(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発電所において外部電源の喪失が発生した場合に、各機器に対して、外部からの指令がない限り起動しないように引保持操作するための、発電所設備の操作プログラムであって、コンピュータを、
前記各機器に対して設けられ該機器を、起動させる起動モードと、停止させる停止モードと、外部電源が復旧すると自動的に起動させる自動モードと、外部電源が復旧しても外部からの指令がない限り起動しないようにする引保持モードを含む、各モードに切り替えるモード切替手段と、
前記各機器の前記モード切替手段の現在のモードが前記起動モード、前記停止モード、前記自動モードまたは前記引保持モードの何れであるかを一括して画面に表示するとともに、一括スイッチを画面に表示する表示手段と、
前記一括スイッチがオンされた場合に、起動中である前記機器を除き、自動モードであるすべての前記機器の前記モード切替手段を引保持モードに切り替える一括切替手段、
として機能させることを特徴とする発電所設備の操作プログラム。
【背景技術】
【0002】
例えば、原子力発電所において、送電線事故などによって外部電源の喪失が発生した場合、給復水系統や循環水系統あるいは補機冷却水系統などの機器が停止し、各系統の各機器のスイッチが自動モードになる。このため、その後、外部電源が復旧すると、停止していた給復水系統や循環水系統などの機器が、制御信号の状態によっては一斉に予期せずに自動起動してしまうおそれがある。このような自動起動を防止するために、各系統の機器に対するスイッチの引保持操作が実施されている。
【0003】
この引保持操作は、外部からの指令・動作がない限り起動しないように、機器のスイッチを引保持モードに切り替えるものである。そして、従来、機器操作用のディスプレイ(CRT)画面を系統ごとに切り替えながら、系統図上で対象となる機器を選択して引保持モードに切り替える、という操作をすべての系統のすべての機器に対して行っていた。
【0004】
一方、電力系統に事故が発生した場合に、運転者が復旧する際に運転者に復旧操作ガイダンスを与える技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術は、順次、現在の系統状態と当面の目標の系統とを比較して、操作可能な設備を選択して提示するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、原子力発電所には多数の系統があり、多くの系統のすべての機器に対して引保持操作を行わなければならない。しかも、系統ごとに画面を切り替えながら各機器・補機に対して操作しなければならないため、操作が煩雑で、多大な時間と労力とを要する。例えば、すべての機器に対して引保持操作を行うのに、13もの画面を切り替えながら操作する必要があった。
【0007】
また、多くの画面を切り替えながら、対象となるすべての機器に対して引保持操作を行わなければならないため、引保持操作を要する機器を見落としてしまうおそれがあった。さらに、引保持操作を行ったことの確認も、多くの画面を切り替えながら行わなければならないため、運転員に対する負担が大きく、多大な時間と労力とを要するばかりでなく、操作ミスを誘発するおそれがあった。
【0008】
そこでこの発明は、引保持操作を容易かつ適正に行うことを可能にする、発電所設備の操作装置および操作プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、発電所において外部電源の喪失が発生した場合に、各機器に対して、外部からの指令がない限り起動しないように引保持操作するための、発電所設備の操作装置であって、前記各機器に対して設けられ該機器を、起動させる起動モードと、停止させる停止モードと、外部電源が復旧すると自動的に起動させる自動モードと、外部電源が復旧しても外部からの指令がない限り起動しないようにする引保持モードを含む、各モードに切り替えるモード切替手段と、前記各機器の前記モード切替手段の現在のモード
が前記起動モード、前記停止モード、前記自動モードまたは前記引保持モードの何れであるかを一括して画面に表示するとともに、一括スイッチを画面に表示する表示手段と、前記一括スイッチがオンされた場合に、
起動中である前記機器を除き、自動モードであるすべての前記機器の前記モード切替手段を引保持モードに切り替える一括切替手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、表示手段によって、各機器のモード切替手段の現在のモードが一括して画面に表示されるとともに、一括スイッチが画面に表示される。そして、一括スイッチをオンすると一括切替手段によって、自動モードであるすべての機器のモード切替手段が引保持モードに切り替えられる。
