特許第6064766号(P6064766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064766両性イオン型エチレン性不飽和単量体とその製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064766
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】両性イオン型エチレン性不飽和単量体とその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/36 20060101AFI20170116BHJP
   C07D 207/16 20060101ALI20170116BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20170116BHJP
【FI】
   C08F20/36
   C07D207/16
   A61L31/04
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-88756(P2013-88756)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210888(P2014-210888A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小池 隆明
(72)【発明者】
【氏名】仁科 安紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡林 淳
(72)【発明者】
【氏名】羽廣 祐代
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−281726(JP,A)
【文献】 特開平01−207308(JP,A)
【文献】 特開2007−130194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−301/00
A61L 31/00−31/18
C07D 207/00−207/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される両性イオン型エチレン性不飽和単量体。
一般式(1):
【化1】

Xは水素原子またはメチル基を示す。
Yは酸素原子またはNHを示す。
Rはアルキレン基、アルキル基もしくはヒドロキシル基に置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、アミド結合の単独もしくはその組み合わせから構成される非イオン性の2価の官能基である。
【請求項2】
一般式(2)からなる1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体のアクリロイル基にピロリジン-2-カルボン酸をマイケル付加反応させてなる請求項1記載の両性イオン型エチレン性不飽和単量体。

一般式(2):
【化2】

Yは酸素原子またはNHを示す。
Rはアルキレン基、アルキル基もしくはヒドロキシル基に置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、アミド結合の単独もしくはその組み合わせから構成される非イオン性の2価の官能基である。
【請求項3】
アルコール溶媒中で、少なくとも1つのアクリロイル基を有する二官能エチレン性不飽和単量体のアクリロイル基にピロリジン-2-カルボン酸のアミノ基をマイケル付加反応させてなる、両性イオン型エチレン性不飽和単量体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の両性イオン型エチレン性不飽和単量体を含む単量体をラジカル重合させてなる、ピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体。
【請求項5】
請求項4記載のピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体を含有する生体適合性材料樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロリジン-2-カルボン酸骨格由来の両性イオン型エチレン性不飽和単量体とその製造方法、ならびにラジカル重合させる事で該両性イオン型エチレン性不飽和単量体を構成単位に有するピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーの急速な発展により、医療用デバイスやヘルスケアデバイスと生体成分とが接触する界面において、たんぱく質などの生体分子が吸着、活性化されない、生体適合性を有する高分子材料の開発が活発に検討されている。中でも、両性イオン型の単量体から製造される高分子材料は、電解質にもかかわらず、水の水素結合のネットワークを撹乱しない事から、上記の生体適合性に優れる素材として注目を集めている。
特許文献1では、2−メタクリロリルオキシエチルホスホコリンを重合して得られるホスホベタイン型の高分子材料(MPCポリマー)が開示されている。しかしながら、MPCポリマーを構成している2−メタクリロリルオキシエチルホスホコリンは、合成工程が多い上に複雑であるため、純度を高めることが困難であり、生成した結晶が短時間で潮解するという欠点がある。したがって取り扱いが不便であり、非常に高価である。
特許文献2では、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタインを重合して得られるカルボキシベタイン型の高分子材料が開示されている。しかしながら、単量体合成時に原料由来のアミンが残留するため、生態適合性に悪影響を及ぼす恐れがある。また、合成時に食塩を副生するので、脱塩処理が不十分であると、皮膚や粘膜を刺激したり、金属材料を腐食させてしまう。
