(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ポリアミック酸、ポリアミック酸誘導体、及びそれらのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、水とを含有する蓄電デバイス電極用バインダー組成物を遮光性容器に充填して保管する方法であって、
前記遮光性容器の内容積に対する前記蓄電デバイス電極用バインダー組成物の占める容積を除いた空隙部の容積の比率を1〜20%とし、0℃以上40℃以下の温度で保管することを特徴とする、蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法。
前記蓄電デバイス電極用バインダー組成物が、さらに、(B)N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ブチロセロソルブ、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法。
前記蓄電デバイス電極用バインダー組成物における、前記(A)重合体の含有量をMa質量部、前記(B)化合物の含有量をMb質量部としたときに、両者の比Ma/Mbが50〜5,000である、請求項4に記載の蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法。
前記蓄電デバイス電極用バインダー組成物が、さらに、(C)イソチアゾリン系化合物を含有し、前記バインダー組成物中の前記(C)イソチアゾリン系化合物の濃度が15ppm以上500ppm以下である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。以下、本発明の保管方法に好適な蓄電デバイス電極用バインダー組成物、その保管方法の順に説明する。
【0021】
1.蓄電デバイス電極用バインダー組成物
本実施形態で用いられる蓄電デバイス電極用バインダー組成物(以下、単に「水系バインダー組成物」ともいう。)は、(A)ポリアミック酸、ポリアミック酸誘導体、及びそれらのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体(以下、単に「(A)成分」ともいう。)と、水とを含有する。この水系バインダー組成物は、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力並びに粉落ち耐性を向上させた蓄電デバイス電極(電極合剤層)を作製するための材料として使用することができる。以下、本実施形態で用いられる水系バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0022】
1.1.(A)成分
本実施形態で用いられる水系バインダー組成物は、(A)ポリアミック酸、ポリアミック酸誘導体、及びそれらのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体を含有する。(A)成分としては、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のみでもよいが、該ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体を加熱または触媒を用いて脱水閉環反応(イミド化反応)を進めたイミド化重合体を含んでいてもよい。(A
)成分は、蓄電デバイス電極を構成する電極合剤層において、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力並びに粉落ち耐性を向上させるためのバインダーとしての機能を有する。
【0023】
ポリアミック酸誘導体としては、例えば、ポリアミック酸のエステル化等により合成されるポリアミック酸エステルの他、ポリアミック酸やポリアミック酸エステルの塩が挙げられる。
【0024】
水系バインダー組成物に含まれるポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体の一部がイミド化されている場合、該ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のイミド化率は、特に限定されるものではないが、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらにより好ましくは70%以下、特に好ましくは50%以下である。水系バインダー組成物に含まれるポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のイミド化率を上記の範囲とすることにより、該バインダー組成物を用いて調製される蓄電デバイス電極用スラリーの安定性が良好となるので、密着性及び充放電特性に優れる蓄電デバイス電極を製造することができることとなり好ましい。
【0025】
なお、水系バインダー組成物がポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のイミド化重合体を含有する場合、イミド化率は80%以上であることが好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。イミド化率が上記の範囲にあるイミド化重合体は高弾性となるので、密着性及び充放電特性に優れる蓄電デバイス電極を製造することができる。
【0026】
(A)成分として、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のイミド化重合体を含有する場合、イミド化重合体のイミド化率が上記の好ましい範囲にあれば、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体とそのイミド化重合体との使用割合は任意の割合とすることができる。
【0027】
このイミド化率とは、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のイミド化率は、
1H−NMRを用いて求めることができる。
【0028】
(A)成分としてのポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させることにより得ることができる。(A)成分としてのポリアミック酸誘導体の1種であるポリアミック酸エステルは、上記ポリアミック酸が有するカルボキシル基の少なくとも一部をエステル化することにより合成することができる。(A)成分としてのポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のイミド化重合体は、上記ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のアミック酸構造の一部を加熱または触媒を用いて脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。
【0029】
本発明で用いられるポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。上記脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばブタンテトラカルボン酸二無水物などを;上記脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−8−メチル−5−(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ
−3−フラニル)−ナフト[1,2−c]フラン−1,3−ジオン、3−オキサビシクロ[3.2.1]オクタン−2,4−ジオン−6−スピロ−3’−(テトラヒドロフラン−2’,5’−ジオン)、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,5,6−トリカルボキシ−2−カルボキシメチルノルボルナン−2:3,5:6−二無水物、2,4,6,8−テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン−2:4,6:8−二無水物、4,9−ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン−3,5,8,10−テトラオンなどを;上記芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0030】
これらのポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物の中でも、芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むものであることが好ましい。本発明で用いられるポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を合成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物は、芳香族テトラカルボン酸二無水物のみからなるか、あるいは芳香族テトラカルボン酸二無水物及び脂環式テトラカルボン酸二無水物の混合物のみからなるものであることが、バインダー組成物の安定性の観点から好ましい。後者の場合、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合は、全テトラカルボン酸二無水物100モル%に対して、30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明で用いられるポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を合成するために用いられるジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、ジアミノオルガノシロキサンなどを挙げることができる。上記脂肪族ジアミンとしては、例えば1,1−メタキシリレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどを;上記脂環式ジアミンとしては、例えば1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどを;上記芳香族ジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,5−ジアミノナフタレン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル、2,7−ジアミノフルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,6−ジアミノピリジン、3,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリミジン、3,6−ジアミノアクリジン、3,6−ジアミノカルバゾール、N−メチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−エチル−3,6−ジアミノカルバゾール、N−フェニル−3,6−ジアミノカルバゾール、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−ベンジジン、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N,N’−ジメチルベンジジン、1,4−ビス−(4−アミノフェニル)−ピペラジン、3,5−ジアミノ安息香酸などを;ジアミノオルガノシロキサンとしては、例えば1,3−ビス(3−アミノプロピル)−テトラメチルジシロキサンなどを、それぞれ挙げることができるほか、特開2010−97188号公報に記載のジアミン
を用いることができる。ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体を合成する際に用いられるジアミンは、芳香族ジアミンを、全ジアミン100モル%に対して、30モル%以上含むものであることが好ましく、50モル%以上含むものであることがより好ましく、80モル%以上含むものであることが特に好ましい。
【0032】
本発明で用いられるポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を合成するに際して、テトラカルボン酸二無水物及びジミアンとともに、適当な分子量調節剤を用いて末端修飾型の重合体を合成してもよい。
【0033】
上記分子量調節剤としては、例えば酸一無水物、モノアミン化合物、モノイソシアネート化合物などを挙げることができる。酸一無水物としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、n−デシルコハク酸無水物、n−ドデシルコハク酸無水物、n−テトラデシルコハク酸無水物、n−ヘキサデシルコハク酸無水物などを;モノアミン化合物としては、例えばアニリン、シクロヘキシルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミンなどを;モノイソシアネート化合物としては、例えばフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどを、それぞれ挙げることができる。
【0034】
分子量調節剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0035】
ポリアミック酸またはポリアミック酸誘導体の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの使用割合は、ジアミンのアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.9〜1.2当量となる割合が好ましく、1.0〜1.1当量となる割合がより好ましい。
【0036】
ポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において、好ましくは−20℃〜150℃、より好ましくは0〜100℃において、好ましくは0.1〜24時間、より好ましくは0.5〜12時間行われる。
【0037】
ここで、有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール及びその誘導体、アルコール、ケトン、エーテル、エステル、炭化水素など一般的にポリアミック酸の合成反応に使用できる有機溶媒を使用することができる。上記非プロトン性極性溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−t−ブチル−2−ピロリドン、N−メトキシエチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミドなどを;上記フェノール誘導体としては、例えばm−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノールなどを;アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどを;上記ケトンとしては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどを;上記エーテルとしては、例えばジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−i−プロピルエーテル、エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコール−ジ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエ
チレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、フランなどを、それぞれ挙げることができる。上記エステルとしては、例えば乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ−ト、エチルエトキシプロピオネ−ト、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチルなどを;上記炭化水素としては、例えばヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを、それぞれ挙げることができる。これらの有機溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
ポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体の脱水閉環反応は、好ましくはポリアミック酸もしくはポリアミック酸誘導体を加熱する方法またはポリアミック酸もしくはポリアミック酸誘導体を有機溶媒に溶解した溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0039】
上記ポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を加熱する方法における反応温度は、好ましくは140〜250℃であり、より好ましくは180℃〜220℃である。反応温度が140℃未満では脱水閉環反応が十分に進行せず、反応温度が250℃を超えると得られるイミド化重合体の分子量が低下する場合がある。ポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体を加熱する方法における反応時間は、好ましくは0.5〜20時間であり、より好ましくは2〜10時間である。
