特許第6065188号(P6065188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6065188
(24)【登録日】2017年1月6日
(45)【発行日】2017年1月25日
(54)【発明の名称】電気機械の制御
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/16 20160101AFI20170116BHJP
【FI】
   H02P6/16
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-31532(P2015-31532)
(22)【出願日】2015年2月20日
(62)【分割の表示】特願2011-233361(P2011-233361)の分割
【原出願日】2011年10月5日
(65)【公開番号】特開2015-119636(P2015-119636A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2015年3月23日
(31)【優先権主張番号】1016739.3
(32)【優先日】2010年10月5日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】1017376.3
(32)【優先日】2010年10月14日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508032310
【氏名又は名称】ダイソン テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ハンピン ダイ
(72)【発明者】
【氏名】ユ チェン
(72)【発明者】
【氏名】トゥンジャイ ジェリク
(72)【発明者】
【氏名】リボ ゼン
(72)【発明者】
【氏名】ヨンジ ゾウ
【審査官】 森山 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−087778(JP,A)
【文献】 特開平10−155299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械を制御する方法であって、
ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択するステップと、
前記基準エッジに関連する時点で前記電気機械の相巻線を転流するステップと、
を含み、
前記ロータ位置信号が、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、N個のエッジの各々が、逆起電力のそれぞれのゼロ交差又は前記相巻線のインダクタンスの最小値に関連し、前記N個のエッジの少なくとも1つが、他のN個のエッジのものとは異なるそれぞれのゼロ交差又は最小値に対する角度位置を有し、前記基準エッジが、それぞれのゼロ交差又は最小値に対する前記基準エッジの前記角度位置が前記電気機械の電源オンごとに同じになるように前記N個のエッジから選択され、
前記基準エッジを選択するステップが、nを整数として、
エッジnとエッジ(n+N/2)の間の第1の期間を測定するステップと、
エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間の第2の期間を測定するステップと、
前記第1の期間を含む第1のオペランドと前記第2の期間を含む第2のオペランドを比較するステップと、
前記比較の結果が論理的に真である場合、前記第1の期間のエッジを選択するステップと、
前記比較の結果が論理的に偽である場合、前記第2の期間のエッジを選択するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記基準エッジを選択するステップが、mを整数として、
エッジ(n+mN)とエッジ(n+mN+N/2)の間の第3の期間を測定するステップと、
エッジ(n+mN−N/2)とエッジ(n+mN)の間の第4の期間を測定するステップと、を含み、
前記第1のオペランドが、前記第1の期間と前記第3の期間の合計を含み、前記第2のオペランドが、前記第2の期間と前記第4の期間の合計を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
mが1である、
ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エッジを選択するステップが、前縁及び後縁の一方を選択するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
電気機械を制御する方法であって、
ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択するステップと、
前記基準エッジに関連する時点で前記電気機械の相巻線を転流するステップと、
を含み、
前記ロータ位置信号が、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、N個のエッジの各々が、逆起電力のそれぞれのゼロ交差又は前記相巻線のインダクタンスの最小値に関連し、前記N個のエッジの少なくとも1つが、他のN個のエッジのものとは異なるそれぞれのゼロ交差又は最小値に対する角度位置を有し、前記基準エッジが、それぞれのゼロ交差又は最小値に対する前記基準エッジの前記角度位置が前記電気機械の電源オンごとに同じになるように前記N個のエッジから選択され、
前記ロータ位置信号が、機械的サイクル当たりN個のパルスを有し、個々のパルスが、前記ロータ位置信号の2つの連続するエッジにより定められ、
前記基準エッジを選択するステップが、
前記N個のパルスのうちの少なくとも2つの長さを比較するステップと、
最長又は最短の長さを有する前記パルスのエッジを選択するステップと、
を含む、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記基準エッジを選択するステップが、
立ち上がり前縁及び立ち下がり前縁の一方を有する前記N個のパルスの各々の長さを比較するステップと、
最長又は最短の長さを有する前記パルスのエッジを選択するステップと、
を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記パルスの2又はそれ以上が前記最長又は最短の長さを有する場合、前記基準エッジを選択するステップが、
立ち上がり前縁及び立ち下がり前縁の他方を有する他のN個のパルスの各々の長さを比較するステップと、
最長又は最短の長さを有する前記他のパルスのエッジを選択するステップと、
を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記基準エッジを選択するステップが、前記相巻線の励起を一時停止するステップを含む、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法を実施する、
ことを特徴とする電気機械のための制御システム。
【請求項10】
ロータ位置信号を受け取るための入力部と、電気機械の相巻線を転流するための1又はそれ以上の制御信号を出力するための1又はそれ以上の出力部とを有する、前記電気機械のためのコントローラであって、
該コントローラが、前記ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択し、前記基準エッジに関連する時点で相巻線を転流するための制御信号を生成し、
前記ロータ位置信号が、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、N個のエッジの各々が、逆起電力のそれぞれのゼロ交差又は前記相巻線のインダクタンスの最小値に関連し、前記N個のエッジの少なくとも1つが、他のN個のエッジのものとは異なるそれぞれのゼロ交差又は最小値に対する角度位置を有し、前記基準エッジが、それぞれのゼロ交差又は最小値に対する前記基準エッジの前記角度位置が電源オンごとに同じになるように前記N個のエッジから選択され、