両性イオン構造を有するアミノ酸分子もMPCポリマーなどと同様に、生体適合性に優れる素材として注目されている。特許文献3ではアミノ酸残基を有する両性イオン型単量体の(メタ)アクリル酸セリンエステルとそれを重合した高分子材料が開示されている。しかしながら、これについても単量体を得るまでの工程が多く、複雑であるため、安価に、高収率で高純度の目的物を得る事は困難であり、原料由来の残留成分が生体適合性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−3132号公報
【特許文献2】特開2007−130194号公報
【特許文献3】特開平06−251209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の第1の目的は、ピロリジン-2-カルボン酸骨格由来の新規両性イオン型エチレン性不飽和単量体を提供することにある。本発明の第2の目的は、簡便で高純度、高収率な該両性イオン型エチレン性不飽和単量体の製造方法を提供する事にある。本発明の第3の目的は、該両性イオン型エチレン性不飽和単量体を構成成分として含有する生体適合性に優れた重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、第1の発明は、
一般式(1)で示される両性イオン型エチレン性不飽和単量体に関する。

一般式(1)
【化1】

Xは水素原子またはメチル基を示す。
Yは酸素原子またはNHを示す。
Rはアルキレン基、アルキル基もしくはヒドロキシル基に置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、アミド結合の単独もしくはその組み合わせから構成される非イオン性の2価の官能基である。
【0006】
また、第2の発明は、
一般式(2)からなる1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体のアクリロイル基にピロリジン-2-カルボン酸を反応させてなる請求項1記載の両性イオン型エチレン性不飽和単量体に関する。

一般式(2)
【化2】

Yは酸素原子またはNHを示す。
Rはアルキレン基、アルキル基もしくはヒドロキシル基に置換されたアルキレン基、フェニレン基、エステル結合、エーテル結合、ウレタン結合、アミド結合の単独もしくはその組み合わせから構成される非イオン性の2価の官能基である。
【0007】
また、第3の発明は、アルコール溶媒中で、アクリロイル基含有の化合物にピロリジン-2-カルボン酸をマイケル付加反応させてなる両性イオン型エチレン性不飽和単量体の製造方法に関する。
また、第4の発明は、第1又は第2発明の両性イオン型エチレン性不飽和単量体を含む単量体をラジカル重合させてなる、ピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体に関する。
【0008】
また、第5の発明は、第4発明のピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体を含む生体適合性材料樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、アミノ酸残基を有する新規の両性イオン型エチレン性不飽和単量体であり、ラジカル重合する事で生体適合性に優れる重合体を提供する事ができる。本発明の製造方法は、アルコール中で、アクリロイル基含有の化合物にピロリジン-2-カルボン酸をマイケル付加反応させる事で、該両性イオン型エチレン性不飽和単量体を簡便で高純度、高収率に製造することができる。該両性イオン型エチレン性不飽和単量体を用いた共重合体は、生体成分との特異的な適合性が有り、医療用途やヘルスケア用途など、生体適合性材料としての用途展開が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の両性イオン型エチレン性不飽和単量体は、1分子中に1つの(メタ)アクリロイル基を有し、親水基に両性イオン型のピロリジン-2-カルボン酸残基を有している事を特徴とする。本発明の両性イオン型エチレン性不飽和単量体は、アクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体のアクリロイル基にピロリジン-2-カルボン酸のアミノ基をマイケル付加反応させる事で効率的に得る事ができる。
【0011】
本発明で使用するアクリロイル基を有する二官能のエチレン性不飽和単量体としては、1分子中に2つのアクリルロイル基を有するエチレン性不飽和単量体と、1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体が挙げられる。
【0012】
1分子中に2つのアクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(共栄社製、ライトアクリレート4EG−A、9EG−A、14EG−A)、3−メチル―1,5−ペンタンジオールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、2−ブチル―2−エチル―1,3−プロパンジオールジアクリレート等が挙げられる。
【0013】
1分子中に1つのアクリルロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、メタクリロイルクロリドとヒドロキシル基含有アクリレート(c−1)、もしくはアクリロイルクロリドとヒドロキシル基含有メタクリレート(c−2)のエステル化反応により得られる二官能のエチレン性不飽和単量体、
