特許第6064886号(P6064886)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064886
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】熱伝導性応力緩和構造体
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20170116BHJP
   H05K 7/20 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   H01L23/36 D
   !H05K7/20 F
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-256237(P2013-256237)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2014-143400(P2014-143400A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年7月10日
(31)【優先権主張番号】特願2012-282349(P2012-282349)
(32)【優先日】2012年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 由香
(72)【発明者】
【氏名】北條 浩
(72)【発明者】
【氏名】木村 英彦
(72)【発明者】
【氏名】川本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】松森 唯益
(72)【発明者】
【氏名】近藤 継男
(72)【発明者】
【氏名】長田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】臼井 正則
【審査官】 豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−144237(JP,A)
【文献】 特開2012−141093(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/008467(WO,A1)
【文献】 特開平08−186203(JP,A)
【文献】 特開昭63−313843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/29
23/34 −23/36
23/373−23/427
23/44
23/467−23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温体と低温体の間にあり該高温体から該低温体へ向かう伝熱方向へ熱を伝導すると共に該高温体と該低温体の間で発生し得る熱応力を緩和する熱伝導性応力緩和構造体であって、
熱伝導材が非接合状態で集合した集成体からなり、
該熱伝導材は、前記伝熱方向に沿って連続的に延在する熱伝導シート材であり、
該集成体は、該熱伝導シート材が巻回された巻回体からなることを特徴とする熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項2】
前記熱伝導材は、材質または特性の異なる二種以上からなる請求項1に記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項3】
前記巻回体は、さらに、前記熱伝導シート材が外周囲に巻回される芯材を有する請求項1または2に記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項4】
前記芯材は、板状である請求項に記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項5】
前記熱伝導シート材は、同種材からなるときよりも接触時の摩擦係数が低減する異種材からなる請求項1〜のいずれかに記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項6】
前記熱伝導シート材は、金属系シート材と炭素系シート材が非接合状態で隣接している請求項1〜のいずれかに記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項7】
前記金属系シート材は、アルミニウム系シート材である請求項に記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項8】
前記巻回体は、前記高温体側または前記低温体側の端部にある前記熱伝導シート材の少なくとも一部を接合状態で保持する保持端部を有する請求項1〜のいずれかに記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項9】
前記熱伝導シート材は金属系シート材と炭素系シート材からなり、
前記保持端部は金属からなり、
該金属系シート材の端部は該保持端部と接合状態にあり、
該炭素系シート材の端部は該保持端部と非接合で密接した状態にある請求項に記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項10】
高温体と低温体の間にあり該高温体から該低温体へ向かう伝熱方向へ熱を伝導すると共に該高温体と該低温体の間で発生し得る熱応力を緩和する熱伝導性応力緩和構造体であって、
熱伝導材が非接合状態で集合した集成体からなり、
該集成体は、前記高温体側または前記低温体側の端部にある該熱伝導材の少なくとも一部を接合状態で保持する保持端部を有し、
該熱伝導材は金属系熱伝導材と炭素系熱伝導材からなり、
該保持端部は金属からなり、
該金属系熱伝導材の端部は該保持端部と接合状態にあり、
