【実施例1】
【0021】
図1は図示しないファンが接続されたファンモータ4を制御回路1の指示により駆動するファンモータ駆動装置の実施例を示すブロック図である。
このファンモータ駆動装置は、図示しない他の装置が指示する指令回転速度値が入力され、これに対応する指令電圧を出力する制御回路1と、指令電圧が入力され、この信号と対応する相電圧を生成する駆動信号を出力すると共に、ファンモータ4から出力される回転位置信号を入力し、回転パルス信号に変換して制御回路1へ出力する駆動回路2と、入力された駆動信号に従って図示しない直流電源を三相の相電圧に変換してファンモータ4へ出力するインテリジェントパワーモジュールからなるドライブ回路3とが備えられている。
なお、制御回路1は例えばマイコンなどで構成され、ファンモータ4が指示された指令回転速度値となるようにフィードバック制御するためにファンモータ4
の回転速度と対応する印加電圧指令信号(PWM信号)を出力する制御部1aと、入力された印加電圧指令信号を直流電圧に変換して指令電圧として出力するD/Aコンバータ5とを備えている。
さらに、このファンモータ駆動装置は、入力された回転パルス信号から求めた回転速度と所定回転速度値との比較結果からなる回転速度判定結果信号を出力する回転速度判定回路6と、D/Aコンバータ5の出力に一端が接続された抵抗8と、抵抗8の他端とグランドとの短絡/開放を回転速度判定結果信号の状態によって切り換えるスイッチ7とを備えている。なお、抵抗8とスイッチ7とで指令電圧低下手段20を構成している。
【0022】
また、このD/Aコンバータ5の内部には抵抗5aとコンデンサ5bとで構成される積分回路を備えており、印加電圧指令信号を積分することにより、印加電圧指令信号と対応する直流電圧を出力する。この積分回路は、抵抗5aの一端に印加電圧指令信号が入力され、他端から指令電圧が出力される。そして、抵抗5a他端にコンデンサ5bの一端が接続され、コンデンサ5bの他端はグランドに接続されている。なお、コンデンサ5bと抵抗5aとでこの積分回路の時定数が決定される。また、コンデンサ5bと並列に抵抗5cが備えられており、抵抗5aと抵抗5cとで指令電圧を分圧する構成になっている。
一方、抵抗5aと抵抗8、及び抵抗5cとで指令電圧を分圧するように構成されているため、スイッチ7がオン(短絡)となった時、スイッチ7がオフ(開放)の時に比較して指令電圧が低下するようになっている。抵抗8は抵抗5cと比較して非常に小さく設定されているので、ほぼ抵抗5aと抵抗8との分圧になる。
【0023】
また、回転速度判定回路6は所定回転速度と対応した電圧値である回転速度閾値を回転速度判定回路6の内部に備えており、この回転速度閾値と入力された回転パルス信号を積分した積分電圧との比較結果からなる回転速度判定結果信号を出力する。本実施例では少なくともファンモータ4が60回転/毎分(1回転/毎秒)以上の時、回転速度判定結果信号がローレベルからハイレベルに変化する。
【0024】
制御部1aはファンモータ4を回転させる場合に印加電圧指令信号を出力する。制御部1aは徐々に回転数を上昇させるため印加電圧指令信号のパルスのデューティーを徐々に増加さる。このため、この印加電圧指令信号が入力されたD/Aコンバータ5はこの信号を積分し、この結果、指令電圧は徐々に上昇する。
なお、制御部1aは起動時における回転速度を指令するための回転数値の増加を回転速度テーブルとして内部に格納しており、ファンモータ4の起動開始から指令回転速度へ移行する間、時間経過に対応してこの回転速度テーブルから回転速度値を読み出し、読み出した回転速度値をPWMのデューティー値に変換して印加電圧指令信号を生成して出力する。
