特許第6064698号(P6064698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064698
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】土壌燻蒸剤含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/04 20060101AFI20170116BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20170116BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20170116BHJP
   A01N 29/02 20060101ALI20170116BHJP
   A01N 33/18 20060101ALI20170116BHJP
   A01N 47/08 20060101ALI20170116BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   A01N25/04
   A01N25/00 101
   A01N25/02
   A01N29/02
   A01N33/18 A
   A01N47/08
   A01P3/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-50691(P2013-50691)
(22)【出願日】2013年3月13日
(65)【公開番号】特開2014-177412(P2014-177412A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】平山 大悟
(72)【発明者】
【氏名】横山 勝敏
【審査官】 井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−225289(JP,A)
【文献】 特開2006−342156(JP,A)
【文献】 特公昭47−001800(JP,B1)
【文献】 特開昭62−192301(JP,A)
【文献】 再公表特許第2005/044003(JP,A1)
【文献】 特開平06−345605(JP,A)
【文献】 特開平09−169603(JP,A)
【文献】 特開平07−324002(JP,A)
【文献】 特開昭60−197602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温において液状を呈する土壌燻蒸剤(A)、ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)、及び溶解補助剤(C)を含み、ゲル化されていることを特徴とする土壌燻蒸剤含有組成物であり、
土壌燻蒸剤(A)が、クロルピクリン、及び/又は1,3−ジクロロプロペンであり、
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選ばれる1種以上であり、
溶解補助剤(C)が、アルコール系溶媒、及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選ばれる1種以上である、土壌燻蒸剤含有組成物
【請求項2】
アルコール系溶媒が、メタノール、エチルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、アミルアルコール、1−ヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノール、イソプロパノール、イソブタノール、イソアミルアルコール、及び3−ペンタノールからなる群より選ばれるものである請求項に記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトニトリル、及びアセトンからなる群より選ばれるものである請求項に記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
【請求項4】
土壌燻蒸剤(A)の含有量が、組成物の全量に対して、80重量%以上であり、
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)の含有量が、組成物の全量に対して、1〜10重量%であり、
溶解補助剤(C)の含有量が、組成物の全量に対して、1〜10重量%である、請求項1〜3の何れかに記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
【請求項5】
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)の含有量が、土壌燻蒸剤(A)の100重量部に対して、1〜12重量部であり、
溶解補助剤(C)の含有量が、土壌燻蒸剤(A)の100重量部に対して、1〜12重量部である、請求項1〜3の何れかに記載の土壌燻蒸剤含有組成物
【請求項6】
請求項1〜の何れかに記載の土壌燻蒸剤含有組成物が水溶性または生分解性の高分子フィルムで被覆されている土壌燻蒸剤含有製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土壌燻蒸剤含量が高く、土壌に施用するまでの土壌燻蒸剤の放出が著しく抑制されており、且つ、土壌に施用後に短期間の土壌燻蒸を可能にする土壌燻蒸剤含有組成物、その製造方法、及び土壌燻蒸剤含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
