特許第6064991号(P6064991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6064991鞭毛形成および運動性カスケード遺伝子の発現が増強された腸内細菌科の細菌を用いたL−アミノ酸の製造法
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  • 特許6064991-鞭毛形成および運動性カスケード遺伝子の発現が増強された腸内細菌科の細菌を用いたL−アミノ酸の製造法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6064991
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】鞭毛形成および運動性カスケード遺伝子の発現が増強された腸内細菌科の細菌を用いたL−アミノ酸の製造法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20170116BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20170116BHJP
   C12P 13/22 20060101ALI20170116BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20170116BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20170116BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12P13/04
   C12P13/22 C
   C12P13/22 B
   C12P13/22 A
   C12P13/08 C
   !C12N1/21
【請求項の数】12
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-506676(P2014-506676)
(86)(22)【出願日】2012年8月14日
(65)【公表番号】特表2014-524233(P2014-524233A)
(43)【公表日】2014年9月22日
(86)【国際出願番号】JP2012070947
(87)【国際公開番号】WO2013024904
(87)【国際公開日】20130221
【審査請求日】2015年4月20日
(31)【優先権主張番号】2011134436
(32)【優先日】2011年8月18日
(33)【優先権主張国】RU
【微生物の受託番号】VKPM  B-8197
【微生物の受託番号】VKPM  VKPM B-10647
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】アリトマン イリナ ボリソヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ヤンポリスカヤ タチヤナ アブラモヴナ
(72)【発明者】
【氏名】プチツイン レオニド ロマノヴィッチ
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/083788(WO,A1)
【文献】 Microbiology,2005年,Vol.151, Pt.10,pp.3287-3298
【文献】 Mol. Microbiol.,2002年,Vol.45, No.2,pp.521-532
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12N 1/00 − 7/08
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸内細菌科に属し、L-アミノ酸を生産することができる細菌を培地中で培養し、培地からL-アミノ酸を回収することを含むL-アミノ酸の製造方法であって、
該細菌がflhDCオペロン遺伝子の発現が増強するように改変されており、
前記遺伝子の発現が、該遺伝子の発現調節領域を改変することにより、および/または、該遺伝子のコピー数を増加させることにより、増強されており、
前記細菌がエシェリヒア・コリである、方法。
【請求項2】
前記細菌が、さらに、yhjH遺伝子、fliZ遺伝子、およびそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種の遺伝子の発現が増強するように改変されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
flhD遺伝子が、
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(B1)1から5個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号2のアミノ酸配列のDNA結合型転写デュアルレギュレーター活性を有するタンパク質、
(B2)配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号2のアミノ酸配列のDNA結合型転写デュアルレギュレーター活性を有するタンパク質、および
(C)これらの組合せ
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
flhC遺伝子が、
(D)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(E1)1から15個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号4のアミノ酸配列のDNA結合型転写デュアルレギュレーター活性を有するタンパク質、
(E2)配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号4のアミノ酸配列のDNA結合型転写デュアルレギュレーター活性を有するタンパク質、および
(F)これらの組合せ、
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
yhjH遺伝子が、
(G)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(H1)1から15個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号6のアミノ酸配列のサイクリック-ジ-GMPホスホジエステラーゼ活性を有するタンパク質、
(H2)配列番号6に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号6のアミノ酸配列のサイクリック-ジ-GMPホスホジエステラーゼ活性を有するタンパク質、および
(I)これらの組合せ。
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
fliZ遺伝子が、
(J)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(K1)1から15個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号8のアミノ酸配列のレギュレーター活性を有するタンパク質、
(K2)配列番号8に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号8のアミノ酸配列のレギュレーター活性を有するタンパク質、および
(L)これらの組合せ、
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
L-アミノ酸が芳香族L-アミノ酸である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記芳香族L-アミノ酸がL-フェニルアラニン、L-チロシン、またはL-トリプトファンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
L-アミノ酸が非芳香族L-アミノ酸である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記非芳香族L-アミノ酸がL-スレオニン、L-リジン、L-システイン、L-メチオニン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、L-ヒスチジン、L-セリン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-プロリン、L-アルギニンまたはグリシンである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
L-アミノ酸がL-フェニルアラニンである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
L-アミノ酸がL-スレオニンである、請求項1〜6、9、10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物工業に関し、具体的には、鞭毛形成および運動性カスケードに関連する遺伝子の発現が脱制御された腸内細菌科の細菌、および鞭毛形成および運動性カスケード遺伝子の発現が増強された上記細菌を用いた醗酵によるL-アミノ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、L-アミノ酸は、自然界から得た微生物株またはその変異株を利用した発酵法により工業的に生産されている。典型的には、微生物を改変してL-アミノ酸の生産収率を増強する。
【0003】
L-アミノ酸生産収率を増強する多くの技術が報告されており、組換えDNAによる微生物の形質転換(例えば、特許文献1を参照)、プロモーター、リーダー配列および/またはアテニュエーター等のような調節領域の改変、当業者に知られているその他の方法(例えば、特許文献2及び3を参照)などがある。生産収率を増強するためのその他の技術としては、アミノ酸生合成に関与する酵素の活性を増加させること、および/または生成するL-アミノ酸による標的酵素のフィードバック阻害を解除することが挙げられる(例えば、特許文献4〜8を参照)。
【0004】
発酵法によるL-スレオニンの製造に有用な株が知られており、L-スレオニン生合成に関与する酵素の活性が増加した株(特許文献7及び9〜12)、L-スレオニンおよびそのアナログなどの化学物質に対して耐性を有する株(特許文献13〜15)、生成するL-アミノ酸または副生物による標的酵素のフィードバック阻害が解除された株(特許文献7及び10)、およびスレオニン分解酵素が不活性化された株(特許文献12及び16)が挙げられる。
【0005】
サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、エルシニア・エンテロコリティカ(Yersinia enterocolitica)などの運動性細菌は種々の生存様式を示し、運動性の単細胞(またはプランクトン状態)、あるいは接着性線毛を使用してクラスター化し表面上にバイオフィルムを形成する定住細胞の形態を取り得ることが文献に記載されている(非特許文献1)。例えばエシェリヒア・コリ(E. coli)細胞は、指数増殖期後に高い運動性を示し(非特許文献2)、定常期に入ると接着性カール線毛を誘導して凝集するか表面に付着する(非特許文献3)。
【0006】
エシェリヒア・コリにおいては、鞭毛の形成と運動性、およびカール線毛媒介接着カスケードの両者は、制御フィードフォワードカスケードの制御下にあり、各カスケードは先頭にマスターレギュレーターを有し、これが大規模環境シグナルインテグレーター(massive environmental signal integrator)として働くことが知られている(非特許文献4)。カール線毛制御カスケードは一般ストレス応答機構内のモジュールであり、σS因子(シグマS、RpoS)はこれに対しマスターレギュレーターとして作用する(非特許文献5)。CsgDタンパク質は、カール構造遺伝子オペロン(csgBAC)に必須の活性化因子であることが示されている(非特許文献6)。
【0007】
鞭毛発現と運動性カスケードについては、マスターレギュレーターは、鞭毛クラス1オペロンとして定義されるflhDCオペロンから発現されるFlhDC複合体である。鞭毛マスターレギュレーターFlhDCは、FlhDおよびFlhCタンパク質のヘテロオリゴマー複合体(FlhD4C2複合体)として機能し、その結晶構造はエシェリヒア・コリに由来するものについて解明
されている(非特許文献7)。FlhDC複合体は、細菌中のいくつかの鞭毛および非鞭毛オペロンからの転写を制御し、特に、鞭毛の内側部分と種々の因子(FliA、FlgM)の形成を担うクラス2オペロンの発現を活性化する(非特許文献4)。FlgM因子が分泌された後、FliAが放出されて鞭毛機能および走化性に必要な別の鞭毛タンパク質の外側のサブユニット、ならびにいくつかの機能未知のタンパク質をコードするクラス3オペロンを活性化する(非特許文献8)。
【0008】
細胞の運動性とカール線毛発現の別のキーレギュレーターは、ビス-(3',5')-サイクリックジグアノシンモノホスフェート(c-di-GMP)分解ホスホジエステラーゼ(PDE)、例えばYhjHおよびYciRである(後者はc-di-GMP PDE活性に加えて、ジグアニレートサイクラーゼとして逆方向にも機能する)。c-di-GMP PDEの過剰生産は、カール線毛およびバイオフィルムマトリックス成分セルロースの発現を強力に不活性化することにより腸内細菌の運動性を阻害することが示されている(非特許文献9)。特定の場合においては、YhjHは運動性について正の役割を果たしていることが示されている(非特許文献10)。
【0009】
fliAのすぐ下流の遺伝子から発現されるFliZタンパク質は、カール線毛発現に関与する遺伝子を制御するσs因子の活性を阻害することにより、エシェリヒア・コリにおいてカール線毛形成の非常に強力な阻害剤となることが示されている(非特許文献4)。具体的には、鞭毛遺伝子発現が継続する限り、FliZは運動性(すなわち採餌戦略)を一般ストレス応答に対し一過的に優先させる。
【0010】
csgBACまたは/およびcsgDEFGオペロン(特許文献17)の発現が弱化するように、あるいはタイプI線毛接着タンパク質(特許文献18)を生成しないように改変された腸内細菌科の細菌は、L-アミノ酸、特にL-スレオニンを製造するために使用されてきた。
【0011】
さらに、鞭毛の構成または鞭毛の動きに関係する1種以上の遺伝子を不活性化または削除した、鞭毛を有する微生物は、例えばアミノ酸のような有用物質を生産するための宿主として使用できることが特許文献19から知られている(特許文献19)。
【0012】
これまで、鞭毛形成および運動性カスケードに関与する細菌遺伝子(flhDC、yhjHおよびfliZ)の発現の増強の、L-アミノ酸、より具体的にはL-スレオニンおよびL-フェニルアラニンの生産性に対する正の効果に注目した報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,278,765号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0216796号
【特許文献3】W09615246A1
【特許文献4】WO95/16042A1
【特許文献5】EP0685555A1
【特許文献6】米国特許第4,346,170号
【特許文献7】米国特許第5,661,012号
【特許文献8】米国特許第6,040,160号
【特許文献9】EP0219027A2、
【特許文献10】米国特許第5,175,107号
【特許文献11】米国特許第5,705,371号
【特許文献12】米国特許第5,939,307号
【特許文献13】WO01/14525A1
【特許文献14】EP301572A2
【特許文献15】米国特許第5,376,538号
【特許文献16】米国特許第6,297,031号
【特許文献17】RU2338782
【特許文献18】EP1838726A1
【特許文献19】WO2002/097089A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】O’Toole G.A. et al., Annu. Rev. Microbiol., 2000: 54, 49-79
【非特許文献2】Amsler C.D. et al., J. Bacteriol., 1993: 175, 6238-6244
【非特許文献3】Olsen A. et al., Nature, 1989: 338, 652-655
【非特許文献4】Pesavento C. et al., Gen. Dev., 2011: 22, 2434-2446
【非特許文献5】Hengge-Aronis R. 2000. The general stress response in E. coli. In Bacterial stress responses (eds. G. Storz and R. Hengge-Aronis), pp. 161-178. ASM Press, Washington, DC.