【0040】
上記ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用割合は、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体のアミック酸構造の1モルに対して0.01〜1.0モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、イソキノリン、トリエチルアミンなどのアミンを用いることができる。脱水閉環触媒の使用割合は、使用する脱水剤1モルに対して0.01〜1.0モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸又はポリアミック酸誘導体の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は好ましくは0〜180℃であり、より好ましくは10〜180℃である。反応時間は好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。
【0041】
また、以上のようにして得られる(A)成分につき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は、1,000〜500,000であることが好ましく、2,000〜300,000であることがより好ましい。さらに、上記Mwとゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。
【0042】
以上のようにして得られた(A)成分は、そのまま、または必要に応じて公知の方法によって精製した上で後述の蓄電デバイス電極用スラリーの調製に供される。
【0043】
(A)成分としては、市販のポリアミック酸溶液を使用してもよい。市販のポリアミック酸溶液としては、例えばU―ワニスA(宇部興産(株)製)などを挙げることができる。
【0044】
1.2.水
本実施形態で用いられる蓄電デバイス電極用バインダー組成物は、液状媒体として水を含有する。水は、(A)成分の溶媒として機能し、(A)成分を溶解させることができる
。また、後述する蓄電デバイス電極用スラリーにおいては、活物質の分散媒として機能し、活物質を分散させたりすることができる。
【0045】
水系バインダー組成物に含有される水としては、その電気伝導度が1000μS/cm以下であるものを用いることが好ましい。すなわち、他の成分と混合する前の段階において、電気伝導度が1000μS/cm以下である水を用いるとよい。かかるイオン伝導度は、好ましくは500μS/cm以下であり、より好ましくは100μS/cm以下である。このような低い電気伝導度を有する水は、イオン交換樹脂や蒸留等の精製方法により精製を行うことにより得ることができる。
【0046】
かかる電気伝導度の値は、金属イオンの残留量の指標とし得る。したがって、低い電気伝導度が有する水を用いることにより、水系バインダー組成物と活物質とを混合することによって得られる電極用スラリー中の金属イオンによる活物質の凝集を抑制することができる。これにより、低温においても電極表面にリチウムイオン等の電解液成分の析出が少ない、抵抗が少ない、集電体との密着性に優れるなどの優れた特性を有する電極を得ることができ、ひいては、サイクル特性に優れる、低温出力特性に優れるなどの優れた特性を有する蓄電デバイスを得ることができる。
【0047】
また、水系バインダー組成物に含有される水としては、その塩化物イオン含有率が0.001〜0.1質量%であるものを用いることが好ましい。すなわち、他の成分と混合する前の段階において、塩化物イオン含有率が0.001〜0.1質量%である水を用いるとよい。かかる水を用いることにより、得られる電極用スラリー中の活物質の凝集を抑制することができ、電池の内部抵抗を低減することができる。
【0048】
水系バインダー組成物中の水の含有量は、電極用スラリーの製造に適した濃度及び粘度となるように適宜調整することができる。具体的には、電極用スラリー中の固形分(すなわち、電極用スラリーの乾燥を経て電極合剤層の構成成分として残留する物質)の濃度が、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上であり、且つ好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下となる量に調整して用いられる。
【0049】
1.3.その他の成分
1.3.1.(B)成分
本実施形態で用いられる水系バインダー組成物は、(B)N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ブチロセロソルブ、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、脂肪族エーテル及び脂肪族アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好ましい。なお、本発明における「脂肪族」との用語は、芳香族を除くという意味で用いられる。
【0050】
上記脂肪族エーテルは、鎖状であっても環状であってもよい。上記脂肪族エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどの鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどの環状エーテルが挙げられる。これらの中でも、(A)成分の溶解性の観点から、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランが好ましい。
【0051】
上記脂肪族アルコールは、鎖状であっても環状であってもよい。上記脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリエチレング
リコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、(A)成分の溶解性の観点から、メタノール、エタノールが好ましい。
【0052】
これらの(B)成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
本実施形態で用いられるバインダー組成物中における(B)成分の含有割合は、組成物中の(B)成分の含有量をMb質量部、(A)成分の含有量をMa質量部としたときに、両者の比Ma/Mbが50〜5,000であり、好ましくは100〜4,000であり、より好ましくは130〜3,500である。(B)成分の含有割合が前記範囲内であることにより、本実施形態に係るバインダー組成物は、下記のような作用効果を奏するものと推察される。
【0054】
(B)成分の含有割合が前記範囲内であることにより、水系バインダー組成物を構成する液状媒体と(A)成分との親和性を高めることができる。すなわち、(A)成分は、水への溶解性に乏しいが、(B)成分は、極性が高くかつ(A)成分に対する親和性が高い。そのため、(A)成分に対して(B)成分を上記所定割合で含有することにより、水に対する(A)成分の溶解性を高めることができるので、経時的に(A)成分が析出して凝集することにより発生する異物を大幅に低減することが可能となる。つまり、水系バインダー組成物の保存安定性が良好となる。
【0055】
1.3.2.(C)成分
本実施形態で用いられる水系バインダー組成物は、(C)イソチアゾリン系化合物を15ppm以上500ppm以下の濃度で含有してもよい。水系バインダー組成物中の(C)成分の濃度は、好ましくは20ppm以上400ppm以下、より好ましくは50ppm以上300ppm以下である。バインダー組成物中の(C)成分の濃度が前記範囲内であると、(C)成分が防腐剤として作用して、水系バインダー組成物を保管した際に、細菌や黴などが増殖して異物が発生することを抑制することができる。また、蓄電デバイスの充放電時にバインダーの劣化が抑制されるため、蓄電デバイスの充放電特性の低下を抑制することができる。
【0056】
蓄電デバイスの充放電時にバインダーの劣化が抑制される効果の発現機構は明らかではないが、以下のように考えられる。(C)成分と(A)成分との親和性が良好であるために、電解液に電極合剤層が浸された場合でも(C)成分はバインダーとして機能する(A)成分に吸着されるなどして保持され、電極合剤層から電解液へほとんど溶出しないと考えられる。(C)成分が(A)成分に保持されることで、バインダーとして機能する(A)成分の電解液による劣化が抑制されるとともに電解液自身の変質も抑制されるので、充放電特性の低下を抑制できると推察される。