該炭素系熱伝導材の端部は該保持端部と非接合で密接した状態にあることを特徴とする熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項11】
前記集成体は、前記伝熱方向に延在する熱伝導線材を束ねた結束体である請求項10に記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項12】
前記熱伝導材の少なくとも一部は、隣接間の摩擦係数を低減させる低摩擦層を表面に有する請求項1〜11のいずれかに記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項13】
前記集成体は、前記熱伝導材の隣接間に空隙が形成されている請求項1〜12のいずれかに記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項14】
さらに、前記熱伝導材の集合状態を保持する保持部を外周側の少なくとも一部に有する請求項1〜13のいずれかに記載の熱伝導性応力緩和構造体。
【請求項15】
前記熱伝導材は少なくとも金属系熱伝導材を含み、
該熱伝導材と有機系材とを集合させた予備集成体を得る予備集成工程と、
該予備集成体から該有機系材を焼失または溶解させて消失させる消失工程とを備え、
請求項13に記載の集成体が得られることを特徴とする熱伝導性応力緩和構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温体から低温体への熱伝導性と熱応力の緩和性に優れた熱伝導性応力緩和構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼や反応等による化学的発熱、回路を電流が流れることによる電気的発熱(ジュール発熱)など、種々の装置や器機で熱が発生する。このような装置や器機を安定して作動させるためには、その熱を滞留させず高温側から低温側へ効率的に熱伝導する必要がある。また装置や器機を構成する各物体(例えば高温体、低温体およびその両者間に存在する各物体)には、温度差(または温度勾配)と熱膨張係数差に応じた熱応力が生じる。装置や器機の高耐久性や高信頼性を図るには、それら(例えば高温体、低温体およびその両者間に存在する各物体)の熱応力の低減または緩和も重要となる。
【0003】
このような観点から、高温体と低温体の間には、熱伝導性と熱応力緩和性を両立し得る熱伝導性応力緩和構造体が介装され得る。このような熱伝導性応力緩和構造体に関する記載は、例えば、下記の特許文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4711165号公報
【特許文献2】特許第4431679号公報
【特許文献3】特許第3673436号公報
【特許文献4】特開平10−168502号公報
【特許文献5】特許第4621531号公報
【特許文献6】特許第4957208号公報
【特許文献7】特許第4380774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4には、炭素材料と金属材料を一体化した複合材料に関する記載がある。これら複合材料からなる構造体は、基本的に、金属材料のみからなる構造体よりも高熱伝導で低熱膨張であり、熱伝導性と熱応力緩和性との両立が可能となる。
【0006】
特許文献5〜7には、発熱源であるIGBT等の半導体素子を搭載した絶縁基板と、半導体素子の発熱を絶縁基板越しに吸放熱する冷却器と、それらの間に介装された応力緩和部材とを有するパワーモジュールに関する記載がある。特に特許文献5および特許文献6では、貫通穴やスリットを設けて低剛性にした金属製の応力緩和部材を提案している。また特許文献7では、金属粉末と樹脂バインダーの圧粉成形体からなる応力緩和部材を提案している。このような応力緩和部材は、金属部分に絶縁基板と冷却器の間の熱伝導を担わせると共に、その金属部分の変形を容易にすることで半導体素子や絶縁基板の熱応力を緩和している。
【0007】
もっとも、上述した複合材料は、炭素材料と金属との濡れ性が悪い。このため、それらの結合には、加圧、加熱を伴った焼結、含浸などが必要となり、製造が容易ではない。また、アルミニウムと炭素材料の複合材は、放電焼結や含浸によって、低熱伝導性で潮解性の炭化物が形成され、良好な熱伝導材とならない。また、これらの複合材は、金属単体よりも熱膨張率を低くして熱応力緩和を図っているが、十分な効果は得られていない。さらに上述した応力緩和部材では、熱応力緩和を図るために、貫通穴やスリット、樹脂部を設けているが、その分だけ熱伝導性が低下する、従って、そのような応力緩和部材では、熱伝導性と熱応力緩和性の両立が不十分である。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、製造が比較的容易であり、熱伝導性と熱応力緩和性を両立させ得る新たな形態の構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、薄いグラファイトシートとアルミニウム箔を巻回した巻回体を、高温体と低温体の間に配置して、両者間における熱伝導性と、両者間で発生し得る熱応力緩和性を両立させることを着想した。この着想を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《熱伝導性応力緩和構造体》
(1)本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、高温体と低温体の間にあり該高温体から該低温体へ向かう伝熱方向へ熱を伝導すると共に該高温体と該低温体の間で発生し得る熱応力を緩和する熱伝導性応力緩和構造体であって、熱伝導材が非接合状態で集合した集成体からなり、該熱伝導材は、前記伝熱方向に沿って連続的に延在する熱伝導シート材であり、該集成体は、該熱伝導シート材が巻回された巻回体からなることを特徴とする。
【0011】