【0012】
請求項
2の発明は、発電所において外部電源の喪失が発生した場合に、各機器に対して、外部からの指令がない限り起動しないように引保持操作するための、発電所設備の操作プログラムであって、コンピュータを、前記各機器に対して設けられ該機器を、起動させる起動モードと、停止させる停止モードと、外部電源が復旧すると自動的に起動させる自動モードと、外部電源が復旧しても外部からの指令がない限り起動しないようにする引保持モードを含む、各モードに切り替えるモード切替手段と、前記各機器の前記モード切替手段の現在のモード
が前記起動モード、前記停止モード、前記自動モードまたは前記引保持モードの何れであるかを一括して画面に表示するとともに、一括スイッチを画面に表示する表示手段と、前記一括スイッチがオンされた場合に、
起動中である前記機器を除き、自動モードであるすべての前記機器の前記モード切替手段を引保持モードに切り替える一括切替手段、として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1および請求項
2の発明によれば、一括スイッチをオンするだけで、自動モードであるすべての機器のモード切替手段を引保持モードに切り替えることができるため、多くの機器に対しても容易、迅速かつ適正に(漏れなく)引保持操作を行うことが可能となる。また、各機器のモード切替手段の現在のモードが
起動モード、停止モード、自動モードまたは引保持モードの何れであるかを一括して(まとめて)画面に表示されるため、各機器の現在のモード・状態の確認や、引保持操作を行ったことの確認などを、容易、迅速かつ的確に行うことが可能となる。
【0015】
このように、引保持操作を迅速に行える結果、発電所の停電対応に対して人員と時間とをより集中的に投入することができ、外部電源の喪失という発電所の非常事態における安全性・信頼性を向上させることが可能となる。同様に、引保持操作を迅速に行える結果、外部電源の復旧の目処が立った時点で速やかに、外部電源の復電の準備を整えることが可能となる。そして、外部電源の復電を速やかに行えることで、外部電源の喪失によって停電した常用の照明や空調などを起動させることができ、発電所におけるトラブル対応の環境を改善することが可能となる。
【0016】
また、請求項
1および請求項
2の発明によれば、起動中の機器に対しては、一括切替手段による引保持モードへの切り替えが行われないため、起動中・運転中の機器を誤って停止させることがなく、引保持操作をより適正に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0019】
図1〜
図7は、この発明の実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る発電所設備の操作装置(以下、「操作装置」という)1を示す概略構成ブロック図である。この操作装置1は、発電所において外部電源(商用電源)の喪失が発生した場合に、各機器(補機)100に対して、外部電源が復旧しても外部からの指令がない限り起動しないように引保持操作するための装置であり、この実施の形態では、発電所が原子力発電所の場合について、主として説明する。また、各機器100には、給復水系統や循環水系統あるいは補機冷却水系統などの各系統における、各種ポンプや各種ファン、各種バルブなどが含まれ、後述する
図3〜
図6における「MD RFP(A)」や「制御油ポンプA」などが機器100の識別情報・名称となっている。
【0020】
この操作装置1は、主として、操作スイッチ(モード切替手段)2と、表示部(表示手段)3と、入力部4と、一括切替部(一括切替手段)5と、制御部6と、これらを制御などする中央処理部7と、を備えている。
【0021】
操作スイッチ2は、各機器100に対して(機器100の識別情報ごとに)設けられ、該機器100を、起動させる起動モードと、停止させる停止モードと、外部電源が復旧すると自動的に起動させる自動モードと、外部電源が復旧しても外部からの指令がない限り起動しないようにする引保持モードを含む、各モードに切り替える制御スイッチ(CS)である。すなわち、
図2に示すように、機器100ごとに(図では、機器100が「A−MD RFP」の場合を示す。)設けられたスイッチであり、起動モード、停止モード、自動モードおよび引保持モードの4つのモードに切り替えられるようになっている。
【0022】