【0057】
本発明で用いられる(C)成分としては、イソチアゾリン骨格を有する化合物であれば特に制限されないが、具体的には下記一般式(1)で表される化合物や下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0058】
【化1】
上記一般式(1)中、R
1は水素原子または炭化水素基であり、R
2及びR
3はそれぞ
れ水素原子、ハロゲン原子又は炭化水素基を表す。R
1、R
2、R
3が炭化水素基である場合、直鎖あるいは分岐鎖のような鎖状の炭素骨格を有していてもよく、環状の炭素骨格を有していてもよい。また、炭化水素基の炭素数は1〜12であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜8であることが特に好ましい。このような炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0059】
【化2】
上記一般式(2)中、R
4は水素原子または炭化水素基であり、R
5はそれぞれ独立に水素原子又は有機基を表す。R
4が炭化水素基である場合、上記一般式(1)で説明した炭化水素基と同様の炭化水素基であることができる。また、R
5が有機基である場合、この有機基にはアルキル基やシクロアルキル基である脂肪族基や芳香族基が含まれるが、脂肪族基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は1〜12であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜8であることが特に好ましい。これらのアルキル基及びシクロアルキル基は、ハロゲン原子、アルコキシル基、ジアルキルアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基等の置換基を有していてもよい。前記脂肪族基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。上記一般式(2)中、nは0〜4の整数を表す。
【0060】
本発明で用いられる(C)成分の具体例としては、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−トリメチレン−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの中でも、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0061】
1.4.蓄電デバイス電極用バインダー組成物のpH
本実施形態で用いられる水系バインダー組成物のpHは、3.0以上12.0以下であることが好ましく、5.0以上11.0以下であることがより好ましく、6.0以上10.0以下であることが更に好ましい。組成物のpHの調整には、公知の酸または塩基を用いることができる。このような酸や塩基としては、例えば塩酸、硝酸、硫酸などの酸;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、トリエチルアミン、ピペリジンなどの塩基を、それぞれ挙げることができる。したがって、水系バインダー組成物は、上述の成分以外に、上記の酸または塩基を、pHの調整に必要な範囲で含有してもよい。
【0062】
1.5.蓄電デバイス電極用バインダー組成物の調製方法
本実施形態で用いられる水系バインダー組成物は、上記の成分を含有するものである限り、どのような方法によって調製されたものであってもよい。水系バインダー組成物を調製するには、(A)成分を合成した重合混合物に(B)成分及び必要に応じて加えられる
その他の成分を添加する方法;(A)成分を合成した重合混合物から単離した重合体を、(B)成分及び必要に応じて加えられるその他の成分とともに液状媒体に溶解する方法など、適宜の方法によることができる。これらのうち、前者の方法が簡便であることから好ましい。
【0063】
1.6.蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法
本実施形態に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法(以下、単に「保管方法」ともいう。)は、容器の内容積に対する前記蓄電デバイス電極用バインダー組成物の占める容積を除いた空隙部の容積の比率を1〜20%とし、0℃以上30℃以下の温度で保管することを特徴とする。本実施形態に係る保管方法は、上述の方法で作製された、(A)ポリアミック酸、ポリアミック酸誘導体、及びそれらのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、水とを含有する蓄電デバイス電極用バインダー組成物に好適に用いることができる。
【0064】
本実施形態に係る保管方法は、上述の水系バインダー組成物を充填して保管する容器において、該容器の内容積に対する水系バインダー組成物の占める容積を除いた空隙部の容積の比率(%)(以下、「空隙率」ともいう。)を1〜20%とすることが必須であり、好ましくは3〜15%、より好ましくは5〜10%である。空隙率が前記範囲を超えると、保管温度が変化した場合の水分の揮発が大きくなり、気液界面と容器壁面において水系バインダー組成物が乾燥することで異物が形成されるため、安定に保管することができない。空隙率が前記範囲未満では、温度の変化により水系バインダー組成物が体積変化を起こした場合、容器の変形や容器の破裂が発生するため、安定に保管することができない。
【0065】
本実施形態に係る保管方法は、上述の水系バインダー組成物を0℃以上40℃以下の温度で保管することが必須であり、好ましくは3℃以上25℃以下である。保管温度が前記範囲を超える場合、長期間の保存の間に水分が揮発することで容器が膨張しやすく、また気液界面と容器壁面において異物が発生する傾向にあり、安定に保管することができない。また、前記範囲を超える温度では、ポリアミック酸及び/又はポリアミック酸誘導体の一部がイミド化されたイミド化重合体の加水分解が著しく促進されるため、粘度異常や、(A)成分の凝集が発生する傾向になり、安定に保管することができない。
【0066】
本実施形態に係る保管方法では、上述の水系バインダー組成物を保管するための容器が遮光性容器であることが好ましい。なお、光を透過する保管容器を用いても、それらが遮光された空間に保管されている場合も遮光されているとみなす。遮光性容器で保管することによって、水系バインダー組成物中での(A)成分が安定化され、長期に亘って性能劣化することなく保管することが可能となる。
【0067】
なお、このような遮光性容器の材質としては、ガラス製、金属製、樹脂製等の材質により構成されているものであれば特に限定されず、例えば市販のクリーンボトル、一斗缶、サンプル瓶等を好ましく使用することができる。
【0068】
また、水系バインダー組成物を保管するための容器の形状、大きさについても特に限定されず、様々な形状及び大きさの容器を使用することができる。
【0069】
本実施形態に係る保管方法では、上述の水系バインダー組成物に用いられる水の電気伝導度が、好ましくは1000μS/cm以下であり、より好ましくは500μS/cm以下であり、特に好ましくは100μS/cm以下である。上述のように、水の電気伝導度の値は、水系バインダー組成物中の金属イオンの残留量の指標とし得る。水系バインダー組成物中に金属イオンが残留すると、カチオン交換による(A)成分の相互作用強弱の変化、疑似架橋構造の発達によるゲル化によって異物が形成されやすくなる。このようにし
て発生した異物を含むバインダー組成物を用いて作製した電極合剤層は不均一な構造となり、これを用いて作製される蓄電デバイスは、局所的な抵抗過多によるショート、あるいは発火を引き起こすおそれがある。
【0070】
本実施形態に係る保管方法では、前記空隙部雰囲気の酸素濃度が1%以下であることが好ましい。該空隙部雰囲気の酸素濃度が前記の範囲であると、長期間の保存の間にバインダー成分が酸化、変質することなく、(A)成分の析出及び凝集を抑制することができ、異物の発生を効果的に抑制することができ、さらに外観の著しい変化を抑制できる。
【0071】
本実施形態に係る保管方法によれば、保存期間が6ヵ月でも、好ましくは12ヵ月でも、さらに好ましくは18ヵ月でも、保管中に水系バインダー組成物の品質がほとんど変化しない。また、ゲル状物を生ずることもない。このため、製造直後の水系バインダー組成物を用いて電極合剤層を形成するのと同じ条件で、同様の電極合剤層を形成することができる。また、水系バインダー組成物の生産性を向上できる効果は、保存期間が6月、12月、18月と長くなるほど大きくなる。