クロルピクリンや、1,3−ジクロロプロペン(DC)等に代表される土壌燻蒸剤は、蒸気圧が高く、通常の使用条件では、ガス化しやすい。特に、クロルピクリンは刺激臭を有しており、使用時には、保護眼鏡、保護マスク、手袋を着用し、さらに特殊な灌注器具を用いる必要がある。土壌の燻蒸は、一般に、土壌に土壌燻蒸剤を灌注し、灌注後に土壌表面をガスバリアー性のあるフィルムで被覆する方法により行われる。
【0003】
特許文献1及び2には、クロルピクリン等の土壌燻蒸剤を無臭化させる方法として、デキストリンにクロルピクリンを吸着させた製剤を、ポリビニルアルコール(PVA)のフィルム袋に密封して製剤とする手法や、液体のクロルピクリンを直接、ポリビニルアルコール(PVA)のフィルム袋に密封して製剤化する手法が記載されている。しかし、これらの製剤は、土壌燻蒸剤の刺激臭が十分に抑制されておらず、さらに土壌燻蒸剤を長期間保持することができない。
【0004】
特許文献3には、土壌燻蒸剤と水溶性高分子を組み合わせることで高粘度液とし、それにより土壌燻蒸剤の蒸気圧を低減させて、刺激臭を抑制する手法が記載されている。しかし、この手法も、土壌燻蒸剤の刺激臭を十分には抑制することができず、土壌燻蒸剤を組成物中に長期間保持できない。
【0005】
特許文献4は、アルギン酸ナトリウムやローメトキシルペクチン等の多糖類の水溶液を用い、エマルジョン化の際にゼラチンを添加することでO/W型エマルジョン液を得て、その後、このエマルジョン液に2価以上の金属塩を添加し、得られたゲル化物を乾燥することにより、クロルピクリン含有量が高く、刺激臭を抑えることのできる土壌燻蒸剤含有固形物が得られるとしている。しかし、この文献記載の方法で得られる土壌燻蒸剤含有固形物のクロルピクリン含有率は80%程度に過ぎず、実用上満足できるものではない。また、製造過程に乾燥工程を含むことから、生産効率、さらには製造時における安全性において、工業的に生産性に優れる方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5846904号公報
【特許文献2】特開平7−324002号公報
【特許文献3】特開昭60−19760号公報
【特許文献4】特開2006−3421567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主な目的は、土壌燻蒸剤含量が高く、土壌に施用するまでは土壌燻蒸剤の放出が極めて抑制されており、且つ、土壌に施用後に短期間の土壌燻蒸を可能にする土壌燻蒸剤含有組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、常温において液状を呈する土壌燻蒸剤(A)、ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)、及び溶解補助剤(C)を含みゲル化されている組成物が、組成物中の土壌燻蒸剤の含量が十分に高く、土壌に施用するまでの土壌燻蒸剤の放出が極めて抑制されており、且つ土壌に施用後に短期間に土壌を燻蒸できることを見出した。
本願発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下の土壌燻蒸剤含有組成物、その製造方法、及び土壌燻蒸剤含有製剤を提供する。
【0009】
項1. 常温において液状を呈する土壌燻蒸剤(A)、ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)、及び溶解補助剤(C)を含み、ゲル化されていることを特徴とする土壌燻蒸剤含有組成物。
項2. 土壌燻蒸剤(A)が、クロルピクリン、及び/又は1,3−ジクロロプロペンである項1に記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
項3. ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、及びヒドロキシプロピルエチルセルロースからなる群より選ばれる1種以上である項1又は2に記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
項4. 溶解補助剤(C)が、アルコール系溶媒、及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選ばれる1種以上である項1〜3の何れかに記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
項5. アルコール系溶媒が、メタノール、エチルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、アミルアルコール、1−ヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノール、イソプロパノール、イソブタノール、イソアミルアルコール、3−ペンタノール、t−ブタノール、t−アミルアルコール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3−メチル−3−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−2−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−シクロプロピル−2−プロパノール、2−シクロプロピル−2−ブタノール、2−シクロプロピル−3−メチル−2−ブタノール、1−メチルシクロペンタノール、1−エチルシクロペンタノール、1−プロピルシクロペンタノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−エチルシクロヘキサノール、1−メチルシクロヘプタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、及びテトラヒドロフルフリルアルコールからなる群より選ばれるものである項4に記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