一方、指令電圧が徐々に上昇すると、ファンモータ4が回転を開始して回転パルス信号が発生し、回転速度判定回路6からの回転速度判定結果信号がハイレベルになるまではスイッチ7はオンとなっているため、スイッチ7がオフの場合に比較して指令電圧が分圧されて低い電圧になっている。
【0025】
この指令電圧が入力された駆動回路2は、この信号と対応してファンモータ4に相電圧を印加させるため、駆動信号をドライブ回路3(インテリジェントパワーモジュール)へ出力し、ドライブ回路3は、この駆動信号に対応して三相のモータ印加電圧をファンモータ4へ出力する。
【0026】
この結果、ファンモータ4が徐々に回転速度を増加させながら回転し、この回転速度に対応した時間間隔のパルスからなる回転数パルス信号が駆動回路2から制御回路1へ出力される。制御回路1内部では、図示しない装置から指示された指令回転速度と現在の回転速度との差を算出し、これらが等しくなるように印加電圧指令信号をフィードバック制御する。
【0027】
なお、回転パルス信号のパルス数が増加、つまり、回転速度が早くなると回転速度判定回路6内の積分電圧が増加し、所定回転速度(回転速度閾値)と対応する電圧に達すると回転速度判定結果信号がローレベルからハイレベルになってスイッチ7がオフとなり、指令電圧が上昇する。このように、回転速度が所定回転速度になるまでは指令電圧が分圧されてスイッチ7がオフの場合よりも低電圧でファンモータ4が回転するため、回転軸とファンのボス内周とは緩やかに圧接する。このため異音が抑制され、その後に素早く回転数が増加される。
【0028】
図3は実施例1のファンモータ駆動装置の動作を説明する説明図である。
図3において横軸は時間であり、縦方向に
図3(1)印加電圧指令信号、
図3(2)指令電圧、
図3(3)回転パルス信号、
図3(4)回転速度判定結果信号をそれぞれ示す。
【0029】
図3(1)は制御部1aから出力される印加電圧指令信号(PWM信号)である。制御部1aは、ファンモータ4の回転数を徐々に上昇させるため、印加電圧指令信号のデューティーが徐々に大きくなるように制御している。
【0030】
一方、制御部1aが印加電圧指令信号を出力しない期間はファンモータ4に電圧が印加されず、回転軸が回転することがない。このため回転パルス信号が出力されることがなく、
図3(4)に示すようにT1の期間において回転速度判定回路6内の積分電圧はほぼゼロボルトなる。この結果、積分電圧が回転速度閾値の電圧以下となるため回転速度判定結果信号はローレベルとなり、この結果、スイッチ7もオン(短絡)となっている。
【0031】
徐々に印加電圧指令信号が大きく(デューティーが大きく)なるとファンモータ4が回転を開始し、この結果、
図3(3)に示すように回転パルス信号が1パルス目、2パルス目と順次発生する。この実施例の回転パルス信号はファンモータ4が1回転する毎に1パルス発生するため、2パルス目が発生したらファンモータ4は少なくとも1回転したことになり、ファンモータ4の回転軸とファンのボスとは圧接した状態となる。このため、回転速度判定回路6では回転パルス信号と対応する積分電圧を回転速度閾値(所定回転速度値〜60回転/毎分)の電圧としている。なお、ファンモータ4の回転軸とファンのボスとが確実に圧接する回転速度閾値を予め実験的に求めておく。
【0032】
図3(4)に示すように回転パルス信号による回転速度が所定回転速度値〜60回転/毎分以上になった時に回転速度判定結果信号がハイレベルとなる。この結果、スイッチ7がオフとなり、抵抗8は電気的にグランドから浮いた状態になり、抵抗5aと抵抗8とによる指令電圧の分圧が解除される。このため、
図3(2)に示すように、この時点から指令電圧が急速に立ち上がることになり、スイッチ7がオフである時の電圧上昇カーブに徐々に近づく。
【0033】