この操作スイッチ2の切り替えは、主として、操作装置1とは別の外部の装置・システム、例えば、原子力発電所を運用する運用システム・コンピュータによって行われる。例えば、外部電源の喪失が発生した場合、各機器100の操作スイッチ2が自動モードに切り替えられる。また、引保持モードを有さない機器100、つまり、引保持操作を行わない機器100もあり、このような機器100に対しては、後述するように、自動モードに代わって通常モード(機器100を制御しないニュートラルな状態、現状のままの状態)に切り替えられる。
【0023】
そして、このような操作スイッチ2に従って、制御部6によって各機器100が制御されるようになっている。すなわち、例えば、「A−MD RFP」の操作スイッチ2が起動モードに切り替えられると、制御部6によって「A−MD RFP」が起動され、操作スイッチ2が停止モードに切り替えられると、制御部6によって「A−MD RFP」が停止される。同様に、操作スイッチ2が自動モードに切り替えられると、外部電源が喪失状態から復旧した場合に、制御部6によって「A−MD RFP」が制御信号の状態によっては自動的・即座に起動されるおそれがある。また、操作スイッチ2が引保持モードに切り替えられると、外部電源が復旧しても制御部6によっては「A−MD RFP」が自動起動されず、外部からの指令が入力された後に(例えば、後述する入力部4で操作スイッチ2が起動モードに切り替えられた後に)、「A−MD RFP」が起動されるものである。
【0024】
表示部3は、各種情報やデータを表示するディスプレイであり、後述する入力部4で引保持操作画面が指定されると、各機器100の操作スイッチ2の現在のモードを一括して画面に表示するとともに、一括スイッチ31を画面に表示する。すなわち、例えば、
図3、
図4に示すように、機器100の識別情報100aと、この機器100の操作スイッチ2の現在のモード100bのみを、すべての機器100に対して表示し、この際、1つの画面にできるだけ多くの機器100を一括して(まとめて)表示する。この実施の形態では、2つの画面にわたって、全機器100の識別情報100aとモード100bとを表示するようになっている。また、このような全機器100の情報とともに、一括スイッチ31を各画面に表示するものである。
【0025】
ここで、このような表示部3への表示は、中央処理部7によって行われるようになっている。すなわち、中央処理部7が、すべての機器100の識別情報100aと現在モード100bとを、各操作スイッチ2から検索、取得し、取得したすべての識別情報100aと現在モード100bとを表示部3に伝送して、一括表示させるものである。
【0026】
入力部4は、各種情報や指令などを入力するためのインターフェイスであり、例えば、上記のような引保持操作画面を表示部3に表示するための指令を入力したり、一括スイッチ31をオンしたり、各操作スイッチ2のモードを切り替える指令を入力したりするものである。
【0027】
一括切替部5は、一括スイッチ31がオンされた場合に、自動モードであるすべての機器100の操作スイッチ2を引保持モードに切り替えるものである。すなわち、外部電源が喪失して機器100が停止した状態において、上記のような引保持操作画面を表示部3に表示して、一括スイッチ31がオンされると起動される。そして、
図2に示すように、自動モードであるすべての機器100の操作スイッチ2を、強制的に引保持モードに切り替えるものである。これにより、
図5、
図6に示すように、引保持操作画面において、自動モードであった機器100が引保持モードに切り替わる。
【0028】
ただし、起動中である機器100に対しては、引保持モードへの切り替えを行わないようになっている。すなわち、
図2に示すように、各機器100の実際の稼働状況(起動中か停止中か)が一括切替部5に入力され、自動モードであっても起動中である機器100に対しては、引保持モードに切り替えない。このように、一括スイッチ31がオンされた場合に、操作スイッチ2が自動モードであり、かつ、実際に停止中である機器100に対して、引保持モードに切り替えるものである。
【0029】
例えば、「TCW(A)」が起動中である場合、
図5に示すように、「TCW(A)」に対しては引保持モードに切り替えずに、自動モードのままとなる。ただし、その後、「TCW(A)」が停止して、再度一括切替部5が起動された場合には、
図6に示すように、「TCW(A)」も引保持モードに切り替えられる。
【0030】
また、引保持モードを有さない機器100に対しては、外部電源の喪失が発生した場合、運用システム等によって操作スイッチ2が通常モードに切り替えられ、このような機器100に対して一括切替部5は、操作スイッチ2を停止モードに切り替える。例えば、
図3に示すように、「CSW(A)」が通常モードの場合、