項6. 非プロトン性極性溶媒が、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトニトリル、及びアセトンからなる群より選ばれるものである項4又は5に記載の土壌燻蒸剤含有組成物。
項7. 項1〜6の何れかに記載の土壌燻蒸剤含有組成物が水溶性または生分解性の高分子フィルムで被覆されている土壌燻蒸剤含有製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、組成物中の土壌燻蒸剤含有量を極めて高くすることができ、各成分の組み合わせにより異なるが、例えば、90重量%以上の含有量にすることもできる。それにより、少ない組成物を用いて効率よく土壌を燻蒸できるものとなる。
また、本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、土壌に施用するまでの流通、保管、使用時などに、土壌燻蒸剤の揮発ないしは放出が著しく抑制されている。従って、土壌燻蒸剤の刺激臭がほとんど無く、また人体への影響が抑制されている。また、本発明の土壌燻蒸剤組成物がフィルムで被覆されている場合に、フィルムが破損しても、人体への影響が抑制されている。即ち、本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、安全性、及び安定性に優れる。
また、本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、ゲル化されているところ、形状の保持性に優れ、特に、夏場の高温下でもその形状を保持することができ、保存安定性に優れる。
また、本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、土壌に埋めた後に、速やかに大量の土壌燻蒸剤が土中に拡散して、短期間に土壌を燻蒸できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
(1)土壌燻蒸剤含有組成物
本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、常温において液状を呈する土壌燻蒸剤(A)、ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)、及び溶解補助剤(C)を含み、ゲル化されたものである。
【0012】
常温において液状を呈する土壌燻蒸剤(A)
土壌燻蒸剤(A)の定義において、「常温」は25℃を意味し、常温において液状を呈する土壌燻蒸剤は、この温度で液状を呈する。本発明において「液状」は、流動性を有することを意味する。
土壌燻蒸剤は、常圧下で使用するとガス状態で土壌中に拡散し、農作物等の有用植物や人間に害を及ぼす土中の昆虫、雑草、細菌などを防除することができる。カーバム剤のように、使用時または薬剤処理後に分解等の化学変化を起こして生物活性を示すものも本発明において使用することができる。
【0013】
本発明において、土壌燻蒸剤は、常圧で沸点が40℃以上、且つ蒸気圧が0.5mmHg/20℃以上の揮散性を有するものが好ましい。この範囲であれば、燻蒸により十分に土壌中の病害虫を防除できる。
【0014】
土壌燻蒸剤としては、1,3−ジクロロプロペン(DC)、DBCP(1,2−ジブロモ−3クロロプロパン)、DCIP(ジクロロジイソプロピルエーテル)、MITC(メチルイソチオシアネート)、クロルピクリン(トリクロロニトロメタン)、ジメチルジクロルビニルホスフェート、二硫化炭素、カーバム(N−メチルジチオカルバミン酸アンモニウム)などが挙げられる。中でも、1,3−ジクロロプロペン(DC)、クロルピクリン(トリクロロニトロメタン)が好ましい。
土壌燻蒸剤は、1種を単独で、又は2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
組成物中の土壌燻蒸剤の含有量は、組成物の全量に対して、好ましくは80重量%以上、中でも90重量%以上、中でも95重量%以上とすることができる。土壌燻蒸剤と、ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤、及び溶解補助剤とを組み合わせることにより、このように高濃度の土壌燻蒸剤を含む組成物とすることができる。組成物中の土壌燻蒸剤の含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよい。なお、本発明における土壌燻蒸剤の含有量とは、組成物の全量に対する土壌燻蒸剤の純分の重量の比率を意味する。
【0016】
