(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたオイルポンプにおいては、開閉手段に吐出圧力を作用させる圧力室と作動油を環流させるリリーフ通路とが繋がっているため、開閉手段が開いた瞬間に圧力室の作動油もリリーフ通路に流入し、圧力室の圧力が低下し開閉手段が閉じるおそれがある。開閉手段が閉じると圧力室の圧力が増加し、再び開閉手段が開く。このように、特許文献1に開示されたオイルポンプは、開閉手段の動作が不安定で作動油の環流が安定しないために吐出圧力が変動するという問題があった。また、オイルポンプのドライブロータがシャフトの端部に取り付けられているため、ドライブロータの軸芯方向の片側でしかシャフトを支持することができず、ドライブロータの安定した回転が損なわれるおそれがあるという問題があった。
【0007】
上記問題に鑑み、本発明は、構造が簡単で安定した作動流体の環流を可能にする流体ポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る流体ポンプの特徴構成は、駆動軸と、前記駆動軸と同軸芯に一体配置され、歯数が偶数である外歯ギアを有するインナロータと、前記インナロータの軸芯から偏芯して配置され、前記インナロータの回転により連れ回りし、
前記外歯ギアと咬合して作動流体を吸入及び吐出する作動室を形成する内歯ギアを備えたアウタロータと、前記駆動軸と前記インナロータと前記アウタロータを収容し、前記作動室と連通した吸入室及び吐出室を有するハウジングとを備え、前記駆動軸は内部空間を有する軸体と前記内部空間に配置された弁体とを含み、前記弁体と前記内部空間とにより互いに独立した受圧室及び連通室を形成し、前記吐出室と前記受圧室とは連通しており、前記外歯ギアのそれぞれの歯底から前記内部空間に亘って連通通路が形成され、前記受圧室が前記吐出室内の作動流体の圧力を受けて前記弁体を前記軸芯の方向に移動させることにより、前記連通通路と前記連通室とを連通させる開き状態と、前記連通通路と前記連通室とを遮断する閉じ状態とに切り換え可能
であり、
前記連通室は互いに独立した第1連通室と第2連通室とを含み、前記弁体が前記軸芯の方向に移動することにより、前記第1連通室による前記開き状態と前記第2連通室による前記開き状態とを前記閉じ状態を挟んで切り換える点にある。
【0009】
このような特徴構成とすれば、吐出室と連通して弁体に流体圧力を作用させる受圧室と、作動室と連通している連通室とが独立して形成されているので、弁体の開閉に伴う連通通路と連通室の連通及び遮断によって作動室内の流体圧力が変動しても、弁体はその影響を最小限に抑えて安定した開閉動作をすることができる。
【0010】
流体ポンプが作動すると、インナロータ及びアウタロータの連れ回りにより作動室の体積が増減するので、各作動室における作動流体の圧力は常に変動している。吐出室は複数の作動室と繋がっていてそれらを平均化した圧力が吐出室の吐出圧力となるので、吐出室の圧力変動もそれらの作動室の作動流体の圧力変動が平均化されたものとなる。従って、作動室の圧力変動と比較して吐出室の圧力変動は小さい。本発明に係る流体ポンプにおいては、吐出室における作動流体の吐出圧力を受圧室に伝達して弁体に作用させているため、受圧室内の圧力変動も小さくなり、弁体を安定して作動させることができる。
【0011】
本発明に係る流体ポンプにおいては、外歯ギアが複数あるので、歯底も複数あり、連通通路も複数ある。流体ポンプの回転中は、常に連通通路の半分が吸入室と対向する作動室側にあり、残り半分の連通通路が吐出室と対向する作動室側にある。すなわち、連通通路は作動流体を環流させるべく流出させる吐出室側の作動室と作動流体を流入させる吸入室側の作動室とが同数になるよう構成されている。流入側の連通通路と流出側の連通通路とが同数となることにより作動流体を完全に環流させることができ、作動室内の全ての作動流体の量を一定に維持しながら流体ポンプの回転を継続させることができる。
【0013】