前記基準エッジを選択することが、nを整数として、エッジnとエッジ(n+N/2)の間の第1の期間を測定し、エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間の第2の期間を測定し、前記第1の期間を含む第1のオペランドと前記第2の期間を含む第2のオペランドを比較し、前記比較の結果が論理的に真である場合、前記第1の期間のエッジを選択し、前記比較の結果が論理的に偽である場合、前記第2の期間のエッジを選択することを含む、
ことを特徴とするコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械の性能は、ロータ位置と位相励起の正確なタイミングに依存する。電気機械は、ロータ位置を示す信号を出力するセンサを含むことができる。このとき、信号のエッジに関連する時点で位相励起が生じる。電気機械内の公差は、信号のデューティサイクルの均衡が完全にとれていないことを意味し得る。この結果、電気機械の性能が、電源オンごとに一貫性のないものとなる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
第1の態様では、本発明は、電気機械を制御する方法を提供し、この方法は、ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択するステップと、基準エッジに関する時点で電気機械の相巻線を転流するステップとを含み、ロータ位置信号は、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、N個のエッジの各々は、逆起電力のそれぞれのゼロ交差又は相巻線のインダクタンスの最小値に関連し、N個のエッジの少なくとも1つは、他のN個のエッジのものとは異なるそれぞれのゼロ交差又は最小値に対する角度位置を有し、基準エッジは、それぞれのゼロ交差又は最小値に対する基準エッジの角度位置が電気機械の電源オンごとに同じになるようにN個のエッジから選択される。
【0004】
逆起電力のそれぞれのゼロ交差又はインダクタンスの最小値に対するエッジの角度位置が同じになる基準エッジを選択し、この基準エッジに関連する時点で相巻線を励起することにより、電気機械の挙動が、ロータ位置信号のあらゆるデューティサイクルの不均衡に関わらず電源オンごとに一貫する。従って、電気機械の出力及び/又は効率が電源オンごとに変化しない。また、電気機械がAC電源によって給電される場合、AC電源から引き出される電流波形内の調波量が変化しない。
【0005】
機械的サイクル当たりN個のエッジのうち、電源オンごとに異なるエッジが基準エッジとして選択されることもある。にもかかわらず、逆起電力のゼロ交差又はインダクタンスの最小値に対する基準エッジの角度位置は同じとなる。
【0006】
基準エッジを選択するステップは、エッジnとエッジ(n+N/2)の間の第1の期間を測定するステップと、エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間の第2の期間を測定するステップと、第1の期間を含む第1のオペランドと第2の期間を含む第2のオペランドを比較するステップとを含むことができる。これにより、比較の結果が論理的に真である場合には第1の期間のエッジが選択され、比較の結果が論理的に偽である場合には第2の期間のエッジが選択される。従って、第1の期間は、機械的サイクルのほぼ半分に及び、第2の期間は、機械的サイクルのほぼ残りの半分に及ぶ。これらの期間の一方を各々が含むオペランドを比較することにより、1回の比較動作によって基準エッジを選択することができる。従って、この方法を実施するのに必要なステップ又は命令は比較的単純であり、従って比較的安価なマイクロプロセッサ又は同様のものを使用することができる。
【0007】
第1のオペランドは第1の期間のみを含むことができ、第2のオペランドは第2の期間のみを含むことができる。この結果、比較的迅速かつ単純に基準エッジを求めることができる。
【0008】
第1及び第2の期間を測定している間に電気機械の速度が変化した場合、誤ったエッジを選択する可能性がある。従って、基準エッジを選択するステップは、エッジ(n+mN)とエッジ(n+mN+N/2)の間の第3の期間を測定するステップと、エッジ(n+mN−N/2)とエッジ(n+mN)の間の第4の期間を測定するステップとを含むことができる。これにより、第1のオペランドは、第1の期間と第3の期間の合計を含み、第2のオペランドは、第2の期間と第4の期間の合計を含む。この結果、2つのオペランドの比較に、電気機械の速度の変化が考慮されるようになる。具体的には、電気機械の速度が一定又は線形変化している場合には同じ基準エッジが選択される。
【0009】
mの値は1に等しくすることができる。この結果、第2の期間と第4の期間が同一となる。これにより、必要とされる測定回数が減少する。具体的には、エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間で1回測定を行うことにより第2の期間及び第4の期間が得られる。
【0010】
基準エッジを選択するステップは、相巻線の励起を一時停止するステップを含むことができる。この結果、期間を測定する時間にわたって電気機械の速度が線形に低下する。
【0011】
期間のエッジを選択するステップは、期間の前縁及び後縁の一方を選択するステップを含むことができる。
【0012】
ロータ位置信号は、機械的サイクル当たりN個のパルスを有することができ、個々のパルスは、ロータ位置信号の2つの連続するエッジにより定められる。次に、基準エッジを選択するステップは、少なくとも2つのパルスの長さを比較し、長さが最長の又は最短のパルスのエッジを選択するステップを含むことができる。信号の2又はそれ以上のパルスの長さを比較することにより、一意のパルスを識別することができる。その後、この一意のパルスのエッジを選択することにより、電源オンごとに同じ基準エッジを選択することができる。
【0013】
基準エッジを選択するステップは、機械的サイクルに及ぶ全てのパルスの長さを比較するステップを含むことができる。或いは、基準エッジを選択するステップは、立ち上がり前縁及び立ち下がり前縁の一方を有するこれらのパルスのみの長さを比較して、長さが最長の又は最短のパルスのエッジを選択するステップを含むことができる。これにより、比較動作の回数が減少する。パルスのうちの2又はそれ以上が最長又は最短の長さを有する場合(すなわち、他のパルスよりも長い又は短い単一のパルスが存在しない場合)、基準エッジを選択するステップは、立ち上がり前縁及び立ち下がり前縁の他方を有する他のパルスの長さを比較して、長さが最長又は最短の他のパルスのエッジを選択するステップをさらに含むことができる。この結果、比較動作の回数が、全てのパルスの長さを比較する場合の回数よりも引き続き少なくなる。この場合も、他のパルスの2又はそれ以上が最長又は最短の長さを有する場合(すなわち、他のパルスよりも長い又は短い単一のパルスが存在しない場合)、基準エッジを選択するステップは、信号の立ち上がり及び立ち下がりの一方を選択するステップを含むことができる。機械的サイクル当たり4つのパルスを有する信号では、立ち上がり前縁を有するパルスが同じ長さを有し、立ち下がり前縁を有するパルスが同じ長さを有する場合、信号のデューティサイクルが機械的半サイクルごとに繰り返すことを意味する。従って、電源オンごとに同じ種類のエッジが選択される限り、あらゆる立ち上がり又は立ち下がりを選択することができる。
【0014】
第2の態様では、本発明は、電気機械を制御する方法を提供し、この方法は、ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択するステップと、基準エッジに関連する時点で電気機械の相巻線を転流するステップとを含み、ロータ位置信号は、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、基準エッジを選択するステップは、エッジnとエッジ(n+N/2)の間の第1の期間を測定するステップと、エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間の第2の期間を測定するステップと、第1の期間を含む第1のオペランドと第2の期間を含む第2のオペランドを比較するステップと、比較の結果が論理的に真である場合には第1の期間のエッジを選択するステップと、比較の結果が論理的に偽である場合には第2の期間のエッジを選択するステップとを含む。