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤において、ヒドロキシアルキル基は炭素数1〜4のものが好ましく、中でも、炭素数1〜3のものがより好ましく、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシn-プロピル基、ヒドロキシイソプロピル基がさらにより好ましい。
【0017】
また、ヒドロキシアルキルセルロース類においては、一般的に、グルコース環単位あたり、アルコキシル基で置換された水酸基の平均個数を「分子置換度(MS)」として表すが、その分子置換度が1〜4程度のものを用いることができる。
【0018】
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルエチルセルロースなどが挙げられる。中でも、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。
ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0019】
組成物中のヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤の含有量は、組成物の全量に対して、約1〜10重量%が好ましく、約1〜5重量%がより好ましく、約1〜3重量%がさらにより好ましい。この範囲であれば、ゲル化組成物中の土壌燻蒸剤含有率を十分に高くすることが出来るとともに、形状保持性も良好である。
【0020】
組成物中のヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤の含有量は、土壌燻蒸剤の100重量部に対して、約1〜12重量部が好ましく、約1〜5重量部がより好ましく、約1〜3重量部がさらにより好ましい。この範囲であれば、ゲル化組成物中の土壌燻蒸剤含有率を十分に高くすることが出来るとともに、形状保持性も良好である。
【0021】
溶解補助剤(C)
溶解補助剤は、土壌燻蒸剤の溶解を補助することにより、ゲル化を促進する。
溶解補助剤は、極性溶媒が好ましく、プロトン性極性溶媒の中のアルコール系溶媒、及び非プロトン性極性溶媒がより好ましい。
【0022】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エチルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、アミルアルコール、1−ヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、及び1−ヘキサデカノールのような1級アルコール;イソプロパノール、イソブタノール、イソアミルアルコール、及び3−ペンタノールのような2級アルコール;t−ブタノール、t−アミルアルコール、2,3−ジメチル−2−ブタノール、3−メチル−3−ペンタノール、3−エチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2,3−ジメチル−3−ペンタノール、2,4−ジメチル−2−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−シクロプロピル−2−プロパノール、2−シクロプロピル−2−ブタノール、2−シクロプロピル−3−メチル−2−ブタノール、1−メチルシクロペンタノール、1−エチルシクロペンタノール、1−プロピルシクロペンタノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−エチルシクロヘキサノール、1−メチルシクロヘプタノールのような3級アルコール;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(イソペンチルオキシ)エタノール、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、2−フェノキシエタノール、2−(ベンジルオキシ)エタノールのようなエーテル結合を有するアルコール;フルフリルアルコール;テトラヒドロフルフリルアルコールなどを例示できる。中でも、メタノール、エチルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、アミルアルコール、1−ヘキシルアルコール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、及び1−ヘキサデカノールなどの1級アルコール、イソプロパノール、イソブタノール、イソアミルアルコール、及び3−ペンタノールなどの2級アルコールが好ましく、1−ブタノール、1−オクタノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、及び1−ヘキサデカノールなどの1級アルコールがより好ましい。
【0023】
非プロトン性極性溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、スルホラン、アセトニトリル、アセトンなどを例示できる。中でも、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンが好ましい。
溶解補助剤(C)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