特に、第1連通室による開き状態の後に一旦閉じ状態になりその後第2連通室による開き状態になるように弁体が動作するので、内燃機関の回転数に対する流体ポンプの吐出圧力の増加の割合は小さくなるように変化した後、一旦大きくなり、再び小さくなる。また、増加の割合も第1連通室と第2連通室の通路断面積の大きさにより変えることができ、第1連通室による開き状態と第2連通室による開き状態の間の閉じ状態の期間も弁体の軸芯の方向の長さにより変えることができる。従って、このような構成にすることにより、内燃機関の回転数に対する流体ポンプの吐出圧力の増加の割合の変化及びその変化時の回転数を自由に設定することができ、流体ポンプに所望の動作をさせることができる。
【0014】
本発明に係る流体ポンプにおいては、前記軸体は一端に前記内部空間と連続する開口を有し、前記駆動軸は、前記開口を閉栓するプラグと、前記プラグと前記弁体の間に配置され前記プラグにより一端が支持され前記弁体に付勢力を与えるスプリングとをさらに備え、前記プラグは前記軸芯の方向に移動可能であり、これにより前記スプリングが前記弁体に作用させる初期荷重を変えることができると好適である。
【0015】
このような構成とすれば、内燃機関の回転数の増加に対する吐出圧力の増加の割合が変化するときの回転数を調整することが可能になるので、所望の作動特性を有する流体ポンプを得ることができる。
【0016】
本発明に係る流体ポンプにおいては、前記駆動軸は、前記インナロータの前記軸芯の方向の両側に備えられた軸受部に支持されていると好適である。
【0017】
このような構成とすれば、インナロータ及びアウタロータに作用する作動流体の圧力が変動しても、駆動軸を安定して回転させることができ、流体ポンプの作動を安定させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.第1実施形態
〔オイルポンプの構造〕
以下、本実施形態に係るオイルポンプ1を図面に基づいて説明する。オイルポンプ1は流体ポンプの一例である。
図1に、オイルポンプ1の概略構造を表す縦断面図を示す。
図2に、
図1のII-II線断面図を示す。
【0020】
オイルポンプ1は、例えば不図示のオイルパンやオイルタンクに貯留されている作動流体としての作動油を汲み上げて不図示のエンジンの潤滑部に圧送するものである。
図1に示すように、オイルポンプ1の外側部分は、第1ハウジング2と第2ハウジング3とを組み付けて構成されている。第1ハウジング2と第2ハウジング3はいずれもハウジングの一例である。
【0021】
第1ハウジング2と第2ハウジング3は鉄系の金属からなる。第1ハウジング2と第2ハウジング3の境界には環状のオイルシール4が取り付けられており、作動油の外部への漏出を防止している。また、その境界の第1ハウジング2側には、ポンプロータ6を収容する円筒状のポンプ室7が形成されている。ポンプロータ6の詳細については後述する。
【0022】
ポンプ室7の底面の中心から偏芯したところに、第1ハウジング2を貫通する貫通孔である第1軸支孔8が形成され、第2ハウジング3には、第1軸支孔8と同軸芯且つ第1軸支孔8より小径で第2ハウジング3を貫通する貫通孔である第2軸支孔9が形成されている。すなわち、第1軸支孔8と第2軸支孔9とは軸芯方向でポンプ室7(ポンプロータ6)の両側に形成されている。第1軸支孔8と第2軸支孔9には、異なる2つの外径を有する軸が同軸芯で接続された駆動軸10が挿入され、回転自在に支持されている。第1軸支孔8の内周面と第2軸支孔9の内周面は駆動軸10の軸受部となる。駆動軸10の外径が変わる境界面は、ポンプ室7の底面と同一平面上にある。駆動軸10の第1ハウジング2側の端部10aは第1ハウジング2から突出し、外径が小さくなっている。端部10aをエンジンのクランクシャフトからの回転の動力が伝達されるように接続し、クランクシャフトの回転により駆動軸10を回転させる。駆動軸10は軸芯方向で両側に形成された第1軸支孔8の内周面と第2軸支孔9の内周面に支持されているので、ポンプロータ6に作用する作動油の圧力が変動しても、駆動軸10を安定して回転させることができ、オイルポンプ1の作動を安定させることができる。
【0023】
ポンプロータ6は焼結金属からなる。ポンプロータ6は、駆動軸10の境界面にその一端部が接するように取り付けられたインナロータ21と、このインナロータ21の外周を囲むように配置された円環状のアウタロータ22とを備えている。インナロータ21は駆動軸10と同軸芯に配置され、圧入や接着等の方法により駆動軸10と接合され、一体となって回転する。
【0024】