(2)本発明の熱伝導性応力緩和構造体(適宜、単に「構造体」という。)は、先ず、熱伝導材が集合した集成体からなるため、高温体と低温体の間に介装されると、その熱伝導材により高温体から低温体へ効率的に熱伝導がなされる。特に熱伝導材が、連続的に延在する熱伝導シートであると、高い熱伝導性が効率的に発揮されて好ましい。
【0012】
ところで、高温体から低温体へ熱伝導がなされる際、高温体、低温体、その両者間に存在する各物体および本発明の構造体が拘束された状態にあると、それぞれの間で、温度差と熱膨張係数に応じた熱応力が生じる。ここで本発明の熱伝導性応力緩和構造体(集成体)は、熱伝導材を非接合状態で集合させているため、隣接相互間にすべり得る界面を有する。これにより、変形領域が分断され、集成体内部の各変形領域の拘束が小さくなることで、熱応力が緩和される。また、バルク体と比較して、熱伝導性応力緩和構造体(集成体)は低剛性であるため、本発明にかかる構造により、熱応力を逃すように変形する。これらの本構造体の熱応力緩和効果によって、高温体、低温体、およびその両者間に存在する各物体に生じる熱応力と形状変化が大幅に抑制される。
【0013】
こうして本発明の熱伝導性応力緩和構造体を高温体と低温体の間に設けることにより、高温体から低温体への熱伝導が確保されると共に、高温体、低温体またはその両者間に存在する各部材に作用する熱応力が大幅に低減または緩和され、発熱源を伴う装置や器機等の信頼性や耐久性等の向上が図られる。
【0014】
なお、本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、熱伝導材を非接合状態で集合させることにより得られるため、製造が比較的容易である。このため熱伝導性応力緩和構造体自体や熱伝導性応力緩和構造体を用いた装置や器機等の低コスト化も図り得る。
【0015】
《熱伝導性応力緩和構造体の製造方法》
(1)本発明は、上述した熱伝導性応力緩和構造体の製造方法としても把握できる。例えば、熱伝導材である熱伝導シート材を重層して重層体を得る重層工程、その熱伝導シート材を巻回して巻回体を得る巻回工程、その熱伝導シート材を折り重ねて重折体を得る重折工程、または熱伝導線材を束ねて結束体を得る結束工程等を備える熱伝導性応力緩和構造体の製造方法として本発明を把握することができる。さらに本発明の製造方法は、それら熱伝導材の集合状態を保持する保持部を外周側の少なくとも一部に形成する保持工程、高温体側または低温体側の保持端部を形成する端部形成工程等を有すると好適である。
【0016】
(2)本発明に係る集成体は、非接合状態にある集成方向(積層方向、巻回方向等)に隣接した熱伝導材(熱伝導シート材等)が、密接状態で集合したものの他、その隣接間に所定の空隙(クリアランス)が形成された離間状態で集合したものでもよい。この際、そのクリアランスは全体的に一定でもよいし、熱伝導性や熱応力緩和性を考慮して領域毎に調整され、変化していてもよい。熱伝導材が複数種からなる場合、それぞれの熱伝導材間に空隙が存在してもよいし、重なった複数の熱伝導材毎に空隙が存在してもよい。例えば、熱伝導材が金属系熱伝導材と炭素系熱伝導材からなる場合、密接した金属系熱伝導材と炭素系熱伝導材を1セットとして、各セット間に空隙が形成されていてもよい。
【0017】
このような集成体は、熱伝導シート材の巻回数や巻回力等を調整することにより形成される場合もあるが、隣接する熱伝導材間のクリアランスを積極的に調整または制御する場合には次のような製造方法を用いると好ましい。すなわち、少なくとも金属系熱伝導材を含む熱伝導材と有機系材とを集合させた予備集成体を得る予備集成工程と、該予備集成体から該有機系材を焼失または溶解させて消失させる消失工程とを備え、上述した集成体が得られることを特徴とする熱伝導性応力緩和構造体の製造方法を用いると好ましい。
【0018】
暫定的に有機系材(例えば有機系シート材)を介して金属系熱伝導材(例えば金属系シート材)を集成(例えば積層または巻回)した予備集成体を形成することにより、金属系熱伝導材の隣接間隔を有機系材の厚みや積層数等に応じて自由に調整、変更することが可能となる(予備集成工程)。そして、この予備集成体を加熱したり溶媒に浸漬等したりすれば、有機系材だけを焼失または溶解除去等することができる(消失工程)。こうして、金属系熱伝導材の隣接間に所望のクリアランスを形成した集成体を容易に得ることが可能となる。なお、予備集成体を構成する金属系熱伝導材と有機系材は、それぞれが独立したものでも、予め一体化されたもの(例えば金属系熱伝導材の表面に有機系材がコートされたもの)でもよい。
【0019】
《その他》
(1)本発明でいう「非接合状態」とは、集成体の端部または外周部等で接合または結合等される一部を除く大部分で、熱伝導材が化学的または機械的に接合または結合等をしておらず、隣接相互間で滑りが生じ得る状態をいう。化学的結合とは、例えば熱伝導材間で成分が反応し、相互に固溶したり、新しい生成物を形成する場合を指す。機械的結合とは、例えば、故意に凹凸を付けてかしめる場合等を指す。
【0020】
(2)本明細書でいう高温体と低温体は、本発明の熱伝導性応力緩和構造体を説明するための便宜上の表現である。従って、本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、高温体や低温体に直接接合されている必要はない。また高温体と低温体は、必ずしも本発明の熱伝導性応力緩和構造体が用いられる器機や装置の構成部材である必要もない。例えば、高温体や低温体は、器機等の内部または外部に存在する気体や液体などの流体でもよい。換言するなら、本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、上述した高温接合側または低温接合側の少なくとも一方で、熱伝導性と共に熱応力緩和性が要求される状況で用いられるものであればよい。なお、高温体と低温体の温度差は定常的でも変動的でもよい。