【0015】
第3の態様では、本発明は、上記段落のいずれかにおいて説明した方法を実施する電気機械のための制御システムを提供する。
【0016】
第4の態様では、本発明は、ロータ位置信号を受け取るための入力部と、電気機械の相巻線を転流するための1又はそれ以上の制御信号を出力するための1又はそれ以上の出力部とを有する、電気機械のためのコントローラを提供し、このコントローラは、ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択し、基準エッジに関連する時点で相巻線を転流するための制御信号を生成し、ロータ位置信号は、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、N個のエッジの各々は、逆起電力のそれぞれのゼロ交差又は相巻線のインダクタンスの最小値に関連し、N個のエッジの少なくとも1つは、他のN個のエッジのものとは異なるそれぞれのゼロ交差又は最小値に対する角度位置を有し、基準エッジは、それぞれのゼロ交差又は最小値に対する基準エッジの角度位置が電源オンごとに同じになるようにN個のエッジから選択される。
【0017】
第5の態様では、本発明は、ロータ位置信号を受け取るための入力部と、電気機械の相巻線を転流するための1又はそれ以上の制御信号を出力するための1又はそれ以上の出力部とを有する、電気機械のためのコントローラを提供し、このコントローラは、ロータ位置信号のエッジを基準エッジとして選択し、基準エッジに関連する時点で相巻線を転流するための制御信号を生成し、ロータ位置信号は、機械的サイクル当たりN個のエッジを有し、Nは少なくとも4であり、基準エッジを選択するステップは、エッジnとエッジ(n+N/2)の間の第1の期間を測定するステップと、エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間の第2の期間を測定するステップと、第1の期間を含む第1のオペランドと第2の期間を含む第2のオペランドを比較するステップと、比較の結果が論理的に真である場合には第1の期間のエッジを選択するステップと、比較の結果が論理的に偽である場合には第2の期間のエッジを選択するステップとを含む。
【0018】
本発明を容易に理解できるようにするために、ここで添付図面を参照しながら本発明の実施形態を一例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明によるモータシステムのブロック図である。
図2】モータシステムの概略図である。
図3】モータシステムのモータの断面図である。
図4】モータシステムのコントローラにより送出される制御信号に応答するインバータの許容状態を詳述した図である。
図5】加速モードで動作しているときのモータシステムの様々な波形を示す図である。
図6】定常モードで動作しているときのモータシステムの様々な波形を示す図である。
図7】デューティサイクル補償を適用しないときのモータシステムの様々な波形を示す図である。
図8】デューティサイクル補償を適用したときのモータシステムの様々な波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1図3のモータシステム1は、AC電源2により給電され、ブラシレスモータ3及び制御システム4を備える。
【0021】
モータ3は、固定子6に対して回転する4極永久磁石ロータ5を有する。固定子6は、4つの固定子極を定める一対のC形コアを含む。コアの周りには導線が巻かれ、これらの導線が連結して単一の相巻線7を形成する。
【0022】
制御システム4は、整流器8、DCリンクフィルタ9、インバータ10、ゲートドライバモジュール11、電流センサ12、ロータ位置センサ13、及びコントローラ14を備える。
【0023】
整流器8は、AC電源2の出力を整流してDC電圧を供給する全波ブリッジの4つのダイオードD1〜D4を含む。
【0024】
DCリンクフィルタ9は、インバータ10の切り替えによって生じる比較的高周波のリップルを平滑化するコンデンサC1を含む。必要に応じ、DCリンクフィルタ9は、整流済みの基本周波数のDC電圧をさらに平滑化することができる。
【0025】
インバータ10は、DCリンク電圧を相巻線7に結合する全波ブリッジの4つの電源スイッチQ1〜Q4を含む。スイッチQ1〜Q4の各々は、フリーホイールダイオードを含む。
【0026】
ゲートドライバモジュール11は、コントローラ14から受け取った制御信号に応答して、スイッチQ1〜Q4の開閉を駆動する。
【0027】
電流センサ12は、1対のシャント抵抗器R1、R2を含み、個々の抵抗器はインバータ10の下部アーム上に位置する。個々の抵抗器R1、R2にかかる電圧は、電流検知信号I_SENSE_1及びI_SENSE_2としてコントローラ14に出力される。第1の電流検知信号I_SENSE_1は、インバータ10が(以下で詳細に説明するように)右から左へ駆動したときの相巻線7内の電流の測定値を示す。第2の電流検知信号I_SENSE_2は、インバータ10が左から右へ駆動したときの相巻線7内の電流の測定値を示す。抵抗器R1、R2をインバータ10の下部アーム上に配置する際に、(これも以下でより詳細に説明するように)フリーホイーリング中に相巻線7内の電流が連続して検知される。
【0028】
ロータ位置センサ13は、センサ13を通過する磁束の方向に応じて論理的にhigh又はlowとなるデジタル信号HALLを出力するホール効果センサを含む。センサ13をロータ5に隣接して配置することにより、HALL信号が、ロータ5の角度位置の測定値を示す。より詳細には、HALL信号の各エッジが、ロータ5の極性の変化を示す。回転時には、永久磁石ロータ5が、相巻線7内に逆起電力を誘起する。結果として、HALL信号の各エッジは、相巻線7内の逆起電力の極性の変化もさらに示す。
【0029】
コントローラ14は、モータシステム1の動作を制御する責任を負う。4つの入力信号:I_SENSE_1、I_SENSE_2、HALL、及びDC_SMOOTHに応答して、コントローラ14は、3つの制御信号:DIR1、DIR2、及びFW#を生成して出力する。これらの制御信号がゲートドライバモジュール11に出力され、これに応じて、ゲートドライバモジュール11がインバータ10のスイッチQ1〜Q4の開閉を駆動する。
【0030】
I_SENSE_1及びI_SENSE_2は、電流センサ12により出力される信号であり、HALLは、ロータ位置センサ13により出力される信号である。DC_SMOOTHは、平滑化したDCリンク電圧の測定値であり、分圧器R3、R4及び平滑コンデンサC2によって得られる。
【0031】
DIR1及びDIR2は、インバータ10を、従って相巻線7を通過する電流の方向を制御する。DIR1が論理的highに引っ張られ、DIR2が論理的にlowに引っ張られると、ゲートドライバモジュール11は、スイッチQ1及びQ4を閉じてスイッチQ2及びQ3を開くことにより、相巻線7を通じて電流を左から右へ駆動する。反対に、DIR2が論理的にhighに引っ張られ、DIR1が論理的にlowに引っ張られると、ゲートドライバモジュール11は、スイッチQ2及びQ3を閉じてスイッチQ1及びQ4を開くことにより、相巻線7を通じて電流を右から左へ駆動する。従って、DIR1とDIR2を逆転させることにより、相巻線7内の電流が転流される。DIR1及びDIR2の両方が論理的にlowに引っ張られた場合、ゲートドライバモジュール11は、全てのスイッチQ1〜Q4を開く。
【0032】
FW#は、相巻線7をDCリンク電圧から切断するために使用され、相巻線7内の電流がインバータ10のlow側ループの周りをフリーホイールできるようにする。従って、ゲートドライバモジュール11は、論理的にlowに引っ張られたFW#信号に応答して、high側スイッチQ1、Q2を開く。この結果、電流は、インバータ10のlow側ループの周りをDIR1及びDIR2によって定められる方向にフリーホイールする。