以上説明したように、ファンモータ4が回転を開始して所定回転速度(回転速度閾値)に達するまで指令電圧を低下させるため、ファンモータ4の駆動開始初期に指令電圧を低下させない場合と比較してファンモータ4の回転軸をボスの内面に緩やかに圧接させることができ、ファンとファンモータ4の回転軸とのクリアランスによって発生する異音を低減させることができる。
【0034】
また、電気的な回路による対応であるため、回転速度低下のために制御部1aにおけるソフトウェアによる多品種の装置の対応作業が不要となる。
さらに、実際の回転速度を回転速度判定回路11を介して検出し、これに対応して指令電圧を低下させるため、ファンモータ4の回転開始時の回転速度特性の変化に対応して指令電圧を低下させる時間をマージンを持った固定時間とした時よりも、回転開始から指令回転速度に達するまでの時間を短くすることができる。なお、回転開始時の回転特性変化とは、指令電圧を出力してから実際にファンモータ4が所定回転速度に達するまでの時間であり、一般的に、経年変化によって発生するファンモータ4の回転部分の磨耗などによる負荷の増大によってこの時間は長くなる。
【実施例2】
【0035】
図2は本発明による別の実施例を示すブロック図である。ここでは実施例1との相違点について詳細に説明する。
図2において、制御部1aとD/Aコンバータ5と駆動回路2とドライブ回路3、及び抵抗8とスイッチ7とは実施例1と同じため、詳細な説明を省略する。なお、回転速度判定回路11とアンド回路10と回転方向検出回路9と指令電圧低下手段30とが本実施例での特徴回路となる。また、アンド回路10と抵抗8とスイッチ7とで指令電圧低下手段30を構成している。
【0036】
回転速度判定回路11は実施例1の回転速度判定回路6と同じ機能を備えるが、回転数パルス信号でなく、ファンモータ4から出力される3つの回転位置信号の内の1つが入力され、1回転で1つのパルスが出力される。従って回転速度判定回路11では回転位置信号で2つのパルスを検出するとファンモータ4が少なくとも1回転したと判断する。ここでも実施例1の回転速度判定回路6と同様に回転位置信号を積分した積分電圧と回転速度閾値(所定回転速度値〜60回転/毎分)の電圧と比較している。そしてこの比較結果である回転速度判定結果信号をアンド回路10へ出力する。
【0037】
一方、回転方向検出回路9はファンモータ4から出力される3つの回転位置信号が入力される。回転位置信号は1回転の中で回転位置を細かく検出できる信号であり、この実施例ではファンモータ4に1回転を3等分した角度毎に1つの回転センサが備えられており、回転軸が回転すると、その回転位置に対応したセンサからパルスが発生する。このため、ある回転センサで発生したパルスの次に他の2つ回転センサのパルスの存在を確認することで正回転/逆回転の回転方向を検出できる。
このように回転方向検出回路9は正回転/逆回転方向にファンモータ4が回転しているか判断し、この結果を回転方向信号としてアンド回路10へ出力する。なお、ファンモータ4が正回転の時、回転方向信号がハイレベルとなる。そしてアンド回路10の出力はスイッチ7の制御信号として出力されている。つまり、ファンモータ4が少なくとも1回転し、かつ、正回転の時にスイッチ7がオフとなる。
【0038】
図4は実施例2のモータ駆動装置の動作を説明する説明図である。
図4において横軸は時間であり、縦方向に
図4(1)印加電圧指令信号、
図4(2)指令電圧、
図4(3)回転位置信号、
図4(4)回転速度判定結果信号、
図4(5)回転方向信号、
図4(6)アンド回路10の出力信号をそれぞれ示す。
【0039】
図4(1)は制御部1aから出力される印加電圧指令信号(PWM信号)である。制御部1aは、ファンモータ4の回転数を徐々に上昇させるため、印加電圧指令信号のデューティーが徐々に大きくなるように制御している。
