物質の総表面積が63.8m
2であること、及び非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の表面積が40.
5m
2/gであり、非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質の総表面積が9.8m
2/gとなるように注液したことを除いては実施例1と同様の方法で実施例3の角形リチウムイオン二次電池を作製した。
【0052】
[比較例1]
平均粒子径が7.0μmで比表面積が0.423m
2/gの正極活物質を用い、正極活
物質層の比表面積が1.3
84m
2/gとしたこと、正極活物質層の総表面積が254.
4m
2であり正極活物質の総表面積が79.4m
2であること、及び非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の総表面積が43.
7m
2/gであり、非水電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質の総表面積が12.2m
2/gとなるように注液したことを除いては実施例1と同様の方法で比較例1の角形リチウムイオン二次電池を作製した。
【0053】
[過充電試験]
実施例1〜3、比較例1の角形リチウムイオン二次電池について、−30℃の環境下で、20Aの電流で電流遮断機構が作動するまで充電を行い、電流遮断機構が作動した充電深度(SOC)を求めた。また、ロードセルによりSOC160%時の電池内圧を測定した。ただし、実施例1の角形リチウムイオン二次電池についてはSOC160%となる前に電流遮断機構が作動したため、SOC160%時の電池内圧は電流遮断機構が作動したときの内圧以上の値とした。
【0054】
実施例1〜3、比較例1の角形リチウムイオン二次電池について、SOC160%時の電池内圧(MPa)、及び過充電試験における電流遮断機構時のSOC(%)を、正極活物質の比表面積、正極活物質層の比表面積、電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質の総表面積(正極活物質の総表面積/CHB総質量(m
2/g))、電解液中のシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の総表面積(正極活物質層の総表面積/CHB総質量(m
2/g))と共に表1に示す。
【0056】
表1に示す結果から、正極活物質層の比表面積が1.3m
2/gより大きく、過充電抑制剤としてのシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の総表面積が41m
2/gより大きい比較例1では、電池が過充電状態となった場合、過充電抑制剤の分解が遅く、電池内圧の上昇が遅いため、電流遮断機構の作動が遅くなっている。
これに対して、正極活物質層の比表面積が1.3m
2/g以下であり、過充電抑制剤としてのシクロヘキシルベンゼンの総質量に対する正極活物質層の総表面積が41m
2/g以下である実施例1〜3では、電池が過充電状態になった場合、短時間で過充電抑制剤が分解し、電池内圧が上昇し電流遮断機構が短時間で作動した。これらのことから、単に過充電抑制剤の質量当たりの正極活物質層の表面積、及び過充電抑制剤の質量当たりの正極活物質の表面積を大きくすればよいのではなく、特定の範囲に制御することにより、電流遮断機構の作動時間を短縮できることがわかる。この理由は次のように推測される。実施例1〜3では、正極活物質層中において、正極活物質近傍に十分な空隙が存在し、その空隙に十分な量の過充電抑制剤が存在することに加え、正極活物質層中の空隙の状態が過充電
抑制剤が効率的に分解される状態になっているため、電池が過充電状態となった場合に短時間で電流遮断機構を作動させることができると考えられる。
【0057】
なお、本発明においては、正極活物質の比表面積が0.4m
2/g以下であることが好ましい。また、過充電抑制剤の総質量に対する正極活物質の総表面積が10m
2/g以下であることが好ましい。
【0058】
以上のことより本発明によると、信頼性の高い非水電解質二次電池が得られる。なお、本発明は、電池容量が20Ah以上の大容量の非水電解質二次電池に適用した場合、顕著な効果が得られる。
【0059】
〔その他〕
本発明の非水電解質二次電池では、正極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能なリチウム遷移金属酸化物が使用可能である。リチウムイオンの吸蔵・放出可能なリチウム遷移金属酸化物としては、コバルト酸リチウム(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2)、リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi
1−xMn
xO
2(0<x<1))、リチウムニッケルコバルト酸化物LiNi
1−xCo
xO
2(0<x<1)、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiNi
xMn
yCo
zO
2(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)等のリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。また、上記のリチウム遷移金属酸化物にAl、Ti、Zr、Nb、B、Mg、またはMoなどを添加したものが使用できる。例えば、Li
1+aNi
xCo
yMn
zM
bO
2(M=Al、Ti、Zr、Nb、B、Mg、Moから選択される少なくとも一種の元素、0≦a≦0.2、0.2≦x≦0.5、0.2≦y≦0.5、0.2≦z≦0.4、0≦b≦0.02、a+b+x+y+z=1)で表されるリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0060】
本発明の非水電解質二次電池では、負極活物質としてリチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料やケイ素材料を用いることができる。リチウムイオンの吸蔵・放出可能な炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、繊維状炭素、コークス、およびカーボンブラックなどが挙げられる。特に黒鉛を用いることが好ましい。なお、負極活物質として炭素材料を用いる場合、負極活物質層の充填密度は、0.9〜1.5g/cm
3とすることが好ましい。
【0061】
本発明の非水電解質二次電池では、非水電解質を構成する非水溶媒(有機溶媒)としては、非水電解質二次電池において一般的に使用されているカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、エステル類などを使用することができ、これら溶媒の2種類以上を混合して用いることもできる。これらの中ではカーボネート類、ラクトン類、エーテル類、ケトン類、エステル類などが好ましく、カーボネート類がさらに好適に用いられる。
【0062】
例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、ビニレンカーボネート(VC)などの不飽和環状炭酸エステルを非水電解質に添加することもできる。
【0063】
本発明における非水電解質の溶質としては、非水電解質二次電池において一般に溶質として用いられるリチウム塩を用いることができる。このようなリチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3、LiAsF
6、LiClO
4、Li
2B
10Cl
10、L
i
2B
12Cl
12、LiB(C
2O
4)
2、LiB(C
2O
4)F
2、LiP(C
2O
4)
3、LiP(C
2O
4)
2F
2、LiP(C
2O
4)F
4など及びそれらの混合物が例示される。これらの中でも、LiPF
6(ヘキサフルオロリン酸リチウム)が好ましく用いられる。前記非水溶媒に対する溶質の溶解量は、0.5〜2.0mol/Lとするのが好ましい。
【0064】
本発明の非水電解質二次電池では、セパレータとしてポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などのポリオレフィン製の多孔質セパレータを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の3層構造(PP/PE/PP、あるいはPE/PP/PE)を有するセパレータを用いることもできる。