【0033】
図4は、コントローラ14の制御信号に応答してスイッチQ1〜Q4が許容される状態をまとめたものである。以下、信号が論理的にhighに及び論理的にlowに引っ張られることを示すために、「セット」及び「クリア」という用語をそれぞれ使用する。
【0034】
コントローラ14は、ロータ5の速度に応じて2つのモードの一方で動作する。所定の速度閾値を下回る速度では、コントローラ14は加速モードで動作する。速度閾値又はこれ以上の速度では、コントローラ14は定常モードで動作する。ロータ5の速度は、HALL信号の2つの連続するエッジ間の期間T_PDから求められる。この期間は、1つのHALLパルスの長さに相当し、以下ではHALL期間と呼ぶ。従って、T_PD(i)は、HALLエッジiとHALLエッジ(i+1)の間のHALL期間に相当する。
【0035】
加速モード
速度閾値を下回る速度では、コントローラ14は、HALL信号のエッジと同期して相巻線7を転流する。各HALLエッジは、相巻線7内の逆起電力の極性の変化を表す。この結果、コントローラ14は、逆起電力のゼロ交差と同期して相巻線7を転流する。
【0036】
転流は、相巻線7を通過する電流の方向を逆転させるために、DIR1及びDIR2を逆転させる(すなわち、DIR1をクリアしてDIR2をセットするか、或いはDIR2をクリアしてDIR1をセットする)ことを伴う。相巻線7は、転流の時点でフリーホイールすることができる。従って、DIR1及びDIR2の逆転に加え、コントローラ14は、インバータ10が確実に駆動状態に戻るようにするためにFW#をセットする。
【0037】
コントローラ14は、2つの電流検知信号I_SENSE_1及びI_SENSE_2をモニタする。相巻線7内の電流が過電流閾値を超えると、コントローラ14は、FW#をクリアすることによりモータ3をフリーホイールする。フリーホイーリングは、フリーホイール期間T_FWにわたって継続し、この間、相巻線7内の電流は、過電流閾値を下回るレベルまで減少すると予想される。相巻線7内の電流が過電流閾値を超過し続ける場合、コントローラ14は、相巻線7をフリーホイール期間T_FWにわたって再度フリーホイールする。そうでない場合、コントローラ14は、FW#をセットすることにより相巻線7を励起する。この結果、コントローラ14は、相巻線7を個々の電気的半サイクルにわたって連続して励起及びフリーホイールする。
【0038】
図5には、加速モードで動作している場合のいくつかのHALL期間にわたるHALL信号、制御信号、及び相電流の波形を示している。
【0039】
コントローラ14は、固定フリーホイール期間T_FWを利用することができる。しかしながら、固定フリーホイール期間の間、対応する電気角度はロータ速度とともに増加する。この結果、電流ひいては電力を相巻線7に引き込む残りの電気角度が減少する。また、ロータ速度が増加するにつれ、相巻線7内に誘起される逆起電力が増加する。この結果、フリーホイール中に相電流がより速い速度で減少する。従って、コントローラ14は、固定フリーホイール期間を使用する代わりに、ロータ速度とともに変化するフリーホイール期間を使用する。より詳細には、コントローラ14は、ロータ速度の増加とともに減少するフリーホイール期間を使用する。従って、コントローラ14は、複数のロータ速度の各々のフリーホイール期間T_FWを記憶するフリーホイールルックアップテーブルを含む。この結果、コントローラ14は、T_PDから求められる現在のロータ速度を使用してフリーホイールルックアップテーブルのインデックスを作成することにより、フリーホイール期間を定期的に更新する。
【0040】
定常モード
速度閾値又はこれ以上の速度では、コントローラ14は、相巻線7を各HALLエッジよりも前に、従って逆起電力のゼロ交差よりも前に転流する。この場合も、転流は、DIR1とDIR2を逆転させてFW#をセットすることを伴う。
【0041】
コントローラ14は、各HALLエッジよりも進み期間T_ADVだけ前に相巻線7を転流する。特定のHALLエッジよりも前に相巻線7を転流するために、コントローラ14は、前回のHALLエッジに応じて動作する。前回のHALLエッジnに応じて、コントローラ14は、転流期間T_COM(n)を計算する。次に、コントローラ14は、前回のHALLエッジの後の時点T_COM(n)において相巻線7を転流する。この結果、コントローラ14は、後続するHALLエッジ(n+1)よりも前に相巻線7を転流する。コントローラ14が転流期間T_COM(n)を計算する方法については以下で説明する。
【0042】
加速モードの場合と同様に、コントローラ14は、相巻線7の電流が過電流閾値を超える場合には常に相巻線7をフリーホイールする。フリーホイーリングは、フリーホイール期間T_FWにわたって継続し、この間、相巻線7の電流は、過電流閾値を下回るレベルまで減少すると予想される。相巻線7内の電流が過電流閾値を超過し続ける場合、コントローラ14は、相巻線7を再度フリーホイールする。そうでない場合、コントローラ14は相巻線7を励起する。この結果、加速モードの場合と同様に、コントローラ14は、相巻線7を連続して励起及びフリーホイールする。
【0043】
加速モードで動作している場合、コントローラ14は、個々の電気的半サイクルの全長にわたって相巻線7を連続して励起及びフリーホイールする。一方、定常状態で動作している場合、コントローラ14は、通常は個々の電気的半サイクルの一部のみに及ぶ通電期間T_CDにわたって相巻線7を連続して励起及びフリーホイールする。通電期間の終わりに、コントローラ14は、FW#をクリアすることにより巻線をフリーホイールする。
その後、フリーホイールは、コントローラ14がモータ3を転流するときまで無制限に継続する。
【0044】
図6には、定常モードで動作している場合のいくつかのHALL期間にわたるHALL信号、制御信号、及び相電流の波形を示している。
【0045】
コントローラ14は、(DC_SMOOTHから求められる)電源2の電圧及び(T_PDから求められる)ロータ5の速度の変化に応答して、進み期間T_ADV及び通電期間T_CDを調整する。従って、コントローラ14は、進みルックアップテーブル及び通電ルックアップテーブルを記憶する。進みルックアップテーブルは、複数の供給電圧及びロータ速度の各々の進み期間T_ADVを記憶する。同様に、通電ルックアップテーブルは、複数の供給電圧及びロータ速度の各々の通電期間T_CDを記憶する。
【0046】
コントローラ14は、(DC_SMOOTHから求められる)供給電圧及び/又は(T_PDから求められる)ロータ速度の変化に応答して、進み期間、通電期間及びフリーホイール期間を定期的に更新する。例えば、コントローラ14は、個々の又はn番目ごとのHALLエッジに応答して様々な制御パラメータを更新することができる。或いは、コントローラ14は、一定期間後に、又は電源2の電圧のゼロ交差に応答して制御パラメータを更新することができる。
【0047】
ルックアップテーブルは、個々の電圧点及び速度点において特定の入力又は出力を達成する値を記憶する。さらに、この値を、個々の電圧点及び速度点におけるモータシステム1の効率が特定の入力又は出力に関して最適化されるように選択する。すなわち、進み期間、通電期間及びフリーホイール期間の様々な値の組により、同一の所望の入力又は出力を得ることができる。しかしながら、これらの様々な値の組から、効率を最適にする1つの組が選択される。多くの国には、主電源から引き出すことができる電流調波量に厳しい制限を課す規定が存在する。従って、これらの値は、効率が最適化されると同時に、電源2から引き出される電流調波量が所要の規制を確実に順守するように選択することができる。
【0048】
デューティサイクル補償