図2に示すように、インナロータ21の外周面には、歯数6枚の外歯ギア23が形成されている。外歯ギア23の歯数は6枚に限られるものではないが、偶数枚であることが望ましい。アウタロータ22の内周面には、インナロータ21の外歯ギア23と咬合するように7枚の内歯ギア24が形成されている。アウタロータ22は、インナロータ21の駆動軸10に対して偏芯して配置されており、インナロータ21が回転するとアウタロータ22は連れ回りする。アウタロータ22の外周面は、ポンプ室7の内周面に密接して摺動可能に構成されている。インナロータ21とアウタロータ22の軸芯方向の長さ(厚さ)は同じであり、軸芯に対して垂直な2つの面もポンプ室7の面に密接している。
【0025】
外歯ギア23の歯数は、内歯ギア24の歯数よりも1枚少ない。外歯ギア23と内歯ギア24とが咬合することにより、複数の作動室25が形成される。各作動室25の容積はインナロータ21及びアウタロータ22の回転に伴って変化する。容積の変化については後述する。
【0026】
図1に示すように、第2ハウジング3には、吸入側作動室25a(
図2における上半分の領域に位置する作動室25)に連通する吸入室26と、吐出側作動室25b(
図2における下半分の領域に位置する作動室25)に連通する吐出室27とがそれぞれ形成されている。第1ハウジング2には、軸芯方向でポンプロータ6を挟んで吸入室26と対称となる位置に吸入室28が形成され、吐出室27と対称となる位置に吐出室29がそれぞれ形成されている。吸入室26,28には、オイルパン等から汲み上げた作動油が流通する不図示の吸入路が接続され、吐出室27,29には、エンジンの潤滑部に圧送される作動油が流通する不図示の吐出路が接続されている。吸入室26と吸入側作動室25aと吸入室28は互いに繋がり、吐出室27と吐出側作動室25bと吐出室29とは互いに繋がっている。
【0027】
図2に示すように、吸入側作動室25aは、ポンプロータ6の回転に伴って容積が増大するように構成されている。これにより、吸入側作動室25a内に負圧が発生し、吸入路を流通する作動油が吸入室26,吸入側作動室25a,吸入室28に汲み上げられる。また、吸入室26,28の体積も、ポンプロータ6の回転に伴って容積が増大するように構成されている。具体的には、ポンプロータ6の回転方向に沿う吸入室26,28の深さは一定であり、軸芯方向に沿って見たときに吸入室26,28の面積は大きくなっている。これにより、ポンプロータ6の回転に伴ってより多くの作動油が汲み上げ可能となり、吸入側作動室25aにより多くの作動油を送り込むことができる。
【0028】
吐出側作動室25bは、ポンプロータ6の回転に伴って容積が減少するように構成されている。これにより、吐出側作動室25b内に正圧が発生し、吐出室29,吐出側作動室25b,吐出室27にある作動油が所定の吐出圧力で吐出され、吐出路を流通してエンジンの潤滑部に供給される。また、吐出室27,29の体積も、ポンプロータ6の回転に伴って容積が減少するように構成されている。具体的には、ポンプロータ6の回転方向に沿う吐出室27,29の深さは一定であり、軸芯方向に沿って見たときに吐出室27,29の面積は小さくなっている。これにより、ポンプロータ6の回転に伴ってより多くの作動油が吐出可能となり、吐出側作動室25bからより多くの作動油を吐出することができる。
【0029】
次に、駆動軸10の構造について説明する。駆動軸10は、軸体11と、弁体15と、スプリング16と、プラグ17を備える。
【0030】
図1に示すように、軸体11は、有底の円筒形状を有している。軸体11の開口側は、第2ハウジング3から外部に突出しているプラグ17により閉栓され、軸体11の内側には一定内径の内部空間12が形成されている。軸体11の開口側近傍には、作動油導入部13が形成されている。作動油導入部13は、軸体11の外周に形成された溝13aと、溝13aの底面と内部空間12とを繋ぐ単数又は複数の連通孔13bとを備える。そして、吐出室27と作動油導入部13とを繋ぐ貫通孔として、第2ハウジング3に導入通路30が形成されている。プラグ17の外周面には、内部空間12からの作動油の漏出を防止するオイルシール18が装着されている。
【0031】