【0021】
(3)本明細書でいう「α系材」とは、特定の材料(α材)または元素(α)を主成分とする材料である。この主成分とは、敢えていうと、α材またはα元素が全体(100質量%)に対して50質量%超である場合を意味する。また「α系…材」とは、そのようなα系材からなる各種部材を意味する。
【0022】
(4)本明細書でいう「シート材」は、シート状の他、テープ状、フィルム状等の比較的薄いものを広く含み、その大きさや厚さ等は問わない。
【0023】
(5)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】熱伝導性応力緩和構造体を構成する重層体の第一形態例を示す模式図である。
図1B】重層体の第二形態例を示す模式図である。
図1C】重層体の第三形態例を示す模式図である。
図1D】重層体の第四形態例を示す模式図である。
図1E】重層体の第五形態例を示す模式図である。
図1F】重層体の第六形態例を示す模式図である。
図1G】重層体の第七形態例を示す模式図である。
図1H】重層体の第七形態例に係る重層体を高温体と低温体の間に介装した構造(参考例)を示す模式図である。
図1I】重層体の第八形態例を示す模式図である。
図1J】第八形態例の重層体を高温体と低温体の間に介装した構造(参考例)を示す模式図である。
図1K】並列配置した第八形態例の重層体を高温体と低温体の間に介装した構造(参考例)を示す模式図である。
図1L】従来のヒートスプレッダを高温体と低温体の間に介装した構造を示す模式図である。
図1M】第二形態例の重層体をカットしたものの切断面部に保持端部を設けた接合体を示す模式図である。
図2A】集成体の一実施例を示す写真である。
図2B】その拡大写真である。
図3A】その集成体を用いた接合体の一実施例を示す写真である。
図3B】その断面の拡大写真である。
図3C】その断面の接合界面近傍を観察したSEM(BSE)写真である。
図4】接合体に対する冷熱サイクル試験の温度履歴を示す説明図である。
図5A】実施例に係る接合体の最表面における冷熱サイクル試験前後のプロファイルを示すグラフである。
図5B】比較例に係る接合体の最表面における冷熱サイクル試験前後のプロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で説明する内容は、本発明の熱伝導性応力緩和構造体のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0026】
《熱伝導材》
熱伝導材は、面方向(法線方向)の熱伝導性に優れ、連続体であることが好ましい。その種類(材質や形態等)や特性を問わない。装置や器機等の仕様に応じて、適切な熱伝導性、低熱膨張性、剛性、強度さらには摩擦特性等を有する熱伝導材が適宜用いられる。また、熱伝導材は一種のみでもよいし、材質または特性の異なる二種以上を組み合わせてもよい。例えば、高熱伝導性の炭素系熱伝導材と、剛性、強度、加工性、コスト等に優れる金属系熱伝導材を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
炭素系熱伝導材は、例えば、黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、炭素繊維等からなる。金属系熱伝導材は、例えば、アルミニウム、銅、銀、亜鉛、スズ、鉄、ニッケル、マグネシウム、チタン、タングステン、モリブデン等またはそれらの合金からなる。熱伝導材の形態は、例えば、シート状(テープ状、フィルム状等を含む)または繊維状等である。
【0028】
複数種の熱伝導材を組み合わせる場合、各熱伝導材が交互に隣接していてもよいし、熱伝導性応力緩和構造体を用いる装置や器機の仕様や特性等に応じて、配置領域を調整してもよい。例えば、高熱伝導性を必要とする領域(例えば中央部)には高熱伝導性な炭素系熱伝導材を集中的に配置し、剛性や強度を必要とする領域(例えば外周部)には高剛性な金属系熱伝導材を集中的に配置してもよい。
【0029】
熱伝導性応力緩和構造体の使用時等に隣接する熱伝導材が接触する場合、その隣接間に作用する摩擦力が小さくて接触面同士が滑り易いほど、集成体に作用する熱応力が緩和され易い。そこで、隣接する熱伝導材の少なくとも一方は、接触時の摩擦係数を低減できる低摩擦面を有するものであると好ましい。このような熱伝導材は、上述したような炭素系熱伝導材のように全体が低摩擦材からなる場合の他、接触時の摩擦係数を母材よりも低減させる低摩擦層が表面に形成されたものでもよい。なお、低摩擦面または低摩擦層は、熱伝導材の表面全体にある他、その表面の一部に分布しているものでもよい。
【0030】
《集成体/熱伝導性応力緩和構造体》
集成体は、熱伝導材の集合形式、配置等を変更することにより種々の形態をとり得る。例えば、集成体は、伝熱方向に延在する熱伝導シート材を重ねた重層体とすることができる。この重層体は、熱伝導シート材を非接合状態で巻回した巻回体でも、熱伝導シート材を非接合状態で積層した積層体でも、熱伝導シート材を非接合状態でつづら折りした重折体等でもよい。さらに重層体は、それら巻回体、積層体、重折体等の一種以上を複数寄せ集めた集合重層体でもよい。これらの一例を図1A図1Kおよび図1Mに示した。なお、特に断らない限り、断面図または平面図で示した場合はいずれも紙面に垂直な方向が伝熱方向であり、その方向に熱伝導シート材が延在している。この場合、巻回方向、積層方向または重折方向は、その伝熱方向(熱伝導材の延在方向)にほぼ直交する方向となる。
【0031】