上述したように、各HALLエッジは、ロータ5の極性の変化を表す。ロータ5は、相巻線7内に逆起電力を誘起するので、各HALLエッジは、逆起電力のそれぞれのゼロ交差に関連する。HALL信号のデューティサイクルが完全に均衡を保ち、すなわち各HALLパルスが同じ機械角度に及ぶことが理想的である。しかしながら、モータシステム1の公差、特にロータ極の磁化の公差に起因して、一般にデューティサイクルの不均衡が存在する。一方、相巻線7内に誘起される逆起電力は均衡を保ち続ける。この結果、それぞれの逆起電力のゼロ交差に関連するHALLエッジの角度位置をオフセットすることができる。詳細には、HALLエッジの角度位置によりゼロ交差を導き、又はゼロ交差を遅らせることができる。このHALLエッジの角度位置のオフセットは、今から説明するように、モータシステム1の挙動及び性能に悪影響を及ぼすことがある。
【0049】
定常モードで動作している場合、コントローラ14は、逆起電力のゼロ交差よりも進み期間T_ADVだけ前に相巻線7を転流しようとする。とりあえず、各HALLエッジが逆起電力のゼロ交差と一致することに基づいてコントローラ14が動作すると仮定する。
従って、コントローラ14は、各HALLエッジよりも進み期間T_ADVだけ前に相巻線7を転流しようとする。特定のHALLエッジよりも前に相巻線7を転流するために、コントローラ14は、前回のHALLエッジnからセット期間T_COM(n)だけ後に相巻線7を転流する。従って、転流期間T_COM(n)を以下のように定義することができる。
T_COM(n)=T_PD(n−1)−T_ADV
式中、T_PD(n−1)はHALLエッジnの直前のHALL期間であり、T_ADVは進み期間である。
【0050】
各HALLエッジが逆起電力のゼロ交差と一致する場合、実際には、コントローラ14は、個々のゼロ交差よりも所要の進み期間T_ADVだけ前に相巻線7を転流する。しかしながら、HALLエッジの角度位置にゼロ交差に対してオフセットが存在する場合、代わりに今から図7を参照して実証するように、コントローラ14は、所要の進み期間T_ADVとは異なる期間に相巻線7を転流する。
【0051】
図7には、一定速度で動作するモータシステム1の機械サイクルを示している。個々の機械サイクルの期間は200μsである。デューティサイクルの不均衡がない場合、個々のHALL期間T_PD(n)の長さは50μsとなる。しかしながら、モータシステム1の公差に起因して、個々の機械サイクルの第1のHALL期間は60μsとなり、第2のHALL期間は30μsとなり、第3のHALL期間は70μsとなり、第4のHALL期間は40μsとなる。従って、デューティサイクルの不均衡は、60:30:70:40となる。
【0052】
ここで、コントローラ14が、20μsの進み期間T_ADV、及び方程式:T_COM(n)=T_PD(n−1)−T_ADVにより定義される転流期間T_COM(n)を使用すると仮定する。機械サイクルの第1のHALLエッジに応答して、コントローラ14は、転流期間T_COM(1)を計算する。第1のHALLエッジの直前のHALL期間T_PD(0)は40μsであり、進み期間T_ADVは20μsであるので、転流期間T_COM(1)は20μsとなる。従って、コントローラ14は、第1のHALLエッジから20μs後に相巻線を転流し、これは逆起電力のゼロ交差に対して30μsの進み期間に相当する。機械サイクルの第2のHALLエッジに応答して、コントローラ14は、次の転流期間T_COM(2)を計算する。先行するHALL期間T_PD(1)は60μsであり、進み期間T_ADVは20μsであるので、転流期間T_COM(2)は40μsとなる。従って、コントローラ14は、第2のHALLエッジから40μs後に相巻線を転流する。この結果、コントローラ14は、逆起電力の次のゼロ交差よりも前に相巻線7を転流するのではなく、ゼロ交差と同期して相巻線を転流する。機械サイクルの第3のエッジに応答して、コントローラ14は転流期間T_COM(3)を再度計算し、これはこの場合10μsである。従って、コントローラ14は、第3のHALLエッジから10μs後に相巻線10を転流し、これは逆起電力の次のゼロ交差に対して50μsの進み期間に相当する。最終的に、機械サイクルの第4のHALLエッジに応答して、コントローラ14は転流期間COM(4)を計算し、これはこの場合50μsである。従って、コントローラ14は、第4のHALLエッジから50μs後に相巻線を転流する。
この結果、コントローラ14は、逆起電力の次のゼロ交差よりも前に相巻線7を転流するのではなく、ゼロ交差から10μs後に相巻線を転流する。
【0053】
要約すれば、コントローラ14は、逆起電力の個々のゼロ交差よりも20μs前に相巻線7を転流するのではなく、第1のゼロ交差よりも30μs前に、第2のゼロ交差とは同期して、第3のゼロ交差よりも50μs前に、及び第4のゼロ交差から10μs後に相巻線を転流する。また、図7から分かるように、転流期間T_COM(2)及びT_COM(3)は同時に生じている。この結果、コントローラ14は、相巻線7を素早く連続して2回転流しようとする。この結果、電流は、比較的長い期間にわたって相巻線7を同じ方向に通り抜ける。図7に示す例では、コントローラ14が、電流を個々の機械サイクルの10μsにわたって左から右へ(DIR1)及び190μsにわたって右から左へ(DIR2)相巻線7に通す。進み期間が分散して転流点が衝突すると、モータシステム1の性能に悪影響が及ぶ。詳細には、モータシステム1の出力及び/又は効率が低下することがある。また、AC電源2から引き出される電流波形内の調波量が増加して、規定の閾値を超えることもある。
【0054】
従って、コントローラ14は、転流期間T_COM(n)を計算するためのデューティサイクル補償スキームを使用する。最初に、コントローラ14は、1又はそれ以上の機械サイクルに及ぶ連続するHALLエッジ間の平均期間T_AVEを取得する。
式中、T_PD(i)は、HALLエッジiとHALLエッジ(i+1)の間の期間であり、Nは、機械サイクル当たりの総エッジ数である。機械サイクルの期間は、HALL信号のデューティサイクルのいずれの不均衡の影響も受けない。この結果、1又はそれ以上の機械サイクルにわたる連続するエッジ間の期間を平均することにより、デューティサイクルの不均衡に影響されない平均HALL期間が得られる。
【0055】
機械サイクルの第1のHALLエッジに応答して、コントローラ14は、以下の式により定義される転流期間を計算する。
T_COM(1)=T_AVE−T_ADV
式中、T_AVEは平均HALL期間であり、T−ADVは進み期間である。この結果、コントローラ14は、第1のHALLエッジ後の時点T_COM(1)において相巻線7を転流する。
【0056】
機械サイクルの第2のHALLエッジに応答して、コントローラ14は、再び転流期間を計算する。しかしながら、今回は転流期間が以下のように定義される。
T_COM(2)=T_COM(1)+T_AVE−T_PD(1)
式中、T_COM(1)は、第1のHALLエッジの転流期間であり、T_AVEは平均HALL期間であり、T−PD(1)は第1のHALLエッジと第2のHALLエッジの間の期間である。この結果、コントローラ14は、第2のHALLエッジ後の時点T_COM(2)において相巻線7を転流する。
【0057】
機械サイクルの第3のHALLエッジに応答して、コントローラ14は、転流期間を以下のように計算する。
T_COM(3)=T_COM(1)+2×T_AVE−T_PD(1)−T_PD(2)
式中、T_COM(1)は第1のHALLエッジの転流期間であり、T_AVEは平均HALL期間であり、T−PD(1)は第1のHALLエッジと第2のHALLエッジの間の期間であり、T−PD(2)は第2のHALLエッジと第3のHALLエッジの間の期間である。この結果、コントローラ14は、第3のHALLエッジ後の時点T_COM(3)において相巻線7を転流する。
【0058】
最後に、機械サイクルの第4のHALLエッジに応答して、コントローラ14は、転流期間を以下のように計算する。
T_COM(4)=T_COM(1)+3×T_AVE−T_PD(1)−T_PD(2)−T_PD(3)
式中、T_COM(1)は第1のHALLエッジの転流期間であり、T_AVEは平均HALL期間であり、T−PD(1)は第1のHALLエッジと第2のHALLエッジの間の期間であり、T−PD(2)は第2のHALLエッジと第3のHALLエッジの間の期間であり、T−PD(3)は第3のHALLエッジと第4のHALLエッジの間の期間である。この結果、コントローラ14は、第4のHALLエッジ後の時点T_COM(4)において相巻線7を転流する。