軸体11の開口と反対側の端部には、背圧開放部14が形成されている。背圧開放部14は、軸体11の外周に形成された溝14aと、溝14aの底面と内部空間12とを繋ぐ単数又は複数の連通孔14bとを備える。そして、吸入室28と背圧開放部14とを繋ぐ貫通孔として、第1ハウジング2に開放通路31が形成されている。
【0032】
外歯ギア23のそれぞれの歯底から径方向内側に向かい内部空間12と作動室25とを連通させる連通通路32が形成されている。各連通通路32の軸芯は同一平面上にあり、作動油の流通方向に垂直な断面の面積(通路断面積)はいずれも同じである。
【0033】
弁体15は、その外周面が内部空間12の内周面に密接且つ駆動軸10の軸芯方向に沿って移動可能に配置されている。弁体15は、プラグ17に対向する端面から軸芯方向に沿って且つ弁体15の外周面から径方向内側に向かって全周に亘って形成された第1凹部15aを有している。これにより、第1凹部15aの径方向の底面を外周とする凸部15dが形成されている。第1凹部15aと内部空間12とで形成される空間を受圧室Pと称する。また、第1凹部15aから軸芯方向に所定の間隔をおいて、弁体15の外周面から径方向内側に向かって全周に亘って第2凹部15bが形成されている。第2凹部15bと内部空間12とで形成される空間を連通室Cと称する。
【0034】
連通室Cを駆動軸10の軸芯を含む面で切断したときの断面積(通路断面積)は、3つの連通通路32の通路断面積の合計の半分よりも大きくなっている。連通室Cは環状の通路になっているため、3つの連通通路32から同時に連通室Cに作動油が流入したときに、作動油は連通室Cの2つの周方向に分かれて流通し、反対側の3つの連通通路32に流入する。従って、連通室Cの通路断面積と3つの連通通路32の通路断面積の合計とが上記関係を満たすことにより、連通室Cは抵抗なく作動油を流通させることができる。
【0035】
弁体15の内部空間12の底面と対向する端面から軸方向に沿って且つ弁体15の中心から径方向外側に向かって第3凹部15cが形成されている。第3凹部15cと内部空間12とで形成される空間を背圧室Bと称する。受圧室Pと連通室Cと背圧室Bとは内部空間12において互いに独立しており連通していない。なお、本実施形態においては、第1凹部15aと第2凹部15bの溝深さは同じだが、異なっていても良い。
【0036】
背圧室Bにおいて、内部空間12の底面と第3凹部15cの底面との間には、弁体15をプラグ17の方向に付勢するスプリング16が配置されている。スプリング16の付勢力により、弁体15の凸部15dがプラグ17の端面に当接している。この状態を初期状態と称する。
【0037】
弁体15が初期状態にあるときは閉じ状態である。閉じ状態においては、連通室Cは連通通路32より軸芯方向でプラグ17側にあり、連通室Cと連通通路32は遮断されている。弁体15が初期状態から
図1で左方に移動して連通室Cと連通通路32とが繋がると、弁体15は開き状態になる。なお、連通孔13bは、弁体15が閉じ状態のときから開き状態になるときまで、常に内部空間12と繋がっており塞がれることはない。すなわち、吐出室27と受圧室Pとは導入通路30,作動油導入部13を介して常に連通している。また連通孔14bも、弁体15が閉じ状態のときから開き状態になるときまで、常に内部空間12と繋がっており塞がれることはない。すなわち、吸入室28と背圧室Bとは開放通路31,背圧開放部14を介して常に連通している。
【0038】
〔オイルポンプの動作〕
次に、オイルポンプ1の動作について説明する。オイルポンプ1の駆動軸10の端部10aにエンジンのクランクシャフトからの回転の動力が伝達されるように接続し、クランクシャフトの回転により駆動軸10を回転させる。すなわち、駆動軸10の回転数は、エンジンの回転数に比例して増減する。駆動軸10の回転により、インナロータ21が回転し、これにより、インナロータ21の外歯ギア23と咬合する内歯ギア24を介してアウタロータ22が連れ回りする。インナロータ21及びアウタロータ22(ポンプロータ6)が回転すると、オイルパン等から汲み上げられ不図示の吸入路を流通して吸入室26,吸入側作動室25a,吸入室28に吸入された作動油は、ポンプ作用によって吐出室27,29へと汲み出され、吐出室27,29から吐出されて不図示の吐出路を流通してエンジンの潤滑部に圧送される。吐出室27,29から吐出される作動油の吐出圧力は、エンジンの回転数に比例する。