図1Aには重層体の一例である巻回体L1を示した。巻回体L1は、炭素系シート材11(黒色部分)と金属系シート材12(灰色部分)を非接合状態で円柱状(渦巻状)に巻回した集成体である。なお、金属系シート材12の外周側端部には、レーザー溶接等により接合された縦方向(側線方向)に延在する結合部121が形成されている。この結合部121により、各シート材の巻回状態(熱伝導材の集合状態)が保持されている。このように本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、熱伝導材の集合状態を保持する保持部を外周側の少なくとも一部に有すると好適である。
【0032】
なお、本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、上記のような柱状の重層体(例えば円柱状の巻回体L1)を適当な幅(厚さ)でワイヤーカット等した盤状の重層体(例えば円盤状の巻回体)であってもよい。また、上下の物体の形状に合わせて、円柱状から角柱状に加工してもよい。この点は以下に説明する各重層体でも同様である。さらに、低温体が高温体よりも大きい場合は、構造体を円錐状にすると好適である。
【0033】
図1Bには重層体の一例である積層体L2を示した。積層体L2は、炭素系シート材21(黒色部分)と金属系シート材22(灰色部分)を非接合状態で一方向に積み重ねた集成体である。金属系シート材22の外周側端部は、金属系シート材22と同材質の金属系シート材23で囲繞されている。また、その金属系シート材23の縦方向(紙面に垂直な方向)に延在する両端部は、レーザー溶接等により接合され、結合部231(保持部)となっている。
【0034】
なお、積層体L2の伝熱方向は、上述した紙面に垂直な方向以外に、実際の伝熱方向に合わせて紙面上の任意の方向とすることもできる。逆に、紙面上の縦方向(上下方向)は、伝熱方向として好ましくない。この方向の伝熱は、炭素系シート材21と金属系シート材22の間の熱伝達が繰り返されることになり、熱抵抗が増大して、集成体全体ひいては熱伝導性応力緩和構造体全体としての熱伝導性が低下し得る。
【0035】
図1Cには重層体の一例である重折体L3を示した。重折体L3は、長い炭素系シート材31(黒色部分)を非接合状態で一定幅で折り重ねた集成体である。折り重ねた炭素系シート材31の外周は、金属系シート材33により方形状に囲繞されている。また、その金属系シート材33の縦方向(紙面に垂直な方向)に延在する両端部はレーザー溶接等により接合され、結合部331(保持部)となっている。
【0036】
なお、図1Cでは、説明の便宜上、折り重なった炭素系シート材31の隣接間に空隙(白い部分)を描いている。熱伝導性応力緩和構造体の要求仕様に応じて、そのような空隙を設けても、設けなくてもよい。例えば、単位体積あたりの熱伝導量を増加させる場合、炭素系シート材31を非接合でかつ密接した状態にするとよい。また、熱応力緩和効果を増加させる場合、非接合でかつ離間した(空隙を設けた)状態とするとよい。この点は、図1A図1Bまたは以下の図1D等についても同様である。
【0037】
図1Dには集合重層体の一例である集合巻回体L4を示した。集合巻回体L4は、長い炭素系シート材41(黒色部分)を非接合状態で略正三角形状に巻回した単位巻回体4を6個用意し、これらを非接合状態で密接して略正六角形状に集合配置した集成体である。それらの外周は、金属系シート材43により正六角形状に囲繞されている。また、その金属系シート材43の縦方向(紙面に垂直な方向)に延在する両端部は、レーザー溶接等により接合され、結合部431(保持部)となっている。
【0038】
図1Eには、重層体の一例である積層体L5を示した。積層体L5は、所定幅の空隙51を介在させて金属系シート材52(金属系シート材22と同様)を一方向に積み重ねた集成体であり、隣接する金属系シート材52は空隙51により非接合状態となっている。金属系シート材52の外周側端部は、金属系シート材52と同材質の金属系シート材53で囲繞されており、金属系シート材53の縦方向(紙面に垂直な方向)に延在する両端部は、レーザー溶接等により接合され、結合部531(保持部)となっている。
【0039】
積層体L5は、熱伝導を担う金属系シート材52の隣接間に空隙51が形成されているため、金属系シート材52の変形が容易となり、高い熱応力緩和性を発揮する。なお、図1Eに示すように、適宜、金属系シート材52の厚みを変更した金属系シート材521を所望領域に配置したり、空隙51の幅や配置間隔を領域によって変更または調整してもよい。
【0040】
このような空隙51は、上述したように、所望厚さの有機系シート材と金属系シート材52とを交互に積層した予備積層体(予備集成体)を、加熱または溶媒に浸漬等して、その有機系シート材を除去する(消失させる)ことにより容易に形成され得る。その際、有機系シート材と金属系シート材に替えて、予め有機系材と金属系材が積層された積層シートを用いてもよい。また、有機系シート材または有機系材の消失工程は、重層体に保持端部を形成するためにろう付け接合等を行う加熱工程(端部形成工程)と兼用させてもよい。
【0041】
図1Fには、重層体の一例である積層体L6を示した。積層体L6は、表面に低摩擦コート(低摩擦層)621が形成された金属系シート材62が一方向に積み重ねられた集成体からなる。この場合、各金属系シート材62は低摩擦コート621を介して非接合状態で隣接している。金属系シート材62の外周側端部は、金属系シート材62と同材質の金属系シート材63で囲繞されており、金属系シート材63の縦方向(紙面に垂直な方向)に延在する両端部は、レーザー溶接等により接合され、結合部631(保持部)となっている。
【0042】
低摩擦コート621は金属系シート材62の隣接間に存在すればよく、金属系シート材62の片面にのみ形成されていても両面に形成されていてもよい。低摩擦コート621は、例えば、CVD、PVD等の表面処理により形成される各種の非晶質炭素膜(DLC膜)またはセラミックスコーティング(例えばTiN膜)、各種のメッキ膜(例えばクロムめっき膜)等からなる。
【0043】