【0059】
図8には、上述の補償スキームを用いて転流期間を計算するモータシステム1の機械サイクルを示している。機械的期間、デューティサイクルの不均衡、及び進み期間は、図7に示す例と同じである。機械サイクルの期間は200μsであり、機械サイクル当たり4つのHALLエッジが存在するので、平均HALL期間T−AVEは50μsとなる。従って、第1のHALLエッジの転流期間T−COM(1)は30μsとなり、これは逆起電力の第1のゼロ交差に対して20μsの進み期間に相当する。第2のHALLエッジの転流期間T−COM(2)は20μsとなり、これは逆起電力の第2のゼロ交差に対して20μsの進み期間に相当する。第3のHALLエッジの転流期間T−COM(3)は40μsとなり、これは逆起電力の第3のゼロ交差に対して20μsの進み期間に相当する。最後に、第4のHALLエッジの転流期間T−COM(4)は20μsとなり、これは逆起電力の第4のゼロ交差に対して20μsの進み期間に相当する。
【0060】
従って、コントローラ14は、逆起電力の個々のゼロ交差よりも進み期間T_ADVだけ前に相巻線7を転流する。さらに、転流点の衝突は存在しない。一方、図7に示す例では、逆起電力のゼロ交差よりも前、ゼロ交差時、及びゼロ交差よりも後に転流が行われる。また、2つの転流点の衝突が存在する。従って、デューティサイクル補償スキームを使用した場合の方が、モータシステム1の挙動が安定する。結果的に、モータシステム1の出力及び/又は効率が改善される。また、AC電源2から引き出される電流波形の調波が低下する。
【0061】
上述したデューティサイクル補償スキームでは、単一のタイマーを使用してT_AVE、T_COM及びT_PDを測定することができる。例えば、第1のHALLエッジに応答してコントローラ14のタイマーをリセットし、比較レジスタにT_COMをロードすることができる。タイマーと比較レジスタが対応する場合、コントローラ14が相巻線7を転流する。タイマーは停止するのではなく、第2のHALLエッジまでカウントし続ける。第2のHALLエッジに応答して、T_PD(1)に相当するタイマーの値をメモリに記憶し、タイマーをリセットして、比較レジスタにT_COM(2)をロードする。従って、コントローラ14のメモリは、1つの機械サイクル後にT_PAD(1)、T_PAD(2)、T_PAD(3)及びT_PAD(4)を記憶するようになる。次にこれらの期間を合計し、4で除算してT_AVEを得ることができる。
【0062】
上述の実施形態では、コントローラ14が、定常モードで動作している場合、逆起電力の個々のゼロ交差よりも前に相巻線7を転流する。この理由は、ロータ速度が増加するにつれてHALL期間が減少し、従って相インダクタンスに関連する時定数(L/R)が次第に重要になるからである。個々のゼロ交差よりも前に相巻線7を転流することにより、逆起電力によって供給電圧が高められる。この結果、相巻線7を通過する電流の方向をより素早く逆転させることができる。また、ロータ速度が増加するにつれて相巻線7内に誘起される逆起電力も増加し、これがさらに相電流の上昇率に影響を及ぼす。個々のゼロ交差よりも前に相巻線7を転流することにより、相電流が逆起電力をもたらすことができるようになり、これが緩慢な上昇を補償する助けとなる。この結果、短時間の負トルクが生じ、通常このトルクは、この後に得られる正トルクにより相殺されるよりも大きい。従って、コントローラ14は、定常モードで動作している場合、これに伴う比較的高いロータ速度によって転流を進める。しかしながら、モータシステム1が定常モードにおいて低速で動作しているとした場合、必ずしも転流を進める必要がない場合がある。さらに、転流を逆起電力の個々のゼロ交差の後まで遅延させることにより、最適な効率及び/又は最小の電流調波を実現することができる。従って、コントローラ14は、定常モードで動作している場合、逆起電力のゼロ交差に対して転流を進め、同期させ、又は遅延させることができる。従って、第1のHALLエッジの転流期間は、より一般的に以下のように定義することができる。
T_COM(1)=T_AVE+T_PS
式中、T_PSは負(進められた転流)、ゼロ(同期した転流)又は正(遅延した転流)とすることができる位相シフト期間である。この結果、コントローラ14は、供給電圧及び/又はロータ速度の変化に応答して位相シフト期間T_PSを調整することができる。
【0063】
コントローラ14は、個々のモータシステム1に特有の一定の分散に関して、個々の転流期間T_COM(n)を補正することができる。例えば、コントローラ14は、ホール効果センサ13のロータ5に対する位置ずれに関して個々の転流期間を補正することができる。転流期間のあらゆる補正は、第1の転流期間T_COM(1)にのみ適用する必要がある。これは、後続する転流期間T_COM(n)が第1の転流期間に依存するからである。この結果、第1のHALLエッジの転流期間をより一般的に以下のように定義することができ、
T_COM(1)∝T_AVE+T_PS
後続するHALLエッジの転流期間を以下のように定義することができる。
【0064】
エッジ選択
上記のデューティサイクル補償の例では、60μsのHALLパルスの立ち上がりを、個々の機械サイクルの第1のHALLエッジとして扱った。代わりに、60μsのHALLパルスの立ち下がりを第1のHALLエッジとして扱った場合、コントローラ14は、逆起電力の個々のゼロ交差の20μs前ではなく、10μs前に相巻線を転流すると考えられる。この進み期間の差は、2つのHALLエッジの角度位置に、これらのそれぞれの逆起電力のゼロ交差に対して異なるオフセットが存在することにより生じる。従って、相巻線7を転流する時点は、どのHALLエッジを個々の機械サイクルの第1のエッジとして選択するかによって決まる。モータシステム1の動作中、コントローラ14は、一貫して同じHALLエッジを個々の機械サイクルの第1のエッジとして選択する。しかしながら、モータシステム1の電源をオフにしてオンにした場合、コントローラ14が、異なるHALLエッジを個々の機械サイクルの第1のエッジとして選択することがある。この結果、電源オフ及びオンごとにモータシステム1の性能が変化することがある。モータシステム1の性能が一貫したものになることを確実にするために、コントローラ14は、基準エッジを個々の機械サイクルの第1のエッジとして選択するエッジ選択スキームを使用する。以下で説明するように、基準エッジは、モータシステム1の電源オンごとに逆起電力のそれぞれのゼロ交差に対する基準エッジの角度位置が同じになるように選択される。この結果、電源オフ及びオンごとにモータシステム1の性能が一貫する。
【0065】
コントローラ14は、最初に4つの連続するHALLパルスの期間T_PD(n)を測定する。コントローラ14は、HALL信号の立ち上がり及び立ち下がりの一方のみに応答してHALLパルスを測定する。この結果、コントローラ14により測定された第1のHALLパルスは、一貫して立ち上がり前縁又は立ち下がり前縁のいずれかを有するようになる。次に、コントローラ14は、以下の条件で、第1のHALLパルスの前縁を基準エッジとして選択する。
T_PD(1)+T_PD(2)≧T_PD(3)+T_PD(4)
この条件に合わなければ、コントローラ14は、第3のHALLパルスの前縁を基準エッジとして選択する。
【0066】
従って、コントローラ14は2つのオペランドを比較する。第1のオペランドは、機械サイクルのほぼ半分に及ぶ第1の期間T_PD(1)+T_PD(2)を含む。第2のオペランドは、機械サイクルの残りの半分に及ぶ第2の期間T_PD(3)+T_PD(4)を含む。
【0067】