カルボキシル基含有アクリレート(d−1)とグリシジル基含有メタクリレート(e −1)もしくは、カルボキシル基含有メタクリレート(d−2)とグリシジル基含有アクリレート(e−2)の開環反応により得られる2官能のエチレン性不飽和単量体、
イソシアネート基含有アクリレート(f−1)とヒドロキシル基含有メタクリレート(c−2)もしくは、イソシアネート基含有メタクリレート(f−2)とヒドロキシル基含有アクリレート(c−1)の付加反応により得られる2官能のエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
これらの2官能のエチレン性不飽和単量体は、上記の1官能のエチレン性不飽和単量体の組み合わせで、反応させて合成しても構わないし、市販品を使用しても構わない。
【0014】
ヒドロキシル基含有アクリレート(c−1)としては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、ポリエチレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAE−90、AE−200、AE−400)ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAP−150、AP−400、AP−550、AP−800)、ポリエチレングリコール―ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製、ブレンマーAEP)、ヒドロキシルエチルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0015】
ヒドロキシル基含有メタクリレート(c−2)としては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メタクリロイロキシエチル2−ヒドロキシエチルフタル酸、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油製、PE−90、PE−200、PE−350)ポリエチレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPP−1000、PP−500、PP−800)ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールものメタクリレート(日油製、ブレンマー50PEP−300、70PEP−350B)、ヒドロキシルエチルメタクリルアミドなどが挙げられる。
【0016】
カルボキシル基含有アクリレート(d−1)としては、例えば、アクリル酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
カルボキシル基含有メタクリレート(d−2)としては、例えば、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0017】
グリシジル基含有メタクリレート(e −1)としては、例えば、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
グリシジル基含有アクリレート(e−2)としては、例えば、グリシジルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0018】
イソシアネート基含有アクリレート(f−1)としては、例えば、2-イソシアナトエチルアクリレート等が挙げられる。
イソシアネート基含有メタクリレート(f−2)としては、例えば、2-イソシアナトエチルメタクリレート、昭和電工社製、カレンズMOI−EG等が挙げられる。
【0019】
上記で挙げた2官能のエチレン性不飽和単量体の中でも、1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体である事が好ましい。2つのアクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体では、2つともピロリジン-2-カルボン酸が付加された副生成物も同時に生成する。したがって、一方のアクリロイル基だけにピロリジン-2-カルボン酸が付加された目的物の収率は下がってしまう。一方で、1分子中に1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有するエチレン性不飽和単量体では、ピロリジン-2-カルボン酸がアクリロイル基に対して選択的に付加するため、メタクリロイル基だけが残った目的物をより高収率で得る事ができる。
【0020】
2官能のエチレン性不飽和単量体とピロリジン-2-カルボン酸のマイケル付加反応において、ピロリジン-2-カルボン酸は粉末状であるため、反応させるためには、溶媒に溶解させる事が必要である。アミノ酸は有機溶剤にほとんど溶解しない。水に対しては容易に溶解するが、イオン化してしまうため、マイケル付加反応は進行しない。ピロリジン-2-カルボン酸は、アルコール溶剤に可溶であるアミノ酸である。また、アルコール溶剤はマイケル付加反応を促進する効果もある。従って、ピロリジン-2-カルボン酸のアクリロイル基へのマイケル付加反応を行う上で、反応溶剤にはアルコール溶剤を使用する事が好ましい。さらに、アルコール溶剤の中でも、ピロリジン-2-カルボン酸の溶解性、溶媒の毒性、除去の容易さを考慮すると、エタノールを使用する事がさらに好ましい。
【0021】
両性イオン型エチレン性不飽和単量体を得る際に、原料もしくは目的物の(メタ)アクリロイル基の不用意な重合を防ぐために、反応時に重合禁止剤を適量併用する事ができる。重合禁止剤としては、メトキシフェノールやハイドロキノンなどが挙げられる。