【非特許文献6】Gerstel U. et al., Mol. Microbiol., 2003: 49, 639-654
【非特許文献7】Wang S. et al., J. Mol. Biol., 2006, 355:798-808
【非特許文献8】Aldrigde P.D. et al., Gen. Dev., 2006: 20, 2315-2326
【非特許文献9】Romling U. et al., Mol. Microbiol., 2005: 57, 629-639; Jenal U. and Malone J., Annu. Rev. Genet., 2006: 40, 385-407
【非特許文献10】Ko M. and Park C., J. Mol. Biol., 2000: 303, 371-382
【発明の概要】
【0015】
本発明の態様は、鞭毛形成および運動性カスケード遺伝子の発現が増強された腸内細菌科に属する細菌、特にエシェリヒア、エンテロバクター、およびパントエア属に属する細菌、およびかかる細菌を用いた、L-アミノ酸、具体的にはL-スレオニンおよびL-フェニルアラニンの製造方法を提供することを含む。上記目的は、鞭毛形成および運動性カスケード遺伝子、例えば、鞭毛マスタレギュレーターFlhD4C2複合体の一部であるDNA結合型転写デュアルレギュレーターFlhDおよびFlhCをコードするエシェリヒア・コリのflhDCオペロン遺伝子の発現を増強することによりL-アミノ酸の生産が増加するという知見を得ることにより達成された。また、本発明者らは、flhDCオペロン遺伝子を、発現が増強された鞭毛形成および運動性カスケードの他の遺伝子、例えばyhjH およびfliZと組合せて使用することによりL-アミノ酸の生産を増加させることができることを見出した。
【0016】
本発明の一態様は、腸内細菌科に属し、L-アミノ酸を生産することができる細菌を培地中で培養し、培地からL-アミノ酸を回収することを含むL-アミノ酸の製造方法であって、該細菌が鞭毛形成および運動性カスケードの少なくとも1種の遺伝子の発現が増強するように改変されている方法の提供である。
【0017】
本発明の別の態様は、前記少なくとも1種の遺伝子がflhDCオペロン遺伝子、yhjH遺伝子、fliZ遺伝子、およびそれらの組合せからなる群から選択される、前記方法の提供である。
【0018】
本発明の別の態様は、flhDCオペロンの遺伝子の発現が該遺伝子の発現調節領域を改変することにより増強されている、前記方法の提供である。
【0019】
本発明の別の態様は、flhDCオペロンの遺伝子の発現が該遺伝子のコピー数を増加させることにより増強されている、前記方法の提供である。
【0020】
本発明の別の態様は、前記細菌がエシェリヒア属に属する、前記方法の提供である。
【0021】
本発明の別の態様は、前記細菌がエシェリヒア・コリである、前記方法の提供である。
【0022】
本発明の別の態様は、前記細菌がエンテロバクター属に属する、前記方法の提供である。
【0023】
本発明の別の態様は、前記細菌がパントエア属に属する、前記方法の提供である。
【0024】
本発明の別の態様は、flhD遺伝子が、
(A)配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(B)1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号2のアミノ酸配列のDNA結合型転写デュアルレギュレーター活性を有するタンパク質、および
(C)これらの組合せ
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、前記方法の提供である。
【0025】
本発明の別の態様は、flhC遺伝子が、
(D)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(E)1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号4のアミノ酸配列のDNA結合型転写デュアルレギュレーター活性を有するタンパク質、および
(F)これらの組合せ、
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、前記方法の提供である。
【0026】
本発明の別の態様は、yhjH遺伝子が、
(G)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(H)1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号6のアミノ酸配列のサイクリック-ジ-GMPホスホジエステラーゼ活性を有するタンパク質、および
(I)これらの組合せ。
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、前記方法の提供である。
【0027】
本発明の別の態様は、fliZ遺伝子が、
(J)配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質、
(K)1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、または逆転された配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質であって、配列番号8のアミノ酸配列のレギュレーター活性を有するタンパク質、および
(L)これらの組合せ、
からなる群から選択されるタンパク質をコードする、前記方法の提供である。
【0028】
本発明の別の態様は、L-アミノ酸が芳香族L-アミノ酸である、前記方法の提供である。
【0029】
本発明の別の態様は、前記芳香族L-アミノ酸がL-フェニルアラニン、L-チロシン、またはL-トリプトファンである、前記方法の提供である。
【0030】
本発明の別の態様は、L-アミノ酸が非芳香族L-アミノ酸である、前記方法の提供である。
【0031】
本発明の別の態様は、前記非芳香族L-アミノ酸がL-スレオニン、L-リジン、L-システイン、L-メチオニン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、L-ヒスチジン、L-セリン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、L-プロリン、L-アルギニンまたはグリシンである、前記方法の提供である。
【0032】
本発明の別の態様は、L-アミノ酸がL-フェニルアラニンである、前記方法の提供である。
【0033】
本発明の別の態様は、L-アミノ酸がL-スレオニンである、前記方法の提供である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、kan-Ptac7DNA断片の構築スキームを示す図である。
図2図2は、cat-PyhjH-yhjH DNA断片の構築スキームを示す図である。
図3図3は、cat-Ptac7DNA断片の構築スキームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0036】
1. 本発明の細菌
「L-アミノ酸を生産する細菌(L-アミノ酸生産菌)」という表現は、該細菌を培地中で培養したときに、培地中にL-アミノ酸を生産蓄積する能力を有する細菌を意味する。L-アミノ酸生産能とは、該細菌を培地中で培養したときに、培地中または菌体内にL-アミノ酸を生産し、L-アミノ酸を培地または菌体から回収できる程度にL-アミノ酸を蓄積する細菌の能力を意味する。「L-アミノ酸」の語は、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシンおよびL-バリンを包含し得る。
【0037】
「芳香族L-アミノ酸」の語は、L-フェニルアラニン、L-チロシン、およびL-トリプトファンを包含し得る。「非芳香族L-アミノ酸」の語は、L-スレオニン、L-リジン、L-システイン、L-メチオニン、L-ロイシン、L-イソロイシン、L-バリン、L-ヒスチジン、L-セリン、L-アラニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-プロリン、およびL-アルギニンを包含し得る。L-スレオニン、L-リジン、L-システイン、L-ロイシン、L-ヒスチジン、L-グルタミン酸、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-プロリン、およびL-アルギニンは特に好ましい例である。
【0038】
L-アミノ酸は、遊離形態のL-アミノ酸、および硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのその塩を包含し得る。
【0039】
L-アミノ酸は、単一種のL-アミノ酸、または2種以上のL-アミノ酸の混合物として本発明の方法により製造することができる。
【0040】
本明細書に記載されるように、細菌は本来L-アミノ酸生産能を有するものであってもよく、または変異法や組換えDNA技術を用いてL-アミノ酸生産能を有するように改変されていてもよい。
【0041】
腸内細菌科に属する細菌としては、エンテロバクター属、エルビニア属、エシェリヒア属、モルガネラ属、パントエア属、サルモネラ属、エルシニア属等の細菌であって、前記L-アミノ酸生産能を有する細菌が挙げられる。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)データベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/vvrwwtax.cgi?id=543)で使用される分類法により腸内細菌科に分類されるものを使用することができる。本明細書に記載されるように改変することができる腸内細菌科の株の例としては、エシェリヒア属、エンテロバクター属またはパントエア属の細菌が挙げられる。
【0042】
改変することにより本発明のエシェリヒア属細菌を得ることができるエシェリヒア属細菌としては、特に限定されないが、具体的にはNeidhardtらの著書(Bachmann, B.J., Derivations and genotypes of some mutant derivatives of E. coli K-12, p. 2460-2488. In F.C. Neidhardt et al. (ed.), E. coli and Salmonella: cellular and molecular biology, 2nd ed. ASM Press, Washington, D.C., 1996)に挙げられるものが利用できる。特に種エシェリヒア・コリが挙げられる。エシェリヒア・コリとしては具体的には、プロトタイプの野生株K12株由来のエシェリヒア・コリW3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリMG1655(ATCC 47076)等が挙げられる。これらの株は、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることができる。すなわち各菌株には対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることができる(www.atcc.orgを参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
【0043】
エンテロバクター属細菌としては、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等が挙げられ、パントエア属細菌としてはパントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)等が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスのいくつかの株は、近年、16S rRNAのヌクレオチド配列解析などによりパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、またはパントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)に再分類されている。腸内細菌科に分類されるものであれば、エンテロバクター属またはパントエア属のいずれに属するものであっても使用することができる。パントエア・アナナティス株を遺伝子工学的手法を用いて育種する場合には、パントエア・アナナティスAJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)およびそれらの誘導株を用いることができる。これらの株は、分離された当時はエンテロバクター・アグロメランスと同定され、エンテロバクター・アグロメランスとして寄託されたが、上記のとおり、16S rRNAのヌクレオチド配列解析などにより最近パントエア・アナナティスに再分類されている。
【0044】
「運動性細菌」という表現は、限定するものではないが、培養培地中での増殖の間に明確な増殖期にある、あるいはそれに入ることにより適当な環境下で鞭毛を使用して自走運動を示す、単細胞あるいはプランクトン性細菌を意味する。具体的には、“Bergey's Manual of Systematic Bacteriology” (2nd ed., Springer, New York)に記載されているものを使用することができる。本発明において使用する「運動性細菌」の語は、前記能力を有し、野生型または非改変親株細菌と比較してより遅いか、等しいか、あるいはより早い速度で培地中を前方に移動(遊泳)することができる細菌も意味し得る。また「運動性細菌」の語は、前記能力を有し、野生型または非改変親株細菌と比較してより短いか、等しいか、あるいはより長い期間、運動性の単細胞またはプランクトン状態で存在することができる細菌をも意味し得る。
【0045】
本発明は、鞭毛形成および運動性カスケードに関連する遺伝子の発現を増強または増大させることによって達成し得る。
【0046】
「鞭毛形成および運動性カスケードに関連する遺伝子」という表現は、鞭毛の形成および運動性カスケードに関与する1種以上の遺伝子であって、直接または間接的に機能的な鞭毛の形成や組み立て、種々の機構を介して細菌の運動性を刺激または延長することに関与するタンパク質をコードする任意の遺伝子を意味する。鞭毛形成および運動性カスケードに関連する遺伝子の例としては、限定するものではないが、細菌の鞭毛の形成に正に影響する鞭毛マスターレギュレーターFlhD4C2複合体をコードするflhDCオペロンの遺伝子が
挙げられる。鞭毛形成および運動性カスケードに関連する遺伝子のその他の例としては、細菌におけるc-di-GMPプールを減少させるc-di-GMP PDEをコードするyhjH遺伝子、およびσS活性を阻害するfliZ遺伝子が挙げられる。
【0047】
「機能的鞭毛」という表現は、回転やその他の運動が可能で、細菌を運動性細菌と考えることを可能とする正しく組み立てられた鞭毛を意味する。
【0048】
「鞭毛形成および運動性カスケードの少なくとも1種の遺伝子」という表現は、鞭毛形成および運動性カスケードの1種以上の遺伝子を意味し得、限定するものではないが、flhDCオペロンの遺伝子、yhjH、およびfliZ遺伝子の任意の組合せが挙げられる。
【0049】
「flhDCオペロン、yhjH、およびfliZ遺伝子の任意の組合せ」という表現は、限定するものではないが、「flhDCオペロン、yhjH、およびfliZ遺伝子から選択されたいずれか1種の遺伝子、またはflhDCオペロン、yhjH、およびfliZ遺伝子から選択された2種以上の異なる遺伝子を意味し得る。
【0050】
「鞭毛形成および運動性カスケードの少なくとも1種の遺伝子の発現が増強するように改変された」という表現は、野生株または親株等の非改変株と比較して、flhDCオペロン遺伝子および/またはyhjH遺伝子および/またはfliZ遺伝子によりコードされる分子の細胞あたりの数が増大していること、あるいはこれらの遺伝子によりコードされるタンパク質の分子あたりの活性(比活性と称することもある)が向上していることを意味し得る。細菌は、細胞当たりのタンパク質の活性が、非改変株の活性の150%またはそれ以上、あるいは200%またはそれ以上、あるいは300%またはそれ以上に増加するように改変することができる。例えば腸内細菌科に属する微生物の野生株のような、上記の比較の基準となる非改変株の例としては、例えば、エシェリヒア・コリMG1655株(ATCC 47076)、W3110株(ATCC 27325)、パントエア・アナナティスAJ13335株(FERM BP-6614)等が挙げられる。