2つのオペランドが等しい場合、HALL信号のデューティサイクルが機械サイクルの個々の半分と均衡を保っていることを意味し、すなわち第1の2つのHALLパルスも第2の2つのHALLパルスも180機械度に及ぶ。この結果、第1のHALLパルスの前縁を、その逆起電力のそれぞれのゼロ交差に対してオフセットした場合、第3のHALLパルスの前縁は、そのそれぞれのゼロ交差に対して同じ量だけオフセットされるようになる。このことは、たとえHALL信号のデューティサイクルが個々の機械的半サイクル内で均衡を失っていても当てはまる。従って、例えば、機械度で測定したHALL信号のデューティサイクルは、100:80:110:70となり得る。個々の機械的半サイクル内で不均衡が生じるにもかかわらず、第1のHALLパルス(すなわち、100度のパルス)の前縁と第3のHALLパルス(すなわち、110度のパルス)の前縁との間の差は180機械度となる。従って、第1のHALLパルス又は第3のHALLパルスのいずれかの前縁を基準エッジとして選択することができる。上述の方程式では、2つのオペランドが等しい場合、コントローラ14は第1のHALLパルスの前縁を選択する。しかしながら、コントローラ14は、第3のHALLパルスの前縁を同様に選択することもできる。
【0068】
第1のオペランドが第2のオペランドよりも大きい場合、コントローラ14は、第1のHALLパルスの前縁を選択し、そうでない場合、コントローラ14は、第3のHALLパルスの前縁を選択する。コントローラ14は、同様にこの逆を選択することもでき、すなわち第1のオペランドが第2のオペランドよりも小さい場合、第1のHALLパルスの前縁を選択することができる。実際には、電源オンごとに同じオペランド及び演算子を使用する限り、上記方程式の演算子は、≧、>、≦又は<のうちのいずれか1つとすることができる。従って、より一般的な意味では、コントローラ14は、第1のオペランドと第2のオペランドを比較し、比較結果が論理的に真である場合には第1のHALLパルスの前縁を選択し、比較の結果が論理的に偽である場合には第3のHALLパルスの前縁を選択すると言うことができる。
【0069】
ここまで、第1のHALLパルス又は第3のHALLパルスのいずれかの前縁を選択することについて言及した。しかしながら、一意のオペランドを識別してしまったら、電源オンごとに同じ選択基準を適用する限り、コントローラ14により選択された実際のエッジは重要でない。従って、例えば、コントローラ14は、第1のHALLパルス又は第3のHALLパルスのいずれかの後縁を選択することもできる。
【0070】
エッジ選択スキームの結果として、コントローラ14は、逆起電力のそれぞれのゼロ交差に対する基準エッジの角度位置が電源オンごとに同じである基準エッジを選択する。コントローラ14は、電源オンごとに異なるHALLエッジを基準エッジとして選択することができる。にもかかわらず、それぞれのゼロ交差に対する基準エッジの角度位置は同じとなる。従って、例えば、機械度で測定したHALL信号のデューティサイクルは、100:80:110:70となり得る。コントローラ14は、電源オンごとに、100:80:110:70及び110:70:100:80という2つのシーケンスの一方のHALLパルスを測定することができる。従って、コントローラ14は、電源オンごとに100度のパルス又は110度のパルスのいずれかの前縁を選択するようになる。しかしながら、パルスの前縁は180機械度によって分離され、従って上述したように、これらのエッジは、逆起電力のそれぞれのゼロ交差に対して同じ角度位置を有するようになる。
【0071】
エッジの角度位置が逆起電力のそれぞれのゼロ交差に対して同じである基準エッジを選択し、この基準エッジに関する時点で相巻線7を転流することにより、モータシステム1の挙動及び性能が電源オフ及びオンごとに一貫する。
【0072】
オペランドの長さの差分は比較的小さく、従って過渡効果の影響を受ける場合がある。
過渡効果によって、誤ったHALLエッジが選択されないようにするために、個々のオペランドは、いくつかの機械サイクルにわたって累積したHALLパルスの合計、すなわちΣ(T_PD(1)+T_PD(2))≧Σ(T_PD(3)+T_PD(4))を含むことができる。
【0073】
モータ3の初期加速中、ロータ5の速度は自然に増加し、従って個々のHALLパルスの長さは減少する。この結果、モータ3が定常モードで動作するようになるまでエッジ選択を遅延させることができる。しかしながら、たとえ定常モードで動作していても、モータ3の速度の変化が、いずれのHALLエッジを基準エッジとして選択するかに影響を及ぼすことがある。例えば、HALL信号のデューティサイクルが、機械度で92:90:90:88であるとする。電源オンごとに、コントローラ14は、92:90:90:88及び90:88:92:90という2つのシーケンスの一方でHALLパルスを測定することができる。コントローラ14により測定されたシーケンスに関係なく、コントローラ14は、電源オンごとに92度のパルスの前縁を選択すべきである。ここで、ロータ5の速度が一定であり、個々の機械サイクルの長さが200μsであると仮定する。従って、コントローラ14は、2つの考えられるシーケンスをそれぞれ51:50:50:49μs及び50:49:51:50μsとして測定する。従って、予想通りに、コントローラ14は、電源オンごとに51μsのパルス(すなわち、92度のパルス)の前縁を一貫して選択する。一方で、ロータ5が加速している場合、コントローラ14は、2つのシーケンスをそれぞれ51:49:48:46μs及び50:48:49:47μsとして測定することができる。第1のシーケンスでは、コントローラ14は、予想通り51μsのパルス(すなわち、92度のパルス)の前縁を選択する。しかしながら、第2のシーケンスでは、コントローラ14は、50μsのパルス(すなわち、90度のパルス)の前縁を選択する。従って、ロータ速度が変化しているときに基準エッジを選択する場合、電源オンごとに異なるHALLエッジが選択されることがある。従って、この問題を克服する、基準エッジを選択する代替の方法について説明する。
【0074】
上述のスキームでは、コントローラ14が2つのオペランドを比較する。第1のオペランドは、機械サイクルのほぼ半分に及ぶ第1の期間T_PD(1)+T_PD(2)を含む。第2のオペランドは、機械サイクルの残りの半分に及ぶ第2の期間T_PD(3)+T_PD(4)を含む。このスキームがロータ速度の変化の影響を受けるのは、第1の期間が第2の期間を導くからである。この問題には、第3の期間及び第4の期間を導入することによって対処することができる。この結果、第1のオペランドは、第1の期間と第3の期間の合計を含み、第2のオペランドは、第2の期間と第4の期間の合計を含む。第1及び第2の期間と同様に、第3及び第4の期間も連続しており、各々がほぼ半分の機械サイクルに及ぶ。しかしながら、重要な点は、第3の期間が第4の期間に続くことである。
第3の期間は、第1の期間と同じ機械サイクルの半分に及ぶ。唯一の違いは、2つの期間が異なる機械サイクルにわたって測定されるという点である。第4の期間は、第3の期間の直前の機械的半サイクルに及ぶ。この結果、第4の期間は、第2の期間と同じ機械サイクルの半分に及ぶ。第1及び第3の期間とは異なり、第2及び第4の期間を同じ機械サイクルにわたって測定することができ(すなわち、第2の期間と第4の期間は同一とすることができる)、或いは異なる機械サイクルにわたって測定することもできる。従って、例えばコントローラ14は、以下の条件で、第1のHALLパルスの前縁を基準エッジとして選択することができる。
T_PD(1)+T_PD(2)+T_PD(5)+T_PD(6)≧2×(T_PD(3)+T_PD(4))
【0075】
この例では、第3の期間はT_PD(5)+T_PD(6)であり、第4の期間はT_PD(3)+T_PD(4)である。第2の期間と第4の期間が同一であることが明らかであろう。さらなる例として、コントローラ14は、以下の条件で第1のHALLパルスの前縁を選択することができる。
T_PD(1)+T_PD(2)+T_PD(9)+T_PD(10)≧T_PD(3)+T_PD(4)+T_PD(7)+T_PD(8)
このさらなる例では、第3の期間はT_PD(9)+T_PD(10)であり、第4の期間はT_PD(7)+T_PD(8)である。
【0076】