積層体L6は、熱伝導を担う金属系シート材62が隣接界面で低摩擦コート621を介して滑り、変形領域が分断されるため、熱応力緩和性に優れる。従って、本発明に係る重層体を構成する熱伝導シート材は、巻回体L1や積層体L2等のように接触時の摩擦係数が同種材よりも低減され易い異種材(例えば炭素系シート材と金属系シート材)の組合せからなってもよいが、積層体L5、L6のように空隙や低摩擦層を介することを前提として同種材(一種類の熱伝導シート材)からなってもよい。
【0044】
図1Gには、上述した柱状の積層体L2を所定厚さにカットした盤状(板状)の重層体m21と重層体m22を、炭素系シート材21の延在方向が交差するように合体させて合体重層体L7を得る場合を示した。合体重層体L7は、重層体m21、m22中の炭素系シート材21の延在方向に強く熱拡散されるため(図1G中の矢印)、三次元高熱伝導性を発揮する。
【0045】
このように炭素系シート材21の延在方向が交差するように重層体m21、m22を合体させることにより、三次元的に熱伝導性の向上を図れる。また、熱伝導シート材21の延在方向が交差しているため、その面内方向に作用する熱応力特性が均一化し、合体重層体L7ひいては熱伝導性応力緩和構造体全体として、熱応力を緩和し得る。なお、図1Gでは、2つの重層体を直交して合体させる場合を示したが、交差方向や合体数等は適宜調整され得る。また重層体m21と重層体m22は、柱状の重折体L3等をカットしたものでもよい。参考例として、この合体重層体L7を高温体Hと低温体Lの間に介装した一例である構造S1を図1Hに示す。
【0046】
構造S1では、重層体m21側に高温体Hが配置され、重層体m22側に低温体Rが配置されている。この場合、高温体Hの発熱は、合体重層体L7を介して低温体Rへ放熱される。具体的にいうと、高温体Hの発熱は、重層体m21を構成する熱伝導シート材21の延在方向(図中に示す大きい矢印方向)へ強く熱拡散され、さらに重層体m21に接する重層体m22の熱伝導シート材21を介して、重層体m22の熱伝導シート材21の延在方向(重層体m21の熱伝導シート材21の延在方向に直交する方向、すなわち、図中に示す小さい矢印方向)に強く熱拡散される。そして、重層体m22から低温体Rへ全面的に熱伝達されて放熱される。なお、重層体m21において、高温体H直下から熱伝導シート材21の延在方向に投影された領域(図中に太い矢印で示す、強く熱拡散される領域)の両側にある領域は、重層体m22の熱伝導シート材21の延在方向に拡散された熱量を受け取る熱マスとして機能し得る。また、合体重層体L7による熱応力の緩和性は、重層体m21による熱応力の緩和性と重層体m22による熱応力の緩和性との相加平均的な特性となり得る。
【0047】
図1Iには、巻回体L1とは異なるタイプの巻回体L8を示した。巻回体L8は、板状の芯材83の周囲に、炭素系シート材81(黒色部分)と金属系シート材82(白色部分)を非接合状態で板状に巻回した集成体である。金属系シート材82が延在する端部はレーザー溶接等により接合された結合部821(保持部)となっている
【0048】
このように本発明に係る巻回体は、熱伝導シート材が外周囲に巻回される芯材を有してもよい。この芯材は、上述した板状(角柱状)の他、適宜、柱状(例えば円柱状)、筒状(例えば円筒状)等とすることができる。
【0049】
参考例として、図1Jには、長板状の巻回体L8を所定長さにカットした盤状の巻回体n81を高温体Hと低温体Rの間に介装した構造S2における熱流を矢印により模式的に示した。なお、図1J中に示された高温体Hの接合面は図1Iに示す巻回体L8の上面に相当し、図1J中に示された低温体Lの接合面は図1Iに示す巻回体L8の下面に相当する。
【0050】
参考例として、図1Kには、巻回体n81と同様な盤状の巻回体n82、n83を隣接配置してなる集合巻回体を、高温体Hと低温体Rの間に介装した構造S3における熱流を矢印により模式的に示した。
【0051】
いずれの場合も、高温体Hからの発熱が巻回体n81または巻回体n82、n83の全体に拡散して低温体Rの広域へ放熱される。このように本発明に係る集成体(重層体)を用いた場合、高温体から低温体へ熱が広域拡散して効率的に熱伝導され、集成体中に作用する温度分布が小さくなり、高温体との接合界面における熱応力も緩和される。
【0052】
一方、図1Lに示すように、従来のヒートスプレッダmcを高温体Hと低温体Rの間に介装した構造SCでは、矢印に示すように熱流が高温体Hから約45°の角度で低温体Rへ熱伝導される。このため、ヒートスプレッダmc中における温度分布は、高温体Hから低温体Rにかけて急激に変化するため、ヒートスプレッダmcの変形(反り等)に起因した大きな熱応力が接合界面に作用し易い。
【0053】
図1Mには、本発明の構造体の一種である接合体M1を示した。接合体M1は、積層体L2を所定厚さ(幅)でカットしてできた重層体m23の各切断面部である上端部(高温体側端部/図1Bの紙面に対する法線上方)と下端部(低温体側端部/図1Bの紙面に対する法線下方)とに、金属からなる保持端部941、942を形成したものである。保持端部941、942は、例えば、重層体m23の上下端面に薄い金属板(金属箔)をろう付け接合等することにより形成される。保持端部941、942は、各金属系シート材22と接合されるが、各炭素系シート材21とは接合されず非接合状態になっている。従って、保持端部941、942を設けた接合体M1でも熱応力緩和性は十分に確保される。また、炭素系シート材21は、金属系シート材22により強固に接合された重層体m23の上下端部にある保持端部941、942に密接した状態となっているため、炭素系シート材21を介した熱伝達も十分になされる。こうして高温体側の発熱は、保持端部941、942に対して非接合状態で密接した炭素系シート材21と接合状態の金属系シート材22とを介して、熱応力を緩和しつつ低温体側へ放熱される。
【0054】