組成物中の溶解補助剤の含有量は、組成物の全量に対して、約1〜10重量%が好ましく、約1〜5重量%がより好ましく、約1〜3重量%がさらにより好ましい。この範囲であれば、ゲル化組成物中の土壌燻蒸剤含有率を十分に高くすることが出来るとともに、形状保持性も良好である。
【0025】
組成物中の溶解補助剤の含有量は、土壌燻蒸剤の100重量部に対して、約1〜12重量部が好ましく、約1〜5重量部がより好ましく、約1〜3重量部がさらにより好ましい。この範囲であれば、ゲル化組成物中の土壌燻蒸剤含有率を十分に高くすることが出来るとともに、形状保持性も良好である。
【0026】
性状
本発明の組成物はゲル化された固形剤である。即ち、静置した状態では見かけ上固体であるが、応力を加えると容易に流動するチキソトロピー性を有する液体となるものである。ここで、「チキソトロピー性」とは、単にかきまぜたり、振り混ぜたりすることによって、ゲルが流動性を有するゾルに変わり、これを放置しておくと再びゲルに戻る性質をいう。
【0027】
製造方法
本発明の組成物は、上記説明した土壌燻蒸剤(A)、ヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤(B)、及び溶解補助剤(C)を、撹拌しながら混合することにより、混合物がゲル化して製造される。各成分の混合順序は限定されないが、土壌燻蒸剤とヒドロキシアルキルセルロース系ゲル化剤とを先に混合し、ここに溶解補助剤を加えるのが好ましい。混合は、約5〜40℃の温度下で行うことができる。
【0028】
使用方法
土壌燻蒸剤含有組成物は、水溶性高分子、又は生分解性高分子のフィルムで被覆することができる。これにより、使用時までは、土壌燻蒸剤含有組成物を手で触れなくて済み、また、土壌燻蒸剤の揮発を抑えることができる。さらに、土壌に施用後は、フィルムが溶解ないしは分解して、土壌燻蒸剤組成物中の土壌燻蒸剤を土中に揮散させることができる。
水溶性高分子、又は生分解性高分子は、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリ1,4-ブタンジオール、ポリカプロラクトン、ポリアクリル酸及びその塩、デンプン、ゼラチン、プルランなどが挙げられる。この他にも、天然高分子を混合してフィルム状にしたものが多数市販されているので、使用できる。中でも、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールが好ましい。
土壌燻蒸剤含有組成物の使用量は、土壌燻蒸剤の種類、土壌の状態、気候などによって異なるが、土壌の10アール当たりの土壌燻蒸剤の使用量が約15〜50kgになるようにすればよい。施用後、通常、7〜20日程度で土壌を十分に燻蒸することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
1.ゲル化組成物および製剤の作成
実施例1
200mLビーカーに、ヒドロキシプロピルセルロース(和光純薬製、粘度グレード1000-5000cP)1.53gを秤量し、1,3-ジクロロプロペン(ダウケミカル日本株式会社製)61.0gを加えた。室温下、攪拌翼(マリンプロペラ型)を用いて500rpmで撹拌しながら、n−オクタノール2mL(和光純薬製、1.66g)を加えたところ、直ちに増粘し無色透明のゲル状物を形成した。その後、5分間撹拌を続けた。1,3-ジクロロプロペンの含有率は95重量%であり、これをゲル状組成物(A−1)とした。
ポリビニルアルコールフィルムであるソルブロンPT#40(厚み40μm、アイセロ化学株式会社)で作製した水溶性高分子袋に、1,3−ジクロロプロペンを2mL含有する量のゲル状組成物(A−1)を秤量し、三方向をヒートシールして製剤(A−2)とした。
【0031】
実施例2
実施例1において、1,3-ジクロロプロペンの代わりにクロルピクリン(三井化学アグロ株式会社製)を用いた他は、実施例1と同様にして、各成分を混合したところ、直ちに増粘し無色透明のゲル状物を形成した。クロルピクリンの含有率は95重量%であった。これをゲル状組成物(B−1)とした。
ポリビニルアルコールフィルムであるソルブロンPT#40(厚み40μm、アイセロ化学株式会社)で作製した水溶性高分子袋に、1,3−ジクロロプロペンを2mL含有する量のゲル状組成物(B−1)を秤量し、三方向をヒートシールして製剤(B−2)とした。
【0032】
比較例1
200mLビーカーに、超微粒子無水シリカであるアエロジル300(日本アエロジル株式会社製)3.19gを秤量し、1,3−ジクロロプロペン(ダウケミカル日本株式会社製)61.0gを加えた。室温下、攪拌翼(マリンプロペラ型)を用いて500rpmで5分間撹拌したところ、粘性の高いやや青味を帯びた透明ゲル状物を形成した。1,3−ジクロロプロペンの含有率は95重量%であった。これをゲル状組成物(C−1)とした。
ポリビニルアルコールフィルムであるソルブロンPT#40(厚み40μm、アイセロ化学株式会社)で作製した水溶性高分子袋に、1,3−ジクロロプロペンを2mL含有する量のゲル状組成物(C−1)を秤量し、三方向をヒートシールして製剤(C−2)とした。
【0033】
比較例2
試験管に12-ヒドロキシステアリン酸(和光純薬製)0.64(g)秤量し、1,3−ジクロロプロペン(ダウケミカル日本株式会社製)12.2gを加えた。試験管の口にラバーセプタムを付け、80℃の湯浴で加熱し均一に溶解後、室温で放冷すると、やや硬い白色のゲル状物を形成した。1,3−ジクロロプロペンの含有率は95重量%であった。これをゲル状組成物(D−1)とした。