【0072】
2.蓄電デバイス電極用スラリー
上記のような蓄電デバイス電極用バインダー組成物を用いて、蓄電デバイス電極用スラリー(以下、単に「スラリー」ともいう。)を製造することができる。蓄電デバイス電極用スラリーとは、集電体の表面上に電極合剤層を形成するために用いられる分散液のことをいう。かかるスラリーは、少なくとも上記の水系バインダー組成物と活物質とを含有する。以下、スラリーに含まれる成分について説明する。スラリーに含まれる水系バインダー組成物については、上記の通りである。
【0073】
2.1.活物質
スラリーに含まれる活物質としては、特に限定されず、例えば炭素材料、リチウム原子を含む酸化物、ケイ素原子を含む活物質、チタンを含む活物質、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、アルミニウム化合物などを挙げることができる。
【0074】
上記炭素材料としては、例えばアモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維などを挙げることができる。
【0075】
上記リチウム原子を含む酸化物としては、例えばコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、LiFePO
4、LiCoPO
4、LiMnPO
4、Li
0.90Ti
0.05Nb
0.05Fe
0.30Co
0.30Mn
0.30PO
4などを挙げることができる。
【0076】
上記ケイ素原子を含む活物質としては、例えばケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などを挙げることができるほか、特開2004−185810号公報に記載されたケイ素材料を使用することができる。上記ケイ素酸化物としては、組成式SiOx(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるケイ素酸化物が好ましい。上記ケイ素合金としては、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄及びモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のケイ化物は、高い電子伝導度を有し、かつ、高い強度を有することから好ましく用いられる。また、活物質がこれらの遷移金属を含むことにより、活物質の表面に存在する遷移金属が酸化されて表面に水酸基を有する酸化物となるから、バインダーとの結着力がより良好になる点でも好ましい。ケイ素合金としては、ケイ素−ニッケル合金またはケイ素−チタン合金を使用することがより好ましく、ケイ素−チタン合金を使用することが特に好ましい。ケイ素合金におけるケイ素の含有割合は、該合金中の金属元素の全部に対して10モル%以上とすることが好ましく、20〜70モル%とすることがより好ましい。ケイ素原子を含
む活物質は、単結晶、多結晶及び非晶質のいずれであってもよい。
【0077】
スラリーを蓄電デバイスの負極を製造するために使用する場合、スラリーに含まれる負極活物質としては、ケイ素原子を含む活物質を含有するものであることが好ましい。ケイ素原子は単位重量当たりのリチウムの吸蔵量がその他の活物質群と比較して大きいことから、活物質がケイ素原子を含む活物質を含有することにより、得られる蓄電デバイスの蓄電容量を高めることができ、その結果、蓄電デバイスの出力及びエネルギー密度を高くすることができる。負極活物質としては、ケイ素原子を含む活物質と炭素材料との混合物からなることがより好ましい。炭素材料は、充放電に伴う体積変化が小さいから、負極活物質としてケイ素原子を含む活物質と炭素材料との混合物を使用することにより、ケイ素原子を含む活物質の体積変化の影響を緩和することができ、電極合剤層と集電体の密着性をより向上させることができる。負極活物質は、ケイ素原子を含む活物質とグラファイトとの混合物からなることが特に好ましい。
【0078】
活物質100質量%中に占めるケイ素原子を含む活物質の割合は、1質量%以上とすることが好ましく、1〜50質量%とすることがより好ましく、5〜45質量%とすることがさらに好ましく、10〜40質量%とすることが特に好ましい。
【0079】
活物質の形状としては、粒状であることが好ましい。粒子の粒径(平均メジアン粒径)としては、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。
【0080】
活物質の使用割合は、水系バインダー組成物中の(A)成分の含有量が、活物質100質量部に対して、0.1〜25質量部となる割合とすることが好ましく、0.5〜15質量部となる割合とすることがより好ましい。このような使用割合とすることにより、密着性により優れ、しかも電極抵抗が小さく充放電特性により優れた電極を製造することができる。
【0081】
2.2.その他の成分
スラリーは、上記の水系バインダー組成物及び活物質以外に、必要に応じてその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば導電付与剤、増粘剤などを挙げることができる。
【0082】
2.2.1.導電付与剤
導電付与剤の具体例としては、リチウムイオン二次電池においてはカーボンなどを挙げることができる。カーボンとしては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレンなどを挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックまたはケッチェンブラックを好ましく使用することができる。導電付与剤の使用割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは1〜15質量部であり、特に好ましくは2〜10質量部である。
【0083】
2.2.2.増粘剤
スラリーは、その塗工性を改善する観点から、増粘剤を含有してもよい。増粘剤の具体例としては、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;上記セルロース誘導体のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩;ポリ(メタ)アクリル酸、変性ポリ(メタ)アクリル酸などのポリカルボン酸;上記ポリカルボン酸のアルカリ金属塩;ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのポリビニルアルコール系(共)重合体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸及びフマル酸などの不飽和カルボン酸と、
ビニルエステルとの共重合体の鹸化物などの水溶性ポリマーなどを挙げることができる。増粘剤の使用割合は、活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0084】
2.3.蓄電デバイス電極用スラリーの製造方法
スラリーは、上記の水系バインダー組成物及び活物質を含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的且つ安価に製造するとの観点から、水系バインダー組成物に、活物質及び必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。
【0085】
水系バインダー組成物、活物質及びその他の成分を混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。スラリーを製造するための混合撹拌としては、スラリー中に活物質の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
【0086】
スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる電極合剤層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10
3〜5.0×10
5Pa程度とすることが好ましい。
【0087】
3.蓄電デバイス電極
蓄電デバイス電極(以下、単に「電極」ともいう。)は、集電体と、前記集電体の表面に上記蓄電デバイス電極用スラリーを用いて作成された電極合剤層とを備える。具体的な製造例としては、金属箔などの適宜の集電体の表面に、上記の水系バインダー組成物を用いて製造されたスラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜から液状媒体を乾燥させて除去することにより、集電体の表面に電極合剤層が形成される。このようにして、集電体の表面に電極合剤層が形成された蓄電デバイス電極を製造することができる。