【0051】
遺伝子またはオペロン遺伝子の発現を増強するために使用できる方法としては、遺伝子またはオペロン遺伝子のコピー数を増加させること、および/または腸内細菌科の細菌において遺伝子またはオペロン遺伝子のコピー数を増加させることができるベクターに遺伝子またはオペロン遺伝子を導入することが挙げられる。遺伝子の発現を増強するためには、例えば遺伝子組換え技術を利用して遺伝子のコピー数を細胞中で増加させることができる。遺伝子のコピー数は、宿主細菌で機能するベクター、例えばマルチコピーベクターに遺伝子を含むDNA断片を連結して組換えDNAを調製し、それを細菌に導入して細菌を形質転換することによって増加させることができる。エシェリヒア・コリ細胞内で自律複製可能なベクターの例としては、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pACYC184(pHSGおよびpACYCシリーズのベクターはタカラバイオ社から入手可能)、RSF1010、pBR322、pMW219(pMW219はニッポンジーン株式会社から入手可能)、pSTV29(タカラバイオ株式会社から入手可能)等が挙げられる。
【0052】
遺伝子またはオペロン遺伝子発現の増強は、例えば、相同組換え、Muインテグレーション等により、複数コピーの遺伝子またはオペロン遺伝子を細菌染色体に導入することによっても達成できる。相同組換えは、染色体DNA中に多コピー存在する配列を用いて行うことができる。染色体DNA中に複数のコピーを有する配列としては、限定するものではないが、レペティティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーテッドリピートが挙げられる。また、トランスポゾンに遺伝子またはオペロン遺伝子を組み込んで転移させ、染色体DNAに遺伝子またはオペロン遺伝子の複数のコピーを導入することも可能である。Muインテグレーションを用いると、1回のMuインテグレーションで細菌染色体に3コピーまでの遺伝子を導入することができる。
【0053】
遺伝子またはオペロン遺伝子の発現は、これらのDNAを強力なプロモーターの制御下に置くことによっても増強することができる。例えば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRまたはPLプロモーターはいずれも強力なプロモーターであることが知られている。腸内細菌科に属する細菌において高レベルの遺伝子発現を与える強力なプロモーターを使用することができる。あるいは、例えば、細菌染色体上の遺伝子またはオペロン遺伝子のプロモーター領域に変異を導入してより強力なプロモーター機能を得ることによっても、プロモーターの効果を増強することができ、これにより該プロモーターの下流に位置する遺伝子またはオペロン遺伝子の転写レベルが増加する。さらに、リボソーム結合部位(RBS)と開始コドン間のスペーサ領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列中のいくつかのヌクレオチドの置換がmRNAの翻訳能力に大きく影響することが知られている。例えば、開始コドンに先行する3個のヌクレオチドの種類により発現レベルが20倍の範囲で変動することが見出されている(Gold et al., Annu. Rev. Microbiol. 1981, 35:365-403; Hui et al., EMBO J. 1984, 3:623-629)。強力なプロモーターの使用は、遺伝子コピーを増加させることと組合せることができる。
【0054】
プラスミドDNAの調製、DNAの切断および結合、形質転換、プライマーとしてのオリゴヌクレオチドの選択などの方法は、当業者に周知の通常の方法でよい。これらの方法は、例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T., “Molecular Cloning: A Laboratory Manual”, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されている。分子クローニングおよび異種遺伝子発現のための方法はBernard R. Glick, Jack J. Pasternak and Cheryl L. Patten, “Molecular Biotechnology: principles and applications of recombinant DNA”, 4th ed., Washington, D.C: ASM Press (2009); Evans
Jr., T.C. and Xu M.-Q., “Heterologous gene expression in E. coli”, 1sted., Humana Press (2011)に記載されている。
【0055】
遺伝子発現のレベルは、ノーザンブロッティング、定量RT-PCRなどの種々の公知の方法を使用して遺伝子から転写されたmRNAの量を測定することにより決定することができる。遺伝子によりコードされるタンパク質の量は、SDS-PAGEとその後の免疫ブロッティングアッセイ(ウェスタンブロット分析)などの公知の方法により測定することができる。
【0056】
鞭毛の形成および運動性カスケードの遺伝子は、flhDCオペロン、yhjHおよびfliZ遺伝子から選択される遺伝子を含む。
【0057】
flhDCオペロンはflhDおよびflhCの2つの遺伝子を含む。
【0058】
flhD遺伝子は、DNA結合型転写デュアルレギュレーターFlhDをコードする(KEGG、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes、エントリーNo. b1892)。flhD遺伝子 (GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置1,975,871〜1,976,221、相補鎖、遺伝子ID: 945442)はエシェリヒア・コリK-12の染色体上flhC遺伝子とinsB遺伝子との間に位置する。flhD遺伝子のヌクレオチド配列、およびflhD遺伝子によってコードされるFlhDタンパク質のアミノ酸配列は配列番号1および配列番号2にそれぞれ示す。
【0059】
flhC遺伝子は、DNA結合型転写デュアルレギュレーターFlhCをコードする(KEGG、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes、エントリーNo. b1891)。flhC遺伝子(GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置1,975,290〜1,975,868、相補鎖、遺伝子ID: 947280)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上motA遺伝子とflhD遺伝子との間に位置する。flhC遺伝子のヌクレオチド配列、およびflhC遺伝子によってコードされるFlhCタンパク質のアミノ酸配列は配列番号3および配列番号4にそれぞれ示す。
【0060】
yhjH遺伝子は、サイクリック-ジ-GMPホスホジエステラーゼYhjHをコードする(KEGG、Ky
oto Encyclopedia of Genes and Genomes、エントリーNo. b3525)。yhjH遺伝子(GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置3,676,443〜3,677,210、相補鎖、遺伝子ID: 948042)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上yhjG遺伝子とkdgK遺伝子との間に位置する。yhjH遺伝子のヌクレオチド配列とyhjH遺伝子によってコードされるYhjHタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号5および配列番号6にそれぞれ示す。
【0061】
fliZ遺伝子はRpoSアンタゴニストおよびFliA活性の推定レギュレーターFliZをコードしている(KEGG、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes、エントリーNo. b1921)。fliZ遺伝子(GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置1,998,497〜1,999,048、相補鎖、遺伝子ID: 946833)は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上fliY遺伝子とfliA遺伝子との間に位置する。fliZ遺伝子のヌクレオチド配列とfliZ遺伝子によってコードされるFliZタンパク質のアミノ酸配列を配列番号7および配列番号8にそれぞれ示す。
【0062】
腸内細菌科の属または株の間でDNA配列にいくらかの相違があり得るので、染色体上の増強されるflhDCオペロンの遺伝子、yhjHおよびfliZ遺伝子のそれぞれは、配列番号1、3、5または7に示される遺伝子に限定されず、配列番号1、3、5または7に相同な遺伝子であって、それぞれFlhD、FlhC、YhjHまたはFliZタンパク質の変異体をコードするものを含み得る。「変異体タンパク質」という表現は、1もしくは数個のアミノ酸残基の欠失、挿入、付加、置換、または逆位(逆転)などの変化を配列中に有するが、それでもFlhD、FlhC、YhjHまたはFliZタンパク質と同様の活性を維持するタンパク質を意味する。変異体タンパク質中の変化の数は、アミノ酸残基のタンパク質の三次元構造における位置または種類に依存する。その数は、配列番号2、4、6または8において1〜30、あるいは1〜15、あるいは1〜5である。
【0063】
前記1または数個のアミノ酸残基の欠失、挿入、付加または置換は、flhDCオペロンの遺伝子およびyhjHおよびfliZ遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が維持される保存的変異であり得る。代表的な保存的変異は保存的置換である。保存的置換は、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を有するアミノ酸である場合には、Ser、Thr間で互いに置換する変異であり得る。保存的置換と考えられる置換としては、具体的には、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、MetからIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、およびValからMet、IleまたはLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加、逆位等には、flhDCオペロンの遺伝子およびyhjHおよびfliZ遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違い等に基づく天然に生じる変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0064】
変異体におけるこれらの変化は、タンパク質の機能に必須ではないタンパク質の領域で生じ得る。これは、いくつかのアミノ酸が互いに高い相同性を有し、その結果3次元構造や活性がそのような変化により影響されないことによるものである。したがって、FlhDまたはFlhCタンパク質、またはFlhDおよびFlhCタンパク質から組み立てられるFlhD4C2 複合体、およびYhjHまたはFlizHタンパク質の機能が上述したように維持されるかぎり、flhDC
オペロンの遺伝子およびyhjHおよびfliZ遺伝子の各遺伝子によりコードされるタンパク質の変異体は、配列番号2、4、6または8のアミノ酸配列全体に対して80%以上、あるいは90%以上、あるいは95%以上、あるいは97%以上、あるいは99%以上の相同性を有するものであり得る。2つのアミノ酸配列間の相同性は周知の方法を使用して決定することができ、例えば、3つのパラメーター、スコア、同一性および類似性を計算するコンピュータプログラムBLAST(Basic Local Alignment Search Tool, www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して決定することができる。
【0065】
さらに、不活性化される前に機能的なFlhDもしくはFlhCタンパク質、またはFlhDおよびFlhCタンパク質から組み立てられるFlhD4C2 複合体、またはYhjHもしくはFlizHタンパク質をコードするかぎり、flhDCオペロンの遺伝子およびyhjHおよびfliZ遺伝子の各遺伝子は、配列番号1、3、5または7の配列に相補的なヌクレオチド配列、またはそのようなヌクレオチド配列から調製し得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする変異体であってもよい。「ストリンジェントな条件」としては、特異的なハイブリッド、例えば、80%以上、あるいは90%以上、あるいは95%以上、あるいは97%以上、あるいは99%以上の相同性を有するハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッド、例えば上記より相同性が低いハイブリッドが形成されない条件が挙げられる。ストリンジェントな条件としては、例えば、60℃あるいは65℃で、1×SSC、0.1%SDS、あるいは0.1×SSC、0.1%SDSの塩濃度で、1回以上、あるいは2〜3回洗浄する条件が例示される。洗浄時間はブロッティングに使用されたメンブレンの種類に依存し、一般的にはメーカーにより推奨される時間とすることができる。例えば、ストリンジェントな条件下でAmersham HybondTM N+正荷電ナイロンメンブレンに推奨される洗浄時間は15分である。洗浄工程は、2〜3回行うことができる。プローブとしては、配列番号1、3、5または7の配列に相補的な配列の一部を用いることもできる。そのようなプローブは、配列番号1、3、5または7の配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上記ヌクレオチド配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブの長さは50bpより長いことが推奨されるが、ハイブリダイゼーション条件に応じて適切に選択することができ、通常100 bp〜1 kbpである。例えば、プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗浄の条件は、50℃または60℃、または65℃で、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0066】
エシェリヒア・コリのFlhD、FlhC、YhjH、FliZタンパク質をコードする遺伝子は既に明らかにされている(上記参照)ので、それらのタンパク質およびそれらの変異体タンパク質は、それぞれ、flhD、flhC、yhjH、fliZ遺伝子のヌクレオチド配列に基づいて作製したプライマーを利用してPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、White T.J. et al., Trends Genet., 1989: 5, 185-189を参照)によって得ることができる。他の微生物のFlhD、FlhC、YhjHおよびFliZタンパク質またはそれらの変異体タンパク質をコードする遺伝子も同様の方法で得ることができる。
【0067】
腸内細菌科に属する細菌にL-リジン、L-スレオニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-メチオニン、L-アラニン、L-イソロイシンおよび/またはL-ホモセリンなどのL-アミノ酸の生産能を付与する方法、および腸内細菌科に属する細菌の上記のようなL-アミノ酸の生産能を増強する方法を以下に記載する。
【0068】