図3Aに、弁体15が閉じ状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図3Bに、弁体15が少し開いた状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図3Cに、弁体15が開き状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図4にエンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を表すグラフを示す。
【0039】
図3Aでは、オイルポンプ1が低速回転で作動している状態を表している。オイルポンプ1が作動しているときには、吐出室27の作動油の一部が受圧室Pに流入し、受圧室Pは作動油で充満している。また、吐出側作動室25bに繋がる連通通路32も作動油で満たされている。このとき、受圧室P内の作動油は、吐出室27からの吐出圧力を作用させて弁体15を
図3Aの左方に押圧しているが、押圧力よりもスプリング16の付勢力の方が大きいため、弁体15は初期状態のままで動かず、弁体15は閉じ状態である。その後、エンジンの回転数が増加すると、作動油の吐出圧力が増加し、受圧室P内で弁体15に作用する圧力も増加する。この力がスプリング16の付勢力を上回ると、弁体15は
図3Aの左方に移動し始めるが、閉じ状態は継続している。このときのエンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を
図4のAに示す。なお、弁体15の移動に伴い、背圧室Bにある空気や漏出した作動油は、背圧開放部14から開放通路31を経由して吸入室28に逃がされるので、弁体15はスムーズに摺動する。
【0040】
さらにエンジンの回転数が増加して受圧室P内の圧力が増加すると、
図3Bに示すように、弁体15がさらに左方に動いて弁体15が開き始め、連通通路32と連通室Cとが繋がり始める。これにより、正圧が発生している3つの吐出側作動室25bから連通通路32に流入していた作動油が連通室Cに流入し、反対側の3つの連通通路32を流通して吸入側作動室25aに環流される。その結果、
図4のBに示すように、グラフの傾きは小さくなる方向に変化する。その後、さらにエンジンの回転数が増加して受圧室P内の圧力が増加すると、弁体15はさらに左方に移動して、
図3Cに示すように、完全な開き状態となる。この状態では、吐出側作動室25bにある作動油のうち所定量は常に吸入側作動室25aに環流され、
図4のCに示すように、グラフの傾きは小さいままで継続する。上述したように、連通室Cの通路断面積は3つの連通通路32の通路断面積の合計の半分より大きいので、連通通路32を流通する作動油は抵抗を受けることなく環流される。従って、この後エンジンの回転数が増加して受圧室Pの圧力が増加しても、さらに弁体15が左方に移動して再び閉じ状態になることはない。
【0041】
オイルポンプ1の作動中は、弁体15が閉じ状態と開き状態とに切り替わる度に連通通路32と連通室Cとの間で作動油が遮断されたり流通したりするので、それに伴いそれぞれの吐出側作動室25bにおける作動油の圧力は変動する。しかし、本実施形態のオイルポンプ1においては、弁体15を作動させる圧力を作用させる受圧室Pと吐出側作動室25bの作動油を流通・環流させる連通室Cとを分離・独立させて設けたので、弁体15の開閉に伴って吐出側作動室25bの作動油の圧力が変動しても、弁体15はその影響を最小限に抑えて安定して開閉動作をすることができる。
【0042】
オイルポンプ1が作動すると、ポンプロータ6の回転により作動室25の体積が増減するので、それぞれの吐出側作動室25bにおける作動油の圧力は常に変動している。吐出室27は3つの吐出側作動室25bと繋がっていてそれらを平均化した圧力が吐出室27の吐出圧力となるので、吐出室27の圧力変動も3つの吐出側作動室25bの作動油の圧力変動が平均化されたものとなる。従って、吐出側作動室25bの圧力変動と比較して吐出室27の圧力変動は小さい。本実施形態のオイルポンプ1においては、吐出室27の吐出圧力を受圧室Pに伝達して弁体15に作用させている。従って、受圧室P内の圧力変動も小さくなり、弁体15を安定して作動させることができる。