ポリビニルアルコールフィルムであるソルブロンPT#40(厚み40μm、アイセロ化学株式会社)で作製した水溶性高分子袋に、1,3−ジクロロプロペンを2mL含有する量のゲル状組成物(D−1)を秤量し、三方向をヒートシールして製剤(D−2)とした。
【0034】
比較例3
比較例2において、12-ヒドロキシステアリン酸の代わりにラウロイル‐L−グルタミン酸-α,γ-ジブチルアミド(和光純薬製)を用いた他は、比較例2と同様にして各成分を混合したところ、やや硬い白色のゲル状物を形成した。1,3−ジクロロプロペンの含有率は95重量%であった。これをゲル状組成物(E−1)とした。
ポリビニルアルコールフィルムであるソルブロンPT#40(厚み40μm、アイセロ化学株式会社)で作製した水溶性高分子袋に、1,3−ジクロロプロペンを2mL含有する量のゲル状組成物(E−1)を秤量し、三方向をヒートシールして製剤(E−2)とした。
【0035】
比較例4
ポリビニルアルコールフィルムであるソルブロンPT#40(厚み40μm、アイセロ化学株式会社)で作製した水溶性高分子袋に、1,3−ジクロロプロペン(ダウケミカル日本株式会社製)2mL(2.44g)を秤量し、三方向をヒートシールして製剤(G−2)とした。
【0036】
2.耐熱試験
実施例1、及び比較例1〜3で作成した製剤(A−2)、(C−2)、(D−2)、(E−2)について、高温時の熱安定性を評価した。具体的には、各製剤をナイロンポリ袋(旭化成パックス株式会社製コーパックST1015、100mm x 50mm)に入れ、ヒートシールをして密封したものを試験体とした。試験体を70℃に設定したオーブンに入れ、5時間経過後の状態を目視で観察した。
結果を以下の表1に示す。表1中の○はゲル状態を保ったことを示し、×は固液分離又は溶解して液体に戻ったことを示す。
【0037】
【表1】
製剤A−2及び製剤C−2は、70℃以下で固体状態を保持していたが、製剤D−2及びE−2は固体状態を保持できなかった。溶解補助剤として、ヒドロキシプロピルセルロース、又は超微粒子無水シリカを用いた製剤では、高温に曝された場合にも固体状態を保持することができ、高温下での安定性に優れていることが分かった。
【0038】
3.フィルム破損時の揮発抑制性
実施例1、及び比較例1〜4で作成した製剤(A−2)、(C−2)、(D−2)、(E−2)、(G−2)について、フィルム破損時の揮発抑制性を評価した。具体的には、各製剤の周縁部(短辺の方)に長さ5mmの切れ込みを計2箇所入れ、直径90mmのガラス製時計皿上に室温(20〜25℃)下、静置した。経過時間に対する重量減少率を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
ゲル化剤として、ヒドロキシプロピルセルロースを用いることにより、ゲル化組成物を被覆しているフィルムが破損した場合の、燻蒸剤の揮発が顕著に抑制された。
【0040】
4.土壌中における放出性
実施例1、及び比較例1、4で作成した製剤(A−2)、(C−2)、(G−2)について以下の試験を行った。
即ち、1Lビーカー型ポリエチレン製容器(直径120mm、深さ140mm)に深さ40mmまで市販培養土(加水して含水率60%に調整したもの)を入れた。その上に製剤を1剤置いた。製剤の上に、前述した市販培養土をポリエチレン容器の上端まで入れた後、厚さ0.08mmのポリエチレン製シートで被覆した。2時間、4時間、6時間、8時間、24時間、30時間、48時間、72時間後に容器底部の土壌気相部50mLをガスタイトシリンジで採取し、10mLのメタノールに吸収させた。メタノール溶液をガスクロマトグラフィー(GC)分析して1,3−ジクロロプロペン濃度を測定した。試験中の土壌温度は20±3℃に保った。
【0041】
<GC分析条件>
使用カラムは、アジレントテクノロジー社 DB−1、60mx0.25mmID、膜圧1.00μm、検出器は、FID検出機能を備えた島津製作所製GC−2010、注入口温度は150℃、検出器側温度は155℃とし、カラム昇温条件は50℃で3分間測定後、3℃/分の速度で110℃まで昇温し、110℃に到達後、5分間測定した。キャリアーガスはヘリウムを用い、流量75.3ml/分とした。サンプル注入量は1.0μLとした。
【0042】
結果を表3に示す。
【表3】
【0043】
ゲル化剤としてヒドロキシプロピルセルロースを用いた場合も、アエロジル300を用いた場合も、試験開始より48時間経過後には気相中の1,3−ジクロロプロペン濃度は検出限界以下となり、1,3−ジクロロプロペン原体自体の製剤を用いた場合と同等の優れた土壌放出性が得られた。
また、144時間(6日間)経過後にそれぞれの試験体より培養土を取り除き、製剤の状態を目視確認した。ヒドロキシプロピルセルロースを用いた製剤A−2、1,3−ジクロロプロペン原体自体の製剤G−2については培養土と同化して痕跡を確認できなかった。アエロジル300を用いた製剤C−2については、超微粒子シリカが白色の塊として残存しているのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の土壌燻蒸剤含有組成物は、組成物中の土壌燻蒸剤含量を高くすることができる。また、土壌に施用後の土壌燻蒸剤の放出性が良好であるため、土壌に施用後に短期間で土壌を燻蒸できる。また、土壌に施用するまでの保管時、流通、使用時の土壌燻蒸剤の放出が極めて抑制されており、取扱者には殆ど刺激臭が感じられない安全性、安定性に優れたものである。