L-アミノ酸生産能を付与するには、栄養要求性変異株、L-アミノ酸のアナログ耐性株または代謝制御変異株の取得や、L-アミノ酸の生合成系酵素を過剰発現する組換え株の創製等、従来、コリネ型細菌またはエシェリヒア属細菌等のアミノ酸生産菌の育種に採用されてきた方法を使用することができる(アミノ酸発酵、(株)学会出版センター、1986年5月30日初版発行、第77〜100頁参照)。L-アミノ酸生産菌の育種において付与される栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質は、1種でもよく、2種以上であってもよい。ま
た、発現が増強されるL-アミノ酸生合成系酵素も、1種であっても、2種以上であってもよい。さらに、栄養要求性、アナログ耐性、代謝制御変異等の性質の付与と、生合成系酵素の増強が組み合わされてもよい。
【0069】
L-アミノ酸生産能を有する栄養要求性変異株、L-アミノ酸アナログ耐性株、または代謝制御変異株を取得するには、親株または野生株を通常の変異処理、すなわちX線や紫外線の照射、またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルフォネート(EMS)等の変異剤による処理などによって処理し、得られた変異株の中から、栄養要求性、アナログ耐性、または代謝制御変異を示し、かつL-アミノ酸生産能を有するものを選択することによって得ることができる。
【0070】
L-スレオニン生産菌
L-スレオニン生産菌を誘導するための親株の例としては、エシェリヒア・コリTDH-6/pVIC40 (VKPM B-3996)(米国特許第5,175,107号、米国特許第5,705,371号)、エシェリヒア・コリ472T23/pYN7 (ATCC 98081) (米国特許第5,631,157号)、エシェリヒア・コリNRRL-21593 (米国特許第5,939,307号)、エシェリヒア・コリFERM BP-3756 (米国特許第5,474,918号)、エシェリヒア・コリFERM BP-3519およびFERM BP-3520 (米国特許第5,376,538号)、エシェリヒア・コリMG442 (Gusyatiner et al., 1978. Genetika (in Russian), 14: 947-956)、エシェリヒア・コリVL643およびVL2055(EP1149911A)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
TDH-6株はthrC遺伝子を欠損し、スクロース資化性であり、また、そのilvA遺伝子がリーキー(leaky)変異を有する。この株はまた、rhtA遺伝子に、高濃度のスレオニンまたはホモセリンに対する耐性を付与する変異を有する。B-3996株は、RSF1010由来ベクターに変異thrA遺伝子を含むthrA*BCオペロンを挿入したプラスミドpVIC40を保持する。この変異thrA遺伝子は、スレオニンによるフィードバック阻害が実質的に解除されたアスパルトキナーゼホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする(米国特許第5,175,107号)。B-3996株は、1987年11月19日、オールユニオン・サイエンティフィック・センター・オブ・アンチビオティクス(Russian Federation, 117105 Moscow, Nagatinskaya Street 3-A)に、受託番号RIA 1867で寄託されている。この株は、また、1987年4月7日、ロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM) (Russian Federation, 117545 Moscow, 1st Dorozhny proezd, 1)に、受託番号B-3996で寄託されている。
【0072】
エシェリヒア・コリVKPM B-5318(EP0593792B1)も、L-スレオニン生産菌を誘導するための親株として使用できる。B-5318株は、イソロイシン非要求性であり、プラスミドpVIC40中のスレオニンオペロンの制御領域が、温度感受性ラムダファージC1リプレッサーおよびPRプロモーターにより置換されている。VKPM B-5318は、1990年5月3日、ロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM)に、受託番号VKPM B-5318で国際寄託されている。
【0073】
さらに細菌を改変して下記の遺伝子のうちの1または複数の発現を増強することができる(RU2275424)。
【0074】
- L-スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼI-ホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異体thrA遺伝子;
- ホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子;
- スレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子;
- スレオニンおよびホモセリン排出系(内膜輸送体)のタンパク質をコードするrhtA遺伝子;
- アスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子;および
- アスパルテートアミノトランスフェラーゼをコードするaspC遺伝子
【0075】
エシェリヒア・コリのアスパルトキナーゼI-ホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードするthrA遺伝子は明らかにされている(KEGGエントリーNo. b0002、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置: 337〜2,799、遺伝子ID: 945803)。thrA遺伝子は、エシェリヒア・コリK-12の染色体においてthrL遺伝子とthrB遺伝子との間に位置する。
【0076】
エシェリヒア・コリのホモセリンキナーゼをコードするthrB遺伝子は明らかにされている(KEGGエントリーNo. b0003、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置:
2,801〜3,733、遺伝子ID: 947498)。thrB遺伝子は、エシェリヒア・コリK-12の染色体においてthrA遺伝子とthrC遺伝子との間に位置する。
【0077】
エシェリヒア・コリのスレオニンシンターゼをコードするthrC遺伝子は明らかにされている(KEGGエントリーNo. b0004、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置: 3,734〜5,020、遺伝子ID: 945198)。thrC遺伝子は、エシェリヒア・コリK-12株の染色体上thrB遺伝子とyaaX遺伝子との間に位置する。これらの3つの遺伝子は、単一のスレオニンオペロンthrABCとして機能する。スレオニンオペロンの発現を増強するためには、転写に影響するアテニュエーター領域をオペロンから除去することが好ましい(WO2005/049808A1、WO2003/097839A1)。
【0078】
L-スレオニンによるフィードバック阻害に耐性のアスパルトキナーゼI-ホモセリンデヒドロゲナーゼIをコードする変異型thrA遺伝子、ならびに、thrB遺伝子およびthrC遺伝子は、スレオニン生産株エシェリヒア・コリVKPM B-3996に存在する周知のプラスミドpVIC40から一つのオペロンとして取得できる。プラスミドpVIC40の詳細は、米国特許第5,705,371号に記載されている。
【0079】
エシェリヒア・コリのスレオニンおよびホモセリン排出系(内膜輸送体)のタンパク質をコードするrhtA遺伝子は明らかにされている(KEGGエントリーNo. b0813、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置: 848,433〜849,320、相補鎖、遺伝子ID: 947045)。rhtA遺伝子は、エシェリヒア・コリK-12株の染色体上、グルタミン輸送系の要素をコードするglnHPQオペロン近くのdpsおよびompX遺伝子の間に位置する。rhtA遺伝子はybiF遺伝子(KEGGエントリーNo. B0813)と同一である。
【0080】
エシェリヒア・コリのアスパルテート-β-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子は明らかにされている(KEGGエントリーNo. b3433、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置: 3,571,798〜3,572,901、相補鎖、遺伝子ID: 947939)。asd遺伝子は、エシェリヒア・コリK-12株の染色体上、glgBとgntU遺伝子との間で同じ鎖上に位置する(yhgN遺伝子は反対鎖上)。
【0081】
また、エシェリヒア・コリのアスパルテートアミノトランスフェラーゼをコードするaspC遺伝子は明らかにされている(KEGGエントリーNo. b0928、GenBank accession No. NC_000913.2、ヌクレオチド位置: 983,742〜984,932、相補鎖、遺伝子ID: 945553)。aspC遺伝子は、エシェリヒア・コリK-12の染色体上、反対鎖上のycbL遺伝子と同一鎖上のompF遺伝子との間に位置している。
【0082】
また、L-スレオニン生産菌は、L-スレオニン合成や蓄積に負に作用する酵素の活性を低下させてもよく、そのような活性を有しないようにしてもよい。そのような酵素の例としては、tdh遺伝子によりコードされるスレオニンデヒドロゲナーゼ等が挙げられる(WO2009/022754A1)。
【0083】
エシェリヒア・コリB-3996Δ(ordL-narW)株もL-スレオニン生産菌を誘導するための親株として用いることができる。B-3996Δ(ordL-narW)株はAG7843と命名され、2010年5月21日にRussian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM) (Russia, 117545 Moscow, 1 Dorozhny proezd 1)に受託番号B-10647で寄託され、その後2012年7月19日にブダペスト条約に基づく国際寄託に変更されている。
【0084】
L-リジン生産菌
L-リジン生産菌およびそれを構築する方法を以下に例示する。
【0085】
L-リジン生産能を有する株としては、例えば、L-リジンアナログ耐性株または代謝制御変異株が挙げられる。L-リジンアナログの例としては、オキサリジン、リジンヒドロキサメート、S-(2-アミノエチル)-L-システイン(AEC)、γ-メチルリジン、α-クロロカプロラクタムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらのリジンアナログに対して耐性を有する変異株は、腸内細菌科に属する細菌を通常の人工変異処理に付すことによって得ることができる。L-リジン生産菌として具体的には、エシェリヒア・コリAJ11442株(FERM BP-1543、NRRL B-12185、特開昭56-18596号および米国特許第4,346,170号参照)、エシェリヒア・コリVL611株(特開2000-189180号)等が挙げられる。また、エシェリヒア・コリのL-リジン生産菌として、WC196株(WO96/17930参照)を用いることもできる。
【0086】
さらに、L-リジン生産菌は、L-リジン生合成系酵素の活性を上昇させることによっても構築することができる。そのような酵素の活性は、細胞内の酵素をコードする遺伝子のコピー数を増加させること、またはそれらの発現調節配列を改変することによって上昇させることができる。L-リジン生合成系の酵素をコードする遺伝子のコピー数を増加させること、および発現調節配列を改変することは後述のgltPおよびgltS遺伝子についてのものと同様の方法によって行うことができる。
【0087】
L-リジン生合成系酵素をコードする遺伝子としては、ジヒドロジピコリン酸合成酵素遺伝子(dapA)、アスパルトキナーゼ遺伝子(lysC)、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ遺伝子(dapB)、ジアミノピメリン酸脱炭酸酵素遺伝子(lysA)、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ddh)(以上、WO96/40934)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ遺伝子(ppc) (特開昭60-87788号)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子(aspC)(特公平6-102028号)、アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素遺伝子(asd)(WO00/61723)等のジアミノピメリン酸経路の酵素をコードする遺伝子、あるいはホモアコニット酸ヒドラターゼ遺伝子(特開2000-157276号)等のアミノアジピン酸経路の酵素をコードする遺伝子が挙げられる。また細菌株は、エネルギー効率に関与する遺伝子(cyo) (EP1170376A)、ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(pntAB)(米国特許第5,830,716号)、L-リジン排出活性を有するタンパク質をコードするybjE遺伝子(WO2005/073390)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(gdhA)(Gene 23:199-209, 1983)、またはこれらの任意の組合せの発現レベルが増大していてもよい。カッコ内は、それらの遺伝子の略記号である。上述の遺伝子中、ybjE遺伝子はその一例である。
【0088】
エシェリヒア・コリ由来の野生型ジヒドロジピコリン酸合成酵素はL-リジンによるフィードバック阻害を受けることが知られており、エシェリヒア・コリ由来の野生型アスパルトキナーゼはL-リジンによる抑制およびフィードバック阻害を受けることが知られている。したがって、dapA遺伝子およびlysC遺伝子を用いる場合、L-リジンによるフィードバック阻害が解除された変異型酵素をコードする遺伝子を使用することができる。L-リジンによるフィードバック阻害が解除された変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードするDNAとしては、118位のヒスチジン残基がチロシン残基に置換された配列を有するそのようなタンパク質をコードするDNAが挙げられる。また、L-リジンによるフィードバック阻害
が解除された変異型アスパルトキナーゼをコードするDNAとしては、352位のスレオニン残基がイソロイシン残基に置換、323位のグリシン残基がアスパラギン残基に置換、318位のメチオニンがイソロイシンに置換された配列を有するAKIIIタンパク質をコードするDNAが挙げられる(これらの変異体については米国特許第5,661,012号および第6,040,160号参照)。変異型DNAはPCRなどによる部位特異的変異法により取得することができる。
【0089】
なお、変異型変異型ジヒドロジピコリン酸合成酵素をコードする変異型dapAおよび変異型アスパルトキナーゼをコードする変異型lysCを含むプラスミドとして、広宿主域プラスミドRSFD80、pCAB1、pCABD2が知られている(米国特許第6,040,160号)。RSFD80プラスミドで形質転換されたエシェリヒア・コリJM109株は、AJ12396と命名され(米国特許第6,040,160号)、同株は1993年10月28日に通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター)に受託番号FERM P-13936として寄託され、1994年11月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、FERM BP-4859の受託番号が付与されている。RSFD80は、AJ12396株から公知の方法によって取得することができる。
【0090】