このように本発明の集成体は、高温体側または低温体側の端部にある熱伝導材の少なくとも一部を接合状態で保持する保持端部を有すると好適である。この場合、熱伝導材は金属系熱伝導材と炭素系熱伝導材からなり、保持端部は金属からなり、金属系熱伝導材の端部は保持端部と接合状態にあり、炭素系熱伝導材の端部は保持端部と非接合で密接した状態にあると好ましい。
【0055】
本発明に係る集成体は、上述したような熱伝導シート材からなるものの他、伝熱方向に延在する熱伝導線材を束ねた結束体であってもよい。熱伝導線材は、炭素繊維(ピッチ系、PAN系等)、上述した各種金属からなるワイヤー、それら二種以上の組み合わせ等からなると好ましい。
【0056】
なお、本発明に係る保持部は、熱伝導シート材や熱伝導線材の集合状態を保持して、集成体を自立させ得るものであれば、その形態を問わない。例えば、上述したような結合部の他、環状枠体(パイプ等)、筐体(ケース等)、帯体(バンド等)などにより保持部が構成されてもよい。
【0057】
《用途》
本発明の熱伝導性応力緩和構造体は、その用途を問わないが、例えば、パワーモジュールの絶縁基板と冷却器の間に設けられると好ましい。その他、パワーモジュール、電子機器のCPU、LED照明等の発熱機器用のヒートスプレッダ、ヒートシンクまたはそれらの一部等としても用いることもできる。
【実施例】
【0058】
[集成体]
《試料の製造》
本発明に係る集成体の一実施例である試料(巻回体)を次のように製造した。先ず、アルミニウム製芯棒(φ4mm/芯材)に、幅60mm×厚さ20μmのアルミニウム箔(日本製箔株式会社製)と幅60mm×厚さ40μmのグラファイトシート(株式会社カネカ製)を、巻回機によりφ20mmまたはφ38mmとなるまで交互に密に巻き付けた。その後、アルミニウム箔の終端部を幅方向(縦方向)にレーザー溶接して結合した。
【0059】
こうしてアルミニウム系シート材(アルミニウム箔)と炭素系シート材(グラファイトシート)からなり、終端部にその集合状態を保持する保持部を有する巻回体(試料)を得た。
【0060】
《観察》
得られたφ20mm×60mmの試料を所定の長さ(厚み)で切断した試験片の断面を観察した写真を図2Aに、その一部を拡大した写真を図2Bにそれぞれ示した。写真中の黒色部分がグラファイトシートであり、灰色部分がアルミニウム箔である。
【0061】
《測定》
(1)熱伝導率
上記のように作製したφ20mm×60mmの試料2本から長さ17mm、28mmおよび47mmに切断した3種の試験片を用意した。これら試験片を用いて、断面の法線方向(各シートの延在方向)を伝熱方向としたときの熱伝導率を定常法により測定した。具体的には、その伝熱方向の定常熱流下における界面の熱抵抗を算出し、その熱抵抗分を差し引くことにより、各試験片の熱伝導率を求めた。こうして得られた熱伝導率の平均値は837W/mKで、熱伝導性は良好であった。
【0062】
(2)滑性
試料の製造に用いたアルミニウム箔(Alシート)とグラファイトシート(Grシート)を用いて、各シート間の摩擦係数をリングオンプレート試験(面圧:0.1MPa)により測定した。
【0063】
Alシート同士を摺接させたときの摩擦係数は0.72であったが、AlシートとGrシートを摺接させたときの摩擦係数は0.09であり、著しく滑性が向上することがわかった。このことから、重層シート材はAlシート同士よりも、その少なくとも一方がGrシートであると、熱伝導性応力緩和構造体の熱応力緩和性も向上し得ることがわかった。
【0064】
[接合体]
≪試験片の製造≫
上記のように作製したφ38×60mmの試料(巻回体)から、厚さ2mmの試験片(盤状の巻回体)を切り出し、その両切断面を#600の研磨紙で研磨した。この後、試験片の上面に24mm×24mm×厚さ1.5mmのDBA(Direct Brazed Aluminum)基板(三菱マテリアル株式会社製)を、その下面に24mm×24mm×厚さ9mmのAl合金板(JIS A3003)を、それぞれ中心を揃えて同時にろう付け接合した。ろう付け接合は、Alろう箔(JIS BA4004)を界面に介装して真空中で加熱することにより行なった。この際、DBA基板、試験片およびAl合金板を0.2MPa(接合圧力)で加圧しつつ600℃(ろう付け温度)に加熱した。ろう付け後、DBA基板およびAl合金板からはみ出た試験片部分は切断し、全体として24mm×24mm×厚さ12.5mmの接合体(熱伝導性応力緩和構造体)を得た。
【0065】
なお、DBA基板は、窒化アルミニウム(AlN)の上下面に純Alがメタライズされた積層基板であり、通常はこの基板上に発熱体(高温体)である半導体素子(パワーデバイス)等が搭載される。
【0066】
《観察》
(1)得られた接合体の外観写真を図3Aに示した。また、その接合体の切断面の拡大写真を図3Bに示した。図3Bからわかるように、ろう付け接合後の試験片(巻回体)は変形した状態となっていた。これは、ろう付け工程中の冷却過程で熱膨張率の大きいAl合金板と熱膨張率の小さいDBA基板との間に生じる収縮量差を、試験片が変形して吸収したためである。この試験片の変形により、ろう付け接合時にDBA基板とAl合金板の間で生じ得る熱応力が大幅に緩和され、残留応力の少ない接合体が得られる。
【0067】
(2)接合体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して得られた反射電子像(BSE)を図3Cに示した。同図の上方にある写真は、DBA基板側の接合界面近傍を観察したBSEであり、同図の下方にある写真は、Al合金板側の接合界面近傍を観察したBSEである。図3Cからわかるように、試験片(巻回体)を構成するAlシートはその上下端面でそれぞれ、DBA基板のAl層とAl合金板にAlろうにより金属接合されて一体化している。一方、Grシートは、Alシート、DBA基板のAl層およびAl合金板のいずれとも非接合状態となっていた。但し、Grシートは、それらと化合物や空隙等を生じることなく密接した状態となっていた。