【0043】
図2に示すように、本実施形態のオイルポンプ1においては、外歯ギア23が6枚あり、歯底も6つあるので、連通通路32も6つある。それぞれの連通通路32は周方向で60°ごとに形成されているので、ポンプロータ6の回転中は、常に3つの連通通路32が吸入側作動室25a側にあり、残り3つの連通通路32が吐出側作動室25b側にある。すなわち、連通通路32は作動油を流出させる吐出側作動室25b側と流入させる吸入側作動室25a側とが3対3の同数になるよう構成されている。流入側の連通通路32と流出側の連通通路32とが同数となることにより、作動室25内の全ての作動油の量を一定に維持しながらポンプロータ6の回転を継続させることができる。もしオイルフィルタの目詰まりや作動油の粘度が低い等何らかの理由で吐出室27,29から圧送する作動油の量が激減した場合には、流入側の連通通路32と流出側の連通通路32とが同数でないオイルポンプ1では、作動油が完全に環流されずにポンプロータ6の回転が止まってしまうおそれがある。しかし、本実施形態のオイルポンプ1においては、流入側と流出側の連通通路32を同数にすることで作動油を完全に環流させることができるので、このような場合でもポンプロータ6の回転を継続させることができる。
【0044】
2.第2実施形態
次に、第2実施形態に係るオイルポンプ1について説明する。以下の実施形態の説明においては、第1実施形態と同じ構成の箇所には同じ符号を付し、同様の構成に関する説明は省略する。本実施形態においては、弁体15の連通室Cが第1連通室C1と第2連通室C2とから構成される点が第1実施形態と異なっており、その他の構造は同じである。
図5Aに、弁体15が閉じ状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図5Bに、弁体15が第1連通室C1により開き状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図5Cに、弁体15が第1連通室C1による開き状態から第2連通室C2による開き状態に切り替わる間の閉じ状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図5Dに、弁体15が第2連通室C2により開き状態にあるときのオイルポンプ1を表す部分拡大断面図を示す。
図6に、エンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を表すグラフを示す。
【0045】
図5Aに示すように、本実施形態のオイルポンプ1においては、弁体15の左側から第1連通室C1と第2連通室C2とが形成されている。第1連通室C1と第2連通室C2とは分離・独立しており、弁体15の第1連通室C1による開き状態と第2連通室C2による開き状態とは、一旦閉じ状態を挟んで切り替わるようになっている。第1連通室C1の通路断面積は、3つの連通通路32の通路断面積の合計の半分より小さくなっており、第2連通室C2の通路断面積は3つの連通通路32の通路断面積の合計の半分より大きくなっている。
【0046】
図5Aでは、オイルポンプ1が低速回転で作動している状態を表している。このときのエンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を
図6のAに示す。この状態からエンジンの回転数が増加し受圧室P内の圧力が増加すると、
図5Bに示すように、連通通路32と第1連通室C1とが繋がり、弁体15は開き状態(以下、この状態を第1開き状態と称する)になる。これにより、
図6のBに示すように、エンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を表すグラフの傾きが小さくなる。このとき、第1連通室C1の通路断面積は、3つの連通通路32の通路断面積の合計の半分より小さくなっているので、連通通路32を流通する作動油は第1連通室C1に流入するときに抵抗を受け、吐出圧力に応じた作動油を環流させることができない。その結果、さらにエンジンの回転数が増加して受圧室P内の圧力が増加すると、弁体15はさらに左方に移動し、
図5Cに示すように、弁体15は再び閉じ状態となる。これにより、連通通路32と第1連通室C1との作動油の流通は遮断されて環流されなくなるので、