図6に示すように、「CSW(A)」の操作スイッチ2を停止(切)モードに切り替える。
【0031】
次に、このような構成の操作装置1の作用および、外部電源が喪失した場合の対応などについて、
図7に基づいて説明する。
【0032】
送電線事故などによって外部電源の喪失が発生した場合(ステップS1)、まず、原子炉のスクラム対応を行う(ステップS2)。一方、運用システム等によって、各操作スイッチ2が自動モードまたは通常モードに切り替えられる。次に、全系統の機器100に対して引保持操作を実施する(ステップS3)。すなわち、入力部4から所定の指令を入力して表示部3に引保持操作画面を表示させると、
図3、
図4に示すように、各機器100の操作スイッチ2の現在のモードが一括して画面に表示される。つまり、多数の機器100の識別情報100aとモード100bとが、1つの画面にまとめて表示される。
【0033】
続いて、この引保持操作画面を見て、各機器100の操作スイッチ2の状態を確認し、入力部4で一括スイッチ31をオンすると、一括切替部5が起動される。そして、
図5、
図6に示すように、自動モードであるすべての機器100の操作スイッチ2が引保持モードに切り替えられる。この際、上記のように、起動中である機器100に対しては、引保持モードへの切り替えは行われず、また、引保持モードを有さない通常モードの機器100は、停止モードに切り替えられる。
【0034】
次に、外部電源が復電すると(ステップS4)、各機器100を起動する(ステップS5)。例えば、起動を要する機器100の操作スイッチ2を、入力部4で起動モードに切り替えることで、制御部6によって機器100が起動制御されるものである。
【0035】
以上のように、この操作装置1によれば、一括スイッチ31をオンするだけで、自動モードであるすべての機器100の操作スイッチ2を引保持モードに切り替えることができるため、多くの機器100に対しても容易、迅速かつ適正に(漏れなく)引保持操作を行うことが可能となる。また、各機器100の操作スイッチ2の現在のモードが一括して(まとめて)画面に表示されるため、各機器100の現在のモード・状態の確認や、引保持操作を行ったことの確認などを、容易、迅速かつ的確に行うことが可能となる。
【0036】
このように、引保持操作を迅速に行える結果、原子力発電所の停電対応に対して人員と時間とをより集中的に投入することができ、外部電源の喪失という原子力発電所の非常事態における安全性・信頼性を向上させることが可能となる。同様に、引保持操作を迅速に行える結果、外部電源の復旧の目処が立った時点で速やかに、外部電源の復電の準備を整えることが可能となる。そして、外部電源の復電を速やかに行えることで、外部電源の喪失によって停電した常用の照明や空調などを起動させることができ、原子力発電所におけるトラブル対応の環境を改善することが可能となる。
【0037】
一方、起動中の機器100に対しては、一括切替部5による引保持モードへの切り替えが行われないため、起動中・運転中の機器100を誤って停止させることがなく、引保持操作をより適正に行うことができる。
【0038】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、操作装置1に制御部6を備えているが、操作装置1とは別の装置・システムに制御部6を備えてもよい。また、各機器100の稼働状況が一括切替部5に直接入力されることで、機器100が起動中か否かを一括切替部5で判定・知得できるようになっているが、その他の手法によるものであってもよい。例えば、各機器100の稼働状況を監視・管理するコンピュータやメモリなどを設け、このコンピュータなどから稼働状況を取得するようにしてもよい。
【0039】
一方、次のような発電所設備の操作プログラムを汎用コンピュータにインストールすることで、上記のような操作装置1を構成してもよい。すなわち、コンピュータを、
【0040】
各機器100に対して設けられ該機器100を、起動させる起動モードと、停止させる停止モードと、外部電源が復旧すると自動的に起動させる自動モードと、外部電源が復旧しても外部からの指令がない限り起動しないようにする引保持モードを含む、各モードに切り替える操作スイッチ(モード切替手段)2と、
【0041】
各機器100の操作スイッチ2の現在のモードを一括して画面に表示するとともに、一括スイッチ31を画面に表示する表示部(表示手段)3と、
【0042】
一括スイッチ31がオンされた場合に、自動モードであるすべての機器100の操作スイッチ2を引保持モードに切り替える一括切替部(一括切替手段)5、
として機能させる発電所設備の操作プログラム。