【0068】
《熱膨張率の測定》
上述した厚さ2mmの試験片を別途用意した。この断面の径方向の熱膨張率を画像相関法により測定した。具体的には、画像相関解析用のマーカーを塗布した試験片を、ホットプレート上で25〜180℃まで加熱し、その様子を撮影した。そして25℃のときの画像を基準として、試験片の熱膨張ひずみの分布を計測した。加熱温度は、試験片上に取り付けた熱電対により計測した。こうして得られた試験片の熱膨張ひずみの温度依存性から算出したところ、その温度範囲(25〜180℃)における試験片の熱膨張率は13ppm/Kであった。この熱膨張率は、冷却器として用いられるアルミニウムや銅よりも低い値であり、試験片が熱応力緩和部材として好ましいことがわかった。
【0069】
《冷熱サイクル試験》
上述した試験片を接合した接合体(適宜、これを単に実施例という。)と、その試験片に替えて純Al板(JIS A1050)を同様の条件で接合した接合体(適宜、これを単に比較例という。)をそれぞれ用意した。それぞれの接合体を、冷熱衝撃試験装置(TSV−40ht、現エスペック(株)製(旧タバイ・エスペック(株)製))内の棚に設置し、加熱と冷却を繰り返す気相冷熱サイクル試験を行なった。この試験は、図4に示す温度履歴のように、大気雰囲気中で−40℃と+200℃の間で温度上昇と温度下降をそれぞれ20分間隔で繰り返して行った。この冷熱サイクルを100回行った後、各接合体を取出して、各接合体の形状、ひずみ、DBA基板中のAlNにおける残留応力をそれぞれ測定した。そして、各接合体について、冷熱サイクル試験前後におけるそれらの変化を比較した。
【0070】
(1)接合体の形状
冷熱サイクル試験前後の各接合体について、DBA基板の最表面(接合界面の反対側にあるAl層)の対角線に沿って、Z方向高さの変化(プロファイル)を画像相関法により測定した。なお、Z方向は図3Aに示した通りである。
【0071】
対角線の両端(最表面の隅)をZ=0として、各接合体の最表面におけるプロファイルを図5A(実施例)および図5B(比較例)に示した。図5Aからわかるように、実施例の場合、試験前(ろう付け接合後)の段階で最大たわみ量が13μm程度で、試験後のZ方向高さはその試験前と殆ど変化がなかった。一方、図5Bからわかるように、比較例の場合、試験前(ろう付け接合後)の段階で最大たわみ量は25μm程度で、試験後はZ方向高さが大きく変化し、最表面が大きくうねっていた。これらから実施例の場合、試験前(ろう付け接合後)の段階での最大たわみ量が比較例の場合の約半分程度となり、さらに試験前後のZ方向高さの変化も小さいことがわかった。
【0072】
(2)接合体のひずみ
100サイクルの冷熱サイクル試験後の各接合体について、上述した最表面の150℃における最大主ひずみを、室温を基準にして画像相関法により測定した。この結果、比較例に係る最大主ひずみは0.0011であったが、実施例に係る最大主ひずみは0.0007であった。これらから実施例の場合、比較例の場合よりも冷熱サイクル試験後のひずみが約40%低減することがわかった。
【0073】
(3)接合体中のAlN層における残留応力
接合体を構成するDBA基板のAlN層に、冷熱サイクル試験前後で生じている残留応力をX線回折により測定した。測定は、DBA基板の最表面側のAl層の中央部を矩形状に除去し、AlN層の一部を露出させた試料について、X線応力測定法標準(日本材料学会X線材料強度部門委員会(1997))に規定された手法に基づいて行なった。具体的には、試料水平型強力X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR)を用いて、平行ビーム法および並傾法により行った。この際、X線源:Cu−Kα 、出力:50kV−300mAとした。
【0074】
こうして得られたX線回折パターンに基づき、sinψ法により残留応力σを算出した。この結果、ろう付け接合後の冷熱サイクル試験前において、実施例:σ=−11MPa、比較例:σ=−154MPaであった。また100サイクルの冷熱サイクル試験後において、実施例:σ=−2MPa、比較例:σ=−338MPaであった。なお、「+」は引張応力を、「−」は圧縮応力を意味する。
【0075】
比較例の場合、冷熱サイクル試験前(ろう付け接合後)から圧縮残留応力が高く、試験後にその圧縮残留応力はさらに倍増していた。これに対して、実施例の場合、試験前後に作用していた圧縮残留応力は極僅かであり、ほぼゼロに近かった。
【0076】
AlN層に作用する圧縮残留応力は、Al層(最表面)に引張応力を及ぼし、この引張応力はそのAl層に搭載される半導体素子等とAl層との間における接合強度や接合寿命等を低下させ得る。従って、比較例のようにAlN層に作用する圧縮残留応力が非常に大きい接合体では、半導体素子等を含む構造の信頼性の向上を図ることは困難である。これに対して実施例のようにAlN層に作用する圧縮残留応力が非常に小さい接合体では、半導体素子等を含む構造の信頼性を大きく高めることができる。これは、高温体と低温体の間に介在する集成体(巻回体、積層体)が、高熱伝導性であると共に、接合時や冷熱サイクル時に作用する熱応力を全般的に十分に吸収し、緩和できるためである。
【符号の説明】
【0077】
L1 重層体(集成体)
L2 積層体
L3 重折体
L4 集合巻回体
11、21、31、41 炭素系シート材
12、22 金属系シート材
23、33、43 金属系シート材(囲繞)
121、231、331、431 結合部(保持部)
4 単位巻回体
図1L
図4
図5A
図5B
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1M
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C