【0088】
このようにして製造された電極は、集電体の表面に、上述の(A)成分及び活物質、さらに必要に応じて使用される任意添加成分を含有する電極合剤層が結着されてなるものである。したがって、かかる蓄電デバイス電極は、充放電容量が大きく、充放電サイクルを繰り返した時の充放電容量の劣化の程度が少ないものである。
【0089】
3.1.集電体
集電体は、導電性材料からなるものであれば特に制限されない。リチウムイオン二次電池においては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製の集電体が使用されるが、特に正極にアルミニウムを、負極に銅を用いた場合、上述のスラリーの効果が最もよく現れる。ニッケル水素二次電池における集電体としては、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体、金属メッキ樹脂板などが使用される。
【0090】
集電体の形状及び厚さは特に制限されない。集電体の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、5〜150μmであることがより好ましく、10〜50μmであることが特に好ましい。集電体の形状としてはシート状のものが好ましく使用される。
【0091】
3.2.蓄電デバイス電極の製造方法
蓄電デバイス電極の製造方法の一例を以下に示す。まず、集電体の表面に、上記の水系バインダー組成物及び活物質を含有するスラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を必要に応じて加熱して該塗膜から液状媒体を乾燥させて除去することにより、集電体の表面に電極合剤層が形成される。このようにして、集電体の表面に電極合剤層が形成された蓄電デバイス電極を製造することができる。
【0092】
スラリーの集電体への塗布方法については、特に制限はない。塗布は、例えばドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬法、ハケ塗り法などの適宜の方法によることができる。スラリーの塗布量も特に制限されないが、液状媒体を除去した後に形成される電極合剤層の厚さが、5〜250μmとなる量とすることが好ましく、20〜100μmとなる量とすることがより好ましい。
【0093】
塗布後の塗膜からの液状媒体の除去方法についても特に制限されず、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥;真空乾燥;(遠)赤外線、電子線などの照射による乾燥などによることができる。乾燥速度としては、応力集中によって電極合剤層に亀裂が入ったり、電極合剤層が集電体から剥離したりしない程度の速度範囲の中で、できるだけ速く液状媒体が除去できるように適宜に設定することができる。
【0094】
さらに、液状媒体除去後の電極合剤層をプレスすることにより、電極合剤層の密度を高めることが好ましい。プレス方法としては、金型プレス、ロールプレスなどの方法が挙げられる。プレスの条件は、使用するプレス機器の種類及び電極合剤層の密度の所望値によって適宜に設定されるべきである。この条件は、当業者による少しの予備実験により、容易に設定することができるが、例えばロールプレスの場合、ギャップ式、加圧式のどちらでもよく、その線圧力は0.1〜10t/cm、好ましくは0.5〜5t/cmの圧力において、例えばロール温度が20〜100℃において、液状媒体除去後の塗膜の送り速度(ロールの回転速度)が1〜80m/分、好ましくは5〜50m/分で行うことができる。
【0095】
プレス後の電極合剤層の密度は、電極を正極として使用する場合には、1.5〜2.4g/cm
3とすることが好ましく、1.7〜2.2g/cm
3とすることがより好ましく;電極を負極として使用する場合には、1.2〜1.9g/cm
3とすることが好ましく、1.3〜1.8g/cm
3とすることがより好ましい。
【0096】
プレス後の塗膜は、さらに、減圧下で加熱して液状媒体を完全に除去することが好ましい。この場合の減圧の程度としては、絶対圧として50〜200Paとすることが好ましく、75〜150Paとすることがより好ましい。加熱温度としては、塗膜中のポリアミック酸構造が全て熱イミド化しない温度範囲が好ましく、100〜300℃とすることが好ましく、150〜200℃とすることがより好ましい。加熱時間は、2〜12時間とすることが好ましく、4〜8時間とすることがより好ましい。
【0097】
上記のスラリーを用いて集電体の表面に電極合剤層を形成するためのいずれの工程においても工程温度が200℃を超えないことが好ましく、180℃を超えないことがより好ましい。ここで、電極合剤層を形成するための工程とは、上記のスラリーの塗布工程及び塗膜からの液状媒体の除去工程ならびに任意的に行われるプレス工程、減圧下における加熱工程、プレス工程など、およそ当業者が電極合剤層を形成するために行う工程のすべてを含む。上記工程温度とは、スラリー、集電体または電極合剤層自体の温度、これらを囲繞する周囲雰囲気の温度、これらに接触または近接する装置・器具などの温度をいう。このようにして製造された蓄電デバイス電極は、充放電容量が大きく、充放電サイクルを繰
り返した時の充放電容量の劣化の程度が少ないものである。
【0098】
4.蓄電デバイス
蓄電デバイスは、上記の蓄電デバイス電極を備える。このような蓄電デバイスは、上記の蓄電デバイス電極を備えるものであり、さらに電解液を含有し、セパレータなどの部品を用いて、常法に従って製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に収納し、該電池容器に電解液を注入して封口する方法などを挙げることができる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、ラミネート型など、適宜の形状であることができる。
【0099】
電解液は、液状でもゲル状でもよく、活物質の種類に応じて、蓄電デバイスに用いられる公知の電解液の中から電池としての機能を効果的に発現するものを選択すればよい。電解液は、電解質を適当な溶媒に溶解した溶液であることができる。
【0100】
上記電解質としては、例えばリチウムイオン二次電池においては、従来から公知のリチウム塩のいずれをも使用することができ、その具体例としては、例えばLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、LiCF
3SO
3、LiCH
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウムなどを例示することができる。
【0101】
上記電解質を溶解するための溶媒は、特に制限されるものではないが、その具体例として、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート化合物;γ−ブチロラクトンなどのラクトン化合物;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド化合物などを挙げることができ、これらのうちから選択される一種以上を使用することができる。
【0102】
電解液中の電解質の濃度としては、好ましくは0.5〜3.0モル/Lであり、より好ましくは0.7〜2.0モル/Lである。
【0103】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0104】
5.1.ポリアミック酸及びポリアミック酸誘導体の合成
<合成例1>
攪拌装置、温度計及びコンデンサーを備えた容量3Lのフラスコ内部を減圧した状態でヒートガンにて加熱して容器内部の残存水分を除去した後、乾燥窒素ガスを満たした。このフラスコに、溶媒として予め水素化カルシウムを用いた脱水蒸留法により脱水処理を施したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1,166g、テトラカルボン酸二無水物として3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物80.556g(250.0ミリモル)及びジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル50.059g(250.0ミリモル)を仕込み、25℃において3時間攪拌下に反応を行うことにより、ポリアミック酸を10質量%含有する重合体溶液を得た。この重合体溶液に対して、使用したテトラカルボン酸二無水物の2当量であるKOH28.053g(500.