【0022】
それでは本発明の両性イオン型エチレン性不飽和単量体の製造方法について説明する。還流器および撹拌機を備えた反応容器にアクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体とピロリジン-2-カルボン酸を当モルになるように仕込む。アクリロイル基を有する2官能のエチレン性不飽和単量体については、上記で示した1官能モノマーの組み合わせにより事前に合成しても構わないし、市販品を使用しても構わない。次に反応溶剤であるエタノールを仕込む。反応時間の短縮とエチレン性不飽和単量体の安定性を考慮すると、原料成分の濃度は30〜70重量%の範囲である事が好ましい。仕込み完了後、反応槽を撹拌しながら昇温する。溶媒へのピロリジン-2-カルボン酸の溶解量とエチレン性不飽和単量体の安定性を考慮すると、反応温度は50〜90℃の範囲でおこなう事が好ましく、反応時間は5時間〜15時間である事が好ましい。ピロリジン-2-カルボン酸の粉末は反応の進行とともに、緩やかに溶解し、供給されながら消費される。2官能のエチレン性不飽和単量体が、1分子中に2つのアクリロイル基を有する場合、2つともピロリジン-2-カルボン酸が付加した副生成物が生成する。副生成物はカラムクロマトグラフィーにより除去できる。一方で、2官能のエチレン性不飽和単量体が1つのアクリロイル基と1つのメタクリロイル基を有する場合には、アクリロイル基にだけ選択的に付加し、前記のような副生成物は生成しない。反応完了後、減圧乾燥により反応溶媒を除去する事で、目的の両性イオン型エチレン性不飽和単量体を得る事ができる。目的物が結晶性を有する場合には、アセトンなどの貧溶媒により再結晶をおこなう。
【0023】
両性イオン型エチレン性不飽和単量体の同定は、H-NMR(核磁気共鳴分光法)、元素分析により行った。
【0024】
次に本発明の両性イオン型エチレン性不飽和単量体をラジカル重合する事で得られる、ピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体に関して説明する。上記の工程で得られた両性イオン型エチレン性不飽和単量体は、ラジカル重合により、単独で重合する事もできるし、生体適合性に悪影響を及ぼさない範囲で共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体(g)と共重合する事もできる。重合方法としては、溶液重合や乳化重合、分散重合など任意の方法で重合する事ができる。
【0025】
共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体(g)としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、tーブチルメタクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香族エチレン性不飽和単量体;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N−ペントキシメチル−(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N−エトキシメチル−N−プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N−ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N−ブトキシメチル−N−(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N−メトキシメチル−N−(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のアミド基含有エチレン性不飽和単量体;
ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE−90、200、350、350G、AE−90、200、400等)ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマー50PEP−300、70PEP−350等)、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPME−400、550、1000、4000等)等のポリエチレンオキサイド基含有エチレン性不飽和単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体;
等が挙げられる。
【0026】
重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。
【0027】
油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類または2種類以上を混合して使用することができる。
【0028】
水溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。
【0029】
重合時に使用する溶媒としては、両性イオン型エチレン性不飽和単量体を溶解するものであれば、任意のものを使用する事ができるが、重合後の除去を考慮すると、水、アルコール溶剤を使用する事が好ましい。また、両性イオン型エチレン性不飽和単量体を得る際に使用したアルコール溶剤は、そのまま重合工程に進む場合には、反応系から除去せずに重合時の溶剤としても使用する事も可能である。
【0030】
ピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体の製造方法として、n-ブチルアクリレートと両性イオン型エチレン性不飽和単量体の共重合物を例に挙げて説明する。窒素ガス導入管、コンデンサー、および撹拌機を備えた反応容器に、n-ブチルアクリレート、両性イオン型エチレン性不飽和単量体、エタノールを仕込み、窒素置換しながら70℃に昇温した。
モノマー成分の濃度は、反応時間の短縮と重合時の発熱を考慮して20〜50重量%の範囲で行なう事が好ましい。窒素置換後、開始剤のアゾビスイソブチルニトリルを添加し、還流条件下で反応させた。反応時間は、残留モノマー成分の低減を考慮して5〜24時間の範囲である事が好ましい。反応の終了や残留モノマーの確認は、ガスクロマトグラフィーなどの一般的な分析方法で確認する事ができる。反応終了後、冷却して目的のピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体を得た。
【0031】
得られたピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体について、重量平均分子量を測定した。ここで言う重量平均分子量とは、ポリエチレングリコールを標準サンプルとしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定した重量平均分子量の値である。
【0032】
本発明の生体適合性材料用樹脂組成物は、前記ピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体を含有するものであり、生態適合性に悪影響を及ぼさない範囲で、他の樹脂、添加剤、溶剤などが含まれていても構わない。
【0033】
本発明のピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体を用いた、生体適合性材料用樹脂組成物からなる被膜を形成する方法は、特に限定されず、例えば、医療用被膜形成樹脂組成物を基材に、塗布、スプレー、蒸着をした後に、熱乾燥させて被膜を形成する方法、重合前のモノマー組成物と重合開始剤とを混合した液体を基材に塗布した後、熱や光でモノマー組成物を重合させ、被膜を形成する方法などが挙げられる。
【0034】
前記基材を構成する素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミック、金属などが挙げられる。これらの素材は、それぞれ単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0036】
<両性イオン型エチレン性不飽和単量体の製造>
[実施例1]
還流器および撹拌機を備えた反応容器に、2−ヒドロキシ−3− アクリロイルオキシプロピルメタクリレート93.0重量部、ピロリジン-2-カルボン酸50.0重量部、エタノール178.8重量部を仕込んだ。撹拌しながら昇温した後、70℃で8時間反応させた。反応終了後、減圧乾燥によりエタノールを除去し、目的物を得た。収率は93%であった。得られた生成物について、1H−NMRおよび元素分析をおこなった。
[1H−NMR]
NMRスペクトルは、日本電子製ECX−400P(400MHz)を使用して測定した。測定時の重溶媒には、重クロロホルム(CDCl3)を用いた。
[元素分析]
元素分析は、パーキンエルマー社製、2400CHNを使用して測定した。
[1H−NMRスペクトル]
(δ値)1.90−1.98(5H)、2.21(1H)、2.33(1H)、2.94(3H)、3.2−3.6(4H)、3.70(1H)、4.15−4.40(5H)、5.61(1H)、6.14(1H)
[元素分析]
C15H23N1として
理論値(%):H=10.67 C=82.89 N= 6.44
実測値(%):H=10.43 C=82.93 N= 6.64
上記の結果から、生成物が次式で表される両性イオン型エチレン性不飽和単量体であると同定した。
【0037】
【化3】
【0038】
[実施例2]
還流器および撹拌機を備えた反応容器に、4−ヒドロキシブチルアクリレート138.0重量部、ピリジン76.0重量部を仕込んだ。氷冷しながら、メタクリル酸クロリド100.0重量部を1時間かけて滴下した。4時間反応させた後、ピリジン塩酸塩をろ過で取り除き、原料になる4-(アクリロイルオキシ)ブチルメタクリレートを130.0重量部得た。
還流器および撹拌機を備えた反応容器に前記で得た4-(アクリロイルオキシ)ブチルメタクリレート100.0重量部、ピロリジン-2-カルボン酸51.5重量部、エタノール151.5重量部を仕込んだ。撹拌しながら昇温した後、70℃で5時間反応させた。反応終了後、減圧乾燥によりエタノールを除去し、アセトンで再結晶をおこない目的物を得た。収率は85%であった。得られた生成物について、1H−NMRおよび元素分析をおこなった。
[1H−NMRスペクトル]
(δ値)1.60(4H)、1.90−1.98(5H)、2.31(2H)、2.89(3H)、3.29(1H)、3.52(3H)、3.73(1H)、3.81(1H)、4.12(4H)、5.61(1H)、6.14(1H)
[元素分析]
C16H25N1として
理論値(%):H=10.89 C=83.06 N= 6.05
実測値(%):H=10.75 C=83.28 N= 5.97
上記の結果から、生成物が次式で表される両性イオン型エチレン性不飽和単量体であると同定した。
【0039】
【化4】
【0040】
[実施例3]
還流器および撹拌機を備えた反応容器に、2−ヒドロキシエチルアクリレート37.4重量部を仕込み、撹拌しながら80℃に昇温した。そこに滴下槽から2−イソシアナトエチルメタクリレート50.0重量部を1時間かけて滴下し、さらに10時間反応させた。冷却後、反応槽にピロリジン-2-カルボン酸37.1重量部、エタノール155.7重量部をさらに添加した。撹拌しながら再度昇温した後、70℃で10時間反応させた。反応終了後、減圧乾燥によりエタノールを除去し、アセトンで再結晶をおこない目的物を得た。収率は94.7%であった。得られた生成物について、1H−NMRおよびIR分析、元素分析をおこなった。