さらに、L-アミノ酸生産菌においては、L-アミノ酸生合成経路から分岐して別の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下または消失していてもよい。また、L-アミノ酸生産菌においては、L-アミノ酸の合成や蓄積に負に作用する酵素の活性が低下または消失していてもよい。L-リジン生産に関与するこのような酵素の例としては、ホモセリンデヒドロゲナーゼ、リジンデカルボキシラーゼ(cadA、ldcC)、マリックエンザイム等があり、これらの酵素の活性が低下または欠損した株はWO95/23864、WO96/17930、WO2005/010175などに記載されている。
【0091】
リジンデカルボキシラーゼ活性を低下または欠損させるためには、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA遺伝子およびldcC遺伝子の両方の発現を低下させてもよい。両遺伝子の発現低下は、WO2006/078039に記載の方法に従って行うことができる。
【0092】
これらの酵素活性を低下あるいは欠損させる方法としては、公知の変異処理法または遺伝子組換え技術によって、ゲノム上の上記酵素をコードする遺伝子に、細胞中の当該酵素の活性が低下または欠損するような変異を導入すればよい。このような変異の導入は、例えば、遺伝子組換えによってゲノム上の酵素をコードする遺伝子を欠損させたり、プロモーターやシャインダルガルノ(SD)配列等の発現調節配列を改変したりすることなどによって達成される。また、ゲノム上の酵素をコードする領域にアミノ酸置換変異(ミスセンス変異)を導入すること、また終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、1または2ニクレオチドを付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること、遺伝子の一部分、あるいは全領域を欠失させることによっても達成できる(J. Biol. Chem. 272: 8611-8617, 1997)。
【0093】
また、コード領域の全体または一部が欠失したような変異型酵素をコードする遺伝子を構築し、相同組換えなどにより該遺伝子でゲノム上の正常な遺伝子を置換すること、またはトランスポゾンまたはIS因子を該遺伝子に導入することによっても酵素活性を低下または欠損させることができる。例えば、上記の酵素の活性を低下または欠損させるような変異を遺伝子組換えにより導入するためには、以下のような方法が用いられる。目的遺伝子の部分配列を改変して正常に機能する酵素をコードしないようにした変異型遺伝子を作製し、該変異型遺伝子を含むDNAで腸内細菌科に属する細菌を形質転換して変異型遺伝子とゲノム上の対応する遺伝子との間で組換えを起こさせることにより、ゲノム上の目的遺伝子を変異型遺伝子に置換することができる。このような相同組換えを利用した遺伝子置換法としては、「レッドドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. 2000. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:
6640-6645)、レッドドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. 2002. Bacteriol. 184: 5200-5203、WO2005/010175参照)とを組合せた方法等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法などがある(米国特許第6,303,383号、特開平05-007491号)。また、上述のような相同組換えを利用した遺伝子置換による部位特異的変異導入は、宿主上で複製能力を持たないプラスミドを用いて行うこともできる。
【0094】
L-リジン生産菌の例としては、エシェリヒア・コリWC196ΔcadAΔldcC/pCABD2株も挙げられる(WO2006/078039)。この菌株は、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadAおよびldcC遺伝子を破壊したWC196株に、リジン生合成系遺伝子を含むプラスミドpCABD2(米国特許第6,040,160号)を導入することにより構築した株である。WC196株は、エシェリヒア・コリK-12に由来するW3110株から取得された株で、352位のスレオニンをイソロイシンに置換することによりL-リジンによるフィードバック阻害が解除された変異型アスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子でW3110株の染色体上の野生型lysC遺伝子を置換し(米国特許第5,661,012号)、AEC耐性を付与することにより育種された(米国特許第5,827,698号)。WC196株は、エシェリヒア・コリAJ13069と命名され、1994年12月6日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受託番号FERM P-14690として寄託され、1995年9月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5252が付与されている(米国特許第5,827,698号)。WC196ΔcadAΔldcC株自体も、L-リジン生産菌の例である。WC196ΔcadAΔldcCは、AJ110692と命名され、2008年10月7日、工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に国際寄託され、受託番号FERM BP-11027が付与されている。
【0095】
プラスミドpCABD2は、L-リジンによるフィードバック阻害を解除する変異を有するエシェリヒア・コリ由来のジヒドロジピコリン酸合成酵素(DDPS)をコードする変異型dapA遺伝子と、L-リジンによるフィードバック阻害を解除する変異を有するエシェリヒア・コリ由来のアスパルトキナーゼIIIをコードする変異型lysC遺伝子と、エシェリヒア・コリ由来のジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子と、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム由来のジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子を含んでいる。
【0096】
L-システイン生産菌
L-システイン生産菌を誘導するための親株の例としては、フィードバック阻害耐性のセリンアセチルトランスフェラーゼをコードする異なるcysEアレルで形質転換されたエシェリヒア・コリJM15(米国特許第6,218,168号、ロシア特許出願第2003121601号)、細胞に毒性の物質を排出させるのに適したタンパク質をコードする過剰発現遺伝子を有するエシェリヒア・コリW3110(米国特許第5,972,663号)、システインデスルフォヒドラーゼ活性が低下したエシェリヒア・コリ株(特開平11-155571号)、cysB遺伝子によりコードされるシステインレギュロンの正の転写制御因子の活性が上昇したエシェリヒア・コリW3110(WO01/27307A1)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
L-ロイシン生産菌
L-ロイシン生産菌を誘導するための親株の例としては、ロイシン耐性のエシェリヒア・コリ株(例えば、57株(VKPM B-7386, 米国特許第6,124,121号))またはβ-2-チエニルアラニン、3-ヒドロキシロイシン、4-アザロイシン、5,5,5-トリフルオロロイシンなどのロイシンアナログ耐性のエシェリヒア・コリ株(特公昭62-34397号および特開平8-70879号)、WO96/06926に記載された遺伝子工学的方法で得られたエシェリヒア・コリ株、エシェリヒア・コリH-9068(特開平8-70879号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、こ
れらに限定されない。
【0098】
本発明に用いる細菌は、L-ロイシン生合成に関与する1種以上の遺伝子の発現が増大されることにより改良されていてもよい。このような遺伝子の例としては、L-ロイシンによるフィードバック阻害が解除されたイソプロピルマレートシンターゼをコードする変異型leuA遺伝子に代表される、leuABCDオペロンの遺伝子が挙げられる(米国特許第6,403,342号)。さらに、本発明に用いる細菌は、細菌の細胞からL-アミノ酸を排出するタンパク質をコードする1種以上の遺伝子の発現を増強することにより改良されていてもよい。このような遺伝子の例としては、b2682遺伝子およびb2683遺伝子(ygaZH遺伝子)(EP1239041A2)が挙げられる。
【0099】
L-ヒスチジン生産菌
L-ヒスチジン生産菌を誘導するための親株の例としては、エシェリヒア・コリ24株 (VKPM B-5945、ロシア特許第2003677号)、エシェリヒア・コリ80株 (VKPM B-7270、ロシア特許第2119536号)、エシェリヒア・コリNRRL B-12116〜B12121(米国特許第4,388,405号)、エシェリヒア・コリH-9342(FERM BP-6675)およびH-9343(FERM BP-6676)(米国特許第6,344,347号)、エシェリヒア・コリH-9341(FERM BP-6674) (EP1085087)、エシェリヒア・コリAI80/pFM201 (米国特許第6,258,554号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
L-ヒスチジン生産菌を誘導するための親株の例としては、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードする1種以上の遺伝子の発現が増強された株も挙げられる。かかる遺伝子の例としては、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(hisG)、ホスホリボシルAMPサイクロヒドロラーゼ(hisI)、ホスホリボシル-ATPピロホスホヒドロラーゼ(hisIE)、ホスホリボシルフォルミミノ-5-アミノイミダゾールカルボキサミドリボタイドイソメラーゼ(hisA)、アミドトランスフェラーゼ遺伝子(hisH)、ヒスチジノールホスフェートアミノトランスフェラーゼ(hisC)、ヒスチジノールホスファターゼ(hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(hisD)等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0101】
hisGおよびhisBHAFIにコードされるL-ヒスチジン生合成系酵素はL-ヒスチジンにより阻害されることが知られており、従って、L-ヒスチジン生産能は、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼにフィードバック阻害への耐性を付与する変異を導入することにより効率的に増強することができる(ロシア特許第2003677号および第2119536号)。
【0102】
L-ヒスチジン生産能を有する株の具体例としては、L-ヒスチジン生合成系酵素をコードするDNAを保持するベクターを導入したエシェリヒア・コリFERM-P 5038および5048(特開昭56-005099号)、アミノ酸輸送の遺伝子rhtを導入したエシェリヒア・コリ株(EP1016710A)、スルファグアニジン、DL-1,2,4-トリアゾール-3-アラニンおよびストレプトマイシンに対する耐性を付与したエシェリヒア・コリ80株(VKPM B-7270、ロシア特許第2119536号)などが挙げられる。
【0103】
L-グルタミン酸生産菌
L-グルタミン酸生産菌を誘導するための親株の例としては、エシェリヒア・コリVL334thrC+(EP1172433)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。エシェリヒア・コリVL334(VKPM B-1641)は、thrC遺伝子およびilvA遺伝子に変異を有するL-イソロイシンおよびL-スレオニン要求性株である(米国特許第4,278,765号)。thrC遺伝子の野生型アレルは、野生型エシェリヒア・コリK-12株(VKPM B-7)の細胞で増殖したバクテリオファージP1を用いる一般的形質導入法により導入された。この結果、L-イソロイシン要求性のL-グルタミン酸生産菌VL334thrC+(VKPM B-8961)が得られた。
【0104】
L-グルタミン酸生産菌を誘導するための親株の例としては、L-グルタミン酸生合成系酵素をコードする1種または2種以上の遺伝子の発現が増強された株が挙げられるが、これらに限定されない。かかる遺伝子の例としては、グルタメートデヒドロゲナーゼ(gdhA)、グルタミンシンテターゼ(glnA)、グルタメートシンテターゼ(gltAB)、イソシトレートデヒドロゲナーゼ(icdA)、アコニテートヒドラターゼ(acnA、acnB)、クエン酸シンターゼ(gltA)、ホスホエノールピルベートカルボシラーゼ(ppc)、ピルベートカルボシラーゼ(pyc)、ピルベートデヒドロゲナーゼ(aceEF、lpdA)、ピルベートキナーゼ(pykA、pykF)、ホスホエノールピルベートシンターゼ(ppsA)、エノラーゼ(eno)、ホスホグリセロムターゼ(pgmA、pgmI)、ホスホグリセレートキナーゼ(pgk)、グリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(gapA)、トリオースホスフェートイソメラーゼ(tpiA)、フルクトースビスホスフェートアルドラーゼ(fbp)、ホスホフルクトキナーゼ(pfkA、pfkB)、グルコースホスフェートイソメラーゼ(pgi)をコードする遺伝子が挙げられる。
【0105】
シトレートシンテターゼ遺伝子、ホスホエノールピルベートカルボキシラーゼ遺伝子、および/またはグルタメートデヒドロゲナーゼ遺伝子の発現が増強されるように改変された株の例としては、EP1078989B1、EP955368B1およびEP952221B1に開示されたものが挙げられる。
【0106】
L-グルタミン酸生産菌を誘導するための親株の例としては、L-グルタミン酸の生合成経路から分岐してL-グルタミン酸以外の化合物の合成を触媒する酵素の活性が低下または欠損している株も挙げられる。このような酵素の例としては、イソシトレートリアーゼ(aceA)、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ(sucA)、ホスホトランスアセチラーゼ(pta)、アセテートキナーゼ(ack)、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(ilvG)、アセトラクテートシンターゼ(ilvI)、ホルメートアセチルトランスフェラーゼ(pfl)、ラクテートデヒドロゲナーゼ(ldh)、グルタメートデカルボキシラーゼ(gadAB)が挙げられる。α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が欠損した、またはα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下したエシェリヒア属に属する細菌、およびそれらの取得方法は米国特許第5,378,616 号および第5,573,945号に記載されている。具体例としては下記のものが挙げられる。
【0107】
エシェリヒア・コリW3110sucA::KmR
エシェリヒア・コリAJ12624 (FERM BP-3853)
エシェリヒア・コリAJ12628 (FERM BP-3854)
エシェリヒア・コリAJ12949 (FERM BP-4881)
【0108】
エシェリヒア・コリW3110sucA::KmRは、エシェリヒア・コリW3110のα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ遺伝子(以下、「sucA遺伝子」という)を破壊することにより得られた株である。この株は、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼを完全に欠損している。
【0109】
L-グルタミン酸生産菌の他の例としては、エシェリヒア属に属し、アスパラギン酸代謝拮抗物質に耐性を有するものが挙げられる。これらの株はさらにα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼを欠損していてもよく、例えば、エシェリヒア・コリAJ13199(FERM BP-5807)(米国特許第5,908,768号)、さらにL-グルタミン酸分解能が低下したFFRM P-12379(米国特許第5,393,671号)、AJ13138(FERM BP-5565)(米国特許第6,110,714号)などが挙げられる。