図6のCに示すように、エンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を表すグラフの傾きが再び大きくなる。
【0047】
エンジンの回転数がさらに増加すると、弁体15はさらに左方に移動し、
図5Dに示すように、連通通路32と第2連通室C2とが繋がり、弁体15は再び開き状態(以下、この状態を第2開き状態と称する)になる。これにより、
図6のDに示すように、エンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を表すグラフの傾きが再び小さくなる。第2開き状態のときのグラフの傾きは、
図6のBに示す第1開き状態の傾きよりも小さくなる。これは、第2連通室C2の通路断面積は、3つの連通通路32の通路断面積の合計の半分より大きいため、連通通路32を流通する作動油は抵抗を受けることなく環流されると共に、環流される作動油の量が多くなるからである。この結果、吐出側作動室25bにある作動油のうち所定量は常に吸入側作動室25aに環流され、エンジンの回転数がさらに増加して受圧室P内の圧力が増加しても、さらに弁体15が左方に移動して再び閉じ状態になることはない。
【0048】
このように、複数の連通室をその通路断面積を変化させて形成することにより、エンジンの回転数に対するオイルポンプ1の吐出圧力の増加の割合の変化及びその変化時の回転数を自由に設定することができ、オイルポンプ1に所望の動作をさせることができる。
【0049】
本実施形態においては、弁体15は2種類の連通室を有していたが、これだけに限られるものではない。オイルポンプ1に求められる動作に応じて、3種類以上の連通室を有する構造であってもよい。
【0050】
3.第3実施形態
次に、第3実施形態に係るオイルポンプ1について説明する。
図7に、本実施形態に係るオイルポンプ1の概略構造を表す部分拡大断面図を示す。本実施形態においては、第1実施形態のオイルポンプ1において、内部空間12における弁体15とスプリング16の配置が逆になっていることである。すなわち、初期状態においては、弁体15の凸部15dが内部空間12の底面に当接し、スプリング16の一端は、プラグ17に当接している。また、これに伴い、作動油導入部13と背圧開放部14の形成位置が逆になっている。また、導入通路30は吐出室29と繋がっており、開放通路31は吸入室26と繋がっている。その他の構造は同じである。
【0051】
図8に、弁体15に作用する初期加重(初期状態でのスプリング16による付勢力)を変化させたときのオイルポンプ1の概略構造を表す部分拡大断面図を示す。これはプラグ17を緩めてプラグ17と軸体11の境界にスペーサ19を挟み込み、初期状態におけるスプリング16の取り付け長さを長くし、弁体15に作用する初期加重を低下させたものである。このように、弁体15に作用する初期加重を低下させると、弁体15が開き状態になるときのスプリング16による付勢力も低下するので、より低い吐出圧力で弁体15を開き状態にすることができる。
図9に、弁体15に作用させる初期加重を変化させたときの、エンジンの回転数とオイルポンプ1の吐出圧力の関係を表すグラフを示す。
【0052】
図9において、
図7に示すスペーサ19が入っていない場合のエンジンの回転数の増加に対する吐出圧力の増加の割合の変化を実線で示し、
図8に示すスペーサ19が入っている場合の変化を2点鎖線で示す。これより、スペーサ19が入っている方が、エンジンの回転数の増加に対する吐出圧力の増加のグラフの傾きが小さくなるときのエンジン回転数が低いことが分かる。このように、弁体15が開き状態になるときの吐出圧力をスペーサ19で調整することにより、オイルポンプ1において所望の特性を得ることができる。
【0053】
本実施形態のオイルポンプ1は第1実施形態の弁体15に適用したが、これだけに限られるものではなく、第2実施形態の弁体15にも当然適用することができる。
【0054】
上記各実施形態のオイルポンプ1においては、エンジンのクランクシャフトの動力により駆動されるとしたが、これだけに限られるものではない。電動モータその他の駆動方法により駆動されるオイルポンプも含むものとする。
【0055】
上記各実施形態の構造は可能な限り組み合わせることができる。