【0040】
一方、制御部1aが印加電圧指令信号を出力しない期間はファンモータ4に電圧が印加されないために回転軸が回転せず、このため回転位置信号も出力されないために回転速度判定回路11内の積分電圧はほぼゼロボルトであるはずであるが、ファンに吹きつける風によってファンモータ4が逆回転し、この結果、
図4(4)に示すT1の期間において回転速度判定回路11内の積分電圧が回転速度閾値を超える場合がある。このため、回転速度判定回路11から出力される回転速度判定結果信号がハイレベルとなる。
【0041】
この信号をそのままスイッチ7の制御に使用すると、この状態でスイッチ7がオフ(開放)となり、起動時の低速回転ができなくなる。この実施例では
図4(5)に示すように、回転方向信号と
図4(4)の回転速度判定結果信号との一致をアンド回路10で論理演算し、
図4(6)に示すようにこれらの信号が共にハイレベルとなったときだけスイッチ7をオフとする構成にしている。従ってこの時点から指令電圧の分圧が解除されて電圧の上昇が開始される。なお、ファンモータ4が逆回転している時に印加電圧指令信号が出力され始めるため、この時点でファンのボスと回転軸との間のクリアランスによる異音が発生するが、スイッチ7がオン(短絡)となっており、指令電圧が分圧されて比較的低い電圧となっているため、分圧しない場合よりも異音の大きさを低減できる。
【0042】
一方、
図4(1)に示すように、制御部1aはファンモータ4の回転方向と関係なく徐々に印加電圧指令信号を大きく(デューティーを大きく)する。すると、ファンモータ4は逆回転から徐々に回転数が減少し、やがて正回転方向に回転を開始する。この結果、
図4(3)に示すように回転位置信号のパルス間隔が徐々に広がり、回転位置信号の発生が無くなってから再度、回転位置信号が1パルス目、2パルス目と順次発生する。
【0043】
前述したようにこの実施例の回転位置信号はファンモータ4が1回転する毎に1パルス発生するため、2パルス目が発生したらファンモータ4は少なくとも1回転したことになり、ファンモータ4の回転軸とファンのボスとは正回転方向へ向かって圧接した状態となる。このため、回転速度判定回路11では少なくとも2パルス以上となる回転位置信号と対応する積分電圧を回転速度閾値の電圧としている。なお、ファンモータ4の回転軸とファンのボスとが確実に圧接する回転速度閾値を予め実験的に求めておく。
【0044】
図4(4)に示すように回転位置信号による回転速度が60回転/毎分以上の時に回転速度判定結果信号がハイレベルとなり、かつ、回転方向信号がハイレベルのとき、
図4(6)に示すようにアンド回路10の出力がローレベルからハイレベルとなる。この結果、スイッチ7がオン(短絡)からオフ(開放)となり、抵抗8は電気的にグランドから浮いた状態になり、抵抗5aと抵抗8とによる指令電圧の分圧が解除される。このため、
図4(2)に示すように、この時点から指令電圧が急速に立ち上がることになり、スイッチ7がオフである時の電圧上昇カーブに徐々に近づく。
【0045】
以上説明したように、実施例1の効果に加えてこの実施例では、ファンモータ4が逆回転中に正回転の運転を開始した時であっても、指令電圧が分圧されて比較的低い電圧となっているため、分圧しない場合よりも異音の大きさを低減できる。
【0046】
なお、実施例1と実施例2とではD/Aコンバータ5として積分回路を用いているが、これに限るものでなく、汎用の集積回路を用いたり、直接、制御部1aから指令電圧を駆動回路2へ出力するようにしてもよい。また、スイッチ7はトランジスタやリレーなどでもよい。
また、実施例2では回転速度判定回路11の入力信号として回転位置信号を用いているが、これに限るものでなく、回転パルス信号を用いてもよい。