【0110】
L-グルタミン酸生産菌として、α-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が欠損した、またはα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性が低下したパントエア属に属する変異株が挙げられ、上記のようにして得ることができる。このような株としては、パントエア・アナナティスAJ13356株が挙げられる(米国特許第6,331,419号)。パントエア・アナナ
ティスAJ13356は、1998年2月19日、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所(現独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター、〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に受託番号FERM P-16645として寄託され、1999年1月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-6615が付与されている。パントエア・アナナティスAJ13356は、αKGDH-E1サブユニット遺伝子(sucA)を破壊することによりα-ケトグルタレートデヒドロゲナーゼ活性を欠損させたものである。同株は分離された当時はエンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)と同定され、エンテロバクター・アグロメランスAJ13356として寄託されたが、近年16S rRNAのヌクレオチド配列解析などによりパントエア・アナナティスに再分類された。AJ13356は上記寄託機関にエンテロバクター・アグロメランスとして寄託されているが、本明細書ではパントエア・アナナティスとして記載する。
【0111】
L-フェニルアラニン生産菌
L-フェニルアラニン生産菌を誘導するための親株の例としては、エシェリヒア・コリAJ12739(tyrA::Tn10,tyrR)(VKPM B-8197)、変異型pheA34遺伝子を保持するエシェリヒア・コリHW1089(ATCC 55371)(米国特許第5,354,672号)、エシェリヒア・コリMWEC101-b(KR8903681)、エシェリヒア・コリNRRL B-12141、NRRL B-12145、NRRL B-12146およびNRRL B-12147(米国特許第4,407,952号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。また親株として、エシェリヒア・コリK-12[W3110 (tyrA)/pPHAB](FERM BP-3566)、エシェリヒア・コリK-12[W3110(tyrA)/pPHAD](FERM BP-12659)、エシェリヒア・コリK-12[W3110 (tyrA)/pPHATerm](FERM BP-12662)、およびAJ 12604と命名されたエシェリヒア・コリK-12[W3110 (tyrA)/pBR-aroG4, pACMAB](FERM BP-3579)も使用できる(EP488424B1)。さらに、yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされるタンパク質の活性が増強されたエシェリヒア属に属するL-フェニルアラニン生産菌も使用できる(米国特許出願公開2003/0148473A1号および2003/0157667A1号)。
【0112】
L-トリプトファン生産菌
L-トリプトファン生産菌を誘導するための親株の例としては、変異型trpS遺伝子によりコードされるトリプトファニル-tRNAシンテターゼが欠損したエシェリヒア・コリJP4735/pMU3028(DSM10122)およびJP6015/pMU91(DSM10123)(米国特許第5,756,345号)、セリンによるフィードバック阻害を受けないホスホグリセリレートデヒドロゲナーゼをコードするserAアレルおよびトリプトファンによるフィードバック阻害を受けないアントラニレートシンターゼをコードするtrpEアレルを有するエシェリヒア・コリSV164(pGH5)(米国特許第6,180,373号)、トリプトファナーゼが欠損したエシェリヒア・コリAGX17(pGX44)(NRRL B-12263)およびAGX6(pGX50)aroP(NRRL B-12264)(米国特許第4,371,614号)、ホスホエノールピルビン酸生産能が増強されたエシェリヒア・コリAGX17/pGX50,pACKG4-pps(WO97/08333、米国特許第6,319,696号)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。yedA遺伝子またはyddG遺伝子にコードされる同定されたタンパク質の活性が増強されたエシェリヒア属に属するL-トリプトファン生産菌も使用できる(米国特許出願公開第2003/0148473A1号および第2003/0157667A1号)。
【0113】
L-トリプトファン生産菌を誘導するための親株の例としては、アントラニレートシンターゼ、ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ、トリプトファンシンターゼから選ばれる1種または2種以上の酵素の活性が増強された株も挙げられる。アントラニレートシンターゼおよびホスホグリセレートデヒドロゲナーゼは共にL-トリプトファンおよびL-セリンによるフィードバック阻害を受けるので、フィードバック阻害を解除する変異をこれらの酵素に導入してもよい。このような変異を有する株の具体例としては、フィードバック阻害が解除されたアントラニレートシンターゼを保持するエシェリヒア・コリSV164、およびフィードバック阻害が解除されたホスホグリセレートデヒドロゲナーゼをコードする変異型serA遺伝子を含むプラスミドpGH5(WO94/08031)をエシェリヒア・コリSV164に導入する
ことにより得られた形質転換株が挙げられる。
【0114】
L-トリプトファン生産菌を誘導するための親株の例としては、阻害解除型アントラニレートシンターゼをコードする遺伝子を含むトリプトファンオペロンが導入された株(特開昭57-71397号、特開昭62-244382号、米国特許第4,371,614号)も挙げられる。さらに、トリプトファンオペロン(trpBA)中のトリプトファンシンターゼをコードする遺伝子の発現を増強することによりL-トリプトファン生産能を付与してもよい。トリプトファンシンターゼは、それぞれtrpAおよびtrpB遺伝子によりコードされるαおよびβサブユニットからなる。さらに、イソシトレートリアーゼ-マレートシンターゼオペロンの発現を増強することによりL-トリプトファン生産能を改良してもよい(WO2005/103275)。
【0115】
L-プロリン生産菌
L-プロリン生産菌を誘導するための親株の例としては、ilvA遺伝子が欠損し、L-プロリンを生産できるエシェリヒア・コリ702ilvA(VKPM B-8012)(EP1172433)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。本発明に用いる細菌は、L-プロリン生合成に関与する1種以上の遺伝子の発現を増強することにより改良してもよい。L-プロリン生産菌のためのそのような遺伝子の例としては、L-プロリンによるフィードバック阻害が解除されたグルタメートキナーゼをコードするproB遺伝子(ドイツ特許第3127361号)が挙げられる。さらに本発明に用いる細菌は、細菌の細胞からL-アミノ酸を排出するタンパク質をコードする1種以上の遺伝子の発現を増強することにより改良してもよい。このような遺伝子としては、b2682遺伝子およびb2683遺伝子(ygaZH遺伝子)(EP1239041A2)が挙げられる。
【0116】
L-プロリン生産能を有するエシェリヒア属に属する細菌の例としては、NRRL B-12403およびNRRL B-12404(英国特許第2075056号)、VKPM B-8012(ロシア特許出願2000124295)、ドイツ特許第3127361号に記載のプラスミド変異体、Bloom F.R. et al.(The 15th Miami winter symposium, 1983, p.34)により記載されたプラスミド変異体などのエシェリヒア・コリ株が挙げられる。
【0117】
L-アルギニン生産菌
L-アルギニン生産菌を誘導するための親株の例としては、エシェリヒア・コリ237株(VKPM B-7925)(米国特許出願公開第2002/058315A1号)、および変異型N-アセチルグルタメートシンターゼを保持するその誘導株(ロシア特許出願第2001112869号)、エシェリヒア・コリ382株(VKPM B-7926)(EP1170358A1)、N-アセチルグルタメートシンテターゼをコードするargA遺伝子が導入されたアルギニン生産株(EP1170361A1)などのエシェリヒア属に属する株が挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
L-アルギニン生産菌を誘導するための親株の例としては、L-アルギニン生合成系酵素をコードする1種以上の遺伝子の発現が増強された株も挙げられる。そのような遺伝子の例としては、N-アセチルグルタミルホスフェートレダクターゼ(argC)、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ(argJ)、N-アセチルグルタメートキナーゼ(argB)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(argD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF)、アルギニノコハク酸シンテターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)、カルバモイルホスフェートシンテターゼ(carAB)をコードする遺伝子が挙げられる。
【0119】
L-バリン生産菌
L-バリン生産菌を誘導するための親株の例としては、ilvGMEDAオペロンを過剰発現するように改変された株(米国特許第5,998,178号)が挙げられるが、これらに限定されない。アテニュエーションに必要なilvGMEDAオペロンの領域を除去し、生産されるL-バリンによりオペロンの発現が減衰しないようにすることが好ましい。さらに、オペロンのilvA遺伝
子が破壊され、スレオニンデアミナーゼ活性が減少していることが好ましい。
【0120】
L-バリン生産菌を誘導するための親株の例としては、アミノアシルt-RNAシンテターゼの変異を有する変異株(米国特許第5,658,766号)も挙げられる。例えば、イソロイシンtRNAシンテターゼをコードするileS遺伝子に変異を有するエシェリヒア・コリVL1970が使用できる。エシェリヒア・コリVL1970は、1988年6月24日、ロシアン・ナショナル・コレクション・オブ・インダストリアル・マイクロオルガニズムズ(VKPM) (Russian Federation, 117545 Moscow, 1st Dorozhny Proezd, 1)に、受託番号VKPM B-4411で寄託されている。さらに、増殖にリポ酸を要求し、および/またはH+-ATPアーゼを欠失している変異株(WO96/06926)を親株として用いることもできる。
【0121】
L-イソロイシン生産菌
L-イソロイシン生産菌を誘導するための親株の例としては、6-ジメチルアミノプリンに耐性を有する変異株(特開平5-304969号)、チアイソロイシン、イソロイシンヒドロキサメートなどのイソロイシンアナログに耐性を有する変異株、さらにDL-エチオニンおよび/またはアルギニンヒドロキサメートに耐性を有する変異株(特開平5-130882号)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、スレオニンデアミナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼなどのL-イソロイシン生合成に関与するタンパク質をコードする遺伝子で形質転換された組換え株も親株として使用できる(特開平2-458号、FR0356739、および米国特許第5,998,178号)。
【0122】
2.本発明の方法
本発明の方法は、培地中で本発明の細菌を培養して培地中にL-アミノ酸を生産分泌させ、培地からL-アミノ酸を回収することによりL-アミノ酸を製造する方法である。
【0123】
細菌の培養、培地からのL-アミノ酸の回収および精製などは、細菌を使用してアミノ酸を生産する従来の発酵法と同様の方法で行うことができる。
【0124】
培養に使用する培地は、炭素源、窒素源および無機物を含み、必要に応じて細菌の増殖のために必要な栄養素を適当な量含む限り、合成あるいは天然培地のいずれでもよい。炭素源は、グルコースおよびスクロースのような様々な炭水化物および様々な有機酸を含むことができる。選択された微生物の同化の形式によっては、エタノール、グリセリンなどのアルコールを使用してもよい。窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウムなどのような様々なアンモニウム塩、アミンのようなその他の窒素化合物、ペプトン、大豆加水分解物、消化済発酵微生物などのような天然窒素源を使用することができる。無機物としては、モノリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸鉄(II)、硫酸マンガン、塩化カルシウムなどを使用することができる。ビタミンとしては、チアミン、酵母エキスなどを使用することができる。
【0125】
培養は、20〜40℃、あるいは30〜38℃の温度で、例えば振盪培養や通気を伴う攪拌培養のように好気的条件下に行うことができる。培養物のpHは通常5〜9、あるいは6.5〜7.2である。培養物のpHは、アンモニア、炭酸カルシウム、種々の酸、種々の塩基およびバッファーにより調整することができる。通常、1〜5日間の培養により液体培地中に目的L-アミノ酸が蓄積される。
【0126】
培養後、細胞などの固形分は遠心分離や膜濾過により液体培地から除去することができる。その後、濃縮および/または結晶化および/または各種クロマトグラフィー法によりL-アミノ酸を回収し、精製することができる。
【0127】
回収されたL-アミノ酸を含む組成物は、L-アミノ酸に加えて、細菌細胞、培地成分、水
分、および微生物の副生代謝産物を含有し得る。回収したL-アミノ酸の純度は、例えば50%以上、あるいは85%以上、あるいは95%以上であり得る(米国特許第5,431,933号、特開平1-214636号、米国特許第4,956,471号、4,777,051号、4,946,654号、5,840,358号、6,238,714号、米国特許出願公開第2005/0025878号)。
【0128】
さらに、L-アミノ酸が培地中に沈殿する場合は、遠心分離、濾過等により回収することができる。培地中に沈殿したL-アミノ酸と培地中に溶解したL-アミノ酸は、培地中に溶解したL-アミノ酸を結晶化した後に両者を同時に単離することができる。
【実施例】
【0129】
以下の非限定的な実施例により本発明をより詳細に説明する。
【0130】
[実施例1]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株の構築
エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株は、MG1655::Δtdh,rhtA*株中のflhDCオペロンのネイティブプロモーター領域を、Ptacプロモーターから誘導したプロモーターPtac7で置換することにより得た(図1)。Ptac7プロモーターは、LacI-結合部位領域中のC-ヌクレオチド(ATGコドンの上流23位)を欠失し、LacI-依存性抑制が解除されている。
【0131】
flhDCオペロンのネイティブプロモーター領域を置換するため、「レッドメディエイテッドインテグレーション」および/または「レッドドリブンインテグレーション」とも呼ばれるDatsenko K.A. およびWanner B.L.により記載された方法(Proc. Natl. Acad. Sci.