上述した方法で2つのオペランドを定義した場合、この2つのオペランドは、HALL信号のデューティサイクルが機械サイクルの個々の半分にわたって均衡を保ち、ロータ5の速度が一定又は線形変化している場合にのみ等しい。従って、コントローラ14は、関連するHALLパルスを測定している場合、相巻線7の励起を一時停止する。この結果、測定中にロータ5の速度が線形に低下する。或いは、ロータ5の速度が一定又は線形変化しているときにHALLパルスを測定できる場合、位相励起を一時停止するステップを省略することができる。HALLパルスを測定している場合、ロータ5の速度は一定又は線形変化しているので、2つのオペランドは、HALL信号のデューティサイクルが個々の機械的半サイクルにわたって均衡を保つ場合にのみ等しくなる。
【0077】
このことを総合すると、コントローラ14が使用するエッジ選択スキームは、以下の方法で進むことができる。最初に、コントローラ14が、相巻線7の励起を一時停止する。
次に、コントローラ14が、6つの連続するHALLパルスのHALL期間T_PD(n)を測定する。最初のエッジ選択スキームと同様に、コントローラ14は、HALL信号の立ち上がり及び立ち下がりの一方のみに応答してHALLパルスを測定する。この結果、第1のHALLパルスは、一貫して立ち上がり又は立ち下がりのいずれかを有するようになる。次に、コントローラ14が、以下の条件で第1のHALLパルスの前縁を基準エッジとして選択する。
T_PD(1)+T_PD(2)+T_PD(5)+T_PD(6)≧2×(T_PD(3)+T_PD(4))
この場合も最初のスキームと同様に、電源オンごとに同じオペランド及び演算子を使用する限り、上記方程式の演算子は、≧、>、≦又は<のうちのいずれか1つとすることができる。
【0078】
ここまで、個々のHALLパルスの長さを測定することについて言及した。しかしながら、コントローラ14は、HALL信号の立ち上がりのみ又は立ち下がりのみの間の期間を同様に測定することができる。従って、より一般的な意味では、HALL信号は、機械サイクル当たりN個のエッジを有すると言うことができる。この結果、コントローラ14は、いずれかの整数をnとするエッジnとエッジ(n+N/2)の間の第1の期間、及びエッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間の第2の期間を測定する。最初のエッジ選択スキームでは、第1のオペランドが第1の期間のみを含み、第2のオペランドが第2の期間のみを含む。代替のエッジ選択スキームでは、コントローラ14が、いずれかの整数をmとするエッジ(n+mN)とエッジ(n+mN+N/2)の間の第3の期間、及びエッジ(n+mN−N/2)とエッジ(n+mN)の間の第4の期間を測定する。この結果、第1のオペランドは、第1の期間と第3の期間の合計となり、第2のオペランドは、第3の期間と第4の期間の合計となる。mが1に等しい場合、第2の期間と第4の期間は同一になる。この結果、第2及び第4の期間は、エッジ(n+N/2)とエッジ(n+N)の間で1回の測定を行うことによって得られる。この結果、両方のエッジ選択スキームにおいて、コントローラ14は、第1のオペランドと第2のオペランドを比較し、比較の結果が論理的に真であれば第1の期間のエッジを選択し、比較の結果が論理的に偽であれば第2の期間のエッジを選択する。
【0079】
ここまで、基準エッジを選択するための2つの異なるスキームについて説明した。しかしながら、基準エッジを選択するための他のスキームも考えられる。例えば、個々の機械サイクルにわたり、HALL信号は、立ち上がり前縁を有する2つのパルス、及び立ち下がり前縁を有する2つのパルスを有する。従って、コントローラ14は、立ち上がり前縁を有する2つのHALLパルスの長さを比較することができる。この結果、コントローラ14は、長い方又は短い方のHALLパルスの立ち上がりを基準エッジとして選択することができる。2つのHALLパルスの長さが同じ場合、コントローラ14は、立ち下がり前縁を有する2つのHALLパルスの長さを比較することができる。この結果、コントローラ14は、長い方又は短い方のHALLパルスの立ち下がりを基準エッジとして選択する。2つのHALLパルスの長さが同じ場合、HALL信号のデューティサイクルが個々の機械的半サイクルと均衡を保ってこれを繰り返すことを示唆し、すなわち(95:85:95:85のように)機械サイクルの両半分を区別することはできない。この例では、コントローラ14が、HALL信号の立ち上がり又は立ち下がりを基準エッジとして選択することができる。
【0080】
従って、基準エッジを選択するための異なるスキームが存在することが理解できるであろう。従って、本発明を1つの特定のスキームに限定する意図はない。むしろ、本発明は、HALL信号のデューティサイクルの不均衡が、モータシステム1の性能が電源オフ及びオンごとに一貫しないことを意味する場合があり、またこの問題を、逆起電力のゼロ交差に対するエッジの角度位置が電源オンごとに同じとなる基準エッジを選択し、この基準エッジに関連する時点で相巻線7を転流することによって解決できるという理解を前提とする。にもかかわらず、少なくとも機械的サイクルのほぼ半分に及ぶHALLエッジ間の期間を含む第1のオペランドと、少なくとも機械的サイクルの残りの半分に及ぶHALLエッジ間の期間を含む第2のオペランドという2つのオペランドをコントローラ14が比較するスキームを利用することには利点がある。これらの2つのオペランドを比較することにより、単一の比較動作の使用を通じて基準エッジを選択することができる。従って、このことは、スキームが計算的に単純であり、従ってコントローラ14が実行する命令数が減少するという利点を有する。
【0081】
コントローラ14がデューティサイクル補償を使用するかどうかに関わらず、このエッジ選択スキームは、モータシステム1の性能が電源オフ及びオンごとに一貫することを確実にすることによって大きな利点を提供する。従って、デューティサイクル補償には大きな利点があるが、一貫した性能を確実にするために必須ではない。
【0082】
ここまで、永久磁石モータ3を有するモータシステム1について言及したが、デューティサイクル補償スキーム及び/又はエッジ選択スキームを使用して、リラクタンス機、モータ及び発電機を含む他の種類の電気機械の位相励起を制御することもできる。電気機械は、1つよりも多くの相巻線を含むことができる。また、ある種の電気機械では、相巻線を通過する電流の方向を一方向とすることができる。従って、転流は、相巻線を通過する電流の方向を必ずしも逆転させるものではない。
【0083】
永久磁石の場合、コントローラ14は、相巻線7の逆起電力のゼロ交差に関連する期間において相巻線7を励起する。リラクタンスモータの場合、コントローラ14は、通常、相巻線7のインダクタンスの最小値に関連する時点で相巻線7を励起する。従って、より一般的な意味では、ロータ位置信号の各エッジは、逆起電力のそれぞれのゼロ交差又は相インダクタンスの最小値に関連すると言うことができる。
【0084】
上述の実施形態のモータ3は、4極ロータ5を有する。しかしながら、コントローラ14は、デューティサイクル補償スキーム及び/又はエッジ選択スキームを使用して、より多くのロータ極を有する電気機械を駆動することができる。デューティサイクル補償スキームを使用する場合、ロータ位置信号の最初の及び後続するエッジの転流期間は以下によって定義され続ける。
T_COM(1)∝T_AVE+T_PS
最終的に、使用する特定のエッジ選択スキームは、ロータ極の数によって決まる。
【0085】
上述の実施形態で使用するロータ位置センサ13はホール効果センサであり、このセンサは、永久磁石ロータの位置を検知するための費用効果の大きな手段を提供する。しかしながら、ロータ5の位置を示す信号を出力できる代替の手段を同様に使用することもできる。例えば、制御システム4は、デジタル信号を出力する光学エンコーダを備えることができる。或いは、固定子6が複数の相巻線を含むことができる。この結果、非励起相巻線内に誘起された逆起電力を使用して、ロータ5の位置を求めることができる。例えば、ゼロ交差検出器を用いて、非励起相内に誘起された逆起電力をデジタル信号に変換することができる。
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