0ミリモル)添加すると重合体の塩(ポリアミック酸誘導体P1)が析出した。この沈殿物を濾過乾燥させ、ポリアミック酸誘導体P1が10質量%となるようにイオン交換水で溶解させることによりポリアミック酸誘導体P1の水溶液を得た。
【0105】
<合成例2〜4>
上記合成例1において、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの種類・使用量を、それぞれ表1に記載のとおりとした他は合成例1と同様にしてポリアミック酸誘導体P2〜P4をそれぞれ10質量%含有する重合体溶液を得た。これらの重合体溶液の溶液粘度を表1に併せて示した。
【0106】
<合成例5>
上記合成例1と同様にして表2の組成に従いポリアミック酸を10質量%含有する重合体溶液を得た。この重合体溶液に対してイソキノリン0.2g(1.548モル)とトルエン60mLを加え、溶液の温度を180℃に上昇し、副生する水を除去しながら反応させポリアミック酸のイミド化重合体の溶液を得た。これを放冷した後、KOH28.053g(500.0ミリモル)添加すると重合体の塩(ポリアミック酸誘導体のイミド化重合体P5)が析出した。この沈殿物を濾過乾燥させ、ポリアミック酸誘導体のイミド化重合体P5が10質量%となるようにイオン交換水で溶解させることでポリアミック酸誘導体のイミド化重合体P5の水溶液を得た。ポリアミック酸誘導体のイミド化重合体P5のイミド化率を、
1H−NMR測定により求めたところ、95%であった。
【0108】
上表1における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。また、上表1中の「−」は、該当する成分を含有していないことを表す。
<テトラカルボン酸二無水物>
・BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
・PMDA:1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物
・TDA:4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−カルボン酸無水物
<ジアミン>
・DDE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
・DDM:4,4’−ジアミノジフェニルメタン
【0109】
5.2.活物質の合成
粉砕した二酸化ケイ素粉末(平均粒径10μm)と炭素粉末(平均粒径35μm)との混合物を、温度を1,100〜1,600℃の範囲に調整した電気炉中で、窒素気流下(0.5NL/分)、10時間の加熱処理を行い、組成式SiOx(x=0.5〜1.1)
で表される酸化ケイ素の粉末(平均粒径8μm)を得た。この酸化ケイ素の粉末300gをバッチ式加熱炉内に仕込み、真空ポンプにより絶対圧100Paの減圧を維持しながら、300℃/hの昇温速度にて室温(25℃)から1,100℃まで昇温した。次いで、加熱炉内の圧力を2,000Paに維持しつつ、メタンガスを0.5NL/分の流速にて導入しながら、1,100℃、5時間の加熱処理(黒鉛被膜処理)を行った。黒鉛被膜処理終了後、50℃/hの降温速度で室温まで冷却することにより、黒鉛被膜酸化ケイ素の粉末約330gを得た。この黒鉛被膜酸化ケイ素は、酸化ケイ素の表面が黒鉛で被覆された導電性の粉末(活物質)であり、その平均粒径は10.5μmであり、得られた黒鉛被膜酸化ケイ素の全体を100質量%とした場合の黒鉛被膜の割合は2質量%であった。
【0110】
5.3.実施例1
(1)蓄電デバイス電極用バインダー組成物の調製
Ar置換されたグローブボックス中で、上記合成例1で得たポリアミック酸誘導体P1を含有する重合体水溶液100g(ポリアミック酸誘導体P1を10g含有する。)に対して、N−メチルピロリドン(NMP)及び1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(C1)を表2に記載の含有割合となるようにマイクロシリンジを用いて添加することにより、蓄電デバイス電極用バインダー組成物を調製した。
【0111】
(2)蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管試験
上記で調製された蓄電デバイス電極用バインダー組成物を保管容器に入れ、容器の内容積との比率(空隙率)、保管温度、遮光有無を表2に記載の条件とし、静置して6ヶ月保管した。6ヶ月保管後の蓄電デバイス電極用バインダー組成物の粘度変化はB型粘度計を用いて測定し、保管前の粘度に対して±5%を超える変化をしたものを粘度異常と判断した。6ヶ月保管後の蓄電デバイス電極用バインダー組成物の異物発生有無は、保管サンプルの全量を200メッシュフィルターに通過させた後、濾別されるものがある場合を×、なければ○と示した。また保管前サンプルと比較して明らかに着色しているものに×、目視で相違がみられない場合は○として表2に示した。
【0112】
なお、遮光有りの場合は、遮光保管容器としてアイセロ化学株式会社より市販されているクリーンバリア(登録商標)ボトルを使用した。また遮光無しで保管する場合は、PYREX(登録商標)広口メジューム瓶を用いて蛍光灯照射下で保管した。
【0113】
(3)蓄電デバイス電極用スラリーの調製
二軸型プラネタリーミキサー(プライミクス(株)製、商品名「TKハイビスミックス
2P−03」)中に、負極活物質として、平均粒子径22μmのグラファイト(日立化成工業(株)製、製品名「SMG−HE1」)80質量部(固形分換算)及び上記で合成した黒鉛被覆酸化ケイ素20質量部、並びに導電付与剤としてアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブラック50%プレス品」)1質量部を投入して20rpmで3分間混合した。次いで、さらに上記で6ヶ月保管した後のバインダー組成物を100質量部及び水20質量部を投入して、60rpmで1時間攪拌を行った。その後、攪拌脱泡機((株)シンキー製、商品名「ARV930−TWIN」)を使用して、絶対圧25kPaの減圧下において600rpmで5分間攪拌混合することにより、スラリーを調製した。
【0114】
(4)蓄電デバイス電極の製造
厚み10μmの銅箔からなる集電体の表面に、上記で調製したスラリーを、溶媒除去後の電極合剤層の質量が4.50mg/cm