USA, 2000, 97:6640-6645)により、Ptac7プロモーターおよびkan遺伝子によりコードされるカナマイシン耐性マーカー(KmR)を含むDNA断片を、エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*株の染色体上のネイティブプロモーター領域に代えて組み込んだ。MG1655::Δtdh,rhtA*株はロシア特許第2364628C2号およびWO2009/022754A1に詳細に記載されたようにして構築した。温度感受性レプリコンを有する組換えプラスミドpKD46 (Datsenko K.A. and
Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:6640-6645)をレッドメディエイテッド組換えシステムを担うファージl由来遺伝子のドナーとして使用した。組換えプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリBW25113株は、E. coli Genetic Stock Center, Yale University, New Haven, USAからaccession number CGSC7630として得られる。プラスミドpKD46をエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*株へインテグレーションすることによりMG1655::Δtdh,rhtA*/pKD46株をを得た。
【0132】
Ptac7プロモーター断片は、市販のプラスミドpKK223-3(Pharmacia)を鋳型として使用し、プライマーP1(配列番号9)およびP2(配列番号10)を使用するPCRにより得た。プライマーP1は、Ptac7プロモーターとさらに結合するのに必要なkan遺伝子の5’-領域に相同な21ヌクレオチドを含む。プライマーP2は、細菌染色体へさらにインテグレーションするのに必要なflhD遺伝子の5’-領域に相同な40ヌクレオチドを含む。さらにプライマーP2は、LacI-結合部位領域中のC-ヌクレオチド(ATGコドンから上流23位)を欠失している。
【0133】
kan遺伝子によりコードされるKmRマーカーを含むDNA断片は、市販のプラスミドpACYC177(GenBank accession number X06402、Fermentas、Lithuania)を鋳型として使用し、プライマーP3(配列番号11)およびP4(配列番号12)を使用するPCRにより得た。プライマーP3は、細菌染色体へさらにインテグレーションするのに必要なflhD遺伝子の開始コドンの上流188 bpに位置する領域に相同な41ヌクレオチドを含む。プライマーP4は、kan遺伝子とさらに結合するのに必要なPtac7プロモーターの5’-領域に相同な21ヌクレオチドを含む。
【0134】
PCRはGeneAmp PCR System 2700サーマルサイクラー(Applied Biosystems)を使用して行った。合計容量50μlの反応混合物は、5μlの10xPCR-バッファーとともに25 mM MgCl2(Fe
rmentas、Lithuania)、各200μMのdNTP、各25 pmolの製造したプライマーおよび1 UのTaq-ポリメラーゼ(Fermentas、Lithuania)を含むものとした。約5 ngのプラスミドDNAを鋳型DNAとして反応混合物に加え、PCR増幅を行った。温度プロファイルとしては、95℃で5分間の最初のDNA変性の後、95℃で30秒の変性、54℃で30秒のアニーリング、および72℃でPtac7プロモーターについては20秒、kan遺伝子については50秒の伸長からなるサイクルを25回行い、その後72℃で5分の最終の伸長を行った。増幅したDNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、GenElute Spin Columns(Sigma, USA)を使用して抽出し、エタノールで沈降させた。
【0135】
kan-Ptac7DNA断片は、上記2つのDNA断片ならびにプライマーP1(配列番号9)およびP4 (配列番号12)を使用するオーバーラップPCRにより得、DNA断片オーバーラッピングおよび増幅を完了した。増幅したkan-Ptac7DNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、GenElute Spin Columns(Sigma, USA)を使用して抽出し、エタノールで沈降させた。得られたDNA断片をを使用してエレクトロポレーションおよびエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*/pKD46の細菌染色体へのレッドメディエイテッドインテグレーションを行った。
【0136】
MG1655::Δtdh,rhtA*/pKD46細胞をアンピシリン(100μg/ml)を加えた液体LB培地において30℃で一晩増殖させ、その後アンピシリン(100μg/ml)およびL-アラビノース(10 mM)を加えたSOB培地(酵母エキス5 g/l、NaCl 0.5 g/l、トリプトン20 g/l、KCl 2.5 mM、MgCl210 mM)で1:100に希釈し(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA,
2000, 97:6640-6645)、30℃で増殖させ、0.4〜0.7の細菌培養物の光学密度OD600 を得た。10 mlの細菌培養培地からの増殖細胞を氷冷脱イオン水で3回洗浄し、100μlの水中に懸濁した。脱イオン水中に溶解した10μlのDNA断片(100 ng)を細胞懸濁物に加えた。エレクトロポレーションをBio-Radエレクトロポレーター(USA) (No. 165-2098, version 2-89)により製造者の説明書に従って行った。
【0137】
ショックを与えた細胞を1 mlのSOC培地(Sambrook et al, “Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd ed.”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に加え、37℃で2時間インキュベートし、20μg/mlのカナマイシンを含むL寒天培地上に展開した。
【0138】
24時間で出現したコロニーについて、プライマーP5(配列番号13)およびP6(配列番号14)を使用するPCRにより、flhDCオペロンのネイティブプロモーター領域に代えてKmRマーカーが存在するかどうかを調べた。この目的のために、新たに分離したコロニーを20μlの水中に懸濁した後、得られた懸濁液の1μlを使用してPCRを行った。温度プロファイルとしては、95℃で10分間の最初のDNA変性の後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、および72℃で1.5分の伸長からなるサイクルを30回行い、72℃で5分の最終の伸長を行った。試験したいくつかのKmRコロニーが所望の1460 bp DNA断片を含んでおり、flhDCオペロンの840 bpネイティブプロモーター領域に代えてKmRマーカーDNAが含まれていることが確認された(図1)。得られた株のひとつを37℃で培養することにより温度感受性プラスミドpKD46を除去し、得られた株をエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDCと命名した。
【0139】
[実施例2]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株によるL-スレオニンの生産
親株MG1655::Δtdh,rhtA* およびMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDCをそれぞれプラスミドpVIC40(WO90/04636A1、米国特許第5,705,371号)で形質転換した。得られた株を栄養液体培地中37℃で18時間培養し、得られた培養物のそれぞれの0.1 mlを20 x 200 mm試験管中の2 mlの醗酵培地に接種し、37℃で24および48時間、ロータリーシェーカー上で培養した。
【0140】
醗酵培地は以下を含むものとした(g/l)。
グルコース 40
NaCl 0.8
(NH4)2SO4 22
K2HPO4 2.0
MgSO4・7H2O 0.8
MnSO4・5H2O 0.02
FeSO4・7H2O 0.02
チアミン塩酸塩 0.002
酵母エキス 1.0
CaCO3 30
【0141】
グルコースおよび硫酸マグネシウムは別に滅菌した。CaCO3は180℃で2時間乾熱滅菌した。pHは7.0に調整した。抗生物質は滅菌後の培地に加えた。
【0142】
培養後、培地中に蓄積したL-スレオニンの量を、ブタノール/酢酸/水 = 4/1/1 (v/v)の移動相を使用したペーパークロマトグラフィーにより測定した。アセトン中のニンヒドリン溶液(2%)を可視化試薬として使用した。L-スレオニンを含むスポットを切出し、L-スレオニンをCdCl2の0.5%水溶液中に溶出させ、L-スレオニンの量を540 nmにおける分光測定により推定した。
【0143】
20本の独立した試験管での醗酵の結果(平均値)を表1に示す。表1から判るように、改変したエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC(pVIC40)株は、親株エシェリヒア・コリMG1655Δtdh::rhtA(pVIC40)と比較してより多い量のL-スレオニンの蓄積を生じた。
【0144】
【表1】
【0145】
[実施例3]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,ΔintB::yhjH,cat株の構築
MG1655::Δtdh,rhtA*株中のインテグラーゼBをコードするネイティブintB遺伝子を、別コピーのyhjH遺伝子であってそれ自身のプロモーターPyhjHの制御下にあるものに置換することによりエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,ΔintB::yhjH,cat株を得た(図2)。
【0146】
「レッドメディエイテッドインテグレーション」および/または「レッドドリブンインテグレーション」とも呼ばれるDatsenko K.A. およびWanner B.L.により記載された方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, 97:6640-6645)により、それ自身のプロモーターの制御下にあるyhjH遺伝子を含むDNA断片を、エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*株の染色体上のネイティブintB遺伝子に代えて組み込んだ。温度感受性レプリコンを有する組換えプラスミドpKD46(Datsenko K.A. and Wanner B.L., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2
000, 97:6640-6645)をレッドメディエイテッド組換えシステムを担うファージl由来遺伝子のドナーとして使用した。組換えプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリBW25113株は、E. coli Genetic Stock Center, Yale University, New Haven, USAからaccession number CGSC7630として得られる。
【0147】
yhjH遺伝子は、エシェリヒア・コリMG1655染色体DNA並びにプライマーP7(配列番号15)およびP8(配列番号16)を使用するPCRにより得た。プライマーP7はyhjH遺伝子とさらに結合するのに必要なcat遺伝子の5’-領域に相同な21ヌクレオチドを含む。プライマーP8は、細菌染色体へさらにインテグレーションするのに必要なintB遺伝子のTAAコドンの下流に位置する領域に相同な40ヌクレオチドを含む。
【0148】
cat遺伝子によりコードされるクロラムフェニコール耐性マーカー(CmR)を含むDNA断片を、市販のプラスミドpACYC184(GenBank/EMBL accession number X06403、Fermentas、Lithuania)を鋳型として使用し、プライマーP9(配列番号17)およびP10(配列番号18)を使用するPCRにより得た。プライマーP9は、細菌染色体へさらにインテグレーションするのに必要なintB遺伝子のATGコドンの上流に位置する領域に相同な41ヌクレオチドを含む。プライマーP10は、yhjH遺伝子とさらに結合するのに必要なPyhjHプロモーターの5’-領域に相同な21ヌクレオチドを含む。
【0149】
PCRはGeneAmp PCR System 2700サーマルサイクラー(Applied Biosystems)を使用して行った。合計容量50μlの反応混合物は、5μlの10xPCRバッファーとともに25 mM MgCl2(Fermentas、Lithuania)、各200μMのdNTP、各25 pmolの製造したプライマーおよび1 UのTaq-ポリメラーゼ(Fermentas、Lithuania)を含むものとした。約5 ngのプラスミドDNAを鋳型DNAとして反応混合物に加え、PCR増幅を行った。温度プロファイルとしては、95℃で5分間の最初のDNA変性の後、95℃で30秒の変性、54℃で30秒のアニーリング、および72℃でyhjH遺伝子については45秒、cat遺伝子については50秒の伸長からなるサイクルを25回行い、その後72℃で5分の最終の伸長を行った。増幅したDNA断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、GenElute Spin Columns(Sigma、USA)を使用して抽出し、エタノールで沈降させた。
【0150】
cat-PyhjH-yhjH DNA断片は、上記2つのDNA断片ならびにプライマーP8(配列番号16)およびP9(配列番号17)を使用するオーバーラップPCRにより得た。増幅したcat-PyhjH-yhjH DNA断片を前記のようにアガロースゲル電気泳動により精製した。得られたDNA断片を使用してエレクトロポレーションおよびエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*/pKD46の細菌染色体へのレッドメディエイテッドインテグレーションを行った(実施例1参照)。