[1H−NMRスペクトル]
(δ値)1.90−1.98(5H)、2.31(2H)、2.89(3H)、3.29(1H)、3.52(3H)、3.73(1H)、3.81(1H)、4.14−4.36(6H)
5.61(1H)、6.14(1H)
[元素分析]
C17H26N2として
理論値(%):H=10.14 C=79.02 N= 10.84
実測値(%):H=10.20 C=79.25 N=10.55
上記の結果から、生成物が次式で表される両性イオン型エチレン性不飽和単量体であると同定した。
【0041】
【化5】
【0042】
[実施例4]
還流器および撹拌機を備えた反応容器に、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート87.4重量部、ピロリジン-2-カルボン酸44.5重量部、エタノール164.9重量部を仕込んだ。撹拌しながら昇温した後、70℃で12時間反応させた。反応終了後、シリカゲルカラムクロマトグラフィ−(溶媒:クロロホルム・メタノール・水混合溶剤)により、1分子中に2つのピロリジン-2-カルボン酸が付加された副生成物を除去し、1分子中に1つのピロリジン-2-カルボン酸だけ付加された目的物を分取した。減圧乾燥により混合溶媒を除去し、目的物を得た。収率は67%であった。
得られた生成物について、1H−NMRならびに元素分析をおこなった。
[1H−NMRスペクトル]
(δ値)1.24(4H)、1.61(4H)、1.90−1.98(5H)、2.31(2H)、2.89(3H)、3.29(1H)、3.52(3H)、3.73(1H)、3.81(1H)、4.14(4H)、5.92(1H)、6.16(1H)、6.45(1H)
[元素分析]
C17H27N1として
理論値(%):H=11.09 C=83.20 N= 5.71
実測値(%):H=11.18 C=83.18 N= 5.57
上記の結果から、生成物が次式で表される両性イオン型エチレン性不飽和単量体であると同定した。
【0043】
【化6】
【0044】
[ピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体の製造]
[実施例5]
還流器および撹拌機を備えた反応容器に実施例1で得た両性イオン型エチレン性不飽和単量体30.0重量部、ブチルメタクリレート70.0重量部、エタノール150.0重量部を仕込んだ。撹拌しながら70℃に昇温し、窒素置換後、開始剤のアゾビスイソブチルニトリルを5重量部添加し、還流条件下で10時間反応させた。冷却後、目的のピロリジン-2-カルボン酸残基含有重合体を得た。重量平均分子量は235000であった。得られた重合体をジエチルエーテルで再沈し、30℃で30時間、真空乾燥して溶剤を除去し、重合体の粉末を得た。
【0045】
[重量平均分子量]
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリエチレングリコール換算の値。
装置;GPC SYSTEM24H(昭和電工社製)
カラム;SB−803HQ+SB−804HQ(昭和電工社製)
溶出溶媒;20mMリン酸緩衝液
標準物質;ポリエチレングリコール(アジレント・テクノロジー社製)
流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;40℃。
【0046】
[実施例6から11および比較例1から5]
実施例5と同様に表1に示す配合組成で重合体を調製した。得られた重合体の溶液を40℃で24時間、真空乾燥して溶剤を除去した。
尚、比較例1〜4の樹脂の重量平均分子量は、カラムを下記の条件に変更して重量平均分子量を算出した。
カラム;LF−604×2本(昭和電工社製)
溶出溶媒;THF
標準物質;ポリスチレン(昭和電工社製)
流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;10μL、カラム温度;40℃。
【0047】
【表1】
【0048】
<生体適合性の評価>
重合体コーティング膜のタンパク質吸着抑制試験
実施例5〜11、ならびに比較例1〜5で得た重合体1.0gをエタノール100.0gに溶解し、コーティング溶液を調製した。ポリスチレン製の試験管(12×75mm)にコーティング液を満たし30分間静置後、コーティング液を捨て、50℃で3時間乾燥した。ウシ血清アルブミン0.5重量%のリン酸緩衝液4.0mLを樹脂でコーティングされた試験管に入れ、24時間インキュベートした後、ウシ血清アルブミン0.5重量%のリン酸緩衝液で再度洗浄した。その後、ラウリル硫酸ナトリウムを添加して試験管内壁に吸着したタンパク質を溶出させ、このPBS中のタンパク質の濃度をMicro BCA Protein Assay Kit(タカラバイオ社製)により測定した。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2の結果から、実施例1から4の両性イオン型エチレン性不飽和単量体を用いて重合した実施例5〜11の重合体は、両性イオン基を有さない比較例1〜3の重合体よりもたんぱく質の吸着量が少なく、生体適合性に優れる事がわかった。また、2−メタクリロリルオキシエチルホスホコリン(MPC)を構成単位として有する比較例4の重合体、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン(CMB)を構成単位として有する比較例5の重合体と比較しても生体適合性に優れている事がわかった。