2になるように膜厚を調整してドクターブレード法によって均一に塗布し、120℃で5分間乾燥処理して塗膜を形成した。次いで上記塗膜を、ギャップ間調整式ロールプレス機(テスター産業(株)製、商品名「SA−601」)を用いて、ロール温度30℃、線圧力1t/cm及び送り速度0.5m/分の条件
でプレスし、電極合剤層の密度が1.60g/cm
3となるように調整した。さらに、絶対圧100Paの減圧下、160℃において6時間加熱して電極合剤層を形成することにより、蓄電デバイス電極(負極)を得た。
【0115】
(5)蓄電デバイスの製造
露点が−80℃以下となるようアルゴン置換されたグローブボックス内で、上記で製造した負極を直径15.5mmに打ち抜き成形したものを、電極合剤層を上側にして、2極式コインセル(宝泉(株)製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレータ(セルガード(株)製、商品名「セルガード#2400」)を上記の負極上に載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、対電極(正極)として厚さ200μmのリチウム箔を直径16.6mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムイオン電池セル(蓄電デバイス)を組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解した溶液である。このようにして得られた蓄電デバイスを「(6)蓄電デバイスの評価」に供した。
【0116】
(6)蓄電デバイスの評価
<充放電サイクル特性>
上記で製造した蓄電デバイスにつき、定電流(0.2C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)として、初回充放電を終了した。次に、初回充放電を行った上記の蓄電デバイスにつき、0.5Cの充放電を、以下のようにして行った。
【0117】
まず、定電流(0.5C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で引き続き定電圧(0.01V)にて充電を継続し、電流値が0.05Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.2C)にて放電を開始し、電圧が2.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とし、0.5Cにおける放電容量(1サイクル目の0.5C放電容量=A)を測定した。この0.5Cの充放電を繰り返し行い、100サイクル目の0.5C放電容量をBとしたとき、100サイクル後の容量維持率を下記式(3)によって算出した。
容量維持率(%)=(B/A)×100 (3)
その評価結果を表2に併せて示す。この100サイクル後の容量維持率の値が90%以上95%未満であれば充放電サイクル特性は優良であると判断することができ、そして95%以上であれば、充放電サイクル特性は極めて優良であると判断することができる。100サイクル後の容量維持率の値が90%未満であれば不良であると判断することができる。
【0118】
5.4.実施例2〜8及び比較例1〜8
上記実施例1において、(A)成分として表2〜表3に記載の種類となるように上記合成例1〜5のいずれかで得た10質量%の重合体水溶液を用い、(B)成分及び(C)成分の種類・含有割合を表2〜表3に記載の通りとしたほかは、実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用バインダー組成物をそれぞれ調製して、表2〜表3に記載の条件で6ヶ月保管した。これらの保管した各水系バインダー組成物を用いて、実施例1と同様にして蓄電デバイス電極用スラリーを調製し、蓄電デバイス電極及び蓄電デバイスを製造して評価した。これらの評価結果を表2〜表3に併せて示す。
【0119】
5.5.評価結果
下表2〜表3に各実施例、各比較例の評価結果を示す。
【0122】
表2〜表3における各成分の略称または記号は、それぞれ以下の化合物を表す。また、表2〜表3中の「−」は、該当する成分を含有していないことを表す。
<(B)成分>
・NMP:N−メチルピロリドン
・NEP:N−エチルピロリドン
・GBL:γ−ブチロラクトン
・DMF:ジメチルホルムアミド
・THF:テトラヒドロフラン
・EGMBE:エチレングリコールモノブチルエーテル
・PEGMEA:プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート
<(C)成分>
・C1:1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン
・C2:2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン
・C3:N−n−ブチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン
・C4:5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン
【0123】
上表2〜表3の結果によれば、本発明に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法は有効であることが明らかになった。
【0124】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。
【課題】ポリアミック酸、ポリアミック酸誘導体、及びそれらのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、水とを含有する蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保存安定性に優れた保管方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る蓄電デバイス電極用バインダー組成物の保管方法は、(A)ポリアミック酸、ポリアミック酸誘導体、及びそれらのイミド化重合体よりなる群から選択される少なくとも1種の重合体と、水とを含有する蓄電デバイス電極用バインダー組成物を容器に充填して保管する方法であって、前記容器の内容積に対する前記蓄電デバイス電極用バインダー組成物の占める容積を除いた空隙部の容積の比率を1〜20%とし、0℃以上40℃以下の温度で保管することを特徴とする。