【0151】
MG1655::Δtdh,rhtA*/pKD46細胞を増殖させ、希釈し、さらなる増殖とエレクトロポーレーションを、実施例1記載したようにして行った。
【0152】
ショックを与えた細胞を1 mlのSOC培地(Sambrook et al, “Molecular Cloning A Laboratory Manual, 2nd ed.”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989))に加え、37℃で2時間インキュベートし、20μg/ml のクロラムフェニコールを含むL寒天培地上に展開した。
【0153】
24時間で出現したコロニーについて、プライマーP11(配列番号19)およびP12(配列番号20)を使用するPCRにより、ネイティブintB遺伝子に代えてcat-PyhjH-yhjH DNA断片が存在するかどうかを調べた。この目的のために、新たに分離したコロニーを20μlの水中に懸濁した後、得られた懸濁液の1μlを使用してPCRを行った。温度プロファイルとしては、95℃で10分間の最初のDNA変性の後、95℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、および72℃で2分の伸長からなるサイクルを30回行い、その後72℃で5分の最終の伸長を行った
。試験したいくつかのCmRコロニーが所望の2215 bp DNA断片を含んでおり、1620 bpネイティブintB遺伝子に代えてcat-PyhjH-yhjH DNA断片が存在することが確認された(図2)。得られた株のひとつを37℃で培養することにより温度感受性プラスミドpKD46を除去し、得られた株をエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,ΔintB::yhjH,catと命名した。
【0154】
[実施例4]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,ΔintB::yhjH,cat株の構築
一般的形質導入法(Miller J.H. (1972) Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, NY)により、ΔintB::yhjH変異をMG1655::Δtdh,rhtA*,ΔintB::yhjH,cat株からMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株へ導入することによりエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,ΔintB::yhjH,cat株を得た。この目的のために、MG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株に、ドナーMG1655::Δtdh,rhtA*,ΔintB::yhjH,cat株で増殖させた細菌ファージP1virを感染させた。これによりMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,ΔintB::yhjH,cat株を得た。
【0155】
[実施例5]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,ΔintB::yhjH,cat株によるL-スレオニンの生産
親株MG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC およびMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,ΔintB::yhjH,catをそれぞれプラスミドpVIC40で形質転換した(実施例2参照)。得られた株を栄養液体培地中37℃で18時間培養し、得られた培養物のそれぞれの0.1 mlを20 x 200 mm試験管中の2 mlの醗酵培地に接種し、37℃で24時間、ロータリーシェーカー上で培養した。醗酵培地の組成および調製、およびL-スレオニンの測定方法は実施例2に記載した通りである。
【0156】
20本の独立した試験管での醗酵の結果(平均値)を表2に示す。表2から判るように、改変したエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,ΔintB::yhjH,cat株は、親株エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株と比較してより多い量のL-スレオニンの蓄積を生じた。
【0157】
【表2】
【0158】
[実施例6]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7fliZ,cat株の構築
実施例1においてMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株について記載したものと同じ方法によりエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7fliZ,cat株を構築した(図3)。
【0159】
Ptac7 プロモーター断片は、市販のプラスミドpKK223-3(Pharmacia)を鋳型として使用し、プライマーP13(配列番号21)およびP14(配列番号22)を使用するPCRにより得た。プライマーP13は、細菌染色体へさらにインテグレーションするのに必要なfliZ遺伝子の5’-領域に相同な40ヌクレオチドを含む。さらにプライマーP13は、LacI-結合部位領域中のC-ヌクレオチド(ATGコドンから上流23位)を欠失している。プライマーP14は、Ptac7プロモーターとさらに結合するのに必要なcat遺伝子の5’-領域に相同な21ヌクレオチドを含む
【0160】
cat遺伝子によりコードされるクロラムフェニコール耐性マーカー(CmR)を含むDNA断片は、市販のプラスミドpACYC184(GenBank/EMBL accession number X06403、Fermentas、Lithuania)を鋳型として使用し、プライマーP15(配列番号23)およびP16(配列番号24)を使用するPCRにより得た。プライマーP15は細菌染色体へさらにインテグレーションするのに必要なfliZ遺伝子の開始コドンの9 bp上流に位置する領域に相同な41ヌクレオチドを含む。プライマーP16は、cat遺伝子とさらに結合するのに必要なPtac7プロモーターの5’-領域に相同な21ヌクレオチドを含む。
【0161】
cat-fliZ DNA断片は、上記2つのDNA断片ならびにプライマーP15(配列番号23)およびP13(配列番号21)を使用するオーバーラップPCRにより得、エレクトロポレーションおよびエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*/pKD46の細菌染色体へのインテグレーションに使用した。
【0162】
24時間で出現したコロニーについて、実施例3に記載したようにして、プライマーP17(配列番号25)およびP18(配列番号26)を使用するPCRにより、fliZ遺伝子のネイティブプロモーター領域に代えてCmRマーカーが存在するかどうかを調べた。試験したいくつかのCmRコロニーが所望の1540 bp DNA断片を含んでおり、295 bpのfliZ遺伝子のネイティブプロモーター領域に代えてCmRマーカーDNAが存在することが確認された(図3)。得られた株のひとつを37℃で培養することにより温度感受性プラスミドpKD46を除去し、得られた株をエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7fliZ,catと命名した。
【0163】
[実施例7]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,Ptac7fliZ,cat株の構築
一般的形質導入法(Miller J.H. (1972) Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Lab. Press, Plainview, NY)によりPtac7fliZ変異をMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7fliZ,cat株からMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株へ導入することによりエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,Ptac7fliZ,cat株を得た。この目的のために、MG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株に、ドナーMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7fliZ,cat株で増殖させた細菌ファージP1virを感染させた。これによりMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,Ptac7fliZ,cat株を得た。
【0164】
[実施例8]エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,Ptac7fliZ,cat株によるL-スレオニンの生産
【0165】
親株MG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDCおよびMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,Ptac7fliZ,catをそれぞれプラスミドpVIC40で形質転換した(実施例2参照)。得られた株を栄養液体培地中37℃で18時間培養し、得られた培養物のそれぞれの0.1 mlを20 x 200 mm試験管中の2 mlの醗酵培地に接種し、37℃で24時間、ロータリーシェーカー上で培養した。醗酵培地の組成および調製、およびL-スレオニンの測定方法は実施例2に記載した通りである。
【0166】
20本の独立した試験管での醗酵の結果(平均値)を表3に示す。表3から判るように、改変したエシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,Ptac7fliZ,cat株は、親株エシェリヒア・コリMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDCと比較してより多い量のL-スレオニンの蓄積を生じた。
【0167】
【表3】
【0168】
[実施例9]エシェリヒア・コリAJ12739::Ptac7flhDC,KmR株の構築
MG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC株からL-フェニルアラニン生産株AJ12739(tyrA::Tn10, tyrR)(VKPM B-8197)(米国特許第7,666,655号)へのPtac7flhDC変異の形質導入により、エシェリヒア・コリAJ12739::Ptac7flhDC,KmR株を得た。この目的のために、AJ12739株に、ドナーMG1655::Δtdh,rhtA*,Ptac7flhDC,KmR株で増殖させた細菌ファージP1virを感染させた。これによりAJ12739::Ptac7flhDC,KmR株を得た。AJ12739株は2001年11月6日に、Russian National Collection of Industrial Microorganisms (VKPM)(Russian Federation, 117545 Moscow, 1 Dorozhny proezd 1)に受託番号B-8197で寄託されている。
【0169】
[実施例10]エシェリヒア・コリAJ12739::Ptac7flhDC,KmR株によるL-フェニルアラニンの生産
親株AJ12739およびフェニルアラニン生産株AJ12739::Ptac7flhDC,KmRをそれぞれ100 mg/lのアンピシリンを含む栄養液体培地中37℃で18時間培養した。得られた培養物0.3 mlを20 x 200 mm試験管中の100 mg/lアンピシリンを含む3 mlの醗酵培地に接種し、37℃で48時間、ロータリーシェーカー上で培養した。
【0170】
醗酵培地は以下を含むものとした(g/l):
グルコース 40
(NH4)2SO4 16
K2HPO4 0.1
MgSO4・7H2O 1.0
MnSO4・5H2O 0.01
FeSO4・7H2O 0.01
チアミン塩酸塩 0.0002
酵母エキス 2.0
L-チロシン 0.125
CaCO3 30
【0171】
グルコースおよび硫酸マグネシウムは別に滅菌した。CaCO3は180℃で2時間乾熱滅菌した。pHは7.0に調整した。抗生物質は滅菌後の培地に加えた。
【0172】
培養後、蓄積したL-フェニルアラニンを薄層クロマトグラフィー(TLC)を使用して測定した。TLCプレート(10 x 15 cm)は、非蛍光指示薬(Sorbpolymer、Krasnodar、Russian Federation)を含むSorbfilシリカゲルの0.11 mmの層でコートした。試料をCamag Linomat 5サンプルアプリケーターでプレートに塗布した。Sorbfilプレートをプロパン-2-オール/酢酸エチル/25%アンモニア水/水 = 40/40/7/16 (v/v)からなる移動相で展開した。アセトン中のニンヒドリン溶液(2%、w/v)を可視化試薬として使用した。展開後プレートを乾燥させ、Camag TLC Scanner 3によりwinCATSソフトウェア(version 1.4.2)を使用して検出波長520 nmで吸光度モードで走査した。
【0173】
20本の独立した試験管での醗酵の結果(平均値)を表4に示す。表4から判るように、改変したエシェリヒア・コリAJ12739::Ptac7flhDC,KmR株は、親株エシェリヒア・コリAJ12739と比較してより多い量のL-フェニルアラニンの蓄積を生じた。
【0174】
【表4】
【0175】
本発明をその好ましい態様を参照して詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、種々の変更を行うことができ、均等物を用いることができることは当業者には明らかであろう。本明細書中に引用されたすべての参考文献は、引用により本出願の一部とする。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明によれば、腸内細菌科に属する細菌によってL-アミノ酸が効率よく生産される。
図1
図2
図3